説明

インクジェット記録方法及びこれに用いられるインク

【課題】定着性、タック性、及び着弾精度に優れた記録方法、並びにこれに用いられる安全衛生及び法規制の点で問題のないインクを提供する。
【解決手段】特定インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する工程と、被印刷媒体を搬送する搬送工程と、を交互に行うことにより印刷を行うインクジェット記録方法であって、前記画像を形成する工程は、前記印刷領域に静止させた被印刷媒体に対してプリントヘッドを相対的に移動させながら、前記プリントヘッドから前記インクを前記被印刷媒体に吐出する走査を複数回行い、かつ、前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクにエネルギーを与えて前記被印刷媒体に定着させるものであり、前記被印刷媒体が、インク非吸収性又は低吸収性の被印刷媒体であり、前記特定インクは、沸点が120℃以上240℃以下の、グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤をインクの組成中に60質量%以上含有する、インクジェット記録方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びこれに用いられるインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インク小滴を飛翔(吐出)させ、紙等の被印刷媒体に付着させて画像を形成するための記録方法である。近年のインクジェット記録技術の革新的な進歩により、これまで銀塩写真やオフセット印刷が担ってきた高精細な印刷(画像形成)の分野においてもインクジェット記録方法が用いられるようになってきている。そこで、インクジェット記録方法に求められる特性の一つとして、様々な被印刷媒体、例えばポリ塩化ビニルやオレフィン系のフィルム基材などの、インク吸収性に劣る被印刷媒体への印字対応性が重要となってくる。
従来のオフセット印刷用インクには、有機溶媒として汎用されてきた低沸点溶剤として、一般に、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサンや灯油等の脂肪族炭化水素、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、或いはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が使用されているが、これらの有機溶媒からなるインクを使用してポリ塩化ビニル基材を被印刷媒体として印字した場合、これらの有機溶剤は沸点や引火点が低く、臭気が強いため、作業者の安全性の上で好ましくなく、また、乾燥が早いためにノズルが詰まりやすいという問題が生じる。また、インク保存容器やプリンターなどの装置や部品に使用されているプラスチック(例えば、ポリスチレン樹脂やABS樹脂等)に対する溶解・膨潤性の理由からプリンター仕様にコストがかかるという問題があり、また、ポリ塩化ビニル基材等に印字した場合、印字品質、印字の乾燥性に関して満足しうるものではない。
【0003】
インク非吸収性及び低吸収性の被印刷媒体にインクジェット記録方式で画像を形成する記録方法については、例えば、特許文献1に、水、グリコール系溶剤、不溶性着色剤、ポリマー分散剤、シリコン界面活性剤及びフッ素化界面活性剤、水不溶性グラフトコポリマーバインダー、N−メチルピロリドンを含むインクが、疎水性基材上に印刷する方法として提案されている。特許文献2には、40℃〜80℃のガラス転移温度を有する水性エマルジョンポリマー、顔料、アルキレングリコールのモノアルキルエーテル、2−ピロール、N−メチルピロリドン、スルホランから選ばれる水溶性表面剤からなるインクが、疎水性表面上に画像提供する方法として提案されている。特許文献3には、沸点285℃以下の揮発性共溶剤、酸官能化ポリマーコロイド粒子、顔料着色剤からなる非多孔質基材に印刷するためのポリマーコロイド含有インクジェットインクが提案されている。一方、特許文献4には、常温常圧下で液体のジエチレングリコール化合物と常温常圧下で液体のジプロピレングリコール化合物との混合物を所定の混合比で含むインクジェット記録用非水性インク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−44858号公報
【特許文献2】特許第3937170号明細書
【特許文献3】特開2005−220352号公報
【特許文献4】特許第4308526号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献4で用いられているジエチレングリコール化合物やジプロピレングリコール化合物のような溶剤は、着弾精度(吐出信頼性)の点で問題が生じる。
【0006】
また、上記のインクジェット記録方式に用いられるインクとして、水性インクは、非吸収性被印刷媒体上に画像形成される際の画質及び定着性に劣るため、印刷速度や記録方法に制限があるという問題が生じる。一方、高沸点溶剤を使用した非水性インクは、低沸点溶剤を使用した非水系インクに比べ、インクの乾燥性に劣るため、印刷速度や記録方法に制限があるという問題が生じ、また画質が劣る問題が生じる。
【0007】
画質の問題は主にインクの乾燥性に起因しており、この乾燥性は定着性やタック性の要因となる。
【0008】
本発明は高沸点溶剤を使用したインクを用いて、インク非吸収性及び低吸収性の被印刷媒体にインクジェット記録方式で画像を形成する記録方法であって、被印刷媒体のインク吸収性によらず画質と定着性に優れ、高速印刷性(タック性及び乾燥性)と吐出安定性にも優れるインクジェット記録方式の記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願発明者らは鋭意検討を行った結果、上記の課題を解決する上で、記録方法に用いる印刷装置及びインクに相性があることを見出した。そこで、いかなる印刷装置にいかなるインクを用いた記録方法であれば上記課題を解決できるかを検討した。その結果、乾燥機構付きプラテンに静止した被印刷媒体に印刷する装置において、所定範囲の沸点を有する所定の有機溶剤をインク組成中に所定量以上含有する非水性の特定インクを用いることで、上記課題を解決できる記録方法が実現可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]
特定インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する工程と、被印刷媒体を搬送する搬送工程と、を交互に行うことにより印刷を行うインクジェット記録方法であって、前記画像を形成する工程は、前記印刷領域に静止させた被印刷媒体に対してプリントヘッドを相対的に移動させながら、前記プリントヘッドから前記インクを前記被印刷媒体に吐出する走査を複数回行い、かつ、前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクにエネルギーを与えて前記被印刷媒体に定着させるものであり、前記被印刷媒体が、インク非吸収性又は低吸収性の被印刷媒体であり、前記特定インクは、沸点が120℃以上240℃以下の、グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤をインクの組成中に60質量%以上含有する、インクジェット記録方法。
[2]
前記画像を形成する工程における前記走査は、前記プリントヘッドを前記印刷領域に静止させた前記被印刷媒体に対して前記特定インクを吐出しながら相対的に所定の方向に沿って移動させる、[1]に記載のインクジェット記録方法。
[3]
前記画像を形成する工程は、前記所定の方向に前記プリントヘッドを移動させる走査と、前記所定の方向と交差する方向に前記プリントヘッドを前記被印刷媒体に対して相対的に移動させる動作と、を交互に行う、[2]に記載のインクジェット記録方法。
[4]
前記プリントヘッドは、前記所定の方向と交差する方向に、所定のノズル密度を有する複数のノズルが並ぶノズル列を備え、かつ、1回の前記画像を形成する工程は、前記プリントヘッドの前記ノズル密度よりも高い前記所定の方向と交差する方向の印刷解像度で印刷する、[2]又は[3]に記載のインクジェット記録方法。
[5]
前記プリントヘッドは、前記所定の方向と交差する方向に、複数のノズルが並ぶノズル列を備え、かつ、前記ノズル列の前記所定の方向と交差する方向の距離は、前記印刷領域に位置する前記被印刷媒体の前記所定の方向と交差する方向の距離よりも長い、[2]〜[4]のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
[6]
[1]〜[5]のいずれかに記載のインクジェット記録方法に用いられる、インク。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】プリンター1の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図2Aは、プリンター1の概略断面図であり、図2Bは、プリンター1の概略上面図である。
【図3】ヘッドユニット40の下面のノズル配列を示す概略図である。
【図4】図4A〜図4Iは、印刷時のヘッドユニット40の移動態様を説明するための模式図である。
【図5】本印刷処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態におけるオーバーラップ印刷を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態におけるオーバーラップ印刷を説明するための図である。
【図8】第2変形例におけるオーバーラップ印刷を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本明細書において、「画像の印刷」は、被印刷媒体の全体に亘る1回以上の画像の印刷動作を意味する。「画像の形成」は、被印刷媒体を静止した状態における1回の画像の印刷動作を意味する。「ヘッドの走査」は、画像の形成におけるヘッドを被印刷媒体に対して相対的に所定方向に沿って移動させながらインクの吐出を行う1回の動作を意味する。
【0013】
また、本明細書において、「乾燥性」とは、インクが被印刷媒体上に付着され乾燥されることを意味する。「定着性」とは、インクが被印刷媒体上に付着され乾燥された後に、インクが被印刷媒体から剥離しない性質を意味する。「タック性」とは、印字直後に印字された箇所を指で触っても痕がつかない性質(タックフリー)を意味する。
【0014】
[記録方法]
本発明の第1実施形態は、記録方法に係る。以下、当該記録方法に用いられる、複数回走査すること、及び、静止している間に画像の印刷を完了することを特徴とするプリンターについて詳細に説明する。
【0015】
〔印刷装置構成〕
図1は、プリンター1の全体構成を示すブロック図である。図2Aは、プリンター1の概略断面図であり、図2Bは、プリンター1の概略上面図である。図3は、ヘッドユニット40の下面のノズル配列を示す概略図である。
なお、図2Aに示すように、プリンター1は、被印刷媒体(以下、単に「媒体」ともいう。)の一例である帯状の印刷テープTに、後に切り抜いて用いられる単位画像、例えば、生鮮食品のラップフィルム上に貼付されるシール状の印刷物を、インクジェット方式により印刷するものである。上記の印刷テープTは、剥離紙付きのロール紙(連続紙)であって、この印刷テープTが連続する方向に印刷物を構成する画像が連続的に印刷されるものである。
【0016】
図1に示すように、プリンター1は印刷データを受信すると、制御部の一例であるコントローラー10により各ユニット(搬送ユニット20、駆動ユニット30、及びヘッドユニット40)を制御し、印刷テープTに画像を形成する。
なお、検出器群50はプリンター1内の状況を監視するものであり、コントローラー10は検出器群50による検出結果に基づいて各ユニットを制御する。
【0017】
搬送ユニット20は、印刷テープTが連続する方向(以下、「搬送方向」という。)に、印刷テープTを、上流側から下流側に搬送するものである。この搬送ユニット20は、図2Aに示すように、送りローラー21、送り出しローラー22、及びホットプラテン23等を有する。送りローラー21は、印刷前のロール状の印刷テープTを印刷領域であるホットプラテン23に搬送する。ホットプラテン23は、ヒータ(不図示)を内蔵し、印刷領域上の媒体を加熱することによって、画像が印刷された媒体の乾燥を促進させる。また、ホットプラテン23は、印刷領域において、印刷テープTを下からバキューム吸引して、印刷テープTを保持(支持)する。送り出しローラー22は、印刷済みの印刷テープTを印刷領域から搬送する。印刷領域から搬送された印刷テープTは、巻き取り機構によってロール状に巻き取られる。
【0018】
駆動ユニット30は、プリントヘッド(ヘッドユニット40)を、印刷領域に静止させた被印刷媒体(印刷テープT)に対して、特定インクを吐出しながら相対的に移動させる移動機構である。この移動機構は、所定の方向にヘッドユニット40を移動させる走査と、前記所定の方向と交差する方向にヘッドユニット40を被印刷媒体に対して相対的に移動させる動作と、を交互に行うものであることが好ましい。上記所定の方向の例として搬送方向に対応する主走査方向が挙げられ、上記所定の方向と交差する方向の例として印刷テープTの幅方向に対応する副走査方向が挙げられる。このような好ましい移動機構の一態様として、駆動ユニット30は、ヘッドユニット40を主走査方向に移動させるX移動テーブルと、ヘッドユニット40を保持したX移動テーブルを副走査方向に移動させるY移動テーブルと、これらを移動させるモータと、で構成される(不図示)。
【0019】
ヘッドユニット40は、印刷領域に静止させた印刷テープTに対して相対的に移動しながら特定インクを吐出することにより、印刷テープTにドット列(ラスタライン)を形成するものである。上記した相対的な移動は、印刷領域に静止させた印刷テープTに対して相対的に所定の方向(例えば主走査方向)に沿って移動するものであることが好ましい。例えば、ヘッドユニット40は10個のヘッド41を有し、この10個のヘッド41が幅方向(副走査方向)に千鳥状に並んで配置されている。そして、ヘッドユニット40の1回の主走査方向への移動により印刷テープTの幅全域に亘って特定インクを吐出できるように、すなわち、ヘッドユニット40の副走査方向の幅が印刷テープTの幅よりも大きくなるように、10個のヘッドが配置されている。
【0020】
また、図3に示すように、各ヘッド41の下面には、イエローインクを吐出するノズル列Yと、マゼンタインクを吐出するノズル列Mと、シアンインクを吐出するノズル列Cと、ブラックインクを吐出するノズル列Kと、が形成されている。各ノズル列においては、360個のノズルが幅方向に一定の間隔(360dpi)で並んでいる。ここで、図3に示すようにヘッド41(1)及びヘッド41(2)を例に説明すると、幅方向に隣り合う2つのヘッドのうちの奥側のヘッド41(1)の最も手前側の2つのノズル#359及び#360と、手前側のヘッド41(2)の最も奥側のノズル#1及び#2とは、同一ライン上に位置している。つまり、これらのノズルはオーバーラップしている。
なお、本実施形態においては、副走査方向が第1方向に相当し、主走査方向が第2方向に相当する。
【0021】
〔印刷動作〕
(1.印刷時のヘッドユニット40の移動態様)
本実施形態の記録方法は、特定インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する動作(工程)と、被印刷媒体を搬送する搬送動作(搬送工程)と、を交互に行うことにより印刷を行うものである。そのため、印刷時に、被印刷媒体(印刷テープT)は搬送されず、印刷領域に位置するホットプラテン23に保持された状態となっている。
なお、上記の特定インク及び被印刷媒体については後述する。
【0022】
図4A〜図4Iは、印刷時のヘッドユニット40の移動態様を説明するための模式図である。プリンター1は、プリントヘッド(ヘッドユニット40)を上記印刷領域に静止させた被印刷媒体(印刷テープT)に対して、上記特定インクを吐出しながら相対的に所定の方向に(図では主走査方向に)移動させる走査を複数回(図では4回)行うことにより、各ドット列(ラスタライン)を形成し、画像を形成する。
【0023】
ここで、上記した画像を形成する動作における走査は、印刷テープTを印刷領域に静止させた被印刷媒体に対して特定インクを吐出しながら相対的に所定の方向に沿って移動させるものであることが好ましい。
【0024】
また、上記した画像を形成する工程は、上記所定の方向にヘッドユニット40を移動させる走査と、上記所定の方向と交差する方向にヘッドユニット40を被印刷媒体に対して相対的に移動させる動作と、を交互に行うことが好ましい。この場合、ヘッドユニット40に搭載されるノズル解像度以上の印刷解像度で記録可能となるため、高画質化を実現することができる。
【0025】
また、上記の画像を形成する動作(工程)において、被印刷媒体に吐出された特定インクにエネルギーを与えて特定インクを被印刷媒体に定着させる。このエネルギー源としては、インク中の溶剤等の揮発性を促進させる点、インク中の定着樹脂の十分な皮膜化を促進させる点で、熱を与えるエネルギーが有効であり、強制空気加熱、輻射加熱、伝導加熱、高周波乾燥、マイクロ波乾燥などが好ましい。他の公知の加熱手段を用いてもよい。なお、乾燥工程を加えることで、乾燥後に十分な定着性や耐擦性を得ることができる。
以下、印刷時のヘッドユニット40の移動態様をさらに詳細に説明する。
【0026】
印刷前のヘッドユニット40は、ホームポジション(図4Aに示す位置)で静止しつつ待機している。印刷時には、まず、ヘッドユニット40は、駆動ユニット30によって上記した所定の方向である主走査方向に沿って下流側から上流側へと移動、走査する(図4B)。そして、この移動・走査(パス1)の際に、ヘッドユニット40の各ノズルから印刷テープTの幅全域に亘って特定インクが吐出され、印刷テープTにパス1のドット列が形成される。主走査方向に移動したヘッドユニット40は、駆動ユニット30によって上記所定の方向と交差する方向である副走査方向に沿って奥側から手前側へと移動し(図4C)、その後、再び、ヘッドユニット40が主走査方向に沿って上流側から下流側へと移動し走査(パス2)しながら(図4D)、ノズルから印刷テープTの幅全域に亘って特定インクが吐出され、パス2のドット列が形成される。このようにして、ヘッドユニット40を所定の方向(主走査方向)に移動させる走査と、ヘッドユニット40を所定の方向と交差する方向(副走査方向)に移動させる動作と、が交互に行われる。
ここで、本明細書において、「パス」とは、ヘッドユニット40が主走査方向に相対的に1回移動することをいい、パスの後ろの数字は、パスが行われる順番を示す。
【0027】
このように、ヘッドユニット40は、ドット形成のためのヘッドユニット40の主走査方向の移動(図4B、図4D、図4F、図4H)と、ヘッドユニット40の副走査方向の移動(図4C、図4E、図4G)と、を交互に行う。これにより、印刷テープTの幅全域に亘って複数のドット列(ラスタライン群)が形成される。そして、ヘッドユニット40は、4回目の主走査方向の移動(パス4、図4H)が終了した後に、副走査方向において奥側に移動し(図4I)、図4Aに示すホームポジションに位置する。これによって、印刷時のヘッドユニット40の一連の移動が完了する。
【0028】
(3.印刷時のヘッドユニットの総副走査量とヘッドユニットの幅との関係)
本実施形態で用いられるプリンター1は、4回の主走査方向の移動・走査(パス1〜パス4)の際に、印刷テープTの幅全域に亘って特定インクが吐出されるような構成を採る。これは、画像の解像度(例えば、副走査方向の解像度が720dpi)がノズルピッチ(360dpi)よりも細かいことに起因して、ヘッドユニット40を副走査方向に720dpi単位で移動させて、ノズルピッチよりも細かい間隔のドット列を形成するためである。
【0029】
換言すれば、プリントヘッド(ヘッドユニット40)は、所定の方向と交差する方向(例えば副走査方向)に、所定のノズル密度(ノズルピッチ)を有する複数のノズルが並ぶノズル列を備え、かつ、1回の画像を形成する工程は、ヘッドユニット40のノズル密度(ノズルピッチ)よりも高い所定の方向と交差する方向(例えば副走査方向)の印刷解像度で印刷する。なお、上記「1回の画像を形成する工程」とは、詳細には、1回の印刷動作により画像を形成する工程を意味する。
【0030】
ここで、上記の印刷解像度は、「所定の方向の解像度×所定の方向と交差する方向の解像度」で表すと、360dpi×360dpi〜1440dpi×1440dpiが好ましい。印刷解像度が上記範囲内であると、高品位な印字物を高速で印刷することができる。
【0031】
また、前記プリントヘッドは、前記所定の方向と交差する方向に、複数のノズルが並ぶノズル列を備え、かつ、前記ノズル列の前記所定の方向と交差する方向の距離は、前記印刷領域に位置する前記被印刷媒体の前記所定の方向と交差する方向の距離よりも長いことが好ましい。
【0032】
この場合、次のような効果が得られる。被印刷媒体の記録領域の全体にわたり、1回の主走査でドット形成が可能となる。インターレース記録方法やオーバーラップ記録方法を行うため、1回の主走査で全ての画素にドット形成するわけではない(最終的にドットを形成すべき全画素に対して一部の間引かれた画素にドット形成する)ものの、全領域へまんべんなくドット形成が可能である。よって、被印刷媒体へのインクを付着、乾燥するのに伴って被印刷媒体にカールが発生したり、膨直収縮が起こる際に1回目の主走査で記録領域の全体に亘って発生する。記録領域の一部にのみ発生することはない。主走査を繰り返しても記録領域の全体が均一に膨張収縮していく。この場合、ドットの着弾位置ズレは画像の全体にわたって均一に発生するので画像の乱れとして目立ちにくい。
【0033】
一方、紙幅よりも短いヘッドを使用する場合、1回の主走査では、紙幅方向(主走査方向に交差する方向)の一部の領域しかドット形成ができず、この時、ドット形成した一部の領域のみカールや膨張収縮が発生する。2回目の主走査では、紙幅方向の1回目の主走査でドット形成していない領域にもドット形成するが、この時、被印刷媒体の収縮膨張していない領域と、収縮膨張している領域と、が存在するため、ドットの着弾位置ズレが被印刷媒体の領域によって異なる精度で発生し、画像の乱れが生じる。主走査を繰り返すごとに、記録領域の一部が不均一に膨張収縮していき、画像の乱れが生じる。
【0034】
被印刷媒体の膨張収縮は、一般に紙の場合、インクの付着に伴い膨張し、その後、乾燥に伴い収縮する(元よりも収縮する)と言われている。本実施形態の場合、紙とは限らずフィルム、コート紙等(非吸収性メディア)であるが、吸収性メディアの場合影響は大きいものの非吸収性メディアでも影響はあると考えられる。
【0035】
なお、シリアル方式は、1回の主走査で、紙幅方向は全体にドット形成できるものの、紙の搬送方向は、ヘッド1個の長さ(数センチ)のドット形成になり主走査ごとに少しずつ印刷していくため、ラテラル方式でヘッドが短い場合と似た結果になる。さらに、シリアル方式は主走査ごとに紙送りもするので、膨張収縮した紙を搬送する際の紙の搬送精度の低下も発生する。ラテラル方式であれば画像の形成の間は紙の搬送はしないため、その影響の分、ラテラル方式でヘッドが短い場合の方がより良い。
【0036】
ラテラル方式でかつヘッドが紙幅より長い場合が好適な場合と言える。
【0037】
(4.本実施形態の印刷処理)
印刷処理が実行されるときのプリンター1の各種動作は、主として、コントローラー10により実現される。特に、本実施形態においては、メモリ13に格納されたプログラムをCPU12が処理することにより実現される。そして、このプログラムは、以下に説明される各種の動作を行うためのコードから構成されている。
【0038】
図5は、本印刷処理を説明するためのフローチャートである。図5に示すフローチャートは、コントローラー10が、インターフェース11を介してコンピューター90(図1)から印刷データを受信したときから始まる。
【0039】
本印刷処理において、まず、コントローラー10は、搬送ユニット20によって被印刷媒体の一例である印刷テープTを印刷領域に搬送する(ステップS2)(搬送工程)。つまり、送りローラー21が、印刷前の印刷テープTを印刷領域であるホットプラテン23に搬送する。
【0040】
次に、コントローラー10は、駆動ユニット30にヘッドユニット40を相対的に(ここでは主走査方向)に移動させながら(図4B)、ヘッドユニット40(プリントヘッド)のノズルから特定インクを吐出させる(ステップS4)。つまり、コントローラー10は、ホットプラテン23に保持され静止した印刷テープT(被印刷媒体)にパス1のドット列を形成する。画像(印刷物)は複数回の走査(ここでは4パス)で形成される。そのため、パス1のドット列が形成されると、コントローラー10は、駆動ユニット30にヘッドユニット40を相対的に(ここでは副走査方向)に一定の副走査量だけ移動(図4C)させる(ステップS6:No、続いてステップS8)。
【0041】
ここで、ホットプラテン23におけるプラテン温度としては、インクの乾燥速度を高めて、ブリードや凝集ムラ等の印刷劣化を抑制することができるため、30〜80℃が好ましく、40〜70℃がより好ましい。なお、温度は、被印刷媒体の耐熱性等に応じて適宜決定することができる。
【0042】
そして、コントローラー10は、ドット形成処理が終了するまで、ヘッドユニット40の相対的な移動(ここでは主走査方向の移動)を伴うドット列の形成(図4D、図4F、図4H)と、ヘッドユニット40の相対的な移動(ここでは副走査方向の移動)(図4E、図4G)と、を交互に行う(ステップS4〜S8)。ここで、図示していないが、ドット形成処理が終了した時点で、印刷テープT(被印刷媒体)に吐出された特定インクにエネルギーを与えて特定インクを印刷テープT(被印刷媒体)に定着させる(以上、画像を形成する工程)。
【0043】
また、上記の搬送工程と上記の画像を形成する工程とを交互に行うことにより印刷が行われる。
なお、本実施形態においては、いわゆるオーバーラップ印刷が行われてもよい。
【0044】
ここで、本実施形態におけるオーバーラップ印刷を説明する。オーバーラップ印刷とは、一つのドット列(ラスタライン)を2つ以上のノズルにより形成する印刷方式をいう。具体的には、一のノズルが、主走査方向において、数ドットおきに間欠的にドット列を形成する。そして、他のノズルが既に形成している間欠的なドット列を補完するようにドット列を形成する。
【0045】
図6及び図7は、本実施形態におけるオーバーラップ印刷を説明するための図である。ただし、説明の簡略のため、各ヘッド41の4つのノズル列(ノズル列Y、ノズル列M、ノズル列C、ノズル列K)のうちのノズル列Cのみを示し、各ヘッド41のノズル数も16個に減らしている。このため、図6には、10個のヘッド41のうちの副走査方向奥側のヘッド(ヘッド41(1)やヘッド41(2)等)のノズル列Cのパス1〜パス4における位置と、ドットの形成の様子とが示され、図7には、副走査方向手前側のヘッド(ヘッド(10)やヘッド41(9)等)のノズル列Cのパス1〜パス4における位置と、ドットの形成の様子とが示されている。また、図6及び図7においては、ヘッド41(1)とヘッド41(7)のノズルが形成するドットを白丸(○)で示し、ヘッド41(2)とヘッド41(8)のノズルが形成するドットを黒丸(●)で示し、ヘッド41(3)とヘッド41(9)のノズルが形成するドットを白三角(△)で示し、ヘッド41(4)とヘッド41(10)のノズルが形成するドットを黒三角(▲)で示す。
【0046】
パス1〜パス4において、ノズル列Cの各ノズルによって、印刷領域の画素にドットが形成される。ここで、「画素」とは、ドットを形成する位置を規制するために、印刷テープT上に仮想的に定められた方眼上のマス目のことをいう。さらに、画素を特定して説明するため、主走査方向に並ぶ画素を「行」で、副走査方向に並ぶ画素を「列」で表す。なお、図6及び図7に示す画素は、主走査方向及び副走査方向の双方とも、720dpi間隔で並んでいる。
【0047】
まず、パス1では、各ヘッド41のノズルから特定インクが吐出される。そして、図6に示す奇数行(1・3・5…行)であって、奇数列(1・3・5…列)の画素にドット列が形成される。例えば、ヘッド41(1)のノズル#1から特定インクが吐出され、1行目の奇数列の画素にドットが形成される。同様に、ヘッド41(1)のノズル#2から特定インクが吐出され、3行目の奇数列の画素にドットが形成される。このように、各ノズルが、それぞれの位置に対応する各行に、主走査方向に1画素おきにドットを形成する。
【0048】
なお、幅方向に隣り合う2つのヘッド(ここでは、ヘッド41(1)とヘッド41(2)を例に挙げて説明する)のオーバーラップノズルの特定インク吐出の仕方は、オーバーラップしないノズル(例えば、ヘッド41(1)のノズル#1)の特定インク吐出の仕方と異なる。すなわち、パス1では、幅方向の奥側のヘッド41(1)のノズル#15とノズル#16が、3・7・11…列の画素にドット列を形成し、手前側のヘッド41(2)のノズル#1とノズル#2が、1・5・9…列の画素にドット列を形成する。このように、隣り合う2つのヘッド41のノズルが、交互に特定インクを吐出して、奇数列の画素にドット列を形成する。
【0049】
パス1の終了後、ヘッドユニット40は、印刷時の一回目の副走査方向の移動として、副走査方向の奥側から手前側へ所定の副走査量F(具体的には、7/720dpi)だけ移動する。
【0050】
ヘッドユニット40の移動後のパス2では、偶数行(8・10・12…行)であって、偶数列(2・4・6…列)の画素にドット列が形成される。例えば、ヘッド41(1)のノズル#1から特定インクが吐出され、8行目の偶数列の画素にドットが形成される。同様に、ヘッド41(1)のノズル#2から特定インクが吐出され、10行目の偶数列の画素にドットが形成される。また、2パス目では、隣り合うヘッドのうちの幅方向の奥側のヘッド41(1)のノズル#15とノズル#16は、4・8・12…列の画素にドット列を形成し、手前側のヘッド41(2)のノズル#1とノズル#2は、2・6・10…列の画素にドット列を形成する。すなわち、1パス目と同様に、隣り合う2つのヘッド41のノズルが、交互に特定インクを吐出して、偶数列の画素にドットを形成する(後述する3パス目と4パス目についても同様である)。
【0051】
パス2の終了後、ヘッドユニット40は、2回目の副走査方向の移動として、所定の副走査量F(7/720dpi)だけ移動する。
【0052】
同様にして、パス3では、奇数行(15・17・19…行)であって、偶数列(2・4・6…列)の画素にドット列が形成される。この結果、パス1とパス3によって、例えば23行目のドット列が完成する。
【0053】
パス3の終了後、ヘッドユニット40は、3回目の副走査方向の移動として、1回目及び2回目の副走査量と同じ大きさの副走査量F(7/720dpi)だけ移動する。
パス4では、偶数行(22・24・26…行)であって、奇数列(1・3・5…列)の画素にドット列が形成される。この結果、パス2とパス4によって、例えば22行目のドット列が完成する。このように、本実施形態のオーバーラップ印刷においては、1つのドット列が異なる2つのノズルにより形成される。
以上、本実施形態におけるオーバーラップ印刷について説明した。図5に示すフローチャートに戻って、本印刷処理の説明を続ける。パス4のドット列を形成することによりドット形成処理が終了すると(ステップS6:Yes)、すなわち、印刷テープTに印刷物(画像)を印刷すると、コントローラー10は、駆動ユニット30にヘッドユニット40を副走査方向に移動させて(図4I)、ホームポジションに位置させる(ステップS10)。
【0054】
次に、コントローラー10は、搬送ユニット20によって、ドットが形成された印刷テープT(印刷済みの印刷テープT)を印刷領域から送り出す(搬送する)(ステップS12)。つまり、送り出しローラー22が、印刷済みの印刷テープTを印刷領域から送り出す(搬送する)。
【0055】
更に印刷すべき印刷データがある場合には(ステップS14:Yes)、コントローラー10は、上述した動作(ステップS2〜S12)を繰り返して、印刷テープTに対し印刷を行う。一方、印刷データが無い場合には(ステップS14:No)、コントローラー10は本印刷処理を終了する。
【0056】
[第1変形例]
次に、第1変形例におけるオーバーラップ印刷について説明する。図8は、第1変形例におけるオーバーラップ印刷を説明するための図である。
【0057】
第1変形例においても、図8に示すように4パスにて1つのラスタラインが完成する(オーバーラップ印刷)。つまり、4パスの間に、各ヘッドから特定インクが吐出されて、1つのラスタラインが完成する。具体的には、1列目及び5列目のドットが1パス目で形成され、2列目及び6列目のドットが2パス目で形成され、3列目及び6列目のドットが3パス目で形成され、4列目及び8列目のドットが4パス目で形成される。なお、図8には、8列目までのドットが示されているが、実際にはより多くの列でドットが形成される。
【0058】
なお、本実施形態のヘッドユニット40は、上記の実施形態のヘッドユニット40(図3)と同様である。つまり、隣り合う2つのヘッド41において、オーバーラップノズルが存在する。そして、各ノズルのノズルピッチは、1/360dpiである。
【0059】
ここで、図8に示すラスタラインの間隔は、上記の実施形態のラスタラインの間隔が1/720dpi(図6参照)であるのに対して、2/720dpi(=1/360dpi)である。つまり、ノズルピッチと同じ大きさである。そのため、第1変形例では、上記の実施形態及び第1変形例とは異なり、インターレース印刷が行われていない。このインターレース印刷とは、図6に示すように、1回のパスで形成されるラスタラインの間に形成されないラスタラインが挟まれるような印刷方式を意味する。
【0060】
また、図8においては、図6と同様に、ノズル列Cのみが示され、各ヘッド41のノズル数も16個である。なお、ここでは、説明の便宜上、ヘッドユニット40は3つのヘッド42(1)〜42(3)を有することとして、説明する。そして、ヘッド41(1)のノズルが形成するドットを白丸(○)で示し、ヘッド41(2)のノズルが形成するドットを黒丸(●)で示し、ヘッド41(3)のノズルが形成するドットを白三角(△)で示す。
【0061】
また、図8に示す各ヘッド41の有効ノズルは、上記の実施形態と同様に、以下のようになっている。ヘッド41(1)の有効ノズルは、ノズル#1〜#15の15個であり、その有効ノズル幅は、30/720dpiである。ヘッド41(2)の有効ノズルは、ノズル#2〜#15の14個であり、その有効ノズル幅は、28/720dpiである。ヘッド41(3)の有効ノズルは、ノズル#2〜#16の15個である。その有効ノズル幅は、30/720dpiである。
【0062】
また、第1変形例において、ヘッドユニット40の1回の副走査量Fは、8/720dpiであり、4回のパスにおける総副走査量3Fは24/720dpiである。そして、第2変形例においても、総副走査量3F(24/720dpi)は、2つの有効ノズル幅のうちの小さい有効ノズル幅(28/720dpi)よりも小さくなるように設定されている。そのため、上記の実施形態と同様に、ヘッドユニット40の副走査方向の幅が大きくなることを抑制できる。
【0063】
ここで、印刷領域の各ラスタラインがいずれのヘッド41のノズルによって形成されるかについて考察する。ここで、実施形態における印刷領域のラスタラインは、図8に示すように、R1行からR30行までのラスタラインを指す。
【0064】
まず、R1行〜R3行のラスタラインは、ヘッド41(1)のノズルのみによって形成されている。R4行〜R15行のラスタラインは、ヘッド41(1)とヘッド41(2)のノズルによって形成されている。R16行とR17行のラスタラインは、ヘッド41(2)のノズルのみによって形成されている。R18行〜R29行のラスタラインは、ヘッド41(2)とヘッド41(3)のノズルによって形成されている。そして、R30行のラスタラインは、ヘッド41(3)のノズルのみによって形成されている。
【0065】
更に、前述した有効ノズル幅(28/720dpi)の範囲で見てみると、1つのヘッド41のノズルのみに特定インクを吐出させて形成するラスタラインの数は、R4行からR15行までの12個であり、2つのヘッド41のノズルに特定インクを吐出させて形成するラスタラインの数は、R16行とR17行の2個である。
なお、ここでは、R4行〜R27行のラスタラインを例に挙げて説明している。
【0066】
このように、1つのヘッド41のノズルのみに特定インクを吐出させて形成するラスタラインの数が、2つ以上のヘッド41のノズルに特定インクを吐出させて形成するラスタラインの数よりも少ない。これにより、上記の実施形態と同様に、仮に1つのヘッド41のノズルのみによって形成されるラスタラインがあっても、濃度ムラとなるラスタラインの数を少なくでき、この結果、濃度ムラが顕著になることを抑制できる。
【0067】
なお、上記においては、4パスする際の各回の副走査量Fは、同じ大きさの8/720dpiであることとしたが、各回の副走査量が異なることとしても良い。また、上記においては、1列目(5列目)のドットが1パス目で形成され、2列目(6列目)のドットが2パス目で形成され、3列目(7列目)のドットが3パス目で形成され、4列目(8列目)のドットが4パス目で形成されることとしたが、これに限定されない。少なくとも、隣り合う列のドットが、異なるパスで形成されれば良い。
【0068】
さらに、上記では、1つのラスタラインが4パスで形成されることとしたが、これに限定されない。1つのラスタラインが、少なくとも2パス、すなわち2以上の整数回のパスで形成されれば良く、例えば一つのラスタラインが3パスで形成されることとしても良い(上記の実施形態も同様である。)。
【0069】
[その他の変形例]
以上、上記の実施形態及び変形例に基づき本発明の記録方法に用いる装置を説明したが、上記した実施形態及び変形例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【0070】
また、上記の実施形態及び変形例においては、印刷テープTが停止した状態でヘッドユニット40が主走査方向に4回及び副走査方向に3回移動することにより、ラスタラインが形成される(図6及び図7)こととしたが、これに限定されるものではない。例えば、ヘッドユニット41は主走査方向にのみ移動し、印刷テープTが副走査方向に移動することによって、ラスタラインが形成されても良く、また、ヘッドユニット41は移動せず、印刷テープTが主走査方向及び副走査方向に移動することによって、ラスタラインが形成されることとしてもよい。つまり、ヘッドユニット40が印刷テープTに対して、主走査方向及び副走査方向に相対移動することにより、ラスタラインが形成されることとしても良い。
【0071】
また、前述の図6、7の実施形態では、1回のパスで形成されるラスタラインの間に、当該パスでは形成されず他のパスで形成されるラスタラインが存在するいわゆるインターレース印刷を行い、かつ、1つのラスタラインのドット形成を2個以上のノズルにより形成するオーバーラップ印刷が行われている。また、第1変形例では、インターレース印刷を行わずに、オーバーラップ印刷を行っている。しかし、これらには限られず、インターレース印刷を行い、オーバーラップ印刷を行わない(1つのラスタラインのドット形成を1つのノズルで行う)こととしてもよい。つまり、本発明に用いる記録方法としては、少なくとも、インターレース印刷とオーバーラップ印刷の少なくとも一方を行えばよい。
また、乾燥機構としてはプラテンを加熱するものに限らず、プラテンで静止した被印刷媒体のインクを乾燥させることが可能なものであればよく、被印刷媒体へ直接的に熱などのエネルギーを与えるものでもよい。また、被印刷媒体の乾燥のためのエネルギーとして加熱するものに限らず、送風するものでも良いし、電磁線などの活性エネルギー線を照射するものでもよい。
【0072】
以上説明した本発明の実施形態などから、上記実施形態などの記録方法について補足説明する。この記録方法は、前述のような乾燥機構を備えたプラテンに静止した被印刷媒体にヘッドで走査を複数回行うことで1回の印刷動作による画像の形成を行うという、いわゆるラテラル方式の記録方法である。そして、このラテラル方式の記録方法には前述のような乾燥機構を備えたプラテンに静止した被印刷媒体にヘッドで走査を複数回行い画像の形成を行う印刷装置が用いられるが、このプリンターは、いわゆるシリアルプリンターと比較して、大量にかつ高速で印刷することができる。これは、このプリンターによる印刷物のインクの乾燥時間が、シリアルプリンターのそれと比較して格段に短いことに起因する。
【0073】
大量印刷かつ高速印刷という特徴を有するこのプリンターは、特にラベルへの印刷用途としての需要が大きい。なぜなら、ラベルは食品パック等に貼付され利用される際、汚れたり擦れたりすることが多く、このプリンターで印刷されたラベルはインクの乾燥時間が極めて短いため、汚れや擦れに強いラベルとなるからである。
【0074】
上記のラベルに用いられる被印刷媒体としては、コスト面より、紙、並びにポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及び塩化ビニル(塩ビ)等のフィルムが多用される。紙、並びにPP及びPETといったフィルムは食品パック等に用いられ、塩ビフィルムはカーラッピングや建材サイン等に用いられる。これらの紙やフィルムに適した溶剤を含有するインクとして、後述するインクを用いることができる。結果として、上記プリンターに特定のインクを用いることにより、優れたラベルを低コストで、大量かつ迅速に作製することができることを本願発明者らは見出したのである。
【0075】
このように、本実施形態によれば、定着性、タック性、及び着弾精度に優れた記録方法を提供することができる。
【0076】
[インク]
本発明の一実施形態は、上記実施形態の記録方法に用いられるインク、すなわち特定インクに係る。当該特定インクは、沸点が120℃以上240℃以下の、グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤をインクの組成中に60質量%以上含有する。本実施形態の印刷方式の記録方法にこのような特定インク、すなわち実質的に水を含まない非水性の特定インクを用いることにより、定着性、タック性、及び着弾精度を良好なものとすることができる。以下、この特定インクを詳細に説明する。
【0077】
〔有機溶剤〕
本実施形態における特定インクは有機溶剤を含む。この有機溶剤の沸点は、120℃以上240℃以下であり、好ましくは120〜230℃である。沸点が上記範囲内であると、インクの乾燥速度を高めてブリードや凝集ムラを抑制しつつ、高速印刷ができ、またインクの吐出安定性を確保することができる。
【0078】
有機溶剤は、グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上である。
【0079】
まず、グリコールエーテル系溶剤は、沸点が上記範囲内である限り特に限定されないが、例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、アルキレングリコールジアルキルエーテル類、及びアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類が挙げられる。
【0080】
上記のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類としては、以下に限定されないが、例えば、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。この具体例としては、以下に限定されないが、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点125℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点136℃)、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル(沸点170℃)、エチレングリコールモノtert−ブチルエーテル(沸点153℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃、以下「PGME」ともいう。)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点132℃)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点170℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点188℃)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点230℃、以下「DPGPE」ともいう。)、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(沸点229℃、以下「EHG」ともいう。)などが挙げられる。
【0081】
これらの中でも、PGME、DPGPE、及びEHGが好ましい。
【0082】
上記のアルキレングリコールジアルキルエーテル類としては、以下に限定されないが、例えば、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテルが挙げられる。この具体例としては、以下に限定されないが、エチレングリコールジエチルエーテル(沸点121℃)、エチレングリコールジブチルエーテル(沸点203℃)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(沸点176℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(Diglyme、沸点162℃、以下「GL−2」ともいう。)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点189℃、以下「DEGDEE」ともいう。)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点171℃、以下「DPGDME」ともいう。)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(Triglyme、沸点216℃、以下「GL−3」ともいう。)などが挙げられる。
【0083】
これらの中でも、DEGDEE、DPGDME、及びGL−3が好ましい。
【0084】
上記のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類としては、以下に限定されないが、例えば、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルアセテート、ジプロピレングリコールモノアルキルアセテートが挙げられる。この具体例としては、以下に限定されないが、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点145℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点217℃)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点156℃)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点217℃、以下「EGBEA」ともいう。)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点217℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点146℃、以下「PGMEA」ともいう。)などが挙げられる。
【0085】
これらの中でも、EGBEA、PGMEAが好ましい。
【0086】
次に、非プロトン性極性溶剤は、沸点が上記範囲内である限り特に限定されないが、例えば、β−プロピオラクトン(沸点155℃)、γ−ブチロラクトン(v203℃、以下「GBL」ともいう。)、γ−バレロラクトン(沸点207℃)、γ−ヘキサラクトン(沸点219℃)、γ−オクタラクトン(沸点234℃)、γ−ノナラクトン(沸点121℃)、δ−バレロラクトン(沸点230℃)、δ−オクタラクトン(沸点238℃)、δ−ノナラクトン(沸点121℃)、δ−デカラクトン(沸点120℃)、及びδ−ウンデカラクトン(沸点152℃)等のラクトン系溶剤、並びに、N−メチル−2−ピロリドン(沸点202℃、以下「NMP」ともいう。)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(沸点230℃、HMPA)、N−シクロヘキシルピロリドン(沸点154℃、NCP)、テトラメチル尿素(沸点177℃、TCU)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(沸点225℃、以下「DMI」ともいう。)、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点153℃、DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(沸点166℃、DMA)、テトラメチレンスルホキシド(沸点235℃)、及びジメチルスルホキシド(沸点189℃、以下「DMSO」ともいう。)などが挙げられる。
【0087】
なお、上記の中でもラクトン系溶剤は、エステル結合による環状構造を持つ化合物であり、5員環構造のγ−ラクトン、6員環構造のδ−ラクトン、及び7員環構造のε−ラクトン等がある。
【0088】
これらの中でも、GBL、NMP、DMI、及びDMSOが好ましい。
【0089】
なお、本実施形態における有機溶剤は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、従来公知の他の有機溶剤をさらに含有してもよい。他の有機溶剤として、好ましくは極性有機溶媒である。極性有機溶媒の具体例として、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、フッ化アルコール、1,2−ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、及びトリエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、及びシクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、及びプロピオン酸エチル等のカルボン酸エステル類、並びにジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、及びジオキサン等のエーテル類が挙げられる。
【0090】
上記した有機溶剤の具体的な成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
有機溶剤の含有率は、特定インクの総量(100質量%)に対し60質量%以上であり、好ましくは70質量%以上である。上記範囲内であると、被印刷媒体に対して優れたレベリング性を示し、被印刷媒体の種類によらず凝集ムラのない高画質印字を可能とする。また、フィルム系メディアへの高い定着性の付加が可能となる。
【0092】
また、有機溶剤は、水の蒸発速度を1とした時の相対蒸発速度が、1/100以上1以下であることが好ましく、1/90以上1以下であることがより好ましい。上記範囲内であると、ヘッド内でのインク乾燥を抑制でき、安定吐出が可能となり、優れた着弾精度を確保でき、かつ、本件のラテラル記録方法と組み合わせることで、印字物のブリードや凝集ムラを効果的に抑制することができる。
このような有機溶剤の具体例としては、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DPGDME)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGDEE)、γ―ブチロラクトン(GBL)、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(EHG)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(DPGPE)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが挙げられる。
【0093】
〔色材〕
本実施形態の特定インクは、色材をさらに含んでもよい。上記色材は、顔料及び染料から選択される。
【0094】
また、顔料としては、特別な制限なしに無機顔料、有機顔料を使用することができる。
【0095】
無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。また、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(たとえば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(たとえば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用することができる。
【0096】
更に詳しくは、ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとしては、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Regal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(キャボット社(CABOT JAPAN K.K.)製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4等(以上、デグッサ(Degussa)社製)等が挙げられる。
【0097】
ホワイトインクとして使用される白色顔料としては、例えば白色無機顔料や白色有機顔料、白色の中空樹脂粒子を用いることができる。白色無機顔料としては、硫酸バリウム等のアルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩、微粉ケイ酸や合成ケイ酸塩等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、及び酸化亜鉛等の金属化合物、並びにタルク及びクレイ等が挙げられる。特に酸化チタンは隠蔽性、着色性、及び分散粒径が好ましい白色顔料として知られている。
【0098】
白色有機顔料としては、特開平11−129613号に示される有機化合物塩や特開平11−140365号、特開2001−234093号に示されるアルキレンビスメラミン誘導体が挙げられる。白色有機顔料の具体的な商品としては、ShigenoxOWP、Shigenox OWPL、Shigenox FWP、Shigenox FWG、Shigenox UL、Shigenox U(以上、ハッコールケミカル社製、何れも商品名)などが挙げられる。白色の中空樹脂粒子としては、米国特許第4,089,800号明細書に開示されている、実質的に有機重合体で作られた熱可塑性を示す粒子などが挙げられる。
【0099】
ホワイトインクに使用される顔料としては、C.I. Pigment White 6,18,21等が挙げられる。
【0100】
また、イエローインクに使用される顔料としては、C.I.Pigment Yellow 1,2,3,4,5,6,7,10,11,12,13,14,16,17,24,34,35,37,53,55,65,73,74,75,81,83,93,94,95,97,98,99,108,109,110,113,114,117,120,124,128,129,133,138,139,147,150,151,153,155,154,167,172,180,185,213等が挙げられる。
【0101】
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.Pigment Red 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,14,15,16,17,18,19,21,22,23,30,31,32,37,38,40,41,42,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,88,112,114,122,123,144,146,149,150,166,168,170,171,175,176,177,178,179,184,185,187,202,209,219,224,245、及びC.I.Pigment Violet 19,23,32,33,36,38,43,50等が挙げられる。
【0102】
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.Pigment Blue 1,2,3,15,15:1,15:2,15:3,15:34,15:4,16,18,22,25,60,65,66、及びC.I.Vat Blue 4,60等が挙げられる。
【0103】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.Pigment Green 7,10、及びC.I.Pigment Brawn 3,5,25,26、及びC.I.Pigment Orange 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63等が挙げられる。
【0104】
本インクに顔料を用いる場合は、その平均粒径が10〜200nmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは50〜150nm程度のものである。
本インクに色材を用いる場合、色材の添加量は、0.1〜25質量%程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜15質量%程度の範囲である。
本インクに顔料を用いる場合は、分散剤または界面活性剤で媒体中に分散させて得られた顔料分散液を用いることができる。好ましい分散剤としては、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、たとえば高分子分散剤を使用することができる。
本インクが色材を含有する場合、色材を複数含有するものであっても良い。たとえば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの基本4色に加えて、グリーン、オレンジ、ブルー、ホワイトなどの特色や、それぞれの色毎に同系列の濃色や淡色を加えることができる。すなわち、マゼンタに加えて淡色のライトマゼンタ、シアンに加えて淡色のライトシアン、濃色のレッド、濃色のブルー、ブラックに加えて淡色であるグレイ、ライトブラック、濃色であるマットブラックを含有させることが例示できる。
【0105】
(染料)
本実施形態において、色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料、など通常インクジェット記録に使用される各種染料を使用することができる。以下の具体例では、油性染料の色を青色系、赤色系、および黄色系に大別して記載する。また中間色すなわち緑色系や紫色系についても前記分類のいずれかに含めて記載する。
【0106】
青色系の油性染料としては、例えばインドアニリン染料、インドフェノール染料、カップリング成分としてピロロトリアゾール類を有するアゾメチン染料、シアニン染料、オキソノール染料、メロシアニン染料のようなポリメチン染料、ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料のようなカルボニウム染料、フタロシアニン染料、アントラキノン染料、カップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類を有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料、インジゴ・チオインジゴ染料等を挙げることができる。
青色系の油性染料の具体例としては、マクロレックスブルーRR、FR(バイエル社製)、スミプラストグリーンG(住友化学社製)、Vali Fast Blue 2606、Oil BlueBOS(オリエント化学社製)、Aizen Spilon Blue GNH(保土ヶ谷化学(株)製)、Neopen Blue 808、Neopen Blue FF4012、Neopen Cyan FF4238(BASF社製)、オイルバイオレット#730(オリエント化学社製)、C.I.Solvent Blue −2、−11、−25、−35、−38、−43、−67、−70、−134、C.I.Solvent Green −1、−3、−7、−20、−33、C.I.Solvent Violet −2、−3、−11、−47等が挙げられる。
【0107】
赤色系の油性染料としては、例えばカップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類を有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料、カップリング成分としてピラゾロン類、ピラゾロトリアゾール類を有するアゾメチン染料、アリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料、オキソノール染料のようなメチン染料、ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料のようなカルボニウム染料、ナフトキノン、アントラキノン、アントラピリドンなどのようなキノン系染料、ジオキサジン染料等のような縮合多環系染料等を挙げることができる。
赤色系の油性染料の具体例としては、オイルレッド5303(有本化学社製)、オイルレッド5B、Oil Pink 312、Oil Scarlet 308(オリエント化学社製)、オイルレッドXO(カントー化学社製)、Neopen Mazenta SE1378(BASF社製)、オイルブラウンGR(オリエント化学社製)、C.I.Solvent Red−1、−3、−8、−18、−24、−27、−43、−49、−51、−72、−73、−109、−111、−229、−122、−132、−219、C.I.Solvent Brown−1、−12、−58、ORASET RED BG(チバ・スペシャルティケミカル社製)等が挙げられる。
【0108】
黄色系の油性染料としては、例えばカップリング成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロン類、ピリドン類、開鎖型活性メチレン化合物類を有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料を挙げることができる。また例えば、カップリング成分として開鎖型活性メチレン化合物類を有するアゾメチン染料、ベンジリデン染料やモノメチンオキソノール染料等のようなメチン染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料等のようなキノン系染料等を挙げることができる。さらに、これ以外のイエロー染料種としてはキノフタロン染料、ニトロ・ニトロソ染料、アクリジン染料、アクリジノン染料等を挙げることができる。
黄色系の油性染料の具体例としては、Oil Yellow 3G、Oil Yellow 129、Oil Yellow 105(オリエント化学社製)、ファーストオレンジG、Neopen Yellow 075(BASF社製)、ORASET YELLOW 3GN(チバ・スペシャルティケミカル社製)、C.I.Solvent Yellow−1、−14、−16、−19、−25:1、−29、−30、−56、−82、−93、−162、−172、C.I.Solvent Orange−1、−2、−40:1、−99等が挙げられる。
【0109】
インク組成物には、上述の染料を複数組み合わせて含有させることができる。染料を複数組み合わせた場合、無彩色となる組み合わせも生じることもある。
【0110】
以下に黒色油性染料の具体例を記す。
黒色系の染料の具体例としては、スーダンブラックX60(BASF社製)、Nubian Black PC−0850、Oil Black HBB(オリエント化学社製)、C.I.SolventBlack−3、−7、−22:1、−27、−29、−34、−50等が挙げられる。
【0111】
色材の含有量は、特定インクの総量(100質量%)に対して、好ましくは0.1質量%〜25質量%であり、より好ましくは0.5質量%〜15質量%である。
なお、上記の色材を含む特定インクはカラーインクである。一方、色材を含まない無色透明の特定インク(クリアインク)は、上記カラーインクにおいて、色材を含まない以外は同様の組成をとることができる。
【0112】
〔分散剤〕
本実施形態のインクが顔料を含有する場合、顔料分散性を高めるため、分散剤を含有させることが好ましい。分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂等の一種以上を主成分とするものが挙げられる。高分子分散剤の市販品として、味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ、アビシア社製のソルスパーズシリーズ、BYKChemie社製のディスパービックシリーズ、楠本化成社製のディスパロンシリーズ等が挙げられる。
【0113】
分散剤の含有量は、特定インクの総量(100質量%)に対して、5〜200質量%、好ましくは30〜120質量%であり、分散すべき色材によって適宜選択するとよい。
【0114】
〔定着樹脂〕
本実施形態の特定インクは定着樹脂を含有してもよい。この定着樹脂として、特に限定されないが、例えば、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのうち少なくともいずれかから製造されるアクリル樹脂、それらとスチレンの共重合体であるスチレン−アクリル樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、繊維素系樹脂(例えば、セルロースアセテートブチレート、ヒドロキシプロピルセルロース)、ポリビニルブチラール、ポリアクリルポリオール、ポリビニルアルコール、ポリウレタンや水素添加石油樹脂が挙げられる。
【0115】
また、非水系のエマルジョン型ポリマー粒子(NAD=Non Aqueous Dispersion)も定着樹脂として用いることができる。これはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂やアクリルポリオール樹脂等の粒子が有機溶剤中に安定に分散している分散液のことである。例えば、ウレタン樹脂としては三洋化成工業社(Sanyo Chemical Industries, Ltd.)製のサンプレンIB−501やサンプレンIB−F370が挙げられる。また、アクリルポリオール樹脂としては、例えばハリマ化成社(Harima Chemicals, Inc.)製のN−2043−60MEXが挙げられる。
【0116】
定着樹脂は、記録媒体への顔料の定着性を一層向上させるため、インク中、0.1質量%以上10質量%以下添加することが好ましい。添加量が過剰であると記録安定性が得られず、過少であれば、定着性が不十分となる。
【0117】
〔界面活性剤〕
本実施形態の特定インクは界面活性剤を含有してもよい。この界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤やアセチレングリコール系界面活性剤を含むことが好ましい。シリコーン系界面活性剤としては、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、具体的には、BYK−337、BYK−347、BYK−348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK)製)を挙げることができる。アセチレングリコール系界面活性剤としては、具体的には、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等が例示され、市販品としてはサーフィノール104、82、465、485、またはTG(いずれもAir Products and Chemicals.Inc.より入手可能)、オルフィンSTG、オルフィンE1010(日信化学社(Nissin Chemical Industry CO.,Ltd.)製)、ニッサンノニオンA−10R、A−13R(日本油脂社(NOF CORPORATION)製)、フローレンTG−740W、D−90(共栄社化学社(Kyoeisha Chemical Co., Ltd .)製)、エマルゲンA−90、A−60(花王社(Kao Corporation)製)、ノイゲンCX−100(第一工業製薬社(Dai-ichi Kogyo Seiyaku Co., Ltd.)製)等が挙げられる。
これらの界面活性剤は、単独、または混合して添加してよく、インク組成物中、0.01質量%〜5質量%以下で添加されることが好ましい。このような構成にすることで、前記インク組成物の記録媒体への濡れ性が改善され、速やかな定着性を得ることができる。
【0118】
〔その他の添加剤〕
その他の添加剤として、以下に限定されないが、例えば、従来公知の防黴剤・防腐剤・防錆剤、酸化防止剤、増粘剤、湿潤剤、pH調整剤、及び表面張力調整剤を用いてもよい。
なお、本実施形態の特定インクは実質的に水を含まない非水性インクであるため、水については特段説明していない。
【0119】
このように、本実施形態によれば、定着性、タック性、及び着弾精度に優れた記録方法、並びにこれに用いられる安全衛生及び法規制の点で問題のない特定インクを提供することができる。
【0120】
[被印刷媒体]
上記実施形態で用いられる被印刷媒体は、インク非吸収性又は低吸収性の被印刷媒体である。
【0121】
上記の被印刷媒体のうち、インク非吸収性の被印刷媒体としては、例えば、インクジェット記録用に表面処理していない(すなわち、インク吸収層を形成していない)プラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル(塩ビ)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。インク低吸収性の被印刷媒体の例としては、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙などが挙げられる。
【実施例】
【0122】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみに限定されるものではない。
【0123】
[材料]
実施例及び比較例において使用した材料は、下記に示すとおりである。
〔顔料〕
・C.I Pigment Violet 19(表中「PV19」と省略)
・C.I Pigment Yellow 213(表中「PY213」と省略)
・C.I Pigment Blue 15:3(表中「PB15:3」と省略)
・カーボンブラック(CB) MA77(商品名、三菱化学社製)(表中「CB MA77」と省略)
〔分散剤〕
・ポリエステル系高分子 Solsperse32000(商品名、アビシア(Avecia)社製)(表中「Sol32000」と省略)
〔定着樹脂〕
・塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 UCAR Solution Vinyl VROH (商品名、日本ユニオンカーバイド社(Union Carbide Corporation)製、分子量15000,Tg=65℃)(表中「P(VC−VAc)」と省略)
・ポリアクリルポリオール樹脂エマルジョン N−2043−60MEX(商品名、ハリマ化成社(Harima Chemicals, Inc.)製)(表中「AP−e」と省略)
〔界面活性剤〕
・BYK−UV3500(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製)(表中「BYK3500」と省略)
【0124】
〔各種溶剤〕
(1.グリコールエーテル系溶剤)
・プロピレングリコールジメチルエーテル(表中「PGDME」と省略)
・プロピレングリコールモノメチルエーテル(表中「PGME」と省略)
・プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(表中「PGMEA」と省略)
・ジプロピレングリコールジメチルエーテル(表中「DPGDME」と省略)
・ジエチレングリコールジエチルエーテル(表中「DEGDEE」と省略)
・トリエチレングリコールジメチルエーテル(表中「GL−3」と省略)
・エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(表中「EGBEA」と省略)
・ジプロピレングリコールプロピルエーテル(表中「DPGPE」と省略)
・テトラエチレングリコールジメチルエーテル(Tetraglyme、表中「GL−4」と省略)
・ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(表中「PEGME」と省略)
(2.非プロトン極性溶剤)
・N−エチル−2−ピロリドン(表中「NEP」と省略)
・ジメチルスルホキシド(表中「DMSO」と省略)
・N−メチル−2−ピロリドン(表中「NMP」と省略)
・γ−ブチロラクトン(表中「GBL」と省略)
・1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(表中「DMI」と省略)
・2−ピロリドン(表中「ピロリドン」と省略)
・γ−ウンデカラクトン(表中「GUL」と省略)
(3.その他の有機溶剤)
・メチルエチルケトン(表中「MEK」と省略)
・2−プロパノール(表中「プロパノール」と省略)
・シクロヘキサノン
・1,2−ヘキサンジオール(表中「ヘキサンジオール」と省略)
・ジプロピレングリコール(表中「DPG」と省略)
・トリエチレングリコール(表中「TEG」と省略)
【0125】
[実施例1〜6、比較例1〜5、参考例1〜2]
〔特定インクの調製〕
まず、下記表1及び表2に示す組成で材料を混合して、インクA〜Kを調製した。
なお、表1及び表2中、空欄部は無添加を意味し、数値の単位は質量%である。
【0126】
【表1】

【0127】
【表2】

【0128】
〔印刷〕
次に、下記の印刷装置を用いて、上記表1及び表2のインクA〜Kを下記の被印刷媒体にそれぞれ印刷した。
(被印刷媒体)
・塩ビフィルム(ローランド社(Roland DG Corporation)製、商品名「LLEX」)
・PPフィルム(エイブリィ・デニソン社(Avery Dennison Corporation)製、商品名「BA2076」)
・PETフィルム(リンテック社(Lintec Corporation)製、商品名「K2411」)
・PEフィルム(エイブリィ・デニソン社製、商品名「BA1201」)
・印刷本紙(王子製紙社(Oji Paper Company, Limited)製、商品名「OKトップコート+」)
【0129】
(印刷装置(印刷方式))
(1.プリンター1)
図2に示すものと同様の基本構成を備える印刷装置を用いた。但し、ヘッドのノズル列におけるノズル密度は180dpiであった。ホットプラテン23に静止した被印刷媒体に対してヘッド40を所定パス数、走査させて1回の印刷動作による画像の形成を行った。
【0130】
(2.プリンター2(シリアルプリンター))
EPSON PX−7500(セイコーエプソン社(Seiko Epson Corporation)製商品名)を使用した。プラテンにおいて被印刷媒体を加熱させることを可能とするようプラテンを改造してヒーターを取り付けた。プラテンの被印刷媒体搬送方向の距離は、ヘッドの搬送方向の距離とほぼ同じ距離であった。ヘッドが備える複数のノズル列の1つに本実施例のインクを充填し印刷を行った。ノズル列のノズル密度は180dpiであった。印刷は主走査と被印刷媒体の搬送(副走査)を交互に繰り返すものであり、4パス印刷によるインターレース印刷を行った。被印刷媒体のある1点は、ヘッドが主走査を4パス行う間、ヘッドと対向する位置にあった。
【0131】
実施例1〜6、比較例1〜5、及び参考例1〜2の各実験例における、印刷方式、ホットプラテンの温度(プラテン温度)、走査回数(パス数)、画像の解像度(印刷解像度)、及び用いた被印刷媒体を、下記表3及び表4に纏める。なお、実施例3及び4は、主走査方向に並ぶ画素の列である1つの画素列に対して2回の走査(パス)にてドットを形成している。
【0132】
【表3】

【0133】
【表4】

【0134】
[評価項目]
〔評価1:ブリード〕
各特定インクで被印刷媒体上に4pt、10ptの文字を、表に記載の温度に加熱したプラテン上で印字し、その後十分加熱乾燥させてサンプル形成した。その後、各特定インクの滲み具合(文字のにじみ、文字認識程度)を目視で観察した。評価基準を下記に示す。また、評価結果を下記表5〜14に示す。
A:4pt、10ptのいずれも、滲みがなく、文字認識ができた。
B:4pt、10ptは多少滲みあるものの、文字認識はできる。
C:4ptは滲みがひどく、文字として認識できない。10ptは滲みあるものの、文字認識はできる。
D:4pt、10ptともに滲みがひどく、文字として認識できない。
なお、ブリードの要因として、インクの乾燥性が挙げられる。
【0135】
〔評価2:ベタ埋まり〕
各特定インクを被印刷媒体上にベタ印字を、表に記載の温度に加熱したプラテン上で印字し、その後十分加熱乾燥させてサンプル形成した。その後、得られたベタ印字における白色の筋の有無及び程度を目視で観察した。評価基準を下記に示す。また、評価結果を下記表5〜14に示す。
・A:印刷全領域でハジキがなく、ベタ埋まりがよかった。
・B:印刷領域の一部で濃度ムラが見られるものの、印字全領域でハジキがなく、ベタ埋まりも良好であり、問題なし。
・C:印刷領域の一部でハジキが見られ、ベタが均一に埋まらなかった。
・D:印刷領域のほとんどでハジキが見られ、ベタが埋まらない。
なお、ベタ埋まりの要因として、被印刷媒体上でのインクの表面張力が挙げられる。
【0136】
〔評価3:定着性〕
各特定インクを被印刷媒体上にベタ印字した。その後、被印刷媒体の表面と印字された層との密着度合いを観察した。具体的には、セロハンテープ(CT24、ニチバン社(NICHIBAN CO., LTD.)製)を指の腹で印字された層を含む印字物に密着させた後、剥離したときの結果を下記の基準で評価した。また、評価結果を下記表5〜14に示す。
A:印字物がテープで剥離しなかった。
B:印字物がテープで一部剥離したが、問題ないレベル。
C:印字物がテープで半分以上が剥離した。
なお、定着性の要因として、インクの乾燥性、及び被印刷媒体の素材である塩ビへの溶解性(塩ビフィルム対応性)が挙げられる。
【0137】
〔評価4:タック性〕
各特定インクを被印刷媒体上にベタ印字した。印字直後のタック性、すなわち指で触った際に痕がつくか否か、を観察した。この「印刷直後」とは、プリンター1の場合、印刷エリアから搬送方向下流へ媒体が排出されてきた直後、という意味であり、プリンター2(シリアルプリンター)の場合、プラテン(ヘッドと対向する部分)から搬送方向下流へ媒体が排出されてきた直後、という意味である。評価基準を下記に示す。また、評価結果を下記表5〜14に示す。
A:印字物に指の痕がつかない
B:印字物に指の痕が多少残るが、インクが指に転写されることはない
C:印字物に指の痕が非常につき、インクが指に転写される。
なお、タック性の要因として、インクの乾燥性が挙げられる。また、インクに含まれる溶剤がほぼ揮発すると、指で触った際に痕がつかなくなる(タックフリー)。
【0138】
〔評価5:着弾精度〕
各ノズルが走査方向に対して1mm間隔で1ドットを記録する印字パターンを用いて、表に記載の条件で、印字した。印字されたドットの間隔を計測して着弾誤差を計算した。評価基準を下記に示す。また、評価結果を下記表5〜14に示す。
A:着弾誤差が±5μm以内である。
B:着弾誤差が±20μm以内である。
C:着弾誤差が±20μm以上である。
なお、着弾位置精度は誤差が±5μm以内であった。また、着弾精度の要因として、被印刷媒体の搬送性及び記録方法が挙げられる。
【0139】
【表5】

【0140】
【表6】

【0141】
【表7】

【0142】
【表8】

【0143】
【表9】

【0144】
【表10】

【0145】
【表11】

【0146】
【表12】

【0147】
【表13】

【0148】
【表14】

【0149】
被印刷媒体間で結果を比べると、塩ビフィルム、PPフィルム、及びPETフィルムの3種については、同じ結果となった一方で、耐熱性に若干劣るPEフィルムは、メディアの変形に伴って、着弾精度に劣る結果となった。
【0150】
上記の表3及び表4より、プラテン加熱付きのプリンター1の印刷装置に、沸点が120℃以上240℃以下の、グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤をインク組成中に60質量%以上含有する非水性の特定インクを用いることで、定着性、タック性、及び着弾精度に優れた記録方法とすることができることを見出した。
【0151】
特に、印刷方式の点で、本発明の印刷方式はシリアル式よりも顕著に優れることが明らかとなった。本印刷方式では、印字が完了するまで被印刷媒体はプラテン上で保持される。これにより、被印刷媒体に十分な熱が付与されるため、シリアル式に比べて、高沸点有機溶剤を含有する特定インクにおいても、印字直後の乾燥性を良好なものとすることができる。
【0152】
また、本発明の印刷方式では、シリアル式に比べて、印字の際の紙搬送に誤差が無いため、着弾精度も向上し、画質品位に優れることが分かった。
【0153】
さらに、シリアル式と異なり、本発明の印刷方式においては、印字パス数が変更可能である点、並びに、印字速度、画質、及び乾燥性といった印刷特性がインクや被印刷媒体の種類に応じて調整可能である点も確認している。
【符号の説明】
【0154】
1…プリンター、10…コントローラー、11…インターフェース、12…CPU、13…メモリ、14…ユニット制御回路、20…搬送ユニット、21…送りローラー、22…送り出しローラー、23…ホットプラテン、30…駆動ユニット、40…ヘッドユニット、41…ヘッド、50…検出器群、90…コンピューター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する工程と、被印刷媒体を搬送する搬送工程と、を交互に行うことにより印刷を行うインクジェット記録方法であって、
前記画像を形成する工程は、
前記印刷領域に静止させた被印刷媒体に対してプリントヘッドを相対的に移動させながら、前記プリントヘッドから前記インクを前記被印刷媒体に吐出する走査を複数回行い、かつ、
前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクにエネルギーを与えて前記被印刷媒体に定着させるものであり、
前記被印刷媒体が、インク非吸収性又は低吸収性の被印刷媒体であり、
前記特定インクは、沸点が120℃以上240℃以下の、グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤をインクの組成中に60質量%以上含有する、インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記画像を形成する工程における前記走査は、前記プリントヘッドを前記印刷領域に静止させた前記被印刷媒体に対して前記特定インクを吐出しながら相対的に所定の方向に沿って移動させる、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記画像を形成する工程は、前記所定の方向に前記プリントヘッドを移動させる走査と、前記所定の方向と交差する方向に前記プリントヘッドを前記被印刷媒体に対して相対的に移動させる動作と、を交互に行う、請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記プリントヘッドは、前記所定の方向と交差する方向に、所定のノズル密度を有する複数のノズルが並ぶノズル列を備え、かつ、
1回の前記画像を形成する工程は、前記プリントヘッドの前記ノズル密度よりも高い前記所定の方向と交差する方向の印刷解像度で印刷する、請求項2又は3に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記プリントヘッドは、前記所定の方向と交差する方向に、複数のノズルが並ぶノズル列を備え、かつ、
前記ノズル列の前記所定の方向と交差する方向の距離は、前記印刷領域に位置する前記被印刷媒体の前記所定の方向と交差する方向の距離よりも長い、請求項2〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法に用いられる、インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−162002(P2012−162002A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24330(P2011−24330)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】