説明

インクジェット捺染方法及びインクジェット捺染物

【課題】耐光性、耐水性が優れる顔料インクを用いたインクジェット捺染方法において、布帛自身の持つ風合いを損なうことなく、色落ちし易い衣服や汚れと共に洗濯したとしても、染着することがないインクジェット捺染方法及びこれにより得られる捺染物の提供。
【解決手段】布帛を捺染するインクジェット捺染方法において、該布帛として熱可塑性樹脂を付与した布帛を用い、該布帛の色を記録する部分に、分子量が900以下であるカチオン系界面活性剤と分子量が5,000を超えるカチオン性又はノニオン性ポリマーとを含む処理液をインクジェット記録する工程、該処理液を記録された布帛にアニオン性基を有する分散剤と顔料とを含むインクでインクジェット記録を行って図柄を形成する工程、及び該図柄が形成された布帛を加熱する工程を有するインクジェット捺染方法及び捺染物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法を利用し、特に顔料インクを用いた捺染方法及びこれにより得られた捺染物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット記録方法を利用した捺染方法においては、染料インクが用いられてきた。染料インクを使用した場合、染料には各種の色合いの色素化合物があることから、色調の優れた鮮明な図柄を、布帛に現出することができるという利点がある。しかしながら、染料インクを使用する場合は、染色工程後に、染料の繊維への定着を目的として布帛に対して染料インクに含まれる染料に応じた方法で後処理を施す必要がある。このため、工程数やコストの増加につながり、又、廃液処理が不可欠である等、生産性の問題や環境汚染に対する考慮も必要となる。
【0003】
これに対し、顔料インクを使用する方法によれば、一般に染料インクを使用した場合に比べて色調や鮮明性等に劣るものの、顔料自身の耐光性、耐水性が優れているという利点がある。又、顔料インクを用いたインクジェット染色では、染料インクを用いたそれと比較すると、布帛に対する煩雑な後処理が不要であるという利点もある。このようなことから、現在、顔料インクを用いるインクジェット捺染方法が注目されている。
【0004】
ここで、顔料インクによるインクジェット記録を施す対象物である被記録材としては、一般に、シリカ、アルミナ等の無機微粒子や水溶性高分子を含むインク受容層を形成させたものが用いられている。しかしながら、この技術を布帛に応用した場合には、布帛自身の持つ風合いが損なわれてしまい、又、形成した画像の洗濯堅牢性が劣ってしまうという問題がある。
【0005】
又、布帛に形成するインク受容層に、疎水性低分子化合物とカチオン性樹脂を含有させることが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この場合には、汚れた衣服や、色落ちのし易い衣服等と共に洗濯をすると、汚れ又は染料等がインク受容層の構成成分であるカチオン性物質に対して選択的に染着してしまうことがあった。
【0006】
【特許文献1】特開2001−140174公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、上記の実情から、耐光性、耐水性が優れる顔料インクを用いたインクジェット捺染方法において、布帛自身の持つ風合いを損なうことなく、色落ちし易い衣服や汚れと共に洗濯したとしても、その染料や汚れの捺染物への染着が生じることがない捺染方法及びこれにより得られる捺染物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、インクジェット記録により布帛を捺染するインクジェット捺染方法において、該布帛として熱可塑性樹脂を付与した布帛を用い、該布帛の色を記録する部分に、分子量が900以下であるカチオン系界面活性剤と分子量が5,000を超えるカチオン性又はノニオン性ポリマーとを含む処理液をインクジェット記録する工程、該処理液を記録された布帛にアニオン性基を有する分散剤と顔料とを含むインクでインクジェット記録を行って図柄を形成する工程、及び該図柄が形成された布帛を加熱する工程を有することを特徴とするインクジェット捺染方法である。
【0009】
又、本発明の別の形態は、インクジェット記録により布帛を捺染するインクジェット捺染方法において、該布帛として熱可塑性樹脂を付与した布帛を用い、該布帛の色を記録する部分及びその近傍に、分子量が900以下であるカチオン系界面活性剤と分子量が5,000を超えるカチオン性又はノニオン性ポリマーとを含む処理液をインクジェット記録する工程、該処理液を記録された布帛にアニオン性基を有する顔料を含むインクでインクジェット記録を行って図柄を形成する工程、及び該図柄が形成された布帛を加熱する工程を有することを特徴とするインクジェット捺染方法である。
【0010】
又、本発明の別の実施形態は、上記した何れか記載のインクジェット捺染方法によって製造されてなることを特徴とするインクジェット捺染物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐光性、耐水性が優れる顔料インクを用いたインクジェット捺染方法であるにもかかわらず、得られる捺染物は、布帛自身の持つ風合いが損なわれず、色落ちし易い衣服や汚れた衣服と共に洗濯したとしても、その染料や汚れが、捺染物に対して染着することのない高い洗濯堅牢性を示す捺染方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、好ましい形態を挙げて本発明を詳細に説明する。先ず、本発明にかかるインクジェット捺染方法に用いられる布帛は、熱可塑性樹脂を付与されてなる。又、必要があれば、熱可塑性樹脂とともに浸透剤等が付与されていても何ら問題がない。
【0013】
この際に用いる熱可塑性樹脂には、例えば、アクリル共重合樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニルを主成分とする樹脂等の乳化物が好適に使用できる。通常、顔料捺染に使用されているエラストマーの乳化物であれば使用可能であるが、一般的には、アクリル酸エステル樹脂等のアクリル系共重合樹脂のエマルションが好適に使用できる。
【0014】
更に、本発明においては、上記熱可塑性樹脂として、ガラス転移温度が−35〜45℃、最も好ましくは−25〜20℃であるものを使用する。このような熱可塑性樹脂が付与されてなる布帛を使用することで、該布帛に顔料を含むインクで図柄を形成後に加熱した場合に、布帛、熱可塑性樹脂、分散剤及び顔料の接着性を高めることができ、堅牢性に優れる捺染物を得ることができる。
【0015】
布帛に対して付与される熱可塑性樹脂の量は、布帛素材中に、少なくとも熱可塑性樹脂が0.5〜7質量%を占める割合であることが好ましい。即ち、0.5質量%未満であると、布帛に熱可塑性樹脂を付与した効果が十分でなく、一方、7質量%を超えると、布帛の持つ風合いが損なわれてしまう場合がある。熱可塑性樹脂の布帛へのより好ましい付与量は、3〜5質量%である。
【0016】
本発明にかかるインクジェット捺染方法において、熱可塑性樹脂を付与する方法としては、例えば、パッド法、スプレー法、プリント法及びコーティング法等、公知の方法が挙げられる。本発明においては、上記何れの方法でもよく、特に限定されない。
【0017】
本発明にかかるインクジェット捺染方法では、先ず、上記したような熱可塑性樹脂が付与されてなる布帛の色を記録する部分、好ましくは更にその近傍に、染料や汚れ等による白場汚染を防ぎ、定着性を向上させる目的で、処理液を付与する。その際に使用する処理液としては、分子量が900以下である低分子カチオン系界面活性剤及び分子量が5,000を超えるカチオン性又はノニオン性ポリマーを含むものを使用する。以下、処理液を構成する成分について説明する。
【0018】
分子量が900以下である低分子カチオン系界面活性剤としては、例えば、下記に挙げるような種々の化合物が挙げられる。1級乃至2級乃至3級アミン塩型の化合物、具体的には、ラウリルアミン、ステアリルアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等;第4級アンモニウム塩型の化合物、具体的には、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム等;あるpH領域においてカチオン性を示す両性界面活性剤、具体的には、アミノ酸型両性界面活性剤、ベタイン型化合物等を等電点以下に調整したものが挙げられる。
【0019】
本発明で使用する上記したような分子量が900以下である低分子カチオン系界面活性剤は、高分子のそれと比較して、界面活性能があり、アニオン性物質との反応性が高いため、顔料の捕捉性がよい。本発明で使用する処理液中における上記したような低分子カチオン系界面活性剤の占める割合は、0.5〜5質量%であることが好ましい。即ち、処理液中に含まれる上記カチオン系界面活性剤の濃度が、0.5質量%未満であると、前記した処理液を布帛に付与する目的が十分に得られ難く、一方、5質量%を超えても、更なる性能の向上は得られ難く、又、コスト高となることからかえって好ましくない。処理液に含まれる上記カチオン系界面活性剤の濃度としては、より好ましくは、1〜3質量%である。
【0020】
本発明においては、上記で説明した低分子カチオン系界面活性剤とともに、分子量が5,000を超えるカチオン性又はノニオン性ポリマーが含有してなる処理液を使用する。これは、上記低分子カチオン系界面活性剤自身は耐水性を持たず、又、先に説明した熱可塑性樹脂が付与されてなる布帛の表面は撥水性を示すため、低分子カチオン系界面活性剤だけでは、処理液が布帛上に対して定着しにくいからである。即ち、カチオン性又はノニオン性ポリマーとともに使用することによって、処理液の布帛への定着性を高めることができる。
【0021】
処理液に使用することのできるカチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、ポリジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート、ポリジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ポリジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ポリエポキシアミン、ポリアミドアミン、ジシアンジアミド・ホルマリン縮合物、ジシアンジアミドポリアルキル・ポリアルキレンポリアミン縮合物、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、アクリルアミド・ジアリルアミン塩酸塩共重合体、ジメチルアミンエピクロルヒドリン重縮合物及びこれらの変性物等が挙げられる。
【0022】
又、処理液に使用することのできるノニオン性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル等のポリビニルエーテル誘導体、セルロース、メチルセルロース、エチルオキシエチルセルロース等の多糖類、アルギン酸多価アルコールエステル、水溶性尿素樹脂、デキストリン誘導体、カゼイン、ポリビニルエーテル誘導体、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド又は両者の共重合体を含むポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。
【0023】
本発明で使用する処理液は、上記したような成分を少なくとも含んでなるが、処理液中における上記カチオン性又はノニオン性ポリマーの占める割合は、0.5〜1.5質量%であることが好ましい。処理液中の上記ポリマーの濃度が、0.5質量%未満であると、先に説明したポリマーを含有させる目的が十分に達成されない場合がある。一方、1.5質量%を超えると、処理液の粘度が増加する等に起因して、ヘッドの目詰まりが起こりやすくなり、インクジェット特性が損なわれる場合がある。より好ましい処理液中のポリマー濃度は、1.0〜1.2質量%である。
【0024】
又、本発明では、先に挙げたポリマーの中でも、分子量が5,000を超えるカチオン性又はノニオン性ポリマーを含有してなる処理液を使用するが、これよりも分子量が小さいポリマーを使用した場合は、得られる捺染物の耐水性が十分でない場合がある。更に好ましくは、分子量7,000以上のポリマーを使用する。
【0025】
本発明に用いられる処理液としては、上記成分の他に、水、或いは水と水溶性有機溶剤とからなる水性液媒体を少なくとも含み、その他、必要に応じて、pH調整剤、防黴剤、界面活性剤及び水溶性樹脂等の各種の添加剤が適宜に含有されてなるものであってもよい。この場合に使用する水溶性有機溶剤としては、例えば、グリコール類、グリコールエーテル類、含窒素溶剤等が挙げられる。処理液の添加剤である界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類等の非イオン系界面活性剤が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を適宜に選択して使用することができる。
【0026】
本発明において好適に使用できるインクジェット捺染用の布帛としては、何れのものでもよいが、例えば、綿、絹、麻、レーヨン、アセテート、ナイロン若しくはポリエステル繊維からなる布帛、又はこれらの繊維の2種以上からなる混紡布帛が好ましい。
【0027】
本発明にかかるインクジェット捺染方法においては、上記したように、特定の布帛を用い、先ず、該布帛の色を記録する部分、或いは該布帛の色を記録する部分とその近傍に、上記したような成分からなる処理液をインクジェット記録し、次いで、インクジェット記録を行って図柄を形成する。以下、図柄を形成する方法について説明する。本発明においては、この場合に、アニオン性基を有する分散剤と顔料とを含むインク、或いは、アニオン性基を有する顔料を含むインクでインクジェット記録を行って図柄を形成する。
【0028】
本発明にかかる方法では、インクの色材に顔料を用いる。インクの構成成分としては、顔料の他、水、或いは水と水溶性有機溶剤とからなる水性液媒体を少なくとも含み、その他、必要に応じて、pH調整剤、防黴剤、界面活性剤及び水溶性樹脂等の各種添加剤が適宜含有されているものが用いられる。
【0029】
インクに用いられる水溶性有機溶剤としては、例えば、グリコール類、グリコールエーテル類及び含窒素溶剤等が挙げられる。又、界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類等の陰イオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類等の非イオン系界面活性剤が挙げられる。これらの1種又は2種以上を適宜に選択して使用することができる。
【0030】
本発明で使用するインクを構成する顔料の例としては、下記のものが挙げられる。黒色インクに使用される顔料としては、カーボンブラックが好適である。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料であり、市販品や、別途新たに調製されたものも使用することができる。
【0031】
有機顔料として具体的には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等のその他の顔料が例示できる。
【0032】
又、有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が例示できる。
【0033】
本発明にかかるインクジェット捺染方法では、先に説明した手順で、熱可塑性樹脂及び処理液が付与されてなる布帛上に、上記した顔料インクを用いてインクジェット記録方法により画像(図柄)を形成する。その際、インクジェット記録ヘッドを布帛上で走査してインクを所望の位置に付与することによって画像記録が行われる。
【0034】
使用するインクジェット記録方法及び装置としては従来公知の何れのものが使用できる。例えば、記録ヘッドの室内のインクに記録信号を対応した熱エネルギーを与え、該熱エネルギーによって液滴を発生させるインクジェット記録方法及び装置が挙げられる。
【0035】
その装置の主要部であるヘッド構成例を図1、図2及び図3に示す。ヘッド13はインクを通す溝14を有するガラス、セラミックス又はプラスチック板等と、感熱記録に用いられる発熱ヘッド15(図ではヘッドが示されているが、これに限定されるものではない)とを接着して得られる。発熱ヘッド15は酸化シリコン等で形成される保護膜16、アルミニウム電極17−1、17−2、ニクロム等で形成される発熱抵抗体層18、蓄熱層19、アルミナ等の放熱性のよい基板20よりなっている。
【0036】
インク21は吐出オリフィス(微細孔)22まで来ており、圧力Pによりメニスカス23を形成している。今、電極17−1、17−2に電気信号が加わると、発熱ヘッド15のnで示される領域が急激に発熱し、ここに接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21が吐出し、オリフィス22より記録小滴24となり、被記録材25に向かって飛翔する。図3に、図1に示すヘッドを多数並べたマルチヘッドの外観図を示す。該マルチヘッドはマルチ溝26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同様な発熱ヘッド28を密着して製作されている。尚、図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は、図1のA−B線での切断面である。
【0037】
図4に、かかるヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の1例を示す。図4において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持されて固定端となり、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッドによる記録領域に隣接した位置に配設され、又、本例の場合、記録ヘッドの移動経路中に突出した形態で保持される。62はキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配設され、記録ヘッドの移動方向と垂直な方向に移動して吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に63はブレード61に隣接して設けられる吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッドの移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62、吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及び吸収体63によってインク吐出口面に水分、塵埃等の除去が行われる。
【0038】
65は吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する被記録材にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモータ68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。51は被記録材を挿入するための給紙部、52は不図示のモータにより駆動される紙送りローラである。これらの構成によって記録ヘッドの吐出口面と対向する位置へ被記録材が給紙され、記録が進行するにつれて排紙ローラ53を配した排紙部へ排紙される。
【0039】
上記構成において記録ヘッド65が記録終了等でホームポジションに戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。この結果、記録ヘッド65の吐出口面がワイピングされる。尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出する様に移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上述したワイピング時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0040】
本発明にかかるインクジェット捺染方法では、上記のようなインクジェット装置を用いて布帛上にインク画像(図柄)を形成後、更に加熱定着する工程を経て捺染物を得る。加熱定着工程としては、通常の方法を用いることができる。例えば、ピンテンターにより画像を加熱定着して、目的の捺染物が得られる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、特に断らない限り「部」とは「質量部」を、「%」とは「質量%」をいう。又、熱可塑性樹脂の布帛への付与量は次式のように求めた。
付与量W(%)=(W1−W0)/W0×100
上記式中、初期の布帛質量W0、付与後の布帛質量W1を表す。
【0042】
<実施例1>
先ず、以下の処方にて熱可塑性樹脂を含有する布処理剤を調製した。熱可塑性樹脂としては、市販されているアクリル酸エステル樹脂のエマルション(固形分35%、Tg=30℃、商品名;Binder 705(M)、大日精化製)を用いた。
[布処理剤]
・熱可塑性樹脂 15部
・水 85部
【0043】
(熱可塑性樹脂の布帛への付与)
そして、綿100%のサテン織物(シルケット加工品)に、上記で得た布処理剤をパッド法にて付与した後、マングルで絞り率80%に絞り、乾燥温度80℃/3.5分で乾燥を行った。このようにして、本実施例で使用する熱可塑性樹脂が付与されてなるインクジェット捺染用布帛を得た。熱可塑性樹脂の布帛への付与量Wを、上記したようにして求めたところ、4%であった。
【0044】
(布帛への処理液の付与)
次に、下記組成の処理液を調製した。そして、得られた処理液を搭載した市販のインクジェットカラープリンター(キヤノン製BJ F600、商品名)を用いて、上記の布帛の色(図柄)を記録する部分及びその近傍に、上記処理液を付与した。カチオン系界面活性剤としては、塩化セチルトリメチルアンモニウム(固形分30%、商品名;TM−16、三洋化成製、分子量354)を用いた。又、カチオンポリマーとしては、ポリアリルアミン(固形分15%、商品名;PAA15、日東紡製、分子量15,000)を用いた。
【0045】
[処理液]
・カチオン系界面活性剤 4部
・カチオンポリマー(PAA15) 7部
・ジエチレングリコール 10部
・水 79部
【0046】
(顔料インクによるプリント)
更に、下記の組成の各インクを搭載した市販のインクジェットカラープリンターBJ F600(商品名、キヤノン製)を用いて図柄をプリントした。この際に用いたインクは、下記のようにして調製した顔料を色材とした2種類の液状顔料インクである。
【0047】
[顔料インク]
アニオン性基を有する分散剤と顔料とを含む顔料インクは、先ず、下記に挙げた各色の顔料をそれぞれ、水溶性樹脂(分散剤)を含有する水に分散させて水性顔料分散体を作製し、得られた顔料分散体を、更に水性液媒体に分散させて得た。この際に使用した水溶性樹脂は、スチレン・アクリル酸共重合体(平均分子量7,000)である。そして、顔料と水溶性樹脂と水との混合割合が、質量比で、顔料/水溶性樹脂/水=10/3/87となるように調製した。
【0048】
又、本実施例で使用したアニオン性基を有する顔料を含む顔料インクでは、表面にカルボキシル基を結合した下記に挙げた各色の顔料を水中に分散させた水性顔料分散体を作成して用いた。この際、顔料と水との混合割合が、質量比で、顔料/水=10/90となるようにした。
【0049】
(1)使用した各色顔料
・シアン(顔料名:C.I.Pigment Blue 15:1)
・マゼンタ(顔料名:C.I.Pigment Red 122)
・イエロー(顔料名:C.I.Pigment Yellow 74)
・ブラック(顔料名:カーボンブラック)
【0050】
液状顔料インクは、上記のようにしてそれぞれ得た水性顔料分散体を使用して、以下の組成となるように調製した。得られたインクの粘度は、3〜5mPa・s程度であった。
(2)インクの組成
・上記で調製した水性顔料分散体 60%
・グリセリン 5%
・ジエチレングリコール 10%
・イソプロピルアルコール 10%
・水 15%
【0051】
(加熱定着)
上記のようにしてプリントした後、直ちに万能プレス(宮田工機製 HP−B2S、型式)を用いて、150℃/3.5分で加熱定着を行った。
【0052】
(評価)
上記した実施例で得られたプリント物を業務用洗濯機(ECONOMAT 10D、アサヒ製作所製)にて、洗剤を適量加えた60℃の温水を用いて10分間洗濯し、水で10分間すすぎを行った。この洗濯を10回繰り返し行い、洗濯前と10回洗濯後のプリント物の色濃度を比較した。色濃度の測定は、ミノルタ製分光光度計によって行った。この結果、いずれの顔料インクを使用した場合においても、色濃度の減少率は20%以下であり、洗濯堅牢性において良好な結果が得られることが確認された。
【0053】
<比較例1>
実施例1において、処理液のカチオンポリマーとして、固形分20%、分子量5,000の日東紡製のPAA05(商品名)を用い、その他は実施例1と同様にしてプリント物を得た。色濃度の減少率を実施例1と同様に調べたところ色濃度の減少率は29%以下であった。
【0054】
[処理液]
・カチオン系界面活性剤 4部
・カチオンポリマー(PAA05) 4部
・ジエチレングリコール 10部
・水 82部
【0055】
<比較例2>
実施例1において、処理液のカチオン系界面活性剤を添加しなかった他は実施例1と同様にしてプリント物を得た。色濃度の減少率を実施例1と同様に調べたところ色濃度の減少率は32%以下であった。
[処理液]
・カチオンポリマー(PAA15) 7部
・ジエチレングリコール 10部
・水 83部
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す縦断図面である。
【図2】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す横断図面である。
【図3】図1に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図4】インクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0057】
13:ヘッド
14:インク溝
15:発熱ヘッド
16:保護膜
17−1、17−2:電極
18:発熱抵抗体層
19:蓄熱層
20:基板
21:インク
22:吐出オリフィス
23:メニスカス
24:記録小滴
25:被記録材
26:マルチ溝
27:ガラス板
28:発熱ヘッド
51:給紙部
52:紙送りローラ
53:排紙ローラ
61:ブレード
62:キャップ
63:吸収体
64:吐出回復部
65:記録ヘッド
66:キャリッジ
67:ガイド軸
68:モータ
69:駆動ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録により布帛を捺染するインクジェット捺染方法において、該布帛として熱可塑性樹脂を付与した布帛を用い、該布帛の色を記録する部分に、分子量が900以下であるカチオン系界面活性剤と分子量が5,000を超えるカチオン性又はノニオン性ポリマーとを含む処理液をインクジェット記録する工程、
該処理液を記録された布帛にアニオン性基を有する分散剤と顔料とを含むインクでインクジェット記録を行って図柄を形成する工程、及び
該図柄が形成された布帛を加熱する工程
を有することを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項2】
インクジェット記録により布帛を捺染するインクジェット捺染方法において、該布帛として熱可塑性樹脂を付与した布帛を用い、該布帛の色を記録する部分及びその近傍に、分子量が900以下であるカチオン系界面活性剤と分子量が5,000を超えるカチオン性又はノニオン性ポリマーとを含む処理液をインクジェット記録する工程、
該処理液を記録された布帛にアニオン性基を有する顔料を含むインクでインクジェット記録を行って図柄を形成する工程、及び
該図柄が形成された布帛を加熱する工程
を有することを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項3】
前記布帛が、布帛素材中に、少なくとも熱可塑性樹脂が0.5〜7質量%を占める割合で付与されたものである請求項1又は2に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度が、−35〜45℃である請求項1〜3の何れか1項に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項5】
前記処理液中におけるカチオン系界面活性剤の占める割合が0.5〜5質量%であり、カチオン性又はノニオン性ポリマーの占める割合が0.5〜1.5質量%である請求項1〜4の何れか1項に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のインクジェット捺染方法によって製造されてなることを特徴とするインクジェット捺染物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−342455(P2006−342455A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168697(P2005−168697)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】