説明

インクジェット捺染用インク組成物

【課題】インクジェット捺染方法において従来必須であった蒸気処理(スチーミング処理)や水洗処理が不要であるインクジェット捺染用インク組成物を提供する。
【解決手段】水と、酸性染料又は反応染料を含むアニオン性染料と、多価アルコールと、
インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射した際に、前記繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物(例えば、アンモニア放出可能な化合物、特に尿素及びその誘導体)と、
を含有することを特徴とするインクジェット捺染用インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、インクの小滴を飛翔させ、被印刷媒体に付着させる方法である。
このインクジェット印刷方法を捺染に適用したインクジェット捺染方法は、予め前処理(天然繊維でも前処理は必須である)された各種の繊維媒体(天然繊維又は合成繊維の布等)にインクの小滴を吐出させて飛翔させ、インクを付着させるため、階調性及び多色表現性等に優れた種々の画像を繊維媒体上に容易に形成することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
インクジェット方式に用いるインクとしては、各種水溶性染料を水に溶解させたものが知られている。そして、水溶性染料としては、直接染料、酸性染料、反応性染料等が用いられている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
ところで、インクジェット捺染方法では、各種の繊維媒体(天然又は合成繊維の布等)にインクジェット捺印した後、後処理として、色剤の定着及び発色のための蒸気処理(スチーミング処理)、及び、水洗処理、などを行う必要があった(例えば、特許文献1〜2参照。)。
蒸気処理(スチーミング処理)、及び、水洗処理などを行うための装置は、大型インクジェット印刷装置と同程度の設置スペースを必要とし、装置価格も高額である。
また、従来法では、繊維媒体に多めにインクを吐出することによって、十分な染色を行い、余分な染料を洗い流すことによって、染色を行う必要があった。したがって、水洗すると着色排水が出ることは必然であった。また、繊維媒体に多めにインクを吐出することをやめ、繊維媒体へのインク吐出量を相対的に少なくすると、十分な染色が困難となる。
【特許文献1】特開2007−119657号公報
【特許文献2】特開2005−213484号公報
【0005】
本発明は、インクジェット捺染方法において従来必須であった蒸気処理(スチーミング処理)及び水洗処理が不要であるインクジェット捺染用インク組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究により、繊維媒体とマイクロ波照射とインク組成との相互作用により、上記目的を達成可能であることを見出し、本願発明に至った。
また、本発明者は、水性インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射したときに、繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物を水性インクに含有させることにより、上記目的を効果的に達成可能であることを見出し、本願発明に至った。
また、本発明者は、前記繊維媒体が天然繊維又はカチオン基を有する合成繊維又は半合成繊維である場合に、繊維媒体とマイクロ波照射とインク組成との相互作用により、上記目的を効果的に達成可能であることを見出した。
ここで、水性インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射したときに、繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物としては、アンモニアを放出可能な化合物、特に尿素構造を有する水溶性化合物、などが挙げられる。
さらに、本発明者は、マイクロ波処理して水性インクを繊維媒体に定着させる際に水分と尿素が大きく関係していることを解明した。そして、尿素を使用することで、水洗しても着色排水が出ない程度に、染料の定着が促進されることを解明した。
【0007】
本発明は、以下の構成を有する。
(構成1)
水と、酸性染料又は反応染料を含むアニオン性染料と、多価アルコールと、
インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射したときに、前記繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物と、
を含有することを特徴とするインクジェット捺染用インク組成物。
(構成2)
前記繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物として、アンモニア放出可能な化合物を含有することを特徴とする構成1に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
(構成3)
前記アンモニア放出可能な化合物として、尿素又はその誘導体を含有することを特徴とする構成2に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
(構成4)
前記インク組成物は、水溶性バインダーを含有することを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のインクジェット捺染用インク組成物。
(構成5)
前記水溶性バインダーとして、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂のうちから選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする構成4に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
(構成6)
媒体は、天然繊維又はカチオン基を有する合成繊維又は半合成繊維の媒体であることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のインクジェット捺染用インク組成物。
(構成7)
インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射する工程を備えたインクジェット捺染方法に使用されることを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクジェット捺染方法において従来必須であった蒸気処理(スチーミング処理)及び水洗処理が不要であるインクジェット捺染用インク組成物を提供できる。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、
水と、酸性染料又は反応染料を含むアニオン性染料と、多価アルコールと、
インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射したときに、前記繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物と、
を含有することを特徴とする(構成1)。
上記構成1に係る発明によれば、インクジェット捺染方法において従来必須であった蒸気処理(スチーミング処理)及び水洗処理が不要であるインクジェット捺染用インク組成物を提供できる。
上記構成1に係る発明においては、繊維媒体とマイクロ波照射とインク組成との相互作用により、マイクロ波照射による繊維媒体への色剤の定着を促進する作用が発揮され、これによって、上記作用効果が得られる。
上記構成1に係る発明において、インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射したときに(マイクロ波を照射した際に、又はマイクロ波を照射しているあいだに)、前記繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物としては、繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を実質的に有する化合物であることが必要である。繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を実質的に有さず、この作用が不十分であると、着色排水を低減できず、水洗処理を不要とすることもできない。
本発明では、インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射しているときに、繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物としては、木綿や絹などへのインクジェット捺染と同等又は同等以上の印刷品質を実現可能な化合物であることが好ましい。
本発明において、繊維媒体とマイクロ波照射とインク組成との相互作用によって発揮される「繊維媒体への色剤の定着を促進する作用」が非常に大きい場合、水洗を行っても着色排水が出ない。すなわち、繊維媒体に吐出されたインク中の色剤はほぼ完全に繊維媒体へ定着される。
本発明では、インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射した際に、繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物としては、水洗処理を不要とすることを実現可能な化合物であることが好ましい。
【0010】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、
前記繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物として、アンモニア放出可能な化合物を含有することを特徴とする(構成2)。
上記構成2に係る発明によれば、以下の作用効果が得られる。
(1)インクジェット捺染用インク組成物に、アンモニア放出可能な化合物、特に尿素及びその誘導体を含有する水溶性化合物を入れると、所定の繊維媒体とマイクロ波照射とインク組成との相互作用により、マイクロ波照射による繊維媒体への色剤の定着を促進する作用が発揮され、マイクロ波照射しない場合と比べ、あるいは、アンモニア放出可能な化合物を含有しない場合に比べ、繊維媒体へのインクの定着強度が増加するとともに、繊維媒体へのインクの定着量の増加により発色が濃くなる。
(2)繊維媒体とマイクロ波照射とインク組成との相互作用によって、マイクロ波照射しない場合やアンモニア放出可能な化合物を用いない場合と比べ、あるいは、従前の手法(例えば上述した特許文献1〜2に記載の手法)を用いた場合と比べ、相対的に少ないインク量であっても、即ち繊維媒体の単位面積に含まれる色剤の量が相対的に少ない場合であっても、繊維媒体に吐出されたインク中の色剤の全てを繊維媒体に定着させることが可能となる。この作用によって、マイクロ波を照射しない場合やアンモニア放出可能な化合物を用いない場合と比べ、あるいは、従前の手法を用いた場合と比べ、相対的に少ないインク量で同等又は同等以上の色剤の定着及びそれによる発色が可能となる。
本発明では、繊維媒体に吐出されたインク中の色剤はほぼ完全に全て繊維媒体へ定着させることができる。これにより、水洗を行っても着色排水が出ない。
(3)上記(1)〜(2)の結果に基づいて、色剤の定着及び発色のための蒸気処理(スチーミング処理)が不要となる。
(4)水洗しても着色排水が出ないので、画期的である。本発明では水洗は不要である。
【0011】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、アンモニア放出可能な化合物を含有する(構成2)。
ここで、アンモニア放出可能な化合物は、マイクロを波照射したときにアンモニアを放出する化合物であることが好ましい。
アンモニア放出可能な化合物としては、尿素、尿素誘導体(カルバミド基を有する化合物)等が挙げられる。
【0012】
本発明においては、前記アンモニア放出可能な化合物は、尿素又は尿素誘導体(カルバミド基を有する化合物)であることが好ましい(構成3)。
上述した作用効果(1)〜(4)がより大きく発揮されるためである。
【0013】
尿素又は尿素誘導体(カルバミド基を有する化合物)としては、例えば、尿素、ジメチル尿素、モノメチルチオ尿素、チオ尿素、ジメチルチオ尿素等のアルキル尿素、アルキルチオ尿素等が挙げられる。これらのうちでも、尿素などのアンモニア放出量及びアンモニア放出効率の高い化合物が好ましい。
尿素又は尿素誘導体(カルバミド基を有する化合物)の含有量は特に限定されるものではないが、インク組成物の全重量に対して、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
【0014】
本発明において、前記インク組成物は、多価アルコール系溶剤を含有する(構成1)。
上述した作用効果(1)〜(4)の発揮を補助する作用が期待されるためである。
また、多価アルコール系溶剤などの水溶性溶剤含有であると、溶剤インクに比べ溶剤臭が少ないため、好ましい。
【0015】
多価アルコールとしては、例えば、常圧における沸点が150℃以上の多価アルコールを用いることが好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,8−オクタンジオール、1,2−オクタンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、チオグリコールなどを挙げることができる。多価アルコールの中では、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のエチレングリコール系の多価アルコールが特に好ましい。
多価アルコールの含有量は特に限定されるものではないが、インク組成物の全重量に対して、好ましくは1〜40重量%、より好ましくは3〜20重量%である。
【0016】
本発明で用いるインク組成物は、水を含有する水性インクである。
本発明のインク組成物において、水としては任意の水を用いることができるが、純水を用いることが好ましい。純水は、イオン交換、又は蒸留等で容易に製造することができる。
また、純水を紫外線等で滅菌処理することが好ましい。
水の含有量は特に限定されるものではないが、マイクロ波照射による上述した作用効果(1)〜(4)の発揮を補助する観点からは、インク組成物の全重量に対して、好ましくは5〜70重量%、より好ましくは10〜60重量%である。
【0017】
本発明のインク組成物は、水溶性バインダーを含有することが好ましい(構成4)。
上述した作用効果(1)〜(4)の発揮を補助する作用が期待されるためである。
【0018】
本発明のインク組成物は、水溶性バインダーとして、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂のうちから選ばれる少なくとも一種を含有することことが好ましい(構成5)。
上述した作用効果(1)〜(4)がより大きく発揮されるためである。
【0019】
本発明のインク組成物において、酸性染料又は反応染料を含むアニオン性染料としては、公知の酸性染料又は反応染料を含むアニオン性染料を用いることができる。
アニオン性染料は、染料イオンが、アニオン性を示すものの総称で、多くは染料分子中に「スルホン酸基」、「カルボン酸基」などのアニオン性を示す極性基を含んでいる。アニオン性染料としては、酸性染料又は反応染料が好ましい。
酸性染料は、染料分子中に「スルホン酸基」、「カルボン酸基」などの酸性を示す酸性基を含んでいる。酸性染料としては、例えば、Acid Blue9が挙げられる。
反応染料は、繊維と染料が反応して色剤が固着される。反応染料としては、例えば、ReactiveRed24が挙げられる。
【0020】
本発明のインク組成物は、その他の添加物として、インクの吐出安定性(特には、ピエゾヘッドでの吐出安定性)を向上させる目的で、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(例えば、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル)、及び/又は界面活性剤(例えば、アセチレングリコール系界面活性剤)を含有することができる。
【0021】
また、本発明のインク組成物は、前記成分に加えて、防腐剤を含有することが好ましい。好ましい防腐剤としては、例えば、プロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルIB、又はプロキセルTNなどを挙げることができる。
【0022】
更に、本発明のインク組成物は、キレート剤(金属封鎖剤)を含有することができる。キレート剤は、インク中の金属をトラップし、インクの信頼性を向上すると共に、繊維媒体上の重金属をトラップし、染め斑防止に有効である。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロトリ酢酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、又はメタリン酸塩等が好適である。また、BASF社から市販されているTRILON TA、DEKOL SN、Benkiesed社から市販されているCalgon Tは生分解性に優れており環境面で好適である。
【0023】
本発明において、繊維媒体は、繊維で構成される媒体である。繊維媒体としては、例えば、布、布材、織布、混紡織布、布帛(ふはく)、不織布等である。
【0024】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、天然繊維又はカチオン基を有する合成繊維又は半合成繊維、などの繊維媒体へインクジェット捺染を行うためのインクジェット捺染用インク組成物として特に適する(構成6)。
上記所定の繊維媒体とマイクロ波照射とインク組成との相互作用により、上述した作用効果(1)〜(4)がより大きく発揮されるためである。
ここで、天然繊維としては、麻、羊毛等が挙げられる。
カチオン基を有する天然繊維又は合成繊維としては、シルク、ナイロン、ポリウレタン等が挙げられる。
半合成繊維としては、アセテート繊維等が挙げられる。
【0025】
また、本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射する工程を備えたインクジェット捺染方法に使用されるインクジェット捺染用インク組成物として特に適する(構成7)。
【0026】
本発明においては、インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射する。
ここで、マイクロ波照射に際しては、マイクロ波照射による上述した作用効果(1)〜(4)の発揮が大きくなるように、好ましくは最大となるように、マイクロ波の周波数、照射強度を調整する。
【0027】
以下、本発明の実施に適したインクジェットプリンタを、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施に適したインクジェットプリンタ10の構成の一例を示す。インクジェットプリンタ10は、水性インクを用いるインクジェットプリンタであり、インクジェットヘッド12、プラテン14、複数のローラ16a〜16d、及びマイクロ波照射部18を備える。
【0028】
インクジェットヘッド12は、媒体50に対して水性インクを吐出する印刷ヘッドである。インクジェットヘッド12は、所定の主走査方向及び副走査方向へ媒体50に対して相対的に移動することにより、媒体50上の各位置へ水性インクを吐出する。
【0029】
プラテン14は、インクジェットヘッド12により水性インクが吐出される媒体50を上面に保持する台である。複数のローラ16a〜16dは、媒体50を搬送するローラである。複数のローラ16a〜16dは、媒体50を搬送することにより、インクジェットヘッド12を、副走査方向へ、媒体50に対して相対的に移動させる。
【0030】
マイクロ波照射部18は、媒体50の搬送方向においてインクジェットヘッド12の下流側に設けられており、水性インクが吐出された媒体50に対してマイクロ波を照射する。本例において、マイクロ波照射部18は、例えば、金網で被われた筐体の内部で媒体50を通過させつつ、媒体50にマイクロ波を照射する。これにより、マイクロ波照射部18は、インクジェットヘッド12により吐出された水性インクを、媒体50に定着させる。
【0031】
ここで、マイクロ波とは、例えば、周波数で300MHz〜30GHz(波長で1cm〜1m)の電磁波である。マイクロ波照射部は、例えば周波数で1〜4GHz、より好ましくは2〜4GHzのマイクロ波を照射する。また、マイクロ波照射部18は、例えば家庭用の電子レンジと同程度の強度のマイクロ波を照射する。
【0032】
また、マイクロ波照射部18は、例えば、媒体50に対して送風を行いつつ、マイクロ波を照射してもよい。このように構成すれば、例えば、より速く水性インクを定着させることができる。また、各種ヒータとみ組み合わせることもできる。
【0033】
以下、実施例について説明する。
(実施例1)
インクジェットプリンタ10として、ミマキエンジニアリング社製のインクジェットプリンタを用いて、実施例1に係る印刷を行った。実施例1で用いたインクジェットプリンタの型番はTX2−1600である。但し、マイクロ波照射部18としては、インクジェットプリンタ10の本体に設けるマイクロ波発生装置に代えて、家庭用の電子レンジを用いた。
【0034】
実施例1において、下記組成の水性インクを用いた。
1)色剤:Acid Blue9; 5重量%
2)尿素; 15重量%
3)多価アルコール系溶剤:グリセリン; 5重量%、DEG; 10重量%
4)水溶性バインダー:ジョンクリル61; 3重量%
5)その他:名称プロキセルXL2; 0.1重量%
6)残部:水
インクの調製は、通常の手順(工程)を経て行った。
媒体50としては、シルクの白布を用いた。
【0035】
上記で調製した水性インク(インク組成物)を用いて、実施例1に係る印刷を行った。この印刷では、インクジェットプリンタ10により、100%の印字濃度で水性インクの吐出を行った後、電子レンジを用いて、媒体50に対するマイクロ波の照射を、2分間行った。電子レンジの出力は、600Wとした。
【0036】
(比較例1、2)
ミマキエンジニアリング社製の水性インクを用いた。用いた水性インクの型番は、SPC−0355である。媒体50としては、シルクの白布を用いた。
上記の白布に、インクジェットプリンタ10により印捺を行った。この段階の染色物を比較例1とした。
その後、80度で乾燥後、170度の過熱蒸気中で7分間保持し、水洗、還元洗浄し水洗、乾燥を行った。この段階の染色物を比較例2とした。
尚、比較例1及び2において、マイクロ波照射の有無による違いを調べたが、比較例1及び2で得られる染色物に対して明確な差異はそれぞれ確認できなかった。
【0037】
(評価)
(1)上記で得られた染色物に対して、水洗いによる色落ち評価を行った。
実施例1で得られた染色物は、水洗いを行っても、着色排水は出なかった。
比較例1、2で得られた染色物は、水洗いの際に、大量の着色排水が出た。
(2)上記で得られた染色物に対して、目視による評価を行った。
実施例1で得られた染色物は、にじみの無いきれいな染色物であった。実施例1で得られた染色物は、彩度と色強度(カラーバリユー)が極めて優れており、比較例2と同等であった。
(3)上記で得られた染色物に対して、測色機を用いた評価を行った。この評価においては、実施例1及び比較例2において、1色のインクによるC、M、Yの各色の印刷と、2色のインクによるY+M、M+Cの各色の印刷とを行った。
印刷を行った後、測色機により、各色の印刷結果について、CIE色度図のL*(エルスター)、a*(エースター)、b*(ビースター)の値を求めた。ここでL*とは明度を、a*b*とは色相と彩度を表す色度の単位である。尚、測色機としては、X−Rite社(米国)製の分光測色濃度計X−RITE530LP(型式:530LP)を用いた。これらの結果を、表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
以上、本発明を実施例を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施例に記載の範囲には限定されない。上記実施例に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、例えばインクジェットプリンタに好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタ10の構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10・・・インクジェットプリンタ、12・・・インクジェットヘッド、14・・・プラ
テン、16・・・ローラ、18・・・マイクロ波照射部、50・・・媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、酸性染料又は反応染料を含むアニオン性染料と、多価アルコールと、
インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射したときに、前記繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物と、
を含有することを特徴とするインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項2】
前記繊維媒体への色剤の定着を促進する作用を有する化合物として、アンモニア放出可能な化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項3】
前記アンモニア放出可能な化合物として、尿素又はその誘導体を含有することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項4】
前記インク組成物は、水溶性バインダーを含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項5】
前記水溶性バインダーとして、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂のうちから選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項4に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項6】
前記繊維媒体は、天然繊維又はカチオン基を有する合成繊維又は半合成繊維の繊維媒体であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項7】
インクが吐出された繊維媒体に対してマイクロ波を照射する工程を備えたインクジェット捺染方法に使用されることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のインクジェット捺染用インク組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−84058(P2010−84058A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256224(P2008−256224)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】