説明

インクジェット用インキ

【課題】 インクジェット用インキとして使用に適した粘度を有し、また良好な硬化性能を示すインキの提供。
【解決手段】 エポキシドモノマー、スルホニウム開始剤ではない陽イオン性光重合開始剤、およびγ−ブチロラクトン、任意にオキセタンモノマーを含むエネルギー硬化可能なインクジェット用インキであって、インクジェット用インキに使用されるに十分な硬化度と低粘度を有するインキ。エポキシドモノマーとγ−ブチロラクトンとの重量比は15:1から2.5:1までの範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な印刷インキ組成物に関し、特に陽イオン的に硬化するインクジェット用インキ組成物に関するものである。
【0002】
陽イオン性インキは良好な付着、低収縮、低臭気および、酸素存在下で硬化が阻止され難いという理由で特定の用途においてフリーラジカル硬化インキよりも好ましく用いられる。しかしながら、広範囲にわたるインクジェット用途のために望ましい比較的低粘性レベルを有する陽イオン性硬化インキを処方することは困難であることが判明している。さらに、陽イオン性硬化インキに適したモノマーとしては比較的にごく限られた範囲のモノマーだけが入手可能なので、この種のインキ処方化の柔軟性には限界がある。
【0003】
陽イオン硬化可能インキは、陽イオン開始剤および少なく一つの陽イオン性重合可能な成分を含み、硬化照射露光により硬化可能であるインキ組成である。陽イオン硬化可能インキには、また、フリーラジカル開始剤およびフリーラジカル重合可能な成分(この種のインキはしばしばハイブリッドインキと呼ばれる)が含まれ得る。
【0004】
エポキシドモノマーは陽イオン性開環重合を経て、印刷インキに広く使われている。
環状脂肪族エポキシドがインクジェット用途において、十分に速く反応することがわかった。しかしながら環状脂肪族エポキシドの高粘性は、重合可能な種として環状脂肪族エポキシドを含んでいるインクジェット用インキ組成が組成物の粘性を減らすために希釈液として作用する他化合物で、典型的に希釈されなければならないことを意味する。本願明細書において用いられる用語「エポキシドモノマー」は、インクジェット印刷・コーティング分野に一般的に使用されるモノマー種およびオリゴマ種を包含する。
【0005】
陽イオン性硬化インキ組成にビニルエーテルとオキセタンモノマーおよびオリゴマを含むことは低粘度達成を助成することが公知である。ビニルエーテルの使用により硬化速度が非常に遅くなり、硬化後臭気を生じるという欠点を伴う場合がある。ビニルエーテルは、ピエゾドロップオンデマンド(DOD)印字ヘッドで使用されるような高い温度において粘度安定性が乏しくなる欠点を被る場合がある。
【0006】
単官能オキセタンは通常少量での使用にのみに適しており、多量に使われるときは硬化レベルが悪化するという不利益を伴う。二官能オキセタンも使われているが、インクジェット印刷用途のインキとして充分な程度に粘度を低減するに必要なレベルでは、フィルム収縮、付着不良およびフィルム脆化が発生し得る。インキ組成物にビニルエーテルおよびオキセタン化合物を使用する手法は、それらの材料がプラスチック中に侵入もしくは侵食しないので、膨張し易いプラスチック基体に対しては付着不良を起こし易い。
【0007】
特開2004−323610号公報には、特定のスルホニウム光重合開始剤と炭酸プロピレンまたは環状エステルを含むインクジェット用インキが開示されている。環状エステルは、それらの特定のスルホニウム開始剤とインキの光重合性成分との相容性を改良すると述べられている。しかしながら特開2004−323610号公報は非スルホニウム開始剤と環状エステルの使用を開示も示唆もしていない。
【0008】
特開2004−10625号公報は、実施例5においてスルホニウム開始剤、エポキシド化合物及びラクトンを含むインクジェット用インキを開示している。ラクトンに対するエポキシドの重量比は3:7である。特開2004−10625号公報は、γ−ブチロラクトン(ガンマ−ブチロラクトン)を含むインクジェット用インキを開示も示唆もしていない。
【0009】
スルホニウム開始剤の幾つかは、硬化後のインキ内でベンゼンを生成することが知られたので好ましくない。
【0010】
インクジェット用インキとして使用に適した粘度を有し、また良好な硬化性能を示し、そして、好ましくは、健康および安全性プロフィルを有し、低臭気レベルであり、更に、プラスチック基体に対する付着が良好で、硬化によって柔軟なフィルムを生産でき、比較的安価で容易に入手可能なモノマーおよび/またはオリゴマを含む陽イオン硬化可能インキを提供する必要がある。
【0011】
充分な量を使えば、γ−ブチロラクトンがインクジェット用インキに含まれ、更にエポキシドモノマーを含有することによって上述の問題に対する解決が提供されることが見出された。更に前記γ−ブチロラクトンに対する前記エポキシドモノマーの重量比が特定の範囲内であると特に効果的な硬化が達成されることも知られた。環状エステルは陽イオン硬化可能インキにおける不活性の種であって、インキの硬化に有害な効果をもたらすと広く考えられ、特に多量での使用は硬化速度を阻害し粘着性のフィルムを生成すると考えられていたのでこの知見は驚くべきである。
【0012】
本発明の第一態様は、1以上のエポキシドモノマー、γ−ブチロラクトン、およびスルホニウム開始剤ではない陽イオン性光重合開始剤を含むエネルギー硬化可能なインクジェット用インキであって、前記1以上のエポキシドモノマーと前記γ−ブチロラクトンとの重量比が15:1から2.5:1までの範囲であるインクジェット用インキを提供する。かかるインキは良好なレベルの硬化を呈し、インクジェット印刷に採用し得る十分な低粘度を有することが見出された。γ−ブチロラクトンはε−カプロラクトンの如き構造的に類似する化合物と比較して、インキ粘度の低減に特に効果的であることが見出された。このインキは、典型的には優れた健康および安全性プロフィルを持ち、臭気は少ない。本発明の第一態様のインキは、紫外線照射のような硬化エネルギーに暴露されると硬化可能である。
【0013】
本発明者らは、γ−ブチロラクトンに対するエポキシドモノマーの重量比が、得られる硬化レベルの決定に重大重要性を持つことを発見した。より詳しくは、発明者らはエポキシドモノマー:γ−ブチロラクトン重量比が15:1から2.5:1の範囲であると、印刷産業において代表的な条件の下で優れた硬化レベルを得ることができ、範囲外の比率では硬化は不適切になり、製造されたフィルムは強度が弱いという結果をもたらすことを発見した。エポキシドモノマーとγ−ブチロラクトンとの重量比は、好ましくは10:1以下、より好ましくは9:1以下である。エポキシドモノマーとγ−ブチロラクトンとの重量比は、好ましくは少なくとも3:1、より好ましくは少なくとも3.5:1、更に好ましくは少なくとも4:1である。
【0014】
インキは重量含有率として3%以上、好ましくは5%以上、選択的には10%以上および場合によっては12%以上のγ−ブチロラクトンを含有するのが有益である。インクジェット用インキ組成物におけるγ−ブチロラクトンの量が重量比で3%以上であれば、既に一般的に想定したほどインキの硬化に対して有害ではなく、5%以上、例えば10%以上存在すればインキ組成物の粘度がかなり下がることが知られた。インキは重量含有率として20%以下、好ましくは15%以下のγ−ブチロラクトンを含有するのが有益である。インキは重量含有率として5ないし20%、特に5ないし15%のγ−ブチロラクトンを含有するのが好ましい。インキの粘度は、25℃の温度で100cPs未満、好ましくは25℃の温度で50cPs未満、より好ましくは25℃の温度で35cPs未満である。インキ組成物の粘度は、25℃の温度で5cPs以上、好ましくは25℃の温度で7cPs以上、より好ましくは25℃の温度で10cPs以上が有益である。
【0015】
多くのインクジェットプリンタは、放出の際にインキの粘度を低減するために加熱印刷ヘッドを利用している。したがって、高温度でのインキの粘度もまた重要である。本発明のインキが、このような温度で特に低粘度であることが見出された。好ましくは、インキの粘度は50℃の温度で20センチポアズ(cPs)以下、より好ましくは18cPs以下、特に好ましくは15cPs以下、場合によっては13cPs以下であり、多くの場合50℃の温度で粘度は5cPs以上である。
【0016】
インキは重量含有率として少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%および場合によっては少なくとも50%のエポキシドモノマーを含有するのが有益である。任意に、インキは80重量%以下、例えば70重量%以下のエポキシドモノマーを含有する。インキは1つのエポキシドモノマーもしくは複数のエポキシドモノマー混合物を含むことができ、ここで用いられる「エポキシド」および「エポキシドモノマー」は、他の意味が文脈から明白でない限り、2以上のエポキシドモノマー混合物を含むと理解されるべきである。複数のエポキシドモノマーが存在する場合、γ−ブチロラクトンに対するエポキシドモノマーの比はエポキシドモノマーの総重量に基づいたものである。
【0017】
環状脂肪族エポキシド(足しダウケミカルよりCyracure UVR6105、UVR6107、UVR6110およびUVR6128の名称で販売される)は、線状エポキシドと較べて比較的急速に硬化する傾向があるので、特に好ましい。使用可能な他のエポキシドとしては、ポリオール[たとえば、ビスフェノールA、アルキルジオールまたはポリ(アルキレンオキシド);これらはジ−、トリ−、テトラ−またはヘキサ−官能性である]のグリシジルエーテルのようなエポキシ−官能オリゴマ/モノマーがあげられる。また、不飽和物質のエポキシ化によって導かれるエポキシド(例えば、エポキシド化ダイズ油、エポキシド化ポリブタジエンまたはエポキシド化アルケン)が使用可能である。Vernonia gelamensisから集められる作物油をはじめとする天然生成エポキシドもまた使用可能である。
【0018】
エポキシド、特には環状脂肪族エポキシドは、本発明の組成物において使われる1つの重合可能な種である。しかしながら、所望により一以上の他の重合可能な種も含まれることができ、例えばオキセタンが含まれることができ、単官能または多官能オキセタンであってもよい。これらの化合物は、陽イオン的に誘起された開環反応によって重合可能である。インキは更に重合可能なオキセタン種を含むことが有益である。適切な粘度および硬化特性を有するインキを得るために、単官能および多官能のオキセタンモノマーおよびオリゴマを使用して本発明のインキが処方され得ることが見出された。インキは含有率として60重量%以下、より有益的には50重量%以下、より好ましくは30重量%以下のオキセタンを含有するのが有益である。本発明の第一の態様によるインクジェット用インキ組成物では比較的少量のオキセタンで処方可能であり、10ないし25重量%のオキセタンを含むことができることが知られた。適切な単官能オキセタン誘導体の例としては、3−エチル−3−ヒドロキシメチル−オキセタンまたは3−エチル−3−[2−エチルヘキシオキシ)メチル]オキセタンが挙げられる。多種類の多官能オキセタン化合物が本発明の組成物に利用可能である。好適なオキセタンとしては、3−エチル−3−ヒドロキシメチル−オキセタン、ビス[(l−エチル−3−オキセタニル)メチル]エーテル、3−エチル−3−[2−エチルヘキシロキシ)メチル]オキセタン、または、[1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼンおよび特に、トリメチロールプロパンオキセタンが挙げられる。本発明の組成物に用いられる多官能オキセタンの他の種類としては、複数のオキセタン基を有する線状ポリマーおよびコポリマーがあり、好ましくはエポキシノボラック樹脂のオキセタン誘導体、例えばPNOXとして販売され東亜合成化学株式会社から入手可能な多官能オキセタンがある。
【0019】
環状脂肪族エポキシドおよび任意のオキセタンと同様、使用可能な他の反応性モノマー/オリゴマには、トリエチレングリコールジビニルエーテル、1、4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルおよびポリ(アルキレンオキシド)のビニルエーテルのような、ポリオールのビニルエーテルが含まれる。本発明のインクジェット用インキにはビニルエーテルがインキの25重量%未満、好ましくは10重量%未満で含まれることが有益である。本発明の好適な処方は、実質的にはビニルエーテルを含まない。ビニルエーテルの量を低減するかまたはビニルエーテルの必要性を完全に排除することが、本発明のインクジェット用インキの硬化速度を増加し、低レベルの硬化照射(1000mJ/cm未満の硬化線量)での高速の硬化速度を達成可能とすることが見出された。ビニルエーテル官能プレポリマーの例には、アライドシグナル社から供給されるウレタン系生成物が含まれる。同様に、プロペニルエーテル基を含んでいるモノマー/オリゴマは、上記の対応するビニルエーテル基を含む化合物の代わりに使用し得る。
【0020】
他の反応種、たとえばスチレン誘導体もインキ組成物に含まれ得る。
【0021】
多量のγ−ブチロラクトンの使用はオキセタン誘導体及びビニルエーテルをはじめとする多くの伝統的に使われている希釈液の組成物中のレベル低減を可能にして、硬化速度増加を促進することが知られた。
【0022】
本発明の組成物はまた、スルホニウム塩ではない少なくとも一つの陽イオン性光重合開始剤を含み、インキは好ましくは実質的にスルホニウム光重合開始剤を含まず、たとえば2重量%未満、より好ましくは1重量%未満のスルホニウム光重合開始剤を含む。特に有益にはスルホニウム開始剤は存在しない。この種のスルホニウム塩の例としては、ダウケミカルから商品名UVI6992として入手可能な化合物の混合物があげられる。他方、使用される特定の陽イオン性光重合開始剤には特に限定はないが、ヨードニウム塩は好ましくはなく、一実施態様においてインキは2重量%未満、好ましくは1重量%未満のヨードニウム光重合開始剤を含む。特に有益にはヨードニウム開始剤は存在しない。チアントレニウム塩(例えばLamberti社から入手可能なEsacure 1187)は、適切な光重合開始剤である。特に好適な陽イオン性光重合開始剤はチオキサントン塩であり、国際公開公報WO 03/072567 A1、WO 03/072568 A1およびWO 2004/0550000 A1に記載されており、開示は参照文献として引用される。本発明のインキは非常に有効な硬化挙動を有するため、多量の光重合開始剤は通常必要ではない。インキは光重合開始剤を5重量%未満、好ましくは4重量%未満で含有することが有益である。
【0023】
インクジェット用インキは更にフリーラジカル光重合開始剤および少なくとも一つのフリーラジカル硬化成分を含むことができる。
【0024】
ポリオールが紫外線陽イオン硬化配合物に含まれることも一般的であり、これは連鎖移動プロセスによって架橋を促進する。ポリオールの例としては、より一般的なポリ(エチレンオキサイド)類及びポリ(プロピレンオキサイド)類、並びにエトキシル化/プロポキシル化誘導体、例えばトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジ−トリメチロールプロパン、ジ−ペンタエリスリトールおよびソルビタンエステルが挙げられる。当業者にとって周知の他のポリオール類は、たとえばダウケミカルによって供給されるようなポリカプロラクトンジオール、トリオールおよびテトラオールである。
【0025】
本発明のインキ配合物の主成分とともに使用されることができる添加剤としては、安定剤、可塑剤、顔料、ワックス、スリップ助剤、レベリング助剤、付着促進剤、界面活性剤および充填剤があげられる。本発明の組成物には上記にて言及した成分に対する付加的な成分として、典型的に、一つ以上の顔料、染料、ワックス、安定剤および流動助剤を含み、これらは例えば「印刷インキ便覧(The Printing Ink Manual)」第5版、R.H. Leach他編集、Blueprint社1993年発行に記載されている。
【0026】
一実施態様において、インキは実質的に、インキ薄膜内で硬化されず、蒸発して大気中に消散する揮発性溶剤を含まない。インキは上記揮発性溶剤を5重量%未満、より好ましくは2重量%未満で含有することが好適である。この種のインキは、特にドロップオンデマンド型プリンタに適している。他の実施態様では、このインキは連続型のインクジェットプリンタに適している。この種のインキは、導電性をインキに付与するために揮発性溶剤および可溶な塩を典型的に含有する。
【0027】
従来技術では、陽イオン性硬化インキでインクジェット粘度を達成するには硬化が遅くフィルム強度に乏しく臭気を伴う多量のビニルエーテルもしくは処方コストが高価で脆性の高いフィルムとなってしまう多量のビス[(1−エチル−3−オクセタニル)メチル]エーテルが必要であったが、本発明の組成物はこれらに勝る格段の利点を示す。上記従来技術はまた共に特定のプラスチックへの浸食がないので、基体(例えばビニル重合体)に対して付着不良であった。
【0028】
本発明の第二態様によれば、本発明の第一態様によるインキを基体に対し適用する工程、およびインキを硬化放射線に暴露する工程を含む印刷プロセスが提供される。硬化放射線は紫外線であることができる。本発明のインキは、例えば硬質PVC(ポリ塩化ビニル)または他のビニル基体のようなプラスチック基体をはじめとする広範囲にわたる基体に適用される印刷プロセスに適用可能である。本発明のインキ組成物は多くの場合、中程度の硬化放射線に暴露することにより比較的急速に硬化することが見出され、様々なインクジェット印刷用途に適用可能である。好適には、本組成物は硬化線量が1000mJ/cm未満であるプロセスにおいて硬化可能である。実際に、本発明の第二態様に従う印刷プロセスにおいて使用される硬化線量は500mJ/cm未満で、好ましくは300mJ/cm未満である。場合によっては、本発明に従う印刷インキがほぼ100mJ/cmの硬化線量が採用されるプロセスにて満足に硬化することが見出された。例えばほぼ1000mJ/cmの硬化線量が必要なビニルエーテルを多量に含むインキと比較して、上述の硬化線量は重大な改善である。
【0029】
本発明の組成物は以下を含むさまざまなインクジェットプリント利用に使用して利点を示す。ラインアドレッシング/コーディングおよびカード装飾(高速硬化および優れた付着性から利点が得られる)、広範なフォーマットの画像(より低い硬化線量は、軽量の低電力紫外線源が使えるようにした)、及び高速での一回通過印刷(アクリレート系フリーラジカル硬化配合物で使われる窒素雰囲気の必要がない)。
【0030】
本発明の第三態様では、本発明の第一態様で記載した硬化インキを含む印刷生成物が提供される。好都合なことに、印刷生成物は広範囲にわたるプラスチック基体に生成可能であり、本発明のインキは基体上に満足な硬化性能を提示し、インキの侵入と侵食によって良好な付着性を示すことが知られた。特に本発明のインキは硬質PVC基体に比較的よく付着し、陽イオン硬化性インクジェット用インキを使用して印刷生成物が提供可能であることが見出された。さらに下記実施例において本発明の印刷生成物は、より多量のオキセタン希釈液を含むインキを使用する印刷生成物よりも良好な柔軟性をもつことがわかった。
【0031】
本発明を以下の実施例によってさらに説明する。それらの実施例はいかなる形であれ本発明の範囲を制限する意図ではない。
【0032】
実施例1〜9
表1に示す通りインキ組成物を調製し、試験した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に対する注釈。
粘度は、ブルックフィールド DVII+粘度計のスピンドル18を使用して100rpmで測定した。硬化線量は中圧水銀ランプ(ドープなし)により10秒後に指触乾燥コーティングを得るために必要な値とした。付着はクロスハッチテープテストにより測定し、Pentawhite硬質PVC基体上で行った。5Bの読み取りでは印刷剥離がなかったことを示している(0Bは少なくとも65%剥離に相当)。臭気評価は硬化後1時間での測定によった。クラック試験は、Avery自己接着性ディスプレイビニル上に厚さ24ミクロンのインキ層を塗布し、硬化させて、印刷品を180度曲げて行った。
【0035】
DVE−3は、トリエチレングリコールジビニルエーテルである。TMPOは、トリメチロールプロパンオキセタンである。Cyr 6105はCyracure UVR6105、すなわちダウケミカルが販売する環状脂肪族エポキシド(化学名3,4−エポキシシクロヘキシメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)である。シアン・ピグメントCI15:3は銅含有フタロシアニン顔料でBASFにより供給されている。Megaface F−479は、大日本インキ化学株式会社が供給するオルガノフルオロ界面活性剤である。Omnicat 550(10−ビフェニル−4−イル−2−イソプロピル−9−オクソ−9H−チオキサンテ−10−ニウムヘキサフルオロホスフェイト)は、IGMが供給する陽イオン性光重合開始剤である。「MEK ダブルラビング」は、より高い評価がより高いインキの硬化度を示す、周知のラビング抵抗試験である。
【0036】
表1の実施例3〜9は本発明の範囲外のインキ組成物を表し、比較目的の為だけに提供されている。実施例組成物1および2は、本発明の第一態様の組成物を示す。表1の最終の5行は、実施例組成物を基体上に印刷して作成した印刷生成物の性能に関連する。
【0037】
表1の結果は、γ−ブチロラクトンがインキ粘度の低減においてε−カプロラクトンよりはるかに効果的で、DVE−3ビニルエーテルとほとんど同等に効果的であることを示している。MEKラビングテストは達成される硬化の程度の尺度であり、表1の結果はエポキシド:モノマー比が特定の範囲内であるときに、優れた硬化が達成されることを示している。硬化レベルは、DVE−3もしくはε−カプロラクトンを有する対応インキによって達成されるレベルより、γ−ブチロラクトンによってむしろ良くなっている。
比較例3では、エポキシド対γ−ブチロラクトンの比2.3:1で、硬化性能が再び垂下することを示している。
【0038】
実施例10〜14
インクジェット印刷に適しているシアンインキ処方として以下を調製した;
2.5%のOmnicat 550光重合開始剤
2.1%のCyanピグメントCI15.3
0.1%のMegaface F479 フルオロ界面活性剤
45.5%のUVR6105環状脂肪族エポキシド
29.8〜49.8%のOXT−221ジオキセタンモノマー、東亜合成化学株式会社製
0−20%のγ−ブチロラクトン
粘度および硬化反応を試験し、結果を表2に示した。
【0039】
【表2】

【0040】
表2の結果は、γ−ブチロラクトンがインキ粘度を低減し、エポキシド対γ−ブチロラクトン比が特定の範囲内では硬化効率が著しく増加することを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のエポキシドモノマー、γ−ブチロラクトン、およびスルホニウム開始剤ではない陽イオン性光重合開始剤を含むエネルギー硬化可能なインクジェット用インキであって、前記1以上のエポキシドモノマーと前記γ−ブチロラクトンとの重量比が15:1から2.5:1までの範囲であるインクジェット用インキ。
【請求項2】
前記1以上のエポキシドモノマーと前記γ−ブチロラクトンとの重量比が10:1から2.5:1までの範囲である、請求項1記載のインクジェット用インキ。
【請求項3】
前記1以上のエポキシドモノマーの前記γ−ブチロラクトンとの重量比が9:1から3:1までの範囲である、請求項1又は請求項2に記載のインクジェット用インキ。
【請求項4】
前記陽イオン性光重合開始剤がヨードニウム光重合開始剤ではない、請求項1から請求項3のいずれか1項記載のインクジェット用インキ。
【請求項5】
少なくとも3重量%以上のγ−ブチロラクトンを含有する、請求項1から請求項4のいずれか1項記載のインクジェット用インキ。
【請求項6】
少なくとも5重量%以上の環状エステルを含有する、請求項5記載のインクジェット用インキ。
【請求項7】
γ−ブチロラクトンの含有量が20重量%以下である、請求項1から請求項6のいずれか1項記載のインクジェット用インキ。
【請求項8】
γ−ブチロラクトンの含有量が15重量%以下である、請求項7記載のインクジェット用インキ。
【請求項9】
インキの粘度が25℃において100cPs未満である、請求項1から請求項8のいずれか1項記載のインクジェット用インキ。
【請求項10】
インキの粘度が50℃において20cPs未満である、請求項1から請求項9のいずれか1項記載のインクジェット用インキ。
【請求項11】
インキの粘度が50℃において15cPs以下である、請求項10記載のインクジェット用インキ。
【請求項12】
更に重合可能なオキセタン種を含有する、請求項1から請求項11のいずれか1項記載のインクジェット用インキ。
【請求項13】
オキセタンの含有量が50重量%以下である、請求項12記載のインクジェット用インキ。
【請求項14】
エポキシドモノマーの含有量が20重量%から80重量%である、請求項1から請求項13のいずれか1項記載のインクジェット用インキ。
【請求項15】
更にフリーラジカル光重合開始剤、および少なくとも一種のフリーラジカル重合可能なモノマーとを含む、請求項1から請求項14のいずれか1項記載のインクジェット用インキ。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれか1項記載のインキを基体に適用する工程、およびインキを硬化させるのに十分な硬化放射線に暴露する工程を含む印刷プロセス。
【請求項17】
硬化放射線が紫外線である、請求項16記載の印刷プロセス。
【請求項18】
請求項1から請求項15のいずれか1項記載のインキの硬化生成物の層を含む印刷生成物、または請求項16もしくは請求項17記載のプロセスにより形成される印刷生成物。

【公開番号】特開2012−211327(P2012−211327A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−126698(P2012−126698)
【出願日】平成24年6月4日(2012.6.4)
【分割の表示】特願2008−507162(P2008−507162)の分割
【原出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(506397202)サン ケミカル ビー.ブイ. (11)
【Fターム(参考)】