説明

インクジェット記録装置

【課題】予備吐出により排出したインクを確実に回収すること、及び、無駄な部品およびコストを削減することである。
【解決手段】ホームポジションに、記録ヘッド9のフェイス面の払拭だけでなく、ノズルからの予備吐出のインク受容にも用いられる払拭ユニット35が配置されている。さらに、ホームポジションで使用された後の払拭ユニット35であるリユースユニット38が、ホームポジションとはプラテン4を挟んで反対側の位置にも配置されていて、ノズルから吐出されたインクの受容のみに用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドから記録用紙等の記録メディアに対しインクを吐出させて記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置においては、吐出口(ノズル)が形成された記録ヘッドの面(以下ではフェイス面と称する)にインクが付着し、最終的に固着し正常な吐出を妨害することが知られている。また相互に反応性を持つインクや、インク中の成分を固化させる反応液とインクを併用して画像を形成する場合や、さらには紫外線・マイクロ波・熱などを用いてインクを固化させ堅牢性を向上させる場合には、上記した固着が強固に発生するため除去が困難であることが知られている。そこでこれらの問題点を解決する為に、いわゆるソルベントIJプリンタやUV硬化型IJプリンタ等といった記録装置では、ユーザーによる強力なメンテナンスが必要とされる場合がある。
【0003】
このようにフェイス面に付着したインクミスト、紙紛等により吐出不良を招きかねない状態を解消するため、一般的にはインクジェット記録装置には、ワイパと呼ばれるフェイス面を拭き取る機構が装備される。そしてこれにより、適宜フェイス面に付着したインクミスト、紙紛、ゴミ等の異物を除去する動作が行われる。また、フェイス面に付着したインクミストがインク溶剤の蒸発により増粘したり、記録ヘッドが高温となり蒸発を促進したり、あるいは記録に長時間が必要でその間ワイピングを行えない等の理由から、異物除去性の低下が懸念される場合がある。この場合には、ワイパをあらかじめインクや、その他の溶剤や界面活性剤の単体または混合物で構成された払拭液で濡らしてから異物除去を行う等の対応を採るものもある。
【0004】
一方でこういった技術と同様にインクミストや紙紛を除去する為にベルト状の素材(一般に不織布が用いられることが多い為、以下払拭部材と称する)によりヘッドフェイス面を払拭し、インク残渣を吸収又は除去する方法も提案されている。上述したような反応性ならびに固化を促進するインクシステムでは記録以外のメンテナンスに用いられた廃インクの回収又は処理が困難であることが知られている。メンテナンスの際に吸引をおこなったインクはもちろん、特に吐出不良を解消する為に記録前、記録中、記録後、回復後等のタイミングで、記録に関与しない部分に吐出(以下では予備吐出と称する)されたインクの回収も非常に困難であり、記録装置内の回収経路でインクが固着してしまうといった現象が発生する場合がある。そのため、ベルト状の払拭部材を用いる場合には、予備吐出をこの払拭部材に対して行い、予備吐出により排出されたインクを払拭部材に付着させ吸収させる構成としている物もある。
【0005】
払拭動作と予備吐出が同じ払拭部材で行われるように構成された記録装置として、特許文献1(特開平11−034356号公報)には、拭き取りに使用した払拭部材の交換が可能なように構成された記録装置が示されている。さらに、この着脱可能な払拭部材ユニットにおいて、ユニットを分解し払拭部材の交換が容易に可能なように構成されたメンテナンス用カセットも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−034356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように払拭部材に対していわゆる予備吐出を行い、廃インクを吸収させ保持させる場合には、一般的に払拭部材の長さに関して廃インクを吸収する為に十分な余裕を持たせる。そのため、予備吐出を行った後に払拭部材としては使用できないけれども廃インクを吸収する性能には問題ない場合がほとんどである。また、払拭動作に用いた払拭部材が同じ部分で再度記録ヘッドに接触しないように払拭部材の巻き取りを行うが、すでに払拭を行った部分が再度接触するのを避ける為には、余裕を持って巻き取りを行う必要がある。また、1スキャン中(1行の記録走査中)に行われる予備吐出の量は通常数発程度をヘッドごとに行うレベルであり、各色のヘッドから吐出される量をすべて合計しても、吐出された部分で吸収できるインクの許容量を超えないように、1回ごとに巻き取られる払拭部材の長さが設計されている。これは数スキャンに1度払拭動作を行った場合でも同様であり、上記に説明した通り、インク吸収量についてはかなり余裕を持たせる様に払拭部材の巻き取り量が設定されている。
【0008】
一方で記録を行う際のいわゆる主走査に伴う予備吐出については、いわゆるホームポジション側と呼ばれる休止、回復等を行う機構を集めた場所で行われる事が多い。これは廃インクの処理系統を一本化できること、また駆動に必要な機構、モータ、電源等を一箇所に集約しやすいためである。しかし近年の往復記録の増加および往復記録の高画質化の要請からホームポジションの逆側のいわゆるバックポジション側で予備吐出が行われることがある。
【0009】
また上記した装置のようにインク固着を防止するために払拭部材上で予備吐出を行わせる場合において、その予備吐出により排出したインクの回収を行う為には、ホームポジション以外にも予備吐出インクを回収する手段を設ける必要があり、新たな消耗品が発生してしまう。例えば予備吐出が必要なバックポジション側に予備吐出のみに使用される、払拭用のユニットを設けるといった構成が考えられる。
【0010】
本発明は、以上の問題点を解決することができるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。その目的の一例は、予備吐出により排出したインクを確実に回収すること、及び、無駄な部品およびコストを削減することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、インク滴を吐出する複数のノズルが形成されたフェイス面を持つ記録ヘッドを搭載して移動可能なキャリッジと、
記録ヘッドを移動させたときに、フェイス面と接触することによりフェイス面を払拭するための払拭部材を有する払拭ユニットと、
キャリッジの移動経路と対向する位置に設けられ、払拭ユニットを装着するための第1の装着部と、
を備えるインクジェット記録装置において、
キャリッジの移動経路と対向する位置に設けられ、払拭ユニットを装着するための第1の装着部と異なる第2の装着部を備え、
第1の装着部に装着されてフェイス面の払拭が行われた払拭ユニットを第2の装着部に装着することが可能であり、
第2の装着部に装着された払拭ユニットに対して、記録ヘッドから予備吐出を行わせることが可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、予備吐出したインクを回収する為に第1の装着部で払拭ユニットとして使用した払拭ユニットを当初使用した位置とは別の第2の装着部に移設し、予備吐出専用のユニットとして再使用することができる。これにより、予備吐出により排出したインクを確実に回収することと、無駄な部品およびコストを削減することを可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態に係る記録装置の全体図。
【図2】図1に示した記録装置に備わる回復系の外観図。
【図3】図1に示した記録装置に使用可能な記録ヘッドの外観図。
【図4】第1の実施形態による記録ヘッドに対する払拭動作を示す図。
【図5】第1の実施形態における払拭ユニットの配置例を示す図。
【図6】第2の実施形態における払拭ユニットのリユース構成を示す図。
【図7】本発明に適用可能な払拭部材の逆送り防止機構を示す図。
【図8】本発明における払拭部材のリユース可否の判別法を示す概略図。
【図9】本発明における払拭部材のリユース可否の判別法を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
「第1の実施形態」
図1は本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置(以下、プリンタともいう)の外観(カバーを外しての内部外観)を示す。これはいわゆるシリアルスキャン型のプリンタであり、記録用紙等の記録メディアの搬送方向に対して交差する方向(主走査方向)に記録ヘッドをスキャン(主走査)させて画像を形成するものである。この記録装置は、記録ヘッド9を搭載して主走査方向に移動可能なキャリッジユニット2を有する。キャリッジユニット2は、記録開始前または記録中に必要に応じてホームポジションで停止する。ホームポジション付近には、回復系ユニット45と払拭ユニット(図5の符号35)が配置されている。
【0016】
図2は回復系ユニット45の構成例を示す模式的斜視図である。回復系ユニット45はワイパ27とキャップ28を備えている。キャップ28は不図示の昇降機構によって昇降可能に支持されており、上昇位置では、例えば3つのインク吐出部のフェイス面毎にキャッピングを施し、非記録動作時等においてその保護を行ったり、あるいは吸引回復を行ったりすることが可能である。記録動作時にキャップ28は記録ヘッド9との干渉を避ける下降位置に設定され、また前記フェイス面と対向する位置にあることによって、該フェイス面からの予備吐出を受けることが可能である。尚、記録ヘッド9の構成としては、例えば図3に示すように主走査方向Sに沿ってフェイス面11〜16が配置されている。
【0017】
一般にはフェイス面に付着したインクを拭き取るには図2に示すようなゴム製のワイパ27でフェイス面を摺擦する、いわゆるワイピングが行われる。一方で、ワイピングを実施する際にフェイス面のインク成分が蒸発し、ワイピングのみでは拭き取りにくい状態となっている場合がある。例えばインクがIPA(イソフ゜ロヒ゜レン・アルコール)などの低分子アルコール、MEK等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、等の揮発しやすい低沸点の溶媒を含んでいる場合、インクの顔料の分散性が弱いために凝集が生じやすい場合、顔料を分散させるためのポリマーを多く含む場合、などが挙げられる。特に擦過性および堅牢性を重視する用途に用いられる為にポリマー成分を多く含む様に構成されたインクに関してはワイパでの拭き取りが困難であることが知られている。このようなインクでは、初期の粘度は他のインクと大きな差がなく、ワイピング時の払拭性についても問題がない場合が多い。しかしながら蒸発時には粘度が他のインクよりも上昇する傾向が強く、一般的なインクが同様に蒸発した場合に比較してワイピングによる除去が困難になる。また、蒸発や加熱に伴い相変化したり、蒸発による濃度上昇により分散破壊し不溶化ならびに固化したりといった蒸発に伴って生じる変化により機能性を持たせたインクについては、上記のような単純な蒸発による粘度上昇よりも回復性が極端に低下する傾向が見られる。
【0018】
このように従来型のワイピング機構により拭き取りが困難な場合、また拭き取り後のインク残渣が固化しやすい場合等には払拭部材として、多孔質のウレタンフォームやメラミンフォーム、またはポリオレフィン、ポリエステル、ナイロンを用いた不織布などを用いたヘッドの払拭動作が行われる場合がある。
【0019】
このような払拭動作に用いられる機構の例を図4(a)に示すとともに、図4(a)以降の動作の例を図4(b)〜図4(d)に示す。これらの図を参照すると、払拭動作を行なう払拭ユニット35は、ベルト状部材からなる払拭部材30の一端側が巻かれた供給ローラ31と、払拭部材30の他端側を巻き取る巻き取りローラ32と、払拭部材30を記録ヘッド9のフェイス面側へ押し上げて所定の位置に保持するバックアップブレード25およびバックアップローラ34とを備える。
【0020】
このような機構を用いた払拭動作を図4(a)〜図4(d)に基づいて説明する。記録ヘッド9の記録動作が終了すると、図4(a)に示した払拭ユニット35と相対する位置の手前まで記録ヘッド9を移動させる。払拭動作に用いられる払拭部材30は、図4(a)に示すように矢印B方向に上昇させたバックアップブレード25により、ヘッド高さ付近に保持される。その後、払拭ユニット35に相対した記録ヘッド9を、キャリッジユニット2でいわゆる主走査方向(図4のA方向)に移動させる。これにより、払拭部材30が、移動時の記録ヘッド9のフェイス面に対してノズルの配列方向と略垂直な方向に摺擦して払拭を行う。拭き動作については記録動作の延長として行わせるのが効率的である。記録動作が終了した記録ヘッド9を、キャリッジユニット2を停止させることなく、バックアップブレード25により高さが固定された払拭部材30まで移動させ、払拭動作を行わせる。払拭動作後に払拭部材30の払拭部分は巻き取りローラ32によりその都度巻き取られ、次回払拭時には払拭部材30の新たな部分で拭きが行われるよう構成されている。また本実施形態の構成では払拭部材30はもともと払拭に用いる溶剤、界面活性剤等を含む払拭液を含浸した状態で組み込まれている。
【0021】
同様に予備吐出の際にも払拭部材30の巻き取りが行われることがある。すなわち、予備吐出したインクが多い場合には、払拭部材30の吸収許容量を超過してしまうことが考えられる為である。このように予備吐出を払拭部材30に対して行う機構については、前述したインクに加えて、特に水中に分散したゴム等のポリマー成分が水や有機溶剤等の溶媒、分散体等の蒸発により分散限界を超え相互に接触して皮膜を作る、いわゆるエマルション系のインクについて、廃インク経路での固着を確実に防止できる手段として非常に有効である。
【0022】
本実施形態で使用する払拭ユニットの配置図を図5に示す。この図に示すように、払拭ユニット35は、記録開始前に記録ヘッド9を搭載したキャリッジユニット2が待機するホームポジション(キャリッジ移動経路上の第1の装着部)に装着されている。さらに、プラテン4を挟んで前記ホームポジションとは反対側のバックポジション(第2の装着部)に、使用済みの払拭ユニット35をリユースしたリユースユニット(以下リユースユニットと称する)38が装着されている。つまり、払拭ユニット35およびリユースユニット38は、キャリッジユニット2の往方向または復方向記録のスキャンが開始または終了する付近に設置されている。
【0023】
図5に示すような配置で記録を行う場合、記録ヘッド9は先ずホームポジション側で払拭ユニット35の払拭部材30に対して予備吐出を行い、それからプラテン4上の記録メディアに対して記録を行う。1スキャン分(1行分)の記録動作を終了した後に、必要に応じて、第2の装着部に装着されたリユースユニット38の位置まで記録ヘッド9を移動させ予備吐出を行う。予備吐出の後に復方向での記録を行うが、本実施形態の場合は図4(a)に示したように復方向での記録が終了する前の、払拭ユニット35よりもやや手前の位置に記録ヘッド9がある状態で、バックアップブレード25を図中のBの方向に上昇させる。その後、図4(a)および図4(b)に示すように、記録ヘッド9がホームポジションに帰ってくる動作に伴って拭き動作を行うようにした。
【0024】
このように払拭動作が終了したら、図4(c)に示すように、払拭部材30を記録ヘッド9に接触可能な位置から、図中C方向へのバックアップブレード25の下降で後退させ、記録ヘッド9と干渉しない位置にて保持する。同時にバックアップローラ34を図4(c)中のD方向に動かすことによって、払拭部材30を記録ヘッド30のフェイス面に正対する位置でフェイス面に近接させ、記録ヘッドに予備吐出を行わせる。
【0025】
予備吐出終了後、バックアップブレード25を図4(d)中のE方向に移動させると共に、バックアップローラ34を図4(d)中のF方向に移動させ、払拭部材30を記録ヘッドに近接した位置から退避させる。この退避動作については予備吐出動作ごとに行っても良いし、記録動作中には退避動作を行わず記録終了時に退避する構成とすることも可能である。
【0026】
また、払拭動作は1スキャンの記録動作ごとに行うこともできるが、数スキャン記録動作を行った後に実行することもできる。本実施形態のように記録中には払拭部材30による拭き取り動作を行わせるように構成する事も可能であるが、払拭部材と従来型のワイパを併用することもできる。
【0027】
図5に示した払拭ユニット配置において第1の装着部(ホームポジション)には払拭ユニット35が装着され、第2の装着部(バックポジション)にはリユースユニット38が装着されている。第2の装着部に装着されるリユースユニット38は、第1の装着部において払拭ユニットとして使い切った払拭ユニット35である。本実施形態においては、図4に示したような動作を繰り返すことで使い切った払拭ユニットを再使用するため、巻き取り方向を逆転させる必要があり、巻き取りローラ32と供給ローラ31が逆転するように構成されている。バックポジションでの予備吐出に伴って徐々に払拭部材30が所定の幅ごと送り出され、予備吐出に供される。そのため、巻き取りローラ32に巻き取られた払拭部材30が巻き取りローラ32から一旦繰り出され、使用当初の供給ローラ31に巻き取られる構成となっている。
【0028】
通常は従来技術で述べたように払拭部材30の送り出し量よりも同じ領域に行われる予備吐出量が下回っていて、リユースが可能な状態であることが想定される。一方で予備吐出量を環境や記録モードなどの条件で制御するような記録装置、記録方法が提案されている。このような制御を行った場合には稀に、予備吐出の量が多すぎリユースに適さない状態が生じる虞がある。
【0029】
そこで、予備吐出したインク量をカウントし、インク量が多すぎる場合には、リユースを禁止したり、リユースを行うタイミングで装置の制御手段がユーザーに警告を与えたりするように構成することが望ましい。そのために、第1の装着部で払拭ユニット35を使用した後に、その払拭ユニット35に設けられたROMにリユース不可である旨を書き込むなどの対処を行う構成が考えられる。また環境によっては予備吐出したインクの蒸発が進みづらい場合があり、この場合にも予備吐出インクのオーバーフローが懸念されるため、前の例と同様の対処を行うことができる。
【0030】
払拭部材30に対するインクの予備吐出量が少ない場合には、この払拭部材を第2の装着部で複数回使用することもできる。すなわち、第1の装着部での使用履歴とともに第2の装着部での使用履歴を記憶し、それらの結果から第2の装着部においてさらに使用することが可能かを判断する。第2の装着においてさらに使用が可能な場合、供給ローラ31又は巻き取りローラ32を逆転させて払拭部材の使用当初位置へ巻き戻す。
【0031】
なお、本実施形態では払拭ユニット35が装着される第1の装着部をホームポジション側、リユースユニット38が装着される第2の装着部をバックポジション側として説明した。しかし、バックポジション側を第1の装着部とし、ホームポジション側を第2の装着部としても、同様の効果が得られる。
【0032】
「第2の実施形態」
次に第2の実施形態を示す。第1の実施形態では、払拭部材保持機構を、第1の装着部と第2の装着部ともに、バックアップブレード25及びバックアップローラ34で構成した。第2の実施形態では、払拭部材保持機構を第1の装着部と第2の装着部で異ならせる構成について説明する。
【0033】
第1の装着部と第2の装着部では、払拭部材を使用する目的が異なるため、払拭部材保持機構の形状を異ならせることが望ましい。そこで第1の装着部では第1の実施形態と同じ機構が設けられる。すなわち、第1の装着部において払拭動作を行う場合には、記録ヘッドに接触する払拭部材30は拭き取りに適したバックアップブレード25により、記録ヘッド9に対して、装置本体の下方からフェイス面方向に押し付けられる。その後、予備吐出の際には図6(a)に示すように払拭部材30はバックアップブレード25とバックアップローラ34により、吐出口が設けられたフェイス面に対して略平行であり、かつ近接するように構成されている。
【0034】
図6(a)に示したように、バックアップブレード25とバックアップローラ34という2つの部材で払拭部材30を記録ヘッド9のフェイス面に近接させる場合はそれぞれの可動部材に精度を必要とされ、また記録ヘッド9のフェイス面への平行度がずれないように相互の位置関係を調整する必要がある。
【0035】
一方、第2の装着部に装着されるリユースユニットについては、予備吐出動作のみが実施されるため、払拭の際に用いるバックアップブレード25は必要無い。
【0036】
そのため本実施形態においては、第2の装着部に装着されるリユースユニット38は、図6(b)に示すように、バックアップブレード25およびバックアップローラ34をバックアッププレート39に代えたものとしている。バックアッププレート39は記録ヘッド9のフェイス面と平行に配置された面部材からなり、予備吐出時に払拭部材30を上昇させる構成である。
【0037】
このような構成とすることで、前記のように2部材で構成する場合の双方の精度差による記録ヘッド9と払拭部材30の間での距離の不均一、また上下動を行わせる為の駆動が複雑になるといった問題を回避することができる。よって、簡易な構成で記録ヘッド9に平行に相対する部分を構成することが可能となり、予備吐出時に発生するインク滴の飛び散りによるインクミストによる本体汚れ、パーツに付着することによる動作不良等を抑制することができる。
【0038】
また本実施形態では図7(a)に示すように、巻き取りローラ32と同軸に設けられたギヤ41、ギヤ41に係合可能なラチェット40、ラチェット40を回転支持するレバー43、および、レバー43を付勢してラチェット40をギヤ41に係合させるスプリング42が設けられている。この構成により、供給ローラ31(送り出しローラ)を矢印I方向の一方向にしか回転しないように規制することが出来る。したがって、払拭動作に用いた払拭部材30が同じ部分で再度記録ヘッドに接触しないことが確実となる。
【0039】
そして、上記構成が設けられた払拭ユニット35を第2の装着部でリユースユニット38として使用する場合には、図7(b)に示すように、レバー43を矢印J方向に押し上げてラチェット40の係合を解除し、一旦矢印K方向に巻き戻しを行ってから、使用するように構成する。
【0040】
このような巻き戻し作業は、第1の固定位置または第2の固定位置で行っても良いし、本体外で別途行っても良い。
【0041】
「第3の実施形態」
記録装置の長期間放置した後に行われる回復動作の際に行われる予備吐出動作や、記録ヘッドの吐出ノズル吸引動作の直後に混色防止のため行われる予備吐出動作については、予備吐出されるインクの発数が多い。そのため、被吐出位置を変えて払拭部材30に吐出及び吸収させたとしても、吸収容量の限界に近いインク量を払拭部材30に吐出される可能性が高い。このように払拭部材30に吸収限界に近いインクが存在し、このユニットをリユースした場合には、インクがオーバーフローする可能性がある。そこで、単位面積当たりに吐出されたインク吐出をカウントしてインクの吐出量を推定し、リユース時にオーバーフローが懸念される場合にはユニット全体をリユース禁止とする構成も可能である。
【0042】
一方でオーバーフローする可能性が高い部分が一部である場合には、該当する一部のみをリユースの対象から除外し、その部分が予備吐出位置に送られてきた場合やまもなく予備吐出位置に送られてきそうな場合には、オーバーフローの可能性が高い部分については、払拭部材30を早送りしてスキップさせる構成とする事も可能である。このような例を図8に示した。
【0043】
図9中の符号37は予備吐出等の吐出動作により払拭部材30に付与されたインクを模式的に表している。
【0044】
上記したオーバーフローする可能性が高い部分を検知するには、本インクジェット記録装置の制御手段(不図示)が、払拭部材30を所定の送り量で送り、当該所定の送り量で決まる一定の区分エリア50ごとに、予備吐出されたインク量をインク吐出回数および1回の吐出滴量に基づいて計測する。これは、各区分エリア50への予備吐出が終わる都度行なわれる。このとき、各区分エリア50への予備吐出の量(予備吐出の計測結果)が各区分エリア50の予め定められたインク許容量を超過している場合にはその部分をリユース禁止箇所として払拭ユニットの記憶手段51に記憶する。また記憶手段51には、超過の判定基準となる各区分エリア50のインク許容量が予め記憶してある。
【0045】
例えばそれぞれの区分エリア50は図8に示すようにa,b,c,dで表される。この図の例ではb,dの部分に所定の許容量を超えそうなインク堆積物37があり、b,dの部分がリユース禁止箇所として記憶される。この記憶の際には、リユース禁止箇所とされる位置を払拭部材30の送出開始位置と送り出し回数に関連付けておくとよい。
【0046】
このような払拭部材30をリユースユニット38に使用した場合、本インクジェット記録装置の制御手段(不図示)は、記憶手段51からリユース禁止箇所を読み出し、該当する箇所のリユースを除外する設定を行い、残りの部分のみを予備吐出可能な部分として使用する。
【0047】
上記の記憶手段51を装備するには電気接点やROM等を用意する必要がある。そこで、払拭ユニットの構成がより簡易となる方法を図9に示す。
【0048】
図9に示すように、矢印M方向に払拭部材30を所定の送り量で送る度、払拭部材30の各区分エリア50に予備吐出を適宜実施するとき、本インクジェット記録装置は、各々の区分エリア50を使った時点で記録ヘッド9により、使用履歴として特定の使用済みパターン52a、52b、52c、52dを順次記録する。このように使用済みパターンを各区分エリア50に記憶させておくことで、各区分エリア50がリユース可能かどうかを記録装置の制御手段で判断することが出来る。この判断の際には使用済みパターンを画像認識する光学系をキャリッジユニット2等の払拭ユニット外部に設けることで判断可能である。
【0049】
また図9は図8の払拭部材30を上部(図8中のL方向)から見た状態である。この図に示すように、使用済みパターン52a、52b等の位置はリユース前の払拭部材30の巻き取り方向Mに関して各区分エリア50の末尾にある。したがって、第2の装着部に装着した際に払拭部材30の巻き取り方向を図中のM方向とは逆のN方向に変えると、各区分エリア50の先頭部分に使用済みパターン52a、52b等が来るため、リユースの可否を判別してから該当する区分エリア50を使用できて非常に都合が良い。
【0050】
図9中の使用済みパターン52a、52b等は滲みなどを考慮して簡単な形にした。各使用済みパターン52a、52b、52c、52dは中央のパターンが使用済みチェックパターンであり、図面上下の2つのパターンは使用量を示している。使用済みパターン52aのように図面上下にパターンが存在する場合には使用量が75%以上であることを示し、再使用は不可である領域とする。使用済みパターン52b,52cのように図面上下のどちらかだけにパターンが存在する場合は使用量が75%未満であり、通常は使用不可であるが場合によって使用可能である領域とする。さらに、使用済みパターン52dのように図面上下のパターンが無ければ使用量は予備吐出の吸収容量の50%未満であり、使用可能である領域とする。
【0051】
さらに簡便な方法としては、キャリッジユニット2に備え付けの記録メディア等のセンシングに用いられるセンサ(例えば紙面の読み取りセンサ)を使用して第1の装着部において払拭部材30の汚れ具合を検知し、その結果により当該部分がリユースに適するかどうかを判別手段で判別することも可能である。その判別結果に基づきリユースに伴う予備吐出動作を行うか否かを決定するような構成も本件の発明の構成に適応できる。
【0052】
「その他の実施形態」
以上の実施形態ではリユースユニット38はバックポジションで予備吐出を受容するものとして説明したが、本発明の趣旨はこれに限定されるものではない。例えば近年行われているフチ無し記録においても予備吐出と同様にはみ出したインクを受容し回収する手段が必要となる。このようなインクを回収する為に、第1の装着部で払拭に使用された払拭部材30およびこれを含む払拭ユニット35を再利用することも可能である。したがって、上記第2の装着部はバックポジションに限らず、記録ヘッド9の移動経路と対向する位置であってフチ無し記録での記録メディアの搬送方向端部に位置であってもよい。
【符号の説明】
【0053】
2 キャリッジユニット
9 記録ヘッド
11〜16 フェイス面
25 バックアップブレード
30 払拭部材
31 供給ローラ
32 巻き取りローラ
34 バックアップローラ
35 払拭ユニット
38 リユースユニット
39 バックアッププレート
40 ラチェット
41 ギヤ
42 スプリング
43 レバー
45 回復系ユニット
50 区分エリア
51 記憶手段
52 使用済みパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク滴を吐出する複数のノズルが形成されたフェイス面を持つ記録ヘッドを搭載して移動可能なキャリッジと、
前記記録ヘッドを移動させたときに、前記フェイス面と接触することにより前記フェイス面を払拭するための払拭部材を有する払拭ユニットと、
前記キャリッジの移動経路と対向する位置に設けられ、前記払拭ユニットを装着するための第1の装着部と、
を備えるインクジェット記録装置において、
前記キャリッジの移動経路と対向する位置に設けられ、前記払拭ユニットを装着するための前記第1の装着部と異なる第2の装着部を備え、
前記第1の装着部に装着されて前記フェイス面の払拭が行われた払拭ユニットを前記第2の装着部に装着することが可能であり、
前記第2の装着部に装着された前記払拭ユニットに対して、前記記録ヘッドから予備吐出を行わせることが可能であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記払拭部材はベルト状部材からなり、
前記第1の装着部での前記払拭ユニットは、前記フェイス面の払拭の都度、前記払拭部材の払拭部分を巻き取る機構を有し、
前記第2の装着部に装着された、前記第1の装着部で払拭した後の前記払拭ユニットでは、前記第1の装着部での使用時に巻き取られた前記払拭部材が使用当初の位置に巻き戻されており、当該払拭部材を前記インクの吐出に伴って、前記第1の装着部での払拭ユニットにおける前記払拭部材と同じ方向に巻き取りながら使用することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第1の装着部において予備吐出したインク量を計測する手段を備え、該手段の計測結果から前記第1の装着部での前記払拭ユニットがリユースできるかどうかを判定し、リユースが不可と判定された場合にはユーザーに警告を与える手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記払拭ユニットに使用履歴を記憶する記憶手段を備え、前記第1の装着部での前記払拭ユニットがリユース不可である場合には前記記憶手段にリユース不可であることを記憶することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記払拭部材に対しての一定の区分ごとのインク許容量を前記記憶手段に予め記憶しており、
前記第1の装着部において前記払拭部材の前記区分ごとに吐出されたインクの量が、前記記憶手段に記憶されたインク許容量を超過しているかどうかの判定を行い、その結果、インク許容量を超過していなければ該当する区分についてリユースを実施し、超過していれば該当する区分についてリユース禁止箇所として前記記憶手段に記憶することを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記第1の装着部において前記払拭部材に対して一定の区分ごとに、当該区分での前記払拭部材の使用量に応じた特定の使用済みパターンを前記記録ヘッドにより記録し、
前記第2の装着部に装着された、前記第1の装着部で払拭した後の前記払拭ユニットを使用するとき、前記各区分に記録された特定の使用済みパターンに基づいて前記払拭部材のリユースできる区分を判断することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記キャリッジに記録メディアを読み取るセンサを有し、該センサにより前記第1の装着部での払拭部材の汚れ具合を検知し、この結果によりリユースの可否を判別する手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記第2の装着部が、前記キャリッジの移動経路と対向する位置であってフチ無し記録での記録メディアの搬送方向端部に位置することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記第1の装着部での前記払拭ユニットは、前記記録ヘッドから予備吐出を行う際に前記フェイス面に近接した位置で前記払拭部材を保持する払拭部材保持機構をさらに有し、
前記第2の装着部に装着された、前記第1の装着部で払拭した後の前記払拭ユニットは、前記払拭部材保持機構の一部を代えたものであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記第2の装着部での前記払拭部材保持機構は、前記フェイス面と平行に配置されて前記払拭部材を保持する面部材を備えることを特徴とする請求項9に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−51138(P2012−51138A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193578(P2010−193578)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】