説明

インクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置

【課題】 振動板の変位量を低下することなく圧電素子の絶縁破壊を防止したインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置を提供する。
【解決手段】 ノズル開口に連通する圧力発生室12と、この圧力発生室12に対応する領域に振動板を介して設けられた下電極60、圧電体層70及び上電極80からなる圧電素子300とを備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記圧電素子300の外周面に絶縁体からなる保護膜100を有し、且つ該保護膜100は、前記圧電素子300の上面の主要部に対向する領域に他の領域よりも膜厚の薄い薄膜部100aを有することにより、圧電体層70の絶縁破壊が防止され且つ圧電素子の駆動による振動板の変位が阻害されない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部に振動板を介して圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子が軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0005】一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、特開平5−286131号公報に見られるように、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが提案されている。
【0006】これによれば圧電素子を振動板に貼付ける作業が不要となって、リソグラフィ法という精密で、かつ簡便な手法で圧電素子を作り付けることができるばかりでなく、圧電素子の厚みを薄くできて高速駆動が可能になるという利点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような薄膜技術及びリソグラフィ法により製造した圧電素子では、圧電素子に電圧を印加して駆動を繰り返すと絶縁破壊が発生するという問題がある。この絶縁破壊は、圧電体層と上電極膜又は下電極膜との境界部分で起こり易く、特に圧力発生室の端部近傍に対向する領域で起こり易い。
【0008】また、この絶縁破壊の原因として湿度の影響が考えられ、その対策として圧電素子全体を保護膜で覆った構造が提案されているが、この構造では絶縁破壊は防止できるものの圧電素子の駆動による振動板の変位量が低下するという問題がある。
【0009】本発明はこのような事情に鑑み、振動板の変位量を低下することなく圧電素子の絶縁破壊を防止したインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室と、この圧力発生室に対応する領域に振動板を介して設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記圧電素子の外周面に絶縁体からなる保護膜を有し、且つ該保護膜は、前記圧電素子の上面の主要部に対向する領域に他の領域よりも膜厚の薄い薄膜部を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0011】かかる第1の態様では、圧電素子が保護膜によって覆われているため圧電体層の絶縁破壊が防止され、且つ圧電素子の上面の主要部に対向する領域の保護膜が、他の領域よりも膜厚が薄い薄膜部となっているため、圧電素子の駆動による振動板の変形が阻害されない。
【0012】本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記保護膜は、前記圧力発生室に対向する領域で前記圧電素子の幅方向外側の前記振動板上まで延設され、この領域の膜厚が前記薄膜部よりも膜厚の厚いことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0013】かかる第2の態様では、圧電素子の幅方向外側の振動板、いわゆる振動板の腕部の剛性が増加するため、圧電素子の駆動による振動板の破壊が防止される。
【0014】本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記圧電素子はその幅が前記上電極側に向かって徐々に狭くなるようにパターニングされて、当該圧電素子の外周面が傾斜面となっていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0015】かかる第3の態様では、圧電素子の外周面が傾斜面となっているので、圧電素子の外周面に保護膜を比較的容易に形成することができる。
【0016】本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記保護膜がスパッタリング法によって形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0017】かかる第4の態様では、圧電素子の外周面に保護膜を比較的容易に形成することができる。
【0018】本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかにおいて、前記保護膜が、酸化膜からなることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0019】かかる第5の態様では、より確実に圧電体層の絶縁破壊が防止される。
【0020】本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様において、前記圧力発生室がシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成され、前記圧電素子の各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0021】かかる第6の態様では、高密度のノズル開口を有するインクジェット式記録ヘッドを大量に且つ比較的容易に製造することができる。
【0022】本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様のインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0023】かかる第7の態様では、ヘッドの信頼性を向上したインクジェット式記録装置を実現することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0025】(実施形態1)図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、平面図及びその1つの圧力発生室の長手方向における断面構造を示す図である。
【0026】図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなる。流路形成基板10としては、通常、150〜300μm程度の厚さのものが用いられ、望ましくは180〜280μm程度、より望ましくは220μm程度の厚さのものが好適である。これは、隣接する圧力発生室間の隔壁の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0027】流路形成基板10の一方の面は開口面となり、他方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ0.1〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0028】一方、流路形成基板10の開口面には、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより、ノズル開口11、圧力発生室12が形成されている。
【0029】ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われるものである。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0030】本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。なお、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。
【0031】一方、各圧力発生室12の一端に連通する各ノズル開口11は、圧力発生室12より幅狭で且つ浅く形成されている。すなわち、ノズル開口11は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0032】ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口11の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口11は数十μmの溝幅で精度よく形成する必要がある。
【0033】また、各圧力発生室12と後述する共通インク室31とは、後述する封止板20の各圧力発生室12の一端部に対応する位置にそれぞれ形成されたインク供給連通口21を介して連通されており、インクはこのインク供給連通口21を介して共通インク室31から供給され、各圧力発生室12に分配される。
【0034】封止板20は、前述の各圧力発生室12に対応したインク供給連通口21が穿設された、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックスからなる。なお、インク供給連通口21は、図3(a),(b)に示すように、各圧力発生室12のインク供給側端部の近傍を横断する一つのスリット孔21Aでも、あるいは複数のスリット孔21Bであってもよい。封止板20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、封止板20は、他面で共通インク室31の一壁面を構成する。
【0035】共通インク室形成基板30は、共通インク室31の周壁を形成するものであり、ノズル開口数、インク滴吐出周波数に応じた適正な厚みのステンレス板を打ち抜いて作製されたものである。本実施形態では、共通インク室形成基板30の厚さは、0.2mmとしている。
【0036】インク室側板40は、ステンレス基板からなり、一方の面で共通インク室31の一壁面を構成するものである。また、インク室側板40には、他方の面の一部にハーフエッチングにより凹部40aを形成することにより薄肉壁41が形成され、さらに、外部からのインク供給を受けるインク導入口42が打抜き形成されている。なお、薄肉壁41は、インク滴吐出の際に発生するノズル開口11と反対側へ向かう圧力を吸収するためのもので、他の圧力発生室12に、共通インク室31を経由して不要な正又は負の圧力が加わるのを防止する。本実施形態では、インク導入口42と外部のインク供給手段との接続時等に必要な剛性を考慮して、インク室側板40を0.2mmとし、その一部を厚さ0.02mmの薄肉壁41としているが、ハーフエッチングによる薄肉壁41の形成を省略するために、インク室側板40の厚さを初めから0.02mmとしてもよい。
【0037】一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.2〜0.5μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.02μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる弾性膜とを合わせて圧電アクチュエータと称する。なお、上述した例では、弾性膜50及び下電極膜60が振動板として作用するが、下電極膜が弾性膜を兼ねるようにしてもよい。
【0038】また、詳しくは後述するが、本実施形態では、圧電素子300の外周面に絶縁体からなる保護膜100を有し、圧電体層70の絶縁破壊を防止している。
【0039】ここで、シリコン単結晶基板からなる流路形成基板10上に、圧電素子300等を形成するプロセスを図4及び図5を参照しながら説明する。なお、図4は、圧力発生室12の長手方向の断面図であり、図5は、圧力発生室12の幅方向の断面図である。
【0040】図4(a)に示すように、まず、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化して二酸化シリコンからなる弾性膜50を形成する。
【0041】次に、図4(b)に示すように、スパッタリングで下電極膜60を形成する。この下電極膜60の材料としては、白金等が好適である。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金が好適である。
【0042】次に、図4(c)に示すように、下電極膜60を所定の形状にパターニングする。すなわち、下電極膜60を圧力発生室12の長手方向一端部近傍に対向する領域でパターニングして、各圧力発生室12毎に、その長手方向一端部近傍から周壁に対向する領域に亘って設けられ、圧電体能動部320の上電極膜80と外部配線とを接続する配線の一部となる配線用下電極膜61を形成する。
【0043】次に、図4(d)に示すように、圧電体層70を成膜する。本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成した。圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。なお、この圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法で形成してもよい。
【0044】さらに、ゾル−ゲル法又はスパッタリング法等によりチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法を用いてもよい。
【0045】次に、図4(e)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、白金をスパッタリングにより成膜している。
【0046】次に、図5(a)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80を一括してエッチングして各圧力発生室12に対向する領域に圧電体能動部320のパターニングを行う。このとき、本実施形態では、圧電体能動部320の幅が上電極膜80側に向かって徐々に狭くなるようにパターニングして、圧電体能動部320の周面を傾斜させた。
【0047】次いで、図5(b)に示すように、例えば、Cr−Auなどの導電体を全面に成膜した後、パターニングすることにより、各圧電体能動部320の上電極膜80と配線用下電極61とを接続するリード電極90を形成する。
【0048】次に、図5(c)に示すように、圧電体能動部320の表面に、絶縁体からなる保護膜100を形成する。この保護膜100は、例えば、SiO2、SiN又はZrO2等の酸化膜あるいは窒化膜で形成することが好ましい。本実施形態では、SiO2からなる保護膜100を、例えば、スパッタリング法等によって全面に1μm程度の厚さで形成し、その後、パターニングすることにより所定の形状、本実施形態では、圧電体能動部320の上面の主要部に対向する領域に、他の領域よりも膜厚の薄い薄膜部100aを形成する。なお、この薄膜部100aのパターニング方法は、特に限定されず、例えば、ハーフエッチング等で所望の薄さに形成すればよい。
【0049】ここで、本実施形態では、上述のように圧電体能動部320の外周面が傾斜面となるように形成したので、保護膜100を圧電体能動部320の外周面にスパッタリング法等によって比較的容易に薄く形成することができる。
【0050】その後、図5(d)に示すように、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングを行い、圧力発生室12等を形成する。
【0051】以上説明した一連の膜形成及び異方性エッチングによって、一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割する。また、分割した流路形成基板10を、封止板20、共通インク室形成基板30、及びインク室側板40と順次接着して一体化し、インクジェット式記録ヘッドとする。
【0052】このように構成したインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口42からインクを取り込み、共通インク室31からノズル開口11に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない外部の駆動回路からの記録信号に従い、下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口11からインク滴が吐出する。
【0053】このように形成した本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの要部を示す平面図及び断面図を図6R>6に示す。
【0054】図6に示すように、圧電素子300を構成する下電極膜60は、並設された複数の圧力発生室12に対向する領域に連続的に設けられ、圧力発生室12の長手方向一端部近傍でパターニングされている。また、下電極膜60の端部の外側には、圧力発生室12に対向する領域から周壁上に亘って、下電極膜60とは不連続な配線用下電極膜61が設けられている。
【0055】一方、圧電体層70及び上電極膜80は、本実施形態では、圧力発生室12に対向する領域に設けられて圧電体能動部320が形成されている。また、圧電体能動部320は、上述のように上電極膜80側ほど幅が狭くなるようにパターニングされ、その側面は傾斜面となっている。また、上電極膜80は、その長手方向端部近傍でリード電極90を介して配線用下電極膜61に接続され、配線用下電極膜61は図示しないがその一端部が外部配線に接続されて圧電体能動部320の配線の一部を構成している。
【0056】また、圧電素子300(圧電体能動部320)の表面には、絶縁体からなる保護膜100が設けられ、且つこの保護膜100の圧電体能動部320の上面の主要部を覆う領域は、他の領域の膜厚の膜厚よりも薄い薄膜部100aとなっている。なお、薄膜部100aの膜厚は、特に限定されないが、圧電体能動部320の駆動による振動板の変形を妨げない程度の薄さであればよい。
【0057】このように、本実施形態では圧電体能動部320の外周面に保護膜100が設けられているため、湿気、水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が上電極膜80を通して圧電体層70に浸透し、圧電体層70を劣化させるのを防止でき、且つ、保護膜100の圧電体能動部320の上面の主要部を覆う領域が、薄膜部100aとなっているため、圧電体能動部320の駆動による振動板の変形を阻害することがなく、インク吐出特性も良好に保持することができる。
【0058】さらに、圧電体能動部320の外周面に保護膜100を設けることにより、圧電素子を封止して外気と遮断する封止部材等を設ける必要がなく、ヘッドを簡素化することができ、コストを低減することができる。
【0059】(実施形態2)図7は、実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの要部断面図である。
【0060】本実施形態では、図7に示すように、圧電体能動部320の外周面に形成されている保護膜100を、圧電体能動部320の駆動を妨げない程度に薄い膜厚を有する薄膜部100aとした。また、保護膜100を圧電体能動部320の幅方向両側の振動板上まで延設し、この振動板に対向する領域の保護膜100を薄膜部100aよりも膜厚の厚い厚膜部100bとした以外は、実施形態1と同様である。
【0061】このような構成では、圧電体能動部320の幅方向側の振動板、いわゆる振動板の腕部上の保護膜100が厚膜部100bとなっているので、振動板の腕部の膜厚が厚くなり剛性が増加する。これにより、圧電体能動部320の駆動による変形によって、振動板が破壊されるのを防止することができる。
【0062】また、圧電体能動部320の外周面の保護膜100が、薄膜部100aとなっているので、上述の実施形態と同様に、圧電体能動部320の駆動を阻害することがなく、インク吐出特性も良好に保持することができる。
【0063】なお、本実施形態では、圧電体能動部320の外周面上の保護膜100を全て薄膜部100aとしたが、これに限定されず、図8に示すように、少なくとも圧電体能動部320の上面の主要部の保護膜100が薄膜部100aとなっていればよい。勿論、このような構成としても同様の効果が得られる。
【0064】(他の実施形態)以上、本発明の実施形態を説明したが、インクジェット式記録ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0065】例えば、上述の実施形態では、圧電体能動部320の側面を傾斜面とした例を説明したが、勿論、側面を傾斜させなくてもよいことはいうまでもない。
【0066】また、例えば、上述の実施形態では、保護膜100を各圧電体能動部320毎にパターニングするようにしたが、これに限定されず、複数の圧電体能動部320に連続的に設けるようにしてもよい。
【0067】また、例えば、上述した封止板20の他、共通インク室形成基板30をガラスセラミックス製としてもよく、さらには、薄肉膜41を別部材としてガラスセラミックス製としてもよく、材料、構造等の変更は自由である。
【0068】さらに、上述した実施形態では、ノズル開口11を流路形成基板10の端面に形成しているが、面に垂直な方向に突出するノズル開口を形成してもよい。
【0069】このように構成した実施形態の分解斜視図を図9、その流路の断面を図10にそれぞれ示す。この実施形態では、ノズル開口11が圧電素子とは反対のノズル基板120に穿設され、これらノズル開口11と圧力発生室12とを連通するノズル連通口22が、封止板20、共通インク室形成基板30及び薄肉板41A及びインク室側板40Aを貫通するように配されている。
【0070】なお、本実施形態は、その他、薄肉板41Aとインク室側板40Aとを別部材とし、インク室側板40Aに開口40bを形成した以外は、基本的に上述した実施形態と同様であり、同一部材には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0071】また、勿論、共通インク室を流路形成基板内に形成したタイプのインクジェット式記録ヘッドにも同様に応用できる。
【0072】このように、本発明は、その趣旨に反しない限り、種々の構造のインクジェット式記録ヘッドに応用することができる。
【0073】また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図11は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0074】図11に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0075】そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0076】
【発明の効果】以上説明したように、本発明では、圧電素子の外周面が絶縁体からなる保護膜によって完全に覆われているため、大気中の水分等の外部環境に起因する圧電素子の圧電体層の絶縁破壊を防止することができる。
【0077】また、保護膜の圧電素子の上面主要部に対向する領域に、他の領域よりも膜厚の薄い薄膜部を設けるようにしたので、圧電素子の駆動による振動板の変形が阻害されることが無く、インク吐出特性を良好に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す図であり、図1の平面図及び断面図である。
【図3】図1の封止板の変形例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態1の薄膜製造工程を示す図である。
【図5】本発明の実施形態1の薄膜製造工程を示す図である。
【図6】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの要部平面図及び断面図である。
【図7】本発明の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの要部断面図である。
【図8】本発明の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの他の例を示す要部断面図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図10】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドを示す断面図である。
【図11】本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板
12 圧力発生室
50 弾性膜
55 絶縁膜
60 下電極膜
70 圧電体層
80 上電極膜
90 リード電極
100 保護膜
300 圧電素子
320 圧電体能動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ノズル開口に連通する圧力発生室と、この圧力発生室に対応する領域に振動板を介して設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記圧電素子の外周面に絶縁体からなる保護膜を有し、且つ該保護膜は、前記圧電素子の上面の主要部に対向する領域に他の領域よりも膜厚の薄い薄膜部を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項2】 請求項1において、前記保護膜は、前記圧力発生室に対向する領域で前記圧電素子の幅方向外側の前記振動板上まで延設され、この領域の膜厚が前記薄膜部よりも膜厚の厚いことを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項3】 請求項1又は2において、前記圧電素子はその幅が前記上電極側に向かって徐々に狭くなるようにパターニングされて、当該圧電素子の外周面が傾斜面となっていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項4】 請求項3において、前記保護膜がスパッタリング法によって形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項5】 請求項1〜4の何れかにおいて、前記保護膜が、酸化膜からなることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項6】 請求項1〜5の何れかにおいて、前記圧力発生室がシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成され、前記圧電素子の各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項7】 請求項1〜6の何れかのインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2001−260357(P2001−260357A)
【公開日】平成13年9月25日(2001.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−79008(P2000−79008)
【出願日】平成12年3月21日(2000.3.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】