説明

インクジェット記録用インク組成物

【課題】発色性、安定性、および定着性に優れた画像をのインクの吐出安定性に優れるインクジェット記録用インク組成物の提供。
【解決手段】顔料を水に分散可能とした分散体と、高分子微粒子と、下記式(I)で表される化合物:


とを少なくとも含んでなる、インクジェット記録用インク組成物であって、前記分散体の粒子の平均粒径が50〜300nmであり、前記高分子微粒子のガラス転位温度が−10℃以下、酸価が100mgKOH/g以下であり、かつ70重量%以上のアルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートを含んでなり、前記式(I)で表される化合物が、インク組成物全体に対して、0.1〜10重量%含まれてなるインクジェット記録用インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、発色性、安定性および定着性に優れ、特にインクジェット捺染用インク組成物として優れるインクジェット記録用インク組成物に関する。
【0002】
背景技術
インクジェット記録に用いられるインクは、被記録体である紙への印字において、にじみがないこと、乾燥性がよいこと、様々な被記録体表面に均一に印字できること、カラー印字等の多色系の印字において隣り合った色が混じり合わないことなどの特性が要求される。
【0003】
従来のインクにおいて、特に顔料を用いたインクの多くは、主に浸透性を抑えることで、紙表面に対するインクのぬれを抑え、紙表面近くにインク滴をとどめることで印字品質を確保する検討がなされ、実用化されている。しかしながら、紙に対するぬれを抑えるインクでは、紙種の違いによるにじみの差が大きく、特に様々な紙の成分が混じっている再生紙では、その各成分に対するインクのぬれ特性の差に起因するにじみが発生する。また、このようなインクでは、印字の乾燥に時間がかかり、カラー印字等の多色系の印字において隣り合った色が混色してしまうという課題を有し、更に、顔料を用いたインクでは、顔料が紙等の表面に残るため、耐擦性が悪くなるという課題もあった。
【0004】
このような課題を解決するため、インクの紙への浸透性を向上させることが試みられており、ジエチレングリコールモノブチルエーテルの添加(米国特許第5156675号明細書(特許文献1)参照)、アセチレングリコール系の界面活性剤であるサーフィノール465(日信化学製)の添加(米国特許第5183502号明細書(特許文献2)参照)、あるいはジエチレングリコールモノブチルエーテルとサーフィノール465の両方を添加すること(米国特許第5196056号明細書(特許文献3)参照)などが検討されている。また、ジエチレングリコールのエーテル類をインクに用いることなどが検討されている(米国特許第2083372号明細書(特許文献4)参照)。
【0005】
また、顔料を用いたインク組成物では、顔料の分散安定性を確保しながらインクの浸透性を向上することが一般に難しく、浸透剤の選択の幅が狭いため、従来グリコールエーテルと顔料との組み合わせとして、顔料にトリエチレングリコールモノメチルエーテルを用いた例(特開昭56−147861号公報(特許文献5)参照)や、エチレングリコール、ジエチレングリコールあるいはトリエチレングリコールのエーテル類を用いた例(特開平9−111165号公報(特許文献6)参照)などがある。
【0006】
さらに、捺染用としては、例えば染料を用いたもの(特開平2007−515561号公報(特許文献7)参照)や、結着剤に関するもの(特開平2007−126635号公報(特許文献8)参照)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5156675号明細書
【特許文献2】米国特許第5183502号明細書
【特許文献3】米国特許第5196056号明細書
【特許文献4】米国特許第2083372号明細書
【特許文献5】特開昭56−147861号公報
【特許文献6】特開平9−111165号公報
【特許文献7】特開平2007−515561号公報
【特許文献8】特開平2007−126635号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明者等は、今般、インクジェット記録方法において、顔料を水に分散可能とした特定の分散体、特定の高分子微粒子、および下記式(I)で表される化合物を含むインク組成物とすることにより、発色性、安定性、および定着性に優れた画像を実現でき、特にインクジェット捺染用インク組成物として優れ、また、インクジェットヘッドからのインクの吐出安定性に優れるインク組成物を得ることができるとの知見を得た。本発明はこれらの知見に基づくものである:
【化1】

(式中、
はC1−4アルキル基を表し、
はC1−4アルキル基を表し、
EOはエチレンオキシ基を表し、
POはプロピレンオキシ基を表し、
m1、m2、n1、およびn2は0または1以上の自然数を表し、
EOおよびPOは、上記式の[]内においてその順序は問わず、ランダムであってもブロックであってもよく、
式(I)の化合物の混合物の数平均として表した場合、m1+m2+n1+n2が0〜10の範囲にある)。
【0009】
従って、本発明は、発色性、安定性、および定着性に優れた画像を実現でき、特にインクジェット捺染用インク組成物として優れ、また、インクジェットヘッドからのインクの吐出安定性に優れるインクジェット記録用インク組成物の提供をその目的としている。
【0010】
そして、本発明によるインクジェット記録用インク組成物は、顔料を水に分散可能とした分散体と、高分子微粒子と、上記式(I)で表される化合物とを少なくとも含んでなる、インクジェット記録用インク組成物であって、
前記分散体の粒子の平均粒径が50〜300nmであり、
前記高分子微粒子のガラス転位温度が−10℃以下、酸価が100mgKOH/g以下であり、かつ70重量%以上のアルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートを含んでなり、
上記式(I)の化合物が、インク組成物全体に対して、0.1〜10重量%含まれてなるインクジェット記録用インク組成物である。
【0011】
本発明によれば、発色性、安定性、および定着性に優れた画像を実現でき、特にインクジェット捺染用インク組成物として優れ、また、インクジェットヘッドからのインクの吐出安定性に優れるインクジェット記録用インク組成物を提供することができる。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明によるインクジェット記録用インク組成物は、顔料を水に分散可能とした分散体の粒子の平均粒径が50〜300nmであり、ガラス転位温度が−10℃以下であり、酸価が100mgKOH/g以下であり、かつ70重量%(以下「重量%」を単に「%」と記載することもある。)以上のアルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートを含有してなる高分子微粒子と、前記インク組成物全体に対して、0.1〜10重量%含まれてなる前記上記式(I)の化合物とを含んでなるものである。以下、インク組成物に含まれる各成分について説明する。
【0013】
〈高分子微粒子〉
本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子のガラス転位温度を−10℃以下とすることにより、特に捺染用インクとしての顔料の定着性を向上することができる。より好ましくは、本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子のガラス転位温度は−15℃以下であり、さらに好ましくは−20℃以下である。
【0014】
また、本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子の酸価を100mgKOH/g以下とすることにより、特に捺染用として布に印捺した場合に洗濯堅牢性が向上させることができる。より好ましくは、高分子微粒子の酸価は50mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは30mgKOH/g以下である。
【0015】
さらに、本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるスチレン換算重量平均分子量が100000〜1000000であることが好ましい。高分子微粒子のスチレン換算重量平均分子量が100000〜1000000であることにより、特に捺染用として布に印捺した場合に洗濯堅牢性が向上し、顔料の定着性が向上する。
【0016】
また、本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子は、70重量%以上のアルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートを含有する。本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子が70重量%以上のアルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートを含有することにより、特に捺染用として布に印捺した場合の乾摩擦と湿摩擦の摩擦堅牢性を向上させることができる。
【0017】
本発明によるインク組成物に含まれる高分子微粒子が含有するアルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数が1〜24のアルキル(メタ)アクリレートおよび/または炭素数が3〜24の環状アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、その例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレートおよびベヘニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0018】
上記高分子微粒子の平均粒径は光散乱法で測定する。高分子微粒子の平均粒径は特に限定されないが、光散乱法による高分子微粒子の平均粒径は50〜500nmが好ましく、より好ましくは60〜300nmである。高分子微粒子の平均粒径を50〜500nmとすることにより、良好な定着性を実現でき、またインクジェットヘッドからのインクの優れた吐出安定性を実現できる。なお、上記平均粒径は、例えば、マイクロトラックUPA(Microtrac Inc.社)を使用して測定することができる。
【0019】
〈分散体〉
本発明によれば、顔料を水に分散可能とした分散体の粒子の平均粒径を50〜300nmとすることにより、良好な発色性および定着性を実現できる。より好ましくは前記分散体の粒子の平均粒径は70〜230nm、さらに好ましくは80〜130nmである。ここで、分散体の粒子の平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子の分散径(累積50%径)である。前記分散体の粒子の平均粒径は光散乱法により測定することができ、例えば、マイクロトラックUPA(Microtrac Inc.社)を使用して測定することができる。また、顔料を水に分散可能とした分散体とは、顔料を水に分散させた分散体のみならず、水を含有せずに顔料を分散させた分散体も含む。
【0020】
また、本発明によるインク組成物は、分散体として、分散剤なしに水に分散可能である、平均粒径が50〜300nmの自己分散顔料を含むことが好ましい。この自己分散顔料を用いることにより、印刷物の発色性を向上させることができる。分散剤なしに水に分散可能とする方法は、顔料の表面をオゾンや次亜塩素酸ナトリウムなどで酸化する方法などがある。かかる自己分散顔料の平均粒径は、50〜150nmが好ましい。自己分散顔料の平均粒径を50〜150nmとすることにより、良好な発色性および定着性を実現できる。前記自己分散顔料のより好ましい平均粒径は70〜130nmであり、さらに好ましくは80〜120nmである。
【0021】
また、本発明によるインク組成物に含まれる顔料を水に分散させるためにポリマーを用いてもよい。本発明によるインク組成物に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるスチレン換算重量平均分子量が10000〜200000であるポリマーを含むことが好ましい。これにより、特に捺染用インク組成物としての顔料の定着性の向上を実現でき、本発明によるインク組成物の保存安定性も向上させることができる。また、上記ポリマーは、特に限定されないが、その構成成分として少なくとも70重量%以上が(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリル酸の共重合によるポリマーであることが好ましい。
【0022】
また、上記ポリマーとは別に、前記分散体の分散を安定させるために、分散安定剤として水分散性または水溶解性のポリマー、界面活性剤、および/または顔料分散剤を添加してもよい。
【0023】
前記顔料分散剤として、疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合樹脂を含んでなることが好ましい。これら共重合樹脂は、顔料に吸着して分散性を向上させる。
【0024】
共重合体樹脂における疎水性モノマーの具体例としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、iso−プロピルアクリレート、iso−プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、sec−ブチルアクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルアクリレート、n−オクチルメタクリレート、iso−オクチルアクリレート、iso−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルアクリレート、フエニルメタクリレート、ノニルフェニルアクリレート、ノニルフェニルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ボルニルアクリレート、ボルニルメタクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエンなどをあげることができる。これらは、単独でまたは二種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
親水性モノマーの具体例としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などを挙げることができる。
【0026】
疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合樹脂は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メチルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、またはスチレン−マレイン酸共重合樹脂、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、またはスチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0027】
前記共重合樹脂は、スチレンと、アクリル酸またはアクリル酸のエステルと、を反応して得られる重合体を含む樹脂(スチレン−アクリル酸樹脂)であってもよい。あるいは、前記共重合樹脂は、アクリル酸系水溶性樹脂であってもよい。またはこれらのナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩であってもよい。
【0028】
これら共重合樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、顔料100質量部に対して、好ましくは10〜50質量部であり、一層好ましくは10〜35質量部である。
【0029】
本発明の別の態様においては、顔料分散剤として、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メチルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、又はスチレン−マレイン酸共重合樹脂、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、およびスチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂からなる群から選択される共重合体樹脂(以下、単に共重合樹脂という場合がある。)と、ウレタン樹脂とを用いてもよい。このような顔料分散剤と上記ポリマーと組み合わせて用いることにより、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止性の他、吐出安定性、目詰まり防止性、発色安定性や銀塩に匹敵する高画質を実現することができる。
【0030】
共重合樹脂とウレタン樹脂との重量比は、1/2〜2/1であることが好ましく、1/1.5〜1.5/1であることがより好ましい。この範囲で両樹脂を添加することにより、より一層優れた光沢性、及びブロンズ防止性を有する画像を形成することができるとともに、インクの保存安定性を維持することができる。
【0031】
上記共重合樹脂は、スチレンと、アクリル酸又はアクリル酸のエステルと、を反応して得られる重合体を含む樹脂(スチレン−アクリル酸樹脂)であってもよい。あるいは、前記共重合樹脂は、アクリル酸系水溶性樹脂であってもよい。またはこれらのナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩であってもよい。
【0032】
上記ウレタン樹脂は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、ウレタン結合及び/又はアミド結合と、酸性基とを有する樹脂であることが好ましい。
【0033】
ウレタン樹脂とは、ジイソシアネート化合物と、ジオール化合物とを反応して得られる重合体を含む樹脂である。
【0034】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、トルイレンジイソシアネート、フェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物、これらの変性物が挙げられる。
【0035】
ジオール化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル系、ポリエチレンアジベート、ポリブチレンアジベート等のポリエステル系、ポリカーボネート系が挙げられる。
【0036】
前記ウレタン樹脂は、カルボキシル基を有することが好ましい。
【0037】
顔料の固形分と、顔料以外の固形分との重量比(前者/後者)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、100/20〜100/80であることが好ましい。
【0038】
共重合樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは10〜50質量部であり、一層好ましくは10〜35質量部である。
【0039】
ウレタン樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは10〜40質量部であり、一層好ましくは10〜35質量部である。
【0040】
共重合樹脂およびウレタン樹脂の合計量は、顔料100質量部に対して、90質量部以下(さらに好ましくは70質量部以下)となるように用いられることが、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに光沢性に一層優れたカラー画像を形成できる点で好ましい。
【0041】
共重合樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは50〜320であり、一層好ましくは100〜250である。
【0042】
ウレタン樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは10〜300であり、一層好ましくは20〜100である。
【0043】
共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは2,000〜30,000であり、より好ましくは2,000〜20,000である。
【0044】
ウレタン樹脂の架橋前の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは100〜200,000であり、より好ましくは1000〜50,000である。
【0045】
共重合樹脂のガラス転移温度(Tg;JIS K6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは30℃以上であり、一層好ましくは50〜130℃である。
【0046】
ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg;JIS K6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは−50〜200℃であり、一層好ましくは−50〜100℃である。
【0047】
共重合樹脂は、インク組成物中または顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合とがあり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下がより好ましく、特に0.1μm以下であることが一層好ましい。
【0048】
ウレタン樹脂は、インク組成物中または顔料分散液中において微粒子状に分散している場合と、顔料に吸着している場合とがあり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、ウレタン樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下がより好ましく、特に0.1μm以下であることが一層好ましい。なお、上記平均粒径は、例えば、マイクロトラックUPA(Microtrac Inc.社)を使用して測定することができる。
【0049】
さらに、本発明においては、グリシジルエーテルを骨格とするエポキシ樹脂またはオキサゾリン基を有する樹脂が、架橋剤として添加されていることが、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点から特に好ましい。
【0050】
前記架橋剤は、分散性の一層向上の観点からは、カルボキシル基と反応する樹脂(カルボキシル基攻撃型の樹脂)であることが好ましい。例えば、分子中にカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド系、分子中にオキサゾリン基を有するオキサゾリン系、アジリジン系等が挙げられる。
【0051】
架橋剤の添加量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記共重合樹脂および前記ウレタン樹脂の総カルボキシ基に対して、ゲル分率が20%以上、より好ましくは35%以上であることが好ましい。
【0052】
また、前記架橋剤の添加量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、有効固形分重量比(すなわち、架橋剤の量/共重合樹脂とウレタン樹脂との合計量)が、好ましくは0.5/100〜50/100となる量であり、一層好ましくは0.5/100〜40/100となる量である。
【0053】
架橋剤と反応した前記ウレタン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、10,000以上であることが好ましく、30,000以上であることが一層好ましい。
【0054】
本発明の別の態様においては、顔料分散助剤として、青木油脂工業社製のBLAUNON L−400、S−400A、O−400SA、O−600SA、花王社製のエマルゲン103、104P、106、108、404、420、サンノプコ社製のSNウェットL、SNウェット366等が挙げられる。
【0055】
〈式(I)で表される化合物〉
さらに、本発明によるインク組成物は、上記式(I)で表される化合物を含む。上記式(I)で表される化合物の添加量を0.1〜10重量%とすることより、普通紙の発色性が向上し、光沢紙の光沢性も向上し、かつ良好な吐出安定性を実現できる。
【0056】
また、本発明によるインク組成物に含まれる上記式(I)の化合物は、上記式(I)中、RがC1−4アルキル基を表し、RがC1−4アルキル基を表し、EOはエチレンオキシ基を表し、POはプロピレンオキシ基を表し、m1、m2、n1、およびn2は0または1以上の自然数を表し、 EOおよびPOが、上記式の[]内においてその順序は問わず、ランダムであってもブロックであってもよく、式(I)の化合物の混合物の数平均として表した場合、m1+m2+n1+n2が0〜10の範囲にあれば、特に限定されない。
上記式(I)中、RおよびRは、RがC1−4アルキル基を表し、RがC1−4アルキル基を表すのであれば特に限定されないが、好ましくは、前記R1およびR2のアルキル基の炭素数の合計が4以上であり、さらに好ましくはR1およびR2のアルキル基の炭素数の合計が5以上であり、さらに好ましくはR1およびR2のアルキル基の炭素数の合計が6以上である。
上記式(I)中、m1、m2、n1、およびn2の全てが0である場合の好ましい例としては、2,2−ジブチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジプロピル−1,3−プロパンジオール、2−プロピル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、および2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールが挙げられる。
また、上記式(I)中、m1、m2、n1、およびn2の全てが0でない場合の好ましい例としては、DMH−20またはDMH−40(共に日本乳化剤株式会社製)が挙げられる。エチレンオキシド付加物は市販されている。一方、プロピレンオキシド付加物およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドの両方の付加物は市販されていないが、それらの付加体を用いてもよい。
【0057】
〈その他の成分〉
また、本発明によるインク組成物は、1,2−アルキレングリコールを更に用いることが好ましい。1,2−アルキレングリコールを更に用いることによりにじみが低減し、印刷品質が向上する。1,2−アルキレングリコールとしては、特に限定されないが、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジールなどの炭素数5または6の1,2−アルキレングリコールが好ましい。それらの中でも、炭素数6の1,2−ヘキサンジオールおよび4−メチル−1,2−ペンタンジオールが好ましい。また、1,2−アルキレングリコールの添加量は0.3%〜30%が好ましく、より好ましくは0.5%〜10%である。
【0058】
また、本発明によるインク組成物は、グリコールエーテルを含んでいてもよい。グリコールエーテルとしては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、およびジプロピレングリコールモノブチルエーテルから選択される一種または二種以上を用いることができる。また、グリコールエーテルの添加量は、0.1%〜20%が好ましく、より好ましくは0.5%〜10%である。
【0059】
また、本発明によるインク組成物は、アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤を含んでなることが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤を用いることで、さらににじみが低減し、印刷品質が向上する。また、これらの添加により、印字の乾燥性が向上し、高速印刷が可能となる。
【0060】
アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤としては、2、4、7、9−テトラメチル−5−デシン−4、7−ジオールおよび2、4、7、9−テトラメチル−5−デシン−4、7−ジオールのアルキレンオキシド付加物、2、4−ジメチル−5−デシン−4−オールおよび2、4−ジメチル−5−デシン−4−オールのアルキレンオキシド付加物から選ばれた一種以上が好ましい。これらは、エアプロダクツ(英国)社のオルフィン104シリーズ、オルフィンE1010などのEシリーズ、日信化学製サーフィノール465あるいはサーフィノール61などとして入手可能である。
【0061】
また、本発明においては、上記1,2−アルキレングリコールと、上記アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤と、上記グリコールエーテルとからなる群から選択される一種または二種以上を用いることでよりにじみが低減する。
【0062】
また、本発明によるインク組成物は、前記高分子微粒子の含有量(重量%)が、前記顔料の含有量(重量%)より多いことが好ましい。顔料より重量単位で多くの高分子微粒子を添加することにより、特に捺染用インク組成物としての顔料の定着性が向上する。さらに、捺染用としては、布に印刷した後に、水または界面活性剤入りの水で洗浄する工程を入れることにより、インク中の水溶性成分を洗い流すことで、高分子微粒子の布への定着が強固になり、耐擦性をさらに向上させることができる。
【0063】
本発明に用いることができる顔料としては、黒色インク用として、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類が特に好ましいが、銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料を用いることもできる。
【0064】
また、カラーインク用としては、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、93、94、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、128、138、153、155、180、185、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、202、206、209、219、C.I.ピグメントバイオレット19、23、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36等が使用できるこのように、色剤としては種々の顔料を用いることができる。
【0065】
また、上記顔料は、分散機を用いて分散するが、分散機としては市販の種々の分散機を用いることができる。ただし、好ましくはコンタミが少ないという観点から、非メディア分散がよい。その具体例としては、湿式ジェットミル(ジーナス社)、ナノマーザー(ナノマーザー社)、ホモジナイザー(ゴーリン社)、アルティマイザー(スギノマシン社)およびマイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社)などが挙げられる。
【0066】
本発明によるインク組成物に用いられる顔料の添加量は、0.5%〜30%が好ましく、1.0%〜15%がより好ましい。0.5%以下の添加量では、印字濃度が確保できなくなり、また30%以上の添加量では、インクの粘度増加や粘度特性に構造粘性が生じ、インクジェットヘッドからのインクの吐出安定性が悪くなる傾向になる。
【0067】
また、本発明によるインク組成物は、その放置安定性の確保、インクジェットヘッドからの安定吐出のため、目詰まり改善のためあるいはインクの劣化防止のためなどの目的で保湿剤、溶解助剤、浸透制御剤、粘度調整剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート等種々の添加剤を添加することもできる。
【0068】
また、本発明によるインク組成物は、ピエゾ素子のような、加熱が起こらない電歪素子を用いた方法により吐出されることが好ましい。サーマルヘッドのような加熱が起こる場合は、添加している高分子微粒子や、顔料の分散などに用いるポリマーが変質して吐出が不安定になりやすい。特に、捺染用のインクジェットインクのように大量のインクを長時間に亘って吐出させる場合は、加熱が起こるヘッドは好ましくない。
【実施例】
【0069】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0070】
実施例1
顔料分散体の製造
顔料分散体は、ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン顔料:クラリアント製)を用いた。攪拌機、温度計、還流管、および滴下ロートをそなえた反応容器を窒素置換した後、ベンジルアクリレート75部、アクリル酸2部、t―ドデシルメルカプタン0.3部を入れて70℃に加熱し、別に用意したベンジルアクリレート150部、アクリル酸15部、ブチルアクリレート5部、t−ドデシルメルカプタン1部、メチルエチルケトン20部、および過硫酸ナトリウム1部を滴下ロートに入れて4時間かけて反応容器に滴下しながら分散ポリマーを重合反応させた。次に、反応容器にメチルエチルケトンを添加して40%濃度の分散ポリマー溶液を作製した。このポリマーの一部を取り乾燥させた後、示差操作型熱量計(セイコー電子製EXSTAR6000DSC)によりガラス転位温度を測定したところ40℃であった。
また、上記分散ポリマー溶液40部と、ピグメントブルー15:3を30部と、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100部と、メチルエチルケトン30部とを混合した。その後超高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製アルティマイザーHJP−25005)を用いて200MPaで15パスして分散した。その後、別の容器に移してイオン交換水を300部添加して、さらに1時間攪拌した。そして、ロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンの全量と水の一部とを留去して、0.1mol/Lの水酸化ナトリウムで中和してpH9に調整した。その後、0.3μmのメンブレンフィルターでろ過し、イオン交換水で調製して、顔料濃度が15%である顔料分散体を調製した。マイクロトラック粒度分布測定装置UPA250(日機装製)を用いてその粒径を測定したところ80nmであった。
【0071】
高分子微粒子の作製
反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過流酸カリ0.3部を添加しておき、イオン交換水7部にラウリル硫酸ナトリウムを0.05部、エチルアクリレート20部、ブチルアクリレート15部、ラウリルアクリレート6部、ブチルメタクリレート5部、およびt−ドデシルメルカプタン0.02部を入れたモノマー溶液を、70℃に滴下して反応させて1次物質を作製する。その1次物質に、過流酸アンモニウム10%溶液2部を添加して攪拌し、さらにイオン交換水30部、ラウリル硫酸カリ0.2部、エチルアクリレート30部、ブチルアクリレート25部、ラウリルアクリレート16部、アクリル酸5部、t−ドデシルメルカプタン0.5部よりなる反応液を70℃で攪拌しながら添加して重合反応させた後、水酸化ナトリウムで中和しpH8〜8.5にして0.3μmのフィルターでろ過した高分子微粒子水分散液を作成してエマルジョンA(EM−A)とした。この高分子微粒子水分散液の一部を取り乾燥させた後、示差操作型熱量計(セイコー電子製EXSTAR6000DSC)によりガラス転位温度を測定したところ−19℃であった。株式会社日立製作所製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、溶剤をTHFとして測定したときのスチレン換算分子量は180000であった。また、滴定法による酸価は18mgKOH/gであった。
【0072】
インクジェット記録用インクの調製
以下、インクジェット記録用インク組成物に好適な組成の例を表1に示す。本発明のインクジェット記録用インクの調製は、上記の方法で作製した顔料分散体を用い、表1に示すビヒクル成分と混合することによって作製した。尚、本発明の実施例および比較例中の残量の水にはインクの腐食防止のためトップサイド240(パーマケムアジア社製)を0.05%、インクジェットヘッド部材の腐食防止のためベンゾトリアゾールを0.02%、インク系中の金属イオンの影響を低減するためにEDTA(エチレンジアミン四酢酸)・2Na塩を0.04%それぞれイオン交換水に添加したものを用いた。なお、サーフィノール104は、日信化学製アセチレングリコール系界面活性剤であり、サーフィノール465は、日信化学製アセチレングリコール系界面活性剤であり、式(I)化合物5は、日本乳化剤株式会社のDMH-40である。
【0073】
実施例2〜5および比較例1
上記の実施例1のインク組成物の式(I)の化合物およびその量を表1の記載のとおりに変更した以外は同様にして、実施例2〜5のインク組成物を調製した。また、上記の実施例1のインク組成物中の式(I)の化合物を除いた以外は同様にして、比較例1のインク組成物を調製した。なお、実施例1〜5および比較例1に含まれる高分子微粒子中のアルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートの量は、全て95.9重量%である。
【0074】
耐擦性試験とドライクリーニング性試験
上記インク組成物を用い、インクジェットプリンターとしてセイコーエプソン株式会社製PX−V600を用いて、綿にベタ印字したサンプルを作成した。そのサンプルをテスター産業株式会社の学振式摩擦堅牢性試験機AB−301Sを用いて荷重200gで100回擦る摩擦堅牢性を評価した。インクのはがれ具合を確認する日本工業規格(JIS)JIS L0849によって、乾燥と湿潤の二つの水準により評価した。また、同様にドライクリーニング試験をJIS L0860のB法によって評価した。耐擦性試験およびドライクリーニング試験の結果を表2に示す。
【0075】
吐出安定性の測定
インクジェットプリンターとしてセイコーエプソン株式会社製PX−V600を用いて、35℃、35%雰囲気で富士ゼロックス社製XeroxP紙A4判にマイクロソフトワードで文字サイズ11の標準、MSPゴシックで4000字/ページの割合で100ページ印刷して評価した。全く印字乱れがないものをAA、1箇所印字乱れがあるものをA、2〜3箇所印字乱れがあるものをB、4〜5箇所印字乱れがあるものをC、6箇所以上印字乱れがあるものをDとして結果を表2に示す。
【0076】
普通紙ODと光沢紙光沢度の評価
普通紙としては米国Xerox社製Xerox4024紙を用い、光沢紙としてはセイコーエプソン株式会社製PM写真用紙を用いた。プリンターはセイコーエプソン株式会社製のインクジェットプリンターEM930Cを用い、普通紙はフォト720dpiで光沢紙はフォト1440dpiの印刷モードで印刷した試料を用いて評価した。OD値の測定は米国GRETAG社製GRETAG MACBETH SPECTROSCAN SPM−50を用いて行なった。光沢度の測定は入射角20度における記録面の鏡面光沢度を堀場製作所株式会社製グロスチェッカIG−320にて測定を行い、記録紙ごとに5回測定し、その平均値を求めた。メディアはセイコーエプソン株式会社製PM写真用紙で、プリンターはセイコーエプソン株式会社製EM930Cを用いてフォト720dpiで印刷した。結果を表2に示す。
【0077】
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を水に分散可能とした分散体と、高分子微粒子と、下記式(I)で表される化合物:
【化1】

(式中、
はC1−4アルキル基を表し、
はC1−4アルキル基を表し、
EOはエチレンオキシ基を表し、
POはプロピレンオキシ基を表し、
m1、m2、n1、およびn2は0または1以上の自然数を表し、
EOおよびPOは、上記式の[]内においてその順序は問わず、ランダムであってもブロックであってもよく、
式(I)の化合物の混合物の数平均として表した場合、m1+m2+n1+n2が0〜10の範囲にある)
とを少なくとも含んでなる、インクジェット記録用インク組成物であって、
前記分散体の粒子の平均粒径が50〜300nmであり、
前記高分子微粒子のガラス転位温度が−10℃以下、酸価が100mgKOH/g以下であり、かつ70重量%以上のアルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートを含んでなり、
前記式(I)で表される化合物が、インク組成物全体に対して、0.1〜10重量%含まれてなる、インクジェット記録用インク組成物:
【請求項2】
前記アルキル(メタ)アクリレートおよび/または環状アルキル(メタ)アクリレートが、炭素数1〜24のアルキル(メタ)アクリレートおよび/または炭素数3〜24の環状アルキル(メタ)アクリレートである、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記分散体が自己分散顔料である、請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記分散体がポリマーを用いて顔料を水に分散可能としたものである、請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記ポリマーのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるスチレン換算重量平均分子量が10000〜200000である、請求項4に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記高分子微粒子のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるスチレン換算重量平均分子量が100000〜1000000である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項7】
1,2−アルキレングリコールを更に含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項8】
アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤を更に含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項9】
前記高分子微粒子の含有量(重量%)が、前記顔料の含有量(重量%)よりも多い、請求項1〜8のいずれか一項に記載のインク組成物。

【公開番号】特開2010−184976(P2010−184976A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28890(P2009−28890)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】