説明

インクジェット印字方法及び印字物

【課題】特殊な印字ヘッドを用いることなくともインクの滲みを発生させることなく厚盛り印字を行えるインクジェット印字方法及び厚盛り印字層を備えた印字物を提供する。
【解決手段】印字媒体1上に第1の印字層2aをインクジェット印字によって形成する工程と、印字層2aの上に、これよりもインクの被定着性に優れた定着層3aを形成する工程と、定着層3a上に印字層2bをインクジェット印字によって設ける工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式で厚盛り印字する方法及び、厚盛り印字がなされた印字物に関する。
【背景技術】
【0002】
印字媒体に印字を施す印字方法の一つとして、微小なインクの液滴を印字媒体へ噴射し、印字媒体上に文字や画像を形成する「インクジェット方式」の印字方法(インクジェット印字方法)がある。
【0003】
インクジェット方式の印字方法は、いわゆる「版」が不要であるため、1回又は少数回ごとに内容を変更する(可変印字する)場合に広く用いられている。例えば、製品のシリアルナンバーを印字する場合には、重複しないように個々の番号を変える必要があるため、インクジェット印字方法が広く用いられている。このような作業は、印刷では困難である。
【0004】
近年、機能性成分をインクに含有させ、インクジェット方式で機能性印字を施すことも行われている。例えば、蛍光成分や赤外線吸収成分をインクに含有させ、それを印字媒体へ噴射することにより、印字媒体上に蛍光特性や赤外線吸収特性を備えた印字層を形成できる。このような印刷層は、特に、商品券の偽造防止や証券類の機械読み取りを目的として適用が可能である。
【0005】
このようにして形成した機能性印字層が示す特性は、印字層に含まれる機能性成分の量に依存する。このため、1回の印字では、機械的に検出するのに十分な量の機能性成分を含有した機能性印字層を形成できない場合がある。このような場合には、印字を複数回重ねて行い、いわゆる「厚盛り」とすることで、機械的に検出するのに十分な量の機能性成分を含有した機能性印字層を形成する必要がある。
【0006】
しかし、上記のようにインクジェット方式では微小なインクの液滴を印字媒体へ噴射するため、インクを噴射する際に、それ以前に噴射したインクが乾いていないと、インクの滲みや乾燥不良が生じる可能性がある。
【0007】
インクジェット方式における重ね印字に関する技術として、特許文献1に開示される発明がある。特許文献1に開示される発明は、インクの噴射ヘッドをずらして配置することにより、インクの滲みなどを防止するものである。
【特許文献1】特開平5−38820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示される発明は、印字ヘッドの構造そのものに関する発明である。すなわち、インクの滲みが発生しないようにするためには、専用の装置を用いる必要がある。
【0009】
インクの性質を改良することでインクの滲みを防止することも試みられてはいるが、インクジェット方式ではインクの物性に制約がある。このため、インクの滲みを防止するのに有効であっても、添加できない成分も存在する。例えば、インクの粘度が20mPa・sよりも高くなると液滴として飛翔させることが困難となるため、このような成分をインクに添加することはできない。また、印字ヘッドの金属部分を腐食してしまうような成分は、インクに添加することができない。さらに、インクジェット印字用のインクは水性インクであるため、水溶性の無い成分はインクに添加できない。このように、インクの性質を改良してインクの滲みを防止するのには限界がある。
【0010】
このように、特殊な印字ヘッドを用いなくともインクの滲みを発生させることなく厚盛り印字を行えるインクジェット印字方法は提供されていなかった。
【0011】
本発明は係る問題に鑑みてなされたものであり、特殊な印字ヘッドを用いることなくともインクの滲みを発生させることなく厚盛り印字を行えるインクジェット印字方法及び厚盛り印字層を備えた印字物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、第1の態様として、印字媒体上に第1の印字層をインクジェット印字によって形成する工程と、第1の印字層又は第2の印字層の上に、これらよりもインクの被定着性に優れた定着層を形成する工程と、定着層上に第2の印字層をインクジェット印字によって設ける工程とを有し、第1及び第2の印字層の層数が所定の回数となるまで定着層及び第2の印字層を繰り返し形成することを特徴とするインクジェット印字方法を提供するものである。
【0013】
また、上記目的を達成するため、本発明は、第2の態様として、印字媒体上にインクジェット印字によって形成された第1の印字層を有し、第1の印字層の上には、第1の印字層又は第2の印字層よりもインクの被定着性に優れた定着層と、インクジェット印字によって形成された第2の印字層との対が少なくとも一対形成されていることを特徴とするインクジェット印字物を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特殊な印字ヘッドを用いることなくともインクの滲みを発生させることなく厚盛り印字を行えるインクジェット印字方法及び厚盛り印字層を備えた印字物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
〔第1の実施形態〕
本発明を好適に実施した第1の実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態に係るインクジェット印字方法は、印字媒体上に印字層をインクジェット印字によって印字層を形成する工程(ステップS11)と、印字媒体の印字領域内の印字層上を覆うように、印字層よりもインクの被定着性に優れた定着層を形成する工程(ステップS12)と、定着層上に印字層をインクジェット印字によって設ける工程(ステップS13)とを有し、印字層の層数が所定の回数となるまで(ステップS14/Yes)定着層及び印字層を繰り返し形成する。
定着層を形成する工程及びその上に印字層を形成する工程は、印字媒体全体を一つの単位として行っても良いし、1又は複数の画線を単位として行っても良い。すなわち、印字媒体上の印字領域全体に定着層を形成した後に印字層を形成しても良いし、1又複数の画線を単位として定着層及び印字層の形成を繰り返しても良い。
【0016】
定着層の形成に用いるインクは、公知であるインクジェット印字用の印字媒体の受容層を形成するのに用いられるものが好適に用いられる。
【0017】
印字(印字層の形成)に用いるインクは、インクジェット用の水性インクであり、一例を挙げると、顔料としてのイエロー顔料を50g/l、機能性成分としての蛍光顔料を25g/l、添加剤として界面活性剤を1g/l含んでおり、粘度は4mPa・sである。
【0018】
図2に、本実施形態に係るインクジェット印字方法で印字がなされた印字物の断面の一例を示す。
印字媒体1は、基材層11と受容層12とを備えた一般的なインクジェット印字用の印字媒体である。一般的には、基材層11はパルプ、受容層12はシリカなどの無機微粒子を用いて形成されるがこれに限定されることはない。図2(a)に示すように、印字媒体1上には、少なくとも一つの印字領域が設けられている。
【0019】
図2(b)に印字領域を拡大して示す。印字領域には、受容層12上に印字層2aが形成されている。印字層2aの上を含む受容層12の上に定着層3aが形成されている。さらに、印字領域の定着層3a上には印字層2bが形成されている。すなわち、本実施形態においては、印字層2aよりも広い領域に定着層3aが形成されており、印字層2bは印字層2aと同一形状に形成されている。
【0020】
本実施形態に係るインクジェット印字方法の流れについて説明する。ここでは印字層を2層設けるものとする。
まず、図3(a)に示すように、印字媒体1の受容層12の上に印字層2aを形成する(ステップS11)。この際に噴射されたインクは、着弾後に受容層12に速やかに吸収されるため、インクの滲みは生じない。
【0021】
続いて、図3(b)に示すように、印字層2aを含む受容層12の上に、定着層3aを印刷によって形成する(ステップS12)。
さらに、図3(c)に示すように、印字領域内の定着層3a上にインクジェット方式で印字層2bを形成する(ステップS13)。この際に噴射されたインクは、印字層2a上ではなく定着層3a上に着弾するため、インクの滲みは生じない。
【0022】
この時点で、印字層の層数は所定数に達するため(ステップS14/Yes)、処理は終了となる。なお、3層以上の印字層を設ける場合には、ステップS12〜S13を繰り返し実行する。
【0023】
図4に、印字領域が文字“K”である場合を例として、インクジェット印字方法の具体例を示す。ここで、まず、図4(a)に示すように印字層2aをインクジェット印字で形成する。その後、図4(b)に示すように定着層3を印刷によって形成する。これにより、図4(c)に示すように、印字層2が定着層3で覆われた状態となる。その後、印字層2bをインクジェット印字で形成する。これにより、図4(e)に示すように、定着層3を介して印字層2aと2bとが積層され、厚盛り印字が実現する。なお、印字層2aと印字層2bとは、図4に示すように、巨視的には同一形状であることが好ましい。
【0024】
ここでは印字層2a上を含む受容層12の一部分に定着層3aを印刷形成する例を示したが、受容層12全体の上に定着層3aを形成しても良い。
【0025】
このように、2回目の印字工程で噴射されたインクは、前回の印字工程で形成された印字層2a上ではなく、直前に形成された定着層3a上に着弾するため、インクが滲んだり、乾燥不良を起こしたりしにくい。また、印字層2bを形成するインクの一部が定着層3aに吸収されるため、吸収された部分がアンカーとして機能する。このため、印字層2aは、定着層3aとの界面で剥離を生じにくい。
【0026】
そして、印字層2bが形成されている分、印字層2aのみを設ける場合よりも、印字領域上に存在する機能性成分の量は多くなる。このため、機械的に検出するのに十分な量の機能性成分を含有した機能性印字層を形成できる。
【0027】
このように、本実施形態に係るインクジェット印字方法によれば、特殊な印字ヘッドを用いなくともインクの滲みを発生させることなく厚盛り印字を行える。これにより、特殊な印字ヘッドを用いなくとも厚盛り印字部を有するインクジェット印字物を形成できる。
【0028】
〔第2の実施形態〕
本発明を好適に実施した第2の実施形態について説明する。図5に示すように、本実施形態に係るインクジェット印字方法は、インクの被定着性に優れた定着層を、印字層上にインクジェット印字によって形成する(ステップS22)点が第1の実施形態と相違する。
【0029】
定着層の形成に用いるインクは、インクジェット用の水性インクであり、一例を挙げると、インクの被定着性を向上させる成分としてのマイクロシリカ(コロイダルシリカ)を50g/l、添加剤として界面活性剤を1g/l含んでおり、粘度は15mPa・sである。
【0030】
印字層の形成に用いるインクの成分は、第1の実施形態と同様である。定着層の形成に用いるインクは、定着層がインクの吸収性を示すのであれば、組成は任意である。
【0031】
図6に、本実施形態に係るインクジェット印字方法で印字がなされた印刷物の印字領域を拡大して示す。印字媒体11上の印字領域には、受容層12上に印字層2aが形成されており、その上には定着層3b、印字層2bが順に形成されている。すなわち、本実施形態においては、印字層2a、2b及び定着層3bが全て同一の形状で印字媒体1上に形成されている。
【0032】
本実施形態に係るインクジェット印字方法の流れについて説明する。ここでは印字層を2層設けるものとする。
まず、図7(a)に示すように、印字媒体1の受容層12の上に印字層2aを形成する(ステップS21)。この際に噴射されたインクは、着弾後に受容層12に速やかに吸収されるため、インクの滲みは生じない。
【0033】
続いて、図7(b)に示すように、印字層2aの上に、インクジェット方式で定着層3bを形成する(ステップS22)。
さらに、図7(c)に示すように、定着層3a上にインクジェット方式で印字層2bを形成する(ステップS23)。この際に噴射されたインクは、印字層2a上ではなくインクの被定着性に優れた定着層3b上に着弾するため、インクの滲みは生じない。
【0034】
この時点で、印字層の層数は所定数に達するため(ステップS24/Yes)、処理は終了となる。なお、3層以上の印字層を設ける場合には、ステップS22〜S23を繰り返し実行する。
【0035】
本実施形態に係るインクジェット印字方法によっても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0036】
なお、上記実施形態は本発明の好適な実施の一例であり、本発明はこれに限定されることはない。
例えば、上記各実施形態においては、印字媒体1表面の受容層12と接する印字層2aが一様な層である場合を例としたが、図8に示すように、印字媒体1表面の受容層12と接する印字層2aは、受容層12の一部が露出するように部分印字層2a1を形成し、受容層12の露出した部分と部分印字層2a1との上にベタ印字層2a2を形成するなどした、一様でない構造であっても良い。また、図9に示すように、印字媒体1表面の受容層12と接する印字層2aは、インクの粘度を順次高めながら繰り返し形成した印字層2a1〜2anからなる構造であっても良い。
このように、本発明は様々な変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を好適に実施した第1の実施形態に係るインクジェット印字方法の流れを示す図である。
【図2】第1の実施形態に係るインクジェット印字方法によって印字がなされた印字物の構成の一例を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係るインクジェット印字方法の工程を示すである。
【図4】第1の実施形態に係るインクジェット印字方法の工程の一例を示す図である。
【図5】本発明を好適に実施した第2の実施形態に係るインクジェット印字方法の流れを示す図である。
【図6】第2の実施形態に係るインクジェット印字方法によって印字がなされた印字物の構成の一例を示す図である。
【図7】第2の実施形態に係るインクジェット印字方法の工程を示すである。
【図8】印字媒体表面の受容層と接する印字層が一様ではない場合の印字物の断面を示す図である。
【図9】印字媒体表面の受容層と接する印字層が一様ではない場合の印字物の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 印字媒体
2a、2b 印字層
3a 定着層(印刷)
3b 定着層(印字)
11 基材層
12 受容層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印字媒体上に第1の印字層をインクジェット印字によって形成する工程と、
前記第1の印字層の上に、これよりもインクの被定着性に優れた定着層を形成する工程と、
前記定着層上に前記第2の印字層をインクジェット印字によって設ける工程とを有し、前記第1及び第2の印字層の層数が所定の回数となるまで前記定着層及び前記第2の印字層を繰り返し形成することを特徴とするインクジェット印字方法。
【請求項2】
前記第1の印字層を形成する際に噴射するインクと、前記第2の印字層を形成する際に噴射するインクとには、任意の共通する機能成分が含まれることを特徴とする請求項1記載のインクジェット印字方法。
【請求項3】
印字媒体上に第1の印字層を有し、
前記第1の印字層の上には、前記第1の印字層よりもインクの被定着性に優れた定着層が形成され、前記定着層の上には第2の印字層が形成されていることを特徴とするインクジェット印字物。
【請求項4】
前記定着層は、前記第1及び第2の印字層が形成された印字領域を含むこれよりも広い領域に設けられていることを特徴とする請求項3記載のインクジェット印字物。
【請求項5】
前記定着層は、前記第1及び第2の印字層が形成された印字領域にのみ設けられていることを特徴とする請求項3記載のインクジェット印字物。
【請求項6】
前記第1の印字層と前記第2の印字層とに共通する機能性成分が含まれることを特徴とする請求項3から5のいずれか1項記載のインクジェット印字物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−292137(P2009−292137A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151025(P2008−151025)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】