説明

インクジェット捺染方法

【課題】従来のようにコーティングやパディング法によらなくとも、布帛の前処理を行うことができ、かつ高い染着濃度を実現できるインクジェット捺染方法を提供する。
【解決手段】布帛に、酸性染料を含有するインクをインクジェット方式により印捺するインクジェット捺染方法であって、布帛に、水酸基価が178〜590であるポリエチレングリコールを含んでなる液体組成物を付着させる前処理工程と、前記布帛に付着した液体組成物が布帛に残存している間に、前記前処理された布帛に対して、酸性染料を含有するインク組成物を吐出させるインクジェット印捺工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染方法に関し、特に、特定の液体組成物を用いて布帛の前処理を行った後に、酸性染料インクによりインクジェット捺染を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布帛に画像を印捺する方法として、スクリーン捺染法、ローラ捺染法、ロータリースクリーン捺染法、または転写捺染法等が用いられている。しかしながら、画像デザインの変更毎に、高価なスクリーン枠、彫刻ローラ、転写紙等を用意する必要があるため、多品種少量生産にはコスト的に不向きであり、ファッションの多様化に迅速に対応することが困難であった。
【0003】
こうした従来の印捺方法の欠点を解消するために、スキャナーで見本を読み取り、コンピュータで画像処理を行い、その結果をインクジェット方式で印捺する技術が開発されている。インクジェット記録方式は、インク液滴をインクヘッドから記録媒体(例えば、紙や布帛)に向かって飛翔させ、その液滴を記録媒体に付着させる記録方式であり、その機構が比較的簡便で安価であること、かつ高精細で高品位な画像を形成できるものである。このようなインクジェット方式を印捺方法に適用すれば、従来の捺染方式で必要とされていた版を作製する必要がなく、手早く階調性に優れた画像を形成できることから、納期の短縮、多品種少量生産への対応等が可能になるといった利点が挙げられる。また、インクジェット方式によれば、画像形成時に必要量のインクのみを使用するため、従来のスクリーン捺染等に比較して、廃液が少ない等の環境的利点も有する。
【0004】
しかしながら、インクジェット方式を布帛等への捺染にそのまま適用した場合、滲みが著しく、鮮明性に劣るという問題があった。即ち、布帛は、紙と異なり、繊維組織や編織組織に方向性があり、空隙が紙よりも大きいために、インクヘッドから吐出されたインクが布帛に付着した際に、縦横方向に滲み、鮮明な画像を得ることができない。また、上記したように、インクジェット方式はインクヘッドからインク液滴を吐出させるものであるため、従来の捺染インクのような高粘度のインクをそのまま適用することができず、低粘度のインクを用いるとより滲みの原因となるとともに、布帛の染着濃度を高くすることが困難である。
【0005】
上記の問題に対し、布帛にインクを付着させる前に、染料インキ中の高粘度成分のみを、コーティングやパディング法によって予め布帛に付着させておき、そのように前処理された布帛に、低粘度の染料インクを用いてインクジェット方式により捺染印刷を行う方法が提案されている(例えば、特公昭63−31594号公報:特許文献1)。しかしながら、上記のような前処理を行う捺染方法にあっては、前処理を行った後に前処理剤を固着させ、さらに布帛を洗浄した後にインクジェット捺染を行うため、生産性に劣る場合がある。
【0006】
このような問題に対し、例えば特表2007−102455号公報(特許文献2)には、分散染料を用いてインクジェット捺染を行う場合に、インク中に、ポリグリセリンとアルカンジオールまたはポリプロピレングリコールを所定割合で添加することにより、前処理を行わなくても、滲みが少なく堅牢性にも優れた布帛が得られることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭63−31594号公報
【特許文献2】特表2007−102455号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、今般、従来のようにコーティングやパディング法によらなくとも、インクジェット記録装置のインクヘッドから吐出させて布帛に付着させることができるような前処理剤を鋭意検討していたところ、特定の水酸基価を有するポリエチレングリコールを含む液体組成物であれば、インクジェット方式を適用できることが判明した。そして、この液体組成物を予め布帛に付着させた後、液体組成物が布帛に残存している間に、酸性染料を含むインクをインクジェット方式により、液体組成物を付着させた部分に吐出して印捺を行うことにより、染着濃度が飛躍的に改善されることを見いだした。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、従来のようにコーティングやパディング法によらなくとも、布帛の前処理を行うことができ、かつ高い染着濃度を実現できるインクジェット捺染方法を提供することである。
【0010】
そして、本発明によるインクジェット捺染方法は、布帛に、酸性染料を含有するインクをインクジェット方式により印捺するインクジェット捺染方法であって、
布帛に、水酸基価が178〜590であるポリエチレングリコールを含んでなる液体組成物を付着させる前処理工程と、
前記布帛に付着した液体組成物が布帛に残存している間に、前記前処理された布帛に対して、酸性染料を含有するインク組成物を吐出させるインクジェット印捺工程と、
を含んでなるものである。
【0011】
本発明のインクジェット捺染方法によれば、従来のようにコーティングやパディング法によらなくとも、インクジェット方式により布帛の前処理を行うことができ、かつ高い染着濃度を実現することができる。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明によるインクジェット捺染方法は、1)布帛に、水酸基価が178〜590であるポリエチレングリコールを含んでなる液体組成物を付着させる前処理工程と、2)前記布帛に付着した液体組成物が布帛に残存している間に、前記前処理された布帛に対して、酸性染料を含有するインク組成物を吐出させるインクジェット印捺工程と、を含むものである。以下、各工程について詳細に説明する。
【0013】
<前処理工程>
従来、酸性染料を用いて布帛に印捺する前に、予め布帛の前処理を行うことが知られている。本発明によるインクジェット捺染方法においては、その布帛の前処理工程において用いられる処理液として、水酸基価が178〜590であるポリエチレングリコールを含んでなる液体組成物を用いるものである。水酸基価が上記範囲内にあるポリエチレングリコールを含む液体組成物を用いて布帛を前処理し、布帛に付着した液体組成物が布帛に残存している間に、後記するインクジェット印捺工程を実施する。このように、水酸基価が上記範囲内にあるポリエチレングリコールを含む液体組成物を用いて布帛の前処理を実施し、かつその液体組成物が布帛に残存している間に、インクジェット印捺工程を実施することにより、滲みが少なくかつ高い染着濃度を有する布帛を得ることができる。また、水酸基価が上記範囲内にあるポリエチレングリコールを含む液体組成物は、布帛の前処理に使用されていた従来の前処理剤と比較して格段に粘度が低いため、インクジェット方式を適用して布帛に液体組成物を付着させることができる。その結果、例えば液体組成物と染料インク組成物とを同じカートリッジに充填して、個々のプリンタヘッドから処理液と染料インクとを吐出させることが可能となるため、前処理工程と印捺工程とを一台のインクジェットプリンタを用いて実施することができる。従って、従来のようにコーティングやパディング法により処理液(液体組成物)を布帛に付着させる場合と比較して、一連のインクジェット捺染工程を格段に簡素化することができる。
【0014】
布帛の前処理に用いられる液体組成物は、水酸基価が178〜590であるポリエチレングリコールを含む。水酸基価が178未満であったり590を超えると、染着濃度が高くならず、また滲みが問題となる場合がある。水酸基価は、178〜259であることが好ましい。なお、本明細書中、「水酸基価」とは、JIS K 0070(1992)に準拠して測定された値を意味するものとする。即ち、試料(ポリエチレングリコール)1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数と定義される。具体的には、精秤した試料Xg(約1g)を、空気冷却管を備えたフラスコ中に投入し、アセチル化試薬(無水酢酸20mlにピリジンを加えて400mlにしたもの)20mlを正確に加え、フラスコを95〜100℃で1時間30分間グリセリン浴にて加熱し、その後、冷却して、空気冷却管から精製水1mlを加え、無水酢酸を酢酸に分解し、次いで、電位差滴定装置を用いて0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で滴定を行い、得られた滴定曲線の変曲点を終点とし、空試験として、試料を入れないで滴定したときの滴定曲線の変曲点から、水酸基価を算出する。
【0015】
液体組成物に含まれる水酸基価が178〜590であるポリエチレングリコールは、平均分子量が200〜600であることが好ましい。例えば、平均分子量が200であるポリエチレングリコールは、その水酸基価が概ね590程度である。また、平均分子量が600であるポリエチレングリコールは、その水酸基価が概ね178程度である。平均分子量が200〜600の範囲、即ち、水酸基価が178〜590の範囲にあるポリエチレングリコールを使用することにより、より滲みの抑制と高い染着濃度を実現できる。なお、本明細書中において「平均分子量」とは、重量平均分子量を意味し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0016】
上記したポリエチレングリコールは、液体組成物に対して質量基準で10〜30%含有されることが好ましい。ポリエチレングリコールの含有量が10%未満であると、染着濃度が高くならず、また滲みが改善されない場合がある。一方、ポリエチレングリコールの含有量が30%を超えると、染着後の洗浄時に脱糊性が低下し、布帛の風合いが悪化する場合がある。
【0017】
本発明において用いられる液体組成物は、必要に応じて、尿素、またはチオ尿素等の保湿剤、pH調整剤、還元防止剤、浸透剤、金属イオン封鎖剤、あるいは消泡剤等の各種添加剤を含有させることもできる。
【0018】
<インクジェット印捺工程>
本発明においては、上記したように、布帛を予め前処理した後、酸性染料を含むインク組成物を布帛に対して吐出して印捺することが行われる。そのインクジェット印捺は、上記の前処理工程において、布帛に付着した液体組成物が布帛に残存している間に、実施される必要がある。液体組成物中のポリエチレングリコール成分がまだ液体状態で布帛に残存している状態でインクジェット印捺を行うことにより、滲みだけでなく、布帛の染着濃度が顕著に改善されることは驚くべきことであった。なお、「液体組成物が布帛に残存する」とは、液体組成物の多価アルコール成分が液体状態で布帛上に残存している状態を意味し、液体組成物の蒸発が平衡状態にある場合や非平衡状態の場合も含む。
【0019】
布帛に液体組成物を付着させた後、液体組成物が布帛に残存している間にインクジェット印捺が行われるが、具体的には、布帛に液体組成物を付着させた後16時間以内、好ましくは4時間以内に、インクジェット印捺が行われる。なお、布帛に付着した液体組成物の残存量は、通常、液体組成物の蒸発により時間の経過とともに減少するが、液体組成物の布帛に対しての付着量や、捺染を行う環境によって影響を受けるものである。本発明においては、液体組成物の布帛に対しての付着量は布帛に対してのインク組成物の塗布量の概ね70〜130%であることが好ましい。液体組成物の付着量を上記の範囲とすることにより、より高い染着濃度を実現することができる。また、上記前処理工程およびインクジェット捺染工程が、21〜25℃で45〜55%RHの環境下で実施されることが好ましい。
【0020】
インクジェット印捺工程において用いられるインク組成物について説明する。本発明においては、酸性染料を含むインク組成物が用いられる。酸性染料を含むインクを用いて印捺を行う際に、上記したような前処理工程を適用することにより、滲みと染着濃度とが顕著に改善されるものである。酸性染料としては、特に制限なく使用することができ、例えば、酸性染料としては、C.I.アシッドイエロー1、3、7、11、17、19、23、25、29、36、38、40、42、44、49、59、61、70、72、75、76、78、79、98、99、110、111、112、114、116、118、119、127、128、131、135、141、142、161、162、163、164、165、169、207、219、246、C.I.アシッドレッド1、6、8、9、13、14、18、19、24、26、27、28、32、35、37、42、51、52、57、62、75、77、80、82、83、85、87、88、89、92、94、95、97、106、111、114、115、117、118、119、129、130、131、133、134、138、143、145、149、154、155、158、168、180、183、184、186、194、198、199、209、211、215、216、217、219、249、252、254、256、257、260、262、265、266、274、276、282、283、289、303、317、318、320、321、322、361、C.I.アシッドブルー1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、41、43、45、49、54、59、60、62、72、74、78、80、82、83、87、90、92、93、100、102、103、104、112、113、117、120、126、127、129、130、131、133、138、140、142、143、151、154、158、161、166、167、168、170、171、175、182、183、184、185、187、192、199、203、204、205、225、229、234、236、300、C.I.アシッドブラック1、2、7、24、26、29、31、44、48、50、51、52、58、60、62、63、64、67、72、76、77、94、107、108、109、110、112、115、118、119、121、122、131、132、139、140、155、156、157、158、159、191、234、C.I.アシッドオレンジ1、7、8、10、19、20、24、28、33、41、43、45、51、56、63、64、65、67、74、80、82、85、86、87、88、95、122、123、124、C.I.アシッドバイオレット7、11、15、31、34、35、41、43、47、48、49、51、54、66、68、75、78、97、106、C.I.アシッドグリーン3、7、9、12、16、19、20、25、27、28、35、36、40、41、43、44、48、56、57、60、61、65、73、75、76、78、79、C.I.アシッドブラウン2、4、13、14、19、20、27、28、30、31、39、44、45、46、48、53、100、101、103、104、106、160、161、165、188、224、225、226、231、232、236、247、256、257、266、268、276、277、282、289、294、295、296、297、299、300、301、302等が挙げられる。
【0021】
本発明において、染料の含有量は特に限定されるものではないが、インク組成物の全重量に対して、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜7質量%である。前記酸性染料の合計含有量を1質量%以上とすることにより、充分な印捺濃度を得ることができ、10質量%以下とすることにより、インクジェット用インク組成物に求められる吐出安定性を確保することができ、特に高温下での吐出不良を防止することができる。
【0022】
染料インク組成物には、インクジェットプリンタの記録ヘッドのノズルからの吐出安定性を向上させる観点から、保湿剤を含有させることが好ましい。保湿剤としては、通常のインクジェット捺染用インク組成物に保湿剤として使用されている化合物を用いることができ、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、またはペンタエリスリトール等のポリオール類、およびそのエーテルまたはエステル等の誘導体;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、またはε−カプロラクタム等のラクタム類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、または1,3−ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類;マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、またはマルトース等の糖類等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。前記保湿剤の含有量は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは4〜40重量%である。
【0023】
また、染料インク組成物には、布帛への濡れ性を高めてインクの浸透性を高める観点から、浸透剤としても機能する水溶性有機溶剤を含有させることが好ましい。そのような浸透剤有機溶剤としては、通常のインクジェット捺染用インク組成物に浸透剤有機溶剤として使用されている化合物を用いることができ、例えば、エタノールまたはプロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテルまたはエチレングリコールモノエチルエーテル等のセロソルブ類;ジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはジエチレングリコールモノエチルエーテル等のカルビトール類;エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、またはトリエチレングリコール−n−ブチルエーテル等のグリコールエーテル類等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。前記水溶性有機溶剤(浸透剤)の含有量は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは2〜15重量%である。
【0024】
さらに、同様の観点から、染料インク組成物には、水溶性有機溶剤に加えて、浸透剤としても機能する界面活性剤をさらに加えても良い。そのような浸透剤界面活性剤としては、通常のインクジェット捺染用インク組成物に浸透剤界面活性剤として使用されている化合物を用いることができ、例えば、脂肪酸塩類;アルキル硫酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤;サーフィノール61、82、104、440、465、485(何れも商品名、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)等のアセチレングリコ−ル系界面活性剤;カチオン性界面活性剤;両イオン性界面活性剤等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を加えることができる。さらに加えても良い前記界面活性剤(浸透剤)の含有量は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは0.2〜2重量%である。
【0025】
本発明においては、染料インク組成物には、上記したように、染料を含有させ、必要に応じて、保湿剤および浸透剤を含有させ、さらにバランスとして水を含有させる。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
【0026】
本発明においては、染料インク組成物に、さらに必要に応じて、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤、pH調整剤(例えば、トリエタノールアミン)、または溶解助剤等のように、インクジェット捺染用のインク組成物において通常用いることができる各種添加剤の一種または二種以上を含有させることができる。
【0027】
本発明において用いられる染料インク組成物は、上記した各成分を、分散/混合機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミル等)に供給し、分散させることにより調製されてよい。本発明の好ましい態様によれば、上記した分散/混合機により得られたインク原液をメンブランフィルターやメッシュフィルター等のフィルターを用いて濾過し、粗大粒子を除去することが好ましい。
【0028】
このような染料インク組成物は、印字品質とインクジェット捺染用インク組成物としての信頼性とのバランスの観点から、表面張力が25〜40mN/mであることが好ましく、28〜35mN/mであることがさらに好ましい。また、同様の観点から、本発明によるインク組成物の20℃における粘度は、1.5〜10mPa・sであることが好ましく、2〜8mPa・sであることがさらに好ましい。表面張力および粘度を前記範囲内とするには、前記染料の濃度を調整する方法、前記保湿剤の種類や添加量等を調整する手段等を用いることができる。
【0029】
本発明によるインクジェット捺染方法において好適に使用される布帛としては、ポリアミド系繊維、絹または羊毛からなる布帛(例えば、織物、網物、または不織布)が挙げられる。
【0030】
インクジェット印捺は、インクジェットプリンタのインクカートリッジにインク組成物を充填して、プリンタヘッドからインク滴を布帛に対して吐出することにより行われる。インクジェットプリンタは特に限定されないが、ドロップオンデマンド型のインクジェットプリンタが好ましい。ドロップオンデマンド型のインクジェットプリンタには、記録ヘッドに配設された圧電素子を用いて記録を行う圧電素子記録方法を採用したもの、記録ヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いて記録を行う熱ジェット記録方法を採用したもの等があり、いずれの記録方法を採用することもできる。
【0031】
本発明においては、インクジェット印捺後、染料固着処理を行う。染料固着処理方法としては、従来の捺染方法における染料固着処理方法と同様の方法、例えば、常圧スチーム法、高圧スチーム法、またはサーモフィックス法等を挙げることができる。染料固着処理後は、常法通り、布帛を水洗し、乾燥する。必要に応じソーピング処理(未固着の染料を熱石鹸液等で洗い落とす処理)を実施してもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0033】
<布帛の準備>
市販の絹布帛(12匁)に、下記の3種の組成物1〜3をそれぞれ塗布したものを、マングルにてピックアップ率50%で絞って常温で24時間乾燥させて、布帛1〜3を得た。なお、組成物2および3に含まれるポリエチレングリコールの水酸基価を上記した方法により算出したところ、平均分子量が200のポリエチレングリコールは水酸基価が590であり、平均分子量が600のポリエチレングリコールは水酸基価が178であった。
【0034】
組成物1
アルギン酸ナトリウム 4重量部
グアガム 4重量部
硫酸アンモニウム 4重量部
超純水 88重量部
(合計) 100重量部
組成物2
ポリエチレングリコール(Mw=200) 4重量部
硫酸アンモニウム 4重量部
超純水 88重量部
(合計) 96重量部
組成物3
ポリエチレングリコール(Mw=600) 4重量部
硫酸アンモニウム 4重量部
超純水 88重量部
(合計) 96重量部
【0035】
<液体組成物の調製>
下記の表1に従って各成分を混合し、液体組成物1〜8を調製した。なお、表1中、ポリエチレングリコール(Mw=200)とは、平均分子量が200のポリエチレングリコールを意味し、また、ポリエチレングリコール(Mw=600)とは、平均分子量が600のポリエチレングリコールを意味する。
【0036】
【表1】

【0037】
<捺染インク組成物の調製>
次に、下記の表2に従って各成分を混合し、捺染インク組成物1〜9を調製した。なお、表2中、ポリエチレングリコール(Mw=200)とは、平均分子量が200のポリエチレングリコールを意味し、また、ポリエチレングリコール(Mw=600)とは、平均分子量が600のポリエチレングリコールを意味する。
【0038】
【表2】

【0039】
<インクジェット捺染>
上記で得られた布帛1〜3のそれぞれに、PM−A750プリンタ(セイコーエプソン社製)を用いて、インクジェット方式により得られた液体組成物1〜8を塗布し、布帛を開放状態にて25℃、湿度55%RHの環境下で、下記の表3に従って所定時間保管した後、布帛の処理液を塗布した場所に染料インク組成物1〜9を用いてインクジェット印捺を行った。
次いで、印捺した布帛を100℃×30分にてスチーミングして定着させた後、オルフィンE1010(日信化学社製)、ラッコールSTA(明成化学社製)0.2%水溶液を用いて、55℃において10分間洗浄し、乾燥させたものを染着濃度試験片とした。
得られた試験片を用いて、スペクトロリーノ(グレタグマクベス社製)を用いて光学濃度Db値を測定した。この測定結果を下記の点数表にしたがって採点した。PG液も同様の方法で印捺し、捺染インクに先んじて布に印捺した。塗布後、布は開放状態にて25℃、湿度55%RHにて指定の時間保管し、捺染インクを印捺して仕上げた。
【0040】
Db値が1.60以上〜1.65未満 : 6点
Db値が1.55以上〜1.60未満 : 5点
Db値が1.50以上〜1.55未満 : 4点
Db値が1.45以上〜1.50未満 : 3点
Db値が1.40以上〜1.55未満 : 2点
Db値が1.40未満 : 1点
評価結果は、下記の表3に示される通りであった。
【0041】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛に、酸性染料を含有するインクをインクジェット方式により印捺するインクジェット捺染方法であって、
布帛に、水酸基価が178〜590であるポリエチレングリコールを含んでなる液体組成物を付着させる前処理工程と、
前記布帛に付着した液体組成物が布帛に残存している間に、前記前処理された布帛に対して、酸性染料を含有するインク組成物を吐出させるインクジェット印捺工程と、
を含んでなることを特徴とする、インクジェット捺染方法。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコールが、重量平均分子量が200〜600である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールが、前記液体組成物に対して質量基準で10〜30%含まれてなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記前処理工程を実施した後、16時間以内に前記インクジェット捺染工程を実施する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記前処理工程において、布帛に対する液体組成物の塗布量が、布帛に対するインク組成物の塗布量の70〜130質量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記前処理工程および前記インクジェット捺染工程が、21〜25℃で45〜55%RHの環境下で実施される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記前処理工程が、布帛に対して前記液体組成物を吐出させるインクジェット方式により実施される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記液体組成物と前記インク組成物とを同じインクカートリッジに充填して、インクジェット方式により、前記前処理工程および前記捺染工程を実施する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記布帛が、絹、羊毛またはポリアミド系繊維からなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。

【公開番号】特開2011−174208(P2011−174208A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40406(P2010−40406)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】