説明

インクジェットプリンター用メンテナンス液

【課題】インクジェットプリンター内の流路やインクジェットヘッド等の部材への腐食を起すことなく、洗浄性に優れたインクジェットプリンター用メンテナンス液を提供すること。
【解決手段】少なくとも一般式(1)〜(3)で表されるグリコールエーテル類またはグリコールエステル類を少なくとも1種以上含有し、さらに、溶存酸素量が45mg/l〜10mg/lであることを特徴とするインクジェットプリンター用のメンテナンス液。 一般式(1) R1CO(OR2XOR3 一般式(2) R4CO(OR5YOCOR6 一般式(3) R7(OR8ZOR9 (式中、R2、R5、R8、それぞれ独立してエチレン基又はプロピレン基、R1、R3、R4、R6はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基、R7、R9はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、X、Y、Zそれぞれ独立して1〜4の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤を主成分とするインクジェットインクおよび紫外線硬化型モノマーやオリゴマーを主成分とするインクジェットインキ用のプリンター内の流路やインクジェットヘッド等の部材への腐食を起すことなく、洗浄性に優れたインクジェットプリンター用メンテナンス液を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
近年、インクをヘッドから記録媒体に向けて吐出して記録媒体に所望の画像を記録するインクジェットプリンターが広く用いられている。インクジェットプリンターに用いられるインクとしては、常温で固形のワックスインク、水系溶剤や有機溶剤を主成分としたソルベントインク、光の被照射により硬化する光硬化インク等がある。
【0003】
インクジェットプリンターはヘッドに形成された微小径の吐出口からインクを吐出するため、ヘッド、吐出口の周辺、その他インクジェットプリンターの部品にインクが付着してしまったり、インクが吐出口で乾燥、固化することによって吐出口が閉塞されたりする。このような事態の処置のために種々の対策が講じられている。
【0004】
吐出口にインクが詰まることを防止するための対策技術としては、インクジェットプリンターが画像記録動作を行っていない時に吐出口をキャップで蓋をする技術が特許文献1に記載されている。しかし、プリンターを長期にわたり使用しなかった場合、溶剤が蒸発し、記録ヘッド付近のインクの粘度が高くなり、目詰まりを起したり、また外気中のゴミ等の異物混入による目詰まりを生じたりして、インクの吐出不良を生じる原因となった。また、その他の対策技術としてインクジェットプリンターが画像記録動作を行っている時、又は、画像記録動作を終了しようとする時に、吐出口近傍に付着したインクを拭き取る技術が特許文献2〜3に記載されている。しかしながら、拭き取ったインクは、清掃部材にインクの表面張力により付着し、その状態で吐出口面を拭くと吐出口面を汚したり、付着したインクが固化すると、吐出口内部に固化インクが混入し、吐出不良を引き起こす問題があった。
【0005】
また特許文献3には、吐出口のインクを拭き取る時に、シリコンオイルやエチレングリコールを洗浄液として用いる技術が開示されている。このようなグリコールエーテル類を溶剤として用いた洗浄液の例として、ほかには電子部品用インキの除去用の洗浄剤として、特許文献4のようなモノマー成分と多価アルコールまたはその誘導体を含むものや、特許文献5のようなグリコールエーテル類を主成分とし、水、界面活性剤およびその他水溶性有機溶剤からなる1種を追加成分として含む洗浄剤が開示されている。しかし、これらの洗浄剤は追加された成分を混合して用いるために、インクの溶解力をあげたものの、洗浄後に残存した場合、洗浄液の蒸発を遅めたり、その後にプリンターに供給されるインクの安定性の劣化を及ぼした。
【0006】
さらに特許文献6にはグラビア印刷、フレキソ印刷やオフセット印刷等の各種インクに対してたとえば印刷工程で使用されるインク壷やインク供給ローラー等のインク供給部品、スクリーン版、グラビア版等の各種印刷版などの洗浄に用いる洗浄剤が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらは印刷または塗布された基板からインクを洗浄剤で除去または剥離させることを目的としている。
【特許文献1】特開昭59−111856号公報
【特許文献2】特開平8−1953号公報
【特許文献3】特公昭62−9030号公報
【特許文献4】特開2006-291191号公報
【特許文献5】特開平8−67839号公報
【特許文献6】特開2005-120389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
沸点150℃以上の有機溶剤を主成分とするインクジェットインクおよび紫外線硬化型モノマーやオリゴマーを主成分とするインクジェットインク用のインクジェットヘッド部材を汚染したり、不吐出を引き起こしたりすることなく、さらにはインクジェットプリンター部材への腐食を起すことなく、洗浄力に優れたインクジェットプリンター用メンテナンス液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、少なくとも一般式(1)〜(3)で表されるグリコールエーテル類またはグリコールエステル類を少なくとも1種以上含有し、さらに、溶存酸素量が45mg/l〜10mg/lであることを特徴とするインクジェットプリンター用のメンテナンス液。
一般式(1) R1CO(OR2XOR3
一般式(2) R4CO(OR5YOCOR6
一般式(3) R7(OR8ZOR9
(式中、R2、R5、R8、それぞれ独立してエチレン基又はプロピレン基、R1、R3、R4、R6はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基、R7、R9はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、X、Y、Zそれぞれ独立して1〜4の整数を表す。)
さらに本発明は沸点150℃以上の有機溶剤を主成分とするインクを用いて印刷を行なうインクジェットプリンターに使用することを特徴とするインクジェットプリンター用メンテナンス液に関する。
【0010】
さらに本発明は紫外線によって硬化するモノマー、オリゴマー等を主成分とするインクを用いて印刷を行なうインクジェットプリンターに使用することを特徴とするインクジェットプリンター用メンテナンス液に関する。
さらに本発明は環状化合物を混合して用いることを特徴とするインクジェットプリンター用メンテナンス液に関する。
さらに本発明は、環状化合物として環状エーテル系溶剤、環状エステル系溶剤、環状アミド系溶剤、環状ケトン系溶剤、N−アルキル-オキサゾリジノン系溶剤又はN−アルキル−2−ピロリドンであることを特徴とするインクジェットプリンター用メンテナンス液に関する。
さらに本発明は、環状化合物を混合して用いた場合の混合比がグリコールエーテル類またはグリコールエステル類:環状化合物=80〜100:20〜0重量部であることを特徴とするインクジェットプリンター用メンテナンス液に関する。
さらに本発明は、環状化合物としてN−アルキルオキサゾリジノンを1〜20重量%含有することを特徴とするインクジェットプリンター用メンテナンス液に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインクジェットプリンター用メンテナンス液は、インクジェットインクの印字の際にインク組成物の付着により汚染された装置やヘッド等のプリンター部材を腐食せずに効率良く洗浄し、さらに洗浄後のインクの射出特性に影響を及ぼすことなく、安定射出を行なうことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明の実施形態について詳細について説明する。
【0013】
まず、本発明のインクジェットプリンター用メンテナンス液は少なくとも一般式(1)〜(3)で表されるグリコールエーテル類、またはグリコールエステル類を少なくとも1種以上含有する。
一般式(1) R1CO(OR2XOR3
一般式(2) R4CO(OR5YOCOR6
一般式(3) R7(OR8ZOR9
(式中、R2、R5、R8、それぞれ独立してエチレン基又はプロピレン基、R1、R3、R4、R6はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基、R7、R9はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、X、Y、Zそれぞれ独立して1〜4の整数を表す。)
【0014】
一般式(1)に該当する溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノメチルエーテルブチレート、エチレングリコールモノエチルエーテルブチレート、エチレングリコールモノブチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルブチレート、プロピレングリコールモノメチルエーテルブチレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルブチレート等のグリコールモノアセテート類がある。
【0015】
一般式(2)に該当する溶剤としては、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、エチレングリコールプロピオネートブチレート、エチレングリコールジプロピオネート、エチレングリコールアセテートジブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールプロピオネートブチレート、ジエチレングリコールジプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートジブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールプロピオネートブチレート、プロピレングリコールジプロピオネート、プロピレングリコールアセテートジブチレート、ジプロピレングリコールアセテートプロピオネート、ジプロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールプロピオネートブチレート、ジプロピレングリコールジプロピオネート、ジプロピレングリコールアセテートジブチレート等のグリコールジアセテート類がある。
【0016】
一般式(3)に該当する溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類がある。上記のうち、これらは単独で、または2種以上を適宜に組み合わせて使用することも出来る。本発明のインクジェットプリンター用メンテナンス液においては、グリコールエーテル類が80重量%以上含有することが好ましい。
【0017】
さらに本発明ではメンテナンス液に前記グリコールエーテル類またはグリコールエステル類と一緒に少なくとも1種の環状化合物を混合して用いることも出来る。これら環状化合物はインクジェットインクに含まれる樹脂等の成分に対する溶解性が高く、メンテナンス液として優れた洗浄力を発揮する。
【0018】
このような環状化合物としては、環状エーテル系溶剤、環状エステル系溶剤、環状アミド系溶剤、環状ケトン系溶剤、N−アルキル-オキサゾリジノン系溶剤又はN−アルキル−2−ピロリドンが挙げられる。臭気、安全性の点より、好ましくは、環状エステル系溶剤、N−アルキル−オキサゾリジノン系溶剤又はN−アルキル2−ピロリドンが好ましい。
【0019】
環状エーテル系溶剤としては、ジオキサン、トリオキサン、フラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、メチルフラン、テトラヒドロピラン、フルフラール、テトラヒドロピラン−4−カルボン酸メチルエステル、テトラヒドロピラン−4−カルボン酸エチルエステルが挙げられる。
【0020】
環状エステル系溶剤としては、4員環構造のβ―ラクトンや5員環構造のγ―ラクトンや6員環構造のδ―ラクトン、7員環構造のε―ラクトンなどがあり、β―ブチロラクトン、γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトン、γ―ヘキサラクトン、γ―ヘプタラクトン、γ―オクタラクトン、γ―ノナラクトン、γ―デカラクトン、γ―ウンデカラクトン、δ―バレロラクトン、δ―ヘキサラクトン、δ―ヘプタラクトン、δ―オクタラクトン、δ―ノナラクトン、δ―デカラクトン、δ―ウンデカラクトン、ε―カプロラクトンが挙げられる。
【0021】
環状アミド系溶剤としては、4員環構造のβ―ラクタムや5員環構造のγ―ラクタムや6員環構造のδ―ラクタム、7員環構造のε―ラクタムなどがあり、β―ブチロラクタム、γ―ブチロラクタム、γ―バレロラクタム、γ―ヘキサラクタム、γ―ヘプタラクタム、γ―オクタラクタム、γ―ノナラクタム、γ―デカラクタム、γ―ウンデカラクタム、δ―バレロラクタム、δ―ヘキサラクタム、δ―ヘプタラクタム、δ―オクタラクタム、δ―ノナラクタム、δ―デカラクタム、δ―ウンデカラクタム、ε―カプロラクタムが挙げられる。
【0022】
環状ケトン系溶剤としては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンが挙げられる。
【0023】
N-アルキル-オキサゾリジノン系溶剤としては、3−メチル−2−オキサゾリジノン、3−エチル−2−オキサゾリジノン、3−プロピル−2−オキサゾリジノンが挙げられる。
【0024】
N−アルキル−2−ピロリドンとしては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−プロピル−2−ピロリドン、N−オクチル−2−ピロリドンが挙げられる。
【0025】
これら環状化合物のグリコールエーテル類、またはグリコールエステル類との混合比がグリコールエーテル類またはグリコールエステル類:環状化合物=80〜100:20〜0重量部であることが好ましい。また環状化合物としてN−アルキルオキサゾリジノンを用いる場合は全溶剤中の1〜20重量%含有することが好ましい。
【0026】
さらに本発明では前記インクジェットプリンター用メンテナンス液中の溶存酸素量が45mg/l〜10mg/lとすることが好ましい。メンテナンス液を用いてプリンター部材の洗浄を溶存酸素量の多いメンテナンス液を用いた場合、プリンター内部に微小な気泡が発生しやすくなる。このメンテナンス液から発生した気泡が内部に残ったまま、洗浄後にインクの吐出を行なうと、インクに圧力を加えた際に、気泡がインクに印加される圧力を吸収してしまい、正常な吐出状態が得られなくなる。また、紫外線によって硬化するモノマー、オリゴマー等を主成分とするインクの場合、メンテナンス液の溶存酸素から発生した微小な気泡がプリンター内部に発生した場合、吐出するインクに酸素が含まれ、インク中の重合性化合物の重合においてラジカル活性種を失活させ、重合性化合物の重合反応に十分な量のラジカルを供給できなくなる。結果として、インクジェット記録用インクの硬化反応が不充分になる。これらのような問題を回避するために、本発明ではプリンターのメンテナンスの際に用いるメンテナンス液の溶存酸素量を45mg/l〜10mg/lとし、酸素による射出特性の不安定化および紫外線によって硬化するモノマー、オリゴマー等を主成分とするインクを用いる場合の重合阻害を効果的に抑制することが出来る。
【0027】
溶存酸素濃度を調節する方法に関しては特に制限はないが、メンテナンス液を減圧下で脱気する方法や超音波を照射して脱気する方法、中空糸膜により脱気する方法などがある。
【0028】
溶存酸素濃度を測定する方法としては、例えば、オストワルド法(実験化学講座1基本操作[1]、241頁、1975年、丸善 参照)や、マススペクトル法で測定する方法、酸素濃度計や比色分析法を用いて測定することが出来る。また市販の溶存酸素濃度計を用いても簡便に測定することができる。
【0029】
本発明のメンテナンス液を用いてインクジェットプリンターを洗浄する方法について説明する。本発明のメンテナンス液を用いてインクジェットプリンター又は一部の部品を洗浄する方法としては、本発明のメンテナンス液で濡らした生地やクリーニングブレードでインクジェットプリンター又はその部品を拭く方法、本発明のメンテナンス液にインクジェットプリンター又はその部品を浸漬する方法などが挙げられる。また、インクジェットプリンターにヘッドを洗浄するクリーニング機構を有する場合は本発明のメンテナンス液をクリーニング機構に供給すれば、ヘッドがクリーニング機構によって洗浄される。また、本発明のメンテナンス液が塗布されたキャップを使ってヘッドの吐出口を蓋することも出来る。
【0030】
本発明のメンテナンス液でインクジェットプリンターを洗浄すれば、ヘッド、吐出口の周辺、その他インクジェットプリンターの部品にメンテナンス液が微量に残留して付着する。なお、インクジェットプリンター又はその部品に残留する微量のメンテナンス液は吸収剤で吸い取っても、エアを吹き付けても、インクジェットプリンター又はその部品に微量に残留する。
【0031】
有機溶剤を主成分としたインクジェットインクの場合、メンテナンス液が微量に残存することで乾燥により微量に固化したインクが再溶解し、ヘッドで堆積することなく、ヘッドの不吐出を防ぐことが出来る。また、紫外線によって硬化するモノマー、オリゴマー等を主成分とするインクの場合はヘッドに残る微量のメンテナンス液が微量に残存することで、インク中に非硬化性成分が混入し、紫外線硬化インクの硬化を阻害する。従ってその後のヘッド、吐出口周辺、その他プリンター部品を本発明のメンテナンス液により洗浄することでプリンター部品に付着したインクを容易に除去することができる。また紫外線により硬化を行なう前のインクに関しても同様にヘッド、吐出口の周辺、その他インクジェットプリンターの部品にインクが付着した場合でも本発明のメンテナンス液で濡れた生地等で拭き取れば、ヘッド、吐出口の周辺の各種部品にメンテナンス液が付着し、紫外線硬化インクが付着しても硬化しない。
【0032】
また、本発明のメンテナンス液はプリンター内の流路やインクジェットヘッド内部のEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)等の部材に長時間接していても部材の変色、劣化、流路に使用されるチューブの破れ等を起こすことがない。
【0033】
なお、本発明のメンテナンス液が使用されるインクジェットプリンター用のインクは、たとえば、有機溶剤を主成分としたソルベントインク、紫外線や放射線など活性エネルギー線によって硬化可能なモノマーやオリゴマー等を主成分とする光硬化性インク、導電性回路等の微細なパターン形成に用いられる銀や金等のナノ金属微粒子を含有したインク、カラーフィルター用インク等が挙げられ、いずれにおいても優れた洗浄力を発揮する。
【0034】
[実施例]
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は、「重量部」を表す。
【0035】
[実施例1〜7]
表1に示す溶剤組成によりインクジェットプリンター用メンテナンス液を調整した。
【0036】
【表1】

【0037】
その後、減圧脱気を行ない、メンテナンス液中の溶存酸素量を30±2mg/lに調整した。溶存酸素量は市販の溶存酸素濃度測定装置 UC−12−SOL型(セントラル科学(株)製)を用いて測定した。
【0038】
[比較例1〜5]
表1に示す溶剤組成によりインクジェットプリンター用メンテナンス液を調整し、比較例1〜2は減圧脱気を行ない、溶存酸素量を市販の溶存酸素濃度測定装置 UC−12−SOL型(セントラル科学(株)製)を用いて測定した。比較例3〜5については脱気処理を行なわずに溶存酸素量を測定した。
【0039】
実施例及び、比較例で得られた各インクジェットプリンター用メンテナンス液を下記の方法で洗浄性の評価および射出特性の評価を行なった。
【0040】
(メンテナンス液の洗浄力の評価に用いるインク組成物)
沸点150℃以上の有機溶剤を主成分とするインクとして(株)セイコーアイ・インフォテック製 ソルベントインクインクジェットプリンターColor Painter 64S Plus用 「EG−Outdoor Ink」を用いた。
【0041】
紫外線により硬化するモノマー、オリゴマー等を主成分とするインクとして、下記記載の方法により調整した。
【0042】
まず、下記のような配合で顔料分散体Aを作成した。この分散体は有機溶剤中に顔料および分散剤を投入し、ハイスピードミキサー等で均一になるまで撹拌後、得られたミルベースを横型サンドミルで約1時間分散して作成した。
・LIONOL BLUE FG−7400G(東洋インキ製造社製 フタロシアニン顔料) 30.0部
・ソルスパーズ32000(アビシア社製 顔料分散剤) 9.0部
・2−フェノキシエチルアクリレート 61.0部
次に上記分散体を下記配合処方にてインク化し、インクジェットインクを得た。
・顔料分散体A 11.4部
・2−フェノキシエチルアクリレート 40.0部
・BYK−361N(BYK Chemie社製 アクリル樹脂) 0.1部
・N−ビニルカプロラクタム 15.0部
・エトキシ化トリメチロ−ルプロパントリアクリレート 20.0部
・Ebecryl8402(ダイセルUCB社製 2官能ウレタンオリゴマー) 5.5部
・イルガキュア907(チバスペシャルティケミカルズ社製 光ラジカル重合開始剤) 4.0部
・イルガキュア819(チバスペシャルティケミカルズ社製 光ラジカル重合開始剤) 4.0部

【0043】
(インクジェットプリンター用メンテナンス液の洗浄性の評価1)
沸点150℃以上の有機溶媒を主とするインク0.05gを金属性の容器に測り取り、70℃のオーブンで2時間かけて乾燥させた。そこにインクジェットプリンター用メンテナンス液を1.0g添加し、均一になるように混ぜ、乾燥したインクが完全に再溶解するまでの時間を測定する。
○:乾燥したインクが完全に溶解するまでの時間が 4分未満
△:乾燥したインクが完全に溶解するまでの時間が 4分以上9分未満
×:乾燥したインクが完全に溶解するまでの時間が 10分以上 もしくは溶解しない
【0044】
(インクジェットプリンター用メンテナンス液の洗浄性の評価2)
沸点150℃以上の有機溶媒を主とするインクをソルベントインクジェットプリンターに充填し、さらにメンテナンス液も専用のタンクに供給し、インクジェットプリンターを作動させた。インクジェットプリンターヘッドから記録媒体にインクを吐出し、画像記録を毎日8時間、合計1ヶ月行なった。その間、1週間毎にプリンターのクリーニング機構による洗浄およびプリンター部材をメンテナンス液を湿らせた生地により拭く洗浄方法によりプリンターの洗浄を行なった。プリンターを1ヶ月間連続作動させたあとのヘッドの吐出口を観察し、ヘッド吐出口の詰まりの発生有無を目視評価した。また印字物にてドット抜け、飛行曲がり、またはインクの飛び散りの発生頻度等がないことも確認した。
○:1ヶ月の連続試験を実施し、洗浄を行なったあとのドット抜け、飛行曲がりまたはインクの飛び散りの発生が10回未満であったもの。
△:1ヶ月の連続試験を実施し、洗浄を行なったあとのドット抜け、飛行曲がりまたはインクの飛び散りの発生が10回以上、20回未満であったもの。
×:1ヶ月の連続試験を実施し、洗浄を行なったあとのドット抜け、飛行曲がりまたはインクの飛び散りの発生が20回以上であったもの。
【0045】
(インクジェットプリンター用メンテナンス液の洗浄性の評価3)
紫外線により硬化するモノマー、オリゴマー等を主成分とするインクをピエゾヘッドを有するUVインクジェットプリンターのインクタンクに充填し、インクジェットプリンターを作動させた。インクジェットプリンターがヘッドの吐出口から紫外線硬化型インクを吐出し、記録媒体に記録を90分連続で行ない、90分経過毎にプリンターのクリーング機構による洗浄を行ない、ヘッドの洗浄を行なった。プリンターを連続30時間作動させたあとにヘッドの吐出口を観察し、ヘッド吐出口の硬化による目詰まりの発生有無を目視評価した。また印字物にてドット抜け、飛行曲がり、またはインクの飛び散りの発生頻度等がないことも確認した。
○:30時間の連続試験を実施し、洗浄を行なったあとのドット抜け、飛行曲がりまたはインクの飛び散りの発生が10回未満であったもの。
△:30時間の連続試験を実施し、洗浄を行なったあとのドット抜け、飛行曲がりまたはインクの飛び散りの発生が10回以上、20回未満であったもの。
×:30時間の連続試験を実施し、洗浄を行なったあとのドット抜け、飛行曲がりまたはインクの飛び散りの発生が20回以上であったもの。
【0046】
(射出特性の評価)
メンテナンス液による洗浄後の射出特性は下記の通り評価した。
沸点150℃以上の有機溶媒を主成分とするインクまたは紫外線により硬化するモノマー、オリゴマー等を主成分とするインクが搭載されたインクジェットインクプリンターの流路内にメンテナンス液を供給し、プリンター内部をメンテナンス液で置換、洗浄した。洗浄後に再度インクをプリンターに充填し、作動させた。充填直後のインクによる記録を行ない、印字物にてドット抜け、飛行曲がりやインクの飛び散りの発生頻度等がないことを確認した。
○:洗浄後、インクを充填した直後のドット抜け、飛行曲がりまたはインクの飛び散りの発生が10回未満であったもの。
△:洗浄後、インクを充填した直後のドット抜け、飛行曲がりまたはインクの飛び散りの発生が10回以上、20回未満であったもの。
×:洗浄後、インクを充填した直後のドット抜け、飛行曲がりまたはインクの飛び散りの発生が20回以上であったもの。
【0047】
(材料適合性評価)
表1に示す実施例1〜7および比較例1〜5のインクジェットプリンター用メンテナンス液にプリンターのヘッド部材や流路に用いられるチューブを60℃で1週間浸漬させた。浸漬後にヘッド部材やチューブの外観を目視評価し、さらに各部材の寸法や重量変化についても確認した。
○:浸漬後の部材の外観に変化がなく、さらに浸漬前と比較して寸法や重量の変化が2%未満である。
△:浸漬後の部材の外観に若干の変化があり、浸漬前と比較して、寸法や重量の変化が2%以上 10%未満である。
×:浸漬後の部材が変色または溶解しており、浸漬前と比較して、寸法や重量の変化が10%以上である。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示した通り、本発明記載のグリコールエーテル類またはグリコールエステル類を用いた実施例1〜7のインクジェットプリンター用メンテナンス液は、プリンター部材等の洗浄性を評価する乾燥再溶解性に優れており、洗浄後の射出特性も良好であった。また、溶存酸素量をコントロールすることで、プリンター内部の流路等にメンテナンス液を直接供給した場合でも、その後の射出特性に影響を及ぼすことなく、安定した射出を行なうことができた。さらにはメンテナンス液にプリンターヘッドや流路に用いるチューブ等の部材を長期浸漬させた場合でも部材の変色、劣化や腐食等が起こらなかった。それに対し、比較例1〜5では、プリンター部材等の洗浄性を評価する乾燥再溶解性の試験やメンテナンス液によるプリンター内部洗浄後の射出特性が不良であったり、材料適合性評価においてプリンター部材を腐食させたり、全てが良好となるものが得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一般式(1)〜(3)で表されるグリコールエーテル類またはグリコールエステル類を少なくとも1種以上含有し、さらに、溶存酸素量が45mg/l〜10mg/lであることを特徴とするインクジェットプリンター用のメンテナンス液。
一般式(1) R1CO(OR2XOR3
一般式(2) R4CO(OR5YOCOR6
一般式(3) R7(OR8ZOR9
(式中、R2、R5、R8、それぞれ独立してエチレン基又はプロピレン基、R1、R3、R4、R6はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基、R7、R9はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、X、Y、Zそれぞれ独立して1〜4の整数を表す。)
【請求項2】
沸点150℃以上の有機溶剤を主成分とするインクを用いて印刷を行なうインクジェットプリンターに使用することを特徴とする請求項1記載のインクジェットプリンター用メンテナンス液。
【請求項3】
紫外線によって硬化するモノマー、オリゴマー等を主成分とするインクを用いて印刷を行なうインクジェットプリンターに使用することを特徴とする請求項1または2記載のインクジェットプリンター用メンテナンス液。
【請求項4】
グリコールエーテル類、またはグリコールエステル類が80重量%以上含有する請求項1〜3いずれか記載のインクジェットプリンター用メンテナンス液。
【請求項5】
さらに環状化合物を前記メンテナンス液に混合して用いることを特徴とする請求項1、2、4いずれか記載のインクジェットプリンター用メンテナンス液。
【請求項6】
環状化合物として環状エーテル系溶剤、環状エステル系溶剤、環状アミド系溶剤、環状ケトン系溶剤、N−アルキル-オキサゾリジノン系溶剤又はN−アルキル−2−ピロリドンであることを特徴とする請求項1、2、4、5いずれか記載のインクジェットプリンター用メンテナンス液。
【請求項7】
環状化合物を混合して用いた場合の混合比がグリコールエーテル類、またはグリコールエステル類:環状化合物=80〜100:20〜0重量部であることを特徴とする請求項5または6記載のインクジェットプリンター用メンテナンス液。
【請求項8】
環状化合物としてN-アルキルオキサゾリジノンを1〜20重量%含有することを特徴とする請求項4〜7いずれか記載のインクジェットプリンター用メンテナンス液。


【公開番号】特開2008−274016(P2008−274016A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115781(P2007−115781)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】