説明

インクジェット記録ヘッド用基板、インクジェット記録ヘッド用基板の製造方法、インクジェット記録ヘッドおよびインクジェット記録装置

【課題】電極パッド部周辺へのインク侵入の検知感度を高める。
【解決手段】このインクジェット記録ヘッド用基板は、インクを吐出するためのエネルギーを発生する発熱素子と、フレキシブル配線基板に設けられた電極リードと発熱素子とを電気的に接続する電気配線32と、電気配線32を保護する保護膜33と、電極リードを接合するため電気配線32の上の保護膜を開口してなる電極パッド14と、電極パッド14と電極リードとの電気接合部を保護するための封止樹脂が塗布される領域と、を有する。封止樹脂が塗布される領域には、インクを検知するための検知電極1が設けられている。検知電極1は、保護膜33から露出される金属配線で形成されている。さらに、保護膜33の、該金属配線を露出するための開口の幅よりも、該金属配線の幅が狭くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出口よりインク液滴を吐出させることにより記録を行うインクジェット記録ヘッドに用いられるインクジェット記録ヘッド用基板、および該インクジェット記録ヘッド用基板の製造方法に関する。さらに、このようなインクジェット記録ヘッド用基板を有するインクジェット記録ヘッドと、このようなインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッドの一例としては、図8に示すようなインクジェット記録チップが組み込まれている。
【0003】
図8において(a)はその平面図、(b)は底面図、(c)は側面図である。インクジェット記録チップ61にはその裏面からインクを供給するための貫通穴(インク供給口)62が形成されている。
【0004】
インクジェット記録ヘッド用基板11の表面にはインクに吐出エネルギーを付与するための発熱素子(不図示)が貫通穴62の両側にそれぞれ複数配列されている。
【0005】
またインクジェット記録ヘッド用基板11上には吐出口プレート12が設けられ、この吐出口プレート12には、複数の発熱素子にそれぞれ対向するように複数の吐出口13が形成されている。
【0006】
そして、インクジェット記録ヘッド用基板11の表面の両端部には複数の発熱素子にそれぞれ電気的に接続された複数の電極パッド14が配置されている。
【0007】
図9に示すように、インクジェット記録ヘッド用基板11に設けられた複数の電極パッド14と、フレキシブルフィルム配線基板71に設けられた複数の電極リード72とが、例えばTAB技術等によって電気的に接続される。これによりインクジェット記録素子ユニット73が出来る。
【0008】
インクジェット記録素子ユニット73は、記録装置との接続に用いられるコンタクトパッド74を有する。また、図9中に符号15で示される点線部は、電極パッド14と電極リード72とが接続された後に封止樹脂によって被覆保護される領域である。
【0009】
その後、図10に示すように、インクタンク81上に記録素子ユニット73が貼り付けられる。そして、記録素子ユニット73内の電極パッドと電極リードとの電気的接続部を、インクによる腐食や外部からの力による断線から保護するために、接続部全体を封止樹脂82によって被覆保護しインクジェット記録ヘッド83が完成する。コンタクトパッド74はインクジェット記録ヘッド83とインクジェット記録装置との接続に用いられる。
【0010】
このようなインクジェット記録ヘッドにおいては、吐出口からのインクの漏れにより問題が発生することがあり、特許文献1においてフレキシブル基板上にインク漏れ検知センサを配置する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−60954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、インクジェット記録ヘッドが駆動されたとき、記録ヘッド自身が昇温し非駆動時には冷却される。そのため、この熱の影響により、インクジェット記録ヘッドを構成する各要素は、それぞれが僅かに膨張、収縮を繰り返す。
【0013】
したがって、前記電気接続部においては、インクジェット記録ヘッド用基板と封止樹脂との線膨張係数が異なるため、まれにインクジェット記録ヘッド用基板と封止樹脂との界面に剥がれが生じる場合があった。
【0014】
また、このようなインクジェット記録ヘッドを例えば高温高湿環境において長期使用する場合においては、封止樹脂が徐々に劣化し、インクジェット記録ヘッド用基板と封止樹脂との界面で剥がれが生じる場合があった。
【0015】
その結果、インクジェット記録ヘッド用基板に設けられた複数の電極パッドと、フレキシブルフィルム配線基板に設けられた複数の電極リードとの電気接合部にインクが浸入し、印字不良などの誤動作を起こすことがあった。そのため、連続印字を行っていた場合などでインクや用紙を無駄に使用してしまうという問題があった。
【0016】
本発明の目的は、上記のような問題点の少なくとも一つを解決するインクジェット記録ヘッド用基板を提供することにある。その目的の一例は、電極パッド部周辺へのインク侵入の検知感度を高め、印字不良などの誤動作を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の一態様のインクジェット記録ヘッド用基板は、インクを吐出するためのエネルギーを発生する素子と、フレキシブル配線基板に設けられた電極リードと素子とを電気的に接続する電気配線と、電気配線を保護する保護膜と、電極リードを接合するため電気配線の上の保護膜を開口してなる電極パッドと、電極パッドと電極リードとの電気接合部を保護するための封止樹脂が塗布される領域と、を有する。
【0018】
封止樹脂が塗布される領域には、インクを検知するための検知電極が設けられている。検知電極は、保護膜から露出される金属配線で形成されている。さらに、保護膜の、金属配線を露出するための開口の幅よりも、金属配線の幅が狭くなっている。このような構成により、上記問題点が解決される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、仮に電極パッド部周辺へインクが浸入した場合に、浸入したインクの検知感度を高めることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のインクジェット記録ヘッド用基板の電極パッド部周辺の拡大図。
【図2】図1のA−A断面図。
【図3】本発明に係る電極パッド部の断面図。
【図4】本発明に係る、インクを検知するための検知電極の配線部の断面図。
【図5】本発明に係る、インクを検知するための検知電極を形成する金属配線の接続回路の一例を示す図。
【図6】本発明に係るインクを検知するための検知電極についての他の実施例を示す図。
【図7】図6のB−B断面図。
【図8】インクジェット記録チップを示す三面図。
【図9】インクジェット記録素子ユニットを示す平面図。
【図10】インクジェット記録ヘッドを示す斜視図。
【図11】インクジェット記録装置を示す斜視図。
【図12】本発明に係るインクを検知するための検知電極についての他の実施例を示す図。
【図13】本発明に係るインクを検知するための検知電極の作製工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書において、「記録」とは、文字、図形等の有意の情報を形成する場合に限られない。要するに、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合を含む。
【0022】
ここで、「記録媒体もしくは被記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板等、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能な物も言うものとする。
【0023】
さらに、「インク」(「液体」という場合もある)とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。すなわち、記録媒体上に付与され、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固又は不溶化)に供され得る液体を言うものとする。
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ここでは、背景技術の欄で図8を基に説明した構成と同一の部位については同一符号を用いて説明する。
【0025】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1によるインクジェット記録ヘッド用基板の電極パッド部周辺の拡大図である。
【0026】
図1において、インクジェット記録ヘッド用基板11上には、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子および吐出口プレート12が設けられている。本実施例において、エネルギー発生素子は電気熱変換体(ヒータ)からなる発熱素子である。この吐出口プレート12には、複数の発熱素子(不図示)にそれぞれ対向するように複数の吐出口13が形成されている。
【0027】
そして、インクジェット記録ヘッド用基板11の表面の端部には複数の発熱素子にそれぞれ電気的に接続された複数の電極パッド14が配置されている。この電極パッド14の近くに、インクを検知するための検知電極1としての金属配線が設けられている。
【0028】
ここで、インクを検知するための検知電極1は上層を保護膜で被覆されていない金属配線である。また、図中の符号15で示す点線部は、電極パッド14と電極リードとが接続された後に封止樹脂によって被覆保護される領域である。
【0029】
図2は図1のA−A断面図である。この図に示すように、インクジェット記録ヘッド用基板11の基材であるSi基板31上に発熱素子(不図示)が外部の配線と電気的に接続するための電気配線32が作製されている。そして、この電気配線32と同層に、インクを検知するための検知電極1である金属配線が、成膜フォトリソグラフィ工程によって電気配線32と同工程で作製される。
【0030】
さらに、電気配線32および検知電極1を覆うようにSi基板31上に保護膜33が積層される。そして、電気配線32の上の保護膜を開口して電極パッド14を形成すると共に、インクを検知するための検知電極1としての金属配線上の保護膜を開口して露出させることにより、インクジェット記録ヘッド用基板11が完成する。
【0031】
このように、検知電極1としての金属配線は電気配線32と同工程で作り込まれている。
【0032】
検知電極1としての金属配線の材質としては、電気配線32と同一の材料を使用することが好ましい。その材料の一例としてはアルミニウム単体、アルミニウムにシリコンを添加したもの、またはアルミニウムに銅を添加したものなどがあり、アルミニウムを含んだ材料が適時使用できる。これらの材料はインクに対して比較的腐食しやすい性質であるため、後述するようにインクの検知電極として適している。
【0033】
また、検知電極1としての金属配線としては、侵入してきたインクにより早期に腐食および断線させるために、配線幅は細く、また、配線膜厚は薄くすることが望ましい。配線幅としては例えば1μm〜10μm、配線膜厚としては発熱素子用の電気配線の配線抵抗などを考慮して例えば50nm〜500nmの範囲において、要求される仕様やプロセスの条件などにより適時選択することが出来る。
【0034】
ここで、インクを検知するための検知電極1としての金属配線と、保護膜33の開口とについて更に詳しく述べる。
【0035】
一般に、電極パッド部の開口サイズの場合は、図3に示されるように電気配線32の幅(Wd1)よりも電極パッド14の保護膜33の開口部の幅(Wh1)を小さくする(Wd1>Wh1)ことが知られている。これは保護膜33により、電極パッド部をインク等の液体から確実に保護するためである。
【0036】
これに対し、インクを検知するための検知電極1を露出する開口は図4の様になっている。すなわち、検知電極1である金属配線の幅(Wd2)より保護膜33の開口部の幅(Wh2)が大きくなる(Wd2<Wh2)ように、寸法が設定されている。
【0037】
このように形成することにより、インクを検知するための金属配線が保護膜33より完全にむき出し状態になっている。
【0038】
これは、インクが侵入してきたときの腐食および断線を起こりやすくするためでありインク侵入の検知感度を高めている構造である。
【0039】
また検知電極1と保護膜33との間に隙間が形成されている。これにより、仮にインクが流れ出たときにこの隙間の毛管力によりインクが保持されることで、検知電極が腐食し易くなり、その結果断線が起こり易くなり検知精度が高まる。
【0040】
このように、インクを検知するための検知電極1の金属配線に対する開口寸法は、通常の電極パッドなどの開口寸法を決める際の考え方とは根本的に異なるものである。
【0041】
この金属配線の接続回路の一例を図5に示す。電極パッド14の周辺に金属配線からなる検知電極1が配置され、その金属配線の一方の端部は論理回路21に接続されている。さらに、その金属配線の他方の端部は吐出エネルギー発生用発熱素子を駆動するためのロジック回路22及びロジック回路用電源23に分岐接続されている。
【0042】
このように構成することにより、電源供給用の電極パッドを追加することなく金属配線の検知電極1への電源供給が可能であり、ひいてはインクジェット記録ヘッド用基板を大きくする必要が無い。
【0043】
本実施例において論理回路21は、論理積を演算するAND回路であり、2系統の金属配線からの入力が入っている。しかしこれに限定するものではなく適時3系統、4系統など選択できる。
【0044】
正常時には論理回路21には電源からの電位供給によりハイレベルの信号が入力され、その結果ハイレベル信号が出力される。これに対し、金属配線の検知電極1にインクが侵入してくると、検知電極1の上層が保護膜により被覆されていないためにインクにより金属配線の検知電極1が腐食および断線する。
【0045】
そのため、論理回路21には電源からの電位供給が無くなり、プルダウン抵抗によりGND電位に落とされ、ローレベルの信号が入力し、その結果ローレベルの信号が出力されることになる。
【0046】
このように構成することにより、電極パッド部周辺のインク侵入を検知することが可能となる。
【0047】
インクの侵入を検知した信号をインクジェット記録装置に知らせる方法としては色々あるが、専用の出力用の電極パッドを設ける方法が最も簡単な方法である。
【0048】
なお、図9に示すように、本実施例のインクジェット記録ヘッド用基板11の複数の電極パッド14と、フレキシブルフィルム配線基板71に設けられた複数の電極リード72とが、例えばTAB技術等によって電気的に接続される。これによりインクジェット記録素子ユニット73が出来る。
【0049】
インクジェット記録素子ユニット73は、記録装置との接続に用いられるコンタクトパッド74を有する。また、図9中に符号15で示される点線部は、電極パッド14と電極リード72とが接続された後に封止樹脂の塗布によって被覆保護される領域である。
【0050】
その後、図10に示すように、インクタンク81上に記録素子ユニット73が貼り付けられる。そして、記録素子ユニット73内の電極パッドと電極リードとの電気的接続部を、インクによる腐食や外部からの力による断線から保護するために、接続部全体を封止樹脂82によって被覆保護しインクジェット記録ヘッド83が完成する。コンタクトパッド74はインクジェット記録ヘッド83とインクジェット記録装置との接続に用いられる。
【0051】
さらに、本実施例のインクジェット記録ヘッド83を用いたインクジェット記録装置は、図11に示されるように構成される。すなわち、紙などの記録媒体の搬送を行う紙送り機構が記録装置本体のメインフレーム92に設けられている。さらに、メインフレーム92には、インクジェット記録ヘッド83を搭載し紙の搬送方向と交差する(好ましくは直交する)方向に往復移動するキャリッジ93が備えられている。
【0052】
ここでは、キャリッジ93上に搭載されるインクジェット記録ヘッド83の形態が、記録ヘッドとインクカートリッジを一体化したインクジェット記録ヘッドの一例を示している。
【0053】
しかし、インクジェット記録ヘッドとインクカートリッジが分離型の場合には、インクカートリッジは交換可能な構成とされ、インクジェット記録ヘッドはキャリッジ上に固定される構成あるいはキャリッジに対して着脱可能な構成のいずれかを適時採用される。
【0054】
(実施例2)
インクを検知するための検知電極として他の実施例を図12を用いて述べる。図12では、インクを検知するための検知電極の断面構造として2層構成となっており、検知電極の上層部2の幅と下層部3との幅を比較して下層部3の幅の方が小さいことが特徴である。このような断面構造にすることにより侵入してきたインクが検知電極の上層部2に対して上面、側面、下面の3方向から腐食が進行させることができ、より検知感度を高められる点で好ましい。
【0055】
検知電極の上層部2としては、上述した実施例で説明した電気配線32と同一の材料を使用することができる。その材料の一例としてはアルミニウム単体、アルミニウムにシリコンを添加したもの、またはアルミニウムに銅を添加したものなどがあり、アルミニウムを含んだ材料が適時使用できる。これらの材料はインクに対して腐食しやすい性質であることが知られておりインクの検知電極として適している。
【0056】
また、検知電極の上層部2がさらに多層(複数層)になっていても良く、例えば、アルミニウムを含んだ材料と密着向上のための材料であるTi、Crなどからなる多層構成とすることができる。また、検知電極の下層部3としては、発熱素子と同一の材料を使用することができ、TaSiNやTaNなどを適時使用できる。
【0057】
このように検知電極の上層部2を電気配線と同一の材料で構成し、下層部3を発熱素子と同一材料により構成することにより、上層部のシート抵抗を下層部のシート抵抗よりも低くすることができる。これによりシート抵抗が低い上層部がよりインクに対して腐食しやすくなり、腐食した時の抵抗値変化量が大きくなり検知感度を高められる点で好ましい。
【0058】
次に、この検知電極の断面構造を作製する工程について図13を用いて説明する。簡略化のため、検知電極の周辺部に特化して説明を行う。
【0059】
まず図13(a)に示すように、Si基板31上に検知電極の下層部3としてTaSiN、および上層部2として銅添加アルミニウムをスパッタリング法により順次積層する。
【0060】
次に、図13(b)のように、フォトリソ技術により検知電極の上層部2と下層部3を所定のパターンにパターニングする。
【0061】
その後、図13(c)のように、保護膜33としてSiNをパターニングされた検知電極を覆うようにCVD法により成膜する。
【0062】
最後に図13(d)に示すように、検知電極が開口するような位置にフォトリソ技術によりレジスト(不図示)をパターニングし、ドライエッチング技術により保護膜33をエッチングし開口させる。ここで、保護膜33をエッチングする時のオーバーエッチング時に検知電極の下層部3を同時にエッチングする。
【0063】
このように検知電極の下層部としてTaSiNを、保護膜としてSiNを用いることにより、下層部の組成は、保護膜の組成の少なくとも1元素以上同じものを含んでいる。こうすることにより、保護膜のエッチング時における検知電極の上層部の材料のエッチング速度よりも下層部の材料のエッチング速度を速くすることが可能となり、上層部の幅よりも下層部の幅の方を狭く作製できる。
【0064】
(実施例3)
電極パッド部周辺のインクの侵入を検知した信号をインクジェット記録装置に知らせる方法としての他の実施例を述べる。
【0065】
インクジェット記録装置にインクジェット記録ヘッドを搭載するときの電気接続部の接続状態を確認するための接続状態出力回路が設けられている場合などは、この回路を利用することにより、新たな出力用電極パッドを設ける必要が無くて済む。この結果、インクジェット記録ヘッド用基板を大きくする必要が無い。
【0066】
このような構成では、論理回路からの出力信号を接続状態出力回路の入力側に接続して入力することにより、インク侵入の検知信号により、接続状態出力回路からの出力信号を変化させることが出来、インクジェット記録装置側への信号伝達が可能となる。
【0067】
(実施例4)
インクを検知するための検知電極の配置について他の実施例を図6を用いて述べる。
【0068】
本実施例では図6に示すように、電極パッド14の各々の周囲(例えば四方)を囲むように、検知電極1である金属配線が配されている。このように配置することにより、電極パッド14に対してインクがあらゆる方向から侵入してきても、インクの侵入を検知することが可能となる。
【0069】
図7は図6のB−B断面図である。
【0070】
発熱素子を外部の配線と電気的に接続するための電気配線が、第1の電気配線51と第2の電気配線53に多層配線化されている。
【0071】
インクジェット記録ヘッド用基板11の基材であるSi基板31上に第1の電気配線51が積層され、第1の電気配線51上に層間絶縁膜52が積層されている。さらに、この上層に、第2の電気配線53と、インクを検知するための検知電極1である金属配線とが、成膜フォトリソグラフィ工程によって同時に作製される。
【0072】
第1の電気配線51と第2の電気配線53とは層間絶縁膜52の開口部を通して電気的に接続されている。
【0073】
さらに、第2の電気配線53および検知電極1を覆うようにSi基板31上に保護膜33が積層される。そして、第2の電気配線53の上の保護膜を開口して電極パッド14を形成すると共に、インクを検知するための検知電極1としての金属配線上の保護膜を開口して露出させる。これにより、インクジェット記録ヘッド用基板11が完成する。
【0074】
以上の各実施例のような本発明は、電極パッド封止部にインクが侵入してきたときに、保護膜で被覆されていない金属配線からなる検知電極1がインクにより腐食および断線することにより、インクの侵入を検知することが出来る。そして、当該インク侵入をインクジェット記録装置へ知らせることにより、即座に印字信号および発熱素子への電力供給を停止することが出来る。
【符号の説明】
【0075】
1 インクを検知するための検知電極としての金属配線
2 インクを検知するための検知電極としての金属配線の上層部
3 インクを検知するための検知電極としての金属配線の下層部
11 インクジェット記録ヘッド用基板
14 電極パッド
15 封止樹脂によって被覆保護される領域
32 電気配線
33 保護膜
71 フレキシブルフィルム配線基板
72 電極リード
82 封止樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するためのエネルギーを発生する素子と、
フレキシブルフィルム配線基板に設けられた電極リードと前記素子とを電気的に接続する電気配線と、
前記電気配線を保護する保護膜と、
前記電極リードを接合するため前記電気配線の上の前記保護膜を開口してなる電極パッドと、
前記電極パッドと前記電極リードとの電気接合部を保護するための封止樹脂が塗布される領域と、を有するインクジェット記録ヘッド用基板において、
前記封止樹脂が塗布される領域に、インクを検知するための検知電極が設けられており、
前記検知電極は、前記保護膜から露出される金属配線で形成されており、
前記保護膜の、前記金属配線を露出するための開口の幅よりも、前記金属配線の幅が狭いことを特徴とするインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項2】
前記金属配線は、前記電気配線を形成する金属と同一の材料で形成されており、アルミニウムを含んだ材料からなっていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項3】
前記金属配線は上層部と下層部との複数層からなり、前記上層部の幅より前記下層部の幅の方が小さいことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項4】
前記上層部は複数層で構成されることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項5】
前記上層部のシート抵抗が、前記下層部のシート抵抗よりも低いことを特徴とする請求項3または4に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項6】
前記下層部の組成は、前記保護膜の組成の少なくとも1元素以上同じものを含んでいることを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項7】
前記金属配線は一方の端部が論理回路に接続され、かつ他方の端部が電源供給用の電極パッドに接続されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項8】
前記金属配線の前記電源供給用の電極パッドへの接続は、前記発熱素子を駆動するための論理回路および該論理回路の電源に分岐接続されていることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録ヘッド用基板。
【請求項9】
前記金属配線は、前記電極パッドの周囲を囲むように配置されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド用基板と、外部との電気接続を行うためのコンタクトパッドと、を有するインクジェット記録ヘッド。
【請求項11】
請求項10に記載のインクジェット記録ヘッドと、該インクジェット記録ヘッドを搭載して移動されるキャリッジと、を有するインクジェット記録装置。
【請求項12】
インクを吐出するためのエネルギーを発生する素子と、フレキシブルフィルム配線基板に設けられた電極リードと前記素子とを電気的に接続する電気配線と、前記電気配線を保護する保護膜と、前記電極リードを接合するため前記電気配線の上の前記保護膜を開口してなる電極パッドと、インクを検知するための金属配線からなる検知電極と、を有するインクジェット記録ヘッド用基板の製造方法において、
前記電極パッドと前記電極リードとの電気接合部を保護するための封止樹脂が塗布される領域に、上層部と下層部との複数層からなる金属配線を形成する工程と、
前記金属配線をエッチングすることにより前記上層部の幅より前記下層部の幅の方が小さい金属配線を形成工程と、を含むことを特徴とするインクジェット記録ヘッド用基板の製造方法。
【請求項13】
前記上層部のエッチング速度より前記下層部のエッチング速度の方が速いことを特徴とする請求項12に記載のインクジェット記録ヘッド用基板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2010−23480(P2010−23480A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30896(P2009−30896)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】