説明

イベント検出装置

【課題】電波の状態を監視することによって、監視対象が所定のエリア内のどこにいるのかを正確に識別することができる高い精度を持つイベント検出装置を提供すること。
【解決手段】複数のアンテナ21によって受信した信号を受信ベクトルから相関行列を演算する相関行列演算手段22と、該相関行列を固有値展開して信号部分空間を張る固有ベクトル及び該固有ベクトルに対応する固有値を演算する固有値展開手段23と、該固有ベクトル及び固有値の分散をそれぞれ演算する分散演算手段24と、該固有ベクトル及び固有値と前記分散を入力してイベントを判別するサポートベクターマシン機能25と、該イベントに基づいてイベントを検出するイベント検出手段26とを備えるイベント検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、会議室又は居室などの所定のエリアに電波を受信する受信機を配置して、電波の受信特性に基づいて、人がどこにいるかなどのイベントを高精度に検出するイベント検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、次のイベント検出装置を提案している(特許文献1参照)。
【0003】
すなわち、送信機が送信した電波を受信する複数のアンテナと、該複数のアンテナによって受信した信号を受信ベクトルとして該受信ベクトルから相関行列を演算する相関行列演算手段と、該相関行列演算手段によって演算された相関行列を固有値展開して信号部分空間を張る固有ベクトルを演算する固有ベクトル演算手段と、該固有ベクトル演算手段によって演算された固有ベクトルを入力してイベントを判別するサポートベクターマシン機能と、該サポートベクターマシン機能によって判別されたイベントに基づいてイベントを検出するイベント検出手段とを備えるイベント検出装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2010−153678
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のイベント検出装置では、そこに存在する人や物の状態の違いを識別することができても、例えば人がいるとして、その人が会議室又は居室などの所定のエリア内のどこにいるのかを正確に識別するだけの精度を持たせることができなかった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑み、電波の状態を監視することによって、監視対象が所定のエリア内のどこにいる(又はある)のかを正確に識別することができる高い精度を持つイベント検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のイベント検出装置は、送信機が送信した電波を受信する複数のアンテナと、該複数のアンテナによって受信した信号を受信ベクトルとして該受信ベクトルから相関行列を演算する相関行列演算手段と、該相関行列演算手段によって演算された相関行列を固有値展開して信号部分空間を張る固有ベクトル及び該固有ベクトルに対応する固有値を演算する固有値展開手段と、該固有値展開手段によって演算された固有ベクトル及び固有値の分散をそれぞれ演算する分散演算手段と、前記固有値展開手段によって演算された固有ベクトル及び固有値と前記分散演算手段によって演算された該固有ベクトル及び固有値の分散を入力してイベントを判別するサポートベクターマシン機能と、該サポートベクターマシン機能によって判別されたイベントに基づいてイベントを検出するイベント検出手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記サポートベクターマシン機能は、監視エリアにおいて監視対象が存在する位置を識別することで、電波の分散に与える影響も加味した高い精度で監視対象が存在する位置を識別することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電波の状態を監視することによって、監視対象が所定のエリア内のどこにいる(又はある)のかを正確に識別することができる高い精度を持つイベント検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例によるイベント検出装置の構成を示す図である。
【図2】本実施例の実験を会議室において行った環境を示す図である。
【図3】実験における第1固有ベクトルの評価関数を示す図である。
【図4】実験における第1固有ベクトルのSVM結果を示す図である。
【図5】実験における第1固有値の評価関数を示す図である。
【図6】実験における第1固有値のSVM結果を示す図である。
【図7】実験における修正第1固有値の評価関数を示す図である。
【図8】実験における修正第1固有値のSVM結果を示す図である。
【図9】実験における第1固有ベクトル及び第1固有値のSVM結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の一実施例によるイベント検出装置の構成を示す図である。本実施例のイベント検出装置は、送信機10及び受信機20を備える。これらの送信機10及び受信機20は、例えば人が所定のエリア内のどこにいるかなどのイベントを検出するために所定のエリアに設置する。会議室などの閉じた空間が望ましいが、開放されたエリアであっても構わない。送信機10は電波を送信する。受信機20は、アレイアンテナ21、相関行列演算手段22、固有値展開手段23、分散演算手段24、SVM25、及びイベント検出手段26を備える。アレイアンテナ21は、複数のアンテナ素子からなり、それぞれのアンテナ素子は送信機10が送信する電波を受信する。ここでは各アンテナ素子が直線上に配列されている例で説明する。アレイアンテナ21の受信信号は、各アレイアンテナ21の受信信号を要素とする受信ベクトルx→(t)で表される。ここで「→」は文章中において、その左の文字がベクトルであることを表す。
x→(t)=a→(θ)s(t)+n→(t) (1)
ただし、a→(θ):アンテナ素子数をL個とするときのL次元ベクトル
s(t):基準点での受信信号
n→(t):雑音
【0013】
【数1】

(2)
ただし、θ:アンテナアレイ21の並びの方向に対する電波到来方向
d:アレイアンテナ21の各素子の間隔
λ:電波の波長
ここで、M個の到来波が平面波として到来するとき、
x→(t)=A→s→(t)+n→(t) (3)
ただし、A→:M個のベクトル(ステアリングベクトルという)を列としたL×M行列
s→(t):各到来波の複素振幅を要素としたM次元ベクトル
【0014】
【数2】

(4)
【0015】
【数3】

(5)
ただし、Tは転置を表す。
と表せる。
【0016】
相関行列演算手段22は、受信ベクトルx→(t)から相関行列R→xxを演算する。
【0017】
【数4】

(6)
ただし、E→[・]:集合平均
H:複素共役転置
ここで、雑音は到来波と無関係であり、素子に独立であるので、
【0018】
【数5】

(7)
ただし、σ2:雑音の分散
S→:波源相関行列=E→[s→(t)s→(t)
また、
【0019】
【数6】

(8)
から得られる固有値λi、それに対応する固有ベクトルv→iを用いて、
【0020】
【数7】

(9)
と固有値展開できる。ここで、
【0021】
【数8】

(10)
である。ここでdiagは行列の対角要素を並べたものである。
【0022】
ここで、受信データ相関行列R→xxの固有値は、コヒーレント波群とインコヒーレント波の数の和に対応するK個の信号固有値、および、大きさが雑音電力に等しい(L−K)個の雑音固有値に分割できる。すなわち、
【0023】
【数9】

(11)
【0024】
以上により、受信ベクトルから生成される相関行列R→xxを固有値展開することにより、信号部分空間と雑音部分空間に分けることができることを示した。信号部分空間を張る固有ベクトルv→とステアリングベクトルa→(θ)は同じ空間を張っていて、互いが他方の線形結合として表せる。つまり、信号部分空間を張る固有ベクトルは到来方向情報を含んだステアリングベクトルの線形結合によって表すことができ、電波伝搬構造を表しているといえる。
【0025】
ここで、第1固有ベクトルv→1は固有値が最も高い値を示す第1固有値λ1に対応する固有ベクトルであり、受信機に信号が届いている限り、必ず信号部分空間の基底となり、
【0026】
【数10】

(12)
【0027】
と表せる。お互いがコヒーレントである波が到来した場合はそのステアリングベクトルの線形結合が新しい1つのステアリングベクトルとなるので、上式の本質には影響しない。したがって、第1固有ベクトルはマルチパス環境の信号空間を表し、伝搬環境によって一意に決まる。そこで、固有値展開手段23は、相関行列R→xxから第1固有ベクトルv→1及び第1固有値λ1を算出する。
【0028】
つぎに、分散演算手段24は、第1固有ベクトルv→1及び第1固有値λ1を式(13)に示す評価関数P(t)に変換し、さらに式(13)で定義する修正第1固有値、それぞれの分散σ2(t)を演算する。分散は、現在を含めて過去5回分の評価関数P(t)の分散とした。
【0029】
【数11】

(13)
【0030】
評価関数に変換するのは計算を簡素化するためである。第1固有ベクトルv→1については、イベントが何も起こっていないときにあらかじめ取得しておいた第1固有ベクトルv→noとイベント観測時に取得した第1固有ベクトルv→obとの内積を使用する。ただし固有ベクトルの大きさはどちらも1に正規化しておく。イベントが何も起こっていない観測時間では、伝搬環境が変化していないので、v→ob(tno)は、v→noと非常に近い値を示すので、1に近い値となる。一方、イベントが起きている観測時間t=teventでは、伝搬環境は変化し、v→ob(tevent)は、v→noとは異なる値を示すので、1より小さい値となる。
【0031】
SVM25は、公知のサポートベクターマシン(Support Vector
Machine)であり、学習を用いる識別手法の一つである。本実施例では、識別するそれぞれの状態(各複数)を模擬したときの入力特徴ベクトルz→(t)をSVM25に入力して、事前に学習させておき、実際に観察するときの入力特徴ベクトルz→(t)をSVM25に入力して、想定される状態、すなわち、イベントを判別する。例えば、評価関数P(t)とその分散σ2(t)を使用する場合の入力特徴ベクトルz→(t)は、
【0032】
【数12】

(14)
イベント検出手段26は、SVM25によって判別されたイベントから最終的なイベントを検出する。
【0033】
図2は、本実施例の実験を会議室において行った環境を示す図である。会議室は電波を通す壁で仕切られた2室の中に、送信機Tx及び受信機Rxを設置し、人が
シナリオ:静的状態→入室→A→B→C→D→退室→静的状態
と行動してSVM25に学習させて、同じシナリオでテストした。
実験環境を表1に示す。
【0034】
【表1】

各イベントを表2のようにラベル付ける。
【0035】
【表2】

【0036】
図3は、実験における第1固有ベクトルの評価関数を示す図である。(a)は、学習の際のものであり、(b)は、テストの際のものである。横軸は上記シナリオの時間(秒)を示し、縦軸は評価関数を示す。イベントと時間との関係は図4により明らかになる。この第1固有ベクトルの評価関数だけによってイベントを判別することは困難であることが分かる。
【0037】
図4は、実験における第1固有ベクトルのSVM結果を示す図である。(a)は、分散を加味していないものであり、(b)は、分散を加味したものである。実線は真のラベルであり、破線とハッチングは判定ラベルである。分散を加味することにより精度が高くなることが分かる。
【0038】
図5は、実験における第1固有値の評価関数を示す図である。(a)は、学習の際のものであり、(b)は、テストの際のものである。横軸は上記シナリオの時間(秒)を示し、縦軸は評価関数を示す。この第1固有値の評価関数だけによってイベントを判別することは困難であることが分かる。
【0039】
図6は、実験における第1固有値のSVM結果を示す図である。(a)は、分散を加味していないものであり、(b)は、分散を加味したものである。実線は真のラベルであり、破線とハッチングは判定ラベルである。分散を加味することにより精度が高くなることが分かる。
【0040】
図7は、実験における修正第1固有値の評価関数を示す図である。(a)は、学習の際のものであり、(b)は、テストの際のものである。横軸は上記シナリオの時間(秒)を示し、縦軸は評価関数を示す。この修正第1固有値の評価関数だけによってイベントを判別することは困難であることが分かる。
【0041】
図8は、実験における修正第1固有値のSVM結果を示す図である。(a)は、分散を加味していないものであり、(b)は、分散を加味したものである。実線は真のラベルであり、破線とハッチングは判定ラベルである。分散を加味することにより精度が高くなることが分かる。
【0042】
図9は、実験における第1固有ベクトル及び第1固有値のSVM結果を示す図である。(a)は、分散を加味していないものであり、(b)は、分散を加味したもの、すなわち、第1固有ベクトルの評価関数、その分散、第1固有値の評価関数、及びその分散を入力特徴ベクトルとしてSVMに入力したSVM判定結果である。実線は真のラベルであり、破線とハッチングは判定ラベルである。分散を加味することにより精度が高くなることが分かる。本発明は、判定に分散を加味することにより、単に人が歩行しているか否かだけではなく、歩行していない人のいる位置を高い精度で判定できることに特色がある。これは、人がいる位置によって電波の分散に与える影響が異なることによると考えられる。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではない。
【0043】
送信機は、電波を発生しアレイアンテナで受信できるものであれば、他のシステムで利用しているものを併用することができる。例えば無線LANの基地局が相当する。また、信号は広帯域でも狭帯域でもかまわない。
アンテナは複数の素子からなるアンテナであればよく、必ずしもアレイアンテナでなくても良い。
【0044】
固有値展開手段は、複数の固有ベクトルを演算してもよいし、必ずしも相関行列の最大固有値に対応する固有ベクトルだけを演算するものに限られない。また、固有ベクトルの内積をとるものに限られず、例えば差をとったり、比をとったりするものでも良い。固有値についても、上記修正固有値のように固有値から演算される任意の値を使用することができる。
上述の実施例においては、SVMに第1固有ベクトルの内積を入力したが、適応分野によって、第1固有ベクトルをそのまま入力するようにしても良い。
監視対象は必ずしも人に限られず、動物などでも構わない。
【符号の説明】
【0045】
10 送信機
20 受信機
21 アレイアンテナ
22 相関行列演算手段
23 固有値展開手段
24 分散演算手段
25 SVM(サポートベクターマシン)
26 イベント検出手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機が送信した電波を受信する複数のアンテナと、
該複数のアンテナによって受信した信号を受信ベクトルとして該受信ベクトルから相関行列を演算する相関行列演算手段と、
該相関行列演算手段によって演算された相関行列を固有値展開して信号部分空間を張る固有ベクトル及び該固有ベクトルに対応する固有値を演算する固有値展開手段と、
該固有値展開手段によって演算された固有ベクトル及び固有値の分散をそれぞれ演算する分散演算手段と、
前記固有値展開手段によって演算された固有ベクトル及び固有値と前記分散演算手段によって演算された該固有ベクトル及び固有値の分散を入力してイベントを判別するサポートベクターマシン機能と、
該サポートベクターマシン機能によって判別されたイベントに基づいてイベントを検出するイベント検出手段と
を備えることを特徴とするイベント検出装置。
【請求項2】
前記サポートベクターマシン機能は、監視エリアにおいて監視対象が存在する位置を識別することを特徴とする請求項1記載のイベント検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−83269(P2012−83269A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230897(P2010−230897)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】