説明

イマチニブジクロロ酢酸塩及びそれを含む抗癌剤組成物

本発明は、イマチニブジクロロ酢酸塩及びそれを含む抗癌剤組成物に関するものである。本発明のイマチニブジクロロ酢酸塩は、チロシンキナーゼの抑制活性のみならず、アポトーシス(apoptosis)を通じて癌細胞が自ら消滅するように誘導することにより癌の成長を抑制し、究極的には癌細胞を消滅させることができ、イマチニブとジクロロ酢酸のシナジー効果を通じて抗癌効果を顕著に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イマチニブジクロロ酢酸塩及びそれを含む抗癌剤組成物に関する。より具体的に、本発明は、チロシンキナーゼの抑制活性のみならず、アポトーシス(apoptosis)を通じて癌細胞が自ら消滅するように誘導することにより癌の成長を抑制し、究極的には癌細胞を消滅させることができ、イマチニブとジクロロ酢酸のシナジー効果を通じて抗癌効果が顕著に増加したイマチニブジクロロ酢酸塩及びそれを含む抗癌剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イマチニブ(imatinib)は、下記化学式(II)で表される4‐[(4‐メチル‐1‐ピペラジニル)メチル]‐N‐[4‐メチル‐3‐[[4‐(3‐ピリジル)‐2‐ピリミジニル]アミノ]フェニル]ベンゾアミドの一般名で、米国特許登録第5,521,184号に開示されている。
【0003】
【化1】

イマチニブは、正常細胞にはほとんど作用せず、フィラデルフィア染色体(9番と22番染色体が遺伝子を転座して新たに作られた奇形的染色体)という非正常的な染色体を持つ白血病癌細胞にのみ選択的に作用して癌細胞の増殖を抑制する化合物であり、最初の標的抗癌剤として開発された。
【0004】
イマチニブは、多様な類型の癌治療に特に有用なタンパク質であるチロシンキナーゼの阻害剤として作用し、慢性骨髄性白血病、転移性悪性消化管間質腫瘍(gastro‐intestinal stromal tumour, GIST)、固形腫瘍及び隆起性皮膚繊維肉腫、再発・不応フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Philadelphia positive acute lymphoblastic leukemia, Ph+ ALL)、骨髄異形成症候群/骨髄増殖性疾患(myelodysplastic/myeloproliferative diseases, MDS/MPD)、過好酸球症候群/慢性好酸球性白血病(hypereosinophilic syndrome/chronic eosinophilic leukemia, HES/CEL)及び侵襲性全身性肥満細胞症(aggressive systemic mastocytosis, ASM)の治療薬として使用されている。
【0005】
イマチニブは、薬剤学的に許容可能な酸との塩の形態で最も適するように投与される。具体的に、イマチニブは、下記化学式(III)で表されるイマチニブメタンスルホン酸塩(imatinib mesylate)として製造され、多くの国でグリベック(GLIVEC又はGLEEVEC)という商品名で市販されている。
【0006】
【化2】

しかし、現在までの研究の結果は、イマチニブは、癌患者の延命のための有用な治療剤ではあるが、イマチニブの単独療法により癌の完治を可能にすることはないものと報告されている。また、イマチニブは、他の抗癌剤のように投与中に耐性が発生するだけでなく、投与中に吐き気、嘔吐、浮腫、皮膚発疹、血液数値減少等の副作用が現れるという問題点がある。
【0007】
こうした限界を克服する一つの方法として、イマチニブとともに抗癌効果を補完することのできる他の薬物を同時に投与する併用療法が提案されている。しかし、こうした併用製剤も癌細胞を究極的に消滅させることのできる方法を提示できずにおり、2種類の活性成分を複合剤として投与する際、同一投薬単位内で2種類の物質を完全に均一に混合することが難しいという問題点も存在している。
【0008】
一方、ジクロロ酢酸は、酢酸の誘導体であってメチル基の3つの水素原子のうち2つが塩素原子で置換された構造を有しており、乳酸アシドーシス(lactic acidosis)と癌の治療に効能がある物質である。しかし、ジクロロ酢酸自体は強い腐食性を有しており、粘膜や上気道組織に損傷を与えるため、ジクロロ酢酸ナトリウム塩やジクロロ酢酸カリウム塩といった塩の形態で使用されている。
【0009】
具体的に、ジクロロ酢酸塩は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ(pyruvate dehydrogenase kinase)を阻害してピルビン酸デヒドロゲナーゼを活性化させることにより、乳酸アシドーシスを治療する薬物として使用されている(Ann Intern Med 108(1): 58〜63(1988))。
【0010】
また、最近発表された研究によると、試験管内における癌細胞効能試験(in vitro cancer cell line assay)とラットを利用した実験において、ジクロロ酢酸がミトコンドリアの機能を回復させることにより、アポトーシス(apoptosis)を誘発するだけでなく、試験管内において(in vitro)癌細胞を殺し、ラットにおいて癌を抑制するということが究明された(Cancer Cell 11(1): 37〜51(2007))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、イマチニブの抗癌効果を改善し、副作用を減少させるために鋭意研究検討した結果、イマチニブと、毒性が低くかつアポトーシス(apoptosis)を通じて癌細胞が自ら消滅するように誘導することができる物質であるジクロロ酢酸から製造されるイマチニブジクロロ酢酸塩が驚くべきことにより強力な抗癌効果を示すだけでなく、複合剤として投与する際に同一投薬単位内で2種類の物質を完全に均一に混合することが困難であった問題を克服できることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0012】
したがって、本発明の目的は、優れた抗癌効果を示す新規な酸付加塩であるイマチニブジクロロ酢酸塩を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、イマチニブジクロロ酢酸塩を含む抗癌剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、下記化学式(I)で表されるイマチニブジクロロ酢酸塩に関する。
【0015】
【化3】

本発明のイマチニブジクロロ酢酸塩は、好ましくは、結晶性イマチニブジクロロ酢酸塩であり、より好ましくは、X線回折分析においてI/I(I:各回折角におけるピークの強度、I:最大ピークの強度)が10%以上である回折角(2θ)の値が、5.3±0.2、9.1±0.2、10.5±0.2、11.5±0.2、12.3±0.2、13.1±0.2、14.1±0.2、15.6±0.2、16.6±0.2、18.7±0.2、19.8±0.2、20.2±0.2、20.9±0.2、21.8±0.2、22.5±0.2、23.4±0.2、24.7±0.2、26.2±0.2、27.9±0.2、29.3±0.2、31.3±0.2であることを特徴とする結晶性イマチニブジクロロ酢酸塩(以下、「結晶型I」と命名する)である。
【0016】
代案的に、本発明のイマチニブジクロロ酢酸塩は、好ましくは、X線回折分析においてI/I(I:各回折角におけるピークの強度、I:最大ピークの強度)が10%以上である回折角(2θ)の値が、9.8±0.2、11.0±0.2、11.5±0.2、13.2±0.2、13.8±0.2、14.7±0.2、15.6±0.2、16.1±0.2、16.9±0.2、17.4±0.2、19.9±0.2、20.7±0.2、21.5±0.2、22.4±0.2、23.6±0.2、24.5±0.2、26.0±0.2、27.2±0.2、27.6±0.2、29.4±0.2であることを特徴とする結晶性イマチニブジクロロ酢酸塩(以下、「結晶型II」と命名する)である。
【0017】
本発明で使用したジクロロ酢酸は、LD50(ラットへの経口投与時、50%の致死量)の値が2,820mg/Kgで非常に安全であるだけでなく[参考文献:Merck Index, 13 edition(2001)]、分子量も128.94g/molで相対的に小さいため、酸付加塩の製造に非常に有利な有機酸である。特に、ジクロロ酢酸塩は、過去30年以上乳酸アシドーシスの治療薬として安全に使用されてきたため、その安全性は臨床的に検証されている。
【0018】
本発明に係るイマチニブジクロロ酢酸塩は、イマチニブが持っているチロシンキナーゼの抑制能力だけでなく、ジクロロ酢酸が癌細胞のアポトーシス(apoptosis)を誘発させることにより、白血病をはじめとする多様な癌治療剤として非常に有利な長所を有する。
【0019】
本発明に係る前記化学式(I)で表されるイマチニブジクロロ酢酸塩は、下記化学式(II)で表されるイマチニブと下記化学式(IV)で表されるジクロロ酢酸とを反応させて製造してもよい。
【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

以下、本発明に係るイマチニブジクロロ酢酸塩の製造方法をさらに詳細に説明する。
【0022】
本発明に係るイマチニブジクロロ酢酸塩の製造方法は、イマチニブを有機溶媒に懸濁させてからジクロロ酢酸を滴下し、撹拌して反応させる段階の次に、
(i)反応溶液を減圧濃縮し、得られた残渣に析出溶媒を加えて撹拌した後に得られた固体をろ過するステップ;又は
(ii)反応溶液を攪拌して得られた固体を濾過するステップを含んでいてよい。
【0023】
使用するジクロロ酢酸の量は、イマチニブに対して約1当量が好ましい。
【0024】
前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1‐ブタノール、1‐ヘキサノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、2‐ブタノン等のケトン類、及びエチルアセテート、イソプロピルアセテート等のエステル類から選択された1種以上が使用されてよい。
【0025】
前記析出溶媒としては、イソプロパノール、1‐ブタノール、1‐ヘキサノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン、2‐ブタノン等のケトン類、n‐ペンタン、n‐ヘキサン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、エチルアセテート、イソプロピルアセテート等のエステル類、及びジクロロメタン、クロロホルム、1,2‐ジクロロエタン等の塩化炭化水素類から選択された1種以上が使用されてよい。
【0026】
反応時間は、1〜5時間が好ましく、反応温度は、10〜40℃が好ましい。
【0027】
本発明のイマチニブジクロロ酢酸塩の製造方法は、前記得られた固体を濾過するステップの次に、洗滌し、乾燥するステップをさらに含んでいてもよい。
【0028】
一方、本発明は、イマチニブジクロロ酢酸塩を薬剤学的に許容される担体とともに含む抗癌剤組成物、特に、慢性骨髄性白血病又は転移性悪性消化管間質腫瘍の治療のための抗癌剤組成物に関する。本発明の抗癌剤組成物は、イマチニブジクロロ酢酸塩以外に、他の生理活性物質をともに含んでいてよい。
【0029】
本発明に係る抗癌剤組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、乳濁液剤、懸濁液剤、シロップ剤等、多様な形態で剤形化されてよい。前記多様な形態の抗癌剤組成物は、賦形剤、充填剤、増量剤、結合剤、崩解剤(disintegrator)、潤滑剤、防腐剤、抗酸化剤、等張剤(isotonic agent)、緩衝剤、被膜剤、甘味剤、溶解剤、基剤(base)、分散剤、湿潤剤、懸濁剤、安定剤、着色剤、芳香剤等、各剤形に通常的に使用される薬剤学的に許容される担体(carrier)を使用して、公知技術により製造されてよい。
【0030】
前記薬剤の製造において、本発明のイマチニブジクロロ酢酸塩の含量は、薬剤の形態によって異なるが、好ましくは、1〜90重量%の濃度、より好ましくは、5〜30重量%の濃度である。
【0031】
本発明の抗癌剤組成物の投与量は、治療される人間を含む哺乳動物の種類、投与経路、体重、性別、年齢、疾患の程度、医師の判断等に応じて広い範囲で多様に変化する。一般的に、経口投与の場合には、体重1kg当たり1日に活性成分1〜30mgが投与されてよい。上述した一日投与量は、疾患の程度、医師の判断等により、一度に又は分けて使用されてよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明のイマチニブジクロロ酢酸塩は、チロシンキナーゼの抑制活性のみならず、アポトーシス(apoptosis)を通じて癌細胞が自ら消滅するように誘導することにより癌の成長を抑制し、究極的には癌細胞を消滅させることができ、イマチニブとジクロロ酢酸のシナジー効果を通じて抗癌効果を高めることができる。また、こうしたシナジー効果を通じ、有効成分の使用量を下げても同一又は同一以上の効果を出すことができるため、副作用を下げることもできる。
【0033】
また、本発明のイマチニブジクロロ酢酸塩は、イマチニブとジクロロ酢酸を同一投薬単位に含める過程において均質に混合して製剤化することが困難であった問題を解決した長所を有する。
【0034】
さらに、本発明に係る結晶性イマチニブジクロロ酢酸塩は、水分及び熱に対する安定性に優れ、吸湿性が非常に低く、薬剤学的組成物に有用に使用することができる。
【0035】
したがって、本発明に係るイマチニブジクロロ酢酸塩は、抗癌剤組成物、特に、慢性骨髄性白血病又は転移性悪性消化管間質腫瘍の治療のための抗癌剤組成物に効果的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1で収得したイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)のX線回折分光図を示した図である。
【図2】実施例1で収得したイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)の示差走査熱量分析を示した図である。
【図3】実施例5で収得したイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)のX線回折分光図を示した図である。
【図4】実施例5で収得したイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)の示差走査熱量分析を示した図である。
【図5】試験例4において、薬物を処理しなかった対照群(control)の吸光度の値を100%としたときの、イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)を100nM、10nM及び1nMの濃度で投与して得られた吸光度の値を%で表した図である。
【図6】試験例4において、薬物を処理しなかった対照群(control)の吸光度の値を100%としたときの、イマチニブメタンスルホン酸塩(β結晶型)を100nM、10nM及び1nMの濃度で投与して得られた吸光度の値を%で表した図である。
【図7】試験例4において、薬物を処理しなかった対照群(control)の吸光度の値を100%としたときの、ジクロロ酢酸を100nM、10nM及び1nMの濃度で投与して得られた吸光度の値を%で表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明しようとする。これらの実施例はただ本発明を説明するためのもので、本発明の範囲はこれら実施例に限定されないということは当業者にとって自明である。
【0038】
<実施例1:イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)の製造>
イマチニブ5.00g(10.1mmol)をメタノール50mLに懸濁させ、ジクロロ酢酸0.83mL(10.1mmol)を徐々に滴下して20〜25℃で1時間攪拌した。反応溶液を減圧蒸留して完全に濃縮させた後、残渣にアセトン100mLを加え、20〜25℃で2時間攪拌した。
【0039】
生成された淡黄色の結晶性固体を濾過し、アセトン10mLで洗滌した後、50℃の真空下で24時間乾燥してイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)6.10gを収得した。収率は96.7%であった。得られた結晶性イマチニブジクロロ酢酸塩のX線回折分析及び示差走査熱量分析を行い、その結果をそれぞれ図1及び図2に示した。
【0040】
融点:142〜146℃
H NMR(400MHz,DMSO‐d):δ=10.18(s,1H),9.27(d,1H,J=2.0Hz),8.94(s,1H),8.65(dd,1H,J=1.6Hz,4.8Hz),8.47(d,1H,J=4.8Hz),8.45〜8.42(m,1H),8.06(d,1H,J=2.0Hz),7.91(d,1H,J=8.4Hz),7.50〜7.38(m,5H),7.12(d,1H,J=8.4Hz),6.0(s,1H),3.60(s,2H),3.06(brs,4H),2.65(s,3H),2.60(brs,4H),2.19(s,3H)。
【0041】
<実施例2:イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)の製造>
イマチニブ5.00g(10.1mmol)をエタノール60mLに懸濁させ、ジクロロ酢酸0.83mL(10.1mmol)を徐々に滴下して20〜25℃で3時間攪拌した。生成された淡黄色の結晶性固体を濾過し、冷却されたエタノール10mLで洗滌した後、50℃の真空下で24時間乾燥してイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)5.55gを収得した。収率は88.0%であった。
【0042】
<実施例3:イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)の製造>
イマチニブ5.00g(10.1mmol)をイソプロパノール60mLに懸濁させ、ジクロロ酢酸0.83mL(10.1mmol)を徐々に滴下して20〜25℃で3時間攪拌した。生成された淡黄色の結晶性固体を濾過し、イソプロパノール10mLで洗滌した後、50℃の真空下で24時間乾燥してイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)6.30gを収得した。収率は100.0%であった。
【0043】
<実施例4:イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)の製造>
イマチニブ5.00g(10.1mmol)をメタノール50mLに懸濁させ、ジクロロ酢酸0.83mL(10.1mmol)を徐々に滴下して20〜25℃で1時間攪拌した。反応溶液を減圧蒸留して完全に濃縮させた後、残渣にジクロロメタン125mLを加え、20〜25℃で2時間攪拌した。生成された淡黄色の結晶性固体を濾過し、ジクロロメタン10mLで洗滌した後、50℃の真空下で24時間乾燥してイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)6.05gを収得した。収率は96.0%であった。
【0044】
<実施例5:イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)の製造>
イマチニブ5.00g(10.1mmol)を2‐ブタノン70mLに懸濁させ、ジクロロ酢酸0.83mL(10.1mmol)を徐々に滴下して20〜25℃で3時間、強く攪拌した。生成された淡黄色の結晶性固体を濾過し、2‐ブタンオン10mLで洗滌した後、50℃の真空下で24時間乾燥してイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)6.11gを収得した。収率は96.9%であった。得られた結晶性イマチニブジクロロ酢酸塩のX線回折分析及び示差走査熱量分析を行い、その結果をそれぞれ図3及び図4に示した。
【0045】
融点:176〜178℃
H NMR(400MHz,DMSO‐d):δ=10.18(s,1H),9.27(d,1H,J=2.0Hz),8.94(s,1H),8.65(dd,1H,J=1.6Hz,4.8Hz),8.47(d,1H,J=4.8Hz),8.45〜8.42(m,1H),8.06(d,1H,J=2.0Hz),7.91(d,1H,J=8.4Hz),7.50〜7.38(m,5H),7.12(d,1H,J=8.4Hz),6.0(s,1H),3.60(s,2H),3.06(brs,4H),2.65(s,3H),2.60(brs,4H),2.19(s,3H)。
【0046】
<実施例6:イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)の製造>
イマチニブ5.00g(10.1mmol)をメタノール50mLに懸濁させ、ジクロロ酢酸0.83mL(10.1mmol)を徐々に滴下して20〜25℃で1時間、強く攪拌した。反応溶液を減圧蒸留して完全に濃縮させた後、残渣にエチルアセテート70mLを加え、20〜25℃で2時間攪拌した。生成された淡黄色の結晶性固体を濾過し、エチルアセテート10mLで洗滌した後、50℃の真空下で24時間乾燥してイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)6.20gを収得した。収率は98.3%であった。
【0047】
<実施例7:イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)の製造>
イマチニブ5.00g(10.1mmol)をメタノール50mLに懸濁させ、ジクロロ酢酸0.83mL(10.1mmol)を徐々に滴下して20〜25℃で1時間、強く攪拌した。反応溶液を減圧蒸留して完全に濃縮させた後、残渣にアセトニトリル100mLを加え、20〜25℃で2時間攪拌した。生成された淡黄色の結晶性固体を濾過し、アセトニトリル20mLで洗滌した後、50℃の真空下で24時間乾燥してイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)5.82gを収得した。収率は92.1%であった。
【0048】
<実施例8:イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)の製造>
イマチニブ5.00g(10.1mmol)をメタノール50mLに懸濁させ、ジクロロ酢酸0.83mL(10.1mmol)を徐々に滴下して20〜25℃で1時間、強く攪拌した。反応溶液を減圧蒸留して溶媒の体積を1/3に濃縮させた後、濃縮液にジエチルエーテル75mLを加え、20〜25℃で2時間攪拌した。生成された淡黄色の結晶性固体を濾過し、ジエチルエーテル10mLで洗滌した後、50℃の真空下で24時間乾燥してイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)5.92gを収得した。収率は93.7%であった。
【0049】
<比較例1:イマチニブメタンスルホン酸塩(β結晶型)の製造>
米国特許登録第6,894,051号に記載の方法により、イマチニブメタンスルホン酸塩(β結晶型)を次のように製造した。
【0050】
イマチニブ5.0g(10.1mmol)をメタノール48mLに懸濁させ、メタンスルホン酸0.97g(10.1mmol)とメタノール2mLを加えた。反応溶液を50℃に加熱し、活性炭0.5gを加えた後、30分間還流させた。反応溶液をろ過して減圧濃縮した後、残渣をメタノール15mLに溶解させ、イマチニブメタンスルホン酸塩(β結晶型)をシード結晶に添加して生成物の結晶化を誘導した。60℃の真空下で24時間乾燥してイマチニブメタンスルホン酸塩(β結晶型)5.18gを収得した。
【0051】
<試験例1:結晶性イマチニブジクロロ酢酸塩のX線回折分析>
図1及び図3から、前記実施例1及び実施例5でそれぞれ製造された結晶性イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)及びイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)は、粉末X線回折分析ではそれぞれ特徴的な結晶形を有することを確認することができた。図1及び図3の粉末X線回折分光図に示された特徴的なピーク(peak)をそれぞれ下記表1及び表2に示した。ここで、「2θ」は回折角を、「d」は結晶面間の距離を、「I/I」はピーク(peak)の相対強度を意味する。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

<試験例2:水分及び熱に対する安定性試験>
薬剤学的組成物に使用される活性成分の水分及び熱に対する安定性は、組成物の製造工程はもちろん、組成物の長期保管において重要な要素であるため、前記実施例1及び実施例5でそれぞれ製造されたイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形I)及びイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)と、比較例1で製造されたイマチニブメタンスルホン酸塩(β結晶型)の水分及び熱に対する安定性を測定した。
【0054】
具体的に、前述したイマチニブ酸付加塩それぞれを温度40℃及び相対湿度75%の加速条件において密封状態で保管しつつ、それぞれ0日、3日、7日、14日及び28日経過した後の試料について、初期活性成分値の残渣率を高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。その結果を下記表3に示した。
【0055】
【表3】

前記表3に見られるように、イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)及びイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)は、28日間の加速条件の実験において、公知のイマチニブメタンスルホン酸塩(β結晶型)と対等又は優れた安定性を示した。この結果から、本発明の結晶性イマチニブジクロロ酢酸塩は、薬剤学的組成物として有用に使用することができる化学的安定性を持っていることを確認することができた。
【0056】
<試験例3:非吸湿性試験>
前記実施例1及び実施例5でそれぞれ製造されたイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)及びイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)に対する吸湿性を、公知のイマチニブメタンスルホン酸塩(β結晶型)の吸湿性と比較した。それぞれの化合物を、温度40℃及び相対湿度75%の条件で、2時間、8時間、24時間及び3日間、持続的に露出させた後、水分含量をカールフィッシャー(Karl‐Fisher)水分測定器で測定した。活性成分に含まれる水分の含量を含水率(重量%)で表した測定数値を下記表4に示した。
【0057】
【表4】

前記表4に見られるように、イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)及びイマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形II)は、多湿条件においても公知のイマチニブメタンスルホン酸塩(β結晶型)と対等に優れた非吸湿性であることを示した。こうした結果から、本発明に係る結晶性イマチニブジクロロ酢酸塩は、水分に非常に安定的であり、薬剤学的組成物の活性成分として有用に利用することができることを確認することができた。
【0058】
<試験例4:細胞毒性試験>
10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum: FBS)、ロズウェルパーク記念研究所培地(Rosewell Park Memorial Institute medium: RPMI)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(penicillin/streptomycin)を含有する培地を利用して、2×10細胞/mLの結腸癌(colorectal adenocarcinoma)培養細胞HT29の懸濁液を製造した。製造された懸濁液を、94ウェルの各ウェルに注入して24時間培養した。このとき、各サンプル当たり3つのウェルに注入培養した(n=3)。
【0059】
24時間経過した後、各ウェルから培地を除去し、リン酸塩緩衝食塩水(phosphate buffered saline: PBS)溶液で洗滌した。イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形I)、イマチニブメタンスルホン酸塩(β結晶型)及びジクロロ酢酸を、それぞれジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide: DMSO)に溶かした溶液(10mM)を製造し、無血清培地(serum free media)を利用して100nM、10nM、1nMの溶液をそれぞれ製造した。これをウェルに100μlずつそれぞれ注入し、37℃のインキュベータで72時間さらに培養した。
【0060】
それぞれのサンプルに、3‐(4,5‐ジメチルチアゾール‐2‐イル)‐2,5‐ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(3‐(4,5‐dimethylthiazol‐2‐yl)‐2,5‐diphenyltetrazolium bromide: MTT)を10μlずつ添加して4時間さらに培養し、ELISA分析器を利用して570nmにおける吸光度を測定した。
【0061】
対照群(control)は、薬物を含まなかった無血清培地で測定されたMTTの吸光度の値を示した。イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶形I)、イマチニブメタンスルホン酸塩(β結晶型)及びジクロロ酢酸をそれぞれ処理した3つの結果値の平均値を求めた後、%値を計算して、その結果を図5、図6及び図7に示した。
【0062】
薬物を処理しなかった対照群(control)の吸光度の値を100%としたとき、イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)を100nM、10nM及び1nMの濃度で投与して得られた吸光度の値は、それぞれ38.5%、47.8%及び67.9%と確認された。
【0063】
また、同じ方法でイマチニブメタンスルホン酸塩(β結晶型)を100nM、10nM及び1nMの濃度で投与して得られた吸光度の値は、それぞれ59.7%、55.2%及び67.9%と確認された。また、同じ方法でジクロロ酢酸を100nM、10nM及び1nMの濃度で投与して得られた吸光度の値は、それぞれ95.2%、98.6%及び101.2%と確認された。
【0064】
前記結果から、イマチニブジクロロ酢酸塩(結晶型I)がイマチニブメタンスルホン酸塩(β結晶型)よりも優れた抗癌抑制力を示すだけでなく、ジクロロ酢酸の付加によりシナジー効果を示すことを知ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるイマチニブジクロロ酢酸塩。
【化1】

【請求項2】
結晶性であることを特徴とする請求項1に記載のイマチニブジクロロ酢酸塩。
【請求項3】
X線回折分析においてI/I(I:各回折角におけるピークの強度、I:最大ピークの強度)が10%以上である回折角(2θ)の値が、5.3±0.2、9.1±0.2、10.5±0.2、11.5±0.2、12.3±0.2、13.1±0.2、14.1±0.2、15.6±0.2、16.6±0.2、18.7±0.2、19.8±0.2、20.2±0.2、20.9±0.2、21.8±0.2、22.5±0.2、23.4±0.2、24.7±0.2、26.2±0.2、27.9±0.2、29.3±0.2、31.3±0.2であることを特徴とする請求項1に記載の結晶性イマチニブジクロロ酢酸塩。
【請求項4】
X線回折分析においてI/I(I:各回折角におけるピークの強度、I:最大ピークの強度)が10%以上である回折角(2θ)の値が、9.8±0.2、11.0±0.2、11.5±0.2、13.2±0.2、13.8±0.2、14.7±0.2、15.6±0.2、16.1±0.2、16.9±0.2、17.4±0.2、19.9±0.2、20.7±0.2、21.5±0.2、22.4±0.2、23.6±0.2、24.5±0.2、26.0±0.2、27.2±0.2、27.6±0.2、29.4±0.2であることを特徴とする請求項1に記載の結晶性イマチニブジクロロ酢酸塩。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のイマチニブジクロロ酢酸塩を薬剤学的に許容される担体とともに含む抗癌剤組成物。
【請求項6】
慢性骨髄性白血病又は転移性悪性消化管間質腫瘍の治療のためのものであることを特徴とする請求項5に記載の抗癌剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−515766(P2013−515766A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547017(P2012−547017)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【国際出願番号】PCT/KR2010/009423
【国際公開番号】WO2011/081408
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(511285381)セルトリオン ケミカル リサーチ インスティテュート (2)
【氏名又は名称原語表記】CELLTRION CHEMICAL RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】#801,KITI,The University of Suwon,San2−2,Wau−ri,Bongdam−eup,Hwaseong−si,Gyeonggi−do 445−743,Republic of Korea
【出願人】(511285392)セルトリオン ファーム,インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】CELLTRION PHARM,INC.
【住所又は居所原語表記】414−6,Jangan−dong,Dongdaemun−gu,Seoul 130−100,Republic of Korea
【Fターム(参考)】