説明

イメージセンサによるデータ取得方法

【課題】CMOSチップを用いて直接荷電粒子を計数する場合、リセットノイズと一定のパターンノイズを除去するCDS処理を行う場合に、撮像速度を向上させる。
【解決手段】多数の読み出し後にのみ画素をリセットする。多数の画像後にリセットすることにより、又は、前記画像の1画素が所定の値(たとえばフルウエルキャパシティの0.8倍)よりも大きな値を示すとき、1つの信号の取得後にリセットを用いる従来技術に係る方法と比較して、撮像速度は略2倍となりうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イメージセンサによるデータ取得方法に関する。当該イメージセンサは多数の画素を有する。当該イメージセンサは、リセットを用いて前記画素を所定の状態にする。当該方法は、画素の電圧をリセットする工程、1回目に前記画素の第1読み取り値として前記画素の電圧を読み取る工程、2回目に前記画素の第2読み取り値として各画素の電圧を読み取る工程、及び、前記画素の第1読み取り値と第2読み取り値との差異を決定する工程を有する。
【背景技術】
【0002】
上記方法は、相関二重サンプリング(CDS)として知られ、かつ、たとえば特許文献1に記載されている。上記方法は、CMOSセンサにおける固定パターンノイズ(FPN)及びリセットノイズ(RN)を減少させるのに用いられる。
【0003】
CMOSセンサにおいては、フォトダイオードの形態をとる多数の感光性素子−画素とも呼ばれる−がアレイ状に配置されている。これらの画素の各々は、アナログ−デジタル変換器(ADC)と選択的に接続してよい。画素にかかる電圧はデジタル化される。画素にかかる電圧は、放射線−たとえば光−が衝突する結果生じるものである。CMOS検出器には通常、多数のADCが備えられている。各ADCは一群の画素に割り当てられている。
【0004】
リセット後の画素にかかる電圧はリセット毎に変化する。リセット後の画素にかかる電圧を測定して、その後積分時間後にその電圧を読み取ることによって、リセットノイズのない信号は、前記測定及び読み取りから得られた2つの値同士を減ずることによって決定されうる。
【0005】
すべての画素の信号を決定することによって、フレームが読み取られる。一度にすべての画素(全フレーム)の読み取りに要する時間の逆数は、フレーム速度とも呼ばれる。
【0006】
前記CDS法の欠点は、各像について、センサすべての画素が二度読み取られる必要があることである。このため、センサが読み取り可能な最大フレーム速度は制限される。またCDSを導入することで、フレーム速度は実効的に半分となる。
【0007】
イメージセンサを用いて直接粒子−たとえば電子−を検出するときには、単一粒子検出が好ましい。またX線が用いられるときには、X線光子のエネルギーを決定し、かつ、たとえば1つの高エネルギー光子から2つの低エネルギー光子を区別する単一イベント検出が好ましい。単一粒子又はX線光子が検出器に衝突する事象の発生は、1つの画素又は隣接する画素からなる1つの群での信号によって決定される。センサの読み取り速度は、一の読み取りから次の読み取りまでの間に、2つの粒子又は光子が一の画素によって検出される可能性が無視できるほどに十分速くなければならない。その理由は、衝突する粒子によって生成される信号が変化することで、たとえば1つの粒子と2つの粒子との差異又は3つの粒子と4つの粒子との差異が、信頼性を有するように決定できないためである。一の衝突する電子から生成される信号の変化については、たとえば非特許文献1参照のこと。
【0008】
高フレーム速度での読み取りが可能であると同時に、他の基準の性能についてはCDSを用いたセンサと同一であるセンサが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6969879号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M. Battaglia他、Nuclear Instruments and Methods in PhysicsResearch Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and AssociatedEquipment (2009), 第605巻、第3号、pp.350-35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、CDSを用いたときよりも速いフレーム速度で性能の損失を起こすことなく標準的なイメージセンサを動作させる方法を供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的のため、本発明による方法は以下を特徴とする。
− 当該方法は、3回目に前記画素の第3読み取り値として前記画素の電圧を読み取る後続の工程を有する。
− 前記2回目に前記画素の電圧を読み取る工程と前記3回目に前記画素の電圧を読み取る後続の工程との間では、リセットが起こらない。
− 当該方法は、前記第3読み取り値から前記第2読み取り値を減ずることによって第2信号を決定する工程を有する。
【0013】
本発明は、オーバーフローする前のウエルのキャパシティ(1つの画素中に蓄積可能な電荷又は信号又は電圧の大きさ)−所謂フルウエルキャパシティ−が、一の衝突する粒子から発生する電荷の何倍も大きいという知見に基づいている。典型的には、フルウエルキャパシティは、少なくとも10の入射粒子に対応する。最初に画素をリセットし、続いてN(=1…Nmax)回目の前記画素の読み取りを行い、かつ、N番目の値から(N-1)番目の値を減ずることによって、読み取り周期毎に前記信号を決定することによって、リセットを発生させる必要性が減少する。
【0014】
M枚の像が読み取られるとき、従来技術に係るCDS法は2*Mの読み取り周期を利用する。他方本発明による方法が用いられるときには、(M+1)回の読み取り周期しか必要とされない。よってこの結果、読み取り速度は顕著に改善される。
【0015】
当該方法は、標準的な未調節のセンサで実行されうるので、本発明は特に価値がある。
【0016】
好適実施例では、本発明は、粒子−特に中性子、陽子、電子、及び/又はX線−の検出に用いられる。
【0017】
前記粒子は一般的に、光を検出するときの光子束と比較して低い粒子束で検出される。多数のイベントが一の画素で起こる可能性は通常無視できる。また前述したように、粒子計数は通常好ましい。よって従来技術に係る方法よりも高いフレーム速度を供する本発明による方法は、従来技術に係る方法よりも適している。
【0018】
当該方法はまた、光を検出ときに用いられてもよいことに留意して欲しい。ただし高速読み取りを要求する一方で、ウエルのオーバーフローを起こさないようにすること、又は、光子計数を用いることは、現実的ではない。しかしもし将来本発明が光子計数について好適となるとすれば、本発明による方法は有利となりうる。
【0019】
係る粒子を検出するとき、2つの連続して取得されるデータの差異は、衝突する粒子が生じさせる最小に匹敵しうる。よって信号は、一画素あたりの衝突する粒子数として表されてよい。当業者に知られているように、粒子計数の結果、アナログ処理よりも良好な信号対雑音比が実現される。
【0020】
好適実施例では、粒子は、隣接する画素からなる群の信号(変化)から検出される。
【0021】
当業者に知られているように、一の粒子−たとえば電子−は、複数の隣接する画素において信号を発生させる(たとえば非特許文献1を参照のこと)。そのような場合、イベントの発生及びそのイベントの発生位置は、複数の隣接する画素(たとえば4×4の画素からなる群)の信号から導かれうる。
【0022】
一の実施例では、最後のリセットから所定回数の(像の)読み取り後、又は、最後のフレームを構成する一連の読み取りのうちの少なくとも1つの画素が、所定の値(典型的にはフルウエル値に近い値−たとえばフルウエル値の0.8倍−)よりも大きな値を有することを検出した後、CMOSセンサはリセットされる。
【0023】
他の実施例では、画素がフルウエル値に接近するとき、その画素は一度で1にリセットされる。しかしこのことは、従来技術に係るセンサに対するセンサの再設計を含む可能性が高い。
【0024】
当該方法はまた、CCDを読み取るときにも用いられてよい。当業者に知られているように、CCDセンサでは、複数の画素からなる列は、クロック信号をトリガとして、画素の電荷が一の画素から他の画素へシフトするように接続されている。その結果、複数の画素からなる列の電荷は、直列的にその列の最後の画素(出力ノード)にまでシフトしてよい。出力ノードは最初にリセットされる。その後画素列を構成する画素のうちの1つからの電荷がノードへシフトする。その後電荷増幅器は、出力ノードの電荷に比例する出力信号を出力する。CCD用にCDSを用いるということは、リセット後に残った電荷が決定され、かつ、シフト後に、出力ノードが画素の電荷を含むときに測定された電圧から、リセット中に測定された電圧を減ずることによって、信号が決定されることを意味する。減算は、(たとえばキャパシタ上に電荷を蓄電することによる)アナログ値の減算又はデジタル化後の値の減算によって行われてもよい。リセットを省略することによって、早く利得を得ることが可能となる。
【0025】
本発明の態様では、放射線を検出するカメラは、イメージセンサ、並びに、該イメージセンサの読み取り及びリセットを制御する制御装置を有する。前記制御装置は、本発明による方法を実行するようにプログラムされていることを特徴とする。
【0026】
前記センサの動作−リセット及び読み取り周期を含む−は典型的には、(前記センサのシリコンを共有する)オンチップ又は(一部を共有する)オフチップの制御装置によって制御される。よって前記制御装置が前記周期を実行する方法は、プログラム可能なメモリ−たとえばEEPROM−の内容に基づいてよい。その場合、既存のセンサは、本発明による方法を実行するように更新されてよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】画素上の電圧を概略的に表している。
【図2】本発明による方法のフローチャートを概略的に表している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、画素上での電圧101を概略的に表している。時間T0では、画素はリセットされ、かつ、画素上での電圧は電圧102に対応する。この電圧は0[V]である必要はなく、0[V]よりも実質的に高くてよい−たとえば値103−ことに留意して欲しい。一部のノイズは、通常のノイズ寄与により信号101に重ね合わさられることに留意して欲しい。しかしこのノイズは、1つの入射粒子に対応する所定の値104よりも小さい。T1の時点では、2つの連続する読み取りは、互いに少なくとも値104だけ異なることが検出されるので、イベント(入射粒子)が検出される。同様に、そのようなイベントは、T2、T3、T4、及びT5でも検出される。T5では、信号が所定レベル105以上の値に到達することが検出される。このことは、画素がフルウエルキャパシティに近づいていることを示唆している。従って、リセットが生成され、その結果新たなリセット値106となる。この値は過去のリセットレベル103と等しい必要はなく、わずかに異なってもよいことに留意して欲しい。
【0029】
また他のリセット基準が用いられてもよいことに留意して欲しい。他のリセット基準とはたとえば、読み取り若しくは読み取られたフレームの数、又は、アレイの一画素が所定の値(フルウエル値)以上の値を有することを認識することである。
【0030】
上述の例では、フルウエル(より正確には所定レベル)は、わずか4つのイベント後に実現されるが、典型的にはフルウエルキャパシティは11イベント以上で、かつ、所定レベルは、8〜10のイベントに対応するように選ばれることに留意して欲しい。
【0031】
図2は本発明による方法のフローチャートを概略的に表している。
【0032】
工程202では、当該方法は(すべての)画素のリセットで開始される。
【0033】
工程204では、1回目の画素の電圧の読み取りが行われる。その結果、画素の電圧V0が得られる。
【0034】
工程206では、2回目の画素の電圧の読み取りが行われる。その結果、画素の電圧V1が得られる。
【0035】
工程208では、画素の信号S1が、V1からV0を減ずることによって決定される。
【0036】
工程210では、(複数の)画素が再度読み取られる。その結果、電圧V2が得られる。
【0037】
工程212では、信号S1が、V2からV1を減ずることによって決定される。
【0038】
工程214では、絶縁基準−たとえば最後のリセットから所定の読み取り数が行われたか否か−が試される。他の基準−たとえばアレイ中の1つの画素が所定の値(フルウエル値に近い値−たとえば0.8*フルウエルキャパシティ)以上の値に到達するか否か−が、画素のアレイ全体をリセットする基準として用いられてよい。あるいはその代わりに画素は、所定の値に到達したときに、画素毎にリセットされてもよい(画素が独立してリセット可能な場合にのみ適用可能である)。
【0039】
従来技術に係る方法は工程208から工程202へ跳ぶことに留意して欲しい。センサのフレーム速度がN[フレーム/秒]である場合、従来技術に係る方法はN/2[像/秒]の撮像速度を実現する一方で、本発明による方法は、たとえば10フレームのうち一定数のフレーム後にリセットするというリセット基準を用いる−(1-1/10)×N=0.9×N[像/秒]を用いるとすると、2倍の速さとなり、フレーム速度自体の速度と同程度の速さとなる−ことで依然として、センサ(チップ)上でCDSを用いる従来技術に係る方法の性能を供する。
【0040】
上述したことは、本発明が、電子を検出する直接検出型の電子センサ−たとえばCMOSチップ−を有する既存装置でも実装可能であることを意味する。そのようなセンサはたとえば電子顕微鏡−より具体的には透過型電子顕微鏡(TEM)−において用いられることが知られている。本発明は、既存のカメラ/装置を更新するための保護を明示的に必要とする。
【符号の説明】
【0041】
101 画素上での電圧
102 所定の信号レベル
103 電圧値
104 電圧値
105 電圧値
106 リセット電圧値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の画素を有し、リセットを用いて前記画素を所定の状態にするイメージセンサによるデータ取得方法であって、
画素の電圧をリセットする工程、
1回目に前記画素の第1読み取り値として前記画素の電圧を読み取る工程、
2回目に前記画素の第2読み取り値として各画素の電圧を読み取る工程、
前記画素の第1読み取り値と第2読み取り値との差異を決定する工程、
3回目に前記画素の第3読み取り値として前記画素の電圧を読み取る工程であって、前記2回目に前記画素の電圧を読み取る工程と前記3回目に前記画素の電圧を読み取る後続の工程との間ではリセットが起こらない、工程、及び、
前記第3読み取り値から前記第2読み取り値を減ずることによって第2信号を決定する工程、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記3回目に前記画素の第3読み取り値として前記画素の電圧を読み取る工程後、前記画素は、リセットが起こる前に複数回読み取られ、
複数の信号が、読み取り値の取得、及び、前記読み取り値から過去の読み取り値を減ずることを対のように実行することで決定される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記センサが、電子、中性子、陽電子、及びX線からなる群から粒子を検出する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記信号が、1つ以上の画素の信号と所定の閾値とを比較することによって、粒子の検出として表され、
前記所定の閾値は、単一の検出された粒子が生じさせる最小の信号に相当する、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
複数の隣接する画素の信号は、前記所定の値と比較されるために用いられる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記センサはCMOSセンサで、かつ
各画素は、所定数の読み取り又は像の取得後にリセットされる、
請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記センサはCMOSセンサで、かつ
前記リセットの生成は、最後の像を表す一連の読み取りにおいて、少なくとも1つの画素が、所定の値よりも大きな読み取り値を有するときに起こる、
請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記センサはCMOSセンサで、かつ
各画素についての前記リセットの生成は、前記画素が、所定の値よりも大きな読み取り値を有するときに各独立に起こる、
請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記センサはCMOSセンサで、かつ
リセットされる画素は、一連の画素の出力ノードである、
請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
放射線を検出するカメラであって、イメージセンサ、並びに、該イメージセンサの読み取り及びリセットを制御する制御装置を有し、
前記制御装置は、請求項1,2,4,5,6,7,8,9のうちのいずれか1項に記載の方法を実行するようにプログラムされていることを特徴とする、
カメラ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−85241(P2013−85241A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221489(P2012−221489)
【出願日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(501233536)エフ イー アイ カンパニ (87)
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
【住所又は居所原語表記】7451 NW Evergreen Parkway, Hillsboro, OR 97124−5830 USA
【Fターム(参考)】