説明

イミダゾール−5−カルボン酸誘導体の塩、製造方法及びその医薬組成物

本発明は、イミダゾール−5−カルボン酸誘導体の薬学的に許容される塩の形態、その製造方法及び医薬組成物を提供する。本発明の塩は、水、メタノールなどの通常の溶媒への溶解性が良好で、かつ動物生体内で良好な生物学的利用能を持ち、高血圧治療用の通常の製剤の開発に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミダゾール−5−カルボン酸誘導体の薬学的に許容される塩の形態、その製造方法及び医薬組成物に関する。イミダゾール−5−カルボン酸系誘導体の塩形成方法について研究することにより、これらの化合物の新規形態を得、溶解性の低下に起因する製剤プロセスの複雑化の問題を効果的に解決した。
【背景技術】
【0002】
アンジオテンシンIIはレニン−アンジオテンシン−アルドステロン系(RAAS)における主要な血管収縮ホルモンであって、多種の慢性疾患において病理生理学の面で重要な作用を果たす。アンジオテンシンIIは多くの組織に存在し、その生成経路は主に以下の通りである。アンジオテンシノーゲンはレニンの作用によって、わずかな血管収縮作用を持つデカペプチドであるアンジオテンシンI(AngI)に変換され、さらにアンジオテンシン変換酵素の作用によって、オクタペプチドであるアンジオテンシンII(AngII)に変換される。AngIIはレニン−アンジオテンシン−アルドステロン系(RAS)の最終の生理活性物質であり、特異的なアンジオテンシンII(ATII)受容体に結合することで、血管収縮、血圧上昇などの生理作用を果たすことができる。
【0003】
EP0253310に一連のイミダゾール誘導体が開示され、米国のデュポン社の研究により、番号DUP753の化合物は良好な血圧降下作用を持つことが見出され、そして、1994年に市販許可が得られ、それは、最初の非ペプチド系AngII受容体拮抗薬であるロサルタンカリウムとなった。ロサルタンカリウムは選択的に血管平滑筋におけるアンジオテンシンIIのタイプI受容体に対する作用を阻害して血管収縮を抑制することにより、血管を拡張させ、血圧降下の作用を果たす。
【0004】
ロサルタンカリウムの開発と市販に従い、各医薬研究機構や会社は次々とAngII受容体拮抗薬の構造学研究を行い始めた。US5196444に一連のベンズイミダゾール誘導体及びそれらの製造方法が開示され、これらの誘導体はアンジオテンシンII拮抗活性と抗高血圧活性を持つことから、高血圧の治療に用いられる。とりわけ、カンデサルタンは日本の武田社により開発され、1997年に市販されることになった。これは、生体内にて、エステル基が離脱し、その活性代謝物に加水分解され、血圧降下作用を発揮する。
【0005】
US5616599にロサルタンの構造と相似の一連の1−ビフェニルメチルイミダゾール誘導体が開示され、それらの構造上の最大の変化は、ロサルタンのイミダゾール環の4位の塩素原子が1−ヒドロキシ−1−メチルエチルに、その5位がカルボキシ基、ヒドロキシ基またはエステルもしくはアミドといったプロドラッグ構造に変換されたことである。それらは良好な血圧降下作用を持つことが実証され、日本の三共社によりオルメサルタンとして開発され、市販されることになった。
【0006】
PCT/CN2006001914に一連のイミダゾール−5−カルボン酸系誘導体が記述されている。イミダゾール環の5位がアシラール構造であることが、その構造上の特徴である。これらの化合物は動物生体内で良好な血圧降下活性を示す。他のAngII受容体拮抗薬と比べて、これらのイミダゾール−5−カルボン酸系誘導体は毒性がより低いという利点がある。
【0007】
しかし、これらのイミダゾール−5−カルボン酸誘導体の研究にて、それらが通常の溶媒に溶解しにくいという特徴を持つため、これらの化合物の水溶性を固体分散技術などの薬剤学的な方法で向上させる必要があり、製剤プロセスの複雑化を招くことがわかった。したがって、イミダゾール−5−カルボン酸系誘導体の新規形態を開発し、それらの溶解性の低下の問題を解決することで、通常の製剤プロセスに適合させ、より望ましい抗高血圧薬物を製造することが切望されている。
【発明の概要】
【発明の詳細な説明】
【0008】
[発明の内容]
本発明の目的は、溶解性が改善されたイミダゾール−5−カルボン酸系誘導体の塩ならびにその製造方法および使用を提供することにある。
【0009】
本発明の第一の側面は、一般式(I)で表される薬学的に許容される塩を提供する:
【化1】

【0010】
式中、
Rは、水素、C−Cの直鎖状もしくは分岐状のアルキル基またはC−Cのシクロアルキル基から選択され;
ここにおいて、前記アルキル基またはシクロアルキル基は、非置換のものであり、または、F、Cl、BrおよびOHから選択される1〜3の置換基で置換されたものであり;
Mは金属イオン又はアンモニウムイオンである。
【0011】
他の好ましい例において、RはC−Cの直鎖状又は分岐状のアルキル基から選ばれる。
【0012】
他の好ましい例において、Rはエチル基、イソプロピル基及びt−ブチル基から選ばれる。
【0013】
他の好ましい例において、Rはイソプロピル基である。
【0014】
他の好ましい例において、前記塩は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であり、好ましくはカリウム塩、ナトリウム塩又はカルシウム塩である。
【0015】
本発明の第二の側面は、以下の工程を含む、一般式(I)で表される薬学的に許容される塩を製造する方法を提供する:
(a)不活性有機溶媒中にて、式(II)の化合物を、金属イオン又はアンモニウムイオンを提供可能な試薬と反応させることにより、式(I)で表される塩を形成する工程;
【化2】

【0016】
式中、
Rは、水素、C−Cの直鎖状もしくは分岐状のアルキル基またはC−Cのシクロアルキル基から選択され、
ここにおいて、前記アルキル基またはシクロアルキル基は、非置換のものであり、または、F、Cl、BrおよびOHから選択される1〜3の置換基で置換されたものであり、
Mは金属イオンまたはアンモニウムイオンである。
【0017】
他の好ましい例は、さらに、以下の工程を含む:(b)反応混合物から式(I)で表される塩を分離する工程。
【0018】
工程(b)にて、反応液から直接に固体産物を得ること、または、反応液を減圧濃縮して固体産物の粗製品を取得し、有機溶媒で再結晶して目的産物を得ることがより好ましい。
【0019】
他の好ましい例において、前記金属イオンは、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンである。
【0020】
他の好ましい例において、前記金属イオンを提供可能な試薬は、トリメチルシラノール塩、2−エチルヘキサン酸塩、炭酸塩及び金属塩化物から選択される。
【0021】
本発明の第三の側面は、薬学的に許容される担体と、本発明に係る式(I)の塩とを含有する医薬組成物を提供する。
【0022】
本発明の第四の側面は、抗高血圧薬物の製造のための式(I)で表される塩の使用を提供する。
【0023】
本発明の第五の側面は、アンジオテンシンIIタイプI受容体を阻害することで軽減又は治療できる疾患の治療方法を提供し、当該方法は、治療が必要な患者に0.05−30mg/kg体重/日の式(I)の化合物の薬学的に許容される塩を投与する工程を含む。
【0024】
他の好ましい例において、前記塩はアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩である。
【0025】
他の好ましい例において、前記疾患は高血圧である。
【0026】
[具体的な実施形態]
本発明者らは幅広く深く検討した結果、イミダゾール−5−カルボン酸系誘導体の特定の塩類(特に、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩)の溶解性は非常に良いことを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0027】
[薬学的に許容される塩]
本文に用いられる「本発明の化合物」または「本発明の塩」は交換的に使用でき、いずれも式(II)の化合物から形成する式(I)で表される薬学的に許容される塩、特にアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を示す。具体的には、本発明の化合物は一般式(I)で表されるイミダゾール−5−カルボン酸系誘導体の薬学的に許容される塩である。
【化3】

【0028】
式中、Rは、水素、C−Cの直鎖状又は分岐状のアルキル基及びC−Cのシクロアルキル基から選択され、ここにおいて、前記アルキル基またはシクロアルキル基は、非置換のものであり、またはF、Cl、Br、OHから選ばれる1〜3個の置換基で置換されたものであり、
Mは金属イオン又はアンモニウムイオンである。
【0029】
他の好ましい例において、Rは、C−Cの直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましく、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基がより好ましい。
【0030】
本発明において、2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル(即ち、R=イソプロピル基)の薬学的に許容される塩の形態が最も好ましい。
【0031】
本発明において、薬学的に許容される塩の形態とは、相対的に無毒の塩を意味する。好ましくは、イミダゾール−5−カルボン酸系誘導体のカリウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩のようなアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であり、より好ましくはカリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩である。
【0032】
特に好ましくは、2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステルのカリウム塩、ナトリウム塩又はカルシウム塩である。
【0033】
[製造方法]
さらに、本発明は、一般式(1)で表されるイミダゾール−5−カルボン酸系誘導体を原料としてこれらの薬学的に許容される塩(特にアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩)を製造する方法であって、(a)不活性有機溶媒にて、式(I)の化合物を、金属イオンを提供可能な試薬と反応させることにより、式(I)で表される塩(例えば、アンモニウム塩、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩)を形成する工程を含む方法を提供する。
【化4】

【0034】
具体的な一例において、該当方法は以下を含む:
(i)有機溶媒にて、2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステルを、金属イオンを提供可能な試薬と反応させること、
(ii)反応液から直接的に固形産物を得ること、または、反応液を減圧濃縮して固形産物の粗製品を得ること、
(iii)有機溶媒で再結晶し、目的産物を得ること。
【0035】
本発明の方法に用いられる金属イオン(又はアンモニウムイオン)を提供可能な試薬は、有機酸塩、有機塩基類、無機塩基類、金属塩化物類などを含む。
【0036】
有機酸塩は、ドデシルリン酸塩、ヘキサデシルリン酸塩、酢酸塩、2−エチルヘキサン酸塩などを含み、例えば、ドデシルリン酸ナトリウム、ドデシルリン酸カリウム、ヘキサデシルリン酸ナトリウム、ヘキサデシルリン酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、2−エチルヘキサン酸ナトリウム、2−エチルヘキサン酸カリウムなどを含む。
【0037】
有機塩基類は、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムメタンチオラート、カリウムメタンチオラート、ナトリウムメチルシリコネート、カリウムメチルシリコネート、ナトリウムトリメチルシラノレート、カリウムトリメチルシラノレートなどを含む。
【0038】
無機塩基類は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素亜鉛、炭酸水素リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどを含む。
【0039】
金属塩化物は、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛などを含む。
【0040】
通常、前述の製造過程は温度制御反応であり、反応温度の選択は異なる塩形成反応に対して無視できない影響を与える。反応温度は通常0℃〜80℃、好ましくは0℃〜50℃である。
【0041】
反応終了後、本発明の化合物を通常の方法で分離または精製してよい。例えば、固形産物を直接に析出させてもよく、または溶液を減圧濃縮して固形産物を得てもよい。粗製品に対しては、例えば少量の酢酸エチルで洗浄後、有機溶媒で再結晶すれば、本発明に係る塩が得られる。
【0042】
[医薬組成物および投与方法]
本発明の化合物はヒトへの投与に適しており、経口、直腸内、非胃腸(静脈内、筋肉内又は皮下)、局所の投与ができる。前記化合物は単独で投与されてもよく、または他の薬学的に許容される化合物と併用されてもよい。なお、本発明の化合物は混合して投与されても良い。
【0043】
経口投与のための固形剤形はカプセル剤、錠剤、丸剤、散剤及び顆粒剤を含む。これらの固形剤形において、活性化合物は例えばクエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウムなどの一般の不活性賦形剤(又は担体)の少なくとも1種と混合され、或いは以下の成分と混合される:(a)例えば澱粉、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、ケイ酸などの充填剤又は相溶化剤;(b)例えばヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、アラビアゴムなどの結合剤;(c)例えばグリセリンなどの保湿剤;(d)例えば寒天、炭酸カルシウム、馬鈴薯澱粉又はタピオカ澱粉、アルギン酸、ある複合ケイ酸塩、炭酸ナトリウムなどの崩壊剤;(e)例えばパラフィンなどの徐溶化剤;(f)例えば四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤;(g)セチルアルコール、モノステアリン酸グリセリンなどの湿潤剤;(h)例えばカオリンなどの吸着剤;及び(i)例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ドデシル硫酸ナトリウム又はそれらの混合物などの潤滑剤。カプセル剤、錠剤、丸剤の剤形には、緩衝剤を含んでもよい。
【0044】
錠剤、糖衣丸、カプセル剤、丸剤、顆粒剤などの固体剤形は、腸溶コーティングまたは当業者に既知の材料といったコーティングまたはシェルを用いて製造することができる。これらは乳濁剤を含有してもよい。そして、当該組成物における活性化合物または化合物は徐放の方式で消化管内の一部で放出されてもよい。使用できる埋込成分の実例はポリマー物質とワックス物質である。必要に応じて、活性化合物は前記賦形剤のうちの1種又は多種とマイクロカプセルの形態を形成してもよい。
【0045】
経口投与に用いられる液状剤形は薬学的に許容されるエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ又はチンキ剤を含有する。活性化合物以外に、液状剤形は本分野で通常使用される水や他の溶媒、溶解補助剤、乳化剤などの不活性希釈剤を含有してもよい。例えば、エタノール、イソプロパノール、炭酸エチル、酢酸エチル、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ジメチルホルムアミド並びに油、特に綿実油、落花生油、トウモロコシ胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、ゴマ油又はこれらの混合物などがある。
【0046】
組成物はこれらの不活性希釈剤以外に、例えば湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、甘味剤、矯味剤、香料などの助剤を含有してもよい。
【0047】
懸濁液は活性化合物以外に、例えばエトキシ化イソオクタデカノール、ポリオキシエチレンソルビトール、ソルビタンエステル、微晶質セルロース、アルミニウムメトキシド、寒天又はこれらの混合物などの懸濁剤を含有してもよい。
【0048】
非胃腸注射に用いられる組成物は、生理的に許容される無菌の含水又は無水の溶液、分散液、懸濁液、エマルジョン、或いは再溶解して無菌の注射可能な溶液又は分散液になるための無菌粉末を含有してもよい。適切な含水又は非水性の担体、希釈剤、溶媒、賦形剤は、水、エタノール、ポリオール及びそれらの適切な混合物を含む。
【0049】
局所投与に用いられる本発明の化合物の剤形は、軟膏剤、散剤、貼付剤、スプレー剤及び吸入剤を含む。活性成分は無菌条件で、生理的に許容される担体及び任意の防腐剤、緩衝剤、或いは必要に応じて駆出剤と混合される。
【0050】
本発明の化合物は単独で投与されてもよく、または他の薬学的に許容される化合物と併用されてもよい。
【0051】
医薬組成物を使用するときには、安全有効量の本発明の化合物を治療が必要な哺乳動物(例えばヒト)に投与する。投与時の投与量は薬学的に有効な投与量であり、体重60kgのヒトにとって、一日の投与量は通常1〜1000mg、好ましくは20〜500mgである。もちろん、具体的な投与量については、投与経路、患者の健康状況などの要因を考えるべきである。これらは全て、熟練医師の技術の範囲に含まれる。
【0052】
本発明の主な利点は、以下の通りである:
(a)本発明の塩は、水、メタノールなどの通常の溶媒への溶解性が良好で、通常の製剤に適している;
(b)本発明の塩は、動物生体内で良好な生物学的利用能を持つことが判明している。
【0053】
よって、本発明の化合物は、優れた抗高血圧薬物として開発され、臨床応用に適している。
【0054】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いるもので、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例に特に具体的な条件を説明しない試験方法は通常の条件、或いはメーカー推奨の条件で行われる。特に説明しない限り、すべての部分および百分率は、重量部と重量百分率である。
【実施例】
【0055】
[実施例1]
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル(化合物1)
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸(US5138069に記載の方法で製造された)をトリフェニルクロロメタンと反応させ、2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1−トリフェニルメチル−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸を得た。100mlの一つ口フラスコに2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1−トリフェニルメチル−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸を0.523g、KCOを0.124g、N,N−ジメチルアセトアミドを5ml、順次添加し、室温で20分攪拌し、室温でイソプロポキシカルボン酸クロロメチル0.562gを添加し、45−50℃で16時間反応させた。反応終了後、ろ過し、ろ液に水30mlを加え、酢酸エチル30mlで2回抽出し、有機層を乾燥させ、濃縮後、油状物が1.724g得られた。精製せずに、そのまま以下の反応に用いた。
【0056】
さらに、ジオキサンを10ml、4mol/Lの塩酸溶液5mlを加え、室温で16時間反応させた。反応を終止させ、炭酸水素ナトリウム水溶液を入れ、反応液のpHを6−7に調節すると、懸濁した。酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、さらに乾燥、濃縮し、2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステルが0.436g得られた。
【0057】
1H-NMR: (CDCl3)
δH(ppm): 0.89(t, 3H, J=14.6), 1.24(d, 6H, J=6.3), 1.37(m, 2H, J=22.1), 1,69(m, 2H, J=30.5), 2.64(t, 2H, J=15.5), 4.81(m, 1H, J=12.4), 5.54(s, 2H), 5.86(s, 2H), 6.95-7.64(8H), 8.08(d, 1H, J=7.42)
ESI(+)m/z: 552.7
Mp: 134.5-136℃。
【0058】
[実施例2]
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,カリウム塩(化合物2)
【化5】

【0059】
100mlの三つ口フラスコに、2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル2.50g(4.52mmol)とテトラヒドロフラン(THF)25mlを入れ、攪拌し溶解させた後、15mlのTHFに溶解されたカリウムトリメチルシラノレート0.645g(4.52mmol、含有量90%、アルドリッチ社)を入れ、室温28℃で17時間反応させた。
【0060】
反応終了後、反応液に少量の白色綿状物があった。ろ過し、ろ液を減圧濃縮した後、白色の固形粗製品を得た。イソプロピルエテールとエタノール(3:1 v/v)の混合溶液で再結晶し、2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,カリウム塩が1.42g得られ、収率は53%であった。
【0061】
Mp: 189.5〜189.7℃
【表1】

【表2】

【0062】
[実施例3]
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,カリウム塩(化合物2)
【化6】

【0063】
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステルを2.0g(3.62mmol)取り、20mlのイソプロパノールに溶解させ、室温(25℃)で15%の2−エチルヘキサン酸カリウム4.83g(3.98mmol)をゆっくり加え、75℃まで昇温し、17時間反応させた。
【0064】
加熱を終止し、室温まで放冷し、48時間静置すると、少量の白色固体が析出した。ろ過し、白色の固体が0.51g得られ、収率は24%であった。精製されて、2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,カリウム塩が得られた。
【0065】
[実施例4]
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,カリウム塩(化合物2)
【化7】

【0066】
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル2.212g(4mmol)に、無水エタノール15mlを加え、さらに炭酸カリウム0.276g(2mmol)を加え、30℃まで昇温し、20時間反応させ、反応終了後、ろ過し、ろ液を乾燥になるまで減圧濃縮し、白色の固体を得、エタノール−イソプロピルエーテルで再結晶し、精製された産物である2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,カリウム塩が1.63g得られ、収率は69%であった。
【0067】
[実施例5]
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,ナトリウム塩(化合物3)
【化8】

【0068】
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステルを2.5g(4.53mmol)取り、室温の環境で、金属ナトリウムにて乾燥させた無水テトラヒドロフラン(THF)15mlに溶解し、1.0Mのナトリウムトリメチルシラノレートの塩化メチレン溶液4.6mlを加え、25℃で24時間反応させた。さらに、反応液を体積が1/2になるまで濃縮し、48時間静置すると、白色の固体が析出した。ろ過後、産物の粗製品が0.923g得られ、収率は35.5%であった。エタノール−イソプロピルエーテルで再結晶して、2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,ナトリウム塩が0.563g得られた。
【0069】
Mp:93.0〜96.8℃
【表3】

【表4】

【0070】
[実施例6]
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,ナトリウム塩(化合物3)
【化9】

【0071】
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル2.212g(4mmol)に、無水メタノール15mlを加え、さらに炭酸ナトリウム0.212g(2mmol)を加え、40℃まで昇温し、20時間反応させ、反応終了後、ろ過し、ろ液を減圧濃縮して乾燥させ、白色の固体を得、エタノール−イソプロピルエーテルで再結晶し、精製された産物である2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,ナトリウム塩が1.40g得られ、収率は61%であった。
【0072】
[実施例7]
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,カルシウム塩(化合物4)
【化10】

【0073】
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル2.212g(4mmol)に、無水メタノール15mlを加え、さらに水酸化カルシウム0.148g(2mmol)を加え、30℃まで昇温し、20時間反応させ、反応終了後、ろ過し、ろ液を減圧濃縮して乾燥させ、白色の固体を得、アセトン−イソプロピルエーテルで再結晶し、精製された産物である2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,カルシウム塩が1.77g得られ、収率は77.1%であった。
【0074】
Mp:156.2〜156.7℃
【表5】

【表6】

【0075】
[実施例8]
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,カルシウム塩(化合物4)
【化11】

【0076】
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル2.212g(4mmol)に、無水メタノール25mlを加え、さらに無水塩化カルシウム0.222g(2mmol)とピリジン0.36g(4.5mmol)を加え、30℃まで昇温し、17時間反応させ、反応終了後、ろ過し、ろ液を減圧濃縮して乾燥させ、白色の固体を得、エタノール−イソプロピルエーテルで再結晶し、精製された産物である2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,カルシウム塩が1.01g得られ、収率は44.0%であった。
【0077】
[実施例9]
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,カルシウム塩(化合物4)
【化12】

【0078】
2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,カリウム塩591mg(1mmol)を水5mlに溶解させ、室温でCaCl水溶液(122mgを水2mlに溶解させた)をゆっくり加えると、白色の懸濁が生じた。添加終了後、2時間攪拌し、減圧濃縮して乾燥させ、白色の固体を得、エタノール−イソプロピルエーテルで再結晶し、白色の産物である2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸,1−[(イソプロポキシ)カルボニルオキシ]メチルエステル,カルシウム塩が257mg得られ、収率は45%であった。
【0079】
[実施例10 溶解性試験]
上記の通り製造した各化合物を秤量し、所定の容量の溶媒に入れ、5分間ごとに30秒間激しく振盪し、30分間内の溶解状況を観察した。溶解性は以下の通り記述される:
易溶: 化合物1gは1ml〜10mlの溶媒に溶解できる、
溶解: 化合物1gは10ml〜30mlの溶媒に溶解できる、
少量溶解: 化合物1gは30ml〜100mlの溶媒に溶解できる、
微量溶解: 化合物1gは100ml〜1000mlの溶媒に溶解できる。
【表7】

【0080】
[実施例11 化合物の生体における代謝変換]
各化合物を20mg/kgの投与量で経口で胃に灌入することで、SDラットに投与した。投与後、異なる時点で眼窩採血し、前処理した後、HPLC法で血漿における親化合物の量を分析した。その結果、血液においては親化合物を検出できなかったが、2−ブチル−4−クロロ−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)1,1’−ビフェニル−メチル]イミダゾール−5−カルボン酸(EXP3174と略称する)の薬物血中濃度が次第に増大した。構造の特徴から、各化合物は生体内で迅速にEXP3174に変換することが推定された。したがって、EXP3174を化合物の生体内における吸収の指標とする。
【0081】
[実施例12 SDラットでの薬物吸収試験]
ラットの静脈内投与:健康なSDラットに、EXP3174を7.9mg/kgの投与量でラットの尾静脈より注射投与し(投与容積は10ml/kg)、投与前と投与後の異なる時点で眼窩静脈叢から採血し、単離して血漿とした。液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析法を用いて血漿におけるEXP3174の濃度を測定し、薬物濃度−時間曲線からEXP3174の薬物動態パラメータを算出した。
【0082】
ラットの胃灌入投与:健康なSDラットのそれぞれに、前述のEXP3174と同様のモル投与量で各化合物を投与し、投与後の異なる時点で採血し、単離して血漿とした。液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析法を用いて血漿における化合物の活性代謝物であるEXP3174の濃度を測定し、薬物濃度−時間曲線から代謝物であるEXP3174の薬物動態パラメータを算出した。
【0083】
ラットでの動物試験により得られた化合物のTmax、生物学的利用能は以下の通りであった。
【表8】

【0084】
[実施例13 医薬組成物]
化合物2 23g
澱粉 140g
微晶質セルロース 67g
上記の物質を通常の方法で均一に混合後、通常のゼラチンカプセルに充填し、1000個のカプセルを得た。
【0085】
同様の方法で化合物3および4のカプセルをそれぞれ製造した。
【0086】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、この分野の技術者が本発明を各種の改変または修正をすることができるが、それらの等価の様態のものは本発明の請求の範囲に含まれると理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表される薬学的に許容される塩:
【化1】

式中、
Rは、水素、C−Cの直鎖状もしくは分岐状のアルキル基またはC−Cのシクロアルキル基から選択され;
ここにおいて、前記アルキル基またはシクロアルキル基は、非置換のものであり、または、F、Cl、BrおよびOHから選択される1〜3の置換基で置換されたものであり;
Mは金属イオン又はアンモニウムイオンである。
【請求項2】
Rが、C−Cの直鎖状もしくは分岐状のアルキル基から選択されることを特徴とする請求項1に記載の塩。
【請求項3】
Rが、エチル基、イソプロピル基およびt−ブチル基からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の塩。
【請求項4】
Rが、イソプロピル基であることを特徴とする請求項1に記載の塩。
【請求項5】
前記塩が、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項4に記載の塩。
【請求項6】
前記塩が、カリウム塩、ナトリウム塩またはカルシウム塩であることを特徴とする請求項5に記載の塩。
【請求項7】
以下の工程を含む、一般式(I)で表される薬学的に許容される塩を製造する方法:
(a)不活性有機溶媒中にて、式(II)の化合物を、金属イオン又はアンモニウムイオンを提供可能な試薬と反応させることにより、式(I)で表される塩を形成する工程;
【化2】

式中、
Rは、水素、C−Cの直鎖状もしくは分岐状のアルキル基またはC−Cのシクロアルキル基から選択され、
ここにおいて、前記アルキル基またはシクロアルキル基は、非置換のものであり、または、F、Cl、BrおよびOHから選択される1〜3の置換基で置換されたものであり、
Mは金属イオンまたはアンモニウムイオンである。
【請求項8】
(b)反応混合物から式(I)で表される塩を分離する工程を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
薬学的に許容される担体と請求項1に記載の塩とを含む医薬組成物。
【請求項10】
抗高血圧薬物の製造のための請求項1に記載の塩の使用。

【公表番号】特表2010−511636(P2010−511636A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539584(P2009−539584)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【国際出願番号】PCT/CN2006/003301
【国際公開番号】WO2008/067687
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(508252745)上海艾力斯医薬科技有限公司 (7)
【Fターム(参考)】