説明

インクジェット印刷用の相互作用するインクセット

本発明は、インクジェット印刷用のインクセットに、特に、一色の別色へのブリードを減らすようにインクがすべて互いに相互作用するインクセットに関する。本発明は、また、この互いに相互作用するインクセットでのインクジェット印刷の方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷用のインクセットに、特に、一色の別色へのブリードを減らすようにインクがすべて互いに相互作用するインクセットに関する。本発明は、また、この互いに相互作用するインクセットでのインクジェット印刷の方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、インクの小滴が紙のような印刷媒体上に付着されて所望の画像を形成するノンインパクト印刷方法である。小滴は、マイクロプロセッサーによって発生した電気信号に対応してプリントヘッドから噴出される。
【0003】
インクジェットプリンターは低コスト、高品質印刷を提供し、他のタイプのプリンターの人気のある代替品になってきた。しかしながら、インクジェットプリンターは、例えば、プリンターソフトウェアにおけるブリード制御アルゴリズムによる減速だけでなく、主にインクジェットインクの比較的遅い乾燥時間のために、レーザープリンターの速度に目下ところ対抗することができない。
【0004】
ブリードは、インクジェット印刷で使用される比較的低粘度のインクが広がる傾向があるので、かつ、インクジェットプリンターが3つまたは4つの原色を同時の(またはほぼ同時の)やり方で印刷する能力を有するので、インクジェット印刷における特殊な問題である。ブリードは、2つの印刷液体のそれらの界面での混合または「ブリーディング」として現れ、それによって2つの印刷液体間の境界画定のラインはあいまいになる。ブリーディングは、界面での望ましくない色形成ならびに画像における解像度、色分離、エッジの鋭さおよび色純度の同時に起こる損失の原因になるかもしれない。2つの隣接液体が色で対照的になればなるほど(黒色および黄色のように)、ブリードはより目に見えるようになる。ブリードは、また、青色と黄色が混合して緑色を生み出す場合のような、2つのインクの混合が第2の色を生み出す場合に特に注目に値する。
【0005】
ブリード問題に対して様々な解決策が提案されてきた。ある方法は、ブリードを減らすためにインク環境を変えることを伴う。例えば、加熱された圧盤および他の熱源が、特別に考案された紙に沿って、ブリードを減らすために用いられてきた。しかしながら、これらはコストを追加し、ブリードはかかる手段なしで制御されることが好ましい。
【0006】
別の方法、および最も一般に用いられる方法は、第1印刷液体が完全に乾燥するまで第2印刷液体の塗布の遅延を伴う。この方法もまた、その非効率さのためだけでなく、それが特に有効ではないために不利である。例えば、第1印刷液体が乾燥している場合でさえも、ブリードが起こるかもしれないことが観察され、それは、第2印刷液体の液体媒体に「再溶解される」ようになる第1印刷液体の着色剤によって引き起こされると考えられる。従って、第1印刷液体の成分が液体媒体中により可溶性であればあるほど、第1印刷液体が乾燥している場合でさえもブリードが起こる可能性はより大きいであろう。この方法は、それがマルチカラープリントを生み出す速度に随意の制限を課すので、インクジェット印刷用途で特に不利である。
【0007】
ブリードを減らすために提案された別の方法は、印刷液体の何の混ざり合いまたは混合も起こり得ないように互いに距離を置いて2つの印刷液体を塗布することである。しかしながら、この方法は、該問題に対する有効な解決策ではなく、不満足な解像度を有する画像を生み出す。
【0008】
ブリードの問題に対して提案された他の解決策は、例えば、界面活性剤または他の浸透剤を含めるべくインクの成分を変えることを伴う。これらの成分はある種の配合物ではブリードを減らすことができるが、エッジの鋭さおよび光学密度は通常損なわれる。
【0009】
幾つかの方法は、例えば、黒色−色および特に黒色−黄色からの双方向ブリードを減らすことを指向している。これらの双方向組合せはある程度役立つが、ブリードはセット中の色のすべての組合せで減らされるまたは排除されることが好ましい。
【0010】
米国特許公報(特許文献1)、米国特許公報(特許文献2)および米国特許公報(特許文献3)はすべて、セット中のすべてのインクが相互作用し、それによってブリードを減らすようにデザインされている4色インクセットを開示している。しかしながら、これらの参考文献は、着色剤の1つまたは複数が可溶性染料である(インクは染料の溶液である)インクセットを開示しており、さらに4色以下の使用を開示している。好ましくは、改善された光堅牢度のために、相互作用するインクセットは完全に顔料着色剤より構成されることができる。そして好ましくは、広範囲のために、相互作用するインクセットは5色以上より構成されることができる。
【0011】
上に特定された刊行物のすべての開示は、その内容全体を記載したものとしてあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される。
【0012】
従って、速い印刷速度を同様に可能にしたまま、改善された印刷品質(特に、すべての色間の減少したブリード)および改善されたエッジの鋭さを提供することができるインクジェットインクセットを求める要求は依然として存在する。
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,700,317号明細書
【特許文献2】米国特許第6,022,908号明細書
【特許文献3】米国特許第6,460,987号明細書
【特許文献4】米国特許第5,554,739号明細書
【特許文献5】米国特許第5,571,311号明細書
【特許文献6】米国特許第5,609,671号明細書
【特許文献7】米国特許第5,672,198号明細書
【特許文献8】米国特許第5,698,016号明細書
【特許文献9】米国特許第5,707,432号明細書
【特許文献10】米国特許第5,718,746号明細書
【特許文献11】米国特許第5,747,562号明細書
【特許文献12】米国特許第5,749,950号明細書
【特許文献13】米国特許第5,803,959号明細書
【特許文献14】米国特許第5,837,045号明細書
【特許文献15】米国特許第5,846,307号明細書
【特許文献16】米国特許第5,851,280号明細書
【特許文献17】米国特許第5,861,447号明細書
【特許文献18】米国特許第5,885,335号明細書
【特許文献19】米国特許第5,895,522号明細書
【特許文献20】米国特許第5,922,118号明細書
【特許文献21】米国特許第5,928,419号明細書
【特許文献22】米国特許第5,976,233号明細書
【特許文献23】米国特許第6,057,384号明細書
【特許文献24】米国特許第6,099,632号明細書
【特許文献25】米国特許第6,123,759号明細書
【特許文献26】米国特許第6,153,001号明細書
【特許文献27】米国特許第6,221,141号明細書
【特許文献28】米国特許第6,221,142号明細書
【特許文献29】米国特許第6,221,143号明細書
【特許文献30】米国特許第6,277,183号明細書
【特許文献31】米国特許第6,281,267号明細書
【特許文献32】米国特許第6,329,446号明細書
【特許文献33】米国特許第6,332,919号明細書
【特許文献34】米国特許第6,375,317号明細書
【特許文献35】米国特許出願公開第2001/0,035,110号明細書
【特許文献36】EP−A−第1,086,997号明細書
【特許文献37】EP−A−第1,114,851号明細書
【特許文献38】EP−A−第1,158,030号明細書
【特許文献39】EP−A−第1,167,471号明細書
【特許文献40】EP−A−第1,122,286号明細書
【特許文献41】国際公開第01/10963号パンフレット
【特許文献42】国際公開第01/25340号パンフレット
【特許文献43】国際公開第01/94476号パンフレット
【特許文献44】米国特許第5,085,698号明細書
【特許文献45】米国特許第5,998,501号明細書
【特許文献46】米国特許第6,299,941号明細書
【特許文献47】米国特許第4,246,154号明細書
【特許文献48】EP−A−第0,769,509号明細書
【特許文献49】EP−A−第1,127,707号明細書
【特許文献50】米国特許第5,571,331号明細書
【特許文献51】EP第1,146,090号明細書
【特許文献52】米国特許第5,519,085号明細書
【特許文献53】米国特許第5,231,131号明細書
【特許文献54】米国特許第5,708,095号明細書
【特許文献55】米国特許第6,433,117号明細書
【特許文献56】米国特許第5,801,738号明細書
【特許文献57】米国特許第5,555,008号明細書
【特許文献58】米国特許第5,713,993号明細書
【特許文献59】米国特許第5,750,594号明細書
【特許文献60】米国特許第5,518,534号明細書
【特許文献61】米国特許第6,183,063号明細書
【特許文献62】米国特許第6,350,011号明細書
【特許文献63】米国特許出願公開第2002/0,101,475号明細書
【特許文献64】米国特許第6,467,870号明細書
【特許文献65】米国特許第6,443,555号明細書
【特許文献66】米国特許出願公開第2002/0,033,863号明細書
【特許文献67】米国特許第6,467,874号明細書
【非特許文献1】アルバーツソン(Albertsson)著、「細胞粒子および高分子の分配(Partition of Cell Particles and Macromolecules)」、第3版、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
相互に作用するインクのインクセットであって、前記インクセットは、下記のカテゴリーa〜d:
a)着色剤と水性媒体とを含む比較的高いpKaの水性アニオンインクと、
b)着色剤と水性媒体とを含み、カテゴリーaからのセット中の任意のインクのpKaよりも下のpHに調節されている比較的低いpKaの水性アニオンインクと、
c)着色剤と水性媒体とを含む水性で第四級化されていないカチオンインクと、
d)着色剤と水性媒体とを含む水性第四級化カチオンインクと、
から選択される少なくとも4つのインクを含み、
任意の1つのカテゴリーからの3つ以下のインクがセット中に存在し、任意の1つのカテゴリーからのすべてのインクは、水性相変化メカニズムによって別の1つと互いに相互作用するように、補完的な非相溶性成分をさらに含むことを特徴とするインクセットが提供される。
【0015】
別の態様では、本発明は、
(a1)第1着色剤、第1水性媒体および、任意選択的に、第1非相溶性添加剤を含み、第1pKaを有する第1水性アニオンインク、
(a2)第2着色剤、第2水性媒体および、任意選択的に、第2非相溶性添加剤を含み、第2pKaを有する第2水性アニオンインク、
(a3)第3着色剤、第3水性媒体および、任意選択的に、第3非相溶性添加剤を含み、第3pKaを有する第3水性アニオンインク、
(b1)第4着色剤、第4水性媒体および、任意選択的に、第4非相溶性添加剤を含み、第4pKaを有する第4水性アニオンインクであって、もし、インク(a1)、(a2)および(a3)の1つまたは複数が存在する場合には、
(i)第4pKaは第1、第2または第3pKaのいずれよりも低く、かつ
(ii)第4アニオンインクは第1、第2または第3pKaのいずれよりも下のpHを有する第4水性アニオンインクと、
(b2)第5着色剤、第5水性媒体および、任意選択的に、第5非相溶性添加剤を含み、第5pKaを有する第5水性アニオンインクであって、もし、インク(a1)、(a2)および(a3)の1つまたは複数が存在する場合には、
(i)第5pKaは第1、第2または第3pKaのいずれよりも低く、かつ
(ii)第5アニオンインクは第1、第2または第3pKaのいずれよりも下のpHを有する第5水性アニオンインクと、
(b3)第6着色剤、第6水性媒体および、任意選択的に、第6非相溶性添加剤を含み、第6pKaを有する第6水性アニオンインクであって、もし、インク(a1)、(a2)および(a3)の1つまたは複数が存在する場合には、
(i)第6pKaは第1、第2または第3pKaのいずれよりも低く、かつ
(ii)第6アニオンインクは第1、第2または第3pKaのいずれよりも下のpHを有する第6水性アニオンインクと、
(c1)第7着色剤、第7水性媒体および、任意選択的に、第7非相溶性添加剤を含む第1水性で第四級化されていないカチオンインクと、
(c2)第8着色剤、第8水性媒体および、任意選択的に、第8非相溶性添加剤を含む第2水性で第四級化されていないカチオンインクと、
(c3)第9着色剤、第9水性媒体および、任意選択的に、第9非相溶性添加剤を含む第3水性で第四級化されていないカチオンインクと、
(d1)第10着色剤、第10水性媒体および、任意選択的に、第10非相溶性添加剤を含む第1水性第四級化カチオンインクと、
(d2)第11着色剤、第11水性媒体および、任意選択的に、第11非相溶性添加剤を含む第2水性第四級化カチオンインクと、ならびに
(d3)第12着色剤、第12水性媒体および、任意選択的に、第12非相溶性添加剤を含む第3水性第四級化カチオンインクであって、
もし、
(a1)、(a2)および(a3)は異なり、かつ(a1)、(a2)および(a3)の2つ以上が存在する場合には、存在する(a1)、(a2)および(a3)のそれぞれは第1、第2および第3非相溶性添加剤をそれぞれさらに含み、前記第1、第2および第3非相溶性添加剤はそれぞれそれらの間での接触の場合に第1、第2および第3水性媒体の水性相分離を誘発するように互いに非相溶性であり、
(b1)、(b2)および(b3)は異なり、かつ(b1)、(b2)および(b3)の2つ以上が存在する場合には、存在する(b1)、(b2)および(b3)のそれぞれは第4、第5および第6非相溶性添加剤をそれぞれさらに含み、前記第4、第5および第6非相溶性添加剤はそれぞれそれらの間での接触の場合に第4、第5および第6水性媒体の水性相分離を誘発するように互いに非相溶性であり、
(c1)、(c2)および(c3)は異なり、かつ(c1)、(c2)および(c3)の2つ以上が存在する場合には、存在する(c1)、(c2)および(c3)のそれぞれは第7、第8および第9非相溶性添加剤をそれぞれさらに含み、前記第7、第8および第9非相溶性添加剤はそれぞれそれらの間での接触の場合に第7、第8および第9水性媒体の水性相分離を誘発するように互いに非相溶性であり、
(d1)、(d2)および(d3)は異なり、かつ(d1)、(d2)および(d3)の2つ以上が存在する場合には、存在する(d1)、(d2)および(d3)のそれぞれは第10、第11および第12非相溶性添加剤をそれぞれさらに含み、前記第10、第11および第12非相溶性添加剤はそれぞれそれらの間での接触の場合に第10、第11および第12水性媒体の水性相分離を誘発するように互いに非相溶性である第3水性第四級化カチオンインクと、からなる群から選択された少なくとも4つのインクを含む互いに相互作用するインクのインクセットを提供する。
【0016】
明確にするために、本明細書では「第1」、「第2」などの成分についての言及は、それらが実際には同じものであってもよいように、かかる成分が異なることを暗示すると解釈されるべきではない。しかしながら、インク(a1)〜(a3)、(b1)〜(b3)、(c1)〜(c3)および(d1)〜(d3)のそれぞれは異なる。例えば、第1インク(a1)および第2インク(a2)は両方とも着色剤として同じ顔料を含有してもよい(第1および第2着色剤は同一である)が、フルカラー強度インクおよび「薄い」インク(異なるインク)を生み出すように異なる量でである。
【0017】
さらに、用語「非相溶性成分」および「非相溶性添加剤」は同義的に用いられてもよい。
【0018】
本発明は、また、上に特定されたインクセットを用いるインクジェット印刷の方法にも関する。
【0019】
本発明のこれらのおよび他の特徴および利点は、次の詳細な説明を読むことから当業者によって一層容易に理解されるであろう。明確にするために、別個の実施形態との関連で上におよび下に記載される本発明のある種の特徴はまた単一実施形態で組み合わせて提供されてもよいことが認識されるべきである。逆に、単一実施形態との関連で簡潔に記載される本発明の様々な特徴は、また、別々にまたは任意のサブ組合せで提供されてもよい。さらに、文脈で特に明記されない限り、単数形での言及はまた複数形を含んでもよい(例えば、「ア(a)」および「アン(an)」は1つ、または1つまたは複数を意味してもよい)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に従って、本発明のインクセット中のインクのそれぞれは、一色の別色へのブリードを減らすために、インクセット中の他のインクのすべてと互いに相互作用するようにデザインされている。各インク−インク組合せについて、かかるブリードは完全には防止されないかもしれないが、隣接ピクセル上で色の混合(ブリード)を減らすようにする相互作用が存在し、こうして印刷品質を改善する。
【0021】
インクセット中のインクのそれぞれは、個別に、着色剤、水性媒体および、任意選択的に、下に記載されるような他の成分(例えば、非相溶性添加剤のような)、または別のやり方で当業者に周知であるような他の成分(例えば、インクの1つまたは複数の特性の性能を高めるための添加剤のような)を含む。
【0022】
着色剤は可溶性または不溶性であり得る。「不溶性」着色剤が使用に好ましく、微粒子着色剤がより好ましく、顔料が特に好ましい。
【0023】
「不溶性」着色剤とは、水性媒体中で溶液を(有意の程度まで)形成しない着色剤を意味する。不溶性着色剤は、例えば、微粒子であり、水性媒体中に分散され得る。不溶性着色剤は、水非混和性油相に溶解され、水性媒体中に(ミクロ)乳化され得る。微粒子着色剤、およびこれらの微粒子着色剤の分散系を含むインクが好ましい。
【0024】
微粒子着色剤には、顔料および分散染料、ならびに分散ポリマーマトリックスのような不溶性マトリックス上に/中に固定されている可溶性染料が含まれる。
【0025】
微粒子着色剤(顔料のような)は伝統的に高分子分散剤または界面活性剤のような分散剤によって媒体中で分散系へと安定化される。もっと最近になってであるが、いわゆる「自己分散可能な」または「自己分散性の」顔料(以下、「SDP」)が開発された。その名前が暗示するように、SDPは分散剤なしで媒体中に分散可能である。例えば、それらの開示がその内容全体を記載したものとしてあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される、米国特許公報(特許文献4)、米国特許公報(特許文献5)、米国特許公報(特許文献6)、米国特許公報(特許文献7)、米国特許公報(特許文献8)、米国特許公報(特許文献9)、米国特許公報(特許文献10)、米国特許公報(特許文献11)、米国特許公報(特許文献12)、米国特許公報(特許文献13)、米国特許公報(特許文献14)、米国特許公報(特許文献15)、米国特許公報(特許文献16)、米国特許公報(特許文献17)、米国特許公報(特許文献18)、米国特許公報(特許文献19)、米国特許公報(特許文献20)、米国特許公報(特許文献21)、米国特許公報(特許文献22)、米国特許公報(特許文献23)、米国特許公報(特許文献24)、米国特許公報(特許文献25)、米国特許公報(特許文献26)、米国特許公報(特許文献27)、米国特許公報(特許文献28)、米国特許公報(特許文献29)、米国特許公報(特許文献30)、米国特許公報(特許文献31)、米国特許公報(特許文献32)、米国特許公報(特許文献33)、米国特許公報(特許文献34)、米国特許公報(特許文献35)、(特許文献36)、(特許文献37)、(特許文献38)、(特許文献39)、(特許文献40)、(特許文献41)、(特許文献42)および(特許文献43)を参照されたい。
【0026】
着色剤が微粒子である場合、最大色強度および良好な噴射のために小さな粒子を使用することが望ましい。粒度は一般に約0.005ミクロン〜約15ミクロンの範囲にあり、典型的には約0.005〜約1ミクロンの範囲にあり、好ましくは約0.005〜約0.5ミクロンであり、より好ましくは約0.01〜約0.3ミクロンの範囲にある。
【0027】
「水性媒体」は、水または水と少なくとも1つの水溶性有機溶剤(共溶剤)との混合物を意味する。好適な混合物の選択は、所望の表面張力および粘度、選択された着色剤、インクの乾燥時間、ならびにインクが印刷される基材のタイプのような、具体的用途の要件に依存する。選択されてもよい水溶性有機溶剤の代表的な例は、米国特許公報(特許文献44)(その開示がその内容全体を記載したものとしてあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される)に開示されている。
【0028】
水と水溶性溶剤との混合物が使用される場合、水性媒体は典型的には約30%〜約95%水を含有し、残り(すなわち、約70%〜約5%)は水溶性溶剤である。好ましい組成物は、水性媒体の総重量を基準にして約60%〜約95%水を含有する。
【0029】
インク中の水性媒体の量は、インクの総重量を基準にして、典型的には約70%〜約99.8%、好ましくは約80%〜約99.8%の範囲にある。
【0030】
他の成分は、お決まりの実験によって容易に判断されてもよい、かかる他の成分がインクセットの互いに相互作用するメカニズムを妨げない程度まで、インクジェットインク中へ配合されてもよい。かかる他の成分は一般的な意味で当該技術において周知である。
【0031】
例えば、界面活性剤は、インクの総重量を基準にして、典型的には約0.01〜5%、好ましくは約0.2〜2%の量で使用されてもよい。
【0032】
殺生物剤が微生物の生育を阻害するために使用されてもよい。
【0033】
グリコールエーテルおよび1,2−アルカンジオールのような浸透剤もまた配合物に添加されてもよい。グリコールエーテルには、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−イソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−イソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−イソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、およびジプロピレングリコールモノ−イソプロピルエーテルが含まれる。1,2−アルカンジオールは好ましくは1,2−C1〜6アルカンジオールであり、最も好ましくは1,2−ヘキサンジオールである。
【0034】
添加されるグリコールエーテルおよび1,2−アルカンジオールの量は、適切に決定されなければならないが、インクの総重量を基準にして、典型的には約1〜約15重量%、より典型的には約2〜約10重量%の範囲にある。
【0035】
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、イミノ二酢酸(IDA)、エチレンジアミン−ジ(o−ヒドロキシフェニル酢酸)(EDDHA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)、ジエチレントリアミン−N,N,N’,N”,N”−五酢酸(DTPA)、およびグリコールエーテルジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸(GEDTA)、ならびにそれらの塩のような金属イオン封鎖(またはキレート)剤は、例えば、重金属不純物の有害な影響を排除するために有利であるかもしれない。
【0036】
さらに、ポリウレタンのようなバインダーもまた添加されてもよい。
【0037】
具体的なインクジェットインク配合物の例は、本明細書に引用された多くの参考文献に示されている。
【0038】
噴射速度、小滴の分離長さ、滴サイズおよび流動安定性は、インクの表面張力および粘度によって大きく影響を受ける。顔料入りインクジェットは典型的には25℃で約20ダイン/cm〜約70ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。粘度は25℃で30cPほどにも高くあり得るが、典型的にはそれよりも幾分低い。インクは、広範囲の噴出条件、すなわち、ピエゾエレメントの駆動頻度、またはドロップ−オン−デマンドデバイスか連続装置かのどちらか向けサーマルヘッドについての噴出条件とノズルの形状およびサイズとに適合する物理的性質を有する。インクは、インクジェット装置で有意の程度まで詰まらないように長期間の優れた貯蔵安定性を有するべきである。さらに、インクは、それが接触するインクジェット印刷装置の部品を腐食するべきではなく、それは本質的に無臭で、無毒性であるべきである。
【0039】
(インクのイオン特性)
本発明のインクは一態様ではそれらのイオン特性によって特徴づけられ、上に一般に記載されたインクの各カテゴリー(a〜d)は特定されるイオン特性を有する。
【0040】
インクのイオン特性は、それに含有される着色剤のイオン特性によって主として決定される。従って、アニオンインクは、水性媒体中で、着色アニオン(可溶性染料)またはアニオン表面電荷を持った着色粒子をもたらす着色剤を意味するアニオン着色剤を含むであろう。逆に、カチオンインクは、水性媒体中で、着色カチオン(可溶性染料)またはカチオン表面電荷を持った着色粒子をもたらす着色剤を意味するカチオン着色剤を含むであろう。粒子表面電荷は、例えば、有機顔料を覆うアニオンまたはカチオン部分付き分散剤によって、または(SDPにおけるように)アニオンまたはカチオン部分付き基を粒子表面に付けることによって与えることができる。
【0041】
インク中の着色剤が非イオン(中性)である場合、インクのイオン特性は、それに溶解または分散されたイオン性ポリマーに由来する。従って、アニオンインクは、また、非イオン着色剤と可溶性のまたは分散されたアニオンポリマーとを含むことができる。同様に、カチオンインクは、また、非イオン着色剤と可溶性のまたは分散されたカチオンポリマーとを含むことができる。
【0042】
本明細書で言及されるアニオン部分は、任意の好適なアニオン部分であり得るが、好ましくは(I)または(II)
【0043】
【化1】

【0044】
−COZ (I) −SOZ (II)
(式中、Zは、有機塩基の共役酸、アルカリ金属イオン、アンモニウム、ホスホニウムおよびスルホニウムイオンのような「オニウム」イオン、ならびにテトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウムおよびトリアルキルスルホニウムイオンのような置換「オニウム」イオン、または任意の他の好適なカチオン対イオンからなる群から選択される)である。有用なアニオン部分には、また、ホスフェートおよびホスホネートが含まれる。
【0045】
アニオンインクは、さらに、それらのアニオン部分のpKa(「高い」もしくは「低い」)によって特徴づけられる。本発明との関連で「高い」および「低い」は、特に明記されない限り、絶対的には考えられず、むしろ、それらは相対的に考えられる。言い換えれば、「高い」は「低い」よりも高く、「低い」は「高い」よりも低い。
【0046】
より絶対的には、「高い」pKaは典型的には約4または4.5よりも上であり、「低い」pKaは典型的には約5または4.5よりも下である。カルボキシレートは高いpKa部分として一般に有用であり、スルホネートは低いpKa部分として一般に有用である。
【0047】
好ましいカチオン部分は、一般式(III):
【0048】
【化2】

【0049】
(中、AはN、PまたはSであり、R〜Rはそれぞれ独立してH、1〜20個の炭素原子のアルキルもしくはアルキルエーテル、または1〜9個の炭素原子を有するアリールもしくはアルキルアリールである(ただし、AがSである場合にはRは存在しない)、かつXは、ハライド、有機酸の共役塩基、および無機酸の共役塩基または他の好適なアニオン対イオンからなる群から選択される)によって特徴づけられるかもしれない。AがNまたはPであり、R〜RがH以外である場合、カチオン化学種は第四級であるまたは第四級化されていると言われる。
【0050】
本明細書では、カチオンインクは、第四級化または非第四級化されているとして特徴づけられる。用語「非第四級化されている」(または非第四級である)は、第四級化されている(または第四級である)化学種以外のすべてのカチオン化学種を意味する。
【0051】
アニオン染料は、イオン部分としてカルボン酸またはスルホン酸基を典型的には含有し、すべての酸性染料を包含する。本発明で最も有用なアニオン染料のタイプは、酸性染料、直接染料、食品色素、媒染染料および反応染料である。アニオン染料は、ニトロソ化合物、ニトロ化合物、アゾ化合物、スチルベン化合物、トリアリールメタン化合物、キサンテン化合物、キノリン化合物、チアゾール化合物、アジン化合物、オキサジン化合物、チアジン化合物、アミノケトン化合物、アントラキノン化合物、インジゴイド化合物およびフタロシアニン化合物からなる群から好ましくは選択される。
【0052】
カチオン染料は第四級窒素基を通常含有し、すべての塩基性染料を包含する。最も有用であるカチオン染料のタイプには、塩基性染料および酸性部位を繊維のような基材上に結合するようにデザインされている媒染染料の幾つかが含まれる。かかる染料の有用なタイプには、そのすべてが当該技術で周知である、とりわけ、例えば、アゾ化合物、ジフェニルメタン化合物、トリアリールメタン化合物、キサンテン化合物、アクリジン化合物、キノリン化合物、メチンまたはポリメチン化合物、チアゾール化合物、インダミンまたはインドフェニル化合物、アジン化合物、オキサジン化合物、およびチアジン化合物が含まれる。
【0053】
媒体不溶性着色剤である分散染料もまた本発明で有用である。有用な可溶性染料の多くのタイプの例は、米国特許公報(特許文献3)(その開示がその内容全体を記載したものとしてあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される)に開示されている。
【0054】
マトリックス上に/中に固定された染料は、例えば、米国特許公報(特許文献45)、米国特許公報(特許文献46)、米国特許公報(特許文献47)、(特許文献48)および(特許文献49)(その開示がその内容全体を記載したものとしてあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される)に見いだすことができる。
【0055】
アニオンSDPには、例えば、先に援用された米国特許公報(特許文献50)、米国特許公報(特許文献21)および(特許文献51)に記載されているもののようなスルホン化化学種が含まれる。アニオンSDPには、また、例えば、先に援用された米国特許公報(特許文献5)、米国特許公報(特許文献6)および(特許文献43)に記載されているもののようなカルボキシル化化学種が含まれる。カチオンSDPには、先に援用された米国特許公報(特許文献29)に記載されているもののような化学種が含まれる。
【0056】
伝統的な顔料分散系用の分散剤は、当該技術で周知の理由のために構造化ポリマーが分散剤として好ましいが、ほとんどの場合、構造化ポリマーかランダムポリマーかのどちらかである。用語「構造化ポリマー」は、ブロック、分岐またはグラフト構造を有するポリマーを意味する。かかるポリマー分散剤は典型的には疎水性モノマーおよび親水性モノマーの両方を含む。一般に、親水性モノマーは、イオン特性をポリマーに画定する部分を含有する。親水性モノマーの幾つかの例は、メタクリル酸、アクリル酸、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルならびにそれらの塩および(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルの第四級塩である。疎水性モノマーの幾つかの例は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−フェニルエチルおよび相当するアクリル酸エステルである。
【0057】
主としてカルボキシルアニオン部分を有する特に好ましい構造化ポリマーは、先に援用された米国特許公報(特許文献44)に開示されているABまたはBABブロック共重合体、米国特許公報(特許文献52)に開示されているABCブロック共重合体、および米国特許公報(特許文献53)に開示されているグラフトポリマーである。主としてスルホネートまたはホスフェートアニオン部分を有する特に好ましい構造化ポリマーは、米国特許公報(特許文献54)および米国特許公報(特許文献55)に開示されている。主として第四級化または第四級化されていないカチオン部分を有する特に好ましい構造化ポリマーは、米国特許公報(特許文献56)および米国特許公報(特許文献57)に開示されている。これらの刊行物の開示は、その内容全体を記載したものとしてあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される。
【0058】
ポリマー分散剤の数平均分子量は約50,000ダルトン(Dalton)未満、好ましくは約10,000未満、最も好ましくは約6,000未満であるべきである。約1〜4、最も好ましくは約1〜2の多分散性(数平均分子量と重量平均分子量との関係)を有するポリマーが最も有利である。
【0059】
分散剤での分散にまたはSDPを製造するための処理に好適であり得る代表的な市販の乾燥したプレスケーキ顔料は、先に援用された米国特許公報(特許文献44)に開示されている。
【0060】
(インク相互作用の様式)
先に指摘されたように、インクセット中の各インクは、ブリードを軽減するようにセット中のあらゆる他のインクと相互作用するであろう。少なくとも4つのインクのインクセットを可能にするために、相互作用の複合メカニズムが利用可能でなければならない。任意のインク−インク相互作用について、2つ以上のメカニズムが作動してもよい。
【0061】
ブリードの制御のための相互作用の一メカニズムは、高いpKaおよび高いpHのアニオンインクと低いpKaおよび低いpHのアニオンインクとの反応であって、混合された場合に、低いpHインクが高いpHインクと相互作用してそれを不安定化するように、低いpHインクのpHが高いpHインクのpKaに近いかまたはそれよりも下である反応である。決定的に重要なパラメーターは、2つのインク中のアニオン部分の相対的なpKaであり、必ずしも絶対値ではないことが認識されるであろう。2つのインク間のこの種の相互作用は、例えば、米国特許公報(特許文献58)(その開示がその内容全体を記載したものとしてあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される)に見いだされる。
【0062】
ブリードの制御のための相互作用の別のメカニズムは、アニオンインクとカチオンインクとの反応である。2つのインク間のこの種の相互作用は、例えば、米国特許公報(特許文献56)および米国特許公報(特許文献57)(それらの開示がその内容全体を記載したものとしてあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される)に見いだされる。
【0063】
ブリードの制御のための相互作用の別のメカニズムは、第四級化カチオンインクと第四級化されていないカチオンインクとの反応である。2つのインク間のこの種の相互作用は、例えば、米国特許公報(特許文献59)および米国特許公報(特許文献60)(それらの開示がその内容全体を記載したものとしてあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される)に見いだされる。
【0064】
ブリードの制御のための別のメカニズムは、水相変化相互作用である。この場合における相互作用は互いの非相溶性であり、イオン相互作用に必ずしも依存しない。2つのインク間のこの種の相互作用は、例えば、米国特許公報(特許文献1)(その開示がその内容全体を記載したものとしてあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される)に見いだされる。
【0065】
ポリマー非混和性を用いて水相間に物質を選択的に分配するという概念(水性相分離)は、公知であり、バイオテクノロジー分野で文書により十分に立証されている。(例えば、(非特許文献1)を参照されたい。)一般に、所与の溶剤中の異なるポリマーの溶液の混合物は相分離を誘発する。3つ以上の相は、3つ以上の異なるポリマーを用いることによって誘発されるかもしれず、溶剤中の似ていないポリマーと同じ多くの相があるだろう。
【0066】
水性相分離は、2つのインク間の相互作用を前提として別個の水相が形成されるであろうように、ポリマーを1つのインクに、かつ該ポリマーと非混和性である第2化学種(非相溶性成分/添加剤)を他のインクに組み入れることによって、インクジェットインクでのブリードを制御するために用いることができる。こうして、これら2つのインクが互いに隣接して印刷される場合、界面境界線が2つの間に現れ、インクが混合するまたはブリードする傾向が減少するであろう。同様に、3つのインク間のブリード制御は、3つの異なるインク中に3つの互いに非混和性のポリマーを1つずつ組み入れることによって達成することができる。
【0067】
ポリマーと相互作用すると、水性相分離を共誘発するいわゆる「第2化学種」は、別のポリマーまたは低分子量成分であってもよい。本質的に、その中に含有されるポリマーと相互作用すると水溶液中に水性相分離を誘発する任意の化合物は、第2化学種として役立つかもしれない。いかなる場合にも、第2化学種は、一対にされるべきであるポリマーと実質的に非混和性でなければならない。このように、2つのポリマーが隣接印刷されるインク中で一対にされる場合、ポリマーは、非混和性であり、それによって水性相分離を誘発するのに十分なほど異ならなければならない。ポリマー分子の大きなサイズのために、非常に似ており、かつ非常に低い濃度で存在するポリマーについてさえも、相分離がポリマー−ポリマー混合物中で起こる。2つのポリマーが十分に異なるかどうかを判断する際に重要な因子には、平均分子量、多分散性、およびインク中のポリマーの濃度が含まれる。当業者によるお決まりの実験は2つの特定ポリマーが水性相分離を誘発するのに十分なほど水溶液中で異なるかどうかを判断するのに十分であろうと考えられる。
【0068】
これらの相互作用を獲得し、相互作用するインクセットを構築するために、インクの次のカテゴリーが定義される。
【0069】
(カテゴリー(a)−水性アニオンインク、高いpKa)
水性媒体中に溶解または分散されたアニオン着色剤より構成されるインクであって、アニオン部分のpKaが本発明のカテゴリー(b)インクよりも比較的高いインク。アニオン着色剤の代わりに、インクは、非イオン着色剤と可溶性のまたは分散されたアニオンポリマーとを含むことができ、ここで、ポリマー上のアニオン部分は本発明のカテゴリー(b)インクよりも比較的高いpKaを有する。このカテゴリーのインクのpKaは好ましくは約4よりも上であろうし、好ましいアニオン化学種はカルボキシルである。より大きな安定性のために、インクのpHは、そのpKaよりも上に、典型的には6.5〜9の範囲のpHに、より典型的には7〜8の範囲に一般に調節されるであろう。
【0070】
(カテゴリー(b)−水性アニオンインク、低いpKa)
水性媒体中に溶解または分散されたアニオン着色剤より構成されるインクであって、アニオン部分のpKaが本発明のカテゴリー(a)インクよりも比較的低く、インクのpHが本発明のカテゴリー(a)インクのpKaにまたはそれよりも下に維持されているインク。アニオン着色剤の代わりに、インクは、非イオン着色剤と可溶性のまたは分散されたアニオンポリマーとを含むことができ、ここで、ポリマー上のアニオン部分は本発明のカテゴリー(a)インクよりも比較的低いpKaを有する。このカテゴリーのインクのpKaは好ましくは約5よりも下であろうし、好ましいアニオン化学種はスルホネートである。より大きな安定性のために、インクのpHは、そのpKaよりも上だが任意のカテゴリーAインクのpKa以下に一般に調節されるであろう。pHおよびpKaの絶対値は、BインクのpHがセット中の任意のカテゴリー(a)インクのpKaよりも下である限り決定的に重要ではない。
【0071】
(カテゴリーC−水性で第四級化されていないカチオンインク)
水性媒体中に分散された第四級化されていない着色剤より構成されるインク。第四級化されていないカチオン着色剤の代わりに、インクは、非イオン着色剤と可溶性のまたは分散された第四級化されていないカチオンポリマーとを含むことができる。
【0072】
(カテゴリーD−水性第四級化カチオンインク)
水性媒体中に分散された第四級化カチオン着色剤より構成されるインク。第四級化カチオン着色剤の代わりに、インクは、非イオン着色剤と可溶性のまたは分散された第四級化カチオンポリマーとを含むことができる。
【0073】
(カテゴリーからの2つ以上のインク)
インクセットが任意のカテゴリー(a)〜(d)からの2つ以上のインクを含有する場合、同じカテゴリーのすべてのインクは、本明細書で前に記載されたように、水性相変化メカニズムによって互いに相互作用するべく配合される。そのように、カテゴリー内のすべてのインクは相互作用するだろうし、それらはまた任意の他のカテゴリーからのすべてのインクと相互作用するだろう。相互作用のこの様式に従って水性相分離を達成するために使用されるポリマーは、好ましくは水溶性の非イオンポリマーである。非イオンポリマーの使用は、それが追加のイオン相互作用またはpH感受性のいかなる面倒な事態も回避するので、インクの配合を簡単にする。
【0074】
好適に使用される非イオンポリマーの例には、約200の最小平均分子量を有するポリエチレングリコールおよびその誘導体、約200の最小平均分子量を有するポリプロピレングリコールおよびその誘導体、多糖類およびその誘導体、約10,000〜200,000の範囲内の平均分子量を有するポリビニルアルコールおよびその誘導体、約2,000〜500,000の範囲内の平均分子量を有するポリビニルピロリドンおよびその誘導体、フィコール(Ficoll)(登録商標)(ファルマシア社(Pharmacia Inc.)から商業的に入手可能なポリサッカローズ)のような、約40,000〜400,000の範囲内の平均分子量を有するポリサッカローズおよびその誘導体、ならびに約500〜10,000の範囲内の平均分子量を有するエトキシ−およびプロポキシル化グリセロールおよびそれらの誘導体が挙げられるが、それらに限定されない。
【0075】
ポリエチレングリコールの好適に使用される誘導体の具体例には、ポリエチレングリコールメチルエーテルおよびポリエチレングリコールビス(カルボキシメチル)エーテルが挙げられるが、それらに限定されない。好適に使用される多糖類の例には、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ならびに約3,000〜2,000,000の範囲内の平均分子量を有するデキストランおよびデキストラン誘導体が挙げられるが、それらに限定されない。本発明の実施で好適に使用されるデキストランの誘導体の特定例には、ジエチルアミノエチルデキストランおよびヒドロキシプロピルデキストランが挙げられる。デキストランは、グリコーゲン、レバンおよび可溶性澱粉を含むが、それらに限定されないポリマーの群を代表するものと見なされてもよいことがさらに指摘される。エトキシ−およびプロポキシル化グリセロールの特定例には、LEG(「リポニックス(Liponics)(登録商標)エトキシル化グリセロール」)、約725〜4,100の範囲内の平均分子量を有するグリセロールプロポキシレートおよびその誘導体、約725〜4,100の範囲内の平均分子量を有するグリセロールプロポキシレート(メトキシレート−コ−プロポキシレート)およびその誘導体、ならびに約725〜4,800の範囲内の平均分子量を有するグリセロールプロポキシレート(メトキシレート−、ベータ−エトキシレートトリオール)およびその誘導体が挙げられるが、それらに限定されない。
【0076】
さらにより具体的には、同じa〜dカテゴリー中の3つのインク間の水相変化相互作用を達成するために、3つのインクは、異なる分子量のポリエチレングリコール(PEG)ポリマー(例えば、PEG4000、PEG2000およびPEG7500)でそれぞれ配合することができる。同様に、相変化相互作用は、1つをデキストランで、他をPEG7500で配合することによって一対のインク間で達成することができる。同様に、相変化相互作用は、1つをポリビニルピロリドン(PVP)で、他をエトキシル化グリコール(LEG)で配合することによって一対のインク間で達成することができる。これらの相互作用は、先に援用された参考文献米国特許公報(特許文献1)に詳細に記載されており、さらなる情報についてはそれを参照してもよい。
【0077】
(好ましい実施形態)
染料セットでは、黒色染料は許容されないほどに低い光学密度を有する傾向があるので、黒色着色剤としてカーボンブラックのような顔料を使用することが望ましいが、一般に、インクセット中の着色剤はすべて同じタイプのもの(顔料または染料)である。従って、好ましい一実施形態では、本発明のインクセットの少なくとも4つのインクのすべてのインクは顔料着色剤を含む。別の好ましい実施形態では、本発明のインクセットの少なくとも4つのインクのすべてのインクは可溶性染料着色剤を含む。別の好ましい実施形態では、本発明のインクセットの少なくとも4つのインクのインクの1つは黒色顔料着色剤を含み、残りのインクは可溶性染料着色剤を含む。
【0078】
各「インク」は、異なる色のインクを意味することを意図される。必要ならば、希釈インクの配合は異なるカテゴリーに由来することができるが、同じ色の希釈インクは異なる色と考えられない。希釈(また「薄くすること(light)」または「中程度にすること(medium)」とも言われる)は、より微妙な勾配または色調を達成するためにインクセットで時々用いられる。
【0079】
本発明のインクセットは、少なくとも4つのインク、好ましくは少なくともシアン、マゼンタ、黄色および黒色インクを含む。一実施形態では、少なくとも4つのインクは、カテゴリー(a)〜(d)のそれぞれからの少なくとも1つのインクを含む。別の実施形態では、少なくとも4つのインクは、カテゴリー(a)〜(d)のそれぞれからの少なくとも1つのインクを含み、かつカテゴリー(a)インクはアニオン自己分散性カーボンブラック着色剤より構成される。別の実施形態では、少なくとも4つのインクは、カテゴリー(a)〜(d)のそれぞれからの少なくとも1つのインクを含み、かつカテゴリー(b)インクはアニオン自己分散性カーボンブラック着色剤より構成される。別の実施形態では、少なくとも4つのインクは、カテゴリー(a)〜(d)のそれぞれからの少なくとも1つのインクを含み、かつカテゴリー(c)インクはカチオン(非第四級化)自己分散性カーボンブラック着色剤より構成される。別の実施形態では、少なくとも4つのインクは、カテゴリー(a)〜(d)のそれぞれからの少なくとも1つのインクを含み、かつカテゴリー(d)インクはカチオン(第四級化)自己分散性カーボンブラック着色剤より構成される。
【0080】
好ましくは、少なくとも4つのインクを含むインクセットには、任意の1つのカテゴリーからの2以下のインクが存在する。
【0081】
別の実施形態では、本発明のインクセットは、少なくとも5つのインク、好ましくは少なくともシアン、マゼンタ、黄色および黒色インクと、例えば、橙色または緑色のような少なくとも1つの追加の色とを含む。
【0082】
本発明のインクセットは高速度印刷に、特にワンパスでの印刷に特に有利である。このように、本発明の追加の態様は、相互作用するインクセットがワンパスで基材に塗布されるインクジェット印刷の方法である。
【0083】
特に好ましい実施形態は、ページ幅のアレイからの印刷である。ページ幅のアレイは、プリントヘッドまたは一連のプリントヘッドが基材の全幅に伸び、適所に固定されているプリンター配置を意味し、基材がアレイを通過して画像がワンパスで印刷される。ページ幅のアレイに基づく印刷システムは、例えば、米国特許公報(特許文献61)、米国特許公報(特許文献62)、米国特許公報(特許文献63)、米国特許公報(特許文献64)、米国特許公報(特許文献65)、米国特許公報(特許文献66)および米国特許公報(特許文献67)(それらの開示がその内容全体を記載したものとしてあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される)に見いだすことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に作用するインクのインクセットであって、前記インクセットは、下記のカテゴリー(a)〜(d):
(a)着色剤と水性媒体とを含む比較的高いpKaの水性アニオンインクと、
(b)着色剤と水性媒体とを含み、カテゴリーaからのセット中の任意のインクのpKaよりも下のpHに調節されている比較的低いpKaの水性アニオンインクと、
(c)着色剤と水性媒体とを含む水性で第四級化されていないカチオンインクと、
(d)着色剤と水性媒体とを含む水性第四級化カチオンインクと、
から選択される少なくとも4つのインクを含み、
任意の1つのカテゴリーからの3つ以下のインクがセット中に存在し、任意の1つのカテゴリーからのすべてのインクは、水性相変化メカニズムによって別の1つと互いに相互作用するように、補完的な非相溶性成分をさらに含むことを特徴とするインクセット。
【請求項2】
(a1)第1着色剤、第1水性媒体および、任意選択的に、第1非相溶性添加剤を含み、第1pKaを有する第1水性アニオンインクと、
(a2)第2着色剤、第2水性媒体および、任意選択的に、第2非相溶性添加剤を含み、第2pKaを有する第2水性アニオンインクと、
(a3)第3着色剤、第3水性媒体および、任意選択的に、第3非相溶性添加剤を含み、第3pKaを有する第3水性アニオンインクと、
(b1)第4着色剤、第4水性媒体および、任意選択的に、第4非相溶性添加剤を含み、第4pKaを有する第4水性アニオンインクであって、もし、インク(a1)、(a2)および(a3)の1つまたは複数が存在する場合には、
(i)第4pKaは第1、第2または第3pKaのいずれよりも低く、かつ
(ii)第4アニオンインクは第1、第2または第3pKaのいずれよりも下のpHを有する第4水性アニオンインクと、
(b2)第5着色剤、第5水性媒体および、任意選択的に、第5非相溶性添加剤を含み、第5pKaを有する第5水性アニオンインクであって、もし、インク(a1)、(a2)および(a3)の1つまたは複数が存在する場合には、
(i)第5pKaは第1、第2または第3pKaのいずれよりも低く、かつ
(ii)第5アニオンインクは第1、第2または第3pKaのいずれよりも下のpHを有する第5水性アニオンインクと、
(b3)第6着色剤、第6水性媒体および、任意選択的に、第6非相溶性添加剤を含み、第6pKaを有する第6水性アニオンインクであって、もし、インク(a1)、(a2)および(a3)の1つまたは複数が存在する場合には、
(i)第6pKaは第1、第2または第3pKaのいずれよりも低く、かつ、
(ii)第6アニオンインクは第1、第2または第3pKaのいずれよりも下のpHを有する第6水性アニオンインクと、
(c1)第7着色剤、第7水性媒体および、任意選択的に、第7非相溶性添加剤を含む第1水性で第四級化されていないカチオンインクと、
(c2)第8着色剤、第8水性媒体および、任意選択的に、第8非相溶性添加剤を含む第2水性で第四級化されていないカチオンインクと、
(c3)第9着色剤、第9水性媒体および、任意選択的に、第9非相溶性添加剤を含む第3水性で第四級化されていないカチオンインクと、
(d1)第10着色剤、第10水性媒体および、任意選択的に、第10非相溶性添加剤を含む第1水性第四級化カチオンインクと、
(d2)第11着色剤、第11水性媒体および、任意選択的に、第11非相溶性添加剤を含む第2水性第四級化カチオンインク、ならびに
(d3)第12着色剤、第12水性媒体および、任意選択的に、第12非相溶性添加剤を含む第3水性第四級化カチオンインクであって、
もし、
(a1)、(a2)および(a3)は異なり、かつ、(a1)、(a2)および(a3)の2つ以上が存在する場合には、存在する(a1)、(a2)および(a3)のそれぞれは第1、第2および第3非相溶性添加剤をそれぞれさらに含み、前記第1、第2および第3非相溶性添加剤はそれぞれそれらの間での接触の場合に第1、第2および第3水性媒体の水性相分離を誘発するように互いに非相溶性であり、
(b1)、(b2)および(b3)は異なり、かつ、(b1)、(b2)および(b3)の2つ以上が存在する場合には、存在する(b1)、(b2)および(b3)のそれぞれは第4、第5および第6非相溶性添加剤をそれぞれさらに含み、前記第4、第5および第6非相溶性添加剤はそれぞれそれらの間での接触の場合に第4、第5および第6水性媒体の水性相分離を誘発するように互いに非相溶性であり、
(c1)、(c2)および(c3)は異なり、かつ、(c1)、(c2)および(c3)の2つ以上が存在する場合には、存在する(c1)、(c2)および(c3)のそれぞれは第7、第8および第9非相溶性添加剤をそれぞれさらに含み、前記第7、第8および第9非相溶性添加剤はそれぞれそれらの間での接触の場合に第7、第8および第9水性媒体の水性相分離を誘発するように互いに非相溶性であり、
(d1)、(d2)および(d3)は異なり、かつ、(d1)、(d2)および(d3)の2つ以上が存在する場合には、存在する(d1)、(d2)および(d3)のそれぞれは第10、第11および第12非相溶性添加剤をそれぞれさらに含み、前記第10、第11および第12非相溶性添加剤はそれぞれそれらの間での接触の場合に第10、第11および第12水性媒体の水性相分離を誘発するように互いに非相溶性である第3水性第四級化カチオンインクと、
からなる群から選択された少なくとも4つのインクを含むことを特徴とする互いに相互作用するインクのインクセット。
【請求項3】
任意の1つのカテゴリー(a)〜(d)からの2つ以下のインクがセット中に存在することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のインクセット。
【請求項4】
各カテゴリー(a)〜(d)からの少なくとも1つのインクがセット中に存在することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のインクセット。
【請求項5】
すべての着色剤が顔料であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のインクセット。
【請求項6】
すべての着色剤が染料であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のインクセット。
【請求項7】
少なくとも4つのインクがシアン着色剤入りの少なくとも1つのインク、マゼンタ着色剤入りの少なくとも1つインク、黄色着色剤入りの少なくとも1つインクおよび黒色着色剤入りの少なくとも1つインクより構成されることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のインクセット。
【請求項8】
少なくとも4つのインクの1つが着色剤としてのカーボンブラック顔料より構成され、セットの残りのインクが着色剤としての染料より構成されることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のインクセット。
【請求項9】
インクジェット印刷の方法であって、インクジェットプリンターにより基材上へインクセットを噴射することによって前記インクジェットプリンターにより前記基材を印刷する工程を含み、前記インクセットが請求項1〜8のいずれか1項に記載されていることを特徴とする方法。
【請求項10】
前記印刷がページ幅のアレイにより成し遂げられることを特徴とする請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2006−506512(P2006−506512A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553742(P2004−553742)
【出願日】平成15年11月14日(2003.11.14)
【国際出願番号】PCT/US2003/036544
【国際公開番号】WO2004/046266
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】