説明

インクジェット記録装置

【課題】微小振動のためのエネルギーの消費を抑制しつつ画質が低下するのを抑制する。
【解決手段】印字指令を受信すると、開始直後振動期間Paにおいて、不吐出波形Aを連続して個別電極に供給する。不吐出波形Aは、3つのパルスを含んでおり、個別電極に供給すると、その個別電極に対応するノズル付近のインクに不吐出エネルギーを3回供給することになる。開始直後振動期間Pbが経過すると、間欠振動期間Pbにおいて複数の不吐出波形Aからなる波形信号181を間欠的に個別電極へと供給する。期間Paにおいて個別電極に供給されるパルスの時間当たりの平均個数は、期間Paが経過してから印字開始までの平均個数より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置において、インクを吐出する吐出口にキャップをすることによって、吐出口付近のインクを乾燥から保護することがある。しかし、吐出口がキャップされた状態で長期間保持されると、吐出口付近のインクの粘度が高くなり、そのままの状態では吐出口からインクを正常に吐出できないおそれがある。
【0003】
特許文献1は、インクが吐出されない程度にインクのメニスカスを微小に振動させることによってインクを撹拌している。特許文献1によると、記録ヘッドからキャップが取り外されてから印字処理が開始するまでの間にインクを微小に振動させる処理が実行される。このようにインクを微小に振動させることにより、キャップ開放時に高くなっているインクの粘度を低下させることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2003−39701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、印字を開始する場合にはキャップを吐出口から移動させるが、吐出口が大気へと開放されると、吐出口付近のインクが急速に乾燥する。インクが乾燥してその粘度が高くなると、印字開始後にインク吐出が正常になされなくなるおそれがある。したがって、印字開始までインクを微小に振動させることが好ましい。
【0006】
しかし、インクを微小に振動させる周期を変化させない特許文献1の場合には、以下のような問題が生じるおそれがある。例えば、振動周期が短い(振動周波数が高い)場合にはインクの粘度を速やかに低下させることができる。しかし、いったんインクの粘度が十分に低下すると、乾燥を抑制する程度にインクを振動させればよいのに対して、特許文献1では振動周期を変化させないので、微小振動のためのエネルギーが無駄に消費されるおそれがある。一方で、振動周期が長い(振動周波数が低い)場合には、キャップ開放後は急速に乾燥が進行するため、特許文献1の場合のように振動周期を変化させない場合には、インクの粘度が十分に低下しない場合がある。インクの粘度が十分に低下しないまま画像記録を実行すると画質が低下するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、微小振動のためのエネルギーの消費を抑制しつつ画質が低下するのを抑制したインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、画像データが供給された場合に前記画像データに対応する画像を記録媒体上に形成するインクジェット記録装置に係るものである。そして、インクを吐出する吐出口と、前記吐出口にインクを供給するインク流路とを有する流路ユニットと、前記吐出口からインクが吐出されるように調整された吐出エネルギーを前記インク流路内のインクに供給すると共に、前記吐出口からインクが吐出されないように調整された不吐出エネルギーを前記インク流路内のインクに供給するアクチュエータと、前記画像データに対応する画像が記録媒体上に形成されるように、前記アクチュエータに前記吐出エネルギーをインクへと供給させる駆動制御手段と、前記流路ユニットの前記吐出口が形成された吐出面を覆う被覆位置と前記被覆位置から離隔した開放位置との間で移動可能なキャップと、前記キャップが前記被覆位置にある際に前記画像データの供給が開始されたときに、前記駆動制御手段が前記アクチュエータに前記吐出エネルギーを供給させ始める前に前記キャップを前記開放位置へと移動させると共に、記録媒体上に画像が形成され終わった後に前記キャップを前記被覆位置へと移動させるキャップ移動手段とを備えている。さらに、前記駆動制御手段が、前記画像データの供給が開始された後に前記不吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させ始めると共に、前記不吐出エネルギーの供給が開始された直後の期間である開始直後期間において前記アクチュエータが前記不吐出エネルギーをインクに供給する時間当たりの平均回数が、前記開始直後期間が終了してから前記吐出エネルギーの供給が開始するまでの期間である印字前期間の前記平均回数より大きくなるように、前記開始直後期間及び印字前期間の両方において前記不吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させるのを繰り返す。
【0009】
本発明のインクジェット記録装置によると、不吐出エネルギーをインクに供給することにより、インクを微小に振動させる。そして、不吐出エネルギーの供給を開始してからの開始直後期間には、不吐出エネルギーをインクに供給する平均の回数を大きくする。これによって、キャップ開放時に高まっているインクの粘度を速やかに低下させることができ、画像記録の際に画質が低下するのを抑制することができる。その一方で、開始直後期間が経過した後には、不吐出エネルギーをインクに供給する平均の回数を小さくする。この場合、インクを振動させる時間当たりの回数が減少するが、すでに開始直後期間においてインクの粘度をある程度低下させているので、開始直後期間ほど時間当たりに振動させなくても乾燥を抑制することができる。そして、開始直後期間の経過後には不吐出エネルギーをインクに供給する回数が減少するので、エネルギー消費を抑制することができる。
【0010】
また、本発明においては、前記駆動制御手段が、第1及び第2のパルス信号を前記アクチュエータに供給し、前記アクチュエータが、前記駆動制御手段から前記第1のパルス信号が供給された場合に、前記吐出エネルギーをインクに供給すると共に、前記駆動制御手段から前記第2のパルス信号が供給された場合に、前記不吐出エネルギーを前記インクに供給することが好ましい。これによると、アクチュエータに供給する第2のパルスの数を変化させることによって不吐出エネルギーを付与する回数を調整することができる。
【0011】
また、本発明においては、前記駆動制御手段が、前記開始直後期間内には、n個(n:自然数)の前記第2のパルスが配列されたnパルス波形信号を時間的に連続して前記アクチュエータへと供給すると共に、前記開始直後期間の経過後には、前記nパルス波形信号を間欠的に前記アクチュエータへと供給することが好ましい。これによると、開始直後期間には所定のパルス数の波形信号を時間的に連続してアクチュエータに供給する一方で、開始直後期間後には同じ波形信号を間欠的にアクチュエータに供給している。したがって、開始直後期間後の印字前期間において不吐出エネルギーを付与する回数を簡易に減少させることができる。
【0012】
また、本発明においては、前記アクチュエータが、圧電層と、前記駆動制御手段から前記第1及び第2のパルス信号が供給される個別電極と、前記個別電極との間に前記圧電層を挟んだ共通電極とを含んでおり、前記第1及び第2のパルス信号のいずれかが前記個別電極に供給された場合に、前記個別電極と前記共通電極との間に発生した電界によって前記圧電層が変形する際に、前記インク流路を変形させて前記インク流路内のインクに圧力を印加してもよい。これによると、圧電層を変化させることによってインクに圧力を印加することで、インク流路内のインクに吐出エネルギー又は不吐出エネルギーを供給することができる。
【0013】
また、本発明においては、前記駆動制御手段が、前記印字前期間内の期間であって前記吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させ始める直前の期間である吐出直前期間の前記平均回数が、前記印字前期間において前記吐出直前期間が開始する前の期間の前記平均回数よりも大きくなるように、前記不吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させることが好ましい。あるいは、本発明においては、前記駆動制御手段が、前記印字前期間内の期間であって前記吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させ始める直前の期間である吐出直前期間において、m個(m:m>nを満たす自然数)のパルスが配列された前記nパルス波形信号と同じ時間的長さのmパルス波形信号を、時間的に連続して前記アクチュエータへと供給してもよい。これによると、印字開始直前の期間である吐出直前期間において不吐出エネルギーを付与する時間当たりの平均回数を再び増加させるので、開始直後期間後の乾燥を抑制し切れずインクの粘度が高まっている場合に、インクの粘度を再び減少させることができる。
【0014】
また、本発明においては、前記開始直後期間及び印字前期間のそれぞれにおいて、前記アクチュエータが前記不吐出エネルギーをインクへと時間的に等間隔で繰り返し供給する期間が、時間的な間隔を挟んで繰り返してもよい。これによると、不吐出エネルギーを等間隔で連続的にインクに供給したり、間欠的にインクに供給したりすることができる。
【0015】
また、本発明においては、前記駆動制御手段が、記録媒体上に画像が形成され終わった後の時点であって前記キャップ移動手段が前記キャップを前記被覆位置に移動させる前の時点から、前記不吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させ始めることが好ましい。これによると、画像形成が終了してから再びキャップで吐出面を被覆するまでの期間にも、吐出口付近のインクが急速に乾燥しやすい。上記の構成によると、かかる期間の乾燥を有効に抑制することができる。
【0016】
また、本発明においては、前記駆動制御手段が、前記キャップ移動手段が前記キャップを前記被覆位置へと移動させる直前の期間である被覆直前期間の前記平均回数が、記録媒体上に画像が形成され終わった後に前記不吐出エネルギーの供給が開始されてから前記被覆直前期間が開始するまでの期間の前記平均回数より大きくなるように、前記不吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させることが好ましい。これによると、キャップで吐出面を被覆する直前の被覆直前期間に不吐出エネルギーを付与する時間当たりの平均回数を増加することによって、インクの粘度を十分に低下させた上でキャップをすることができる。
【0017】
また、本発明においては、前記開始直後期間が、前記キャップ移動手段が前記キャップを前記開放位置へと移動させた時点以降に開始してもよい。これによると、キャップを開放してから不吐出エネルギーの供給を開始するので、キャップ開放前から供給を開始する場合と比べて、不吐出エネルギーを供給する期間を短縮することができる。このため、消費エネルギーを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について図を参照しつつ説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る好適な実施形態であるインクジェットプリンタの全体的な構成を示す概略平面図である。図1及び図2に示すように、インクジェットプリンタ100は、4つのインクジェットヘッド1を有するカラーインクジェットプリンタである。また、インクジェットプリンタ100は、各部を制御する制御部190を有している。このインクジェットプリンタ100には、図中右方に給紙部11が、図中左方に排紙部12がそれぞれ構成されている。
【0020】
インクジェットプリンタ100の内部には、給紙部11から排紙部12に向かって用紙(記録媒体)Pを搬送する用紙搬送機構40が構築されている。用紙搬送機構40は、送りローラ3、5、ベルトローラ6、7及び搬送ベルト8を有している。送りローラ3は給紙部11に設けられており、給紙部11に収容された用紙Pを順に図1中左方へと送り出す。給紙部11のすぐ下流側には、送りローラ5が配置されている。送りローラ5は、鉛直方向に関して互いに対向する一対のローラから構成されている。これらのローラはいずれも用紙搬送方向に関して直交且つ水平な方向に延びており、給紙部11からの用紙Pを互いの間に挟みつつ給紙部11から図中左方に送り出す。送りローラ5の下流には、2つのベルトローラ6、7と、両ローラ6、7の間に架け渡されるように巻き回されたエンドレスの搬送ベルト8とが設けられている。搬送ベルト8を挟んでインクジェットヘッド1と対向する位置には図示しないプラテンが設けられている。かかるプラテンは、搬送ベルト8が下方に撓まないように搬送ベルト8を支持するものである。ベルトローラ7の上方にはニップローラ4が配置されている。ニップローラ4は、給紙部11から送りローラ5によって送り出された用紙Pを搬送ベルト8の外周面に押さえ付ける。
【0021】
図示しない搬送モータがベルトローラ6を回転させることによって、搬送ベルト8が走行される。これにより、搬送ベルト8が、ニップローラ4によってその外周面に押さえ付けられた用紙Pを粘着保持しつつ排紙部12に向けて搬送する。なお、搬送ベルト8の表面には、弱粘着性のシリコン樹脂層が形成されている。
【0022】
搬送ベルト8のすぐ下流側には、剥離機構14が設けられている。剥離機構14は、搬送ベルト8の外周面に粘着されている用紙Pを外周面から剥離して、図中左方の排紙部12に向けて導くように構成されている。
【0023】
インクジェットプリンタ100は、用紙搬送方向に沿って4つのインクジェットヘッド1が配列されたヘッドユニット101を有している。インクジェットヘッド1は概略的に直方体の形状を有しており、用紙搬送方向に直交する方向に長尺な長方形の平面形状を有している。4つのインクジェットヘッド1は、4色のインク(マゼンタ、イエロー、シアン、ブラック)に対応して、ヘッドユニット101に固定されている。つまり、このインクジェットプリンタ100は、ライン式プリンタである。
【0024】
インクジェットヘッド1は、その下端にヘッド本体2をそれぞれ有している。ヘッド本体2は、搬送方向に直交した方向に長尺な細長い直方体形状となっている。また、ヘッド本体2の下面には、後述のノズル108が開口したインク吐出面2aが形成されている。いずれのインク吐出面2aも水平方向に沿っており、鉛直方向に関して互いに同じ位置に配置されている。また、インク吐出面2aは搬送ベルト8の外周面に対向している。搬送ベルト8によって搬送される用紙Pが4つのヘッド本体2のすぐ下方側を順に通過する際に、この用紙Pの上面すなわち印刷面(印刷領域)に向けてインク吐出面2aから各色のインク滴が吐出される。これにより、用紙Pの印刷領域に所望のカラー画像を形成できるようになっている。
【0025】
ヘッドユニット101は、ヘッド移動機構170によって鉛直方向に関して移動可能にインクジェットプリンタ100内に設置されている。ヘッド移動機構170は、ヘッドユニット101を図2の左右方向に関して両側から支持する支持部材171及び173を有している。このうち、支持部材171には鉛直方向に沿って複数の歯が鋸状に配列された咬み合わせ部171aが形成されている。また、ヘッド移動機構170は歯車172を有している。歯車172は、円盤状の形状を有しており、その円周には円周方向に沿って配列された複数の歯からなる咬みあわせ部172aが形成されている。歯車172は、その円盤形状の中心を貫通する回転軸周りに回転可能にインクジェットプリンタ100内に設置されている。支持部材171の咬み合わせ部171aと歯車172の咬み合わせ部172aとは互いに咬み合っている。ヘッド移動機構170は、歯車172を回転させる駆動モータ(不図示)を有しており、歯車172を順方向及びその逆方向に回転させることによって支持部材171を鉛直方向に往復移動させることができる。これによって、ヘッドユニット101を上下方向に沿って往復移動させることができる。
【0026】
インクジェットプリンタ100は、インクジェットヘッド1のインク吐出面2aを保護するキャップユニット150を有している。キャップユニット150は、移動台152とその上面に固定された4つのキャップ本体151とを有している。移動台152の上面は水平方向に沿っており、キャップ本体151は、用紙搬送方向に沿って移動台152上に配列されている。各キャップ本体151は、移動台152の上面から上方に向かって突出する環状の凸部を有している。かかる凸部は、平面視において用紙搬送方向に直交する方向に関して長尺な長方形の外周に沿って延びており、上端面が水平方向に沿っている。各キャップ本体151の凸部は、インクジェットヘッド1のインク吐出面2aにおいて、後述のノズル108の開口が形成された領域を平面視において内部に含むことができるような平面形状を有している。
【0027】
また、インクジェットプリンタ100内には、キャップユニット150を移動させるキャップ移動機構160が構築されている。キャップ移動機構160はキャップユニット150を移動可能に支持するガイド部材164を有している。ガイド部材164は、用紙搬送方向に直交し且つ水平方向に平行なキャップ移動方向に沿って直線状に延びており、用紙搬送方向に関して両側からキャップユニット150を移動可能に支持している。また、キャップ移動機構160は移動ベルト161、ローラ162及び163を有している。ローラ162及び163は、用紙搬送方向及び鉛直方向に関して同じ位置に配置されており、キャップ移動方向に関して互いに離隔している。移動ベルト161は無端のベルトであり、ローラ162及び163の周囲に巻き掛けられている。キャップ移動機構160は、ローラ162を回転させる駆動モータ(不図示)を有しており、かかる駆動モータによってローラ162を回転させることにより、移動ベルト161を図2の時計回り及び反時計回りに走行させることができる。さらに、キャップユニット150の側壁には固定部材165が設置されており、キャップユニット150と移動ベルト161とが固定部材165を介して連結されている。したがって、キャップ移動機構160は、移動ベルト161を走行させることにより、キャップユニット150をキャップ移動方向に沿って往復移動させることができる。
【0028】
ヘッド移動機構170及びキャップ移動機構160がヘッドユニット101及びキャップユニット150を移動させる範囲は以下の通りである。まず、ヘッド移動機構170は、図2に示す位置A1、A2及びA3間でヘッドユニット101を移動させる。位置A1は、インク吐出面2aがキャップ本体151の上端面よりさらに上方に配置されるような位置である。位置A2は、インク吐出面2aが上下方向に関してちょうどキャップ本体151の上端面と同じ位置に配置されるような位置である。位置A3はインクジェットヘッド1から用紙に向かってインクを吐出させるインク吐出位置であり、インク吐出面2aが所定の吐出距離を挟んで搬送ベルト8と近接するような位置である。
【0029】
また、キャップ移動機構160は、キャップユニット150の図2中の右端が位置B1に配置されるような位置と、位置B2に配置されるような位置との間でキャップユニット150を移動させる。位置B1は、キャップユニット150がヘッドユニット101から左方へと完全に退避する位置である。位置B2は、各インクジェットヘッド1のインク吐出面2aにノズル108の開口が形成された領域を各キャップ本体151が平面視において内部に含むような位置である。
【0030】
次に、制御部190の構成及びその制御内容の概要について説明する。図3は、制御部190の構成を示すブロック図である。制御部190は、各種の電子部品やプロセッサ回路、記憶装置等のハードウェアと、これらのハードウェアを図3が示す各機能ブロックとして機能させるプログラム等のソフトウェアとから構築されている。制御部190は、インクジェットプリンタ100に関する制御内容の全体を統括する主制御部191を有している。また、制御部190は、ヘッド移動機構170等の各部を制御するヘッド移動制御部192、キャップ制御部193、搬送制御部194及び画像記録部195を有している。主制御部191はこれらに制御指令を送信する。ヘッド移動制御部192等は、主制御部191からの制御指令に基づいて、ヘッド移動機構170等の動作を制御する。
【0031】
以下、制御部190の制御によって実現されるインクジェットプリンタ100の動作内容を概略的に説明する。第1は、キャップ本体151にインクジェットヘッド1のインク吐出面2aを被覆させるキャップ被覆動作である。キャップ被覆動作は、インクジェットヘッド1の吐出特性を回復する場合や、画像形成処理の完了時又は画像形成処理の完了後に所定時間を経過しても画像形成が行われない場合、あるいはインクジェットプリンタ100の主電源のスイッチがオフに切り換えられた場合に実行される動作である。まず、キャップユニット150が図2の状態にあるとする。このときのキャップユニット150の位置を開放位置とする。次に、ヘッド移動制御部192は、ヘッド移動機構170にヘッドユニット101を位置A1まで移動させる。キャップユニット150がヘッドユニット101の下方に移動できるようにするためである。次に、キャップ制御部193は、キャップ移動機構160にキャップユニット150を位置B2まで移動させる。そして、ヘッド移動制御部192は、ヘッド移動機構170にヘッドユニット101を位置A2まで移動させる。上記のとおり位置A2は、インク吐出面2aがキャップ本体151の上端面に配置される位置であるので、これによってキャップ本体151の上端面がインク吐出面2aに当接する。そして、インク吐出面2aに形成されたノズル108の開口がキャップユニット150によって被覆される。このときのキャップユニット150の位置を被覆位置とする。
【0032】
第2に、キャップユニット150をインク吐出面2aから離隔させるキャップ離隔動作である。キャップ離隔動作は、吐出特性の回復動作が完了した場合や、画像形成処理を待機している状態において画像形成を再び開始する場合に実行される動作である。かかる動作においては、上記とは逆の順序で制御が実行される。つまり、キャップユニット150が被覆位置にある状態で、ヘッドユニット101が位置A1まで移動される。そして、キャップユニット150が位置B1まで移動される。
【0033】
第3に、用紙P上に画像を形成させる印字動作である。外部のパーソナルコンピュータ(PC)等から画像データが送信されると、主制御部191は、キャップユニット150が被覆位置にあるか離隔位置にあるかを判定する。キャップユニット150が被覆位置にあると判定した場合には、主制御部191は、上記のキャップ離隔動作を実行するように指示する制御指令をヘッド移動制御部192及びキャップ制御部193へと送信する。かかる制御指令を受信すると、ヘッド移動制御部192及びキャップ制御部193はキャップ離隔動作を実行する。
【0034】
そして、主制御部191は、ヘッドユニット101を印字位置へと移動させるように指示するヘッド移動制御指令をヘッド移動制御部192に送信する。かかる制御指令を受信すると、ヘッド移動制御部192は、ヘッド移動機構170を制御して、ヘッドユニット101を位置A3の印字位置へと移動させる。一方で、キャップユニット150が離隔位置にあると判定すると、主制御部191は、インクジェットヘッド1の位置を確認する。そして、インクジェットヘッド1が位置A3にあると判断すれば、主制御部191は、そのまま次の処理を実行する。しかし、位置A3以外の位置にあると判断した場合には、主制御部191は、上述のようにヘッド移動制御部192を制御してヘッドユニット101を位置A3の印字位置へと移動させた後に、次の処理を実行する。
【0035】
そして、主制御部191は、所定のタイミングで用紙Pを搬送するように指示する搬送制御指令を搬送制御部194へと送信する。これと同時に、所定のタイミングで搬送された用紙P上にちょうど画像が形成されるように指示する印字指令を、画像データと共に画像記録部195へと送信する。搬送制御指令を受信した搬送制御部194は、上記の所定のタイミングで用紙Pを搬送するように用紙搬送機構40を制御する。また、印字指令及び画像データを受信すると、画像記録部195はヘッド本体2を制御して、所定のタイミングで搬送された用紙P上に画像を形成させる。
【0036】
さらに、PCなどから要求された所定枚数の用紙Pに画像が形成されると、主制御部191は、ヘッド移動制御部192及びキャップ制御部193に制御指令を送信して、上記のキャップ被覆動作を実行させる。これによって、印字動作が終了してもインクジェットヘッド1のインク吐出面2aがキャップユニット150によって保護されるため、インク吐出面2aにおいてインクの乾燥等が防止される。
【0037】
次に、図4を参照しつつインクジェットヘッド1について詳細に説明する。図4は、インクジェットヘッド1の短手方向に沿った断面図である。図4に示すように、インクジェットヘッド1は、内部に流路が形成された流路部材、流路部材からインク滴を吐出させる電装部材および電装部材を保護するカバー部材とから構成されている。流路部材は、流路ユニット9とアクチュエータユニット21とを含むヘッド本体2、及び、ヘッド本体2の上面に配置されているリザーバユニット71を含む。リザーバユニット71は、インクを一時的に貯溜してヘッド本体2に供給する。電装部材は、ドライバIC52が実装されたCOF(Chip On Film)50、及び、COF50と電気的に接続された基板54を含む。COF50の一端は、アクチュエータユニット21に接続され、ドライバIC52が生成する駆動信号がアクチュエータユニット21に供給される。カバー部材は、サイドカバー53及びヘッドカバー55で構成されている。カバー部材は、電装部材を収納し、外部からインクやインクミストが侵入するのを防ぐ。
【0038】
リザーバユニット71は、4枚のプレート91〜94が互いに位置合わせされて積層されたものであり、その内部に、図示しないインク流入流路、インクリザーバ61、及び、10個のインク流出流路62が互いに連通するように形成されている。
【0039】
また、プレート94には、流路ユニット9に対向する面に凹部94aが形成されている。プレート94の凹部94aが形成された部分では、流路ユニット9との間に空隙を形成しており、この空隙内に、アクチュエータユニット21が配置されている。なお、インクリザーバ61に流れ込んだインクはインク流出流路62を通過し、インク供給口105bを介して流路ユニット9に供給される。
【0040】
COF50は、後述する個別電極135及び共通電極134と電気的に接続されるように、その一方端部近傍がアクチュエータユニット21の上面に接着されている。さらに、COF50は、アクチュエータユニット21の上面からサイドカバー53とリザーバユニット71との間を通過するように上方に引き出されており、他方端部がコネクタ54aを介して基板54に接続されている。
【0041】
次に、図5〜図8を参照しつつ、ヘッド本体2について説明する。図5は、ヘッド本体2の平面図である。図6は、図5の一点鎖線で囲まれた領域の拡大図である。なお、図6では説明の都合上、アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき圧力室110、アパーチャ112及びノズル108を実線で描いている。図7は、図6に示すVII−VII線に沿った部分断面図である。図8(a)はアクチュエータユニット21の拡大断面図であり、図8(b)は、図8(a)においてアクチュエータユニット21の表面に配置された個別電極を示す平面図である。
【0042】
ヘッド本体2は、図5に示すように、4つのアクチュエータユニット21が、流路ユニット9の上面9aに固定されている。図6に示すように、アクチュエータユニット21は、流路ユニット9に形成された圧力室110に対向して設けられた複数のアクチュエータを含んでおり、圧力室110内のインクに選択的に吐出エネルギーを付与する機能を有する。
【0043】
流路ユニット9は、リザーバユニット71のプレート94とほぼ同じ平面形状を有する直方体形状となっている。流路ユニット9の上面9aには、リザーバユニット71のインク流出流路62(図4参照)に対応して、計10個のインク供給口105bが開口している。流路ユニット9の内部には、インク供給口105bに連通するマニホールド流路105及びマニホールド流路105から分岐した副マニホールド流路105aが形成されている。流路ユニット9の下面には、図6及び図7に示すように、多数のノズル108がマトリクス状に配置されたインク吐出面2aが形成されている。圧力室110も、流路ユニット9におけるアクチュエータユニット21の固定面において、ノズル108と同様マトリクス状に多数配列されている。
【0044】
流路ユニット9は、図7に示すように、9枚のステンレス鋼等の金属プレート122〜130から構成されている。これらプレート122〜130は、主走査方向に長尺な矩形状の平面を有する。
【0045】
これらプレート122〜130を互いに位置合わせしつつ積層することによって、プレート122〜130に形成された貫通孔が連結されて、流路ユニット9内に、マニホールド流路105から副マニホールド流路105a、そして副マニホールド流路105aの出口から圧力室110を経てノズル108に至る多数の個別インク流路132が形成される。
【0046】
なお、リザーバユニット71から流路ユニット9内に供給されたインクは、マニホールド流路105(副マニホールド流路105a)から、各個別インク流路132に流れ込み、アパーチャ112(絞り)及び圧力室110を介してノズル108に至る。
【0047】
アクチュエータユニット21について説明する。図5に示すように、4つのアクチュエータユニット21は、それぞれ台形の平面形状を有しており、インク供給口105bを避けるよう千鳥状に配置されている。さらに、各アクチュエータユニット21の平行対向辺は流路ユニット9の長手方向に沿っており、隣接するアクチュエータユニット21の斜辺同士は流路ユニット9の幅方向(副走査方向)に関して互いにオーバーラップしている。
【0048】
図8(a)に示すように、アクチュエータユニット21は、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる3枚の圧電シート(圧電層)141〜143から構成されている。圧電シート141の上面には、圧力室110に対向する位置に個別電極135が形成されている。最上層の圧電シート141とその下側の圧電シート142との間には、シート全面に形成された共通電極(グランド電極)134が介在している。個別電極135は、図8(b)に示すように、圧力室110と相似な略菱形の平面形状を有する。個別電極135における鋭角部の一方は延出され、その先端には円形で導電性のランド136が設けられている。
【0049】
共通電極134は、グランド電位(基準電位)が付与されている。一方、個別電極135は、各ランド136及びCOF50の内部配線を介して、ドライバIC52の内部に形成された出力回路52a(図9参照)と電気的に接続されている。つまり、アクチュエータユニット21において、個別電極135と圧力室110とで挟まれた部分が、個別のアクチュエータとして働く。
【0050】
アクチュエータユニット21の駆動方法は以下の通りである。圧電シート141は、多数の個別電極135と共通電極134とに挟持されており、圧電シート142、143は、共通電極134と流路ユニット9の上面とに挟持されている。ここで、個別電極135と共通電極134とに挟まれた圧電シート141の部分が、活性層として働き、両電極間に電圧を印加すると平面方向に伸縮する。また、この活性層として働く部分は、圧力室110側の圧電シート142、143と協働して、圧力室110の容積を変化するように変形する。活性層の分極方向と電界の方向とが共に厚み方向であれば、活性層が面方向に縮み、個別電極135に対応した部分は圧力室110の内側方向に凸状に変形する(ユニモルフ変形)。これにより、圧力室110内のインクに圧力が付与され、圧力室110内に圧力波が発生する。そして、発生した圧力波が圧力室110からノズル108まで伝播する。かかる圧力波の大きさによってはノズル108からインク滴が吐出される。圧力波が小さいと、インク滴が吐出されるまでには至らず、ノズル108の開口(吐出口)のインクメニスカスに微小な振動が発生する。本明細書においては、アクチュエータユニット21によってインクに付与されるエネルギーとして、ノズル108からインク滴が吐出される程度のものを吐出エネルギーと呼称する。また、ノズル108からインク滴が吐出されるほどではないが、ノズル108の開口においてインクメニスカスを微小に振動させる程度のものを不吐出エネルギーと呼称する。
【0051】
以下、アクチュエータユニット21の個別電極135に駆動信号が供給される電気的構成についてより詳細に説明する。アクチュエータユニット21へと供給される駆動信号を生成するのは、上述の画像記録部195である(図3参照)。図9は、画像記録部195の詳細な構成を示すブロック図である。画像記録部195は、画像データ出力部196、波形出力部197及び駆動制御部198を有している。なお、駆動制御部198は、上述の基板54やドライバIC52等から構築されている。
【0052】
画像データ出力部196は、主制御部191からの画像データを一時的に記憶(格納)するRAM(Random Access Memory)等の記憶手段を有している。かかる画像データは、印字すべき画像に対応するピクセルデータが所定の順序で配列されたものである。画像データ出力部196は、ピクセルデータをその格納場所から所定の順序で取り出すと共に、駆動制御部198へと順に出力する。したがって、画像データ出力部196からのピクセルデータが所定の順序で連なった画像データ列が、駆動制御部198へと順に出力されていく。
【0053】
波形出力部197は、個別電極135へと供給する信号の単位波形を記憶したROM(Read Only Memory)等の記憶手段を有している。波形出力部197は複数種類の単位波形を格納しており、これらの単位波形に相当するパルス波形信号を駆動制御部198に出力する。本実施形態においては、インクに吐出エネルギーを付与するための単位波形として吐出波形a及びbが、インクに不吐出エネルギーを付与するための単位波形として不吐出波形A及びBが用意されている。図10は、これらの単位波形の一例である。
【0054】
図10に示すように、各単位波形はいずれも同じ時間的な長さを有しており、この時間的な長さは1印字周期と等しい。1印字周期とは、用紙搬送方向に関して解像度に対応して1ドット分の画像を用紙P上に形成する際に経過する時間に相当する。例えば、本実施形態においては1印字周期が50マイクロ秒である場合を想定している。各単位波形は1又は複数のパルス波形を含んでいる。吐出波形a及びb(第1のパルス信号)は、それぞれ1つ及び3つの方形パルス波形を含んでおり、不吐出波形A及びB(第2のパルス信号)は、それぞれ3つ及び5つの方形パルス波形を含んでいる。これらのパルスは互いに等間隔に配列されており、個別電極135に供給されると、個別電極135の電位を共通電極134に対して駆動電位V1及びグランド電位Vg間で変位させる。図10に示すように、各パルスにおいて高い方の電位は駆動電位V1に相当し、低い方の電位はグランド電位Vgに相当する。吐出波形a及びbの各パルスの幅は、かかるパルス波形信号が個別電極135に供給された際にその個別電極135に対応するノズル108からインクが吐出されるように調整されている。一方で、不吐出波形A及びBの各パルスの幅は、吐出波形a及びbに含まれるパルスの幅より小さく、ノズル108からインクが吐出されないように調整されている。
【0055】
駆動制御部198は、画像データ出力部196からの画像データ列に基づいて、波形出力部197からの吐出波形a及びbのいずれかに相当するパルス波形信号を、アクチュエータユニット21へと順に供給する。具体的には、以下の通りに波形信号が供給される。画像データ出力部196からの画像データ列には各ピクセルデータが所定の順序で連なっている。駆動制御部198は、各ピクセルデータに相当する吐出波形を吐出波形a及びbから選択する。そして、駆動制御部198は、選択した波形に対応するパルス波形信号を、出力回路52aからそのピクセルデータに対応する個別電極135へと、所定のタイミングで供給する。これによって、個別電極135には、複数のパルス波形が連なったパルス列信号が駆動制御部198から供給される。
【0056】
駆動制御部198から個別電極135へと吐出波形a又はbに対応するパルス列信号が供給されると、アクチュエータユニット21は以下のように動作する。まず、いずれの波形も供給されないときには、共通電極134に対する個別電極135の電位は駆動電位V1に保持されている。これによって、アクチュエータユニット21においてこの個別電極135に対応する領域が圧力室110に向かって凸に変形し、圧力室110の容積が小さくなっている。そして、駆動制御部198から個別電極135へと1つのパルス波形が供給されるごとに、個別電極135が一旦グランド電位Vgとなり、パルス波形のパルス幅に相当する時間経過の後、再び駆動電位V1へと戻る。この場合、個別電極135がグランド電位Vgになるタイミングで、圧力室110内のインクの圧力が降下(圧力室110の容積が拡大)して、副マニホールド流路105aから個別インク流路132へとインクが吸い込まれる。その後、再び個別電極135を駆動電位V1にしたタイミングで、圧力室110内のインクの圧力が上昇(圧力室110の容積が縮小)し、ノズル108からインク滴が吐出される。このように、1個のパルス波形を個別電極135に供給することが、圧力室110内のインクに吐出エネルギーを1回供給することに相当する。
【0057】
したがって、個別電極135に吐出波形aに対応するパルス波形信号が供給されると、その個別電極135に対応するノズル108からは1つのパルス波形に対応する1つのインク滴が吐出される。一方で、個別電極135に吐出波形bに対応するパルス波形信号が供給されると、その個別電極135に対応するノズル108からは3つのパルス波形に対応する3つのインク滴が吐出される。1つの単位波形である1つの吐出波形によってノズル108から吐出されるインク滴は、用紙P上に着弾して1つのドットを構成する。このため、吐出波形bによって形成されるドットは、吐出波形aによって形成されるドットより多量のインクによって形成される。つまり、吐出波形bは吐出波形aより濃いドットを形成する際に使用される。このように、各ピクセルデータに対応する吐出波形a又はbが各個別電極135に適切に供給されることにより、各ピクセルデータに対応する各ドットが用紙P上に形成され、画像データに対応する画像が用紙P上に形成される。
【0058】
これに対して、吐出波形a及びbを供給しない期間には、駆動制御部198は、不吐出波形A及びBのいずれかに対応するパルス波形信号を個別電極135へと供給する。不吐出波形A及びBに対応するパルス波形信号が個別電極135へと供給されると、1つのパルスごとに上記と同様にアクチュエータユニット21が駆動される。なお、1個のパルス波形を個別電極135に供給することが、圧力室110内のインクに不吐出エネルギーを1回供給することに相当する。したがって、例えば不吐出波形Aを個別電極135に供給すると、圧力室110内のインクに不吐出エネルギーが3回供給されたこととなる。しかし、不吐出波形に含まれるパルスの幅は、その個別電極135に対応するノズル108からインクが吐出されないように調整されている。このため、不吐出波形A及びBに対応する波形信号が個別電極135に供給されてもノズル108からはインクが吐出されないが、ノズル108の開口付近のインクメニスカスが微小に振動されることとなる。
【0059】
用紙P上に画像を形成しない期間には、ノズル108の開口が大気へと開放されていると、開口付近のインクが乾燥していく。インクの乾燥が進んでインクの粘度が高まると、ノズル108からのインクの吐出特性に変化が生じ、用紙P上に形成される画像の画質が低下するおそれがある。そこで、駆動制御部198は、用紙P上に画像を形成しない期間には、不吐出波形A又はBに対応する波形信号が連なったパルス列信号を個別電極135へと供給する。これによって、ノズル108の開口付近のインクメニスカスが微小に振動され、ノズル108からインクが吐出されない期間でのインクの乾燥を抑制することができ、画質の低下を抑制することができる。
【0060】
ところで、本実施形態の場合のようにインク吐出面2aを保護するキャップユニット150が設けられている場合、ノズル108の開口においてインクの乾燥のしやすさは、キャップユニット150によってインク吐出面2aが被覆されているか否かで変化する。例えば、インク吐出面2aがキャップユニット150で被覆されている期間にはノズル108の開口付近のインクが乾燥しにくい。したがって、本実施形態においてはインクの乾燥を抑制するために、用紙P上に画像を形成する期間が終了した後に、インク吐出面2aを被覆する被覆位置にキャップユニット150を移動させている。しかし、キャップユニット150がインク吐出面2aを長期間被覆していると、開口付近のインクの乾燥が進み、インクの粘度が高まっていることがある。この場合、そのままの状態ではノズル108からインクを正常に吐出できないおそれがある。
【0061】
そこで、画像記録が開始される前に、個別電極135へと不吐出波形A又はBを供給してインクを微小に振動させ、インクの粘度を低下させる必要がある。ここで、インクの粘度を速やかに低下させるためには、個別電極135に大量のパルスを速やかに供給することが必要である。したがって、画像記録が開始される直前まで、大量のパルスを含む波形信号を個別電極135に供給し続けることも考えられる。
【0062】
しかし、大量のパルスを含む波形信号を供給する場合、画像記録が開始される時点より前にインクの粘度が十分に低下することが考えられる。したがって、このような場合に大量のパルスを供給し続けるのはエネルギーを無駄に消費することになる。そこで、ある程度の数のパルスを供給した後にパルス波形信号の供給を完全に停止することも考えられる。しかし、キャップユニット150がインク吐出面2aから離隔するとノズル108の開口が大気へと開放され、インクの乾燥が急速に進行するため、インクの微小振動を完全に停止すると印字開始までに再びインクの粘度が高まるおそれがある。
【0063】
そこで、本実施形態の駆動制御部198は、以下のように駆動信号を個別電極135へと供給するように構成されている。図11及び図12は、駆動制御部198がある個別電極135へと供給する駆動信号の模式図である。主制御部191から印字指令が送信されると、駆動制御部198は、図11に示すように駆動信号を個別電極135へと供給してインクの振動(攪拌処理)を開始する。そして、駆動信号の供給を開始した直後からの期間Paの間は、不吐出波形A(nパルス波形信号のn=3の場合に対応)を連続して個別電極135へと供給し続ける。不吐出波形Aには3つのパルス波形が等間隔で配列されているため、不吐出波形Aを連続して供給することによって、等間隔で配列された3つのパルス波形を所定の時間間隔を挟んで個別電極135に供給することができる。これによって、キャップユニット150の開放直後においてインク粘度が高まった状態から速やかにインク粘度を低下させることができる。
【0064】
期間Paが終了すると、期間Pbにおいて不吐出波形Aを間欠的に個別電極135に供給する。これによって、ノズル108の開口付近のインクを間欠的に振動させる。具体的には、期間Pbに含まれるP1〜P60の期間において、各期間に1回だけ波形信号181を個別電極135へと供給する。波形信号181は、不吐出波形Aが所定の数だけ連なったパルス列信号である。したがって、波形信号181を供給することによって、等間隔で配列された3つのパルス波形を所定の時間間隔を挟んで個別電極135に供給することができる。そして、波形信号181が供給されていないときにはいずれの吐出波形も供給せずに、個別電極135を駆動電位V1に保持する。これによって、個別電極135には不吐出波形Aが間欠的に供給されることとなる。一方、この期間Pb内のいずれかのタイミングにおいてキャップユニット150が開放される。つまり、キャップユニット150が被覆位置から離隔位置へと移動される。また、用紙搬送機構40が用紙Pの搬送を開始する。
【0065】
期間Pbが終了すると、期間Pc1において不吐出波形B(mパルス波形信号のm=5の場合に対応)を連続して個別電極135へと供給する。期間Pc1は、印字開始の直前から印字開始までの期間である。不吐出波形Bには5つのパルス波形が等間隔で配列されているため、不吐出波形Bを連続して供給することによって、等間隔で配列された5つのパルス波形を所定の時間間隔を挟んで個別電極135に供給することができる。期間Pc1が終了すると印字が開始し、期間Pd1において1枚目の用紙Pに対して画像形成が実行される。期間Pd1が終了すると、期間Pc2において不吐出波形Bを連続して個別電極135へと供給する。そして、期間Pc2が終了すると、期間Pd2において2枚目の用紙Pに対して画像形成が実行される。このように、1枚の用紙Pに対して印字が終了するたびに、次の用紙Pに対して印字が開始する前に不吐出波形Bが連続的に個別電極135へと供給される。
【0066】
図12に示すように、i枚目までの用紙Pに対する画像形成が終了すると、期間Peにおいて不吐出波形Aを間欠的に個別電極135へと供給する。なお、iは2以上の自然数である。具体的には、期間Pbと同じ波形信号181を、期間Pbに含まれるP61〜P120の各期間に1回だけ供給する。期間Peが終了すると、期間Pfにおいて不吐出波形Aを連続して個別電極135に供給する。期間Pfは、キャップユニット150でインク吐出面2aを被覆する少し前からインク吐出面2aを被覆するまでの期間である。そして、期間Pgは、インク吐出面2aがキャップユニット150によって被覆されている期間に相当する。
【0067】
表1は、図11及び図12に示す各期間の長さや個別電極135に供給されるパルスの数等の一例を示している。表1において「長さ」の欄は、各期間の時間的な長さを示している。「単位波形の合計」の欄は、各期間において1つの個別電極135に供給される単位波形の合計数を示している。例えば、期間Pc1においては、個別電極135に不吐出波形Bが1000個供給される。「パルス数/波形」の欄は、1つの波形に含まれるパルスの数を示している。例えば、期間Pc1において個別電極135に供給されるのは不吐出波形Bである。したがって「5/波形B」は、期間Pc1において供給される1個の不吐出波形Bには5個のパルスが含まれていることを示している。「パルス数/ミリ秒」の欄は、各期間において1ミリ秒当たりの平均のパルス数がいくつであるかを示している。例えば、期間Pc1においては、50ミリ秒の期間中に、5個のパルスを含む不吐出波形Bが1000個供給される。したがって、1ミリ秒当たりの平均のパルス数は100個である。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示すように、駆動信号の供給開始直後の開始直後振動期間Pa(開始直後期間)においては、不吐出波形Aが連続して供給されることにより、1ミリ秒当たり60個のパルスが100ミリ秒間にわたって連続して個別電極135へと供給されることとなる。つまり、後述の間欠振動期間Pb及び吐出直前振動期間Pc1を合わせた期間よりも個別電極135に供給されるパルスの平均個数が大きい。したがって、キャップユニット150が長期間に亘って被覆位置に保持されていた間にインク粘度が高まっていても、インク粘度が速やかに低下する。
【0070】
そして、開始直後振動期間Pa後の間欠振動期間Pbにおいては、P1〜P60の各1秒の期間内に200個の不吐出波形Aからなる波形信号181が供給される。これによって、1ミリ秒当たり0.6個のパルスが60000ミリ秒(1分間)に亘って供給されることとなる。したがって、消費電力を抑制しつつ、キャップユニット150が開放されたことによって進行しやすくなったインクの乾燥を抑制することができる。
【0071】
そして、印字開始直前の吐出直前振動期間Pc1(吐出直前期間)には、不吐出波形Bが連続して供給されることにより、1ミリ秒当たり100個のパルスが50ミリ秒間にわたって連続して個別電極135へと供給されることとなる。つまり、間欠振動期間Pbよりも個別電極135に供給されるパルスの平均個数が大きい。したがって、万が一、開始直後振動期間Paにおいてインクの粘度が十分に低下しなかったり、間欠振動期間Pbにおいてインクの乾燥を十分に抑制できなかったりした場合にも、印字開始前に短期間に大量にパルスを供給することによって、インクの粘度を確実に低下させた状態で印字を開始することができる。
【0072】
なお、間欠振動期間Pb及び吐出直前振動期間Pc1を合わせた期間(印字前期間)全体としては、個別電極135に供給される平均のパルス数は1ミリ秒当たり約0.68個となる。したがって、期間Paと同じように1ミリ秒当たり60個のパルスを印字開始前まで供給し続ける場合と比べて、確実に消費エネルギーを抑制できる一方で、印字開始直前に短期間に大量にパルスを供給することによってインクの粘度を確実に低下させることができる。
【0073】
また、複数の用紙Pに画像を形成する場合にも、1〜iページ目の用紙の印字直前の吐出直前振動期間Pc2〜Pc,iの各期間において、不吐出波形Bが連続して供給されることにより、インクの粘度を確実に低下させた状態で各用紙Pに対する印字を開始することができる。
【0074】
また、全ての用紙Pへの印字が終了した後の間欠振動期間Pdにおいて、間欠振動期間Pbと同様に不吐出波形Aが間欠的に供給されることにより、印字終了後からキャップユニット150がインク吐出面2aを被覆するまでの間にインクの乾燥が進行するのを抑制することができる。
【0075】
また、キャップユニット150がインク吐出面2aを被覆する直前の被覆直前振動期間Pfにおいて、不吐出波形Aが連続して供給されることにより、インクの粘度を十分に低下させてからキャップユニット150にインク吐出面2aを被覆させることができる。
【0076】
<変形例>
以上は、本発明の好適な実施形態についての説明であるが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、課題を解決するための手段に記載された範囲の限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0077】
例えば、上述の実施形態において、図11のように、キャップユニット150がインク吐出面2aから離隔する前に不吐出波形Aの供給を開始している。しかし、キャップユニット150が開放されてから不吐出波形Aの供給を開始してもよい。これによると、駆動信号を供給する期間を短縮できるので、消費エネルギーを抑制することができる。
【0078】
また、上述の実施形態においては、1又は複数のパルス波形を含む単位波形を連続して個別電極35に供給したり、間欠的に個別電極35に供給したりしている。しかし、かかる単位波形を用いずに複数のパルス波形を個別電極35に供給してもよい。
【0079】
また、上述の実施形態においては、単位波形である不吐出波形A及びBのいずれも、等間隔に配列された複数のパルス波形を含んでいるが、そのうちの最後尾のパルスから単位波形の後端までの時間的な間隔がパルス波形同士の間隔と異なっている。したがって、例えば不吐出波形Aを連続的に個別電極35に供給した場合には、3つのパルス波形が等間隔で供給された後に、その等間隔より長い時間的間隔を挟んで次の3つのパルス波形が等間隔で供給されることとなる。しかし、上記のような不吐出波形AやBと異なり、複数のパルス波形を等間隔で含むと共に、連続的に個別電極35に供給した際に全てのパルス波形が等間隔で供給されるような単位波形が用意されていてもよい。
【0080】
また、上述の実施形態によると、個別電極35にパルス型の波形信号が供給される際に吐出エネルギーや不吐出エネルギーが付与されている。しかし、パルス波形以外の信号がアクチュエータに供給される際に吐出エネルギーや不吐出エネルギーが付与されるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態のインクジェットプリンタの概略平面図である。
【図2】図1のヘッドユニット及びキャップユニット周辺の側面図である。
【図3】図1の制御部190の構成を示すブロック図である。
【図4】図1のインクジェットヘッドの短手方向に沿った断面図である。
【図5】図1のヘッド本体の平面図である。
【図6】図3の一点鎖線で囲まれた領域の拡大図である。
【図7】図6のVII−VII線に沿った部分断面図である。
【図8】図7のアクチュエータユニットの拡大図である。
【図9】図3の画像記録部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図10】図7の個別電極に供給されるパルス波形の模式図である。
【図11】図9の駆動制御部が印字開始前において個別電極へと供給する駆動信号の模式図を示している。
【図12】図9の駆動制御部が印字終了後において個別電極へと供給する駆動信号の模式図を示している。
【符号の説明】
【0082】
1 インクジェットヘッド
2 ヘッド本体
2a インク吐出面
9 流路ユニット
21 アクチュエータユニット
100 インクジェットプリンタ
101 ヘッドユニット
108 ノズル
134 共通電極
135 個別電極
141 圧電シート
150 キャップユニット
160 キャップ移動機構
170 ヘッド移動機構
190 制御部
192 ヘッド移動制御部
193 キャップ制御部
194 搬送制御部
195 画像記録部
198 駆動制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データが供給された場合に前記画像データに対応する画像を記録媒体上に形成するインクジェット記録装置であって、
インクを吐出する吐出口と、前記吐出口にインクを供給するインク流路とを有する流路ユニットと、
前記吐出口からインクが吐出されるように調整された吐出エネルギーを前記インク流路内のインクに供給すると共に、前記吐出口からインクが吐出されないように調整された不吐出エネルギーを前記インク流路内のインクに供給するアクチュエータと、
前記画像データに対応する画像が記録媒体上に形成されるように、前記アクチュエータに前記吐出エネルギーをインクへと供給させる駆動制御手段と、
前記流路ユニットの前記吐出口が形成された吐出面を覆う被覆位置と前記被覆位置から離隔した開放位置との間で移動可能なキャップと、
前記キャップが前記被覆位置にある際に前記画像データの供給が開始されたときに、前記駆動制御手段が前記アクチュエータに前記吐出エネルギーを供給させ始める前に前記キャップを前記開放位置へと移動させると共に、記録媒体上に画像が形成され終わった後に前記キャップを前記被覆位置へと移動させるキャップ移動手段とを備えており、
前記駆動制御手段が、
前記画像データの供給が開始された後に前記不吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させ始めると共に、前記不吐出エネルギーの供給が開始された直後の期間である開始直後期間において前記アクチュエータが前記不吐出エネルギーをインクに供給する時間当たりの平均回数が、前記開始直後期間が終了してから前記吐出エネルギーの供給が開始するまでの期間である印字前期間の前記平均回数より大きくなるように、前記開始直後期間及び印字前期間の両方において前記不吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させるのを繰り返すことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記駆動制御手段が、第1及び第2のパルス信号を前記アクチュエータに供給し、
前記アクチュエータが、
前記駆動制御手段から前記第1のパルス信号が供給された場合に、前記吐出エネルギーをインクに供給すると共に、前記駆動制御手段から前記第2のパルス信号が供給された場合に、前記不吐出エネルギーを前記インクに供給することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記駆動制御手段が、
前記開始直後期間内には、n個(n:自然数)の前記第2のパルスが配列されたnパルス波形信号を時間的に連続して前記アクチュエータへと供給すると共に、前記開始直後期間の経過後には、前記nパルス波形信号を間欠的に前記アクチュエータへと供給することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記アクチュエータが、
圧電層と、前記駆動制御手段から前記第1及び第2のパルス信号が供給される個別電極と、前記個別電極との間に前記圧電層を挟んだ共通電極とを含んでおり、前記第1及び第2のパルス信号のいずれかが前記個別電極に供給された場合に、前記個別電極と前記共通電極との間に発生した電界によって前記圧電層が変形する際に、前記インク流路を変形させて前記インク流路内のインクに圧力を印加することを特徴とする請求項2又は3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記駆動制御手段が、
前記印字前期間内の期間であって前記吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させ始める直前の期間である吐出直前期間の前記平均回数が、前記印字前期間において前記吐出直前期間が開始する前の期間の前記平均回数よりも大きくなるように、前記不吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記駆動制御手段が、
前記印字前期間内の期間であって前記吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させ始める直前の期間である吐出直前期間において、m個(m:m>nを満たす自然数)のパルスが配列された前記nパルス波形信号と同じ時間的長さのmパルス波形信号を、時間的に連続して前記アクチュエータへと供給することを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記開始直後期間及び印字前期間のそれぞれにおいて、前記アクチュエータが前記不吐出エネルギーをインクへと時間的に等間隔で繰り返し供給する期間が、時間的な間隔を挟んで繰り返していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記駆動制御手段が、記録媒体上に画像が形成され終わった後の時点であって前記キャップ移動手段が前記キャップを前記被覆位置に移動させる前の時点から、前記不吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させ始めることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記駆動制御手段が、
前記キャップ移動手段が前記キャップを前記被覆位置へと移動させる直前の期間である被覆直前期間の前記平均回数が、記録媒体上に画像が形成され終わった後に前記不吐出エネルギーの供給が開始されてから前記被覆直前期間が開始するまでの期間の前記平均回数より大きくなるように、前記不吐出エネルギーをインクへと前記アクチュエータに供給させることを特徴とする請求項9に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記開始直後期間が、前記キャップ移動手段が前記キャップを前記開放位置へと移動させた時点以降に開始することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−154512(P2009−154512A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338958(P2007−338958)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】