説明

インクジェット用記録紙

【課題】高度な作業性を必要とせず、単に水性インクのインクジェット記録方式により画像を形成するだけで、今までにない意匠性、即ち紗や絽のような薄絹を被せたような、ぼかしの風合いの意匠性を有する画像を形成し得るインクジェット用記録紙を提供すること。
【解決手段】 水性インクによるインクジェット記録可能なシートのインク受容面上に、繊度0.1〜4.0デシテックスの疎水性繊維が絡合した坪量5〜50g/m2 の表面層を積層したインクジェット用記録紙とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は意匠性を有する画像を形成しうるインクジェット用記録紙に関する。さらに詳しくは、本発明は、水性インクによるインクジェット方式により画像を形成した場合に、画像に、紗や絽のような薄絹を被せたような、ぼかしの風合いの意匠性を付与することのできる、記録紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、記録ヘッドに設けられた微小なジェットノズルから画像データに応じて、水性又は油性のインクの液滴を吐出させ、記録媒体に付着させて印字や画像形成を行う印刷方式である。
近年、インクジェット記録技術は革新的な進歩を遂げており、高光沢、高画質、且つ高保存性のインクジェット記録物が得られるようになっているが、更に、昨今のデジタルカメラの普及とあいまって、末端ユーザー側で画像に種々の意匠性を付与することを可能として、インクジェット記録技術の付加価値を高めたいとの要望も高まっている。
【0003】
従来、画像に意匠性を付与する方法としては、フィルターを工夫して撮影することによって画像自体に種々の意匠性を付与することは行われているが、普通の画像に意匠性を付与する方法としては、マット加工した記録紙を使用して「艶消し画像」とする方法、等が知られているに過ぎず、本発明のような意匠性を与える方法は知られていない。
【0004】
従来から、画像が形成された画像面上に、転写フィルムを使用する等の方法により樹脂層を形成し、画像を保護し、その光沢、画質、保存性を向上させることが行われており(例えば、特許文献1)、同様な方法により本発明の表面層のような層を設けることが考えられる。
しかし、現実には、そのような方法に使用し得る転写フィルムのようなものは知られていないし、又、本発明の表面層のような極めて薄い層を設けるには、高度な作業性が必要であると予想されるのであり、末端ユーザーがそれを行うことは到底不可能であろうと予想される。
【0005】
【特許文献1】特開2003−326826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、高度な作業性を必要とせず、単に水性インクによるインクジェット記録方式により画像を形成するだけで、今までにない意匠性を有する画像を形成し得るインクジェット用記録紙を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、水性インクによるインクジェット記録可能なシートのインク受容面上に、特定の繊度の疎水性繊維が絡合した特定の坪量の表面層を積層することによりその目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)水性インクによるインクジェット記録可能なシートのインク受容面上に、繊度0.1〜4.0デシテックスの疎水性繊維が絡合した坪量5〜50g/m2 の表面層を積層したことを特徴とするインクジェット用記録紙、
(2)疎水性繊維が、ポリエステル樹脂を含む繊維からなる上記(1)のインクジェット用記録紙、
(3)水性インクによるインクジェット記録可能なシートが、1層のインク受容層からなる上記(1)又は(2)のインクジェット用記録紙、
(4)インク受容層及び表面層を、抄き合わせにより積層してなる上記(3)のインクジェット用記録紙、
(5)水性インクによるインクジェット記録可能なシートが、支持層とインク受容層との積層体である上記(1)又は(2)のインクジェット用記録紙、及び
(6)支持層、インク受容層及び表面層を、抄き合わせにより積層してなる上記(5)のインクジェット用記録紙、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインク受容面上に表面層を有するインクジェット用記録紙は、水性インクによるインクジェット記録方式によって画像を印画した場合に、噴射された水性インクは疎水性繊維からなる表面層には殆ど留まらずにインク受容面に達して画像として定着するため、画像を表面層を通して見る形となり、今までにない優れた意匠性を有する画像を形成し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のインクジェット用記録紙において、表面層を形成するために使用する繊維は、疎水性繊維である。
このような疎水性繊維としては、ポリビニルアルコール等の親水基を有する樹脂の繊維を除いて、合成樹脂繊維の多くが使用可能である。
好ましい疎水性合成樹脂繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル等のアクリル樹脂、ポリアミド樹脂等からなる繊維を挙げることができる。また、ポリプロピレンが芯部に、その回りに鞘部としてポリエチレンが被覆された芯鞘構造を有する複合繊維も使用でき、また、例えばクラレ株式会社から「WRAMP」の商品名で発売されている、ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂とを交互に貼りあわせた構造を持つ複合繊維も使用することができる。
中でも、ポリエステル繊維や前記ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂との複合繊維などのポリエステル樹脂を含む繊維が抄紙性の点で好ましく用いられる。
【0011】
疎水性繊維の繊度は、形成した画像に前記した意匠性を付与するためには、0.1〜4.0デシテックスであることが必要であり、0.1デシテックス未満では意匠性効果が乏しくなり、4.0デシテックスを超えると、記録された画像が不明瞭となる。繊度の好ましい範囲は、0.2〜3.0デシテックスである。
疎水性繊維の繊維長は、1〜20mmが好ましく、特に2〜10mmが好ましい。
表面層は、上記のような繊度の疎水性繊維が絡合したものであるが、その坪量は、形成した画像に意匠性を付与するためには、5〜50g/m2 であることが必要であり、5g/m2 未満では意匠性効果が乏しくなりとなり、50g/m2 を超えると、記録された画像が不明瞭となる。坪量の好ましい範囲は、8〜40g/m2 である。
【0012】
本発明のインクジェット用記録紙で得られる意匠性は、前記したように、紗や絽のような薄絹を被せたような、ぼかしの風合いの意匠性であるが、そのようなぼかしの風合いの中でも、表面層における疎水性繊維の繊度と坪量の組み合わせによって風合いが微妙に異なるものであり、求められる意匠性に応じて上記の範囲内での繊維の繊度と坪量との組み合わせを選択するのが好ましい。
【0013】
表面層を積層する対象である、水性インクによるインクジェット記録可能なシートとしては、特に制約はなく、通常に使用される水性インク用インクジェット記録用シートの何れもが使用可能であり、それ自身が水性インクによるインクジェット記録可能な1層からなるシートや、支持層の上にインク受容層を設けたシートであってよい。
【0014】
図1は、本発明のインクジェット用記録紙の1例を示す断面図であり、支持層1とインク受容層2とからなる水性インクによるインクジェット記録可能なシート3のインク受容面上に表面層4が積層されているが、上記のように、水性インクによるインクジェット記録可能なシート3は、それ自身が水性インクによるインクジェット記録可能な1層からなるシートであってもよい。
【0015】
この「それ自身が水性インクによるインクジェット記録可能な1層からなるシート」としては、セルロースパルプのスラリーより抄造した紙が好ましい。
セルロースパルプとしては、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ等の木材パルプ、マニラ麻パルプ、サイザル麻パルプ、亜麻パルプ等の非木材パルプ、およびそれらのパルプに化学変性を施したパルプ等の製紙用天然繊維が挙げられる。これらセルロースパルプに必要に応じて填料やインク定着剤、サイズ剤、紙力増強剤等の薬品を加えて抄造した紙が好適である。
填料は、記録性(印刷性)、表面平滑性、白色性、インク吸収性等を高めるため使用するものであり、カオリン、焼成クレー、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ(二酸化珪素)等を使用するのが好ましい。
上記のシートとしては、通常、坪量50〜200g/m2 のものが用いられる。
【0016】
また、「支持層の上にインク受容層を設けたシート」としては、支持層上に、填料とパルプとからなる層を積層したものや填料とバインダー樹脂とからなる、いわゆるコート層を設けたものが好適である。
この場合の支持層としては、シート状のものであればよく、特に限定されるものではなく、上質紙、アート紙などの紙、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリル樹脂などからなるプラスチックフィルム、等の種々のものが使用可能であるが、表面層及びインク受容層との抄き合わせを可能とするためには、紙又は不織布、特に針葉樹パルプ、広葉樹パルプ等の木材パルプ、マニラ麻パルプ、サイザル麻パルプ、亜麻パルプ等の非木材パルプ、およびそれらのパルプに化学変性を施したパルプ等の製紙用天然繊維を使用し、必要に応じて前記した填料、染料、湿潤強力剤等を加えて抄造した紙が好適である。
支持層としては、紙は通常坪量50〜200g/m2 のものが、不織布は通常坪量50〜200g/m2 のものが、プラスチックフィルムは通常厚さ10〜100μmのものが、各々用いられる。
【0017】
支持層上に設けるインク受容層としては、填料とパルプとからなる層を設ける場合の填料及びパルプは、特に限定されるものではなく、通常水性インク用インクジェット用記録紙に使用されるものの何れもが使用可能であるが、シリカ(二酸化珪素)、カオリン、焼成クレー、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、炭酸カルシウム等の填料と、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ等の木材パルプ、マニラ麻パルプ、サイザル麻パルプ、亜麻パルプ等の非木材パルプ、およびそれらのパルプに化学変性を施したパルプ等の製紙用天然パルプを使用するのが好適である。
配合割合としては、通常パルプ100質量部に対して填料20〜150質量部である。なお、填料とパルプの他に、必要に応じて、インク定着剤などの薬品を配合してもよい。 また、填料、パルプ及び必要に応じて配合される薬品からなるインク受容層は、通常支持層上に10〜60g/m2 の量で設けられる。
【0018】
また、支持層上に設けるインク受容層としては、填料とバインダー樹脂とからなる層を設ける場合の填料及びバインダー樹脂は、特に限定されるものではなく、通常水性インク用インクジェット用記録紙に使用されるものの何れもが使用可能であるが、シリカ(二酸化珪素)、カオリン、焼成クレー、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、炭酸カルシウム等の填料と、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ゼラチン、ポリビニルアセタール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエステル、ウレタン樹脂、塩素化ポリプロピレン及びこれらの共重体等のバインダー樹脂を使用するのが好適である。
配合割合としては、通常填料100質量部に対してバインダー樹脂20〜150質量部である。なお、填料とバインダー樹脂の他に、必要に応じて、インク定着剤などの薬品を配合してもよい。
填料、バインダー樹脂及び必要に応じて配合される薬品からなるインク受容層は、支持層上にブレードコーター、バーコーター、ロールコーター、サイズプレスなどを使用して塗布、乾燥され通常3〜30μmの厚さに設けられる。
【0019】
本発明の、インクジェット用記録紙を製造する方法、即ち各層の積層方法は、種々の方法が採用し得るが、抄き合わせにより全ての層を形成・積層するのが、作業性の点から好ましい。その意味では、水性インクによるインクジェット記録可能なシートとして、それ自身が水性インクによるインクジェット記録可能な1層の紙からなるシート、又は紙からなる支持層上に填料とパルプとからなるインク受容層を設けたシートを用い、表面層を含めた全ての層をウエット状態(未乾燥状態)で積層し、その積層体を乾燥させる抄き合わせにより形成するのが、最も好ましい。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
以下の記載中「部」及び「%」は、特に断らない限り、「質量部」及び「質量%」を意味する。
尚、意匠性は、次の方法で画像を印画し、目視により評価した。
プリンター:キャノン社製の水性インクジェットプリンター(機種名:PIXUS 950i)
インク:水性フォト6色
用紙選択:普通紙
印刷品質:標準
画像:JIS高精細カラーディジタル標準画像(JIS X9204)NIRGB、TIF
【0021】
実施例1
ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂とを交互に貼りあわせた構造を持つ複合繊維〔クラレ社製、商品名:WRAMP、繊維の繊度:2.2デシテックス、繊維の長さ5mm〕を水中に入れて繊維を分散させ、1質量%のスラリーを作成した。このスラリーから角型シートマシンにて繊維をシート化し、第1層(表面層)とした。
シリカ粉末(水沢化学工業社製、商品名:ミズカシルP−78A)30部と木材パルプ(N−BKP 120ml CSF)70部を水中で混合し、4%スラリーを作成し、更に湿潤紙力剤(日本PMC社製、商品名:WS−574)を木材パルプに対し1%相当量添加し、紙料とした。この紙料から角型シートマシンにて繊維をシート化し、第2層(インク受容層)とした。
【0022】
上記により得られた層を抄き合わし、下から順にインク受容層、表面層の2層構造のシートとし、シリンダードライヤーで乾燥して、本発明のインクジェット用記録紙を得た。 得られた記録紙につき、意匠性(ぼかしの風合い)を評価したところ、第1表に記載した如くであった。
尚、記録紙における各層の坪量は、各々、次の如くであった。
表面層:10g/m2 インク受容層:130g/m2
【0023】
実施例2
ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂とを交互に貼りあわせた構造を持つ複合繊維〔クラレ社製、商品名:WRAMP、繊維の繊度:2.2デシテックス、繊維の長さ5mm〕を水中に入れて繊維を分散させ、1質量%のスラリーを作成した。このスラリーから角型シートマシンにて繊維をシート化し、第1層(表面層)とした。
シリカ粉末(水沢化学工業社製、商品名:ミズカシルP−78A)30部と木材パルプ(N−BKP 120ml CSF)70部を水中で混合し、4%スラリーを作成し、更に湿潤紙力剤(日本PMC社製、商品名:WS−574)を木材パルプに対し1%相当量添加し、紙料とした。この紙料から角型シートマシンにて繊維をシート化し、第2層(インク受容層)とした。
填料としての水酸化アルミニウム粉末(住友化学社製、 商品名:C−303)15部と木材パルプ(L−BKP 500ml CSF)85部を水中で混合し、4%スラリーを作成し、更に湿潤紙力剤(日本PMC社製、商品名:WS−574)を木材パルプに対し1%相当量添加し、紙料とした。この紙料から角型シートマシンにて繊維をシート化し、第3層(支持層)とした。
【0024】
上記により得られた層を抄き合わし、下から順に支持層、インク受容層、表面層の3層構造のシートとし、シリンダードライヤーで乾燥して、本発明のインクジェット用記録紙を得た。
得られた記録紙につき、意匠性(ぼかしの風合い)を評価したところ、第1表に記載した如くであった。
尚、記録紙における各層の坪量は、各々、次の如くであった。
表面層:10g/m2 インク受容層:30g/m2 支持層:100g/m2
【0025】
実施例3〜5
第1層(表面層)に使用する繊維の種類(材質)、繊度及び長さ並びに第1層の坪量を第1表に記載する如くに変えた以外は、実施例2と全く同様に実施し、本発明のインクジェット用記録紙を得た。
得られたインクジェット用記録紙につき、意匠性を評価したところ、第1表に記載した如くであった。
【0026】
【表1】

【0027】
但し 複合繊維:ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂とを交互に貼りあわせた 構造を持つ繊維 PET:ポリエチレンテレフタレート
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のインクジェット用記録紙は、高度な作業性を必要とせず、単に水性インクのインクジェット記録方式により画像を形成するだけで、今までにない意匠性を有する画像を形成し得るので、昨今のデジタルカメラの普及も相俟って、特に写真愛好家の使用が期待できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のインクジェット用記録紙の1例を示す断面図
【符号の説明】
【0030】
1 支持層
2 インク受容層
3 水性インクによるインクジェット記録可能なシート
4 表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インクによるインクジェット記録可能なシートのインク受容面上に、繊度0.1〜4.0デシテックスの疎水性繊維が絡合した坪量5〜50g/m2 の表面層を積層したことを特徴とするインクジェット用記録紙。
【請求項2】
疎水性繊維が、ポリエステル樹脂を含む繊維からなる請求項1に記載のインクジェット用記録紙。
【請求項3】
水性インクによるインクジェット記録可能なシートが、1層のインク受容層からなる請求項1又は2に記載のインクジェット用記録紙。
【請求項4】
インク受容層及び表面層を、抄き合わせにより積層してなる請求項3に記載のインクジェット用記録紙。
【請求項5】
水性インクによるインクジェット記録可能なシートが、支持層とインク受容層との積層体である請求項1又は2に記載のインクジェット用記録紙。
【請求項6】
支持層、インク受容層及び表面層を、抄き合わせにより積層してなる請求項5に記載のインクジェット用記録紙。

【図1】
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【公開番号】特開2006−43959(P2006−43959A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225787(P2004−225787)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】