説明

インクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの制御方法

【課題】オフキャリッジタイプのインクジェットプリンタにおいて、ハードウェアの追加や改良をすることなく、インクカートリッジ内の顔料インク中の分散粒子が沈降することを軽減する。
【解決手段】印刷ヘッド3に供給する顔料インクを貯留したインクカートリッジ5が、印刷ヘッド3が搭載されるキャリッジ7とは離れた位置に設置され、インクカートリッジ5内の顔料インクを貯留するインク貯留室11が加圧されることで、印刷ヘッド3へインクを供給する加圧式インクカートリッジを採用したインクジェットプリンタ1において、インク貯留室11の加圧と減圧を実行する加圧周辺システム25と、加圧周辺システム25による圧力調整を制御するプリンタコントローラ31と、を備え、プリンタコントローラ31は加減圧繰り返し処理が、所定回数だけ実行されたと判定した場合に、インク貯留室11を印刷処理を実行するために必要な準備加圧状態にするよう制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードウェアを追加することなく顔料インクに含まれる顔料の沈降を防止することのできるインクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは、高精細な画像印刷等を比較的に低コストで実現できるため、目覚ましい普及を見せている。このようなインクジェットプリンタは、通常、往復移動するキャリッジに印刷ヘッドを搭載し、この印刷ヘッドに対してインクカートリッジからインクを供給するようにしている。そして、インクカートリッジから印刷ヘッドに供給されたインクを印刷ヘッドに形成されたノズルから噴射することにより、記録媒体に印刷を行うようになっている。
【0003】
インクジェットプリンタには、インクカートリッジがキャリッジ上に装着されたタイプのもの(いわゆるオンキャリッジタイプのプリンタ)と、キャリッジ上とは別の位置に装着するタイプのもの(いわゆるオフキャリッジタイプのプリンタ)と、がある。オフキャリッジタイプのプリンタの場合は、インクカートリッジと印刷ヘッドとの間をインク供給チューブで連結し、インク供給チューブを介してインクカートリッジ内のインクを印刷ヘッド側へ供給する。
【0004】
オフキャリッジタイプのプリンタに装着されるインクカートリッジは、インクを貯留するインク貯留室が例えば可撓性袋体で形成され、このインク貯留室の周囲には加圧空気を送り込まれる加圧空間が画成された構成となっている。加圧空間に送給される加圧空気によりインク貯留室が加圧されることで貯留しているインクをインク供給チューブに送り出す、いわゆる加圧式インクカートリッジが採用される。
このため、この加圧式インクカートリッジが搭載されるプリンタ本体側には、加圧ポンプや圧力調整弁等を備え加圧空間に加圧空気を送給する加圧周辺システムが装備される。
【0005】
ところで、インクカートリッジに収容されているインクは、染料インクと顔料インクとに大別することができる。このうち、顔料インクは、色素として顔料粒子を用い、この顔料粒子をインク溶媒内に分散させたものである。顔料インクは、発色が鮮やかであるという利点がある一方で、長期間にわたって放置すると顔料粒子が沈降することがある。顔料粒子が沈降した状態のインクカートリッジでは、上部側の濃度が薄く下部側の濃度が濃くなるという濃度むらが生じることがある。
【0006】
特許文献1には、印字ヘッドへのインクの供給を安定させるためにキャリッジにサブタンクを搭載し、インク供給チューブを通じて供給されたインクを一旦サブタンク内に貯留してから印字ヘッドへ供給するインクジェットプリンタが記載されている。この場合、サブタンクは、キャリッジの走査に伴うインクの圧力変動を吸収し、印字ヘッドへのインクの供給を安定させる役割を果たしている。
特許文献1では、サブタンク内の顔料インクを攪拌する貯留インク攪拌手段を備えることによって、サブタンク内に貯留されたインクの顔料の沈降に起因する不具合を防止するよう構成されている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−1992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されている貯留インク攪拌手段は、サブタンク内に貯留している顔料インクを攪拌するための手段であり、インクカートリッジ内に収容されている顔料インクを攪拌することはできない。
また、オフキャリッジタイプのインクジェットプリンタの場合、インクカートリッジはキャリッジ以外の位置に固定されているため、印字ヘッドの走査に伴ってインクカートリッジ自体が移動することがない。このため、インクカートリッジ内の顔料インクは、攪拌される機会がないため長時間放置しておくと顔料粒子が沈降してしまう。そして、インクカートリッジ内で顔料粒子が沈降してしまうと、適正な濃度の顔料インクをサブタンクへ供給することができなくなってしまう。
【0009】
オフキャリッジタイプのインクカートリッジ内の顔料インクを攪拌するための専用のハードウェアを、プリンタ本体またはインクカートリッジに追加することも考えられるが、専用のハードウェアの追加による対応では、部品の追加によるコストアップを招いてしまう。また、既存のプリンタへの対応ができない場合もある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、オフキャリッジタイプのインクジェットプリンタにおいて、ハードウェアの追加や改良をすることなく、インクカートリッジ内の顔料インク中の分散粒子が沈降することを軽減することができるインクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決することのできる本発明は、印刷ヘッドに供給する顔料インクを貯留したインクカートリッジが、前記印刷ヘッドが搭載されるキャリッジとは離れた位置に設置され、前記インクカートリッジ内の前記顔料インクを貯留するインク貯留室が加圧されることで、前記印刷ヘッドへインクを供給する加圧式インクカートリッジを採用したインクジェットプリンタにおいて、
前記インク貯留室の加圧と減圧を実行する圧力調整部と、前記圧力調整部による圧力調整を制御する圧力調整制御部と、を備え、前記圧力調整制御部は、前記加圧と減圧を繰り返す加減圧繰り返し処理が、所定回数だけ実行されたか否かを判定し、所定回数だけ実行されたと判定した場合に、前記インク貯留室を印刷処理を実行するために必要な準備加圧状態にするよう制御することを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決することのできる本発明は、印刷ヘッドに供給する顔料インクを貯留したインクカートリッジが、前記印刷ヘッドが搭載されるキャリッジとは離れた位置に設置され、前記インクカートリッジ内の前記顔料インクを貯留するインク貯留室が加圧されることで、前記印刷ヘッドへインクを供給する加圧式インクカートリッジを採用したインクジェットプリンタの制御方法において、
前記インク貯留室の加圧と減圧を繰り返す加減圧繰り返し処理が、所定回数だけ実行されたか否かを判定するステップと、所定回数だけ実行されたと判定した場合に、前記インク貯留室を印刷処理を実行するために必要な準備加圧状態にするステップと、を有することを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、加減圧繰り返し処理によりインク貯留室内に貯留している顔料インクが流動・攪拌されることで、顔料インク中の分散粒子(顔料粒子)の分散が均等化され、分散粒子の沈降を防止することができる。従って、顔料インク中の分散粒子の沈降に起因した色変化等の印刷品質の低下を軽減することができる。
また、加圧式インクカートリッジを採用したインクジェットプリンタでは、インクカートリッジ内のインクの印刷ヘッドへの送給を制御するために、インクを貯留しているインクカートリッジ内のインク貯留室に対して加圧及び減圧を行う加圧周辺システムを装備している。つまり、上記の加減圧繰り返し処理は、既設の加圧周辺システムの動作制御を行うファームウエアを改良するだけで、実行することが可能である。すなわち、加減圧繰り返し処理を実施するためには、プリンタに搭載するファームウエアを書き換えるだけで良く、ハードウェアの追加や改良が必要とならない。したがって、オフキャリッジタイプのインクジェットプリンタにおいて、ハードウェアの追加や改良をすることなく、インクカートリッジ内の顔料インク中の分散粒子が沈降することを防止することができる。
さらに、プリンタに搭載されるファームウエアの書き換えにより実現できるため、既存のプリンタに対しても、加減圧繰り返し処理によって顔料インクの沈降を防止して、安定した色出力を得ることが可能になる。
【0014】
また、本発明のインクジェットプリンタにおいて、前記圧力調整制御部は、前記加減圧繰り返し処理を、当該インクジェットプリンタが待機状態である省電力モードから復帰した場合、あるいは電源ON時に、実施することを特徴とする。
【0015】
また、上記構成によれば、例えば、印刷処理中等で、インクカートリッジ内に貯留されている顔料インクが印刷ヘッド側に送給されているときは、インク貯留室内でインクの流動が生じていて、そのインクの流動自体が顔料インク中の分散粒子に対する攪拌作用を生むため、分散粒子の沈降が生じ難い。一方、プリンタが電源OFFの状態になっていたり、省電力モードで待機状態にあるときには、インク貯留室内の顔料インクは静止状態に維持されているため、顔料インク中の分散粒子の沈降が進行し易く、省電力モードからの復帰直後や電源ONの直後に、インクカートリッジ内の顔料インクがそのまま送給されてしまうと、顔料インク中の分散粒子の沈降の影響を受ける場合がある。
しかし、上記のように、省電力モードから復帰する時、又は電源ON時に、加減圧繰り返し処理が実施されれば、加減圧繰り返し処理による流動・攪拌作用によって、インクカートリッジ内に貯留している顔料インク内の分散粒子が、再び、良好な分散状態に戻り、分散粒子の沈降が解消される。
したがって、省電力モードからの復帰後、又は電源ON後に印刷処理が開始される時には、インクカートリッジ内の顔料インク中の分散粒子の分散状態が沈降の無い良好な分散状態に維持されていて、分散粒子の沈降に起因した印刷性能の低下を確実に防止することができる。
【0016】
また、本発明のインクジェットプリンタにおいて、前記圧力調整制御部は、電源ON後、タイマーにより経過時間を計時し、一定時間毎に、前記加減圧繰り返し処理を実施することを特徴とする。
【0017】
プリンタへの印刷命令の送信が、省電力モードに移行するための基準時間Taよりも僅かに大きい時間間隔Tbで、繰り返されるような使用状況では、省電力モードからの復帰時には必ず加減圧繰り返し処理が実施される。このため、比較的短時間の時間間隔Tbで加減圧繰り返し処理が繰り返され、加減圧繰り返し処理を実行する加圧周辺システムへの負担が過剰になってしまい、加圧周辺システムを構成する部品の低寿命化を招く場合がある。
しかしながら、上記構成によれば、タイマーにより、予め定めた一定時間毎に加減圧繰り返し処理を実施する構成であれば、加減圧繰り返し処理が短時間の内に必要以上に頻繁に繰り返し実施されることを防止して、加減圧繰り返し処理を実行する加圧周辺システムへの負担の急増を防止することができ、過剰運用による加圧周辺システムの低寿命化を防止することができる。
【0018】
また、本発明のインクジェットプリンタにおいて、前記圧力調整制御部は、印刷処理を実施するときにその印刷処理を開始する直前の時刻を記憶し、新規に印刷処理を開始するときに、記憶した前回の印刷処理時からの経過時間を算出して、前回の印刷処理時からの経過時間が基準値を超える場合に、前記加減圧繰り返し処理を実施することを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、加減圧繰り返し処理が短時間の内に必要以上に頻繁に繰り返し実施されることを防止して、加減圧繰り返し処理を実行する加圧周辺システムへの負担の急増を防止することができ、過剰運用による加圧周辺システムの低寿命化を防止することができる。
また、印刷動作が無い場合には一定時間が経過していても、加減圧繰り返し処理が実施されないため、加減圧繰り返し処理の実施頻度を更に低減させることができ、加圧周辺システムへの負担を更に軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係るインクジェットプリンタ及びインクジェットプリンタの制御方法の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係るインクジェットプリンタの第1実施の形態の概略構成を示す内部ブロック図、図2は本発明に係るインクジェットプリンタに装着される加圧式インクカートリッジの外観の模式図である。また、図3は図1に示したインクジェットプリンタにおいて加減圧繰り返し処理を実施する制御方法の第1実施の形態を示すフローチャートである。
【0021】
図1に示したインクジェットプリンタ1は、いわゆるオフキャリッジタイプのインクジェットプリンタで、印刷ヘッド3に供給する顔料インクを貯留したインクカートリッジ5が、印刷ヘッド3が搭載されるキャリッジ7とは離れた装置内の所定位置に固定装備される。
また、インクカートリッジ5は、いわゆる加圧式インクカートリッジで、図2に示すように、顔料インクを貯留しているインク貯留室11が可撓性袋体12により形成される。このインク貯留室11の周囲には加圧空気が送り込まれる加圧空間14が画成されており、加圧空間14を加圧することによってインク貯留室12に貯留している顔料インクを印刷ヘッド3側に送り出す。
【0022】
なお、インクカートリッジ5の外郭形状を提供するカートリッジ本体5aの一面には、加圧空間14に加圧空気を送り込むための加圧空気導入口16と、カートリッジ本体5a内のインク貯留室11に開閉弁を介して接続されたインク供給口17とが配設されている。
以上のインクカートリッジ5は、インクジェットプリンタ1内の所定位置に装着すると、インク供給口17はインク供給チューブ21を介してキャリッジ7上のサブインクタンク23に接続され、加圧空気導入口16はインクジェットプリンタ1内に装備されている加圧周辺システム(圧力調整部)25に接続される。
【0023】
サブインクタンク23は、インクカートリッジ5から印刷ヘッド3に供給される顔料インクを一時貯留すると共に、貯留している顔料インクを攪拌する貯留インク攪拌機能が備えられていて、キャリッジ7の走査に伴うインクの圧力変動を吸収すると同時に、印刷ヘッド3へのインクの供給を安定させる役割を果たす。
【0024】
本実施の形態のインクジェットプリンタ1の場合、インク貯留室11とサブインクタンク23との間を繋ぐインク供給チューブ21には、インク供給チューブ21の流路を開閉する切替弁26が装備されている。この切替弁26は、例えばインクカートリッジ5の交換時等に、インクジェットプリンタ1内の各部の動作を制御するプリンタコントローラ31(圧力調整制御部)からの制御信号に基づいてインク供給チューブ21の流路を開閉する。
【0025】
印刷ヘッド3やサブインクタンク23を搭載するキャリッジ7は、印刷用紙(記録媒体)の搬送方向(副走査方向)と直交する主走査方向(用紙幅方向)に、移動可能に支持されていて、キャリッジ駆動用のパルスモータ27により、主走査方向に移動操作される。
【0026】
加圧周辺システム25は、主として加圧空気導入口16を介して加圧空間14に加圧空気を送り込む加圧ポンプ41、加圧空間14に供給する加圧空気の供給量を調節するなどして加圧空間14内の圧力を調整する圧力調整弁43、加圧空間14内の圧力を検出する圧力検出器45を備えている。インク送給時に加圧空間14を所定の圧に加圧したり、インク送給後の加圧空間14の減圧を行うことが可能である。この加圧周辺システム25は、プリンタコントローラ31により動作制御されて、加圧空間14の加圧・減圧を行う。
【0027】
プリンタコントローラ31は、書き換え可能な記憶素子に格納されているファームウエア(制御プログラム)33に基づいて、プリンタ内各部の動作を制御する。例えば、印刷処理時に、紙送りモータ51の動作を制御することで、印刷用紙の搬送速度(搬送量)を制御したり、パルスモータ27の動作を制御することで、印刷ヘッド3の主走査方向への移動を制御したり、加圧周辺システム25や切替弁26の動作を制御してインクカートリッジ5から印刷ヘッド3側へのインク供給量を制御したり、印刷する画像データに基づいて印刷ヘッド3からのインク吐出を制御したりする。
【0028】
また、プリンタコントローラ31は、印刷処理が終了して、印刷ヘッド3をホームポジションへ移動させたときに、キャップ部材53より印刷ヘッド3のノズル面を封止したり、キャップ部材53に接続されているインク排出路55上の吸引ポンプ57を作動させて、印刷ヘッド3に残留しているインクを除去したり、ヘッドクリーニングを行う。
【0029】
さらに、プリンタコントローラ31は、プリンタの電源ON時や、省電力モードからの復帰時に、加圧周辺システム25によりインク貯留室11を所定圧に加圧して印刷ヘッド3側にインクを供給する制御を行う。プリンタの電源OFF時や省電力モードに移行する時には、加圧周辺システム25によりインク貯留室11の加圧状態を所定の減圧状態に減圧処理して、印刷ヘッド3側へのインク供給を停止する制御を行う。本実施の形態の場合は、電源ON時、及びプリンタが待機状態である省電力モードからの復帰時には、加減圧繰り返し処理を実施することによって、インク貯留室11内に貯留されている顔料インク中の分散粒子(顔料粒子)の沈降を防止するよう構成されている。
【0030】
加減圧繰り返し処理は、加圧周辺システム25により、インク貯留室11の加圧と減圧を所定回数(n回)だけ繰り返す処理である。具体的には、図3に示すように、電源ON時、あるいは省電力モードからの復帰時には、加圧周辺システム25によりインク貯留室11を強圧で加圧した後(ステップS201)、強い減圧状態に切り替える(ステップS202)。以後、これらのステップS201,202をn回繰り返した後、従来の電源ON時や省電力モードの復帰時と同様に、インク貯留室11を状況に応じた所定の圧力で加圧処理し(ステップS204)、準備加圧状態とする。
【0031】
以上に説明したインクジェットプリンタ1及びその制御方法では、図3に示した加減圧繰り返し処理によりインク貯留室11内に貯留している顔料インクが流動・攪拌されることで、顔料インク中の分散粒子の分散が均等化され、前記分散粒子の沈降を防止することができる。従って、顔料インク中の分散粒子の沈降に起因した色変化等の印刷品質の低下を防止し、色出力が安定した高品位の印刷性能を得ることができる。
【0032】
また、加圧式インクカートリッジ5を使うプリンタでは、インクカートリッジ5内のインクの印刷ヘッド3への送給を制御するために、インクを貯留しているインクカートリッジ5内のインク貯留室11に対して加圧及び減圧を行う加圧周辺システムを装備しているため、上記の加減圧繰り返し処理は、既設の加圧周辺システムの動作制御を行うファームウエア33を改良するだけで、実行することが可能である。すなわち、図3に示した加減圧繰り返し処理を実施するためには、プリンタ1に搭載するファームウエア33を書き換えるだけで良く、ハードウェアの追加や改良が必要とならない。したがって、オフキャリッジタイプのインクジェットプリンタにおいて、ハードウェアの追加や改良をすることなく、インクカートリッジ5内の顔料インク中の分散粒子が沈降することを軽減することができる。
【0033】
さらに、プリンタ1に搭載されるファームウエア33の書き換えにより実現できるため、既存のプリンタに対しても、加減圧繰り返し処理によって顔料インクの沈降を防止して、安定した色出力を得ることが可能になる。
【0034】
なお、上記インクジェットプリンタ1において、例えば、印刷処理中等で、インクカートリッジ5内に貯留されている顔料インクが印刷ヘッド3側に送給されているときは、インク貯留室11内でインクの流動が生じていて、そのインクの流動自体が顔料インク中の分散粒子に対する攪拌作用を生むため、分散粒子の沈降が生じ難い。一方、プリンタ1が電源OFFの状態になっていたり、省電力モードで待機状態にあるときには、インク貯留室11内の顔料インクは静止状態に維持されているため、顔料インク中の分散粒子の沈降が進行し易い。このため、省電力モードからの復帰直後や電源ONの直後に、インクカートリッジ5内の顔料インクがそのまま送給されてしまうと、顔料インク中の分散粒子の沈降の影響を受ける。
【0035】
このような場合に、加減圧繰り返し処理が実施されれば、加減圧繰り返し処理による流動・攪拌作用によって、インクカートリッジ5内に貯留している顔料インク内の分散粒子が、良好な分散状態に戻り、分散粒子の沈降が解消される。したがって、省電力モードからの復帰後、又は電源ON後に印刷処理が開始される時には、インクカートリッジ5内の顔料インク中の分散粒子の分散状態が良好になるので、分散粒子の沈降に起因した印刷性能の低下を防止することができる。
【0036】
なお、前述した加減圧繰り返し処理の実施タイミングは、電源ON時や省電力モードからの復帰時に限定するものではない。図4や図5に示す手順で、加減圧繰り返し処理を実施するようにしても良い。
【0037】
図4は、図1に示したインクジェットプリンタ1における加減圧繰り返し処理の第2実施の形態を示すフローチャートである。
この方法では、電源ON後、通常実施されている初期加圧処理(ステップS301)が終了したら、タイマーにより経過時間を計時し(ステップS302)、予め定めた規定時間が経過したか否かを判定する(ステップS303)。そして、ステップS303において、規定時間が経過したと判定されたときには、その時のインク貯留室11が加圧状態に有るか否かを判定し(ステップS304)、インク貯留室11が加圧状態にあればその時の加圧状態の強弱に応じた減圧状態に切り替える(ステップS305,S306,S307)。そして、強圧で加圧するステップS308と、強い減圧状態に切り替えるステップS309とを交互にn回繰り返す(ステップS310)。
【0038】
そして、加減圧繰り返し処理(ステップS308〜S310)を終了したら、加減圧繰り返し処理を実施する前に、先にステップS304で調べたインク貯留室11が加圧状態であれば(ステップS311:Yes)、前の加圧度に応じて、インク貯留室11の加圧状況を準備加圧状態に復元する(ステップS312,S313,S314)。復元後、電源がOFFでなければ(ステップS315:No)ステップS302に戻る。
すなわち、図4に示した方法の場合、電源投入後は、一定時間毎に、加減圧繰り返し処理を実施するものである。
【0039】
例えば、プリンタへの印刷命令の送信が、省電力モードに移行するための基準時間Taよりも僅かに大きい時間間隔Tbで、繰り返されるような使用状況では、先に図3に示したように省電力モードからの復帰時には必ず加減圧繰り返し処理が実施されてしまう。このため、比較的短時間の時間間隔Tbで加減圧繰り返し処理が繰り返されてしまって、加減圧繰り返し処理を実行する加圧周辺システム25への負担が過剰になることがある。
しかしながら、図4のように、タイマーにより、予め定めた一定時間毎に加減圧繰り返し処理を実施する構成であれば、加減圧繰り返し処理が短時間の内に必要以上に頻繁に繰り返し実施されることを防止することができる。このため、加減圧繰り返し処理を実行する加圧周辺システム25への負担の急増を防止することができ、過剰運用による加圧周辺システム25の低寿命化を防止することができる。
【0040】
図5は、図1に示したインクジェットプリンタ1における加減圧繰り返し処理の第3実施の形態を示すフローチャートである。
この方法では、印刷処理を実施するときには、その印刷処理を開始する直前の時刻を記憶する。すなわち、電源ON後、最後(前回)に実施した印刷処理時に記憶した時刻を前回の印刷開始前時刻Tc1として、所定のメモリに記憶する(ステップS401)。新規に印刷指示を受けた時には(ステップS402:Yes)、その新規の印刷指示による印刷処理の処理開始直前の時刻を新規の印刷開始前時刻Tc2として所定のメモリに記憶し(ステップS403)、前回の印刷開始前時刻Tc1から新規の印刷開始前時刻Tc2までの経過時間(Tc2−Tc1)が、予め定めた基準値Tcより大きいか否かを判定する(ステップS404)。ステップS404で前回の印刷開始前時刻Tc1からの経過時間が基準値Tc以下と判定した場合には(ステップS404:No)、受けた新規の印刷指示の実行に移る(ステップS405)。
【0041】
一方、ステップS404で、前回の印刷開始前時刻Tc1からの経過時間が基準値Tcよりも大きいと判定した場合には(ステップS404:Yes)、ステップS406に移行して、その時のインク貯留室11が加圧状態に有るか否かを判定する。インク貯留室11が加圧状態にあるときには(ステップS406:Yes)、その時の加圧状態の強弱に応じた減圧状態に切り替える処理を実行する(ステップS407,S408,S409)。そして、強圧で加圧するステップS410と、強い減圧状態に切り替えるステップS411とを交互にn回繰り返す(ステップS412)。
【0042】
そして、加減圧繰り返し処理(ステップS410〜S412)を終了したら、加減圧繰り返し処理を実施する前に、先にステップS406で調べたインク貯留室11が加圧状態であれば(ステップS413:Yes)、前の加圧度に応じて、インク貯留室11の加圧状況を準備加圧状態に復元する(ステップS414,S415,S416)。その後、ステップS417に移行して、前回の印刷開始前時刻Tc1の値を今回の印刷開始前時刻に更新した後、ステップS405に戻って、印刷処理を実行する。
【0043】
すなわち、図5に示した方法は、印刷処理を実施するときには、その印刷処理を開始する直前の時刻を記憶し、新規に印刷処理を開始するときには、前回の印刷処理時からの経過時間を算出して、前回の印刷処理時からの経過時間が基準値Tcを超える時にのみ、加減圧繰り返し処理(ステップS410〜S412)を実施するようにしたものである。
【0044】
図5に示した方法も、図4に示した方法と同様に、加減圧繰り返し処理が短時間の内に必要以上に頻繁に繰り返し実施されることを防止して、加減圧繰り返し処理を実行する加圧周辺システム25への負担の急増を防止することができる。
また、図4に示した方法の場合は、印刷動作の有無に関係なく、一定時間が経過するたびに、加減圧繰り返し処理を実施していたが、図5に示した方法の場合には、印刷動作が無い場合には一定時間が経過していても、加減圧繰り返し処理が実施されないため、加減圧繰り返し処理の実施頻度を更に低減させることができ、加圧周辺システム25への負担を更に軽減することができる。
【0045】
なお、本発明に係るインクジェットプリンタ及びその制御方法において、加減圧繰り返し処理で、インク貯留室の加圧と減圧とを交互に繰り返す回数nは、顔料インクの特性や、インク貯留室に加える加圧時と減圧時の圧力差などの条件に応じて、良好な攪拌効果が得られる適正値に設定すると良い。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す内部ブロック図である。
【図2】本発明に係るインクジェットプリンタに装着される加圧式インクカートリッジの外観の模式図である。
【図3】図1に示したインクジェットプリンタにおいて加減圧繰り返し処理を実施する制御方法の第1実施の形態を示すフローチャートである。
【図4】図1に示したインクジェットプリンタにおいて加減圧繰り返し処理を実施する制御方法の第2実施の形態を示すフローチャートである。
【図5】図1に示したインクジェットプリンタにおいて加減圧繰り返し処理を実施する制御方法の第3実施の形態を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0047】
1:インクジェットプリンタ、3:印刷ヘッド、5:インクカートリッジ、7:キャリッジ、11:インク貯留室、14:加圧空間、25:加圧周辺システム、31:プリンタコントローラ、33:ファームウエア、41:加圧ポンプ、43:圧力調整弁、45:圧力検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷ヘッドに供給する顔料インクを貯留したインクカートリッジが、前記印刷ヘッドが搭載されるキャリッジとは離れた位置に設置され、前記インクカートリッジ内の前記顔料インクを貯留するインク貯留室が加圧されることで、前記印刷ヘッドへインクを供給する加圧式インクカートリッジを採用したインクジェットプリンタにおいて、
前記インク貯留室の加圧と減圧を実行する圧力調整部と、
前記圧力調整部による圧力調整を制御する圧力調整制御部と、を備え、
前記圧力調整制御部は、前記加圧と減圧を繰り返す加減圧繰り返し処理が、所定回数だけ実行されたか否かを判定し、所定回数だけ実行されたと判定した場合に、前記インク貯留室を印刷処理を実行するために必要な準備加圧状態にするよう制御することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記圧力調整制御部は、前記加減圧繰り返し処理を、当該インクジェットプリンタが待機状態である省電力モードから復帰した場合、あるいは電源ON時に、実施することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記圧力調整制御部は、電源ON後、タイマーにより経過時間を計時し、一定時間毎に、前記加減圧繰り返し処理を実施することを特徴とする請求項2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記圧力調整制御部は、印刷処理を実施するときにその印刷処理を開始する直前の時刻を記憶し、新規に印刷処理を開始するときに、記憶した前回の印刷処理時からの経過時間を算出して、前回の印刷処理時からの経過時間が基準値を超える場合に、前記加減圧繰り返し処理を実施することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
印刷ヘッドに供給する顔料インクを貯留したインクカートリッジが、前記印刷ヘッドが搭載されるキャリッジとは離れた位置に設置され、前記インクカートリッジ内の前記顔料インクを貯留するインク貯留室が加圧されることで、前記印刷ヘッドへインクを供給する加圧式インクカートリッジを採用したインクジェットプリンタの制御方法において、
前記インク貯留室の加圧と減圧を繰り返す加減圧繰り返し処理が、所定回数だけ実行されたか否かを判定するステップと、
所定回数だけ実行されたと判定した場合に、前記インク貯留室を印刷処理を実行するために必要な準備加圧状態にするステップと、を有することを特徴とするインクジェットプリンタの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−234214(P2009−234214A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86617(P2008−86617)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】