説明

インクジェットヘッド

【課題】狭いピッチで導体パターンを形成して高解像度化を図ることができるインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】インクジェットヘッド11は、レーザ加工で基板および圧電部材15の少なくとも一方に所定の導体パターンを形成する製造工程を有する。インクジェットヘッド11は、基板12と、基板12に取り付けられるとともに、ノズル26から液を吐出するための駆動素子となる圧電部材15と、基板12と圧電部材15との間に介在されてこれらを接着する接着剤16と、を具備する。接着剤16は、高熱伝導性でかつ絶縁性を有するフィラー31を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙に対して液を吐出するインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリントヘッドは、基板と、これに結合したPZTと、を有する。PZTには、これに設けられた複数のチャンネルを有しており、このチャンネルは電圧をかけることにより作動するインク室を形成している。このチャンネルの表面には、導電性物質で形成された電極が設けられている。この電極を基板およびPZT上に所定のパターンで形成する手段として、マスキングやレーザ等の手法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この電極や配線のパターンは、等ピッチで基板およびPZT上に形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、基板とPZTとの接着には、樹脂製の接着剤が用いられることが多い。また、電極のパターンをレーザで形成する場合は、基板上およびPZT上を区別することなく導電性物質の不要部分にレーザを照射し、不要部分を溶融・除去して行われる。その際、基板とPZTとの間の境界部では、接着剤がはみ出している場合が多く、接着剤上にもレーザが照射される。一方、樹脂製の接着剤は、周囲の構造物に比して一般的に熱伝導率が小さいため、この接着剤にレーザを照射すると、接着剤が多くの熱を吸収する。その結果、この接着剤は膨張するように蒸発する。これによって、接着剤が膨張する箇所に隣接する部分では、電極や配線に破断や断線を生じてしまう可能性がある。
【0004】
本発明の目的は、狭ピッチで導体パターンを形成して高解像度化を図ることができるインクジェットヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明の一つの形態に係るインクジェットヘッドは、レーザ加工で基板および圧電部材の少なくとも一方に所定の導体パターンを形成する製造工程を有するインクジェットヘッドであって、前記基板と、前記基板に取り付けられるとともに、ノズルから液を吐出するための駆動素子となる前記圧電部材と、前記基板と前記圧電部材との間に介在されてこれらを接着する接着剤と、を具備し、前記接着剤は、高熱伝導性でかつ絶縁性を有するフィラーを含む。
【発明の効果】
【0006】
上記の構成によれば、狭いピッチで導体パターンを形成して高解像度化を図ることができるインクジェットヘッドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係るインクジェットヘッドを示した斜視図。
【図2】図1に示すインクジェットヘッドの内部に設けられる配線を示した斜視図。
【図3】図2に示すインクジェットヘッドの接着剤に充填されるフィラーを示した模式図。
【図4】図2に示すインクジェットヘッドの圧力室周りを拡大して示した断面図。
【図5】図1に示すインクジェットヘッドの製造方法を示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。実施形態に係るインクジェット記録装置は、用紙などのシート状記録媒体に対して液滴を吐出して、この記録媒体上に文字や画像を印刷するものである。
【0009】
図1、2、5に示すように、インクジェットヘッド11は、いわゆるインク循環式のものであり、基板12と、基板12に接着された枠部材13と、枠部材13に接着されたノズルプレート14と、枠部材13の内側の位置で基板12に接着された圧電部材15と、基板12と圧電部材15との間に介在されてこれらを接着する接着剤16と、圧電部材15を駆動するためのプリント回路板と、を有している。インクジェットヘッド11は、基板12、枠部材13、およびノズルプレート14で囲まれた空間に、共通液室18を有している。共通液室18は、後述する各圧力室24に連通している。また、プリント回路板の図示は省略している。
【0010】
基板12は、例えば、アルミナ等のセラミックス材料によって方形板状に形成されている。このアルミナの熱伝導率は、15〜21W/m・Kである。基板12は、例えば、孔でそれぞれ構成される供給口21および排出口22を有している。供給口21および排出口22を介して共通液室18内に液を供給したり、共通液室18から液を回収したりすることができる。
【0011】
ノズルプレート14は、例えば、方形のポリイミド製のフィルムで形成されている。ノズルプレート14は、一対のノズル列23を有している。各ノズル列23は、複数のノズル26を含んでいる。
【0012】
圧電部材15は、ノズル26から液を吐出するための駆動素子である。圧電部材15は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)製の板状の第1の圧電体および第2の圧電体を互いの分極方向を対向させるように、厚み方向に張り合わせて形成されている。圧電部材15は、断面台形の板状に形成されている。圧電部材15は、その表面から溝状に切削形成された複数の圧力室24と、各圧力室24の両側部に設けられた駆動素子である側壁25と、を有している。圧電部材15は、ノズルプレート14上のノズル列23に対応するように基板12に接着される。圧力室24および側壁25は、それぞれノズル26に対応するように形成されている。圧電部材15の熱伝導率は、例えば、1.0〜1.5W/m・Kである。
【0013】
図4に示すように、インクジェットヘッド11は、さらに、圧電部材15の各側壁25の表面および圧力室24の底部に形成される電極27を有している。電極27は、圧力室24内で圧電部材15に密着するように設けられている。図2に示すように、インクジェットヘッド11は、上記したヘッド駆動用のプリント回路板と電極27とを接続するための配線28を有している。配線28は、電極27と一体に形成されており、例えば、排出口22を避けて基板12上に形成されている。
【0014】
接着剤16は、例えば、熱硬化型のエポキシ系接着剤である。接着剤16の内部には、図3に模式的に示すようなフィラー31が充填されている。フィラー31は、高い熱伝導性と電気的な絶縁性を有している。このフィラー31は、例えば、金などの金属粒子32の周囲を、絶縁性のあるシリカ(SiO)等の微小粒子33でコーティングしたもので構成されている。なお、フィラー31の金属粒子32は、金に限定されるものではなく、銀などの他の金属であってもよい。また、微小粒子33は、シリカ(SiO)に限定されるものではなく、無機物の絶縁材料であればどのようなものでもよい。このフィラー31が充填された接着剤16の熱伝導率は、圧電部材15の熱伝導率以上で、基板12の熱伝導率以下に調整されている。
【0015】
より具体的には、一般的なエポキシ系接着剤の熱伝導率が0.21W/m・Kであるのに対して、本実施形態のフィラー入り接着剤16の熱伝導率は、例えば、2.0W/m・K程度である。本実施形態のフィラー入り接着剤16の熱伝導率は、これに限定されるものではなく、1.0〜21W/m・Kの範囲内にあればよい。接着剤16の熱伝導率は、基材であるエポキシ系接着剤に対するフィラーの充填比率を多くしたり少なくしたりすることで、上記の範囲内で自由に設定することが可能である。
【0016】
なお、接着剤16の熱伝導率を21W/m・K以上にすると、熱伝導率が高くなりすぎてレーザによる熱が周囲に分散し、導電性物質をレーザで除去する際の加工性が悪くなり好ましくない。一方、熱伝導率を1.0W/m・K以下にすると、接着剤にレーザの熱エネルギーが集中して接着剤が膨張するように蒸発するため、同様に好ましくない。
【0017】
この接着剤16は、図5に示すように、基板12と圧電部材15の間の位置だけでなく、その周囲にも基板12と平行な方向にはみ出したはみ出し部16Aを有している。従来の接着剤では、このはみ出し部16Aに対してレーザを照射すると、周囲との熱伝導性の違いから、この箇所にレーザの熱エネルギーが集中する。その結果、周囲の配線28や電極27に破断や断線などを生じていた。本実施形態では、接着剤16の熱伝導率が、少なくとも圧電部材15の熱伝導率と同等以上であるため、レーザの熱エネルギーが接着剤16に集中することはない。
【0018】
上記構成のインクジェットヘッド11をプリンタに搭載して、このプリンタで印刷処理を行うには、プリンタのインクタンクからインクジェットヘッド11に液(インク)を供給する必要がある。液の供給は、供給口21を介して行われ、インクタンクから流出した液は、供給口21を経由して圧力室24内に満たされる。圧力室24内で使用されなかった液は、排出口22によってインクタンクに回収される。
【0019】
また、この状態で、ユーザがプリンタに対して印刷を指示すると、プリンタの制御部は、インクジェットヘッド11に対して印字信号をヘッド駆動用のプリント回路板に出力する。印刷信号を受けたプリント回路板は、配線28および電極27を介して駆動パルス電圧を側壁25に印加する。これにより、左右一対の側壁25は、シェアモード変形を行って湾曲するように離反する。そして、これらを初期位置に復帰させて圧力室24内の圧力を高くすることで、図4に示すような状態となり、ノズル26から液滴が勢い良く吐出される。
【0020】
続いて、図5を参照して、本実施形態のインクジェットヘッド11の製造方法について説明する。まず、基板12に対して一対の圧電部材15を接着する。このとき、一対の圧電部材15は、図示しない治具によって基板12に対して位置決めされている。
【0021】
図4に示すように、基板12に対して例えばスクリーン印刷等によって接着剤16を塗布する。この接着剤16には、上記したフィラー31が含まれている。そして、接着剤16を塗布した基板12に対して圧電部材15を当接させる。この状態で、接着剤16の硬化する推奨硬化温度、例えば本実施形態のエポキシ系接着剤では120℃に保持して、2時間から3時間放置する。こうして、接着剤16の硬化がなされ、基板12に圧電部材15が接着される。
【0022】
このように基板12に接着された圧電部材15に対して圧力室24となる溝を形成する。この溝加工は、例えば、ICウェハーの切断等に用いられているダイヤモンドホイール等を用いる。続いて、溝の内面に電極27を形成するとともに、基板12上に配線28を形成する。電極27および配線28は、例えば、無電解メッキによって形成された例えばニッケル薄膜で構成されている。
【0023】
さらに、レーザを照射してパターニングを行って、電極27および配線28の以外の部位からニッケル薄膜を除去する。その際、レーザは、図5に示すように上方から照射される。レーザは、矢印Dの方向に走査され、基板12上のニッケル薄膜および圧電部材15上のニッケル薄膜を除去する。この作業で除去されなかった部分のニッケル薄膜は、配線28および電極27を構成する導体パターンとなる。
【0024】
このレーザ加工には、例えば、波長500nm以下のエキシマレーザを用いる。このとき、レーザは、接着剤16(はみ出し部16A)上にあるニッケル薄膜にも照射されるが、本実施形態の接着剤16では、通常のものよりも熱伝導率が高く調整されているため、接着剤16のある部分に熱エネルギーが集中することはない。同様に、ノズルプレート14にレーザを照射してノズル26を形成する。また、基板12上の配線28に接続するように、プリント回路板を基板12に固定する。基板12に対して図示しないインクケースを接着して、インクジェットヘッド11の製造工程が終了する。
【0025】
以上が、インクジェットヘッド11の第1の実施形態である。第1の実施形態によれば、インクジェットヘッド11は、レーザ加工で基板12および圧電部材15の少なくとも一方に所定の導体パターンを形成する製造工程を有するインクジェットヘッド11であって、基板12と、基板12に取り付けられるとともに、ノズル26から液を吐出するための駆動素子となる圧電部材15と、基板12と圧電部材15との間に介在されてこれらを接着する接着剤16と、を具備し、接着剤16は、高熱伝導性でかつ絶縁性を有するフィラー31を含む。この構成によれば、フィラー31を充填することによって、接着剤16の熱伝導率を向上できるため、接着剤16が露出している箇所にレーザの熱エネルギーが集中することを防止できる。これによって、導体パターンに破断や断線を生じることがなく、導体パターンを狭いピッチで形成することができ、インクジェットヘッド11の高解像度化を図ることができる。
【0026】
この場合、フィラー31は、金属粒子32と、金属粒子32の周囲をコーティングした絶縁性の微小粒子33と、を有する。この構成によれば、高熱伝導性で、且つ絶縁性を有するフィラー31を簡単な構造によって実現することができる。このとき、接着剤16は、圧電部材15の熱伝導率以上で、基板12の熱伝導率以下の熱伝導率を有する。この構成によれば、接着剤16の熱伝導率を適正な範囲内に設定することができる。すなわち、接着剤16の熱伝導率が高くなりすぎると、レーザの熱エネルギーが周囲に分散して、接着剤16上にある導体を除去する際の作業性が悪くなる。一方、接着剤の熱伝導率が低くなると、レーザの熱エネルギーが接着剤16に集中して、接着剤16に膨張を生じて周囲の導体パターンを傷つけてしまう可能性がある。本実施形態によれば、接着剤16の熱伝導性を適正な範囲内に調整することができ、インクジェットヘッド11を製造する際の作業性(加工性)を維持しつつ、インクジェットヘッド11の高解像度化を推し進めることができる。
【0027】
本発明は、前記実施の形態に限定されるものではない。このほか、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【符号の説明】
【0028】
11…インクジェットヘッド、12…基板、15…圧電部材、16…接着剤、26…ノズル、31…フィラー、32…金属粒子、33…微小粒子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特表2002−529289号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工で基板および圧電部材の少なくとも一方に所定の導体パターンを形成する製造工程を有するインクジェットヘッドであって、
前記基板と、
前記基板に取り付けられるとともに、ノズルから液を吐出するための駆動素子となる前記圧電部材と、
前記基板と前記圧電部材との間に介在されてこれらを接着する接着剤と、
を具備し、
前記接着剤は、高熱伝導性でかつ絶縁性を有するフィラーを含むことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記フィラーは、
金属粒子と、
前記金属粒子の周囲をコーティングした絶縁性の微小粒子と、
を有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記接着剤は、前記圧電部材の熱伝導率以上で、前記基板の熱伝導率以下の熱伝導率を有することを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−62895(P2011−62895A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214868(P2009−214868)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】