インクジェットヘッドおよびインクジェットヘッドの製造方法
【課題】インクと電極との間の電気的な絶縁を維持することができ、印字品質が良好で、耐久性に優れたインクジェットヘッドを得ることにある。
【解決手段】インクジェットヘッドは、インクが供給される複数の溝を有するとともに圧電材料で構成されたアクチュエータと、アクチュエータに接着剤で固定されたノズルプレートとを具備する。ノズルプレートは、溝の開口端をアクチュエータの上側から覆うとともに、溝に向けて照射されたレーザ光により形成された複数のノズルを有する。溝の内面に電極が形成されている。電極は、ノズルプレートを貫通したレーザ光が照射される溝内の領域から外れている。電極の上およびレーザ光が照射される溝内の領域に対応する溝の内面に、電気絶縁性を有する保護膜が形成されている。
【解決手段】インクジェットヘッドは、インクが供給される複数の溝を有するとともに圧電材料で構成されたアクチュエータと、アクチュエータに接着剤で固定されたノズルプレートとを具備する。ノズルプレートは、溝の開口端をアクチュエータの上側から覆うとともに、溝に向けて照射されたレーザ光により形成された複数のノズルを有する。溝の内面に電極が形成されている。電極は、ノズルプレートを貫通したレーザ光が照射される溝内の領域から外れている。電極の上およびレーザ光が照射される溝内の領域に対応する溝の内面に、電気絶縁性を有する保護膜が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、アクチュエータに接着されたノズルプレートにレーザ光を照射することでノズルを形成したインクジェットヘッドおよびインクジェットヘッドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のノズルからインクを吐出させるインクジェットヘッドでは、圧電材料で構成されたアクチュエータにインクが供給される複数の溝が形成されている。各溝においては、溝の底面から側面に至る領域に駆動電圧が印加される電極が設けられている。
【0003】
電極は、インクから保護する保護膜で覆われている。保護膜としては、例えばポリパラキシレンのような有機被膜が用いられている。有機被膜は、各種の酸化物や窒化物を用いた無機被膜よりもピンホールが発生する確率が低い。そのため、電気導電性を有する多種多様のインクを用いた場合でも、インクと電極との間の電気絶縁性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4182680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のインクジェットヘッドによると、インクを吐出するノズルは、アクチュエータに接着されたノズルプレートにレーザ光を照射することにより形成されている。ノズルを形成するレーザ光は、ノズルプレートを貫通した直後に溝内に入射するとともに、電極を覆う保護膜の上に照射される。
【0006】
しかしながら、保護膜を構成する有機被膜は、レーザ光を受けると蒸発して孔が開くので、有機被膜のうちレーザ光を受けた領域がダメージを受ける。
【0007】
この結果、有機被膜に開いた孔から電極が露出してしまい、インクと電極との間の電気絶縁性を維持することができなくなる。よって、特に電気導電性を有するインクを用いた場合、電極が早期のうちに溶解してしまい、インクジェットヘッドの耐久性が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態によれば、インクジェットヘッドは、インクが供給される複数の溝を有するとともに圧電材料で構成されたアクチュエータと、アクチュエータに接着剤で固定されたノズルプレートとを具備する。ノズルプレートは、溝の開口端をアクチュエータの上側から覆うとともに、溝に向けて照射されたレーザ光により形成された複数のノズルを有する。溝の内面に電極が形成されている。電極は、ノズルプレートを貫通したレーザ光が照射される溝内の領域から外れている。電極の上およびレーザ光が照射される溝内の領域に対応する溝の内面に、電気絶縁性を有する保護膜が形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの斜視図。
【図2】第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの平面図。
【図3】図2のF3−F3線に沿う断面図。
【図4】第1の実施形態において、アクチェエータの溝、電極および保護膜との位置関係を示す断面図。
【図5】図4のF5−F5線に沿う断面図。
【図6】図4のF6の部分を拡大して示す断面図。
【図7】第1の実施形態において、アクチュエータの本体に複数の溝を形成した状態を示す断面図。
【図8】第1の実施形態において、本体に形成した溝の上に導電層を形成した状態を示す断面図。
【図9】第1の実施形態において、導電層をレジストで覆った状態を示す断面図。
【図10】第1の実施形態において、レジストを露光する際に、レジストに対する紫外線の入射方向を示す断面図。
【図11】第1の実施形態において、レジストの一部を除去して導体層の一部を露出させた状態を示す断面図。
【図12】第1の実施形態において、導体層を除去して溝の一部および本体の表面を露出させた状態を示す断面図。
【図13】第1の実施形態において、溝内に残ったレジストを除去して溝内に電極を形成した状態を示す断面図。
【図14】第2の実施形態において、溝の側面、三層構造の電極および保護膜の位置関係を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態について、図1ないし図13を参照して説明する。
【0011】
図1ないし図3は、例えばプリンタのキャリッジに搭載して使用するオンディマンド型のインクジェットヘッド1を開示している。インクジェットヘッド1は、インク槽2、基板3、スペーサ4およびノズルプレート5を備えている。
【0012】
インク槽2は、インク供給管6およびインク戻し管7を介してインクカートリッジに接続されている。
【0013】
基板3は、細長い実装面3aを有する矩形状であり、インク槽2の開口端を塞ぐようにインク槽2の上に重ねられている。基板3としては、例えばアルミナ(Al2O3)、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)およびチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O3)等を用いることができる。
【0014】
複数のインク供給口8および複数のインク排出口9が基板3に設けられている。インク供給口8およびインク排出口9は、基板3の実装面3aに開口されている。
【0015】
図2および図3に示すように、インク供給口8は、基板3の幅方向に沿う一端部および他端部において、基板3の長手方向に間隔を存して一列に並んでいる。インク排出口9は、基板3の幅方向に沿う中央部において、基板3の長手方向に間隔を存して一列に並んでいる。
【0016】
スペーサ4は、四角い枠状である。スペーサ4は、基板3の実装面3aの上に接着されて、インク供給口8およびインク排出口9を取り囲んでいる。
【0017】
ノズルプレート5は、例えば厚さが50μmのポリイミドフィルムで構成されている。ノズルプレート5は、スペーサ4の上に接着されて基板3の実装面3aと向かい合っている。
【0018】
図3に示すように、基板3、スペーサ4およびノズルプレート5は、互いに協働してインク流通室11を構成している。インク流通室11は、インク供給口8およびインク排出口9を介してインク槽2に通じている。インク供給口8は、インクをインク槽2からインク流通室11に供給する。インク流通室11に供給された余剰のインクは、インク排出口9からインク槽2に戻される。
【0019】
図1および図2に示すように、一対のノズル列12a,12bがノズルプレート5に形成されている。ノズル列12a,12bは、ノズルプレート5の長手方向に延びるように、ノズルプレート5の幅方向に間隔を存して互いに平行に配置されている。
【0020】
ノズル列12a,12bは、夫々複数のノズル13を有している。ノズル13は、ノズルプレート5を厚み方向に貫通するミクロン単位の微小な孔である。ノズル13は、ノズルプレート5に例えばエキシマレーザ装置を用いたレーザ加工を施すことにより形成されている。ノズル13は、インク流通室11に開口するように互いに間隔を存して並んでいるとともに、印字すべき記録媒体と向かい合うようになっている。
【0021】
図4に示すように、本実施の形態では、エキシマレーザ装置から出力されるレーザ光の焦点Fの位置をノズルプレート5の外側にずれた位置に設定している。これにより、レーザ光は、ノズルプレート5を貫通する際に、インク流通室11の方向に進むに従い連続的に拡開する。
【0022】
この結果、レーザ加工されるノズル13は、インク流通室11の方向に進むに従い口径が逐次増大するテーパ状に形成されている。本実施形態のノズル13は、例えばインクの吐出量が3pLの場合は、インク流通室11に開口する上流端の口径が40μmであり、インク流通室11とは反対側に開口する吐出端の口径が20μmとなっている。ノズル13の寸法は、インクの吐出量に応じて所定の値に設定される。
【0023】
図2および図3に示すように、インク流通室11に一対のアクチュエータ15a,15bが収容されている。一方のアクチュエータ15aは、一方のノズル列12aの真下に位置するように基板3の実装面3aの上に接着されている。他方のアクチュエータ15bは、他方のノズル列12bの真下に位置するように基板3の実装面3aの上に接着されている。
【0024】
アクチュエータ15a,15bは、互いに共通の構成を有している。そのため、第1の実施形態では、一方のアクチュエータ15aを代表して説明し、他方のアクチュエータ15bについては、同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0025】
アクチュエータ15aは、細長い板状の本体16を備えている。図4に示すように、本体16は、二枚の圧電部材17a,17bを厚み方向に重ねて接着したものであり、ノズル列12aに沿って延びている。圧電部材17a,17bは、その分極方向が圧電部材17a,17bの厚さ方向に互いに逆向きとなっている。
【0026】
圧電部材17a,17bとしては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)等を用いることができ、本実施形態では、圧電定数の高いPZTを用いている。
【0027】
本体16は、表面18、裏面19および側面20a,20bを有している。表面18は、ノズルプレート5に面している。裏面19は、表面18の反対側に位置されて、基板3の実装面3aに面している。
【0028】
一方の側面20aは、表面18の幅方向に沿う一端と裏面19の幅方向に沿う一端との間に跨っている。他方の側面20bは、表面18の幅方向に沿う他端と裏面19の幅方向に沿う他端との間に跨っている。さらに、側面20a,20bは、表面18から裏面19の方向に進むに従い互いに遠ざかる方向に傾斜している。
【0029】
図2、図4および図6に示すように、複数の溝22および複数の隔壁23が本体16に形成されている。溝22は、本体16の長手方向に間隔を存して一列に並んでいるとともに、本体16の表面18および側面20a,20bに連続して開口されている。
【0030】
各溝22は、底面24と、一対の側面25a,25bとで規定されている。側面25a,25bは、溝22の幅方向に間隔を存して向かい合っている。さらに、溝22は、上側の圧電部材17aを貫通して下側の圧電部材17bの厚み方向に沿う途中にまで達している。このため、溝22の底面24は、下側の圧電部材17bで構成されている。溝22の側面25a,25bは、夫々上側の圧電部材17aで構成された第1の部分26と、下側の圧電部材17bで構成された第2の部分27とを備えている。
【0031】
溝22の深さは、溝22の幅よりも大きく設定されている。溝22の深さと幅との比(深さ/幅)で定まるアスペクト比は、溝22が深くて、幅が狭まる程に高くなる。アスペクト比および溝22の間隔は、インクジェットヘッド1に要求される解像度やインクの吐出量に応じて所定の値に設定される。
【0032】
さらに、本体16の隔壁23は、隣り合う溝22の間に介在されて、溝22を互いに分離している。
【0033】
本実施形態によると、溝22は、本体16に例えばダイヤモンドブレードを用いた切削加工を施すことで形成されている。そのため、図4および図5に示すように、溝22の内面は、数多くのミクロン単位の凹凸28を有している。加えて、PZT製の本体16は脆いために、本体16に切削加工を施す過程において、溝22の内面となる底面24および側面25a,25bが部分的に欠落することがあり得る。この結果、切削加工された溝22の内面は、平滑度が失われた粗面となっている。
【0034】
図4に示すように、ノズルプレート5は、溝22が開口された本体16の表面18に接着剤30を介して接着されている。溝22とノズルプレート5とで規定された空間は、複数の圧力室31を構成している。圧力室31は、インク室11に供給されたインクが流入するようにインク室11に連通されている。さらに、ノズルプレート5のノズル13は、個々に圧力室31の中央部に開口されている。
【0035】
本体16の表面18とノズルプレート5との間に充填された接着剤30は、その一部が余剰部分32となって圧力室30内に食み出している。接着剤30の余剰部分32は、ノズルプレート5の圧力室31に臨む面に付着した状態で硬化されているとともに、圧力室31内でノズル13の開口端と隣り合っている。
【0036】
接着剤30の余剰部分32にカット部33が形成されている。カット部33は、ノズル13を形成するためのレーザ光が余剰部分32を通過した後に残った箇所であり、レーザ光の照射方向に沿うように傾斜している。
【0037】
すなわち、図4に二点鎖線で示すように、例えば余剰部分32の端部32aが圧力室31に開口するノズル13の上流端に張り出していた場合、端部32aは、ノズルプレート5を貫通するレーザ光により除去される。よって、ノズル13の上流端の一部が接着剤30によって塞がれることはない。
【0038】
圧力室31を規定する溝22の内側に夫々電極35が設けられている。電極35は、溝22の底面24および溝22の側面25a,25bを連続して覆っている。隣り合う溝22の電極35は、電気的に独立するように互いに切り離されている。
【0039】
図6に示すように、電極35は、ニッケルめっき層36と金めっき層37とを有する二層構造となっている。ニッケルめっき層36および金めっき層37は、夫々金属層の一例である。ニッケルめっき層36は、本体16および溝22に無電解ニッケルめっきを施すことにより構成され、電極35の下地となっている。ニッケルめっき層36の厚さは、例えば0.8μmである。
【0040】
金めっき層37は、ニッケルめっき層36の上に電解金めっきを施すことにより構成されている。金めっき層37は、ニッケルめっき層36の上に積層されて、ニッケルめっき層36を被覆している。金めっき層37の厚さは、例えば0.1μmである。
【0041】
図4に示すように、ノズル13に対応する溝22の中央部では、電極35は、溝22の底面24と、溝22の側面25a,25bのうち底面24に連続した第2の部分27とにのみ設けられている。
【0042】
言い換えると、溝22の側面25a,25bのうちノズル13に隣接した第1の部分26に電極35は存在せず、ノズル13に対応する溝22の中央部では、電極35はノズル13と向かい合う溝22の底部にのみ設けられている。
【0043】
したがって、溝22の側面25a,25bは、電極35が存在しない領域38を有している。この領域38は、前記ノズルプレート5を貫通して圧力室31に入射されたレーザ光の照射領域に対応している。
【0044】
電極35は、基板3の実装面3aの上に形成された複数の導体パターン39に電気的に接続されている。導体パターン39の先端は、スペーサ4の外に導かれているとともに、複数のテープキャリアパッケージ40に接続されている。テープキャリアパッケージ40は、インクジェットヘッド1を駆動する駆動回路41を搭載している。
【0045】
駆動回路41は、インクジェットヘッド1の電極35に駆動パルスを印加する。これにより、圧力室31を間に挟んで隣り合う電極35の間に電位差が生じ、これら電極35に対応する隔壁23に電界が生じる。この結果、隔壁23がシェアモードで変形し、圧力室31に充填されたインクが加圧される。加圧されたインクの一部は、複数のインク滴となってノズル13から記録媒体に向けて吐出される。
【0046】
図4および図5に示すように、各溝22の電極35は、保護膜43で覆われている。保護膜43は、例えばパリレンのような電気絶縁性を有する有機材料で構成されている。保護膜43は、電極35の表層となる金めっき層37の上に積層されているとともに、溝22の側面25a,25bのうち電極35が存在しない領域38では、側面25a,25bの第1の部分26の上に積層されている。したがって、保護膜43は、ノズルプレート5にノズル13を形成する際に、レーザ光の照射を受ける。
【0047】
図4に示すように、溝22の側面25a,25bは、数多くの微小な凹凸28を有する粗面となっている。このため、電極35が存在しない領域38の箇所で側面25a,25bに積層された保護膜43は、側面25a,25bの表面粗さの影響を受ける。すなわち、側面25a,25bの表面粗さが粗くなっていると、保護膜43にピンホールが発生する確率が増える。
【0048】
そのため、保護膜43にピンホールが発生するのを防ぐためには、保護膜43の膜厚を3μm以上とすることが望ましい。
【0049】
第1の実施形態のインクジェットヘッド1によると、ノズル13を形成するレーザ光は、図4に示すように、基板3に接着されたノズルプレート5を貫通して圧力室31に入射する。レーザ光は、圧力室31の方向に進むに従い拡開するので、レーザ光の一部が保護膜43の上に照射される。そのため、保護膜43のうちレーザ光が照射された箇所は、レーザ光によってダメージを受ける。
【0050】
保護膜43のうちレーザ光が照射された部位は、溝22の底面24よりもノズル13に近い溝22の側面25a,25bの第1の部分26に相当し、第1の部分26は電極35が存在しない領域38となっている。
【0051】
このため、保護膜43のうちレーザ光の照射を受けた部位に孔が開いたとしても、この孔から露出されるのは溝22の側面25a,25bであって、電極35は保護膜43で覆われた状態に維持される。
【0052】
したがって、圧力室31に供給されるインクと電極35との間を電気的に絶縁された状態に保つことができ、たとえインクが導電性を有していても、インクに電流が流れることに起因する電極35の腐食およびインクの電気分解を回避できる。よって、印字品質が良好で、しかも耐久性に優れたインクジェットヘッド1を得ることができる。
【0053】
本発明者は、保護膜43の膜厚とピンホールの有無との関係について調べる試験を行った。この試験では、保護膜43の材料としてパリレンC、パリレンN、パリレンSR、パリレンFを用いた四つのサンプルを準備し、夫々のサンプルの保護膜43の膜厚を1〜5μmの範囲内で変化させた時に、保護膜43にピンホールがあるか否かを調べた。
【0054】
以下の表1は、試験結果を示している。
【表1】
【0055】
表1から明らかなように、保護膜43としてパリレンCを使用したサンプルでは、保護膜43の膜厚が1μmおよび2μmの時にピンホールの存在が明らかとなった。これに対し、パリレンCを用いたサンプルにおいても、保護膜43の膜厚を3μmおよび5μmとした時は、ピンホールの存在が認められなかった。
【0056】
保護膜43として膜厚が5μmのパリレンNおよびパリレンSRを使用したサンプルでは、ピンホールの存在は認められなかった。
【0057】
一方、保護膜として膜厚が1μmのパリレンSRおよび膜厚が2μmのパリレンSFを使用したサンプルでは、ピンホールの存在が認められた。
【0058】
以上のことから、保護膜43にピンホールが発生しないようにするためには、有機材料で構成された保護膜43の膜厚を3μm以上とする必要があることが明らかとなった。
【0059】
保護膜43は、インクを加圧する圧力室31に露出しているので、保護膜43の膜厚が厚すぎると、圧力室31の幅寸法が減じられてインクの吐出量が少なくなるのを否めない。そのため、ピンホールの発生を抑えつつインクの吐出量を確保するためには、保護膜43の膜厚を3μm以上、5μm以下に設定することが好ましいとの結論を得た。
【0060】
次に、第1の実施形態のインクジェットヘッド1を製造する手順について、図7ないし図13を参照して説明する。
【0061】
二枚の圧電部材17a,17bを重ね合わせてアクチュエータ15a,15bの本体16を形成する。
【0062】
この後、ダイヤモンドブレードを用いて本体16に切削加工を施すことで、本体16に図7に示すような複数の溝22を形成する。溝22の底面24および側面25a,25bは、ダイヤモンドブレードを用いた切削加工により、数多くのミクロン単位の凹凸28を有する粗面となっている。
【0063】
この後、本体16の表面18、側面20a,20b、溝22の底面24および側面25a,25bに無電解ニッケルめっきを施すことで、厚さが2μmのニッケルめっき層36を形成する。引き続いて、ニッケルめっき層36に電解金めっきを施すことで、ニッケルめっき層36の上に厚さが0.1μmの金めっき層37を形成する。
【0064】
この結果、図8に示すように、溝22の内側および本体16の表面18の上に二層構造の導電層51が形成される。導電層51は、溝22の底面24、側面25a,25bおよび本体16の表面18を連続して覆っている。
【0065】
この後、図9に示すように、導電層51の表層となる金めっき層37の上に、例えば電着法を用いてポジタイプのレジスト52を積層する。レジスト52の厚さは、例えば5μmである。レジスト52は、溝22の内側から本体16の表面18の上に連続して形成されている。
【0066】
この後、図10に示すように、レジスト52を紫外線で露光する。紫外線は、平行光となって溝22に入射される。具体的には、紫外線が溝22の側面25a,25bの第1の部分26および本体16の表面18のみに向かうように、レジスト52に対する紫外線の入射角αを設定する。入射角αは、レジスト52の厚さによって変化する。
【0067】
さらに、レジスト52は、溝22の内側から本体16の表面18に露出された角部53を有している。レジスト52の角部53は、溝22の底面24および溝22の側面25a,25bの第2の部分27に向かう紫外線を遮る遮光角βを設定している。これにより、平行光で溝22に向かう紫外線は、溝22の側面25a,25bの第1の部分26に入射することになり、溝22に対する紫外線の入射範囲が定まる。
【0068】
この結果、レジスト52は、本体16の表面18および溝22の側面25a,25bの第1の部分26に対応した部分が露光され、この部分に潜像が形成される。
【0069】
この後、露光されたレジスト52を現像して洗浄する。これにより、レジスト52に形成された潜像が溶けて除去される。この結果、図11に示すように、レジスト52は、溝22の底面24から側面25a,25bの第2の部分27に対応した部位のみが残った状態となる。
【0070】
言い換えると、レジスト52は、溝22の底から溝22の深さ方向に沿う中間部に至る領域のみに形成される。それとともに、レジスト52の溶解に伴って、導電層51のうち溝22の深さ方向に沿う中間部から本体16の表面18に至る部位がレジスト52で覆われることなく本体16の外に露出された状態となる。
【0071】
レジスト52の現像が終了した後、導電層51のうち本体16の外に露出された部位をエッチングにより除去する。エッチングでは、ニッケルおよび金を化学的に溶解させることができる酸性のエッチング液を使用する。エッチング液としては、リン酸、酢酸、硝酸および純水の混合液を用いることができる。
【0072】
このエッチング処理により、図12に示すように、導電層51のうち溝22の深さ方向に沿う中間部から本体16の表面18に至る部位が除去され、溝22の側面25a,25bの第1の部分26および第1の部分26に連続する本体16の表面18が露出された状態となる。
【0073】
エッチングが完了したら、溝22の内側に残っているレジスト52を例えば剥離液を用いて除去する。この結果、図13に示すように、溝22の底面24および側面25a,25bの第2の部分27を覆った導電層51が露出され、この導電層51により電極35が形成される。
【0074】
引き続いて、電極35の上、電極35が存在しない溝22の側面25a,25bの領域38の上および本体16の表面18の上に保護膜43を形成する。保護膜43としては、電気絶縁性を有する有機材料の一例であるパリレンを使用している。
【0075】
この後、保護膜43で覆われた本体16の表面18に、ノズル形成前のノズルプレート5を接着剤30で接着する。これにより、本体16の溝22とノズルプレート5との間に複数の圧力室31が形成される。保護膜43は、圧力室31に露出されて、圧力室31にインクが供給された時にインクに浸かる。
【0076】
図4に示すように、本体16の表面18とノズルプレート5との間に充填された接着剤30は、その余剰部分32が圧力室31に食み出す。食み出した接着剤30の余剰部分32は、ノズルプレート5の圧力室31に臨む面に薄い膜となって残る。
【0077】
この後、ノズルプレート5に例えばエキシマレーザ装置を用いたレーザ加工を施すことにより、ノズルプレート5に複数のノズル13を形成する。具体的には、ノズルプレート5にノズルプレート5の上側からレーザ光を照射する。これにより、ポリイミドフィルム製のノズルプレート5が物理的に蒸発することでノズル13が形成される。
【0078】
図4に示すように、レーザ光の焦点Fは、ノズルプレート5の外側に位置するので、レーザ光は圧力室31の方向に進むに従い拡開する。そのため、ノズル13は、圧力室31の方向に進むに従い口径が連続的に増大するようなテーパ状に形成される。
【0079】
レーザ光は、ノズルプレート5を厚み方向に貫通した後、圧力室31に入射する。そのため、圧力室31に露出された保護膜43は、ノズル13の近傍でレーザ光の照射を受ける。
【0080】
有機材料で構成された保護膜43は、レーザ光が照射された時にダメージを受けるのを避けられない。しかるに、保護膜43のうちレーザ光が照射された箇所は、溝22の底面24よりもノズル13に近い溝22の側面25a,25bの第1の部分26に対応している。第1の部分26は、電極25が存在しない領域38となっている。
【0081】
このため、保護膜43のうちレーザ光の照射を受けた箇所に孔が開いたとしても、この孔から露出されるのは溝22の側面25a,25bに止まる。したがって、電極25は保護膜43で覆われた状態に維持される。
【0082】
接着剤30の余剰部分32の端部32aが圧力室31内でノズル13を形成すべき領域に張り出していた場合、余剰部分32の端部32aは、レーザ光が圧力室31に入射した時点で、レーザ光により除去される。
【0083】
この結果、接着剤30の余剰部分32がノズル13を塞ぐことはない。よって、接着剤30の余剰部分32がノズル13から吐出されるインクの流れに悪影響を及ぼすことはなく、印字品質を良好に維持できる。
【0084】
[第2の実施形態]
図14は、第2の実施形態を開示している。
【0085】
第2の実施形態は、電極の構成が第1の実施形態と相違している。それ以外のインクジェットヘッドの基本的な構成は、第1の実施形態と同様である。そのため、第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0086】
図14に示すように、電極60は、銅めっき層61、ニッケルめっき層62および金めっき層63を有する三層構造となっている。銅めっき層61は、第1の金属層の一例であり、電極60の下地を構成している。銅めっき層61は、溝22の底面24および側面25a,25bの第2の部分27の上に形成されている。銅めっき層61の厚さは、例えば1μmである。
【0087】
ニッケルめっき層62は、銅めっき層61の上に積層されて、銅めっき層61を被覆している。ニッケルめっき層62の厚さは、例えば0.8μmである。
【0088】
金めっき層63は、ニッケルめっき層62の上に積層されて、ニッケルめっき層62を被覆している。金めっき層63の厚さは、例えば0.1μmである。ニッケルめっき層62および金めっき層63は、夫々第2の金属層の一例である。さらに、金めっき層63は、電極60の表層となるとともに、有機材料で構成された保護膜43で覆われている。
【0089】
第2の実施形態では、電極60を形成する手順が第1の実施形態と異なっており、それ以外のインクジェットヘッド1を製造する手順は、第1の実施形態と同様である。そのため、第2の実施形態では、電極60を形成する手順についてのみ説明する。
【0090】
アクチュエータ15a,15bの本体16に溝22を形成した後、本体16の表面18、側面20a,20b、溝22の底面24および側面25a,25bに無電解銅めっきを施すことで、厚さが1μmの銅めっき層61を形成する。
【0091】
引き続いて、前記第1の実施形態と同様に、銅めっき層61の上にポジタイプのレジストを積層した後、レジストを紫外線で露光する。さらに、露光されたレジストを現像して洗浄し、銅めっき層61のうち溝22の深さ方向に沿う中間部から本体18の表面18に至る部位を露出させる。
【0092】
この後、本体18の外に露出された銅めっき層61をエッチングにより除去し、溝22の側面25a,25bの第1の部分26および本体16の表面18を露出させる。
【0093】
エッチングが完了したら、溝22内に残っているレジストを除去し、レジストで覆われていた銅めっき層61を溝22内に露出させる。
【0094】
この後、銅めっき層61に無電解ニッケルめっきを施すことで、厚さが0.8μmのニッケルめっき層62を形成する。引き続いて、ニッケルめっき層62に電解金めっきを施すことで、ニッケルめっき層62の上に厚さが0.1μmの金めっき層63を形成する。この結果、溝22の内側に三層構造の電極60が形成される。
【0095】
最後に、電極60の上および電極60が存在しない溝22の側面25a,25bの領域38の上に保護膜43を形成することで、一連の電極60の形成工程が完了する。
【0096】
このような第2の実施形態においても、保護膜43のうちレーザ光が照射される箇所は、溝22の側面25a,25bの第1の部分26に対応しており、第1の部分26に電極60は存在しない。そのため、保護膜43のうちレーザ光の照射を受けた箇所に孔が開いたとしても、この孔から露出されるのは溝22の側面25a,25bに止まる。
【0097】
したがって、第1の実施形態と同様に、電極60は保護膜43で覆われた状態に維持され、電極60の損傷を防止することができる。
【0098】
第1および第2の実施形態において、レジストはポジタイプで電着法を用いて使用できるものであれば、その種類は問わない。
【0099】
さらに、ポジタイプのレジストの代わりに、ネガタイプのレジストを用いても良い。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1…インクジェットヘッド、5…ノズルプレート、13…ノズル、15a,15b…アクチュエータ、18…表面、20a,20b…側面、22…溝、30…接着剤、35,60…電極、36,37,61,62,63…金属層(ニッケルめっき層、金めっき層、銅めっき層)、43…保護膜。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、アクチュエータに接着されたノズルプレートにレーザ光を照射することでノズルを形成したインクジェットヘッドおよびインクジェットヘッドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のノズルからインクを吐出させるインクジェットヘッドでは、圧電材料で構成されたアクチュエータにインクが供給される複数の溝が形成されている。各溝においては、溝の底面から側面に至る領域に駆動電圧が印加される電極が設けられている。
【0003】
電極は、インクから保護する保護膜で覆われている。保護膜としては、例えばポリパラキシレンのような有機被膜が用いられている。有機被膜は、各種の酸化物や窒化物を用いた無機被膜よりもピンホールが発生する確率が低い。そのため、電気導電性を有する多種多様のインクを用いた場合でも、インクと電極との間の電気絶縁性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4182680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のインクジェットヘッドによると、インクを吐出するノズルは、アクチュエータに接着されたノズルプレートにレーザ光を照射することにより形成されている。ノズルを形成するレーザ光は、ノズルプレートを貫通した直後に溝内に入射するとともに、電極を覆う保護膜の上に照射される。
【0006】
しかしながら、保護膜を構成する有機被膜は、レーザ光を受けると蒸発して孔が開くので、有機被膜のうちレーザ光を受けた領域がダメージを受ける。
【0007】
この結果、有機被膜に開いた孔から電極が露出してしまい、インクと電極との間の電気絶縁性を維持することができなくなる。よって、特に電気導電性を有するインクを用いた場合、電極が早期のうちに溶解してしまい、インクジェットヘッドの耐久性が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態によれば、インクジェットヘッドは、インクが供給される複数の溝を有するとともに圧電材料で構成されたアクチュエータと、アクチュエータに接着剤で固定されたノズルプレートとを具備する。ノズルプレートは、溝の開口端をアクチュエータの上側から覆うとともに、溝に向けて照射されたレーザ光により形成された複数のノズルを有する。溝の内面に電極が形成されている。電極は、ノズルプレートを貫通したレーザ光が照射される溝内の領域から外れている。電極の上およびレーザ光が照射される溝内の領域に対応する溝の内面に、電気絶縁性を有する保護膜が形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの斜視図。
【図2】第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの平面図。
【図3】図2のF3−F3線に沿う断面図。
【図4】第1の実施形態において、アクチェエータの溝、電極および保護膜との位置関係を示す断面図。
【図5】図4のF5−F5線に沿う断面図。
【図6】図4のF6の部分を拡大して示す断面図。
【図7】第1の実施形態において、アクチュエータの本体に複数の溝を形成した状態を示す断面図。
【図8】第1の実施形態において、本体に形成した溝の上に導電層を形成した状態を示す断面図。
【図9】第1の実施形態において、導電層をレジストで覆った状態を示す断面図。
【図10】第1の実施形態において、レジストを露光する際に、レジストに対する紫外線の入射方向を示す断面図。
【図11】第1の実施形態において、レジストの一部を除去して導体層の一部を露出させた状態を示す断面図。
【図12】第1の実施形態において、導体層を除去して溝の一部および本体の表面を露出させた状態を示す断面図。
【図13】第1の実施形態において、溝内に残ったレジストを除去して溝内に電極を形成した状態を示す断面図。
【図14】第2の実施形態において、溝の側面、三層構造の電極および保護膜の位置関係を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態について、図1ないし図13を参照して説明する。
【0011】
図1ないし図3は、例えばプリンタのキャリッジに搭載して使用するオンディマンド型のインクジェットヘッド1を開示している。インクジェットヘッド1は、インク槽2、基板3、スペーサ4およびノズルプレート5を備えている。
【0012】
インク槽2は、インク供給管6およびインク戻し管7を介してインクカートリッジに接続されている。
【0013】
基板3は、細長い実装面3aを有する矩形状であり、インク槽2の開口端を塞ぐようにインク槽2の上に重ねられている。基板3としては、例えばアルミナ(Al2O3)、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)およびチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O3)等を用いることができる。
【0014】
複数のインク供給口8および複数のインク排出口9が基板3に設けられている。インク供給口8およびインク排出口9は、基板3の実装面3aに開口されている。
【0015】
図2および図3に示すように、インク供給口8は、基板3の幅方向に沿う一端部および他端部において、基板3の長手方向に間隔を存して一列に並んでいる。インク排出口9は、基板3の幅方向に沿う中央部において、基板3の長手方向に間隔を存して一列に並んでいる。
【0016】
スペーサ4は、四角い枠状である。スペーサ4は、基板3の実装面3aの上に接着されて、インク供給口8およびインク排出口9を取り囲んでいる。
【0017】
ノズルプレート5は、例えば厚さが50μmのポリイミドフィルムで構成されている。ノズルプレート5は、スペーサ4の上に接着されて基板3の実装面3aと向かい合っている。
【0018】
図3に示すように、基板3、スペーサ4およびノズルプレート5は、互いに協働してインク流通室11を構成している。インク流通室11は、インク供給口8およびインク排出口9を介してインク槽2に通じている。インク供給口8は、インクをインク槽2からインク流通室11に供給する。インク流通室11に供給された余剰のインクは、インク排出口9からインク槽2に戻される。
【0019】
図1および図2に示すように、一対のノズル列12a,12bがノズルプレート5に形成されている。ノズル列12a,12bは、ノズルプレート5の長手方向に延びるように、ノズルプレート5の幅方向に間隔を存して互いに平行に配置されている。
【0020】
ノズル列12a,12bは、夫々複数のノズル13を有している。ノズル13は、ノズルプレート5を厚み方向に貫通するミクロン単位の微小な孔である。ノズル13は、ノズルプレート5に例えばエキシマレーザ装置を用いたレーザ加工を施すことにより形成されている。ノズル13は、インク流通室11に開口するように互いに間隔を存して並んでいるとともに、印字すべき記録媒体と向かい合うようになっている。
【0021】
図4に示すように、本実施の形態では、エキシマレーザ装置から出力されるレーザ光の焦点Fの位置をノズルプレート5の外側にずれた位置に設定している。これにより、レーザ光は、ノズルプレート5を貫通する際に、インク流通室11の方向に進むに従い連続的に拡開する。
【0022】
この結果、レーザ加工されるノズル13は、インク流通室11の方向に進むに従い口径が逐次増大するテーパ状に形成されている。本実施形態のノズル13は、例えばインクの吐出量が3pLの場合は、インク流通室11に開口する上流端の口径が40μmであり、インク流通室11とは反対側に開口する吐出端の口径が20μmとなっている。ノズル13の寸法は、インクの吐出量に応じて所定の値に設定される。
【0023】
図2および図3に示すように、インク流通室11に一対のアクチュエータ15a,15bが収容されている。一方のアクチュエータ15aは、一方のノズル列12aの真下に位置するように基板3の実装面3aの上に接着されている。他方のアクチュエータ15bは、他方のノズル列12bの真下に位置するように基板3の実装面3aの上に接着されている。
【0024】
アクチュエータ15a,15bは、互いに共通の構成を有している。そのため、第1の実施形態では、一方のアクチュエータ15aを代表して説明し、他方のアクチュエータ15bについては、同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0025】
アクチュエータ15aは、細長い板状の本体16を備えている。図4に示すように、本体16は、二枚の圧電部材17a,17bを厚み方向に重ねて接着したものであり、ノズル列12aに沿って延びている。圧電部材17a,17bは、その分極方向が圧電部材17a,17bの厚さ方向に互いに逆向きとなっている。
【0026】
圧電部材17a,17bとしては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)等を用いることができ、本実施形態では、圧電定数の高いPZTを用いている。
【0027】
本体16は、表面18、裏面19および側面20a,20bを有している。表面18は、ノズルプレート5に面している。裏面19は、表面18の反対側に位置されて、基板3の実装面3aに面している。
【0028】
一方の側面20aは、表面18の幅方向に沿う一端と裏面19の幅方向に沿う一端との間に跨っている。他方の側面20bは、表面18の幅方向に沿う他端と裏面19の幅方向に沿う他端との間に跨っている。さらに、側面20a,20bは、表面18から裏面19の方向に進むに従い互いに遠ざかる方向に傾斜している。
【0029】
図2、図4および図6に示すように、複数の溝22および複数の隔壁23が本体16に形成されている。溝22は、本体16の長手方向に間隔を存して一列に並んでいるとともに、本体16の表面18および側面20a,20bに連続して開口されている。
【0030】
各溝22は、底面24と、一対の側面25a,25bとで規定されている。側面25a,25bは、溝22の幅方向に間隔を存して向かい合っている。さらに、溝22は、上側の圧電部材17aを貫通して下側の圧電部材17bの厚み方向に沿う途中にまで達している。このため、溝22の底面24は、下側の圧電部材17bで構成されている。溝22の側面25a,25bは、夫々上側の圧電部材17aで構成された第1の部分26と、下側の圧電部材17bで構成された第2の部分27とを備えている。
【0031】
溝22の深さは、溝22の幅よりも大きく設定されている。溝22の深さと幅との比(深さ/幅)で定まるアスペクト比は、溝22が深くて、幅が狭まる程に高くなる。アスペクト比および溝22の間隔は、インクジェットヘッド1に要求される解像度やインクの吐出量に応じて所定の値に設定される。
【0032】
さらに、本体16の隔壁23は、隣り合う溝22の間に介在されて、溝22を互いに分離している。
【0033】
本実施形態によると、溝22は、本体16に例えばダイヤモンドブレードを用いた切削加工を施すことで形成されている。そのため、図4および図5に示すように、溝22の内面は、数多くのミクロン単位の凹凸28を有している。加えて、PZT製の本体16は脆いために、本体16に切削加工を施す過程において、溝22の内面となる底面24および側面25a,25bが部分的に欠落することがあり得る。この結果、切削加工された溝22の内面は、平滑度が失われた粗面となっている。
【0034】
図4に示すように、ノズルプレート5は、溝22が開口された本体16の表面18に接着剤30を介して接着されている。溝22とノズルプレート5とで規定された空間は、複数の圧力室31を構成している。圧力室31は、インク室11に供給されたインクが流入するようにインク室11に連通されている。さらに、ノズルプレート5のノズル13は、個々に圧力室31の中央部に開口されている。
【0035】
本体16の表面18とノズルプレート5との間に充填された接着剤30は、その一部が余剰部分32となって圧力室30内に食み出している。接着剤30の余剰部分32は、ノズルプレート5の圧力室31に臨む面に付着した状態で硬化されているとともに、圧力室31内でノズル13の開口端と隣り合っている。
【0036】
接着剤30の余剰部分32にカット部33が形成されている。カット部33は、ノズル13を形成するためのレーザ光が余剰部分32を通過した後に残った箇所であり、レーザ光の照射方向に沿うように傾斜している。
【0037】
すなわち、図4に二点鎖線で示すように、例えば余剰部分32の端部32aが圧力室31に開口するノズル13の上流端に張り出していた場合、端部32aは、ノズルプレート5を貫通するレーザ光により除去される。よって、ノズル13の上流端の一部が接着剤30によって塞がれることはない。
【0038】
圧力室31を規定する溝22の内側に夫々電極35が設けられている。電極35は、溝22の底面24および溝22の側面25a,25bを連続して覆っている。隣り合う溝22の電極35は、電気的に独立するように互いに切り離されている。
【0039】
図6に示すように、電極35は、ニッケルめっき層36と金めっき層37とを有する二層構造となっている。ニッケルめっき層36および金めっき層37は、夫々金属層の一例である。ニッケルめっき層36は、本体16および溝22に無電解ニッケルめっきを施すことにより構成され、電極35の下地となっている。ニッケルめっき層36の厚さは、例えば0.8μmである。
【0040】
金めっき層37は、ニッケルめっき層36の上に電解金めっきを施すことにより構成されている。金めっき層37は、ニッケルめっき層36の上に積層されて、ニッケルめっき層36を被覆している。金めっき層37の厚さは、例えば0.1μmである。
【0041】
図4に示すように、ノズル13に対応する溝22の中央部では、電極35は、溝22の底面24と、溝22の側面25a,25bのうち底面24に連続した第2の部分27とにのみ設けられている。
【0042】
言い換えると、溝22の側面25a,25bのうちノズル13に隣接した第1の部分26に電極35は存在せず、ノズル13に対応する溝22の中央部では、電極35はノズル13と向かい合う溝22の底部にのみ設けられている。
【0043】
したがって、溝22の側面25a,25bは、電極35が存在しない領域38を有している。この領域38は、前記ノズルプレート5を貫通して圧力室31に入射されたレーザ光の照射領域に対応している。
【0044】
電極35は、基板3の実装面3aの上に形成された複数の導体パターン39に電気的に接続されている。導体パターン39の先端は、スペーサ4の外に導かれているとともに、複数のテープキャリアパッケージ40に接続されている。テープキャリアパッケージ40は、インクジェットヘッド1を駆動する駆動回路41を搭載している。
【0045】
駆動回路41は、インクジェットヘッド1の電極35に駆動パルスを印加する。これにより、圧力室31を間に挟んで隣り合う電極35の間に電位差が生じ、これら電極35に対応する隔壁23に電界が生じる。この結果、隔壁23がシェアモードで変形し、圧力室31に充填されたインクが加圧される。加圧されたインクの一部は、複数のインク滴となってノズル13から記録媒体に向けて吐出される。
【0046】
図4および図5に示すように、各溝22の電極35は、保護膜43で覆われている。保護膜43は、例えばパリレンのような電気絶縁性を有する有機材料で構成されている。保護膜43は、電極35の表層となる金めっき層37の上に積層されているとともに、溝22の側面25a,25bのうち電極35が存在しない領域38では、側面25a,25bの第1の部分26の上に積層されている。したがって、保護膜43は、ノズルプレート5にノズル13を形成する際に、レーザ光の照射を受ける。
【0047】
図4に示すように、溝22の側面25a,25bは、数多くの微小な凹凸28を有する粗面となっている。このため、電極35が存在しない領域38の箇所で側面25a,25bに積層された保護膜43は、側面25a,25bの表面粗さの影響を受ける。すなわち、側面25a,25bの表面粗さが粗くなっていると、保護膜43にピンホールが発生する確率が増える。
【0048】
そのため、保護膜43にピンホールが発生するのを防ぐためには、保護膜43の膜厚を3μm以上とすることが望ましい。
【0049】
第1の実施形態のインクジェットヘッド1によると、ノズル13を形成するレーザ光は、図4に示すように、基板3に接着されたノズルプレート5を貫通して圧力室31に入射する。レーザ光は、圧力室31の方向に進むに従い拡開するので、レーザ光の一部が保護膜43の上に照射される。そのため、保護膜43のうちレーザ光が照射された箇所は、レーザ光によってダメージを受ける。
【0050】
保護膜43のうちレーザ光が照射された部位は、溝22の底面24よりもノズル13に近い溝22の側面25a,25bの第1の部分26に相当し、第1の部分26は電極35が存在しない領域38となっている。
【0051】
このため、保護膜43のうちレーザ光の照射を受けた部位に孔が開いたとしても、この孔から露出されるのは溝22の側面25a,25bであって、電極35は保護膜43で覆われた状態に維持される。
【0052】
したがって、圧力室31に供給されるインクと電極35との間を電気的に絶縁された状態に保つことができ、たとえインクが導電性を有していても、インクに電流が流れることに起因する電極35の腐食およびインクの電気分解を回避できる。よって、印字品質が良好で、しかも耐久性に優れたインクジェットヘッド1を得ることができる。
【0053】
本発明者は、保護膜43の膜厚とピンホールの有無との関係について調べる試験を行った。この試験では、保護膜43の材料としてパリレンC、パリレンN、パリレンSR、パリレンFを用いた四つのサンプルを準備し、夫々のサンプルの保護膜43の膜厚を1〜5μmの範囲内で変化させた時に、保護膜43にピンホールがあるか否かを調べた。
【0054】
以下の表1は、試験結果を示している。
【表1】
【0055】
表1から明らかなように、保護膜43としてパリレンCを使用したサンプルでは、保護膜43の膜厚が1μmおよび2μmの時にピンホールの存在が明らかとなった。これに対し、パリレンCを用いたサンプルにおいても、保護膜43の膜厚を3μmおよび5μmとした時は、ピンホールの存在が認められなかった。
【0056】
保護膜43として膜厚が5μmのパリレンNおよびパリレンSRを使用したサンプルでは、ピンホールの存在は認められなかった。
【0057】
一方、保護膜として膜厚が1μmのパリレンSRおよび膜厚が2μmのパリレンSFを使用したサンプルでは、ピンホールの存在が認められた。
【0058】
以上のことから、保護膜43にピンホールが発生しないようにするためには、有機材料で構成された保護膜43の膜厚を3μm以上とする必要があることが明らかとなった。
【0059】
保護膜43は、インクを加圧する圧力室31に露出しているので、保護膜43の膜厚が厚すぎると、圧力室31の幅寸法が減じられてインクの吐出量が少なくなるのを否めない。そのため、ピンホールの発生を抑えつつインクの吐出量を確保するためには、保護膜43の膜厚を3μm以上、5μm以下に設定することが好ましいとの結論を得た。
【0060】
次に、第1の実施形態のインクジェットヘッド1を製造する手順について、図7ないし図13を参照して説明する。
【0061】
二枚の圧電部材17a,17bを重ね合わせてアクチュエータ15a,15bの本体16を形成する。
【0062】
この後、ダイヤモンドブレードを用いて本体16に切削加工を施すことで、本体16に図7に示すような複数の溝22を形成する。溝22の底面24および側面25a,25bは、ダイヤモンドブレードを用いた切削加工により、数多くのミクロン単位の凹凸28を有する粗面となっている。
【0063】
この後、本体16の表面18、側面20a,20b、溝22の底面24および側面25a,25bに無電解ニッケルめっきを施すことで、厚さが2μmのニッケルめっき層36を形成する。引き続いて、ニッケルめっき層36に電解金めっきを施すことで、ニッケルめっき層36の上に厚さが0.1μmの金めっき層37を形成する。
【0064】
この結果、図8に示すように、溝22の内側および本体16の表面18の上に二層構造の導電層51が形成される。導電層51は、溝22の底面24、側面25a,25bおよび本体16の表面18を連続して覆っている。
【0065】
この後、図9に示すように、導電層51の表層となる金めっき層37の上に、例えば電着法を用いてポジタイプのレジスト52を積層する。レジスト52の厚さは、例えば5μmである。レジスト52は、溝22の内側から本体16の表面18の上に連続して形成されている。
【0066】
この後、図10に示すように、レジスト52を紫外線で露光する。紫外線は、平行光となって溝22に入射される。具体的には、紫外線が溝22の側面25a,25bの第1の部分26および本体16の表面18のみに向かうように、レジスト52に対する紫外線の入射角αを設定する。入射角αは、レジスト52の厚さによって変化する。
【0067】
さらに、レジスト52は、溝22の内側から本体16の表面18に露出された角部53を有している。レジスト52の角部53は、溝22の底面24および溝22の側面25a,25bの第2の部分27に向かう紫外線を遮る遮光角βを設定している。これにより、平行光で溝22に向かう紫外線は、溝22の側面25a,25bの第1の部分26に入射することになり、溝22に対する紫外線の入射範囲が定まる。
【0068】
この結果、レジスト52は、本体16の表面18および溝22の側面25a,25bの第1の部分26に対応した部分が露光され、この部分に潜像が形成される。
【0069】
この後、露光されたレジスト52を現像して洗浄する。これにより、レジスト52に形成された潜像が溶けて除去される。この結果、図11に示すように、レジスト52は、溝22の底面24から側面25a,25bの第2の部分27に対応した部位のみが残った状態となる。
【0070】
言い換えると、レジスト52は、溝22の底から溝22の深さ方向に沿う中間部に至る領域のみに形成される。それとともに、レジスト52の溶解に伴って、導電層51のうち溝22の深さ方向に沿う中間部から本体16の表面18に至る部位がレジスト52で覆われることなく本体16の外に露出された状態となる。
【0071】
レジスト52の現像が終了した後、導電層51のうち本体16の外に露出された部位をエッチングにより除去する。エッチングでは、ニッケルおよび金を化学的に溶解させることができる酸性のエッチング液を使用する。エッチング液としては、リン酸、酢酸、硝酸および純水の混合液を用いることができる。
【0072】
このエッチング処理により、図12に示すように、導電層51のうち溝22の深さ方向に沿う中間部から本体16の表面18に至る部位が除去され、溝22の側面25a,25bの第1の部分26および第1の部分26に連続する本体16の表面18が露出された状態となる。
【0073】
エッチングが完了したら、溝22の内側に残っているレジスト52を例えば剥離液を用いて除去する。この結果、図13に示すように、溝22の底面24および側面25a,25bの第2の部分27を覆った導電層51が露出され、この導電層51により電極35が形成される。
【0074】
引き続いて、電極35の上、電極35が存在しない溝22の側面25a,25bの領域38の上および本体16の表面18の上に保護膜43を形成する。保護膜43としては、電気絶縁性を有する有機材料の一例であるパリレンを使用している。
【0075】
この後、保護膜43で覆われた本体16の表面18に、ノズル形成前のノズルプレート5を接着剤30で接着する。これにより、本体16の溝22とノズルプレート5との間に複数の圧力室31が形成される。保護膜43は、圧力室31に露出されて、圧力室31にインクが供給された時にインクに浸かる。
【0076】
図4に示すように、本体16の表面18とノズルプレート5との間に充填された接着剤30は、その余剰部分32が圧力室31に食み出す。食み出した接着剤30の余剰部分32は、ノズルプレート5の圧力室31に臨む面に薄い膜となって残る。
【0077】
この後、ノズルプレート5に例えばエキシマレーザ装置を用いたレーザ加工を施すことにより、ノズルプレート5に複数のノズル13を形成する。具体的には、ノズルプレート5にノズルプレート5の上側からレーザ光を照射する。これにより、ポリイミドフィルム製のノズルプレート5が物理的に蒸発することでノズル13が形成される。
【0078】
図4に示すように、レーザ光の焦点Fは、ノズルプレート5の外側に位置するので、レーザ光は圧力室31の方向に進むに従い拡開する。そのため、ノズル13は、圧力室31の方向に進むに従い口径が連続的に増大するようなテーパ状に形成される。
【0079】
レーザ光は、ノズルプレート5を厚み方向に貫通した後、圧力室31に入射する。そのため、圧力室31に露出された保護膜43は、ノズル13の近傍でレーザ光の照射を受ける。
【0080】
有機材料で構成された保護膜43は、レーザ光が照射された時にダメージを受けるのを避けられない。しかるに、保護膜43のうちレーザ光が照射された箇所は、溝22の底面24よりもノズル13に近い溝22の側面25a,25bの第1の部分26に対応している。第1の部分26は、電極25が存在しない領域38となっている。
【0081】
このため、保護膜43のうちレーザ光の照射を受けた箇所に孔が開いたとしても、この孔から露出されるのは溝22の側面25a,25bに止まる。したがって、電極25は保護膜43で覆われた状態に維持される。
【0082】
接着剤30の余剰部分32の端部32aが圧力室31内でノズル13を形成すべき領域に張り出していた場合、余剰部分32の端部32aは、レーザ光が圧力室31に入射した時点で、レーザ光により除去される。
【0083】
この結果、接着剤30の余剰部分32がノズル13を塞ぐことはない。よって、接着剤30の余剰部分32がノズル13から吐出されるインクの流れに悪影響を及ぼすことはなく、印字品質を良好に維持できる。
【0084】
[第2の実施形態]
図14は、第2の実施形態を開示している。
【0085】
第2の実施形態は、電極の構成が第1の実施形態と相違している。それ以外のインクジェットヘッドの基本的な構成は、第1の実施形態と同様である。そのため、第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0086】
図14に示すように、電極60は、銅めっき層61、ニッケルめっき層62および金めっき層63を有する三層構造となっている。銅めっき層61は、第1の金属層の一例であり、電極60の下地を構成している。銅めっき層61は、溝22の底面24および側面25a,25bの第2の部分27の上に形成されている。銅めっき層61の厚さは、例えば1μmである。
【0087】
ニッケルめっき層62は、銅めっき層61の上に積層されて、銅めっき層61を被覆している。ニッケルめっき層62の厚さは、例えば0.8μmである。
【0088】
金めっき層63は、ニッケルめっき層62の上に積層されて、ニッケルめっき層62を被覆している。金めっき層63の厚さは、例えば0.1μmである。ニッケルめっき層62および金めっき層63は、夫々第2の金属層の一例である。さらに、金めっき層63は、電極60の表層となるとともに、有機材料で構成された保護膜43で覆われている。
【0089】
第2の実施形態では、電極60を形成する手順が第1の実施形態と異なっており、それ以外のインクジェットヘッド1を製造する手順は、第1の実施形態と同様である。そのため、第2の実施形態では、電極60を形成する手順についてのみ説明する。
【0090】
アクチュエータ15a,15bの本体16に溝22を形成した後、本体16の表面18、側面20a,20b、溝22の底面24および側面25a,25bに無電解銅めっきを施すことで、厚さが1μmの銅めっき層61を形成する。
【0091】
引き続いて、前記第1の実施形態と同様に、銅めっき層61の上にポジタイプのレジストを積層した後、レジストを紫外線で露光する。さらに、露光されたレジストを現像して洗浄し、銅めっき層61のうち溝22の深さ方向に沿う中間部から本体18の表面18に至る部位を露出させる。
【0092】
この後、本体18の外に露出された銅めっき層61をエッチングにより除去し、溝22の側面25a,25bの第1の部分26および本体16の表面18を露出させる。
【0093】
エッチングが完了したら、溝22内に残っているレジストを除去し、レジストで覆われていた銅めっき層61を溝22内に露出させる。
【0094】
この後、銅めっき層61に無電解ニッケルめっきを施すことで、厚さが0.8μmのニッケルめっき層62を形成する。引き続いて、ニッケルめっき層62に電解金めっきを施すことで、ニッケルめっき層62の上に厚さが0.1μmの金めっき層63を形成する。この結果、溝22の内側に三層構造の電極60が形成される。
【0095】
最後に、電極60の上および電極60が存在しない溝22の側面25a,25bの領域38の上に保護膜43を形成することで、一連の電極60の形成工程が完了する。
【0096】
このような第2の実施形態においても、保護膜43のうちレーザ光が照射される箇所は、溝22の側面25a,25bの第1の部分26に対応しており、第1の部分26に電極60は存在しない。そのため、保護膜43のうちレーザ光の照射を受けた箇所に孔が開いたとしても、この孔から露出されるのは溝22の側面25a,25bに止まる。
【0097】
したがって、第1の実施形態と同様に、電極60は保護膜43で覆われた状態に維持され、電極60の損傷を防止することができる。
【0098】
第1および第2の実施形態において、レジストはポジタイプで電着法を用いて使用できるものであれば、その種類は問わない。
【0099】
さらに、ポジタイプのレジストの代わりに、ネガタイプのレジストを用いても良い。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1…インクジェットヘッド、5…ノズルプレート、13…ノズル、15a,15b…アクチュエータ、18…表面、20a,20b…側面、22…溝、30…接着剤、35,60…電極、36,37,61,62,63…金属層(ニッケルめっき層、金めっき層、銅めっき層)、43…保護膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料で構成され、インクが供給される複数の溝を有するアクチュエータと、
前記アクチュエータに接着剤で固定され、前記溝の開口端を前記アクチュエータの上側から覆うとともに、前記溝に向けて照射されたレーザ光により形成された複数のノズルを有するノズルプレートと、
前記溝の内面に形成され、前記ノズルプレートを貫通した前記レーザ光が照射される前記溝内の領域から外れた電極と、
前記電極の上および前記レーザ光が照射される前記溝内の領域に対応する前記溝の内面に形成された電気絶縁性を有する保護膜と、
を具備するインクジェットヘッド。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記レーザ光が照射される前記溝内の領域は、前記溝の底面よりも前記ノズルの近傍に位置されたインクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記電極は、互いに積層された複数の金属層を含むインクジェットヘッド。
【請求項4】
請求項3の記載において、前記保護膜は、有機材料で構成されたインクジェットヘッド。
【請求項5】
ノズルプレートに照射されたレーザ光で形成された複数のノズルを有するインクジェットヘッドを製造する方法であって、
圧電材料で構成されたアクチュエータに、前記アクチュエータの表面および側面に連続して開口された複数の溝を互いに間隔を存して形成し、
前記溝の内面を覆うように金属層を積層し、
前記金属層のうち前記ノズルを形成するレーザ光が照射される部位を除いた領域をレジストで被覆し、
前記金属層のうち前記レジストから外れて前記溝内に露出された部位をエッチングで除去した後、前記レジストを除去することで前記エッチングで除去されずに残った前記金属層を前記溝内に露出させて電極とし、
前記電極の上および前記金属層が除去された前記溝の内面に、電気絶縁性を有する保護膜を形成し、
前記アクチュエータの前記表面に、前記ノズルプレートを接着剤で固定することにより、前記アクチュエータの表面に開口された前記溝の開口端を前記ノズルプレートで閉塞し、
前記ノズルプレートに前記ノズルプレートの上側からレーザ光を照射して、前記ノズルプレートを貫通した前記レーザ光を前記保護膜のうち前記溝の内面を覆う部位に入射させることで、前記ノズルプレートに前記ノズルを形成するようにしたインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
ノズルプレートに照射されたレーザ光で形成された複数のノズルを有するインクジェットヘッドを製造する方法であって、
圧電材料で構成されたアクチュエータに、前記アクチュエータの表面および側面に連続して開口された複数の溝を互いに間隔を存して形成し、
前記溝の内面を覆うように第1の金属層を積層し、
前記第1の金属層のうち前記ノズルを形成するレーザ光が照射される部位を除いた領域をレジストで被覆し、
前記第1の金属層のうち前記レジストから外れて前記溝内に露出された部位をエッチングで除去した後、前記レジストを除去することで前記エッチングで除去されずに残った前記第1の金属層を前記溝内に露出させるとともに、前記溝内に露出された前記第1の金属層の上に第2の金属層を積層することで、前記溝内に電極を形成し、
前記電極の上および前記第1の金属層が除去された前記溝の内面に、電気絶縁性を有する保護膜を形成し、
前記アクチュエータの前記表面に、前記ノズルプレートを接着剤で固定することにより、前記アクチュエータの表面に開口された前記溝の開口端を前記ノズルプレートで閉塞し、
前記ノズルプレートに前記ノズルプレートの上側からレーザ光を照射して、前記ノズルプレートを貫通した前記レーザ光を前記保護膜のうち前記溝の内面を覆う部位に入射させることで、前記ノズルプレートに前記ノズルを形成するようにしたインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項1】
圧電材料で構成され、インクが供給される複数の溝を有するアクチュエータと、
前記アクチュエータに接着剤で固定され、前記溝の開口端を前記アクチュエータの上側から覆うとともに、前記溝に向けて照射されたレーザ光により形成された複数のノズルを有するノズルプレートと、
前記溝の内面に形成され、前記ノズルプレートを貫通した前記レーザ光が照射される前記溝内の領域から外れた電極と、
前記電極の上および前記レーザ光が照射される前記溝内の領域に対応する前記溝の内面に形成された電気絶縁性を有する保護膜と、
を具備するインクジェットヘッド。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記レーザ光が照射される前記溝内の領域は、前記溝の底面よりも前記ノズルの近傍に位置されたインクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記電極は、互いに積層された複数の金属層を含むインクジェットヘッド。
【請求項4】
請求項3の記載において、前記保護膜は、有機材料で構成されたインクジェットヘッド。
【請求項5】
ノズルプレートに照射されたレーザ光で形成された複数のノズルを有するインクジェットヘッドを製造する方法であって、
圧電材料で構成されたアクチュエータに、前記アクチュエータの表面および側面に連続して開口された複数の溝を互いに間隔を存して形成し、
前記溝の内面を覆うように金属層を積層し、
前記金属層のうち前記ノズルを形成するレーザ光が照射される部位を除いた領域をレジストで被覆し、
前記金属層のうち前記レジストから外れて前記溝内に露出された部位をエッチングで除去した後、前記レジストを除去することで前記エッチングで除去されずに残った前記金属層を前記溝内に露出させて電極とし、
前記電極の上および前記金属層が除去された前記溝の内面に、電気絶縁性を有する保護膜を形成し、
前記アクチュエータの前記表面に、前記ノズルプレートを接着剤で固定することにより、前記アクチュエータの表面に開口された前記溝の開口端を前記ノズルプレートで閉塞し、
前記ノズルプレートに前記ノズルプレートの上側からレーザ光を照射して、前記ノズルプレートを貫通した前記レーザ光を前記保護膜のうち前記溝の内面を覆う部位に入射させることで、前記ノズルプレートに前記ノズルを形成するようにしたインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
ノズルプレートに照射されたレーザ光で形成された複数のノズルを有するインクジェットヘッドを製造する方法であって、
圧電材料で構成されたアクチュエータに、前記アクチュエータの表面および側面に連続して開口された複数の溝を互いに間隔を存して形成し、
前記溝の内面を覆うように第1の金属層を積層し、
前記第1の金属層のうち前記ノズルを形成するレーザ光が照射される部位を除いた領域をレジストで被覆し、
前記第1の金属層のうち前記レジストから外れて前記溝内に露出された部位をエッチングで除去した後、前記レジストを除去することで前記エッチングで除去されずに残った前記第1の金属層を前記溝内に露出させるとともに、前記溝内に露出された前記第1の金属層の上に第2の金属層を積層することで、前記溝内に電極を形成し、
前記電極の上および前記第1の金属層が除去された前記溝の内面に、電気絶縁性を有する保護膜を形成し、
前記アクチュエータの前記表面に、前記ノズルプレートを接着剤で固定することにより、前記アクチュエータの表面に開口された前記溝の開口端を前記ノズルプレートで閉塞し、
前記ノズルプレートに前記ノズルプレートの上側からレーザ光を照射して、前記ノズルプレートを貫通した前記レーザ光を前記保護膜のうち前記溝の内面を覆う部位に入射させることで、前記ノズルプレートに前記ノズルを形成するようにしたインクジェットヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−236364(P2012−236364A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107498(P2011−107498)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
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