説明

インクセット、記録方法、及び記録物

【課題】ゴールデングロス(金光り)が解消若しくは抑制された記録物を得ることのできるゴールデングロス防止用ブラックインク組成物、前記インク組成物を含むインクセット、並びに前記インクセットを用いる記録方法及び記録物を提供する。
【解決手段】ゴールデングロス防止用ブラックインク組成物は、(1)水と、(2)カーボンブラックと、(3)微粒子エマルジョンとを含み、(A)前記カーボンブラックの含有量が0.4重量%未満であり、そして(B)前記の微粒子エマルジョン含有量がカーボンブラックの含有量の20倍以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラックインク組成物、前記ブラックインク組成物を含有するインクセット、前記インクセットを用いる記録方法、及び前記方法により得られた記録物に関する。本発明のブラックインク組成物によれば、記録物におけるゴールデングロス(golden gloss)の発生を有効に抑制することができる。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法等によって、良好な黒白モノクロ画像やグレースケールを得る目的で、カーボンブラック濃度が異なる2種類又は3種類以上のブラックインクを含むインクセットを用いることがある。例えば、黒白モノクロ画像記録用インクセットとして、ブラックインクとライトブラックインクとからなる2色インクセットを用いることがある。また、カラー記録用インクセットにおいても、カラー画像の無彩色部分(黒色、灰色及び白色の部分)の高品位化の要求に応じるために、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク及びイエローインクからなる4色インクセット(あるいは、それらにライトシアンインク及びライトマゼンタインクを追加した6色インクセット)に、更にライトブラックインクを加えて5色インクセット(あるいは、7色インクセット)とすることがある。なお、ライトブラックインクとは、ブラックインクよりもそのカーボンブラック濃度を低くしたものであり、前記の通り、シャドー部等の暗色に対する色再現性やグレーの階調性を向上させる目的で使用する。
【0003】
例えば、カーボンブラック濃度が異なる3種のブラックインクを用いることにより、グレーバランスの安定性とメタメリズムが飛躍的に向上する。特にグレーバランスの点で、その効果が非常に大きい。
すなわち、グレーバランスを、1種類又は2種類のブラックインクだけで出力すると、ハイトーン領域(明るい領域)での粒状性が問題となる。この粒状性を解消する手段としては、例えば、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクの混合によってハイトーン無彩色領域を出力する方法がある。しかしながら、無彩色領域を複数種の有彩色で出力する方式を採用すると、出力色の管理に非常に高い技術が必要となり、出力色がばらつく危険性がある。
【0004】
前記の出力色のばらつきには、種々の要因があり、その一つとして、シアンインク(ライトシアンインク)、マゼンタインク(ライトマゼンタインク)、及びイエローインク間でのインク重量のばらつきがある。すなわち、インク重量がばらつくと出力色がばらつく要因となる。例えば、シアンインクの吐出量が10%増加して、イエローインクの吐出量が10%減少すると、全体としての出力色は青味側にシフトする。もちろん、インクジェットプリンタは、常に全く同じ出力が得られるように設計されている。しかしながら、インクは液体であるため、外部環境の変化による影響を受ける。例えば、温度変化によりインクの粘度が変化する。インクジェットヘッドから圧力を与えることによって吐出させるインクジェット方式では、インク液の粘度が変化すると当然にインク吐出量も変化してしまう。インクジェットプリンタでは、こうした影響を小さくさせるために、例えば、ヘッド駆動には出力時の温度補正機能を備えているが、わずかなインク重量変化さえも完全に消失させることは現実には困難であり、わずかなインク重量変化が発生する可能性は存在する。更に、実際には、温度による出力色の変化以外にも、湿度も要因となり得るし、記録媒体(インクジェットメディア)もこれら環境の影響を受けて、微妙な色変化の要因となる。
【0005】
ハイトーン領域(明るい領域)を複数種の有彩色で出力する方式における前記の欠点は、カーボンブラック濃度が低い第3のブラックインクを用いることによって解消する。すなわち、カーボンブラック濃度が低い第3のブラックインクを用いると、仮にインクの吐出量にばらつきが発生しても、無彩色の色相の変化としては影響を受けず、結果として色相が安定することになる。
【0006】
また、ブラックインクはドットの視認性が最も高い色である。このドット視認性を、例えばハイトーン領域で、軽減させるためには、インクに含まれるカーボンブラックの濃度を低下させる必要がある。その一方で「黒味」をしっかり表現させるためにはカーボンブラック濃度を一定レベル以上に保持する必要もある。そのためには、ドットが見えない(あるいは、見えにくい)濃度のインクと、黒味をしっかりと表現させるためのカーボンブラック濃度のインクとが必要となる。こうした観点では、2種のブラックインクだけでは中間階調が表現しにくいため、中間濃度インクが必要となる。以上のように、カーボンブラック濃度が低いブラックインクと中間濃度インクとを含む3種以上のブラックインクを有するインクセットは非常に有意義となる。
【0007】
しかしながら、2種又は3種以上のブラックインクを有するインクセットを用いて記録した場合の効果や欠点について研究し、その結果を報告した例は、現在のところほとんど知られていない。
例えば、特開平6−226998号公報(特許文献1)には、濃度の異なる複数種類のインク組成物を使用する画像記録装置及び記録ヘッドが記載されている。しかしながら、この特開平6−226998号公報には、濃度の異なるそれぞれ2〜4種類の濃度のブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンを備えた記録装置が記載されているに過ぎない。
また、特開平11−320924号公報(特許文献2)には、カーボンブラック濃度の異なる複数種類のブラックインク組成物をカラーインク組成物のセットと組み合わせて使用する画像記録装置及びその制御方法が記載されている。しかしながら、この特開平11−320924号公報に記載の技術は、同一の記録媒体上にカラー画像とは別に、モノクロ高階調画像を形成することを目的としており、そのモノクロ高階調画像形成のために複数種類のブラックインク組成物を用いることが記載されているのみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−226998号公報
【特許文献2】特開平11−320924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況下で、本発明者は、2種以上(特には3種)のブラックインク組成物を有するインクセットを用いて記録した場合の効果や欠点について研究していたところ、カーボンブラック濃度が薄いブラックインク組成物を用いて記録した場合には、記録画像において、蛍光灯や外光などが記録画像に反射した際、その反射光が金色のような光沢を発生する問題があることを見出した。この現象を、本発明者はゴールデングロス(golden gloss)と命名した。すなわち、ゴールデングロスとは、記録媒体上に印字された記録画像に対して、観察者の観察角度を変化させたり、光源の照射角度を変化させると、薄いブラックインク組成物で記録した領域の一部が金色にキラキラ光る現象であり、ゴールデングロスが発生すると、記録物の色調や画像の輪郭までも判別することが非常に困難になる。
そこで、本発明者は、前記ゴールデングロスの発生を防止ないしは抑制する手段を鋭意研究したところ、微粒子エマルジョンを或る特定量以上でインク組成物に加えることにより前記ゴールデングロスの発生を事実上解消することができることを見出した。本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明の課題は、ゴールデングロスの発生を防止ないしは抑制するブラックインク組成物及びゴールデングロスの発生を防止ないしは抑制するインクセットを提供することにある。
【0010】
本発明者は更に、2種以上(特には3種)のブラックインク組成物を有するインクセットを用いて記録した場合の効果や欠点について研究していたところ、中間階調を表現するための中間階調用ブラックインク組成物を用いて記録した場合には、記録画像において、灰色の明度がずれる部分が生じる問題があることを見出した。この現象を、本発明者は位相ずれと命名した。位相ずれとは、記録媒体上に印字された記録画像に対して、観察者の観察角度を変化させたり、光源の照射角度を変化させると、中間階調用ブラックインク組成物で記録した領域の一部で灰色の明度がずれて、本来の灰色よりも黒色あるいは白色側にずれて観察される現象である。位相ずれが発生すると、記録物の明度のずれによって画像の輪郭までも判別することが非常に困難になる。
そこで、本発明者は、前記位相ずれの発生を防止ないしは抑制する手段を鋭意研究したところ、微粒子エマルジョンを或る特定量以上でインク組成物に加えることにより前記位相ずれの発生を事実上解消することができることを見出した。
従って、本発明の別の課題は、ゴールデングロスの発生を防止ないしは抑制すると共に、位相ずれの発生を防止ないしは抑制するインクセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題は、本発明により、(1)水と、(2)カーボンブラックと、(3)微粒子エマルジョンとを含むブラックインク組成物であって、(A)前記カーボンブラックの含有量が0.4重量%未満であり、そして(B)前記の微粒子エマルジョンの固形分含有量がカーボンブラックの含有量の20倍以上であることを特徴とする、前記ブラックインク組成物によって解決することができる。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、前記カーボンブラックの含有量が0.01重量%以上である。
本発明の別の好ましい態様によれば、前記微粒子エマルジョンとして、ポリアルキレン型エマルジョン及び/又はエチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物又は共重合性界面活性剤の存在下で重合して得られる酸価が40以下の共重合体を、無機塩基によってpHを調整したpH調整樹脂を樹脂成分とするエマルジョンを含む。
本発明の別の好ましい態様によれば、前記pH調整樹脂の調製に用いる無機塩基が、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物である。
本発明の別の好ましい態様によれば、前記pH調整樹脂の調製に用いるアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物が、ビニルアルコール系重合体である。
本発明の更に別の好ましい態様によれば、前記pH調整樹脂の調製に用いるエチレン性不飽和カルボン酸単量体が、アクリル酸又はメタクリル酸である。
本発明の更に別の好ましい態様によれば、前記pH調整樹脂の調製に用いる前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な単量体が、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体である。
本発明の更に別の好ましい態様によれば、前記pH調整樹脂を樹脂成分とするエマルジョンのpHが、8〜11(より好ましくは9〜11)である。
本発明の更に別の好ましい態様によれば、前記pH調整樹脂の含有量が、ブラックインク組成物の全重量に対して0.01重量%〜10重量%である。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、前記ポリアルキレン型エマルジョンの固形分含有量が、ブラックインク組成物の全重量に対して0.5重量%〜10重量%である。
本発明の好ましい態様によれば、前記ポリアルキレン型エマルジョンが、ポリエチレン型エマルジョン又はポリプロピレン型エマルジョンである。
本発明の別の好ましい態様によれば、前記pH調整樹脂と前記ポリアルキレン型エマルジョン固形分との合計含有量が、ブラックインク組成物の全重量に対して0.5重量%〜20重量%である。
本発明の別の好ましい態様によれば、前記ブラックインク組成物は、更に、補色用着色剤を含む。
本発明の前記ブラックインク組成物は、好ましくは、インクジェット記録用である。
【0014】
また、本発明は、前記ブラックインク組成物、及び前記ブラックインク組成物よりもカーボンブラック濃度が高い濃いブラックインク組成物を含むインクセットにも関する。前記インクセットは、好ましくは、カーボンブラック含有量がそのブラックインク組成物の全重量に対して0.4重量%〜1.5重量%(好ましくは、0.4〜1重量%及び/又は1〜1.5重量%)である中間階調用ブラックインク組成物、及びカーボンブラック含有量がそのブラックインク組成物の全重量に対して1.5重量%〜10重量%である濃いブラックインク組成物を含む。
更に、本発明は、前記の中間階調用ブラックインク組成物が、微粒子エマルジョンを含有し、その微粒子エマルジョンの固形分含有量が、カーボンブラック含有量の2倍量以上であるインクセットにも関する。前記インクセットは、好ましくは、前記微粒子エマルジョンとして、前記ポリアルキレン型エマルジョン及び/又は前記pH調整樹脂を樹脂成分とするエマルジョンを含む。
更に、本発明は、インク組成物の液滴を吐出して、前記液滴を記録媒体に付着させて記録を行う記録方法であって、前記インクセットを用いることを特徴とする記録方法にも関する。
更にまた、本発明は、前記記録方法によって記録されたことを特徴とする記録画像にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】3種類のブラックインク組成物を用いてグレースケールを印刷した場合にゴールデングロス(GG)が発生する領域及び位相ずれが発生する領域を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
「ゴールデングロス」(golden gloss;以下、GGと略称することがある)とは、前記のとおり、記録媒体上に印字された記録画像に対して、観察者の観察角度を変化させたり、光源の照射角度を変化させると、薄いブラックインク組成物で記録した領域の一部が金色にキラキラ光る現象である。本発明者の研究によれば、ゴールデングロスは、或る特定領域にのみ発生する。このゴールデングロスが発生すると、その発生領域は勿論、その近辺領域においても、記録物の色調の判別は不能になり、記録画像の輪郭までも判別することが非常に困難になる。
【0017】
ゴールデングロスが発生する領域について、図1に基づいて説明する。図1に模式的に示すように、濃いブラックインク組成物K1と、中間階調用ブラックインク組成物K2と、薄いブラックインク組成物K3との使用割合を変化させることによって、黒色から白色に至るグレースケールを適切に作成することができる。このように、3種類のブラックインク組成物K1、K2、及びK3を用いると、前記のように、グレーバランスの安定性とメタメリズムを飛躍的に向上させることができる。しかしながら、図1の「GG発生領域」(すなわち、ゴールデングロス発生領域)に示すとおり、主に、薄いブラックインク組成物K3によって記録される領域に、ゴールデングロスが発生する。
【0018】
前記の「GG発生領域」は、グレーレベル約100〜約140の領域を中心として、約90〜約160の領域にまで及ぶ(ここでグレーレベル0を絶対黒とし、グレーレベル255を絶対白とする)。また、「GG発生領域」の明度範囲は、約50〜約60を中心領域とし、約40〜約70の領域まで及ぶ。
2種以上のブラックインク組成物を用いて黒白モノクロ画像を記録する場合には、GG発生領域を記録するのに用いられるブラックインク組成物は、通常、カーボンブラックをそのブラックインク組成物の全重量に対して0.4重量%未満の量(特には、0.01重量%以上で0.4重量%未満の量)で有する濃度の比較的薄いブラックインク組成物である。
【0019】
本発明は、複数のブラックインク組成物を用いる場合に発生する本発明者が見出した現象を解決するものであり、複数のブラックインク組成物を含むインクセットにおいて、その組成物全重量に対して0.4重量%未満の量(特には、0.01重量%以上で0.4重量%未満の量)でカーボンブラックを含有するブラックインク組成物に、更にゴールデングロスを解消ないし抑制するために微粒子エマルジョンを含有させ、しかも、前記の微粒子エマルジョンを特定量以上で含有させることにより、GGの発生が防止ないし減少された記録画像を得ることが可能なブラックインク組成物を提供する。
【0020】
一方、位相ずれとは、前記のとおり、記録媒体上に印字された記録画像に対して、観察者の観察角度を変化させたり、光源の照射角度を変化させると、中間階調用ブラックインク組成物で記録した領域の一部で灰色の明度がずれて、本来の灰色よりも黒色側あるいは白色側にずれて観察される現象である。位相ずれが発生すると、その領域が本来の灰色よりも薄い灰色に見えたり、暗い灰色に見えたり、あるいは完全に真っ黒になるので、画像の輪郭までも判別することが非常に困難になる。こうした現象は特にグロス調又はセミグロス調といった光沢系の記録媒体に記録した際に生じやすく、マット調の記録媒体では比較的には起こりにくい。
【0021】
位相ずれが発生する領域は、図1の「位相ずれ発生領域」に示すとおり、主に、中間階調用ブラックインク組成物K2によって記録される領域である。前記の「位相ずれ発生領域」は、グレーレベル約35〜約55の領域を中心として、約30〜約60の領域にまで及ぶ(ここでグレーレベル0を絶対黒とし、グレーレベル255を絶対白とする)。また、「位相ずれ発生領域」の明度範囲は、約25〜約30を中心領域とし、約20〜約35の領域まで及ぶ。
2種以上のブラックインク組成物を用いて黒白モノクロ画像を記録する場合には、位相ずれ発生領域を記録するのに用いられるブラックインク組成物は、通常、カーボンブラックをそのブラックインク組成物の全重量に対して0.4重量%〜1.5重量%の量で有する中間階調用ブラックインク組成物である。
【0022】
本発明は、別の観点では、複数のブラックインク組成物を用いる場合に発生する本発明者が見出した複数の現象(すなわち、ゴールデングロス及び位相ずれ)を同時に解決するものであり、複数のブラックインク組成物を含むインクセットにおいて、(1)組成物全重量に対して0.4重量%未満の量(特には、0.01重量%以上で0.4重量%未満の量)でカーボンブラックを含有するブラックインク組成物に、更にゴールデングロスを解消ないし抑制するために微粒子エマルジョンを含有させ、しかも、前記の微粒子エマルジョンを特定量以上で含有させると共に、(2)組成物全重量に対して0.4重量%〜1.5重量%の量でカーボンブラックを含有するブラックインク組成物に、更に位相ずれを解消ないし抑制するために微粒子エマルジョンを含有させ、しかも、その微粒子エマルジョンを特定量以上で含有させることにより、ゴールデングロスと位相ずれの発生を同時に防止ないし減少された記録画像を得ることが可能なインクセットを提供する。
【0023】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物が含有する前記の微粒子エマルジョンは、分散媒が水であり、分散質がポリマー微粒子である水系分散液である。この微粒子エマルジョンに含まれるポリマー微粒子の最低造膜温度(MFT)は、特に限定されるものではないが、好ましくは25℃以下、より好ましくは0〜25℃、更に好ましくは10〜20℃である。MFTは、JIS K 6800に従って測定される。MFTが前記範囲内のエマルジョンを含有する本発明に係るインク組成物を用いて記録媒体に印字することにより、室温下で印字面を被覆する保護膜が自動的に形成される。
ゴールデングロス防止用ブラックインク組成物における前記微粒子エマルジョンの固形分濃度は、カーボンブラック濃度の20倍以上である限り任意の濃度であることができるが、通常、ゴールデングロス防止用ブラックインク組成物の全重量に対して、0.2〜20重量%であり、好ましくは0.5〜15重量%、より好ましくは1〜8重量%である。
【0024】
一方、本発明のインクセットが、位相ずれ防止用ブラックインク組成物を含有する場合、その位相ずれ防止用ブラックインク組成物が含有する前記の微粒子エマルジョンも、分散媒が水であり、分散質がポリマー微粒子である水系分散液である。この微粒子エマルジョンに含まれるポリマー微粒子の最低造膜温度(MFT)も、特に限定されるものではないが、好ましくは25℃以下、より好ましくは0〜25℃、更に好ましくは10〜20℃である。
位相ずれ防止用ブラックインク組成物における前記微粒子エマルジョンの固形分濃度は、カーボンブラック濃度の2倍以上である限り任意の濃度であることができるが、通常、位相ずれ防止用ブラックインク組成物の全重量に対して0.8〜10重量%であり、好ましくは1〜8重量%、より好ましくは1.5〜5重量%である。
【0025】
前記微粒子エマルジョンに含有される前記ポリマー微粒子のガラス転移温度(Tg)は、該エマルジョンのMFTを前記範囲内に調整する観点から、−15〜10℃であることが好ましく、−5〜5℃であることが更に好ましい。Tgは、JIS K 6900に従って測定される。
前記エマルジョンのMFTを前記範囲内に調整するその他の方法としては、市販のMFT降下剤を使用する方法を挙げることができる。
【0026】
前記ポリマー微粒子は、インク組成物中における分散安定性の観点から、その平均粒子径が5〜200nmであることが好ましく、5〜100nmであることが更に好ましい。
【0027】
また、前記ポリマー微粒子は、親水性部分と疎水性部分とを有するものが好ましい。
また、前記ポリマー微粒子の構造は、単相構造、複相構造(コアシェル構造)等のいずれでもよい。該コアシェル構造は、異なる2種以上のポリマーが相分離して存在する構造であればよく、例えば、シェル部がコア部を完全に被覆している構造、シェル部がコア部の一部を被覆している構造、シェル部ポリマーの一部がコア部ポリマー内にドメイン等を形成している構造、コア部とシェル部の中間に更にもう一層以上、組成の異なる層を含む3層以上の多層構造であってもよい。
【0028】
前記ポリマー微粒子として、前記コアシェル構造のものを用いる場合、コア部がエポキシ基を有するポリマーからなり、シェル部がカルボキシル基を有するポリマーからなるものが好ましい。インク組成物に、このようなポリマー微粒子を含有させることにより、前記保護膜の形成時に、前記コア部のエポキシ基と前記シェル部のカルボキシル基とが結合して網目構造を形成するので、該保護膜の強度を向上させることができる。
【0029】
また、前記ポリマー微粒子は、カルボキシル基を有する不飽和ビニルモノマーに由来する構造を1〜10重量%有し、且つ重合可能な二重結合を好ましくは2つ以上、更に好ましくは3つ以上有する架橋性モノマーによって架橋された構造(架橋性モノマーに由来する構造)を0.2〜4重量%有するものが好ましい。インク組成物に、このようなポリマー微粒子を含有させることにより、ノズルプレート表面が該インクにより濡れ難くなるので、該インク液滴の飛行曲がりを防止することができ、吐出安定性をより向上させることができる。
【0030】
前記カルボキシル基を有する不飽和ビニルモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等を挙げることができ、特にメタクリル酸が好ましい。
【0031】
前記架橋性モノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物;ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物;トリメチロールプロパンメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物;メチレビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等を挙げることができる。
【0032】
前記ポリマー微粒子は、前記エマルジョンとして、本発明に係るインク組成物に含有されるが、該エマルジョンは、公知の乳化重合により製造することができる。例えば、不飽和ビニルモノマーを、界面活性剤(乳化剤)、重合触媒、重合開始剤、分子量調整剤及び中和剤等の存在下、水中で乳化重合させることにより、前記ポリマー微粒子の前記エマルジョンが製造される。
【0033】
前記不飽和ビニルモノマー(前記ポリマー微粒子を構成するモノマー)としては、一般的に乳化重合で使用されるアクリル酸エステルモノマー類、メタクリル酸エステルモノマー類、芳香族ビニルモノマー類、ビニルエステルモノマー類、ビニルシアン化合物モノマー類、ハロゲン化モノマー類、オレフィンモノマー類及びジエンモノマー類等を挙げることができる。具体的には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル等のビニルシアン化合物類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化モノマー類;スチレン、2−メチルスチレンビニルトルエン、tert−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類;エチレン、プロピレン、イソプロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、クロロプレン等のジエン類;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニルモノマー類を挙げることができる。
【0034】
前記界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩等)及び非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド等)を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、アセチレングリコール[オレフィンY並びにサーフィノール82,104,440,465及び485(何れもAir Products and Chemicals Inc.製)]を用いることもできる。
【0035】
前記エマルジョン(前記ポリマー微粒子)の製造時においては、印刷安定性の向上の観点から、前記乳化重合の際に、前記不飽和ビニルモノマーに加えて、アクリルアミド類及び水酸基含有モノマーからなる群から選ばれる1種又は2種以上を配合することが好ましい。該アクリルアミド類としては、例えば、アクリルアミド及びN,N’−ジメチルアクリルアミド等を挙げることができ、使用に際しては、これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、該水酸基含有モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート及び2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0036】
また、前記ポリマー微粒子として、前記コアシェル構造のものを用いる場合、それを含有するエマルジョンは、例えば、特開平4−76004号公報に開示されている方法(前記不飽和ビニルモノマーの多段階の乳化重合)等により製造することができる。
なお、前述したように、コアシェル構造のポリマー微粒子は、そのコア部がエポキシ基を有するポリマーからなることが好ましいが、コア部へのエポキシ基の導入方法としては、例えば、エポキシ基を有する不飽和ビニルモノマーであるグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等を他の不飽和ビニルモノマーと共重合させる方法、あるいは一種以上の不飽和ビニルモノマーを重合させてコア部(コア粒子)を調製する際に、エポキシ化合物を同時に添加し、これらを複合化させる方法等を挙げることができる。特に、前者の方法が、重合の容易さや重合安定性等の点で好ましい。
【0037】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物において、前記微粒子エマルジョンの固形分含有量は、前記カーボンブラックの含有量の20倍量以上である。上限は特に限定されないが、前記カーボンブラックの含有量の50倍量以上になると、吐出不良となってしまう場合がある。前記微粒子エマルジョンの含有量が、前記カーボンブラックの含有量の20倍量未満になると、ゴールデングロスを充分に抑制することができない。
【0038】
また、本発明のインクセットが位相ずれ防止用ブラックインク組成物を含有する場合、その位相ずれ防止用ブラックインク組成物において、前記微粒子エマルジョンの固形分含有量は、前記カーボンブラックの含有量の2倍量以上である。上限は特に限定されないが、前記カーボンブラックの含有量の10倍量以上になると、吐出不良となってしまう場合がある。前記微粒子エマルジョンの含有量が、前記カーボンブラックの含有量の2倍量未満になると、位相ずれを充分に抑制することができない。
【0039】
前記の微粒子エマルジョンの樹脂成分としては、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物又は共重合性界面活性剤の存在下で重合して得られる酸価が40以下の共重合体(以下、「アルカリ可溶性共重合体」と称する)を、無機塩基によってpHを調整して製造したpH調整樹脂を用いることができる。
【0040】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物において、前記pH調整樹脂の含有量は、ブラックインク組成物の全重量に対して、0.01〜10重量%であることができ、好ましくは0.5〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%である。但し、pH調整樹脂含有量が5重量%以上になると、GGの発生抑制には効果があるものの、印刷物の色味が印刷直後から変化することがある。
【0041】
また、本発明のインクセットが位相ずれ防止用ブラックインク組成物を含有する場合、その位相ずれ防止用ブラックインク組成物において、前記pH調整樹脂の含有量も同様に、ブラックインク組成物の全重量に対して、約0.01〜約10重量%であることができ、好ましくは約0.05〜約5重量%、より好ましくは約0.1〜約1重量%である。
【0042】
前記のアルカリ可溶性共重合体を製造する際に用いるアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物とは、水溶性高分子化合物のうち、例えば、分子量1000当りにアルコール性水酸基を5〜25個含有している化合物をいい、例えば、ポリビニルアルコール及びその各種変性物などのビニルアルコール系重合体;酢酸ビニルとアクリル酸、メタクリル酸又は無水マレイン酸との共重合体のけん化物;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロースなどのセルロース誘導体;アルキル澱粉、カルボキシルメチル澱粉、酸化澱粉などの澱粉誘導体;アラビアゴム、トラガントゴム;ポリアルキレングリコールなどを挙げることができる。中でも、工業的に品質が安定したものを入手しやすい点から、ビニルアルコール系重合体が好ましい。
【0043】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常1,000〜500,000、好ましくは2,000〜300,000である。分子量が1,000より小さいと、分散安定効果が低くなることがあり、逆に500,000より大きいと、この高分子化合物の存在下で重合するときの粘度が高くなり、重合が困難になることがある。
アルカリ可溶性共重合体の製造に使用する前記アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の量は、単量体100重量部に対して、通常、0.05重量部〜20重量部、好ましくは1〜10重量部である。0.05重量部より少ないと分散安定効果が低くなるので、重合時に凝集物が発生し、逆に20重量部より多くなると、重合するときの粘度が高くなり、重合が困難になることがある。
【0044】
なお、アルカリ可溶性共重合体の製造においては、乳化重合において通常使用される界面活性剤を併用しないことが好ましいが、界面活性剤を併用する場合は、界面活性剤の量はアルカリ可溶性共重合体の合成に使用する全単量体の100重量部に対して、通常、0.05重量部未満である。界面活性剤の量が多くなると得られた画像の耐水性に劣る傾向がある。
【0045】
アルカリ可溶性共重合体の製造に使用するエチレン性不飽和カルボン酸単量体は、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ−2−ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル単量体;無水マレイン酸、無水シトラコン酸等の多価カルボン酸無水物;などを挙げることができる。これらの単量体は、単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらのエチレン性不飽和酸単量体のうち、(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
エチレン性不飽和カルボン酸単量体の使用量は、アルカリ可溶性共重合体の酸価が40以下、好ましくは10〜40、より好ましくは30〜40になるように算出される量である。この量を換算してアルカリ可溶性共重合体の酸価が40を超えたり、あるいは10未満になると、得られた画像の品質が劣ることがある。
【0046】
アルカリ可溶性共重合体の製造に使用することのできる、エチレン性不飽和カルボン酸単量体と共重合可能なその他の単量体は、特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;(メタ)アクリルニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;アリルグリシジルエーテル等のエチレン性不飽和グリシジルエーテル単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和アミド単量体;1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等の共役ジエン単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル等を挙げることができる。これらの単量体は単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。中でも、得られた画像の耐光性及び光沢性に優れる点で、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体が好ましく、メタアクリル酸メチル及びアクリル酸エチルがより好ましい。
【0047】
アルカリ可溶性共重合体は、上記単量体混合物を、好ましくは水媒体中で、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下に重合することによって得ることができる。この際、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物及び単量体混合物は、重合開始前に反応器に一括して全量を添加するか、又は重合開始前には一部分を装入し、重合開始後に残りの部分を分割的に少しずつ添加するか、あるいは残りの部分を連続的に添加することができる。分割添加あるいは連続添加する場合、添加量は均等にあるいは一定にすることもでき、重合の進行段階に応じて変えることもできる。
【0048】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物と単量体混合物とは、それぞれ別々に添加しても、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物、単量体混合物及び水を混合して得られる単量体分散化物の形態で添加しても構わない。アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物と単量体とを別々に添加する場合は、両者の添加をほぼ同時に開始するのが望ましい。単量体混合物のみが先に多量に添加されると凝集物が発生しやすく、逆に、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物のみが先に多量に添加されると重合系が増粘したり、又は凝集物が発生しやすくなるなどの問題が起きやすい。両者の添加終了は、必ずしも同時である必要はないがほぼ同時であることが望ましい。
【0049】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物と単量体混合物の添加方法のうち、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物を単量体混合物及び水と混合して分散化して、重合開始後に反応器に添加する方法が、アルカリ可溶性共重合体の高分子鎖におけるエチレン性不飽和酸単量体の連鎖分布が均一になるので好ましい。
前記pH調整樹脂の製造に用いるアルカリ可溶性共重合体は、共重合性界面活性剤の存在下に、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を重合(好ましくは乳化重合)して製造することができる。
【0050】
アルカリ可溶性共重合体の製造に用いる共重合性界面活性剤は、その分子中に1個以上の重合可能なビニル基を有する界面活性剤である。その具体例としては、プロペニル−2−エチルヘキシルスルホコハク酸エステルナトリウム、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレン硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンエステル燐酸エステルなどのアニオン性重合性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルベンゼンエーテル(メタ)アクリル酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(メタ)アクリル酸エステルなどのノニオン性重合性界面活性剤などを挙げることができる。これらの共重合性界面活性剤のうち、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸アンモニウム塩は、単量体の乳化分散性能及び単量体との共重合性のバランスが優れているので好適である。
【0051】
前記共重合性界面活性剤の量は、アルカリ可溶性共重合体の合成に使用する全単量体100重量部に対して、通常、0.01〜5.0重量部、好ましくは、0.05〜5.0重量部、更に好ましくは0.1〜3.0重量部である。0.01重量部未満では乳化安定性が低くなるので、重合時に多量の凝集物が発生することがある。逆に5.0重量部を超えると、pH調整樹脂組成物が泡立ちやすくなる間題が発生することがある。なお、アルカリ可溶性共重合体の重合においては、非重合性界面活性剤を併用しないことが好ましいが、非重合性界面活性剤を併用する場合は、非重合性界面活性剤の量はアルカリ可溶性共重合体の合成に使用する全単量体の100重量部に対して、通常、0.05重量部未満である。非重合性界面活性剤の量が多くなると得られた画像の耐水性に劣る傾向がある。
【0052】
アルカリ可溶性共重合体の製造に用いることのできる重合開始剤は、特に限定されない。具体例としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ペンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩が好ましい。
【0053】
重合開始剤の使用量は、その種類によって異なるが、アルカリ可溶性共重合体の水分散液の製造で使用する全単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは0.8〜4重量部である。
また、これらの重合開始剤は還元剤との組み合わせで、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。
レドックス系重合開始剤の還元剤は特に限定されず、その具体例としては、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;などを挙げることができる。
これらの還元剤は単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
還元剤の使用量は、還元剤によって異なるが、重合開始剤1重量部に対して0.03〜10重量部であることが好ましい。
【0054】
アルカリ可溶性共重合体の重量平均分子量を調節するためには、必要に応じて連鎖移動剤を重合時に使用することができる。連鎖移動剤としては、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカブタンなどのメルカプタン類;α−メチルスチレンダイマー;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドなどのスルフィド類;2−メチル−3−ブチンニトリル、3−ペンテンニトリルなどのニトリル化合物;チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸プロピル、チオグリコール酸オクチルなどのチオグリコール酸エステル;β−メルカプトプロピオン酸メチル、β−メルカプトプロピオン酸オクチルなどのβ−メルカプトプロピオン酸エステル;等があり、これらは単独又は二種以上で使用できる。これら連鎖移動剤のうちチオグリコール酸エステルが好ましく、チオグリコール酸オクチルがより好ましい。
【0055】
連鎖移動剤を使用する場合、その添加量は、アルカリ可溶性共重合体の製造に使用する単量体100重量部に対して、通常、0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜4重量部である。連鎖移動剤の使用量が、少なすぎると、中和後の粘度が高くなり取扱いが困難になることがあり、また、多すぎると、分子量が著しく低下することがある。連鎖移動剤の添加方法は、特に限定されず、全量を一括して添加しても、少量ずつ断続的に又は連続杓に重合系に添加してもよい。
アルカリ可溶性共重合体を製造する時の重合温度は、通常、0〜100℃、好ましくは30〜90℃である。重合転化率は、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上である。
【0056】
本発明で用いるアルカリ可溶性共重合体の中和物における中和度(エチレン性不飽和カルボン酸単量体のモル当量に対する無機塩基のモル当量)は、特に限定されないが、その中和度は通常70%以上、好ましくは95%以上である。
アルカリ可溶性共重合体を中和するために用いる無機塩基は、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物を挙げることができ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの無機塩基のうち、水酸化ナトリウムが好適である。前記無機塩基として、アンモニアを用いることもできるが、インクの経時安定性(例えば、pHの低下)及び吐出安定性が低下する原因となることがある。
【0057】
本発明で用いるアルカリ可溶性共重合体としては、上述したもののなかでも、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下で重合して得られるものが、pH調整樹脂組成物を長期貯蔵した際に、粘度変化しにくく、その網点再現性により優れる点で、好ましい。
本発明で用いるpH調整樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、大きすぎる場合(例えば、50,000を超える場合)は、pH調整樹脂エマルジョンの粘度が高くなり、その取扱いが困難となることがある。一方、低すぎる(例えば、8,000未満になる)と耐擦性が劣化することがある。pH調整樹脂の重量平均分子量は、例えば、好ましくは8,000以上、より好ましくは9,000〜100,000、更に好ましくは10,000〜50,000である。
本発明で用いるpH調整樹脂のガラス転移温度は、任意に設定可能であるが、好ましくは5〜50℃、より好ましくは20〜40℃である。pH調整樹脂のガラス転移温度がこの範囲にあると、耐折り曲げ性及び耐ブロッキング性にも優れた画像が得られる。なお、本発明で用いるpH調整樹脂のガラス転移温度が多少高くなっても、本発明のインク組成物の成膜温度は、一般に低いまま維持される。
【0058】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物において用いるpH調整樹脂の固形分濃度は、ブラックインク組成物の全重量に対して、10重量%以下であることができ、好ましくは0.5〜8重量%、より好ましくは1〜6重量%であり、通常、前記樹脂エマルジョンは水系エマルジョンの状態で使用される。
【0059】
また、本発明のインクセットが位相ずれ防止用ブラックインク組成物を含有する場合、その位相ずれ防止用ブラックインク組成物において用いるpH調整樹脂の固形分濃度は、ブラックインク組成物の全重量に対して、10重量%以下であることができ、好ましくは0.1〜8重量%、より好ましくは0.3〜5重量%であり、通常、前記樹脂エマルジョンは水系エマルジョンの状態で使用される。
【0060】
本発明で用いるpH調整樹脂エマルジョンは、pHが8〜11を示すものであることが好ましく、pHが9〜11を示すものであることがより好ましい。pHが8未満では吐出安定性に、11を超えると分散安定性に問題が生じることがある。
本発明で用いるpH調整樹脂における、前記アルカリ可溶性共重合体の使用量は、着色剤100重量部に対して、好ましくは2〜200重量部、より好ましくは5〜150重量部、特に好ましくは10〜100重量部である。
【0061】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物、及び位相ずれ防止用ブラックインク組成物(本発明のインクセットが位相ずれ防止用ブラックインク組成物を含む場合)は、前記の通り、前記の微粒子エマルジョンとして、ポリアルキレン型エマルジョンを用いることができる。
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物、及び位相ずれ防止用ブラックインク組成物(本発明のインクセットに含まれる場合)において、前記ポリアルキレン型エマルジョンの固形分含有量は、ブラックインク組成物の全重量に対して、10重量%以下であることができ、好ましくは0.5〜8重量%、より好ましくは1〜5重量%である。
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物、及び位相ずれ防止用ブラックインク組成物(本発明のインクセットに含まれる場合)は、好ましくは前記pH調整樹脂を樹脂成分とするエマルジョン及び/又は前記ポリアルキレン型エマルジョンを含み、より好ましくは前記pH調整樹脂を樹脂成分とするエマルジョン及び前記ポリアルキレン型エマルジョンを両方とも含む。前記pH調整樹脂と前記ポリアルキレン型エマルジョンの固形分との合計含有量は、好ましくは、ブラックインク組成物の全重量に対して0.5重量%〜20重量%である。
【0062】
また、本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物、及び位相ずれ防止用ブラックインク組成物(本発明のインクセットに含まれる場合)は、場合によりその他の樹脂成分を含有することがある。その他の樹脂成分とは、ブラックインク組成物の製造に通常用いられる樹脂成分を意味し、例えば、樹脂系分散剤、例えば、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、及び酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩、並びに樹脂系界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなどを挙げることができる。
【0063】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物、及び位相ずれ防止用ブラックインク組成物(本発明のインクセットに含まれる場合)に用いるカーボンブラックとしては、酸化チタン及び酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネスト法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックとしては、具体的には、三菱化学(株)製のNo.2300,No.900,HCF88,No.33,No.40,No.45,No.52,MA7,MA8,MA100,No2200B等が、コロンビア社製のRaven5750,Raven5250,Raven5000,Raven3500,Raven1255,Raven700等が、キャボット社製のRegal400R,Regal330R,Regal660R,Mogul L,Monarch700,Monarch800,Monarch880,Monarch900,Monarch1000,Monarch1100,Monarch1300,Monarch1400等が、デグッサ社製のColor Black FW1,Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black FW18,Color Black FW200,Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,Printex 35,Printex U,Printex V,Printex 140U,Special Black 6,Special Black 5,Special Black 4A,Special Black 4等が使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
また、本発明においては、pH調整樹脂とともに、表面を酸化処理したカーボンブラックを用いることができる。この場合は、上記の分散剤を用いる必要はない。酸化処理は公知の方法で行うことができる。酸化処理によって、前記カーボンブラックの表面に、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン基等の親水性基を導入することができる。
【0065】
カーボンブラックの粒径は、特に限定されるものではないが、10μm以下が好ましく、更に好ましくは0.1μm以下である。
また、本発明によるインクセットにおいて、各ブラックインク組成物が含有するカーボンブラックは、それぞれ同じであることも異なることもできる。
【0066】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物において、カーボンブラックの含有量は、GG発生領域の記録に用いることのできる量であり、具体的には、ブラックインク組成物の全重量に対して0.4重量%未満、特には、0.01重量%以上で0.4重量%未満、好ましくは0.05重量%〜0.3重量%、より好ましくは、0.1重量%〜0.25重量%である。
また、本発明のインクセットが、位相ずれ防止用ブラックインク組成物を含む場合は、その位相ずれ防止用ブラックインク組成物におけるカーボンブラックの含有量は、位相ずれ発生領域の記録に用いることのできる量であり、具体的には、ブラックインク組成物の全重量に対して0.4重量%〜1.5重量%、より好ましくは、0.5重量%〜1.2重量%、特には0.6重量%〜1.0重量%である。
【0067】
また、本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物、及び位相ずれ防止用ブラックインク組成物(本発明のインクセットに含まれる場合)は、カーボンブラックが本来的に有している帯色性(濃色部における帯赤性、又は、特には淡色部における帯黄性)を無彩色化するための補色用の着色剤を含有することもできる。補色用の着色剤とは、ブラックインクによる記録画像に生じる帯色を低減ないし解消して無彩色の画像を得るためにブラックインク組成物中に含有させる着色剤を意味し、例えば、カラーインデックス・ピグメントブルー60(C.I.PB60)、カラーインデックス・ピグメントブルー15:3、及びカラーインデックス・ピグメントブルー15:4などを挙げることができる。
【0068】
前記ピグメントブルー60は、カーボンブラック含有量0.01〜1重量%のブラックインク組成物に用いることが好ましく、その含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、前記ブラックインク組成物の全重量に対して、0.01〜0.5重量%の量であることが好ましい。また、前記ピグメントブルー15:3及びピグメントブルー15:4は、カーボンブラック含有量1〜10重量%のブラックインク組成物に用いることが好ましく、その含有量も、特に限定されるものではないが、例えば、前記ブラックインク組成物の全重量に対して、0.1〜5重量の量であることが好ましい。
【0069】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物は、カーボンブラック含有量が低いブラックインク組成物であること、微粒子エマルジョン(例えば、pH調整樹脂及び/又はポリアルキレン型エマルジョン)を含むこと、そして、特には微粒子エマルジョンを過剰量で含有することを除けば、それ以外の点では、従来公知のブラックインク組成物と同様の配合成分を含む水系インクとして調製することができる。また、従来公知の各種の記録方法用インクとして利用することができ、好ましくはインクジェット記録用インクとして利用することができる。
【0070】
また、本発明のインクセットが位相ずれ防止用ブラックインク組成物を含有する場合、その位相ずれ防止用ブラックインク組成物は、中間階調用ブラックインク組成物であること、微粒子エマルジョン(例えば、pH調整樹脂及び/又はポリアルキレン型エマルジョン)を含むこと、そして、特には微粒子エマルジョンを過剰量で含有することを除けば、それ以外の点では、従来公知のブラックインク組成物と同様の配合成分を含む水系インクとして調製することができる。また、従来公知の各種の記録方法用インクとして利用することができ、好ましくはインクジェット記録用インクとして利用することができる。
【0071】
以下に、本発明のインクセットがインクジェット記録用であり、本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び前記インクセットに含まれる各インク組成物(特には、本発明のインクセットに含まれることのある位相ずれ防止用ブラックインク組成物)が水系インク組成物である場合について簡単に説明する。
【0072】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物、及び/又はインクセット中のブラックインク組成物(特には、本発明のインクセットに含まれることのある位相ずれ防止用ブラックインク組成物)において、カーボンブラックは、例えば、分散剤で水性媒体中に分散させた顔料分散液としてインク組成物に添加するのが好ましい。顔料分散液を調製するのに用いられる分散剤としては、一般に顔料分散液を調製するのに用いられている分散剤、例えば高分子分散剤や界面活性剤を使用することができる。
【0073】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)に含有される分散剤の量は特に限定されるものではないが、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲である。分散剤の含有量が0.01重量%未満になると界面活性効果が十分に得られず、10重量%を超えると結晶の析出、液晶の形成、あるいは顔料の安定性低下などによる吐出不良の原因となる場合が認められる。
【0074】
分散剤としては、慣用の界面活性剤の他、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、例えば高分子分散剤を好適に使用することができる。なお、この顔料分散液に含まれる分散剤がブラックインク組成物の分散剤及び界面活性剤としても機能するであろうことは当業者に明らかであろう。
より好ましい分散剤としては、高分子分散剤、特に樹脂分散剤を使用することができる。
高分子分散剤の好ましい例としては天然高分子を挙げることができる。その具体例としては、にかわ、ゼラチン、ガゼイン、又はアルブミンなどのタンパク質類、アラビアゴム、又はトラガントゴムなどの天然ゴム類、サボニンなどのグルコシド類、アルギン酸、あるいはアルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、又はアルギン酸アンモニウムなどのアルギン酸誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、又はエチルヒドロキシセルロースなどのセルロース誘導体などを挙げることができる。
【0075】
また、高分子分散剤の好ましい例としては合成高分子も挙げられる。その具体例としては、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸塩−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、又はアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、又はスチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−マレイン酸樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、あるいは、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、又は酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩を挙げることができる。
これらの中でも、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、及びスチレン−無水マレイン酸共重合体が前記分散剤として好ましい。
【0076】
また、樹脂分散剤としては、市販のものを使用することができ、その具体例としては、ジョンソンポリマー株式会社製、ジョンクリル68(分子量10000、酸価195)、ジョンクリル61J(分子量10000、酸価195)、ジョンクリル680(分子量3900、酸価215)、ジョンクリル682(分子量1600、酸価235)、ジョンクリル550(分子量7500、酸価200)、ジョンクリル555(分子量5000、酸価200)、ジョンクリル586(分子量3100、酸価105)、ジョンクリル683(分子量7300、酸価150)、ジョンクリルB−36(分子量6800、酸価250)等を挙げることができる。
【0077】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)は、界面活性剤を含有することができる。界面活性剤の具体例としては、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、又はポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩など)、ノニオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、又はポリオキシエチレンアルキルアミドなど)、両性界面活性剤(例えば、N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸塩、N,N、N−トリアルキル−N−スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキル−N,N−ビスポリオキシエチレンアンモニウム硫酸エステルベタイン、又は2−アルキル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン)等を挙げることができ、これらは単独で又は二種以上を組合せて使用することができる。
【0078】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)は、アセチレングリコール系界面活性剤を含むのが好ましい。この添加によってブラックインク組成物の記録媒体への浸透性を向上することができ、種々の記録媒体においてにじみの少ない記録を期待することができる。本発明で用いるブラックインク組成物において用いられるアセチレングリコール系界面活性剤の好ましい具体例としては、一般式(1):
【化1】

〔式中、0≦m+n≦50であり、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立してアルキル基、好ましくは炭素数6以下のアルキル基である〕で表わされる化合物を挙げることができる。
【0079】
前記一般式(1)で表される化合物の中で、特に好ましくは2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどを挙げることができる。前記一般式(1)で表されるアセチレングリコール系界面活性剤として市販品を利用することも可能であり、その具体例としてはサーフィノール104、82、465、485、又はTG(いずれもAir Products and Chemicals.Inc.より入手可能)、オルフィンSTG、オルフィンE1010(いずれも日信化学社製の商品名)を挙げることができる。
【0080】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)は、一般式(2):
【化2】

(式中、R11〜R17は、独立して、C1-6アルキル基を表し、j及びkは、独立して、1以上の整数を表し、EOはエチレンオキシ基を表し、POはプロピレンオキシ基を表し、s及びtは0以上の整数を表すが、但しs+tは1以上の整数を表し、EO及びPOは、[ ]内においてその順序は問わず、ランダムであってもブロックであってもよい)で表されるシリコーン系界面活性剤を含むのが好ましい。この添加によってブラックインク組成物の記録媒体への浸透性を向上することができる。
【0081】
前記一般式(2)で表されるシリコーン系界面活性剤において好ましい化合物は、前記一般式(2)において、R11〜R17が、独立して、C1-6アルキル基、より好ましくはメチル基であり、j及びkが、独立して、1以上の整数、より好ましくは1〜2であり、s及びtは0以上の整数を表すが、但しs+tが1以上の整数、より好ましくはs+tは2〜4である化合物である。
【0082】
前記一般式(2)で表されるシリコーン系界面活性剤において特に好ましい化合物は、前記式(2)において、j及びkが同じ数であり、しかも1〜3、特には1又は2である化合物であり、更に好ましい前記一般式(2)で表される化合物は、R11〜R17が全てメチル基を表し、jが1を表し、kが1を表し、uが1を表し、sが1以上の整数、特には1〜5の整数を表し、tが0を表す化合物である。
【0083】
前記一般式(2)で表されるシリコーン系界面活性剤の添加量は適宜決定されてよいが、本発明で用いるブラックインク組成物の全重量に対して0.03〜3重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜2重量%程度であり、更に好ましくは0.3〜1重量%程度である。
【0084】
前記一般式(2)で表されるシリコーン系界面活性剤は市販されており、それを利用することが可能である。例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社より市販されているシリコーン系界面活性剤BYK−347又はBYK−348が利用可能である。
【0085】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)に含有される界面活性剤量は特に限定されるものではないが、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲である。界面活性剤の含有量が0.01重量%未満になると界面活性効果が十分に得られず、10重量%を超えると結晶の析出、液晶の形成、あるいは顔料の安定性低下などによる吐出不良の原因となる場合が認められる。
【0086】
更に、本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)は、湿潤剤、乾燥速度調整剤、及び/又は安定化剤として、水溶性有機溶媒を含有することができる。各ブラックインク組成物に添加される水溶性有機溶媒の含有量は、ブラックインク組成物の全重量に対して、好ましくは0.5〜40重量%程度であり、より好ましくは2〜30重量%である。
前記の水溶性有機溶媒としては、通常の水性顔料インク組成物に配合される水溶性有機溶媒を用いることができ、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、若しくはトリメチロールプロパンなどの多価アルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、若しくはトリエチレングリコールモノブチルエーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテル類;あるいは、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、又はトリエタノールアミンを挙げることができる。
【0087】
また、本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、本発明のインクセットに含まれることのある位相ずれ防止用ブラックインク組成物)は、防腐剤、金属イオン捕獲剤、及び/又は防錆剤を更に含有するのが好ましい。ここで、防腐剤は、アルキルイソチアゾロン、クロルアルキルイソチアゾロン、ベンズイソチアゾロン、ブロモニトロアルコール、オキサゾリジン系化合物、及びクロルキシレノールからなる群から選択された1種以上の化合物が好ましく、金属イオン捕獲剤は、エチレンジアミン四酢酸塩が好ましく、防錆剤は、ジシクロヘキシルアンモニウムニトラート及び/又はベンゾトリアゾールが好ましく用いられる。
【0088】
また、本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)は、保存安定性の確保、目詰まり防止、吐出安定の確保、放置安定性の確保の目的で、湿潤剤、保湿剤、溶解助剤、浸透制御剤、粘度調整剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、防黴剤、腐食防止剤、その他の種々の添加剤を添加することができる。
その他、インク成分の溶解性を向上させ、更に記録媒体、例えば、紙に対する浸透性を向上させ、あるいはノズルの目詰まりを防止する成分として、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、又はイソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホランなどを挙げることができ、これらを適宜選択して使用することができる。
【0089】
また、pH調整剤、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類及びそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機水酸化物、水酸化アンモニウム、4級アンモニウム塩(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類、その他、燐酸塩などを挙げることができる。
その他の添加剤として、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸及びその塩、市販の酸化防止剤、紫外線吸収剤なども用いることができる。
【0090】
また、本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)は、表面張力が45mN/m以下であることが好ましく、更に好ましくは、25〜45mN/mの範囲である。表面張力が45mN/mを越えると、印字の乾燥性が悪くなり、滲みが発生しやすくなり、カラーブリードが発生する等のため、良好な記録画像が得られにくい。また、表面張力が25mN/m未満では、プリンタヘッドのノズル周囲が濡れやすくなるためにインク滴の飛行曲がりが発生する等、吐出安定性に問題が生じ易い。上記表面張力は、通常に用いられる表面張力計によって測定することができる。
インクの表面張力は、インクを構成する各成分の種類や組成比などを調整することにより上記範囲内とすることができる。
本発明のインクジェット記録用インクセットに含まれるゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及びインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)は、通常の方法で調製することができる。
本発明のインクセットは、黒白モノクロ記録用のインクセット又はカラー記録用のインクセットであることができる。
【0091】
更に、本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)は、pH調整剤として三級アミンを含有することが好ましい。
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)に添加することができる三級アミンは、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロペノールアミン、ブチルジエタノールアミン等を挙げることができる。これらは、単独で使用しても併用しても構わない。これら三級アミンの本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)への添加量は、0.1〜10重量%、より好ましくは、0.5〜5重量%である。
【0092】
また、本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)には、浸透促進剤、糖、及び/又はアルギン酸誘導体を含有させることもできる。
前記浸透促進剤としては、例えば、多価アルコールの炭素数3以上のアルキルエーテル誘導体、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、又はジプロピレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
糖の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類及び四糖類を含む)及び多糖類を挙げることができ、好ましくはグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などを挙げることができる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、アルギン酸、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。また、これらの糖類の誘導体としては、前記した糖類の還元糖[(例えば、糖アルコール(一般式HOCH2(CHOH)nCH2OH(ここで、nは2〜5の整数を表す)で表される)、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ糖などを挙げることができる。特に糖アルコールが好ましく、具体例としてはマルチトール、ソルビットなどを挙げることができる。また、市販品としてHS−500又はHS−300(林原生物化学研究所製)等を用いることができる。これら糖類の添加量は0.1〜40重量%程度が好ましく、より好ましくは1〜30重量%程度である。
【0093】
アルギン酸誘導体の好ましい例としては、アルギン酸アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アルギン酸有機塩(例えば、トリエタノールアミン塩)、アルギン酸アンモニウム塩、等を挙げることができる。このアルギン酸誘導体のブラックインク組成物への添加量は、好ましくは0.01〜1重量%程度であり、より好ましくは0.05〜0.5重量%程度である。
アルギン酸誘導体の添加により良好な画像が得られる理由は明確ではないが、反応液に存在する多価金属塩が、ブラックインク組成物中のアルギン酸誘導体と反応し、着色剤の分散状態を変化させ、着色剤の記録媒体への定着が促進されることに起因するものと考えられる。
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)には、その他、必要に応じて、防腐剤、防かび剤、及び/又はりん系酸化防止剤等を添加することもできる。
【0094】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物及び/又はインクセット中のインク組成物(特には、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)は、常法によって調製することができ、例えば、前記の各成分を適当な方法で分散、及び混合することによって製造することができる。好ましくは、まず、顔料と高分子分散剤とイオン交換水とを適当な分散機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミルなど)で混合し、均一な顔料分散液を調製する。次いで、前記の微粒子エマルジョン〔特には、pH調整樹脂エマルジョン、ポリアルキレン型エマルジョン〕、イオン交換水、水溶性有機溶媒、防腐剤、及び/又は防黴剤等を常温で充分に攪拌してインク溶媒を調製する。このインク溶媒を適当な分散機で攪拌した状態のところに前記顔料分散液を徐々に滴下して充分に攪拌する。充分に攪拌した後に、目詰まりの原因となる粗大粒子及び異物を除去するために濾過を行って目的のブラックインク組成物を得ることができる。なお、前記のポリアルキレン型エマルジョンは、市販のものを使用することができる。例えば、ビックケミージャパン株式会社より市販されているAQ593やAQ513、又はPEM−17を利用することができる。
【0095】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物は、ゴールデングロス防止用ブラックインク組成物以外に、ゴールデングロス防止用ブラックインク組成物よりもカーボンブラック濃度が高いブラックインク組成物1種以上、好ましくは2種以上を含むインクセットに用いることができる。本発明は、前記のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物を含む前記インクセットにも関する。本発明のインクセットは、モノクロ記録用のインクセット又はカラー記録用のインクセットであることができる。
【0096】
本発明のモノクロ記録用インクセットは、ゴールデングロス防止用ブラックインク組成物と、前記ゴールデングロス防止用ブラックインク組成物よりもカーボンブラック濃度が高いブラックインク組成物とを含む。本発明のモノクロ記録用インクセットが、例えば、ブラックインク組成物2種からなる場合には、前記ゴールデングロス防止用ブラックインク組成物と濃い(カーボンブラック濃度が通常の)ブラックインク組成物を含む。また、ブラックインク組成物3種からなる場合には、前記ゴールデングロス防止用ブラックインク組成物と中間階調用ブラックインク組成物(特には、位相ずれ防止用中間階調用ブラックインク組成物)と濃いブラックインク組成物を含み、そして所望により前記各ブラックインクは、それぞれ適切な補色用着色剤を含む。あるいは、本発明のモノクロ記録用インクセットは、例えば、前記ゴールデングロス防止用ブラックインク組成物、及びゴールデングロス防止用ブラックインク組成物よりもカーボンブラック濃度が高いブラックインク組成物少なくとも1種、並びに補色を印刷することが可能なカラーインク組成物、例えば、ライトマゼンタとライトシアンの組合せ、ライトマゼンタとライトシアンとイエローの組合せなどを含む。
【0097】
また、本発明のカラー記録用インクセットを構成するインク組成物の種類や数は、本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物をインクセット構成員として含む限り特に限定されるものではないが、典型的な本発明によるインクセットとしては、例えば、イエローインク組成物、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物、ゴールデングロス防止用ブラックインク組成物、及び濃いブラックインク組成物の5色のインクセット;前記5色インクセットにライトシアンインク組成物及びライトマゼンタインク組成物を加えた7色のインクセット;前記7色インクセットにダークイエローインク組成物を加えた8色のインクセット;前記5色インクセットにレッドインク組成物、グリーンインク組成物、及びブルーインク組成物を加えた8色のインクセット;前記5色インクセットにオレンジインク組成物、グリーンインク組成物、及びブルーインク組成物を加えた8色のインクセット;並びに前記5色インクセットにオレンジインク組成物、グリーンインク組成物、及びバイオレットインク組成物を加えた8色のインクセット;並びに、前記の各インクセットに更に中間階調用ブラックインク組成物(特には、位相ずれ防止用中間階調用ブラックインク組成物)を含むインクセット;を挙げることができる。
【0098】
なお、「ライトマゼンタ」及び「ライトシアン」の各インク組成物とは、一般的には、濃度変調による記録画像の画質向上を目的に、それぞれマゼンタインク組成物、及びシアンインク組成物の色材濃度を低くしたインク組成物である。また、「ダークイエロー」のインク組成物とは、シャドー部等の暗色に対する色再現性を向上させる目的で、イエローインク組成物よりも明度・彩度の低い色材(顔料)を用いたイエローインク組成物である。そして、「レッド」、「オレンジ」、「グリーン」、「ブルー」、及び「バイオレット」の各インク組成物は、色再現範囲を向上させるために、イエロー、マゼンタ、シアンの中間色を構成する要素として使用されるインク組成物である。
【0099】
本発明のインクセットは、本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物(及び場合により、位相ずれ防止用ブラックインク組成物)を含むことを除けば、従来公知のインクセットと同様に構成することができ、従来公知の各種の記録方法用インクとして利用することができる。好ましいインクセットは、水系であり、特にインクジェット記録用インクセットである。
また、本発明の記録方法は、インク組成物の液滴を吐出して、前記液滴を記録媒体に付着させて記録を行う記録方法であって、本発明のインクセットを用いる。ここで、記録方法は、本発明のインクセットが収容されたインクカートリッジ(各ブラックインク組成物が個別に収容されたインクカートリッジ)を公知のインクジェット記録装置に搭載させて、記録媒体に対して記録することにより、好適に行うことができる。
ここで、インクジェット記録装置としては、電気信号に基づいて振動可能な電歪素子が搭載されるとともに、前記電歪素子の振動によって、本発明に係るインクセットが含むインクを吐出することができるように構成されたインクジェット記録装置が好ましい。
また、インクセットを収容するインクカートリッジ(収容ケース)としては、公知のものを好適に使用することができる。
また、本発明の記録画像は、本発明の記録方法によって記録され、そのため、ゴールデングロスの発生が良好に抑制されている。また、前記の位相ずれ防止用ブラックインク組成物を含むインクセットを利用すると、ゴールデングロスの発生と、位相ずれの発生との両方が同時に良好に抑制される。
【0100】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物(及び場合により用いる位相ずれ防止用ブラックインク組成物)は、任意の記録方法に用いることができ、例えば、水性グラビアインク、水性フレキソインク、又は特にインクジェット記録用水性インクとして好適に使用することができる。また、水性塗料として使用することも可能である。
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物(及び場合により用いる位相ずれ防止用ブラックインク組成物)は、記録媒体として、前記ブラックインク組成物に含まれる前記着色剤(特に顔料)と微粒子エマルジョン〔特にpH調整樹脂とポリアルキレン型エマルジョン〕の樹脂成分を表面上に実質的に残留させるが、前記ブラックインク組成物の液体成分を実質的に吸収する記録媒体に利用するのが特に好ましい。こうした記録媒体は、例えば、表面の平均孔径が、前記顔料の平均粒径よりも小さい。好ましい記録媒体は、前記顔料の平均粒径よりもそれぞれ小さい平均孔径を有するインク受容層を含む記録媒体である。
【0101】
好ましい記録媒体として、多孔質顔料を含有するインク受容層を、基材上に設けた記録媒体を使用することができる。インク受容層は、記録媒体の最上層であるか、あるいはその上に、例えば、光沢層を有する中間層であることもできる。このような記録媒体としては、そのインク受容層中に多孔質顔料及びバインダー樹脂を含有する、いわゆる吸収型(空隙型ともいう)の記録媒体と、前記インク受容層中にカゼイン、変性ポリビニルアルコール(PVA)、ゼラチン、又は変性ウレタン等の樹脂を更に含有する、いわゆる膨潤型の記録媒体とが知られており、本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物(及び場合により用いる位相ずれ防止用ブラックインク組成物)はいずれの記録媒体にも使用することができる。
吸収型記録媒体のインク受容層に含有される前記多孔質顔料としては、例えば、沈殿法、ゲルタイプ、又は気相法等のシリカ系、擬ベーマイト等のアルミナ水和物、シリカ/アルミナハイブリッドゾル、スメクタイト粘土、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、カオリン、白土、タルク、珪酸マグネシウム、又は珪酸カルシウム等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0102】
また、吸収型記録媒体のインク受容層に含有される前記バインダー樹脂としては、結着能力を有し、インク受容層の強度を高めることのできる化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、澱粉、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、スチレン−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系共重合体ラテックス、アクリル酸及びメタクリル酸の重合体等のアクリル系共重合体ラテックス等を挙げることができる。
【0103】
前記インク受容層には、吸収型記録媒体のインク受容層の場合も、膨潤型の記録媒体のインク受容層の場合も、必要に応じ、定着剤、蛍光増白剤、耐水化剤、防かび剤、防腐剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤、pH調整剤、消泡剤、及び/又は保水剤等の各種添加剤を含有させることもできる。
前記の各インク受容層が設けられる前記基材としては、紙(サイズ処理紙を含む);ポリエチレン、ポリプロピレン、又はポリエステル等を紙にコートしたレジンコート紙;バライタ紙;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、又はポリプロピレン等の熱可塑性樹脂フィルム;合成紙;合成繊維で形成されたシート状物等を挙げることができる。
【0104】
特に好ましい態様の記録媒体は、前記基材と、その上に設けた最上層としての前記インク受容層とを有する記録媒体であり、それらの基材及びインク受容層も、例えば、以下の物性を有するものが好ましい。
前記基材としては、紙(木材パルプを含有するもの)が好ましく、その坪量は、好ましくは100〜350g/m2、更に好ましくは180〜260g/m2である。また、厚みは、好ましくは100〜400μm、更に好ましくは180〜260μmである。前記インク受容層は、インク受容層全体の重量を基準として、固形分換算で、前記多孔質顔料として湿式法シリカゲルを50〜60重量%の量で含有し、前記バインダー樹脂としてポリビニルアルコールを30〜40重量%の量で含有することが、インク吸収性、及び印字堅牢性等の点で好ましい。また、前記インク受容層の塗工量は、固形分換算で、5〜50g/m2であることが、インク吸収性の点で好ましい。なお、インク受容層自体の厚みとしては、好ましくは10〜40μm、更に好ましくは20〜30μmである。
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物(及び場合により用いる位相ずれ防止用ブラックインク組成物)を記録する記録媒体は、前記記録媒体の表面(特には、インク受容層)の平均孔径が50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましい。平均孔径が300nmを超えると、顔料がインク受容層内部まで浸透し、発色性が低下することがある。
【0105】
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物は、一般的には前記のとおり、濃度の異なる濃いブラックインク組成物1種又はそれ以上と組み合わせて、薄いグレー領域を印刷するための薄いブラックインクとして使用することができるだけでなく、クレアインクとしても使用することもできる。クレアインクとして使用する場合としては、例えば、記録画像における樹脂成分の塗布量のばらつきを減少させる用途などを挙げることができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものでない。なお、実施例中の「%」及び「部」は特に断らない限り、重量基準である。また、以下の調製例で得られた共重合体の酸価は、JIS K 0070に従って測定した。
(調製例1)
《pH調整樹脂エマルジョンAの調製》
メタクリル酸エチル60部、メタクリル酸メチル36部、メタクリル酸4部、分子量調整剤としてチオグリコール酸オクチル3部、ポリビニルアルコール1部及びイオン交換水280部を攪拌混合して、単量体混合物の分散物を調製した。
別の攪拌機付き反応器に、イオン交換水130部及び過硫酸カリウム2部を仕込み、80℃に昇温し、そして前記単量体混合物の分散物を4時間かけて連続添加して重合させた。連続添加終了後、80℃にて、30分間の後反応を行った。重合転化率は、99%以上であった。
次いで、仕込みのメタクリル酸と当モル量の水酸化ナトリウムに相当する量の10%水酸化ナトリウム水溶液を反応器に添加し、更に80℃にて、1時間熱処理した後に、適量のイオン交換水を加えて、固形分濃度15%のpH調整樹脂エマルジョンAを得た。このpH調整樹脂エマルジョンAの酸価は30であった。
【0107】
(実施例1〜4及び比較例1〜2)
(1)ブラックインク組成物の調製
以下の表1に記載の8種のブラックインク組成物に関して、各配合成分を混合し、サンドミル(安川製作所製)中でガラスビーズ〔直径=1.7mm;混合物の1.5倍量(重量)〕とともに2時間分散させ、8種のブラックインク組成物を得た。すなわち、1種類の濃いブラックインク組成物K1、1種類の中間階調用ブラックインク組成物K2、並びに、6種類の薄いブラックインク組成物(実施例1〜4及び比較例1〜2)を得た。以下の表1に記載の水溶性樹脂としては、スチレン−アクリル酸共重合体(分子量=15000;酸価=100)を用いた。また、AQ593は、ポリプロピレン型エマルジョン(ビックケミージャパン株式会社製)であり、AQ513は、ポリエチレン型エマルジョン(ビックケミージャパン株式会社製)であり、HS500は、糖を主成分とする溶剤(林原商事)であり、サーフィノール465は、アセチレングリコール系界面活性剤であり、BYK348は、シリコーン系界面活性剤であり、プロキセルGXLは、防腐剤(アヴィシア社製)である。表1において、単位は重量%であり、各インクには、その他に全体を100重量%とする純水が含まれている。
【0108】
【表1】

【0109】
(2)記録方法
前項(1)で調製した8種のブラックインク組成物を、インクジェットプリンタ(MC2000;セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジのブラックインク室(濃いブラックインク組成物K1)、シアンインク室(中間階調用ブラックインク組成物K2)、及びマゼンタインク室(実施例1〜4又は比較例1〜2で調製した6種類の薄いブラックインク組成物)に、それぞれ充填した。同様に、ライトシアンインク組成物、ライトマゼンタインク組成物、及びイエローインク組成物も、表2に示すインク室にそれぞれ充填した。
【表2】

前記表2に記載のライトシアンインク組成物、ライトマゼンタインク組成物及びイエローインク組成物としてはインクカートリッジ(商品名「MC5CL01」;セイコーエプソン株式会社製)に充填されているそれぞれの色のインク組成物を抜き出して評価に用いた。
マゼンタインク室に充填した6種類の薄いブラックインク組成物毎に形成された6種類のインクセットに関して、専用記録媒体(MC写真用紙;セイコーエプソン株式会社製)にそれぞれ白から黒へのグレーの階調パターン(グレースケール)を、階調を区切らずに、無段階で出力した。出力は各インクの吐出量を分配して行った。
【0110】
(3)ゴールデングロスの確認評価
ゴールデングロスの評価は5人の観察者によって行った。出力した記録物を室内光である蛍光灯の直下1.5mの机上に設置し、観察者を机脇に立たせた。観察者は直立した状態から光りをさえぎらないように、印刷物の右端から左端までを、種々の視角で視線を動かして印刷物を観察した。その観察結果を以下の表3に示す。なお、ゴールデングロスが発生している記録物では、或る一定の角度の視線によって観察した場合に、グレーレベル140前後の範囲の黒い出力色において、蛍光灯の光りが金色気味に強く反射して見えてしまう。表3において、分母は観察者全員の人数(5人)を示し、分子はゴールデングロスを確認した人の人数を示す。
【0111】
【表3】

【0112】
(実施例5〜11及び比較例3〜4)
(1)ブラックインク組成物の調製
以下の表4に記載の11種のブラックインク組成物に関して、各配合成分を混合し、サンドミル(安川製作所製)中でガラスビーズ〔直径=1.7mm;混合物の1.5倍量(重量)〕とともに2時間分散させ、11種のブラックインク組成物を得た。すなわち、1種類の濃いブラックインク組成物K1、1種類の薄いブラックインク組成物K3、並びに、9種類の中間階調用ブラックインク組成物(実施例5〜11及び比較例3〜4)を得た。以下の表4に記載の水溶性樹脂としては、スチレン−アクリル酸共重合体(分子量=15000;酸価=100)を用いた。また、AQ593は、ポリプロピレン型エマルジョン(ビックケミージャパン株式会社製)であり、AQ513は、ポリエチレン型エマルジョン(ビックケミージャパン株式会社製)であり、Lacstar3307Bは、スチレン−ブタジエン共重合体の微粒子エマルジョンであり、Lacstar3307Bとスチレン−ブタジエン−メタクリル酸樹脂(MBS樹脂)は、固形分として表中に記載しており、HS500は、糖を主成分とする溶剤(林原商事)であり、サーフィノール465は、アセチレングリコール系界面活性剤であり、BYK348は、シリコーン系界面活性剤であり、プロキセルGXLは、防腐剤(アヴィシア社製)である。表4において、単位は重量%であり、各インクには、その他に全体を100重量%とする純水が含まれている。
【0113】
【表4】

【0114】
(2)記録方法
前項(1)で調製した11種のブラックインク組成物を、インクジェットプリンタ(MC2000;セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジのブラックインク室(濃いブラックインク組成物K1)、シアンインク室(実施例5〜11又は比較例3〜4で調製した9種類の中間階調用ブラックインク組成物)、及びマゼンタインク室(薄いブラックインク組成物K3)に、それぞれ充填した。同様に、ライトシアンインク組成物、ライトマゼンタインク組成物、及びイエローインク組成物も、表5に示すインク室にそれぞれ充填した。
【表5】

前記表5に記載のライトシアンインク組成物、ライトマゼンタインク組成物及びイエローインク組成物としてはインクカートリッジ(商品名「MC5CL01」;セイコーエプソン株式会社製)に充填されているそれぞれの色のインク組成物を抜き出して評価に用いた。
シアンインク室に充填した9種類の中間階調用ブラックインク組成物毎に形成された9種類のインクセットに関して、専用記録媒体(MC写真用紙;セイコーエプソン株式会社製)にそれぞれ白から黒へのグレーの階調パターン(グレースケール)を、階調を区切らずに、無段階で出力した。出力は各インクの吐出量を分配して行った。
【0115】
(3)位相ずれの確認評価
位相ずれの評価は5人の観察者によって行った。出力した記録物を室内光である蛍光灯の直下1.5mの机上に設置し、観察者を机脇に立たせた。観察者は直立した状態から光りをさえぎらないように、印刷物の右端から左端までを、種々の視角で視線を動かして印刷物を観察した。その観察結果を以下の表6に示す。なお、位相ずれが発生している記録物では、或る一定の角度の視線によって観察した場合に、グレーレベル40〜60の範囲の黒い出力色において、蛍光灯の光りが白く強く反射してしまい、反転したように見えてしまう。表6において、分母は観察者全員の人数(5人)を示し、分子は位相ずれを確認した人の人数を示す。
【0116】
【表6】

【0117】
(発明の効果)
本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物によれば、記録された記録画像において、ゴールデングロスの発生が良好に解消若しくは抑制される。本発明のゴールデングロス防止用ブラックインク組成物を含むインクセットによれば、ゴールデングロスの発生が良好に解消若しくは抑制され、良好な黒白モノクロ画像やグレースケールを得ることができ、更には、カラー記録用インクセットにおいても、カラー画像の無彩色部分の高品位化を達成することができる。
更に、本発明によるインクセットが、位相ずれ防止用ブラックインク組成物を含む場合には、ゴールデングロスと位相ずれの両方の発生が良好に解消若しくは抑制され、良好な黒白モノクロ画像やグレースケールを得ることができ、更には、カラー記録用インクセットにおいても、カラー画像の無彩色部分の一層の高品位化を達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)水と、(2)カーボンブラックと、(3)微粒子エマルジョンとを含むブラックインク組成物であって、
(A)前記カーボンブラックの含有量が0.4重量%未満であり、
そして
(B)前記の微粒子エマルジョンの固形分含有量がカーボンブラックの含有量の20倍量以上である
ことを特徴とする、前記ブラックインク組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラックの含有量が、0.01重量%以上である請求項1に記載のブラックインク組成物。
【請求項3】
前記微粒子エマルジョンとして、ポリアルキレン型エマルジョン及び/又はエチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物又は共重合性界面活性剤の存在下で重合して得られる酸価が40以下の共重合体を、無機塩基によってpHを調整したpH調整樹脂を樹脂成分とするエマルジョンを含む、請求項1又は2に記載のブラックインク組成物。
【請求項4】
前記pH調整樹脂の調製に用いる無機塩基が、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物である、請求項3に記載のブラックインク組成物。
【請求項5】
前記pH調整樹脂の調製に用いるアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物が、ビニルアルコール系重合体である、請求項3又は4に記載のブラックインク組成物。
【請求項6】
前記pH調整樹脂の調製に用いるエチレン性不飽和カルボン酸単量体が、アクリル酸又はメタクリル酸である、請求項3〜5のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記pH調整樹脂の調製に用いる前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な単量体が、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体である、請求項3〜6のいずれか一項に記載のブラックインク組成物。
【請求項8】
前記pH調整樹脂を樹脂成分とするエマルジョンのpHが、8〜11である、請求項3〜7のいずれか一項に記載のブラックインク組成物。
【請求項9】
前記ポリアルキレン型エマルジョンが、ポリエチレン型エマルジョン又はポリプロピレン型エマルジョンである、請求項3〜8のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項10】
前記pH調整樹脂と前記ポリアルキレン型エマルジョン固形分との合計含有量が、ブラックインク組成物の全重量に対して0.5重量%〜20重量%である、請求項3〜9のいずれか一項に記載のブラックインク組成物。
【請求項11】
更に、補色用着色剤を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載のブラックインク組成物。
【請求項12】
インクジェット記録用のインク組成物である、請求項1〜11のいずれか一項に記載のブラックインク組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載のブラックインク組成物、及び前記ブラックインク組成物よりもカーボンブラック濃度が高い濃いブラックインク組成物を含むインクセット。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項に記載のブラックインク組成物、カーボンブラック含有量がそのブラックインク組成物の全重量に対して0.4重量%〜1.5重量%である中間階調用ブラックインク組成物、カーボンブラック含有量がそのブラックインク組成物の全重量に対して1.5重量%〜10重量%である濃いブラックインク組成物を含む、請求項13に記載のインクセット。
【請求項15】
中間階調用ブラックインク組成物が、カーボンブラック含有量0.4〜1重量%のブラックインク組成物及び/又はカーボンブラック含有量1〜1.5重量%のブラックインク組成物である、請求項14に記載のインクセット。
【請求項16】
中間階調用ブラックインク組成物が、微粒子エマルジョンを含有し、その微粒子エマルジョンの固形分含有量が、カーボンブラック含有量の2倍量以上である、請求項14又は15に記載のインクセット。
【請求項17】
前記微粒子エマルジョンとして、ポリアルキレン型エマルジョン及び/又はエチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物又は共重合性界面活性剤の存在下で重合して得られる酸価が40以下の共重合体を、無機塩基によってpHを調整したpH調整樹脂を樹脂成分とするエマルジョンを含む、請求項16に記載のインクセット。
【請求項18】
インク組成物の液滴を吐出して、前記液滴を記録媒体に付着させて記録を行う記録方法であって、請求項13〜17のいずれか一項に記載のインクセットを用いることを特徴とする記録方法。
【請求項19】
請求項18に記載の記録方法によって記録されたことを特徴とする記録物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−132909(P2010−132909A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297457(P2009−297457)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【分割の表示】特願2003−169437(P2003−169437)の分割
【原出願日】平成15年6月13日(2003.6.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】