説明

インクジェット記録装置

【課題】 走査中に外乱に起因して発生する機構振動による濃度むらの発生を抑制する。
【解決手段】 インクの吐出を行う記録ヘッド1を搭載するキャリッジ2と、キャリッジを走査方向に駆動するモータ7とを備え、キャリッジ1を記録媒体上の1つの記録領域に対して複数回走査させることで記録を行うインクジェット記録装置であって、1つの記録領域に対する前記キャリッジの走査回数を検出し、検出した走査回数を示す情報を出力する情報出力部56と、周期信号を生成し、生成した周期信号を走査回数信号に示されるキャリッジの走査回数に応じて変調して出力する周期信号生成部57と、キャリッジの駆動を制御する制御信号に周期信号生成部から出力された周期信号を合成した信号に基づきモータ7にキャリッジ2を駆動させる駆動回路45と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドを搭載したキャリッジを駆動して記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェット記録装置は、記録ヘッドを搭載したキャリッジを、モータを用いて記録用紙等の記録媒体上で往復駆動させ、記録ヘッドのインクの吐出口からインクを噴射させることで記録を行う。インクジェット記録装置は、簡単な構成からなる極めて優れた記録装置であるが、一方では十分に配慮されるべき技術上の問題も存在する。
【0003】
上述したように、インクジェット記録装置は、キャリッジを記録媒体上で往復駆動させることで記録が行われ、キャリッジの加速駆動と等速駆動と減速駆動とが繰り返される。多くのインクジェット記録装置では、等速駆動中に記録が行われ、加速駆動中および減速駆動中は記録が行われない。
【0004】
従って、キャリッジの加速駆動あるいは減速駆動が緩やかに行われると、記録時間が長くなったり、装置幅が大きくなったりするため、急峻な加速駆動および減速駆動が行われることが多い。キャリッジを急峻に駆動させると非常に大きな駆動反力が発生し、キャリッジを支持するタイミングベルトやガイドレールで振動が発生する。これらの振動がキャリッジの周期的な振動を励起させる。キャリッジに周期的な振動が発生すると、インクの着弾誤差も周期的なものとなり、その結果、記録画像における濃度むらが目視されやすくなるという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1および特許文献2には、1つの記録領域に対してキャリッジを複数回走査することで記録を行うマルチパス記録方式が適用されるインクジェット記録装置において、キャリッジの走査毎に駆動開始位置を変更させる技術が開示されている。キャリッジの走査毎にキャリッジの駆動開始位置を変更することで、キャリッジの位置に対する振動の発生タイミングが変わる。そのため、インクの周期的な着弾誤差も走査毎に位相が変わり、インクの着弾誤差が分散されて、キャリッジの加速駆動に伴い発生する濃度むらを目視されにくくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−224382号公報
【特許文献2】特開2009−18596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2に開示の技術によれば、キャリッジの加速駆動に伴い発生する濃度むらを低減させることができる。しかしながら、この技術では、キャリッジの駆動開始位置を変更させるため、装置幅に余裕がない場合は実施することができない。また、この技術を実施するために、装置幅に余裕を設けると、本体幅が大きくなるためにコスト増加や大型化の原因となり、キャリッジの走査幅が広がることで記録時間の悪化の原因ともなる。また、この技術では、キャリッジの加速駆動に伴い発生する濃度むらに対しては一定の効果が得られるが、その他の外乱振動に対しては効果を得ることができない。その他の外乱振動の原因としては、キャリッジに搭載された記録ヘッドにインクの吐出タイミングを伝送するためのフレキシブル基板、記録ヘッドにインクを供給するためのチューブなどに起因する振動がある。
【0008】
本発明の目的は、大型化を招来することなく、記録画像における濃度むらを目視しにくくすることができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のインクジェット記録装置は、
インクの吐出を行う記録ヘッドを搭載するキャリッジと、前記キャリッジを走査方向に駆動するモータとを備え、前記キャリッジを記録媒体上の1つの記録領域に対して複数回走査させることで記録を行うインクジェット記録装置であって、
1つの記録領域に対する前記キャリッジの走査回数を検出し、検出した走査回数を示す情報を出力する情報出力部と、
周期信号を生成し、該生成した周期信号を前記情報出力部から出力される前記情報に示される前記キャリッジの走査回数に応じて変調して出力する周期信号生成部と、
前記キャリッジの駆動を制御する制御信号に前記周期信号生成部から出力された前記周期信号を合成した信号に基づき前記モータに前記キャリッジを駆動させる駆動回路と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインクジェット記録装置によれば、記録領域に対するキャリッジの走査回数に応じて周期信号を変調し、キャリッジの駆動を制御する制御信号にその周期信号を合成した信号に基づきキャリッジを駆動させる。走査回数に応じて変調された周期信号を制御信号に合成した信号に基づきキャリッジを駆動させることで、走査毎にキャリッジに生じる振動が変わる。走査毎にキャリッジに生じる振動が変わると、インクの着弾誤差もキャリッジの走査毎に変わり、インクの着弾誤差が分散され、記録画像における濃度むらを目視されてにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録装置の斜視図
【図2】図1に示すキャリッジの斜視図
【図3】図1に示す記録ヘッドの斜視図
【図4】図1に示すインクジェット記録装置の内部制御構成の概略図
【図5】第1の実施形態に係るキャリッジ制御部の構成を示すブロック図
【図6】図1に示すキャリッジに発生する機構振動の一例を示す図
【図7】4パスでのマルチパス記録が行われる過程を示す図
【図8】周期信号の位相変更に応じて図1に示すキャリッジに発生する機構振動を示す図
【図9】図8に示す機構振動がキャリッジに発生した場合における、4パスでのマルチパス記録が行われる過程を示す図
【図10】周期信号の振幅変更に応じて図1に示すキャリッジに発生する機構振動を示す図
【図11】図10に示す機構振動がキャリッジに発生した場合における、4パスでのマルチパス記録が行われる過程を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録装置の斜視図である。このインクジェット記録装置は、記録媒体上の同一の記録領域に対して、キャリッジを複数回走査することにより記録を行うマルチパス記録方式が適用されるものである。
【0013】
図1に示すように、インクの吐出を行う記録ヘッド1が、キャリッジ2に搭載される。キャリッジ2は、ガイド部材であるメインガイドレール3およびサブガイドレール4により、記録媒体15の搬送方向に対して交差する方向に案内支持される。また、キャリッジ2は、メインガイドレール3およびサブガイドレール4により、記録ヘッド1が記録媒体15に対してほぼ一定間隔となるように支持される。メインガイドレール3およびサブガイドレール4は、筐体12に支持される。
【0014】
タイミングベルト6は、モータ7と連結したモータプーリ8と、モータプーリ8と対向する位置に配置されている従動プーリ9とに架張されている。また、タイミングベルト6はキャリッジ2に固定される。モータ7の動力がタイミングベルト6を介してキャリッジ2に伝達されることで、キャリッジ2の記録媒体上での駆動が行われる。
【0015】
搬送ローラ10は、搬送モータ(不図示)によって駆動され、記録媒体15を搬送する。排出ローラ11は、記録が行われた記録媒体を装置外へ排出する。
【0016】
図2は、キャリッジ2の斜視図である。
【0017】
キャリッジ2には、エンコーダセンサ13が取り付けられている。エンコーダセンサ13は、キャリッジ2の走査方向に並行に設けられたエンコーダスケール14上のスケールの読み取りを行い、スケールの読み取りに応じて、パルス信号を出力する。フレキシブル基板5は、キャリッジ2の電気接続部(不図示)と本実施形態のインクジェット記録装置の制御部(不図示)とを接続し、エンコーダセンサ13から出力されたパルス信号、記録ヘッド1からインクの吐出を行わせる電気指令信号等の送受信を行う。
【0018】
図3は、本実施形態に係る記録ヘッド1の斜視図である。
【0019】
記録ヘッド1の記録媒体と対面する部分は、インク色ごとにノズル列1M、1C、1Y、1Bkが配置されている。インクジェット記録装置の用途によってはインク色や色数は異なる。ノズル列は複数の吐出口(不図示)から構成されおり、この吐出口からインクを噴射する。インクの吐出方式は、サーマル方式やピエゾ方式等がある。サーマル方式は加熱によりインクに気泡を発生させてインクを噴射する方式であり、ピエゾ方式は電圧を加えることで変形する圧電素子を用いてインクを噴射する方式である。これらのインク吐出方法を用いて、インクを記録媒体へ吐出して所望の画像等の記録が行われる。
【0020】
記録ヘッド1の電気接続部30は、キャリッジ2の電気接続部(不図示)と接続される。
【0021】
図4は、本実施形態のインクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0022】
ROM41は、インクジェット記録装置を制御するための制御プログラムなどの各種プログラムやプログラムの実行に必要なデータ等を記憶する。RAM42は、CPU43が実行中のプログラム、外部に接続されたホストコンピュータから送信された記録用データ等を記憶する。
【0023】
CPU43は、本実施形態のインクジェット記録装置の制御部に相当する。CPU43は、ROM41に記憶されているプログラムを読み込み、そのプログラムを実行するための演算処理を行う。CPU43が行う演算処理としては、画像処理、I/F44を介したホストコンピュータとの通信、記録ヘッド1の吐出制御、エンコーダセンサ13から出力されるパルス信号の信号処理、キャリッジ2の駆動制御演算等である。インクジェット記録装置の特有機能をASIC(不図示)としてハードウェア化してCPU43の演算処理を軽減しても良い。
【0024】
PWM演算部45aは、CPU43の演算結果に応じてパルス電圧幅を変調して、モータ7へ印加される電圧を調整する。モータドライバ45bはPWM演算部45aにより調整されたパルス電圧幅の電圧をモータ7に印加してモータ7を駆動するドライバ回路である。PWM演算部45aとモータドライバ45bとは、駆動回路45を構成する。
【0025】
図5は、CPU43においてキャリッジ2の駆動制御演算を行うブロックであるキャリッジ制御部50の構成を示すブロック図である。
【0026】
位置算出部51は、エンコーダセンサ13から出力されたパルス信号に基づき、キャリッジ2の位置を算出し、算出した位置を示す位置信号を出力する。また、速度算出部52は、エンコーダセンサ13から出力されたパルス信号に基づき、キャリッジ2の速度を算出し、算出した速度を示す速度信号を出力する。
【0027】
駆動指令信号53は予めプログラムで決定されたキャリッジ2の駆動プロファイルである。制御部54およびPI補償器である制御部55は、位置算出部51から出力された位置信号および速度算出部52から出力された速度信号に基づき、キャリッジ2の走査が駆動指令信号53に追従するように、FB(Feedback)制御演算を行う。演算結果に応じて、駆動指令信号53に追従するようにキャリッジ2の駆動を制御するFB制御信号が制御部55から出力される。なお、FB制御演算アルゴリズムはキャリッジ2の走査が駆動指令信号53に追従するように演算を行うものであればどの手法でもよい。
【0028】
情報出力部(走査回数検出部)56は、位置算出部51から出力された位置信号に基づき、記録媒体上の同一の記録領域に対するキャリッジ2の走査回数を検出し、検出した走査回数を示す情報(走査回数信号)を出力する。
【0029】
周期信号生成部57は、キャリッジ2で生じる機構振動に起因するインクの着弾誤差を分散させるために、位置算出部51から出力された位置信号に基づき、キャリッジ2を加振するための周期信号を生成する。周期信号としては、正弦波や矩形波などが用いることが多いが、これに限定されるものではなく一般的な周期信号であればよい。また、周期信号生成部57は、情報出力部(走査回数検出部)56から出力された情報(走査回数信号)に示されるキャリッジの走査回数に基づき、周期信号を変調して出力する。
【0030】
加算手段58は、制御部55から出力されたFB制御信号に周期信号生成部57から出力された周期信号を加算して、これらの信号を合成し、駆動回路45に出力する。なお、加算手段58は、周期信号とFB制御信号とを合成するものであれば、減算手段あるいは乗算手段などであってもよい。
【0031】
図6は、キャリッジ2で発生する機構振動の一例を示す図である。図6において、横軸はキャリッジ2の位置を示し、縦軸はキャリッジ2の走査方向の速度を示す。FB制御の結果、キャリッジ2は駆動指令信号53に基づき決定される目標速度に追従するように走査される。しかし、キャリッジ2に外乱が加わると、周期λで機構振動が発生し、キャリッジの速度にも、駆動指令信号53に基づき決定される目標速度から周期λでずれが生じる。したがって、図6においては、駆動指令信号53に基づき決定される目標速度に対するキャリッジ2の速度のずれは、キャリッジ2で発生する機構振動に対応している。なお、周期λの機構振動は、メインガイドレール3やサブガイドレール4の固有振動によるものなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0032】
図7は、図6に示す機構振動がキャリッジ2に発生した場合の、4パス(記録媒体上の同一の記録領域に対してキャリッジを4回走査する)でのマルチパス記録における、インクが配置される過程を示す図である。なお、図7において、縦軸はキャリッジ2の走査方向の理想位置からのインクの着弾誤差量を示し、0が理想位置に着弾した場合を示す。また、横軸はキャリッジ2の位置を示す。キャリッジ2に機構振動が発生しない場合は、全てのインクが0番目のラインに着弾することとなる。
【0033】
図7(a)は、キャリッジ2の1回目の走査におけるインクの着弾位置を示す図である。外乱によりキャリッジ2には機構振動が発生しているため、インクの理想着弾位置に対して誤差が発生している。
【0034】
図7(b)は2回目の走査、図7(c)は3回目の走査、図7(d)は4回目の走査におけるインクの着弾位置を示す図である。走査ごとに同じキャリッジ2の機構振動が発生するため、インクの着弾位置も機構振動と同じ周期λの誤差を有する。従って、インクの粗密が周期λで発生するため、画像に濃度むらが発生する。
【0035】
図8は、走査回数に応じて周期信号の位相を変更した場合に発生するキャリッジ2の機構振動を示す図である。図8において、横軸はキャリッジ2の位置を示し、第一縦軸はキャリッジ2の走査方向の速度を示し、第二縦軸は周期信号を示している。また、図8において、実線はキャリッジ2の速度を示し、破線は周期信号を示す。
【0036】
上述したように、本実施形態においては、4パスでのマルチパス記録を行っている。周期信号生成部57は、図6で示したキャリッジ2の機構振動と同じ周期λの周期信号を生成する。また、周期信号生成部57は、情報出力部(走査回数検出部)56から出力された情報(走査回数信号)に示されるキャリッジ2の走査回数に応じて、周期信号を変調する。具体的には、周期信号生成部57は、キャリッジ2の走査ごとに、λ/4ずつ周期信号の位相を変化させる。
【0037】
周期信号生成部57により生成された周期信号は、加算手段58によりFB制御信号と合成され、駆動回路45に入力される。駆動回路45は、加算手段58から入力された信号に応じて、モータ7を駆動させる。加算手段58から入力された信号には周期信号が合成されているため、モータ7のトルク変動が生じる。このモータ7のトルク変動に起因して、キャリッジ2に機構振動が生じる。
【0038】
図8(a)は、1回目の走査におけるキャリッジ2の機構振動を示す。キャリッジ2の機構振動は、外乱による機構振動と、周期信号が合成されることで生じるモータ7のトルク変動に起因する機構振動とが合わさったものとなる。
【0039】
図8(b)は、2回目の走査におけるキャリッジ2の機構振動を示す。2回目の走査においては、周期信号生成部57は、図8(a)に示す周期信号とは、λ/4だけ位相の異なる周期信号を出力する。この周期信号が合成されることで、モータ7のトルク変動に起因してキャリッジ2に生じる機構振動も、1回目の走査の場合と比較して、λ/4だけ位相が異なる。そのため、キャリッジ2の機構振動は、外乱による機構振動と、1回目の走査におけるトルク変動により生じる機構振動とはλ/4だけ位相が異なる機構振動とが合わさったものとなる。従って、1回目の走査と2回目の走査とでは、キャリッジ2に発生する機構振動が異なる。
【0040】
図8(c)は、3回目の走査におけるキャリッジ2の機構振動を示す。3回目の走査においては、周期信号生成部57は、図8(a)に示す周期信号とは、2λ/4だけ位相の異なる周期信号を出力する。この周期信号が合成されることで、モータ7のトルク変動に起因してキャリッジ2に生じる機構振動も、1回目の走査の場合と比較して、2λ/4だけ位相が異なる。そのため、キャリッジ2の機構振動は、外乱による機構振動と、1回目の走査におけるトルク変動により生じる振動機構とは2λ/4だけ位相が異なる機構振動とが合わさったものとなる。
【0041】
図8(d)は、4回目の走査におけるキャリッジ2の機構振動を示す。4回目の走査においては、周期信号生成部57は、図8(a)に示す周期信号とは、3λ/4だけ位相の異なる周期信号を出力する。この周期信号が合成されることで、モータ7のトルク変動に起因してキャリッジ2に生じる機構振動も、1回目の走査の場合と比較して、3λ/4だけ位相が異なる。そのため、キャリッジ2の機構振動は、外乱による機構振動と、1回目の走査におけるトルク変動により生じる振動機構とは3λ/4だけ位相が異なる機構振動とが合わさったものとなる。
【0042】
周期信号生成部57は、5回目の走査においては、1回目の走査と同様の周期信号を出力し、6回目の走査においては、2回目の走査と同様の周期信号を生成し、以後同様にして周期信号を出力していく。
【0043】
なお、本実施形態においては、マルチパス記録におけるパス数をNとした場合における周期信号の位相の変更量を、周期λ×(走査回数−1)/Nとしたが、これに限られるものではない。例えば、Mは任意の実数とし、周期信号の位相の変更量を、周期λ×(走査回数−1)/N×Mとしてもよい。また、本実施形態においては、周期信号の位相の変更量をλ/4ずつ順次変更させたが、これに限られるものではなく、例えば、走査の回数ごとにランダムに変更量を決定してもよい。
【0044】
図9は、図8に示すキャリッジ2の機構振動が発生した場合における、4パスでのマルチパス記録が行われる過程を示す図である。図9において、縦軸はキャリッジ2の走査方向の理想位置からのインクの着弾誤差量を示し、0が理想位置に着弾した場合を示す。また、図9において、横軸はキャリッジ2の位置を示す。なお、図9(a)から図9(d)はそれぞれ、キャリッジ2の1回目から4回目の走査におけるインクの着弾位置を示す図である。
【0045】
上述したように、周期信号生成部57が、キャリッジ2の走査回数に応じて、周期信号の位相を変更させることで、キャリッジ2で発生する機構振動は、走査回数ごとに異なり、インクの着弾位置の誤差も分散される。そのため、インクの理想着弾位置に対して誤差は生じるが、周期的なインクの着弾誤差とはならないため、インクジェット記録装置の大型化を招来することなく、濃度むらを視認されにくくすることができる。
【0046】
なお、本実施形態においては、キャリッジ2の走査ごとに周期信号の位相を変更したが、これに限られるものではなく、例えば、周期信号の位相とともに振幅または周期を変更してもよい。
【0047】
また、本実施形態においては、キャリッジ2の機構振動の周期と周期信号の周期とを一致させているが、これに限られるものではなく、周期信号の周期をマルチパス記録におけるキャリッジ2の走査回数に応じて変更させてもよい。このように、機構振動の周期と周期信号の周期とを一致させなくてもインクの着弾誤差を分散することが可能である
また、本実施形態においては、キャリッジ2の走査方向における、インクの理想位置に対する着弾位置の誤差量を用いて説明したが、記録媒体の搬送方向における、インクの理想位置に対する着弾位置の誤差量についても同様にして分散させることができる。
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録装置の動作について、図面を参照して説明する。なお、本実施形態に係るインクジェット記録装置の構成は、第1の実施形態に係るインクジェット記録装置と同様であるため、説明を省略する。
【0048】
本実施形態においては、周期信号生成部57は、マルチパス記録におけるキャリッジ2の走査回数に応じて、周期信号の振幅を変更する。
【0049】
図10は、走査回数に応じて周期信号の振幅を変更した場合に発生するキャリッジ2の機構振動を示す図である。図10において、横軸はキャリッジ2の位置を示し、第一縦軸はキャリッジ2の走査方向の速度を示し、第二縦軸は周期信号を示している。また、図10において、実線はキャリッジ2の速度を示し、破線は周期信号を示す。
【0050】
周期信号生成部57は、図6で示したキャリッジ2の機構振動と同じ周期λの周期信号を生成する。また、周期信号生成部57は、情報出力部(走査回数検出部)56から出力された情報(走査回数信号)に示されるキャリッジ2の走査回数に応じて、周期信号の振幅を変化させる。
【0051】
周期信号生成部57により生成された周期信号は、加算手段58によりFB制御信号と合成され、駆動回路45に入力される。駆動回路45は、加算手段58から入力された信号に応じて、モータ7を駆動させる。加算手段58から入力された信号には周期信号が合成されているため、モータ7のトルク変動が生じる。このモータ7のトルク変動に起因して、キャリッジ2に機構振動が生じる。
【0052】
図10(a)は、1回目の走査におけるキャリッジ2の機構振動を示す。キャリッジ2の機構振動は、外乱による機構振動と、周期信号が合成されることで生じるモータ7のトルク変動に起因する機構振動とが合わさったものとなる。
【0053】
図10(b)は、2回目の走査におけるキャリッジ2の機構振動を示す。2回目の走査においては、周期信号生成部57は、図8(a)に示す周期信号とは振幅の異なる周期信号を出力する。この周期信号が合成されることで、モータ7のトルク変動に起因してキャリッジ2に生じる機構振動も、1回目の走査の場合と比較して、振幅が変わる。そのため、キャリッジ2の機構振動は、外乱による機構振動と、1回目の走査におけるトルク変動により生じる機構振動とは振幅が異なる機構振動とが合わさったものとなる。従って、1回目の走査と2回目の走査とでは、キャリッジ2に発生する機構振動は異なる。
【0054】
同様にして、周期信号生成部57は、キャリッジ2の走査回数に応じて、周期信号の振幅を変更する。そのため、図10に示すように、キャリッジ2の走査回数に応じて異なる機構振動が、キャリッジ2に発生する。なお、図10(c)、図10(d)はそれぞれ、3回目の走査、4回目の走査におけるキャリッジ2の機構振動および周期信号を示す。
【0055】
図11は、図10に示すキャリッジ2の機構信号が発生した場合における、4パスでのマルチパス記録が行われる過程を示す図である。図11において、縦軸はキャリッジ2の走査方向の理想位置からのインクの着弾誤差量を示し、0が理想位置に着弾した場合を示す。また、図11において、横軸はキャリッジ2の位置を示す。なお、図11(a)から図11(d)はそれぞれ、キャリッジ2の1回目から4回目の走査におけるインクの着弾位置を示す図である。
【0056】
上述したように、周期信号生成部57が、キャリッジ2の走査回数に応じて、周期信号の振幅を変更させることで、キャリッジ2で発生する機構振動は、走査回数ごとに異なり、インクの着弾位置の誤差も分散される。そのため、インクの理想着弾位置に対して誤差は生じるが、周期的なインクの着弾誤差とはならないため、インクジェット記録装置の大型化を招来することなく、濃度むらを視認されにくくすることができる。
【0057】
なお、本実施形態においては、キャリッジ2の走査ごとに周期信号の振幅を変更したが、これに限られるものではなく、例えば、周期信号の振幅とともに位相または周期を走査ごとに変更してもよい。
【0058】
また、本実施形態においては、キャリッジ2の走査方向における、インクの理想位置に対する着弾位置の誤差量を用いて説明したが、記録媒体の搬送方向における、インクの理想位置に対する着弾位置の誤差量についても同様に分散させることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 キャリッジ
7 モータ
45 駆動回路
56 情報出力部(走査回数検出部)
57 周期信号生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクの吐出を行う記録ヘッドを搭載するキャリッジと、前記キャリッジを走査方向に駆動するモータとを備え、前記キャリッジを記録媒体上の1つの記録領域に対して複数回走査させることで記録を行うインクジェット記録装置であって、
1つの記録領域に対する前記キャリッジの走査回数を検出し、検出した走査回数を示す情報を出力する情報出力部と、
周期信号を生成し、該生成した周期信号を前記情報出力部から出力される前記情報に示される前記キャリッジの走査回数に応じて変調して出力する周期信号生成部と、
前記キャリッジの駆動を制御する制御信号に前記周期信号生成部から出力された前記周期信号を合成した信号に基づき前記モータに前記キャリッジを駆動させる駆動回路と、を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記周期信号生成部は、前記キャリッジの走査回数に応じて前記周期信号の位相を変更することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記周期信号生成部は、前記キャリッジで生じる機構振動の周期と前記キャリッジの走査回数とに基づき、前記周期信号の位相の変更量を決定することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記周期信号生成部は、前記キャリッジの走査回数に応じて前記周期信号の振幅を変更することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記周期信号生成部は、前記キャリッジで生じる機構振動の周期と前記キャリッジの走査回数とに基づき、前記周期信号の振幅の変更量を決定することを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記周期信号生成部は、前記キャリッジの走査回数に応じて前記周期信号の周期を変更することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記周期信号生成部は、前記キャリッジで生じる機構振動の周期と前記キャリッジの走査回数とに基づき、前記周期信号の周期の変更量を決定することを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記周期信号生成部は、前記周期信号の周期を、前記キャリッジで発生する機構振動の周期と同一にすることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−22749(P2013−22749A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156556(P2011−156556)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】