説明

インクタンク及びインクカートリッジ

【課題】品質の安定化、使用後のインク残量の低減及び部品点数の削減を達成し、コスト及び環境負荷の低減を実現したインクタンク及びインクカートリッジを提供する。
【解決手段】インクタンクは、一対の難燃性樹脂シートの外周囲を溶着することにより密封形成されたインク収容部と、一端部がインク収容部内に連結され他端部が外部に露出し、内部に貫通孔を備えるスリーブ管と、スリーブ管の他端部に取り付けられ、一端部31には貫通孔に連通する連通孔33が形成され、他端部32には連通孔33に連通した弁作用を有する切り込み35が形成された弾性材からなるプラグと、から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットプリンタに代表される画像形成装置に用いられるインクタンク及びこのインクタンクを備えるインクカートリッジに関し、特にインクを安定に供給することができるとともに、環境負荷も低減したインクタンク及びインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクを用いた画像形成装置、例えばインクジェット記録装置等が多く普及している。中でも、インクジェット記録装置として、移動可能なキャリッジに記録ヘッドとインクカートリッジを一体搭載し、プリントアウトする際、記録ヘッドからインクを吐出し記録を行うものが、多く用いられるようになっている。
【0003】
このようなインクジェット記録装置に搭載されるインクカートリッジは、例えば下記特許文献1に開示されている。なお、図10は下記特許文献1に開示されたインクカートリッジの状態を示す概略断面図である。
【0004】
下記特許文献1に開示されたインクカートリッジ100は、図10に示すように、箱状になったインクカートリッジ100内において上下方向に伸びた隔壁115を設け、この隔壁115によって空気室117をインク収容室111及びインク保持室113と分離させている。そして、この隔壁115の下部に空気室117とインク保持室113とを連通する空気連通口115aを設けると共に、この空気室117の上面に空気導入口116を設けている。また、上記のインク収容室111とインク保持室113とを分離させるため、上記のインクカートリッジ100内における高さ方向の中央位置に隔壁112を設け、この隔壁112にインク収容室111とインク保持室113とを連通するインク連通口112aを設けている。そして、上記のインク収容室111に水性のインク101を収容させる一方、上記のインク保持室113内に、このインク保持室113の容積の約1.5倍で、比重が0.05g/cc、空孔平均径が0.2mmのポリウレタンスポンジからなるインク保持部材102を充填させ、上記のインク収容室111に収容されたインク101をインク連通口112aを通してインク保持室113に供給し、このインク保持室113内に収容されたインク保持部材102にインク101を保持させるようになっている。また、インク保持室113の底部にインク101を記録ヘッドに供給するインク吐出口114が設けられている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−166604号公報(段落[0013]〜[0017]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された発明に代表される従来のインクカートリッジは、上述したとおり、インクを保持するためにポリウレタンスポンジ等の多孔質体(インク保持部材102)を採用しており、この多孔質体を採用することでインク吐出口114からのインク漏れを防止している。しかしながら、この多孔質体にも当然ながら所定の質量があり、この多孔質体の全質量に対するインクの保持量は半分程度であることや、この多孔質体はインク保持室113の容積の1.5倍の量をインク保持室113内に圧縮して充填されていることから、カートリッジの体積に対するインク量の制約となっている。
【0007】
また、多孔質体はそれ自体がインクを保持できる構造を備えているため、通常の使用方法では多孔質体が保持しているインク量を「ゼロ」にすることは難しい。したがって、多孔質体を採用したインクカートリッジでは、充填されたインクを全て使用することは不可能である。また、インク残量が減少するとインク吐出口114から吐出されるインク量が不安定になり、例えば未使用時のインク量に対してインク残量が30%ある場合でも、インク供給量の不安定化により使用することができなくなることがあり、環境負荷の上昇を招いている。
【0008】
さらに、上記特許文献1に開示されているようなインクカートリッジは、内部に空気を流入させるために、その上部に空気導入口116を備えている。この空気導入口116は、流通時にはシールされてインク吐出口114からのインクの漏れ等を防止するようになっている。そのため、ユーザが使用する際には空気導入口116のシールを剥がした後に使用することが必要である。しかしながら、このシール剥がし作業はユーザにとって面倒であることに加え、シールが完全に剥がれていない場合にはカートリッジ内に空気が流入せず、インク吐出口114へインクが流れ難くなるために、ドット抜け、カスレ、ヘッド詰り等の機能問題が発生することがある。
【0009】
さらにまた、インクカートリッジの流通時にはインクが空気室117内に侵入し、空気導入口116にインクが付着することがある。このような場合にはユーザが空気導入口116のシールを剥がす際にインクが飛散してしまい、周囲を汚すこともある。
【0010】
また、そもそもこの多孔質体はインクの移動を円滑にするために溶剤による処理工程を要するためコストが高く、加えてカートリッジへの圧縮充填作業時のバラツキにより印字品質の安定性やインク残量等に不安定な要素を含んでいる。
【0011】
さらには、カートリッジにインクを充填する際には多孔質体の気泡部に含まれる気体を一度除去した後充填しなければいけないので、生産設備が大掛かりになる上に時間もかかり、以ってコストの上昇を招いている。
【0012】
本発明は上記従来技術の種々の問題点を解決するためになされたものであって、本発明の目的は、品質の安定化、使用後のインク残量の低減及び部品点数の削減を達成し、コスト及び環境負荷の低減を実現したインクタンク及びインクカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載のインクタンクの発明は、一対の難燃性シートの外周囲を溶着することにより密封形成されたインク収容部と、
一端部が前記インク収容部内に連結され他端部が外部に露出し、内部に貫通孔を備えるスリーブ管と、
前記スリーブ管の他端部に取り付けられ、一端には前記貫通孔に連通する連通孔が形成され、他端には前記連通孔に連通した弁作用を有する切り込みが形成された弾性材からなるプラグと、
から構成されていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクタンクにおいて、前記プラグは内部にインク貯留部が形成されており、前記連通孔は前記インク貯留部に連通しており、前記切り込みは前記インク貯留部に連通可能となっていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のインクタンクにおいて、前記スリーブ管は、前記一端部が前記一対の難燃性シートの外周囲の一部に挟持されたのち前記一対の難燃性シートの外周囲が溶着されることにより、該一対の難燃性シートと一体に固定されていることを特徴とする。
【0016】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のインクタンクにおいて、前記スリーブ管の貫通孔は、前記他端部の開口側が拡径されており、該拡径された部分に前記プラグが圧入固定されていることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載のインクカートリッジの発明は、前記請求項1〜4の何れかに記載のインクタンクと、該インクタンクを収納する筐体と、を備えることを特徴とする。
【0018】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のインクカートリッジにおいて、前記筐体は、前記インクタンクを収容するインクタンク収納部及び外周囲の一部に前記スリーブ管の他端部を露出すると共に該スリーブ管の周囲を固定するスリーブ管露出部を備える箱状のハウジングと、該箱状のハウジングの開口を覆う蓋体と、から構成されていることを特徴とする。
【0019】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のインクカートリッジにおいて、前記スリーブ管の外周壁面には1乃至複数の切り欠きが形成されており、前記ハウジング及び前記蓋体の少なくとも一方には、前記スリーブ管の切り欠きに係合して前記インクタンクの位置決めを行う位置決めリブが設けられていることを特徴とする。
【0020】
また、請求項8に記載の発明は、請求項6に記載のインクカートリッジにおいて、前記ハウジングの開口端部には溶着リブが設けられており、前記蓋体の前記溶着リブに対応する位置には該溶着リブに係合する溶着用凹部が設けられていることを特徴とする。
【0021】
また、請求項9に記載の発明は、請求項6に記載のインクカートリッジにおいて、前記蓋体の内壁面には、該ハウジングの開口が設けられた方向へ立設する1乃至複数本の嵌合ピンが設けられており、前記ハウジングの内部底面には前記嵌合ピンが嵌合される嵌合穴を有するピン受け部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明は上記構成を備えることにより、以下に示すような優れた効果を奏するものである。すなわち、請求項1の発明によれば、インクカートリッジに使用されるインクタンクとして、インク収容部、スリーブ管及びプラグによって形成され、プラグの構成として弁作用を有する切込みを採用したことにより、部品点数が少なく、且つ未使用時には液垂れ等が発生しないインクタンクを提供することが可能となる。加えて、従来のように多孔質体を備え外気を導入する構成を備えてはおらず、難燃性シートにより密閉したインク収容部を採用しているので、インクタンク内のインクは周囲環境、例えば気温、気圧等の影響を受け難く、また大気を導入する必要がないので、供給するインクに気泡が混在することもなく、以って安定した品質のインク供給を実現することができるようになる。
【0023】
加えて、上述の構成を備えるインクタンクによれば、多孔質体を備えていないので、従来技術のように多孔質体がインクを保持し続けてしまうようなことがなくなり、インクの残量がほとんど「ゼロ」になるまで安定した使用を行うことができる。
【0024】
また、請求項2の発明によれば、プラグにインク貯留部を形成したために、常時この部分にインクが溜まっているので、切り込みの弁作用によって正確にインクの供給を実現することができるようになる。
【0025】
また、請求項3の発明によれば、スリーブ管の固定を一対の難燃性シートと一体固定することによって実現しているので、その製造が容易であり、また密閉度の高い固定構造とすることが可能となる。
【0026】
また、請求項4の発明によれば、スリーブ管の他端に位置する貫通孔を拡径して空間を形成し、この空間にプラグを圧入固定して収納するようにしたので、容易にプラグの交換が行えるとともに、プラグがスリーブ管によって外部から保護されるので、例えば比較的柔軟な材料を使用しても劣化し難くすることができる。
【0027】
請求項5の発明によれば、上述の効果を奏するインクタンクを用いたインクカートリッジとしたため、インクタンク内のインクをほとんど「ゼロ」になるまで安定して使用できる環境負荷を抑えたインクカートリッジを提供することができる。また、このインクカートリッジのインクの充填時には、プラグの切り込みからノズル等を挿入してインクを充填することが可能となるので、インクの詰め替えが容易にでき、コストを大幅に削減することが可能となる。
【0028】
また、請求項6の発明によれば、本発明のインクカートリッジにおいては、インクタンクを収納する筐体に大気導入孔やインク収容部と空気室とを隔離する隔壁などの構成が必要なく、単純な構造のハウジング及び蓋体で構成することが可能となるので、筐体を安価に製造することが可能となり、コストを抑えることができる。
【0029】
また、請求項7の発明によれば、位置決めリブと切り欠きを係合することによりインクタンクの位置決めを行うので、インクタンクが筐体内部で暴れ、難燃性シートに破れなどが発生することを抑えることができる。
【0030】
また、請求項8の発明によれば、溶着部分となるハウジングの開口端部と蓋体の対応する位置に、溶着リブと溶着用凹部を形成することで溶着部分の接触面積を大きくすることができ、より強固な接合を実現することが可能となる。
【0031】
また、請求項9の発明によれば、蓋体に嵌合ピンを設け、ハウジングにピン受け部を設けたことにより、ハウジングと蓋体との接合がより強固に行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の最良の実施形態を説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのインクタンク及びこのインクタンクを備えたインクカートリッジを例示するものであって、本発明をこれらに特定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものも等しく適応し得るものである。
【実施例1】
【0033】
図1は本発明の一実施形態に係るインクカートリッジを分解して示す分解概略斜視図。図2は内部にインクが充填されていないインクタンクを示す概略側面図。図3は図2のインクタンクにインクが充填された状態を示す概略側面図。図4は図2のインクタンクのスリーブ管を示す図であり、図4Aは正面図、図4Bは右側面図、図4Cは左側面図、図4Dは図4BのIVD−IVD線で切断した断面図。図5は図4のスリーブ管に取り付けられるプラグを示す図であり、図5Aは正面図、図5Bは右側面図、図5Cは左側面図、図5Dは図5BのVD−VD線で切断した断面図。図6はハウジングを示す図であり、図6Aは正面図、図6Bはその一部を断面とした図6Aの下方から見た図、図6Cは図6AのVIC−VIC線で切断した断面図。図7は蓋体を示す図であり、図7Aは背面図、図7Bは図7Aの下方から見た図。図8は一変形例に係るハウジングを示す図であり、図8Aは正面図、図8Bはその一部を断面とした図8Aの下方から見た図。図9は一変形例に係る蓋体を示す図であり、図9Aは背面図、図9Bは図9Aの下方から見た図である。
【0034】
本実施例に係るインクカートリッジ1は、図1に示すように、インクタンク10と、このインクタンク10を収納する筐体と、から構成されている。上記筐体は、一面に開口52を有し所定深さを備える箱状のハウジング50と、このハウジング50の開口52を覆う蓋体60と、から構成されている。
【0035】
インクタンク10は、図2及び図3に示すように、一対の難燃性樹脂シート11、12と、スリーブ管20と、プラグ30と、から構成されている。このうち、一対の難燃性樹脂シート11、12は何れも複数種の異なる難燃性樹脂材を多重に重ね合わせてシート状に形成したものであって、ハウジング50内に収納可能な大きさの略矩形状のシートである。この一対の難燃性シート11、12は、その外周囲が例えばヒートシーラ(ラミネ−タ)等を用いて熱溶着される溶着部11a、12aとなっており、これにより一対の難燃性シート11、12間にインク収容部13が形成されるものである。
【0036】
スリーブ管20は、図4に示すように、略円筒状に形成されたものであって、材料としては合成樹脂が好ましい。このスリーブ管20の一端部21はインク収容部13に連結し、他端部22はインク収容部13の外部に露出するものであって、この一端部21と他端部22とを繋ぐように貫通孔23がスリーブ管20の長手方向に沿って設けられている。このスリーブ管20の外壁面において一端部21と他端部22とのほぼ中央部に位置する箇所にはフランジ24が設けられている。このフランジ24は一対の難燃性樹脂シート11、12とスリーブ管20とを連結した状態において、一対の難燃性樹脂シート11、12との溶着位置を特定するために設けられたものである。また、スリーブ管20の外壁面の中央部、詳しくはフランジ24の他端部22側の壁面から所定距離他端部22側へ進んだ位置までの一部には、後述するハウジング50及び蓋体60の位置決めリブ56、64に嵌合する切り欠き25が2つ設けられている。さらに、スリーブ管20のフランジ24から一端部21に至るまでの部分は、一対の難燃性樹脂シート11、12が隙間なく溶着できるように、側面視で凸レンズ状に形成されている。また、貫通孔23の他端部22側は拡径されて円盤状の空間26が形成されており、この空間26にはプラグ30が圧入固定される。
【0037】
プラグ30は、図5に示すように、略円筒状の弾性樹脂材、例えばシリコンゴム等のゴム材から形成されており、その軸心方向の長さはスリーブ管20に形成された空間26の軸心方向の長さとほぼ同一となっている。このプラグ30の一端部31の中央部にはスリーブ管30の貫通孔23に連通する連通孔33が形成されている。またプラグ30の内部にはインク2が一次的に貯留されるインク貯留部34が形成されており、このインク貯留部34は連通孔33に連通されている。さらに、プラグ30の他端部32には、その中央部に所定長さの切り込み35が形成されており、この切り込み35はプラグ30が弾性樹脂材で形成されているため、弁作用を有している。詳しくは、この切り込み35はインク2が通過できない程度の隙間で形成されており、プラグ30が何らかの外力により弾性変形した場合にのみ開いてインク2を通過させるものである。さらにまた、プラグ30の両端部31、32を除く外周縁には、環状リブ36が設けられている。この環状リブ36はスリーブ管20に形成された空間26の内壁面に圧接するものであって、この環状リブ36の圧接力により、プラグ30はスリーブ管20の空間26内部に固定されるものである。
【0038】
上述の各構成部材からなるインクタンク10の組み立て工程及び組み立てられたインクタンク10へのインク2の充填工程について、特に図2及び図3を参照して説明する。
初めに組み立て工程について説明すると、先ず、スリーブ管20の他端部22に形成された空間26内にプラグ30を圧入固定する。なお、この圧入固定の際はプラグ30の他端部32がスリーブ管20の他端部22とほぼ同一平面上に位置するように、且つプラグ30の連通孔33がスリーブ管20の貫通孔23の端部に当接して連通状態となるように固定される。次に、プラグ30が取り付けられたスリーブ管20の一端部21側、詳しくは一端部21からフランジ24までの外周囲を一対の難燃性樹脂シート11、12の溶着部11a、12aの一部に配置し、このスリーブ管20とともに難燃性樹脂シート11、12の溶着部11a、12aを熱溶着する。なお、この熱溶着のみではスリーブ管20と一対の難燃性樹脂シート11、12との接着面の強度が十分でない場合があるので、スリーブ管20と一対の難燃性樹脂シート11、12との間は同時に接着部材を用いて接着するようにするとよい。
【0039】
上述の接着により、一連のインクタンク10組み立て工程が完了するが、一対の難燃性樹脂シート11、12内に形成されるインク収容部13は気密性を保持していなければならないため、一対の難燃性樹脂シート11、12の熱溶着の際には、図1に示すように、比較的幅広な溶着部11a、12aが確保されている。また、プラグ30の切り込み35も外力が生じていない状態においてはインク収容部13内の気密性が維持できるようにその幅等が調節されている。さらにまた、一対の難燃性樹脂シート11、12のスリーブ管20が固定された溶着部11a、12aはスリーブ管20の一端部21側外周壁の形状に沿って当接しているので、この部分で気密性を損なう恐れもない。
【0040】
上述の工程により組み立てられたインクタンク10は、内部にインク2を充填するため、図2に示すように、一度インク収容部13内が脱気される。この脱気作業の際には、例えば図示しない吸引装置のノズルをプラグ30の切り込み35に差込んで脱気を行う。そして、このインク収容部13内が脱気されたインクタンク10内にインク2を充填する際には、図示しないインク充填装置のノズルをプラグ30の切り込み35に差し込んでインク2を充填する(図3参照)。
【0041】
ハウジング50は、図6に示すように、内部にインクタンク収容部51を備え、その一面がインクタンク収容部51内にインクタンク10を収納できるように開口52となった箱状の部材から形成されている。このハウジング50の四方の各側壁内面には、開口52端部から所定長さ延在する蓋体60の位置決めを行うための蓋体位置決め用切り欠き53a〜53dが設けられている。また、ハウジング50の下方に位置する側壁には、スリーブ管20の他端部22を露出するための切り欠きからなるスリーブ管露出部54が形成されている。さらに、図6Aに示すハウジング50の左側側壁の外壁面には、インクカートリッジ1をインクジェット記録装置(図示省略)に固定するための固定片58が形成されている。
【0042】
スリーブ管露出部54の両側方には、インクカートリッジ1の取り付けをガイドするためのガイド突起55、55がハウジング50の下方に位置する側壁から外方に向かって垂直に立設するように設けられている。加えて、このスリーブ管露出部54を形成する切り欠きの先端部はスリーブ管20の切り欠き25に嵌合してインクタンク10をハウジング50内に位置決めする位置決めリブ56となっている。
【0043】
また、開口52の開口端部を形成する四方の側壁の端辺には、図6Cに示すように、その端辺の延在方向に沿って凸状の溶着リブ57が形成されている。この溶着リブ57は後述する蓋体60に設けられた溶着用凹部65内に入り込むようになっており、ハウジング50に蓋体60を接着して取り付ける際に接着面積を増大させるためのものである。
【0044】
蓋体60は、図7に示すように、例えばハウジング50と同様の材料を用いた板状部材から形成されており、ハウジング50の開口52を覆うようにハウジング50に取付可能となっている。図7Aはハウジング50の開口52を覆う側の面を示した図である。この図における外周縁に位置する四方の各辺はハウジング50の開口端部に当接して接合される接合領域61を形成しており、この接合領域61の内側には、蓋体位置決め用切り欠き53a〜53d内に位置して蓋体60をハウジング50に適切に位置決めする爪片62a〜62dが垂直に立設して形成されている。
【0045】
また、接合領域61の図7Aに示す蓋体60の下方に位置する辺の外側の一部には、比較的低く立設した位置決めリブ64が設けられており、この位置決めリブ64の両側部には、側面視で略L字状の蓋体側ガイド突起63、63が設けられている。この位置決めリブ64及び蓋体側ガイド突起63、63は、ハウジング50と蓋体60とを接合した状態で、スリーブ管露出部54の開口52側を覆う位置に設けられている。そして、位置決めリブ64はハウジング50側の位置決めリブ56が嵌合するスリーブ管20の切り欠き25に対向配置された他の切り欠きに嵌合するものである。また、蓋体側ガイド突起63、63は、その基部がハウジング50のスリーブ管露出部54の開口端部周縁の外壁に形成された段部55a、55a内に入り込み、その先端部はハウジング50のガイド突起55、55に対向配置されてスリーブ管20の他端部22周辺を囲むように配設される。また、接合領域61には、この接合領域61の延在方向に沿って溶着用凹部65が設けられている。
【0046】
次に、上述の構成を備えるインクカートリッジ1の組立工程について説明を行う。
先ず、ハウジング50のインクタンク収容部51内にインクタンク10を収容する。この収容の際には、スリーブ管20のフランジ24の他端部22側壁面をスリーブ管露出部54の内側側壁に当接させるようにしてスリーブ管20をスリーブ管露出部54内に挿入し、スリーブ管20の2つの切り欠き25、25の一方を位置決めリブ56に係合させるようにしてインクタンク10の収容を行う。次に、ハウジング50の蓋体位置決め用切り欠き53a〜53d内に蓋体60の爪片62a〜62dを嵌め込むようにしてハウジング50の開口52を蓋体60で覆い、開口52の開口端部と接合領域61との間に接着剤等を塗布してハウジング50と蓋体60とを接合・固定する。このとき、蓋体60の位置決めリブ64はスリーブ管20の2つの切り欠き25、25の他方と係合させる。この接合により、ガイド突起55、55及び蓋体側ガイド突起63、63がスリーブ管20の他端部周囲を囲むように配設されてインク供給部を形成することになる。
【0047】
上述の組み立てにより形成されたインクカートリッジ1を図示しないインクジェット記録装置に装着する場合には、例えばインクジェット記録装置の記録ヘッドとの連結部の構成がピン状の突起を有するもののときは、ガイド突起55、55及び蓋体側ガイド突起63、63からなるインク供給部が連結部に気密に当接するとともに、このピン状の突起がプラグを弾性変形させながら切り込み35内に突入し、以って切り込み35が開状態となりインク収容部13からインク貯留部34に貯留されたインク2が順次記録ヘッドに流入することになる。
【0048】
また、例えばインクジェット記録装置の記録ヘッドとの連結部がピン状の突起を有しない構造の場合には、ガイド突起55、55及び蓋体側ガイド突起63、63からなるインク供給部が連結部に気密に当接して取り付けられる。この場合、記録ヘッドで印字がなされると、記録ヘッド内のインクが消費されるため記録ヘッド内が負圧になり、この負の圧力により特に切り込み35が設けられた他端部32が弾性変形し、以って切り込み35が開状態となりインク2の供給がなされるようになる。
【0049】
インクジェット記録装置の記録ヘッドの構造が上述の何れの構造であっても、インク収容部13は柔軟な難燃性樹脂シート11、12から形成されているので、インク2が記録ヘッドに供給されるに伴ってインク収容部13内には収縮圧が生じ、難燃性樹脂シート11、12は風船がしぼむように互いに当接するように動作する。したがって、インクタンク10は大気連通孔あるいは大気導入孔を設けなくとも安定してインク2の供給を行うことが可能となり、インク収容部13内のインク2残量がほとんど「ゼロ」になるまでインク2の供給を継続できる。
【0050】
上述のような方法でインク2を記録ヘッドに供給する本発明のインクカートリッジ1は、記録ヘッドから取り外すときには外力によるプラグ30の弾性変形も解除されるので、切り込み35は即座に閉成し、以って記録ヘッドからの取り外しの際に液垂れ等が発生する恐れもない。
【0051】
また、本発明のインクカートリッジ1は、従来のもののように多孔質体をインク保持部材として使用しておらず、またインクタンク10は密閉された状態であるので大気導入用の構造を設ける必要がない。したがってインクカートリッジ全体の構成部品を少なくすることが可能であるとともに、大気導入構造を有していないので、記録ヘッドに気泡が供給されることもなく、またユーザにシール材を取り除く作業を強いることもない。
【0052】
さらには、インクタンク10が密封状態で使用されるので、周囲の気温・気圧・振動等の影響が抑えられる。また、多孔質体を採用していないので多孔質体を使用した際に生じるインク残りがなくなり、インク収容部13内のインク2がほとんど「ゼロ」になるまで使用することが可能となる。
【0053】
上記実施例のインクカートリッジ1を構成するハウジング50及び蓋体60からなる筐体は上記の構成に限定されない。そこで、以下には筐体の変形例として、ハウジング50’及び蓋体60’について説明する。なお、ハウジング50’とハウジング50及び蓋体60’と蓋体60において同様の構成からなる箇所については同様の符号を付してその説明を省略し、異なる構成についてのみ説明する。
【0054】
変形例に係る筐体は、ハウジング50’と蓋体60’から構成されている。このうち、ハウジング50’は、図8に示すように、上述の実施例にかかるハウジング50の構成に加えて、開口52の開口端部の内側に近接する位置に複数個(図8では6個)のピン受け部59が形成されている。このピン受け部59はインクタンク収容部51の隅部から、開口52に向かって垂直に立設するように設けられ、その先端部中央には嵌合孔59aがピン受け部59の延在方向に沿って穿設されている。
【0055】
そして、蓋体60’は、図9に示すように、上述の実施例にかかる蓋体60の構成に加えて、接合領域61の内側に近接する位置にピン受け部52と同数の嵌合ピン66が設けられている。この嵌合ピン66は蓋体60’のハウジング50’を覆う側の面から垂直に立設されており、その長さはハウジング50’に設けられたピン受け部59の嵌合孔59aの深さより短くなっている。
【0056】
上述の構成を有するハウジング50’及び蓋体60’を用いてインクカートリッジを組み立てると、上記実施例ではハウジング50と蓋体60との位置決めを蓋体位置決め用切り欠き53a〜53dと爪片62a〜62dのみで行っていたが、これに加えて嵌合ピン66とピン受け部59とによっても位置決めを行うことができるようになる。また、嵌合ピン66をピン受け部59の嵌合孔59aに嵌合することにより、ハウジング50’と蓋体60’との接合・固定はより強固なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係るインクカートリッジを分解して示す分解概略斜視図である。
【図2】図2は内部にインクが充填されていないインクタンクを示す概略側面図である。
【図3】図3は図2のインクタンクにインクが充填された状態を示す概略側面図である。
【図4】図4は図2のインクタンクのスリーブ管を示す図であり、図4Aは正面図である。図4Bは右側面図、図4Cは左側面図、図4Dは図4BのIVD−IVD線で切断した断面図である。
【図5】図5は図4のスリーブ管に取り付けられるプラグを示す図であり、図5Aは正面図、図5Bは右側面図、図5Cは左側面図、図5Dは図5BのVD−VD線で切断した断面図である。
【図6】図6はハウジングを示す図であり、図6Aは正面図、図6Bはその一部を断面とした図6Aの下方から見た図、図6Cは図6AのVIC−VIC線で切断した断面図である。
【図7】図7は蓋体を示す図であり、図7Aは背面図、図7Bは図7Aの下方から見た図である。
【図8】図8は一変形例に係るハウジングを示す図であり、図8Aは正面図、図8Bはその一部を断面とした図8Aの下方から見た図である。
【図9】図9は一変形例に係る蓋体を示す図であり、図9Aは背面図、図9Bは図9Aの下方から見た図である。
【図10】図10は先行技術のインクカートリッジの状態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 インクカートリッジ
2 インク
10 インクタンク
11、12 難燃性樹脂シート
13 インク収容部
20 スリーブ管
21 一端部
22 他端部
23 貫通孔
25 切り欠き
26 空間
30 プラグ
31 一端部
32 他端部
33 連通孔
34 インク貯留部
35 切り込み
50、50’ ハウジング
51 インクタンク収容部
52 開口
54 スリーブ管露出部
56、64 位置決めリブ
60、60’ 蓋体
61 接合領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の難燃性シートの外周囲を溶着することにより密封形成されたインク収容部と、
一端部が前記インク収容部内に連結され他端部が外部に露出し、内部に貫通孔を備えるスリーブ管と、
前記スリーブ管の他端部に取り付けられ、一端には前記貫通孔に連通する連通孔が形成され、他端には前記連通孔に連通した弁作用を有する切り込みが形成された弾性材からなるプラグと、
から構成されていることを特徴とするインクタンク。
【請求項2】
前記プラグは内部にインク貯留部が形成されており、前記連通孔は前記インク貯留部に連通しており、前記切り込みは前記インク貯留部に連通可能となっていることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項3】
前記スリーブ管は、前記一端部が前記一対の難燃性シートの外周囲の一部に挟持されたのち前記一対の難燃性シートの外周囲が溶着されることにより、該一対の難燃性シートと一体に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項4】
前記スリーブ管の貫通孔は、前記他端部の開口側が拡径されており、該拡径された部分に前記プラグが圧入固定されていることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項5】
前記請求項1〜4の何れかに記載のインクタンクと、該インクタンクを収納する筐体と、を備えることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項6】
前記筐体は、前記インクタンクを収容するインクタンク収納部及び外周囲の一部に前記スリーブ管の他端部を露出すると共に該スリーブ管の周囲を固定するスリーブ管露出部を備える箱状のハウジングと、該箱状のハウジングの開口を覆う蓋体と、から構成されていることを特徴とする請求項5に記載のインクカートリッジ。
【請求項7】
前記スリーブ管の外周壁面には1乃至複数の切り欠きが形成されており、前記ハウジング及び前記蓋体の少なくとも一方には、前記スリーブ管の切り欠きに係合して前記インクタンクの位置決めを行う位置決めリブが設けられていることを特徴とする請求項6に記載のインクカートリッジ。
【請求項8】
前記ハウジングの開口端部には溶着リブが設けられており、前記蓋体の前記溶着リブに対応する位置には該溶着リブに係合する溶着用凹部が設けられていることを特徴とする請求項6に記載のインクカートリッジ。
【請求項9】
前記蓋体の内壁面には、該ハウジングの開口が設けられた方向へ立設する1乃至複数本の嵌合ピンが設けられており、前記ハウジングの内部底面には前記嵌合ピンが嵌合される嵌合穴を有するピン受け部が設けられていることを特徴とする請求項6に記載のインクカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−6651(P2009−6651A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172164(P2007−172164)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【特許番号】特許第4078387号(P4078387)
【特許公報発行日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(502363250)ワールドネットワーク株式会社 (3)
【Fターム(参考)】