説明

インクジェット記録装置の廃インク処理機構

【課題】記録装置の大型化、複雑化を招くことなく簡便な構成で、かつ廃インク吸収体を交換する必要なく再生可能な、インクジェット記録装置および廃インク処理方法を提供する。
【解決手段】インクを吐出して記録を行うインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置において、ヘッド3から強制的にインクを吸引する吸引手段と、吸引されたインクを保持する廃インク保持手段とを有し、インクジェット記録装置の廃インク保持手段に対し廃インクを吸引する廃インクポンプ6を接続することで、廃インク保持手段に蓄積された廃インクが記録装置の外部へ移動する手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクの液滴を被記録用紙に噴射して記録を行うインクジェット記録装置および装置内で発生する廃インクの処理や装置の再生に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクの液滴を被記録用紙に噴射して記録を行うこの種のインクジェット記録装置においては、インクを噴射するノズルの目詰まりや、インクカートリッジを交換した際のインク流路に溜まった気泡を取り除くために、負圧ポンプを用いたヘッド回復方法が用いられている。このヘッド回復動作時にポンプによりヘッドから吸引され、その後、ポンプから排出されたインクは廃インクと呼ばれ、記録装置内には廃インクを保持、収納しておく廃インク吸収体が配置されている。
【0003】
廃インク吸収体は液体を保持するため、インクに対して毛管吸収力、拡散性に優れた繊維を用いたシート部材が使用される事が多い。
【0004】
廃インク吸収体に保持される廃インクの容量はポンプの動作回数などインクの移動に関するカウントを記録装置が記憶し、さらに蒸発などの時間経過を加味して計算することで可能な限り正確に見積もる手段が取られている。廃インクが適当な容量に達したとされた時点で状況に応じ、使用者にブザー、LEDなどの方法で警告したり、または記録装置における記録、回復動作の継続を停止させることで、廃インク吸収体から廃インクがあふれ出ることを防いでいる。そのように記録装置が動作しなくなる状態であるため、廃インクの許容保持容量は記録装置の想定寿命に応じて設定されている。
【0005】
近年ではこの種の記録装置の小型化が進み、従来のこの種のインクジェット記録装置において大きな空間を占有していた固定式の廃インク吸収体は、可能な限り小さくすることが望まれている。
【0006】
たとえば、記録装置を小型化するために、廃インクの保持容量を少なくし交換を前提とした設定することが実施されている。
【0007】
また、記録装置本体内の廃インク保持手段を体積変化させることで本体の廃インクの保持容量を少なくし記録装置本体外部の廃インク保持手段にインクを移動させる手段が開示されている。(たとえば特許文献1参照。)
【特許文献1】特開平10−24613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
廃インクタンクを交換前提な構成とした場合は、交換するための機構構成が必要になることで複雑化し、ある程度以上の小型化は困難になってしまう。また、一般の使用者にとっては、使用時には廃インクタンクの交換時期に合わせて新しい廃インクタンクを予め準備しておく必要があり、さらには交換作業そのものも発生し、比較的煩わしい操作仕様となる。
【0009】
また、廃インク保持手段を体積変化させる機構構成の場合も記録装置本体において逆に複雑化、大型化をまねくなどの特徴がある。
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の有する諸問題点に鑑みてなされたもので、記録装置の大型化、複雑化を招くことなく簡便な構成で、かつ廃インク吸収体を交換する必要なく再生可能な、インクジェット記録装置および廃インク処理方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明にかかわる第一の構成は、インクを吐出して記録を行うインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置において、前記インクジェットヘッドから強制的にインクを吸引する吸引手段と、吸引されたインクを保持する廃インク保持手段とを有し、前記インクジェット記録装置の廃インク保持手段に対し廃インクを吸引する負圧ポンプ装置を接続することで、前記の廃インク保持手段に蓄積された前記廃インクが記録装置の外部へ移動する手段を設けた記録装置である。
【0012】
また、本発明にかかわる第二の構成は、前記記録装置の前記廃インク保持手段における保持廃インク量の見積は廃インクを吸引する装置の接続稼働後に修正される記録装置である。
【0013】
また、本発明にかかわる第三の構成は、前記廃インクを吸引する装置は記録装置本体に対する充電器、カセット給紙または両面給紙などの記録装置に着脱自在なオプションと一体に設定されている記録装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、装置の小型化、携帯性機能を実現したインクジェット記録装置において、記録装置本体の構成はきわめて簡潔な構成で、廃インクタンクを交換する必要のないインクジェット記録装置および廃インク処理および記録装置再生の方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
(第一の実施の形態)
本発明の記録装置の第一の形態である負圧発生手段を接続することで記録装置外部に廃インクを移動させる構成について説明する。
【0017】
図1に外装を除いた本実施形態の記録動作機構の全体を表す。
【0018】
本実施形態における記録動作機構を大別して説明すると、記録シートPを装置本体内搬送部200へと自動的に給送する自動給紙部100と、自動給紙部100から1枚ずつ送出される記録シートPを所望の記録位置へと導くと共に記録シートPを記録位置から排出する搬送部200と、搬送部200の下流に位置する排出部300と、搬送部200に搬送された記録シートPに所望の記録を行なう記録部400と、記録部400等に対する回復処理を行う回復部600とから構成され、各機構部はシャーシ701を中心としてほぼ一体に構成されている。記録シートPの搬送方向は矢印Aであり、記録部400の往復動作方向は矢印Bである。廃インク保持部であるドレインパック642は自動給紙部100の後方に位置する。
【0019】
図2は回復部と廃インク保持部を表す斜視図である。
【0020】
回復ポンプ640の排出口から排出されたインクは回復部の構成部品であるPGベース604にPGベース蓋部材643を溶着する事で構成された廃インク流路641を通り、本体機構部後方に配置されたドレインパック642内の廃インク吸収体645へと毛管現象により吸収される。ドレインパック642はインクの吸収、拡散に優れた廃インク吸収体645をケース部材647に収め、蓋部材652を溶着して封止した物である。ドレインパックには廃インクの蒸発促進と吸収、拡散時の空気逃げのための連通穴1がもうけてある。廃インク吸収体645の性能にあわせ、さらに振動、衝撃、姿勢差等の記録装置の想定使用条件を加味した廃インク保持限度があらかじめ設定されており、限度内容量であるならば廃インクがドレインパック642の連通穴1からあふれ出ることはない。図1、図2の構成とも従来機の構成に対し特に変更はない。
【0021】
図3は廃インク保持部に廃インク吸引手段を接続した構成を表す簡略図である。
インクタンク2に蓄えられたインクはヘッド2のノズル3によって記録のために吐出される。また記録装置本体回復部に設けられる回復ポンプ640によりノズル3から吸引され記録装置本体5のドレインパック642に廃インクは収納される。ドレインパック642に収納された廃インクは記録装置本体5外部に設けられた廃インクポンプ6により吸い出され本体外部に移動する。ドレインパック642の連通穴1に廃インク吸収用流路7が接続され、廃インクポンプ6本体により発生した負圧により廃インクは廃インク吸収体645から装置外部へと吸い出される。このときドレインパック642は記録装置本体5の回復ポンプ640を通じて大気に連通した状態になっており、廃インクの移動に伴なって大気を取り込めるようになっている。廃インク吸収体645の他の部分はケース部材647に覆われているためドレインパック642全体から廃インクを取り出しやすくなっている。廃インクポンプ6の形式はチューブ式、ピストン式またはダイアフラム式いずれでもかまわない。
【0022】
廃インクポンプ6によって移動した廃インクはさらに記録装置本体5外部に設けられた第2の廃インク保持部8に送られて保持される機構であってもよいし、状況に応じてそのまま廃棄される構成であってもかまわない。
【0023】
(第二の実施の形態)
本発明の記録装置の第二の実施の形態である廃インク移動後の保持廃インク量の見積修正について説明する。
【0024】
廃インク外部吸引後の記録装置本体に対しては保持廃インク容量の修正を行わなければならない。修正はその必要とされる精度に応じてさまざまな手段が考えられる。
【0025】
図4に保持廃インク容量修正の第1の方法のフロー図をあらわす。
【0026】
製品リサイクルなどの作業環境下の場合には廃インク吸出し終了後の記録装置本体重量G2を測定し、測定した値に対し、あらかじめ判明している出荷時の記録装置本体重量G1との差分(G2−G1)を求めることで記録装置本体に保持されている廃インクの量Mを推定する事が出来る。記録装置本体に測定重量値に応じた入力をキー操作またはI/Fからの信号により行うことによって、記録装置本体のカウントメモリー変更、廃インク保持量見積を修正する手段をとることができる。
【0027】
図5に保持廃インク容量の修正の第2の方法のフロー図をあらわす。
【0028】
第2の方法においては記録装置本体と外部廃インク吸引手段が電気的に信号をやり取りする接続手段と外部廃インク吸引手段には流量計または積算インク量測定などの吸引廃インク量を測定する手段を設けてあることが前提となる。そのような前提のもと、外部廃インク吸引手段は記録装置本体に対する装着、動作終了時に吸引した廃インク量データMDを記録装置本体にフィードバックする。本体制御回路では受け取ったデータをもとに簡易的表現で(M−MD)として計算される廃インク容量Mをもとめ、廃インク保持許容量見積を修正をする手段をとることができる。
【0029】
図6に保持廃インク容量の修正の第3の方法のフロー図をあらわす。
【0030】
第3の方法においては外部廃インク吸引手段接続稼働時間を検出するスイッチ、コネクタなどの手段を記録装置本体に設けることが前提となる。そのような前提のもと、廃インク吸引終了時に求められた時間tとあらかじめ設定されている流量Qの乗算(Q×t)によって求められる廃インク吸引量MDの値を用いて第2の方法同様、再度見積しなおす手段をとることができる。計算される見積廃インク吸引量MDの値には誤差が非常に多いため、簡易的には誤差も含め廃インク保持残量が最小となるまでの想定時間T以上、接続可動されていれば一律同じ容量まで減らせたとみなし、時間がTに達しなければ修正しないという方法で運用できる。
【0031】
(第三の実施の形態)
本発明の記録装置の第三の実施の形態である、記録装置本体に対する充電器、カセット給紙または両面給紙などの着脱自在なオプションと一体に負圧発生手段および記録装置本体外部の第二の廃インク保持手段が構成されている形態について説明する。
【0032】
図7は記録装置と充電器の接続を表す斜視図である。
【0033】
記録装置5に接続される充電器800においては充電要のコネクタ801の接続と同じ方向に廃インク吸収用流路7が設けられており、装置の接続とともにそれぞれがつながるように構成されている。外部廃インク吸引手段である廃インクポンプ6および必要とされる廃インクポンプ6駆動機構や第2の廃インク保持部8は、充電器800の内部に構成されている。(不図示)
記録装置本体5に対して設けられ、時折接続されるオプションであるカセット給紙機構または両面給紙機構などがある場合は、充電器の例と同様に一体にすることで使用者に対して簡便性を持たせることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】外装を除いた本実施形態の記録動作機構の全体を表す斜視図。
【図2】回復部と廃インク吸収部を表す斜視図。
【図3】廃インク保持部に廃インク吸引手段を接続した構成を表す簡略図。
【図4】保持廃インク容量修正の第1の方法のフロー図。
【図5】保持廃インク容量修正の第2の方法のフロー図。
【図6】保持廃インク容量修正の第3の方法のフロー図。
【図7】記録装置と充電器の接続を表す斜視図。
【符号の説明】
【0035】
1 連通穴
2 インクタンク
3 ヘッド
4 ノズル
5 記録装置本体
6 廃インクポンプ
7 廃インク吸収用流路
8 第2の廃インク保持部
100 自動給紙部
200 搬送部
206 LFモータ
300 排出部
301 排紙ローラ
400 記録部
600 回復部
604 PGベース
640 ピストンポンプ
641 廃インク流路
642 ドレインパック
643 PGベース蓋部材
644 流路吸収体
645 廃インク吸収体
647 ケース部材
652 蓋部材
701 シャーシ
800 充電器
801 コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出して記録を行うインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置において、
前記インクジェットヘッドから強制的にインクを吸引する回復吸引手段と、吸引されたインクを保持する廃インク保持手段とを前記記録装置本体内部に有し、負圧を発生する廃インク吸引手段を前記記録装置本体外部に前記インクジェット記録装置と着脱可能に有し、
前記廃インク保持手段と廃インク吸引手段は、互いに接続、離反可能な流路手段を有し、
前記インクジェット記録装置に前記廃インク吸引手段を装着したときに、前記流路手段が接続され、前記廃インク保持手段に蓄積された前記廃インクが前記廃インク吸引手段によって発生した負圧により前記記録装置本体外部に移動するよう構成したことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記廃インク保持手段はインクに対して毛管吸収力を利用した繊維材料を用い、前記回復吸引手段に接続される個所と大気に連通した個所を除き容器に密閉された構成であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記廃インク吸引手段は前記廃インク保持手段の大気に連通した個所を流路として接続されることを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記廃インク吸引手段を装着し負圧発生動作時は前記廃インク保持手段の前記回復吸引手段に接続される個所を通じて大気に連通されることを特徴とする請求項3記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記廃インク保持手段に保持されている廃インクの量を前記回復吸引手段の動作回数などを元に見積もる手段と、見積もられた廃インク量に応じて使用者に警告を発したり、記録装置本体の動作を停止させる手段を設けたことを特徴とする請求項1から4記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記廃インク吸引手段の装着、動作後に前記廃インク保持手段に保持されている廃インク量の現在値および許容量の見積を修正する手段を設けたことを特徴とする請求項5記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
廃インク吸引手段には前記廃インク保持手段から吸引した廃インクの量を測定する手段を有し、測定された吸引廃インク量を元に前記廃インク保持手段に保持されている廃インク量の現在値および許容量の見積を修正する手段を設けたことを特徴とする請求項6記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記廃インク吸引手段が装着され負圧発生動作していた時間を検出する手段を有し、測定された動作時間を元に前記廃インク保持手段に保持されている廃インク量の現在値および許容量の見積を修正する手段を設けたことを特徴とする請求項6記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記記録装置本体は駆動用の充電電池を有し、
前記廃インク吸引手段は記録装置本体内に設けられた充電電池を充電するための充電器と一体的に構成されていることを特徴とする請求項1から8記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記廃インク吸引手段は前記インクジェット記録装置に複数枚の記録用紙を自動的に連続して給紙するための自動給紙装置と一体的に構成されていることを特徴とする請求項1から8記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−159475(P2006−159475A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351029(P2004−351029)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】