説明

インクジェット記録システムおよび記録装置

【課題】ニッケルやクロムを含有する合金を用いて構成された液滴吐出ヘッドを用いるインクジェット記録方式において、ヘッドを構成する部材から溶出する金属イオンによる吐出安定性の低下を抑制し、長期にわたり高精度かつ安定した吐出を行うことができるインクジェット記録システムを提供することにある。
【解決手段】インクジェット記録システムは、使用するインクがテトラアザシクロアルカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸を金属イオン捕捉剤として含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピエゾ方式のインクジェット記録方法に適し、吐出安定性を維持することのできるインクジェット記録システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録技術は目覚しく進歩しており、高精細な極めて写真に近似した画像が得られるようになった。このインクジェット記録方式では、電圧印加により変形する圧電素子を用いて微細ノズルからインクを吐出させるピエゾ方式等により、数色のインクジェット記録用インクを、数ピコリットル〜数十ピコリットルという微小液滴として選択的に紙面上に着弾させることにより画像を形成する。この方式の長所は、微小液滴の吐出を制御することにより、高い印画品質を得ることができる点であり、数ピコリットルの微小インク液滴を微小径の吐出ノズルから高精度で紙面上に着弾させることにより、フルカラーに近い色再現、及び、粒状感のない画像形成が可能となる。
微小径の吐出ノズルから微小インク液滴を安定して吐出するためには、目詰まりを生じないことが重要であり、調製後にインク中のゴミ及び不純物が精密濾過により除去されたインクジェット記録用インクを使用する必要がある。
【0003】
しかし、インク供給経路に、クロム、亜鉛、ニッケル又はそれらを含有する合金からなる金属部材を有するインクジェットヘッドにおいて、インクジェット記録用水性インクが長期間使用された場合には、長期にわたるインクジェット記録用水性インクとの接触により、金属部材が腐食されたり、金属部材を構成する金属がイオンとなって溶出したりするため、金属酸化物が生成する。また、着色剤が染料である場合には、金属イオンと染料とが不溶性無機塩を形成して、本来とは異なる色相を呈したり、また析出物となるといった問題が生じる。また、色剤が非水溶性の顔料である場合には、インク調製時に顔料粒子の粒子径を制御していても金属イオンにより顔料粒子の凝集、析出が生じたりするため、フィルター及びノズルにおいて目詰まりが発生し、長期にわたり高精度かつ安定して吐出を行うことができないという問題があった。
【0004】
これに対して、特許文献1には、インクジェット記録用インクに防錆剤として安息香酸を添加する技術が開示され、特許文献2には、インクジェット記録用インクに防腐防黴剤として安息香酸ナトリウムを添加する技術が開示されている。
また、特許文献3には、インクと接するニッケル、リン酸化処理ニッケル等を用いた部分の腐食を防止するために、ホットメルト型インクに、アジン系着色剤と金属腐食防止用リン化合物とを含有させる技術、特許文献4には、p−tert−ブチル安息香酸カリウムをインクに添加し、ニッケル合金やニッケル表面に保護膜を形成することによって、金属イオンの溶出を抑制する技術、特許文献5には防錆剤として、1,2,3−ベンゾトリアゾール系化合物を添加したインクが開示されている。
しかし、これらのインクジェット記録用インクを用いても、プリントヘッド内でのインクの詰まりを抑制するには充分とは言い難い。
【特許文献1】特開2001−287455号公報
【特許文献2】特公平7−122044号公報
【特許文献3】特開平11−116865号公報
【特許文献4】特開2004−131559号公報
【特許文献5】特開2006−28486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ニッケルやクロムを含有する合金を用いて構成された液滴吐出ヘッドを用いるインクジェット記録方式において、ヘッドを構成する部材から溶出する金属イオンによる吐出安定性の低下を抑制し、長期にわたり高精度かつ安定した吐出を行うことができるインクジェット記録システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、金属イオン捕捉剤として、テトラアザシクロアルカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸を含んだ水系インクを用いることにより、インクジェット記録ヘッドを構成する部材から溶出する金属イオンによる吐出安定性の低下を抑制し、長期にわたり高精度かつ安定した吐出を行うことができるインクジェット記録システムを実現できるという新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のインクジェット記録システムおよびそれを用いた記録装置は、以下の構成を有する。
(1)ノズルが設けられた加圧室の壁面の一部が圧電素子で形成され、前記圧電素子を作動・変形させて前記加圧室の中のインクに圧力波を作用させて、前記ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録システムであって、前記インクが、テトラアザシクロアルカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸を金属イオン捕捉剤として含むことを特徴とするインクジェット記録システム。
(2)前記テトラアザシクロアルカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸は、1,4,7,10‐テトラアザシクロドデカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸(DOTA)、1,5,9,13‐テトラアザシクロヘキサデカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸(HETA)、1,4,7,10‐テトラアザシクロトリデカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸(TRITA)、および1,4,8,11‐テトラアザシクロテトラデカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸(TETA)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)に記載のインクジェット記録システム。
(3)前記インクは、前記金属イオン捕捉剤を0.01重量%以上を含んでいることを特徴とする(1)または(2)に記載のインクジェット記録システム。
(4)前記インクは、グリセリンを10重量%以上、2‐ピロリドンを5重量%以上を含み、前記インク中の遊離多価金属イオン総量が100ppm以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のインクジェット記録システム。
(5)前記インクジェット記録ヘッドは、複数のドット形成部からなり、該ドット形成部は前記加圧室とそれに連通する前記ノズルを有し、前記加圧室は基板と内部に共通電極が形成された前記圧電素子とから構成されており、前記圧電素子に駆動電圧を印加するための個別電極が前記圧電素子の前記加圧室に対向する位置に配設されていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のインクジェット記録システム。
(6)少なくとも、着色剤および溶剤からなり、さらにテトラアザシクロアルカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸を金属イオン捕捉剤として含むことを特徴とするインクジェット記録システム用のインク。
(7)(1)〜(5)のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドはノズルを500個以上有し、前記記録ヘッドを記録媒体の搬送方向に対して直交する水平方向に2個以上配置してなるインクジェット記録システムを用いたことを特徴とする記録装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ニッケルやクロムを含有する合金を用いて構成された液滴吐出ヘッドを用いるインクジェット記録方式において、使用するインクはテトラアザシクロアルカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸を金属イオン捕捉剤として含むので、ヘッドを構成する部材から溶出する金属イオンによる吐出安定性の低下を抑制し、長期にわたり高精度かつ安定した吐出を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明に係るインクジェット記録システムについて詳細に説明をする。
本発明のインクジェット記録システムは、ノズルが設けられた加圧室の壁面の一部が圧電素子で形成され、この圧電素子を作動・変形させて前記加圧室の中のインクに圧力波を作用させて、前記ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドを備えており、前記インクは金属イオン捕捉剤としてテトラアザシクロアルカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸を含有する。前記テトラアザシクロアルカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸は、少なくとも下記式で表される1,4,7,10‐テトラアザシクロドデカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸(DOTA)、1,5,9,13‐テトラアザシクロヘキサデカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸(HETA)、1,4,7,10‐テトラアザシクロトリデカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸(TRITA)、1,4,8,11‐テトラアザシクロテトラデカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸(TETA)のいずれか1種であるのが好ましい。前記金属イオン捕捉剤は好ましくは0.01重量%以上含有するのがよい。また、前記インクは、好ましくはグリセリンを10重量%以上、2−ピロリドンを5重量%以上含有し、前記インク中の遊離金属イオン量が100ppm以下の記録用水系インクを用いるのが好ましい。
【化1】

【0010】
圧電素子の加圧室の一部がインクと接するように構成されたインクジェット記録ヘッド(以下で、プリントヘッドともいう。)は、長期間使用する際、経時において、インク中に浮遊する金属イオンが圧電素子表面上で析出し、圧電素子の撓み振動を弱める。即ち、インク中の遊離多価金属イオン量が100ppm以上であると、金属イオンが圧電素子表面上で析出しやすくなり、そのため、本来、インク中に伝播されるはずの圧力波の強度が弱くなり、撓み振動が低下する。
これら多価金属イオンは、インクを構成する成分やプリントヘッドの構成部材によって還元される結果、インク流路内での金属イオンによる流路閉塞に加えて、圧電素子表面への付着により、更に一層吐出安定性が低下するといった問題が生じている。そのため、これら遊離金属イオンの活性を低減させるために、有機配位子を利用して安定な錯塩を形成させる必要がある。
なお、多価金属イオンとは、ニッケル、クロム、亜鉛、鉄、カルシウム、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、鉛をいう。これらの金属イオンは、原子吸光定量分析およびICP定性分析によって容易に測定することができる。
【0011】
従来、上記有機配位子としては、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DPTA)などの鎖状キレート配位子を用いて、金属イオンをキレートする方法が知られている。
しかし、これらの配位子は鎖状であるため、金属の配位力は充分でなく、或る遊離金属イオンと金属錯塩を形成したとしても、より配位結合力の強い金属イオンと接触すると、交換反応を生じてしまうため、効率的に遊離金属イオンを集積させることができない。
また、EDTA、DPTAの無水物を用いた場合には、金属イオンとの配位子であるカルボン酸部分の一部が、インク流路内の壁面や圧電素子表面との結合に使用されるため、二官能性キレート配位子を用いる方法に比べて、金属との配位力が低下する。
そこでより強い金属捕捉能を有する二官能性キレート配位子として、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイテイ(J. Am. Chem. Soc., 1988, 110, 6266)、ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイテイ・ケミカル・コミュニケーション[J. Chem. Soc., Chem. Commun., 794, 797 (1989), 1739 (1990)]に記載されている大環状キレート配位子を挙げることができる。
【0012】
本発明に係るインクは、上記したテトラアザシクロアルカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸、中でも特に上記式で表されるDOTA、HETA、TRITA、TETAから選ばれる少なくとも1種のキレート配位子を金属イオン捕捉剤として用いる。該キレート配位子からなる金属イオン捕捉剤は、ナトリウムイオンやカリウムイオン等の軽金属イオンと比較して、比較的大きなイオン半径を有するニッケル、クロム、亜鉛などの重金属イオンからインク流路壁や圧電素子表面を保護する効果と、これら遊離金属イオンを捕捉する効果を有する。
【0013】
即ち、前記金属イオン捕捉剤は、立体的に大きな環状構造を有するため、カルシウム、銅、亜鉛、クロム、ニッケル、マンガン、チタン、ジルコニウム、鉛などの多くの金属イオンとエントロピー的に有利にキレートを形成する。また、これら捕捉剤は、分子内にカルボキシル基を有するため、圧電素子表面やインク流路壁と弱い結合を形成できる。更に、立体的に大きいので、圧電素子表面やインク流路壁への金属イオンの接近を阻害することができる。これらの理由によって、プリントヘッドを構成する金属部材から溶出する金属イオンが圧電素子に付着することによる圧力波の強度の低下を抑制することができる。
【0014】
前記金属イオン捕捉剤の添加量の適正値は0.005〜1重量%である。0.005重量%以下ではキレート効果が低く、1重量%を超えるとキレート効果が頭打ちであり、記録用インク中の顔料粒子の分散安定性が悪くなる傾向になる。より好ましい添加量は0.01〜0.3重量%である。
【0015】
本発明に係るインクは、グリセリンを10重量%以上、好ましくは10〜20重量%含有するのがよい。グリセリンが10重量%以上であると、待機時におけるノズルの乾燥を低減することができる。また、2−ピロリドンを5重量%以上、好ましくは5〜15重量%含有するのがよい。2−ピロリドンが5重量%以上であると、インクを吐出する際の間欠吐出性(発一性)を向上させることができる。さらに、これらの成分を含むことによって、間欠印字性能が一層向上する。
【0016】
(インク)
本発明におけるインクは、少なくとも、水、着色剤、水溶性有機溶剤、界面活性剤からなり、その他に必要に応じてpH調整剤、防腐防カビ剤等を添加することができる。
【0017】
着色剤としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料等の染料および顔料のいずれも用いることができる。本発明においては、耐水性および耐光性等の点から好ましくは顔料を用いるのがよい。
有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、キナクリドン系、金属錯体系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ベリレン系、イソインドレノン系、アニリンブラック、アゾメチン系の各顔料が挙げられる。無機顔料としては、ローダミンBレーキ顔料、カーボンブラック等が挙げられる。例えば、三菱化学株式会社製のカーボンブラックとして、♯20B、♯40、MA100などが挙げられる。デグサ社製のカーボンブラックとして、カラーブラックFW18、カラーブラックS170、スペシャルブラック250等が挙げられる。コロンビアカーボン社製のカーボンブラックとして、コンダクテックスSC、ラーベン1255などが挙げられる。キャボット社製のカーボンブラックとして、モナーク700、モナーク880、エルフテックス12などが挙げられる。
更に、水性媒体に不溶であれば、油溶染料、分散染料等を用いることもできる。具体的には、黄色系としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、15、16、17、65、83が挙げられる。また、赤色系としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、49、50、51、52、53、55、60、64、83、87、88、89、90、112、114、123、163等が挙げられる。青色系としては、C.I.ピグメントブルー2、3、15、16、22、25等が挙げられる。
【0018】
顔料をインク溶媒中に分散させるために顔料分散剤としてアルカリ可溶性樹脂を用いることができる。アルカリ可溶性樹脂としては、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸―(メタ)アクリル酸エステル(C1〜C4程度の低級アルキルエステル、以下同様)共重合体、メタクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−メチルスチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル−マレイン酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル−マレイン酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル−スチレンスルホン酸共重合体、スチレン−メタクリルスルホン酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル−アリルスルホン酸共重合体などのアクリル樹脂が挙げられる。その他、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂なども使用し得る。特に、酸価が50〜350で且つ平均分子量が2,000〜20,000であるアルカリ可溶性樹脂が好適に使用される。
アルカリ可溶性樹脂の中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物やエタノールアミン、プロパノールアミン、メチルエタノールアミン等のアルコールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、各種の脂肪族アミンなどが挙げられる。
【0019】
顔料の分散方法としては、ボールミル、サンドミル、ロールミル、アジテータ、超音波ホモジナイザー、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等を用いることができる。
本発明の顔料分散体は、分散時での異物やゴミ、粗大粒子等を除去するために遠心分離装置を使用したり、フィルターをして濾過することも好ましく行われる。
【0020】
本発明における顔料粒子の平均粒径は、30〜300nmが好ましく、さらに好ましくは50〜150nmである。前記平均粒径は、例えば動的光散乱式粒径分布測定装置(HORIBA社製、LB−550)を用いて計測することができる。
【0021】
本発明においては、表面張力の調節のために非イオン性界面活性剤を含有させることができる。かかるノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエリレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。
【0022】
本発明においてインクに使用される水性媒体としては水(好ましくは精製水)が使用されるが、当該水には水溶性有機溶剤を添加するのが好ましい。水溶性有機溶剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコ―ル、テトラエチレングルコール等のグリコール類;グリセリン;ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ジエチルカルビトール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールのエーテル類;アセテート類;チオジグリコール;N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素化合物類;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0023】
(インクの調製)
次に、記録用インクの調製法について説明する。本発明のインクは、水性媒体中に少なくとも有機顔料とアルカリ可溶性樹脂から成る顔料分散剤とその中和剤とを分散させ、得られた分散液を水性媒体で希釈することにより得られる。
分散処理及び希釈は従来公知の方法に従って行うことが出来る。上記の分散処理で使用する分散機としては、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル等の分散機が挙げられる。これらの中では、高速度のサンドミルが好ましく、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、ビーズミル、アジテータミル、グレンミル、ダイノミル、パールミル、コボルミル(何れも商品名)等が好適に使用される。得られた高濃度の分散液は、通常2〜10重量倍に希釈されて所望の濃度の記録用インクとされる。
【0024】
記録用インクにおける前記各成分の割合の一例を挙げる。すなわち、有機顔料の割合は、インク全量に対し、通常1〜10重量%、好ましくは3〜8重量%、顔料分散剤の割合は、有機顔料100重量部に対し、通常5〜40重量部、好ましくは15〜30重量部、ノニオン系界面活性剤の割合は、インク全量に対し、通常0.05〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%、水溶性有機溶剤の割合は、インク全量に対し、通常1〜40重量%、好ましくは3〜30重量%である。
【0025】
(金属イオン量の調整)
製造時において記録用インク中に遊離する金属イオン量は、公知の方法で調整することができる。例えば、陽イオン交換樹脂(弱酸性陽イオン交換樹脂、強酸性陽イオン交換樹脂)としては、多価金属イオンを除去し得る限りその種類は制限されず、市販品の中から適宜選択することが出来る。具体的には、「DIAION WK 10」、「DIAION WK 11」、「DIAION WK 20」、「DIAION PA 406」、「DIAION PA 408」、「DIAION PA 412」、「DIAION PA 416」、「DIAION PA 418」、「DIAION PK 208」、「DIAION PK212」、「DIAION PK 216」、「DIAION PK 220」、「DIAION PK 228」(三菱化学株式会社製)、「アンバーライト IR−118H」、「アンバーライト IR−120B」、「アンバーライト IR−122」、「アンバーライト IR−124」、「アンバーライト252」、「アンバーライト 201CT」、「アンバーライト 200C」、「アンバーライト IRC−50」、「アンバーライト IRC−84」(オルガノ社製)が挙げられる。
また、本発明のインクジェット記録システムにおいて使用するインクは、必要に応じ、陰イオン交換樹脂(弱塩基性陰イオン交換樹脂、中塩基性陰イオン交換樹脂、強塩基性陰イオン交換樹脂)による処理を併用しても良い。この場合、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂による処理は、任意の順序で行うことが出来、また、両者の混合樹脂で処理しても良い。
【0026】
使用する陰イオン交換樹脂は市販品の中から適宜選択することが出来、その具体例としては、「DIAION WA 10」、「DIAION WA11」、「DIAION WA 20」、「DIAION WA 21」、「DIAION WA 30」、「DIAION PA 406」、「DIAIONPA 408」、「DIAION PA 412」、「DIAION PA416」、「DIAION PA 418」、「DIAION PA 306」、「DIAION PA 308」、「DIAION PA 312」、「DIAION PA 316」、「DIAION PA 318」、「DIAIONSA 10A」、「DIAION SA 11A」、「DIAION SA12A」、「DIAION SA 20A」、「DIAION SA 21A」(三菱化学株式会社製)、「アンバーライト IRA−400T」、「アンバーライト IRA−430」、「アンバーライト IRA−458」、「アンバーライト IRA−458」、「アンバーライト IRA−900」、「アンバーライト IRA−904」、「アンバーライト IRA−938」、「アンバーライト IRA−958」、「アンバーライト IRA−410」、「アンバーライト IRA−411」、「アンバーライト IRA−910」、「アンバーライト IRA−68」、「アンバーライト IRA−35」、「アンバーライト IRA−93」(オルガノ社製)が挙げられる。
上記のイオン交換樹脂による処理は、イオン交換処理塔やカラム装置に通過させる方法、イオン交換樹脂との単なる機械的な混合と攪拌、その他の任意の方法を採用することが出来る。
【0027】
(インクジェット記録ヘッド)
本発明のインクジェット記録ヘッドの一例において、図1に積層圧電素子8と個別電極9とを含む圧電アクチュエータを取り付ける前の状態を示す。
図の例におけるインクジェット記録ヘッドは、1枚の基板1上に、加圧室2とそれに連通するノズル3とを含むドット形成部を複数個、配列したものである。
また図2(a)は、上記例のインクジェット記録ヘッドにおいて、圧電アクチュエータを取り付けた状態での、1つのドット形成部を拡大して示す断面図、図2(b)は1つのドット形成部を構成する各部の重なり状態を示す透視図である。図3は図2(a)のノズル3付近の拡大図である。
【0028】
ドット形成部のノズル3は、図1に白矢印で示す主走査方向(記録媒体の搬送方向)に複数列並んでいる。図の例では4列に並んでおり、同一列内のドット形成部間のピッチは150dpiであって、インクジェット記録ヘッドの全体として600dpiを実現している。
各ドット形成部は、基板1の、図2(a)において上面側に形成した、矩形部の幅方向の中央部に中心を有し、径が幅長さと等しく、かつ水平断面形状が半円形である端部を前記矩形部の長手方向の両端に備えた、平板形状を有する加圧室2と、上記基板1の下面側の、加圧室2の一端側の端部の半円と中心が同じで円錐台形のノズル3とを、前記端部の半円と中心が同じで同径の円柱形のノズル流路4を介して連通させると共に、上記加圧室2の他端側の端部の半円と中心が同じである円柱形の供給口5を介して、加圧室2を、基板1内に、各ドット形成部と連通させるように形成した共通流路6に繋ぐ構成となっている。
【0029】
上記各部は、図の例では、加圧室2を形成した第1基板1aと、ノズル流路4の上部4aと供給口5とを形成した第2基板1bと、ノズル流路4の下部4bと共通流路6とを形成した第3基板1cと、ノズルプレートとしての、ノズル3を形成した第4基板1dとを、この順に積層し、一体化することで形成してある。
またノズル3は、図3に示すように、インク滴吐出側の先端の開口30を、基板1の下面側である第4基板1dの下側の表面1eに円形に形成してある。それと共にノズル3は、この先端側の開口30が、加圧室2側の開口31よりも小さくなるように、テーパー状(円錐状)に形成してある。
【0030】
第1基板1aと第2基板1bには、図1に示すように、第3基板1cに形成した共通流路6を、基板1の上面側で、インクカートリッジ(図示しない)からの配管と接続するためのジョイント部11を構成するための通孔11aを形成してある。さらに各基板1a〜1dは、例えば樹脂や金属などからなり、フォトリソグラフ法を利用したエッチングなどによって上記各部となる通孔を設けた、所定の厚みを有する板状体にて形成してある。
【0031】
基板1の上面側には、該基板1とほぼ同じ大きさであり、共通電極7をその内部に有する、平面形状かつ横振動モードの薄板状の積層圧電素子8と、各ドット形成部の加圧室2の中央部と重なる位置に個別に設けた、略矩形状の同じ平面形状を有する個別電極9とを、この順に積層することで圧電アクチュエータACを構成してある。
【0032】
共通電極7、個別電極9は、共に金、銀、白金、銅、アルミニウムなどの導電性に優れた金属の箔や、これらの金属からなるめっき被膜、真空蒸着被膜などで形成してある。
【0033】
圧電素子8を形成する圧電材料としては、例えばジルコン酸チタン酸鉛(PZT)や、当該PZTにランタン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガンなどの酸化物の1種または2種以上を添加したもの、例えばPLZTなどの、PZT系の圧電材料を挙げることができる。また、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、ニッケルニオブ酸鉛(PNN)、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、チタン酸鉛、チタン酸バリウムなどを主要成分とするものを挙げることもできる。
【0034】
圧電素子8は、例えば上記の圧電材料を焼結して形成した焼結体を薄板状に研磨した所定の平面形状を有するチップを、所定の位置に接着、固定したり、いわゆるゾル−ゲル法(またはMOD法)によって、圧電材料のもとになる有機金属化合物から形成したペーストを所定の平面形状に印刷し、乾燥、仮焼成、焼成の工程を経て形成したり、あるいは反応性スパッタリング法、反応性真空蒸着法、反応性イオンプレーティング法などの気相成長法によって、圧電材料の薄膜を所定の平面形状に形成したりすることによって、形成することができる。
【0035】
圧電素子8を、例えば横振動モードとして駆動するためには、圧電材料の分極方向を、前記圧電素子8の厚み方向、より詳しくは個別電極9から共通電極7に向かう方向に配向させる。そのためには、例えば高温分極法、室温分極法、交流電界重畳法、電界冷却法などの従来公知の分極法を採用することができる。また、分極後の圧電素子8をエージング処理してもよい。
【0036】
圧電材料の分極方向を上記の方向に配向させた圧電素子8は、共通電極7を接地した状態で、個別電極9から正の駆動電圧を印加することによって、分極方向と直交する面内で収縮する。このため、撓みが発生する際の力が加圧室2内のインクに圧力波として伝えられ、この圧力波によって、供給口5、加圧室2、ノズル流路4、およびノズル3内のインクが振動を起こす。そして振動の速度が、結果的にノズル3の外に向かうことによって、ノズル3内のインクメニスカスが、インク滴吐出側の先端の開口30から外部へと押し出されて、インク柱が形成される。振動の速度は、やがてノズル内方向に向かうが、インク柱はそのまま外方向に運動を続けるため、インクメニスカスから切り離されて1〜2滴程度のインク滴にまとまり、それが紙面の方向に飛翔して、紙面にドットを形成する。
【0037】
インク滴が飛翔して減少した分のインクは、ノズル3内のインクメニスカスの表面張力によって、インクカートリッジから、当該インクカートリッジの配管、ジョイント部11、共通流路6、供給口5、加圧室2、およびノズル流路4を介してノズル3に再充填される。
【0038】
基板1の下面側である第4基板1dの下側の表面1eには、前記のように、所定の平面形状を有する撥水処理されない領域A1を、ノズル3のインク滴吐出側の先端の、円形の開口30と重ねて設けてある。すなわち、この領域A1を除くそれ以外の表面1eに撥水層12を積層して撥水処理すると共に、領域A1内は撥水層12を形成せずに、第4基板1dの表面を露出させて、撥水処理されていない状態としてある。
【0039】
撥水層12の厚みは、特に限定されないが、0.5〜2μmであるのが好ましい。撥水層12の厚みがこの範囲未満では、撥水性が低下して、インクの付着によるインク滴の吐出不良を生じるおそれがある。また、膜厚が2μmを超える撥水層12は膜形成が容易でない上、形成できたとしても、それ以上の効果が得られないおそれがある。
【0040】
本発明のインクジェット記録ヘッドは、ドット形成の直前に加圧室2の容量を拡大させる方向に圧電素子8を変形させることで、ノズル内のインクメニスカスを引き込み、その後、加圧室2の容量を縮小させる方向に圧電素子8を変形させることで、インク滴をインクメニスカスから分離させて吐出させる引き打ち式、およびドット形成時に、加圧室2の容量を縮小させる方向に圧電素子8を変形させることで、ノズル3内のインクメニスカスを押し出し、次いで、加圧室2の容量を拡大させる方向に圧電素子を変形させることで、インクメニスカスを引き込んで、インク滴をインクメニスカスから分離させて吐出させる押し打ち式のいずれの駆動方法によって駆動しても良い。
【0041】
本発明の記録装置は、高速プリントを達成するため、前記記録ヘッドがノズル数を500個以上、好ましくは1000〜3000個有し、またその駆動周波数が15kHz以上であり、かつ前記記録ヘッドが記録媒体の搬送方向に対して垂直でかつ水平方向に2個以上、好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜4個繋げてなるのがよい。また記録媒体の幅以上に複数個繋げることによって、ラインヘッドとしても使用することができる。
インクジェット記録ヘッドへのインクの初期充填においては、図1に示すように、インクは、インクカートリッジ(図示しない)からの配管とこの配管を接続するためのジョイント部11との間に、ポンプ(図示しない)を配置しジョイント部11を介して、前記記録ヘッドに供給が行われる。ポンプは、チューブポンプやギヤポンプ、電磁ポンプなど目的に合わせて使用することができる。
【0042】
カラープリントをする場合には、インクは記録ヘッドと組み合わせて、多色セットを形成し、通常はイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色を含むインクセットを形成し、これらをセットとして、本発明のインク及び記録ヘッドを組み合わせた記録装置とすることが好ましい。
【0043】
(圧電素子の製造方法)
まず、原料として、純度99%以上のチタン酸ジルコン酸鉛を含有する圧電セラミックス粉末、チタン酸鉛を含有する圧電セラミックス粉末、またはチタン酸バリウムを含有する圧電セラミックス粉末に、水系バインダーとしてブチルメタクリレート、分散剤にポリカルボン酸アンモニウム塩、溶剤にイソプロピルアルコールと純水を各々添加して混合し、このスラリーをドクタープレード法によりキャリアフィルム上に、厚さ30μmのシート形状に成形してグリーンシートをそれぞれ作製する。
【0044】
次に、銀を80%体積以上含む平均粒径が0.3〜5μmの銀パラジウム合金を含有する内部電極用の導体ペーストを調合し、この導体ペーストに、共材として上記圧電セラミックス粉末と同組成のものを添加する。これらの銀パラジウム合金と共材とは、別々に有機バインダー及び有機溶剤を含むビヒクルで混合し、その後に両者を充分に混練して、導体ペーストを作製する。得られた導体ペーストを、グリーンシートの表面に印刷し、内部電極層を形成する。更に、内部電極層が印刷された面を上向きにして、その上に内部電極ペーストを印刷しないグリーンシートを積層して積層成形体を作製し、この積層成形体を加圧プレスした後、脱脂処理し、900〜1000℃で、酸素99%以上の雰囲気中で4時間保持して焼成する。ついで、この焼結体の一方の表面に複数の表面電極9を形成する。表面電極9は、スクリーン印刷にてAuペーストを塗布する。これを600〜800℃にて大気中で焼付けて形成し、最後に、表面電極9にリード線を半田で接続して、図4に示すような形状の積層圧電素子が得られる。
【0045】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明のインクジェット記録システムおよび記録装置をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中、「部」および「%」はいずれも重量基準である。
【0046】
[実施例1]
(インクジェット記録ヘッドの作製)
図1および図2(a)、(b)に示す構造を有し、なおかつ加圧室2の面積が0.2mm2、幅が2200μm、深さが100μm、ノズル流路4の直径が200μm、長さが800μm、供給口5の直径が30μm、長さが40μm、ノズル3の長さが30μm、インク吐出側の開口30および加圧室2側の開口31の形状がそれぞれ半径10μmおよび20μmの円形であると共に、この各部位から構成されるドット形成部が1列あたり166個、全体(4列)で664個のドット形成部が基板1上に配列されたインクジェット記録ヘッドを用いた。
同一列内のドット形成部間のピッチは150dpiとし、また隣り合う各列を1/2ピッチずつずらすことで、全体として600dpiとした。
【0047】
(インクの調製)
サンドミルに表1に記載の成分を入れて分散処理し、得られた分散液40部に、グリセリン9部、イオン交換水45部を添加した後に遠心分離処理して粗大粒子を除去し、更に、グリセリン9部、イオン交換水86部添加した。次いで、上記で得られた分散液に3%相当量の陽イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製「DIAION PK212」)を添加し、常温で1時間撹拌処理し、2−ピロリドンを10部、サーフィノール465を1部、DOTAを0.06部添加した。
【0048】
[実施例2]
実施例1と同様のインクジェット記録システムを用い、インクを下記のように調製した。
サンドミルに表1に記載の成分を入れて分散処理し、得られた分散液40部に、グリセリン14部、イオン交換水40部を添加した後に遠心分離処理して粗大粒子を除去し、更に、グリセリン14部、イオン交換水81部添加した。次いで、上記で得られた分散液に3%相当量の陽イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製「DIAION PK212」)を添加し、常温で1時間撹拌処理し、2−ピロリドンを10部、サーフィノール465を1部、HETAを0.01部添加した。
【0049】
[実施例3]
実施例1と同様のインクジェット記録システムを用い、インクを下記のように調製した。
サンドミルに表1に記載の成分を入れて分散処理し、得られた分散液40部に、グリセリン14部、イオン交換水40部を添加した後に遠心分離処理して粗大粒子を除去し、更に、グリセリン14部、イオン交換水70部添加した。次いで、上記で得られた分散液に3%相当量の陽イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製「DIAION PK212」)を添加し、常温で1時間撹拌処理し、2−ピロリドンを20部、サーフィノール465を1部、TRITAを0.01部添加した。
【0050】
[実施例4]
実施例1と同様のインクジェット記録システムを用い、インクを下記のように調製した。
サンドミルに表1に記載の成分を入れて分散処理し、得られた分散液40部に、グリセリン14部、イオン交換水40部を添加した後に遠心分離処理して粗大粒子を除去し、更に、グリセリン14部、イオン交換水70部添加した。次いで、上記で得られた分散液に2%相当量の陽イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製「DIAION PK212」)を添加し、常温で1時間撹拌処理し、2−ピロリドンを20部、サーフィノール465を1部、HETEを0.01部添加した。
【0051】
[比較例1]
イオン交換樹脂による接触と金属イオン捕捉剤の添加を省略した以外は、実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0052】
[比較例2]
比較例1のインクに、金属イオン捕捉剤としてテトラエチレンジアミン・4酢酸(EDTA)を添加した以外は比較例1と同様にしてインクを調製した。
【0053】
[比較例3]
金属イオン捕捉剤として、DOTAの代わりにEDTAを添加した以外は実施例1と同様にしてインクを調製した。
【表1】

【0054】
(評価方法)
前記で得られたインクおよびインジェット記録ヘッド、そしてこれらを搭載した記録装置を用いて、インク液滴を連続的に吐出させ、吐出状態を調べた。評価は、以下のようにして行った。すなわち、表2に示す実施例1〜4、および比較例1〜3のインクのいずれかをピエゾ方式の圧電素子が組み込まれたライン型インクジェット記録ヘッドに、インクタンクからギヤポンプを使用し圧力200kPaで加圧充填し、駆動電圧18V、駆動周波数15kHzで吐出させて評価した。
【0055】
(吐出安定性評価)
前記インクジェット記録ヘッドに、インクを充填し、初期評価として全ノズルからインクが吐出するのを確認した後、1週間の放置と印字(即ち、1週間おきの印字)を6ヶ月行なった。結果を表2に示した。
評価基準は、下記に示すとおりである。
◎:6ヶ月後において、着弾ずれや不吐出は確認されなかった。
○:6ヶ月後において、不吐出は全くなく、着弾ずれは僅かにあったがヘッドクリーニングを行なうことによりによって容易に回復した。
△:6ヶ月後において、不吐出及び曲がりが僅かにあり、ヘッドクリーニングを行なったが回復しなかった。
×:6ヶ月後において、不吐出及び曲がりが多数あり、ヘッドクリーニングを行なったが回復しなかった。
【0056】
(保存安定性評価)
実施例1〜4及び比較例1〜3の記録用インクを60℃に設定した恒温槽内で1ヶ月の間、静置保存した後の顔料粒子の粒径変化を400倍透過顕微鏡で観察し、評価した。結果を表2に示した。
評価基準は、下記に示すとおりである。
○:1ヶ月で粒径に変化無し。
△:1ヶ月で若干粒径変化が観察された。
×:1ヶ月で明らかに粒径が大きくなった。
【表2】

【0057】
(金属イオン濃度)
金属イオン濃度は、原子吸光分析装置[(株)日立ハイテクノロジーズ社製Z−2000]及びICP発光分析装置[(株)島津製作所製ICPE-9000]を用いて測定した。
【0058】
(評価結果)
本発明に係る金属イオン捕捉剤を0.01重量%以上含み、且つ2−ピロリドンを5重量%以上、グリセリンを10重量%以上含み、遊離多価金属イオン総量が102ppm以下である、本発明のインクを用いた実施例1〜4では、吐出安定性および保存安定性はともに良好であった。
しかし、遊離金属イオン量が100ppm以上で、金属イオン捕捉剤を添加しなかった比較例1のインクと、インク中の金属イオン量が100ppm以上で、金属イオン捕捉剤として、EDTAを添加した比較例2のインクは、長期放置の間に、金属イオンの影響によって、顔料粒子径が大きくなったため、ノズルでの目詰まりが生じ、吐出安定性が好ましくなかった。また、比較例3のインクについては、インク中の遊離金属イオン量は100ppm以下であるが、金属イオン捕捉剤として、EDTAを使用した結果、実施例1〜4のインクと比較して、吐出安定性および保存安定性が劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る圧電インクジェット記録ヘッドの実施の形態を示す平面図である。
【図2】(a)は本発明に係る圧電インクジェット記録ヘッドの一部拡大縦断面図、(b)は(a)の底面図ある。
【図3】図2(a)のノズル部分の拡大図である。
【図4】本発明に係る積層圧電素子の縦断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 基板
2 加圧室
3 ノズル
4 インク流路
5 供給口
6 共通流路
7 共通電極
8 圧電素子
9 個別電極
11 ジョイント部
12 撥水層
30 開口
A1 領域
AC 圧電アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルが設けられた加圧室の壁面の一部が圧電素子で形成され、前記圧電素子を作動・変形させて前記加圧室の中のインクに圧力波を作用させて、前記ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録システムであって、前記インクが、テトラアザシクロアルカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸を金属イオン捕捉剤として含むことを特徴とするインクジェット記録システム。
【請求項2】
前記テトラアザシクロアルカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸は、1,4,7,10‐テトラアザシクロドデカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸(DOTA)、1,5,9,13‐テトラアザシクロヘキサデカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸(HETA)、1,4,7,10‐テトラアザシクロトリデカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸(TRITA)、および1,4,8,11‐テトラアザシクロテトラデカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸(TETA)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録システム。
【請求項3】
前記インクは、前記金属イオン捕捉剤を0.01重量%以上を含んでいることを特徴とする請求項1または2記載のインクジェット記録システム。
【請求項4】
前記インクは、グリセリンを10重量%以上、2‐ピロリドンを5重量%以上を含み、前記インク中の遊離多価金属イオン総量が100ppm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録システム。
【請求項5】
前記インクジェット記録ヘッドは、複数のドット形成部からなり、該ドット形成部は前記加圧室とそれに連通する前記ノズルを有し、前記加圧室は基板と内部に共通電極が形成された前記圧電素子とから構成されており、前記圧電素子に駆動電圧を印加するための個別電極が前記圧電素子の前記加圧室に対向する位置に配設されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録システム。
【請求項6】
少なくとも、着色剤および溶剤からなり、さらにテトラアザシクロアルカン‐N,N',N'',N'''‐四酢酸を金属イオン捕捉剤として含むことを特徴とするインクジェット記録システム用のインク。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドはノズルを500個以上有し、前記記録ヘッドを記録媒体の搬送方向に対して直交する水平方向に2個以上配置してなるインクジェット記録システムを用いたことを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−144081(P2008−144081A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335004(P2006−335004)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】