説明

インクジェット記録装置

【課題】廃インク回収性能を向上する。
【解決手段】本発明に係るインクジェット記録装置は、記録ヘッドから廃インクWとなるインクを吐出させて記録ヘッドの吐出状態を回復させる回復手段と、回復手段から排出された廃インクWを回収する回収手段23とを備える。回収手段23は、廃インクを吸収する吸収体21と、回復手段から排出された廃インクを受けて吸収体の最下部に流下させる傾斜面26とを備える。吸収体と傾斜面の接続部で廃インクが堆積しても、流動性の高いインクは堆積物Dを乗り超えて吸収体に吸収され、同時に堆積物Dを侵食する。これにより堆積物Dの成長を防ぎ、廃インクを長期に亘り効率的に回収できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体へ記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置が一定期間使用されない場合、記録ヘッドのインクを吐出する吐出口およびこれに連通するインク室内で、水分の蒸発により、インクが増粘し吐出不良となることがある。従来、この吐出不良を防止するため、予備吐出を行って増粘したインクを排出したり、吐出口からインクを強制的に吸引したりして、インク吐出状態を良好な状態に回復させている。この回復処理はインクジェット記録装置に設けられた回復装置によって行われる。回復装置に導かれたインク、すなわち廃インクは、吸収体に吸収され保持される。
【0003】
ところで近年、普通紙への記録における高画質化を達成するため、顔料インクが使用されることがある。顔料インクはその性質上、一般的な染料インクに比して固着しやすい。従って、回復処理時に廃インクを回収する吸収体においては、固着しやすいインクを効率的に吸収することが重要となっている。
【0004】
特許文献1には、廃インクを斜面に沿って流し、廃インク吸収体の上面部に落下させて、廃インクを吸収保持する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−130886号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された構成では、廃インク吸収体の上面部の廃インクが滴下する位置で、インクの増粘により形成された固着物が堆積する傾向にある。このため、廃インク吸収体の全体を有効に活用できない場合があった。
【0007】
そこで本発明は、かかる課題に鑑みて創案されたものであり、その一の目的は、廃インクを吸収する吸収体の全体を有効に活用して廃インク回収性能を向上することができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態によれば、記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体へ記録を行うインクジェット記録装置であって、前記記録ヘッドから廃インクとなるインクを吐出させて前記記録ヘッドの吐出状態を回復させる回復手段と、前記回復手段から排出された廃インクを回収する回収手段とを備え、前記回収手段が、前記廃インクを吸収する吸収体と、前記回復手段から排出された廃インクを受けて前記吸収体の最下部に流下させる傾斜面とを備えることを特徴とするインクジェット記録装置が提供される。
【0009】
これによれば、回復手段から排出された廃インクを傾斜面を流下させて吸収体の最下部に導くことができる。仮に吸収体と傾斜面の接続部で、増粘した廃インクが堆積しても、流動性の高いインクは堆積物を乗り超えて吸収体に接し、吸収される。また、流動性の高いインクは傾斜面で加速され、堆積物を侵食し、その再溶解を促進する。これにより堆積物の成長を防ぐことができる。このため、廃インクの堆積・成長を防ぎ、廃インクを効率的に回収することができる。そして吸収体の全体を有効に活用し、廃インク回収性能を向上することができる。
【0010】
好ましくは、前記傾斜面が、前記吸収体の縦の面の最下部に接続し、その縦の面との間に底部コーナーを形成する。この底部コーナーは、堆積物を溜めるための貯留部を形成する。
【0011】
好ましくは、前記傾斜面が、前記吸収体の側面部の最下部に接続する。
【0012】
好ましくは、前記傾斜面が、前記廃インクの流れ方向に沿った凹部を有する。これにより廃インクの流れに指向性を持たせ、堆積物浸食の効果を増長することが可能である。
【0013】
好ましくは、前記傾斜面のうち、前記廃インクを受ける部分がその下流側の部分より急勾配とされる。これにより廃インクの加速性を高め、堆積物浸食の効果を増長することが可能である。
【0014】
好ましくは、前記吸収体の中央部に開口部が設けられ、前記開口部が、前記吸収体からなる縦壁によって画成され、前記傾斜面が、前記開口部内に位置されて前記縦壁の最下部に接続する。廃インクを吸収体の中央部から吸収させ、廃インクを吸収体に効率よく回収することができるようになる。
【0015】
好ましくは、前記傾斜面が、インク非吸収性である。
【0016】
前記記録ヘッドから複数種のインクが吐出され、そのうちの少なくとも一つが顔料インクであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、廃インクを吸収する吸収体の全体を有効に活用して廃インク回収性能を向上することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係るインクジェット記録装置を示す斜視図である。
【図2】キャッピング手段を示す概略断面図である。
【図3】回収手段の第1実施例を示す縦断側面図である。
【図4】回収手段の第1実施例を示し、上段は縦断側面図、下段は平面図である。
【図5】傾斜板の変形例を示す縦断面図である。
【図6】回収手段の第2実施例を示す縦断側面図である。
【図7】回収手段の第2実施例を示す平面図である。
【図8】第2実施例の傾斜板の縦断面図である。
【図9】回収手段の第3実施例を示す縦断側面図であり、図10のIX−IX断面を示す。
【図10】回収手段の第3実施例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の斜視図であり、ケースカバーを取り除いた状態を示す。インクジェット記録装置1は、記録ヘッド3を搭載して移動するキャリッジ2と、キャリッジ2を走査方向(矢印Aで示す)に往復移動させるためのキャリッジモータM1及び伝動機構4とを備えている。また、記録紙等の記録媒体Pを供給する給紙機構5と、記録ヘッド3の回復処理を行うための回復装置10とを備えている。これらのインクジェット記録装置1の構成要素は装置本体のシャーシ30に取り付けられている。
【0021】
キャリッジ2に搭載された記録ヘッド3には、インクタンク(インクカートリッジ)6が着脱可能に装着されている。記録ヘッド3に対して、インクカートリッジ6内のインクが供給される。キャリッジ2に搭載された記録ヘッド3の吐出面(吐出口が配列された面)と対向する位置に、記録媒体Pを支持するためのプラテン(不図示)が配設されている。給紙機構5から給送された記録媒体Pは、搬送モータ(不図示)によって駆動される搬送ローラ31によって、記録部(プラテン上)を通して搬送される。この搬送方向ないし副走査方向は走査方向Aと垂直である。
【0022】
記録ヘッド3は、画像信号に基づいてインクを吐出することにより、記録媒体に画像を記録するものである。モータM1によって駆動されるキャリッジ2の往路側の移動に同期して、記録ヘッド3に画像信号に基づく駆動信号を与えることにより、記録媒体に1バンド分の画像を記録していく。1バンド分の記録が終了すると、記録媒体を1バンド分の幅だけ搬送して停止させる。再び、キャリッジを往路側または復路側に移動させ、次の1バンド分の記録を行う。このような記録動作と搬送動作を繰り返すことにより、記録媒体に画像を形成する。記録を終えた記録媒体Pは搬送ローラ31によって装置本体から排出される。
【0023】
記録ヘッド3はカラー記録用であり、キャリッジ2(又は記録ヘッド3)には複数種のインク、すなわちマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のそれぞれの色のインクを収容した4つのインクカートリッジ6が装着されている。これら4個のインクカートリッジはそれぞれ独立に着脱可能且つ交換可能である。図示しないが、記録媒体の上面に対向することとなる記録ヘッド3の底面には、インクを吐出する複数の吐出口の列、即ち吐出口列が、各色毎に計四つ設けられている。記録ヘッド3の底面のうち、これら吐出口列が存在する部分を吐出面という。
【0024】
ブラックインクには、高画質化が可能だが一般的な染料インクに比べて固着しやすい顔料インクが使用されている。他のカラーインクには染料インクが使用されている。
【0025】
記録ヘッド3は、記録信号(画像信号)に対応するパルス電圧を印加されることにより、複数の吐出口からインクを選択的に吐出することで記録していく。特に、本実施形態の記録ヘッド3は、パルス電圧を印加されることで、インクを吐出するための熱エネルギーを発生する電気熱変換体を備えたものである。この記録ヘッド3は、電気熱変換体によって印加される熱エネルギーにより生じる膜沸騰による気泡の成長、収縮によって生じる圧力変化を利用して吐出口よりインク滴を吐出するものである。この電気熱変換体は複数の吐出口のそれぞれに個別に設けられており、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することにより、電気熱変換体に対応する吐出口からインク滴が吐出される。
【0026】
キャリッジ2の移動範囲内であって記録領域外の所定位置(例えばキャリッジのホームポジション)には、記録ヘッド3のインク吐出状態を回復させるための回復手段(回復装置)10が配設されている。この回復手段10は、記録ヘッド3の吐出口を覆うための昇降可能なキャッピング手段(キャッピング装置)11と、記録ヘッド3の吐出面を拭き取り清掃するためのワイピング手段12(ワイピング装置)とを備える。また、キャッピング手段11のキャップに接続された吸引ポンプ等からなる吸引手段が設けられている。
【0027】
図2はキャッピング手段11の縦断面図であり、(A)はキャップ8が下降して記録ヘッド3の吐出面17から離間した状態を示し、(B)はキャップ8が上昇して記録ヘッド3の吐出面17の周囲に密着された状態を示す。また図3は、キャッピング手段11と、吸引手段としての吸引ポンプ20とを示す。
【0028】
キャップ8の内部には、インクを吸収し保持するためのインク吸収部材9が装填されている。このインク吸収部材9は多孔質材料やスポンジ材料などで形成される。キャップ8には吸引チューブ7の一端が接続されている。吸引チューブ7の他端は吸引ポンプ20に接続されている。吸引ポンプ20には、吸引ポンプ20を通過したインクを排出するための排出管22が接続されている。これら吸引チューブ7、吸引ポンプ20および排出管22は鉛直方向に配列されている。排出管22から排出されたインクは、図3に示すような回収手段(回収装置)23によって回収される。
【0029】
本実施形態の吸引ポンプ20はチューブポンプで構成されている。チューブポンプは、弾性体からなる吸引チューブ7をローラでしごき、吸引チューブ7の復元力によりチューブ内に負圧を発生させるものである。なお、ピストン・シリンダ式ポンプなどの他の形式のポンプも使用可能である。
【0030】
吐出面17をキャッピングした状態で吸引ポンプ20を作動させ、キャップ8内に負圧を発生させることにより、各吐出口から廃インクとなるインクを強制的に吸引し、排出させることができる。これによって、記録ヘッド3の各吐出口およびインク流路内の増粘インクや気泡などの目詰まり要因を排出除去することができる。つまり、吸引ポンプ20によるインク吸引によって、記録ヘッド3の吸引回復が行われる。この吸引回復は、各吐出口内のインクをリフレッシュして吐出口の目詰まりを解消し、もって記録ヘッドのインク吐出性能を維持回復するものである。
【0031】
他方、各吐出口からキャップ8内に、記録に寄与しない廃インクを吐出する予備吐出を行って、回復処理が行われることもある。この予備吐出によりキャップ8内に放出された廃インクも、吸引ポンプ20によって吸引され、回収手段23へと送り込まれる。
【0032】
なお、記録動作を行わないときには、記録ヘッド3の吐出口を単にキャップ8でキャッピングしておくことにより、記録ヘッド3を保護するとともにインクの蒸発や乾燥を防止することができる。また、ワイピング手段12により、記録ヘッド3の吐出面17に付着したインクやほこり等を拭き取り除去することができる。以上により記録ヘッド3のインク吐出性能を正常状態に維持回復するための回復処理を適宜実行することができる。
【0033】
次に、回収手段23について説明する。図3および図4には回収手段23の第1実施例を示す。図4の(A)、(B)、(C)において、上段は図3と同様の縦断面図を示し、下段は平面図を示す。
【0034】
回収手段23は、容器24と、容器24に嵌め入れられた吸収体21とを備える。容器24および吸収体21は一方向(図の左右方向)に長い直方体形状とされる。但しこれらの形状は任意である。容器24は、上面部と、長手方向一端側(図示例では左端側)の側面部とが開放されており、これらの部位で吸収体21が露出されている。
【0035】
吸収体21は、インク(廃インク)を適度に保持する機能を備えた材料から形成され、限定されないが、例えばスポンジ等の多孔質材料やパルプを含む繊維状材料により形成される。或いは、高分子吸収体もしくは高分子吸収体を紙材にまぶした材料により形成されても良い。
【0036】
容器24は図示しない固定手段(ネジ等)により装置本体に取り付けられる。なお、容器24の三つの側面部24A,24B,24Cおよび底面部24Dのうち少なくとも一つを、装置本体と一体化してもよい。
【0037】
容器24の底面部24Dの左端縁から、傾斜板25が左斜め上に向かって直線的に延びている。傾斜板25は容器24の底面部24Dと一体化されているが、別体とされても構わない。傾斜板25の上面部によって傾斜面26が形成される。傾斜面26は、吸収体21の縦の面の最下部に接続し、特に本実施例の場合、吸収体21の左側面部21Aの最下部(特に下端縁部)に接続している。
【0038】
傾斜板25および傾斜面26は、インクを吸収しないインク非吸収性の材料、例えば樹脂によって形成されている。傾斜板25および傾斜面26は、その長手方向の上部が排出管22の出口の真下に位置され、排出管22から滴下した廃インクWを受け、この廃インクWを吸収体21の左側面部21Aの最下部に流下させる。傾斜面26上における廃インクWの排出位置ないし滴下位置を図4(A)下段に×印で示す。この排出位置は、傾斜面26の幅方向(長手方向と垂直な方向)の中心部に設定される。こうして傾斜面26上に排出された廃インクWは、傾斜面26に沿って降下し、吸収体21の最下部に案内されることとなる。
【0039】
傾斜面26はインク非吸収性であるのが好ましく、その材料は樹脂以外のものも可能である。傾斜面26は撥水性を有するとさらに好ましく、例えば金属等の傾斜板25の少なくとも上面にフッ素樹脂のコーティングを施すと、このような撥水性の傾斜面26を形成できる。
【0040】
このインクジェット記録装置における回復処理を説明する。記録ヘッドによる記録媒体への画像記録後、キャリッジ2がキャッピング手段11の上方に移動し、記録ヘッド3をキャッピングして待機状態に入る。次に記録する際には、回復処理を実施した後に記録を再開する。本記録装置では、待機状態の開始から次の記録開始までの経過時間に応じて回復処理を変更する。本記録装置では、経過時間が比較的短いとき、即ち所定時間未満のときは予備吐出を選択し、経過時間が比較的長いとき、即ち所定時間以上のときは吸引を選択する。所定時間は例えば360時間(=15日)である。
【0041】
予備吐出は、記録ヘッドの吐出口およびその周辺の増粘したインクを排出することが主であり、インクの使用量は少ない。これに対して吸引は、記録ヘッド内の大きな気泡を除去することが主であり、インクの使用量は多い。吸引は同時に吐出口とその周辺の増粘したインクをも排出させる。待機時間に大凡比例して、記録ヘッド内のインクが増粘し、また気泡も増大する。余分なインクの消費を避けるため、待機時間が短いときは回復処理として予備吐出を選択し、待機時間が長いときは吸引を選択するようにして、回復処理を最適化している。自ずと、予備吐出の頻度は吸引の頻度より高くなる。
【0042】
また、予備吐出では記録ヘッド内の気泡を除去できないため、前回の吸引処理から前記所定時間(360時間)以上経過しているときには、待機時間に拘わらず記録前に吸引を行う。
【0043】
また、インクタンク6内のインクを使いきり、新たなインクタンク6を取り付けた後の、初回記録時も吸引を行う。これはインクタンク6の取り付け時に記録ヘッド内に侵入した気泡を除去するためである。
【0044】
より分かり易い例で説明すると、本記録装置を毎月1度使用する第1の例の場合、記録前に毎回吸引が行われる。また、本記録装置を30日間毎日使用する第2の例の場合には次のようになる。すなわち、1日目から14日目までは記録前に予備吐出が行われ、15日目には吸引処理後360時間経過の吸引が行われる。16日目から29日目までは再び記録前に予備吐出が行われ、30日目には吸引が行われる。
【0045】
第1の例の使い方では、排出管22内は良好に保たれており、流動性の高いインクだけが排出管22から排出される。しかし、第2の例の使い方だと、排出管22内には14回分の予備吐出による増粘インクが溜まっており、その後1回の吸引で、溜まった増粘インクが大量のインクと混ざって排出管22から排出される。このとき、先端がどろりとした増粘インクが先に排出され、その後流動性の高いインクが排出される。このサイクルが2回繰り返される。
【0046】
インクタンクが空になりインクタンク交換を行った場合は、インクタンク交換後の吸引が行われる。印刷内容に応じてインクの使用量が変わるため、インクタンク交換直後の吸引を行う際の排出管22内の状態は、増粘インクが多い場合もあるし、少ないかほぼ無い場合もある。
【0047】
一方、顔料インクはインクの性質上、染料インクに比べて遙かに固着しやすい。よって顔料インクは排出管22内で増粘しやすい。実使用上ありうる厳しい状況として、顔料インクからなるブラックインクがほぼ毎日印字されるような場合を想定して、本実施形態の作用を以下に説明する。
【0048】
図4において、(A)は廃インクが吸収されてない状態を示し、この状態から(B)、(C)と向かうにつれ廃インク吸収量が次第に増加していく。
【0049】
前述したような、増粘インクと流動性の高いインクとの混合物が、増粘インクを先頭として排出管22から排出された場合、まず増粘インクが傾斜面26上をゆっくりと滑り落ちる。その後、排出された流動性の高いインクにより、傾斜面26上の増粘インクが洗い流され、いずれのインクも吸収体21と接するところまで下降する。流動性の高いインクは傾斜面26により加速されつつ流下するので、増粘インクを効果的に洗い流す。両インクが吸収体21に接すると、両インクの主に溶媒成分が吸収体21に吸収され、吸収されない残部は、傾斜面26と、吸収体21の左側面部21Aとの間に形成された底部コーナーに堆積する。この底部コーナーに堆積した堆積物をDで示す。底部コーナーは堆積物Dを溜めるための貯留部を形成する。
【0050】
次回吸引時も、増粘インクと流動性の高いインクとの混合物が排出管22から排出されたとする。前記同様、まず増粘インクが傾斜面26上をゆっくりと滑り落ち、次いで流動性の高いインクが増粘インクを洗い流す。流動性の高いインクは、傾斜面26により加速され、堆積物Dを再溶解或いは侵食しつつ吸収体21に到達する。吸収体21に到達すると、溶媒成分が吸収体21に吸収され、残部は再度堆積するようになる。これにより堆積物Dは増加する。
【0051】
一方、例えばインクタンク交換に伴って、吸引が実行され、流動性の高いインクのみが排出される場合には、流動性の高いインクは傾斜面26上を加速しつつ降下し、堆積物Dを再溶解・侵食しながら吸収体21に接する。溶媒成分が吸収体21に吸収される一方、堆積物Dの一部も再溶解されて吸収体21に吸収される。よってこの場合、堆積物Dが減少させられる。
【0052】
吸収体21に溶媒成分が吸収されるにつれ、吸収体21内では、図4の(B)、(C)に示すように、廃インクWの吸収領域が次第に左側から右側へと、また最下部から上部へと、延びていく。こうして吸収体21の全体を有効に活用し、廃インク回収性能を向上することが可能である。
【0053】
流動性の高いインクは、底部コーナーに堆積した堆積物Dの上を通って、すなわち乗り越えて、吸収体21の左側面部21Aに到達する。よって、仮に堆積物Dの量が増え、その高さが増したとしても、堆積物Dの高さより上の吸収体21の左側面部21Aから、廃インクを直接吸収することができる。また、流動性の高いインクが堆積物Dの上部を横から削り取って堆積物Dの高さが高くなることを抑制する。しかも底部コーナーが図3に示すような側面視において、下方よりも上方の方が幅広の断面三角形であるため、堆積物Dの高さが増すほど、堆積物Dの高さは増加しにくくなる。よって堆積物Dの上方からのインクの直接吸収を長期に亘って実施し続けることが可能である。
【0054】
このように、本構成によれば、インクの流動性が低くても吸収体21まで廃インクWを導くことが可能である。また、仮に吸収体21と傾斜面26の接続部で廃インクが堆積しても、流動性の高いインクは堆積物Dを乗り超えて吸収体21と直に接することができ、吸収体21に効率よく収容される。また、流動性の高いインクはインク非吸収性の傾斜面26で加速されるため、堆積物Dを侵食し、固着した顔料の再溶解を促進する。これにより堆積物Dの成長を防ぐ効果も得られる。このため、記録ヘッドの回復処理時に、増粘して流動性の低いインクが排出された場合でもインクの堆積・成長を防ぎ、流動性の高いインクおよび流動性の低いインクを効率的に吸収体21へ収容することができる。
【0055】
なお、特許文献1の構成だと、廃インク吸収体の上面部の廃インクが滴下する位置で固着インクが堆積する。そしてこの堆積物は次第に成長して高くなり、廃インク排出管の出口を塞ぎ、回復性能を低下させる可能性がある。堆積物は上から山積み状態となるため、その成長と共に裾野も広がって廃インク吸収体の上面部の露出部を覆い隠す。よって廃インクを直接吸収できる部分ないし面積が加速度的に減少していく。増粘・固着したインクと流動性の高いインクとが混合した廃インクが供給された場合、流動性の高いインクで堆積物を再溶解することはできるものの、この再溶解したインクがさらに裾野に広がり、固着して、廃インク吸収体の露出面積を益々減少する。廃インク吸収体の露出面積が減少すれば、廃インク吸収体でインクを吸収できる領域も限られるようになり、廃インク吸収体の全体を有効に活用することができない。
【0056】
本実施形態ではこのような問題が無く、排出管22の出口とは水平方向にずれた位置で、しかも吸収体21の最下部の高さ位置で堆積物Dが成長するため(もっとも、成長速度は遅い)、堆積物Dが排出管22の出口を塞ぐことを防止できる。また、傾斜面26と吸収体21の左側面部21Aとの間に形成された底部コーナーで堆積物Dを溜めるため、堆積物Dの上方に吸収体21の露出部を長期に亘り広く維持することが可能であり、廃インクの直接吸収を長期に亘り実行できる。従って、吸収体21の全体を有効に活用することができる。
【0057】
なお、上記傾斜板25は単なる平板であり、上記傾斜面26は単なる平面であったが、図5に示すように、傾斜板25および傾斜面26の幅方向両端縁部に上方に突出するリブ27を設けてもよい。これらリブ27を設けると、廃インクの流下中に廃インクが傾斜板25および傾斜面26の端縁部からはみ出すことを防止できる。
【0058】
傾斜面は、必ずしも傾斜板で形成する必要はない。例えばブロック状の部材に傾斜面を設けたり、装置本体に傾斜面を一体的に設けたりすることも可能である。
【0059】
次に、回収手段23の第2実施例を図6〜図8を参照しつつ説明する。なお第1実施例との相違点を主に説明する。
【0060】
この第2実施例は、前記同様、傾斜板25の上面により形成された傾斜面26を有するが、傾斜板25および傾斜面26が、廃インクWの流れ方向に沿った凹部を有する点で第1実施例と相違する。凹部は、傾斜板25および傾斜面26の幅方向中央の位置でそれらの長手方向に延びる溝40から形成されている。本実施例において、溝40は略半円形の断面形状とされているが、その断面形状に限定はなく、矩形状等であってもよい。
【0061】
またこの第2実施例は、傾斜板25および傾斜面26のうち、廃インクWを受ける部分が、その下流側の部分より急勾配とされる点でも第1実施例と相違する。廃インクWを受ける部分、即ち図7に×印で示す排出位置付近の部分は、それよりも下方の部分より急勾配とされている。傾斜板25および傾斜面26は、下流側或いは下方に至るほど、勾配或いは傾斜角度が緩やかになるように構成されている。なお排出位置は溝40内に設定されている。
【0062】
この第2実施例も、第1実施例と同様の作用効果を発揮することができる。特に、凹部を設けたことにより、廃インクWの流れを凹部内に集中させることができる。また傾斜面26のうち廃インクWを受ける部分を急勾配としたことで、廃インクをより一層加速させることができる。これにより廃インクの流れの勢いを増し、堆積物を洗い流したり浸食したりする効果を一層増長できる。そして堆積物をより一層減少させることができる。
【0063】
なお、本実施例では凹部を溝40で形成したが、必ずしもこれに限る必要はない。例えば傾斜板25および傾斜面26の全体を樋状に湾曲或いは屈曲させ、その全体で凹部を形成してもよい。この場合、傾斜板25および傾斜面26の幅方向における中央部は両端縁部よりも低くなる。樋の断面形状は丸形、角形など様々なものが可能である。
【0064】
次に、回収手段23の第3実施例を図9および図10を参照しつつ説明する。なお第1実施例との相違点を主に説明する。
【0065】
この第3実施例も、平坦な傾斜板25の上面により形成された傾斜面26を有する。なお傾斜板25は樋状に湾曲されていてもよい。この第3実施例は、傾斜板25ないし傾斜面26で受けた廃インクWを吸収体21の中央部の最下部に流下させるようになっている点で、第1実施例と相違する。
【0066】
すなわち、吸収体21の長手方向の中央部には、上下方向に貫通する開口部50が設けられている。開口部50は、図10に示すような平面視において矩形の断面形状を有している。但し断面形状は矩形に限らず、円形等の他の形状であってもよい。開口部50は、吸収体21からなる四つの縦壁51,52,53,54によって画成される。開口部50の幅は吸収体21の幅よりも小さく、開口部50の幅方向両側に、縦壁51,53を含む所定厚さの吸収体21を残すようになっている。また開口部50の幅は、傾斜板25の幅よりも大きい。
【0067】
さらに吸収体21には、図9に示すような側面視において直角三角形の断面形状を有する切欠き部55が設けられる。切欠き部55は、開口部50の左側に連通して設けられ、傾斜板25の幅と同等の幅を有する。
【0068】
この切欠き部55の底面に着座されるようにして、傾斜板25が設置される。傾斜板25は、切欠き部55内から開口部50内へと続くようにして配置される。傾斜板25の下端縁は、開口部50の右側面を画成する縦壁52と、容器24の底面部24Dとにより形成される直角コーナー部に、突き掛かるようにして位置される。これにより、傾斜面26は、開口部50内に位置されると共に、吸収体21の縦の面である縦壁52の最下部(特に下端縁部)に接続することとなる。傾斜面26と縦壁52との間に、堆積物を溜めるための底部コーナーが形成される。
【0069】
本実施例では、容器24に左側面部24Eが設けられており、この部位は開放されていない。傾斜板25の上端部は吸収体21の上面よりも上方に位置され、長手方向において吸収体21から大凡はみ出さず、且つ×印で示す排出位置を含む。
【0070】
この第3実施例も、第1実施例と同様の作用効果を発揮することができる。特に、廃インクを吸収体21の中央部から吸収させるため、廃インクを吸収体21に効率よく回収することができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば複数の実施例の組み合わせ、例えば第2実施例と第3実施例を組み合わせたものなどが可能である。さらには各実施例の各要素も可能な範囲で組み合わせ可能である。吸収体の最下部に接続するのは必ずしも傾斜面の下端縁部である必要はなく、傾斜面の中間部であってもよい。傾斜面の形状も上記で説明したもの以外のものが可能である。
【0072】
なお本発明は、記録ヘッドの数、使用するインクの種類、数および性状等を問わず、様々なインクジェット記録装置に適用可能である。本発明は、プリンタ、複写機、ファクシミリ、撮像画像形成装置などの単体装置に限定されるものではない。本発明は、これらを組み合わせた複合装置、あるいはコンピュータシステムなどの複合装置におけるインクジェット記録装置にも広く適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 インクジェット記録装置
3 記録ヘッド
10 回復手段
11 キャッピング手段
20 吸引ポンプ
21 吸収体
21A 左側面部
23 回収手段
24 容器
25 傾斜板
26 傾斜面
40 溝
50 開口部
51,52,53,54 縦壁
P 記録媒体
W 廃インク
D 堆積物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体へ記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドから廃インクとなるインクを吐出させて前記記録ヘッドの吐出状態を回復させる回復手段と、前記回復手段から排出された廃インクを回収する回収手段とを備え、
前記回収手段が、前記廃インクを吸収する吸収体と、前記回復手段から排出された廃インクを受けて前記吸収体の最下部に流下させる傾斜面とを備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記傾斜面が、前記吸収体の縦の面の最下部に接続し、その縦の面との間に底部コーナーを形成することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記傾斜面が、前記吸収体の側面部の最下部に接続することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記傾斜面が、前記廃インクの流れ方向に沿った凹部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記傾斜面のうち、前記廃インクを受ける部分がその下流側の部分より急勾配とされることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記吸収体の中央部に開口部が設けられ、前記開口部が、前記吸収体からなる縦壁によって画成され、
前記傾斜面が、前記開口部内に位置されて前記縦壁の最下部に接続することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記傾斜面が、インク非吸収性であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記記録ヘッドから複数種のインクが吐出され、そのうちの少なくとも一つが顔料インクであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−93203(P2011−93203A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249216(P2009−249216)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】