説明

イネ属植物材料由来の骨代謝改善用組成物とその製造方法

【課題】 食習慣があり安全な食品材料由来である豊富で有効利用されていない材料を由来とした、安全かつ安価な骨代謝改善用組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明により、イネ属植物材料の親水性成分あるいはフィチン酸を有効成分とする骨代謝改善用組成物が提供される。本明細書の上記の組成物は、安全であり、骨粗鬆症の予防/又は改善に有効である。本発明は、該骨代謝改善用組成物の製造方法と、該骨代謝改善用組成物を含むカプセル製剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨粗鬆症の予防又は改善に有用である骨代謝改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の骨は骨吸収と骨形成を繰り返しており、骨形成に関与する細胞が骨芽細胞であり、骨吸収に関与する細胞が破骨細胞である。骨の成長、維持および修復は、これらの細胞の形成と吸収の速度バランスに依存しており、そのバランスが崩れることにより、骨吸収が骨形成を上回り、骨粗鬆症などの骨量が減少する骨代謝関連疾患がもたらされる。よって骨形成が骨吸収を下回らないことが骨量の維持や増強に重要であると考えられている(非特許文献1)。
【0003】
骨芽細胞は、生体内の様々な刺激により段階的に分化が進み、骨基質タンパクを分泌し、カルシウムを沈着して最終的に石灰化して骨を形成する細胞である。即ち骨芽細胞の分化段階が進み、石灰化することは骨形成につながる現象である(非特許文献2)。
【0004】
骨粗鬆症は、骨を形成するカルシウムやコラーゲンの減少による骨量低下と骨組織の退行を引き起こす全身性の骨疾患である。骨粗鬆症は、高齢者の特に閉経後の女性に多く見られ、近年の高齢化に伴い増加し続けている。骨粗鬆症による骨の脆弱化は、疼痛や、骨折のリスク上昇を招くことから、寝たきりの原因となり、高齢者の生活の質に大きく影響を及ぼす問題となっている(非特許文献3)。
【0005】
骨粗鬆症の原因は、性ホルモンの低下、カルシウムの摂取不足、ビタミンD不足、運動不足、カルシウム代謝調節ホルモンのアンバランスなどが挙げられる。その治療には、性ホルモンであるエストロジェン、カルシウム代謝ホルモン、ビタミンK2、活性型ビタミンD3、ビスフォスフェート化合物などの医薬品が使用されているが、投与量によっては安全性に問題がある場合があり、使用量や使用期間に注意を払う必要がある(非特許文献4)。
【0006】
そのような状況から近年、食品を原料とした骨粗鬆症改善素材が開発され、食経験があることから、医薬品と比較して安全性が高いと考えられている。骨粗鬆症などの骨量が減少する骨代謝関連疾患の食品由来の改善素材として、大豆イソフラボン、乳由来塩基性ペプチドなどがあり、近年、安全に日常的に摂取できる骨代謝改善素材として注目されている。また、カゼインフォスフォペプチドをはじめとして、骨の材料として必要なカルシウムの腸管吸収促進作用を持つ物質が知られている。しかし、これらのカルシウム吸収促進作用を有する物質は、消化管から体内へのカルシウム吸収を促進するものであり、骨へのカルシウム沈着を促進するものではない。そのため、骨代謝の改善や骨強化に十分な効果を得られない場合がある。
【0007】
イネ属イネには、アジアイネ(学名Oryza sativa)、アフリカイネ(Oryza glaberrima)の2種があり、その種子は穀物として古くから食されている。特にアジアイネ、即ち米は、日本をはじめとするアジア諸国や、北アメリカなどでも大量に栽培される。また、米の主要加工法の1つである精米により、米糠が副生物として大量に生じる。米糠には、各種蛋白質、デンプン、脂質、多糖類、ビタミン、ミネラル、食物繊維等の、多種の栄養素が含有しており栄養価が高いが、米油や漬物の原料や、飼料用途以外は、十分に利用されていないのが現状である。米糠由来の油脂に、カルシウム代謝ホルモンであるカルシトニン産生促進作用を有する炭素数が22〜38の直鎖飽和アルコールや(特許文献1)、破骨細胞の骨吸収活動に関与すると考えられている成分のトコトリエノール(特許文献2)などが含有することが知られている。また、カルシウム補給剤が米糠から製造できることが知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平5−310563
【特許文献2】特表2002−520280
【特許文献3】特開平9−163941
【非特許文献1】日本臨床,2002年,60巻増刊号3,34〜37項
【非特許文献2】Bio clinica,2001年,16巻,218〜222項
【非特許文献3】日本臨床,2002年,60巻増刊号3,129〜138項
【非特許文献4】Bio clinica,2001年,16巻,196〜197項
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況下、食習慣があり豊富で有効利用されていない材料を由来とした、安全かつ安価な骨代謝改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述したように、米糠の油脂に骨代謝関連疾患に有用な成分が数種見いだされているが、得られる量やその効果など、その実際の応用には不十分な点もある。本発明者らは、イネ属植物またはそれを由来とする材料の親水性成分に、はじめて、骨形成を促進して骨強度を高め得る骨代謝改善作用があることを見出した。さらに、上記親水性成分の有効成分の一つがフィチン酸であることを確認し、本発明者らは、それらを基に本発明を完成するに至った。これら大量に生産されており、有効利用が十分になされていない穀物素材の親水性成分に骨代謝改善効果があることはこれまで全く知られていない。
【0010】
即ち本発明が提供するのは以下の通りである。
[1]イネ属植物(Oryza)材料の親水性成分を有効成分として含有する骨代謝改善用組成物。
[2]イネ属植物(Oryza)が、アジアイネ(Oryza sativa)である[1]の骨代謝改善用組成物。
[3]イネ属植物(Oryza)材料が、米糠または米糠加工物である[1]の骨代謝改善用組成物。
[4]親水性成分としてフィチン酸を含有する[1]の骨代謝改善用組成物
[5]組成物中の親水性成分の含有量が、1.0重量%以上である[1]〜[4]いずれかの骨代謝改善用組成物。
[6]フィチン酸を有効成分として含有する骨代謝改善用組成物。
[7]飲食用である、[1]〜[5]のいずれかの骨代謝改善用組成物。
[8]医薬用である、[1]〜[5]のいずれかの骨代謝改善用組成物。
[9]哺乳動物の骨損傷の改善又は予防を目的とした、[1]〜[8]のいずれかの骨代謝改善用組成物。
[10][1]〜[9]いずれかの組成物をカプセル内に含む製剤。
[11]イネ属(Oryza)植物材料を、親水性溶媒に接触させ、その親水性成分を抽出することを特徴とする骨代謝改善用組成物の製造方法。
[12]抽出して得られた親水性成分を許容される担体と混合することを特徴とする[11]の骨代謝改善用組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物は、骨代謝関連疾患、例えば骨粗鬆症を始めとする骨量が減少する疾患の改善または予防に有効である。また、食経験のある材料を原料とするため、長期間飲食しても安全である。さらに、豊富にある安価な材料を利用できるため、安価で大量に本発明品を製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の骨代謝改善用組成物は、イネ属植物(Oryza)材料の親水性成分を有効成分として含有する組成物である。
【0013】
ここにいうイネ属植物にはアジアイネ(学名Oryza sativa)、アフリカイネ(Oryza glaberrima)などが挙げられ、いずれも使用できるが、本発明においてはアジアイネが好ましい。イネの品種は限定しないが、ジャポニカ種、インディカ種、ジャバニカ種などが挙げられる。好ましくは、我国で大量に栽培されているジャポニカ種がよい。イネ属植物材料としては、イネ属植物の全草でもよいが、好ましくは種子、さらに好ましくは種子由来の加工物を用いるのが良い。ここでいうイネ属植物の種子由来の加工物とは、玄米、発芽玄米、米糠、米糠加工物などであり、好ましくは米糠又は米糠加工物である。米糠加工物として、米糠からその油脂成分である米油を除いた脱脂糠などが好ましく用いられる。脱脂糠は定法にしたがって製造する。例えば、米糠を溶媒、例えばヘキサンと接触させ、親油性成分を除去して得られる。
【0014】
一般的に玄米や米糠などのイネ属植物材料には、タンパク質、脂質、デンプン、多糖類、各種ビタミン、ミネラル等が含まれており、タンパク質としてはアルコール可溶性タンパクであるプロラミン、希アルカリ溶液可溶性タンパクであるグルテリンなどが、ビタミンとしてはビタミンA、E、B1、B2、B6、ニコチン酸、パントテン酸、葉酸などが、ミネラルとしてはマグネシウム、リン、カルシウム、鉄、亜鉛、銅などが含まれている。また、米糠から産業上有用な成分が発見されており、具体的には、γアミノ酪酸、イノシトール、リン酸化イノシトール、フィチン酸、リン酸カルシウム、スフィンゴ脂質などが挙げられる。本発明の骨代謝改善用組成物ではこれらイネ科植物材料由来成分のうち、親水性成分を有効成分とするものである。一方、米糠の油性成分を由来とした生理活性成分である、トコロリエノール類、γオリザノール、フェルラ酸、オクタコサノールなどの炭素数の多い直鎖飽和アルコールなどは本発明の組成物の有効成分には相当しないが、副成分として組成物中に若干量含有されてくることはかまわない。
【0015】
本明細書でいう骨代謝改善とは、骨へのカルシウム沈着促進、とりわけ骨芽細胞に直接作用してその分化を促進し、石灰化させること、即ち骨芽細胞石灰化促進をいう。本発明の骨代謝改善用組成物は、骨芽細胞の石灰化を介して、骨組織において骨形成を促進することで、骨代謝関連疾患を予防又は改善することができる。ここにいう骨代謝関連疾患は、骨量が減少する限り任意の疾患を意味する。骨代謝関連疾患として、限定されないが、具体的には骨粗鬆症などが挙げられる。
【0016】
骨代謝改善活性は、骨芽細胞を用いて測定することができる。具体的には、細胞に蓄積されたカルシウムを抽出して測定する方法(特開2002−179585)、Von Kossa染色(Journal of bone mineral research,1995年,12巻,778〜785)などが挙げられる。また、骨芽細胞にはリン酸カルシウムの形態でカルシウムが沈着するため、骨代謝改善活性を評価する場合、一般にリン酸の供給源としてグリセロリン酸塩を添加した培地が使用される。さらに、一般的に骨芽細胞の分化促進は、その石灰化の促進につながると考えられている。よって例えばアルカリフォスファターゼ、オステオポンチン、オステオカルシンなどの骨芽細胞が分化する際に産生が亢進するマーカー物質(Endocrine reviews,1993年,14巻,424〜442)の測定や、その遺伝子発現の測定によって確認してもよい。これらのうち少なくとも1種の測定において、サンプルの活性が一般に溶媒対照と比較し、統計学的に有意に高い値を示す場合、そのサンプルを「骨代謝改善活性あり」と評価する。さらに、上述の評価方法が妥当であるかを判断する目的で、骨芽細胞の石灰化を促進する既知の物質を用いて、溶媒対照より統計学的に有意に高い値を示すことを確認するほうが好ましい。骨芽細胞の石灰化を促進する既知の物質は限定しないが、BMP−2(日本臨床,2002年,60巻増刊号3,40〜46)などが挙げられる。
【0017】
本発明において、イネ属植物材料の親水性成分とは、イネ属植物材料の親水性溶媒による抽出物に含まれる成分を指す。ここでいう親水性溶媒とは、水、水に可溶性である溶媒、および両者の混合物を含む。具体的には、親水性溶媒として、水、メタノール、アセトン、エタノール、プロパノールなどが挙げられ、これらの混合溶媒であっても良い。その混合の割合は限定されず、抽出物が骨代謝改善活性を失わない範囲で適宜調整される。本発明においては、親水性溶媒として、好ましくは5割以上の割合で水を含有する溶媒であり、より好ましくは、水のみを抽出溶媒とする。ある種の実施態様では、溶媒除去の容易さを考慮すると、混合溶媒を用いても良く、その場合は、残留溶媒の安全性の点から水とエタノールの混合溶媒が好ましい。
【0018】
本発明において、有効成分である親水性成分の形態は、抽出液の形態でも良いし、溶媒を除去した形態であってもよい。溶媒除去の方法としては、自然蒸発、蒸煮、減圧濃縮、凍結乾燥などの方法を使用できる。さらに、溶媒を除去して適切な溶媒に再び溶解、懸濁した形態であっても良い。また、本発明の組成物の有効成分である親水性成分は、所望により飲食用または製薬用に許容される置換基で置換されてもよい。またさらに、該親水性成分は、所望により飲食用または製薬用に許容されるその塩、エステル、または配糖体の形態であってもよい。また、これらの親水性成分の形態は、骨代謝改善活性があり、骨代謝改善活性を失わない範囲であれば、飲食品や医薬品として不適当な物質を含有しない限り、抽出物のまま、精製又は半精製抽出物として使用できる。精製は、各種クロマトグラフィー法、例えばアフィニティークロマトグラフィー精製法、ろ過法、沈殿法、および遠心分離法を使用しても良い。
【0019】
本発明において、イネ属植物材料の親水性成分を得る方法は、例えばイネ属植物材料のの溶媒抽出法が挙げられる。溶媒抽出する場合、例えば、イネ属植物材料を、約1〜20倍量好ましくは約1〜10倍量の上記親水性溶媒にさらし、攪拌又は放置し、濾過又は遠心分離などにより抽出液を得ることができる。次いで、必要に応じて得られた抽出液を減圧下での濃縮、凍結乾燥法、スプレードライなどの方法により乾燥させても良い。親水性溶媒にさらす際のイネ属植物材料は、生のまま、または乾燥させたものでもよいが、保存の点から乾燥させたものが好ましい。また、上記イネ属植物材料の形態は、原型、粉砕したもの、切断したもの又は粉末のいずれを用いてもよい。溶媒にさらす温度は、一般に約0〜130℃、好ましくは約1〜80℃で行うが、室温つまり約10〜40℃で十分に本明細書における親水性成分を得ることができる。溶媒に接触させる時間は、普通約0.1時間〜1ヶ月、好ましくは約0.5時間〜7日間で好適に実施できる。
【0020】
本発明のイネ属植物材料の親水性成分として、骨代謝改善活性に寄与する成分は限定されないが、少なくとも骨代謝改善活性の一部は、該親水性成分のひとつであるフィチン酸により引き起こされている。従って本発明においては、骨代謝改善用組成物の有効成分のひとつとしてフィチン酸が相当し、少なくともフィチン酸を含有していれば、本発明の骨代謝改善用組成物として使用できる。その場合、フィチン酸を得る方法は限定されず、イネのみではなく、例えば大豆などのフィチン酸を多く含む植物から得ても良いし、化学合成により得ることもできる。
【0021】
フィチン酸は、ミオイノシトール骨格の水酸基にそれぞれ一つのリン酸が結合した化合物であり、別名ミオイノシトール6リン酸と呼ばれる。イノシトール骨格はミオイノシトールやエピイノシトール、アロイノシトールなどの異性体が存在するが天然物中にはミオイノシトールが多く存在することが知られており、ミオイノシトールのリン酸化物であるミオイノシトール1,4、5-3リン酸やミオイノシトール1,3,4、5-4リン酸は生体内での情報伝達物質として知られている。これまでフィチン酸はCaキレート作用があることから、食品等の変色防止などに用いられている他は、尿路結石や腎結石の治療薬としても使用されている。また、抗脂肪肝作用も知られている。従来、フィチン酸の骨代謝作用効果については報告もなく、むしろ、悪玉物質として扱われてきた。今回我々は、細胞実験を用いてフィチン酸の骨代謝改善効果を初めて確認した。この結果は、フィチン酸あるいはその類縁体が骨代謝改善に有用であることを示している。
【0022】
本発明の骨代謝改善用組成物には、上記イネ属植物材料の親水性成分あるいはフィチン酸が、骨代謝改善活性を発揮できる範囲で含まれていれば良い。好ましくは、該組成物は、上記親水性成分あるいはフィチン酸を、組成物基準で1.0重量%以上、100重量%未満含有し得る。上記濃度の下限値の例は、2.0、3.0、4.0、5.0、10.0、20.0、30.0、40.0、50.0重量%である。上記濃度の上限値の例は、99.99、99.9、99.0、95.0、90.0、80.0重量%である。
【0023】
本発明の骨代謝改善用組成物は、飲食用としてあるいは医薬用として使用することが出来る。
【0024】
本発明の飲食用組成物とは、上記イネ属植物材料の親水性成分あるいはフィチン酸を、一般的な食品に混合したものである。その用途は限定されず、例えば、一般食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康食品、栄養補助食品などとして使用することができる。上記混合される食品としては、具体的には、飲料、乳製品、発酵乳、乳酸菌飲料、加工乳、コーヒー飲料、ジュース、アイスクリーム、飴、ビスケット、ウェハース、ゼリー、スープ、麺類を含むがそれに限定されるものではない。好ましくは飲料、乳製品、加工乳、発酵乳、乳酸菌飲料、ウェハース、ゼリーを含む。
【0025】
本発明の医薬組成物とは、上記イネ属植物材料の親水性成分あるいはフィチン酸と、および所望により医薬的に許容される担体を含有する組成物である。その用途は限定されず、例えば一般用医薬品(OTC)など容易に入手可能な医薬品又は医薬部外品などが挙げられる。医薬用である組成物の形態は限定されず、例えば、丸薬剤、液剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル錠剤、トローチ剤、シロップ剤、ドライシロップ剤などである。好ましくはカプセル剤、液剤、エリクシル、錠剤、カシェ、座薬などとするほうが良い。また医薬的に許容される担体とは、経口、経腸、経皮、および皮下投与のために好適である任意の材料であり、例えば水、ゼラチン、アラビアガム、ラクトース、微結晶性セルロース、スターチ、ナトリウムスターチグリコレート、燐酸水素カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、コロイド性二酸化ケイ素、などが挙げられる。
【0026】
本発明においては、上記骨代謝改善用組成物をカプセル内に含む製剤とすることも出来る。ここでいうカプセル製剤とは、上記組成物を、経口摂取に適したカプセルに充填したものである。カプセル中にはさらに飲食品および医薬品として許容される担体を含んでもよい。カプセル製剤のうち、ソフトカプセル製剤は、哺乳動物対象にとって服用しやすいため好まれるため、本明細書の目的のために好ましい。
【0027】
ソフトカプセル製剤は、従来用いられているソフトカプセルの製法により製造できる。例えばロータリー式全自動ソフトカプセル成型機を用いた打ち抜き法、二枚のゼラチンシート間に内容物を入れ金型で両面から圧縮して打ち抜く平板法或いは二重ノズルを用いた滴下法(シームレスカプセル等)等を用いて、カプセル皮膜に充填し、成型および乾燥することにより、ソフトカプセル製剤を製造できる。前記ソフトカプセルの原料は、例えばゼラチン、カラギーナンを含む。前記ソフトカプセルの形状は、各種の形状、例えばフットボール(oval)型、長楕円型、チューブ型、球形、フィッシュ型、セルフカット型、等が挙げられる。好ましくは形状は、フットボールであり得る。また、前記ソフトカプセルの大きさは、目的に応じて適宜選定することができる。
【0028】
上記本発明の組成物、および製剤は、骨代謝関連疾患、例えば骨粗鬆症をはじめとする骨形成を必要とする症状の予防、処置効果があるとされる食品や食品添加物、例えば大豆、ザクロ等の抽出物、カルシウム、マグネシウム、ビタミンD、ビタミンK、コラーゲン等と同時に用いても良い。またその形態は限定されず、飲食物、医薬組成物、製剤、およびカプセル製剤を含む。好ましくは飲食物、カプセル製剤である。
【0029】
上記本発明の組成物および製剤は、有効量を、必要のある対象、好ましくは哺乳動物にに投与することより、骨代謝関連疾患、例えば骨粗鬆症の改善又は予防に有用である。本明細書における骨粗鬆症とは、骨量が低下し、骨微細構造が劣化して、骨折の起こりやすくなった全身性疾患のことである。必要とする対象とは、具体的には、上記の骨粗鬆症の症状に当てはまる対象、その予防を必要とするもの、およびその予防を心がけるものを含む。骨粗鬆症の予防を必要とするものとは、高年齢、女性、喫煙、過度のアルコール摂取、カルシウム摂取不足、ビタミンD不足、ビタミンK不足、卵巣機能不全、副腎皮質ステロイドの服用、および運動不足を含む骨粗鬆症となるリスクが高いとされている事象にあてはまるものである。本発明の骨代謝改善用組成物および製剤は、他の骨代謝関連疾患の改善または予防にも使用しうる。
【0030】
上記本発明の組成物、および製剤は、有効量を、必要のある対象、好ましくは哺乳動物に投与することにより、骨損傷の改善又は予防に有用である。本明細書における骨損傷とは、骨量が減少するもしくは、骨の破壊を指す。具体的には、骨折、骨のひび、歯槽膿漏による歯槽骨の減少、運動不足による骨量減少を含む。好ましくは骨折、骨のひびを含む。必要のあるまたはない対象とは、骨損傷患者、その予防を必要とするもの、その予防を心がけるもの、および寝たきり、入院、ギプス固定などによる運動不足により骨量が減少して骨折のリスクの高いものを含む。
【0031】
本明細書における有効量とは、本発明の剤を対象に投与した場合に、対象の骨代謝が改善される、骨損傷が予防または改善される、または骨粗鬆症が予防または改善される量である。該量は、対象の性別、健康状態、体重、年齢、栄養状態などにより異なるが、当業者は実験的または経験的に決定することができ、例えば、イネ属植物材料の親水性成分量に換算して、1〜5000mg/kg体重程度であるがそれに限定されない。
【0032】
本発明の骨代謝改善用組成物の製造方法とは、上述したように、イネ属植物材料を、上述の親水性溶媒に接触させて、親水性成分、すなわち有効成分を抽出し、必要に応じて許容される担体と混合することを含む製造法である。許容される担体としては、上記飲食用に許容される担体および/又は医薬用に許容される担体があげられる。本発明の骨代謝改善用組成物、医薬用組成物、飲食用組成物、または製剤は、例えば以下のように製造する。前記植物材料を所望により、粉砕や脱脂などの加工をし、これを前記の親水性溶媒と接触させ、有効成分を抽出する。所望により、濃縮、精製、混合、および製剤化工程を実施する。もっとも、これらの工程は適宜順序を変更して実施できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)米糠の親水性成分の調製
アジアイネの米糠1重量部を、水5重量部に浸し、常温で2日間、抽出した後、濾過により抽出液を得た。その抽出液を凍結乾燥して溶媒を除去し、粉末抽出物0.09重量部を得た。
【0035】
(実施例2)脱脂糠の親水性成分の調製
アジアイネの脱脂糠1重量部を、水5重量部に浸し、常温で2日間、抽出した後、濾過により抽出液を得た。その抽出液を凍結乾燥して溶媒を除去し、粉末抽出物0.076重量部を得た。
【0036】
(実施例3)骨芽細胞石灰化活性測定による骨代謝改善活性の測定
実施例1又は2で得られた各種抽出物及びフィチン酸について骨芽細胞石灰化活性を評価した。マウス骨芽様細胞(MC3T3−E1細胞)を96穴プレートに 5×104 cells/穴播種し、10% FBSを含むα−MEM培地で37℃、5%CO2−95%空気で3日間培養した。
【0037】
3日後、各抽出物を100μg/ml、フィチン酸(和光純薬社製)を50μg/ml、BMP−2を0.2μg/mlのそれぞれの濃度で添加した10%のFBSと、2mMのグリセロリン酸2ナトリウムを含むα−MEM培地に交換した。各添加物は、水に溶解して溶液が培地の0.1%となるように加えた。培地は2〜3日おきに交換し、37℃、5%CO2−95%空気で14日間培養後、骨芽細胞石灰化促進率(%)を測定した。
【0038】
骨芽細胞の石灰化は細胞中に蓄積されたカルシウムを計測することにより評価した。培養後の細胞をリン酸生理食塩水(pH7.4)で1穴につき100μlで3回洗浄を行い、2N塩酸を50μl/穴 添加し、室温で一晩さらしカルシウムを抽出した。この抽出したカルシウムをメチルキシレノールブルー(MXB法)に基づくキット(カルシウムE-テストワコー;和光純薬株式会社製)を用いて定量した。骨芽細胞石灰化促進率は、抽出物と平行して石灰化活性を測定した溶媒対象の値を100%として計算した。
【0039】
【表1】

表1の結果から、本明細書の実施例1及び2の抽出物ならびにフィチン酸は、BMP−2と同様に溶媒対照に比べて高い骨芽細胞石灰化促進活性、即ち骨代謝改善活性を有することを確認した。
【0040】
(実施例4)リン酸源を添加しない方法での骨芽細胞石灰化活性測定による骨代謝改善活性の測定
実施例2で得られた抽出物についてグリセロリン酸塩を添加しない方法で骨芽細胞石灰化活性の有無を評価した。マウス骨芽様細胞(MC3T3−E1細胞)を96穴プレートに 5×104 cells/穴播種し、10% FBSを含むα−MEM培地で37℃、5%CO2−95%空気で3日間培養した。
【0041】
3日後、実施例2の抽出物を100μg/ml又は、BMP−2を0.2μg/mlの濃度で添加した10%のFBSを含むα−MEM培地に交換した。抽出物およびBMP−2は、水に溶解して溶液が培地の0.1%となるように加えた。培地は2〜3日おきに交換し、37℃、5%CO2−95%空気で14日間培養後、骨芽細胞の石灰化活性を評価した。
【0042】
骨芽細胞の石灰化は細胞中に蓄積されたカルシウムを計測することにより評価した。培養後の細胞をリン酸生理食塩水(pH7.4)で1穴につき100μlで3回洗浄を行い、2N塩酸を50μl/穴 添加し、室温で一晩さらしカルシウムを抽出した。この抽出したカルシウムをメチルキシレノールブルー(MXB法)に基づくキット(カルシウムE-テストワコー;和光純薬株式会社製)を用いて定量した。石灰化活性は96穴プレートの1穴中に骨芽細胞により蓄積されたカルシウムの量として評価した。
【0043】
【表2】

表2の結果から、骨芽細胞石灰化能を有するBMP―2はグリセロリン酸2ナトリウムの存在無しでは石灰化を誘導しないが、実施例2の抽出物はグリセロリン酸2ナトリウムが存在無しで、骨芽細胞の石灰化活性、即ち骨代謝改善活性を有することを確認した。
【0044】
(実施例5)骨芽細胞からのオステオカルシン産生による骨代謝改善活性の測定
フィチン酸について骨芽細胞からのオステオカルシン産生促進能を評価した。ヒト骨芽様細胞(MG63細胞)を24穴プレートに 1×104 cells/穴播種し、10%のFBSおよび1%の非必須アミノ酸を含むイーグルMEM培地で37℃、5%CO2−95%空気で4日間培養した。
【0045】
4日後、フィチン酸(和光純薬社製)を100μg/ml、又はカルシトリオールを10-10Mの濃度で添加した1%のFBSおよび1%の非必須アミノ酸を含むイーグルMEM培地に交換した。各添加物は、水に溶解して溶液が培地の0.1%となるように加えた。37℃、5%CO2−95%空気で2日間培養後、細胞からのオステオカルシン産生を測定した。なお、オステオカルシンはタカラバイオ社のGla Type Osteocalcin EIAキットを用いて測定した。結果はオステオカルシン産生率として表した。即ち、抽出物などのサンプルと平行してオステオカルシン産生を測定した溶媒対象の値を100%として各サンプルのオステオカルシン産生の相対値を算出した。
【0046】
【表3】

表3の結果から、骨芽細胞からのオステオカルシン産生を促進する物質として知られるカルシトリオールと同様に、フィチン酸はオステオカルシン産生を促進する活性、即ち骨代謝改善活性を有することを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ属植物(Oryza)材料の親水性成分を有効成分として含有する骨代謝改善用組成物。
【請求項2】
イネ属植物(Oryza)が、アジアイネ(Oryza sativa)である請求項1の骨代謝改善用組成物。
【請求項3】
イネ属植物(Oryza)材料が、米糠または米糠加工物である請求項1の骨代謝改善用組成物。
【請求項4】
親水性成分としてフィチン酸を含有する請求項1記載の骨代謝改善用組成物。
【請求項5】
組成物中の親水性成分の含有量が1.0重量%以上である、請求項1〜4いずれか1項記載の骨代謝改善用組成物。
【請求項6】
フィチン酸を有効成分として含有する骨代謝改善用組成物。
【請求項7】
飲食用である、請求項1〜5のいずれか1項記載の骨代謝改善用組成物。
【請求項8】
医薬用である、請求項1〜5のいずれか1項記載の骨代謝改善用組成物。
【請求項9】
哺乳動物の骨損傷の改善又は予防を目的とした、請求項1〜8いずれか1項記載の骨代謝改善用組成物。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか1項記載の組成物をカプセル内に含む製剤。
【請求項11】
イネ属(Oryza)植物材料を、親水性溶媒に接触させ、その親水性成分を抽出することを特徴とする骨代謝改善用組成物の製造方法。
【請求項12】
抽出して得られた親水性成分を許容される担体と混合することを特徴とする請求項11記載の骨代謝改善用組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−302600(P2007−302600A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132263(P2006−132263)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】