説明

インク容器、及びインク容器の製造方法

【課題】インク室を構成する壁材と浮力体との接触を防止する手段を提供する。
【解決手段】インク容器は、フレーム50と、フィルムと、フロート部73と、バネ材150とを具備する。フレーム50によって、インクが収容されるインク室100が区画されている。フレーム50の開口はフィルムで覆われている。フロート部73は、インク室100に配置されており、インク量によって変位する。バネ材150は、フロート部73と対向するフィルムの一部を、フロート部73から離間させる方向へ付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク室の開口がフィルム状の壁材によって覆われ、そのインク室の内部にインク量によって変位する浮力体が設けられたインク容器及びインク容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクを用いて記録用紙(被記録媒体)に画像を記録する画像記録装置が知られている。この画像記録装置は、インクジェット方式の記録ヘッドを備え、記録ヘッドのノズルからインク滴を記録用紙へ向けて選択的に噴出する。このインク滴が記録用紙に着弾することによって、記録用紙に所望の画像が記録される。この画像記録装置には、記録ヘッドへ供給するインクを貯蔵するインク容器が設けられる。このインク容器は、カートリッジ形式が採用されて、画像記録装置に対して着脱可能とされることが多い。インク容器内のインクが無くなると、そのインク容器が画像記録装置から取り外されて、新しいインク容器が画像記録装置に装着される。このようなインク容器の交換時期を判定するために、インク容器内のインク残量を検知する手段が提案されている。
【0003】
前述されたインク容器の一例として、特許文献1には、シャッター機構と称されるアーム状の部材(以下「アーム」と称する。)がインク室内に揺動可能に設けられた構成が開示されている。このアームは、浮力を利用してインクの貯留量によって回動する。詳細には、インク室内のインクが所定量未満になると、アームの先端が、光センサによる検出位置から非検出位置へ移動するので、光センサの検知信号の変化に基づいて、インク室内のインクが所定量未満になったことを判定できる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−262564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
画像記録装置には小型化、薄型化の要請があり、これに伴って、インク容器も小型化、薄型化が要請される。しかし、インク容器が薄型化されると、前述されたアームやアームに浮力を付与する浮力体が、インク容器の内壁に接触するおそれがある。この接触は、アームの回動に対して負荷となりうるので、アームの回動がインク残量以外の要因にも依存することとなり、インク容器のインク残量が正確に検出できなくなるおそれがある。特に、インクに気体が溶存することを抑制するためにインク室内を大気圧に対して減圧すると、インク容器を構成する壁が内側へ撓み、その後にインク室内を大気圧に戻しても壁とアームとが接触した状態が維持されて、前述された問題が生じやすいと考えられる。
【0006】
本発明は、前述された事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、インク室を構成する壁材と浮力体との接触を防止する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明にかかるインク容器は、インクが収容されるインク室を区画し、当該インク室の少なくとも一部に開口を有するフレームと、上記フレームの開口を覆うフィルム状の壁材と、上記インク室に配置され、当該インク室内のインク量によって変位する浮力体と、上記浮力体と対向する上記壁材の少なくとも一部を、当該浮力体から離間させる方向へ付勢するバネ材と、を具備する。
【0008】
フレームの開口に壁材が設けられて、インクを収容可能なインク室が形成される。このインク室には浮力体が設けられ、浮力体はインク量によってインク室内の位置を変位させる。浮力体と対向する壁材の少なくとも一部は、バネ材によって、浮力体から離間させる方向へ付勢される。
【0009】
(2) 上記フレームは、上記インク室と外部とを連通する孔と、当該孔を閉塞する蓋部材とを有し、上記インク室は、インクを収容した状態で負圧に維持され、かつ使用状態では上記孔が開放されて大気圧とされるものであってもよい。
【0010】
蓋部材が孔を閉塞した状態で、インク室が負圧にされると、フィルム状の壁材がインク室の内部側へ撓み、壁材と共にバネ材もインク室の内側へ弾性変形する。使用状態において孔が開放されると、インク室内が大気圧になる。そうすると、バネ材が弾性復帰して、インク室の内部側へ撓んでいる壁材を、浮力体から離間させる方向へ付勢する。
【0011】
(3) 上記壁材は、上記フレームにおける対向位置に一対が設けられ、当該一対の壁材によって形成される対向壁が、上記インク室において最も近接する対向壁であってもよい。
【0012】
(4) 上記フレームは、両側面が開口され、当該開口に上記壁材が設けられて略直方体形状をなすものであってもよい。
【0013】
(5) 上記インク室内で揺動可能に設けられ、第1端が第1位置に位置する第1姿勢と上記第1端が上記第1位置から離間した第2位置に位置する第2姿勢との間で姿勢変化するアームを有し、上記浮力体は、上記アームにおける第2端に設けられたものであってもよい。
【0014】
これにより、浮力体の変位に連動してアームの第1端が姿勢変化する。
【0015】
(6) 上記フレームは、その内部空間が上記インク室と連続する中空な透光性を有する透光領域を有し、上記アームの第1端が、上記透光領域内で姿勢変化するものであってもよい。
【0016】
(7) 本インク容器は、インクジェットプリンタに対して着脱可能であってもよい。
【0017】
(8) 本発明にかかるインク容器の製造方法は、インクが収容されるインク室を区画し、当該インク室の少なくとも一部に開口を有するフレームと、上記フレームの開口を覆うフィルム状の壁材と、上記インク室に配置され、当該インク室内のインク量によって変位する浮力体と、上記浮力体と対向する上記壁材の少なくとも一部を、当該浮力体から離間させる方向へ付勢するバネ材と、を具備するインク容器に適用され、上記インク室にインクを注入する第1工程を含む。
【0018】
インク室には、インクを注入可能な孔が予め形成されているか、又はインクを注入する際に形成される。第1工程において、その孔を通じてインク室にインクが注入される。浮力体と対向する壁材の少なくとも一部は、バネ材によって、浮力体から離間させる方向へ付勢されているので、フィルム状の壁材が浮力体と接触してインク室の容量が減少することがない。
【0019】
(9) 本インク容器の製造方法は、上記インク室内を大気圧に対して負圧とする第2工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかるインク容器によれば、浮力体と対向する壁材の少なくとも一部が、バネ材によって浮力体から離間させる方向へ付勢されるので、フィルム状の壁材が浮力体と接触することが防止される。
【0021】
また、本発明にかかるインク容器の製造方法によれば、浮力体と対向する壁材の少なくとも一部は、バネ材によって、浮力体から離間させる方向へ付勢されているので、フィルム状の壁材が浮力体と接触してインク室の容量が減少することがない。これにより、インク容器を製造する際に、またはインク容器にインクを再充填する際に、インク室内にインクを効率よく注入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、適宜図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。なお、本実施形態は本発明を具体化した一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係るインクカートリッジ10の外観形状を示す斜視図であり、(A)には、挿入方向30の前方側から見た斜視図が示されており、(B)には、挿入方向30の後方側から見た斜視図が示されている。図2は、インクカートリッジ10の分解斜視図である。図3は、インクカートリッジ10の側面図である。なお、図3(B)には、インク容器20が破線で示されている。図4は、インク容器20の拡大斜視図である。図5は、インク容器20の内部構造を示す側面図である。なお、図5では、フィルム65が省略されている。図6は、インク容器20の分解斜視図である。図7は、アーム70の外観形状を示す斜視図である。図8は、図5におけるVIII−VIII断面を示す断面図である。
【0024】
インクカートリッジ10は、インクジェット方式のプリンタなどに代表される記録装置に装着されて使用される。詳細な説明は省略するが、インクカートリッジ10は、記録装置が備えるカートリッジ収容部に着脱可能に構成されており、上記カートリッジ収容部に対して、図1に示される状態で矢印30の方向(以下「挿入方向30」と称する。)に挿入されて装着される。インクカートリッジ10が装着されると、インクカートリッジ10に収容されたインクが記録装置の記録ヘッドへ供給可能となる。
【0025】
図1に示されるように、インクカートリッジ10は、扁平形状の略六面体として構成されている。詳細には、インクカートリッジ10は、幅方向(矢印31の方向)に細く、高さ方向(矢印32の方向)及び奥行き方向(矢印33の方向)が上記幅方向よりも長い略直方体形状に形成されている。
【0026】
図1及び図2に示されるように、インクカートリッジ10は、大別して、インク容器20(本発明のインク容器の一例)と、ハウジング26と、スライダ27と、コイルバネ23,24とを備えている。インクカートリッジ10の外装はハウジング26及びスライダ27で構成されている。
【0027】
ハウジング26は、インク容器20を保護するものである。このハウジング26によって、インク容器20の前面41(挿入方向30の前方側の面)を除く略全体が覆われている。ハウジング26は、インク容器20を2方向(図2の左右方向)から挟み込む第1カバー21及び第2カバー22から構成されている。図2に示されるように、第1カバー21は、インク容器20の右側面46(挿入方向30の前方側から見て右側の面)に取り付けられている。具体的には、第1カバー21の内面に設けられた複数の係合爪12がインク容器20に形成された係合溝13に嵌め入れられることによって、第1カバー21がインク容器20に取り付けられる。これにより、第1カバー21によってインク容器20の右側面46が覆われる。一方、第2カバー22は、インク容器20の左側面45(挿入方向30の前方側から見て左側の面)に、第1カバー21と同様の取付方法で取り付けられている。これにより、第2カバー22によってインク容器20の左側面45が覆われる。なお、これらのカバー21,22は、インク容器20を構成するフレーム50や大気連通バルブ80、インク供給バルブ90などと干渉しない形状に形成されている。
【0028】
スライダ27は、インク容器20との間にコイルバネ23,24を介在させた状態でインク容器20に着脱可能に取り付けられている。本実施形態では、インク容器20の前面41の上部に穿設されたバネ受け23Aにコイルバネ23が装着され、前面41の下部に穿設されたバネ受け24Aにコイルバネ24が装着されており、バネ受け23Aの上部及びバネ受け24Aの下部それぞれに設けられた係合爪15,16が、スライダ27に形成された係合溝17,18それぞれに嵌め入れられることによって、ハウジング26の前方部(挿入方向30の前方側の部位)28を覆うようにしてスライダ27が取り付けられている。
【0029】
また、本実施形態では、スライダ27は、ハウジング26の前方部28に沿って奥行き方向(矢印33の方向)へスライドするように設けられている。図3(A)には、スライダ27がインク容器20の前面41に最も近づけられた第2位置に配置された状態が示されており、図1及び図3(B)には、スライダ27がインク容器20の前面41から最も離された第1位置に配置された状態が示されている。スライダ27がスライドされて第2位置に配置されると、インク供給バルブ90がスライダ27から外部へ露出される。一方、スライダ27が第1位置にある状態では、大気連通バルブ80及びインク供給バルブ90がスライダ27内に配置される。なお、スライダ27のスライド機構は本発明に直接関係しないため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0030】
次に、図4から図8を参照して、インク容器20について詳細に説明する。図4に示されるように、インク容器20は、扁平形状の略六面体として構成されている。インクカートリッジ10が記録装置のカートリッジ収容部(不図示)に装着されると、インク容器20は、スライダ27が第2位置にある状態で上記カートリッジ収容部に収められる。なお、本実施形態では、図4から図6に示されるように、インク容器20において、挿入方向30の前方側の面を前面41、挿入方向30の後方側の面を後面42、鉛直上方側の面を上面43、鉛直下方側の面を下面44とする。また、前面41、後面42、上面43、下面44それぞれに隣接し、互いに対向する2つの面を左側面45及び右側面46とする。前面41から見て左側が左側面45であり、右側が右側面46である。本実施形態では、一対の左側面45及び右側面46がインク容器20において最大面積となっている。
【0031】
インク容器20は、大別して、フレーム50(本発明のフレームの一例)と、アーム70(本発明のアームに相当)と、支持ブロック170と、バネ材150(本発明のバネ材に相当)と、大気連通バルブ80(本発明の蓋部材に相当)と、インク供給バルブ90と、フィルム65(図6参照、本発明の壁材の一例)とにより構成されている。
【0032】
フレーム50は、インク容器20の筐体を構成する部材であり、インク容器20の六面41〜46を形成する。したがって、インク容器20の六面41〜46は、フレーム50の六面に一致する。以下において、インク容器20の各面に付された符号を用いてフレーム50の各面を示す。
【0033】
フレーム50は、透光性のある透明又は半透明の樹脂材料で構成されており、例えば、樹脂材料を射出成形することにより得られる。樹脂材料としては、ポリアセタールやナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが該当する。
【0034】
図4に示されるように、フレーム50は、外周壁51と、複数の内壁52とを備える。内壁52は、外周壁51の内側に配設されている。外周壁51及び内壁52は、フレーム50として一体に形成されている。外周壁51及び内壁52は、インク容器20の左側面45から右側面46に渡って設けられている。外周壁51は、内部に空間(インク室100に相当)を形成するように、前面41、上面43、後面42、下面44に概ね沿って環状に配設されている。これにより、フレーム50の側面45,46それぞれに開口57が形成される。つまり、フレーム50は、左側面45及び右側面46それぞれが開放されている。
【0035】
図6に示されるように、フレーム50の側面45,46それぞれに、透明な樹脂で構成された薄肉状のフィルム65が周知の熱溶着法によって溶着されている。具体的には、外周壁51の幅方向31の両端部にフィルム65が溶着される。これにより、フィルム65によって開口57が覆われて、外周壁51とフィルム65とによって囲まれた空間がインク室100として区画される。このように区画されたインク室100にインクが収容される。一対のフィルム65は、フレーム50における対向位置に設けられて、インク室100の対向壁を形成している。この対向壁がインク室100において最も近接する対向壁である。なお、フレーム50に代えて、例えば、一方の側面45だけが開放された器状のフレームを用いることも可能である。この場合、上記フレームにおいて開放された側の面がフィルム65で溶着されることにより、インク室100が区画される。
【0036】
内壁52は、外周壁51で囲まれた領域内に配設されている。フレーム50には、インク室100の上部空間を幅方向31の中央で仕切り分ける仕切り板53が外周壁51と一体に設けられている。内壁52は、仕切り板53に一体に設けられている。この内壁52の幅方向31の両端部にもフィルム65が溶着されている。これにより、フィルム65の撓みを抑制することができる。また、第1カバー21及び第2カバー22がインク容器20側に変形したとしても、内壁52によって第1カバー21及び第2カバー22の変形が規制される。これにより、インク容器20やフィルム65の破損が軽減される。なお、インク室100の下部、つまり、仕切り板53の下方の空間102(図6参照)は、後述するアーム70及び支持ブロック170が配置されるため、幅方向31に渡って仕切り分けられておらず、左側面45から右側面46へ貫通している。
【0037】
フィルム65は、合成樹脂製の複数のフィルムが積層されて構成されており、多層構造を有する。具体的には、フィルム65は、フレーム50と同じ材質からなる第1シートと、ナイロンからなる第2シートと、ポリエチレンテレフタレートからなる第3シートとがインク室100側から外方向へ順次接合された3層構造を有する。つまり、インク室100側の第1シートは、フレーム50と同じ材質で構成されている。なお、本実施形態では、合成樹脂製のフィルム65を用いることとしたが、例えば、金属箔を合成樹脂製のフィルムで挟みようにして構成された薄肉状のフィルムを用いることも可能である。もちろん、合成樹脂以外の素材(パルプ、金属、天然樹脂など)で構成されたフィルムを用いてもかまわない。
【0038】
外周壁51の幅方向(矢印31の方向)の中心に軸受リブ74(図6参照)が立設されている。図6に示されるように、軸受リブ74は、前面41及び下面44で形成されるコーナー付近の外周壁51に設けられている。軸受リブ74は、外周壁51の右側面46寄りの端部に立設されている。軸受リブ74の左側面45側の面に、円孔状の軸受け67が形成されている。図6に示されるように、この軸受け67に、円柱状の軸77が嵌め入れられ、更に、軸77にアーム70の軸孔78が挿通される。なお、軸77の他端は、支持ブロック170側で支持される。
【0039】
図4及び図5に示されるように、フレーム50の後面42にインク注入部105が形成されている。インク注入部105は、後面42からインク室100側に穿設された略円筒状の孔である。インク注入部105は、後面42の下端付近においてフレーム50と一体に形成されている。インク注入部105は、インク室100に連通している。インク注入部105を通じてインクがインク室100へ注入される。インクの注入手法は後述される。
【0040】
フレーム50の前面41には、検知窓140(本発明の透光領域の一例)が形成されている。検知窓140は、インク室100に収容されているインクの量を視覚的或いは光学的に検知するためのものである。検知窓140は、フレーム50と一体に形成されている。したがって、検知窓140は、フレーム50と同じ材質、つまり、透光性のある透明又は半透明の樹脂材料で構成されている。そのため、検知窓140は、外部からの光を透過することができる。なお、検知窓140には、記録装置に取り付けられたフォトインタラプタなどの光センサによって光が照射される。光センサは発光素子と受光素子とを有する。本実施形態では、発光素子から出射された光が側壁140Bに照射され、側壁140Bを透過した検出光が上記受光素子によって受光される。
【0041】
検知窓140は、インク容器20の前面41の中段付近からインク容器20の外側(図5における右向き)へ向かって突設されてる。この検知窓140は、図示されるように、略矩形状の5つの壁面で区画され、内部が中空状の略箱状に形成されている。具体的には、検知窓140は、前面41に平行で、前面41から外向きに所定距離だけ離間した矩形状の前壁140Aと、この前壁140Aの幅方向の二辺を含む一対の側壁140Bと、前壁140Aの上辺を含む上壁140Cと、前壁140Aの下辺を含む下壁140Dとにより区画されている。なお、前壁140Aの幅(幅方向31の寸法)は、前面41の幅よりも小さく形成されている。
【0042】
図5に示されるように、検知窓140の内部には、前壁140A、側壁140B、上壁140C及び下壁140Dによって囲まれた空間142が形成される。検知窓140のインク室100側には壁は設けられておらず、空間142がインク室100へ連続して通じている。この空間142に対して、アーム70のインジケータ部72が進入或いは離間する。図5には、空間142内の所定位置にインジケータ部72が進入した第1姿勢が実線で示されている。なお、アーム70の構成は後述される。
【0043】
検知窓140の上部に大気連通バルブ80が設けられている。大気連通バルブ80は、フレーム50の前面41の上部に穿設された大気連通用の貫通孔81(図6参照)を開放又は閉塞する弁機構として構成されている。この大気連通バルブ80は、主として、バルブ本体87、バネ86、シール部材83、キャップ85などの部材で構成されている。大気連通バルブ80は、常時は、貫通孔81を気密に閉塞しており、インクカートリッジ10が記録装置に装着されると、大気連通バルブ80が作動して、貫通孔81が開放される。これにより、インク室100内の空気層が大気圧と同圧になる。なお、本実施形態では、大気連通バルブ80が貫通孔81を開閉するが、本発明における蓋部材として、貫通孔81にフィルム(蓋部材に相当)を貼り付けて閉塞し、使用状態ではこのフィルムを剥がして貫通孔81を開放する態様を採用してもよい。
【0044】
検知窓140の下方にインク供給バルブ90が設けられている。インク供給バルブ90は、フレーム50の前面41の下部に穿設されたインク供給用の貫通孔91を開放又は閉塞する弁機構として構成されている。このインク供給バルブ90は、主として、バルブ本体97、バネ96、バネ受け94、シール部材93、キャップ95などの部材で構成されている。インク供給バルブ90は、常時は、貫通孔91を閉塞しており、インクカートリッジ10が記録装置に装着されると、図示しないインクニードルによってインク供給バルブ90が作動して、貫通孔91が開放される。これにより、インク室100内のインクを上記インクニードルを通じて記録装置側へ供給することが可能となる。
【0045】
以下、図5から図7を参照しながら、アーム70の構成について詳細に説明する。アーム70は、インク室100に収容されたインクの液量を検知するための部材である。アーム70の一方端(第1端)に、空間142に対して進入し或いは空間142から離間するインジケータ部72が設けられている。また、アーム70の他方端(第2端)にフロート部73(本発明の浮力体の一例)が設けられている。
【0046】
アーム70は、その略中心部に軸孔78が形成されている。この軸孔78に軸77が挿通される。軸77はアーム70を回動自在に支持するためのものであり、その一端は、軸受リブ74に形成された軸受け67(図6参照)に支持され、その他端は支持ブロック170に支持される。アーム70が軸77で軸支されることによって、インク室100内において矢印35(図5参照)の方向へ揺動可能に支持される。
【0047】
フロート部73は、例えば、内部が中空状に形成されており、インクなどの液体に対して浮力を有する浮力体の役割を担っている。したがって、フロート部73は、インク量が所定量以下になった状態で上方へ変位する。これにより、フロート部73の変位に応じてアーム70が回動する。本実施形態では、インク中において、軸孔78からフロート部73に至る第2部位76が浮き上がるようにフロート部73が形成されている。なお、フロート部73を中空形状とせず、フロート部73自体をインクの比重よりも小さい比重の素材で形成してもよい。
【0048】
インジケータ部72は、インク室100内のインクの残量を指し示すためのものである。アーム70が図5において時計方向へ回動されると、インジケータ部72が検知窓140の空間142に進入する。空間142に進入したインジケータ部72は、検知窓140の下壁140Dの内面に当接した第1位置において、それ以上の回動が阻止される。これにより、アーム70が第1姿勢となる。一方、アーム70が図5において反時計方向へ回動されると、インジケータ部72が下壁140Dの内面から離間する第2姿勢に変化する。アーム70は、第2姿勢において、インジケータ部72が下壁140Dの内面から所定距離だけ隔てた第2位置で静止する。
【0049】
本実施形態では、アーム70は、軸孔78からフロート部73に至る第2部位76が軸孔78からインジケータ部72に至る第1部位75よりも重量が大きくなるように形成されている。したがって、空気中においては、第2部位76が第1部位75よりも重い。そのため、インク室100にインクが入っていない状態では、アーム70は、軸77を中心にして、図5において反時計方向へ回動する。これにより、インジケータ部72が検知窓140の空間142から離間する。つまり、インジケータ部72が空間142から離間していることは、インク室100にインクが入っていないことを意味する。なお、フロート部73の下端がインク室100の底面に当接すると、アーム70の回動が停止して、アーム70が第2姿勢に維持される。
【0050】
一方、インク室100に所定量以上のインクが貯留されている状態、言い換えれば、フロート部73がインク液中にある状態では、フロート部73に浮力が発生する。この浮力によって、第1部位75と第2部位76との重量の均衡が逆転する。すなわち、インク中では、フロート部73の重力方向に働く力はインジケータ部72の重量方向に働く力よりも小さくなる。したがって、アーム70は、軸77を中心にして、図5において時計方向へ回動する。このとき、インジケータ部72は検知窓140の空間142に進入して、インジケータ部72の下端が下壁140Dの内面に当接した第1姿勢で保持される。つまり、インジケータ部72が空間142に進入していることは、インク室100に所定量以上のインクが貯留されていることを意味する。
【0051】
上述のようにアーム70が動作するため、空間142におけるインジケータ部72の位置を検知窓140の外部から目視で確認し、或いは、フォトインタラプタなどの光センサで監視することで、インク室100内のインクの液量が一定量以上あるかどうかを検知することができる。言い換えれば、インジケータ部72の動きによって、インク室100内のインクの量が目視或いは光センサにより外部から判別できる。なお、本実施形態では、インク室100内において回動するアーム70を用いてインク量の判定を行うこととしているが、インクの液面に追従して移動するフロートを用いてインク量を判定することとしてもよい。
【0052】
図5に示されるように、アーム70の周囲にバネ材150が取り付けられている。バネ材150は、例えばワイヤーや針金などの線状鋼材を屈曲成形することにより製作される。バネ材150は、主として、端部151,152、保護部153,154、連結部155から構成される。図6に示されるように、フレーム50に形成された掛け部131に連結部155が係止され、軸受リブ74に形成された孔(不図示)及び支持ブロック170に形成された孔183に端部151,152が挿入されることによって、フレーム50にバネ材150が固定される。
【0053】
図5に示されるように、フレーム50に固定されたバネ材150は、アーム70のフロート部73を取り囲む。詳細には、フレーム50の左側面45側に保護部153が配置され、右側面46側に保護部154が配置されることによって、フロート部73の両側が保護部153,154によって囲まれる。これら保護部153,154は、上下方向に略V字形状に折り曲げられるているので、アーム70の姿勢変化に伴って移動するフロート部73がいずれの位置にあっても、フロート部73の両側に保護部153,154が存在する。
【0054】
図8に示されるように、保護部153,154は、フロート部73とフィルム65との間に配置される。本実施形態では、フィルム65が撓んでいない状態において、保護部153,154がフィルム65に接触していないが、保護部153,154は常にフィルム65に接触していてもよい。保護部153,154は、弾性変形可能なので、フィルム65が外力を受けてインク室100側へ撓むと、その外力によってフィルム65とともにフロート部73側へ弾性変形するが、その外力が消失或いは減衰すると、バネ部材150の弾性力により、インク室100側へ撓んだフィルム65の一部を外側へ、つまりフロート部73から離間させる方向へ押し広げる。このようなバネ材150は、本実施形態のように、フィルム65がインク室100側へ撓んだ際に生じるものであってもよいし、また、フィルム65が撓んでいない状態においても積極的にフィルム65を押し広げる態様であってもよい。
【0055】
以下、インク容器20にインクを充填してインク容器20を製造する方法について説明する。本インク容器の製造方法は、主として、インク室100にインクを注入する第1工程と、インク室100内を大気圧に対して負圧とする第2工程とからなる。なお、アーム70や軸77、バネ材150、支持ブロック170、大気連通バルブ80、インク供給バルブ90などは、フレーム50に組み付けられており、そのフレーム50に左側面45及び右側面46にフィルム65がそれぞれ溶着されている。
【0056】
前述されたように、インク室100にインクを注入するためのインク注入部105が設けられている。したがって、インク注入部105に、インクを注入するためのノズルなどを接続してインク室100へ所定量のインクを注入する。この第1工程に先だって、或いは第1工程と共に、第2工程が行われる。すなわち、インク室100内が大気圧に対して負圧とされる。具体的には、インク室100内の空気を吸引排気してインク室100内の圧力を真空に近い圧力まで減圧する。その後、インク室100内外の圧力差を利用してインク注入部105からインクをインク室100内に注入する。このようなインクの注入手法は、減圧注入法或いは真空注入法と呼ばれる。インク室100が減圧されることにより、インクに空気が溶解することが抑制され、インク室100における気泡の発生が抑制される。
【0057】
インクの注入後は、大気連通バルブ80が閉塞されることによって、インク室100内の気体層の圧力が大気圧よりも低い圧力に維持される。したがって、インク室100内外の圧力差によって、フィルム65がインク室100側に撓む。このインク容器20に、ハウジング26及びスライダ27が組み付けられてインクカートリッジ10とされる。
【0058】
インクカートリッジ10は、記録装置が備えるカートリッジ収容部に装着される際に、大気連通バルブ80が開放される。これにより、インク室100内の気体層が大気圧となって、フィルム65を撓ませていた外力が消失する。そうすると、バネ材150の保護部153,154の弾性力により、インク室100側へ撓んだフィルム65の一部を、フロート部73から離間させる方向へ押し広げる。したがって、使用状態では、フィルム65がフロート部73と接触することが防止される。
【0059】
また、インク容器20のインクが消耗されると、インク容器20に再度インクを充填してもよい。インクの再充填において、前述された第2工程は省略されてもよい。インク室100からインクが消失すると、フィルム65に対するインクの圧力が消失するので、フィルム65がインク室100側へ撓むこともあり得るが、前述されたように、フィルム65の内側にはバネ部材150の保護部153,154が存在して、フィルム65を外側へ付勢するので、フィルム65がインク室100の内側へ大きく撓んだり、フロート部73に密着したりすることがない。これにより、フィルム65の撓みによるインク室100の容量が減少することが無く、インク室100へのインクの再充填を容易に行うことができる。
【0060】
このように、インク容器20によれば、フロート部73と対向するフィルム65の少なくとも一部が、バネ材150によってフロート部73から離間させる方向へ付勢されるので、フィルム65がフロート部73と接触することが防止される。これにより、フロート部73がインク室100内のインク量に対応して確実に変位して、正確なインク量検知が実現される。
【0061】
また、インクを収容した状態でインク室100内を負圧とすることによってフロート部73にフィルム65が接触しても、使用状態ではインク室100内を大気圧とすれば、バネ材150によってフィルム65がフロート部73から離れるので、フロート部73の変位に悪影響を及ぼすことなくインク室100内を負圧とすることができ、かつ使用状態においてフィルム65がフロート部73と接触することが防止される。
【0062】
また、フィルム65がバネ材150によってフロート部73から離間させる方向へ付勢されているので、フィルム65がフロート部73と接触してインク室100の容量が減少することがない。これにより、インク容器20へインクを充填する際に、インク室100内にインクを効率よく注入することができる。
【0063】
また、フィルム65が、インク室100において最も近接する対向壁を構成する本実施形態の如く薄型のインク容器20において、前述された効果が顕著である。また、フレーム50が略直方体に形成されることにより、インク容器20の薄型化と、インク室100の容量の確保が実現される。
【0064】
なお、本実施形態では、バネ材150を線状鋼材を屈曲成形したいわゆる線バネとしたが、その他に、本発明に係るバネ材として板バネを用いたり、コイルバネをフィルム間に架設してもよく、さらに弾性変形可能な樹脂材などをバネ材として採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るインクカートリッジ10の外観形状を示す斜視図であり、(A)には、挿入方向30の前方側から見た斜視図が示されており、(B)には、挿入方向30の後方側から見た斜視図が示されている。
【図2】図2は、インクカートリッジ10が分解された状態を示す分解斜視図である。
【図3】図3は、インクカートリッジ10の側面図である。
【図4】図4は、インク容器20の拡大斜視図である。
【図5】図5は、インク容器20の内部構造を示す側面図である。
【図6】図6は、インク容器20の分解斜視図である。
【図7】図7は、アーム70の外観形状を示す斜視図である。
【図8】図8は、図5におけるVIII−VIII断面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0066】
10・・・インクカートリッジ
20・・・インク容器
50・・・フレーム
65・・・フィルム(壁材)
70・・・アーム
73・・・フロート部(浮力体)
80・・・大気連通バルブ(蓋部材)
100・・・インク室
140・・・検出窓(透光領域)
150・・・バネ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが収容されるインク室を区画し、当該インク室の少なくとも一部に開口を有するフレームと、
上記フレームの開口を覆うフィルム状の壁材と、
上記インク室に配置され、当該インク室内のインク量によって変位する浮力体と、
上記浮力体と対向する上記壁材の少なくとも一部を、当該浮力体から離間させる方向へ付勢するバネ材と、を具備するインク容器。
【請求項2】
上記フレームは、上記インク室と外部とを連通する孔と、当該孔を閉塞する蓋部材とを有し、
上記インク室は、インクを収容した状態で負圧に維持され、かつ使用状態では上記孔が開放されて大気圧とされる請求項1に記載のインク容器。
【請求項3】
上記壁材は、上記フレームにおける対向位置に一対が設けられ、当該一対の壁材によって形成される対向壁が、上記インク室において最も近接する対向壁である請求項2に記載のインク容器。
【請求項4】
上記フレームは、両側面が開口され、当該開口に上記壁材が設けられて略直方体形状をなすものである請求項1から3のいずれかに記載のインク容器。
【請求項5】
上記インク室内で揺動可能に設けられ、第1端が第1位置に位置する第1姿勢と上記第1端が上記第1位置から離間した第2位置に位置する第2姿勢との間で姿勢変化するアームを有し、
上記浮力体は、上記アームにおける第2端に設けられたものである請求項1から4のいずれかに記載のインク容器。
【請求項6】
上記フレームは、その内部空間が上記インク室と連続する中空な透光性を有する透光領域を有し、
上記アームの第1端が、上記透光領域内で姿勢変化するものである請求項5に記載のインク容器。
【請求項7】
インクジェットプリンタに対して着脱可能である請求項1から6のいずれかに記載のインク容器。
【請求項8】
インクが収容されるインク室を区画し、当該インク室の少なくとも一部に開口を有するフレームと、上記フレームの開口を覆うフィルム状の壁材と、上記インク室に配置され、当該インク室内のインク量によって変位する浮力体と、上記浮力体と対向する上記壁材の少なくとも一部を、当該浮力体から離間させる方向へ付勢するバネ材と、を具備するインク容器に適用されるインク容器の製造方法であって、
上記インク室にインクを注入する第1工程を含むインク容器の製造方法。
【請求項9】
上記インク室内を大気圧に対して負圧とする第2工程を含む請求項8に記載のインク容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−56679(P2009−56679A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225491(P2007−225491)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】