説明

インクジェットインクとそれを用いた印刷方法

【課題】顔料の分散性に優れ、画質の良好な画像や文字を印刷できる、水性のインクジェットインクを提供する。
【解決手段】第1のインクジェットインクは、顔料と、水と、界面活性剤と、非プロトン性極性有機溶媒としてのN−エチル−2−ピロリドンとを配合した。第2のインクジェットインクは、顔料と、水と、界面活性剤と、非プロトン性極性有機溶媒と、式(1):


で表される有機溶媒とを配合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性のインクジェットインクと、それを用いた印刷方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水性のインクジェットインクを用いたインクジェット印刷方法においては、上質紙等の通常の紙類や、あるいは、典型的に高いインク吸収性を有するように設計された専用紙等の、高い吸水性を有する媒体に印刷するのが一般的であった。これに対して、オフセット印刷用として適したオフセットコート媒体は、基材の表面を、疎水性で、かつ平滑な、非多孔質のコーティングによって被覆しているため、従来の、水性のインクジェットインクを用いた印刷には適していなかった。
【0003】
すなわち、オフセットコート媒体のコーティングは、水性のインクジェットインクを吸収しないため、印刷したインクジェットインクが、前記コーティングの表面ではじかれたり滲んだりして、エッジがシャープで鮮明な、画質の良好な画像や文字を印刷することができなかった。また、印刷したインクジェットインクが乾燥しにくい上、乾燥しても、コーティングの表面に、顔料が十分に定着されないため、こすると、印刷が簡単に滲んでしまうという問題もあった。そこで、水性のインクジェットインクを用いて、インクジェット印刷方法によって、オフセットコート媒体の、疎水性のコーティングの表面に、良好な印刷をするための、新たな技術開発が求められている。
【0004】
疎水性のコーティングの表面に、良好な印刷をするために、まず考えられるのは、水性のインクジェットインクの、コーティングに対する親和性を向上することである。そのため、例えば特許文献1、2では、界面活性剤の種類を検討したり、水と相溶性を有すると共に、疎水性のコーティングに対する親和性を有するグリコールエーテルや湿潤剤等を配合したりすることが提案されている。しかし、インクジェットインクの分野において、既知の成分である、前記界面活性剤やグリコールエーテル、湿潤剤、バインダ樹脂等について検討しただけでは、その効果に限界があり、オフセットコート媒体の、疎水性のコーティングの表面に、現状よりもさらに画質の良好な画像や文字を印刷するのは難しいのが現状である。
【0005】
疎水性のコーティングの表面に、良好な印刷をするためには、水と良好な相溶性を有すると共に、前記コーティングに対して、良好な浸透性を有する有機溶媒を、水と併用することも有効であると考えられている。そこで、特許文献3においては、前記有機溶媒として、非プロトン性極性有機溶媒を用いることが提案されている。同様の効果を有する有機溶媒としては、例えば、アルコール等のプロトン性極性有機溶媒が一般的であるが、プロトン性極性有機溶媒は、水性のインクジェットインクに多量に含有させると、界面活性剤の機能を阻害して、顔料の分散性を低下させるという問題がある。そして、顔料が凝集等を生じて、均一に分散されなくなる結果、インクジェットヘッドのノズルでの目詰まり等を生じるおそれがある。
【0006】
これに対し、非プロトン性極性有機溶媒は、コーティングに対する浸透性を向上する目的で、水性のインクジェットインクに多量に含有させても、界面活性剤の機能を阻害しにくい特性を有していることから、顔料を、凝集等を生じさせることなく、均一に分散させて、インクジェットヘッドのノズルでの目詰まり等を防止することができる。しかも、特許文献3において例示された従来の非プロトン性極性有機溶媒は、いずれも、オフセットコート媒体に通常に使用されるコーティングに対して、良好な浸透性を有するため、インクジェットインク中に含まれる顔料を、前記コーティングに対して、強固に定着させることができる。
【特許文献1】特開2003−206426号公報(特許請求の範囲、第0009欄〜第0010欄)
【特許文献2】特表2004−510028号公報(特許請求の範囲、第0012欄)
【特許文献3】特開2003−268279号公報(特許請求の範囲、第0009欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献3において例示された従来の非プロトン性極性有機溶媒を含む、水性のインクジェットインクは、乾燥しにくいため、印刷したインクジェットインクを短時間で乾燥させて、印刷速度を高めることができないという問題がある。また、オフセットコート媒体へのインクジェット印刷においては、印刷したインクジェットインクを短時間で乾燥させるために、印刷後のオフセットコート媒体を加熱することがあるが、特許文献3に例示の従来の非プロトン性極性有機溶媒を含む、水性のインクジェットインクは、短時間で乾燥させるために、通常よりも高温での加熱や、長時間の加熱が必要となるため、乾燥に要する消費エネルギーが増大するという問題も生じる。
【0008】
本発明の目的は、顔料の分散性に優れ、乾燥しやすく、かつ、オフセットコート媒体の、疎水性のコーティングの表面に、前記顔料を、強固に定着できる上、画質の良好な画像や文字を印刷できる、水性のインクジェットインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、発明者は、水性のインクジェットインクに加える有機溶媒について、さらに検討した結果、
(i) 非プロトン性極性有機溶媒としてN−エチル−2−ピロリドンを用いるか、または、
(ii) 非プロトン性極性有機溶媒と、式(1):
【化1】

〔式中、Ra〜Rdは同一または異なって炭素数1〜3の炭化水素基を示す。nは2〜3の数を示す。〕
で表される有機溶媒とを併用すると、
前記インクジェットインクを、先に説明した非プロトン性極性有機溶媒の持つ優れた特性を維持しながら、なおかつ、従来に比べて、より乾燥しやすくできることを見出した。したがって、請求項1に記載の発明は、顔料と、水と、界面活性剤と、非プロトン性極性有機溶媒としてのN−エチル−2−ピロリドンとを含むことを特徴とするインクジェットインクである。
【0010】
前記N−エチル−2−ピロリドンは、その沸点こそ、特許文献3に例示された従来の非プロトン性極性有機溶媒等と殆ど変わらないものの、前記従来の非プロトン性極性有機溶媒にはない、水性のインクジェットインクを乾燥させやすくする機能を有している。そのため、非プトロン性極性有機溶媒としてN−エチル−2−ピロリドンを使用することによって、印刷したインクジェットインクを短時間で乾燥させて、画質の良好な画像や文字を印刷することができる。
【0011】
また、加熱する場合には、低温かつ短時間で、十分に乾燥させることができるため、消費エネルギーの増大を抑制することができる。しかも、N−エチル−2−ピロリドンは、従来の非プロトン性極性有機溶媒が持つ優れた特性を全て備えている。すなわち、N−エチル−2−ピロリドンは、オフセットコート媒体に通常に使用されるコーティングに対して良好な浸透性を有しているため、水性のインクジェットインク中に含まれる顔料を、前記コーティングに対して、強固に定着させることができる。
【0012】
また、N−エチル−2−ピロリドンは、コーティングに対する浸透性を向上させる目的で、水性のインクジェットインクに多量に含有させても、界面活性剤の機能を阻害しにくい特性を有していることから、顔料を、凝集等を生じさせることなく、均一に分散させて、インクジェットヘッドのノズルでの目詰まり等を防止することもできる。そのため、請求項1に記載の発明によれば、非プロトン性極性有機溶媒としてN−エチル−2−ピロリドンを使用したことによって、顔料の分散性に優れ、乾燥しやすく、かつ、オフセットコート媒体の、疎水性のコーティングの表面に、前記顔料を、強固に定着できる上、画質の良好な画像や文字を印刷できる、水性のインクジェットインクを提供することが可能となる。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、顔料と、水と、界面活性剤と、非プロトン性極性有機溶媒と、式(1):
【化2】

〔式中、Ra〜Rdは同一または異なって炭素数1〜3の炭化水素基を示す。nは2〜3の数を示す。〕
で表される有機溶媒とを含むことを特徴とするインクジェットインクである。
【0014】
前記式(1)で表される有機溶媒は、非プロトン性極性有機溶媒と水との混合溶媒に相溶する上、水性のインクジェットインクを乾燥させやすくする機能を有している。そのため、印刷したインクジェットインクを短時間で乾燥させて、画質の良好な画像や文字を印刷することができる。また、加熱する場合には、低温かつ短時間で、十分に乾燥させることができるため、消費エネルギーの増大を抑制することもできる。
【0015】
また、式(1)で表される有機溶媒は、先に説明したように、非プロトン性極性有機溶媒と水との混合溶媒に相溶する上、非プロトン性極性有機溶媒と同様に、界面活性剤の機能を阻害しにくい特性を有しているため、顔料を、凝集等を生じさせることなく、均一に分散させて、インクジェットヘッドのノズルでの目詰まり等を防止することもできる。しかも、式(1)で表される有機溶媒は、先に説明した、非プロトン性極性有機溶媒の優れた特性を、いずれも阻害することながない。そのため、式(1)で表される有機溶媒と併用された非プロトン性極性有機溶媒は、オフセットコート媒体に通常に使用されるコーティングに対して良好な浸透性を発揮して、水性のインクジェットインク中に含まれる顔料を、前記コーティングに対して強固に定着させることができる。
【0016】
また、非プロトン性極性有機溶媒は、コーティングに対する浸透性を向上させる目的で、水性のインクジェットインクに多量に含有させても、界面活性剤の機能を阻害しにくい特性を有していることから、顔料を、凝集等を生じさせることなく、均一に分散させて、インクジェットヘッドのノズルでの目詰まり等を防止することもできる。したがって、請求項2に記載の発明によれば、式(1)で表される有機溶媒と、非プロトン性極性有機溶媒とを併用したことによって、顔料の分散性に優れ、乾燥しやすく、かつ、オフセットコート媒体の、疎水性のコーティングの表面に、前記顔料を、強固に定着できる上、画質の良好な画像や文字を印刷できる、水性のインクジェットインクを提供することが可能となる。
【0017】
なお、式(1)で表される有機溶媒と併用する非プロトン性極性有機溶媒としては、先に説明したN−エチル−2−ピロリドンが好ましい。式(1)で表される有機溶媒と、非プロトン性極性有機溶媒としてのN−エチル−2−ピロリドンとを併用すると、両有機溶媒の持つ、水性のインクジェットインクを乾燥させやすくする機能の相乗効果によって、前記インクジェットインクを、より一層、乾燥しやすくすることができる。したがって、請求項3に記載の発明は、非プロトン性極性有機溶媒がN−エチル−2−ピロリドンであることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットインクである。
【0018】
前記両者を併用したインクジェットインクは、請求項4に記載したように、N−エチル−2−ピロリドンPと、式(1)で表される有機溶媒Aとを、重量比P/A=1.2〜7.0の割合で含有しているのが好ましい。前記範囲より、N−エチル−2−ピロリドンの含有割合が少ない場合には、前記N−エチル−2−ピロリドンによる、水性のインクジェットインク中に含まれる顔料を、コーティングに対して強固に定着させる機能が、十分に得られないおそれがある。また、前記範囲より、式(1)で表される有機溶媒Aの含有割合が少ない場合には、前記有機溶媒を加えることによる、水性のインクジェットインクを乾燥させやすくする効果が十分に得られないおそれがある。
【0019】
なお、前記(i)(ii)のいずれの有機溶媒を含むインクジェットインクにおいても、界面活性剤としては、請求項5に記載したように、式(2):
【化3】

〔式中、R1はメチル基または水素原子、Xは、エチレンオキシド基とプロピレンオキシド基とを、それぞれ1つ以上含むポリアルキレンオキシド鎖を含む基を示す。〕
で表される繰り返し単位と、式(3):
【化4】

〔式中、R2はメチル基または水素原子、Yは、少なくともパーフルオロアルキル基を含む基を示す。〕
で表される繰り返し単位とを少なくとも含む、水に可溶性の共重合体からなるフッ素系界面活性剤を用いるのが好ましい。
【0020】
前記共重合体からなるフッ素系界面活性剤は、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの主鎖に、側鎖として、親水性であるエチレンオキシド基を含む基Xと、疎水性で、かつ疎油性であるパーフルオロアルキル基を含む基Yとを、多数、結合した構造を有しているため、分子中のエチレンオキシド基によって水への可溶性を維持しながら、水性のインクジェットインク中で、高い界面活性を発現することができ、オフセットコート媒体の、疎水性のコーティングの表面に対する、前記インクジェットインクの濡れ性を向上する効果に優れている。また、前記フッ素系界面活性剤は、起泡性が低いことから、インクジェットインクの泡かみを生じにくくすることができ、インクジェットインクを、インクジェットプリンタのノズルから吐出させる際の吐出安定性を、さらに向上することもできる。
【0021】
なお、前記本発明のインクジェットインクを用いて、オフセットコート媒体の、疎水性のコーティングの表面に印刷する場合は、請求項6に記載したように、印刷後の疎水性媒体を加熱してインクジェットインクを乾燥させるのが好ましい。印刷後に加熱することで、非プロトン性極性有機溶媒を、前記コーティングに浸透させて、顔料を、前記表面に強固に定着させることができる。また、加熱により、非プロトン性極性有機溶媒の浸透と、式(1)で表される有機溶媒、および水の蒸発とを促進することで、インクジェットインクの乾燥時間を短縮させて、紙等の、通常の媒体の表面に印刷する場合と略同等の印刷速度でもって、疎水性媒体に印刷することもできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、顔料の分散性に優れ、乾燥しやすく、かつ、オフセットコート媒体の、疎水性のコーティングの表面に、前記顔料を、強固に定着できる上、画質の良好な画像や文字を印刷できる、水性のインクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
《インクジェットインク》
本発明のインクジェットインクは、先に説明したように、
(I) 顔料と、水と、界面活性剤と、非プロトン性極性有機溶媒としてのN−エチル−2−ピロリドンとを含むか、または、
(II) 顔料と、水と、界面活性剤と、非プロトン性極性有機溶媒と、式(1):
【化5】

〔式中、Ra〜Rdは同一または異なって炭素数1〜3の炭化水素基を示す。nは2〜3の数を示す。〕
で表される有機溶媒とを含む
ことを特徴とするものである。
【0024】
〈非プロトン性極性有機溶媒〉
前記(I)のインクジェットインクにおいては、非プロトン性極性有機溶媒としてN−エチル−2−ピロリドンが使用されるが、(II)のインクジェットインクにおいては、前記N−エチル−2−ピロリドンを含む、水素イオンを生じたり受け取ったりしない、種々の非プロトン性極性有機溶媒が、いずれも使用可能である。中でも、分子量が40〜130、特に40〜115である非プロトン性極性有機溶媒が好ましい。非プロトン性極性有機溶媒の分子量が前記範囲未満では、インクジェットインクが乾燥しやすくなり過ぎて、インクジェットヘッドのノズルでの目詰まりを生じやすくなるおそれがある。また、前記範囲を超える場合には、式(1)で表される有機溶媒を併用しているにも拘らず、インクジェットインクが乾燥しにくくなるおそれがある。
【0025】
また、非プロトン性極性有機溶媒としては、沸点が150〜250℃であるものが好ましい。非プロトン性極性有機溶媒の沸点が前記範囲未満では、インクジェットインクが乾燥しやすくなり過ぎて、インクジェットヘッドのノズルでの目詰まりを生じやすくなるおそれがある。また、前記範囲を超える場合には、式(1)で表される有機溶媒を併用しているにも拘らず、インクジェットインクが乾燥しにくくなるおそれがある。
【0026】
前記条件を満たす好適な非プロトン性極性有機溶媒としては、例えば、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン〔分子量:114.2、沸点:225.5℃〕、N−メチル−2−ピロリドン〔分子量:99.1、沸点:202℃〕、N−エチル−2−ピロリドン〔分子量:113.2、沸点:212℃〕、2−ピロリドン〔分子量:85.1、沸点:245℃〕、ホルムアミド〔分子量:45.0、沸点:210℃〕、N−メチルホルムアミド〔分子量:59.1、沸点:197℃〕、N,N−ジメチルホルムアミド〔分子量:73.1、沸点:153℃〕、N,N−ジエチルプロピオンアミド〔分子量:129.2、沸点:195℃〕、およびγ−ブチロラクトン〔分子量:86.1、沸点:204℃〕からなる群より選ばれた少なくとも1種があげられる。中でも、水性のインクジェットインクを乾燥させやすくする機能の点で、N−エチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0027】
〈式(1)で表される有機溶媒〉
(II)のインクジェットインクにおいて、非プロトン性極性有機溶媒と併用される、式(1)で表される有機溶媒としては、前記式(1)中のRa〜Rdがいずれもメチル基で、かつnが2である1,1,2,2−テトラメトキシエタンや、Ra〜Rdがいずれもメチル基で、かつnが3である1,1,3,3−テトラメトキシプロパンが挙げられる。中でも、インクジェットインクの安定性や吐出安定性を向上することを考慮すると、親水性であるため、非プロトン性極性有機溶媒と水との混合溶媒に対して、非常に相溶性に優れた1,1,2,2−テトラメトキシエタンが好ましい。
【0028】
(II)のインクジェットインクは、N−エチル−2−ピロリドンPと、式(1)で表される有機溶媒Aとを、重量比P/A=1.2〜7.0、特に1.2〜6.5の割合で含有しているのが好ましい。前記範囲よりN−エチル−2−ピロリドンの含有割合が少ない場合には、前記N−エチル−2−ピロリドンによる、水性のインクジェットインク中に含まれる顔料を、コーティングに対して強固に定着させる機能が、十分に得られないおそれがある。また、前記範囲より式(1)で表される有機溶媒Aの含有割合が少ない場合には、前記有機溶媒を加えることによる、水性のインクジェットインクを乾燥させやすくする効果が十分に得られないおそれがある。
【0029】
また、(II)のインクジェットインクにおける、前記両有機溶媒の、合計の含有割合は、前記インクジェットインクの総量の40〜75重量%、特に45〜70重量%であるのが好ましい。両有機溶媒の合計の含有割合が、前記範囲未満では、先に説明した両有機溶媒の、それぞれの機能が、いずれも十分に得られないおそれがあり、前記範囲を超える場合には、インクジェットインクの粘度が上昇して、吐出安定性が低下するおそれがある。一方、(I)のインクジェットインクにおける、N−エチル−2−ピロリドンの含有割合は、前記インクジェットインクの総量の40〜75重量%、特に45〜70重量%であるのが好ましい。含有割合が前記範囲未満では、先に説明した、N−エチル−2−ピロリドンの機能が十分に得られないおそれがあり、前記範囲を超える場合には、インクジェットインクの粘度が上昇して、吐出安定性が低下するおそれがある。
【0030】
〈界面活性剤〉
(I)(II)のインクジェットインクに含有させる界面活性剤としては、従来公知の種々の界面活性剤が使用可能であるが、特に、式(2):
【化6】

〔式中、R1はメチル基または水素原子、Xは、エチレンオキシド基とプロピレンオキシド基とを、それぞれ1つ以上含むポリアルキレンオキシド鎖を含む基を示す。〕
で表される繰り返し単位と、式(3):
【化7】

〔式中、R2はメチル基または水素原子、Yは、少なくともパーフルオロアルキル基を含む基を示す。〕
で表される繰り返し単位とを少なくとも含む、水に可溶性の共重合体からなるフッ素系界面活性剤が、好適に使用される。
【0031】
前記共重合体からなるフッ素系界面活性剤は、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの主鎖に、側鎖として、親水性であるエチレンオキシド基を含む基Xと、疎水性で、かつ疎油性であるパーフルオロアルキル基を含む基Yとを、多数、結合した構造を有しているため、分子中のエチレンオキシド基によって水への可溶性を維持しながら、水性のインクジェットインク中で、高い界面活性を発現することができ、オフセットコート媒体の、疎水性のコーティングの表面に対する、インクジェットインクの濡れ性を向上する効果に優れている。また、前記フッ素系界面活性剤は起泡性が低いことから、インクジェットインクの泡かみを生じにくくすることができ、インクジェットインクを、インクジェットプリンタのノズルから吐出させる際の吐出安定性を、さらに向上することもできる。
【0032】
なお、水に可溶性の状態とは、本明細書では、前記フッ素系界面活性剤が、25℃の水に1重量%以上の濃度で溶解することを指すこととする。前記フッ素系界面活性剤は、オフセットコート媒体の、疎水性のコーティングの表面に対する、インクジェットインクの濡れ性を、できるだけ向上することを考慮すると、水の表面張力を低下させる機能に優れていることが好ましく、特に0.2重量%濃度の水溶液とした際の表面張力(測定温度25℃)が22mN/m以下、特に17mN/m以下であるのが好ましい。また、表面張力の下限は、特に限定されないが、10mN/m以上とすることにより、吐出しないときに、インクジェットプリンタのノズルから、インクが垂れるのを防ぐことができる。
【0033】
フッ素系界面活性剤は、重量平均分子量Mw=500〜100,000、特にMw=500〜20,000であるのが好ましい。重量平均分子量Mwが、前記範囲未満では、先に説明した、側鎖としての基Xや基Yの数が少なくなるため、インクジェットインク中で、高い界面活性を発現させる効果が十分に得られないおそれがある。また、前記範囲を超える場合には、水に対する可溶性が低下するおそれがある。これに対し、重量平均分子量Mwが、前記範囲内であれば、水に対する可溶性を維持しながら、インクジェットインク中で、高い界面活性を発現させることができる。
【0034】
また、フッ素系界面活性剤は、フッ素の含有割合が5〜30重量%の化合物であるのが好ましい。フッ素の含有割合が前記範囲未満では、フッ素系界面活性剤による、オフセットコート媒体の、疎水性のコーティングの表面に対する、インクジェットインクの濡れ性を向上する効果が不十分になるおそれがあり、逆に、前記範囲を超える場合には、フッ素系界面活性剤の、インクジェットインクに対する相溶性が低下するおそれがある。フッ素系界面活性剤は、例えば、その主鎖である、所定の鎖長を有するポリ(メタ)アクリル酸を合成し、前記ポリ(メタ)アクリル酸の、側鎖のカルボニル基を改質して合成することができる。また、式(2)の繰り返し単位のもとになる(メタ)アクリル酸化合物と、式(3)の繰り返し単位のもとになる(メタ)アクリル酸化合物とを共重合させて合成することもできる。フッ素系界面活性剤としては、例えば、下記の共重合体が挙げられる。
【0035】
(フッ素系界面活性剤1)
式(2)で表される繰り返し単位中の基R1がメチル基、基Xが、式(4):
【化8】

〔式中、R3は炭素数14、16または18のアルキル基、R4はエチレンオキシド基とプロピレンオキシド基とを、それぞれ1つ以上含むポリアルキレンオキシド鎖を示す。〕
で表される基とされた、式(5):
【化9】

で表される繰り返し単位と、式(3)で表される繰り返し単位中の基R2がメチル基、基Yが、式(6):
5−O− (6)
〔式中、R5は炭素数3〜20のパーフルオロアルキル基である。〕
で表される基とされた、式(7):
【化10】

で表される繰り返し単位との共重合体。
【0036】
前記共重合体の具体例としては、例えば、セイミケミカル(株)製のサーフロン(登録商標)S−381が挙げられる。サーフロンS−381は、前記共重合体を、有効成分として、70重量%の割合で、酢酸エチルに溶解した、淡黄色粘調液体〔比重(20℃):1.11〕の状態で提供される。サーフロンS−381の有効成分である共重合体の、重量平均分子量Mwは500〜20,000、フッ素の含有割合は5〜30重量%である。また、前記共重合体を、純水に溶解した、0.2重量%濃度の水溶液の表面張力(測定温度25℃)は、15.2mN/mである。なお、表面張力は、KRUSS(クラス)社製の自動表面張力計K10STを用いて、プレート法の原理に基づいて測定した値でもって表すこととする。
【0037】
(フッ素系界面活性剤2)
式(2)で表される繰り返し単位中の基R1が水素原子、基Xが、式(8):
【化11】

〔式中、m、pおよびqは、同一または異なって1以上の整数を示す。〕
で表される基とされた、式(9):
【化12】

で表される繰り返し単位と、式(3)で表される繰り返し単位中の基R2が水素原子、基Yが、式(10):
【化13】

〔式中、R6は炭素数1以上のアルキル基を示す。〕
で表される基とされた、式(11):
【化14】

で表される繰り返し単位との共重合体。
【0038】
前記共重合体の具体例としては、例えば、(株)ジェムコ製のエフトップEF−802、EF−352が挙げられる。このうち、エフトップEF−802は、前記共重合体を、有効成分として、99重量%の割合で、酢酸エチルに溶解した、黄色液体〔比重(20℃):1.22〕の状態で提供される。前記共重合体を、純水に溶解した、0.2重量%濃度の水溶液の表面張力(測定温度25℃)は、21.7mN/mである。また、エフトップEF−352は、前記共重合体を、有効成分として、95重量%の割合で、酢酸エチルに溶解した、淡黄色液体〔比重(20℃):1.22〕の状態で提供される。前記共重合体を、純水に溶解した、0.2重量%濃度の水溶液の表面張力(測定温度25℃)は、25.0mN/mである。
【0039】
フッ素系界面活性剤としては、前記のうちフッ素系界面活性剤1が、より好適に使用される。フッ素系界面活性剤1は、先に説明したように、式(2)で表される繰り返し単位中の基Xの全体が、末端の、炭素数の大きいアルキル基R3と、基R4中のプロピレンオキシド基との作用によって親油性基とされた、式(4)で表される繰り返し単位と、式(3)で表される繰り返し単位中の基Yが、疎水性、疎油性であるパーフルオロアルキル基R5を主体とするR5−O−基とされた、式(5)で表される繰り返し単位との共重合体からなり、基本的に、油溶性界面活性剤として機能する構造を有している上、前記基R4中のエチレンオキシド基の作用によって、親水性と、共重合体全体としての、水への可溶性とを確保した構造を有している。
【0040】
そのため、前記フッ素系界面活性剤1は、先に説明した親水性、疎水性、および疎油性に加えて、さらに、親油性をも有していることになり、インクジェットインク中で、さらに高い界面活性を発現させることができる。フッ素系界面活性剤の配合量は、(I)のインクジェットインクの場合、N−エチル−2−ピロリドンと水との総量Sに対する、また(II)のインクジェットインクの場合は、非プロトン性極性有機溶媒と、式(1)で表される有機溶媒と、水との総量Sに対する、フッ素系界面活性剤Fの配合割合S/F(重量比)で表してS/F=45/1〜90/1、特にS/F=50/1〜85/1であるのが好ましい。フッ素系界面活性剤の含有割合が、前記範囲未満では、前記フッ素系界面活性剤による、オフセットコート媒体の、疎水性のコーティングの表面に対する、インクジェットインクの濡れ性を向上する効果が不十分になるおそれがあり、逆に、前記範囲を超える場合には、インクジェットインクが泡かみしやすくなって、インクジェットプリンタのノズルから吐出させる際の吐出安定性が低下するおそれがある。
【0041】
〈顔料〉
顔料としては、水性のインクジェットインクに通常に使用される任意の無機顔料および/または有機顔料を用いることができる。顔料は、インクジェットインクの色目に応じて、1種または2種以上を用いることができる。顔料の含有割合は、インクジェットインクの総量に対して0.1〜30重量%であるのが好ましい。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄等の金属化合物や、あるいはコンタクト法、ファーネスト法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラック等の1種または2種以上が挙げられる。また有機顔料としては、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、またはキレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ベリレン顔料、ベリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、またはキノフタロン顔料等)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等の1種または2種以上が挙げられる。
【0042】
顔料の具体例としては、イエロー顔料としてC.I.ピグメントイエロー74、109、110、138、マゼンタ顔料としてC.I.ピグメントレッド122、202、209、シアン顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3、60、ブラック顔料としてC.I.ピグメントブラック7、オレンジ顔料としてC.I.ピグメントオレンジ36、43、グリーン顔料としてC.I.ピグメントグリーン7、36等が挙げられる。顔料は、親水性を付与して、水性のインクジェットインク中での分散安定性を向上するために、表面を改質して親水性基を導入しておくのが好ましい。改質により、顔料の表面に導入する親水性基としてはカルボキシル基、スルホン基等が挙げられる。また、顔料は、水に分散させた顔料分散液の状態で、インクジェットインクの製造に用いるのが好ましい。本発明のインクジェットインクには、前記各成分に加えて、さらに、バインダ樹脂その他の成分を含有させることもできる。
【0043】
本発明のインクジェットインクには、次に述べる有機酸のエチレンオキシド付加物その他の成分を含有させることもできる。
〈有機酸のエチレンオキシド付加物〉
インクジェットインクに、有機酸塩のエチレンオキシド付加物を含有させると、特に、サーマルジェット(登録商標)方式のインクジェットプリンタにおいて、インクジェットインクの吐出安定性を向上することができる。その理由は明らかではないが、サーマルジェット方式のインクジェットプリンタにおいて、インクジェットインクが瞬時に高温(およそ400℃程度)に加熱された際に、有機酸塩のエチレンオキシド付加物が、顔料の表面に吸着しようと働きかけて、顔料の分散の安定性が破壊されるのを防止し、分散の安定に寄与するためと考えられる。有機酸塩のエチレンオキシド付加物としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、D−リンゴ酸、L−リンゴ酸等の、種々のモノ〜トリカルボン酸の、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、もしくはアンモニウム塩に、エチレンオキシドを付加させた化合物が挙げられる。
【0044】
特に、インクジェットインクの吐出安定性を向上する効果の点では、式(12):
【化15】

〔式中、M1、M2、およびM3は同一または異なってナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、アンモニウム基、または水素を示す。ただしM1、M2、およびM3は同時に水素でない。rは1〜28の数を示す。〕
で表される、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等のクエン酸のアルカリ金属塩のエチレンオキシド付加物、およびクエン酸アンモニウムのエチレンオキシド付加物からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。式中のrが28を超える化合物は、インクジェットインクの粘度を上昇させたり、水溶性が低下してインクジェットインク中に析出したりして、前記インクジェットインクの吐出安定性を低下させるおそれがある。前記化合物の含有割合は、インクジェットインクの総量に対して0.1〜5.0重量%、特に0.3〜3.0重量%であるのが好ましい。含有割合が、前記範囲未満では、前記化合物を含有させたことによる、先に説明した、インクジェットインクの吐出安定性を向上する効果が不十分になるおそれがある。また前記範囲を超える場合には、ノズル等で目詰まりを生じるおそれがある。
【0045】
〈ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル〉
インクジェットインクに、式(13):
【化16】

〔式中、sは3〜28の数を示す。〕
で表されるポリオキシエチレンフェニルエーテル、および式(14):
【化17】

〔式中、R7は炭素数8〜10のアルキル基、tは3〜28の数を示す。〕
で表されるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有させると、先に説明した有機酸塩のエチレンオキシド付加物の機能を補助する働きをして、インクジェットインクの吐出安定性を、さらに向上することができる。
【0046】
このうち、式(13)で表されるポリオキシエチレンフェニルエーテルにおいて、式中のsが3〜28であるのが好ましいのは、sが前記範囲を外れる化合物は、有機酸塩のエチレンオキシド付加物の機能を補助する効果が不十分になるおそれがあるためである。また、特にsが28を超える化合物は、インクジェットインクの粘度を上昇させたり、水溶性が低下してインクジェットインク中に析出したりして、前記インクジェットインクの吐出安定性を低下させるおそれもある。式(13)のポリオキシエチレンフェニルエーテルの具体例としては、sが6である、式(15):
【化18】

で表される化合物が挙げられる。
【0047】
また、式(14)で表されるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルにおいて、式中のtが3〜28で、かつR7のアルキル基の炭素数が8〜10であるのが好ましいのは、tが前記範囲を外れる化合物や、R7のアルキル基の炭素数が前記範囲を外れる化合物はいずれも、有機酸塩のエチレンオキシド付加物の機能を補助する効果が不十分になるおそれがあるためである。また、特にtが28を超える化合物や、R7のアルキル基の炭素数が10を超える化合物は、インクジェットインクの粘度を上昇させたり、水溶性が低下してインクジェットインク中に析出したりして、前記インクジェットインクの吐出安定性を低下させるおそれもある。式(14)のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの具体例としては、tが25でR7のアルキル基の炭素数が8である、式(16):
【化19】

で表される化合物が挙げられる。なお、式(14)の化合物には、R7のアルキル基が、フェニル基上の、ポリオキシエチレン基からみてo位、m位およびp位に結合した3種の化合物があるが、本発明では、いずれの化合物を用いることもできる。また、前記3種の化合物のうち、2種以上の混合物を用いることもできる。
【0048】
式(13)のポリオキシエチレンフェニルエーテルおよび/または式(14)のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの含有割合は、インクジェットインクの総量に対して0.1〜7.0重量%、特に0.5〜6.0重量%であるのが好ましい。含有割合が、前記範囲未満では、これらの化合物を含有させたことによる、先に説明した、インクジェットインクの吐出を安定させる効果を補助する補助効果が、不十分になるおそれがある。また前記範囲を超える場合には、ヘッド内で目詰まりを生じるおそれがある。なお含有割合は、式(13)(14)の化合物をいずれか単独で使用する場合は、前記化合物単独での含有割合であり、2種以上を併用する場合は、併用する化合物の合計の含有割合である。式(13)(14)の化合物は、それぞれ、補助効果のメカニズムが異なっていると考えられるため、両者を併用するのが好ましい。特に、式(15)の化合物と、式(16)の化合物との併用系が、補助効果の点で好ましい。
【0049】
〈アセチレングリコール類、グリコールエーテル類〉
インクジェットインクに、アセチレングリコール類および/またはグリコールエーテル類を含有させると、これらの化合物は、式(13)のポリオキシエチレンフェニルエーテルおよび/または式(14)のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの補助効果を、さらに補完する補完効果を有するため、インクジェットインクの吐出安定性を、さらに向上することができる。アセチレングリコール類としては、エアープロダクツ社製のサーフィノール(登録商標)104およびそのシリーズ品、同サーフィノール420、440、465、485、同ダイノール604、日信化学工業(株)製のオルフィン(登録商標)E4001、4036、4051などの1種または2種以上が挙げられる。アセチレングリコール類の含有割合は、インクジェットインクの総量に対して0.01〜5.0重量%、特に0.05〜3.0重量%であるのが好ましい。含有割合が、前記範囲未満では、前記化合物を含有させたことによる、先に説明した補完効果が不十分になるおそれがある。また、前記範囲を超える場合には、印刷の耐水性が低下するおそれがある。
【0050】
また、フッ素系界面活性剤に、式(17):
【化20】

〔式中、uおよびvは、それぞれ別個に、0〜40の数を示す。ただし、u、vは同時に0でなく、u+vは1〜40の数を示す。〕
で表されるアセチレングリコール類を組み合わせると、先に説明した補完効果に加えて、インクジェットインクの、特に、グロス調のUV媒体に対する濡れ性を改善する効果を得ることもできる。式(17)で表されるアセチレングリコール類としては、前記例示の各種化合物のうち、エアープロダクツ社製のサーフィノール420〔式(17)中のu、vの数が異なる複数成分の混合物からなり、u+vの平均値が1.3〕、440〔式(17)中のu、vの数が異なる複数成分の混合物からなり、u+vの平均値が3.5〕、465〔式(17)中のu、vの数が異なる複数成分の混合物からなり、u+vの平均値が10〕、485〔式(17)中のu、vの数が異なる複数成分の混合物からなり、u+vの平均値が30〕が挙げられる。
【0051】
一方、グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル等の1種または2種以上が挙げられる。グリコールエーテル類の含有割合は、インクジェットインクの総量に対して0.5〜10.0重量%、特に2.0〜7.0重量%であるのが好ましい。含有割合が、前記範囲未満では、前記化合物を含有させたことによる、先に説明した補完効果が不十分になるおそれがある。また、前記範囲を超える場合には、前記化合物が不揮発性の液体であるため、インクジェットインクが乾燥しにくくなるおそれがある。またインクジェットインクの保存安定性が低下するおそれもある。
【0052】
〈バインダ樹脂〉
インクジェットインクにバインダ樹脂を含有させると、前記バインダ樹脂が、オフセットコート媒体の、疎水性のコーティングの表面と、顔料とのバインダとして機能するため、印刷の耐水性や耐擦過性、印刷の鮮明性等を向上することができる。特に、バインダ樹脂として、本質的に水には不溶で、かつ塩基性物質を溶解させたアルカリ水溶液に、選択的に可溶であるバインダ樹脂を使用すると、印刷の耐水性を、さらに向上することができる。アルカリ可溶性のバインダ樹脂としては、例えば、分子中にカルボキシル基を有しており、そのままでは水に不溶であるが、アンモニア、有機アミン、苛性アルカリ等の塩基性物質を溶解させたアルカリ水溶液に加えると、カルボキシル基の部分が塩基性物質と反応することで、水溶性の塩を生成して溶解する樹脂が好ましい。
【0053】
前記アルカリ可溶性のバインダ樹脂の例としては、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体等のアクリル樹脂;スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体等のスチレン−アクリル酸樹脂;マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、スチレン−マレイン酸共重合樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂等のうち、前記特性を有するように分子量、酸価等を調整した樹脂、特に、高酸価樹脂の1種または2種以上が挙げられる。
【0054】
アルカリ可溶性のバインダ樹脂は、印刷の耐水性、耐擦過性等を向上することを考慮すると、重量平均分子量Mwが1,000以上であるのが好ましい。ただし分子量が大きすぎると、インクジェットインクの粘度が上昇して、吐出が不安定になるおそれがある。また、インクジェットインクを貯蔵した際にも、沈殿や析出等を生じやすくなるおそれがある。したがって、バインダ樹脂の重量平均分子量Mwは、前記範囲内でも30,000以下であるのが好ましい。インクジェットプリンタは、通常、不使用時に、インクジェットヘッドをホームポジションに戻した際に、キャップをして、前記インクジェットヘッドのノズルを閉じる機構を備えていることが多い。しかし、インクジェットヘッドをホームポジションに戻す操作を手動で行う設定になっているものがあり、そのようなインクジェットプリンタにおいて、インクジェットヘッドをホームポジションに戻し忘れて、ノズルがキャップされない状態でしばらくの間、放置されると、ノズル内のインクジェットインクが粘度上昇して、印刷を再開した初期の段階で、かすれ等の印刷不良を生じることが多い。
【0055】
そのため、インクジェットヘッドをホームポジションに戻す操作を手動で行うタイプのインクジェットプリンタに使用するインクジェットインクにおいては、かすれ等の印刷不良を確実に防止するために、バインダ樹脂として、重量平均分子量Mwが1,000〜3,000、特に1,000〜2,000であるものを使用するのが好ましい。重量平均分子量Mwが前記範囲内に設定されたバインダ樹脂を含むインクジェットインクは、ノズルがキャップされない状態でしばらくの間、放置されても、急激に粘度上昇することがないため、印刷を再開した初期の段階で、かすれ等の印刷不良を生じることがない。なお、重量平均分子量Mwが1,000〜3,000であるバインダ樹脂を、水性のインクジェットインクに使用して、一般の紙等に印刷すると、若干、印刷の耐水性、耐擦過性が低下する傾向がある。しかし、非プロトン性極性有機溶媒を含み、前記非プロトン性極性有機溶媒によって、オフセットコート媒体のコーティングを若干、溶かしながら、コーティング中に浸透させて印刷されるインクジェットインクにおいては、重量平均分子量Mwが1,000〜3,000であるバインダ樹脂を使用しても、印刷の耐水性、耐擦過性を、実用上、問題のない程度まで、十分に向上させることができる。
【0056】
アルカリ可溶性のバインダ樹脂としては、アルカリ可溶性のアクリル樹脂が好ましい。また、アルカリ可溶性のアクリル樹脂で、かつ重量平均分子量Mwが1,000〜3,000であるものの具体例としては、例えば、ジョンソンポリマー(株)製のジョンクリル(登録商標)682(重量平均分子量Mw:1,700)等が挙げられる。また、それ以外の、アルカリ可溶性のアクリル樹脂の具体例としては、例えばアビシア(株)製のネオクリル(登録商標)B−817(重量平均分子量Mw:23,000)、ネオクリルB−890(重量平均分子量Mw:12,500)、ジョンソンポリマー(株)製のジョンクリル67(重量平均分子量Mw:12,500)、ジョンクリル586(重量平均分子量Mw:4,600)等が挙げられる。バインダ樹脂の含有割合は、その重量平均分子量Mwの範囲に拘らず、いずれのバインダ樹脂においても、インクジェットインクの総量に対して0.1〜3.0重量%、特に0.5〜2.0重量%であるのが好ましい。
【0057】
〈塩基性物質〉
塩基性物質は、インクジェットインクをアルカリ性にして、先に説明したように、アルカリ可溶性のバインダ樹脂を溶解させるとともに、インクジェットヘッドの金属部分等の腐食を防止し、なおかつ、顔料の分散安定性を維持するために含有される。塩基性物質としては、アンモニア、有機アミン、苛性アルカリ等挙げられ、特に有機アミンが好ましい。有機アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチルモノエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、モノ−1−プロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールおよびこれらの誘導体等の1種または2種以上が挙げられる。塩基性物質の含有割合は、バインダ樹脂の遊離脂肪酸含有量を示す酸価や、あるいはインクジェットインクの、塩基性物質を添加しない状態でのpHなどに応じて適宜、調整できるが、一般的には、バインダ樹脂1重量部あたり0.05〜2重量部、特に0.075〜1.5重量部であるのが好ましい。
【0058】
〈その他の添加剤等〉
本発明のインクジェットインクには、従来公知の種々の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、防かび剤、殺生剤等が挙げられる。また、本発明のインクジェットインクには、先に説明した2種の有機溶媒の機能を阻害しない範囲で、他の水溶性の有機溶媒を含有させることもできる。前記他の有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等のアルコールが挙げられる。前記各成分を含む、本発明のインクジェットインクは、例えば、サーマルジェット(登録商標)方式、バブルジェット(登録商標)方式、ピエゾ方式等の、いわゆるオンデマンド型のインクジェットプリンタに使用できる他、インクを循環させながらインクの液滴を形成して印刷を行う、いわゆるコンティニュアス型のインクジェットプリンタにも使用することができる。
【0059】
《印刷方法》
本発明の印刷方法は、疎水性媒体上に、前記本発明のインクジェットインクを用いて、インクジェット印刷法によって印刷する工程と、印刷後の疎水性媒体を加熱する工程とを含むことを特徴とするものである。印刷工程においては、先に説明した各種方式の、オンデマンド型のインクジェットプリンタや、コンティニュアス型のインクジェットプリンタ等を使用して、通常どおりの条件で印刷すればよい。加熱工程においては、例えば、前記インクジェットプリンタの、被印刷物の出口に連続させてヒータを配置する等して、所定の温度で所定時間、加熱できるようにすればよい。加熱温度や加熱時間等の条件は、特に、限定されないが、加熱時間は10秒以下、好ましくは0.1〜5秒程度に設定するのが、印刷に要する時間を長引かせず、乾燥に要する消費エネルギーを増大させないために有効である。
【実施例】
【0060】
〈実施例1〉
顔料としては、シアン顔料分散液〔キャボット(CABOT)社製のCABOJET250C、C.I.ピグメントブルー15:3のスルホン基改質物、水分散液、固形分:10重量%〕を用い、非プロトン性極性有機溶媒としては、N−エチル−2−ピロリドン〔分子量:113.2、沸点:212℃〕を用いた。フッ素系界面活性剤としては、前出の、セイミケミカル(株)製のサーフロンS−381〔有効成分量:70重量%、表面張力(測定温度25℃):15.2mN/m〕を用い、有機酸のエチレンオキシド付加物としては、式(12)中のrが6で、かつM1〜M3がいずれもナトリウムである、クエン酸ナトリウムのエチレンオキシド付加物を用いた。
【0061】
バインダ樹脂としては、アルカリ可溶性のアクリル樹脂〔ジョンソンポリマー(株)製のジョンクリル682、重量平均分子量Mw=1,700〕を用い、これを、インクジェットインク中に溶解させるための塩基性物質としては、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールを用いた。ポリオキシエチレンフェニルエーテルとしては、式(15)で表される化合物を用い、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、式(16)で表される化合物を用いた。さらに、アセチレングリコール類としては、エアープロダクツ社製のサーフィノール420〔式(17)中のu、vの数が異なる複数成分の混合物からなり、u+vの平均値が1.3〕を用い、殺生剤としては、ゼネカ社製のプロキセル(登録商標)XL−2を用いた。そして、前記各成分を、イオン交換水と共に、下記の割合で配合し、かく拌して混合した後、5μmのメンブランフィルタを用いてろ過してインクジェットインクを製造した。
【0062】
(成 分) (重量部)
シアン顔料分散液 30.0
N−エチル−2−ピロリドン 48.5
フッ素系界面活性剤 2.0
バインダ樹脂 1.0
2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール 0.3
クエン酸ナトリウムのエチレンオキシド付加物 0.5
65O(CH2CH2O)6H 0.5
81764O(CH2CH2O)25H 0.5
エタノール 3.0
アセチレングリコール類 0.8
殺生剤 0.2
イオン交換水 12.7
【0063】
〈実施例2〉
顔料としては、シアン顔料分散液〔キャボット(CABOT)社製のCABOJET250C、C.I.ピグメントブルー15:3のスルホン基改質物、水分散液、固形分10重量%〕を用い、非プロトン性極性有機溶媒としては、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン〔分子量:114.2、沸点:225.5℃〕を用い、式(1)で表される有機溶媒としては、前記式(1)中のRa〜Rdがいずれもメチル基で、かつnが2である1,1,2,2−テトラメトキシエタンを用いた。フッ素系界面活性剤としては、前出の、セイミケミカル(株)製のサーフロンS−381〔有効成分量:70重量%、0.2重量%濃度の水溶液の表面張力(測定温度25℃):15.2mN/m〕を用い、有機酸のエチレンオキシド付加物としては、式(12)中のrが6で、かつM1〜M3がいずれもナトリウムである、クエン酸ナトリウムのエチレンオキシド付加物を用いた。
【0064】
バインダ樹脂としては、アルカリ可溶性のアクリル樹脂〔ジョンソンポリマー(株)製のジョンクリル682、重量平均分子量Mw=1,700〕を用い、これを、インクジェットインク中に溶解させるための塩基性物質としては、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールを用いた。ポリオキシエチレンフェニルエーテルとしては、式(15)で表される化合物を用い、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、式(16)で表される化合物を用いた。さらに、アセチレングリコール類としては、エアープロダクツ社製のサーフィノール420〔式(17)中のu、vの数が異なる複数成分の混合物からなり、u+vの平均値が1.3〕を用い、殺生剤としては、ゼネカ社製のプロキセル(登録商標)XL−2を用いた。そして、前記各成分を、イオン交換水と共に、下記の割合で配合し、かく拌して混合した後、5μmのメンブランフィルタを用いてろ過してインクジェットインクを製造した。
【0065】
(成 分) (重量部)
シアン顔料分散液 30.0
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン 33.5
1,1,2,2−テトラメトキシエタン 15.0
フッ素系界面活性剤 2.0
バインダ樹脂 1.0
2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール 0.3
クエン酸ナトリウムのエチレンオキシド付加物 0.5
65O(CH2CH2O)6H 0.5
81764O(CH2CH2O)25H 0.5
エタノール 3.0
アセチレングリコール類 0.8
殺生剤 0.2
イオン交換水 12.7
【0066】
〈実施例3〉
非プロトン性極性有機溶媒として、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンに代えて、同量のN−エチル−2−ピロリドン〔分子量:113.2、沸点:212℃〕を用いたこと以外は、実施例2と同様にしてインクジェットインクを製造した。N−エチル−2−ピロリドンPと、式(1)で表される有機溶媒としての1,1,2,2−テトラメトキシエタンAとの重量比P/A=2.2であった。
〈実施例4〉
式(1)で表される有機溶媒として、1,1,2,2−テトラメトキシエタンに代えて、同量の、前記式(1)中のRa〜Rdがいずれもメチル基で、かつnが3である1,1,3,3−テトラメトキシプロパンを用いたこと以外は、実施例3と同様にしてインクジェットインクを製造した。N−エチル−2−ピロリドンPと、式(1)で表される有機溶媒としての1,1,3,3−テトラメトキシプロパンAとの重量比P/A=2.2であった。
【0067】
〈実施例5〉
N−エチル−2−ピロリドンの量を42.0重量部、式(1)で表される有機溶媒としての1,1,2,2−テトラメトキシエタンの量を6.5重量部としたこと以外は、実施例3と同様にしてインクジェットインクを製造した。N−エチル−2−ピロリドンPと、式(1)で表される有機溶媒としての1,1,2,2−テトラメトキシエタンAとの重量比P/A=6.5であった。
〈実施例6〉
N−エチル−2−ピロリドンの量を28.5重量部、式(1)で表される有機溶媒としての1,1,2,2−テトラメトキシエタンの量を20.0重量部としたこと以外は、実施例3と同様にしてインクジェットインクを製造した。N−エチル−2−ピロリドンPと、式(1)で表される有機溶媒としての1,1,2,2−テトラメトキシエタンAとの重量比P/A=1.4であった。
【0068】
〈実施例7〉
N−エチル−2−ピロリドンの量を42.7重量部、式(1)で表される有機溶媒としての1,1,2,2−テトラメトキシエタンの量を5.8重量部としたこと以外は、実施例3と同様にしてインクジェットインクを製造した。N−エチル−2−ピロリドンPと、式(1)で表される有機溶媒としての1,1,2,2−テトラメトキシエタンAとの重量比P/A=7.4であった。
〈実施例8〉
N−エチル−2−ピロリドンの量を25.0重量部、式(1)で表される有機溶媒としての1,1,2,2−テトラメトキシエタンの量を23.5重量部としたこと以外は、実施例3と同様にしてインクジェットインクを製造した。N−エチル−2−ピロリドンPと、式(1)で表される有機溶媒としての1,1,2,2−テトラメトキシエタンAとの重量比P/A=1.1であった。
【0069】
〈実施例9〉
フッ素系界面活性剤として、サーフロンS−381に代えて、前出の、(株)ジェムコ製のエフトップEF−802〔有効成分量:99重量%、0.2重量%濃度の水溶液の表面張力(測定温度25℃):21.7mN/m〕1.4重量部を用いると共に、イオン交換水の量を13.3重量部としたこと以外は実施例3と同様にしてインクジェットインクを製造した。N−エチル−2−ピロリドンPと、式(1)で表される有機溶媒としての1,1,2,2−テトラメトキシエタンAとの重量比P/A=2.2であった。
〈実施例10〉
フッ素系界面活性剤として、サーフロンS−381に代えて、式(18):
【化21】

で表され、かつ、式中のwが8であるものを主成分とし、wが10、12であるものを若干含む混合物を、有効成分として、30重量%の割合で、イソプロパノールと水との混合溶媒に溶解した、セイミケミカル(株)製のサーフロンS−111N〔0.2重量%濃度の水溶液の表面張力(測定温度25℃):18.6mN/m〕4.7重量部を用いると共に、イオン交換水の量を10.0重量部としたこと以外は実施例3と同様にしてインクジェットインクを製造した。N−エチル−2−ピロリドンPと、式(1)で表される有機溶媒としての1,1,2,2−テトラメトキシエタンAとの重量比P/A=2.2であった。
【0070】
〈比較例1〉
非プロトン性極性有機溶媒として、N−エチル−2−ピロリドンに代えて、同量の1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン〔分子量:114.2、沸点:225.5℃〕を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェットインクを製造した。
〈比較例2〉
非プロトン性極性有機溶媒として、N−エチル−2−ピロリドンに代えて、同量のホルムアミド〔分子量:45.0、沸点:210℃〕を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェットインクを製造した。
〈比較例3〉
非プロトン性極性有機溶媒として、N−エチル−2−ピロリドンに代えて、同量のN−メチルホルムアミド〔分子量:59.1、沸点:197℃〕を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェットインクを製造した。
【0071】
〈比較例4〉
非プロトン性極性有機溶媒として、N−エチル−2−ピロリドンに代えて、同量のN,N−ジエチルプロピオンアミド〔分子量:129.2、沸点:195℃〕を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェットインクを製造した。
〈比較例5〉
非プロトン性極性有機溶媒として、N−エチル−2−ピロリドンに代えて、同量の2−ピロリドン〔分子量:85.1、沸点:245℃〕を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェットインクを製造した。
〈比較例6〉
式(1)で表される有機溶媒に代えて、同量のジプロピレングリコールを用いたこと以外は、実施例2と同様にしてインクジェットインクを製造した。
【0072】
〈乾燥性試験〉
実施例、比較例の水性のインクジェットインクを、サーマルジェット方式のインクジェットプリンタ〔ビデオジェット(株)製のPrint Mail Wide Array(プリントメールワイドアレイ)〕を使用して、グロス調オフセットコート紙(Aqueous Ni coat Hi Gloss on 120# Centura Gloss Cover)の表面に、バーコード(CODE 39)を印刷し、次いで、温度25℃、相対湿度40%の条件下で自然乾燥させた。そして、乾燥開始から20分後、および25分後に、綿棒を用いて、20gの荷重をかけながらこすった印刷を観察して、下記の基準で、水性のインクジェットインクの乾燥性を評価した。
◎:乾燥開始から20分後の段階で、滲みは見られなかった。乾燥性は極めて良好と評価した。
○:乾燥開始から20分後の段階では、若干の滲みが見られたが、25分後には滲みは見られなくなった。乾燥性は実用レベルに達していると評価した。
×:乾燥開始から25分後の段階でも、大きく滲んでしまった。乾燥性は不良と評価した。
【0073】
〈定着性試験〉
実施例、比較例の水性のインクジェットインクを、サーマルジェット方式のインクジェットプリンタ〔ビデオジェット(株)製のPrint Mail Wide Array(プリントメールワイドアレイ)〕を使用して、グロス調オフセットコート紙(Aqueous Ni coat Hi Gloss on 120# Centura Gloss Cover)の表面に、バーコード(CODE 39)を印刷し、次いで、出力3200Wのヒータで約5秒間、加熱した後、綿棒を用いて、40gの荷重をかけながらこすった。そして印刷を観察して、下記の基準で、水性のインクジェットインクの定着性を評価した。
◎:全く変化なし。定着性は極めて良好と評価した。
○:若干の変化が見られたが、定着性は実用レベルに達していると評価した。
×:インクがとれてしまった。定着性は不良と評価した。
【0074】
〈印刷鮮明性試験〉
実施例、比較例のインクジェットインクを、サーマルジェット方式のインクジェットプリンタ〔ビデオジェット(株)製のPrint Mail Wide Array(プリントメールワイドアレイ)〕を使用して、UVコート紙(UV Coated on 120# Centura Gloss Cover)の表面、またはグロス調オフセットコート紙(Aqueous Ni coat Hi Gloss on 120# Centura Gloss Cover)の表面に、10ポイントのアルファベットを印刷し、次いで、出力3200Wのヒータで約5秒間、加熱した後、印刷を観察して、下記の基準で、インクジェットインクの印刷鮮明性を評価した。
【0075】
◎:UVコート紙、グロス調オフセットコート紙共に、エッジがシャープに出ている。印刷鮮明性はきわめて良好と評価した。
○:UVコート紙において、鮮明性が若干劣るものの、グロス調オフセットコート紙では良好であり、印刷鮮明性は概ね良好と評価した。
△:UVコート紙において、鮮明性が悪化したものの、グロス調オフセットコート紙では、依然として良好であった。
×:UVコート紙、グロス調オフセットコート紙共に、印刷は鮮明でなく、印刷鮮明性は不良と評価した。
【0076】
〈吐出安定性試験〉
実施例、比較例の水性のインクジェットインクを、サーマルジェット方式のインクジェットプリンタ〔ビデオジェット(株)製のPrint Mail Wide Array(プリントメールワイドアレイ)〕を使用して、グロス調オフセットコート紙(Aqueous Ni coat Hi Gloss on 120# Centura Gloss Cover)の表面に、線幅0.5ポイントまたは1.0ポイントの線を印刷した。そして印刷を観察して、下記の基準で、水性のインクジェットインクの吐出安定性を評価した。
◎:線幅0.5ポイントの線を、途中で途切れることなく印刷できた。吐出安定性は極めて良好と評価した。
○:線幅0.5ポイントの線は途中で途切れることがあったが、線幅1.0ポイントの線は、途中で途切れることなく印刷できた。吐出安定性は実用レベルに達していると評価した。
×:線幅1.0ポイントの線でも、途中で途切れてしまった。吐出安定性は不良と評価した。
以上の結果を表1〜表4に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
表1〜4より、有機溶媒として、N−エチル−2−ピロリドン以外の、従来の非プロトン性極性有機溶媒を単独で使用した比較例1〜5のインクジェットインクは、いずれも、乾燥性が悪いことが判った。また、有機溶媒として、N−エチル−2−ピロリドン以外の、従来の非プロトン性極性有機溶媒と、式(1)で表される有機溶媒以外の有機溶媒とを併用した比較例6のインクジェットインクは、乾燥性が悪い上、吐出安定性が悪いことが判った。これに対し、非プロトン性極性有機溶媒として、N−エチル−2−ピロリドンを単独で使用した実施例1のインクジェットインク、および、非プロトン性極性有機溶媒と、式(1)で表される有機溶媒とを併用した実施例2〜10のインクジェットインクは、いずれも、評価が◎〜△であって、実用レベル以上の良好な特性を有していることが確認された。
【0082】
また、非プロトン性極性有機溶媒として、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを用いた実施例2と、同量のN−エチル−2−ピロリドンを用いた実施例3の結果から、式(1)で表される有機溶媒と併用する非プロトン性極性有機溶媒としてはN−エチル−2−ピロリドンが好ましいことが判った。また、式(1)で表される有機溶媒として1,1,2,2−テトラメトキシエタンを用いた実施例3と、同量の1,1,3,3−テトラメトキシプロパンを用いた実施例4の結果から、式(1)で表される有機溶媒としては1,1,2,2−テトラメトキシエタンが好ましいことが判った。また、N−エチル−2−ピロリドンPと、1,1,2,2−テトラメトキシエタンAの量を調整して、前記両有機溶媒の重量比P/Aを違えた実施例3、5〜8の結果から、前記重量比P/Aは1.2〜7.0であるのが好ましいことが判った。さらに、フッ素系界面活性剤の種類を違えた実施例3、9、10の結果から、フッ素系界面活性剤としては、先に説明したフッ素系界面活性剤1が好ましいことが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、水と、界面活性剤と、非プロトン性極性有機溶媒としてのN−エチル−2−ピロリドンとを含むことを特徴とするインクジェットインク。
【請求項2】
顔料と、水と、界面活性剤と、非プロトン性極性有機溶媒と、式(1):
【化1】

〔式中、Ra〜Rdは同一または異なって炭素数1〜3の炭化水素基を示す。nは2〜3の数を示す。〕
で表される有機溶媒とを含むことを特徴とするインクジェットインク。
【請求項3】
非プロトン性極性有機溶媒がN−エチル−2−ピロリドンであることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
N−エチル−2−ピロリドンPと、式(1)で表される有機溶媒Aとを、重量比P/A=1.2〜7.0の割合で含有していることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
界面活性剤が、式(2):
【化2】

〔式中、R1はメチル基または水素原子、Xは、エチレンオキシド基とプロピレンオキシド基とを、それぞれ1つ以上含むポリアルキレンオキシド鎖を含む基を示す。〕
で表される繰り返し単位と、式(3):
【化3】

〔式中、R2はメチル基または水素原子、Yは、少なくともパーフルオロアルキル基を含む基を示す。〕
で表される繰り返し単位とを少なくとも含む、水に可溶性の共重合体からなるフッ素系界面活性剤であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットインク。
【請求項6】
疎水性媒体上に、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェットインクを用いて印刷する工程と、印刷後の疎水性媒体を加熱する工程とを含むことを特徴とする印刷方法。

【公開番号】特開2008−37935(P2008−37935A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211479(P2006−211479)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(505091905)ゼネラルテクノロジー株式会社 (117)
【Fターム(参考)】