説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録装置の記録媒体搬送方法

【課題】 紙浮きを抑えるプラテン吸引圧力が異なった場合にも、良好な画像を得られるインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】 インクを吐出する記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、前記記録媒体を搬送する搬送手段と前記記録ヘッドと対向する位置において、前記記録媒体を支持するプラテンと、記録媒体を該プラテンに吸着させるための吸着力発生手段と、を有し、前記吸着力発生手段が発生する吸着力に応じて前記搬送手段の駆動量を補正する制御手段と、を有するインクジェット記録装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラテンからの紙浮きを制御する吸着手段を有するインクジェット記録装置およびインクジェット記録装置の記録媒体搬送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録装置では、インクジェットヘッドの記録媒体の搬送方向上流側にて搬送を行う上流側搬送手段と、下流側において搬送をおこなう下流側搬送手段とを備えていた。
【0003】
上流側および下流側搬送手段は、駆動ローラと、それと対向する位置に設けられ、バネ等の押圧手段により駆動ローラに対して弾性的に付勢されるピンチローラとにより構成されるのが一般的である。
【0004】
上流側の駆動ローラである搬送ローラは、表面に微細な凹凸を形成して大きな摩擦力を発生できるように加工した金属製のローラである。また、下流側の駆動ローラである排出ローラに関してはゴム等の大きな摩擦係数を有する材料を用いたローラを使用するのが一般的に知られている。
【0005】
搬送ローラに対して排出ローラは記録媒体のたるみ防止の目的により、0.3〜1%程度増速するようにローラ径が設定されている。このとき、下流側搬送手段の挟持力は上流側搬送手段よりも小さく設定されているため、記録媒体が双方に挟持されている場合、下流側搬送手段側にすべりを生じた状態で搬送されることになる。
【0006】
また、インクジェット記録装置においては、インクがインクジェットヘッドの吐出口面から垂直に噴射されることが望ましいが、様々な要因で噴射方向が傾いてしまい、インクの着弾位置にずれが生じ、画質が悪化する場合がある。この場合、吐出口面と記録媒体との間の距離(ノズル高さ)が小さいほど着弾位置のずれは少なくてすむ。しかしノズル高さを低くすると、記録媒体のカール(反り)や浮き、記録媒体のインク吸収による波打ち等により記録媒体と吐出口面とが接触し、記録ヘッドの破壊や記録媒体にインク汚れが付着してしまうおそれがある。
【0007】
このように記録媒体が浮き上がることを規制する為に、吸引プラテンを用いている。吸引プラテンとは箱状に形成された吸着箱の記録媒体接触面に多数の吸引口を穿設し、ファンによって内部から排気することによって負圧を発生させ、記録媒体の接触面に記録媒体を吸引させて保持することができる。
【0008】
そして、現在の吸引プラテンは、プリンタ内に湿度センサを設け、検出した湿度に応じて、プラテンを介して発生する負圧を変えるように制御することが知られている(例えば特許文献1参照)。これは、紙の浮きが大きくなる環境において負圧を高めるように制御することで、記録媒体の浮き上がりを抑え、必要以上に負圧を高めることなく、装置の省力化、騒音の低減を可能としている。
【0009】
次に、記録媒体の搬送量に関して説明する。従来搬送ローラによる記録媒体の搬送量は、搬送負荷(以下、バックテンションともいう)がかかっていない状態での搬送については、搬送に用いられた搬送ローラの外周面の長さと等しいと考えられていた。この考えに従えば、記録媒体の搬送量をLm、搬送ローラの外径をD、搬送ローラの回転量をθ[deg]とすると記録媒体の搬送量Lmは以下のように表わされる。
Lm=π×D×(θ/360)
また、記録装置の構成によりバックテンションがかかると、搬送ローラと記録媒体との間でスリップが発生して記録媒体の搬送量Lmは、搬送に用いられた搬送ローラの外周面の長さよりも短くなることがあった。この関係を式で表わすと、
Lm≦π×D×(θ/360)・・・(式1)
となる。なお、この搬送量Lmの減少量は、記録媒体の種類によって異なるとされていた。このように、記録媒体の搬送量は、搬送ローラの外径と同等の移動量となるか、又は、スリップによりやや減少するものであり、減少の程度は記録媒体によって異なるというのが、従来の知見であった。
【0010】
このような記録媒体の搬送量のズレ(以降、搬送誤差と記す)による記録品位の劣化を防止するために、記録媒体の種類毎に送り補正値をもって、搬送ローラの送り量を変える技術が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【0011】
このように記録媒体の種類によって搬送量を最適値に補正することで、ある程度の搬送誤差を補正することは可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−276292号公報
【特許文献2】特登録03070234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記装置では、以下の問題があった。
【0014】
記録媒体毎に搬送量を補正する方法では、同一の記録媒体種でも、吸引プラテンの負圧(以後、プラテン吸引圧力と記す)が異ならせると、一定の搬送量で搬送されないため、記録画像にスジが発生するという問題があった。
【0015】
とくに、狭持力の低い下流側の排出ローラのみで搬送し、記録動作を行う場合には、プラテン吸引圧力が搬送誤差に大きく影響し、画像劣化に繋がる。
【0016】
本発明はこのような技術課題に鑑みてなされたものである。
【0017】
本発明は、プラテン吸引圧力に応じて、送り補正値を設定し、画像品位を向上させることが出来るインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明のインクジェットプリンタは、インクを吐出する記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、前記記録媒体を搬送する搬送手段と、前記記録ヘッドと対向する位置において、前記記録媒体を支持するプラテンと、記録媒体を該プラテンに吸着させるための吸着力発生手段と、を有し、前記吸着力発生手段が発生する吸着力に応じて前記搬送手段の駆動量を補正する制御手段と、を有するインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プラテン吸引圧力に応じて送り補正値を設けることで、従来技術と比較して、スジ等の画像劣化を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態であるインクジェット記録装置の斜視図である。
【図2】インクジェット記録装置の断面図である。
【図3】制御系を説明するブロック図である。
【図4】本発明を適応しうる温度・湿度の範囲を示す図である。
【図5】印字動作を説明する図である。
【図6】本発明の動作をしめすフローチャートである。
【図7】吸引圧力の切替ポイントを示した図である。
【図8】実施形態における2種類の領域の分割例を示す図である。
【図9】実施形態における記録媒体が搬送される過程における記録媒体と搬送ローラ及び排出ローラとの位置関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
(実施形態1)
まずは本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の概略について述べる。図1は本発明の実施形態としてのインクジェット記録装置の全体構成を示す斜視図、図2は断面図である。
【0023】
図1、図2において、インクジェット記録時は被記録媒体である記録媒体Pは、搬送ローラ1とこれに従動するピンチローラ2との間に挟まれ、搬送ローラ1の回転により、プラテン3上に案内、支持されながら図中矢印Y方向に搬送される。搬送ローラ1は表面に微細な凹凸を形成して大きな摩擦力を発生できるように加工した金属製のローラである。ピンチローラ2は不図示のバネ等の押圧手段により搬送ローラ1に対して弾性的に付勢されている。プラテン3は、記録ヘッドであるインクジェットヘッド4のインク吐出面4aに対向し、搬送ローラによって搬送された記録媒体Pをその案内面3aで平面的に支持するように配置されている。案内面は複数の開口部3bが設けられ、プラテン3下方内部の空間3cと空気流路で連通している。プラテン3下方内部の空間3cが吸着力発生手段であるファン30によって負圧にされると、負圧は開口部3bを介して記録媒体Pをプラテンの案内面に吸着する。これによって、記録媒体Pはある程度の平面性を維持できる。31はファン30を駆動するファンモータである。前記吸着力発生手段はポンプでもよい。
【0024】
プラテン3上を搬送された記録媒体Pはその後、回転する排出ローラ12とこれに従動する回転体である拍車13との間に挟まれ、搬送される。排出ローラ12は大きな摩擦係数を有するゴムローラである。拍車13は不図示のバネ等の押圧手段により排出ローラ12に対して弾性的に付勢されているが、画像記録後の記録媒体Pの表面への傷やへこみを防止するため、押圧力はピンチローラ2への押圧力の1/10程度に設定されている。搬送ローラ1に対して排出ローラ12は記録媒体Pのたるみ防止の目的により、1%程度増速するようにローラ径が設定されている。記録媒体Pが搬送ローラ1、ピンチローラ2と排出ローラ12、拍車13の双方に挟持されている場合、その挟持力の違いから記録媒体Pは排出ローラ12との間にすべりを生じた状態で搬送されることになる。画像記録が実施された後、排出ローラ12の回転によりプラテン3上から排紙トレイ15上に排出される。
【0025】
また、搬送方向Yと交差する方向における記録媒体Pの端部がインクジェットヘッド4の方に浮き上がることを規制する為にプラテン3上に記録媒体押さえ14が設けられている。インクジェットヘッド4は記録媒体Pに向かってインクを吐出する姿勢で、キャリッジモータ22(図3)等の駆動手段により2本のガイドレール5,6に沿って往復移動されるキャリッジ7に着脱可能に搭載されている。このキャリッジ移動方向は記録媒体搬送方向(矢印Y方向)と交差する方向であり、主走査方向と呼ばれる。これに対し、記録媒体搬送方向は副走査方向と呼ばれている。
【0026】
次に、上述した装置のインクジェットプリンタを実行するための制御構成について、図3に示すブロック図を参照して説明する。
【0027】
101は、外部のパソコン等からの画像データを入力するためのインターフェースである。
【0028】
また、インクジェットプリンタの使用環境における温度を検出する手段としての温度センサ102、および湿度を検出する手段としての湿度センサ103を有している。
【0029】
また、制御部104は、中央演算処理装置(CPU)105、このCPU105が実行する制御プログラムや固定的なデータを不揮発的に格納するROM106、プログラム実行時の作業領域や各種パラメータ等を格納するRAM107を備えている。RAM107の少なくとも一部の領域は、プリンタの電源オフ後も記憶データを保持するように、バッテリバックアップメモリで構成される。あるいは、このメモリの代わりに、フラッシュメモリのような、不揮発性の書き換え可能メモリを用いてもよい。
【0030】
109は搬送ローラ1、排出ローラ12を駆動する紙搬送モータ21を駆動する紙搬送モータドライバ、110はキャリッジ7の走査を行うキャリッジモータ22を駆動するためのキャリッジモータドライバである。111はインクジェットヘッド4を駆動するためのヘッドドライバ、112はファンモータ31を駆動するためのファンモータドライバである。
【0031】
制御部104は、前述のインターフェース101、温度センサ102、湿度センサ103、および操作パネル108から入力される各種信号、データ等の演算や処理を行う。制御部104は、信号やデータの処理結果に基づき、紙搬送モータドライバ109、キャリッジモータドライバ110、ヘッドドライバ111、ファンモータドライバ112に駆動信号を与える。
【0032】
113はプラテンの吸引圧力を検知する圧力センサである。圧力センンサ113はプラテン3の内部の空間3cの圧力を検知する。
【0033】
印刷命令により印刷を開始すると、まず、温湿度センサ等による環境条件やユーザの入力等による印刷命令の各条件設定の認識を行う。
【0034】
本例では本体内に湿度センサ103を設けて、湿度検知センサ103の検知結果に基づいて、プラテン吸引圧力を制御している。
【0035】
上述したように、プラテンからの紙浮きを抑えるためのプラテン吸引圧力は、同一紙種でもプリンタの使用環境(温湿度)により異なっている。
【0036】
図4は、本装置を使用する温湿度環境を示したものである。例えば、温度10〜30度、湿度10〜80%の範囲で使用する場合、低湿度環境Aと高湿度環境Bとに区別する。
【0037】
なお、本実施例では、湿度40%未満を低湿度環境A、湿度40%以上を高湿度環境Bとしている。
【0038】
表1は、前述した低湿度環境A(表1では温湿度Aと表示する)、高湿度環境B(表1では温湿度Bと表示する)それぞれの場合の吸引圧力を示した図である。そして、この分類に関して、プラテン吸引圧力の設定を変えている。
【0039】
とくに、低湿度の乾燥した状態では、記録媒体の水分が蒸発するため、記録媒体の剛度が高くなる。そのため、低湿度環境下Aでは、高湿度環境下Bよりも、大きい吸引圧力にするような制御を行っている。
【0040】
なお、記録媒体の種類によって剛度が異なるため、これらは記録媒体の種類ごとに設定される。
【0041】
【表1】

【0042】
次に、図5を用いて、図1で示される印字X方向に走査され装置による印字動作の様子を説明する。インクジェットヘッド4にはインク吐出ノズルが列状に複数設けられている(例えば128ノズルを直線的に並べてある)。キャリッジ7に取り付けられたこのインクジェットヘッド4は、記録媒体上を矢印Xの方向にインクを吐出しながら画像印字を行う。
【0043】
例えば、図5に示した例では、最初に図上右方向へキャリッジ7を走査し、その間、そのバンドの印字情報にしたがってインクジェットヘッド4のノズル列から連続的にインク滴を吐出し、バンドB1の領域の印字を行う。インクジェットヘッド4が印字領域の右端に達したところで、記録媒体PをバンドB1の印字幅分、矢印Y方向へ送り出した後、折り返し、バンドB2の印字を行う。同様に、このような動作を繰り返して全体の画像が形成される。即ち、全体の画像は、印字された複数のバンドの集合によって形成されることになる。1つのバンド印字終了毎に、次のバンド印字に先立って、紙搬送モータ21により記録媒体Pを1バンド分送り出す必要がある。そして、上記バンドB1、B2は、記録媒体Pの種類に応じて設定されている。
【0044】
しかし、吸引プラテンを持つ系では、プラテン吸引圧力は記録媒体へのバックテンションとなる。同一の記録媒体種でも、プラテン吸引圧力が異なる場合には、搬送誤差を異ならせ、画像劣化を導く。
【0045】
そのため、本実施形態では、プラテン吸引圧力に応じた送り補正を行う。
【0046】
本実施形態について、表2に示されるテーブルおよび、図6に示されるフローチャートを用いて説明する。
【0047】
表2は、記録媒体の種類と吸引圧力に応じた補正値を設定したテーブルである。
【0048】
設計段階で、記録媒体の種類、ファン吸引圧力ごとに、記録媒体の搬送量を測定し、記録媒体の目標位置に対する搬送量の未達量に応じてローラの回転量の送り補正値を決めていく。送り補正値は表2のようなテーブルをつくり、データ保持手段であるROM106に書き込んでおく。
【0049】
【表2】

【0050】
図6は、本実施形態の制御を示すフローチャートである。
【0051】
ステップS1にて記録媒体Pをセットする。つぎにステップS2にてパソコンによる記録データ生成を行い、続くステップS3で実際に記録する記録媒体(光沢紙、マット紙、普通紙、など)および印字モード(印字速度、パス数など)が選択される。
【0052】
このステップS2,S3の実行によりパソコンから画像信号とともに選択された結果がプリンタの制御部に送られる。
【0053】
続いてステップS4で、データ保持手段であるROM106に記憶されている表2のようなテーブルを参照し、湿度センサ103の吸着力設定値から必要な吸引圧を設定し、それに応じた送り補正値を設定する。
【0054】
この補正値に従って、紙搬送部を制御する。すなわち、記録媒体を搬送量Lmだけ搬送するための搬送ローラの回転量θ[deg]はスリップがない理論値では、
Lm=πD(θ/360)・・・(式2)
よって
θ=360Lm/(πD)・・・(式3)
となる。
【0055】
スリップの分を表2から取得した補正値A(Dと同じ単位になるように換算した値とする)で補正した搬送ローラの回転量θc[deg]は、
θc=θ+360A/(πD)=360(Lm+A)/(πD)・・・(式4)
となる。
【0056】
このように、環境に応じたプラテン吸引圧力で紙浮きを抑えながら、印字動作を行うとともに、スリップによって生じる搬送誤差を補正するために搬送ローラ1の回転量がθcになるように紙搬送モータ21を制御する。
【0057】
以上述べたとおり本実施形態によれば、ファン吸引圧力を考慮した搬送系制御を行うことにより、搬送精度を上げた補正が可能となり高画質が実現できる。
【0058】
なお、ここまでローラの回転量の補正を行うという表現で説明をしたが、搬送手段の搬送量(搬送距離)に換算すれば搬送量を補正するという表現もできる。
【0059】
また制御部104は、モータや駆動源の駆動量(回転量)を制御することによってローラの回転量を制御しているので、モータの駆動量に換算すれば、モータの駆動量を補正すると表現することもできる。
【0060】
また、ここまで、表2のテーブルを用いて吸引圧力の設定値に対応する送り補正値を選択すると説明した。設定値とは制御目標値である。圧力センサ113で実際の吸引圧力を検知し、その情報によって制御部104は実際の吸引圧力が設定値に近づくように、あるいは設定値を中央値とする所定の範囲内になるようにファンモータドライバ112をフィードバック制御する。
【0061】
設定値を用いずに、圧力センサ113で検知した吸引圧力に対応する補正値を選択しても良い。
【0062】
(実施形態2)
表3は、給紙動作から排紙動作までのプラテン吸引圧力の推移を表した表である。また、図7は、プラテン吸引圧力の切替ポイントを示した図である。
【0063】
インクジェットヘッドの4の上流側に位置する搬送ローラ1、ピンチローラ2を第1の搬送手段、インクジェットヘッドの下流側に位置する排出ローラ12、拍車13を第2の搬送手段とする。記録媒体の搬送に関与する搬送手段の組合せは給紙から排紙までの間に変化してゆく。
【0064】
図7のように記録媒体の先端が排出ローラ12、拍車13に挟持されていない場合、記録媒体はプラテン3から浮き上がりやすい。したがって記録媒体の頭出しや、記録媒体の先端が排出ローラ12、拍車13に挟持されていない状態で記録を行う場合は吸引圧力を高くする(負圧を高くする)ことによって記録媒体の挙動が安定する。例えば、図7の印字領域1は、記録媒体が排出ローラ12、拍車13に挟持されていない状態で記録が行われる領域である。
【0065】
表3は、記録媒体が搬送ローラ1、ピンチローラ2と排出ローラ12、拍車13の双方に同時に挟持されていないときの記録媒体の挙動を安定させるために、プラテンの吸引圧力を変化させる制御例である。表3によれば、記録媒体先端はプラテンからの紙浮きがしやすいため、給紙動作や印字領域1に記録しているときには高い吸引圧力で吸引している。ある程度紙を搬送した印字領域2に記録を行うときには、記録媒体が搬送ローラ1、ピンチローラ2と排出ローラ12、拍車13の双方に挟持されているので吸引圧力を下げる。さらに記録媒体が排出ローラ12、拍車13のみによって挟持されている排紙動作中では吸引圧力を上げる。このように搬送に関与している搬送手段の組合せに応じて吸着力を変化させる。
【0066】
このような関係を示すシーケンスは、データ保持手段ROM106に記憶されている。
【0067】
そして、データ保持手段ROM106に記憶されている表3と表2を参照しながら、シーケンスに応じた送り補正値で紙搬送制御を行う。
【0068】
【表3】

【0069】
(実施形態3)
上記述べた構成に加えて、ローラが複数備えられている場合の記録媒体搬送方法についても述べる。
【0070】
図8は本実施形態における2種類の領域の分割例を示す図であり、図9は記録媒体が搬送される過程における記録媒体と搬送ローラ及び排出ローラ、プラテンとの位置関係を説明する図である。
【0071】
図8に示す領域Aは図9(A)に示すように記録媒体Pが搬送ローラ1のみによって搬送されている状態、または図9(B)に示すように搬送ローラ1と排出ローラ12の2つのローラにより搬送されている状態において記録がなされる領域である。前記したように搬送ローラ1とピンチローラ2の挟持力は排出ローラ12と拍車13の挟持力よりも十分大きいため、図9(A)の状態と図9(B)の状態とで搬送量は変わることがない。
【0072】
図8に示す領域Bは、図9(C)に示すように記録媒体Pが排出ローラ12のみで搬送されている状態で記録がなされる領域である。この領域Bにおいては、排出ローラ12と拍車13との狭持力が小さいため、プラテン吸引が搬送誤差に大き影響する。そのため、プラテン吸引圧力と搬送量補正値の対応テーブルは、領域Aに記録しているときに使用する第1のテーブルと、領域Bに記録しているときに使用する第2のテーブルの2種類を用意する。
【0073】
そして記録領域に対応したテーブルを用いて補正した搬送量によって搬送を行う。
【0074】
具体的には、記録媒体を搬送ローラ1のみを用いて第1のテーブルに基づいて駆動量を補正して搬送し、次に、搬送ローラ1と排出ローラ12の双方を同時に用いて第1のテーブルに基づいて駆動量を補正して搬送する。次に、記録媒体を排出ローラ12のみを用いて前記第2のテーブルに基づいて駆動量を補正して搬送する。
【0075】
本実施形態では、ローラが2本の場合を述べたが、ローラが複数本ある場合は、それぞれのローラに対して、送り補正値テーブルを用意しておく。そして、記録媒体の送りに関与中のローラの組み合わせによっても、送り補正値テーブルをさらに用意することは、言うまでもない。
【0076】
上記の実施形態では、吸着力発生手段として負圧を発生させるファンを例にしたが、静電吸着式の場合にも適応可能ことは、言うまでもない。静電吸着式では、吸着力発生手段は記録媒体をプラテンに吸着させるためにプラテンを帯電させて静電吸着力を発生させる。あるいは電極を帯電させて静電吸着力を発生させ、その力でプラテンに記録媒体を吸着させる。
【符号の説明】
【0077】
1 搬送ローラ
3 プラテン
4 インクジェットヘッド
12 排出ローラ
104 制御部
P 用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記記録媒体を搬送する搬送手段と
前記記録ヘッドと対向する位置において、前記記録媒体を支持するプラテンと、
記録媒体を該プラテンに吸着させるための吸着力発生手段と、
を有し、
前記吸着力発生手段が発生する吸着力に応じて前記搬送手段の駆動量を補正する制御手段と、
を有するインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記吸着力発生手段は、前記記録媒体の記録が行われている領域に応じて吸着力を変化させる請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記吸着力発生手段が発生する吸着力と前記搬送手段の駆動量の補正値とを対応させたテーブルを有し、前記テーブルを用いて駆動量を補正する請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記搬送手段は、複数備えられ、前記吸着力発生手段は前記複数の搬送手段のうちの記録媒体の搬送に関与している搬送手段の組合せに応じて吸着力を変化させる請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記複数の搬送手段は、前記記録ヘッドの上流側に位置する第1の搬送手段と、下流側に位置する第2の搬送手段を含み、
前記制御手段は、記録媒体が前記第1の搬送手段のみによって搬送されているときと前記第1および第2の搬送手段の双方によって同時に搬送されているときに前記吸着力発生手段が発生する吸着力と前記第1および第2の搬送手段の駆動量の補正値とを対応させた第1のテーブルと、記録媒体が前記第2の搬送手段のみによって搬送されているときに前記吸着力発生手段が発生する吸着力と前記第2の搬送手段の駆動量の補正値とを対応させた第2のテーブルと、を有する請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記吸着力発生手段が発生する吸着力を検知するセンサを有し、前記センサが検知した吸着力に応じて、前記搬送手段の駆動量を補正する請求項1乃至5の何れか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記制御手段は記録媒体の種類に応じて吸着力を設定し、設定された吸着力を発生するように前記前記吸着力発生手段を制御し、前記設定された吸着力に応じて、前記搬送手段の駆動量を補正する請求項1乃至5の何れか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記吸着力発生手段は、記録媒体をプラテンに吸着させるための負圧を発生させる請求項1乃至7のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記吸着力発生手段は、記録媒体をプラテンに吸着させるための静電吸着力を発生させる請求項1乃至7のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
記録ヘッドと対向する位置において、記録媒体を支持するプラテンと、
記録媒体を該プラテンに吸着させるための吸着力発生手段と、
前記記録ヘッドの上流側に位置する第1の搬送手段と、
前記記録ヘッドの下流側に位置する第2の搬送手段と
を有するインクジェット記録装置の記録媒体搬送方法であって、
記録媒体が前記第1の搬送手段のみによって搬送されているときと前記第1および第2の搬送手段の双方によって同時に搬送されているときに前記吸着力発生手段が発生する吸着力と前記第1および第2の搬送手段の駆動量の補正値とを対応させた第1のテーブルと、記録媒体が前記第2の搬送手段のみによって搬送されているときに前記吸着力発生手段が発生する吸着力と前記第2の搬送手段の駆動量の補正値とを対応させた第2のテーブルとを有し、
記録媒体を前記第1の搬送手段のみを用いて前記第1のテーブルに基づいて駆動量を補正して搬送し、
次に、記録媒体を前記第1の搬送手段と前記第2の搬送手段の双方を同時に用いて前記第1のテーブルに基づいて駆動量を補正して搬送し、
次に、記録媒体を前記第2の搬送手段のみを用いて前記第2のテーブルに基づいて駆動量を補正して搬送することを特徴とするインクジェット記録装置の記録媒体搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−25498(P2011−25498A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172919(P2009−172919)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】