説明

インク組成物、インクセット、及びインクジェット記録方法

【課題】処理剤とインクとを中間転写体上で反応させてインクを凝集させて記録媒体に転写することで画像を形成する方式において、中間転写体上でのインク凝集物のドットの乱れを効果的に抑制できるので、記録媒体上に乱れのない高品位な画像を転写することができる。
【解決手段】中間転写体12上で処理剤と反応させて凝集させたインク凝集物のドット画像を転写温度に加熱して記録媒体34上に転写することにより画像を形成するためのインク組成物であって、インク組成物は、少なくとも、水、親水性有機溶媒、色材、ポリマー微粒子を含み、前記ポリマー微粒子として、80℃の動的貯蔵弾性率G’1と150℃の動的貯蔵弾性率G’とがLogG’1/G’2≦2を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、インクセット、及びインクジェット記録方法に係り、特に、インク組成物と処理剤とを中間転写体上で反応させて生成したインク凝集物のドットが中間転写体上で移動してしまうことに起因して発生する画像の乱れを防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクジェットヘッドに形成される多数のノズルからそれぞれインク滴を打滴することによって記録を行うものであり、記録動作時の騒音が低く、ランニングコストが安く、多種多様な記録媒体に対して高品位な画像を記録できることなどから幅広く利用されている。
【0003】
インクジェット記録方法の中には、インクジェットヘッドから中間転写体に対してインク打滴を行うことによって中間転写体上に一旦画像を形成してから記録媒体上に画像を転写するものが知られている。この転写型の記録方法によれば、中間転写体上のインク溶媒(例えば、水など)を溶媒除去ローラ等の手段で除去してから記録媒体上に画像転写することが可能となり、インク溶媒による画像の滲み、裏抜け、記録媒体の変形(いわゆるコックリング)などの問題が生じることがないので、高品質な画像を得ることができる。
【0004】
また、インクジェット記録方法には、インクと、該インクを凝集させる処理剤との2液を反応させてインク凝集物を形成し、インクの定着を促進させる2液法が知られている。
【0005】
2液法を転写型のインクジェット記録方法に適用した従来技術としては、例えば特許文献1がある。
【0006】
特許文献1では、少なくとも着色剤を含んでなる記録液と、記録液中の少なくとも1方の反応性成分と反応しうる他方の反応性成分を含有する処理液とを転写体上(中間転写体上)で混合する行程と、該混合物を被記録材に転写する行程とを有することが記載されている。更には、処理液中の他方の反応性成分と反応する記録液中の1方の前記反応性成分として、少なくとも樹脂粒子表面にイオン性基を有する樹脂エマルジョンを含有する記録液を使用することが記載されている。そして、これにより、迅速に記録する場合においても、中間転写体上での画像に滲みの発生がなく、高い転写率が得られるとされている。また、中間転写体は、通常、帯状の樹脂シートを無端状に形成して循環搬送するようにしている。
【特許文献1】特開2003−82265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のインク組成物を用いて転写方式のインクジェット記録の連続運転を行うと、中間転写体上でのドットの乱れに起因して転写された記録媒体に画像の乱れが生じるという問題がある。このドットの乱れとは、中間転写体上でインクと処理液とが接触して形成されたインク凝集物のドットが、記録媒体に転写されるまでに本来打滴された位置から微妙に移動してしまうことをいい、この移動により記録媒体に転写されたときに画像の乱れとなって現れる。
【0008】
特に、転写方式のインクジェット記録装置に使用される中間転写体は、一般的に無端ベルト状になっており、中間転写体を循環搬送速度を高めることで高速な連続印字を可能にしている。このような高速印字においてもドット乱れは発生し易く、対策が必要である。
【0009】
また、連続運転しない場合でも、記録媒体(例えば記録紙)の厚みの違いや熱伝導率の違いによっても画像の乱れが生じるという問題がある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、処理剤とインクとを中間転写体上で反応させてインクを凝集させて記録媒体に転写することで画像を形成する方式において、中間転写体上でのインク凝集物のドットの乱れを効果的に抑制できるので、記録媒体上に乱れのない高品位な画像を転写することができるインク組成物、インクセット、及びインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、中間転写体上で処理剤と反応させて凝集させたインク凝集物のドット画像を転写温度に加熱して記録媒体上に転写することにより画像を形成するためのインク組成物であって、前記インク組成物は、少なくとも、水、親水性有機溶媒、色材、ポリマー微粒子を含み、前記ポリマー微粒子として、前記転写温度前後の所定温度領域における動的貯蔵弾性率G’が実質的に変動しない特性を有するポリマーを用いたことを特徴とするインク組成物を提供する。
【0012】
ここで、転写温度とは、転写時における中間転写体の転写部分の表面温度をいう。また、設定した転写温度に対して実際の転写温度が変動することを、以下「転写温度の変動」ということにする。また、ドット画像とは、インク凝集物の多数のドットによって形成された画像をいい、以下同様である。また、処理剤と記載して、液体に限定しなかったのは、処理液を乾燥したものを塗布したり、ノズルから打滴する態様も本発明に含む意味である。
【0013】
発明者は、中間転写体上のドット乱れに関して鋭意研究した結果、次の知見を得た。即ち、インク組成物と処理剤とが凝集反応により形成するインク凝集物は、インク組成物中の主たる固形分である色材とポリマー微粒子とで形成され、インク凝集物の動的貯蔵弾性率G’はポリマー微粒子の動的貯蔵弾性率Gによって大きく影響される。
【0014】
一方、転写温度を所定温度(例えば100℃)に設定しても、中間転写体の温度は連続運転により次第に高くなり、実際の転写温度が設定した転写温度よりも高く(例えば150℃付近)なることがある。また、記録媒体の熱伝導率の違いや厚みの違いにより、実際の転写温度が設定した転写温度まで上がりきらずに低い温度(例えば80℃付近)で転写されることがある。
【0015】
かかる転写温度の変動によってインク中のポリマー微粒子の動的貯蔵弾性率G’が大きく変動すると、インク凝集物の粘弾性が変化してしまい記録媒体への転写性能が変わる。これにより、記録媒体に綺麗に転写されずにインク凝集物の痕跡が中間転写体に残存してしまい、この痕跡が次に中間転写体上に形成するインク凝集物のドットを弾く原因になる。この結果、ドットが本来のインク打滴位置から移動するためにドット乱れを生じる。そして、中間転写体上で生じたドット乱れを有するドット画像が、記録媒体に転写されると、記録媒体上の画像乱れとなって現れる。
【0016】
転写温度が変動する理由は上述以外の理由もあり、単に装置的な改善では充分に対応しきれない。本発明は、ドット乱れを、インク組成物の側から防止するようにした発明である。
【0017】
本発明の請求項1によれば、少なくとも、水、親水性有機溶媒、色材、ポリマー微粒子を含んだインク組成物のうちのポリマー微粒子として、転写温度前後の所定温度領域における動的貯蔵弾性率G’が実質的に変動しない特性を有するポリマーを用いたので、上記の理由等により転写温度が変動してもインク凝集物の動的貯蔵弾性率Gがほとんど変動しない。これにより、中間転写体上におけるインク凝集物のドット乱れを顕著に抑制することができるので、記録媒体に乱れのない高品位な画像を転写することができる。
また、高速印字に対してもドット乱れを抑制することができる。
【0018】
請求項2は請求項1において、前記ポリマー微粒子は、前記所定温度領域の最低温度をT1とすると共に最高温度をT2とし、T1のときの動的貯蔵弾性率をG’1とすると共にT2のときの動的貯蔵弾性率をG’2としたときに、LogG’1/G’2≦2であることを特徴とする請求項1のインク組成物。
【0019】
請求項2は、転写温度前後の所定温度領域(T1〜T2)におけるポリマー微粒子の動的貯蔵弾性率G’が実質的に変動しないことを数値的に規定したものである。即ち、LogG’1/G’2は、動的貯蔵弾性率G’を縦軸にとり、転写温度Tを横軸にとったときにT1〜T2の範囲における動的貯蔵弾性率G’の傾きを示す。そして、LogG’1/G’2≦2とは傾きが略寝た状態にあることを意味し、LogG’1/G’2≦1であることがより好ましく、LogG’1/G’2≦0.75であることが特に好ましい。
【0020】
請求項3は請求項2において、前記転写温度の設定値を100℃としたときに、前記T1が80℃で、前記T2が150℃である所定温度領域において前記LogG’1/G’2≦2を満足することを特徴とする。
【0021】
前記転写温度の設定値を100℃としたときに、前記T1が80℃で、前記T2が150℃である所定領域範囲においてLogG’1/G’2≦2を満足することで、ドット乱れを顕著に改善できるからである。
【0022】
請求項4は請求項3において、前記G’1が1.0×10〜1.0×10Paであり、前記G’2が1.0×10〜1.0×10Paであることを特徴とする。
【0023】
請求項4は、80〜150℃の所定温度領域におけるポリマー微粒子の動的貯蔵弾性率G’の傾きに加えて、80℃と150℃におけるポリマー微粒子の動的貯蔵弾性率G’の絶対値を規定したもので、これによりドット乱れを一層改善できる。
【0024】
請求項5は請求項1〜4の何れか1において、前記ポリマー微粒子を構成するポリマーは、質量平均分子量が10万以上であり、少なくともスチレンとアクリル酸エステルとを含有していることを特徴とする。
【0025】
請求項5は、転写温度前後の所定温度領域における動的貯蔵弾性率G’が実質的に変動しないポリマー微粒子を分子量と組成とで規定したものであり、質量平均分子量が10万以上であり、少なくともスチレンとアクリル酸エステルとを含有していることが好ましい。
【0026】
請求項6は請求項5において、前記スチレンの比率は50〜99質量%であることを特徴とする。
【0027】
請求項6は、請求項5の組成を更に限定したもので、スチレンの比率は50〜99質量%であることが好ましい。
【0028】
請求項7は請求項1〜6の何れか1において、前記インク凝集物を生成する凝集反応は、pHが2以上変化することによって引き起こされることを特徴とする。
【0029】
pH変化が2以上あることで、インク凝集物の迅速な生成を達成できるからである。
【0030】
本発明の請求項8は前記目的を達成するために、請求項1〜7の何れか1のインク組成物と、前記インク組成物を凝集させる処理剤と、からなることを特徴とするインクセットを提供する。
【0031】
請求項8のインクセットは、中間転写体上でのドット乱れを効果的に抑制できるので、記録媒体上に乱れのない高品位な画像を転写することができる。
【0032】
本発明の請求項9は前記目的を達成するために、請求項8に記載されるインクセットのインク組成物と処理剤とを、循環搬送される中間転写体上で反応させてインク凝集物のドット画像を形成する凝集工程と、前記中間転写体上から前記インク組成物と前記処理剤の溶媒を除去する溶媒除去工程と、前記溶媒が除去された中間転写体上に形成された前記インク凝集物のドット画像を転写温度に加熱して記録媒体に転写する転写工程と、を備えたことを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。
【0033】
本発明の請求項9のインクジェット記録方法によれば、本発明のインクセットを用いるようにしたので、中間転写体上でのドット乱れを効果的に抑制できるので、記録媒体上に乱れのない高品位な画像を転写することができる。特に、連続運転により中間転写体が循環搬送することで、中間転写体の温度が転写温度よりも高くなり易く、このような場合に、本発明のインクセットが特に有効である。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、処理剤とインクとを中間転写体上で反応させてインクを凝集させて記録媒体に転写することで画像を形成する方式において、中間転写体上でのインク凝集物のドットの乱れを効果的に抑制できるので、記録媒体上に乱れのない高品位な画像を転写することができる。特に高速印字において有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明に係るインク組成物、インクセット、及びインクジェット記録方法について詳細に説明する。
【0036】
先ず、本発明のインク組成物(以下、単に「インク」と称する)と本発明のインクセットについて説明する。
【0037】
[インク]
本発明のインクは、少なくとも、水、親水性有機溶媒、色材、ポリマー微粒子を含み、ポリマー微粒子として、転写温度前後の所定温度領域において動的貯蔵弾性率G’が実質的に変動しない特性を有するポリマーを用いて構成される。
【0038】
具体的には、ポリマー微粒子は、転写温度前後の所定温度領域における最低温度をT1とし最高温度をT2とし、T1のときの動的貯蔵弾性率をG’1としT2のときの動的貯蔵弾性率をG’2としたときに、次式(1)を満足することが好ましい。
LogG’1/G’2≦2…(1)
転写温度は、通常、インクに含有されるポリマー微粒子のガラス転移温度Tgに基づいて設定され、Tg以上になるように設定される。転写温度としては、80℃〜150℃が好ましく、転写性の観点から80℃〜130℃が更に好ましい。転写温度が150℃以上になると、中間転写体の変形等の問題があり、80℃以下になると転写性が悪化する。転写温度は、通常80℃〜100℃に設定されることが多い。従って、転写温度80℃において本発明のインクを使用する場合には、T1を80℃、T2を150℃とすることが好ましく、80〜150℃の所定温度領域で上記(1)式を満足することが重要になる。
【0039】
図1に示すように、ポリマー微粒子の動的貯蔵弾性率Gを縦軸にとり、転写温度を横軸にとったときに、LogG’1/G’2は、80℃〜150℃の転写温度範囲におけるポリマー微粒子の動的貯蔵弾性率曲線Aの傾きを示す。そして、LogG’1/G’2≦2とは傾きが略寝た状態にあることを意味し、LogG’1/G’2≦1であることがより好ましく、LogG’1/G’2≦0.75であることが特に好ましい。尚、想像線Bで示した曲線は、80℃〜150℃の転写温度範囲における従来のインクに含有されるポリマー微粒子の動的貯蔵弾性率曲線の一例を示したものである。
【0040】
そして、本発明の特性を有するポリマー微粒子を含むインクを用いて、中間転写体上で処理剤と反応させて凝集させたインク凝集物のドット画像を転写温度に加熱して記録媒体上に転写することにより、中間転写体上でのインク凝集物のドットの乱れを効果的に抑制できるので、記録媒体上に乱れのない高品位な画像を転写することができる。特に高速印字を行う場合に有効である。
【0041】
また、ポリマー微粒子の80℃と150℃の動的貯蔵弾性率G’の絶対値としては、G’1が1.0×10〜1.0×10Paの範囲内であり、G’2が1.0×10〜1.0×10Paの範囲内であることが好ましい。G’1が1.0×10〜1.0×10Paの範囲内であり、G’2が1.0×10〜1.0×10Paの範囲内であることがより好ましい。
【0042】
尚、ポリマー微粒子の動的貯蔵弾性率G’とは、ポリマー微粒子を粉体化したものの動的貯蔵弾性率のことであり、測定方法は後述の実施例の欄に記載した。
【0043】
次に、本発明のインクの主たる構成である、色材(有機顔料)、ポリマー微粒子、親水性有機溶媒、及びインクに添加可能な添加剤について以下に詳説する。
【0044】
《有機顔料》
本発明において用いられるインクは、単色の画像形成のみならず、フルカラーの画像形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、マゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクを用いることができ、また、色調を整えるために、更にブラック色調インクを用いてもよい。また、イエロー、マゼンタ、シアン色調インク以外のレッド、グリーン、ブルー、白色インクやいわゆる印刷分野における特色インク(例えば無色)等を用いることができる。
【0045】
本発明の実施の形態における有機顔料の具体的な例を以下に示す。
【0046】
オレンジ又はイエロー用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185等が挙げられる。
【0047】
マゼンタまたはレッド用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0048】
グリーンまたはシアン用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7、米国特許4311775記載のシロキサン架橋アルミニウムフタロシアニン等が挙げられる。
【0049】
ブラック用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0050】
また、有機顔料の平均粒径は、透明性・色再現性の観点からは小さいほどよいが、耐光性の観点からは大きい方が好ましい。これらを両立する平均粒子径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。また、有機顔料の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布を持つもの、又は単分散の粒径分布を持つもの、いずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つ有機顔料を、2種以上混合して使用してもよい。
【0051】
また、有機顔料の添加量は、インクに対して、1〜25質量%であることが好ましく、2〜20質量%がより好ましく、2〜15質量%がさらに好ましく、2〜10質量%が特に好ましい。
【0052】
(分散剤)
本実施の形態に用いられる有機顔料の分散剤としては、ポリマー分散剤でも低分子の界面活性剤型分散剤でもよい。また、ポリマー分散剤としては水溶性の分散剤でも非水溶性の分散剤の何れでもよい。
【0053】
本実施の低分子界面活性剤型分散剤は、インクを低粘度に保ちつつ、有機顔料を水溶媒に安定に分散させる目的で、添加されるものである。本実施の形態に用いられる低分子分散剤は、分子量2000以下の低分子分散剤である。また、低分子分散剤の分子量は、100〜2000が好ましく、200〜2000がより好ましい。
【0054】
本実施の形態において、低分子分散剤は、親水性基と疎水性基とを含む構造を有している。また、親水性基と疎水性基は、それぞれ独立に1分子に1以上含まれていればよく、また、複数種類の親水性基、疎水性基を有していてもよい。また、親水性基と疎水性基を連結するための連結基も適宜有することができる。
【0055】
親水性基はアニオン性、カチオン性、ノニオン性、あるいはこれらを組み合わせたベタイン型等である。
【0056】
アニオン性基は、マイナスの電荷を有するものであればいずれでもよいが、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基またはカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基、カルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。
【0057】
カチオン性基は、プラスの荷電を有するものであればいずれでもよいが、有機のカチオン性置換基であることが好ましく、窒素またはリンのカチオン性基であることがより好ましい。また、ピリジニウムカチオン又はアンモニウムカチオンであることがさらに好ましい。
【0058】
ノニオン性基は、ポリエチレンオキシドやポリグリセリン、糖ユニットの一部等が挙げられる。
【0059】
本実施の形態において、親水性基はアニオン性基であることが好ましい。アニオン性基は、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基又はカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基、カルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。
【0060】
また、低分子分散剤がアニオン性の親水性基を有する場合、酸性の処理剤と接触させて凝集反応を促進させる観点から、pKaが3以上であることが好ましい。本発明における低分子分散剤のpKaはテトラヒドロフラン−水(3:2=V/V)溶液に低分子分散剤1mmol/L溶解した液を酸あるいはアルカリ水溶液で滴定し、滴定曲線より実験的に求めた値のことである。低分子分散剤のpKaが3以上であれば、理論上、pH3程度の処理剤と接したときに、アニオン性基の50%以上が非解離状態になる。したがって、低分子分散剤の水溶性が著しく低下し、凝集反応が起こる。すなわち、凝集反応性が向上する。この観点からも、低分子分散剤が、アニオン性基としてカルボン酸基を有していることが好ましい。
【0061】
疎水性基は、炭化水素系、フッ化炭素系、シリコーン系等の構造を有するが、特に、炭化水素系であることが好ましい。また、これらの疎水性基は、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれであってもよい。また疎水性基は、1本鎖状構造、又はこれ以上の鎖状構造でもよく、2本鎖状以上の構造である場合は、複数種類の疎水性基を有していてもよい。
【0062】
また、疎水性基は、炭素数2〜24の炭化水素基が好ましく、炭素数4〜24の炭化水素基がより好ましく、炭素数6〜20の炭化水素基がさらに好ましい。
【0063】
ポリマー分散剤のうち水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物を用いることができ例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グーアガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子などが挙げられる。
【0064】
天然物を原料に修飾した親水性高分子化合物では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子などが挙げられる。
【0065】
また、合成系の水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、非架橋ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物、セラック等の天然高分子化合物等が挙げられる。
【0066】
これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンアクリル酸のホモポリマーや他の親水基を有するモノマーの共重合体からなるようなカルボキシル基を導入したものが高分子分散剤として特に好ましい。
【0067】
ポリマー分散剤のうち非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部の両方を有するポリマーを用いることができ、例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0068】
分散剤の重量平均分子量は3,000〜100,000が好ましく、より好ましくは5,000〜50,000、更に好ましくは5,000〜40,000、特に好ましくは10,000〜40,000である。
【0069】
有機顔料と分散剤との混合質量比としては1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
【0070】
《ポリマー微粒子》
本発明における動的貯蔵弾性率Gの特性を有するポリマー微粒子のポリマーについて詳説する。
【0071】
このような特性を有するポリマーとしては、例えば、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリアクリル、ポリハロオレフィン、ポリジエン、ポリエーテル、ポリスルフィド、ポリエチレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリイミド、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリイミン、ポリシロキサン、ポリフォスファゼン、ポリケトン、ポリスルホン、ポリフェニレンの単独重合体や供重合体が挙げられる。
【0072】
好ましくはポリオレフィン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリアクリル、ポリハロオレフィン、ポリジエン、ポリエーテル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリイミンの単独重合体あるいはその供重合体が挙げられ、更に好ましくはポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリル、ポリハロオレフィン、ポリジエン、ポリエーテル、ポリエチレンの単独重合体あるいはその供重合体であり、特に好ましくはポリスチレン、ポリアクリルの単独重合体あるいはその供重合体であり、スチレン−アクリル共重合体が特に好ましい。このスチレン−アクリル共重合体においては、スチレンが50%以上含まれていることが好ましい。
【0073】
ポリスチレンを構成するスチレンモノマー誘導体としは具体的には、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等が挙げられる。ポリアクリルを構成するモノマーとしてはアクリル酸およびそのエステル、アミド、メタクリル酸およびそのエステル、アミドが挙げられる。
【0074】
アクリル酸エステル類としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、等が挙げられる。
【0075】
アクリル酸アミド化合物としては、アクリルアミド、N、N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0076】
メタクリル酸エステル類としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、等が挙げられる。
【0077】
また、ポリスチレンやポリアクリル共重合可能な成分であれば共重合成分として含有されていてもよく、例えば、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル等)、ビニルシアン化合物類(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、ハロゲン化単量体類(例えば、塩化ビニリデン、塩化ビニル等)、オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、イソプロピレン等)、ジエン類(例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等)ビニル単量体類(例えば、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等)などが挙げられる。これらのポリマーを複数組み合わせてもよい。
【0078】
また、ポリマー微粒子に用いるポリマーの質量平均分子量は、1000〜100万の範囲で使用可能であるが、より好ましい範囲は10万以上であり、更に好ましくは15万以上であり、特に好ましくは20万以上である。
【0079】
また、ポリマー微粒子の添加量は、インクに対して1〜20質量%が好ましく、より好ましくは2〜15質量%であり、更に好ましくは4〜15質量%である。また、顔料とポリマー微粒子の混合質量比としては、1:0.5〜1:20が好ましく、より好ましくは1:1〜1:10であり、更に好ましくは1:2〜1:5である。
【0080】
また、ポリマー微粒子の分散安定化効果を向上させるモノマーとしてアニオン性ポリマーやカチオン性ポリマーを有していてもよい。アニオン性ポリマーやカチオン性ポリマーについては、有機顔料の分散剤と同様のものを使用することができ、ここでの説明は省略する。
【0081】
以下に本発明におけるポリマー微粒子として好ましいポリマー(ラテックス化合物LX)の1次構造の具体例を示す。
【0082】
【化1】

【0083】
【化2】

【0084】
【化3】

【0085】
【化4】

【0086】
【化5】

【0087】
【化6】

【0088】
【化7】

【0089】
【化8】

【0090】
【化9】

【0091】
【化10】

【0092】
表1は、上記一次構造のラテックス化合物のモノマー組成比(質量比)、ラテックスの質量平均分子量、及びLogG’1/G’2の値を示したものである。
【0093】
【表1】

【0094】
本発明におけるポリマー微粒子のポリマーとしては、上記表1のものを好ましく使用することができるが、特に質量平均分子量が10万以上であり、少なくともスチレンとアクリル酸エステルとを含有し、スチレンの比率は50〜99質量%であることが特に好ましい。
【0095】
《水溶性有機溶媒》
本実施の形態において用いられる水溶性有機溶媒は、乾燥防止や湿潤促進などの目的で、使用される。また、乾燥防止剤は、インクジェット記録方式におけるノズルのインク噴射口において好適に使用され、インクジェット用インクが乾燥することによる目詰まりを防止する。
【0096】
乾燥防止剤は、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒であることが好ましい。乾燥防止剤の具体的な例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体が挙げられる。このうち、乾燥防止剤は、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。また、上記の乾燥防止剤は単独で用いても、2種以上併用しても良い。これらの乾燥防止剤は、インク中に、10〜50質量%含有されることが好ましい。
【0097】
また、浸透促進剤は、インクを記録媒体(印刷用紙)により良く浸透させる目的で、好適に使用される。浸透促進剤の具体的な例としては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジ(トリ)エチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等を好適に用いることができる。これらの浸透促進剤は、インク組成物中に、5〜30質量%含有されることで、充分な効果を発揮する。また、浸透促進剤は、印字の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない添加量の範囲内で、使用されることが好ましい。
【0098】
また、水溶性有機溶媒は、上記以外にも、粘度の調整にも用いられる。粘度の調整に用いることができる水溶性有機溶媒の具体的な例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。なお、水溶性有機溶媒は、単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0099】
《その他の添加剤》
本実施の形態に用いられるその他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、水溶性インクの場合は、インクに直接添加する。油溶性染料を分散物の形で用いる場合は、染料分散物の調製後、分散物に添加するのが一般的であるが、調製時に油相又は水相に添加してもよい。
【0100】
紫外線吸収剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。紫外線吸収剤としては、特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0101】
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。より具体的にはリサーチディスクロージャーNo.17643の第VIIのIないしJ項、同No.15162、同No.18716の650頁左欄、同No.36544の527頁、同No.307105の872頁、同No.15162に引用された特許に記載された化合物や特開昭62−215272号公報の127頁〜137頁に記載された代表的化合物の一般式及び化合物例に含まれる化合物を用いることができる。
【0102】
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。これらはインク中に0.02〜1.00重量%使用するのが好ましい。
【0103】
pH調整剤としては、中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。pH調整剤はインクジェット用インクの保存安定性を向上させる目的で、該インクジェット用インクがpH6〜10となるように添加するのが好ましく、pH7〜10となるように添加するのがより好ましい。
【0104】
本実施の形態に用いられる表面張力調整剤としては、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。
【0105】
また、表面張力調整剤の添加量は、インクジェットで良好に打滴するために、インクの表面張力を20〜60mN/mに調整する添加量が好ましく、20〜45mN/mに調整する添加量がより好ましく、25〜40mN/mに調整する添加量がさらに好ましい。
【0106】
界面活性剤の具体的な例としては、炭化水素系では脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&ChemicaLs社)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。
【0107】
更に、特開昭59−157636号の第(37)〜(38)頁、リサーチ・ディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも用いることができる。
【0108】
また、特開2003−322926号、特開2004−325707号、特開2004−309806号の各公報に記載されているようなフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等を用いることにより、耐擦性を良化することもできる。
【0109】
また、これら表面張力調整剤は、消泡剤としても使用することができ、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、及びEDTAに代表されるキレート剤等、も使用することができる。
【0110】
次に、上述のインクと処理剤とがセットになった本発明のインクセットについて説明する。
【0111】
〔インクセット〕
本発明のインクセットは、上記したインクと、該インクのpH環境を変化させることでインク凝集物を形成する処理剤とで構成される。
【0112】
本実施の形態に用いられる処理剤のpHは、1〜6であることが好ましく、2〜5であることがより好ましく、3〜5であることがさらに好ましい。インクと接触してインク凝集物を形成する際には、pHの変化が2以上あることが好ましい。
【0113】
処理剤を酸性にする化合物として、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸またはカルボン酸あるいはその塩を使用することができ、リン酸基、カルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。カルボン酸としては、フラン、ピロール、ピロリン、ピロリドン、ピロン、ピロール、チオフェン、インドール、ピリジン、キノリン構造を有し、更に官能基としてカルボキシル基を有する化合物等、例えば、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ビリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が、処理剤に添加される。
【0114】
また、上記の化合物としては、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、フランカルボン酸、クマリン酸、若しくはこれらの化合物誘導体、又は、これらの塩であることが好ましい。なお、これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
【0115】
また処理剤は、本発明の効果を害しない範囲内で、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられ、前述のインクに含まれるその他の添加剤(項目5)参照)の具体的な例に示したものが適用できる。
【0116】
次に、本発明のインクセットを用いたインクジェット記録方法及びその方法を実施するための装置について説明する。
【0117】
[インクジェット記録装置]
図2は、本発明に係るインクセットを用いたインクジェット記録方法を実施するための転写型のインクジェット記録装置の全体構成の一例である。
【0118】
図2に示すように、インクジェット記録装置10は、中間転写体12、処理剤付与部14、インク吐出部16、及び転写部18を主たる構成とし、更に、溶媒除去部20、クリーニング部22、及び画像定着部24を備えている。
【0119】
中間転写体12は所定幅を有する無端状のベルトで構成され、複数のローラー26に巻き掛けられた構造となっている。本実施形態では、一例として4つのローラー26A〜26Dが用いられている。中間転写体12としては、無端状のベルトに限定されず、シート状の中間転写体をコンベアベルトで搬送する方法や、ドラム状部材を用いることもできる。
【0120】
複数のローラー26のうち少なくとも1つの主ローラーにはモータ(不図示)の動力が伝達され、このモータの駆動により中間転写体12が各ローラー26(26A〜26D)の外側を図2の反時計回りの方向(以下、「転写体回転方向」という。)に回転するように構成されている。
【0121】
処理剤付与部14には、処理剤に対応する記録ヘッド(処理剤用ヘッド)30Sが設けられている。処理剤用ヘッド30Sは中間転写体12に対向する吐出面から処理剤を吐出する。これにより、中間転写体12の記録面12a上に処理剤が付与される。尚、処理剤付与部14は、ノズル状のヘンドから吐出する方式に限らず塗布ローラーを用いた塗布方式を採用することもできる。この塗布方式は中間転写体12上のインク滴が着弾する画像領域を含むほぼ全面に処理剤を容易に付与することができる。この場合、中間転写体12上の処理剤の厚みを1〜5μmとすることが好ましい。中間転写体12上の処理剤の厚みを一定にする手段を設けてもよい。例えば、エアナイフを用いる方法や、尖鋭な角を有する部材を処理剤厚みの規定量のギャップを中間転写体12との間に設けて設置する方法がある。
【0122】
インク吐出部16は、処理剤付与部14の転写体回転方向下流側に配置される。インク吐出部16には、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の各色インクに対応する記録ヘッド(インク用ヘッド)30K、30C、30M、30Yが設けられている。そして、各色インクに対応する図示しない各インク貯留部に本発明のインク組成条件を満足する各インクが貯留され、各記録ヘッド30K、30C、30M、30Yに供給される。
【0123】
各インク用ヘッド30K、30C、30M、30Yは、中間転写体12に対向する吐出面からそれぞれ対応する各色インクを吐出する。これにより、中間転写体12の記録面12a上に各色インクが付与される。
【0124】
処理剤用ヘッド30S、及びインク用ヘッド30K、30C、30M、30Yはいずれも、中間転写体12上に形成される画像の最大記録幅(最大記録幅)に渡って多数の吐出口(ノズル)が形成されたフルラインヘッドとなっている。中間転写体12の幅方向(図2の紙面表裏方向)に短尺のシャトルヘッドを往復走査しながら記録を行うシリアル型のものに比べて、中間転写体12に対して高速に画像記録を行うことができる。もちろん、シリアル型であっても比較的高速記録が可能な方式、例えば、1回の走査で1ラインを形成するワンパス記録方式に対しても本発明は好適である。
【0125】
本実施形態では、各記録ヘッド(処理剤用ヘッド30S、及びインク用ヘッド30K、30C、30M、30Y)は全て同一構造であり、以下では、これらを代表して符号30で記録ヘッドを表すものとする。
【0126】
そして、処理剤用ヘッド30Sから中間転写体12に向かって処理剤が吐出されると、中間転写体12の回転に伴って、中間転写体12の処理剤が付与された領域は各インク用ヘッド30K、30C、30M、30Yの真下に順次移動し、各インク用ヘッド30K、30C、30M、30Yからそれぞれ対応する各色インクが吐出される。
【0127】
処理剤付与量とインク付与量は必要に応じて調節することが好ましい。例えば、転写する記録媒体に応じて、処理剤とインクが混合してできるインク凝集物の粘弾性等の物性を調節する等のために処理剤の付与量を変えてもよい。また、離型性付与、あるいはインク膜内部の接着力付与による転写性向上観点から、処理剤にはワックスを添加してもよい。エマルジョン形態で添加することがより好ましい。その添加量は、良好な離型効果とインク膜内部の接着強度を得る為に、エマルジョン中の固形分がインク全固形分に対し、重量比で0.05重量%以上であることが好ましい。0.05%未満であると、十分な離型効果が得られない。ただしエマルジョンの添加量を増加させていくことで、インクの信頼性が低下していくので、固形分はインク全体に対し30重量%程度に抑えるのが好ましい。ワックスとしては、カルナバワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、アルコールワックス、ポリエチレンワックス、PTFEワックス、合成酸化ワックス、αオレフィン−無水マレイン酸共重合体等を用いることができる。また、離型性成分のみを処理剤付与前に、別途付与して、離型層を形成してもよい。
【0128】
溶媒除去部20は、インク吐出部16の転写体回転方向下流側に配置される。溶媒除去部20には、中間転写体12を挟んでローラー26Aに対向する位置に溶媒除去ローラー32が設けられている。溶媒除去ローラー32はローラー状の多孔質体で構成され、中間転写体12の記録面12aに当接させるように配置されている。他の態様として、エアナイフで余剰な溶媒を中間転写体12から取り除く方式、加熱して溶媒を蒸発させ除去する方式等がある。溶媒除去方式としては、いずれでもよいが、好ましくは熱によらない方式を用いる方がよい。転写体表面を加熱又は転写体上の凝集体に熱を付与して溶媒を蒸発させる手段では、凝集物の過剰加熱により、溶媒を過剰除去し転写時において好ましい凝集物の粘弾性を維持できず、かえって転写性が低下することがある。中間転写体の熱によるインクジェットヘッドからのインク吐出性への影響も懸念される。
【0129】
溶媒除去部20では、溶媒除去ローラー32によって中間転写体12の記録面12a上の溶媒を除去する。このため、中間転写体12の記録面12a上に処理剤が多く付与されるような場合でも、溶媒除去部20で溶媒が除去されるため、転写部18で記録媒体34に多量の溶媒(分散媒)が転写されることはない。従って、記録媒体34として紙が用いられるような場合でも、カール、カックルといった水系溶媒に特徴的な問題が発生しない。
【0130】
溶媒除去部20によって、インク凝集物から過剰な溶媒を除去することによって、インク凝集物を濃縮し、より内部凝集力を高めることができる。これによりインク凝集物に含まれる樹脂粒子の融着が効果的に促進され、転写工程までにより強い内部凝集力を凝集物に付与することができる。さらに、溶媒除去によるインク凝集物の効果的な濃縮により、記録媒体に転写後も良好な定着性や光沢性を画像に付与することができる。
【0131】
尚、溶媒除去部20によって、溶媒すべてを除去する必要は必ずしもない。過剰に除去しすぎてインク凝集物を濃縮しすぎるとインク凝集物の転写体の付着力が強くなりすぎて、転写に過大な圧力を必要とするため好ましくない。むしろ転写性に好適な粘弾性を保つためには、少量残留させるのが望ましい。溶媒を少量残留させることで得られる効果として、インク凝集物は疎水性であり、揮発しにくい溶媒成分(主にグリセリンなどの有機溶剤)は親水性であるので、インク凝集物と残留溶媒成分は溶媒除去実施後分離し、残留溶媒成分からなる薄い液層がインク凝集物と中間転写体との間に形成される。従って、インク凝集物の転写体への付着力は弱くなり、転写性向上に有利である。
【0132】
転写部18は、溶媒除去部20の転写体回転方向下流側に配置される。転写部18には、中間転写体12を挟んでローラー26Bに対向する位置に加圧・加熱兼用ローラー36が設けられている。加圧・加熱兼用ローラー36の内部には加熱ヒータ37が設けられており、この加熱ヒータ37によって加圧・加熱兼用ローラー36の外周面の温度が上昇するようになっている。記録媒体34は中間転写体12と加圧・加熱兼用ローラー36の間を通過するように図2の左側から右側に搬送される。中間転写体12と加圧・加熱兼用ローラー36の間を通過する際、中間転写体12の記録面12aに記録媒体34の表面側を接触させ、記録媒体34の裏面側から加圧・加熱兼用ローラー36で加圧・加熱する。これにより、中間転写体12の転写部分における表面温度が転写温度まで上昇し、中間転写体12上に形成されたインク凝集物のドット画像が適度な軟化状態に軟化する。この状態で中間転写体12の記録面12aに形成されたドット画像が記録媒体34上に転写形成される。本発明においては、加熱部を中間転写体12の転写部分のみに限定する構造が望ましい。この構造であれば、転写体全面を加熱したりすることによる過剰な熱負荷やインク凝集物に含まれる溶媒成分の過剰除去を防ぐことができる。また、インク凝集物が転写部18で加熱されることにより、インク凝集物に含まれていた溶媒のほとんどが除去され、加圧による物理的なインク凝集物の濃縮効果と相まって促進される樹脂の融着により、加圧・加熱兼用ローラー36に中間転写体12が接している領域における、転写工程直前から転写実施時までの短い間に、より強い内部凝集力をインク凝集物に付与することができる。
【0133】
尚、転写温度は、上記の如く中間転写体12の転写部分での表面温度であり、記録媒体を介して中間転写体12が加熱されることを考慮して、加圧・加熱兼用ローラー36のローラー表面温度は転写温度よりも高めに設定される。この場合、記録媒体が転写部18に搬送される前に、記録媒体34に加熱処理を施す記録媒体加熱手段を設けることもできる。インク凝集物のドット画像に直接接触する記録媒体が所望の転写温度に達していることにより、転写時に熱伝達を効率的に行うことができる。また、記録媒体が予め加熱されていることによって、転写時に直ちにインク凝集物が溶融し、記録媒体表面の凹凸や毛管内に入り込み、接触面積増大による投錨効果が生じる。この投錨効果により、記録媒体34とインク凝集物との接着力が向上し、転写が良好に行われる。また、記録媒体に転写後の画像の定着性を向上でできる。更には、画像の平滑性を高めることができ、粒状感、光沢性の付与に効果がある。記録媒体34の加熱温度は、記録媒体34の種類によって自由に調整することができるようにすることが好ましい。
【0134】
普通紙や上質紙など表面にパルプ繊維による凹凸が多く、インク像と記録媒体表面との間にアンカー効果を期待することができる場合は、インク凝集物の粘弾性を転写部での加熱温度だけでなく、直接転写時に接する記録媒体表面の加熱温度を制御して調節することにより、最適なインク像の粘着力で普通紙や上質紙などに良好な定着性を付与することができる。例えば、塗工紙などの表面が平滑な記録媒体34は、表面部分での熱伝達効率がよいため、加熱温度を低めに設定できる。対して、上質紙など表面に凹凸がある記録媒体34はインク像との間に空気層が介在しやすくなるため、加熱温度を高めに設定したほうがポリマー成分の粘着力増加によるアンカー効果も期待でき、好ましい。
また、転写前に溶媒除去工程を経ていなくても、加熱により溶媒を短時間のうちに除去できるので転写率にはさほど問題とはならないが、溶媒除去工程を経ていれば、転写部で蒸発させる溶媒の絶対量が少なくてすむため、この濃縮効果はさらに効果的なものとなるばかりか、転写時の熱負荷も軽減することができる。また、転写部18での加熱によるインク凝集物の効果的な濃縮により、記録媒体34に転写後も良好な定着性や光沢性を画像に付与することができる。
【0135】
更に、転写時の温度及び圧力は記録媒体34や印字条件等によって好適な条件に自由に調節してもよい。
【0136】
また、中間転写体12の表面には、必要に応じて離型性の表面層を有する構造にすることもできる。離型性付与転写体表面においては、表面エネルギーが低く、剥離性が高い性質を有していることから、高い転写率を実現することが可能である。本発明においては、特に離型性を付与しなくても十分な転写率を得ることができるが、クリーニング負荷などの観点から中間転写体表面に離型性を付与しても何ら問題はない。ここで、本発明で表記する離型性表面とは、臨界表面張力が30 m N/m 以下、若しくは水に対する接触角が75° 以上の表面を指す。
【0137】
中間転写体12の表面層に用いられる好ましい材料としては、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂等の公知の材料が挙げられる。
【0138】
クリーニング部22は、転写部18の転写体回転方向下流側であって、処理剤付与部14の転写体回転方向上流側に配置される。クリーニング部22には、中間転写体12を挟んでローラー26Cに対向する位置にクリーニングローラー38が設けられ、中間転写体12の記録面12aに当接させるように配置され、中間転写体12の記録面12a上の転写後の残留物等の除去を行う。
【0139】
クリーニングローラー38としては、柔軟性ある多孔質部材からなり、洗浄液付与手段にて洗浄液を染み込みながら中間転写体表面(記録面12a)を洗浄する方式,表面にブラシを備え、洗浄液を中間転写体表面に付与しながらブラシで中間転写体表面のゴミを除去する方式、また、柔軟性のあるブレードをローラー表面に備えて中間転写体表面の残留物(インク凝集物の残留痕跡)を掻き落とす方式などがある。クリーニングローラー38表面の線速は中間転写体表面の線速と等しくするよりも、遅く、または速く設定した方が残留物の除去率を高くすることができる。クリーニングローラー38表面と中間転写体表面の速度差にしたがって中間転写体表面にせん断力が生じ、残留物を効率的に除去することが可能となる。
【0140】
本発明においては、インク凝集物を転写後、記録媒体により強固な定着性を付与するために別途必要に応じて、画像定着部24を設けてもよい。
【0141】
画像定着部24は、転写部18の記録媒体排出側(図2の右側)に配置される。画像定着部24には、記録媒体34の表裏面に2つの定着ローラー40A、40Bが設けられており、これら定着ローラー40A、40Bで記録媒体34上に転写形成された画像を加圧、加熱することで、記録媒体34上の記録画像の定着性を向上させることができる。尚、定着ローラー40A、40Bとしては、1個の加圧・加熱兼用ローラーと1個の加熱ローラーからなる一対のローラー対が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0142】
また、本発明においては、記録媒体が転写部18に搬送される前に、記録媒体34に加熱処理を施す手段(不図示)を設けることもできる。
【0143】
インク凝集物に直接接触する記録媒体34がすでに所望の転写温度に達していることにより、より転写ニップ時の短時間の間に、熱伝達を効率よく行うことができる。また、転写ニップ時のみで加熱する場合に比べ、予め記録媒体を所望の転写温度にしておくことで、インク凝集体と記録媒体表面が接触する。この温度は記録媒体34の種類によって自由に調節することができ、この温度制御によりインク凝集物の粘弾性を制御することも可能である。
【0144】
記録媒体34が、普通紙や上質紙など表面にパルプ繊維による凹凸が多く、インク凝集物と記録媒体表面との間にアンカー効果を期待することができる場合は、インク凝集物の粘弾性を転写部での加熱温度だけでなく、直接転写時に接するメディア表面の加熱温度を制御して調節することにより、最適なインク凝集物の粘弾性で普通紙や上質紙などに良好な定着性を付与することができる。
【0145】
また、記録媒体34が、塗工紙などの表面が平滑な記録媒体に対しては、インク凝集物を表面に凹凸がある記録媒体よりは硬めに粘弾性を制御することによって、転写後も良好な定着性を付与するといったことも可能である。
【0146】
[インクジェット記録方法]
次に、上記の如く構成されたインクジェット記録装置に、本発明のインクセットを用いて画像を記録する本発明のインクジェット記録方法について説明する。尚、処理剤を中間転写体に付与する方法として、塗布ローラーで塗布する方法で説明する。
【0147】
先ず、処理剤を塗布ローラー(処理剤付与部14)に供給し、塗布ローラーを介して中間転写体12上に薄膜状に塗布する(ステップ1)。
次に、処理剤が塗布された中間転写体12は、ベルトコンベア13により記録ヘッド16の位置まで搬送され、本発明のインクが打滴されて処理剤と接触される(ステップ2)。これにより、処理剤とインクとが混合してインク凝集物のドット画像が形成される(ステップ3)。
【0148】
次に、インク凝集物のドット画像が形成された中間転写体12は、ベルトコンベア13により溶媒除去部20の位置まで搬送され、溶媒除去ローラー32によって中間転写体12の記録面12a上の溶媒が除去される(ステップ3)。
【0149】
次に、溶媒が除去された中間転写体12は、ベルトコンベア13により転写部18の位置まで搬送される。一方、転写部18には、記録媒体34が別ルートで搬入され、中間転写体12と加圧・加熱兼用ローラー36(加熱ヒータ付き)との間に挟持される。この状態で、中間転写体12及び記録媒体34が加圧・加熱兼用ローラー36により加熱されることにより、中間転写体12の転写部分における表面温度が転写温度(例えば100℃)まで上昇し、中間転写体12上に形成されたインク凝集物が適度に軟化した状態で記録媒体34に転写される(ステップ4)。
【0150】
次に、転写の終了した中間転写体12は、ベルトコンベア13によりクリーニング部22を通って再び処理剤付与部14の位置に循環し、ステップ1〜ステップ4の操作が繰り返される。
【0151】
かかる、インクジェット記録方法において、転写温度を例えば100℃に設定しても、連続運転により中間転写体12が循環搬送されることで、中間転写体12の転写部分の表面温度が100℃よりも高く(例えば150℃)なったり、熱伝導率の悪い記録媒体や厚みの厚い記録媒体34に転写するときには、中間転写体12の転写部分の表面温度が100℃まで上がりきらず(例えば80℃)に転写されてしまったりすることがある。
このような転写温度の変動に起因して、従来のインクの場合には、インク凝集物の粘弾性が変動して転写性能が変わってしまうために、中間転写体12にインク凝集物の痕跡が残存する。この痕跡が次に中間転写体12上に形成するインク凝集物のドットを弾く原因になりドットがインク打滴位置から移動するためにドット乱れを生じる。
【0152】
図3により、ドット乱れを概念的に説明する。図3における○がインク凝集物の1つのドットDを示す。
【0153】
図3(a)は、処理剤が塗布された中間転写体12上に、左から右に直線的にインクを打滴してドット画像を形成する場合であり、3(b)は、左から右にアーチ状にインクを打滴してドット画像を形成する場合である。
【0154】
図3(a)、(b)のいずれの場合にも、ドット乱れとは、ドットDが本来の打滴位置から移動することにより直線ライン又はアーチ状ラインからズレたドットDaが形成されてしまうことをいう。これにより、直線ライン中又はアーチ状ライン中において、つながっていない部分ができるために、転写された記録媒体において画像乱れとなる。 上述したように、ドット乱れの原因は転写時に中間転写体に残存するインク凝集物の痕跡と考えられるが、転写部18の後のクリーニング部22のような装置的な対策のみでは完全に解決することができない。
【0155】
そこで、本発明では、かかる問題を解決するために、上記説明したように、インクに含有されるポリマー微粒子として、転写温度前後の所定温度領域における動的貯蔵弾性率G’が実質的に変動しない特性を有するポリマーを用いるようにした。
【0156】
これにより、転写温度が変動しても、インク凝集物の粘弾性が変動するのを顕著に抑制することができるので、中間転写体上でのインク凝集物のドットの乱れを防止できる。 従って、記録媒体上に乱れのない高品位な画像を転写することができる。
【実施例】
【0157】
次に、本発明のインクセットを用いて転写方式により画像を形成する実施例を説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0158】
本発明の実施例は、下記説明するように、LogG’1/G’2≦2を満足するポリマー微粒子を含む4種類のインク(実施例)と、LogG’1/G’2≦2を満足しないポリマー微粒子を含む2種類のインク(比較例)を調製し、実施例と比較例とのインクについてドット乱れの発生状況を比較した。
【0159】
[ポリマー微粒子の合成]
上記の4種類のインク(実施例)に含有させたポリマー微粒子は、表1に示したラテックスのうち、LX−06A,LX−06B,及びLX−06Cの3種類を使用し、以下のように合成した。
【0160】
〈合成例1〉
表1に示したラテックスLX−06A(スチレン−ブチルアクリレート−アクリル酸([62/35/3=w/w/w])を以下のように合成した。
【0161】
攪拌装置、還流冷却管を装着した1L(リットル)の三口フラスコに、パイオニンA−43s(竹本油脂社製)8.1g、蒸留水236.0gを入れ、窒素気流下70℃にて加熱攪拌した。次に、スチレン6.2g、n−ブチルアクリレート3.5g、アクリル酸0.3g、過硫酸アンモニウム1.0g、蒸留水40gを添加し、30分間攪拌した後、スチレン117.8g、n−ブチルアクリレート66.5g、アクリル酸5.7gからなるモノマー溶液を2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、過硫酸アンモニウム0.5g、蒸留水20gからなる水溶液を加え、70℃で4時間攪拌した後、85℃に昇温して更に2時間攪拌を続けた。反応液を冷却し、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整した後、75μmフィルターで濾過して目的のラテックスを505g得た。
【0162】
得られたラテックス分散液の固形分濃度は39.2%(固形分収率97.0%)であった。平均粒子径は得られたラテックスを測定に適した濃度に希釈し、マイクロトラックUPA EX−150(日機装(株)製)で測定した結果、75nmであった。
【0163】
質量平均分子量は、予めラテックスの水分を乾燥させ、得られた固形分をテトラヒドロフランにて0.1質量%に希釈し、高速GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)HLC−8220GPCにて、TSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ2000を3本直列につなぎ測定した。その結果、ポリスチレン換算で質量平均分子量は28.6万であった。最低造膜温度(MFT)はYOSHIMITSU SEIKI製のMFT測定装置で測定し、47.5℃であった。
【0164】
〈合成例2〉
表1に示したラテックスLX−06B(スチレン−ブチルアクリレート−アクリル酸[52/45/3=w/w/w])を以下のように合成した。
【0165】
合成方法は、上述のラテックスLX−06A のモノマー組成を変更した以外は同様の方法で実施した。得られたラテックス分散液の固形分濃度は32.0%であった。また、質量平均分子量は44.7万であり、MFTは21℃であった。
【0166】
〈合成例3〉
表1に示したラテックスLX−06C(スチレン−ブチルアクリレート−アクリル酸[62/35/3=w/w/w])を以下のように合成した。
【0167】
合成方法は、ラテックスLX−06Aの合成時に連鎖移動剤としてメルカプトエタノールを0.5wt%添加した以外は同様の方法で実施した。得られたラテックス分散液の固形分濃度は32.0%であった。また、質量平均分子量は6.3万、MFTは38℃であった。
【0168】
[ポリマー微粒子の動的貯蔵弾性率測定]
ポリマー微粒子の分散物を凍結乾燥機で粉体化し、錠剤成形機で約直径10mmの円柱型の錠剤を作製し、Anton Paar社製の粘弾性測定装置Physica MCR301にて測定した。測定条件は粉体化したポリマー微粒子を150℃に昇温した後、直径8.0mmのパラレルプレートを用い、各周波数ω6.28 rad/sec(1Hz)、ひずみ角0.1°、ギャップ1.0mmで150℃から20℃まで3℃/分で降温しながら測定を行った。
【0169】
表2は、上記の如く合成したラテックスLX−06A、ラテックスLX−06B、ラテックスLX−06Cの80℃での動的貯蔵弾性率G’1、150℃での動的貯蔵弾性率G’2、100℃での動的貯蔵弾性率G’3、LogG’1/G’2の値、及び平均粒径の5項目を示したものである。LX−06AのLogG’1/G’2は0.50、ラテックスLX−06BのLogG’1/G’2は0.26、ラテックスLX−06CのLogG’1/G’2は1.82であり、本発明のLogG’1/G’2≦2を満足している。
【0170】
【表2】

【0171】
尚、表1には、従来のインクに含有されたポリマー微粒子の一例である比較ラテックス1及び比較ラテックス2についても同様に上記5項目について測定した値を示した。比較ラテックス1は、日本純薬製のアクリル系ラテックスであり、LogG’1/G’2の値が2を超える。また、比較ラテックス2は、BASFジャパン製のスチレン・アクリル系ラテックス「ジョンクリル537」であり、LogG’1/G’2の値が2を超える。
【0172】
次に、表2のラテックスを使用したインクの調製方法を説明する。
【0173】
[インクの調製]
《シアンインクC1−1の調製》
反応容器に、スチレン6質量部、ステアリルメタクリレート11質量部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成製)4質量部、プレンマーPP−500(日本油脂製)5質量部、メタクリル酸5質量部、2−メルカプトエタノール0.05質量部、メチルエチルケトン24質量部の混合溶液を調液した。
【0174】
一方、滴下ロートに、スチレン14質量部、ステアリルメタクリレート24質量部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成製)9質量部、プレンマーPP−500(日本油脂製)9質量部、メタクリル酸10質量部、2−メルカプトエタノール0.13質量部、メチルエチルケトン56重量部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2質量部を入れ、混合溶液を調液した。
【0175】
そして、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を1時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から2時間経過後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2質量部をメチルエチルケトン12質量部に溶解した溶液を3時間かけて滴下し、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、ポリマー分散剤溶液を得た。
【0176】
得られたポリマー分散剤溶液を固形分換算で5.0g、シアン顔料Pigment BLue 15:3(大日精化製)10.0g、メチルエチルケトン40.0g、1mol/L水酸化ナトリウム8.0g イオン交換水82.0g、0.1mmジルコニアビーズ300gをベッセルに供給し、レディーミル分散機(アイメックス製)で1000rpm6時間分散した。得られた分散液をエバポレーターでメチルエチルケトンが十分留去できるまで減圧濃縮し、顔料濃度が10%になるまで濃縮し、シアン分散液を調液した。得られたシアン分散液の平均粒径は77nmであった。
【0177】
そして、得られたシアン分散液を用いて表3に記載の組成比になるように、上記合成したラテックスLX−06A、及びその他のポリマー分散剤、グリセリン、ジエチレングリコール、オルフィンE1010、イオン交換水を調合した。調合した調合液を5μmフィルターで粗大粒子を除去し、シアンインクC1−1を調製した。
【0178】
得られたインクC1−1の物性値を測定した結果、pH9.0、表面張力32.9mN/m、粘度3.9mPa・sであった。
【0179】
【表3】

【0180】
《シアンインクC1−2の調製》
シアンインクC1−1と同様にシアン分散液を調製し、得られたシアン分散液を用いて表3に記載の組成になるように、上記合成したラテックスLX−06B、及びその他のポリマー分散剤、グリセリン、ジエチレングリコール、オルフィンE1010、イオン交換水を調合した。調合した調合液を5μmフィルターで粗大粒子を除去し、シアンインクC1−2を調製した。
【0181】
《シアンインクC1−3の調製》
シアンインクC1−1と同様にシアン分散液を調製し、得られたシアン分散液を用いて表3に記載の組成になるように、上記合成したラテックスLX−06C、及びその他のポリマー分散剤、グリセリン、ジエチレングリコール、オルフィンE1010、イオン交換水を調合した。調合した調合液を5μmフィルターで粗大粒子を除去し、シアンインクC1−3を調製した。
【0182】
《マゼンダインクM1−1の調製》
CromophtaL Jet Magenta DMQ(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製)400g、オレイン酸ナトリム(和光純薬製)40g、グリセリン(和光純薬製)200g、及びイオン交換水1360gを乳鉢で1時間混錬した後、日本精機製小型攪拌機付超音波分散機US−600CCVP(600W、超音波発振部50mm)で20分間、粗分散を行った。
【0183】
次に、粗分散液と0.05mmジルコニアビーズ1.3kgをコトブキ技研興業製スーパーアペックスミル(形式SAM−1)へ供給し、回転数2500rpm、処理流量15L/hで160分間分散を実施した。分散終了後、32μm濾布で濾過し、20質量%マゼンタ顔料分散液とした。これにより、マゼンタ分散液を得た。得られたマゼンタ分散液の平均粒径は70nmであった。
【0184】
そして、得られたマゼンダ分散液を用いて表4に記載の組成になるように、上記合成したラテックスLX−06B、及びその他のポリマー分散剤、グリセリン、ジエチレングリコール、オルフィンE1010、イオン交換水を調合した。調合した調合液を5μmフィルターで粗大粒子を除去し、マゼンダインクM1−1を調製した。
得られたマゼンダインクM1−1の物性値を測定した結果、pH 9.1、表面張力31.9mN/m、粘度4.2mPa・sであった。
【0185】
【表4】

【0186】
[処理剤の調製]
表5に示す素材を用いて処理剤T−1を表調製した。
【0187】
【表5】

【0188】
得られた処理剤T−1の物性値を測定した結果、pH3.6、表面張力28.0mN/m、粘度3.1mPa・sであった。上記処理剤の組成比を変えることにより処理剤T−2を調製した。処理剤T−2の物性値を測定した結果、pH3.6、表面張力21.1mN/m、粘度2.9mPa・sであった。
【0189】
【化11】

【0190】
[インクの打滴試験]
インクジェット記録装置として、リコー社製GETJEL GX5000改造機を使用し、中間転写体上にインクを主走査方向に1200dpi、インク打滴量2.5pLで直線ラインを打滴し、印字パターン画像(ドット画像)をA4サイズに裁断した特菱アート両面N(三菱製紙製)に転写した。中間転写体としてシリコーンゴムシートSRシリーズ0.5mm膜厚(タイガースポリマー社製)を用いた。
【0191】
処理剤T−1は、インク打滴に先立ってワイヤーバーコーターにより約4μm厚みで塗布した。尚、処理剤の付与は、塗布に限らず、インクと同様に打滴してもよく、インクを打滴した後に付与してもよい。
【0192】
中間転写体上の溶媒除去は、ローラー状の多孔質体(炭化珪素)を中間転写体に当接させ、吸引させることで実施した。転写は、ニップ圧力が1MPaで行い、転写温度及び中間転写体の搬送速度は下記(1)〜(4)の条件に設定した。
【0193】
更に、中間転写体から記録媒体(紙)に転写記録した画像を、加熱設定温度95℃に設定した定着ローラーに通して、加熱定着処理を施した。
【0194】
上記処理を連続して行い、10枚目の記録媒体(紙)のドットの乱れを目視にて評価した。尚、本発明の効果を短時間で確認するために、クリーニング部での中間転写体のクリーニングは実施しなかった。
【0195】
転写温度条件及び中間転写体の搬送速度条件は次の通りである。
(1)転写温度:80℃、搬送速度:200mm/s(秒)
(2)転写温度:100℃、搬送速度:200mm/s
(3)転写温度:100℃ 搬送速度:500mm/s
(4)転写温度:150℃ 搬送速度:500mm/s
[連続運転時のドット乱れ評価]
ドットの乱れは、インクを連続的に打滴して、中間転写体上に25cmの直線ラインのドット画像を形成し、このドット画像を記録媒体(紙)に転写したときに、転写された直線ライン画像がドットのつながりで形成されているか否かを目視にて観察した。そして、直線ラインから外れるドット箇所が幾つあるかで次のように評価した。直線ラインから外れるドット箇所は、1つのドットとは限らず複数のドットが纏まって外れることもある。
◎:25cmの直線ライン中から外れるドット箇所がなく、ライン全体がつながっている。
○:25cmの直線ライン中から外れるドット箇所が1つあるが、画像乱れとしては殆ど目立たない。
△:25cmの直線ライン中から外れるトッド箇所が2箇所あり、ラインのつながりがやや悪い。
×:25cmの直線ライン中から外れるトッド箇所が3箇所あり、ラインのつながりが非常に悪い。
【0196】
その結果を、表6に示す。
【0197】
【表6】

【0198】
表6の結果から分かるように、本発明の動的貯蔵弾性率Gを満足しないポリマー微粒子を含有する比較インク1−1及び1−2は、×〜○の評価であり、ラインのつながりが余り良くない結果であった。特に、比較インク1−1は、条件(4)の高温転写及び高速搬送において×の評価であった。一方、比較インク1−2は、条件(1)の低温転写及び低速搬送において×の評価であった。
【0199】
これに対して、本発明の動的貯蔵弾性率Gを満足するポリマー微粒子を含有するシアンインクC1−1〜C1−3及びマゼンダインクM1−1は、条件(1)のシアンインクC1−1において一つだけ△の評価があるものの、他は全て○〜◎であり、比較インク1−1及び1−2に比べてドット乱れが顕著に抑制されていることが分かる。即ち、転写温度が80〜150℃の広い範囲において、且つ中間転写体の搬送速度が200〜500mm/sの広い範囲において、ドット乱れが顕著に抑制されている。
【0200】
特に、シアンインクC1−2とマゼンダインクM1−1は、条件(1)〜(4)の全ての条件において◎の評価であり、低温転写〜高温転写の広い温度領域、及び低速搬送〜高速搬送までの広い搬送領域において全くドット乱れが発生しなかった。
【0201】
この結果は、本発明の動的貯蔵弾性率Gを満足するポリマー微粒子を含有するインクを用いることにより、転写温度の変動に対するインク凝集物の粘弾性率の変化が小さく、80〜150℃の範囲で転写性能が変わらないことに起因することものと考えられる。
【0202】
また、上記の実施例では、記録媒体は全ての試験において同じ紙を使用したが、例えば様々な種類の紙に対して印字することが求められるインクジェット記録装置においても有効である。即ち、紙の種類、厚みによって熱伝導率が異なるため、転写部での転写温度が変動し易くなり、中間転写体にインク凝集物の痕跡が残存し易い。
【0203】
しかし、この場合にも本発明のインクを用いることで、転写温度の変動によってインク凝集物の粘弾性率の変化が小さく、ドット乱れを抑制できる。
【0204】
このように、実施例のポリマー微粒子を含有するインクを用いることで、転写温度が80〜150℃の範囲で大きく変動した場合にも、ドット乱れを顕著に抑制できるだけでなく、中間転写体の搬送速度を200mm/sから500mm/sにして高速印字を行ってもドット乱れを顕著に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0205】
【図1】本発明のインク組成物に含有されるポリマー微粒子の動的貯蔵弾性率G’と転写温度との関係を示す関係図
【図2】本発明のインクジェット記録方法を実施するための装置の一例を示すインクジェット記録装置の構成図
【図3】ドットの乱れを概念的に説明する説明図
【符号の説明】
【0206】
10…インクジェット記録装置、12…中間転写体、14…処理剤付与部、16…インク吐出部、18…転写部、20…溶媒除去部、22…クリーニング部、24…画像定着部、26…溶媒除去ローラー、30…記録ヘッド、30S…記録ヘッド(処理剤用ヘッド)、30K、30C、30M、30Y…記録ヘッド(インク用ヘッド)、34…記録媒体、36…加圧・加熱兼用ローラー、38…クリーニングローラー、40A、40B…定着ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間転写体上で処理剤と反応させて凝集させたインク凝集物のドット画像を転写温度に加熱して記録媒体上に転写することにより画像を形成するためのインク組成物であって、
前記インク組成物は、少なくとも、水、親水性有機溶媒、色材、ポリマー微粒子を含み、前記ポリマー微粒子として、前記転写温度前後の所定温度領域における動的貯蔵弾性率G’が実質的に変動しない特性を有するポリマーを用いたことを特徴とするインク組成物。
【請求項2】
前記ポリマー微粒子は、前記所定温度領域の最低温度をT1とすると共に最高温度をT2とし、T1のときの動的貯蔵弾性率をG’1とすると共にT2のときの動的貯蔵弾性率をG’2としたときに、LogG’1/G’2≦2であることを特徴とする請求項1のインク組成物。
【請求項3】
前記転写温度の設定値を100℃としたときに、前記T1が80℃で、前記T2が150℃である所定温度領域において前記LogG’1/G’2≦2を満足することを特徴とする請求項2のインク組成物。
【請求項4】
前記G’1が1.0×10〜1.0×10Paであり、前記G’2が1.0×10〜1.0×10Paであることを特徴とする請求項3のインク組成物。
【請求項5】
前記ポリマー微粒子を構成するポリマーは、質量平均分子量が10万以上であり、少なくともスチレンとアクリル酸エステルとを含有していることを特徴とする請求項1〜4の何れか1のインク組成物。
【請求項6】
前記スチレンの比率は50〜99質量%であることを特徴とする請求項5のインク組成物。
【請求項7】
前記インク凝集物を生成する凝集反応は、pHが2以上変化することによって引き起こされることを特徴とする請求項1〜6の何れか1のインク組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1のインク組成物と、前記インク組成物を凝集させる処理剤と、からなることを特徴とするインクセット。
【請求項9】
請求項8に記載されるインクセットのインク組成物と処理剤とを、循環搬送される中間転写体上で反応させてインク凝集物のドット画像を形成する凝集工程と、
前記中間転写体上から前記インク組成物と前記処理剤の溶媒を除去する溶媒除去工程と、
前記溶媒が除去された中間転写体上に形成された前記インク凝集物のドットを転写温度に加熱して記録媒体に転写する転写工程と、を備えたことを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−51908(P2009−51908A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218608(P2007−218608)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】