インクジェット記録装置
【課題】インクを吐出口から強制的に排出するために、ポンプの駆動により圧力室に貯めた負圧を吐出口に付与することで吸引回復処理を行うインクジェット記録装置において、ポンプの大型化や圧力室の減圧時間の増大を来たすことなく、効率の高い吸引回復処理を行うことができるようにする。
【解決手段】圧力室を減圧して負圧状態にする処理を、インクを排出させる処理に先立つ記録動作中または記録待機中のタイミングで行うようにする。
【解決手段】圧力室を減圧して負圧状態にする処理を、インクを排出させる処理に先立つ記録動作中または記録待機中のタイミングで行うようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体上にインクを吐出する記録ヘッドを用いて画像記録を行うインクジェット記録装置に関し、特に記録ヘッドのインク吐出状態を良好な状態に維持または回復するための回復処理の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、液体であるインクを媒介として画像形成を行うシステムであるため、インクを吐出する記録ヘッドのインク吐出状態を良好な状態に維持または回復するための回復処理技術が非常に重要な要素となっている。
【0003】
回復処理を必要とする理由としては次のようなものが挙げられる。記録ヘッドには、記録の高速化や高解像化の目的で複数のノズル(以下、特にことわらない限り、吐出口、これに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギを発生するための素子を総称して言う)が配列されるのが一般的である。しかし、記録すべき画像データによっては、記録中にインク吐出に用いられないノズルが生じることがある。そのようなノズルでは、吐出口からのインク溶剤の蒸発が生じて吐出口ないし液路内のインク粘度が増加したり、外部から吐出口ないし液路内に塵埃が侵入したりすることがある。これらは、記録の待機中においてはすべてのノズルにおいて生じ得る問題でもある。すると、その後にノズルを使用するに際して、通常のインク吐出用のエネルギが付与されても安定したインク吐出が行えなくなり、吐出不良が生じることがある。また、各液路や、複数の液路に共通に連通する共通液室などの部分に泡が存在すると、吐出口や記録ヘッドを構成する材質の内部を透過してきたガスが泡に取り込まれ成長したり、記録時の昇温により泡が膨張したりすることがある。これらによってインク供給源からのインク供給が阻害され、結果としてインク吐出不良が生じる。
【0004】
これらの問題を解決する回復処理技術としては、吸引回復処理と称されるものがある。これは、記録ヘッドのインク吐出口形成面上に密閉空間を形成するキャップ部材を接合させ、ポンプを用いて密閉空間に周囲圧力未満の圧力(負圧)を作用させて吐出口よりインクを吸引することにより、吐出口内方のインクを強制排出させる処理である。
【0005】
特許文献1には、強い負圧ないしは吸引力を瞬時に作用させ、インクを吐出口から効率良く強制的に排出するために、キャップ部材とポンプとを接続する吸引経路に圧力室およびバルブを配設してなる吸引回復処理系の構成が開示されている。そして、吸引回復時にまずバルブを閉じてポンプを駆動させることにより圧力室の負圧を強く(絶対圧を低く)しておき、所望の負圧が得られたところでポンプを停止し、バルブを開放することでノズルに負圧を付与するようにしている。そして、この吸引回復処理によれば、必要な圧力をノズルに瞬時に付与することができるため、廃インク量を削減することが可能となるとされている。
【0006】
しかしながら、最近では記録の一層の高速化が要望されており、そのため記録ヘッドとしてはより多数のノズルが配列されるようになってきている。すなわち、このようにノズルの数を配列方向に増大させる(記録ヘッドを長尺ないし大型化する)ことで、より広い記録幅を確保するのである。また、記録のカラー化の要望に伴い、一色調に対応した単一の記録ヘッドだけでなく、複数色調(色,濃度)に対応して複数の記録ヘッドを用いる構成のインクジェット記録装置も一般的なものとなっている。
【0007】
しかしそのような長尺ヘッドや複数の記録ヘッドに対し、上記吸引回復処理を単一のポンプで行う場合には、キャップ内容積や、バルブからキャップまでの吸引路体積が増加する。このため、高い吸引力をノズルに加えるには圧力室の容積をさらに大きくする必要がある。圧力室に貯めた負圧は、バルブを開くことにより圧力の作用する体積が増大するために小さくなってしまうからである。しかし、圧力室の容積を大きくすると、圧力室を所定の負圧にまで減圧するのに要する時間が長くなる。この時間を短縮するためには、能力の高いポンプを採用することが考えられるが、これは装置の大規模化をもたらすために好ましいことではない。また、ノズルに作用させる所要の負圧を確保するために、圧力室に貯める負圧を増すことも考えられるが、圧力室の容積を大きくするのと同様に圧力室の減圧に非常に多くの時間を要する。さらに、インクの状態(特に粘度)は環境条件(特に温度)によって変化する。従って、インクの様々な状態に対応するために高い吸引力をノズルに付与するようにした場合には、環境条件によっては過剰な吸引力が作用することで、吸引の結果として生じる廃インクの量が増大することにもつながっていた。
【0008】
これらは、記録ヘッドが長尺化するほど、または記録ヘッド数が増大するほど大きな問題となる。また、記録媒体の幅の方向に、その幅に対応した範囲にわたってノズルを配列してなるライン状記録ヘッドを用いて記録を行う所謂ラインプリンタ形態のインクジェット記録装置においては一層顕著な問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−200777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって本発明は、ポンプの大型化や圧力室の減圧時間の増大、さらには廃インク量の増大を来たすことなく、小型にして効率の高い吸引回復処理を行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのために、本発明インクジェット記録装置は、インクを吐出する吐出口が設けられた記録ヘッドの面を密閉するキャップと、
該キャップに接続されて吸引力を発生するポンプと、
前記キャップと前記ポンプとの接続路に設けられ、前記ポンプの駆動に伴って減圧される圧力室と、
該圧力室と前記キャップとの接続路に設けられてその開閉を行う弁と、
該弁を閉じた状態で前記ポンプを駆動することにより前記圧力室を減圧して負圧状態とした後、前記圧力室の減圧された圧力によって前記キャップにより前記面を密閉した状態で前記弁を開くことで前記吐出口に負圧を付与することで前記インクを排出させる処理を行う制御手段と、
を具え、該制御手段は、前記圧力室内の圧力を所定の負圧になるように前記ポンプを駆動する処理を、前記インクを排出させる処理に先立つ記録動作中または記録待機中のタイミングで行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、吸引回復処理に先立ち予め圧力室内を減圧しておくことで、ポンプの大型化や圧力室の減圧時間の増大、さらには廃インク量の増大を来たすことなく、小型にして効率の高い吸引回復処理を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置における吸引回復系の構成例を説明するための模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る吸引回復動作の処理手順の例を示すフローチャートである。
【図5】図4の処理過程における圧力室内の圧力変化を示す説明図である。
【図6】インクの粘度に応じた圧力調整を行った場合と行わなかった場合とにおける圧力室内の圧力変化を示す説明図である。
【図7】吸引回復に必要な圧力を求める処理を説明するための説明図である。
【図8】本発明の一実施形態の変形例に係る吸引回復動作の処理手順の例を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る吸引回復動作の処理手順の例を示すフローチャートである。
【図10】図9の処理過程における圧力室内の圧力変化を示す説明図である。
【図11】吸引回復系の他の実施形態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0015】
(機械的構成)
図1は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一実施形態を示す模式図である。インクジェット記録装置(以下、プリンタとも言う)10は、画像データの供給源をなす外部装置であるパーソナルコンピュータ形態のホスト装置12に接続されている。プリンタ10には、記録媒体Pに対してフルカラー記録を行うべく、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)のインクを吐出するための記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yが搭載されている。これらの記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yは、記録媒体の幅の方向に、その幅に対応した範囲にわたってノズルを配列してなるラインヘッド形態のものである。なお、記録ヘッドの個数や、色調(色、濃度)の種類および吐出する液体の種類などはあくまでも例示であることは言うまでもない。以下においては、色を特定しない場合には、記録ヘッドを符号22で総括的に参照する。
【0016】
記録ヘッド22は、記録媒体Pの幅方向(媒体搬送方向Aに直交する方向)に所定密度で所定範囲にわたって配列されたインクの吐出口を有する。所定範囲とは、プリンタ10で印刷可能な記録媒体上の最大の有効記録幅(紙面に直交する方向の長さ)よりもやや長いものとする。記録ヘッド22は不図示の保持部により保持されるとともに、その保持部とともに鉛直方向(B方向)に昇降可能である。また、各記録ヘッド22に対応するキャップ50を有した回復ユニット40は水平方向(A方向)に移動可能に保持されている。
【0017】
保管状態もしくは印刷待機中など非印刷時には、記録ヘッド22の吐出口形成面22Sにキャップ50を施した状態とする。非印刷時に記録ヘッドの吐出口形成面が大気に曝されていると、吐出口付近のインクの溶剤が蒸発してインクの増粘・固化が生じたり、塵埃が付着したりして吐出不良が生じる恐れがあるからである。また、インクを吐出する記録ヘッドはその特性上、インク吐出状態を安定した状態に維持または回復させるための吐出回復処理を行うことが望ましく、キャッピング状態は回復ユニット40によるそのような回復処理を可能とする状態でもある。本実施形態の吐出回復処理には、後述するように、キャッピング状態においてキャップ内空間ないしはノズルに負圧を付与することで、インクを吐出口から吸引する吸引回復動作が含まれる。また、印刷前にキャップに向けて記録ヘッドに予備的な吐出動作を行わせる予備吐出動作を含むことができる。さらに、ゴム等の弾性部材でなるワイパーブレードで記録ヘッドの吐出口形成面をワイピングすることでクリーニングする動作も含むことができる。回復ユニット40は、これらの動作が行われるようにするための部分を有している。
【0018】
キャッピング状態から印刷動作に移行する場合には、保持部ないし記録ヘッド22を一旦上昇させてから回復ユニット40を左方に退避させ、さらに回復ユニット40のキャップ50間に設けた開口に各記録ヘッド22が対向するようにする。そして保持部ないし記録ヘッド22を下降させ、キャップ間の開口から記録ヘッド22を下方に突出させ、記録媒体Pと所定の間隙をもって対向する位置に設定する。そして、その位置で記録ヘッド22を固定する一方、記録媒体PをA方向に搬送し、その過程で記録ヘッド22にインク吐出動作を行わせることで、画像を記録する印刷動作が実行される。なお、印刷動作が終了し、非印刷時の状態に設定する場合は、逆の動作を行えばよい。
【0019】
ロール紙形態の記録媒体Pは供給ユニット24から供給され、プリンタ10に組み込まれた搬送機構26によって矢印A方向に搬送される。搬送機構26は、記録媒体Pを載置して搬送する搬送ベルト26a、この搬送ベルト26aを回転させる搬送モータ26b、搬送ベルト26aに張力を与えるローラ26cなどから構成されている。なお、記録媒体Pとしては、ロール紙の形態に限られることなく、適宜のものであってもよいことは勿論である。
【0020】
図1の構成において、記録媒体Pに画像を形成する際には、搬送中の記録媒体Pの記録開始位置がK用の記録ヘッド22Kの下に到達した後に、印刷データ(画像データ)に基づいて記録ヘッド22Kの吐出口からKインクを選択的に吐出する。同様に、記録ヘッド22C、記録ヘッド22M、記録ヘッド22Yの順に、各色のインクを吐出してカラー画像を記録媒体Pに形成する。
【0021】
プリンタ10には、以上の各部の他、記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yにそれぞれ供給される各色のインクを貯留するインクタンク28K、28C、28Mおよび28Y(以下、特定しない場合には、符号28で総括的に参照する)。また、インクを吐出口からキャップ内に強制排出させたりするためのポンプ機構なども配置される。
【0022】
(制御系の構成)
図2は、図1のインクジェット記録装置の制御系の構成例を示すブロック図である。ホスト装置12から送信された記録データやコマンドはインターフェイスコントローラ102を介してCPU100に受信される。CPU100は、プリンタ10の記録データの受信、記録動作、記録媒体Pのハンドリング等全般の制御を掌る演算処理装置である。CPU100では、受信したコマンドを解析した後に、印刷データの成分のイメージデータをイメージメモリ106にビットマップ展開し、さらにラスタ分割して各記録ヘッドで記録するデータを割り当てる。
【0023】
印刷前の処理動作としては、出力ポート114および駆動部116を介して、キャッピングモータ122とヘッドアップダウンモータ118とを駆動し、記録ヘッド22をキャップ50から離して記録位置(画像形成位置)に移動させる動作がある。続いて、出力ポート114および駆動部116を介してロールモータ(不図示)を駆動するとともに、搬送モータ26b等を駆動する。なお、キャッピングモータ122は回復ユニット40を水平方向に移動させるための駆動源を、ヘッドアップダウンモータ118は記録ヘッド22を昇降させるための駆動源をなすものである。また、ロールモータは記録媒体Pを供給するための駆動源を、搬送モータ26bは記録ヘッド22による記録位置に対して記録媒体Pを搬送するための駆動源をなすものである。
【0024】
一定速度で搬送される記録媒体Pにインクを吐出し始めるタイミングを決定するため、先端検知センサで記録媒体Pの先端位置を検出する。その後、記録媒体Pの搬送に同期して、CPU100はイメージメモリ106から対応する記録ヘッド22に送出するデータを順次に読み出し、記録ヘッド制御回路112介して、当該読み出したデータを各記録ヘッド22に転送する。
【0025】
プリンタ10には、所要の動作を行う前提となる状態検出を行うためにセンサ群130が設けられる。センサ群130には、上述した先端検知センサや、温度センサのほか、後述する圧力センサなどが含まれる。これらのセンサによる検知信号は、入力ポート132を介してCPU100に送信される。CPU100は、プログラムROM104に記憶された処理プログラムに基づいて各部を制御する。プログラムROM104には、図4について後述する処理手順等に対応した処理プログラムや、所要の固定データを格納するテーブルなどが記憶されている。また、ワークRAM108は、CPU100による処理の過程で作業用のメモリとして使用される。
【0026】
記録ヘッド22の吐出回復処理には、記録ヘッド22を回復ユニット40のキャップ50によってキャッピングした状態で行う吸引回復動作が含まれる。この場合、出力ポート114および駆動部116を介し、後述の吸引ポンプ201を駆動するための駆動源をなすポンプモータ124が駆動される。また、同じく後述する開閉弁を含んだアクチュエータ部126が駆動される。
【0027】
(インク系の構成)
図3は、本実施形態のインクジェット記録装置における各色インク系の構成を説明するための模式図である。各色の記録ヘッド22は各色のインクタンク28とチューブ209を介して接続されている。インクタンク28は大気と連通しており、記録ヘッド22のノズルにはインクタンクの液面とノズル位置との水頭差に対応した負圧が作用している。この負圧により、ノズルにはメニスカスが形成されている。また、記録ヘッド22とインクタンク28を接続するチューブ209にはインク温度検知センサ207が取付けられ、記録ヘッド22に流入するインクの温度を検知している。なお、このインク温度検知センサ207は、記録ヘッド22に流入するインクの温度をできるだけ正確に検知できるよう、記録ヘッド22にできるだけ近い場所に設置されることが好ましい。
【0028】
図3は、記録ヘッド22に対してキャップ50を接合させた状態を示しており、この状態において吐出口形成面22Sは実質的に密閉される。キャップ50は、接続路(吸引路)205を介して吸引ポンプ201と接続されている。吸引ポンプ201としては適宜の形態のものを採用することができ、本実施形態においてはチューブポンプ形態のものを用いている。これは、吸引路205の少なくとも一部を可撓性チューブで形成し、これを沿わせて保持する曲面が形成された部材と、これに向けて可撓性チューブを押圧可能なローラと、このローラを支持して回転可能なローラ支持部とを有するものとすることができる。すなわち、ローラ支持部を所定方向に回転させることで、ローラは曲面形成部材上で可撓性チューブを押しつぶしながら転動する。チューブポンプで構成された吸引ポンプ201は、駆動停止状態では流路を遮断することができる。
【0029】
また、キャップ50と吸引ポンプ201との間の吸引路205には回復弁203が設けられ、吸引路の遮断/開放ができる構成となっている。さらに、吸引路205には所定容量(キャップ50が画成する空間の容量と吸引路の容量との和に対して十分大きい容量)を持つ圧力室202が設けられ、吸引ポンプ201を駆動することで必要な減圧状態を得る(負圧を溜める)ことができるようになっている。圧力室202には圧力センサ206が取付けられており、圧力室202の圧力を検知できる。吸引ポンプ201の先には廃インクタンク204が設けられ、吸引回復動作に伴って発生した廃インクを貯留可能である。
【0030】
(吸引回復動作の制御手順)
図4は、本実施形態に係る吸引回復動作の処理手順の例を示すフローチャート、図5は、当該処理過程における圧力センサの検出値、すなわち圧力室内の圧力変化を示すグラフであり、これらの図を用いて本実施形態の吸引回復動作を説明する。図4の手順は、適宜のタイミングで起動される。この実施形態においては、記録ヘッド22に対する前回の吸引回復動作後からの記録ヘッド22のインクの累積吐出数をカウントし、そのカウント値がある値に達した段階で起動する。通常インクジェット記録装置は、記録ヘッド22のインクの累積吐出数が所定の値に達すると吸引回復動作を行うようにされている。そこで、本実施形態では、累積吐出数がその所定値に達する直前のある値(第2の所定値)に達したときに吸引回復動作を指令して図4の手順を起動することで、実際に吸引回復動作を行う前に予め圧力室202内を所定負圧に減圧する動作を行うようにする。
【0031】
図4の手順が起動されると、圧力室202内の圧力が予め設定された所定負圧となっているか否かを圧力センサ206の検出値に基づいて判定する。ここで否定判定された場合には、当該所定負圧となるまでポンプ201を駆動する(ステップS1、S3)。なお、これらの処理は、回復弁203が閉じられていることを前提とする。また、所定負圧としては、インクの粘度から想定される回復に必要な最大負圧より大きな負圧に設定する。回復に必要な最大負圧とは、インク粘度が装置の使用環境範囲内で一番低温時の状態において、インクに吸引力を作用させて所定の流速を確保することができる負圧のことである。これは次の理由による。装置の使用環境範囲によってインクの粘度は変化し、装置の使用環境範囲内で一番低温の状態においてインクの粘度は一番高くなる。従って、インクの粘度が高くなるとインクは動きにくくなり、インクに大きな吸引力を作用させないと必要な流速を確保することができないからである。また、インクに所定以上の流速を与えて吸引することによって、増粘したインクや塵埃を効果的に除去できるからである。
【0032】
回復に必要な圧力は図7に示す関係から求められる。図7に示す各々のインクX、Y、Zはそれぞれ粘度特性ηを持ちノズルから吸引される流量Qと、吸引に必要な圧力Pはインク毎に異なる。インクXは粘度特性が高く、圧力Pを上げても流量Qの増加が少ない。また、インクZは粘度特性ηが低い為圧力Pを上げると共に流量Qが増加する。ここでインクXは吸引圧力Px、インクYは吸引圧力Py、インクZは吸引圧力Pzが吸引に必要な圧力である。インク粘度特性は、例えば色によっても多少の違いはあり、染料と顔料の違いによっても異なる。さらに言えば水性や油性のインクでも異なるため、それらのインクを用いる場合には粘度特性の違いによる圧力設定は特に重要となる。すなわち、インクの粘度特性と環境温度による粘度変化によって流量は変化するため、予め各々のインクに適した吸引圧力をこれらのデータをテーブルとしてプログラムROM104に持たせておき、必要流量を吸引するための圧力が決定される。また後述するように温度検知207で求められた温度とインクの粘度の関係を示すテーブルを元に圧力を決定するデータをさらにテーブルに加えてもよい。
【0033】
圧力室202内の圧力が予め設定された所定負圧となっていることが確認できると、インク温度検知センサ207の検出値を読み込む。そして、インクの温度ないし粘度に対応して予め設定されたテーブルに基づいて、そのときに記録ヘッド22に付与する最適な負圧を算出する(ステップS5)。最適な負圧とは、インクに圧力を加えたときに、インクの粘度に応じてその粘度のインクが所定の流速で流れるときの圧力である。よって、インク温度検知センサ207によりインクの温度を読み、その値からインク粘度を算出し、インク粘度に応じた最適な負圧を記録ヘッド22に付与できるよう、圧力室202内を調整する(ステップS7)。この調整は、例えば吐出口形成面22Sが既にキャップ50により密閉状態とされているのであれば、記録ヘッド22を上方に退避させて密閉状態を解除するとともに回復弁203を開放し、キャップ50の開口部から空気を取り込むことによって行うことができる。そして、圧力センサ206の検出値に基づき、最適の負圧に調整されたところで回復弁203を密閉する。次に記録ヘッド22Kを下方に移動させることによってキャップ50により記録ヘッド22Kの吐出口を密閉する。なお、かかる調整は、上記以外にも、吸引ポンプ201を逆転させて圧力室202内に廃インクタンク204側の開放部から空気を取り込むことで行うこともできる。また、図3に示したように、キャップ50に大気開放弁208を設け、これを適宜開閉することで調整を行うこともできる。
【0034】
調整後には、回復弁203を開放することによって圧力室202内の負圧を記録ヘッド22のノズルに付与する(ステップS9)。このとき、キャップ内容積および吸引路容量の分、圧力が作用する体積が増加するが、キャップ内容積および吸引路容量の和に対して圧力室202の内容積が十分に大きければ、圧力の損失は最小限に抑えられる。また、圧力が作用する体積の増加による圧力損失を予め考慮して、最適な負圧への調整値を設定しておくようにしてもよい。
【0035】
そして、ノズルに負圧を付与する時間を所定時間継続して必要な量の吸引を完了すると、記録ヘッド22を上方に退避させてキャップ50、吸引路205および圧力室202の内部を大気開放し吸引動作を終了する(ステップS11)。これらを大気開放する方法としては、そのほか、キャップ50に設けた大気開放弁208を開放することによって実現するものでもよい。
【0036】
次に、当該大気開放を行ったままの状態で吸引ポンプ201を駆動し、キャップ50、吸引路205および圧力室202の内部に排出されたインクを廃液タンク204に移送させる(ステップS13)。さらに、記録ヘッド22を下方に移動させることによってキャップ50により記録ヘッド22の吐出口形成面22Sを密閉し、吸引回復を終了する(ステップS15)。
【0037】
以上のように、本実施形態によれば、実際の吸引回復に先立って予め圧力室202内を所定負圧状態に調整しておくことによって、吸引回復動作に要する時間を短縮することができる。また、圧力室202の内部の圧力調整を行った場合と行わなかった場合とを示す図6から明らかなように、インクの粘度に応じた最適な負圧を記録ヘッド22のノズルに付与することによって、廃インク量を削減することが可能となる。さらに、負圧をインクの粘度に応じた所定の調整値に調整してノズルに付与する本実施形態の方法は、ノズルに負圧を付与する時間が短く、負圧付与時間を詳細に調整することが難しいノズル近傍のインクのみを吸引するような吸引回復に特に有効である。
【0038】
なお、圧力室202の圧力を予め所定負圧に減圧する動作タイミングは、上述のように記録ヘッド22のインクの累積吐出数が吸引回復動作を行うべき所定値に達する直前の第2の所定値に達したとき、すなわち記録動作中とするほか、適宜定め得るものである。例えば、装置の記録待機中において圧力室202の圧力を適時検出し、その検出値に応じて減圧動作を行うようにすることができる。あるいは、上記処理手順の一連の動作終了後に減圧動作を行うようにすることもできる。これらによれば、圧力室202の圧力が常に所定負圧に保たれることになるので、累積吐出数の管理に基づく吸引回復のほか、不定期の吸引回復指令(例えばユーザの指示に応じて突発的に起動されるに吸引回復指令)等にも対応が可能となる。
【0039】
また、本実施形態では、ステップS3の処理において圧力室に貯める所定の負圧を、インクの粘度から想定される回復に必要な最大負圧より大きな負圧としたが、これに限られるものではない。
【0040】
図8は本実施形態の変形例に係る吸引回復動作の処理手順の例を示すフローチャートである。本手順では、ステップS3の処理において圧力室に貯める所定の負圧を上記よりも小さな負圧、例えば想定される最大負圧と最小負圧との中間の値としている。そして、ステップS5の処理後に、その所定負圧とインクの温度ないし粘度に対応した最適な負圧とを比較し(ステップS6)、前者の方が大であれば上記ステップS7の処理(負圧の緩和)を実施する。一方、前者の方が小であれば、圧力室内の負圧を増大させる(ステップS8)。これらの処理によって圧力室内の負圧を最適な負圧に調整した後に、回復弁203を開放することによって圧力室202内の負圧を記録ヘッド22のノズルに付与する処理(ステップS9)に移行する。
【0041】
かかる変形例によっても上記と同様の効果を得ることができる。また、ステップS3の処理において圧力室に貯める所定負圧を、インクの粘度から想定される回復に必要な最大負圧より大きな負圧より小としておくことで、その処理時間を短縮することができる。なお、所定負圧が上記最適な負圧より小さい場合でも、圧力室内は予めある程度の負圧状態となっているので、負圧を増大させるステップS8の処理に要する時間は短くてすむ。
【0042】
(第2の実施形態)
上述の実施形態においては、吸引回復に先立って予め圧力室202内を所定負圧状態に設定し、さらにその所定負圧をインクの粘度に応じた最適な負圧に調整してノズルに付与するものとした。しかしインクの粘度に応じた所定の調整値に調整するのではなく、ノズルに負圧を付与する時間をインクの粘度に応じて変化させることによっても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0043】
図9は、本発明の第2の実施形態に係る吸引回復動作の処理手順の例を示すフローチャート、図10は、当該処理過程における圧力センサの検出値を示すグラフであり、これらの図を用いて本実施形態の吸引回復動作を説明する。なお、図9において、図4における処理ステップと同様のものには同じ参照符号を付してある。
【0044】
本実施形態においては、圧力センサ206の検出値に基づき圧力室202内が所定負圧状態となっていることが確認できた場合(ステップS3)、インク温度検知センサ207の値を読み込む。そして、インクの温度ないし粘度に対応して予め設定されたテーブルに基づいて、記録ヘッド22に所定負圧を付与する時間を算出する(ステップS15)。ここで、インクの粘度によって記録ヘッド22の回復動作に必要な流量を発生させる負圧(最適負圧)は異なり、インク粘度が高い場合には大きな負圧が必要になり、逆にインク粘度が低い場合には小さな負圧で十分である。そこで、図10に示すように、記録ヘッド22から吸引される吸引量を常に一定に保つべく、すなわち必要最小限の吸引を行い、無駄な廃インクを生じさせないようにするべく、インクの粘度に応じて吸引時間を変化させるようにする。つまり、記録ヘッド22に所定負圧を付与する時間が、インクの粘度が高い場合には、低い場合と比較して長くなるようにするのである。そして、上記算出時間だけ回復弁203を開放し、圧力室202内の負圧を記録ヘッド22のノズルに付与する(ステップS19)。
【0045】
なお、キャップ内容積および吸引路容量の分、圧力が作用する体積が増加することで生じる圧力損失には、上記実施形態と同様にすることで対処可能である。また、吸引動作以降は上記実施形態と同様の処理が行われる。そして、本実施形態によっても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0046】
(その他)
以上の2つの実施形態においては、1つの記録ヘッド22に対して回復弁203、圧力室202、吸引ポンプ201および廃インククタンク204を含む吸引回復系を設けた構成について説明した。しかし図1のように、複数の記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置においては、2以上の記録ヘッドに対して共通した吸引回復系を設けるようにしてもよい。図11はその構成例を示し、Cインク用の記録ヘッド22CおよびKインク用の記録ヘッド22Kに対して、回復弁203、圧力室202、吸引ポンプ201および廃インククタンク204を含む共通の吸引回復系を設けたものである。
【0047】
また、上例ではK、C、MおよびYのインクを吐出するための記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yを用いる構成について説明したが、記録ヘッドの個数や色調(色、濃度)の種類および吐出する液体の種類などは適宜定め得るものである。
【0048】
さらに、上例では所謂ラインプリンタ形態の印刷装置に本発明を適用した場合について説明した。しかし本発明は、記録媒体搬送方向に対して交差する方向に記録ヘッドを移動させ、その過程でインク吐出を行うことにより記録を行う所謂シリアルプリンタ形態の記録装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0049】
22、22K、22C、22M、22Y 記録ヘッド
50 キャップ
201 吸引ポンプ
202 圧力室
203 回復弁
204 廃インクタンク
205 吸引路
206 圧力センサ
207 インク温度検知センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体上にインクを吐出する記録ヘッドを用いて画像記録を行うインクジェット記録装置に関し、特に記録ヘッドのインク吐出状態を良好な状態に維持または回復するための回復処理の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、液体であるインクを媒介として画像形成を行うシステムであるため、インクを吐出する記録ヘッドのインク吐出状態を良好な状態に維持または回復するための回復処理技術が非常に重要な要素となっている。
【0003】
回復処理を必要とする理由としては次のようなものが挙げられる。記録ヘッドには、記録の高速化や高解像化の目的で複数のノズル(以下、特にことわらない限り、吐出口、これに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギを発生するための素子を総称して言う)が配列されるのが一般的である。しかし、記録すべき画像データによっては、記録中にインク吐出に用いられないノズルが生じることがある。そのようなノズルでは、吐出口からのインク溶剤の蒸発が生じて吐出口ないし液路内のインク粘度が増加したり、外部から吐出口ないし液路内に塵埃が侵入したりすることがある。これらは、記録の待機中においてはすべてのノズルにおいて生じ得る問題でもある。すると、その後にノズルを使用するに際して、通常のインク吐出用のエネルギが付与されても安定したインク吐出が行えなくなり、吐出不良が生じることがある。また、各液路や、複数の液路に共通に連通する共通液室などの部分に泡が存在すると、吐出口や記録ヘッドを構成する材質の内部を透過してきたガスが泡に取り込まれ成長したり、記録時の昇温により泡が膨張したりすることがある。これらによってインク供給源からのインク供給が阻害され、結果としてインク吐出不良が生じる。
【0004】
これらの問題を解決する回復処理技術としては、吸引回復処理と称されるものがある。これは、記録ヘッドのインク吐出口形成面上に密閉空間を形成するキャップ部材を接合させ、ポンプを用いて密閉空間に周囲圧力未満の圧力(負圧)を作用させて吐出口よりインクを吸引することにより、吐出口内方のインクを強制排出させる処理である。
【0005】
特許文献1には、強い負圧ないしは吸引力を瞬時に作用させ、インクを吐出口から効率良く強制的に排出するために、キャップ部材とポンプとを接続する吸引経路に圧力室およびバルブを配設してなる吸引回復処理系の構成が開示されている。そして、吸引回復時にまずバルブを閉じてポンプを駆動させることにより圧力室の負圧を強く(絶対圧を低く)しておき、所望の負圧が得られたところでポンプを停止し、バルブを開放することでノズルに負圧を付与するようにしている。そして、この吸引回復処理によれば、必要な圧力をノズルに瞬時に付与することができるため、廃インク量を削減することが可能となるとされている。
【0006】
しかしながら、最近では記録の一層の高速化が要望されており、そのため記録ヘッドとしてはより多数のノズルが配列されるようになってきている。すなわち、このようにノズルの数を配列方向に増大させる(記録ヘッドを長尺ないし大型化する)ことで、より広い記録幅を確保するのである。また、記録のカラー化の要望に伴い、一色調に対応した単一の記録ヘッドだけでなく、複数色調(色,濃度)に対応して複数の記録ヘッドを用いる構成のインクジェット記録装置も一般的なものとなっている。
【0007】
しかしそのような長尺ヘッドや複数の記録ヘッドに対し、上記吸引回復処理を単一のポンプで行う場合には、キャップ内容積や、バルブからキャップまでの吸引路体積が増加する。このため、高い吸引力をノズルに加えるには圧力室の容積をさらに大きくする必要がある。圧力室に貯めた負圧は、バルブを開くことにより圧力の作用する体積が増大するために小さくなってしまうからである。しかし、圧力室の容積を大きくすると、圧力室を所定の負圧にまで減圧するのに要する時間が長くなる。この時間を短縮するためには、能力の高いポンプを採用することが考えられるが、これは装置の大規模化をもたらすために好ましいことではない。また、ノズルに作用させる所要の負圧を確保するために、圧力室に貯める負圧を増すことも考えられるが、圧力室の容積を大きくするのと同様に圧力室の減圧に非常に多くの時間を要する。さらに、インクの状態(特に粘度)は環境条件(特に温度)によって変化する。従って、インクの様々な状態に対応するために高い吸引力をノズルに付与するようにした場合には、環境条件によっては過剰な吸引力が作用することで、吸引の結果として生じる廃インクの量が増大することにもつながっていた。
【0008】
これらは、記録ヘッドが長尺化するほど、または記録ヘッド数が増大するほど大きな問題となる。また、記録媒体の幅の方向に、その幅に対応した範囲にわたってノズルを配列してなるライン状記録ヘッドを用いて記録を行う所謂ラインプリンタ形態のインクジェット記録装置においては一層顕著な問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−200777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって本発明は、ポンプの大型化や圧力室の減圧時間の増大、さらには廃インク量の増大を来たすことなく、小型にして効率の高い吸引回復処理を行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのために、本発明インクジェット記録装置は、インクを吐出する吐出口が設けられた記録ヘッドの面を密閉するキャップと、
該キャップに接続されて吸引力を発生するポンプと、
前記キャップと前記ポンプとの接続路に設けられ、前記ポンプの駆動に伴って減圧される圧力室と、
該圧力室と前記キャップとの接続路に設けられてその開閉を行う弁と、
該弁を閉じた状態で前記ポンプを駆動することにより前記圧力室を減圧して負圧状態とした後、前記圧力室の減圧された圧力によって前記キャップにより前記面を密閉した状態で前記弁を開くことで前記吐出口に負圧を付与することで前記インクを排出させる処理を行う制御手段と、
を具え、該制御手段は、前記圧力室内の圧力を所定の負圧になるように前記ポンプを駆動する処理を、前記インクを排出させる処理に先立つ記録動作中または記録待機中のタイミングで行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、吸引回復処理に先立ち予め圧力室内を減圧しておくことで、ポンプの大型化や圧力室の減圧時間の増大、さらには廃インク量の増大を来たすことなく、小型にして効率の高い吸引回復処理を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
【図3】図1のインクジェット記録装置における吸引回復系の構成例を説明するための模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る吸引回復動作の処理手順の例を示すフローチャートである。
【図5】図4の処理過程における圧力室内の圧力変化を示す説明図である。
【図6】インクの粘度に応じた圧力調整を行った場合と行わなかった場合とにおける圧力室内の圧力変化を示す説明図である。
【図7】吸引回復に必要な圧力を求める処理を説明するための説明図である。
【図8】本発明の一実施形態の変形例に係る吸引回復動作の処理手順の例を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る吸引回復動作の処理手順の例を示すフローチャートである。
【図10】図9の処理過程における圧力室内の圧力変化を示す説明図である。
【図11】吸引回復系の他の実施形態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0015】
(機械的構成)
図1は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の一実施形態を示す模式図である。インクジェット記録装置(以下、プリンタとも言う)10は、画像データの供給源をなす外部装置であるパーソナルコンピュータ形態のホスト装置12に接続されている。プリンタ10には、記録媒体Pに対してフルカラー記録を行うべく、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)のインクを吐出するための記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yが搭載されている。これらの記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yは、記録媒体の幅の方向に、その幅に対応した範囲にわたってノズルを配列してなるラインヘッド形態のものである。なお、記録ヘッドの個数や、色調(色、濃度)の種類および吐出する液体の種類などはあくまでも例示であることは言うまでもない。以下においては、色を特定しない場合には、記録ヘッドを符号22で総括的に参照する。
【0016】
記録ヘッド22は、記録媒体Pの幅方向(媒体搬送方向Aに直交する方向)に所定密度で所定範囲にわたって配列されたインクの吐出口を有する。所定範囲とは、プリンタ10で印刷可能な記録媒体上の最大の有効記録幅(紙面に直交する方向の長さ)よりもやや長いものとする。記録ヘッド22は不図示の保持部により保持されるとともに、その保持部とともに鉛直方向(B方向)に昇降可能である。また、各記録ヘッド22に対応するキャップ50を有した回復ユニット40は水平方向(A方向)に移動可能に保持されている。
【0017】
保管状態もしくは印刷待機中など非印刷時には、記録ヘッド22の吐出口形成面22Sにキャップ50を施した状態とする。非印刷時に記録ヘッドの吐出口形成面が大気に曝されていると、吐出口付近のインクの溶剤が蒸発してインクの増粘・固化が生じたり、塵埃が付着したりして吐出不良が生じる恐れがあるからである。また、インクを吐出する記録ヘッドはその特性上、インク吐出状態を安定した状態に維持または回復させるための吐出回復処理を行うことが望ましく、キャッピング状態は回復ユニット40によるそのような回復処理を可能とする状態でもある。本実施形態の吐出回復処理には、後述するように、キャッピング状態においてキャップ内空間ないしはノズルに負圧を付与することで、インクを吐出口から吸引する吸引回復動作が含まれる。また、印刷前にキャップに向けて記録ヘッドに予備的な吐出動作を行わせる予備吐出動作を含むことができる。さらに、ゴム等の弾性部材でなるワイパーブレードで記録ヘッドの吐出口形成面をワイピングすることでクリーニングする動作も含むことができる。回復ユニット40は、これらの動作が行われるようにするための部分を有している。
【0018】
キャッピング状態から印刷動作に移行する場合には、保持部ないし記録ヘッド22を一旦上昇させてから回復ユニット40を左方に退避させ、さらに回復ユニット40のキャップ50間に設けた開口に各記録ヘッド22が対向するようにする。そして保持部ないし記録ヘッド22を下降させ、キャップ間の開口から記録ヘッド22を下方に突出させ、記録媒体Pと所定の間隙をもって対向する位置に設定する。そして、その位置で記録ヘッド22を固定する一方、記録媒体PをA方向に搬送し、その過程で記録ヘッド22にインク吐出動作を行わせることで、画像を記録する印刷動作が実行される。なお、印刷動作が終了し、非印刷時の状態に設定する場合は、逆の動作を行えばよい。
【0019】
ロール紙形態の記録媒体Pは供給ユニット24から供給され、プリンタ10に組み込まれた搬送機構26によって矢印A方向に搬送される。搬送機構26は、記録媒体Pを載置して搬送する搬送ベルト26a、この搬送ベルト26aを回転させる搬送モータ26b、搬送ベルト26aに張力を与えるローラ26cなどから構成されている。なお、記録媒体Pとしては、ロール紙の形態に限られることなく、適宜のものであってもよいことは勿論である。
【0020】
図1の構成において、記録媒体Pに画像を形成する際には、搬送中の記録媒体Pの記録開始位置がK用の記録ヘッド22Kの下に到達した後に、印刷データ(画像データ)に基づいて記録ヘッド22Kの吐出口からKインクを選択的に吐出する。同様に、記録ヘッド22C、記録ヘッド22M、記録ヘッド22Yの順に、各色のインクを吐出してカラー画像を記録媒体Pに形成する。
【0021】
プリンタ10には、以上の各部の他、記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yにそれぞれ供給される各色のインクを貯留するインクタンク28K、28C、28Mおよび28Y(以下、特定しない場合には、符号28で総括的に参照する)。また、インクを吐出口からキャップ内に強制排出させたりするためのポンプ機構なども配置される。
【0022】
(制御系の構成)
図2は、図1のインクジェット記録装置の制御系の構成例を示すブロック図である。ホスト装置12から送信された記録データやコマンドはインターフェイスコントローラ102を介してCPU100に受信される。CPU100は、プリンタ10の記録データの受信、記録動作、記録媒体Pのハンドリング等全般の制御を掌る演算処理装置である。CPU100では、受信したコマンドを解析した後に、印刷データの成分のイメージデータをイメージメモリ106にビットマップ展開し、さらにラスタ分割して各記録ヘッドで記録するデータを割り当てる。
【0023】
印刷前の処理動作としては、出力ポート114および駆動部116を介して、キャッピングモータ122とヘッドアップダウンモータ118とを駆動し、記録ヘッド22をキャップ50から離して記録位置(画像形成位置)に移動させる動作がある。続いて、出力ポート114および駆動部116を介してロールモータ(不図示)を駆動するとともに、搬送モータ26b等を駆動する。なお、キャッピングモータ122は回復ユニット40を水平方向に移動させるための駆動源を、ヘッドアップダウンモータ118は記録ヘッド22を昇降させるための駆動源をなすものである。また、ロールモータは記録媒体Pを供給するための駆動源を、搬送モータ26bは記録ヘッド22による記録位置に対して記録媒体Pを搬送するための駆動源をなすものである。
【0024】
一定速度で搬送される記録媒体Pにインクを吐出し始めるタイミングを決定するため、先端検知センサで記録媒体Pの先端位置を検出する。その後、記録媒体Pの搬送に同期して、CPU100はイメージメモリ106から対応する記録ヘッド22に送出するデータを順次に読み出し、記録ヘッド制御回路112介して、当該読み出したデータを各記録ヘッド22に転送する。
【0025】
プリンタ10には、所要の動作を行う前提となる状態検出を行うためにセンサ群130が設けられる。センサ群130には、上述した先端検知センサや、温度センサのほか、後述する圧力センサなどが含まれる。これらのセンサによる検知信号は、入力ポート132を介してCPU100に送信される。CPU100は、プログラムROM104に記憶された処理プログラムに基づいて各部を制御する。プログラムROM104には、図4について後述する処理手順等に対応した処理プログラムや、所要の固定データを格納するテーブルなどが記憶されている。また、ワークRAM108は、CPU100による処理の過程で作業用のメモリとして使用される。
【0026】
記録ヘッド22の吐出回復処理には、記録ヘッド22を回復ユニット40のキャップ50によってキャッピングした状態で行う吸引回復動作が含まれる。この場合、出力ポート114および駆動部116を介し、後述の吸引ポンプ201を駆動するための駆動源をなすポンプモータ124が駆動される。また、同じく後述する開閉弁を含んだアクチュエータ部126が駆動される。
【0027】
(インク系の構成)
図3は、本実施形態のインクジェット記録装置における各色インク系の構成を説明するための模式図である。各色の記録ヘッド22は各色のインクタンク28とチューブ209を介して接続されている。インクタンク28は大気と連通しており、記録ヘッド22のノズルにはインクタンクの液面とノズル位置との水頭差に対応した負圧が作用している。この負圧により、ノズルにはメニスカスが形成されている。また、記録ヘッド22とインクタンク28を接続するチューブ209にはインク温度検知センサ207が取付けられ、記録ヘッド22に流入するインクの温度を検知している。なお、このインク温度検知センサ207は、記録ヘッド22に流入するインクの温度をできるだけ正確に検知できるよう、記録ヘッド22にできるだけ近い場所に設置されることが好ましい。
【0028】
図3は、記録ヘッド22に対してキャップ50を接合させた状態を示しており、この状態において吐出口形成面22Sは実質的に密閉される。キャップ50は、接続路(吸引路)205を介して吸引ポンプ201と接続されている。吸引ポンプ201としては適宜の形態のものを採用することができ、本実施形態においてはチューブポンプ形態のものを用いている。これは、吸引路205の少なくとも一部を可撓性チューブで形成し、これを沿わせて保持する曲面が形成された部材と、これに向けて可撓性チューブを押圧可能なローラと、このローラを支持して回転可能なローラ支持部とを有するものとすることができる。すなわち、ローラ支持部を所定方向に回転させることで、ローラは曲面形成部材上で可撓性チューブを押しつぶしながら転動する。チューブポンプで構成された吸引ポンプ201は、駆動停止状態では流路を遮断することができる。
【0029】
また、キャップ50と吸引ポンプ201との間の吸引路205には回復弁203が設けられ、吸引路の遮断/開放ができる構成となっている。さらに、吸引路205には所定容量(キャップ50が画成する空間の容量と吸引路の容量との和に対して十分大きい容量)を持つ圧力室202が設けられ、吸引ポンプ201を駆動することで必要な減圧状態を得る(負圧を溜める)ことができるようになっている。圧力室202には圧力センサ206が取付けられており、圧力室202の圧力を検知できる。吸引ポンプ201の先には廃インクタンク204が設けられ、吸引回復動作に伴って発生した廃インクを貯留可能である。
【0030】
(吸引回復動作の制御手順)
図4は、本実施形態に係る吸引回復動作の処理手順の例を示すフローチャート、図5は、当該処理過程における圧力センサの検出値、すなわち圧力室内の圧力変化を示すグラフであり、これらの図を用いて本実施形態の吸引回復動作を説明する。図4の手順は、適宜のタイミングで起動される。この実施形態においては、記録ヘッド22に対する前回の吸引回復動作後からの記録ヘッド22のインクの累積吐出数をカウントし、そのカウント値がある値に達した段階で起動する。通常インクジェット記録装置は、記録ヘッド22のインクの累積吐出数が所定の値に達すると吸引回復動作を行うようにされている。そこで、本実施形態では、累積吐出数がその所定値に達する直前のある値(第2の所定値)に達したときに吸引回復動作を指令して図4の手順を起動することで、実際に吸引回復動作を行う前に予め圧力室202内を所定負圧に減圧する動作を行うようにする。
【0031】
図4の手順が起動されると、圧力室202内の圧力が予め設定された所定負圧となっているか否かを圧力センサ206の検出値に基づいて判定する。ここで否定判定された場合には、当該所定負圧となるまでポンプ201を駆動する(ステップS1、S3)。なお、これらの処理は、回復弁203が閉じられていることを前提とする。また、所定負圧としては、インクの粘度から想定される回復に必要な最大負圧より大きな負圧に設定する。回復に必要な最大負圧とは、インク粘度が装置の使用環境範囲内で一番低温時の状態において、インクに吸引力を作用させて所定の流速を確保することができる負圧のことである。これは次の理由による。装置の使用環境範囲によってインクの粘度は変化し、装置の使用環境範囲内で一番低温の状態においてインクの粘度は一番高くなる。従って、インクの粘度が高くなるとインクは動きにくくなり、インクに大きな吸引力を作用させないと必要な流速を確保することができないからである。また、インクに所定以上の流速を与えて吸引することによって、増粘したインクや塵埃を効果的に除去できるからである。
【0032】
回復に必要な圧力は図7に示す関係から求められる。図7に示す各々のインクX、Y、Zはそれぞれ粘度特性ηを持ちノズルから吸引される流量Qと、吸引に必要な圧力Pはインク毎に異なる。インクXは粘度特性が高く、圧力Pを上げても流量Qの増加が少ない。また、インクZは粘度特性ηが低い為圧力Pを上げると共に流量Qが増加する。ここでインクXは吸引圧力Px、インクYは吸引圧力Py、インクZは吸引圧力Pzが吸引に必要な圧力である。インク粘度特性は、例えば色によっても多少の違いはあり、染料と顔料の違いによっても異なる。さらに言えば水性や油性のインクでも異なるため、それらのインクを用いる場合には粘度特性の違いによる圧力設定は特に重要となる。すなわち、インクの粘度特性と環境温度による粘度変化によって流量は変化するため、予め各々のインクに適した吸引圧力をこれらのデータをテーブルとしてプログラムROM104に持たせておき、必要流量を吸引するための圧力が決定される。また後述するように温度検知207で求められた温度とインクの粘度の関係を示すテーブルを元に圧力を決定するデータをさらにテーブルに加えてもよい。
【0033】
圧力室202内の圧力が予め設定された所定負圧となっていることが確認できると、インク温度検知センサ207の検出値を読み込む。そして、インクの温度ないし粘度に対応して予め設定されたテーブルに基づいて、そのときに記録ヘッド22に付与する最適な負圧を算出する(ステップS5)。最適な負圧とは、インクに圧力を加えたときに、インクの粘度に応じてその粘度のインクが所定の流速で流れるときの圧力である。よって、インク温度検知センサ207によりインクの温度を読み、その値からインク粘度を算出し、インク粘度に応じた最適な負圧を記録ヘッド22に付与できるよう、圧力室202内を調整する(ステップS7)。この調整は、例えば吐出口形成面22Sが既にキャップ50により密閉状態とされているのであれば、記録ヘッド22を上方に退避させて密閉状態を解除するとともに回復弁203を開放し、キャップ50の開口部から空気を取り込むことによって行うことができる。そして、圧力センサ206の検出値に基づき、最適の負圧に調整されたところで回復弁203を密閉する。次に記録ヘッド22Kを下方に移動させることによってキャップ50により記録ヘッド22Kの吐出口を密閉する。なお、かかる調整は、上記以外にも、吸引ポンプ201を逆転させて圧力室202内に廃インクタンク204側の開放部から空気を取り込むことで行うこともできる。また、図3に示したように、キャップ50に大気開放弁208を設け、これを適宜開閉することで調整を行うこともできる。
【0034】
調整後には、回復弁203を開放することによって圧力室202内の負圧を記録ヘッド22のノズルに付与する(ステップS9)。このとき、キャップ内容積および吸引路容量の分、圧力が作用する体積が増加するが、キャップ内容積および吸引路容量の和に対して圧力室202の内容積が十分に大きければ、圧力の損失は最小限に抑えられる。また、圧力が作用する体積の増加による圧力損失を予め考慮して、最適な負圧への調整値を設定しておくようにしてもよい。
【0035】
そして、ノズルに負圧を付与する時間を所定時間継続して必要な量の吸引を完了すると、記録ヘッド22を上方に退避させてキャップ50、吸引路205および圧力室202の内部を大気開放し吸引動作を終了する(ステップS11)。これらを大気開放する方法としては、そのほか、キャップ50に設けた大気開放弁208を開放することによって実現するものでもよい。
【0036】
次に、当該大気開放を行ったままの状態で吸引ポンプ201を駆動し、キャップ50、吸引路205および圧力室202の内部に排出されたインクを廃液タンク204に移送させる(ステップS13)。さらに、記録ヘッド22を下方に移動させることによってキャップ50により記録ヘッド22の吐出口形成面22Sを密閉し、吸引回復を終了する(ステップS15)。
【0037】
以上のように、本実施形態によれば、実際の吸引回復に先立って予め圧力室202内を所定負圧状態に調整しておくことによって、吸引回復動作に要する時間を短縮することができる。また、圧力室202の内部の圧力調整を行った場合と行わなかった場合とを示す図6から明らかなように、インクの粘度に応じた最適な負圧を記録ヘッド22のノズルに付与することによって、廃インク量を削減することが可能となる。さらに、負圧をインクの粘度に応じた所定の調整値に調整してノズルに付与する本実施形態の方法は、ノズルに負圧を付与する時間が短く、負圧付与時間を詳細に調整することが難しいノズル近傍のインクのみを吸引するような吸引回復に特に有効である。
【0038】
なお、圧力室202の圧力を予め所定負圧に減圧する動作タイミングは、上述のように記録ヘッド22のインクの累積吐出数が吸引回復動作を行うべき所定値に達する直前の第2の所定値に達したとき、すなわち記録動作中とするほか、適宜定め得るものである。例えば、装置の記録待機中において圧力室202の圧力を適時検出し、その検出値に応じて減圧動作を行うようにすることができる。あるいは、上記処理手順の一連の動作終了後に減圧動作を行うようにすることもできる。これらによれば、圧力室202の圧力が常に所定負圧に保たれることになるので、累積吐出数の管理に基づく吸引回復のほか、不定期の吸引回復指令(例えばユーザの指示に応じて突発的に起動されるに吸引回復指令)等にも対応が可能となる。
【0039】
また、本実施形態では、ステップS3の処理において圧力室に貯める所定の負圧を、インクの粘度から想定される回復に必要な最大負圧より大きな負圧としたが、これに限られるものではない。
【0040】
図8は本実施形態の変形例に係る吸引回復動作の処理手順の例を示すフローチャートである。本手順では、ステップS3の処理において圧力室に貯める所定の負圧を上記よりも小さな負圧、例えば想定される最大負圧と最小負圧との中間の値としている。そして、ステップS5の処理後に、その所定負圧とインクの温度ないし粘度に対応した最適な負圧とを比較し(ステップS6)、前者の方が大であれば上記ステップS7の処理(負圧の緩和)を実施する。一方、前者の方が小であれば、圧力室内の負圧を増大させる(ステップS8)。これらの処理によって圧力室内の負圧を最適な負圧に調整した後に、回復弁203を開放することによって圧力室202内の負圧を記録ヘッド22のノズルに付与する処理(ステップS9)に移行する。
【0041】
かかる変形例によっても上記と同様の効果を得ることができる。また、ステップS3の処理において圧力室に貯める所定負圧を、インクの粘度から想定される回復に必要な最大負圧より大きな負圧より小としておくことで、その処理時間を短縮することができる。なお、所定負圧が上記最適な負圧より小さい場合でも、圧力室内は予めある程度の負圧状態となっているので、負圧を増大させるステップS8の処理に要する時間は短くてすむ。
【0042】
(第2の実施形態)
上述の実施形態においては、吸引回復に先立って予め圧力室202内を所定負圧状態に設定し、さらにその所定負圧をインクの粘度に応じた最適な負圧に調整してノズルに付与するものとした。しかしインクの粘度に応じた所定の調整値に調整するのではなく、ノズルに負圧を付与する時間をインクの粘度に応じて変化させることによっても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0043】
図9は、本発明の第2の実施形態に係る吸引回復動作の処理手順の例を示すフローチャート、図10は、当該処理過程における圧力センサの検出値を示すグラフであり、これらの図を用いて本実施形態の吸引回復動作を説明する。なお、図9において、図4における処理ステップと同様のものには同じ参照符号を付してある。
【0044】
本実施形態においては、圧力センサ206の検出値に基づき圧力室202内が所定負圧状態となっていることが確認できた場合(ステップS3)、インク温度検知センサ207の値を読み込む。そして、インクの温度ないし粘度に対応して予め設定されたテーブルに基づいて、記録ヘッド22に所定負圧を付与する時間を算出する(ステップS15)。ここで、インクの粘度によって記録ヘッド22の回復動作に必要な流量を発生させる負圧(最適負圧)は異なり、インク粘度が高い場合には大きな負圧が必要になり、逆にインク粘度が低い場合には小さな負圧で十分である。そこで、図10に示すように、記録ヘッド22から吸引される吸引量を常に一定に保つべく、すなわち必要最小限の吸引を行い、無駄な廃インクを生じさせないようにするべく、インクの粘度に応じて吸引時間を変化させるようにする。つまり、記録ヘッド22に所定負圧を付与する時間が、インクの粘度が高い場合には、低い場合と比較して長くなるようにするのである。そして、上記算出時間だけ回復弁203を開放し、圧力室202内の負圧を記録ヘッド22のノズルに付与する(ステップS19)。
【0045】
なお、キャップ内容積および吸引路容量の分、圧力が作用する体積が増加することで生じる圧力損失には、上記実施形態と同様にすることで対処可能である。また、吸引動作以降は上記実施形態と同様の処理が行われる。そして、本実施形態によっても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0046】
(その他)
以上の2つの実施形態においては、1つの記録ヘッド22に対して回復弁203、圧力室202、吸引ポンプ201および廃インククタンク204を含む吸引回復系を設けた構成について説明した。しかし図1のように、複数の記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置においては、2以上の記録ヘッドに対して共通した吸引回復系を設けるようにしてもよい。図11はその構成例を示し、Cインク用の記録ヘッド22CおよびKインク用の記録ヘッド22Kに対して、回復弁203、圧力室202、吸引ポンプ201および廃インククタンク204を含む共通の吸引回復系を設けたものである。
【0047】
また、上例ではK、C、MおよびYのインクを吐出するための記録ヘッド22K、22C、22Mおよび22Yを用いる構成について説明したが、記録ヘッドの個数や色調(色、濃度)の種類および吐出する液体の種類などは適宜定め得るものである。
【0048】
さらに、上例では所謂ラインプリンタ形態の印刷装置に本発明を適用した場合について説明した。しかし本発明は、記録媒体搬送方向に対して交差する方向に記録ヘッドを移動させ、その過程でインク吐出を行うことにより記録を行う所謂シリアルプリンタ形態の記録装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0049】
22、22K、22C、22M、22Y 記録ヘッド
50 キャップ
201 吸引ポンプ
202 圧力室
203 回復弁
204 廃インクタンク
205 吸引路
206 圧力センサ
207 インク温度検知センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する吐出口が設けられた記録ヘッドの面を密閉するキャップと、
該キャップに接続されて吸引力を発生するポンプと、
前記キャップと前記ポンプとの接続路に設けられ、前記ポンプの駆動に伴って減圧される圧力室と、
該圧力室と前記キャップとの接続路に設けられてその開閉を行う弁と、
該弁を閉じた状態で前記ポンプを駆動することにより前記圧力室を減圧して負圧状態とした後、前記圧力室の減圧された圧力によって前記キャップにより前記面を密閉した状態で前記弁を開くことで前記吐出口に負圧を付与することで前記インクを排出させる処理を行う制御手段と、
を具え、該制御手段は、前記圧力室内の圧力を所定の負圧になるように前記ポンプを駆動する処理を、前記インクを排出させる処理に先立つ記録動作中または記録待機中のタイミングで行うことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インクの温度を検出する温度センサをさらに具え、前記制御手段は、前記インクを排出させる処理に先立ち、前記温度センサにより検出された前記インクの温度に対応して前記圧力室内の圧力を所定の負圧に調整することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記インクの温度による粘度の変化を考慮して、前記吐出口に付与すべき最大負圧より大きな負圧状態となるよう前記圧力室を減圧するとともに、前記インクを排出させる処理に先立ち、前記温度センサにより検出された前記インクの温度に対応して、前記圧力室内の負圧を緩和する手段を有することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記インクの温度による粘度の変化を考慮して、前記吐出口に付与すべき最大負圧と最小負圧との中間の負圧状態となるよう前記圧力室を減圧するとともに、前記インクを排出させる処理に先立ち、前記温度センサにより検出された前記インクの温度に対応して、前記圧力室内の負圧を緩和または増大させる手段を有することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記インクの温度を検出する温度センサをさらに具え、前記制御手段は、前記温度センサにより検出された前記インクの温度に対応して、前記弁を開くことで前記吐出口に負圧を付与する時間を調整することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記インクの温度による粘度の変化を考慮して、前記吐出口に付与すべき最大負圧より大きな負圧状態となるよう前記圧力室を減圧することを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項1】
インクを吐出する吐出口が設けられた記録ヘッドの面を密閉するキャップと、
該キャップに接続されて吸引力を発生するポンプと、
前記キャップと前記ポンプとの接続路に設けられ、前記ポンプの駆動に伴って減圧される圧力室と、
該圧力室と前記キャップとの接続路に設けられてその開閉を行う弁と、
該弁を閉じた状態で前記ポンプを駆動することにより前記圧力室を減圧して負圧状態とした後、前記圧力室の減圧された圧力によって前記キャップにより前記面を密閉した状態で前記弁を開くことで前記吐出口に負圧を付与することで前記インクを排出させる処理を行う制御手段と、
を具え、該制御手段は、前記圧力室内の圧力を所定の負圧になるように前記ポンプを駆動する処理を、前記インクを排出させる処理に先立つ記録動作中または記録待機中のタイミングで行うことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インクの温度を検出する温度センサをさらに具え、前記制御手段は、前記インクを排出させる処理に先立ち、前記温度センサにより検出された前記インクの温度に対応して前記圧力室内の圧力を所定の負圧に調整することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記インクの温度による粘度の変化を考慮して、前記吐出口に付与すべき最大負圧より大きな負圧状態となるよう前記圧力室を減圧するとともに、前記インクを排出させる処理に先立ち、前記温度センサにより検出された前記インクの温度に対応して、前記圧力室内の負圧を緩和する手段を有することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記インクの温度による粘度の変化を考慮して、前記吐出口に付与すべき最大負圧と最小負圧との中間の負圧状態となるよう前記圧力室を減圧するとともに、前記インクを排出させる処理に先立ち、前記温度センサにより検出された前記インクの温度に対応して、前記圧力室内の負圧を緩和または増大させる手段を有することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記インクの温度を検出する温度センサをさらに具え、前記制御手段は、前記温度センサにより検出された前記インクの温度に対応して、前記弁を開くことで前記吐出口に負圧を付与する時間を調整することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記インクの温度による粘度の変化を考慮して、前記吐出口に付与すべき最大負圧より大きな負圧状態となるよう前記圧力室を減圧することを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−131491(P2011−131491A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292813(P2009−292813)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】
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