説明

インクジェット式記録ヘッド、及びその製造方法

【課題】簡易に製造可能であって、良好なインク吐出特性を得られるインクジェット式記録ヘッド、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のインクジェット式記録ヘッドHは、インクを貯蔵する空間12が形成されたインク室形成体11と、前記空間12と連通する複数の流路5が形成された流路形成体13と、前記流路5を介して供給されるインクを吐出するオリフィスプレート15と、を備えた本体部10と、前記流路5内のインクを加圧する加圧部21、22と、を備えたインクジェット記録ヘッドHにおいて、前記インク室形成体11と流路形成体13の境界面には、前記インク室形成体11の空間12を形成する壁部11aにより当該流路5の一部が遮蔽されてなる絞り部6が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタ等で用いられるインクジェット式記録ヘッド等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット式記録ヘッドは、一例として、複数枚の金属製薄板を積み重ねて拡散接合することによって製造されることが知られている。
【0003】
このようなインクジェット式記録ヘッドは、例えば、インクを貯蔵するインク室と、インク室と連通する複数の個別インク室と、個別インク室内のインクを吐出するためのノズル孔を有するオリフィスプレートと、を備えている。また、個別インク室の一部を振動板で構成し、その振動板を圧電素子により変形させて当該個別インク室内のインクを加圧し、当該ノズル孔からインク液を吐出させるようになっている。
【0004】
また、近年の高解像度化に伴い、個別インク室、並びにノズル孔を高密度に配置することにより、振動板から発生された振動の残留分が、インクを通じ隣接の個別インク室に波及し、各ノズルにおいて所定の吐出量を得られなくなる現象である「クロストーク」が発生する。このようなクロストークに対応するインクジェット式記録ヘッドとしては、共通インク室から個別インク室への流入経路を絞ることで、良好なインク吐出特性が得られることが従来から知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−240295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的なインクジェット式記録ヘッドの流路は複雑な形状をしていることもあり、流路に絞りを形成するには複雑な加工技術を有する。
【0007】
また、複数枚の金属製薄板を積み重ねる方式により製造されたインクジェット式記録ヘッドは、積層ずれを伴い、良好なインク吐出特性を得られにくいなどの不具合が生じる場合がある。
【0008】
さらに、インクジェット式記録ヘッドを構成する部材に金属材料を用いると、昨今様々なインクが開発されていることもあり、金属材料と化学反応を起こしてしまい吐出に影響を与えるインクもあることから金属材料以外の材質を用いる必要がある。
【0009】
本発明は、このような問題の解消を一つの課題とし、その目的の一例は、簡易に製造可能であって、良好なインク吐出特性を得られるインクジェット式記録ヘッド、及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッドは、インクを貯蔵する空間が形成されたインク室形成体と、前記空間と連通する複数の流路が形成された流路形成体と、前記流路を介して供給されるインクを吐出するオリフィスプレートと、を備えた本体部と、前記流路内のインクを加圧する加圧部と、を備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、前記インク室形成体と流路形成体の境界面には、前記インク室形成体の空間を形成する壁部により当該流路の一部が遮蔽されてなる絞り部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、クロストークに対応した絞り部が形成されていることから良好なインク吐出特性が得られ、高解像度対応のインクジェット式記録ヘッドに対応可能である。また、インク室形成体と流路形成体の境界面に絞り部を形成することで、当該絞り部を容易な機械加工により製造することができるので、製造コストを低減することが可能である。
【0012】
また、請求項2に記載のインクジェット式記録ヘッドは、請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記本体部はガラス材料で構成され、前記インク室形成体と流路形成体、及び流路形成体とオリフィスプレートは、それぞれが加熱接合により接合されていることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、本体部がガラス材料で構成されているので、インクとの化学反応が発生せず、更にクロストークに対応した絞り部が形成されていることから良好なインク吐出特性が得られ、高解像度対応のインクジェット式記録ヘッドに対応可能である。また、同種材料を用いて加熱接合により本体部を製造しているため、異種材料による接合界面での剥離や、接着剤を用いることによる流路への接着剤の混入なども発生せずに、高品質で信頼性の高いインクジェット式記録ヘッドを容易に製造することが可能である。
【0014】
また、請求項3に記載のインクジェット式記録ヘッドは、請求項1又は2に記載のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記ガラス材料は、石英ガラスであることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、更に加工性や接合性の点で優れているので、高品質で信頼性の高いインクジェット式記録ヘッドを容易に製造することが可能である。
【0016】
また、請求項4に記載のインクジェット式記録ヘッドは、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記流路は、直線状に形成された孔部を繋ぎ合わせることで構成されていることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、流路を容易に形成することができるので、高品質で信頼性の高いインクジェット式記録ヘッドを容易に製造することが可能である。
【0018】
また、請求項5に記載のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、インクを貯蔵する空間を有するインク室形成体を形成する工程と、前記空間と連通する複数の流路を有する流路形成体を形成する工程と、前記流路を介して供給されるインクを吐出する孔部を有するオリフィスプレートを形成する工程と、前記空間と前記流路が連通し、当該流路の一部を前記インク室形成体の空間を形成する壁部により遮蔽するようにして前記流路形成体上に前記インク室形成体を接合する工程と、前記流路と孔部が連通するようにして前記流路形成体の下端面に前記オリフィスプレートを接合する工程と、前記流路形成体に前記流路内のインクを加圧する加圧体を設ける工程と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
このような製法により製造されたインクジェット記録ヘッドによれば、クロストークに対応した絞り部が形成されていることから良好なインク吐出特性が得られ、高解像度対応のインクジェット式記録ヘッドに対応可能である。また、インク室形成体と流路形成体の境界面に絞り部を形成することで、当該絞り部を容易な機械加工により製造することができるので、製造コストを低減することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、インクとの化学反応が発生せず、良好なインク吐出特性が得られ、高解像度対応のインクジェット式記録ヘッドに対応可能である。また、高品質で信頼性の高いインクジェット式記録ヘッドを容易に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のインクジェット式記録ヘッドの外観構成図である。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの本体部を示す部分分解斜視図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】図3のX部分を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本願の最良の実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は本発明のインクジェット式記録ヘッドの外観構成図、図2はインクジェット式記録ヘッドの本体部を示す部分分解斜視図、図3は図1のA−A断面図、図4は図3のX部分を示す拡大図である。
【0023】
図1、及び図2に示すように、このインクジェット式記録ヘッドHは、インクを貯蔵するインク室2と、インクを吐出する吐出口4と、この吐出口4にインク室2のインクを供給するための流路5と、が形成されたガラス製の本体部10と、当該流路5内のインクを加圧し、流路5内に圧力変化を生じさせるための加圧部20と、備える。
【0024】
図2に示すように、本体部10は、所定領域の空間12が形成されたインク室形成体11と、この空間12と連通する前記流路5が形成された流路形成体13と、当該流路5と連通する前記吐出口4を有する孔部15aが形成されたオリフィスプレート15と、を備えている。なお、空間12は、使用時にインクが充填されるインク室2として機能する。
【0025】
これら本体部10を構成するインク室形成体11、流路形成体13、及びオリフィスプレート15は、同種材料のガラス製で構成され、互いに加熱によって接合されている。また、本体部10を構成するガラスには、パイレックス(登録商標)、テンパックスなどの硼珪酸(耐熱)ガラスなどが挙げられるが、石英ガラスが用いられることが好ましい。
【0026】
本体部10を同種材料で構成したのは、例えば異種材料(例えば、Si(シリコン)とガラス)を用いることで長期間の使用により接合面が剥離する点を考慮したからである。また、材料としてガラス製を用いたのは、例えば、ステンレス(SUS304、SUS430など)などの金属材料を採用した場合にインクとの化学反応により吐出に影響を及ぼす場合があることを考慮した点、ガラス特有の性質を用いて接着剤などを使用しないで接合可能な点、線膨張係数が低いため変形が生じにくい点などからである。また、ガラス材のうち石英ガラスを特に好ましいとしたのは、加工性や接合性の点で優れているからである。
【0027】
図2及び図3に示すように、インク室形成体11には、下端面に開口12aを有する空間12が機械加工等により形成されている。
【0028】
また、この空間12と連絡するように流路形成体13には複数の流路5が形成されており、各流路5の開口部5aが前記流路形成体13の上端面の長手方向に一列に並んで形成されている。そして、この開口部5aが空間12と連通するように、インク室形成体11が流路形成体13上に接合されている。
【0029】
各流路5は、図3に示すように、流路形成体13の上面から側面に向かって斜め直線状に形成され、さらに側面から下面に向かって斜め直線状に形成されている。また、流路形成体13の側面には、流路5の一部として機能する溝13aが形成されており、この側面には振動板21が設けられることで流路5を構成する。
【0030】
また、この振動板21の背面には圧電素子22が設けられ、その背面にはFPC基板23が設けられる。そして、振動板21を圧電素子22により変形させることで流路5内のインクを加圧可能となっている。なお、本実施形態の振動板21、圧電素子22は、本願の加圧部20として機能する。
【0031】
また、図3及び図4に示すように、流路5には、クロストークの防止などの観点から流路5の一部を狭めるようにしてなる絞り部6が形成されている。当該絞り部6は、インク室形成体11と流路形成体13の境界面に設けられる。この絞り部6は、インク室形成体11の一部(空間12を形成する壁部11a)が流路形成体13の上面に形成された流路5の開口部5aの一部を遮蔽するようにしてインク室形成体11が流路形成体13上に配置されることで形成される。
【0032】
なお、例えば、絞り部6は約50μmに形成されるため、一般の機械加工ではその加工が困難であるが、本実施形態では、インク室形成体11と流路形成体13とを接合する過程において、インク室形成体11と流路形成体13との境界面にその絞り部6を形成するため、容易に絞り部6を形成することが可能である。
【0033】
また、図2に示すように、オリフィスプレート15には、上記流路5と連絡するように複数の孔部15aが、長手方向に一列に並んで形成されている。この孔部15aは、内部がオリフィス状に形成されており、当該オリフィスプレート15の下端面に貫通して、インクの吐出口4として機能するように形成されている。そして、当該孔部15aが流路5と連通するようにして、オリフィスプレート15が流路形成体13の下端面に接合されている。
【0034】
ここで、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について図2及び図3を用いて説明する。
【0035】
まず、図2及び図3に示すように、インク室形成体11として機能するガラス製の直方体状のブロックの一端面にインク室2として機能する空間12を機械加工により形成する。
【0036】
また、図2及び図3に示すように、流路形成体13として機能するガラス製の直方体状のブロックに直線状の孔部13b、13cを形成し、それらを繋ぎ合わせることで構成される流路5を機械加工により形成する。具体的には、ブロックの一側面の上下方向に所定の幅で溝13aを形成した後、ブロックの上端面の所定位置から溝13aの一端へと連絡する所定の径(例えば、約300μ)の孔部13bを形成するとともに、ブロックの下端面の所定位置から溝13aの他端へと連絡する所定の径(例えば、約300μ)の孔部13cを形成する。
【0037】
また、オリフィスプレート15として機能するガラス製の基板にオリフィス状の孔部15aを機械加工により形成する。
【0038】
次に、流路形成体13上にインク室形成体11を真空状態で加温(約1000℃)して流路形成体13上にインク室形成体11を接合する。このとき、流路形成体13とインク室形成体11とが接触する(張り合わされる)面を研磨することでより強固に接合できる。このとき、インク室形成体11の一部によって流路形成体13の上面に形成された流路5の開口部5aの一部を遮蔽するようにして流路形成体13上にインク室形成体11を接合する。このようにすれば、容易に流路5に絞り部6を形成することができ、オリフィスプレート15の各孔部15aからのインクの吐出量を安定させることが可能である。
【0039】
また、流路形成体13の下端面にオリフィスプレート15を上記同様に真空状態で加温して接合し、さらに、図2及び図3に示すように、流路形成体13の一側面に形成された溝15aを塞ぐようにして振動板21を接着し、その背面に圧電素子22、及びFPC基板23を接着してインクジェット式記録ヘッドHを製造する。
【0040】
以上に説明したように、本実施形態のインクジェット記録ヘッドHは、インクを貯蔵する空間12が形成されたインク室形成体11と、前記空間12と連通する複数の流路5が形成された流路形成体13と、前記流路5を介して供給されるインクを吐出するオリフィスプレート15と、を備えた本体部10と、前記流路5内のインクを加圧し圧力変化を生じさせる加圧部20(振動板21や圧電素子22等)と、を備えたインクジェット記録ヘッドHにおいて、前記インク室形成体11と流路形成体13の境界面には、前記インク室形成体11の空間12を形成する壁部11aにより前記流路5の一部が遮蔽されてなる絞り部6が形成されている。また、前記本体部10はガラス材料で構成され、前記インク室形成体11と流路形成体13、及び流路形成体13とオリフィスプレート15は、それぞれが加熱接合により接合されている。そして、インク室2から流路5へと供給されるインクが、振動板21を圧電素子22により変形させることで加圧されて、当該オリフィスプレート15に形成された孔部4から吐出される。
【0041】
このようなインクジェット記録ヘッドHによれば、インクとの化学反応が発生せず、更にクロストークに対応した絞り部6が形成されていることから良好なインク吐出特性が得られ、高解像度対応のインクジェット式記録ヘッドに対応可能である。また、同種材料を用いて加熱接合により本体部10を製造しているため、異種材料による接合界面での剥離や、接着剤を用いることによる流路5への接着剤の混入なども発生せずに、高品質で信頼性の高いインクジェット式記録ヘッドを容易に製造することが可能である。
【0042】
なお、本願は本実施形態に限定されるものではなく、種々の形態にて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
H インクジェット式記録ヘッド
5 流路
6 絞り部
11 インク室形成体
11a 壁部
12 空間
13 流路形成体
15 オリフィスプレート
21 振動板
22 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯蔵する空間が形成されたインク室形成体と、前記空間と連通する複数の流路が形成された流路形成体と、前記流路を介して供給されるインクを吐出するオリフィスプレートと、を備えた本体部と、前記流路内のインクを加圧する加圧部と、を備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記インク室形成体と流路形成体の境界面には、前記インク室形成体の空間を形成する壁部により当該流路の一部が遮蔽されてなる絞り部が形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項2】
前記本体部はガラス材料で構成され、
前記インク室形成体と流路形成体、及び流路形成体とオリフィスプレートは、それぞれが加熱接合により接合されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項3】
前記ガラス材料は、石英ガラスであることを特徴とする請求項1、又は2に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項4】
前記流路は、直線状に形成された孔部を繋ぎ合わせることで構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項5】
インクを貯蔵する空間を有するインク室形成体を形成する工程と、
前記空間と連通する複数の流路を有する流路形成体を形成する工程と、
前記流路を介して供給されるインクを吐出する孔部を有するオリフィスプレートを形成する工程と、
前記空間と前記流路が連通し、当該流路の一部を前記インク室形成体の空間を形成する壁部により遮蔽するようにして前記流路形成体上に前記インク室形成体を接合する工程と、
前記流路と孔部が連通するようにして前記流路形成体の下端面に前記オリフィスプレートを接合する工程と、
前記流路形成体に前記流路内のインクを加圧する加圧体を設ける工程と、
を備えたことを特長とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−73200(P2011−73200A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225313(P2009−225313)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】