説明

インク組成物、インクセット及び画像形成方法。

【課題】インク組成物の経時安定性及び着弾位置精度が良好なインク組成物を提供する。
【解決手段】顔料、水、水溶性の重合性化合物及び特定の構造を有する化合物を含むインク組成物を用いる。前記水溶性の重合性化合物が(メタ)アクリルアミド構造を有するものが好ましい。前記インク組成物と、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液とを含むインクセット。前記処理液が、酸性化合物、多価金属塩およびカチオン性ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項7に記載のインクセット。前記インク組成物を記録媒体上に付与するインク付与工程と、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程とを有する画像形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像記録に好適なインク組成物、インクセット及びこれを用いた画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー画像を記録する画像記録の方法として、インクジェット技術が知られている。インクジェット技術は、オフィスプリンタ、ホームプリンタ等の分野に適用されてきたが、近年では商業印刷分野での応用がなされつつある。また、インクジェットに用いられるインク材料の含有成分の1つとして顔料が広く用いられており、種々の検討が行われている。
【0003】
ここで、特許文献1には、水溶性の光重合開始剤として種々の化合物が開示されている。また、特許文献2には、顔料、水、重合性物質及び水溶性光重合開始剤を含有する光硬化型樹脂組成物において、上記重合性物質として2個以上の重合性官能基と1個或いは2個のアニオン性官能基を有する物質を用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−79991号公報
【特許文献2】特開2002−187918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の各技術では、インクの経時安定性や着弾位置精度については検討が不十分であり、未だ改良の余地がある。
【0006】
本発明者らは、上記問題に鑑みて鋭意検討した。その結果、特定構造を有する水溶性開始剤を含有するインクは、インクの経時安定性や着弾位置精度を向上させることができることを新たに見出し、本発明に至った。すなわち本発明は以下のインク組成物、インクセット、及び画像形成方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
【0008】
項1. 顔料、水、水溶性の重合性化合物、下記一般式(I)で表される化合物及び下記一般式(II)で表される化合物を含むインク組成物。
【0009】
【化1】

【0010】
(式(I)中、R11は炭素数1〜6のアルキレン基を表す。R12及びR13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Xは−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。Yは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0011】
【化2】

【0012】
(式(II)中、R21は炭素数1〜12のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。R22は炭素数1〜20のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。R23は炭素数1〜20のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。Xは−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。Yは単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、酸素原子または硫黄原子を表す。)
【0013】
項2. 前記水溶性の重合性化合物が(メタ)アクリルアミド構造を有する、項1に記載のインク組成物。
項3. 前記水溶性の重合性化合物が下記一般式(M−2)で表される化合物である、項1または2に記載のインク組成物。
【0014】
【化3】

【0015】
(式(M−2)中、Qはn価の連結基を表し、R2mは水素原子またはメチル基を表す。また、nは1以上の整数を表す。)
項4. 前記一般式(I)で表される化合物に対する一般式(II)で表される化合物の比(一般式(II)で表される化合物/一般式(I)で表される化合物)が、質量基準で0.3〜10である、項1〜3のいずれか1項に記載のインク組成物。
項5. 前記一般式(II)の化合物が下記一般式(IIa)である、項1〜4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【0016】
【化4】

【0017】
(式(IIa)中、R1aは炭素数1〜6のアルキレン基を表す。R2a及びR3aはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Xは−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。Yは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
項6. 前記一般式(II)の化合物が下記一般式(IIb)である、項1〜4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【0018】
【化5】

【0019】
(式(IIb)中、R1b及びR2bは各々独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R3bは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。)
【0020】
項7. 項1〜6のいずれか1項に記載のインク組成物と、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液とを含むインクセット。
項8. 前記処理液が、酸性化合物、多価金属塩およびカチオン性ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、項7に記載のインクセット。
項9. 項1〜6のいずれか1項に記載のインク組成物を記録媒体上に付与するインク付与工程と、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程とを有する画像形成方法。
項10. 前記記録媒体が塗工紙であることを特徴とする項9に記載の画像形成方法。
項11. 前記画像形成方法において、処理液付与工程がインク付与工程よりも先になることを特徴とする項9又は10に記載の画像形成方法。
項12. 前記インク付与工程において、インクジェットによりインクを付与することを特徴とする項9〜11のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、インクの経時安定性と着弾位置精度に優れたインク組成物、インクセット、および画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の画像形成方法の実施に用いるインクジェット記録装置の構成例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のインク組成物、インクセット及び画像形成方法について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0024】
<インク組成物>
本発明のインク組成物は、顔料、水、水溶性の重合性化合物、下記一般式(I)で表される化合物及び下記一般式(II)で表される化合物を含むことを特徴とし、インク組成物は必要に応じて、更に界面活性剤、その他の成分を用いて構成される。
【0025】
【化6】

【0026】
(式(I)中、R11は炭素数1〜6のアルキレン基を表す。R12及びR13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Xは−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。Yは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0027】
【化7】

【0028】
(式(II)中、R21は炭素数1〜12のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。R22は炭素数1〜20のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。R23は炭素数1〜20のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。Xは−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。Yは単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、酸素原子または硫黄原子を表す。)
【0029】
本発明のインク組成物は前記一般式(I)で表される化合物および前記一般式(II)で表される化合物を含み、一般式(I)および(II)の化合物はインク組成物中に含まれる水溶性の重合性化合物の重合を開始させる重合開始剤として作用する。本発明では、水を含むインク組成物の重合を効率よく進行させる重合開始剤の構造を鋭意検討した結果、一般式(I)の構造を有する化合物と、一般式(II)の構造を有する化合物とを併用することで、インクの硬化感度及び着弾位置精度を向上させることに成功した。一般式(I)および一般式(II)の化合物を併用することで本発明の効果が得られる理由は明らかではないが以下のように推察される。本発明では特定の構造を有する一般式(I)及び(II)を組み合わせることで、これらの化合物の水溶性を良好にし、一般式(I)および一般式(II)の化合物を均一にインク組成物へ導入することに成功した。その結果、本発明のインク組成物は経時安定性が良好となり、かつインク組成物の着弾位置精度が向上したと考えられる。ただし、本発明の内容は、上記の推定メカニズムに限定されるものではない。
【0030】
本発明の一般式(I)及び一般式(II)で表される化合物はそれぞれ1種単独で用いてもよいし、一般式(I)から2種以上用いても、また一般式(II)から2種以上用いてもよい。
【0031】
本発明における一般式(I)および一般式(II)で表される化合物としては、水溶性の化合物等を用いることが出来る。尚、ここでいう水溶性とは、25℃において蒸留水に0.5質量%以上溶解することを意味する。前記水溶性の化合物は、25℃において蒸留水に1質量%以上溶解することが好ましく、3質量%以上溶解することがより好ましい。
【0032】
本発明のインク組成物における、一般式(I)で表される化合物に対する一般式(II)で表される化合物の比(一般式(II)で表される化合物/一般式(I)で表される化合物)は、質量基準で、0.003〜300の範囲であることが好ましく、0.03〜30の範囲であることがより好ましく、0.3〜10の範囲であることがさらに好ましく、0.5〜7.0の範囲であることがさらにより好ましく、1.0〜5.0の範囲であることが最も好ましい。この範囲とすることで、インク組成物中での相溶性の観点から、インクの経時安定性と着弾位置精度を向上させることができる。
【0033】
(一般式(I)で表される化合物)
本発明のインク組成物は下記一般式(I)で表される化合物を含み、一般式(I)で表される化合物は、インク組成物中に含まれる水溶性の重合性化合物の重合を開始させる重合開始剤として作用する。一般式(I)で表される化合物は、活性エネルギー線により重合反応を開始し得る化合物であることが好ましく、例えば、放射線、電子線等により活性種(ラジカル、酸、塩基など)を発生する開始剤(例えば、光重合開始剤等)であることがさらに好ましい。また、本発明のインク組成物は、一般式(I)で表される化合物以外の重合開始剤を含んでもよい。
【0034】
【化8】

【0035】
(式(I)中、R11は炭素数1〜6のアルキレン基を表す。R12及びR13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Xは−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。Yは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0036】
11は炭素数1〜6のアルキレン基を表し、これらの基は置換基を有していても、置換基を有していなくてもよい。R11のアルキレン基の炭素数は1〜6であり、好ましくは1〜5であり、最も好ましくは1〜4である。直鎖又は分岐していてもよい。具体的には、−CH−、−C−、−C−、−C(CH)−、−C−、−C(CH)−、−C10−、−C(CH)−等が挙げられる。
【0037】
式(I)中、R12及びR13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、これらの基は置換基を有していても、置換基を有していなくてもよい。R12及びR13は炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜3であることがさらに好ましく、炭素数1であることが最も好ましい。これらの基は直鎖又は分岐していてもよい。具体的には、−CH、−C、−C、−CH(CH、−C、−CHCH(CH、−C11、−CHCH(CH)C等が挙げられる。
【0038】
11、R12及びR13が有していてもよい置換基としては、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ハロゲン原子、炭素数2〜7のアルキルオキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数7〜11のアリールオキシカルボニル基、炭素数7〜11のアリールカルボニルオキシ基、炭素数1〜7のアルキルカルバモイル基、炭素数7〜11のアリールカルバモイル基等が挙げられる。水溶性を向上させる観点から、ヒドロキシル基が好ましい。
【0039】
一般式(I)中、Xは、−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。具体的には、Xは、−OH、−COOH、−SOH、−OK、−COOK、−SOK、−ONa、−COONa、−SONa、−OLi、−COOLi又は−SOLiを表す。式(I)の化合物の水溶性を向上させる観点から、Xはインク中での安定性の理由により、−SOであることが好ましい。また、Mはインク中での相溶性の理由により、カリウム原子であることが好ましい。
【0040】
式(I)中、Yは酸素原子(−O−)又は硫黄原子(−S−)を表す。インク中での相溶性の理由から、酸素原子であることが好ましい。
【0041】
本発明では、式(I)において、R11が炭素数1〜4のアルキレン基であり、R12およびR13が各々独立に炭素数1〜3のアルキル基であり、Xが−SOであり、Yが酸素原子であることがインク中での相溶性の理由から特に好ましい。
【0042】
以下に本発明の式(I)で表される化合物の具体例を示すが、本発明は下記の具体例に限定されるものではない。
【0043】
【化9】

【0044】
本発明の一般式(I)の化合物は、US2003/236425 A1に示す方法によって合成することができる。
【0045】
本発明のインク組成物における式(I)の化合物の含有量は、0.1質量%〜30質量%であることが好ましく、0.5質量%〜20質量%であることがさらに好ましく、0.1質量%〜5質量%であることが最も好ましい。
【0046】
(一般式(II)で表される化合物)
本発明のインク組成物は下記一般式(II)で表される化合物を含み、一般式(II)で表される化合物は、インク組成物中に含まれる水溶性の重合性化合物の重合を開始させる重合開始剤として作用する。一般式(II)で表される化合物は、活性エネルギー線により重合反応を開始し得る化合物であることが好ましく、例えば、放射線、電子線等により活性種(ラジカル、酸、塩基など)を発生する開始剤(例えば、光重合開始剤等)であることがさらに好ましい。また、本発明のインク組成物は、一般式(II)で表される化合物以外の重合開始剤を含んでもよい。
【0047】
【化10】

【0048】
(式(II)中、R21は炭素数1〜12のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。R22は炭素数1〜20のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。R23は炭素数1〜20のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。Xは−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。Yは単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、酸素原子または硫黄原子を表す。)
【0049】
式(II)中、R21は炭素数1〜12のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表し、これらの基は置換基を有していても、置換基を有していなくてもよい。
21のアルキレン基の炭素数は1〜12であり、好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは1〜8であり、最も好ましくは1〜6である。直鎖又は分岐していてもよい。具体的には、−CH−、−C−、−C−、−C(CH)−、−C−、−C(CH)−、−C10−、−C(CH)−、−C12−、−C16−等が挙げられる。
21のアリーレン基の炭素数は6〜20であり、好ましくは6〜18であり、さらに好ましくは6〜14であり、最も好ましくは6〜10である。具体的にはフェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
【0050】
21が有してもよい置換基としては、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ハロゲン原子、炭素数2〜7のアルキルオキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数7〜11のアリールオキシカルボニル基、炭素数7〜11のアリールカルボニルオキシ基、炭素数1〜7のアルキルカルバモイル基、炭素数7〜11のアリールカルバモイル基、アミノ基等が挙げられる。ヒドロキシル基又はアミノ基が好ましい。
【0051】
式(II)中、R22は炭素数1〜20のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。R22がさらに置換基を有する場合、その置換基としては、好ましい範囲も含めて、上述したR21が有していてもよい置換基と同様のものを挙げることができる。
【0052】
22のアルキレン基の炭素数は1〜20であり、好ましくは1〜18であり、さらに好ましくは2〜16であり、最も好ましくは3〜14である。R22は直鎖又は分岐していてもよいが、分岐しているものが好ましい。具体的には、−CH−、−C−、−C−、−C(CH)−、−C−、−C(CH)−、−C10−、−C(CH)−、−C12−、−C16−、−C(CH−、−C(C−、−C(C13−等が挙げられる。
【0053】
22がアルキレン基の場合、下記一般式(III)で表される基であることが好ましい。
【0054】
【化11】

【0055】
(式(III)中、R及びRは各々独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
【0056】
及びRは各々独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
【0057】
は各々独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
【0058】
22が一般式(III)で表される基である場合の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0059】
【化12】

【0060】
22のアリーレン基の炭素数は6〜20であり、好ましくは6〜18であり、さらに好ましくは6〜14であり、最も好ましくは6〜10である。具体的にはフェニレン基、ナフチレン基、フェナントレン基等が挙げられる。
【0061】
式(II)中、R23は炭素数1〜20のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。R23がさらに置換基を有する場合、その置換基としては、好ましい範囲も含めて、上述したR21が有していてもよい置換基と同様のものを挙げることができる。
23のアルキレン基の炭素数は1〜20であり、好ましくは1〜18であり、さらに好ましくは1〜13である。R23は直鎖又は分岐していてもよいが、分岐しているものが好ましい。具体的には、−CH−、−C−、−C−、−C(CH)−、−C−、−C(CH)−、−C10−、−C(CH)−、−C12−、−C16−、−C(CH−、−C(C−、−C(C13−等が挙げられる。
23のアリーレン基は炭素数6〜20であり、好ましくは6〜18であり、さらに好ましくは6〜14であり、最も好ましくは6〜10である。具体的にはフェニレン基、ナフチレン基、フェナントレン基等が挙げられる。
【0062】
式(II)中、Xは、−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。具体的には、Xは、−OH、−COOH、−SOH、−OK、−COOK、−SOK、−ONa、−COONa、−SONa、−OLi、−COOLi又は−SOLiを表す。式(I)の化合物の水溶性を向上させる観点から、Xは−COOM又は−SOであることが好ましい。また、Mは水溶性の理由により、リチウム原子又はナトリウム原子であることが好ましい。
【0063】
式(II)中、Yは単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、酸素原子または硫黄原子を表す。炭素数1〜3のアルキレン基としては、−CH−、−C−、−C−、−C(CH)−等が挙げられる。Yは水溶性、相溶性の観点により、−CH−、硫黄原子であることが好ましい。
【0064】
本発明のインク組成物における一般式(II)で表される化合物の含有量は0.1質量%〜30質量%であることが好ましく、0.5質量%〜20質量%であることがさらに好ましく、0.1質量%〜15質量%であることが最も好ましい。
【0065】
本発明では、一般式(II)で表される化合物は、下記一般式(IIa)及び(IIb)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0066】
【化13】

【0067】
(式(IIa)中、R1aは炭素数1〜6のアルキレン基を表す。R2a及びR3aはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Xは−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。Yは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0068】
(式(IIb)中、R1b及びR2bは各々独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R3bは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。)
【0069】
(式(IIa)で表される化合物)
以下に式(IIa)で表される化合物について説明する。
【0070】
【化14】

【0071】
(式(IIa)中、R1aは炭素数1〜6のアルキレン基を表す。R2a及びR3aはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Xは−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。Yは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0072】
1aは炭素数1〜6のアルキレン基を表し、これらの基は置換基を有していても、置換基を有していなくてもよい。R1aのアルキレン基の炭素数は1〜6であり、好ましくは1〜3であり、最も好ましくは1である。直鎖又は分岐していてもよい。具体的には、−CH−、−C−、−C−、−C(CH)−、−C−、−C(CH)−、−C10−、−C(CH)−等が挙げられる。
【0073】
1aが有していてもよい置換基としては、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ハロゲン原子、炭素数2〜7のアルキルオキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数7〜11のアリールオキシカルボニル基、炭素数7〜11のアリールカルボニルオキシ基、炭素数1〜7のアルキルカルバモイル基、炭素数7〜11のアリールカルバモイル基等が挙げられる。水溶性を向上させる観点から、ヒドロキシル基が好ましい。
【0074】
式(IIa)中、R2a及びR3aはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、これらの基は置換基を有していても、置換基を有していなくてもよい。炭素数1〜6のアルキル基を有することが好ましく、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、最も好ましくはメチル基である。直鎖又は分岐していてもよい。具体的には、−CH、−C、−C、−CH(CH、−C、−CHCH(CH、−C11、−CHCH(CH)C等が挙げられる。R2a又はR3aがさらに置換基を有する場合、その置換基としては、好ましい範囲も含めて、上述したR1aが有していてもよい置換基と同様のものを挙げることができる。
【0075】
式(IIa)中、Xは、−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。具体的には、Rは、−OH、−COOH、−SOH、−OK、−COOK、−SOK、−ONa、−COONa、−SONa、−OLi、−COOLi又は−SOLiを表す。式(I)の化合物の水溶性を向上させる観点から、Rは−COOM2aであることが好ましい。また、Mはナトリウム原子であることが好ましい。
【0076】
式(IIa)中、Yは酸素原子(−O−)又は硫黄原子(−S−)を表す。水溶性を向上させる観点から、硫黄原子であることが好ましい。
【0077】
以下に本発明の式(IIa)で表される化合物の具体例を示すが、本発明は下記の具体例に限定されるものではない。
【化15】

【0078】
【化16】

【0079】
(式(IIb)で表される化合物)
以下に式(IIb)で表される化合物について説明する。
【0080】
【化17】

【0081】
(式(IIb)中、R1b及びR2bは各々独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R3bは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。)
【0082】
1b及びR2bは各々独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。これらの基は置換基を有していても有していなくてもよい。R1b及びR2bは好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。具体的には、−CH、−C、−C、−CH(CH、−C、−CHCH(CH、−C11、−CHCH(CH)C等が挙げられる。
【0083】
1b及びR2bが有していてもよい置換基としては、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ハロゲン原子、炭素数2〜7のアルキルオキシカルボニル基、炭素数2〜7のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数7〜11のアリールオキシカルボニル基、炭素数7〜11のアリールカルボニルオキシ基、炭素数1〜7のアルキルカルバモイル基、炭素数7〜11のアリールカルバモイル基等が挙げられる。水溶性を向上させる観点から、ヒドロキシル基が好ましい。
【0084】
3bは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。これらの基は置換基を有していても有していなくてもよい。これらの基が置換基を有する場合、R3bが有していてもよい置換基としては、好ましい範囲も含めて、上述したR1b及びR2bが有していてもよい置換基と同様のものを挙げることができる。R3bは好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。具体的には、−CH、−C、−C、−CH(CH、−C、−CHCH(CH、−C11、−CHCH(CH)C等が挙げられる。
【0085】
は水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表し、ナトリウム原子、リチウム原子であることが好ましい。
【0086】
以下に本発明の式(IIb)で表される化合物の具体例を示すが、本発明は下記の具体例に限定されるものではない。
【0087】
【化18】

【0088】
本発明の一般式(IIb)の化合物は、Chemistry of Materials 1998,Vol 10, p.3429-3433を参考にして合成することができる。
【0089】
(水溶性の重合性化合物)
本発明におけるインク組成物は、水溶性の重合性化合物を少なくとも1種含有し、活性エネルギー線(例えば、放射線もしくは光、又は電子線など)が照射されることにより重合する。
【0090】
水溶性とは、水に一定濃度以上溶解できることをいい、水性のインク中に(望ましくは均一に)溶解し得るものであればよい。また、後述する水溶性有機溶剤を添加することにより溶解度が上がってインク中に(望ましくは均一に)溶解するものであってもよい。具体的には、25℃の水に対する溶解度が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。
【0091】
本発明における水溶性の重合性化合物としては、分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する化合物及び分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物を少なくとも1種含むことがさらに好ましい。ここで、(メタ)アクリルエステル構造とは、メタクリルエステル構造及びアクリルエステル構造を意味し、(メタ)アクリルアミド構造とは、メタクリルアミド構造及びアクリルアミド構造を意味する。
以下、本発明における水溶性の重合性化合物として好ましい態様について説明する。
【0092】
−分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する化合物−
分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する重合性化合物は、分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する重合性化合物であれば限定されない。
分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する重合性化合物は、下記一般式(M−1)で表される化合物であることが好ましい。
【0093】
【化19】

【0094】
一般式(M−1)中、Qはn価の連結基を表し、R1mは水素原子またはメチル基を表す。また、nは1以上の整数を表す。
【0095】
一般式(M−1)の化合物は不飽和単量体が、エステル結合により連結基Qに結合したものである。R1mは、水素原子、またはメチル基をあらわし、好ましくは水素原子である。連結基Qの価数nに制限はないが、n=2以上が好ましく、n=2以上6以下がより好ましく、n=2以上4以下がさらに好ましい。
【0096】
また、連結基Qは(メタ)アクリルエステル構造と連結可能な基であれば特に制限はないが、一般式(M−1)で表される化合物が前述の水溶性を満たすような連結基から選択されることが好ましく、具体的には以下の化合物群Xから1以上の水素原子またはヒドロキシル基が除去された残基をあげることができる。
【0097】
−化合物群X−
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、チオグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びこれらの縮合体、低分子ポリビニルアルコール、または糖類などのポリオール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンジアミン、などのポリアミン類。
【0098】
さらに、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン基等の炭素数4以下の置換又は無置換のアルキレン鎖、更にはピリジン環、イミダゾール環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環などの飽和もしくは不飽和のヘテロ環を有する官能基などを例示することができる。
【0099】
連結基Qとしては、これらの中でも、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を含むポリオール類の残基であることが好ましく、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を3以上含むポリオール類の残基であることが特に好ましい。
【0100】
前記分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する水溶性の重合性化合物(M−1)の具体例としては、例えば以下に示すノニオン性化合物を挙げることができるが、本願はこれに限定されない。
【0101】
【化20】

【0102】
また、多水酸基化合物から誘導される1分子中に2以上のアクリロイル基を有するアクリル酸エステル、も用いることができる。前記多水酸基化合物としては、例えば、グリコール類の縮合物、オリゴエーテル、オリゴエステル類等が挙げられる。
【0103】
更に、ノニオン性の重合性化合物としては、単糖類、2糖類などの2以上の水酸基を有するポリオールの(メタ)アクリル酸エステル又は;トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリスヒドロキシアミノメタン、トリスヒドロキシアミノエタン等との(メタ)アクリル酸エステル、も好適である。
【0104】
さらに、前記分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する水溶性の重合性化合物(M−1)の具体例としては、例えば以下に示すカチオン性化合物を挙げることができるが、本願はこれに限定されない。
【0105】
【化21】

【0106】
前記構造において、Rは、ポリオールの残基を表す。また、Xは、H又はCHを表し、AはCl、HSO又はCHCOOを表す。このポリオールを導入するための化合物としては、例えば、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、脂環型ビスフェノールA及びこれらの縮合物等を挙げることができる。さらに、カチオン基を有する重合性化合物として以下の構造(カチオン性化合物1〜11)も挙げることができる。
【0107】
【化22】

【0108】
【化23】

【0109】
【化24】

【0110】
【化25】

【0111】
−分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物−
分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物は、分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物であれば限定されない。
分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物は、下記一般式(M−2)で表される化合物であることが好ましい。式(M−2)の構造を有することで、式(I)で表される化合物と重合性化合物との相溶性が向上し、インク組成物の保存安定性を高め、さらに硬化感度を高めることが可能となるため好ましい。
【0112】
【化26】

【0113】
一般式(M−2)中、Qはn価の連結基を表し、R2mは水素原子またはメチル基を表す。また、nは1以上の整数を表す。
【0114】
式(M−2)の化合物は不飽和単量体が、アミド結合により連結基Qに結合したものである。R2mは、水素原子、またはメチル基をあらわし、好ましくは水素原子である。連結基Qの価数nに制限はないが、n=2以上が好ましく、n=2以上6以下がより好ましく、n=2以上4以下がさらに好ましい。
【0115】
また、連結基Qは(メタ)アクリルアミド構造と連結可能な基であれば特に制限はないが、式(M−2)で表される化合物が前述の水溶性を満たすような連結基から選択されることが好ましく、具体的には以下の化合物群Xから1以上の水素原子またはヒドロキシル基が除去された残基をあげることができる。
【0116】
−化合物群X−
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、チオグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びこれらの縮合体、低分子ポリビニルアルコール、または糖類などのポリオール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンジアミン、などのポリアミン類。
【0117】
さらに、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン基等の炭素数4以下の置換又は無置換のアルキレン鎖、更にはピリジン環、イミダゾール環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環などの飽和もしくは不飽和のヘテロ環を有する官能基などを例示することができる。
【0118】
連結基Qとしては、これらの中でも、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を含むポリオール類の残基であることが好ましく、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を3以上含むポリオール類の残基であることが特に好ましい。
【0119】
前記分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物の具体例としては、例えば以下に示す水溶性の重合性化合物をあげることができる。
【0120】
【化27】

【0121】
【化28】

【0122】
【化29】

【0123】
【化30】

【0124】
【化31】

【0125】
【化32】

【0126】
【化33】

【0127】
上記重合性化合物以外にも、例えば、下記に代表されるマレイミド構造を有する化合物、スルファミド構造を有する化合物又はN−ビニルアセトアミド構造を有する化合物等も使用することができる。
【0128】
【化34】

【0129】
【化35】

【0130】
水溶性の重合性化合物は、1種単独又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
重合性化合物のインク組成物中における含有量としては、インク組成物全質量に対して、3〜50質量%が好ましく、10〜30質量%が更に好ましく、15〜25質量%が最も好ましい。
【0131】
(水)
本発明におけるインク組成物は水を含み、必要に応じて後述する水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含んで構成される。
本発明における水としては、イオン交換水、蒸留水などのイオン性不純物を含まない水を用いることが好ましい。また、インク組成物における水の含有率は、目的に応じて適宜選択されるが、通常、10〜95質量%であることが好ましく、30〜90質量%であることがより好ましい。
【0132】
(顔料)
本発明におけるインク組成物は、顔料を少なくとも一種を含有する。顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。顔料は、水に殆ど不溶であるか又は難溶である顔料であることが、インク着色性の点で好ましい。
【0133】
本発明における顔料としては、その種類に特に制限はなく、従来公知の有機および無機顔料を用いることができる。
前記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。前記アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、などが挙げられる。前記多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、などが挙げられる。前記染料キレートとしては、例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート、などが挙げられる。
【0134】
また前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。なお、前記カーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。
【0135】
本発明に用いることができる顔料として具体的には以下のものが挙げられる。
【0136】
オレンジ又はイエロー用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185等が挙げられる。
【0137】
マゼンタまたはレッド用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222等が挙げられる。
【0138】
グリーンまたはシアン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7、米国特許4311775記載のシロキサン架橋アルミニウムフタロシアニン等が挙げられる。
【0139】
また、ブラック用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0140】
上記の顔料は、1種単独で使用してもよく、また、上記した各群内もしくは各群間より複数種を選択して組み合わせて使用してもよい。
顔料のインク組成物中における含有量としては、色濃度、粒状性、インク安定性、吐出信頼性の観点から、インク組成物の全質量に対して、1〜25質量%となる量が好ましく、2〜20質量%となる量がより好ましい。
【0141】
(水溶性有機溶剤)
本発明におけるインク組成物は、水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含有していてもよい。水溶性とは、具体的には、25℃の水に対する溶解度が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。
【0142】
水溶性有機溶剤の例としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルカンジオール(多価アルコール類);糖アルコール類;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0143】
乾燥防止の目的としては、多価アルコール類が有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0144】
浸透促進の目的としては、ポリオール化合物が好ましく、脂肪族ジオールが好適である。脂肪族ジオールとしては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールが好ましい例として挙げることができる。
【0145】
【化36】

【0146】
構造式(1)において、l、m、およびnは、それぞれ独立に1以上の整数を表し、l+m+n=3〜15を満たし、l+m+nは3〜12の範囲が好ましく、3〜10の範囲がより好ましい。l+m+nの値は、3以上であると良好なカール抑制力を示し、15以下であると良好な吐出性が得られる。構造式(1)中、AOは、エチレンオキシ(EO)および/又はプロピレンオキシ(PO)を表し、中でもプロピレンオキシ基が好ましい。前記(AO)、(AO)、および(AO)における各AOはそれぞれ同一でも異なってもよい。
以下、前記構造式(1)で表される化合物の例を示す。但し、本発明はこれに限定されるものではない。尚、例示化合物中、「POP(3)グリセリルエーテル」との記載は、グリセリンにプロピレンオキシ基が合計で3つ結合したグリセリルエーテルであることを意味し、他の記載についても同様である。
【0147】
【化37】

【0148】
さらに本発明における水溶性有機溶剤は、記録媒体におけるカール発生抑制の点から、以下に例示する水溶性有機溶剤であることもまた好ましい。
・n−CO(AO)−H(AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:1)
・n−CO(AO)10−H AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:1)
・HO(AO)40−H(AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=1:3)
・HO(AO)55−H(AO=EO又はPOで、比率はEO:PO=5:6)
・HO(PO)−H
・HO(PO)−H
・1,2−ヘキサンジオール
【0149】
本発明において水溶性有機溶剤は、1種単独で使用しても、2種類以上混合して使用してもよい。
また水溶性有機溶剤のインク中における含有量としては、60質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下である。
【0150】
(分散剤)
前記顔料は、分散剤によって水系溶媒に分散された着色粒子を構成していることが好ましい。前記分散剤としては、ポリマー分散剤でも低分子の界面活性剤型分散剤でもよい。また、ポリマー分散剤としては水溶性ポリマー分散剤でも水不溶性ポリマー分散剤の何れでもよい。
本発明においては、分散安定性等の観点から、水不溶性ポリマー分散剤であることが好ましい。
【0151】
−水不溶性ポリマー分散剤−
本発明で使用することができる水不溶性ポリマー分散剤(以下、単に「分散剤」ということがある)としては、水不溶性のポリマーであって、顔料を分散可能であれば特に制限は無く、従来公知の水不溶性ポリマー分散剤を用いることができる。水不溶性ポリマー分散剤は、例えば、疎水性の構成単位と親水性の構成単位の両方を含んで構成することができる。
【0152】
前記疎水性の構成単位を構成するモノマーとしては、スチレン系モノマー、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
また前記親水性構成単位を構成するモノマーとしては、親水性基を含むモノマーであれば特に制限はない。前記親水性基としては、ノニオン性基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等を挙げることができる。尚、ノニオン性基としては、水酸基、(窒素原子が無置換の)アミド基、アルキレンオキシド重合体(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等)に由来する基、糖アルコールに由来する基等が挙げられる。
本発明における親水性構成単位は、分散安定性の観点から、少なくともカルボキシル基を含むことが好ましく、ノニオン性基とカルボキシル基を共に含む形態であることもまた好ましい。
【0153】
本発明における水不溶性ポリマー分散剤として、具体的には、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
ここで「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0154】
本発明で用いることができる水不溶性ポリマー分散剤としては、顔料の分散安定性の観点から、カルボキシル基を含むビニルポリマーであることが好ましく、疎水性の構成単位として少なくとも芳香族基含有モノマーに由来する構成単位を有し、親水性の構成単位としてカルボキシル基を含む構成単位を有するビニルポリマーであることがより好ましい。
【0155】
また前記水不溶性ポリマー分散剤の重量平均分子量としては、顔料の分散安定性の観点から、3,000〜200,000が好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、更に好ましくは5,000〜80,000、特に好ましくは10,000〜60,000である。
【0156】
本発明で用いることができる分散剤の含有量は、顔料の分散性、インク着色性、分散安定性の観点から、顔料に対し、分散剤が10〜100質量%であることが好ましく、20〜70質量%がより好ましく、30〜60質量%が特に好ましい。
前記分散剤の含有量が、上記範囲であることにより、顔料が適量の分散剤で被覆され、粒径が小さく経時安定に優れた着色粒子を得やすい傾向となり好ましい。
【0157】
本発明は、前記水不溶性ポリマー分散剤に加えて、その他の分散剤を含んでいてもよい。例えば、従来公知の水溶性低分子分散剤や、水溶性ポリマー等を用いることができる。前記水不溶性ポリマー分散剤以外の分散剤の含有量は、前記分散剤の含有量の範囲内で用いることができる。
【0158】
本発明のインク組成物は、分散安定性等の観点から、前記顔料および前記水不溶性ポリマー分散剤を含んで構成されていることが好ましく、顔料の表面の少なくとも一部が水不溶性ポリマー分散剤で被覆されて構成されていることが好ましい。このように、顔料の表面の少なくとも一部が分散剤で被覆されている着色粒子は、例えば、顔料、分散剤、必要に応じて溶媒(好ましくは有機溶剤)等を含む混合物を、分散機により分散することで得ることができる。
【0159】
前記着色粒子分散物は、例えば、前記顔料と前記水不溶性ポリマー分散剤と該分散剤を溶解または分散する有機溶剤との混合物に、塩基性物質を含む水溶液を加える工程(混合・水和工程)の後、前記有機溶剤を除く工程(溶剤除去工程)を設けて分散物として製造することができる。これにより、着色剤が微細に分散され、保存安定性に優れた着色粒子の分散物を作製することができる。
【0160】
本発明において着色剤(または着色粒子)の体積平均粒径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。体積平均粒径が200nm以下であることで色再現性が良好になり、インクジェット方式の場合には打滴特性が良好になる。また、体積平均粒径が10nm以上であることで、耐光性が良好になる。
また、着色剤(または着色粒子)の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ着色剤を、2種以上混合して使用してもよい。
尚、着色剤(または着色粒子)の体積平均粒径および粒径分布は、分散状態での顔料の体積平均粒子径及び粒径分布は、Micorotrac粒度分布測定装置(Version 10.1.2−211BH(商品名)、日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により求められるものである。
本発明において、上記着色剤(または着色粒子)は1種単独で、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0161】
(樹脂粒子)
本発明におけるインク組成物は、必要に応じて樹脂粒子を含有することができる。
また樹脂粒子は、既述の処理液又はこれを乾燥させた紙領域と接触した際に凝集、又は分散不安定化してインクを増粘させることにより、インク組成物、すなわち画像を固定化させる機能を有することが好ましい。このような樹脂粒子は、水および有機溶剤の少なくとも1種に分散されているものが好ましい。
【0162】
樹脂粒子としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等あるいはそのラテックスを用いることができる。アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂を好ましい例として挙げることができる。
また樹脂粒子はラテックスの形態で用いることもできる。
【0163】
樹脂粒子の重量平均分子量は1万以上、20万以下が好ましく、より好ましくは2万以上、20万以下である。
また樹脂粒子の平均粒径は、1nm〜1μmの範囲が好ましく、1〜200nmの範囲がより好ましく、1〜100nmの範囲が更に好ましく、1〜50nmの範囲が特に好ましい。
樹脂粒子のガラス転移温度Tgは30℃以上であることが好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。
【0164】
樹脂粒子の添加量はインク組成物に対して、0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましく、0.1〜10質量%がさらに好ましい。
また、樹脂微子の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布を持つもの、又は単分散の粒径分布を持つもの、いずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つ樹脂粒子を、2種以上混合して使用してもよい。
【0165】
(界面活性剤)
本発明におけるインク組成物は、必要に応じて、界面活性剤の少なくとも1種を含むことができる。界面活性剤は、表面張力調整剤として用いることができる。
表面張力調整剤として、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等が有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、ベタイン系界面活性剤のいずれも使用することができる。更に、上記の分散剤を界面活性剤としても用いてもよい。
本発明においては、インク組成物の打滴干渉抑制の観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、中でもアセチレングリコール誘導体がより好ましい。
【0166】
界面活性剤(表面張力調整剤)をインク組成物に含有する場合、界面活性剤はインクジェット方式によりインク組成物の吐出を良好に行う観点から、インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整できる範囲の量を含有するのが好ましく、表面張力の点からはより好ましくは20〜45mN/mであり、更に好ましくは25〜40mN/mである。
界面活性剤のインク組成物中における界面活性剤の具体的な量としては、前記表面張力となる範囲が好ましいこと以外は特に制限はなく、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%であり、更に好ましくは0.2〜3質量%である。
【0167】
(その他成分)
インク組成物は、上記の成分に加え、必要に応じて更にその他成分として各種の添加剤を含むことができる。
前記各種の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、又はキレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの添加剤の含有量はその用途に応じて適宜決定すればよいが、例えば、インク組成物に対して各々0.02〜1.00質量%程度とすればよい。
【0168】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
【0169】
褪色防止剤としては、各種の有機系および金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としては、例えば、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。
【0170】
防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、ソルビン酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウムなどが挙げられる。
【0171】
pH調整剤としては、調合されるインク組成物に悪影響を及ぼさずにpHを所望の値に調整できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、アルコールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオールなど)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アンモニウム水酸化物(例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物など)、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。
【0172】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
【0173】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などが挙げられる。
【0174】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0175】
(インク組成物の物性)
本発明におけるインク組成物の表面張力(25℃)としては、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、20mN/m以上45mN/m以下であり、更に好ましくは、25mN/m以上40mN/m以下である。
表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用い、インク組成物を25℃の条件下で測定される。
【0176】
また、本発明におけるインク組成物の25℃での粘度は、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2mPa・s以上13mPa・s未満であり、更に好ましくは2.5mPa・s以上10mPa・s未満である。
粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用い、インク組成物を25℃の条件下で測定される。
【0177】
<インクセット>
本発明のインクセットは、前記インク組成物と、インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液とを設けて構成されたものである。
【0178】
(処理液)
処理液は、既述のインク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を少なくとも含み、必要に応じて、さらに他の成分を用いて構成することができる。インク組成物と共に処理液を用いることで、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い描画性(例えば細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。
【0179】
本発明における凝集剤は、記録媒体上においてインク組成物と接触することにより、インク組成物を凝集(固定化)可能なものであり、固定化剤として機能する。例えば、処理液を記録媒体(好ましくは、塗工紙)に付与することにより記録媒体上に凝集剤が存在している状態で、インク組成物がさらに着滴して凝集剤に接触することにより、インク組成物中の成分を凝集させて、インク組成物を記録媒体上に固定化することができる。
凝集剤としては、酸性化合物、多価金属塩、又はカチオン性ポリマー等を挙げることができる。これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。本発明においては、インク組成物の凝集性の観点から、酸性化合物が好ましい。
【0180】
−酸性化合物−
酸性化合物としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、およびこれらの化合物の誘導体等が好適に挙げられる。
【0181】
これらの中でも、水溶性の高い酸性化合物が好ましい。また、インク組成物と反応してインク全体を固定化させる観点から、3価以下の酸性化合物が好ましく、2価以上3価以下の酸性化合物が特に好ましい。
酸性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0182】
前記処理液が酸性化合物を含む場合、処理液のpH(25℃)は、0.1〜6.8であることが好ましく、0.5〜6.0であることがより好ましく、0.8〜5.0であることがさらに好ましい。
【0183】
前記酸性化合物の含有量は、前記処理液の全質量に対し、40質量%以下であることが好ましく、15〜40質量%であることがより好ましい。酸性化合物の含有量を15〜40質量%とすることでインク組成物中の成分をより効率的に固定化することができる。
さらに酸性化合物の含有量は、前記処理液の全質量に対し、15質量%〜35質量%であることが好ましい。
【0184】
−多価金属塩−
本発明における多価金属塩は、アルカリ土類金属、亜鉛族金属等の2価以上の金属を含む化合物であり、Ca2+、Cu2+、Al3+等の金属イオンの酢酸塩、酸化物等を挙げることができる。
本発明において、前記多価金属塩を含む処理液が付与された記録媒体にインク組成物を吐出したときのインク組成物の凝集反応は、インク組成物中に分散した粒子、例えば、顔料に代表される着色剤や、樹脂粒子等の粒子の分散安定性を減じ、インク組成物全体の粘度を上昇させることで達成することができる。例えば、インク組成物中の顔料や、樹脂粒子などの粒子がカルボキシル基等の弱酸性の官能基を有するとき、当該粒子は前記弱酸性の官能基の働きにより分散安定化しているが、当該粒子の表面電荷を、多価金属塩と相互作用させることにより減じ、分散安定性を低下することができる。したがって、処理液に含まれる固定化剤としての多価金属塩は、凝集反応の観点で、価数が2価以上、すなわち多価であることが必要であり、凝集反応性の観点で、3価以上の多価金属イオンからなる多価金属塩であることが好ましい。
【0185】
以上の観点から、本発明における処理液に用いることのできる多価金属塩は、以下に示す多価金属イオンと陰イオンとの塩、ポリ水酸化アルミニウムおよびポリ塩化アルミニウムのいずれか1種以上であることが好ましい。
【0186】
多価金属イオンとしては、例えば、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Sr2+、Zn2+、Ba2+、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、Fe2+、La3+、Nd3+、Y3+、およびZr4+などが挙げられる。これら多価金属イオンを処理液中に含有させるためには、前記多価金属の塩を用いればよい。
塩とは、上記のような多価金属イオンと、これらのイオンに結合する陰イオンとから構成される金属塩のことであるが、溶媒に可溶なものであることが好ましい。ここで、前記溶媒とは、多価金属塩とともに処理液を構成する媒質であり、例えば、水や後述する有機溶剤が挙げられる。
【0187】
前記多価金属イオンと塩を形成するための好ましい陰イオンとしては、例えば、Cl、NO、I、Br、ClO、CHCOO、SO2−などが挙げられる。
多価金属イオンと陰イオンとは、それぞれ単独種または複数種を用いて多価金属イオンと陰イオンとの塩を形成することができる。
【0188】
上記以外の多価金属塩としては、例えば、ポリ水酸化アルミニウムおよびポリ塩化アルミニウムなどが挙げられる。
【0189】
本発明においては、反応性や着色性、さらには取り扱いの容易さなどの点から、多価金属イオンと陰イオンとの塩を用いることが好ましく、多価金属イオンとしては、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Al3+およびY3+から選ばれる少なくとも1種が好ましく、さらには、Ca2+が好ましい。
また、陰イオンとしては、溶解性などの観点から、NOが特に好ましい。
前記多価金属塩は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0190】
前記多価金属塩の含有量は、前記処理液の全質量に対し、15質量%以上である。多価金属塩の含有量が15質量%以上とすることでより効果的にインク組成物中の成分を固定化することができる。
多価金属塩の含有量は、前記処理液の全質量に対し、15質量%〜35質量%であることが好ましい。
【0191】
多価金属塩の記録媒体への付与量としては、インク組成物を凝集させるに足る量であれば特に制限はないが、インク組成物を固定化し易いとの観点から、
0.5g/m〜4.0g/mであることが好ましく、0.9g/m〜3.75g/mであることがより好ましい。
【0192】
−カチオン性ポリマー−
カチオン性ポリマーとしては、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及びポリグアニドから選ばれる少なくとも1種のカチオン性ポリマーである。
カチオン性ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記カチオン性ポリマーの中でも、凝集速度の観点で有利な、ポリグアニド(好ましくは、ポリ(ヘキサメチレングアニジン)アセテート、ポリモノグアニド、ポリメリックビグアニド)、ポリエチレンイミン、ポリ(ビニルピリジン)が好ましい。
【0193】
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量としては、処理液の粘度の観点では分子量が小さい方が好ましい。処理液をインクジェット方式で記録媒体に付与する場合には、500〜500,000の範囲が好ましく、700〜200,000の範囲がより好ましく、更に好ましくは1,000〜100,000の範囲である。重量平均分子量は、500以上であると凝集速度の観点で有利であり、500,000以下であると吐出信頼性の点で有利である。但し、処理液をインクジェット以外の方法で記録媒体に付与する場合には、この限りではない。
【0194】
前記処理液はカチオン性ポリマーを含むが、処理液のpH(25℃)は、1.0〜10.0であることが好ましく、2.0〜9.0であることがより好ましく、3.0〜7.0であることがさらに好ましい。
【0195】
カチオン性ポリマーの含有量は、前記処理液の全質量に対して、1質量%〜35質量%であることが好ましく、5質量%〜25質量%であることがより好ましい。
カチオン性ポリマーの塗工紙への付与量としては、インク組成物を安定化させるに足る量であれば特に制限はないが、インク組成物を固定化し易いとの観点から、0.5g/m〜4.0g/mであることが好ましく、0.9g/m〜3.75g/mであることがより好ましい。
【0196】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法は、既述の本発明のインクセットを用いたものであり、インク組成物を記録媒体に付与するインク付与工程と、インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程とを設けて構成されたものである。本発明の画像形成方法は、必要に応じて、更に他の工程を設けて構成することができる。
【0197】
以下、本発明の画像形成方法を構成する各工程を説明する。
【0198】
(インク付与工程)
インク付与工程は、顔料、水、水溶性の重合性化合物、一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物を含むインク組成物を記録媒体にインクジェット法で付与する。本工程では、記録媒体上に選択的にインク組成物を付与でき、所望の可視画像を形成できる。なお、インク組成物の詳細及び好ましい態様などインク組成物の詳細については、インク組成物に関する説明で既述した通りである。
【0199】
インクジェット法を利用した画像の記録は、具体的には、エネルギーを供与することにより、所望の被記録媒体、すなわち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載のインクジェット専用紙、フィルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等に液体組成物を吐出することにより行なえる。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105に記載の方法が適用できる。
【0200】
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54−59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0201】
また、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
尚、前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0202】
インクジェット記録方法の具体例を以下に示す。
インクジェット記録方法として、(1)静電吸引方式とよばれる方法がある。静電吸引方式は、ノズルとノズルの前方に配置された加速電極との間に強電界を印加し、ノズルから液滴状のインクを連続的に噴射させ、そのインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えることによって、インク滴を記録媒体上に向けて飛ばしてインクを記録媒体上に定着させて画像を記録する方法、又はインク滴を偏向させずに、印刷情報信号に従ってインク滴をノズルから記録媒体上にむけて噴射させることにより画像を記録媒体上に定着させて記録する方法である。また、(2)小型ポンプによってインク液に圧力を加えるとともに、インクジェットノズルを水晶振動子等によって機械的に振動させることによって、強制的にノズルからインク滴を噴射させる方法がある。ノズルから噴射されたインク滴は、噴射されると同時に帯電され、このインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えてインク滴を記録媒体に向かって飛ばすことにより、記録媒体上に画像を記録する方法である。次に、(3)インク液に圧電素子によって圧力と印刷情報信号を同時に加え、ノズルからインク滴を記録媒体に向けて噴射させ、記録媒体上に画像を記録する方法(ピエゾ)、(4)印刷信号情報にしたがって微小電極を用いてインク液を加熱して発泡させ、この泡を膨張させることによってインク液をノズルから記録媒体に向けて噴射し、記録媒体上に画像を記録する方法(バブルジェット(登録商標))がある。
【0203】
インクジェットヘッドとしては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明の画像形成方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦過性の向上効果が大きい。
【0204】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、1〜10pl(ピコリットル)が好ましく、1.5〜6plがより好ましい。また、画像のムラ、連続諧調のつながりを改良する観点で、異なる液滴量を組み合わせて吐出することも有効であり、このような場合でも本発明は好適に使用できる。
【0205】
(処理液付与工程)
処理液付与工程は、インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液を記録媒体に付与し、処理液をインク組成物と接触させて画像化する。この場合、インク組成物中の顔料及びポリマー粒子をはじめとする分散粒子が凝集し、記録媒体上に画像が固定化される。なお、処理液は凝集剤を少なくとも含有してなり、各成分の詳細及び好ましい態様については、既述した通りである。
【0206】
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、既述の通りである。
【0207】
処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。本発明においては、処理液付与工程で処理液を付与した後にインク付与工程を設けた態様が好ましい。具体的には、記録媒体上に、インク組成物を付与する前に、予めインク組成物中の顔料を凝集させるための処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を付与して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0208】
処理液の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集剤の付与量が0.1g/m以上となる量とすることができる。中でも、凝集剤の付与量が0.2〜0.7g/mとなる量が好ましい。凝集剤は、付与量が0.1g/m以上であるとインク組成物の種々の使用形態に応じ良好な高速凝集性が保てる。また、凝集剤の付与量が0.7g/m以下であることは、付与した記録媒体の表面性に悪影響(光沢の変化等)を与えない点で好ましい。
【0209】
また、本発明においては、処理液付与工程後にインク付与工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク付与工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
【0210】
加熱乾燥は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行なえる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒータ等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0211】
(記録媒体)
本発明の画像形成方法は、記録媒体に上に画像を記録するものである。記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本発明の画像形成方法によると、色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像の記録が可能である。
【0212】
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しおらい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
【0213】
記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられる塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の光沢や擦過耐性など、品質上の問題を生じやすいが、本発明の画像形成方法では、光沢ムラが抑制されて光沢性、耐擦性の良好な画像を得ることができる。特に、原紙と無機顔料を含むコート層とを有する塗工紙を用いるのが好ましく、原紙とカオリン及び/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙を用いるのがより好ましい。具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙がより好ましい。
【実施例】
【0214】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」および「%」は質量基準である。
【0215】
<構造式(I−1)で表される化合物の合成>
下記構造式(I−1)で表される化合物を、以下の手順に従って合成した。なお、構造式(I−1)で表される化合物は、本発明の一般式(I)で表される化合物である。
【0216】
【化38】

【0217】
(構造式(I−1´)で表される化合物の合成)
攪拌機、塩化カルシウム管、温度計を備えた1000mlの三口フラスコに2、2´−ジチオサリチル酸25g、濃硫酸250mLを入れ、窒素雰囲気下で氷冷した。次いで、反応溶液を10度以下に保ちながら2,3-キシレノール20gをゆっくり添加した。その後氷冷下で一時間攪拌した後、反応温度を室温まで上昇させ更に1時間攪拌した。更に65度で1時間反応を行った後室温まで冷却し、得られた反応液を注意深く水1000mLに加えた。沈殿をろ取し、更に500mLの水で洗浄し、得られた粗生成物をアセトンで洗浄して構造式(I−1´)で表される化合物を30gの収量で得た。
【0218】
(構造式(I−1)で表される化合物の合成)
攪拌機と冷却管を備えた200mlの三口フラスコに中間体(I−1´)を2.5g、1,3-プロパンスルトン1.9g、カリウムt-ブトキシド1.64g、エタノール20mlを入れ、還流下で8時間攪拌した。反応終了後、反応液をろ過し、得られた粗生成物をメタノールで洗浄することで目的物である構造式(I−1)で表される化合物を3.8gの収量で得た。
【0219】
<構造式(I−3)で表される化合物の合成>
下記構造式(I−3)で表される化合物を、(I−1)の化合物と同様の方法にて合成した。(I−3)で表される化合物は、本発明の一般式(I)で表される化合物である。
【0220】
【化39】

【0221】
<構造式(IIa−2)で表される化合物の合成>
下記スキームに従って、IIa−2の合成を行った。重合開始剤IIa−2は、本発明における式(II)で表される化合物である。
【0222】
【化40】

【0223】
(IIa−2−1の合成)
攪拌機、塩化カルシウム管、温度計を備えた500mlの三口フラスコにIrgacure907(チバ・ジャパン社製)を10g、塩化メチレン70mLを入れ、氷冷した。次いでメタクロロ過安息香酸(以後mCPBAとも称する)9.63gを、反応溶液を10度以下に保ちながらゆっくり添加した。その後氷冷下で一時間攪拌した後、反応温度を室温まで上昇させ、更に一時間攪拌した。反応後、水酸化カルシウム5.3gを加えて更に三十分攪拌し、沈殿物をろ別した。得られたろ液を攪拌機と冷却管を備えた500mlの三口フラスコに移し、アセトニトリル50mLおよびトリフルオロ酢酸無水物15mLを加えて一時間還流した。反応溶液を室温まで冷却してからメタノールとトリエチルアミンを60mlずつ添加し、室温で更に三時間攪拌した。反応後、飽和塩化アンモニウム水溶液50mLを加えて酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後ろ過して、ろ液をエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶液:酢酸エチル/ヘキサン=1/2)で精製して化合物を収量5.5gで得た。
【0224】
(IIa−2−2の合成)
攪拌機と冷却管を備えた200mlの三口フラスコに中間体(IIa−2−1)を4.1g、アセトン60mL、炭酸セシウム10g、ブロモ酢酸エチル2.2mLを加え、8時間還流した。反応後、沈殿物をろ過し、ろ液をエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶液:酢酸エチル/ヘキサン=1/4)で精製して化合物を収量2gで得た。
【0225】
(IIa−2の合成)
攪拌機と冷却管を備えた100mlの三口フラスコに中間体(IIa−2−2)を1.5g、メタノール20mL、一規定水酸化ナトリウム水溶液4.5mLを加え、4時間還流した。反応後、反応液をエバポレーターで濃縮し、得られた濃縮物をイソプロパノールで洗浄してIIa−2を1.2gの収量で得た。
【0226】
<構造式(IIb−1)で表される化合物の合成>
文献(Chemistry of Materials 1998,Vol 10, p.3429-3433)に記載の合成方法において、炭酸ナトリウムの替わりに水酸化リチウムを用いて、下記化合物(IIb−1)を合成した。
【0227】
【化41】

【0228】
<特開昭58−79991号公報の実施例1に記載の化合物の合成>
特開昭58−79991号公報の実施例1に記載の方法にて、下記の化合物を合成した。
【0229】
【化42】

【0230】
<重合性化合物1>
実施例にて使用する重合性化合物1としては、以下の構造を有する化合物を用いた。
【0231】
【化43】

【0232】
(重合性化合物1の合成)
攪拌子を備えた1Lの三口フラスコにアクリルアミド40.0g(563mmol)、ブタンジオールジグリシジルエーテル57.0g(282mmol)、炭酸カリウム15.6g(113mmol)、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド25.7g(113mmol)、ジオキサン500mLを加えて、90℃で10時間加熱攪拌した。得られた反応混合物をろ過し、減圧下でジオキサンを留去し、飽和食塩水200mLを加えてブタノール300mLで3回抽出した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過を行い、減圧下溶媒留去することにより上記構造の重合性化合物1を58.2g(169mmol、収率60%)得た。
【0233】
<NKエステルA−400>
実施例にて使用するNKエステルA−400は、以下の構造を有する本発明の重合性の水溶性化合物である。
【0234】
【化44】

【0235】
<ポリマー分散剤P−1の合成>
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコにメチルエチルケトン88gを加えて窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥し、ポリマー分散剤P−1を96g得た。
得られた樹脂の組成は、H−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は44,600であった。さらに、JIS規格(JISK0070:1992)に記載の方法により酸価を求めたところ、65.2mgKOH/gであった。なお、以下のスキームにおけるポリマー構造中の数字は、各成分の質量比を表す。
【0236】
【化45】

【0237】
<樹脂粒子の調整>
−樹脂粒子B−20の合成−
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン540.0gを仕込んで、窒素雰囲気下で75℃まで昇温した。反応容器内温度を75℃に保ちながら、メチルメタクリレート108g、イソボルニルメタクリレート388.8g、メタクリル酸43.2g、メチルエチルケトン108g、及び「V−601」(和光純薬(株)製)2.16gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、「V−601」1.08g、メチルエチルケトン15.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V−601」0.54g、メチルエチルケトン15.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続けた。
得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は61000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出、使用カラムはTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー社製))、酸価は52.1(mgKOH/g)であった。
尚、B−20のモノマー組成(質量基準)は、メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸(20/72/8)である。
【0238】
次に、重合溶液588.2gを秤量し、イソプロパノール165g、1モル/LのNaOH水溶液120.8mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に蒸留水718gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化せしめた。その後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保って溶媒を留去した。更に、反応容器内を減圧して、イソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を留去し、固形分濃度26.0%の樹脂粒子B−20の水性分散物を得た。
【0239】
<樹脂被覆顔料の分散物の調製>
(樹脂被覆シアン顔料分散物(C))
ピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブルーA220、大日精化(株)製)10部と、上記ポリマー分散剤P−1を5部と、メチルエチルケトン42部と、1mol/L NaOH水溶液5.5部と、イオン交換水87.2部とを混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて2〜6時間分散した。
得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去することにより、顔料濃度が10.2質量%の樹脂被覆シアン顔料分散物(着色粒子)(C)を得た。
【0240】
(樹脂被覆マゼンタ顔料分散物(M))
上記樹脂被覆シアン顔料分散物の調製において、顔料として用いたフタロシアニンブルーA220の代わりに、Chromophthal Jet Magenta DMQ(ピグメント・レッド122、チバ・ジャパン社製)を用いた以外は上記と同様にして樹脂被覆マゼンタ顔料分散物(着色粒子)(M)を得た。
【0241】
(樹脂被覆イエロー顔料分散物(Y))
上記樹脂被覆シアン顔料分散物の調製において、顔料として用いたフタロシアニンブルーA220の代わりに、Irgalite Yellow GS(ピグメント・イエロー74、チバ・ジャパン社製)を用いた以外は上記と同様にして樹脂被覆イエロー顔料分散物(着色粒子)(Y)を得た。
【0242】
(樹脂被覆ブラック顔料分散物(K))
上記樹脂被覆シアン顔料分散物の調製において、顔料として用いたフタロシアニンブルーA220の代わりに、顔料分散体CAB−O−JETTM 200(カーボンブラック、CABOT社製)を用いた以外は上記と同様にして樹脂被覆ブラック顔料分散物(着色粒子)(K)を得た。
【0243】
<インク組成物C−1,M−1、Y−1及びK−1の調製>
以下のようにして、シアンインク組成物(C−1)、マゼンタインク組成物(M−1)、イエローインク組成物(Y−1)、ブラックインク組成物(K−1)をそれぞれ調製した。
【0244】
(シアンインク組成物C−1の調製)
上記の樹脂被覆シアン顔料分散物(C)を用い、下記組成となるように、樹脂被覆シアン顔料分散物(C)、水溶性有機溶剤、イオン交換水、重合開始剤、重合性化合物、及び界面活性剤を混合し、その後、5μmメンブランフィルタでろ過してシアンインク組成物C−1を調製した。
【0245】
−シアンインク組成物C−1の組成−
・樹脂被覆シアン顔料分散物(C) ・・・ 6%(固形分濃度)
・I−1で表される化合物 ・・・ 0.1%
・IIa−2で表される化合物 ・・・ 30%
・NKエステルA-400(新中村化学工業株式会社) ・・・ 15%
・オルフィンE1010(日信化学(株)製;界面活性剤) ・・・ 1%
・イオン交換水 ・・・残量(全量で100質量%となるよう加えた)
【0246】
pHメーターWM−50EG(東亜DKK(株)製)を用いて、シアンインク組成物C−1のpH(25℃)を測定したところ、pH値は8.5であった。
【0247】
(マゼンタインク組成物(M−1)の調製)
上記シアンインク組成物(C−1)の調製において、樹脂被覆シアン顔料分散物(C)の代わりに、樹脂被覆マゼンタ顔料分散物(M)を用いた以外は上記と同様にして、マゼンタインク組成物(M−1)を調製した。pH値は8.5であった。
【0248】
(イエローインク組成物(Y−1)の調製)
上記シアンインク組成物(C−1)の調製において、樹脂被覆シアン顔料分散物(C)の代わりに、樹脂被覆イエロー顔料分散物(Y)を用いた以外は上記と同様にして、イエローインク組成物(Y−1)を調製した。pH値は8.5であった。
【0249】
(ブラックインク組成物(K−1)の調製)
上記シアンインク組成物(C−1)の調製において、樹脂被覆シアン顔料分散物(C)の代わりに、顔料被覆ブラック顔料分散物(K)を用いた以外は上記と同様にして、ブラックインク組成物(K−1)を調製した。pH値は8.5であった。
【0250】
<インク組成物C−2〜21、M−2〜21、Y−2〜21及びK−2〜21の調製>
インク組成物C−1、M−1、Y−1及びK−1に準じて、下記表1〜表4に示したインクインク組成物C−2〜21、M−2〜21、Y−2〜21、K−2〜21(単位は質量%)を調製した。表1〜表4における各成分の数値は、質量%を表す。
【0251】
また、以下のインク組成物に使用した他の成分の入手先を以下に示す。
【0252】
【化46】

【0253】
【化47】

【0254】
【表1】

【0255】
【表2】

【0256】
【表3】

【0257】
【表4】

【0258】
<処理液1の調製>
以下の材料を混合して、処理液1を作製した。東亜DKK(株)製のpHメーターWM−50EGにて、処理液1のpH(25℃)を測定したところ、1.0であった。
・マロン酸(立山化成(株)製;酸性化合物)・・・25.0%
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成工業(株)製;水溶性有機溶媒)・・・5%
・イオン交換水・・・残量(全量で100質量%となるよう加えた)
【0259】
<処理液2の調製>
以下の材料を混合して、処理液2を作製した。東亜DKK(株)製のpHメーターWM−50EGにて、pH調整後の処理液2のpH(25℃)を測定したところ、4.0であった。
・ポリエチレンイミン(日本触媒社製;カチオン性ポリマー)・・・13.0%
・イオン交換水・・・残量(全量で100質量%となるよう加えた)
【0260】
<処理液3の調製>
以下の材料を混合して、処理液3を作製した。東亜DKK(株)製のpHメーターWM−50EGにて、処理液3のpH(25℃)を測定したところ、4.0であった。
・硝酸マグネシウム六水和物(和光純薬工業(株)製;多価金属塩) ・・・15%
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル(和光純薬工業(株)製) ・・・4%
・オルフィンE1010(日信化学工業(株)製;10%) ・・・1%
【0261】
<実施例1−C1>
(インク経時安定性評価)
上記で調製したシアンインク組成物C−1について、インク経時安定性を以下のようにして評価した。
【0262】
シアンインク組成物C−1を液温25℃に温度調整した。
次いで振動式粘度計(BROOKFIELD社製、DV−II+VISCOMETER)を用いて、25℃、相対湿度50%の環境下で、シアンインク組成物C−1を原液のまま液温25℃でコーンプレート(φ35mm)を用いて測定を行い、トルクが20〜90%の範囲で、且つ回転数が0.5〜100rpmの範囲のデータの平均値を測定値とした。調製直後の測定値をインク粘度1とした。
次いで、シアンインク組成物C−1の一部をガラス製サンプルビンに採取し、密栓した状態で60℃の環境下で2週間放置した後、上記と同様の方法で保存後のインク粘度2を測定した。また、同時にシアンインク組成物C−1の状態を目視観察した。
上記測定した保存前後でのインク粘度の変動率{100−(インク粘度2/インク粘度1)×100}を算出した。さらに保存後の目視観察結果と併せて、下記の評価基準に従ってインク保存性の評価を行った。結果を下表に示す。
【0263】
−評価基準−
A… インク粘度の変動率が±15%未満で、かつインク組成物の変化は認められなかった。
B… インク粘度の変動率が±15%以上±30%未満で、かつインク組成物の変化は認められなかった。
C … インク粘度の変動率が±30%以上、±50%未満で、かつインク組成物の変化は認められなかった。
D … インク粘度の変動率が±50%以上、またはインク組成物の分離やゲル状化が観察された。
【0264】
<実施例1−C2〜C17、1−M1〜M17、1−Y1〜Y17、1−K1〜K17>
インク組成物C−2〜17、M−1〜17、Y−1〜17、K−1〜17について、実施例1−C1と同様の方法で実施例1−C2〜C17、1−M1〜M17、1−Y1〜Y17、1−K1〜K17を実施した。結果を下表に示す。
【0265】
<比較例1−C18〜C21、1−M18〜M21、1−Y18〜Y21、1−K18〜K21>
インク組成物C−18〜21、M−18〜21、Y−18〜21、K−18〜21について、実施例1−C1と同様の方法で比較例1−C18〜C21、1−M18〜M21、1−Y18〜Y21、1−K18〜K21を実施した。結果を下表に示す。
【0266】
【表5】



【0267】
<実施例2−1>
(画像形成並びに着弾位置精度及び硬化感度評価)
−画像形成−
記録媒体(塗工紙)として、OKトップコート+(坪量104.7g/m)を用意して、以下に示すようにして画像を形成し、形成された画像について以下の評価を行った。記録媒体には、全てOKトップコート+を用いた。結果を下表に示す。
【0268】
上記で得られたシアンインク組成物(C−1)、マゼンタインク組成物(M−1)、イエローインク組成物(Y−1)、およびブラックインク組成物(K−1)からなるインク組成物1を用い、処理液1と共にインクセット1を構成し、下記に示す方法で、4色シングルパス記録によりライン画像とベタ画像を形成した。
【0269】
まず、図1に示すように、記録媒体の搬送方向(図中の矢印方向)に向かって順次、水性処理液を吐出する処理液吐出用ヘッド12Sを備えた処理液付与部12と、付与された水性処理液を乾燥させる処理液乾燥ゾーン13と、各種水性インクを吐出するインク吐出部14と、吐出された水性インクを乾燥させるインク乾燥ゾーン15と、紫外線(UV)を照射可能なUV照射ランプ16Sを備えたUV照射部16とが配設されたインクジェット装置を準備した。
処理液乾燥ゾーン13は、図示しないが、記録媒体の記録面側には乾燥風を送って乾燥を行なう送風器を備え、記録媒体の非記録面側には赤外線ヒータを備えており、処理液付与部で処理液の付与を開始した後900msecが経過するまでに、温度・風量を調節して水性処理液中の水の70質量%以上を蒸発(乾燥)できるように構成されている。また、インク吐出部14は、搬送方向(矢印方向)にブラックインク吐出用ヘッド30K、シアンインク吐出用ヘッド30C、マゼンタインク吐出用ヘッド30M、及びイエローインク吐出用ヘッド30Yが順次配置されており、各ヘッドは1200dpi/20inch幅フルラインヘッドであり、各色をシングルパスで主走査方向に吐出して記録できるようになっている。
【0270】
図1に示すように構成されたインクジェット装置の処理液吐出用ヘッド、インク吐出用ヘッドにそれぞれ繋がる貯留タンク(不図示)に、上記で得た処理液、インクを装填して、記録媒体にベタ画像及び1200dpiのライン画像を記録した。
ライン画像は、1200dpiの幅1ドットのライン、幅2ドットのライン、幅4ドットのラインをシングルパスで主走査方向に吐出して記録し、ベタ画像は、記録媒体をA5サイズにカットしたサンプルの全面にインクを吐出してベタ画像とした。
なお、記録する際の諸条件は下記の通りである。
【0271】
(1)処理液付与工程
記録媒体上に処理液吐出用ヘッド12Sから処理液をシングルパスで吐出した。付与量が、1.4g/mとなるように処理液を吐出した。
【0272】
(2)処理工程
処理液の乾燥は処理液乾燥ゾーン13で行ない、処理液乾燥ゾーンを水性処理液の吐出開始から900msec迄に通過するようにした。下記条件にて処理液が吐出された記録媒体について乾燥処理及び浸透処理を施した。
・風速:10m/s
・温度:記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように、記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒータで加熱した。
【0273】
(3)インク付与工程
その後、インク吐出用ヘッドにより、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、およびイエローインクをシングルパスで吐出して画像を記録した。処理液が吐出された記録媒体の吐出面に、下記条件にてインク組成物をインクジェット方式で吐出し、ライン画像、ベタ画像をそれぞれ形成した。
・ヘッド:1,200dpi/20inch幅のピエゾフルラインヘッドを4色分配置
・吐出液滴量:2.0pL
・駆動周波数:30kHz
【0274】
(4)インク乾燥工程
次いで、インク乾燥ゾーン15で、インク組成物が付与された記録媒体を下記条件で乾燥した。
・乾燥方法:送風乾燥
・風速:15m/s
・温度:記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように、記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒータで加熱した。
【0275】
(5)UV露光工程
画像乾燥後、UV照射部16において、UV光(アイグラフィックス(株)製 メタルハライドランプ 最大照射波長 365nm)を積算照射量3J/cmになるように照射して画像を硬化した。
【0276】
−着弾位置精度評価−
A:抜けの発生等によるドット欠けの発生が認められず、良好な画像が得られた。
B:抜けの発生等によるドット欠けの発生がわずかに認められたが、実用上支障を来さない程度であった。
C:抜けの発生等によるドット欠けの発生があり、実用に耐えない画像であった。
D:吐出ができなかった。
【0277】
−硬化感度評価−
重量470g、サイズ15mm×30mm×120mmの文鎮に、未印字のOKトップコート+を巻きつけ、上記ベタ画像が形成された評価用サンプルの印画面を荷重260kg/mで3往復擦った。この際、未印字のOKトップコート+と評価サンプルが接触する面積を150mmとなるようにした。擦った後の印画面を目視により観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。評価結果を表6に示す。評価基準は以下の通りである。
A … 印画面に画像(色材)のはがれが視認できなかった。
B … 印画面に画像(色材)のはがれがわずかに認められた。
C … 印画面に画像(色材)のはがれが視認でき、実用上問題になるレベルであった。
D … 印画面に画像(色材)の大きなはがれが視認できた。
【0278】
(実施例2−2〜19)
シアンインク組成物(C−2)、マゼンタインク組成物(M−2)、イエローインク組成物(Y−2)、及びブラックインク組成物(K−2)の4色を1組としてインク組成物2とした。以下同様にC−3〜C−19、M−3〜M−19、Y−3〜Y−19、K−3〜K−19各々の組について、インク組成物3〜19とした。
表6に示す組み合わせで、インク組成物2〜17と、処理液1〜3を組み合わせてインクセットを構成し、実施例1と同様の方法で実施例2−2〜19を実施した。
【0279】
(比較例2−1〜4)
表6に示す組み合わせで、インク18〜21と、処理液1を組み合わせてインクセットを構成し、実施例1のインクジェット記録法と同様の方法で比較例2−1〜4を実施した。
【0280】
得られた結果を表6に示した。
【0281】
【表6】

【0282】
表に示すように、本発明のインク組成物は、インクの経時安定性及び着弾位置精度の双方に優れることが確認された。
【符号の説明】
【0283】
12・・・処理液付与部
12S・・・処理液吐出用ヘッド
13・・・処理液乾燥ゾーン
14・・・インク吐出部
15・・・インク乾燥ゾーン
16・・・紫外線照射部
16S・・・紫外線照射ランプ
30K,30C,30M,30Y,30A,30B・・・インク吐出用ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、水、水溶性の重合性化合物、下記一般式(I)で表される化合物及び下記一般式(II)で表される化合物を含むインク組成物。
【化1】


(式(I)中、R11は炭素数1〜6のアルキレン基を表す。R12及びR13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Xは−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。Yは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【化2】


(式(II)中、R21は炭素数1〜12のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。R22は炭素数1〜20のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。R23は炭素数1〜20のアルキレン基又は炭素数6〜20のアリーレン基を表す。Xは−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。Yは単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、酸素原子または硫黄原子を表す。)
【請求項2】
前記水溶性の重合性化合物が(メタ)アクリルアミド構造を有する、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記水溶性の重合性化合物が下記一般式(M−2)で表される化合物である、請求項1または2に記載のインク組成物。
【化3】


(式(M−2)中、Qはn価の連結基を表し、R2mは水素原子またはメチル基を表す。また、nは1以上の整数を表す。)
【請求項4】
前記一般式(I)で表される化合物に対する一般式(II)で表される化合物の比(一般式(II)で表される化合物/一般式(I)で表される化合物)が、質量基準で0.3〜10である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記一般式(II)の化合物が下記一般式(IIa)である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【化4】


(式(IIa)中、R1aは炭素数1〜6のアルキレン基を表す。R2a及びR3aはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Xは−OM、−COOM又は−SOを表し、Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。Yは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【請求項6】
前記一般式(II)の化合物が下記一般式(IIb)である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【化5】


(式(IIb)中、R1b及びR2bは各々独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。R3bは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Mは水素原子、カリウム原子、ナトリウム原子又はリチウム原子を表す。)
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のインク組成物と、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液とを含むインクセット。
【請求項8】
前記処理液が、酸性化合物、多価金属塩およびカチオン性ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項7に記載のインクセット。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のインク組成物を記録媒体上に付与するインク付与工程と、
前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程とを有する画像形成方法。
【請求項10】
前記記録媒体が塗工紙であることを特徴とする請求項9に記載の画像形成方法。
【請求項11】
前記画像形成方法において、処理液付与工程がインク付与工程よりも先になることを特徴とする請求項9又は10に記載の画像形成方法。
【請求項12】
前記インク付与工程において、インクジェットによりインクを付与することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の画像形成方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−7071(P2012−7071A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144114(P2010−144114)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】