説明

インクジェット用インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット及びインクジェット記録装置

【課題】 ワイピングを繰り返し行っても記録ヘッドの吐出口面の濡れの発生が抑制でき、記録ヘッドの耐久性を向上できるインクジェット用インクを提供すること。
【解決手段】 少なくとも、顔料及びグラフトポリマーを含有するインクジェット用インクであって、
前記グラフトポリマーを構成するユニットが、特定のポリシロキサン構造を有するユニット、特定のノニオン性ユニット及び塩生成基を有するユニットを含むことを特徴とするインクジェット用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色材として顔料を含有するインクジェット用インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方式により得られる記録物の耐候性や耐水性の観点から、色材として顔料を含有するインクについての検討が多くなされている。例えば、インクや画像に優れた性能を持たせるために、グラフトポリマーを含有するインクに関する提案が増えてきている。塩生成基含有モノマー、マクロマー、並びに、前記モノマー及び前記マクロマーと共重合可能なモノマーを含むモノマー混合物を共重合させてなるビニルポリマーで包含した顔料を含有するインクが開示されている(特許文献1参照)。また、親水性重合体セグメント、加水分解に安定なシロキシル置換基を有する疎水性重合体セグメント及び安定化セグメントを有するグラフトポリマーを含有するインクが開示されている(特許文献2参照)。
【0003】
インクジェット記録装置では、記録ヘッドからインクを吐出させて記録を行うため、常にインクを吐出可能な状態に保つ必要があり、記録ヘッドの吐出口を有する面に対するクリーニング操作(回復操作)が行われる。より詳細には、上記吐出口を有する面(吐出口面)に付着した紙粉や不要なインクなどが吐出を妨げ、インクが正常に吐出されないという問題に対して、付着物を除去するためにワイピングが行われる。可撓性を有するゴムなどで構成されたワイピングブレードを記録ヘッドの近傍に配置し、このワイピングブレードに接触させるように記録ヘッドを移動させることで、ワイピングブレードを吐出口面に摺接させ、付着物を拭い取る。ワイピングは、所定体積のインクが吐出された後など、所定の間隔で行われるが、ワイピングが繰り返し行われることで、付着物により吐出口面が徐々に削れていき、遂には吐出口面がインクで濡れるようになる。そして、吐出口面の濡れに起因して、インクの吐出安定性が低下するため、吐出口面が削れた記録ヘッドは新しいもの交換する必要が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第00/39226号パンフレット
【特許文献2】特開平9−188732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット記録方法の高速化は著しく、大量印刷が求められるビジネスなどの用途への拡大に伴い、ひとつの記録ヘッドによる記録可能枚数をこれまで以上に増加させる必要がある。このため、ワイピングによる吐出口面の削れへの対策は必須である。特に、環境負荷の観点からは、記録ヘッドの交換頻度を低減する必要があり、ワイピングによる吐出口面の削れを、インクにより抑制することが重要である。しかし、上記の特許文献1や2には、インクと、該インクと接触する記録ヘッドとの関係に着目した記載はなく、これまでのインクでは吐出口面の削れを抑制できていないのが現状である。
【0006】
したがって、本発明の目的は、ワイピングを繰り返し行っても記録ヘッドの吐出口面の濡れの発生が抑制でき、記録ヘッドの耐久性を向上できるインクジェット用インクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記インクジェット用インクを用いたインクカートリッジ、記録ユニット、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクジェット用インクは、少なくとも、顔料及びグラフトポリマーを含有するインクジェット用インクであって、前記グラフトポリマーを構成するユニットが、下記一般式(I)で表されるポリシロキサン構造を有するユニット、下記一般式(II)で表されるノニオン性ユニット及び塩生成基を有するユニットを含むことを特徴とする。
【0008】
一般式(I)
【0009】
【化1】

【0010】
(一般式(I)で表されるポリシロキサン構造を有するユニットの重量平均分子量は3,000以上である。一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1乃至6のアルキレン基であり、Rはそれぞれ独立にメチル基又はフェニル基であり、Rはフェニル基又は炭素数1乃至6のアルキル基であり、mはユニットの重量平均分子量が3,000以上となる数である。)
【0011】
一般式(II)
【0012】
【化2】

【0013】
(一般式(II)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rはエステル結合又はエーテル結合であり、xは3以上の整数である。ただし、Rがメチル基の場合、Rがエーテル結合となることはない。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、本発明の目的は、ワイピングを繰り返し行っても記録ヘッドの吐出口面の濡れの発生が抑制でき、記録ヘッドの耐久性を向上できるインクジェット用インクを提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、上記インクジェット用インクを用いたインクカートリッジ、記録ユニット、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インクジェット記録装置の主要部の一例を模式的に示す斜視図である。
【図2】クリーニング機構の一例を模式的に示す側面図である。
【図3】図2のクリーニング機構の動作を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、詳細に説明する。
【0017】
本発明のインクジェット用インク(以下、「インク」と呼ぶ)に含有させるグラフトポリマーは、下記一般式(I)で表されるポリシロキサン構造を有するユニット、下記一般式(II)で表されるノニオン性ユニット及び塩生成基を有するユニットを含む。
【0018】
一般式(I)
【0019】
【化3】

【0020】
(一般式(I)で表されるポリシロキサン構造を有するユニットの重量平均分子量は3,000以上である。一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1乃至6のアルキレン基であり、Rはそれぞれ独立にメチル基又はフェニル基であり、Rはフェニル基又は炭素数1乃至6のアルキル基であり、mはユニットの重量平均分子量が3,000以上となる数である。)
【0021】
一般式(II)
【0022】
【化4】

【0023】
(一般式(II)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rはエステル結合又はエーテル結合であり、xは3以上の整数である。ただし、Rがメチル基の場合、Rがエーテル結合となることはない。)
【0024】
本発明のインクによれば、インクジェット方式の記録ヘッドから連続して該インクを吐出させて記録を行っても、記録ヘッドの吐出口を有する面(以下、「吐出口面」と呼ぶ)の削れが抑制される。その結果、吐出口面の濡れも抑制され、優れた吐出安定性が維持される。このような効果は、グラフトポリマーに含まれる、上記ポリシロキサン構造を有するユニットが疎水性を有し、また、上記ノニオン性ユニット及び塩生成基を有するユニットが親水性を有するため、その構造が明確に機能分離されていることにより得られる。すなわち、上記の各ユニットは、それぞれ以下のような特性をグラフトポリマーに持たせる。先ず、一般式(I)で表されるポリシロキサン構造を有するユニットは分子量が3,000以上であり、疎水性が高いため、顔料やその他のポリマーよりも選択的に吐出口面に吸着する特性をグラフトポリマーに付与する。また、一般式(II)で表されるノニオン性ユニットは分子量が200以上であり、吐出口面においてインクが乾燥した際に生成する硬い塩を覆う特性をグラフトポリマーに付与する。さらに、塩生成基を有するユニットはインク中においてイオン性基と対イオンに解離し、該イオン性基は静電反発作用を有するため、インク中においてグラフトポリマーを3次元的に広げる特性をグラフトポリマーに付与する。
【0025】
機能分離された化合物を利用することで吐出口面の削れを抑制する構成としては、例えば、弾性を有するシリコーンオイルをインクに含有させることが考えられる。しかし、本発明者らの検討の結果、このような構成のインクでは吐出口面の削れを抑制する効果は小さかった。この理由を本発明者は以下のように推測している。すなわち、シリコーンオイルはポリシロキサン構造を有するユニットとノニオン性ユニットを含むが、カルボキシル基のような塩生成基を有するユニットを持たないため、イオン性基間の静電反発作用がなく、その分子構造は縮まった状態となっている。したがって、シリコーンオイルは、疎水性ユニット及び親水性ユニットが密接して存在する分子構造となるため、機能分離(疎水−親水)作用が弱くなる。そして、シリコーンオイルを含有するインクが吐出口面に付着したとき、該シリコーンオイルだけでなく、顔料やその分散ポリマーも共に吐出口面に吸着する。このような状態の吐出口面に対してワイピングを繰り返し行うと、弾性を有さない顔料やその分散ポリマーが吸着した部分においては、ワイピングによる衝撃を緩和できない。その結果、吐出口面の削れを引き起こし、吐出口面の濡れや吐出安定性の低下につながったものと推定している。
【0026】
そこで、本発明者らが、吐出口面の削れを抑制できる従来のインクの構成について種々の検討を行った結果、吐出口面の削れを抑制するためには、グラフトポリマーをインク中に含有させることが有効であることを見出した。さらに、前記グラフトポリマーとしては、上記一般式(I)で表されるポリシロキサン構造を有するユニット及び上記一般式(II)で表されるノニオン性ユニットを含む構造のグラフトポリマーが好適であることを見出した。本発明者らは、このような構成のグラフトポリマーを含有するインクにより吐出口面の削れが抑制される理由を以下のように推測している。
【0027】
上記グラフトポリマーを含有するインクを用いて連続して記録を行った場合、吐出口面やワイピングブレードに機能分離(疎水−親水)作用に優れるグラフトポリマーが選択的に吸着し、顔料などの吸着が妨げられる。そして、グラフトポリマーが弾性を有するため、ワイピングの衝撃を和らげる効果が発揮され、吐出口面の削れが抑制されるものと考えられる。また、一度記録を行った後に記録を行わない状態でインクジェット記録装置を一定期間放置し、その後再度記録を行う場合、吐出口面に付着して乾燥したグラフトポリマーの塩生成基を有するユニットが塩を生成する。そして、その塩をワイピングで擦ることで吐出口面の削れを発生させ得る。しかし、上記グラフトポリマーに含まれる上記ノニオン性ユニットは一般式(II)におけるxが3以上であり、ノニオン性を示す部位が大きいため、塩を十分に覆い、硬い塩が剥き出しの状態となることを防いでいる。その結果、長期記録停止後にワイピングを行っても、吐出口面の削れが抑制され、吐出口面の濡れも抑制され、記録ヘッドの耐久性を向上できる。
【0028】
[インクジェット用インク]
以下、本発明のインクを構成する各成分について説明する。
【0029】
<グラフトポリマー>
本発明のインクに用いるグラフトポリマーは、上記一般式(I)で表されるポリシロキサン構造を有するユニット、上記一般式(II)で表されるノニオン性ユニット及び塩生成基を有するユニットを含む。なお、本発明において、以下、「ユニット」と記載した場合には、ユニットを構成する繰り返し単位が1つ又は複数の場合のどちらも含むものとする。
【0030】
また、本発明におけるグラフトポリマーとは、「一本の幹ポリマー(主鎖)に枝ポリマー(側鎖)が結合した構造を有するポリマー」のことである。そして、あるポリマーの構造がグラフトポリマーとなっているか否かを判別する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーと多角度光散乱検出器とを組み合わせて、絶対分子量と分子サイズを測定することにより、あるポリマーの構造がグラフトポリマーとなっていることを判別することができる。具体的には、これらの方法により測定される絶対分子量と分子サイズの測定値が乖離すればするほど、そのポリマーは、分岐度が高いことを示しており、グラフトポリマーの形態をとっていると判断することができる。
【0031】
本発明において、インク中における上記グラフトポリマーの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下、さらには0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0032】
さらに、本発明において、上記グラフトポリマーの重量平均分子量が、20,000以上50,000以下であることが好ましい。重量平均分子量が20,000未満であると、グラフトポリマーの疎水性が不十分となり、吐出口面へ吸着しづらくなるため、吐出口面の削れが十分に抑制できず、吐出口面の濡れが発生する場合や、インクの吐出安定性が十分に得られない場合がある。一方、重量平均分子量が50,000より大きいと、インクの粘度が高くなるため、十分な吐出安定性が得られない場合がある。
【0033】
以下、本発明に用いる上記グラフトポリマーを構成する各ユニットについてより詳細に説明する。
【0034】
(ポリシロキサン構造を有するユニット)
本発明のインクに使用する上記グラフトポリマーを構成するポリシロキサン構造を有するユニットは、下記一般式(I)で表される構造を有し、ユニットの重量平均分子量が3,000以上のものである。下記一般式(I)で表されるポリシロキサン構造を有するユニットの重量平均分子量は、吐出口面の削れや、それにより生じる吐出口面の濡れ及び吐出安定性の低下を抑制するためには、3,000以上であることが必要である。このため、シロキサン基の繰り返し数mは、Rが全てメチル基である場合、mは38以上の整数、Rが全てフェニル基である場合、mは15以上の整数、Rがメチル基及びフェニル基の場合、mは24以上の整数とすることが好ましい。このような特定のポリシロキサン構造を有するユニットを有するグラフトポリマーは、機能分離(疎水−親水)作用を強く発揮するため、グラフトポリマーの疎水部が吐出口面に選択的に吸着し、吐出口面への顔料などの吸着を抑制する。そして、吸着したグラフトポリマーが弾性を有するため、ワイピングの衝撃を和らげる効果が発揮され、吐出口面の削れが抑制されるものと考えられる。一方、繰り返し数mが上記の範囲未満であると、十分な機能分離作用が発揮されないため吐出口面への顔料などの吸着を抑制できず、その結果、ワイピングの際に吐出口面の削れが生じ、吐出口面の濡れや吐出安定性が低下する。
【0035】
この一般式(I)で表されるユニットは、片方の末端に重合性を持つ官能基を有する、下記一般式(I’)で表される、重量平均分子量が3,000以上であるモノマーが共重合されたものである。さらには、本発明に用いるグラフトポリマーは、下記一般式(I’)で表されるモノマーのビニル基又はビニリデン基がグラフトポリマーの主鎖の一部となり、エステル結合からRまでの部分が分岐して側鎖となる構造であることが好ましい。また、本発明に用いる上記グラフトポリマーにおいて、ポリシロキサン構造を有するユニットは、1種又は2種以上を組み合わせて構成させてもよい。
【0036】
一般式(I)
【0037】
【化5】

【0038】
(一般式(I)で表されるポリシロキサン構造を有するユニットの重量平均分子量は3,000以上である。一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1乃至6のアルキレン基であり、Rはそれぞれ独立にメチル基又はフェニル基であり、Rはフェニル基又は炭素数1乃至6のアルキル基であり、mはユニットの重量平均分子量が3,000以上となる数である。)
【0039】
一般式(I’)
【0040】
【化6】

【0041】
(一般式(I’)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1乃至6のアルキレン基であり、Rはそれぞれ独立にメチル基又はフェニル基であり、Rはフェニル基又は炭素数1乃至6のアルキル基である。)
【0042】
また、本発明において、上記一般式(I’)で表されるモノマーとしては、例えば、サイラプレーンFM−0711、FM−0721、FM−0725(以上、チッソ製)などの市販品を用いることができる。
【0043】
本発明においては、上記グラフトポリマーの全質量を基準とした、上記ポリシロキサン構造を有するユニットが占める割合が、10.0質量%以上40.0質量%以下であることが好ましい。
【0044】
(ノニオン性ユニット)
本発明のインクに使用する上記グラフトポリマーを構成するノニオン性ユニットは、下記一般式(II)で表される構造を有するものである。この構造のノニオン性ユニットは、エチレンオキサイド基の繰り返し単位の数が3以上であり、片方の末端に重合性を持つ官能基を有する、下記一般式(II’)のモノマーが共重合されたものである。さらには、本発明に用いるグラフトポリマーは、下記一般式(II’)で表されるモノマーのビニル基又はビニリデン基がグラフトポリマーの主鎖の一部となり、エステル結合からRまでの部分が分岐して側鎖となる構造であることが好ましい。なお、一般式(II)におけるxの上限は12以下であることが好ましい。
【0045】
一般式(II)
【0046】
【化7】

【0047】
(一般式(II)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rはエステル結合又はエーテル結合であり、xは3以上の整数である。ただし、Rがメチル基の場合、Rがエーテル結合となることはない。)
【0048】
一般式(II’)
【0049】
【化8】

【0050】
(一般式(II’)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rはエステル結合又はエーテル結合であり、xは3以上の整数である。ただし、Rがメチル基の場合、Rがエーテル結合となることはない。)
【0051】
本発明においては、上記一般式(II)で表されるノニオン性ユニットにおける、エチレンオキサイド基の繰り返し数は3以上である、すなわち、上記一般式(II)におけるxが3以上であるものを用いることが必要である。上記一般式(II)におけるxが3未満であると、該グラフトポリマーを含有するインクが付着した吐出口面のワイピングを繰り返すことにより吐出口面が削れ、吐出口面の濡れが発生し、また、吐出安定性が低下する。本発明者らはこの現象が生じる理由を以下のように推定している。上述の通り、機能分離(疎水−親水)作用を有するグラフトポリマーは吐出口面に選択的に吸着し、顔料などの吸着を抑制する。連続して記録を行っている間のワイピングではこのようにして吐出口面に吸着したグラフトポリマーの弾性によりワイピングの衝撃が和らげられ、吐出口面の削れが抑制される。一方、一度記録を行った後に記録を行わない状態でインクジェット記録装置を一定期間放置し、その後再度記録を行う場合、吐出口面に付着して乾燥したグラフトポリマーの塩生成基を有するユニットが塩を生成する。この際、上記ノニオン性ユニットにおけるxが3未満であると、ノニオン性を示す部位が小さいため、塩を十分に覆うことができず、硬い塩が剥き出しの状態となる。その結果、この状態でワイピングが行われることで、吐出口面が削れ、それにより吐出口面の濡れや吐出安定性の低下が生じるものと考えられる。
【0052】
なお、グラフトポリマーに、一般式(II)で表されるノニオン性ユニットとは異なる構造の、エチレンオキサイド基を有するユニットをさらに含ませる場合には、該ユニットにおけるエチレンオキサイド基の繰り返し単位の数を3以上とすることが好ましい。この理由は上記で説明した一般式(II)で表されるノニオン性ユニットの場合と同様に、吐出口面の濡れが発生し、また、吐出安定性が低下する場合があるからである。
【0053】
上記一般式(II)で表されるノニオン性ユニットとしては、具体的には、(メタ)アクリレート系モノマーやビニルエーテル系モノマーが共重合されたものが挙げられる。また、本発明に用いる上記グラフトポリマーにおいて、上記ノニオン性ユニットは、1種又は2種以上を組み合わせて構成させてもよい。
【0054】
(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、メトキシジエチレングリコール−モノメタクリレート、メトキシジエチレングリコール−モノアクリレートなどが挙げられる。本発明において、これらのモノマーの中では、特に、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メトキシジエチレングリコール−モノメタクリレートを用いることが好ましい。(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、ブレンマー:PE−200、AE−200、PME−200(以上、日油製)などの市販品を用いることができる。また、ビニルエーテル系モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテルなどが挙げられる。
【0055】
本発明においては、上記一般式(I)で表されるポリシロキサン構造を有するユニットの占める割合が、上記一般式(II)で表されるノニオン性ユニットの占める割合に対して、質量比率で、0.7以上2.0以下であることが好ましい。なお、各ユニットの占める割合は、それぞれ上記グラフトポリマーの全質量を基準とした値である。上記質量比率が0.7未満であると、上記ノニオン性ユニットが占める割合が過剰となり、上記グラフトポリマーにおけるノニオン性を示す部分による立体障害の影響で、機能分離(疎水−親水)作用が不十分となる場合がある。このため、吐出口面への顔料などの吸着を十分に抑制できず、吐出口面の削れが抑制できない場合があり、したがって、吐出口面の濡れや吐出安定性の低下も抑制できない場合がある。一方、上記質量比率が2.0を越えると、上記グラフトポリマーにおけるノニオン性を示す部分の絶対量が少なくなり、インクが乾燥した際に吐出口面に吸着した塩の全てを覆うことができない場合がある。その結果、吐出口面の削れが抑制できない場合があり、したがって、吐出口面の濡れや吐出安定性の低下も抑制できない場合がある。
【0056】
また、本発明においては、上記グラフトポリマーの全質量を基準とした、上記一般式(II)で表されるノニオン性ユニットの占める割合が、10.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましい。
【0057】
(塩生成基を有するユニット)
本発明のインクに使用する上記グラフトポリマーを構成する塩生成基を有するユニットとしては、塩を生成するユニットであればいずれのものであってもよいが、本発明においては、塩生成基を有するユニットが、酸性基を有するユニットであることが好ましい。なお、塩生成基を有するユニットはグラフトポリマーの主鎖に含まれるようにする、すなわち、塩生成基を有するユニットが側鎖に含まれないようにすることが好ましい。これは、塩生成基を有するユニットが側鎖に含まれると、上記ポリシロキサン構造を有するユニットや上記ノニオン性ユニットの作用が抑制され、本発明の効果が十分に得られない場合があるためである。一方、塩生成基を有するユニットが主鎖に含まれると、上記ポリシロキサン構造を有するユニットや上記ノニオン性ユニットの作用が十分に発揮され、本発明の効果を十分に得ることができる。
【0058】
酸性基を有するユニットとしては、不飽和スルホン酸、不飽和カルボン酸、不飽和リン酸などやその無水物又は塩などのモノマーが共重合されたユニットが挙げられる。塩生成基を有するユニットとしては、具体的には、例えば、以下のモノマーが共重合したユニットが挙げられる。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸などの不飽和カルボン酸モノマー、スチレンスルホン酸、無水マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などの不飽和スルホン酸モノマー、ビニルホスホ酸などの不飽和リン酸モノマーや、これらの酸モノマーの無水物又は塩が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0059】
なお、インクジェット用のインクの色材として多用される顔料はアニオン性のポリマー分散剤で分散されたものであることが多い。このような顔料を含有するインクの安定性を考慮すると、グラフトポリマーを構成するユニットとしては、前記ポリマーと反応を生じ得るカチオン性モノマーに由来するユニットが含まれないことが好ましい。
【0060】
また、本発明においては、塩生成基を有するユニットが上記グラフトポリマーに占める割合は、グラフトポリマーの酸価により表すことができる。本発明においては、上記グラフトポリマーの酸価が、80mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が80mgKOH/g未満であると、上記グラフトポリマーを含有するインクを熱エネルギーを利用したインクジェット記録方法により吐出させる際に、吐出安定性が十分に得られない場合がある。一方、酸価が150mgKOH/gより大きいと、インクの粘度が高くなるため、吐出安定性が十分に得られない場合がある。
【0061】
(その他のユニット)
本発明のインクに用いる上記グラフトポリマーは、上記で説明した3種のユニットの他に、その他のユニットをさらに有してもよい。また、本発明においては、上記グラフトポリマーの主鎖にその他のユニットが含まれること、すなわち、その他のユニットが側鎖に含まれないようにすることが特に好ましい。
【0062】
その他のユニットとしては、不飽和スルホン酸、不飽和カルボン酸、不飽和リン酸などの不飽和の酸モノマーのエステルなどのモノマーが共重合されたユニットが挙げられる。また、本発明に用いる上記グラフトポリマーにおいて、上記のその他のユニットは、1種又は2種以上を組み合わせて構成させてもよい。
【0063】
その他のユニットとしては、具体的には、例えば、以下のモノマーが共重合したユニットが挙げられる。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸エステル、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル、ビニルホスフェート、ビス(メタアクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル−2−(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェートなど。これらの中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルが好ましい。
【0064】
(顔料)
本発明のインクには、分散剤を用いて顔料を分散する樹脂分散タイプの顔料(樹脂分散型顔料)や、顔料粒子の表面に親水性基を導入した自己分散タイプの顔料(自己分散型顔料)を用いることができる。また、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基を化学的に結合させた顔料(樹脂結合型自己分散顔料)、顔料の分散性を高めて分散剤などを用いることなく分散可能としたマイクロカプセル型顔料なども用いることができる。勿論、これらの分散方法の異なる顔料を組み合わせて用いてもよい。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0065】
本発明のインクにおいて使用することができる顔料は特に限定されず、従来公知の無機顔料や有機顔料をいずれも用いることができるが、本発明においては有機顔料を用いることが特に好ましい。
【0066】
(その他のポリマー)
本発明のインクには、上記グラフトポリマーとは異なるポリマーを1種又は2種以上含有させることができる。このようなポリマーは、顔料をインク中に分散させるための分散剤として、又は、その他の目的のために必要に応じてインクに含有させるものであり、水溶性を有するポリマーであればどのようなものでも用いることができる。
【0067】
具体的には、以下に挙げるようなモノマーやそれらの誘導体などから選ばれる少なくとも2つのモノマー(このうち少なくとも1つはアニオン性モノマー)から合成された、ブロック、ランダム、グラフトなどの形態の共重合体やその塩などが挙げられる。モノマーとしては、例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体、酢酸ビニルなどが挙げられる。また、ロジン、シェラック、デンプンなどの天然樹脂を好ましく使用することができる。顔料をインク中に分散させるためのポリマーは、アルカリ可溶型であることが好ましい。
【0068】
その他のポリマーは、その重量平均分子量が、1,000以上30,000以下、さらには3,000以上15,000以下のものであることが好ましく、また、その酸価が、100mgKOH/g以上300mgKOH/g以下のものであることが好ましい。また、インク中のその他のポリマーの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0069】
(水性媒体)
本発明のインクには、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。なお、この水溶性有機溶剤の含有量は、上記で説明した特定の水溶性有機化合物を含む含有量である。
【0070】
水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、以下に挙げるようなものを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。具体的には、例えば、以下の水溶性有機溶剤を用いることができる。1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのアルカンジオール類。ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテルなどのグリコールエーテル類。エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールなどの炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのカルボン酸アミド類。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オンなどのケトン類又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類。グリセリン。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエチレングリコール類。1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、平均分子量200乃至1,000のポリエチレングリコール、チオジグリコール、1,2,6−ヘキサントリオールなどのポリオール類。
【0071】
アセチレングリコール誘導体などのグリコール類。
【0072】
水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0073】
(その他の成分)
本発明のインクには、上記で説明した成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。インク中のこれらのような水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤をインクに含有させてもよい。
【0074】
<インクカートリッジ、記録ユニット、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置>
図1はインクジェット記録装置の主要部の一例を模式的に示す斜視図である。キャリッジ10は無端ベルト4に固定され、かつガイドシャフト3に沿って移動可能になっている。無端ベルト4は一対のプーリ503に巻回され、一方のプーリ503にはキャリッジ駆動モータ(不図示)の駆動軸が連結されている。したがって、キャリッジ10は、モータの回転駆動に伴いガイドシャフト3沿って図の左右方向に往復主走査される。キャリッジ10上には、インクを収容するインク収容部を有するインクカートリッジ2を着脱可能に保持する記録ヘッド1が搭載されている。なお、インクカートリッジは、インク収容部と記録ヘッドとが一体となった構成としてもよい。また、記録ヘッドの吐出口を有する面には、フッ素やシリコンで変性されたエポキシ樹脂などの撥水材を含む撥水層を形成し、
記録ヘッド1は、1種のインクを吐出する複数の吐出口で構成される吐出口列が記録媒体5と対向し、かつ前記吐出口列の配列方向が主走査方向と異なる方向(例えば、記録媒体5の搬送方向である副走査方向)に一致するようにキャリッジ10に搭載される。なお、吐出口列及びインクカートリッジ2の組は、搭載するインク種に対応した個数を設けることができ、図示の例では4色(例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアン)に対応して4組設けられている。
【0075】
記録媒体5は、キャリッジ10の走査方向と直交する方向に間欠的に搬送される。記録媒体5はその搬送方向の上流側及び下流側にそれぞれ設けた一対のローラユニット(不図示)により支持され、吐出口面に対する平坦性を確保した状態で搬送される。そして、キャリッジ10の移動に伴う記録ヘッド1の吐出口列の幅に対応した幅の記録と、記録媒体5の副走査方向への搬送とを交互に繰り返しながら、1ページの記録媒体5に対する記録が行われる。
【0076】
キャリッジ10は、記録開始前又は記録中に必要に応じてホームポジションで停止する。ホームポジション付近には、キャップや、ワイピングブレードを含むクリーニング機構6が設置されている。キャップは昇降可能に支持されており、上昇位置では記録ヘッド1の吐出口面をキャッピングし、非記録時などにおいてその保護を行うことや、又は吸引を行う。記録動作時には記録ヘッド1との干渉を避ける下降位置に設定され、また、吐出口面と対向することによって予備吐出を受けることが可能である。
【0077】
図2は、クリーニング機構の一例を模式的に示す側面図であり、図1の矢印方向から見たものである。このクリーニング機構は、上記で説明したインクを収容するインク収容部、インクを吐出する記録ヘッド及び記録ヘッドの吐出口を有する面をクリーニングするためのワイピングブレードを備えてなる記録ユニットの一部分をなすものである。ゴムなどの弾性部材で構成されるワイピングブレード7はホルダ8に固定されており、ホルダ8は、図の左右方向(記録ヘッド1の主走査方向と直交する方向、すなわち、吐出口が配列された方向)に移動可能である。吐出口面をクリーニングする際には、記録ヘッドをホームポジションに設定した後、ホルダ8を矢印方向に移動する。この移動の過程で、ワイピングブレード7が吐出口面9に摺接する。
【0078】
図3は、図2のクリーニング機構の動作を説明するための模式図である。ワイピングブレード7は屈曲してその側部又は先端部(エッジ)が吐出口面1に摺接し、吐出口面1に付着した顔料などの付着物12を掻き取って行き、吐出口面のクリーニングが行われる。本発明においては、複数枚のワイピングブレードを用い、付着物を効率的に掻き取る構成としてもよい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例、比較例及び参考例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、「部」又は「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0080】
<シリコーングラフトポリマーの合成>
以下の手順にしたがって、シリコーングラフトポリマーであるグラフトポリマー1〜12をそれぞれ合成した。なお、合成方法としては公知の重合方法を用いることができる。本実施例においては、グラフトポリマー1〜12は、以下の重合方法を用いてそれぞれ合成した。先ず、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えたフラスコに、下記表1及び2に示す組成で、各モノマーとアゾビスイソブチロニトリルを仕込み、溶媒として1−メトキシ−2−プロパノール500部を用いて、窒素ガス還流下、温度110℃で4時間重合反応を行った。このようにして得られた共重合体を含む溶液を減圧乾燥させて、共重合体を得た。得られた共重合体に、溶媒としてメチルエチルケトン25部を加えて溶解させた後、30%の水酸化カリウム水溶液2部を加えて共重合体の塩生成基の一部を中和し、さらにイオン交換水300部を加えて撹拌した。その後、減圧下、温度60℃で溶媒を除去し、さらに水の一部を除去することにより濃縮して、固形分濃度が20.0%の、グラフトポリマーの水溶液を得た。このようにしてそれぞれ得られたグラフトポリマー1〜12について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所製)と多角度光散乱検出器(昭工通商製)とを組み合わせて絶対分子量と分子サイズを測定した。その結果、絶対分子量と分子サイズの測定値は大きく乖離しており、グラフトポリマーの構造を有するものであることが確認できた。また、得られたグラフトポリマーの構造は、使用したモノマーの種類から、塩生成基を主鎖に含み、かつ、主鎖からポリシロキサン構造を有するユニットとノニオン性ユニットが分岐して側鎖となっている。
【0081】
なお、下記表1及び2中、(*1)〜(*5)はそれぞれ以下のモノマーを示す。
(*1):サイラプレーンFM−0721(チッソ製;前記一般式(I’)におけるRがメチル基、Rがプロピレン基、R及びRがメチル基であるモノマー、重量平均分子量約5,000)
(*2):サイラプレーンFM−0711(チッソ製;前記一般式(I’)におけるRがメチル基、Rがプロピレン基、R及びRがメチル基であるモノマー、重量平均分子量約1,000)
(*3):HEMA(製品名:日本触媒製;前記一般式(II’)におけるRが水素原子、Rがメチル基、Rがエステル結合、xが1であるノニオン性モノマー)
(*4):ブレンマーPME−100(製品名:日油製;前記一般式(II’)におけるR及びRがメチル基、Rがエステル結合、xが2であるノニオン性モノマー)
(*5):ブレンマーPME−200(製品名:日油製;前記一般式(II’)におけるR及びRがメチル基、Rがエステル結合、xが4であるノニオン性モノマー)
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
<顔料分散液の調製>
カーボンブラック10部、グリセリン6部、ポリマー(分散剤)10部及び水74部を、0.6mm径のジルコニアビーズの充填率を70%としたサンドミル(金田理化工業製)に仕込み、1,500rpmで5時間分散した。前記カーボンブラックとしては、比表面積が220m/g、DBP吸油量が130ml/100gのものを用いた。また、前記ポリマーとしては、スチレン、アクリル酸メチル及びアクリル酸の共重合比(質量比)が58:25:17、重量平均分子量が4,000、酸価が130mgKOH/gのランダム共重合体を用いた。なお、前記ポリマーは、予め、上記の酸価と当量の水酸化カリウムと水を加えて温度80℃で撹拌し、水溶液としたものを用いた。その後、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去し、さらに、顔料の含有量が2.5%、樹脂の含有量が2.5%となるように水を用いて濃度を調整し、顔料分散液1を得た。
【0085】
また、カーボンブラックに代えて、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントレッド122及びC.I.ピグメントイエロー128をそれぞれ用いたこと以外は顔料分散液1と同様にして、顔料分散液2、3及び4を調製した。顔料分散液2〜4はいずれも、顔料の含有量が2.5%、樹脂の含有量が2.5%であった。
【0086】
<インクの調製>
下記表3〜5の上段に示す組成(単位:%)で各成分を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズが1.2μmのポリプロピレンフィルター(ポール製)にて加圧ろ過を行い、実施例、比較例及び参考例のインクをそれぞれ調製した。なお、下記表3〜5中、グラフトポリマーは固形分としての含有量の値で示した。また、TSF4452、TSF4445及びTSF4446はいずれもGE東芝シリコーン製のシリコーンオイルであり、アセチレノールE100は川研ファインケミカル製の界面活性剤であり、ポリエチレングリコールは平均分子量600のものを使用した。
【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
【表5】

【0090】
<評価>
上記で得られた各インクをそれぞれインクカートリッジに充填し、得られたインクカートリッジをインクジェット記録装置(商品名:BJF900;キヤノン製)を改造したものに搭載して、以下の記録耐久性の試験を行った。この際の試験条件は、温度23℃、湿度55%で、A4サイズの記録媒体の全面に7.5%デューティでインクを付与するパターンを20,000枚分、連続して記録を行った。なお、記録に際して、正常なインクの吐出が可能な状態に保つために、吐出口面をクリーニングするためのワイピングをA4サイズ1枚分の記録ごとに1回行った。なお、上記の記録デューティは、1,200dpi×1,200dpiあたりに4.5ngのインクを付与する場合を100%デューティと定義した場合の値である。
【0091】
(吐出口面の濡れ)
上記の記録耐久性の試験において、12,000枚及び20,000枚の記録が終わった時点で、記録ヘッドを光学顕微鏡で観察し、吐出口面の濡れの状態を確認して評価を行った。吐出口面の濡れの評価基準は以下の通りである。評価結果を表6に示した。本発明においては、下記の評価基準でB以上が許容できる吐出口面の濡れのレベルとした。
A:吐出口面が濡れていなかった。
B:吐出口面の一部が濡れていた。
C:吐出口面の全体が濡れていた。
【0092】
(吐出安定性)
上記の記録耐久性の試験において、12,000枚及び20,000枚の記録が終わった時点で、BJF900のノズルチェックパターンを記録した。得られたノズルチェックパターンを目視で確認して、吐出安定性の評価を行った。吐出安定性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表6に示した。本発明においては、下記の評価基準でB以上が許容できる吐出安定性のレベルとした。
A:ノズルチェックパターンに乱れがなかった。
B:ノズルチェックパターンに若干の乱れがあったが、不吐出はなかった。
C:ノズルチェックパターンにはっきりした乱れがあり、不吐出があった。
【0093】
(吐出口面の削れ)
上記の記録耐久性の試験において、12,000枚及び20,000枚の記録が終わった時点で、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS;CAMECA製)を用いて吐出口面の撥水材の有無を確認し、吐出口面の削れの評価を行った。吐出口面の削れの評価基準は以下の通りである。評価結果を表6に示した。本発明においては、下記の評価基準でB以上が許容できる吐出口面の削れのレベルとした。
A:吐出口面の削れがなかった。
B:吐出口面が面積の50%以下の領域で削れていた。
C:吐出口面のほぼ全面で削れていた。
【0094】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、顔料及びグラフトポリマーを含有するインクジェット用インクであって、
前記グラフトポリマーを構成するユニットが、下記一般式(I)で表されるポリシロキサン構造を有するユニット、下記一般式(II)で表されるノニオン性ユニット及び塩生成基を有するユニットを含むことを特徴とするインクジェット用インク。
一般式(I)
【化1】


(一般式(I)で表されるポリシロキサン構造を有するユニットの重量平均分子量は3,000以上である。一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1乃至6のアルキレン基であり、Rはそれぞれ独立にメチル基又はフェニル基であり、Rはフェニル基又は炭素数1乃至6のアルキル基であり、mはユニットの重量平均分子量が3,000以上となる数である。)
一般式(II)
【化2】


(一般式(II)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rはエステル結合又はエーテル結合であり、xは3以上の整数である。ただし、Rがメチル基の場合、Rがエーテル結合となることはない。)
【請求項2】
前記グラフトポリマーの重量平均分子量が、20,000以上50,000以下である請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記グラフトポリマーの全質量を基準とした、前記一般式(I)で表されるポリシロキサン構造を有するユニットの占める割合が、前記一般式(II)で表されるノニオン性ユニットの占める割合に対して、質量比率で、0.7以上2.0以下である請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
インクをインクジェット方法で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記インクとして、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット用インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項5】
インクを収容するインク収容部を備えてなるインクカートリッジであって、
前記インク収容部に収容されているインクが、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項6】
インクを収容するインク収容部、インクを吐出する記録ヘッド及び記録ヘッドの吐出口を有する面をクリーニングするためのワイピングブレードを備えてなる記録ユニットであって、
前記インク収容部に収容されているインクが、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とする記録ユニット。
【請求項7】
インクを収容するインク収容部、インクを吐出する記録ヘッド及び記録ヘッドの吐出口を有する面をクリーニングするためのワイピングブレードを備えてなるインクジェット記録装置であって、
前記インク収容部に収容されているインクが、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−285477(P2010−285477A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138403(P2009−138403)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】