説明

インクジェットカートリッジの製造方法

【課題】繊維集合体のインク吸収体がタンクケース内に充填されているインクジェットカートリッジの製造において、簡単な工程で、無駄な材料を発生させることなく、インクの使用効率が良いインクジェットカートリッジの製造を可能にする。
【解決手段】繊維間交点が融着されていない繊維集合体であるインク吸収体13を圧縮挿入装置18に所定量投入する(a)。直方体状の挿入ブロック22を吸収体13の上面部分に移動させ(b)、側板a19によりインク吸収体13の1面を押す(c)。このように、側板b20に対面するインク吸収体13の部位を除いた部位を圧縮して囲み、この状態で、側板b20によりインク吸収体13を圧縮する(d)。底板21をスライドしてインク吸収体13の底面側を開口し、挿入ブロック22を下降させることで、タンクケース12へインク吸収体13を挿入する(e)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に用いられるインクジェットカートリッジであってインクを吐出するインク吐出デバイスと、インク吐出デバイスにインクを供給するためのインクを貯留するインク貯留部とが一体であるインクジェットカートリッジに関する。特に、インク貯留部内に配置される、繊維によりなる吸収体を圧縮し挿入する工程を有するインクジェットカートリッジ製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録装置に用いられるインクジェットカートリッジは、インクジェット記録ヘッドへのインク供給性を保つために、タンクケース内の圧力を大気圧に対して負圧になるよう設計されているのが一般的である。
【0003】
このような圧力(以下、負圧とする)の発生手段としては、例えばウレタンスポンジ等の多孔質体や、樹脂製繊維で構成された繊維集合体が知られている。
【0004】
特許文献1には、樹脂製繊維により構成された繊維集合体を用いたインク吸収体として、ポリプロピレンとポリエチレンの芯鞘構造の繊維を使用することが記載されている。具体的には、芯部にポリプロピレン、鞘部にポリエチレンを採用し、その融点差を利用し、ポリエチレンのみを溶融させ繊維間交点を融着させることで、インク吸収体としての形状保持性や強度を保つことが記載されている。
【0005】
ところで近年、温室効果ガスや廃棄物の問題など、地球環境を考慮した材料や製品に対する期待が急速に高まり、地球資源を有効に利用すること(すなわちリサイクル性)が必要とされている。
【0006】
しかしながら、上記インクタンクの負圧発生部材に用いられているウレタンスポンジや繊維間交点が接着された繊維集合体は、再度製品としてリユースするには細部まで洗浄することが困難である。
【0007】
また近年、顧客ニーズとしてインクジェットプリンタ本体の小型化が要求され、インクジェットプリンタ本体内に如何に効率良くインクジェットカートリッジを配置できるかが重要となっている。即ち、複雑なインクジェットカートリッジ形状にすることにより、インクジェットプリンタ本体内に効率良く配置することが求められている。前述したようなウレタンスポンジを使用したインク吸収体や、繊維間を融着したインク吸収体を適用すると、予めある形状の材料塊からそのインクジェットカートリッジに適合する複雑な形状に切り出す必要がある。従って、従来よりも複雑な形状のインクジェットカートリッジに合わせてインク吸収体を作成すると材料の使用効率が悪化し、コストアップしてしまう。材料の使用効率を向上させコストダウンするために、従来から知られているように直方体形状にインク吸収体を形成すると、インクジェットカートリッジ内に収容した際にインクが収納されないデッドスペースが増加してしまう。その結果、インク充填効率が悪化し、インクジェットカートリッジ交換回数が増加し、1ページ当たりに印刷する印刷コスト(ランニングコスト)が増加することになる。
【0008】
そこで、前述したような繊維間交点を融着したインク吸収体ではなく、繊維間交点を融着していないインク吸収体を適用することで、リサイクル性と、インクジェットカートリッジ形状の自由度の両立が可能になる。即ち、製品使用後、インク吸収体の洗浄性が向上し、リユースすることが容易になる。加えて、複雑な製品形状に切り出す必要が無くなるため、インク吸収体を形成するために用いる材料の使用効率が向上し、安価に顧客へ提供することが可能となる。
【0009】
また、インク吸収体に求められる機能として、インクを負圧保持し外部へのインク漏れを低減するということと、インクを効率よくインク吐出デバイスへ供給し、インク吸収体内のインクの使用効率を向上させること、という2点がある。
【0010】
インク吸収体に負圧保持されたインクを効率よくインク吐出デバイスへ供給できないと、インクがインク吸収体中に多量に残ったまま使用できなくなってしまい、ランニングコストの増加につながってしまう。そこでインクの使用効率を向上させる方法として、インク吸収体に密度分布を形成することがあげられる。インク吸収体が密である部分は、インク吸収体が粗となっている部分に比べ、強い毛管力を持つ。そのため、インク供給部に対応する部分のインク吸収体を密にすることによって、インク供給部から遠方のインクをインク供給部へ吸い寄せることが可能となり、インク使用効率を向上させることが出来る。
【0011】
その方法として特許文献2には、多孔質体であるインク吸収体の場合にインク供給部に対応するインク吸収体の体積が予め多くなるように切り出しておき、容器の蓋でインク吸収体を押すことにより、インク供給部に対応するインク吸収体の密度を増やす方法が記載されている。
【0012】
また、特許文献3には、繊維間を接着しないインク吸収体の場合にインク供給部に対応する繊維量を部分的に増加させた状態でニードルパンチを行い、繊維を絡ませることで、インク供給部に対応する部分のインク吸収体の密度を増やす方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−183236号公報
【特許文献2】特開平8−224893号公報
【特許文献3】特開平6−255121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、リサイクル性向上やインクカートリッジ形状の自由度向上の両立を図るには、繊維交点間を融着していないインク吸収体が考えられる。また、インク吸収体で負圧保持したインクを効率よく使用するためには、インク供給部近傍のインク吸収体密度を密に、インク供給部から遠方のインク吸収体密度を粗にする必要がある。
【0015】
特許文献2に多孔質体のインク吸収体に粗密を形成する方法が記載されているが、この場合は複雑なインクジェットカートリッジに適合する形状に切り出す工程が必要となる。また、インク吸収体材料塊から複雑な形状に切り出す場合はインク吸収体として使用できない余分な部分が材料塊の中に発生してしまう。つまり複雑に切り出すという工程増加や材料の無駄が発生してしまいコストアップになってしまう。
【0016】
一方、特許文献3には繊維間を融着していないインク吸収体に粗密を形成する方法が記載されている。詳しくは、ベルトコンベアにて繊維を供給し、供給する量を部分的に変化させ、その状態にてニードルパンチを行い、繊維を絡ませることで粗密状態を保持し、その後切断、挿入する方法である。しかし、この場合は工程が複雑であることと、切断した後インクタンクに挿入するまでのハンドリングで、繊維間が融着されていないため粗密分布が崩れる虞がある。
【0017】
また、特許文献2や3ではインク吸収体内のインクの使用効率を向上させる点の開示はあるが、インク吸収体のもう1つの機能である、インクを負圧保持し外部へのインク漏れを低減する方法については開示されていない。本発明者等の研究によれば、他部分と比較して、大気連通部などインクカートリッジ外と連通している部分近傍の毛管力を小さくすることが、インク漏れに対し有効であることが判明している。そのため、インクカートリッジ外へのインク漏れを低減するためには、大気連通部近傍は、インクが移動しづらいように粗にすることが望まれる。
【0018】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものである。具体的には、インク吸収体材料の無駄がなく、簡単かつ安定してインク吸収体に粗密分布を形成できるインクジェットカートリッジの製造方法を提供することを目的とする。さらなる目的は、インクカートリッジからのインク漏れを低減することが可能となるインクジェットカートリッジの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するための本発明の一の態様は、インクを吐出するインク吐出デバイスに供給するためのインクを貯留するインク貯留部に対して、互いに融着していない繊維の集合体からなり、繊維間の毛管力によってインクを内部に保持するインク吸収体を収納するインクジェットカートリッジの製造方法において、
前記インク吸収体を圧縮して仮成形する工程と、この仮成形したインク吸収体を前記インク貯留部に挿入する工程とを有し、
前記仮成形する工程においては、前記インク吸収体の毛管力を高くしたい部位側の表面を除いた表面を圧縮板で圧縮して囲み、その状態で、前記インク吸収体の毛管力を高くしたい部位側の表面を別の圧縮板にて最後に圧縮することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、簡単な工程で、無駄な材料を発生させることなく、インクの使用効率が良いインクジェットカートリッジの製造が可能となり、安価で低ランニングコストのインクジェットカートリッジの提供が可能となる。また、インク漏れが低減したインクジェットカートリッジの提供も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明におけるインクジェットカートリッジの模式図及び断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態におけるインク吸収体を仮成形、挿入する製造方法を表す模式図である。
【図3】繊維間交点が融着されている繊維集合体のインク吸収体の圧縮を説明するための模式図である。
【図4】繊維間交点が融着されていない繊維集合体のインク吸収体の圧縮を説明するための模式図である。
【図5】本発明の第1の実施形態におけるインク吸収体の密度分布を説明するための模式図である。
【図6】本発明の第2の実施形態におけるインク吸収体を仮成形、挿入する製造工程を表す模式図である。
【図7】本発明の第2の実施形態におけるインク吸収体の密度分布を説明するための模式図である。
【図8】本発明の第2の実施形態におけるインク吸収体の加熱工程を説明するための模式図である。
【図9】本発明の第3の実施形態におけるインク吸収体を仮成形、挿入する製造工程を表す模式図である。
【図10】本発明の第3の実施形態におけるインク吸収体の密度分布を説明するための模式図である。
【図11】本発明の第4の実施形態を適用可能なインクジェットカートリッジの模式断面図である。
【図12】本発明の第4の実施形態におけるインク吸収体を仮成形、挿入する製造工程を表す模式図である。
【図13】本発明の第4の実施形態におけるインク吸収体の密度分布を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
初めに図3、図4にてインク吸収体を圧縮した場合の密度分布形成について説明する。
【0024】
図3に繊維間が融着されている繊維集合体からなるインク吸収体25を圧縮した場合の模式断面図を示す。このインク吸収体25ではお互いの繊維が結合されているいわゆるバネ構造になっている。よって、図3(a)に示すようにシリンダー内にインク吸収体25を入れ、ピストンによりインク吸収体25を押すと、図3(b)に示すように、押した面から全体に力が伝わり、全体が圧縮される。そのため圧縮面側から反対面側に向かっての密度差が形成されにくいため図3(c)に示すように圧縮面側の部位(A部)とその反対面側の部位(B部)とでの密度差はほとんど形成されない。
【0025】
それに対し、図4に繊維間が融着されていないインク吸収体13を圧縮した場合の模式断面図を示す。この場合のインク吸収体13は繊維間が融着されていないため、一本一本の繊維が隙間に自由に移動できる。そのため圧縮した部分の繊維は隙間に移動することになる。繊維が隙間に移動することで力が吸収されるため、圧縮した力が反対面側には伝わりにくい。よって、図4(b)に示すように圧縮面側の部位(C部)の密度が高くなり、反対面側の部位(F部)での密度はほとんど変化しない。よって、図4(c)に示すように圧縮面側から反対面側に向かっての密度差(密度の高い順にC、D、E、F部)が形成されやすく、圧縮面側の部位(C部)とその反対面側の部位(F部)とでの密度差が形成される。
【0026】
(第1の実施形態)
図1は本発明の製造方法により製造されたインクジェットカートリッジ11の第1の実施形態を示す模式図及び断面図である。インクジェットカートリッジ11は、インクを貯留するタンクケース12と蓋14からなるインク貯留部と、インク吐出デバイス17とから構成されている。インク貯留部のタンクケース(容器)にはインクを保持するインク吸収体13が収納されており、これに充填されたインク15が、インク供給部16を介して、タンクケース12の底部に固定されたインク吐出デバイス17へ供給される。インク吐出デバイス17は、液滴吐出に利用できる熱エネルギーや振動エネルギー等を発生する素子を有するいわゆるインクジェット方式が採用されたものである。また、タンクケース12は直方体形状を有し、タンクケース底面の長手方向の端部寄りにインク供給部16が配されている。
【0027】
インク吸収体13は、繊維どうしの交点(以下、繊維間交点と呼ぶ。)が融着されていない繊維集合体から構成されている。繊維集合体を構成する繊維の材質は、耐インク接液性を考慮し適宜選択することができ、ポリオレフィン、ポリエステル、アクリロニトリル等が挙げられるが、好適には化学的に安定性の高いポリオレフィンが挙げられる。一般的にインク吸収体に用いられている芯鞘構造などの2層構造の繊維を選択することもでき、具体的には、芯にポリプロピレン(PP)、鞘にポリエチレン(PE)のように異種材料を選択しても問題無い。もちろん繊維間交点を融着する必要がないため、繊維材質は単一でもよい。本実施形態においては、PP単一繊維を選択した。インク吸収体13に求められる機能として、インクジェットカートリッジ11に適した負圧を設定する必要がある。該負圧は、インク吸収体13内に存在する空隙の寸法により決定される。即ち、タンクケース12に形成されたインク収容部体積に対する、該インク収容部に存在する繊維重量の割合(以下、繊維密度と呼ぶ。)と、繊維の直径により平均的な負圧が決定される。繊維密度は、各インクジェットカートリッジの求める負圧により適宜選択でき、本実施形態における平均繊維密度は、12%とした。繊維径においても負圧特性を満足できれば適宜選択することができ、本実施形態においては6.7dテックスを選択した。繊維の長さについては、負圧特性に影響を及ぼす因子ではないため、製造上の取り扱いにより適宜選択することが可能である。本実施形態では、繊維同士が絡み合いをする長さ以上であれば適宜選択することができる。検討の結果、繊維同士の絡み合いにより、形状を保持させるために、具体的には6mm長以上が必要であることが明らかとなった。本実施形態においては、繊維同士の絡み性やインク吸収体の形にした後の形状保持性の観点より、50mm長の繊維を用いた。
【0028】
図2に、本発明の製造方法における第1の実施形態の模式図を示す。まず、図2(a)に示すように、繊維間交点が融着されていない繊維集合体であるインク吸収体13を圧縮挿入装置18に所定量投入する。投入量はタンクケースの容積やインク注入量に対する所望の負圧力(繊維密度)により決定する。圧縮挿入装置18は、底板21と、底板21に垂直に配置固定された、直角をなす固定板23と、固定板23をその直角部をなすように構成する2枚の板部の各々に対面しながら移動自在な圧縮板としての側板a19及び側板b20と、を有している。そして、底板21と固定板23と側板a19及び側板b20とにより、インク吸収体13を装置18内に投入できる凹状空間が形成されている。
【0029】
次に、図2(b)、(c)に示すように直方体状の挿入ブロック22を吸収体13の上面部分に移動させ、側板a19によりインク吸収体13の1面を押す。この時点では側板b20の方向への繊維の逃げ場があるためほとんど圧縮されず密度分布はほとんど形成されない。このように、側板b20に対面するインク吸収体13の部位側の表面を除いた表面を圧縮して囲み、この状態で、図2(d)に示すように側板b20によりインク吸収体13を圧縮する。この時は固定板23、挿入ブロック22、底板21、側板a19により繊維の逃げ場がほとんどないため圧縮され、側板b20側の面から反対側の面に向かって密度分布が形成される。
【0030】
次に図2(e)に示すように底板21をスライドしてインク吸収体13の底面側を開口し、挿入ブロック22を下降させることで、タンクケース12へのインク吸収体13の挿入が完了する。
【0031】
図5は、図2に示す方法にてインク吸収体13を圧縮し、インク貯留部へ挿入した場合の密度分布を示す模式図である。最後に圧縮した側板b20に対応する面13A側の密度が最も高く、それとは反対側の面13Bへ向かうにしたがい密度が低くなっている。これにより、図1(b)に示すインク供給部16近傍の繊維密度がインク吸収体13内で相対的に高くなり、インク供給部16へとインク15を吸い寄せることか可能となる。そのため、インク15の使用効率が向上する。
【0032】
また、図8に示すように、インク吸収体13を圧縮した後、加熱用容器24に一旦挿入し、その状態で加熱を行えば、密度分布を形成した状態で繊維間交点を融着することができる。そうすることで、インク吸収体13を仮形成した後にハンドリングを行わなければならない場合でも、密度分布を崩すことがなくなる。その後インク吸収体13を加熱用容器24から取り出し、タンクケース12に挿入することで密度分布を形成したインク吸収体13の挿入が完了する。
【0033】
(第2の実施形態)
図6に、本発明の製造方法における第2の実施形態の模式図を示す。第1の実施形態と同様に繊維間交点が融着されていない繊維集合体であるインク吸収体13を圧縮装置18に投入し、側板a19、側板b20の順番でインク吸収体13を固定板23に向けて押す。インク吸収体13を投入する圧縮挿入装置18の内容積を予め大きくしているため、側板a19で押した時点では繊維全体が側板b20方向へ移動するだけで、ほとんど密度分布は形成されない。側板b20でさらに押すと繊維全体の逃げ場が少なくなっているためやや圧縮され、やや密度分布が形成される。次に底板21を上昇させインク吸収体13の底面側から圧縮を行う。この底面を最後に圧縮する時には繊維全体が移動する逃げ場がほとんどない状態で圧縮される。その結果、図7に示すように、インク吸収体13は底板側の面13C近傍の、側板b20に対応する面13A側が最も密度が高くなり、これに比べて、挿入ブロック22に対応する面13D近傍の密度及び側板b20に対応する面の反対側面13B近傍の密度が低くなる。これにより、図1(b)に示すインク供給部16近傍の繊維密度が高くなり、インク供給部16へとインク15を吸い寄せることか可能となる。そのためインク15の使用効率が向上する。
【0034】
また、図8に示すように、インク吸収体13を圧縮した後、加熱用容器24に一旦挿入し、その状態で加熱を行えば、密度分布を形成した状態で繊維間交点を融着することができる。そうすることで、インク吸収体13を仮形成した後にハンドリングを行わなければならない場合でも、密度分布を崩すことがなくなる。その後インク吸収体13を加熱用容器24から取り出し、タンクケース12に挿入することで密度分布を形成したインク吸収体13の挿入が完了する。
【0035】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、インク供給部16の近傍に位置するインク吸収体部位の毛管力を更に高くしたい場合の製造方法である。図9に、本発明の製造方法における第3の実施形態の模式図を示す。第1の実施形態と同様に、まず、繊維間交点が融着されていない繊維集合体であるインク吸収体13を圧縮挿入装置18に投入する。次に、図9(b)、(c)に示すように挿入ブロック22を吸収体13の上面部分に移動させ、側板a19によりインク吸収体13の1面を押す。このような操作の際、本実施形態では次のような方法をとる。すなわち、図9(a)の右側に示すように底板21の1部にはあらかじめ凸部26を設けておく。さらに言えば、図9(c)の右側に示すようにインク吸収体13のインク供給部に対応する部分13aが多くなるように凸部26を設け、インク吸収体13の圧縮後に段差がつくようにしてある。
【0036】
そして、図9(d)に示すように底板21をスライドさせてインク吸収体13の底面側を開口し、挿入ブロック22を下降させることで、タンクケース12にインク吸収体13を挿入させる。図1(b)に示すインク供給部16に当接する部分のインク吸収体13の量(体積)を予め多くしてあるため、タンクケース12に挿入した後は、図10に示すようにインク供給部16の上部13Fのインク吸収体部分をさらに高密度化することができる。これにより、図1(b)に示すインク供給部16近傍の繊維密度を上述した実施形態よりもさらに高くすることができ、インク供給部16へとインク15を吸い寄せることか可能となる。そのため、インク15の使用効率が向上する。
【0037】
また、図8に示したように、インク吸収体13を圧縮した後、加熱用容器24に一旦挿入し、その状態で加熱を行えば、密度分布を形成した状態で繊維間交点を融着することができる。そうすることで、インク吸収体13を仮形成した後にハンドリングを行わなければならない場合でも、密度分布を崩すことがなくなる。その後インク吸収体13を加熱用容器24から取り出し、タンクケース12に挿入することで密度分布を形成したインク吸収体13の挿入が完了する。
【0038】
(第4の実施形態)
図11は本実施形態の製造方法により製造されるインクジェットカートリッジを示す模式断面図である。図12に、本発明の製造方法における第4の実施形態の模式図を示す。本実施形態は、図1(a)に示すインクジェットカートリッジ11と同様な構成において蓋14に、タンクケース12内部を大気に連通させる大気連通部23が設けられているものを製造する例である。この場合も第1実施形態と同様に、まず、図12(a)に示すように、繊維間交点が融着されていない繊維集合体であるインク吸収体13を圧縮挿入装置18に投入する。投入する量はタンクケース12の容積やインク注入量に対する所望の負圧力(繊維密度)により決定する。次に、図12(b)に示すように、圧縮板である側板a19及び側板b20によってインク吸収体13を圧縮する。
【0039】
このとき、インク吸収体13と接触させる挿入ブロック22の面には他よりも突出した凸部24が設けられており、この凸形状によって、圧縮後のインク吸収体13の形状は図12(c)の右側図のようになる。次に、図12(d)に示すように、底板21をスライドしてインク吸収体13の底面側を開口し、さらに挿入ブロック22を下降させることで、タンクケース12へのインク吸収体13の挿入が完了する。
【0040】
上記工程をさらに詳述すると、図13(b)に示すように、インク貯留部へ挿入される前のインク吸収体13の仮成形形状には凹部25ができ、この仮成形形状はインク貯留部の内寸より小さくなっている。しかし、繊維間を接着しないインク吸収体であるため、インク貯留部への挿入後は繊維の復元力により繊維が移動することで、図13(c)に示すようなタンクケース12内を満たす形状となる。
【0041】
この繊維の復元力は、先に述べたタンクケース12内の繊維密度や、繊維材質、繊維径、繊維の長さによって決まる。これらは仮成形時の凹部25の形状から適宜選択することが可能である。また、この凹部25の形状は、所望の毛管力に合わせて決めればよい。このように、凹部25が仮成形されたインク吸収体13がタンクケース12へ挿入されることにより、大気連通部23の直下の領域aは繊維密度が低くなり、毛管力が小さくなる。そのため、大気連通部23近傍にはインクが移動しづらくなり、大気連通部23からのインク漏れを低減することが可能となる。また、挿入ブロック22が、仮成形時の圧縮板と、挿入時の押し部材としての、両方の機能を兼ねているため、インク吸収体13は仮成形完了後すぐにインク貯留部へ挿入することができる。そのため、仮成形工程と挿入工程との間にインク吸収体13をハンドリングする必要が無く、密度分布が崩れることはない。
【符号の説明】
【0042】
11 インクジェットカートリッジ
12 タンクケース
13 繊維間交点が融着されていないインク吸収体
16 インク供給部
25 繊維間交点が融着されているインク吸収体
26 底板凸部
23 大気連通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するインク吐出デバイスに供給するためのインクを貯留するインク貯留部に対して、互いに融着していない繊維の集合体からなり、繊維間の毛管力によってインクを内部に保持するインク吸収体を収納するインクジェットカートリッジの製造方法において、
前記インク吸収体を圧縮して仮成形する工程と、この仮成形したインク吸収体を前記インク貯留部に挿入する工程とを有し、
前記仮成形する工程においては、前記インク吸収体の毛管力を高くしたい部位側の表面を除いた表面を圧縮板で圧縮して囲み、その状態で、前記インク吸収体の毛管力を高くしたい部位側の表面を別の圧縮板にて最後に圧縮することを特徴とするインクジェットカートリッジの製造方法。
【請求項2】
前記仮成形する工程で最後に圧縮するのは、前記インク貯留部における前記インク吐出デバイスへのインク供給部の近傍に該当するインク吸収体部分であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットカートリッジの製造方法。
【請求項3】
前記仮成形する工程で最後に圧縮するのは、前記インク貯留部における前記インク吐出デバイスへのインク供給部に当接するインク吸収体部分であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットカートリッジの製造方法。
【請求項4】
前記仮成形する工程において、前記インク吸収体の毛管力を高くしたい部位が他の部位よりも突出した凸形状になるように前記インク吸収体を圧縮し仮成形することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェットカートリッジの製造方法。
【請求項5】
前記仮成形する工程において、前記インク吸収体の、前記インク貯留部における前記インク吐出デバイスへのインク供給部の近傍に該当する部分が他のインク吸収体部分よりも突出した凸形状になるように、前記インク吸収体を圧縮し仮成形することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェットカートリッジの製造方法。
【請求項6】
前記インク吸収体を仮成形した後、仮成形したインク吸収体の密度分布を保持した状態で該インク吸収体を加熱し、前記繊維どうしの交点を融着することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のインクジェットカートリッジの製造方法。
【請求項7】
前記仮成形する工程において、該インク貯留部の内寸より小さい部分を有する該インク吸収体を成形することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項にインクジェットカートリッジの製造方法。
【請求項8】
前記インク貯留部の内部に充填された前記インク吸収体を大気に連通させる大気連通部が設けられている、インクジェットカートリッジの製造方法であって、該インク吸収体の仮成形時の形状は、該インク貯留部への該インク吸収体の挿入後に前記大気連通部の近傍となる部分が該インク貯留部の内寸より小さいことを特徴とする請求項7に記載のインクジェットカートリッジの製造方法。
【請求項9】
前記圧縮板の一つが、仮成形したインク吸収体を前記インク貯留部に挿入する機能を併せ持つことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のインクジェットカートリッジの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−177917(P2011−177917A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41735(P2010−41735)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】