説明

インクジェット記録方法とインクジェット記録用インク

【課題】 UVインクジェット記録方式においてUV光に対し十分な硬化感度を持ち、作成された画像の残留開始剤量が少なく、臭気や画像が黄変することなく画像保存性がよいインクジェット記録方法とインクジェット記録用インクを提供することである。
【解決手段】 少なくとも重合性モノマーとその3質量%以上の光重合開始剤を含有するUV硬化型インクを用いて記録画像を形成するインクジェット記録方法において、該光重合開始剤1g/m2当たりUVC光を20mJ/cm2以上照射することにより、記録画像中に含まれる未反応重合開始剤の残存量を2.5質量%未満にすることを特徴とするインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録方法とそれに用いるインクジェット記録用インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用に用いられるUV硬化型インクは、オフセット、フレキソ、スクリーン方式等の印刷に用いられるUV硬化型インクに比べて光重合開始剤(以下、単に開始剤ということもある)の含有量が多いが、それは下記の如く種々の理由によっている。
【0003】
まず、インクジェット記録用に用いられるUV硬化型インクは、ノズルから噴射されるために極めて低粘度にする必要がある。このためインク中での物質の拡散が起こりやすく、加えて微粒状にするので酸素や水分などの反応阻害物質が外部から供給されやすい。
【0004】
又、色材である顔料がUV光を吸収するため、開始剤の紫外線吸収量を確保するには、それに見合う量の開始剤濃度としなければならない。
【0005】
更に、インクジェット記録方式は、その他の印刷方式に比べて同じ発色濃度を得るためには、厚い膜とせねばならない。これはベタ画像を形成するにはドットをオーバーラップさせる必要があり、ミクロ的には不均一な塗膜にならざるを得ず、カバリングパワーが低くなるためである。
【0006】
これらの理由から、UVインクジェット記録方式にて作成された画像層中には、開始剤の分解物及び未反応の開始剤が多量に含有されることになる。開始剤の分解物及び残留開始剤は臭気を出す点が問題となり、又、開始剤は芳香族基により紫外線吸収性能を上げることが行われているが、この芳香族基に起因する黄変により長期保存時の画像品質が低下する。
【0007】
ところが、インクジェット記録方式によって作成された画像はラミネート加工或いはエンボス処理等加熱を伴う後処理が成されることがあり、その際悪臭の発生や黄変を起こすことがあった。
【0008】
上記の如き、臭気や黄変の防止策としては、光重合開始剤の分子量を大きくし多感能性とする(例えば特許文献1)、不活性ガスによるパージを行う(例えば特許文献2)、高照度光源により開始剤利用効率を上げる、電子線照射により開始剤フリーとする等が検討されている。しかしながら、開始剤の分子量を大きくしても臭気対策には有効であるが黄変等の対策にはならない。又、不活性ガスでパージし開始剤量を減らす方法は、装置コスト・サイズの点から現実的な方策とはいえず、高照度光源を用いても開始剤減量効果に限界があり光源の発熱など他の問題を派生する。さらに、電子線を照射する方法も装置的にコスト・機構問題等があり一般的ではない。
【0009】
尚、マレイミド化合物等、光重合開始剤を必要としない反抗系も考えられるが、基本的なインクジェットインク適性である低粘度化が達成しにくく、インク組成が極めて制約されたものとなる。
【0010】
従って、インクジェットインクとしての本質的な性能が高く、且つ、臭気や黄変問題のないインクジェットインクは未だ得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開2005−60521号公報
【特許文献2】米国特許6550905B1明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、UVインクジェット記録方式においてUV光に対し十分な硬化感度を持ち、作成された画像の残留開始剤量が少なく、臭気や画像が黄変することなく画像保存性がよいインクジェット記録方法とインクジェット記録用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、下記構成を採ることにより達成される。
【0013】
(1)
少なくとも重合性モノマーとその3質量%以上の光重合開始剤を含有するUV硬化型インクを用いて記録画像を形成するインクジェット記録方法において、該光重合開始剤1g/m2当たりUVC光を20mJ/cm2以上照射することにより、記録画像中に含まれる未反応重合開始剤の残存量を2.5質量%未満にすることを特徴とするインクジェット記録方法。
【0014】
(2)
一回のUVC光照射により硬化させるインク量は、光重合開始剤を1g/m2未満含有する量であることを特徴とする(1)記載のインクジェット記録方法。
【0015】
(3)
前記光重合開始剤中のアリール基の含有量が、0.6モル/kg以下であることを特徴とする(1)又は(2)記載のインクジェット記録方法。
【0016】
(4)
(1)〜(3)のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法に用いることを特徴とするインクジェット記録用インク。
【0017】
本発明においては、実用上十分な感度を持たせるために、インク総量に対し3質量%以上の光重合開始剤を含むインクジェット記録用インクを用いることを前提にしている。光重合開始剤の含有量の上限は15質量%、より好ましくは10質量%程度である。
【0018】
又、本願発明者の検討に因れば、記録画像膜中に含有される開始剤量が2.5質量%未満であれば、問題とされている臭気や画像の黄変といった問題が大幅に改善されることが判明した。より好ましくは2.0質量%以下に抑えるのがよい。又、記録画像膜中に含有される開始剤量を2.5質量%未満とするためには、厚膜を形成後ではなく出来るだけ逐次的にUV光を照射し、開始剤の分解を促すのが有効であることも判明した。尚、仕上がった画像を適正条件で加熱することにより未反応開始剤を揮発させる、あるいは溶媒などで洗浄し流出させて未反応開始剤を取り除く方法も有効である。
【0019】
発光波長100〜280nmの短波長UV光(UVC光)を用いて、1回の露光当たりの最大開始剤量が1g/m2以下となる量を照射することで、開始剤の分解を進め、残留量を低減することが出来る。さらに好ましくは0.6g/m2以下とするのがよい。又、開始剤に由来するアリール基の含有量は、インク中0.6モル/kg以下とするとよいことも判明した。
【0020】
この様に開始剤の画像膜中への残留量は、インク組成、記録方法により大きく変えることができる。本発明はこれら要件の規制値を具体的に定め、記録条件を制御することにより、臭気や保存画像の黄変といったUV光照射型のインクジェット記録方法の弱点を改善することが出来た。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、UVインクジェット記録方式においてUV光に対し十分な硬化感度を持ち、作成された画像の残留開始剤量が少なく、臭気や画像が黄変することなく画像保存性がよいインクジェット記録方法とインクジェット記録用インクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のインクジェット記録方法とインクジェット記録用インク、及びそれらに用いられる化合物や画像形成装置等についてさらに説明する。
【0023】
本発明に使用するインクについては、例えば特開2005−60521号公報及び特開2004−175906号公報等に記載されている、ラジカル重合タイプのもの、カチオン重合タイプのもののいずれでもよい。しかし、酸素阻害がなく開始剤量を低減できることから、特にカチオン重合タイプのものが好ましい。
【0024】
〔インクジェット記録用インク〕
重合性モノマーとしては、従来用いられてきたダウ・ケミカル社製のUVR6110やダイセル化学工業社製のセロキサイド2021P、セロキサイド3000あるいはセロキサイド2000、あるいはその他の単官能脂環式エポキシ化合物等を用いることができる。
【0025】
本発明の硬化性組成物には、更にオキセタン環を有する化合物を用いることが好ましい。用いることのできるオキセタン化合物としては、特開2001−220526号、同2001−310937号に紹介されているような、公知のオキセタン化合物をいずれも使用することができる。オキセタン化合物の添加量としては5〜80質量%の範囲が好ましい。
【0026】
また、本発明においては、エポキシ化脂肪酸エステル、エポキシ化脂肪酸グリセライドの少なくとも一種を用いるのが好ましい。オキセタン化合物およびまたは脂環式エポキシ化合物の系に併用することにより、AMES及び感作性などの安全・環境の観点で好ましいだけでなく、硬化環境(温度、湿度)により硬化収縮による皺の発生、硬化性・吐出性の不良などの従来からの問題点を解決することができる。しかし、添加量が20質量%を超えると、硬化膜強度が不足し問題となることがある。
【0027】
エポキシ化脂肪酸エステル、エポキシ化脂肪酸グリセライドは、脂肪酸エステル、脂肪酸グリセライドにエポキシ基を導入したものであれば、特に制限はなく用いられる。
【0028】
エポキシ化脂肪酸エステルとしては、オレイン酸エステルをエポキシ化して製造されたもので、エポキシステアリン酸メチル、エポキシステアリン酸ブチル、エポキシステアリン酸オクチル等が用いられる。また、エポキシ化脂肪酸グリセライドは、同様に、大豆油、アマニ油、ヒマシ油等をエポキシ化して製造されたもので、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化ヒマシ油等が用いられる。
【0029】
さらに、本発明では塩基性化合物が好ましく用いられる。塩基性化合物を含有することで、吐出安定性が良好となるばかりでなく、低湿下においても硬化収縮による皺の発生が抑制される。
【0030】
塩基性化合物としては、公知のあらゆるものを用いることができるが、代表的なものとして、塩基性アルカリ金属化合物、塩基性アルカリ土類金属化合物、アミンなどの塩基性有機化合物などがあげられる。
【0031】
前記の塩基性アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、アルカリ金属の炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコラート(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド等)が挙げられる。
【0032】
前記の塩基性アルカリ土類金属化合物としては、同様に、アルカリ土類金属の水酸化物(水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等)、アルカリ金属の炭酸塩(炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等)、アルカリ金属のアルコラート(マグネシウムメトキシド等)が挙げられる。
【0033】
塩基性有機化合物としては、アミンならびにキノリンおよびキノリジンなど含窒素複素環化合物などが挙げられるが、これらの中でも、光重合成モノマーとの相溶性の面からアミンが好ましく、例えば、オクチルアミン、ナフチルアミン、キシレンジアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、ジブチルアミン、ジオクチルアミン、ジメチルアニリン、キヌクリジン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチル−1,6−ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミンおよびトリエタノールアミンなどが挙げられる。
【0034】
塩基性化合物を存在させる際のその濃度は、光重合性モノマーの総量に対して10〜1000質量ppm、特に20〜500質量ppmの範囲であることが好ましい。なお、塩基性化合物は単独で使用しても複数を併用して使用してもよい。
【0035】
(光重合開始剤)
本発明の活性光線硬化型インクには、公知のあらゆる光重合開始剤(単に開始剤又は光酸発生剤ともいう)を用いることができる。
【0036】
光酸発生剤としては、例えば、化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物が用いられる(有機エレクトロニクス材料研究会編「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ページ参照)。本発明に好適な化合物の例を以下に挙げる。
【0037】
第1に、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウムなどの芳香族オニウム化合物のB(C654-、PF6-、AsF6-、SbF6-、CF3SO3-塩を挙げることができる。
【0038】
本発明で用いることのできるオニウム化合物の具体的な例を、以下に示す。
【0039】
【化1】

【0040】
第2に、スルホン酸を発生するスルホン化物を挙げることができ、その具体的な化合物を、以下に例示する。
【0041】
【化2】

【0042】
第3に、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物も用いることができ、以下にその具体的な化合物を例示する。
【0043】
【化3】

【0044】
第4に、鉄アレン錯体を挙げることができる。
【0045】
【化4】

【0046】
本発明に係るインクは、特開平8−248561号、特開平9−34106号をはじめとして、既に公知となっている活性光線の照射で発生した酸により新たに酸を発生する酸増殖剤を含有することが好ましい。酸増殖剤を用いることで、さらなる吐出安定性向上を可能とする。
【0047】
本発明に係るインクでは、対イオンとしてアリールボレート化合物を有するジアゾニウム、ヨードニウム又はスルホニウムの芳香族オニウム化合物、鉄アレン錯体から選ばれる少なくとも1種の光酸発生剤が含有されることが好ましい。
【0048】
特に、軟包装印刷、ラベル印刷分野においては、上記記録材料のしわの問題、吐出安定性の問題から、活性光線硬化型インクジェット記録が実用化されるまでには至っていなかったが、本発明は、それらの分野でも十分に使用し得る画像形成方法を提示するものである。
【0049】
(着色剤)
本発明の活性光線硬化型インクは、上述の活性光線硬化型組成物と共に、着色剤として各種公知の染料及び/または顔料を含有しているが、好ましくは顔料を含有しているものである。
【0050】
本発明で好ましく用いることのできる顔料を、以下に列挙する。
【0051】
C.I.Pigment Yellow 1,2,3,12,13,14,16,17,73,74,75,81,83,87,93,95,97,98,109,114,120,128,129,138,150,151,154,180,185
C.I.Pigment Red 5,7,12,22,38,48:1,48:2,48:4,49:1,53:1,57:1,63:1,101,112,122,123,144,146,168,184,185,202
C.I.Pigment Violet 19,23
C.I.Pigment Blue 1,2,3,15:1,15:2,15:3,15:4,18,22,27,29,60
C.I.Pigment Green 7,36
C.I.Pigment White 6,18,21
C.I.Pigment Black 7
また、本発明において、プラスチックフィルムのような透明基材での色の隠蔽性を上げる為に、白インクを用いることが好ましい。特に、軟包装印刷、ラベル印刷においては、白インクを用いることが好ましい。
【0052】
上記顔料の分散には、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等を用いることができる。
【0053】
また、顔料の分散を行う際に、分散剤を添加することも可能である。分散剤としては、高分子分散剤を用いることが好ましく、高分子分散剤としてはAvecia社のSolsperseシリーズや、味の素ファインテクノ社のPBシリーズが挙げられる。また、分散助剤として、各種顔料に応じたシナージストを用いることも可能である。これらの分散剤および分散助剤は、顔料100質量部に対し、1〜50質量部添加することが好ましい。分散媒体は、溶剤または重合性化合物を用いて行うが、本発明に用いる照射線硬化型インクでは、インク着弾直後に反応・硬化させるため、無溶剤であることが好ましい。溶剤が硬化画像に残ってしまうと、耐溶剤性の劣化、残留する溶剤のVOCの問題が生じる。よって、分散媒体は溶剤では無く重合性化合物、その中でも最も粘度の低いモノマーを選択することが分散適性上好ましい。
【0054】
顔料の分散は、顔料粒子の平均粒径を0.08〜0.5μmとすることが好ましく、最大粒径は0.3〜10μm、好ましくは0.3〜3μmとなるよう、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件を適宜設定する。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、インクの保存安定性、インク透明性および硬化感度を維持することができる。
【0055】
本発明に係るインクにおいては、着色剤濃度としては、インク全体の1質量%乃至10質量%であることが好ましい。
【0056】
〔その他の添加剤〕
本発明の活性光線硬化型インクには、上記説明した以外に様々な添加剤を用いることができる。例えば、界面活性剤、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類を添加することができる。
【0057】
〔インクの粘度〕
本発明のインクにおいては、25℃における粘度が7〜50mPa・sであることが、良好な硬化性を得るために好ましい。本発明における粘度とは、Physica社製粘弾性測定装置MCR300にて測定したシェアレート1000(1/s)の値である。
【0058】
〔基材(記録材料)〕
本発明で用いることのできる記録材料としては、通常の非コート紙、コート紙などの他、いわゆる軟包装に用いられる各種非吸収性のプラスチックおよびそのフィルムを用いることができ、各種プラスチックフィルムとしては、例えば、PETフィルム、OPSフィルム、OPPフィルム、ONyフィルム、PVCフィルム、PEフィルム、TACフィルムを挙げることができる。その他のプラスチックとしては、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ABS、ポリアセタール、PVA、ゴム類などが使用できる。また、金属類や、ガラス類にも適用可能である。
【0059】
これら、各種プラスチックフィルムの表面エネルギーは大きく異なり、記録材料によってインク着弾後のドット径が変わってしまうことが、従来から問題となっていた。本発明の構成では、表面エネルギーの低いOPPフィルム、OPSフィルムや表面エネルギーの比較的大きいPETまでを含む、表面エネルギーが35〜60mN/mの広範囲の記録材料に良好な高精細な画像を形成できる。
【0060】
本発明において、包装の費用や生産コスト等の記録材料のコスト、プリントの作製効率、各種のサイズのプリントに対応できる等の点で、長尺(ウェブ)な記録材料を使用する方が有利である。
【0061】
〔画像形成方法〕
次に、本発明の画像形成方法について説明する。
【0062】
本発明の画像形成方法においては、上記のインクをインクジェット記録方式により記録材料上に吐出、描画し、次いで紫外線などの活性光線を照射してインクを硬化させる方法が好ましい。
【0063】
(インク着弾後の総インク膜厚)
本発明では、記録材料上にインクが着弾し、活性光線を照射して硬化した後の総インク膜厚が好ましくは60μm以下、40μm以下であることがより好ましい。記録材料が薄いプラスチック材料であることが多い軟包装印刷分野では、前述した記録材料のカール・皺の問題でだけでなく、印刷物全体のこし・質感が変わってしまうという問題が有るため、過剰な膜厚のインク吐出は好ましくない。
【0064】
尚、ここで「総インク膜厚」とは記録材料に描画されたインクの膜厚の最大値を意味し、単色でも、それ以外の2色重ね(2次色)、3色重ね、4色重ね、6色重ね等のインクジェット記録方式で記録を行った場合でも総インク膜厚の意味するところは同様である。
【0065】
(インクの吐出条件)
インクの吐出条件としては、記録ヘッド及びインクを35〜100℃に加熱し、吐出することが吐出安定性の点で好ましい。活性光線硬化型インクは、温度変動による粘度変動幅が大きく、粘度変動はそのまま液滴サイズ、液滴射出速度に大きく影響を与え、画質劣化を起こすため、インク温度を上げながらその温度を一定に保つことが必要である。インク温度の制御幅としては、設定温度±5℃、好ましくは設定温度±2℃、更に好ましくは設定温度±1℃である。
【0066】
また、本発明では、各ノズルより吐出する液滴量が2〜15ngであることが好ましい。
【0067】
本来、高精細画像を形成するためには、液滴量がこの範囲であることが必要であるが、この液滴量で吐出する場合、前述した吐出安定性が特に厳しくなる。本発明によれば、インクの液滴量が2〜15ngのような小液滴量で吐出を行っても吐出安定性は向上し、高精細画像が安定して形成出来る。
【0068】
(インク着弾後の光照射条件)
本発明の画像形成方法においては、活性光線の照射条件として、インク着弾後0.001秒〜1.0秒の間に活性光線が照射されることが好ましく、より好ましくは0.001秒〜0.5秒である。高精細な画像を形成するためには、照射タイミングが出来るだけ早いことが特に重要となる。
【0069】
活性光線の照射方法として、その基本的な方法が特開昭60−132767号に開示されている。これによると、ヘッドユニットの両側に光源を設け、シャトル方式でヘッドと光源を走査する。照射は、インク着弾後、一定時間を置いて行われることになる。更に、駆動を伴わない別光源によって硬化を完了させる。米国特許第6,145,979号では、照射方法として、光ファイバーを用いた方法や、コリメートされた光源をヘッドユニット側面に設けた鏡面に当て、記録部へUV光を照射する方法が開示されている。本発明の画像形成方法においては、これらの何れの照射方法も用いることが出来る。
【0070】
また、活性光線を照射を2段階に分け、まずインク着弾後0.001〜2.0秒の間に前述の方法で活性光線を照射し、かつ、全印字終了後、更に活性光線を照射する方法も好ましい態様の1つである。活性光線の照射を2段階に分けることで、よりインク硬化の際に起こる記録材料の収縮を抑えることが可能となる。
【0071】
従来、UVインクジェット方式では、インク着弾後のドット広がり、滲みを抑制のために、光源の総消費電力が1kW・hrを超える高照度の光源が用いられるのが通常であった。しかしながら、これらの光源を用いると、特に、シュリンクラベルなどへの印字では、記録材料の収縮があまりにも大きく、実質上使用出来ないのが現状であった。
【0072】
本発明では、254nmの波長領域に最高照度をもつ活性光線(UVC)を用いる、総消費電力が1kW・hr以上の光源を用いても、高精細な画像を形成出来、且つ、記録材料の収縮も実用上許容レベル内に収められる。
【0073】
本発明においては、更に活性光線を照射する光源の総消費電力が1kW・hr未満であることが好ましい。総消費電力が1kW・hr未満の光源の例としては、蛍光管、冷陰極管、熱陰極管、LEDなどがあるが、これらに限定されない。
【0074】
(インクジェット記録装置)
次いで、本発明のインクジェット記録装置(以下、単に記録装置という)について説明する。
【0075】
以下、本発明の記録装置について、図面を適宜参照しながら説明する。尚、図面の記録装置はあくまでも本発明の記録装置の一態様であり、本発明の記録装置はこの図面に限定されない。
【0076】
図1は本発明の記録装置の要部の構成を示す概念図である。記録装置1は、ヘッドキャリッジ2、記録ヘッド3、照射手段4、プラテン部5等を備えて構成される。この記録装置1は、記録材料Pの下にプラテン部5が設置されている。プラテン部5は、紫外線を吸収する機能を有しており、記録材料Pを通過してきた余分な紫外線を吸収する。その結果、高精細な画像を非常に安定に再現できる。
【0077】
記録材料Pは、ガイド部材6に案内され、搬送手段(図示せず)の作動により、図1における手前から奥の方向に移動する。ヘッド走査手段(図示せず)は、ヘッドキャリッジ2を図1におけるY方向に往復移動させることにより、ヘッドキャリッジ2に保持された記録ヘッド3の走査を行なう。
【0078】
ヘッドキャリッジ2は記録材料Pの上側に設置され、記録材料P上の画像印刷に用いる色の数に応じて後述する記録ヘッド3を複数個、吐出口を下側に配置して収納する。ヘッドキャリッジ2は、図1におけるY方向に往復自在な形態で記録装置1本体に対して設置されており、ヘッド走査手段の駆動により、図1におけるY方向に往復移動する。
【0079】
尚、図1ではヘッドキャリッジ2がホワイト(W)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)、ライトイエロー(Ly)、ライトマゼンタ(Lm)、ライトシアン(Lc)、ライトブラック(Lk)、ホワイト(W)の記録ヘッド3を収納するものとして描図を行なっているが、実施の際にはヘッドキャリッジ2に収納される記録ヘッド3の色数は適宜決められるものである。
【0080】
記録ヘッド3は、インク供給手段(図示せず)により供給された活性光線硬化型インク(例えばUV硬化インク)を、内部に複数個備えられた吐出手段(図示せず)の作動により、吐出口から記録材料Pに向けて吐出する。記録ヘッド3により吐出されるUVインクは着色剤、重合性モノマー、開始剤等を含んで組成されており、紫外線の照射を受けることで開始剤が触媒として作用することに伴なうモノマーの架橋、重合反応によって硬化する性質を有する。
【0081】
照射手段4は特定の波長領域の紫外線を安定した露光エネルギーで発光する紫外線ランプ及び特定の波長の紫外線を透過するフィルターを備えて構成される。ここで、紫外線ランプとしては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマーレーザー、紫外線レーザー、冷陰極管、熱陰極管、ブラックライト、LED(light emitting diode)等が適用可能であり、帯状のメタルハライドランプ、冷陰極管、熱陰極管、水銀ランプもしくはブラックライトが好ましい。特に波長254nmの紫外線を発光する低圧水銀ランプ、熱陰極管、冷陰極管及び殺菌灯が滲み防止、ドット径制御を効率よく行なえ、好ましい。低圧水銀ランプを照射手段4の放射線源に用いることで、インクを硬化するための照射手段4を安価に作製することができる。
【0082】
照射手段4はヘッドキャリッジ2の両脇に、記録材料Pに対してほぼ平行に、固定して設置される。
【0083】
前述したようにインク吐出部の照度を調整する手段としては、記録ヘッド3全体を遮光することはもちろんであるが、加えて照射手段4と記録材料Pの距離h1より、記録ヘッド3のインク吐出部31と記録材料Pとの距離h2を大きくしたり(h1<h2)、記録ヘッド3と照射手段4との距離dを離したり(dを大きく)することが有効である。又、記録ヘッド3と照射手段4の間を蛇腹構造7にすると更に好ましい。
【0084】
ここで、照射手段4で照射される紫外線の波長は、照射手段4に備えられた紫外線ランプ又はフィルターを交換することで適宜変更することができる。
【0085】
本発明のインクは、非常に吐出安定性が優れており、ラインヘッドタイプの記録装置を用いて画像形成する場合に、特に有効である。
【実施例】
【0086】
次に、より具体的に本発明を説明するため本発明の構成例と効果を示しさらに説明する。しかし、無論本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0087】
尚、文中「部」とは「質量部」を表す。
【0088】
実施例1
(1)インクの作製
1)シアンインク
C.I.Pigment Blue 15:4 4.0部
アジスバーPB822(味の素ファインテクノ製) 2.0部
オキセタンOXT221 71.0部
オキセタンOXT212 5.0部
オキセタンOXT101(東亞合成製) 5.0部
脂環式エポキシ化合物1 18.0部
光重合開始剤1(分子量466、1分子量当たり3つのアリール基を持つ)
4.0部
重合禁止剤(トリイソプロパノールアミン) 0.1部
ハイドロキノン 0.1部
水 1.0部
【0089】
【化5】

【0090】
上記インクの光重合開始剤濃度は質量%では4質量%、モル/kg濃度では0.086モル/kgであり、且つ、光重合開始剤に由来するアリール基含有量は0.258モル/kgである。
【0091】
2)イエローインク
シアンインクの色材(C.I.Pigment Blue 15:4)をC.I.Pigment Yellow 150に変更した以外は、同一組成とした。
【0092】
3)マゼンタインク
シアンインクの色材(C.I.Pigment Blue 15:4)をC.I.Pigment Red 122に変更した以外は、同一組成とした。
【0093】
4)ブラックインク
シアンインクの色材(C.I.Pigment Blue 15:4)をC.I.Pigment Black 7に変更した以外は、同一組成とした。
【0094】
(画像出力)
上記シアン、イエロー、マゼンタ、ブラックの4色のインクを用いて、図1に示す画像形成装置を用い、基材(PETベース、厚さ60μm)に、下記条件で記録画像を作成した。但し、図1のLy、Lm、Lc、Lk、Wは不使用とし、Y、M、C、Kの4色とし、UV光の照射手段は片方のみ用い4回行った。
【0095】
液滴サイズ:10ng
ドット数:720×720dpi(dpi:長さ2.54cm当たりのドット数)
パス数(分割数、何回の走査で画像形成を完成 するかの回数):4回
最大インク量画像部(4色重ねベタ画像部)開始剤量:2.1g/m2
最大インク量画像部(4色重ねベタ画像部)1パス当たり開始剤量:0.5g/m2
キャリッジスピード:500mm/s
光源:UVC光源用高圧水銀灯
1パス当たりの光照射量:14mJ/cm2(岩崎電気製、UVPF−A1、センサーはPD254を用いて測定)
開始剤1g/m2当たりに照射するUVC光量:27.2mJ/cm2
(未反応の開始剤量)
サンプル試料(面積1.0cm×1.0cm)を、95%エタノール水10mlにて、120℃にて2時間加熱した後40℃にて10日間抽出する。エタノール水に抽出された未反応開始剤量を高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)で定量し、画像膜中の濃度を測定した。
【0096】
本実施例では、未反応開始剤濃度は2.3質量%であった。
【0097】
(性能評価)
臭気:良好、画像からの臭気は殆どない
画像耐熱性:良好、150℃に5分間加熱しても黄変が殆どない
画像耐光性:良好、キセノンフェードメータにて10日間保存後も、黄変が殆ど起こらない。
【0098】
実施例2
実施例1において、パス数を倍の8回(8回の走査で画像形成を完成)とした以外は同様に記録した。
【0099】
最大インク量画像部(4色重ねベタ画像部)開始剤量:2.1g/m2
最大インク量画像部(4色重ねベタ画像部)1パス当たり開始剤量:0.3g/m2
開始剤1g/m2当たりに照射するUVC光量:27.2mJ/cm2
未反応開始剤濃度は1.2質量%
(性能評価)
臭気:良好、画像からの臭気は殆どない
画像耐熱性:良好、150℃に5分間加熱しても黄変が全くない
画像耐光性:良好、キセノンフェードメータにて10日間保存後も、黄変が全く起こらない。
【0100】
実施例3
実施例1において、画像をアルコールに浸すことで洗浄した以外は同様に評価した
最大インク量画像部(4色重ねベタ画像部)開始剤量:2.1g/m2
最大インク量画像部(4色重ねベタ画像部)1パス当たり開始剤量:0.5g/m2
開始剤1g/m2当たりに照射するUVC光量:27.2mJ/cm2
未反応開始剤濃度は0.4質量%
(性能評価)
臭気:良好、画像からの臭気は全くない
画像耐熱性:良好、150℃に5分間加熱しても黄変が全くない
画像耐光性:良好、キセノンフェードメータにて10日間保存後も、黄変が全く起こらない。
【0101】
実施例4
実施例1において、開始剤の量を10部、OXT221の量を61部とし、記録方法を6パスとした以外は同様にインクを作製し、性能評価を行った。
【0102】
上記インクの光重合開始剤濃度は質量%では8質量%、モル/kg濃度では0.172モル/kgであり、且つ、光重合開始剤に由来するアリール基含有量は0.515モル/kgである。
【0103】
最大インク量画像部(4色重ねベタ画像部)開始剤量:4.2g/m2
最大インク量画像部(4色重ねベタ画像部)1パス当たり開始剤量:0.7g/m2
開始剤1g/m2当たりに照射するUVC光量:20.0mJ/cm2
未反応開始剤濃度は2.4質量%
(性能評価)
臭気:やや不良、画像からの臭気ややあり
画像耐熱性:やや不良、150℃に5分間加熱すると黄変が目立つ
画像耐光性:やや不良、キセノンフェードメータにて10日間保存後、黄変が目立つ。
【0104】
比較例1
実施例4において、記録方法を4パスとした以外は同様にして性能評価した。
【0105】
上記インクの光重合開始剤濃度は質量%では8質量%、モル/kg濃度では0.172モル/kgであり、且つ、光重合開始剤に由来するアリール基含有量は0.515モル/kgである。
【0106】
最大インク量画像部(4色重ねベタ画像部)開始剤量:4.2g/m2
最大インク量画像部(4色重ねベタ画像部)1パス当たり開始剤量:1.0g/m2
開始剤1g/m2当たりに照射するUVC光量:13.3mJ/cm2
未反応開始剤濃度は2.8質量%
(性能評価)
臭気:不良、画像からの臭気あり
画像耐熱性:不良、150℃に5分間加熱すると褐色に変色した
画像耐光性:不良、キセノンフェードメータにて10日間保存後、黄変が非常に目立
実施例5
実施例1において、開始剤を光重合開始剤2とした以外は同様に評価した。
【0107】
上記インクの開始剤濃度は質量%では8質量%、モル/kg濃度では0.155モル/kgであり、且つ、光重合開始剤に由来するアリール基含有量は0.620モル/kgである。
【0108】
最大インク量画像部(4色重ねベタ画像部)開始剤量:4.2g/m2
最大インク量画像部(4色重ねベタ画像部)1パス当たり開始剤量:1.0g/m2
開始剤1g/m2当たりに照射するUVC光量:20.0mJ/cm2
未反応開始剤濃度は2.2質量%
(性能評価)
臭気:やや不良、画像からの臭気ややあり
画像耐熱性:やや不良、150℃に5分間加熱すると黄変が目立つ
画像耐光性:やや不良、キセノンフェードメータにて10日間保存後、黄変が目立つ
上記の如く、本発明内のものは少なくとも実用化可能な範囲にあるが、本発明の範囲外のものは、実用上問題が出ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】インクジェット方式の記録装置の要部の構成を示す概念図。
【符号の説明】
【0110】
1 記録装置
2 ヘッドキャリッジ
3 記録ヘッド
4 照射手段
5 プラテン部
P 基材(記録材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも重合性モノマーとその3質量%以上の光重合開始剤を含有するUV硬化型インクを用いて記録画像を形成するインクジェット記録方法において、該光重合開始剤1g/m2当たりUVC光を20mJ/cm2以上照射することにより、記録画像中に含まれる未反応重合開始剤の残存量を2.5質量%未満にすることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
一回のUVC光照射により硬化させるインク量は、光重合開始剤を1g/m2未満含有する量であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記光重合開始剤中のアリール基の含有量が、0.6モル/kg以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法に用いることを特徴とするインクジェット記録用インク。

【図1】
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【公開番号】特開2007−62028(P2007−62028A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247295(P2005−247295)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】