インクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録ヘッドの制御方法
【課題】親水溝の内部に進入したインクミストやウエット液を効率的に除去し、吐出動作の信頼性を向上する。
【解決手段】複数の吐出口8が配列されてなる吐出口列9が、記録用紙に対して相対的に移動する方向に複数列設けられる。吐出口列9の間の位置には、凹状をなす親水溝10が吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成され、親水溝10の内部に発熱素子11が設けられる。
【解決手段】複数の吐出口8が配列されてなる吐出口列9が、記録用紙に対して相対的に移動する方向に複数列設けられる。吐出口列9の間の位置には、凹状をなす親水溝10が吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成され、親水溝10の内部に発熱素子11が設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば記録用紙等の被記録材に対してインク等の液滴を吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録ヘッドの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータやワードプロセッサ等のOA機器が広く普及している現在、これら機器で入力した情報を種々の被記録材に記録するために、様々な記録装置及び記録方法が開発されている。特にOA機器では、その情報処理能力の向上に伴って処理する映像情報などがカラー化される傾向にあり、処理情報を出力する記録装置にあってもカラー化が進んでいる。カラー画像を記録可能な記録装置としては、コスト及び機能などに応じて様々なものがあり、比較的単純な機能を有する安価なものから、記録すべき画像の種類や使用目的などに応じて記録速度や画質などを選択可能な多機能なものまで、種々存在している。
【0003】
また、インクジェット記録装置は、低騒音、低ランニングコスト、小型化が可能であり、また記録画像のカラー化が容易であるため、プリンタ、複写機、ファクシミリ等に広く利用されている。一般に、カラーインクジェット記録装置は、シアン、マゼンタ、イエローの3色のカラーインク、又は、これら3色のインクに黒色を更に加えた4色のインクを使用してカラー画像の記録を行う。また、従来のインクジェット記録装置では、インクが滲まずに高発色のカラー画像を記録するために、被記録材として、インク吸収層を有する専用紙を使用するのが一般的であった。現在では、インクを改良することで、プリンタや複写機等で大量に使用される「普通紙」に対して記録適性を持たせたインクも実用化されている。
【0004】
また、インクジェット記録装置においては、複数色のインクを用いてカラー記録などを行うための記録手段として、記録に使用する各インク色に対応するノズル郡が配設されたインクジェット記録ヘッドが用いられる。この記録ヘッドは、ノズルを構成する吐出口からインクの吐出が可能であり、複数の吐出口列を有して構成されている。このような構成では、特許文献1に開示されているように、インク滴の吐出に伴って発生した微小なインクミストが気流によって流れ、記録用紙の紙面に対向するフェイス面にインクミストが付着して、フェイス面が濡れて記録不良を招く現象がある。
【特許文献1】特開2006−103320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インクジェット記録装置では、インクジェット記録ヘッドで使用するインクとして顔料インクを用いる場合や、インクジェット記録ヘッドのフェイス面に付着したインクの除去性能を向上させるためにウエットワイプ方式を採用する場合がある。このような場合には、以下のような、記録を行う際に想定していなかった現象が発生した。
【0006】
従来は、染料インクを使用していたが、記録された記録用紙、いわゆるプリント物の耐候性の向上を図るために、使用するインクを染料インクから顔料インクへ変更して検討を行った。具体的には、記録用紙に連続して記録を行ったときに、フェイス面の濡れによる記録不良が発生するか否かの検討を行った。
【0007】
特許文献1には、記録動作時に生じた微小なインクミストが気流によって付着する、内面が親水性を有する溝(以下、親水溝と呼ぶ)の構成が開示されている。この構成では、インクミストが親水溝の内部に進入して付着したときに、この付着したインクが親水溝の内部で局所的に溜まることなく、親水溝の内部全体にわたって広がる。これによって、親水溝の内部に付着したインクが親水溝から溢れることが抑制されている。
【0008】
しかしながら、顔料インクは、染料インクと比較してインクの粘度が高く、かつ蒸発したときに流動性が急激に低下するので、付着したインクミストが親水溝の内部に沿って広がり難い傾向がある。また、吐出口列の長手方向の中央部には、インクミストが比較的集中し易い傾向がある。このため、吐出口列の長手方向の中央部に付着したインクミストが親水溝の内部に広がらずに局所的に集中することで、付着したインクが親水溝を越えて溢れ、吐出口にまで到達する現象が発生するという新たな課題が生じた。
【0009】
また、顔料粒子等をフェイス面から除去する性能を向上させるために、ワイパーにグリセリン等の溶剤を保持させた状態でフェイス面をワイピングするウエットワイプ方式がある。一般に、ワイプ機構は、記録動作や回復動作に伴ってインクジェット記録ヘッドのフェイス面にインクが残留したときに、記録ヘッドのフェイス面をワイパー151によって拭き取ってインクを除去するための機構である。特に、ウエットワイプ機構は、図15(a)に示すように、ワイパー151とフェイス面とが当たる面にグリセリン等を主成分とするウエット液150を付着させた状態でワイピングを行うものである。このようにすることにで、ウエット液150がフェイス面への顔料粒子の付着が抑制され、顔料インクの除去性が向上される。
【0010】
しかしながら、図15(b)に示すように、平滑なフェイス面をワイピングするのではなく、図15(c)に示すように、親水溝110が設けられたフェイス面をワイピングする場合には、ウエット液150が親水溝110内に入り込んでしまう。その結果、ウエットワイプ方式を採るインクジェット記録装置では、ウエット液150が親水溝110の内部に溜まることによって、親水溝110によってインクミストを保持できる保持量が低下してしまうという新たな課題も生じた。
【0011】
さらに、ロール紙に連続的な記録を行う場合には、記録動作中に記録ヘッドの吸引回復動作やワイピング動作を行ったときに、インクを重ねる時間が長くなってしまう。このために、連続して記録した領域と、吸引回復によって中断した後に記録した領域とでは、濃度差が生じてしまう不都合がある。このような濃度差が発生するのを避けるために、ロール紙に記録する場合には、記録動作中に吸引回復やワイピング動作を行うことなく連続記録を行う必要があり、従来の想定以上にフェイス面の濡れやインク滴の不吐の発生を抑制する必要がある。
【0012】
そこで、本発明は、上述した課題を解決し、顔料インクやウエットワイプ方式を採用する記録装置であっても、安定した吐出状態を維持することができるインクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録ヘッドの制御方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、ロール紙に記録するときにおいても、インク滴の不吐、ヨレの発生を抑えることができるインクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録ヘッドの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するため、本発明に係るインクジェット記録ヘッドは、被記録材に対して相対的に移動しながら吐出口から被記録材にインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッドであって、複数の吐出口が配列されてなる吐出口列が相対的に移動する方向に複数列設けられる。そして、吐出口列の間の位置には、内部が親水性を有する凹状の溝が吐出口列の長手方向に沿って連続的に形成され、溝の内部に発熱素子が設けられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溝の内部に発熱素子が設けられることによって、顔料インクやウエットワイプ方式を採用する記録装置であっても、吐出動作の信頼性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
なお、以下の各実施形態において用いられる寸法、数値等は一例を示したものであり、これらに限定されるものではない。また、以下の説明では、同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付与し、その説明を省略する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1に、本実施形態のインクジェット記録装置の概観を示す斜視図を示す。
【0018】
実施形態のインクジェット記録装置100は、インクジェット記録ヘッドが搭載されるキャリッジ111と、キャリッジ111を走査移動させるキャリッジ駆動モータ112が設けられている。そして、インクジェット記録装置100が備える制御部(不図示)から電気信号をインクジェット記録ヘッドに送るためのフレキシブルケーブル113と、インクジェット記録ヘッドの回復処理を行なうための回復処理部114とを備えている。また、インクジェット記録装置100は、被記録材としての記録用紙が積層された状態で蓄える給紙トレイ115と、キャリッジ111の位置を光学的に読み取る光学式位置センサ116とを備えている。また、インクジェット記録装置100は、記録が行われて、排出された記録用紙を保持する排紙トレイ117を備えている。
【0019】
以上のように構成されるインクジェット記録装置100は、キャリッジ111を記録用紙の搬送方向(副走査方向)と直交する主走査方向にシリアルスキャンさせる。キャリッジ111が移動することによって、インクジェット記録ヘッドが記録用紙に対して移動される。そして、インクジェット記録ヘッドは、記録用紙に対して相対的に移動しながら吐出口から記録用紙にインク滴を吐出し、吐出口(ノズル数)に対応した幅で記録を行なう。また、記録用紙の非記録領域に応じた非記録時に、記録用紙は、予め設定されている搬送量だけ間欠的に搬送される。
【0020】
次に、図2に、インクジェット記録ヘッドの全体図を示す。インクジェット記録ヘッドは、キャリッジ111に搭載されており、キャリッジ111の走査方向と垂直な方向に沿って吐出口列が複数列設けられている。
【0021】
次に、本実施形態について図面を参照して説明する。図3は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。図3に示すように、記録ヘッド1は、ノズルを構成する複数の吐出口8が配列されてなる複数の吐出口列9を備えている。また、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成されて内部が親水性を有する凹状の溝としての親水溝10と、この親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。吐出口列9の周囲には、2列の吐出口列9毎に包囲する環状の凹部5が設けられている。また、発熱素子11としては例えばヒータが用いられる。
【0022】
本実施形態のインクジェット記録装置では、6個の記録ヘッド1が一体に構成されており、6色のインクに対応する構成にされている。なお、記録ヘッド1は、吐出口列9が配置されたフェイス面が撥水性の表面として形成されている。また、ノズル構造体2のフェイス面からの高さ、つまりヘッド基板2aにおけるノズル構造体2bとの接合面からの親水溝10の高さは26μmに形成されており、親水溝10は、幅が150μm、吐出口列方向に平行な長さが25000μmに形成されている。
【0023】
親水溝10の底面には、幅方向のほぼ中央に発熱素子11が配置されている。本実施形態では、1つの記録ヘッド1に3つの親水溝10が形成されている。さらに、吐出口8は、インク供給口3の片側に600dpiの密度で配列されており、インク供給口3を挟んで配列された吐出口列9が配列方向に位置をずらして、各吐出口列9によって1200dpiの密度をなすように構成されている。
【0024】
ここで特徴的な点は、吐出口列9を包囲する環状の凹部5には発熱素子11が設けられずに、親水溝10にのみ発熱素子11が設けられている点である。これは、凹部5が、親水溝10を乗り越えて吐出口8側に移動してきたインクが、吐出口8に直接到達するのを防止するための構成であり、この凹部5の内部にインクを保持するほどの機能を与えてはいないからである。
【0025】
図4は、図3におけるA−A断面図である。本実施形態のインクジェット記録装置では、12色の顔料インクを使用する構成にされている。この記録装置は、キャリッジが被記録材の幅方向(被記録材の搬送方向に直交する方向)の両側に往復移動を繰り返し、往路のみ、復路のみ、往復両方のそれぞれで記録を行うことが可能にされており、記録幅が60インチである。また、記録ヘッド1が搭載されるキャリッジの移動速度は、40インチ/秒であり、記録ヘッド1のフェイス面と記録用紙の紙面との間の距離は2.0mmである。
【0026】
顔料インクの物性値を示す。12色の物性値が粘度=2.4から3.6であり、表面張力が30から35である。顔料インクは、従来の染料インクが粘度=1.8程度であったのと比較して高くなっている。
【0027】
本実施形態の記録装置において、フェイス面へのインクミストの付着が発生し易い条件である、高周波数、高記録デューティ、記録幅を60インチとして連続記録を行った。記録幅による影響は、連続して記録動作を行うほど記録ヘッドの温度の上昇が大きくなり、吐出速度が上昇するので、インクミストが発生し易くなる。また、記録幅が広く連続的に記録が行われるほど、インクミストが親水溝の内部を広がる時間が短くなることになる。
【0028】
まず、第1の検討を行った。この構成で、親水溝内の発熱素子に通電せずに、顔料インクを用いて記録を行った後におけるフェイス面の濡れ状態を観察すると、インクの揮発成分が蒸発して粘度が上昇していた。また、インクミストのかたまりが親水溝の内部に局所的に存在していた。
【0029】
そして、この状況から引き続き、更に記録動作を行った場合、フェイス面の濡れに起因するインク滴の不吐出が発生し始めた。このときのフェイス面の濡れ状態を観察すると、親水溝内にインクミストのかたまりが局所的に存在しており、その箇所から濡れインクがフェイス面の面内方向に対しても溢れて吐出口8を塞いでいた。これは、親水溝の内部でインクミストの付着の偏りが生じたことに起因すると考えられる。
【0030】
そこで、第2の検討を行った。記録動作中に、親水溝の内部に設けられた発熱素子の表面温度がほぼ90℃になるように通電して、同一条件で記録を行った。なお、記録動作中とは、記録用紙を給紙してから排紙するまでの時間であり、この時間には、記録ヘッドによって記録用紙に記録を行っている時間及び記録ヘッドの往復動作時に記録用紙の記録領域から外れて記録ヘッドの走査方向を切り替える時間も含まれる。また、発熱素子の表面温度が90℃になる通電条件は、事前に検討した結果により求めたものである。
【0031】
記録動作後におけるフェイス面の濡れ状態を観察すると、温度が上がったインクは粘度が低下するために、親水溝の内部にインクミストのかたまりが局所的に存在せず、親水溝の内部にインクミストが広範囲にわたって広がっていた。この状況から引き続き、更に記録動作を行ったが、第1の検討結果と異なり、実施形態ではインク滴の不吐出が発生せずに、記録可能なドット数が増加した。
【0032】
次に、記録動作の前後におけるインクミストの付着量を測定した。その結果、親水溝に配置された発熱素子に通電を行った場合には、親水溝内のインクミストの水分の蒸発が促進されたことによって、発熱素子に通電しない場合と比較して、インクミストの付着量が低減されていた。親水溝に付着したインクの水分を蒸発させることによって、親水溝の内部にインクミストを溜めることが可能な保持量を増加させることができ、記録可能なドット数を更に増加させることが可能になる。
【0033】
さらに、第3の検討として、ウエットワイプ機構を備えるインクジェット記録装置において検討を行った。本発明の課題で述べたように、ウエットワイプ機構を備えるインクジェット記録装置において、親水溝10内に設けられた発熱素子11に通電せずに、顔料インクを用いて記録動作を行った後におけるフェイス面の濡れ状態を観察した。その結果、親水溝10の内部にはウエット液と顔料インクミストが溜まっていた。引き続いて、記録動作を更に継続したとき、記録幅が60インチで長さ2m程度まで記録を行ったときにインク滴の不吐が発生し始めた。このとき、フェイス面を観察すると、親水溝10の内部に付着したインクミストが親水溝10から溢れて吐出口8を塞いでいた。
【0034】
第4の検討として、ウエットワイプ機構を備えるインクジェット記録装置において、親水溝10内に設けられた発熱素子11の表面温度がほぼ70℃になるように通電して、同条件で記録を行った。顔料インクを用いて記録動作を行った後におけるフェイス面の濡れ状態を観察した結果、親水溝10の内部にウエット液と顔料インクミストが溜まっていた。しかしながら、親水溝10の内部に付着したインクミスト及びウエット液が発熱素子11の昇温によって蒸発することで、親水溝10に溜まっている量が、上述の第3の検討結果よりも低減されていた。引き続いて、記録動作を更に継続したとき、記録幅が60インチで長さ5m程度まで記録を行った場合であってもインク滴の不吐の発生がなく、フェイス面においても、インクミストが親水溝10内に保持されていた。
【0035】
また、図5は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。図5に示すように、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成された凹状をなす親水溝10と、この親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。
【0036】
記録ヘッド1には、2列の吐出口列9を間に挟み込むように、3つ親水溝10が形成されている。そして、発熱素子11は、記録ヘッド1の外周側、つまり3列における両側に配置されている親水溝10にのみ設けられている。このように、複数の親水溝10のうちの一部の親水溝10にのみ発熱素子11が設けられる構成においても、発熱素子11が設けられている親水溝10の内部に保持されるインクミストの保持量を増やし、インクミストの粘度を低下させることができる。このため、本実施形態においても連続記録性能を向上することができる。
【0037】
上述したように、本実施形態は、親水溝10の内部に進入した顔料インクやウエット液を、親水溝10に設けられた発熱素子11によって加熱することで、これら液体の粘度を低下させ流動性を向上させて、親水溝10の内部にわたって広げることができる。加えて、本実施形態は、発熱素子11によって親水溝10に付着して液体を蒸発させることで、親水溝10の内部に溜められる保持量を増やすことができる。
【0038】
したがって、本実施形態によれば、回復処理を頻繁に行うことなく安定した吐出状態を維持することができる。また、本実施形態によれば、ロール紙に記録するときに、吸引回復やワイピング動作を行うことができずに連続記録を行う場合であっても、インク滴の不吐、インク滴のヨレが発生するのを抑えて記録動作を行うことができる。
【0039】
(第2の実施形態)
第2の実施形態と第1実施形態との構成の違いは、発熱素子11が1つ1つ個別に配線されており、独立して制御できる点にある。図6は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。
【0040】
図6に示すように、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成された凹状をなす親水溝10と、この親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。
【0041】
本実施形態のインクジェット記録装置では、4個の記録ヘッド1が一体に構成されており、8色のインクに対応している。本実施形態では、1つの記録ヘッド1に3つの親水溝10がそれぞれ形成されている。また、親水溝10は、ノズル構造体2bのフェイス面からの深さ、つまりヘッド基板2aにおけるノズル構造体2bとの接合面からの高さが26μmに形成されており、親水溝10の幅が150μm、長さが25000μmに形成されている。
【0042】
そして、各記録ヘッド1の各親水溝10に対応して、発熱素子11a、11b〜14a,14bがそれぞれ設けられている。親水溝10毎に発熱素子11a、11b〜14a,14bを個別に制御できるように、発熱素子11a、11b〜14a,14bの1つ1つが個別に配線されている。
【0043】
顔料インクを用いて記録を行った場合、吐出口列9の間にインクミストが付着することがあった。本実施形態の記録ヘッド1では、8個のインク供給口3と、12列の吐出口列9とがそれぞれ設けられているが、記録ヘッド1のフェイス面における最も外周側に位置する吐出口列9の外周側には、インクミストが付着し難くなっている。このため、記録ヘッド1のフェイス面における最も外周側に位置する吐出口列9の外周側に配置された親水溝10の発熱素子11a、14cには、記録動作中に通電をしない。つまり、本実施形態では、フェイス面における最も外周側に位置する吐出口列の外周側に配置された親水溝の発熱素子以外の発熱素子に記録動作中に通電するように制御する。このように制御することによって、通電する発熱素子11の個数を減らすことで、発熱素子11に通電することに伴う記録ヘッド1の温度の上昇を抑制することができ、かつ記録動作時のインクミストによるインク滴の不吐を抑制することができた。
【0044】
また、上述した実施形態では、最も外周側に位置する吐出口列9の外周側に配置された親水溝10の発熱素子11a、14cには、記録動作中に通電をしない制御方法が採られた。しかし、この制御方法に限定されるものではなく、発熱素子11a、14cに他の発熱素子よりも比較的小さな電力を通電するように構成されてもよい。すなわち、最も外周側に位置する吐出口列9の外周側に配置された親水溝10の発熱素子11a,14cに記録動作中に通電する電力よりも、この発熱素子11a,14c以外の発熱素子に通電する電力が大きくなるように制御されてもよい。このように構成することで、外周側に位置する親水溝10の発熱素子11a,14cに全く通電しない構成よりも、この親水溝10におけるインクミストの流動性を向上すると共に記録ヘッド1の温度の上昇を抑制することができる。
【0045】
(第3の実施形態)
図7は、第3の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。図7に示すように、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成された凹状をなす親水溝10と、この親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。
【0046】
記録ヘッド1には、各吐出口列9を間に挟み込むように3つの親水溝が形成されている。各親水溝10内に配置された発熱素子11は、長手方向に対して3つの部分に分割されて、3つの部分が個別配線されている。また、本実施形態のインクジェット記録装置では、図6に示した構成と同様に、4個の記録ヘッド1が一体に構成されており、4色のインクに対応している。
【0047】
本実施形態の記録ヘッド1において、フェイス面へのインクミストの付着が発生し易い条件である、高周波数、高記録デューティ、記録幅を60インチにして連続記録を行った。記録動作後におけるフェイス面の濡れ状態を観察した結果、図8に示すように、インクミストが親水溝の長手方向の中央部に多量に付着していた。そこで、本実施形態では、記録ヘッド1の温度の上昇を抑制しつつ、インクミストの蒸発や粘度を効率的に低下させるために、親水溝10の内部に設けられ発熱素子11が、親水溝10の長手方向に対して3つの部分に分割されている。
【0048】
この構成においては、記録デューティが相対的に高い場合、つまり記録率が50%以上100%以下である場合(高記録デューティ)には、フェイス面が濡れ易い状況にあるので、親水溝10内に設けられた複数の発熱素子11の全てに通電する。一方、記録デューティが相対的に低い場合、つまり記録率が50%未満である場合には、親水溝10の長手方向の中央部に配置された発熱素子11のみに通電する。なお、本発明における記録デューティ(印字デューティ)とは、記録率を指しており、記録用紙の記録領域の全体に対する、記録された領域のパーセンテージを指す。
【0049】
すなわち、記録デューティが相対的に高い場合には、記録デューティが相対的に低い場合よりも相対的に多くの発熱素子11に通電しながら記録を行う。一方、記録デューティが低い場合には、親水溝10の長手方向の中央部に配置された発熱素子11を含む相対的に少ない発熱素子11に通電しながら記録を行うように構成されている。言い換えれば、本実施形態では、親水溝10の長手方向の少なくとも中央部に配置された発熱素子11に通電して記録を行う第1の記録状態と、この第1の記録状態よりも多くの発熱素子11に通電して記録を行う第2の記録状態とに制御される。
【0050】
このように通電する発熱素子11を制御することによって、記録ヘッド1の温度の上昇を抑制しつつ、インクミストの蒸発や粘度の低下を効率的に生じさせることができた。結果として、記録幅が60インチで長さ5m程度まで記録を行った場合であっても、インク滴の不吐の発生がなく、フェイス面においても、インクミストが親水溝10内に保持されていた。
【0051】
また、図9は、第3の実施形態の記録ヘッドの他の構成例を示す平面図である。記録ヘッド1には、発熱素子11が親水溝10の長手方向の中央部にのみ設けられている。このように構成された記録ヘッド1は、例えば、記録幅が24インチに構成された記録装置に搭載されており、フェイス面へのインクミストの付着量を低減することができる。この構成の場合は、発熱素子11が親水溝10の長手方向の中央部にのみ設けられることで、発熱素子11を個別配線するためにヘッド基板2a上に設けられる接続端子の個数を削減することができ、かつ簡便な制御でフェイス面への濡れを抑制することができる。
【0052】
(第4の実施形態)
図10は、第4の実施形態の記録ヘッドを示す平面図である。図10に示すように、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成された凹状をなす親水溝10と、この親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。
【0053】
親水溝は、短手方向の幅が長手方向に沿って変化されている。親水溝の形状は、長手方向の中央部における幅が広くされ、長手方向の両端部における幅が狭くされている。
【0054】
親水溝10をこのような形状に形成することによって、長手方向の中央部に集まるインクミストを、この中央部から、表面張力がより働き易い両端部に向かって移動させることができ、液体の蒸発や粘度の低下を効率的に発生させることができる。
【0055】
図11は、第4の実施形態の記録ヘッドの他の構成例を示す平面図である。図11に示すように、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成された凹状をなす親水溝10と、親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。
【0056】
吐出口列9の間には、2つの親水溝10が、吐出口列9の長手方向と平行に設けられている。したがって、これら親水溝10は、互いに平行に並んで配置されている。また、2つの親水溝の内部には、発熱素子11がそれぞれ設けられている。
【0057】
この構成によれば、親水溝10の幅を細く形成することになり、このような幅が比較的細い親水溝10に生じる表面張力によって液体を親水溝10の長手方向に沿って移動し易くすることができる。本実施形態によれば、親水溝10に付着したインクミストの粘度を低下させ、親水溝10の内部を移動させることによって、蒸発を効率的に促進させることができる。
【0058】
(第5の実施形態)
図12は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。図12に示すように、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成された凹状をなす親水溝10と、この親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。
【0059】
親水溝10は、各吐出口列9を間に挟み込むように3つで形成されている。図示しないが、各親水溝10内に設けられた複数の発熱素子11は、親水溝10の長手方向に沿って3つの部分に分割され、これら3つの部分が個別配線されて構成されている。また、本実施形態のインクジェット記録装置は、図6に示した構成と同様に、4個の記録ヘッド1が一体に構成されており、4色のインクに対応している。
【0060】
また、図13(a)は、図12におけるA−A断面図である。図13(a)に示すように、親水溝10の底面部には、発熱素子11を挟んで両側に液体流路形成部材16がそれぞれ形成されており、これら液体流路形成部材16の間における発熱素子11の上方の空間によって液体流路15が構成されている。図13(b)は、図13(a)における液体流路15を示す拡大図である。液体流路15は、親水溝10の底面部に、親水溝10の長手方向と平行に形成されている。本実施形態では、液体流路形成部材16の厚みが2μmに形成されている。したがって、液体流路15は、親水溝10の底面からの高さが2μmに形成されている。
【0061】
本実施形態においても、上述した実施形態と同様に、発熱素子11に通電することで、親水溝10の内部に付着したインクミストやウエット液を加熱して、蒸発や粘度の低下を生じさせることができる。加えて、本実施形態における親水溝10の内部には、発熱素子11の上方に液体流路15が設けられることで、発熱素子11の上方の液体や、発熱素子11によって加熱された液体を、発熱素子11の上方から液体流路15の長手方向に沿って広げることができる。したがって、本実施形態によれば、親水溝10の内部の液体の温度を効率良く上昇させて、蒸発や粘度の低下を促進させることができる。
【0062】
本実施形態では、親水溝10の短手方向に平行な、発熱素子11の幅が30μmにされ、液体流路15の幅が35μmに設定されている。本実施形態の構成において、記録動作中に、親水溝10内の発熱素子11の表面温度がほぼ90℃になるように通電して記録を行った。なお、記録動作中とは、記録用紙を給紙してから排紙するまでの時間であり、この時間には、記録ヘッドによって記録用紙に記録を行っている時間及び記録ヘッドの往復動作時に記録用紙の記録領域から外れて記録ヘッドの走査方向を切り替える時間も含まれる。表面温度が90℃になる通電条件は、事前に検討した結果により求めたものである。
【0063】
記録動作後におけるフェイス面の濡れ状態を観察すると、発熱素子によって加熱されたインクの粘度が低下したために、液体流路15を通ってインクミストの液体が広がっていた。このため、親水溝10の内部にインクミストのかたまりが発生する状態が、親水溝10の内部に液体流路15が設けられていない構成と比較して低減されていた。この状況から引き続いて、記録動作を更に継続して行ったが、インク滴の不吐出は発生せずに、親水溝10に発熱素子11が設けられていない構成と比較して記録可能なドット数が増加した。
【0064】
また、図14に示すように、1つの親水溝10の内部に複数の発熱素子11が設けられ、かつ、発熱素子11の上方に液体流路15が設けられる構成においても上述と同様に、発熱素子11の上方の液体を、液体流路15に沿って広げることができる。そして、液体の温度を効率良く上昇させ、蒸発や粘度の低下を促進させることができ、記録動作を行ったときにインク滴の不吐出が発生せずに、親水溝10に発熱素子11が設けられていない構成と比較して記録可能なドット数が増加した。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態のインクジェット記録装置の概観を示す斜視図である。
【図2】本実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す全体図である。
【図3】第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。
【図4】第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す断面図である。
【図5】第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドの他の構成例を示す平面図である。
【図6】第2の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。
【図7】第3の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。
【図8】本実施形態のインクジェット記録ヘッドにインクミストが付着した状態を示す平面図である。
【図9】第3の実施形態のインクジェット記録ヘッドの他の構成例を示す平面図である。
【図10】第4の実施形態のインクジェット記録ヘッドの他の例を示す平面図である。
【図11】第4の実施形態のインクジェット記録ヘッドの更に他の例を示す平面図である。
【図12】第5の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。
【図13】(a)第5の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す図であって、(a)が断面図、(b)が(a)における液体流路の拡大図である。
【図14】第5の実施形態のインクジェット記録ヘッドの他の例を示す断面図である。
【図15】ウエットワイピング動作時の状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0066】
1 インクジェット記録ヘッド
2a ヘッド基板
2b ノズル構造体
3 インク供給口
5 凹部
8 吐出口
9 吐出口列
10 親水溝
11 発熱素子
15 液体流路
16 液体流路形成部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば記録用紙等の被記録材に対してインク等の液滴を吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録ヘッドの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータやワードプロセッサ等のOA機器が広く普及している現在、これら機器で入力した情報を種々の被記録材に記録するために、様々な記録装置及び記録方法が開発されている。特にOA機器では、その情報処理能力の向上に伴って処理する映像情報などがカラー化される傾向にあり、処理情報を出力する記録装置にあってもカラー化が進んでいる。カラー画像を記録可能な記録装置としては、コスト及び機能などに応じて様々なものがあり、比較的単純な機能を有する安価なものから、記録すべき画像の種類や使用目的などに応じて記録速度や画質などを選択可能な多機能なものまで、種々存在している。
【0003】
また、インクジェット記録装置は、低騒音、低ランニングコスト、小型化が可能であり、また記録画像のカラー化が容易であるため、プリンタ、複写機、ファクシミリ等に広く利用されている。一般に、カラーインクジェット記録装置は、シアン、マゼンタ、イエローの3色のカラーインク、又は、これら3色のインクに黒色を更に加えた4色のインクを使用してカラー画像の記録を行う。また、従来のインクジェット記録装置では、インクが滲まずに高発色のカラー画像を記録するために、被記録材として、インク吸収層を有する専用紙を使用するのが一般的であった。現在では、インクを改良することで、プリンタや複写機等で大量に使用される「普通紙」に対して記録適性を持たせたインクも実用化されている。
【0004】
また、インクジェット記録装置においては、複数色のインクを用いてカラー記録などを行うための記録手段として、記録に使用する各インク色に対応するノズル郡が配設されたインクジェット記録ヘッドが用いられる。この記録ヘッドは、ノズルを構成する吐出口からインクの吐出が可能であり、複数の吐出口列を有して構成されている。このような構成では、特許文献1に開示されているように、インク滴の吐出に伴って発生した微小なインクミストが気流によって流れ、記録用紙の紙面に対向するフェイス面にインクミストが付着して、フェイス面が濡れて記録不良を招く現象がある。
【特許文献1】特開2006−103320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インクジェット記録装置では、インクジェット記録ヘッドで使用するインクとして顔料インクを用いる場合や、インクジェット記録ヘッドのフェイス面に付着したインクの除去性能を向上させるためにウエットワイプ方式を採用する場合がある。このような場合には、以下のような、記録を行う際に想定していなかった現象が発生した。
【0006】
従来は、染料インクを使用していたが、記録された記録用紙、いわゆるプリント物の耐候性の向上を図るために、使用するインクを染料インクから顔料インクへ変更して検討を行った。具体的には、記録用紙に連続して記録を行ったときに、フェイス面の濡れによる記録不良が発生するか否かの検討を行った。
【0007】
特許文献1には、記録動作時に生じた微小なインクミストが気流によって付着する、内面が親水性を有する溝(以下、親水溝と呼ぶ)の構成が開示されている。この構成では、インクミストが親水溝の内部に進入して付着したときに、この付着したインクが親水溝の内部で局所的に溜まることなく、親水溝の内部全体にわたって広がる。これによって、親水溝の内部に付着したインクが親水溝から溢れることが抑制されている。
【0008】
しかしながら、顔料インクは、染料インクと比較してインクの粘度が高く、かつ蒸発したときに流動性が急激に低下するので、付着したインクミストが親水溝の内部に沿って広がり難い傾向がある。また、吐出口列の長手方向の中央部には、インクミストが比較的集中し易い傾向がある。このため、吐出口列の長手方向の中央部に付着したインクミストが親水溝の内部に広がらずに局所的に集中することで、付着したインクが親水溝を越えて溢れ、吐出口にまで到達する現象が発生するという新たな課題が生じた。
【0009】
また、顔料粒子等をフェイス面から除去する性能を向上させるために、ワイパーにグリセリン等の溶剤を保持させた状態でフェイス面をワイピングするウエットワイプ方式がある。一般に、ワイプ機構は、記録動作や回復動作に伴ってインクジェット記録ヘッドのフェイス面にインクが残留したときに、記録ヘッドのフェイス面をワイパー151によって拭き取ってインクを除去するための機構である。特に、ウエットワイプ機構は、図15(a)に示すように、ワイパー151とフェイス面とが当たる面にグリセリン等を主成分とするウエット液150を付着させた状態でワイピングを行うものである。このようにすることにで、ウエット液150がフェイス面への顔料粒子の付着が抑制され、顔料インクの除去性が向上される。
【0010】
しかしながら、図15(b)に示すように、平滑なフェイス面をワイピングするのではなく、図15(c)に示すように、親水溝110が設けられたフェイス面をワイピングする場合には、ウエット液150が親水溝110内に入り込んでしまう。その結果、ウエットワイプ方式を採るインクジェット記録装置では、ウエット液150が親水溝110の内部に溜まることによって、親水溝110によってインクミストを保持できる保持量が低下してしまうという新たな課題も生じた。
【0011】
さらに、ロール紙に連続的な記録を行う場合には、記録動作中に記録ヘッドの吸引回復動作やワイピング動作を行ったときに、インクを重ねる時間が長くなってしまう。このために、連続して記録した領域と、吸引回復によって中断した後に記録した領域とでは、濃度差が生じてしまう不都合がある。このような濃度差が発生するのを避けるために、ロール紙に記録する場合には、記録動作中に吸引回復やワイピング動作を行うことなく連続記録を行う必要があり、従来の想定以上にフェイス面の濡れやインク滴の不吐の発生を抑制する必要がある。
【0012】
そこで、本発明は、上述した課題を解決し、顔料インクやウエットワイプ方式を採用する記録装置であっても、安定した吐出状態を維持することができるインクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録ヘッドの制御方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、ロール紙に記録するときにおいても、インク滴の不吐、ヨレの発生を抑えることができるインクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録ヘッドの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するため、本発明に係るインクジェット記録ヘッドは、被記録材に対して相対的に移動しながら吐出口から被記録材にインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッドであって、複数の吐出口が配列されてなる吐出口列が相対的に移動する方向に複数列設けられる。そして、吐出口列の間の位置には、内部が親水性を有する凹状の溝が吐出口列の長手方向に沿って連続的に形成され、溝の内部に発熱素子が設けられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溝の内部に発熱素子が設けられることによって、顔料インクやウエットワイプ方式を採用する記録装置であっても、吐出動作の信頼性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
なお、以下の各実施形態において用いられる寸法、数値等は一例を示したものであり、これらに限定されるものではない。また、以下の説明では、同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付与し、その説明を省略する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1に、本実施形態のインクジェット記録装置の概観を示す斜視図を示す。
【0018】
実施形態のインクジェット記録装置100は、インクジェット記録ヘッドが搭載されるキャリッジ111と、キャリッジ111を走査移動させるキャリッジ駆動モータ112が設けられている。そして、インクジェット記録装置100が備える制御部(不図示)から電気信号をインクジェット記録ヘッドに送るためのフレキシブルケーブル113と、インクジェット記録ヘッドの回復処理を行なうための回復処理部114とを備えている。また、インクジェット記録装置100は、被記録材としての記録用紙が積層された状態で蓄える給紙トレイ115と、キャリッジ111の位置を光学的に読み取る光学式位置センサ116とを備えている。また、インクジェット記録装置100は、記録が行われて、排出された記録用紙を保持する排紙トレイ117を備えている。
【0019】
以上のように構成されるインクジェット記録装置100は、キャリッジ111を記録用紙の搬送方向(副走査方向)と直交する主走査方向にシリアルスキャンさせる。キャリッジ111が移動することによって、インクジェット記録ヘッドが記録用紙に対して移動される。そして、インクジェット記録ヘッドは、記録用紙に対して相対的に移動しながら吐出口から記録用紙にインク滴を吐出し、吐出口(ノズル数)に対応した幅で記録を行なう。また、記録用紙の非記録領域に応じた非記録時に、記録用紙は、予め設定されている搬送量だけ間欠的に搬送される。
【0020】
次に、図2に、インクジェット記録ヘッドの全体図を示す。インクジェット記録ヘッドは、キャリッジ111に搭載されており、キャリッジ111の走査方向と垂直な方向に沿って吐出口列が複数列設けられている。
【0021】
次に、本実施形態について図面を参照して説明する。図3は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。図3に示すように、記録ヘッド1は、ノズルを構成する複数の吐出口8が配列されてなる複数の吐出口列9を備えている。また、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成されて内部が親水性を有する凹状の溝としての親水溝10と、この親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。吐出口列9の周囲には、2列の吐出口列9毎に包囲する環状の凹部5が設けられている。また、発熱素子11としては例えばヒータが用いられる。
【0022】
本実施形態のインクジェット記録装置では、6個の記録ヘッド1が一体に構成されており、6色のインクに対応する構成にされている。なお、記録ヘッド1は、吐出口列9が配置されたフェイス面が撥水性の表面として形成されている。また、ノズル構造体2のフェイス面からの高さ、つまりヘッド基板2aにおけるノズル構造体2bとの接合面からの親水溝10の高さは26μmに形成されており、親水溝10は、幅が150μm、吐出口列方向に平行な長さが25000μmに形成されている。
【0023】
親水溝10の底面には、幅方向のほぼ中央に発熱素子11が配置されている。本実施形態では、1つの記録ヘッド1に3つの親水溝10が形成されている。さらに、吐出口8は、インク供給口3の片側に600dpiの密度で配列されており、インク供給口3を挟んで配列された吐出口列9が配列方向に位置をずらして、各吐出口列9によって1200dpiの密度をなすように構成されている。
【0024】
ここで特徴的な点は、吐出口列9を包囲する環状の凹部5には発熱素子11が設けられずに、親水溝10にのみ発熱素子11が設けられている点である。これは、凹部5が、親水溝10を乗り越えて吐出口8側に移動してきたインクが、吐出口8に直接到達するのを防止するための構成であり、この凹部5の内部にインクを保持するほどの機能を与えてはいないからである。
【0025】
図4は、図3におけるA−A断面図である。本実施形態のインクジェット記録装置では、12色の顔料インクを使用する構成にされている。この記録装置は、キャリッジが被記録材の幅方向(被記録材の搬送方向に直交する方向)の両側に往復移動を繰り返し、往路のみ、復路のみ、往復両方のそれぞれで記録を行うことが可能にされており、記録幅が60インチである。また、記録ヘッド1が搭載されるキャリッジの移動速度は、40インチ/秒であり、記録ヘッド1のフェイス面と記録用紙の紙面との間の距離は2.0mmである。
【0026】
顔料インクの物性値を示す。12色の物性値が粘度=2.4から3.6であり、表面張力が30から35である。顔料インクは、従来の染料インクが粘度=1.8程度であったのと比較して高くなっている。
【0027】
本実施形態の記録装置において、フェイス面へのインクミストの付着が発生し易い条件である、高周波数、高記録デューティ、記録幅を60インチとして連続記録を行った。記録幅による影響は、連続して記録動作を行うほど記録ヘッドの温度の上昇が大きくなり、吐出速度が上昇するので、インクミストが発生し易くなる。また、記録幅が広く連続的に記録が行われるほど、インクミストが親水溝の内部を広がる時間が短くなることになる。
【0028】
まず、第1の検討を行った。この構成で、親水溝内の発熱素子に通電せずに、顔料インクを用いて記録を行った後におけるフェイス面の濡れ状態を観察すると、インクの揮発成分が蒸発して粘度が上昇していた。また、インクミストのかたまりが親水溝の内部に局所的に存在していた。
【0029】
そして、この状況から引き続き、更に記録動作を行った場合、フェイス面の濡れに起因するインク滴の不吐出が発生し始めた。このときのフェイス面の濡れ状態を観察すると、親水溝内にインクミストのかたまりが局所的に存在しており、その箇所から濡れインクがフェイス面の面内方向に対しても溢れて吐出口8を塞いでいた。これは、親水溝の内部でインクミストの付着の偏りが生じたことに起因すると考えられる。
【0030】
そこで、第2の検討を行った。記録動作中に、親水溝の内部に設けられた発熱素子の表面温度がほぼ90℃になるように通電して、同一条件で記録を行った。なお、記録動作中とは、記録用紙を給紙してから排紙するまでの時間であり、この時間には、記録ヘッドによって記録用紙に記録を行っている時間及び記録ヘッドの往復動作時に記録用紙の記録領域から外れて記録ヘッドの走査方向を切り替える時間も含まれる。また、発熱素子の表面温度が90℃になる通電条件は、事前に検討した結果により求めたものである。
【0031】
記録動作後におけるフェイス面の濡れ状態を観察すると、温度が上がったインクは粘度が低下するために、親水溝の内部にインクミストのかたまりが局所的に存在せず、親水溝の内部にインクミストが広範囲にわたって広がっていた。この状況から引き続き、更に記録動作を行ったが、第1の検討結果と異なり、実施形態ではインク滴の不吐出が発生せずに、記録可能なドット数が増加した。
【0032】
次に、記録動作の前後におけるインクミストの付着量を測定した。その結果、親水溝に配置された発熱素子に通電を行った場合には、親水溝内のインクミストの水分の蒸発が促進されたことによって、発熱素子に通電しない場合と比較して、インクミストの付着量が低減されていた。親水溝に付着したインクの水分を蒸発させることによって、親水溝の内部にインクミストを溜めることが可能な保持量を増加させることができ、記録可能なドット数を更に増加させることが可能になる。
【0033】
さらに、第3の検討として、ウエットワイプ機構を備えるインクジェット記録装置において検討を行った。本発明の課題で述べたように、ウエットワイプ機構を備えるインクジェット記録装置において、親水溝10内に設けられた発熱素子11に通電せずに、顔料インクを用いて記録動作を行った後におけるフェイス面の濡れ状態を観察した。その結果、親水溝10の内部にはウエット液と顔料インクミストが溜まっていた。引き続いて、記録動作を更に継続したとき、記録幅が60インチで長さ2m程度まで記録を行ったときにインク滴の不吐が発生し始めた。このとき、フェイス面を観察すると、親水溝10の内部に付着したインクミストが親水溝10から溢れて吐出口8を塞いでいた。
【0034】
第4の検討として、ウエットワイプ機構を備えるインクジェット記録装置において、親水溝10内に設けられた発熱素子11の表面温度がほぼ70℃になるように通電して、同条件で記録を行った。顔料インクを用いて記録動作を行った後におけるフェイス面の濡れ状態を観察した結果、親水溝10の内部にウエット液と顔料インクミストが溜まっていた。しかしながら、親水溝10の内部に付着したインクミスト及びウエット液が発熱素子11の昇温によって蒸発することで、親水溝10に溜まっている量が、上述の第3の検討結果よりも低減されていた。引き続いて、記録動作を更に継続したとき、記録幅が60インチで長さ5m程度まで記録を行った場合であってもインク滴の不吐の発生がなく、フェイス面においても、インクミストが親水溝10内に保持されていた。
【0035】
また、図5は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。図5に示すように、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成された凹状をなす親水溝10と、この親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。
【0036】
記録ヘッド1には、2列の吐出口列9を間に挟み込むように、3つ親水溝10が形成されている。そして、発熱素子11は、記録ヘッド1の外周側、つまり3列における両側に配置されている親水溝10にのみ設けられている。このように、複数の親水溝10のうちの一部の親水溝10にのみ発熱素子11が設けられる構成においても、発熱素子11が設けられている親水溝10の内部に保持されるインクミストの保持量を増やし、インクミストの粘度を低下させることができる。このため、本実施形態においても連続記録性能を向上することができる。
【0037】
上述したように、本実施形態は、親水溝10の内部に進入した顔料インクやウエット液を、親水溝10に設けられた発熱素子11によって加熱することで、これら液体の粘度を低下させ流動性を向上させて、親水溝10の内部にわたって広げることができる。加えて、本実施形態は、発熱素子11によって親水溝10に付着して液体を蒸発させることで、親水溝10の内部に溜められる保持量を増やすことができる。
【0038】
したがって、本実施形態によれば、回復処理を頻繁に行うことなく安定した吐出状態を維持することができる。また、本実施形態によれば、ロール紙に記録するときに、吸引回復やワイピング動作を行うことができずに連続記録を行う場合であっても、インク滴の不吐、インク滴のヨレが発生するのを抑えて記録動作を行うことができる。
【0039】
(第2の実施形態)
第2の実施形態と第1実施形態との構成の違いは、発熱素子11が1つ1つ個別に配線されており、独立して制御できる点にある。図6は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。
【0040】
図6に示すように、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成された凹状をなす親水溝10と、この親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。
【0041】
本実施形態のインクジェット記録装置では、4個の記録ヘッド1が一体に構成されており、8色のインクに対応している。本実施形態では、1つの記録ヘッド1に3つの親水溝10がそれぞれ形成されている。また、親水溝10は、ノズル構造体2bのフェイス面からの深さ、つまりヘッド基板2aにおけるノズル構造体2bとの接合面からの高さが26μmに形成されており、親水溝10の幅が150μm、長さが25000μmに形成されている。
【0042】
そして、各記録ヘッド1の各親水溝10に対応して、発熱素子11a、11b〜14a,14bがそれぞれ設けられている。親水溝10毎に発熱素子11a、11b〜14a,14bを個別に制御できるように、発熱素子11a、11b〜14a,14bの1つ1つが個別に配線されている。
【0043】
顔料インクを用いて記録を行った場合、吐出口列9の間にインクミストが付着することがあった。本実施形態の記録ヘッド1では、8個のインク供給口3と、12列の吐出口列9とがそれぞれ設けられているが、記録ヘッド1のフェイス面における最も外周側に位置する吐出口列9の外周側には、インクミストが付着し難くなっている。このため、記録ヘッド1のフェイス面における最も外周側に位置する吐出口列9の外周側に配置された親水溝10の発熱素子11a、14cには、記録動作中に通電をしない。つまり、本実施形態では、フェイス面における最も外周側に位置する吐出口列の外周側に配置された親水溝の発熱素子以外の発熱素子に記録動作中に通電するように制御する。このように制御することによって、通電する発熱素子11の個数を減らすことで、発熱素子11に通電することに伴う記録ヘッド1の温度の上昇を抑制することができ、かつ記録動作時のインクミストによるインク滴の不吐を抑制することができた。
【0044】
また、上述した実施形態では、最も外周側に位置する吐出口列9の外周側に配置された親水溝10の発熱素子11a、14cには、記録動作中に通電をしない制御方法が採られた。しかし、この制御方法に限定されるものではなく、発熱素子11a、14cに他の発熱素子よりも比較的小さな電力を通電するように構成されてもよい。すなわち、最も外周側に位置する吐出口列9の外周側に配置された親水溝10の発熱素子11a,14cに記録動作中に通電する電力よりも、この発熱素子11a,14c以外の発熱素子に通電する電力が大きくなるように制御されてもよい。このように構成することで、外周側に位置する親水溝10の発熱素子11a,14cに全く通電しない構成よりも、この親水溝10におけるインクミストの流動性を向上すると共に記録ヘッド1の温度の上昇を抑制することができる。
【0045】
(第3の実施形態)
図7は、第3の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。図7に示すように、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成された凹状をなす親水溝10と、この親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。
【0046】
記録ヘッド1には、各吐出口列9を間に挟み込むように3つの親水溝が形成されている。各親水溝10内に配置された発熱素子11は、長手方向に対して3つの部分に分割されて、3つの部分が個別配線されている。また、本実施形態のインクジェット記録装置では、図6に示した構成と同様に、4個の記録ヘッド1が一体に構成されており、4色のインクに対応している。
【0047】
本実施形態の記録ヘッド1において、フェイス面へのインクミストの付着が発生し易い条件である、高周波数、高記録デューティ、記録幅を60インチにして連続記録を行った。記録動作後におけるフェイス面の濡れ状態を観察した結果、図8に示すように、インクミストが親水溝の長手方向の中央部に多量に付着していた。そこで、本実施形態では、記録ヘッド1の温度の上昇を抑制しつつ、インクミストの蒸発や粘度を効率的に低下させるために、親水溝10の内部に設けられ発熱素子11が、親水溝10の長手方向に対して3つの部分に分割されている。
【0048】
この構成においては、記録デューティが相対的に高い場合、つまり記録率が50%以上100%以下である場合(高記録デューティ)には、フェイス面が濡れ易い状況にあるので、親水溝10内に設けられた複数の発熱素子11の全てに通電する。一方、記録デューティが相対的に低い場合、つまり記録率が50%未満である場合には、親水溝10の長手方向の中央部に配置された発熱素子11のみに通電する。なお、本発明における記録デューティ(印字デューティ)とは、記録率を指しており、記録用紙の記録領域の全体に対する、記録された領域のパーセンテージを指す。
【0049】
すなわち、記録デューティが相対的に高い場合には、記録デューティが相対的に低い場合よりも相対的に多くの発熱素子11に通電しながら記録を行う。一方、記録デューティが低い場合には、親水溝10の長手方向の中央部に配置された発熱素子11を含む相対的に少ない発熱素子11に通電しながら記録を行うように構成されている。言い換えれば、本実施形態では、親水溝10の長手方向の少なくとも中央部に配置された発熱素子11に通電して記録を行う第1の記録状態と、この第1の記録状態よりも多くの発熱素子11に通電して記録を行う第2の記録状態とに制御される。
【0050】
このように通電する発熱素子11を制御することによって、記録ヘッド1の温度の上昇を抑制しつつ、インクミストの蒸発や粘度の低下を効率的に生じさせることができた。結果として、記録幅が60インチで長さ5m程度まで記録を行った場合であっても、インク滴の不吐の発生がなく、フェイス面においても、インクミストが親水溝10内に保持されていた。
【0051】
また、図9は、第3の実施形態の記録ヘッドの他の構成例を示す平面図である。記録ヘッド1には、発熱素子11が親水溝10の長手方向の中央部にのみ設けられている。このように構成された記録ヘッド1は、例えば、記録幅が24インチに構成された記録装置に搭載されており、フェイス面へのインクミストの付着量を低減することができる。この構成の場合は、発熱素子11が親水溝10の長手方向の中央部にのみ設けられることで、発熱素子11を個別配線するためにヘッド基板2a上に設けられる接続端子の個数を削減することができ、かつ簡便な制御でフェイス面への濡れを抑制することができる。
【0052】
(第4の実施形態)
図10は、第4の実施形態の記録ヘッドを示す平面図である。図10に示すように、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成された凹状をなす親水溝10と、この親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。
【0053】
親水溝は、短手方向の幅が長手方向に沿って変化されている。親水溝の形状は、長手方向の中央部における幅が広くされ、長手方向の両端部における幅が狭くされている。
【0054】
親水溝10をこのような形状に形成することによって、長手方向の中央部に集まるインクミストを、この中央部から、表面張力がより働き易い両端部に向かって移動させることができ、液体の蒸発や粘度の低下を効率的に発生させることができる。
【0055】
図11は、第4の実施形態の記録ヘッドの他の構成例を示す平面図である。図11に示すように、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成された凹状をなす親水溝10と、親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。
【0056】
吐出口列9の間には、2つの親水溝10が、吐出口列9の長手方向と平行に設けられている。したがって、これら親水溝10は、互いに平行に並んで配置されている。また、2つの親水溝の内部には、発熱素子11がそれぞれ設けられている。
【0057】
この構成によれば、親水溝10の幅を細く形成することになり、このような幅が比較的細い親水溝10に生じる表面張力によって液体を親水溝10の長手方向に沿って移動し易くすることができる。本実施形態によれば、親水溝10に付着したインクミストの粘度を低下させ、親水溝10の内部を移動させることによって、蒸発を効率的に促進させることができる。
【0058】
(第5の実施形態)
図12は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。図12に示すように、記録ヘッド1は、吐出口列9の間に吐出口列9の長手方向に沿って連続的に形成された凹状をなす親水溝10と、この親水溝10内に設けられた発熱素子11とを備えている。
【0059】
親水溝10は、各吐出口列9を間に挟み込むように3つで形成されている。図示しないが、各親水溝10内に設けられた複数の発熱素子11は、親水溝10の長手方向に沿って3つの部分に分割され、これら3つの部分が個別配線されて構成されている。また、本実施形態のインクジェット記録装置は、図6に示した構成と同様に、4個の記録ヘッド1が一体に構成されており、4色のインクに対応している。
【0060】
また、図13(a)は、図12におけるA−A断面図である。図13(a)に示すように、親水溝10の底面部には、発熱素子11を挟んで両側に液体流路形成部材16がそれぞれ形成されており、これら液体流路形成部材16の間における発熱素子11の上方の空間によって液体流路15が構成されている。図13(b)は、図13(a)における液体流路15を示す拡大図である。液体流路15は、親水溝10の底面部に、親水溝10の長手方向と平行に形成されている。本実施形態では、液体流路形成部材16の厚みが2μmに形成されている。したがって、液体流路15は、親水溝10の底面からの高さが2μmに形成されている。
【0061】
本実施形態においても、上述した実施形態と同様に、発熱素子11に通電することで、親水溝10の内部に付着したインクミストやウエット液を加熱して、蒸発や粘度の低下を生じさせることができる。加えて、本実施形態における親水溝10の内部には、発熱素子11の上方に液体流路15が設けられることで、発熱素子11の上方の液体や、発熱素子11によって加熱された液体を、発熱素子11の上方から液体流路15の長手方向に沿って広げることができる。したがって、本実施形態によれば、親水溝10の内部の液体の温度を効率良く上昇させて、蒸発や粘度の低下を促進させることができる。
【0062】
本実施形態では、親水溝10の短手方向に平行な、発熱素子11の幅が30μmにされ、液体流路15の幅が35μmに設定されている。本実施形態の構成において、記録動作中に、親水溝10内の発熱素子11の表面温度がほぼ90℃になるように通電して記録を行った。なお、記録動作中とは、記録用紙を給紙してから排紙するまでの時間であり、この時間には、記録ヘッドによって記録用紙に記録を行っている時間及び記録ヘッドの往復動作時に記録用紙の記録領域から外れて記録ヘッドの走査方向を切り替える時間も含まれる。表面温度が90℃になる通電条件は、事前に検討した結果により求めたものである。
【0063】
記録動作後におけるフェイス面の濡れ状態を観察すると、発熱素子によって加熱されたインクの粘度が低下したために、液体流路15を通ってインクミストの液体が広がっていた。このため、親水溝10の内部にインクミストのかたまりが発生する状態が、親水溝10の内部に液体流路15が設けられていない構成と比較して低減されていた。この状況から引き続いて、記録動作を更に継続して行ったが、インク滴の不吐出は発生せずに、親水溝10に発熱素子11が設けられていない構成と比較して記録可能なドット数が増加した。
【0064】
また、図14に示すように、1つの親水溝10の内部に複数の発熱素子11が設けられ、かつ、発熱素子11の上方に液体流路15が設けられる構成においても上述と同様に、発熱素子11の上方の液体を、液体流路15に沿って広げることができる。そして、液体の温度を効率良く上昇させ、蒸発や粘度の低下を促進させることができ、記録動作を行ったときにインク滴の不吐出が発生せずに、親水溝10に発熱素子11が設けられていない構成と比較して記録可能なドット数が増加した。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態のインクジェット記録装置の概観を示す斜視図である。
【図2】本実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す全体図である。
【図3】第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。
【図4】第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す断面図である。
【図5】第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドの他の構成例を示す平面図である。
【図6】第2の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。
【図7】第3の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。
【図8】本実施形態のインクジェット記録ヘッドにインクミストが付着した状態を示す平面図である。
【図9】第3の実施形態のインクジェット記録ヘッドの他の構成例を示す平面図である。
【図10】第4の実施形態のインクジェット記録ヘッドの他の例を示す平面図である。
【図11】第4の実施形態のインクジェット記録ヘッドの更に他の例を示す平面図である。
【図12】第5の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す平面図である。
【図13】(a)第5の実施形態のインクジェット記録ヘッドを示す図であって、(a)が断面図、(b)が(a)における液体流路の拡大図である。
【図14】第5の実施形態のインクジェット記録ヘッドの他の例を示す断面図である。
【図15】ウエットワイピング動作時の状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0066】
1 インクジェット記録ヘッド
2a ヘッド基板
2b ノズル構造体
3 インク供給口
5 凹部
8 吐出口
9 吐出口列
10 親水溝
11 発熱素子
15 液体流路
16 液体流路形成部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録材に対して相対的に移動しながら吐出口から被記録材にインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッドであって、
複数の前記吐出口が配列されてなる吐出口列が前記相対的に移動する方向に複数列設けられ、
前記吐出口列の間の位置には、内面が親水性を有する凹状の溝が前記吐出口列の長手方向に沿って連続的に形成され、前記溝の内部に発熱素子が設けられていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
複数の前記溝を有し、
前記発熱素子が、前記複数の溝のうちの一部の前記溝のみに設けられている、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記発熱素子は個別に配線されている、請求項1又は2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記発熱素子は、異なる色のインク滴を吐出する前記吐出口列の間に配置された前記溝内にのみ設けられている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
1つの前記溝の内部には、複数の前記発熱素子が前記溝の長手方向に沿って設けられている、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記発熱素子は、前記溝の長手方向の中央部にのみ設けられている、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
前記溝の内部には、前記発熱素子の上方に液体流路が前記溝の長手方向に沿って設けられている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】
前記溝の内部には、複数の前記発熱素子及び複数の前記液体流路が前記溝の長手方向に沿ってそれぞれ設けられている、請求項7に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項9】
前記溝は、短手方向の幅が長手方向に沿って変化されている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項10】
前記吐出口列の間には、複数の前記溝が配置されている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項11】
被記録材に対して相対的に移動しながら吐出口から前記被記録材にインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッドの制御方法であって、
複数の前記吐出口が配列されてなる吐出口列が前記相対的に移動する方向に複数列設けられ、前記吐出口列の間の位置に、内面が親水性を有する凹状の溝が前記吐出口列の長手方向に沿って連続的に形成され、前記溝の内部に発熱素子が設けられたインクジェット記録ヘッドを用いて、
前記発熱素子に通電しながら記録を行うことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの制御方法。
【請求項12】
複数の前記溝が設けられた前記インクジェット記録ヘッドを用いて、
最も外周側に位置する前記吐出口列の外周側に前記溝が設けられ、該溝の内部に設けられた発熱素子以外の発熱素子に記録動作中に通電する、請求項11に記載のインクジェット記録ヘッドの制御方法。
【請求項13】
複数の前記溝が設けられた前記インクジェット記録ヘッドを用いて、
最も外周側に位置する前記吐出口列の外周側に前記溝が設けられ、該溝の内部に設けられた発熱素子に記録動作中に通電する電力よりも、該発熱素子以外の発熱素子に通電する電力が大きい、請求項11に記載のインクジェット記録ヘッドの制御方法。
【請求項14】
被記録材に対して相対的に移動しながら吐出口から前記被記録材にインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッドの制御方法であって、
複数の前記吐出口が配列されてなる吐出口列が前記相対的に移動する方向に複数列設けられ、前記吐出口列の間の位置に、内面が親水性を有する凹状の溝が前記吐出口列の長手方向に沿って連続的に形成され、1つの前記溝の内部の長手方向に沿って複数の発熱素子が設けられたインクジェット記録ヘッドを用いて、
前記溝の長手方向の少なくとも中央部に配置された前記発熱素子に通電しながら記録を行う第1の記録状態と、該第1の記録状態よりも多くの前記発熱素子に通電しながら記録を行う第2の記録状態とに制御する、インクジェット記録ヘッドの制御方法。
【請求項1】
被記録材に対して相対的に移動しながら吐出口から被記録材にインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッドであって、
複数の前記吐出口が配列されてなる吐出口列が前記相対的に移動する方向に複数列設けられ、
前記吐出口列の間の位置には、内面が親水性を有する凹状の溝が前記吐出口列の長手方向に沿って連続的に形成され、前記溝の内部に発熱素子が設けられていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
複数の前記溝を有し、
前記発熱素子が、前記複数の溝のうちの一部の前記溝のみに設けられている、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記発熱素子は個別に配線されている、請求項1又は2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記発熱素子は、異なる色のインク滴を吐出する前記吐出口列の間に配置された前記溝内にのみ設けられている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
1つの前記溝の内部には、複数の前記発熱素子が前記溝の長手方向に沿って設けられている、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記発熱素子は、前記溝の長手方向の中央部にのみ設けられている、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
前記溝の内部には、前記発熱素子の上方に液体流路が前記溝の長手方向に沿って設けられている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】
前記溝の内部には、複数の前記発熱素子及び複数の前記液体流路が前記溝の長手方向に沿ってそれぞれ設けられている、請求項7に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項9】
前記溝は、短手方向の幅が長手方向に沿って変化されている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項10】
前記吐出口列の間には、複数の前記溝が配置されている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項11】
被記録材に対して相対的に移動しながら吐出口から前記被記録材にインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッドの制御方法であって、
複数の前記吐出口が配列されてなる吐出口列が前記相対的に移動する方向に複数列設けられ、前記吐出口列の間の位置に、内面が親水性を有する凹状の溝が前記吐出口列の長手方向に沿って連続的に形成され、前記溝の内部に発熱素子が設けられたインクジェット記録ヘッドを用いて、
前記発熱素子に通電しながら記録を行うことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの制御方法。
【請求項12】
複数の前記溝が設けられた前記インクジェット記録ヘッドを用いて、
最も外周側に位置する前記吐出口列の外周側に前記溝が設けられ、該溝の内部に設けられた発熱素子以外の発熱素子に記録動作中に通電する、請求項11に記載のインクジェット記録ヘッドの制御方法。
【請求項13】
複数の前記溝が設けられた前記インクジェット記録ヘッドを用いて、
最も外周側に位置する前記吐出口列の外周側に前記溝が設けられ、該溝の内部に設けられた発熱素子に記録動作中に通電する電力よりも、該発熱素子以外の発熱素子に通電する電力が大きい、請求項11に記載のインクジェット記録ヘッドの制御方法。
【請求項14】
被記録材に対して相対的に移動しながら吐出口から前記被記録材にインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッドの制御方法であって、
複数の前記吐出口が配列されてなる吐出口列が前記相対的に移動する方向に複数列設けられ、前記吐出口列の間の位置に、内面が親水性を有する凹状の溝が前記吐出口列の長手方向に沿って連続的に形成され、1つの前記溝の内部の長手方向に沿って複数の発熱素子が設けられたインクジェット記録ヘッドを用いて、
前記溝の長手方向の少なくとも中央部に配置された前記発熱素子に通電しながら記録を行う第1の記録状態と、該第1の記録状態よりも多くの前記発熱素子に通電しながら記録を行う第2の記録状態とに制御する、インクジェット記録ヘッドの制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−608(P2010−608A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159135(P2008−159135)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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