説明

インク組成物、及びそれを用いた平版印刷版の作製方法

【課題】分散安定性、再分散性、保存安定性に優れると共に、様々な方式のインクジェット記録方法に適用した場合であっても、吐出安定性が良好で、滲みのない高画質の画像が得られるインク組成物を提供する。本発明のインク組成物は、インクジェット記録方法を利用し、鮮明で高画質の画像が描画された印刷物を得ることが可能な平版印刷版の作製方法に有用である。
【解決手段】(A)非水系分散媒、および、(B)塩基性基を有する分散剤により該(A)非水系分散媒中に分散された粒径0.8μm以上の樹脂粒子を含有するインクジェット用インク組成物、及び該インクジェット用インク組成物を用いた平版印刷版の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インク組成物、及び該インク組成物を用いた平版印刷版の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙などの被記録媒体に画像を形成する画像記録方法としては、これまでに電子写真方式、昇華型及び溶融型熱転写方式、インクジェット方式などが知られている。これらのうち電子写真方式は、感光体ドラム上に帯電及び露光により静電潜像を形成するプロセスを必要とするため、システムが複雑であり、装置も高価である。熱転写方式は、電子写真方式に比べて装置自体は安価であるが、インクリボンを用いるため、ランニングコストが高く、かつ廃材が生じるなど問題がある。一方、インクジェット方式は、安価な装置で、かつ必要とされる画像部のみにインクを吐出し被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率よく使用でき、ランニングコストが安い。更に、騒音が少なく、画像記録方式として優れている。よって、最近急速に普及している記録方法である。
【0003】
このようなインクジェット記録方法としては、静電誘引力を利用してインクを吐出させる、いわゆる静電方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用してインクを吐出させる、いわゆるドロップ・オン・デマンド方式(ピエゾ方式)、更には高熱によって気泡を形成し、成長させることによって生じる圧力を利用してインクを吐出させる、いわゆるバブル(サーマル)ジェット方式等の各種が提案されており、これらの方式によりきわめて高精細な画像を得ることができる。
【0004】
一方、従来の平版印刷版は下記のようにして得られる。
すなわち、親水性支持体上に親油性の感光性樹脂層(画像記録層)を設けてなる平版印刷版原版を、リスフィルム等の原画を通した露光を行った後、画像部の画像記録層を残存させ、非画像部の画像記録層をアルカリ性現像液又は有機溶剤によって溶解して除去することで親水性支持体表面を露出させる方法により製版を行って、平版印刷版を得ている。
しかし、従来の平版印刷版原版の製版工程では、露光後、非画像部を現像液等によって溶解除去する工程が必要となるが、近年、地球環境への配慮から湿式処理に伴って排出される廃液の処分が産業界全体の大きな課題となっており、上記課題の解決の要請が強くなってきている。
【0005】
そこで、近年、コンピューター等で作成された画像データ信号に基づき、上記のインクジェット記録方式を用いてアルミ板、プラスチックフィルム等の支持体に画像を直接形成して、インクジェット記録型CTPを作製し、これを湿式処理を行わずに印刷機のシリンダーに取り付けて印刷を行うことが可能であるという技術が知られている(例えば、特許文献1〜6参照。)。
このようなインクジェット記録型CTP用インクとしては、水性インク(特許文献1)、ソリッドインク(特許文献2)、UVインク(特許文献3)、油性インク(特許文献4〜6)が一般に用いられている。
しかしながら、水性インクはインクの気泡性が高く、インクヘッドの吐出安定性に懸念が残ることに加えて、親水性支持体に画像描画した際に、版材上の画像に滲みを生じる問題や、乾燥が遅いために画像描画速度が低下するという問題がある。
また、ソリッドインクの場合、ヘッドに加熱装置を必要とするため、システムが複雑であり、装置も高価となる。また、吐出時のインク粘度が高いため高解像度の製版画像を可能とする微小インク滴を吐出させることが困難であるという問題点がある。
【0006】
更に、近年、特許文献3に記載のようなUVインクを用いる方法も開示されているが、ソリッドインク同様に、吐出時のインク粘度が高いため高解像度の製版画像を可能とする微小インク滴を吐出させることが困難であることに加えて、ヘッド部が可視光に曝されることにより、ヘッド部のインクが硬化し、ヘッド詰まりが発生するなどの問題点がある。
【0007】
一方、特許文献4〜6に記載の油性インクは、いずれも、0.1〜0.5μm程度の粒子径の粒子を含有しているため、粒子表面積が小さく、静電方式のインクジェット記録に適用すると、パルス電圧に対する感度が低く、吐出が不安定になるという問題を有していた。また、このように粒子径が小さな粒子を含有する油性インクは、被記録媒体上に付与した際に、滲み易く、画質が低下するといった問題を有していた。
このように、油性インクは、上記のような利点を有するものの、適用されるインクジェット記録方式には制限があり、また、滲みによる画質低下の問題もあることから、これらの改善が求められていた。
【特許文献1】特開2002−86667号公報
【特許文献2】特開2001−88269号公報
【特許文献3】特開2001−150652号公報
【特許文献4】特開平10−298473号公報
【特許文献5】特開平10−259336号公報
【特許文献6】特開平10−273614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、分散安定性、吐出性に優れると共に、様々な方式のインクジェット記録方法に好適に適用しうるインクジェット用の油性インク組成物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、鮮明な画像の印刷物を多数枚印刷しうる平版印刷版作製用油性インク組成物を提供することにある。
さらに、本発明の第3の目的は、本発明のインク組成物を用いた、鮮明な画像の印刷物を多数枚供給できる平版印刷版の作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、塩基性を発現する部分構造を有する分散剤によって分散された0.8μm以上の粒子を含有することを特徴とするインクジェット用インク組成物を用いることによって、上記の目的が達成されることを見出し、本発明の達成に至った。
即ち、本発明のインク組成物は、(A)非水系分散媒、および、(B)塩基性基を有する分散剤により該(A)非水系分散媒中に分散された粒径0.8μm以上の樹脂粒子(以下、適宜、「特定粒子」と称する)を含有することを特徴とする。
このインクジェット用インク組成物は、特に静電方式のインクジェット記録方法に好適に使用することができる。
また、本発明の請求項3に係る平版印刷版の作製方法は、インク受容体上に、インクジェット記録方法により、前記本発明のインクジェット用インク組成物を用いて画像描画することを特徴とする。
【0010】
本発明の作用機構は定かではないが、本発明のインクジェット用インク組成物においては、粒子の分散剤に塩基性ユニットが導入されており、インク中で粒子に正荷電が発生する。これにより、粒子間での静電反発が起こり、インク組成物中での粒子の分散性が向上したものと考えている。また、分散剤の機能により粒子の最表面に塩基性基が配置され、効率的に粒子表面に正荷電が発生するために、特に静電方式のインクジェット記録方法において電場下での粒子の移動速度が向上し、吐出性が向上し、このため、分散性、その安定性、さらには、静電方式のインクジェット記録方法における吐出性の改良が達成されたものと考えられる。
また、粒子の分散剤に塩基性基が存在することにより、粒子のTgが低下するため、加熱定着を行う際に、粒子の溶融性が向上し、樹脂と支持体との物理的な密着性が向上するために、本発明のインク組成物を平版印刷版の作製に使用すると、耐刷性に優れた平版印刷版が得られるものと考えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分散安定性、吐出性に優れると共に、様々な方式のインクジェット記録方法に好適に適用しうる油性インク組成物を提供することができ、このインク組成物は、鮮明な画像の印刷物を多数枚印刷しうる平版印刷版の作製用に好適である。
さらに、前記本発明のインク組成物を用いることにより、鮮明な画像の印刷物を多数枚供給できる平版印刷版の作製方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について説明する。
<インクジェット用インク組成物>
まず、本発明のインクジェット用インク組成物に関して説明する。
本発明のインク組成物は、(A)非水系分散媒、および、(B)塩基性基を有する分散剤により該(A)非水系分散媒中に分散された粒径0.8μm以上の樹脂粒子を含有する。これらの成分について順次説明する。
〔(A)非水系分散媒〕
本発明に用いる分散媒は、非水系溶媒からなることが好ましく、例えば、直鎖状もしくは分岐状の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、または芳香族炭化水素、およびこれらの炭化水素のハロゲン置換体などの炭化水素系化合物が挙げられる。
具体的には、オクタン、イソオクタン、デカン、イソデカン、デカリン、ノナン、ドデカン、イソドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどが挙げられ、市販品としては、アイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL(アイソパー;エクソン社の商品名)、シェルゾール70、シェルゾール71(シェルゾール;シェルオイル社の商品名)、アムスコOMS、アムスコ460溶剤(アムスコ;スピリッツ社の商品名)等を用いることができる。これらは、単独あるいは混合して用いることができる。
【0013】
また、非水系溶媒とは、溶媒中に水を含有しないことが効果の観点から好ましいことを意味するが、上記炭化水素系化合物を主成分とするものであれば、以下に記載の非炭化水素系化合物を混合して用いることができる。上記炭化水素系化合物に混合できる化合物としては、アルコール類(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、フッ化アルコール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、メチレンジクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、メチルクロロホルム等)等が挙げられる。
なお、静電方式のインクジェット記録方法を用いて画像描画する場合には、分散媒の誘電率を下げるという観点から、上記の炭化水素系化合物と混合して使用する非炭化水素系化合物の比率は低い方が好ましく、より具体的には、混合比率で30質量%以下が好ましく、最も好ましくは、不可避不純物を除き、これらを含有しない態様である。
【0014】
本発明のインク組成物において、(A)非水系分散媒の含有量は、インク組成物の全質量に対して、10〜99質量%の範囲であることが好ましく、20〜98質量%の範囲であることがより好ましく、30〜97質量%の範囲であることが更に好ましい。
(A)非水系分散媒の含有量が10〜99質量%の範囲において、インク組成物の粘度が適切に維持され、良好な吐出性が実現し、且つ、後述する(B)特定粒子の凝集が抑制され、保存安定性、分散性に優れ、(B)特定粒子の濃度も適切であって、優れた画像形成性が達成され、(B)特定粒子が着色されている場合には、視認性に優れた画像が形成される。
【0015】
〔(B)塩基性基を有する分散剤により前記(A)非水系溶媒中に分散された体積平均粒径0.8μm以上の樹脂粒子〕
本発明の(B)特定粒子は、前記(A)非水系分散媒に分散可能な樹脂粒子であると共に、塩基性基を有する分散剤により分散されており、体積平均粒径0.8μm以上である樹脂粒子であればよいが、以下に示すような方法で得られた粒子であることが好ましい。
すなわち、本発明における特定粒子は、(a)塩基性基を有する分散剤(以下、単に、分散剤と称する場合がある。)の存在下で、(b)非水溶媒中において、少なくとも1種の(c)架橋性基を有する単量体を重合することによって重合造粒して得られたものであって、体積平均粒径が0.8μm以上のものが好ましい。
以下、本発明における特定粒子を製造する際に用いられるこれらの各成分について説明する。
【0016】
〔(a)塩基性基を有する分散剤(分散剤)〕
本発明において、(a)塩基性基を有する分散剤は、(A)非水系分散媒中で、分散媒に不溶な重合体粒子を、安定な樹脂分散物とするために用いられる。
本発明において、分散剤は、粒子に対して、1〜50質量%で使用することが好ましく、更に好ましくは、5〜40質量%である。
分散剤に導入する好ましい塩基性基としては、文献およびACD/pKa DB等のpKa計算ソフトにて、共役酸のpKaが2以上の塩基性ユニットが好ましく、pKaが5以上がより好ましく、更に好ましくは9以上である。
分散剤の質量に対する塩基性基の含有量は、好ましくは、0.1mmol/g〜20mmol/gの範囲であり、より好ましくは0.5mmol/g〜15mmol/gの範囲であり、更に好ましくは、1mmol/g〜10mmol/gの範囲である。
以下に好ましい塩基性ユニットの構造を例示する。
分散剤に導入する好ましい塩基性基としては、下記一般式(I−a)、(I−b)で表される官能基からなる群より選択される塩基性基であることが好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
一般式(I−a)〜(I−b)中、Xは周期表の15族原子を表し、Xは周期表の16族原子を表す。
、R、Rは、それぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表し、RとRはそれぞれ結合して窒素原子と共に環を形成する有機残基を表してもよい。
、R及びRの好ましい構造としては、水素原子又は炭素数1〜22のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、脂環式基、アリール基もしくは架橋環式炭化水素基が挙げられる。これらが水素原子以外の炭化水素基である場合には、さらに置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、ハロゲン原子、ホルミル基、カルボキシル基、N、S、O等のヘテロ原子を含む芳香族基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、チオール基などが挙げられる。
【0019】
、R、及びRの好ましい構造の具体例としては、炭素数1〜22のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、ドコシル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、2−シアノエチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、2−メトキシエチル基、3−ブロモプロピル基等)、炭素数4〜18のアルケニル基(例えば、2−メチル−1−プロペニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、3−メチル−2−ペンテニル基、1−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、4−メチル−2−ヘキセニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、リノレニル基等)、炭素数7〜12のアラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、2−ナフチルエチル基、クロロベンジル基、ブロモベンジル基、メチルベンジル基、エチルベンジル基、メトキシベンジル基、ジメチルベンジル基、ジメトキシベンジル基等)、
【0020】
炭素数5〜8の脂環式基(例えば、シクロヘキシル基、2−シクロヘキシルエチル基、2−シクロペンチルエチル基等)、炭素数6〜12のアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、オクチルフェニル基、ドデシルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ブトキシフェニル基、デシルオキシフェニル基、クロロフェニル基、ジクロロフェニル基、ブロモフェニル基、シアノフェニル基、アセチルフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシカルボニルフェニル基、ブトキシカルボニルフェニル基、アセトアミドフェニル基、プロピオンアミドフェニル基、ドデシロイルアミドフェニル基等)、および架橋環式炭化水素基(例えば、ノルボルニル基、アダマンチル基等)等が挙げられる。
【0021】
ここで、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、脂環式基、アリール基などはさらに置換基を有するものであってもよく、ここに導入可能な置換基としては、ハロゲン原子、ホルミル基、カルボキシル基、N、S、O等のヘテロ原子を含む芳香族基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、チオール基などが挙げられる。
また、RとRはそれぞれ結合してXと共に環を形成する有機残基を表してもよい。
この有機残基は更に、ヘテロ原子(例えば酸素原子、窒素原子、イオウ原子等)を含むものであってもよい。例えば、R又はRとXとが結合してヘテロ原子を含む環を形成する場合、形成される環状アミノ基としては、モルホリノ基、ピペリジノ基、ピリジル基、イミダゾリル基、キノリル基、等が挙げられる。
【0022】
本発明における分散剤としては、上記の塩基性基を有しており、前述の(A)非水系分散媒に可溶な、(a−1)ランダム共重合体、(a−2)クシ型共重合体、(a−3)スター型共重合体、(a−4)部分架橋型共重合体、(a−5)架橋性基含有共重合体等の従来既知の分散安定剤を用いることができる。
ここで、本発明における塩基性基は、(a−1)ランダム共重合体、(a−2)クシ型共重合体、(a−3)スター型共重合体、(a−4)部分架橋型共重合体、(a−5)架橋性基含有共重合体等の各共重合体において、共重合成分として含まれることが好ましい。
本発明における分散剤としては、前述の(A)非水系分散媒に可溶な、ランダム共重合体、クシ型共重合体、部分架橋型共重合体、架橋性基含有共重合体等の従来既知の分散安定剤を用いることができる。
以下、本発明に好適な分散剤について詳細に説明する。
【0023】
(a−1)(ランダム共重合体)
本発明におけるランダム共重合体の具体例としては、上述の如き塩基性基をその構造内に含む単量体と、以下に示すような(b)非水溶媒に可溶な共重合体を形成する単量体と、を共重合してなる共重合体が挙げられる。
(b)非水溶媒に可溶な共重合体を形成する単量体としては、炭素数6〜32のアルキル鎖、アルケニル鎖(これらの脂肪族基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、アルコキシ基等の置換基を含有していてもよく、或いは、酸素原子、イオウ原子、窒素原子等のへテロ原子で主鎖の炭素−炭素結合が介されていてもよい。)を有する、アクリル酸、メタクリル酸、又はクロトン酸のエステル類;高級脂肪酸ビニル類;アルキルビニルエーテル類;ブタジエン、イソプレン、ジイソプレン等のオレフィン類;等の単量体が挙げられる。
【0024】
また、本発明におけるランダム共重合体は、上記のような上述の如き塩基性基をその構造内に含む単量体と、(b)非水溶媒に可溶な重合体を形成する(c)単量体と、から得られる共重合体が非水溶媒に可溶な範囲の割合で、下記のような各種の単量体の1種以上を更に共重合して得られる共重合体も用いることができる。
即ち、例えば、酢酸ビニル、酢酸アリル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸の、メチル、エチル、或いはプロピルエステル類;スチレン誘導体(例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等);又はその酸無水物;ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、アクリルアミド、アクリロニトリル、2−クロロエチルメタクリレート、2,2,2−トリフロロエチルメタクリレート等の、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、シアノ基、ハロゲン原子、ヘテロ環等の各種極性基を含有する単量体;等を挙げることができる。
【0025】
本発明におけるランダム共重合体の重量平均分子量は、3000〜20万の範囲であることが好ましく、5000〜15万の範囲であることがより好ましい。
分子量が3000より小さいと、分散能が低下するため、再分散性、保存安定性が低下する場合がある。また、分子量が20万より大きいと、(b)非水溶媒への溶解性が低下し、この場合にも、分散能が低下し、再分散性、保存安定性の低下を引き起こす場合がある。
【0026】
(a−2)(クシ型共重合体)
本発明におけるクシ型共重合体とは、前述の如き塩基性基をその構造内に含む単量体と、下記に示す構造を有し、且つ、重量平均分子量1×10〜5×10のマクロモノマー(MM)の少なくとも1種と、を共重合して得られる共重合体、または、下記に示す構造中に前述の如き塩基性基を有し、且つ、重量平均分子量1×10〜5×10のマクロモノマー(MM)を共重合成分として有する重合体、である。
まず、このマクロモノマーについて詳細に説明する。クシ型共重合体を得るために用いられるマクロモノマーは、下記一般式(II)で示される繰り返し単位を有する重合体主鎖の一方の末端にのみに、下記一般式(III)で示される重合性二重結合基を結合してなる構造を有する。
【0027】
【化2】

【0028】
上記一般式(II)において、a及びaは、互いに同じでも異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等)、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)、−COO−Z、又は炭化水素基を介した−COO−Zを表す。ここで、炭化水素基を介した−COO−Z基における炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。また、Zは、好ましくは水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、脂環式基若しくはアリール基である。
これらの基は、可能であれば更に置換基を有していてもよい。
【0029】
また、一般式(II)において、Xは、−COO−、−OCO−、−CHOCO−、CHCOC−、−O−、−SO−、−CO−、−CONR11−、−SONR11−、又は−Ph(フェニレン基)−を表わす。ここで、R11としては、水素原子、炭素数1〜22の置換されていてもよいアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘプチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、2−シアノエチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、2−メトキシエチル基、3−ブロモプロピル基等)、炭素数4〜18の置換されていてもよいアルケニル基(例えば、2−メチル−1−プロペニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、3−メチル−2−ペンテニル基、1−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、4−メチル−2−ヘキセニル基等)、炭素数7〜12の置換されていてもよいアラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、2−ナフチルエチル基、クロロベンジル基、ブロモベンジル基、メチルベンジル基、エチルベンジル基、メトキシベンジル基、ジメチルベンジル基、ジメトキシベンジル基等)、炭素数5〜8の置換されていてもよい脂環式基(例えば、シクロヘキシル基、2−シクロヘキシルエチル基、2−シクロペンチルエチル基等)、炭素数6〜12の置換されていてもよい芳香族基(例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、オクチルフェニル基、ドデシルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ブトキシフェニル基、デシルオキシフェニル基、クロロフェニル基、ジクロロフェニル基、ブロモフェニル基、シアノフェニル基、アセチルフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシカルボニルフェニル基、ブトキシカルボニルフェニル基、アセトアミドフェニル基、プロピオアミドフェニル基、ドデシロイルアミドフェニル基等)が挙げられる。
【0030】
なお、Xが、−Ph−(フェニレン基)である場合、その環上には、更に置換基を有してもよい。導入可能な置換基としては、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、クロロメチル基、メトキシメチル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブトキシ基等)等が挙げられる。
【0031】
一般式(II)において、Qは、炭素数10〜22のアルキル基、又は炭素数10〜22のアルケニル基を表わす。
【0032】
次に、下記一般式(III)で示される重合性二重結合基について説明する。
【0033】
【化3】

【0034】
上記一般式(III)において、b及びbは、互いに同じでも異なってもよく、前記一般式(II)中のa、aと同一の内容を表す。
また、Xは、一般式(II)中のXと同一の内容を表わし、好ましくは、−COO−、−OCO−、−O−、−CHOCO−、又は−CHCOO−である。
【0035】
一般式(III)で表わされる重合性二重結合基として、具体的には、CH=CH−COO−、CH=C(CH)−COO−、CH−CH=CH−COO−、CH=C(CHCOOCH)−COO−、CH=C(CHCOOH)−COO−、CH=CH−CONH−、CH=C(CH)−CONH−、CH−CH=CH−CONH−、CH=CH−OCO−、CH=CH−CH−OCO−、CH=CH−O−、CH=C(COOH)−CH−COO−、CH=C(COOCH)−CH−COO−、CH=CH−Ph−等が挙げられる。
【0036】
このような重合性二重結合基は、一般式(II)で示される重合体主鎖の片末端に、直接結合してもよいし、連結基を介して結合してもよい。ここで用いられる連結基としては、炭素−炭素結合(一重結合或いは二重結合)、炭素−ヘテロ原子結合(ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、イオウ原子、窒素原子、ケイ素原子等)、ヘテロ原子−ヘテロ原子結合の原子団の任意の組合せで構成されるものである。
具体的な連結基としては、−CR−〔ここで、RとRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、シアノ基、ヒドロキシル基、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等)等を示す。〕、−(CH=CH)−、−C10−(すなわち、シクロヘキシレン基)、−Ph(フェニレン基)−、−O−、−S−、−CO−、−NR−、−COO−、−SO−、−CONR−、−SONR−、−NHCOO−、−NHCONH−、−SiR10−〔ここで、RとR10は、各々独立に、水素原子、前記一般式(I)のDで表される脂肪族基等の炭化水素基を示す。〕等の連結基、又は、これらの連結基を2以上組合せで構成された連結基が挙げられる。
【0037】
上記のようなマクロモノマーは、従来公知の合成方法によって製造することができる。例えば、1)アニオン重合或いはカチオン重合によって得られるリビングポリマーの末端に種々の試薬を反応させて重合性二重結合基を導入する、イオン重合法による方法、2)分子中に、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基等の反応性基を含有した重合開始剤及び/又は連鎖移動剤を用いて、ラジカル重合して得られる末端反応性基結合のオリゴマーと種々の試薬を反応させて重合性二重結合基を導入する、ラジカル重合法による方法、3)重付加或いは重縮合反応により得られたオリゴマーに、上記ラジカル重合方法と同様にして重合性二重結合基を導入する、重付加縮合法による方法等が挙げられる。
【0038】
より具体的には、P.Dreyfuss & R.P.Quirk,Encycl.Polym.Sci.Eng.,7,551(1987)、P,F.Rempp & E.Franta,Adv.Polym.Sci.,58,1(1984)、V.Percec,Appl.Polym.Sci.,285,95(1984)、R.Asami,M.TakaRi,Makvamol.Chem.Suppl.,12,163(1985)、P.Rempp et al,Makvamol.Chem.Suppl.,8,3(1984)、川上雄資「化学工業」38,56(1987)、山下雄也「高分子」31,988(1982)、小林四郎「高分子」30,625(1981)、東村敏延「日本接着協会誌」18,536(1982)、伊藤浩一「高分子加工」35,262(1986)、東貴四郎,津田隆「機能材料」1987,No.10,5等の総説及びそれに引用の文献・特許等に記載の方法に従って合成することができる。
【0039】
前記2)の方法において用いられる、分子中に反応性基を含有した重合開始剤としては、例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸クロライド)、2,2’−アゾビス(2−シアノプロパノール)、2,2’−アゾビス(2−シアノペンタノール)、2,2’−アゾビス〔2−(5−ヒドロキシ−3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン〕、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕プロピオアミド)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル〕プロピオアミド}、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオアミド〕、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオアミド〕、2,2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕、2,2’−アゾビス〔2−(4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−1,3−ジアゼピン−2−イル)プロパン〕、2,2’−アゾビス〔2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン〕、2,2’−アゾビス{2−〔1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル〕プロパン}、2,2’−アゾビス〔N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチル−プロピオンアミジン〕、2,2’−アゾビス〔N−(4−アミノフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン〕等のアゾビス系化合物が挙げられる。
【0040】
また、分子中に反応性基を含有した連鎖移動剤としては、例えば、該反応性基或いは該反応性基に誘導しうる置換基含有のメルカプト化合物(例えば、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプト酪酸、N−(2−メルカプトプロピオニル)グリシン、2−メルカプトニコチン酸、3−〔N−(2−メルカプトエチル)カルバモイル〕プロピオン酸、3−〔N−(2−メルカプトエチル)アミノ〕プロピオン酸、N−(3−メルカプトプロピオニル)アラニン、2−メルカプトエタンスルホン酸、3−メルカプトプロパンスルホン酸、4−メルカプトブタンスルホン酸、2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、1−メルカプト−2−プロパノール、3−メルカプト−2−ブタノール、メルカプトフェノール、2−メルカプトエチルアミン、2−メルカプトイミダゾール、2−メルカプト−3−ピリジノール等)、又は該反応性基或いは該反応性基に誘導しうる置換基含有のヨード化アルキル化合物(例えば、ヨード酢酸、ヨードプロピオン酸、2−ヨードエタノール、2−ヨードエタンスルホン酸、3−ヨードプロパンスルホン酸等)等が挙げられる。好ましくはメルカプト化合物が挙げられる。
【0041】
これらの重合開始剤或いは連鎖移動剤の使用量は、各々、ラジカル重合の際に用いられる全単量体100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、好ましくは0.5〜5質量部である。
【0042】
このようにして得られたマクロモノマー(MM)の重量平均分子量は、クシ型共重合体の分子量を後述の範囲に制御するために、1×10〜5×10の範囲であることを要し、3×10〜3×10であることが好ましい。
【0043】
本発明におけるクシ型共重合体は、上述のような構造のマクロモノマーを10〜90質量%の範囲で含んでいるものが好ましく、20〜80質量%の範囲で含んでいるものがより好ましい。
この範囲内においてマクロモノマーを含むことで、重合造粒で得られる(B)特定粒子の平均粒子径が均一に揃い、且つ、得られた特定粒子の再分散性が著しく向上する。
【0044】
本発明におけるクシ型共重合体の重量平均分子量は、保存安定性、再分散性、分散安定性の観点から、5×10〜5×10の範囲であることが好ましく、1×10〜2×10の範囲であることがより好ましい。
【0045】
(a−3)(スター型共重合体)
本発明におけるスター型共重合体とは、中心となる有機分子に対し、A−B型のブロック共重合体の高分子鎖が少なくとも3個結合してなる、重量平均分子量1×10〜1×10の共重合体である。なお、このスター型共重合体において、前述の如き塩基性基は、A−B型のブロック共重合体中に含まれるが、この場合、塩基性基を有するモノマーを共重合する形式で含まれていてもよく、また、このような共重合体の一部に塩基性基を導入する形式で含まれていてもよい。
【0046】
ここで、ブロックAとブロックBの高分子鎖中における配列の順序は、ブロックAの重合体主鎖のブロックBと結合する末端とは反対側の片末端で、有機分子に結合してなるものあり、その構造を模式的に示すと下記の式(IV)のようになる。
【0047】
【化4】

【0048】
上記式(IV)において、Xは有機分子を表し、〔A〕はブロックAを、〔B〕はブロックBを表し、〔A〕−〔B〕は高分子鎖を表す。
【0049】
本発明におけるスター型共重合体におけるブロックAとブロックBの各共重合成の重量組成比は、1〜50/99〜50であり、好ましくは5〜40/95〜60である。
【0050】
以下、まず、有機分子に結合するA−B型のブロック共重合体の高分子鎖を構成するブロックAについて説明する。
ブロックAは、ヒドロキシル基、ホルミル基、アミノ基、−P(=O)(OH)R基、−CONR基、並びに環状酸無水物含有基からなる群より選択される少なくとも1種の極性基を含有する重合成分、及び/又は、以下に詳述する(b)架橋性基を有する単量体に相当する重合成分を少なくとも1種含有することで構成される。
【0051】
つまり、ブロックAは、架橋性基を有する単量体(b)に相当する重合成分、及び/又は、前記した特定の極性基含有の重合成分で構成される。
特定の極性基中、−P(=O)(OH)R基において、Rは、−R基又は−OR基を表し、Rは水素原子若しくは炭素数1〜10の炭化水素基を表す。Rの炭化水素基として好ましくは、炭素数1〜8の置換されていてもよい脂肪族基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、2−クロロエチル基、2シアノエチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基、クロロベンジル基、ブロモベンジル基等)、及び置換されていてもよい芳香族基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、メトキシフェニル基、シアノフェニル基等)が挙げられる。
【0052】
また、特定の極性基中、−CONR基及びにおいて、R及びRは、各々独立に、水素原子又は炭化水素基(炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜8の置換されていてもよい炭化水素基)を表す。R、Rで表される炭化水素基として具体的には、前記Rで表される炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0053】
特定の極性基における環状無水物含有基とは、少なくとも1つの環状酸無水化物を含有する基であり、含有される環状酸無水物としては、脂肪族ジカルボン酸無水物、芳香族ジカルボン酸無水物が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸無水物の例としては、コハク酸無水物、グルタコン酸無水物、マレイン酸無水物、シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸無水物、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、2,3−ビシクロ〔2,2,2〕オクタンジカルボン酸無水物等が挙げられ、これらの脂肪族ジカルボン酸無水物は、例えば、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基等のアルキル基等で置換されていてもよい。
また、芳香族ジカルボン酸無水物の例としては、フタル酸無水物、ナフタレン−ジカルボン酸無水物、ピリジン−ジカルボン酸無水物、チオフェンージカルボン酸無水物等が挙げられ、これらの芳香族ジカルボン酸無水物は、例えば塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基(アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等)等で置換されていてもよい。
【0054】
更に、特定の極性基中、アミノ基は、−NH、−NHR、又は−NRを表す。R、Rは、各々独立に、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜8の炭化水素基を表す。更に好ましくは炭素数1〜7の炭化水素基を表し、具体的には、前記Rで表される炭化水素基と同様のものが挙げられる。
【0055】
前記R、R、R、R及びRで表される炭化水素基として、更により好ましくは、炭素数1〜4の置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいベンジル基、又は置換されていてもよいフェニル基等が挙げられる。
【0056】
以上の特定の極性基を含有する重合成分に相当する単量体としては、特定の極性基を少なくとも1種含有した少なくとも一つの架橋性基を有する単量体であればいずれでもよい。例えば、高分子学会編「高分子データハンドブック、基礎編」培風館(1986年刊)等に記載されている。具体的には、α及び/又はβ置換アクリル酸(例えば、α−アセトキシ体、α−アセトキシメチル体、α−(2−アミノ)メチル体、α−クロロ体、α−ブロモ体、α−フロロ体、α−トリブチルシリル体、α−シアノ体、β−クロロ体、β−ブロモ体、α−クロロ−β−メトキシ体、α,β−ジクロロ体等)、イタコン酸半エステル類、イタコン酸半アミド類、マレイン酸半エステル類、マレイン酸半アミド類、ビニルベンゼンカルボン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルホスホ酸、ジカルボン酸類のビニル基又はアリル基の半エステル誘導体、及びこれらのカルボン酸又はスルホン酸のエステル誘導体やアミド誘導体の置換基中に、前記極性基を含有する化合物等が挙げられる。
【0057】
このような化合物の具体例として以下のものが挙げられる。ただし、以下の各例〔(m−1)〜(m−20)〕において、「e」は、−H、−CH、−Cl、−Br、−CN、又は−CHCOOCHを表し、「f」は、−H、又は−CHを表し、「n」は、2〜10の整数を表し、「m」は1〜10の整数を表し、「p」は1〜4の整数を表す。また、Xは、、−NR、−CHO、又は−O−P(=O)(OH)Rを表す。ここで、R、Rは、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表す。更に、Xは、−OHを表す。
【0058】
【化5】

【0059】
【化6】

【0060】
ブロックAにおいて含有される、特定の極性基含有の重合成分は、好ましくはスター型共重合体100質量部中、1〜30質量部で、より好ましくは1〜15質量部である。
また、ブロックAにおいて特定の極性基含有の重合成分が存在しない場合、前記官能性単量体(A)に相当する重合体成分は、好ましくは分散剤100質量部中5〜50質量部であり、より好ましくは10〜40質量部である。
【0061】
次に、有機分子に結合するA−B型のブロック共重合体の高分子鎖を構成するブロックBについて説明する。
ブロックBは、下記一般式(V)で示される繰り返し単位から成る重合体成分を少なくとも1種含有することで構成される。
【0062】
【化7】

【0063】
上記一般式(V)において、Xは、好ましくは−COO−、−OCO−、又は−O−を表す。
は、好ましくは炭素数10以上のアルキル基又はアルケニル基を表し、これらは直鎖状でも分岐状でもよい。具体的には、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコサニル基、ドコサニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、リノレル基等が挙げられる。
及びeは、互いに同じでも異なっていてもよく、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、炭素数1〜3のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等)、−COO−Z、又は−CHCOO−Z〔Zは、水素原子、又は置換されていてもよい炭素数22以下の炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、脂環式基、アリール基等)を表す。
【0064】
前記Zは、具体的には、水素原子の他、好ましい炭化水素原子としては、炭素数1〜22の置換されていてもよいアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、へプチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコサニル基、ドコサニル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、2−シアノエチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、2−メトキシエチル基、3−ブロモプロピル基等)、炭素数4〜18の置換されていてもよいアルケニル基(例えば、2−メチル−1−プロペニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、3−メチル−2−ペンテニル基、1−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、4−メチル−2−ヘキセニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、リノレル基等)、炭素数7〜12の置換されていてもよいアラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、2−ナフチルエチル基、クロロベンジル基、ブロモベンジル基、メチルベンジル基、エチルベンジル基、メトキシベンジル基、ジメチルベンジル基、ジメトキシベンジル基等)、炭素数5〜8の置換されていてもよい脂環式基(例えば、シクロヘキシル基、2−シクロヘキシルエチル基、2−シクロペンチルエチル基等)、及び炭素数6〜12の置換されていてもよい芳香族基(例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、オクチルフェニル基、ドデシルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ブトキシフェニル基、デシルオキシフェニル基、クロロフェニル基、ジクロロフェニル基、ブロモフェニル基、シアノフェニル基、アセチルフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシカルボニルフェニル基、ブトキシカルボニルフェニル基、アセトアミドフェニル基、プロピオアミドフェニル基、ドデシロイルアミドフェニル基等)が挙げられる。
【0065】
また、ブロックBにおいて、一般式(V)で示される繰り返し単位は二種以上を併用してもよい。
更に、ブロックBにおいて、一般式(V)で示される繰り返し単位と共に、他の繰り返し単位を共重合成分として含有してもよい。他の共重合成分としては、一般式(V)の繰り返し単位に相当する単量体と共重合可能な単量体よりなるものであればいずれの化合物であってもよい。他の共重合成分としては、多くてもブロックB100質量部に対して、20質量部を超えない範囲で用いられる。20質量部を超えると、本発明における特定粒子の分散性が劣化してしまう。
【0066】
ブロックBにおいて含有される、一般式(V)で示される重合成分は、好ましくはスター型共重合体100質量部中50〜99質量部であり、より好ましくは60〜95質量部である。
【0067】
本発明にスター型共重合体は、前記した所定の存在割合(すなわち、ブロックAとブロックBの存在割合や、ブロックBに含まれる一般式(V)で示される重合成分の存在割合)より少ない場合、特定粒子の再分散安定性を低下させてしまう場合がある。他方、所定の存在割合より多くなると、(B)特定粒子の粒子分布の単分散性低下を生じてしまう。
【0068】
前述のようなA−B型のブロック共重合体の高分子鎖を、少なくとも3個以上結合する有機分子としては、重量平均分子量が1000以下のものであれば特に限定されるものではない。例を挙げれば、下記に記載の3価以上の炭化水素残基が挙げられる。しかしながら、本発明に従う有機分子の具体例としては、これらに限定されるものではない。
【0069】
【化8】

【0070】
ここで、上記の例において、r〜rは各々水素原子又は炭化水素基を表す。ただし、rとrの少なくとも1つ、また、rとrのうちの少なくとも1つは、それぞれ、A−B型のブロック共重合体の高分子鎖に連結する。
【0071】
有機分子は、上記の炭化水素残基を単独又はこれらの任意の組み合わせの構成からなる。組み合わせの場合は、−O−、−S−、−N(r)−、−COO−、−CON(r)−、−SO−、又は−SON(r)−(ここで、rは、水素原子又は炭化水素基を表す)、−NHCOO−、−NHCONH−、酸素原子、イオウ原子、窒素原子のへテロ原子含有の複素環(例えばチオフェン環、ピリジン環、ピラン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、フラン環、ピペリジン環、ピラジン環、ピロール環、ピペラジン環等)等の結合単位を含んでいてもよい。なお、これらの結合単位は、単独で私用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0072】
上記以外の有機分子の例としては、下記の連結基と上記結合単位との組み合わせから構成されるものが挙げられる。しかしながら、本発明に従う有機分子の具体例としては、これらに限定されるものではない。
【0073】
【化9】

【0074】
本発明におけるスター型共重合体は、従来公知の極性基を含有し、かつ、重合性二重結合基を有する単量体のスター型ポリマーの合成法を利用して合成することができる。例えばその一つとして、カルバニオンを開始剤とする重合反応が挙げられる。具体的には、M.Morton,T.E.Helminiak et al”J.Polym.Sci.”57,471(1962),B.Gordon III,M,Blumenthal,J.E.Loftus et al”Polym.Bull.”11,349(1984),R.B.Bates,W.A.Beavers et al”J.Org.Chem.”44,3800(1979)に記載の方法に従って合成できる。
【0075】
ただし、上記の反応を用いる際には、前述の「特定の極性基」は、保護した官能基として用いて重合させた後、保護基の離脱を行う。これらの、特定の極性基の保護基による保護及びその保護基の離脱(脱保護反応)については、従来公知の知見を利用して容易に行うことができる。例えば、合成方法が記載されている上記の各引用文献にも種々記載されており、更には、岩倉義男、栗田恵輔「反応性高分子」(株)講談社刊(1977年)、T.W.Green”Protective Groups in Organic Synthesis”(JohnWiley & Sons,1981年)、J.F.W.McOmic”Protective Groups in Organic Chemistry”(Plenum Press,1973年)等の総説に詳細に記載されている方法を適宜選択して行うことができる。
【0076】
また、他の合成方法としては、前述の「特定の極性基」を保護しないままの単量体を用い、ジシオカーバメント基を含有する化合物及び/又はザンテート基を含有する化合物を開始剤として、光照射下に重合反応を行って合成することもできる。例えば、大津隆行「高分子」37,248(1988)、桧森俊一,大津隆一”polym.Rep.Jap.”37,3508(1988)、特開昭64−11号公報、特開昭64−26619号公報、東信行等”Polymer Preprints,Japan”36(6),1511(1987)、M.Niwa,N.Higashi et al”J.Macromol.Sci.Cem.”A24(5),567(1987)等に記載の合成方法に従って合成することができる。
【0077】
本発明におけるスター型共重合体の重量平均分子量(Mw)は、保存安定性、再分散性、分散安定性の観点から、1×10〜1×10であり、好ましくは2×10〜5×10である。
【0078】
(a−4)(部分架橋型共重合体)
本発明における部分架橋型共重合体とは、前述の如き塩基性基を含む単量体と、下記一般式(VI)で示される繰り返し単位を少なくとも1種と、を含有する共重合体であって、その重合体主鎖の一部分が架橋された、前記(b)非水溶媒に可溶な樹脂である。
【0079】
【化10】

【0080】
上記一般式(VI)において、Xは、好ましくは、−COO−、−OCO−、−CHOCO−、−CHCOO−又は−O−を表し、より好ましくは、−COO−、−CHCOO−又は−O−を表す。
は、好ましくは10〜22の置換されていてもよい、アルキル基、アルケニル基又はアラルキル基を表す。これらに導入可能な置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、−O−Z、−COO−Z、又は−OCO−Z(ここで、Zは炭素数6〜22のアルキル基を表し、例えば、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等である)等が挙げられる。また、より好ましくは、Yは、炭素数10〜22のアルキル基又はアルケニル基を表す。具体的には、例えば、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ドコサニル基、エイコサニル基、デセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基等が挙げられる。
【0081】
及びfは、互いに同じであっても異なっていてもよく、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜8の炭化水素基、−COO−Z、又は炭素数1〜8の炭化水素基を介した−COO−Z〔ここでZは炭素数1〜22の炭化水素基を表す〕を表す。
具体的には、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、シアノ基、炭素数1〜3のアルキル基、−COO−Z、又は−CHCOO−Z(ここで、Zは炭素数1〜22の脂肪族基を表し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ドコサニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基等が挙げられ、これらアルキル基、アルケニル基は前記Yで表したと同様の置換基を有していてもよい)等を表す。
【0082】
本発明における部分架橋型型共重合体は、前述の如き塩基性基を有する単量体と、上記一般式(VI)で示される繰り返し単位に相当する単量体と、をそれぞれ少なくとも1種含有し、かつ、その重合体主鎖の一部分が架橋された重合体である。
このように重合体主鎖中に架橋構造を導入する方法としては、通常知られている方法を利用することができる。すなわち、1)単量体の重合反応において、多官能性単量体を共存させて重合する方法、又は、2)重合体中に架橋反応を進行する官能基を含有させ高分子反応で架橋する方法である。
【0083】
本発明における部分架橋共重合体は、製造方法が簡便なこと(例えば、長時間の反応を要する、反応が定量的でない、反応促進剤を用いる等で不純物が混入する等、の問題点が少ない)等から、上記1)の方法が有効である。
上記1)の方法とは、好ましくは、重合性官能基を2個以上有する単量体を、上記一般式(VI)で示される繰り返し単位に相当する単量体と共に重合することで、ポリマー鎖間を架橋する方法である。
【0084】
重合性官能基として具体的には、CH=CH−、CH=CH−CH−、CH=CH−CO−O−、CH=C(CH)−CO−O−、CH−CH=CH−CO−O−、CH=CH−CONH−、CH=C(CH)−CONH−、CH=C(CH)−CONHCOO−、CH=C(CH)−CONHCONH−、CH−CH=CH−CONH−、CH=CH−O−CO−、CH=C(CH)−O−CO−、CH=CH−CH−O−CO−、CH=CH−NHCO−、CH=CH−CH−NHCO−、CH=CH−SO−、CH=CH−CO−、CH=CH−O−、CH=CH−S−等を挙げることができるが、上記の重合性官能基を2個以上有する単量体は、これらの重合性官能基を同一のもの或いは異なったものを2個以上有した単量体であればよい。
【0085】
重合性官能基を2個以上有した単量体の具体例としては、例えば、同一の重合性官能基を有する単量体として、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のスチレン誘導体;多価アルコール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール#200,#400,#600、1,3−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリストール等)、又はポリヒドロキシフェノール(例えば、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール及びそれらの誘導体)のメタクリル酸、アクリル酸又はクロトン酸のエステル類、ビニルエーテル類又はアリルエーテル類;二塩基酸(例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等)のビニルエステル類、アリルエステル類、ビニルアミド類又はアリルアミド類;ポリアミン(例えば、エチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、1,4−ブチレンジアミン等)とビニル基を有するカルボン酸(例えばメタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸、アリル酸等)との縮合体;等が挙げられる。
【0086】
また、異なる重合性官能基を有する単量体として、例えば、ビニル基を有するカルボン酸〔例えば、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリロイル酢酸、アクリロイル酢酸、メタクリロイルプロピオン酸、アクリロイルプロピオン酸、イタコニロイル酢酸、イタコニロイルプロピオン酸、カルボン酸無水化物とアルコール又はアミンの反応体(例えば、アリルオキシカルボニルプロピオン酸、アリルオキシカルボニル酢酸、2−アリルオキシカルボニル安息香酸、アリルアミノカルボニルプロピオン酸等)等〕のビニル基を含有したエステル誘導体又はアミド誘導体、具体的には、メタクリル酸ビニル、アクリル酸ビニル、イタコン酸ビニル、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、イタコン酸アリル、メタクリロイル酢酸ビニル、メタクリロイルプロピオン酸ビニル、メタクリロイルプロピオン酸ビニル、メタクリロイルプロピオン酸アリル、メタクリル酸ビニルオキシカルボニルメチルエステル、アクリル酸ビニルオキシカルボニルメチルオキシカルボニルエチレンエステル、N−アリルアクリルアミド、N−アクリルメタクリルアミド、N−アリルイタコン酸アミド、メタクリロイルプロピオン酸アリルアミド等;
アミノアルコール類(例えば、アミノエタノール、1−アミノプロパノール、1−アミノブタノール、1−アミノヘキサノール、2−アミノブタノール等)とビニル基を含有したカルボン酸との縮合体;等が挙げられる。
【0087】
前記した2個以上の重合性官能基を有する単量体は、全単量体の10質量%以下、好ましくは8質量%以下を用いて重合し、(b)非水溶媒に可溶性の部分架橋型共重合体を形成する。
【0088】
本発明における部分架橋共重合体は、製造方法が簡便なこと(例えば、長時間の反応を要する、反応が定量的でない、反応促進剤を用いる等で不純物が混入する等、の問題点が少ない)等から、上記1)の方法が有効である。
上記1)の方法とは、好ましくは、重合性官能基を2個以上有する単量体を、上記一般式(VI)で示される繰り返し単位に相当する単量体と共に重合することで、ポリマー鎖間を架橋する方法である。
【0089】
重合性官能基として具体的には、CH=CH−、CH=CH−CH−、CH=CH−CO−O−、CH=C(CH)−CO−O−、CH−CH=CH−CO−O−、CH=CH−CONH−、CH=C(CH)−CONH−、CH=C(CH)−CONHCOO−、CH=C(CH)−CONHCONH−、CH−CH=CH−CONH−、CH=CH−O−CO−、CH=C(CH)−O−CO−、CH=CH−CH−O−CO−、CH=CH−NHCO−、CH=CH−CH−NHCO−、CH=CH−SO−、CH=CH−CO−、CH=CH−O−、CH=CH−S−等を挙げることができるが、上記の重合性官能基を2個以上有する単量体は、これらの重合性官能基を同一のもの或いは異なったものを2個以上有した単量体であればよい。
【0090】
重合性官能基を2個以上有した単量体の具体例としては、例えば、同一の重合性官能基を有する単量体として、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のスチレン誘導体;多価アルコール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール#200,#400,#600、1,3−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリストール等)、又はポリヒドロキシフェノール(例えば、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール及びそれらの誘導体)のメタクリル酸、アクリル酸又はクロトン酸のエステル類、ビニルエーテル類又はアリルエーテル類;二塩基酸(例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等)のビニルエステル類、アリルエステル類、ビニルアミド類又はアリルアミド類;ポリアミン(例えば、エチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、1,4−ブチレンジアミン等)とビニル基を有するカルボン酸(例えばメタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸、アリル酸等)との縮合体;等が挙げられる。
【0091】
また、異なる重合性官能基を有する単量体として、例えば、ビニル基を有するカルボン酸〔例えば、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリロイル酢酸、アクリロイル酢酸、メタクリロイルプロピオン酸、アクリロイルプロピオン酸、イタコニロイル酢酸、イタコニロイルプロピオン酸、カルボン酸無水化物とアルコール又はアミンの反応体(例えば、アリルオキシカルボニルプロピオン酸、アリルオキシカルボニル酢酸、2−アリルオキシカルボニル安息香酸、アリルアミノカルボニルプロピオン酸等)等〕のビニル基を含有したエステル誘導体又はアミド誘導体、具体的には、メタクリル酸ビニル、アクリル酸ビニル、イタコン酸ビニル、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、イタコン酸アリル、メタクリロイル酢酸ビニル、メタクリロイルプロピオン酸ビニル、メタクリロイルプロピオン酸ビニル、メタクリロイルプロピオン酸アリル、メタクリル酸ビニルオキシカルボニルメチルエステル、アクリル酸ビニルオキシカルボニルメチルオキシカルボニルエチレンエステル、N−アリルアクリルアミド、N−アクリルメタクリルアミド、N−アリルイタコン酸アミド、メタクリロイルプロピオン酸アリルアミド等;
アミノアルコール類(例えば、アミノエタノール、1−アミノプロパノール、1−アミノブタノール、1−アミノヘキサノール、2−アミノブタノール等)とビニル基を含有したカルボン酸との縮合体;等が挙げられる。
【0092】
前記した2個以上の重合性官能基を有する単量体は、全単量体の10質量%以下、好ましくは8質量%以下を用いて重合し、(b)非水溶媒に可溶性の部分架橋型共重合体を形成する。
【0093】
本発明に用いられる部分架橋型共重合体は、具体的には、公知の方法である、前述の如き塩基性基を有する単量体、前記一般式(VI)で示される繰り返し単位に相当する単量体、及び上記した多官能性単量体を少なくとも共存させて、重合開始剤(例えば、アゾビス系化合物、過酸化物等)により重合する方法が簡便であり、好ましい。ここで用いられる重合開始剤は、各々全単量体100質量部に対して、0.1〜15質量%であり、好ましくは0.5〜10質量%である。
【0094】
本発明の部分架橋型共重合体の重量平均分子量は、重合造粒で得られる特定粒子の粒径分布の調整の点、及び、(b)非水媒体中での溶解性の点から、5×10〜1×10の範囲が好ましく、より好ましくは1×10〜2×10の範囲である。
【0095】
(a−5)(架橋性基含有共重合体)
本発明における架橋性基含有共重合体とは、少なくとも、前述の如き塩基性基をと、下記一般式(VII-1)で表される、(b)非水溶媒に可溶性となる共重合成分(X成分)と、下記一般式(VII-2)で表される、側鎖の末端に、重合造粒で得られる特定粒子と共重合可能な重合性二重結合基を有する共重合成分(Y成分)と、を含むランダム共重合体である。このため、この架橋性基含有共重合体は、非水系分散媒(A)に可溶性な樹脂である。なお、塩基性基は、塩基性基を有する単量体を共重合する形式で含まれることが、合成上の観点から好ましいが、このような共重合体の一部に塩基性基を導入する形式で含まれていてもよい。
ここで、一般式(VII-1)で表されるX成分は、単独の共重合成分から構成されていてもよいし、2種以上の共重合成分から構成されていてもよい。また、一般式(VII-2)で表されるY成分も同様である。
【0096】
【化11】

【0097】
上記一般式(VII-1)中、Rは炭素数10〜32のアルキル基又はアルケニル基を表し、これらは直鎖状でも分岐状でもよい。具体的には、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコサニル基、ドコサニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、エイコセニル基、ドコセニル基、リノレイル基等が挙げられる。
は、水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基)を表し、好ましくは、水素原子、又はメチル基を表す。
【0098】
上記一般式(VII-2)中、X及びXは、各々独立に、単結合、−COO−、−CONH−、−CON(E)−〔但し、Eは好ましくは炭素数1〜22の脂肪族基(脂肪族基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、又はアラルキル基等を示す。)を示す。〕、−OCO−、−CHOCO−、又は−O−を表す。より好ましくは−COO−、−CONH−又は−CON(E)−を表す。
、d、e、及びeは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基を表す。このアルキル基の具体例としては、前記一般式(II)のQで表される、炭素数1〜20の置換されていてもよい脂肪族基の具体例が挙げられる。
【0099】
上記一般式(VII-2)中、Wは、炭素原子及び/又はヘテロ原子を含んで構成される連結基を表す。ここで、ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、イオウ原子、窒素原子、ケイ素原子等が挙げられる。
連結基としては、炭素−炭素結合(一重結合或いは二重結合)、炭素−ヘテロ原子結合、ヘテロ原子−ヘテロ原子結合の原子団、ヘテロ環基等の任意の組み合わせで構成されるものを含む。具体的には、例えば、下記に挙げられる2価の基が挙げられる。
【0100】
【化12】

【0101】
上記の2価の基の例において、r〜rは、各々、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、シアノ基、ヒドロキシル基、又はアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等)等を示す。
〜rは、各々独立に、水素原子、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)等を示す。
〜rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基、フェニル基、トリル基等)、又は−Or10(r10は、rにおける炭化水素基と同一の内容を示す)を表す。
【0102】
Wを構成しうるヘテロ環基としては、酸素原子、イオウ原子、窒素原子等のヘテロ原子含有の複素環(例えば、チオフェン環、ピリジン環、ピラン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、フラン環、ピペリジン環、ピラジン環、ピロール環、ピペラジン環等)等が挙げられる。
【0103】
また、一般式(VII-2)で表されるY成分において、〔−X−W−X−〕で構成される連結鎖は、原子数の総和が8以上から構成されるものが好ましい。この連結鎖における連結主鎖の原子数としては、例えば、Xが、−COO−や−CONH−を表す場合、オキソ基(=O基)や水素原子はその原子数として含まれず、連結主鎖を構成する炭素原子、エーテル型酸素原子、窒素原子はその原子数として含まれる。従って、−COO−や−CONH−は原子数2として数えられる。
【0104】
以下に、一般式(VII-2)で表されるY成分、つまり、重合性二重結合基を有する共重合成分についての具体例〔(Y−1)〜(Y−12)〕を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0105】
【化13】

【0106】
【化14】

【0107】
前記式中における各記号は以下の内容を表す。
【0108】
【化15】

【0109】
本発明における架橋性基含有共重合体は、従来公知の合成方法によって容易に合成することができる。具体的には、ラジカル重合反応における共重合反応性が異なる二官能性単量体を用いて、X成分に相当する単量体と共に重合反応させて、ゲル化反応を生じることなく、一般式(VII)で示される共重合体を合成する特開昭60−185962号記載の方法等が挙げられる。
【0110】
本発明における架橋性基含有共重合体において、X成分とY成分の存在割合は、重合造粒反応時における反応混合物のゲル化、或いは生成する特定粒子の粗大粒径化を抑制し、且つ、特定粒子の分散安定性・再分散性の点から、60/40〜99/1重合比であり、好ましくは85/15〜98/2重量比である。
【0111】
また、本発明に供される架橋性基含有共重合体において、塩基性基、X成分、Y成分と共に、他の繰り返し単位を共重合成分として含有してもよい。他の共重合成分としては、塩基性基、X成分、Y成分に相当する単量体と共重合可能な単量体よりなるものであればいずれの化合物でもよい。
他の共重合成分としては、多くても全重合成分100質量部に対して、20質量部を超えない範囲で用いられる。20質量部を超えると、本発明における特定粒子の分散性が劣化してしまう。
【0112】
本発明の架橋性基含有共重合体の重量平均分子量(Mw)は、保存安定性、再分散性、分散安定性の観点から、5×10〜10×10であり、好ましくは1×10〜2×10である。
【0113】
以下に、本発明で好適に用いうる塩基性基を有する(a)分散剤の具体例〔例示化合物(P−1)〜(P−22)〕を、その重量平均分子量(Mw)とともに挙げるが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0114】
【化16】

【0115】
【化17】

【0116】
【化18】

【0117】
【化19】

【0118】
以上、説明したような本発明における(a)分散剤の使用量は、合成の際に用いられる混合液中の全固形分に対して、5〜60質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましい。
(a)分散剤の含有量が5〜60質量%に範囲において、粒子の粒子径分布がシャープとなり、吐出ランニング性が向上するとともに、インクの粘度やそれに起因する吐出性も適切に維持される。
【0119】
[(b)非水溶媒]
ここで、(b)非水溶媒としては、前記(A)非水系分散媒と同じものを使用できる。直鎖状若しくは分岐状の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、又は芳香族炭化水素、及びこれらの炭化水素のハロゲン置換体(ハロゲン化炭化水素類)が挙げられる。具体的には、オクタン、イソオクタン、デカン、イソデカン、デカリン、ノナン、ドデカン、イソドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等を、市販品としては、アイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL(アイソパー;エクソン社の商品名)、シェルゾール70、シェルゾール71(シェルゾール;シェルオイル社の商品名)、アムスコOMS、アムスコ460溶剤(アムスコ;スピリッツ社の商品名)等を、単独或いは混合して用いることができる。
【0120】
また、上記の炭化水素系化合物以外に、これに加えて以下に記載の化合物も混合して用いることができる。混合できる化合物としては、アルコール類(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、フッ化アルコール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、メチレンジクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、メチルクロロホルム等)等が挙げられる。
【0121】
本発明においては、インク組成物を構成する(A)非水系分散媒への置換等の工程を省略するために、通常、特定粒子の造粒段階で、(A)非水系分散媒と同様の(b)非水溶媒を用いることが好ましい。
特に、静電方式のインクジェット記録方法を用いて画像描画する場合には、分散媒の誘電率を下げるという観点から、上記の炭化水素系化合物と混合して使用する非炭化水素系化合物の比率は低い方が好ましい。そのため、(A)非水系分散媒と同様の(b)非水溶媒を用いて(B)特定粒子を作製する場合、炭化水素系化合物に非炭化水素系化合物を混合することにより、誘電率が5.0以上となった場合には、5.0以下となるように(B)特定粒子を合成する際に混合した非炭化水素系化合物を除去することが好ましい。非炭化水素系化合物を除去する方法としては、加熱或いは減圧下で除去する方法、遠心分離装置を用いて、上澄み液を置換する方法などが挙げられ、これらの方法により、系中の炭化水素系化合物の比率を高め、誘電率を低下させることが好ましい。
【0122】
これらの(b)非水溶媒の使用量は、合成の際に用いられる混合液の全質量に対して、0.01〜80質量%の範囲であることが好ましく、つまり、混合液中の固形分は20〜99.99%の範囲であることが好ましい。また、0.1〜70質量%の範囲であることがより好ましく、1〜60質量%の範囲であることが更に好ましい。
(b)非水溶媒の含有量が0.01〜80質量%の範囲であると、(B)特定粒子の粒径が所望の大きさになり、単分散性が良好になるとともに、(B)特定粒子の凝集が抑制され、単分散性及び分散性ともに良好となる。
【0123】
〔(c)架橋性基を有する単量体〕
本発明における(c)架橋性基を有する単量体(以下、単に「(c)単量体」と称する場合がある。)は、その構造単位中に少なくとも一つの架橋性基を有する単量体であり、単量体としては(b)非水溶媒には可溶であるが、重合することによって不溶化する少なくとも一つの架橋性基を有する単量体であれば特に限定されない。具体的には、例えば、下記一般式(VIII)で表される単量体が挙げられる。
【0124】
【化20】

【0125】
上記一般式(VIII)中、Tは、−COO−、−OCO−、−CHOCO−、−CHCOO−、−O−、−CONHCOO−、−CONHOCO−、−SO−、−CON(W)−、−SON(W)−、又はフェニレン基(以下、フェニレン基を「−Ph−」と記載する。なお、フェニレン基は、1,2−、1,3−及び1,4−フェニレン基を包含する。)を表す。ここでWは、水素原子又は炭素数1〜20の置換されていてもよい脂肪族基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、2−シアノエチル基、2−ヒドロキシエチル基、ベンジル基、クロロベンジル基、メチルベンジル基、メトキシベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、ジメチルベンジル基、フロロベンジル基、2−メトキシエチル基、3−メトキシプロピル基等)等を表す。
【0126】
は、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の置換されていてもよい脂肪族基を表す。この脂肪族基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−クロロエチル基、2,2−ジクロロエチル基、2,2,2−トリフロロエチル基、2−ブロモエチル基、2−グリシジルエチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピル基、2−シアノエチル基、3−シアノプロピル基、2−ニトロエチル基、2−メトキシエチル基、2−メタンスルホニルエチル基、2−エトキシエチル基、N,N−ジメチルアミノエチル基、N,N−ジエチルアミノエチル基、トリメトキシシリルプロピル基、3−ブロモプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、2−フルフリルエチル基、2−チエニルエチル基、2−ピリジルエチル基、2−モルホリノエチル基、2−カルボキシエチル基、3−カルボキシプロピル基、4−カルボキシブチル基、2−ホスホエチル基、3−スルホプロピル基、4−スルホブチル基、2−カルボキシアミドエチル基、3−スルホアミドプロピル基、2−N−メチルカルボキシアミドエチル基、シクロペンチル基、クロロシクロヘキシル基、ジクロロヘキシル基等が挙げられる。
【0127】
及びdは、互いに同じでも異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20の炭化水素基、−COO−Z、又は炭素数1〜20の炭化水素基を介した−COO−Z〔ここで、Zは炭素数1〜22の炭化水素基を表す〕を表す。
【0128】
具体的な(c)少なくとも一つの架橋性基を有する単量体としては、例えば、炭素数1〜20の脂肪族カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸、モノクロロ酢酸、トリフロロプロピオン酸等)のビニルエステル類或いはアリルエステル類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸の炭素数1〜10の置換されていてもよいアルキルエステル類又はアミド類(アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、2−フロロエチル基、トリフロロエチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−シアノエチル基、2−ニトロエチル基、2−メトキシエチル基、2−メタンスルホニルエチル基、2−ベンゼンスルホニルエチル基、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル基、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル基、2−カルボキシエチル基、2−ホスホエチル基、4−カルボキシブチル基、3−スロホプロピル基、4−スルホブチル基、3−クロロプロピル基、2−ヒドロキシ−3−クロロプロピル基、2−フルフリルエチル基、2−ピリジニルエチル基、
【0129】
2−チエニルエチル基、トリメトキシシリルプロピル基、2−カルボキシアミドエチル基等);スチレン誘導体(例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ビニルベンゼンカルボン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、メトキシメチルスチレン、N,N−ジメチルアミノメチルスチレン、ビニルベンゼンカルボキシアミド、ビニルベンゼンスルホアミド等);アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸;マレイン酸、イタコン酸の環状酸無水物;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;重合性二重結合基含有のヘテロ環化合物(具体的には、例えば高分子学会編「高分子データハンドブック−基礎編−」、p175〜184、培風舘(1986年刊)に記載の化合物、例えば、N−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロリドン、ビニルチオフェン、ビニルテトラヒドロフラン、ビニルオキサゾリン、ビニルチアゾール、N−ビニルモルホリン等)等が挙げられる。
これらの架橋性基を有する単量体は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0130】
これらの(c)架橋性基を有する単量体の使用量は、合成の際に用いられる混合液中の全固形分に対して、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましい。また、(c)少なくとも一つの架橋性基を有する単量体の使用量の上限値は、得られる(B)特定粒子の単分散性、分散安定性の観点から99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
(c)架橋性基を有する単量体の含有量が10質量%以上であると、(b)非水溶媒から(B)特定粒子が容易に析出され、合成適性上好ましく、得られた粒子の単分散性も良好となる。
【0131】
〔造粒方法〕
次に、本発明における特定粒子の重合造粒方法について具体的に説明する。
本発明で用いられる(B)特定粒子を製造するには、一般に、前述のような(a)分散剤と、少なくとも一つの架橋性基を有する単量体(c)と、を(b)非水溶媒中で、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル、ブチルリチウム等の重合開始剤の存在下に加熱重合させればよい。
具体的には、(i)(a)分散剤、(c)単量体の混合溶液中に重合開始剤を添加する方法、(ii)(a)分散剤を溶解した溶液中に(c)単量体を重合開始剤と共に滴下してゆく方法、或いは、(iii)(a)分散剤の全量と(c)単量体の一部を含む混合溶液中に、重合開始剤と共に残りの(c)単量体を添加する方法、更には、(iv)(b)非水溶媒中に、(a)分散剤、(c)単量体の混合溶液を、重合開始剤と共に添加する方法等があり、いずれの方法を用いても製造することができる。
【0132】
重合開始剤の量は、(c)単量体の総量の0.1〜20質量%が好ましく、より好ましくは、0.5〜10質量%である。
また、重合温度は、40〜180℃程度であり、好ましくは50〜120℃である。反応時間は3〜15時間が好ましい。
【0133】
反応に用いた(b)非水溶媒中に、前記したアルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性溶媒を併用した場合、或いは、重合造粒化される(c)単量体の未反応物が残存する場合、該溶媒或いは単量体の沸点以上に加温して留去するか或いは、減圧留去することによって除くことが好ましい。
【0134】
以上の如くして製造された非水溶媒に分散した樹脂粒子〔(B)特定粒子〕は、その体積平均粒径が0.8μm以上であり、微細で、かつ、粒度分布が均一となる。また、(B)特定粒子の体積平均粒径の上限値は、分散安定性、保存安定性、再分散性の観点から、5.0μmであることが好ましい。より好ましくは、1.0〜4.0μmであり、更に好ましくは、1.2〜3.0μmである。
この体積平均粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製商品名)により求めたものである。
【0135】
本発明において、(B)特定粒子の粒径の制御する因子としては、使用する(b)少なくとも一つの架橋性基を有する単量体の種類及びその濃度、分散剤の種類及びその濃度、溶媒の種類及びその濃度、添加剤の有無、反応温度等が挙げられ、これらを適宜調整することで、所望の粒径の(B)特定粒子を得ることができる。
【0136】
また、本発明における(B)特定粒子の重量平均分子量は、好ましくは、1×10〜1×10であり、より好ましくは3×10〜5×10、最も好ましくは、5×10〜1×10である。
また、本発明における(B)特定粒子は、その熱物性として、室温(本発明においては、10〜30℃)での弾性率が1.0×10以上であり、定着温度(本発明においては、80〜150℃)での弾性率が5.0×10以下の範囲であることが好ましく、特に、室温での弾性率が1.0×10以上であり、定着温度での1.0×10以下の範囲であることが更に好ましい。
【0137】
本発明のインク組成物において、(B)特定粒子の含有量は、インク組成物の全質量に対して、90〜1質量%の範囲であることが好ましく、80〜20質量%の範囲であることがより好ましく、70〜3質量%の範囲であることが更に好ましい。
(B)特定粒子の含有量が90〜1質量%の範囲において、(B)特定粒子による十分な画像形成性が得られ、(B)特定粒子が着色されている場合には、優れた視認性が達成される。さらに、適切な粘度となるため、優れた吐出性、保存安定性、分散性が達成され、凝集の懸念がない。
【0138】
本発明のインク組成物は、(A)非水系分散媒と(B)特定粒子とを含有する油性インクであり、特に、(B)特定粒子が塩基性基を有する分散剤により分散安定化されていることで、分散安定性、再分散性、保存安定性(経時安定性)に非常に優れる。また、本発明のインク組成物は、微小な液滴を形成することができ、インクジェット記録方法に適用すると、高精細な画像を再現性良く形成することができる。
更に、本発明において、(B)特定粒子は従来の粒子に比べ粒径が大きいことから、表面積が大きくなり、表面に荷電を付与し易くなるという利点を有する。このため、静電方式のインクジェット記録方法に、本発明のインク組成物を適用した際であっても、吐出安定性が良好となり、また、低電圧で吐出することが可能となる。その結果、高品質の画像が、生産性良く描画されることとなる。
加えて、本発明のインク組成物は(B)特定粒子の粒径が大きいことから、被記録媒体上に付着した際に、液滴が広がり難いという利点を有する。これにより、様々な方式のインクジェット記録方法に適用した場合であっても、画像の滲みを防止することができる。
以上のように、本発明のインク組成物は、様々な方式のインクジェット記録方法に適用しても、吐出安定性が良好であり、更に、滲みのない高品質の画像を描画することができる、という優れた効果を有する。
【0139】
〔色材〕
本発明のインク組成物を、平版印刷版の画像描画に用いる場合などは特に着色画像を形成する必要はないが、形成された画像部の視認性を向上するため、或いは、インク組成物を用いて着色画像を形成しようとするときは、色材を含有することができる。
【0140】
本発明のインク組成物に用いる色材としては、公知の染料及び顔料を使用することができ、用途や目的に応じて選択することができる。例えば、記録された画像記録物(印刷物)の色調の観点からは、顔料を用いることが好ましい(例えば、技術情報協会発行「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」2001年12月25日第1刷参照。以下「文献1」と称する場合がある。)。
【0141】
また、色材を変更することにより、イエロー、マゼンタ、シアン、墨(ブラック)の4色のインク組成物を作成することができる。特に、オフセット印刷用インクやプルーフに用いられる顔料を使用するとオフセット印刷物と同様な色調が得られるので好ましい。
一方、平版印刷版用インク組成物として用いる場合には、版を検版可能であれば特に色材に制限はなく、これまで平版印刷版でよく使用されてきた染料などを色材として用いることができる。
【0142】
イエローインク用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、C.I
.ピグメントイエロー74等のモノアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー17等のジスアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー180等の非ベンジジン系のアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー100等のアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー95等の縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー115等の酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー18等の塩基性染料レーキ顔料、フラバントロンイエロー等のアントラキノン系顔料、イソインドリノンイエロー3RLT等のイソインドリノン顔料、キノフタロンイエロー等のキノフタロン顔料、イソインドリンイエロー等のイソインドリン顔料、C.I.ピグメントイエロー153等のニトロソ顔料、C.I.ピグメントイエロー117等の金属錯塩アゾメチン顔料、C.I.ピグメントイエロー139等のイソインドリノン顔料などが挙げられる。
【0143】
マゼンタインク用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド3等のモノアゾ系顔料、C.I.ピグメントレッド38等のジスアゾ顔料、C.I.ピグメントレッド53:1等やC.I.ピグメントレッド57:1等のアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントレッド144等の縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントレッド174等の酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントレッド81等の塩基性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントレッド177等のアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントレッド88等のチオインジゴ顔料、C.I.ピグメントレッド194等のペリノン顔料、C.I.ピグメントレッド149等のペリレン顔料、C.I.ピグメントレッド122等のキナクリドン顔料、C.I.ピグメントレッド180等のイソインドリノン顔料、C.I.ピグメントレッド83等のアリザリンレーキ顔料等が挙げられる。
【0144】
シアンインク用の顔料としては、例えば、C.Iピグメントブルー25等のジスアゾ系顔料、C.I.ピグメントブルー15等のフタロシアニン顔料、C.I.ピグメントブルー24等の酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントブルー1等の塩基性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントブルー60等のアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントブルー18等のアルカリブルー顔料等が挙げられる。
【0145】
墨インク用の顔料としては、例えば、アニリンブラック系顔料等の有機顔料や酸化鉄顔料、及びファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料類等が挙げられる。
【0146】
更に、マイクロリス−A,−K,−Tなどのマイクロリス顔料に代表される加工顔料も好適に使用できる。その具体例としてはマイクロリスイエロー4G−A,マイクロリスレッドBP−K,マイクロリスブルー4G−T,マイクロリスブラックC−Tなどが挙げられる。
【0147】
また、白インク用の顔料として炭酸カルシウムや酸化チタン顔料を、銀インク用としてアルミニウム粉を、金インク用として銅合金を用いる等、必要に応じて各種の顔料を使用することができる。
【0148】
顔料は、基本的には一色につき一種類の顔料を使うことが、インク製造の簡便性の点で好ましいが、色相調整として例えば、墨インク用に、カーボンブラックにフタロシアニンを混合するなど、場合によっては2種以上併用することも好ましい。また、ロジン処理等、公知の方法により顔料を表面処理した後使用してもよい(前記文献1参照)。
【0149】
染料としては、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料、金属フタロシアニン染料、等の油溶性染料が好ましい。
【0150】
これらの顔料及び染料は、単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用することも可能である。
また、顔料及び染料の含有量は、色材(顔料や染料)の種類及び用途によって適宜決められる。
例えば、直接印刷物として画像描画する場合には、顔料及び染料の含有量は、インク組成物中の(B)特定粒子の質量に対して、0.1〜100質量%の範囲内であることが好ましく、1〜50質量%の範囲内であることがより好ましい。0.1質量%以上において、着色量が充足し、印刷物において充分良好な発色が得られ、また、100質量%以下において、(B)特定粒子の保存安定性、分散性、再分散性等を良好に保つことができる。
【0151】
一方、平版印刷版の検版などのように視認性を得ることが目的であれば、顔料及び染料の含有量は、インク組成物中の(B)特定粒子の質量に対して、0.1〜50質量%の範囲内であることが好ましく、1〜30質量%の範囲内であることがより好ましい。0.1質量%以上において、着色量が充足し、充分良好な視認性が得られ、また、30質量%以下において、(B)特定粒子の保存安定性、分散性、再分散性等を良好に保つことができる。更に好ましくは、1〜20質量%である。
【0152】
これらの色材は、(B)特定粒子とは別に色材自身を分散粒子として、(A)非水系分散媒中に分散させてもよいし、(B)特定粒子中に含有させてもよい。含有させる場合の方法の1つとしては、特開昭57−48738号などに記載されている如く、(B)特定粒子を、好ましい染料で染色する方法がある。或いは、他の方法として、特開昭53−54029号などに開示されている如く、(B)特定粒子と染料を化学的に結合させる方法があり、或いは、また、特公昭44−22955号等に記載されている如く、重合造粒法で製造する際に、予め色素を含有した単量体を用い、色素含有の共重合体とする方法がある。
【0153】
〔荷電調整剤〕
本発明のインク組成物を、静電型インクジェット記録方式で画像描画する場合には、粒子のパルス電圧に対する応答性(検電性)を高めるために、荷電調整剤を併用することが好ましい。
粒子に検電性を付与するには、湿式静電写真用現像剤の技術を適宜利用することで達成可能である。具体的には、「最近の電子写真現像システムとトナー材料の開発・実用化」139〜148頁、電子写真学会編「電子写真技術の基礎と応用」497〜505頁(コロナ社・1988年刊)、原崎勇次「電子写真」16(No.2)、44頁(1977年)等に記載の検電材料、例えば、荷電調節剤及び他の添加剤を用いることで行なわれる。
【0154】
また、例えば、英国特許第893,429号、同第934,038号、米国特許第1,122,397号、同第3,900,412号、同第4,606,989号、特公平6−19596号、特公平6−19595号、特公平6−23865号、特公平4−51023号、特開平2−13965号、特開昭60−185963号等に記載されている化合物やナフテン酸ジルコニウム塩、オクテン酸ジルコニウム塩等の有機カルボン酸の金属塩、ステアリン酸テトラメチルアンモニム塩等の有機カルボン酸のアンモニム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジオクチルスルホコハク酸マグネシウム塩等の有機スルホン酸の金属塩、トルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等の有機スルホン酸のアンモニウム塩、スチレンと無水マレイン酸のコポリマーをアミンで変性したカルボン酸基を含有するポリマー等の側鎖にカルボン酸基を有するポリマー、メタクリル酸ステアリルとメタクリル酸のテトラメチルアンモニウム塩の共重合体等の側鎖にカルボン酸アニオン基を有するポリマー、スチレンとビニルピリジンの共重合体等の側鎖に窒素原子を有するポリマー、メタクリル酸ブチルとN−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N,N,N−トリメチルアンモニウムトシラート塩との共重合体等の側鎖にアンモニウム基を有するポリマー等が挙げられる。
粒子に付与される荷電は、正荷電であっても負荷電であってもよい。
【0155】
インク組成物全体に対する検電材料の含有量は、0.0001〜20質量%の範囲内であることが好ましい。この範囲内において、インク組成物の電気伝導度を、10nS/m〜1500nS/mの範囲内に容易に調整できる。更に、荷電粒子(特定粒子)の電気伝導度を、インク組成物の電気伝導度の50%以上に容易に調整できる。
【0156】
〔その他の成分〕
本発明においては、更に、腐敗防止のために防腐剤や、表面張力を制御するための界面活性剤等を目的に応じて含有することができる。
【0157】
〔インクジェット記録装置〕
本発明のインク組成物は、ピエゾ素子の振動圧力を利用してインクを吐出させる、いわゆるドロップ・オン・デマンド方式(ピエゾ方式)、更には、高熱によって気泡を形成し、成長させることによって生じる圧力を利用してインクを吐出させる、いわゆるバブル(サーマル)ジェット方式等の各種インクジェット記録方式のいずれも制限なく使用でき、市販のインクジェット記録装置を利用できる。
また、本発明のインク組成物は、静電界を利用したインクジェット記録装置にも好適に用いられる。静電界を利用するインクジェット記録方式は、制御電極と被記録媒体背面の背面電極間に電圧を印加することにより、インク組成物の荷電粒子を静電力によって吐出位置に濃縮し、吐出位置から被記録媒体へ飛翔させる方式である。制御電極と背面電極間に印加する電圧は、例えば、荷電粒子が正の場合、制御電極が正極であり背面電極が負極となる。背面電極へ電圧を印加する代わりに被記録媒体に帯電を行っても同様の効果が得られる。
【0158】
また、インク組成物を飛翔させる方式として、例えば、注射針のようなニードル状の先端からインクを飛翔させる方式があり、この方式に、本発明のインク組成物を適用することができる。ただし、荷電粒子を濃縮・吐出した後の荷電粒子の補給が難しく安定に長期間の記録を行うことが難しい。荷電粒子を強制的に供給するため、インクを循環させる場合には、注射針先端からインクを溢れさせる方法になるため、吐出位置である注射針先端のメニスカス形状が安定せず、安定な記録を行うことが困難であり、短期間の記録に適している。
【0159】
一方、吐出開口部からインク組成物を溢れさせることなく、インク組成物を循環させる方法が好ましく用いられる。例えば、吐出開口を有するインク室内にインクが循環されており、吐出開口周縁に形成された制御電極に電圧を印加することによって、吐出開口中に存在しており先端が被記録媒体側に向いたインクガイドの先端から、濃縮されたインク滴が飛翔する方法では、インクの循環による荷電粒子の補給と、吐出位置のメニスカス安定性を両立することができるため、長期間安定に記録を行うことができる。更に、本方式ではインク組成物が外気と接する部分が吐出開口部だけと非常に少ないため、溶媒の蒸発を抑え、インク物性が安定化するため、本発明において好適に使用することができる。
【0160】
本発明のインク組成物を適用するに適したインクジェット記録装置の構成例を以下に示す。
まずは、図1に示す被記録媒体に片面4色印刷を行う装置の概要について説明する。
図1に示されるインクジェット記録装置1は、フルカラー画像形成を行うための4色分の吐出ヘッド2C、2M、2Y及び2Kから構成される吐出ヘッド2にインクを供給し、更に吐出ヘッド2からインクを回収するインク循環系3、図示されないコンピューター、RIP等の外部機器からの出力により吐出ヘッド2を駆動させるヘッドドライバ4、位置制御手段5を備える。またインクジェット記録装置1は、3つのローラ6A、6B、6Cに張架された搬送ベルト7、搬送ベルト7の幅方向の位置を検知可能な光学センサなどで構成された搬送ベルト位置検知手段8、被記録媒体Pを搬送ベルト上に保持するための静電吸着手段9、画像形成終了後に被記録媒体Pを搬送ベルト7から剥離するための除電手段10及び力学的手段11を備える。搬送ベルト7の上流、下流には、被記録媒体Pを図示されないストッカーから搬送ベルト7に供給するフィードローラ12及びガイド13、剥離後の被記録媒体Pへインクを定着させると共に図示されない排紙ストッカーに搬送する定着手段14及びガイド15が配置されている。またインクジェット印刷装置1の内部には、搬送ベルト7を挟んで吐出ヘッド2に対向する位置には、被記録媒体位置検出手段16を有し、更にインク組成物から発生する溶媒蒸気を回収するための排出ファン17及び溶媒蒸気吸着材18からなる溶媒回収部が配置され、装置内部の蒸気は該回収部を通って装置外部に排出される。
【0161】
フィードローラ12は公知のローラが使用でき、被記録媒体に対するフィード能力が高まるように配置される。また被記録媒体P上には垢・紙粉等が付着していることがあるため、それらの除去を行うことが望ましい。フィードローラによって供給された被記録媒体Pは、ガイド13を経て、搬送ベルト7に搬送される。搬送ベルト7の裏面(好ましくは金属裏面)はローラ6Aを介して設置されている。搬送された被記録媒体は、静電吸着手段9により搬送ベルト上に静電吸着される。図1では、負の高圧電源に接続されたスコロトロン帯電器により静電吸着がなされる。静電吸着手段9により、被記録媒体9が搬送ベルト7上に浮き無く静電吸着されると共に、被記録媒体表面を均一帯電する。ここでは静電吸着手段を被記録媒体の帯電手段としても利用しているが、別途設けてもよい。帯電された被記録媒体Pは、搬送ベルト7によって吐出ヘッド部まで搬送され、帯電電位をバイアスとして記録信号電圧を重畳することにより静電インクジェット画像形成がなされる。画像形成された被記録媒体Pは、除電手段10により除電され、力学的手段11により搬送ベルト7により剥離されて定着部へ搬送される。剥離された被記録媒体Pは、画像定着手段14に送られ、定着がなされる。定着された被記録媒体Pは、ガイド15を通って図示されない排紙ストッカーに排紙される。また、該装置は、インク組成物から発生する溶媒蒸気の回収手段を有する。回収手段は溶媒蒸気吸収材18からなり、排気ファン17により機内の溶媒蒸気を含む気体が吸着材に導入され、蒸気が吸着回収された後、機外に排気される。該装置は、上記例に限定されず、ローラ、帯電器等の構成デバイスの数、形状、相対配置、帯電極性等は任意に選べる。また上記システムでは4色描画について記述しているが、淡色インクや特色インクと組み合わせて、より多色のシステムとしてもよい。
【0162】
上記インクジェット印刷方法に使用されるインクジェット記録装置は、吐出ヘッド2、インク循環系3からなり、インク循環系3は、更にインクタンク、インク循環装置、インク濃度制御装置、インク温度管理装置等を有し、インクタンク内には撹拌装置を含んでいてもよい。
【0163】
吐出ヘッド2としては、シングルチャンネルヘッド、マルチチャンネルヘッド、又はフルラインヘッドを使うことができ、搬送ベルト7の回転により主走査を行う。
本発明で好適に使用されるインクジェットヘッドは、インク流路内での荷電粒子を電気泳動させて開口付近のインク濃度を増加させ、吐出を行うインクジェット方法であり、主に被記録媒体又は被記録媒体背面に配置された対向電極に起因する静電吸引力によりインク滴の吐出を行うものである。従って、被記録媒体又は対向電極がヘッドに対向していない場合や、ヘッドと対向する位置にあっても被記録媒体又は対向電極に電圧が印加されていない場合には、誤って吐出電極に電圧が印加された場合や振動が与えられた場合でもインク滴の吐出は起こらず、装置内を汚すことはない。
【0164】
上記インクジェット装置に好適に使用される吐出ヘッドを図2及び図3に示す。図2及び図3に示すように、インクジェットヘッド70は、一方向のインク流Qが形成されるインク流路72の上壁を構成する電気絶縁性の基板74と、インクを被記録媒体Pへ向けて吐出する複数の吐出部76とを有する。吐出部76には、いずれもインク流路72から飛翔するインク滴Gを被記録媒体Pへ向けて案内するインクガイド部78が設けられ、基板74には、インクガイド部78がそれぞれ挿通する開口75が形成されており、インクガイド部78と開口75の内壁面との間にはインクメニスカス42が形成されている。インクガイド部78と被記録媒体Pとのギャップdは200μm〜1000μm程度であることが好ましい。また、インクガイド部78は、下端側で支持棒部40に固定されている。
【0165】
基板74は、2つの吐出電極を所定間隔で離して電気的に絶縁している絶縁層44と、絶縁層44の上側に形成された第1吐出電極46と、第1吐出電極46を覆う絶縁層48と、絶縁層48の上側に形成されたガード電極50と、ガード電極50を覆う絶縁層52とを有する。また、基板74は、絶縁層44の下側に形成された第2吐出電極56と、第2吐出電極56を覆う絶縁層58とを有する。ガード電極50は、第1吐出電極46や第2吐出電極56に印加された電圧によって隣接する吐出部に電界上の影響が生じることを防止するために設けられる。
【0166】
更に、インクジェットヘッド70には、インク流路72の底面を構成すると共に、第1吐出電極46及び第2吐出電極56に印加されたパルス状の吐出電圧によって定常的に生じる誘導電圧により、インク流路72内の正に帯電したインク粒子(荷電粒子)Rを上方へ向けて(すなわち被記録媒体側に向けて)泳動させる浮遊導電板62が電気的浮遊状態で設けられている。また、浮遊導電板62の表面には、電気絶縁性である被覆膜64が形成されており、インクへの電荷注入等によりインクの物性や成分が不安定化することを防止する。絶縁性被覆膜の電気抵抗は、1012Ω・cm以上が好ましく、より望ましくは1013Ω・cm以上である。また、絶縁性被覆膜はインクに対して耐腐食性であることが望ましく、これにより、浮遊導電板62がインクに腐食されることが防止される。また、浮遊導電板62は下方から絶縁部材66で覆われており、このような構成により、浮遊導電板62は完全に電気的絶縁状態にされている。
【0167】
浮遊導電板62は、ヘッド1ユニットにつき1個以上である(例えば、C、M、Y、Kの4つのヘッドがあった場合、浮遊導電板数は最低各1個ずつ有し、CとMのヘッドユニット間で共通の浮遊導電板とすることはない)。
【0168】
図3に示すように、インクジェットヘッド70からインクを飛翔させて被記録媒体Pに記録するには、インク流路72内のインクを循環させることによりインク流Qを発生させた状態にし、ガード電極50に所定の電圧(例えば+100V)を印加する。更に、インクガイド部78に案内されて開口75から飛翔したインク滴G中の正の荷電粒子Rが被記録媒体Pにまで引きつけられるような飛翔電界が、第1吐出電極46及び第2吐出電極56と、被記録媒体Pとの間に形成されるように、第1吐出電極46、第2吐出電極56及び被記録媒体Pに正電圧を印加する(ギャップdが500μmである場合に、1kV〜3.0kV程度の電位差を形成することを目安とする)。
【0169】
この状態で、画像信号に応じて第1吐出電極46及び第2吐出電極56にパルス電圧を印加すると、荷電粒子濃度が高められたインク滴Gが開口75から吐出する(例えば、初期の荷電粒子濃度が3〜15%である場合、インク滴Gの荷電粒子濃度が30%以上になる)。
その際、第1吐出電極46と第2吐出電極56の両者にパルス電圧が印加された場合にのみインク滴Gが吐出するように、第1吐出電極46と第2吐出電極56とに印加する電圧値を調整しておく。
【0170】
このように、パルス状の正電圧を印加すると、開口75からインク滴Gがインクガイド部78に案内されて飛翔し、被記録媒体Pに付着すると共に、浮遊導電板62には、第1吐出電極46及び第2吐出電極56に印加された正電圧により正の誘導電圧が発生する。第1吐出電極46及び第2吐出電極56に印加される電圧がパルス状であっても、この誘導電圧はほぼ定常的な電圧である。従って、浮遊導電板62及びガード電極50と、被記録媒体Pとの間に形成される電界によって、インク流路72内で正に帯電している荷電粒子Rは上方へ移動する力を受け、基板74の近傍で荷電粒子Rの濃度が高くなる。図3に示すように、使用する吐出部(すなわちインク滴を吐出させるチャンネル)の個数が多い場合、吐出に必要な荷電粒子数が多くなるが、使用する第1吐出電極46及び第2吐出電極56の枚数が多くなるため、浮遊導電板62に誘起される誘導電圧は高くなり、被記録媒体側へ移動する荷電粒子Rの個数も増大する。
【0171】
上記では、着色粒子が正荷電に帯電している例について説明したが、着色粒子は負荷電に帯電されていてもよい。その場合には、上記の帯電極性は、すべて逆極性となる。
【0172】
なお、本発明においては、被記録媒体へのインク吐出後、適切な加熱手段によりインクを定着することが好ましい。用いられる加熱手段としては、ヒートローラ、ヒートブロック、ベルト加熱等の接触式加熱装置、及びドライヤー、赤外線ランプ、可視光線ランプ、紫外線ランプ、温風式オーブン等の非接触式加熱装置を用いることができる。これらの加熱装置は、インクジェット記録装置と連続し、一体となっていることが好ましい。定着時の被記録媒体の温度は、定着の容易さから、40℃〜200℃の範囲内であることが好ましい。また、定着の時間は、1マイクロ秒〜20秒の範囲内であることが好ましい。
【0173】
[静電界を利用したインクジェット記録方式を用いる際のインク組成物の補充]
静電界を利用したインクジェット記録方式では、インク組成物中の荷電粒子が濃縮されて吐出する。従って、長時間インク組成物の吐出を行うと、インク組成物中の荷電粒子が減量し、インク組成物の電気伝導度が低下する。また、荷電粒子の電気伝導度とインク組成物の電気伝導度との割合が変化する。更に、吐出の際、粒径の小さな荷電粒子よりも大きな荷電粒子が優先して吐出する傾向にあるため、荷電粒子の平均直径が小さくなる。また、インク組成物中の固形物の含有量が変化するため、粘度も変化する。
【0174】
これらの物性値の変化により、結果として、吐出不良を起こしたり、記録された画像の光学濃度の低下やインクのにじみが発生する。このため、当初インクタンクへ仕込んだインク組成物よりも、高濃度(固形分濃度の高い)のインク組成物を補充することにより、荷電粒子の減量を防止し、インク組成物の電気伝導度や、荷電粒子の電気伝導度とインク組成物の電気伝導度の割合を一定の範囲に留めることができる。また、粒径や粘度を維持することができる。更に、インク組成物の物性値を一定の範囲内に保つことにより、インク吐出が長時間安定して均一に行われる。この際の補充は、例えば、使用しているインク液の電気伝導度や光学濃度等の物性値を検出し、不足量を算出して、機械的又は人力で成されることが好ましい。また、画像データを基に使用するインク組成物の量を算出し、機械的又は人力で成されてもよい。
【0175】
〔被記録媒体〕
本発明においては、用途に応じて様々な被記録媒体(インク受容体)を用いることができる。例えば、紙、プラスチックフィルム、金属、及び、プラスチック又は金属がラミネート又は蒸着された紙、金属がラミネート又は蒸着されたプラスチックフィルム等を用いれば、インクジェット記録することにより、直接印刷物を得ることができる。また、アルミニウムなどの金属を粗面化した支持体等を用いれば、平版印刷版やオフセット印刷版を得ることができる。更に、プラスチック支持体等を用いれば、フレキソ印刷版や液晶画面用のカラーフィルターを得ることができる。被記録媒体の形状は、シート状のように平面的であっても、円筒形状のように立体的であってもよい。また、シリコンウエハーや配線基板を被記録媒体として用いれば、半導体やプリント配線基板の製造に適用できる。
【0176】
<平版印刷版の作製方法>
本発明の平版印刷版の作製方法は、平版印刷版用支持体として機能するインク受容体上に、インクジェット記録方法により、本発明のインク組成物を用いて画像描画することを特徴とする。
つまり、本発明の平版印刷版の作製方法は、本発明のインク組成物を、インク受容体の1つである平版印刷版用支持体上に、前述のようなインクジェット記録装置を用いて吐出させて、画像部を形成するものである。
本発明の平版印刷版原版の作製方法において、高解像度かつ高インク着弾位置精度が得られるという観点から、静電方式のインクジェット記録方法を用いることが好ましい。
【0177】
〔平版印刷版用支持体〕
本発明の平版印刷版の作製方法においては、インク受容体として、通常、平版印刷版に用いられている支持体(以下、単に支持体と称する場合がある。)を用いる。本発明における平版印刷版用支持体としては、必要な強度と耐久性を備えた寸度的に安定な板状物であれば特に制限はなく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、金属がラミネート、若しくは蒸着された紙、若しくはプラスチックフィルム等が挙げられる。
【0178】
なかでも、本発明の方法におけるインク受容体としては、ポリエステルフィルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸度安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板は特に好ましい。好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板であり、更にアルミニウムがラミネート若しくは蒸着されたプラスチックフィルムでもよい。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがある。合金中の異元素の含有量は高々10質量%以下である。本発明においては表面処理されたアルミニウム板及びポリエステルフィルム上にゾルゲル親水性層が設けられた支持体が好ましい。
以下、これらについて記載する。
【0179】
[アルミニウム支持体]
本発明において特に好適なアルミニウムは、純アルミニウムであるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。
このように本発明に適用されるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、従来より公知公用の素材のアルミニウム板を適宜に利用することができる。本発明で用いられるアルミニウム板の厚みはおよそ0.1mm〜0.6mm程度、好ましくは0.15mm〜0.4mm、特に好ましくは0.15mm〜0.3mmである。
【0180】
このようなアルミニウム板には、必要に応じて、粗面化処理、陽極酸化処理などの表面処理を行なってもよい。以下、このような表面処理について簡単に説明する。
アルミニウム板を粗面化するに先立ち、所望により、表面の圧延油を除去するための、例えば、界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ性水溶液などによる脱脂処理が行われる。アルミニウム板の表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法などの公知の方法を用いることができる。また、電気化学的な粗面化法としては塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。また、特開昭54−63902号公報に開示されているように両者を組み合わせた方法も利用することができる。
【0181】
[表面処理]
本発明における支持体は、前述のアルミニウム板に表面処理を施されてなることが好ましい。例えば、この表面処理により、2種以上の異なる周期の凹凸を重畳した構造が支持体表面に形成されることが好ましい。
このような表面形状を有する支持体を得るために、具体的には、アルミニウム板に粗面化処理及び陽極酸化処理を施して得られることが好ましい。
このような支持体の製造工程は、特に限定されず、粗面化処理及び陽極酸化処理以外の各種の工程を含んでいてもよい。例えば、アルミニウム板に、機械的粗面化処理、アルカリエッチング処理、酸によるデスマット処理及び電解液を用いた電気化学的粗面化処理を順次施す方法、アルミニウム板に、機械的粗面化処理、アルカリエッチング処理、酸によるデスマット処理及び異なる電解液を用いた電気化学的粗面化処理を複数回施す方法、アルミニウム板に、アルカリエッチング処理、酸によるデスマット処理及び電解液を用いた電気化学的粗面化処理を順次施す方法、アルミニウム板に、アルカリエッチング処理、酸によるデスマット処理及び異なる電解液を用いた電気化学的粗面化処理を複数回施す方法等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。これらの方法において、電気化学的粗面化処理の後、更に、アルカリエッチング処理及び酸によるデスマット処理を施してもよい。
これらの方法により得られた支持体は、2種以上の異なる周期の凹凸を重畳した構造が表面に形成されており、平版印刷版としたときの耐汚れ性及び耐刷性のいずれにも優れるといった利点を有する。
以下、本発明において適用可能な表面処理の各工程について、詳細に説明する。
【0182】
(機械的粗面化処理)
機械的粗面化処理は、電気化学的粗面化処理と比較してより安価に、平均波長5〜100μmの凹凸のある表面を形成することができるため、粗面化処理の手段として有効である。機械的粗面化処理方法としては、例えば、アルミニウム表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウム表面を砂目立てするボールグレイン法、特開平6−135175号公報及び特公昭50−40047号公報に記載されているナイロンブラシと研磨剤で表面を砂目立てするブラシグレイン法を用いることができる。また、凹凸面をアルミニウム板に圧接する転写方法を用いることもできる。即ち、特開昭55−74898号、特開昭60−36195号、特開昭60−203496号の各公報に記載されている方法のほか、転写を数回行うことを特徴とする特開平6−55871号公報、表面が弾性であることを特徴とした特願平4−204235号明細書(特開平6−024168号公報)に記載されている方法も適用可能である。
【0183】
また、放電加工、ショットブラスト、レーザー、プラズマエッチング等を用いて、微細な凹凸を食刻した転写ロールを用いて繰り返し転写を行う方法や、微細粒子を塗布した凹凸のある面を、アルミニウム板に接面させ、その上より複数回繰り返し圧力を加え、アルミニウム板に微細粒子の平均直径に相当する凹凸パターンを複数回繰り返し転写させる方法を用いることもできる。転写ロールへ微細な凹凸を付与する方法としては、特開平3−8635号、特開平3−66404号、特開昭63−65017号の各公報等に記載されている公知の方法を用いることができる。また、ロール表面にダイス、バイト、レーザー等を使って2方向から微細な溝を切り、表面に角形の凹凸をつけてもよい。このロール表面には、公知のエッチング処理等を行って、形成させた角形の凹凸が丸みを帯びるような処理を行ってもよい。また、表面の硬度を上げるために、焼き入れ、ハードクロムメッキ等を行ってもよい。そのほかにも、機械的粗面化処理としては、特開昭61−162351号公報、特開昭63−104889号公報等に記載されている方法を用いることもできる。本発明においては、生産性等を考慮して上述したそれぞれの方法を併用することもできる。これらの機械的粗面化処理は、電気化学的粗面化処理の前に行うのが好ましい。
【0184】
以下、機械的粗面化処理として好適に用いられるブラシグレイン法について説明する。ブラシグレイン法は、一般に、円柱状の胴の表面に、ナイロン(商標名)、プロピレン、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂からなる合成樹脂毛等のブラシ毛を多数植設したローラ状ブラシを用い、回転するローラ状ブラシに研磨剤を含有するスラリー液を噴きかけながら、上記アルミニウム板の表面の一方又は両方を擦ることにより行う。上記ローラ状ブラシ及びスラリー液の代わりに、表面に研磨層を設けたローラである研磨ローラを用いることもできる。ローラ状ブラシを用いる場合、曲げ弾性率が好ましくは10,000〜40,000kg/cm、より好ましくは15,000〜35,000kg/cmであり、かつ、毛腰の強さが好ましくは500g以下、より好ましくは400g以下であるブラシ毛を用いる。ブラシ毛の直径は、一般的には、0.2〜0.9mmである。ブラシ毛の長さは、ローラ状ブラシの外径及び胴の直径に応じて適宜決定することができるが、一般的には、10〜100mmである。
【0185】
研磨剤は公知の物を用いることができる。例えば、パミストン、ケイ砂、水酸化アルミニウム、アルミナ粉、炭化ケイ素、窒化ケイ素、火山灰、カーボランダム、金剛砂等の研磨剤;これらの混合物を用いることができる。中でも、パミストン、ケイ砂が好ましい。
特に、ケイ砂は、パミストンに比べて硬く、壊れにくいので粗面化効率に優れる点で好ましい。研磨剤の平均粒径は、粗面化効率に優れ、かつ、砂目立てピッチを狭くすることができる点で、3〜50μmであるのが好ましく、6〜45μmであるのがより好ましい。研磨剤は、例えば、水中に懸濁させて、スラリー液として用いる。スラリー液には、研磨剤のほかに、増粘剤、分散剤(例えば、界面活性剤)、防腐剤等を含有させることができる。スラリー液の比重は0.5〜2であるのが好ましい。
【0186】
上記のような機械的粗面化処理に適した装置としては、例えば、特公昭50−40047号公報に記載された装置を挙げることができる。
【0187】
(電気化学的粗面化処理)
電気化学的粗面化処理には、通常の交流を用いた電気化学的粗面化処理に用いられる電解液を用いることができる。中でも、塩酸又は硝酸を主体とする電解液を用いることで特徴的な凹凸構造を表面に形成させることができる。本発明における電解粗面化処理としては、陰極電解処理の前後に酸性溶液中での交番波形電流による第1及び第2の電解処理を行うことが好ましい。陰極電解処理により、アルミニウム板の表面で水素ガスが発生してスマットが生成することにより表面状態が均一化され、その後の交番波形電流による電解処理の際に均一な電解粗面化が可能となる。この電解粗面化処理は、例えば、特公昭48−28123号公報及び英国特許第896,563号明細書に記載されている電気化学的グレイン法(電解グレイン法)に従うことができる。この電解グレイン法は、正弦波形の交流電流を用いるものであるが、特開昭52−58602号公報に記載されているような特殊な波形を用いて行ってもよい。また、特開平3−79799号公報に記載されている波形を用いることもできる。また、特開昭55−158298号、特開昭56−28898号、特開昭52−58602号、特開昭52−152302号、特開昭54−85802号、特開昭60−190392号、特開昭58−120531号、特開昭63−176187号、特開平1−5889号、特開平1−280590号、特開平1−118489号、特開平1−148592号、特開平1−178496号、特開平1−188315号、特開平1−154797号、特開平2−235794号、特開平3−260100号、特開平3−253600号、特開平4−72079号、特開平4−72098号、特開平3−267400号、特開平1−141094の各公報に記載されている方法も適用できる。また、前述のほかに、電解コンデンサーの製造方法として提案されている特殊な周波数の交番電流を用いて電解することも可能である。例えば、米国特許第4,276,129号明細書及び同第4,676,879号明細書に記載されている。
【0188】
電解槽及び電源については、種々提案されているが、米国特許第4203637号明細書、特開昭56−123400号、特開昭57−59770号、特開昭53−12738号、特開昭53−32821号、特開昭53−32822号、特開昭53−32823号、特開昭55−122896号、特開昭55−132884号、特開昭62−127500号、特開平1−52100号、特開平1−52098号、特開昭60−67700号、特開平1−230800号、特開平3−257199号の各公報等に記載されているものを用いることができる。また、特開昭52−58602号、特開昭52−152302号、特開昭53−12738号、特開昭53−12739号、特開昭53−32821号、特開昭53−32822号、特開昭53−32833号、特開昭53−32824号、特開昭53−32825号、特開昭54−85802号、特開昭55−122896号、特開昭55−132884号、特公昭48−28123号、特公昭51−7081号、特開昭52−133838号、特開昭52−133840号号、特開昭52−133844号、特開昭52−133845号、特開昭53−149135号、特開昭54−146234号の各公報等に記載されているもの等も用いることができる。
【0189】
電解液である酸性溶液としては、硝酸、塩酸のほかに、米国特許第4,671,859号、同第4,661,219号、同第4,618,405号、同第4,600,482号、同第4,566,960号、同第4,566,958号、同第4,566,959号、同第4,416,972号、同第4,374,710号、同第4,336,113号、同第4,184,932号の各明細書等に記載されている電解液を用いることもできる。
【0190】
酸性溶液の濃度は0.5〜2.5質量%であるのが好ましいが、上記のスマット除去処理での使用を考慮すると、0.7〜2.0質量%であるのが特に好ましい。また、液温は20〜80℃であるのが好ましく、30〜60℃であるのがより好ましい。
【0191】
塩酸又は硝酸を主体とする水溶液は、濃度1〜100g/Lの塩酸又は硝酸の水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸イオンを有する硝酸化合物又は塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム等の塩酸イオンを有する塩酸化合物の少なくとも一つを1g/Lから飽和するまでの範囲で添加して使用することができる。また、塩酸又は硝酸を主体とする水溶液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。好ましくは、塩酸又は硝酸の濃度0.5〜2質量%の水溶液にアルミニウムイオンが3〜50g/Lとなるように、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等を添加した液を用いることが好ましい。
【0192】
更に、Cuと錯体を形成しうる化合物を添加して使用することによりCuを多く含有するアルミニウム板に対しても均一な砂目立てが可能になる。Cuと錯体を形成しうる化合物としては、例えば、アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、シクロヘキシルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等のアンモニアの水素原子を炭化水素基(脂肪族、芳香族等)等で置換して得られるアミン類;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等の金属炭酸塩類が挙げられる。また、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩も挙げられる。温度は10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。
【0193】
電気化学的粗面化処理に用いられる交流電源波は、特に限定されず、サイン波、矩形波、台形波、三角波等が用いられるが、矩形波又は台形波が好ましく、台形波が特に好ましい。台形波とは、図5に示したものをいう。この台形波において電流がゼロからピークに達するまでの時間(TP)は1〜3msecであるのが好ましい。1msec未満であると、アルミニウム板の進行方向と垂直に発生するチャタマークという処理ムラが発生しやすい。TPが3msecを超えると、特に硝酸電解液を用いる場合、電解処理で自然発生的に増加するアンモニウムイオン等に代表される電解液中の微量成分の影響を受けやすくなり、均一な砂目立てが行われにくくなる。その結果、平版印刷版としたときの耐汚れ性が低下する傾向にある。
【0194】
台形波交流のduty比は1:2〜2:1のものが使用可能であるが、特開平5−195300公報に記載されているように、アルミニウムにコンダクタロールを用いない間接給電方式においてはduty比が1:1のものが好ましい。台形波交流の周波数は0.1〜120Hzのものを用いることが可能であるが、50〜70Hzが設備上好ましい。50Hzよりも低いと、主極のカーボン電極が溶解しやすくなり、また、70Hzよりも高いと、電源回路上のインダクタンス成分の影響を受けやすくなり、電源コストが高くなる。
【0195】
電解槽には1個以上の交流電源を接続することができる。主極に対向するアルミニウム板に加わる交流の陽極と陰極との電流比をコントロールし、均一な砂目立てを行うことと、主極のカーボンを溶解することとを目的として、図6に示したように、補助陽極を設置し、交流電流の一部を分流させることが好ましい。図6において、111はアルミニウム板であり、112はラジアルドラムローラであり、113a及び113bは主極であり、114は電解処理液であり、115は電解液供給口であり、116はスリットであり、117は電解液通路であり、118は補助陽極であり、119a及び119bはサイリスタであり、120は交流電源であり、121は主電解槽であり、122は補助陽極槽である。整流素子又はスイッチング素子を介して電流値の一部を二つの主電極とは別の槽に設けた補助陽極に直流電流として分流させることにより、主極に対向するアルミニウム板上で作用するアノード反応にあずかる電流値と、カソード反応にあずかる電流値との比を制御することができる。主極に対向するアルミニウム板上で、陽極反応と陰極反応とにあずかる電気量の比(陰極時電気量/陽極時電気量)は、0.3〜0.95であるのが好ましい。
【0196】
電解槽は、縦型、フラット型、ラジアル型等の公知の表面処理に用いる電解槽が使用可能であるが、特開平5−195300号公報に記載されているようなラジアル型電解槽が特に好ましい。電解槽内を通過する電解液は、アルミニウムウェブの進行方向に対してパラレルであってもカウンターであってもよい。
【0197】
−硝酸電解−
硝酸を主体とする電解液を用いた電気化学的粗面化処理により、平均開口径0.5〜5μmのピットを形成することができる。ただし、電気量を比較的多くしたときは、電解反応が集中し、5μmを超えるハニカムピットも生成する。このような砂目を得るためには、電解反応が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応にあずかる電気量の総和が、1〜1000C/dmであるのが好ましく、50〜300C/dmであるのがより好ましい。この際の電流密度は20〜100A/dmであるのが好ましい。また、高濃度又は高温の硝酸電解液を用いると、平均開口径0.2μm以下の小波構造を形成させることもできる。
【0198】
−塩酸電解−
塩酸はそれ自身のアルミニウム溶解力が強いため、わずかな電解を加えるだけで表面に微細な凹凸を形成させることが可能である。この微細な凹凸は、平均開口径が0.01〜0.2μmであり、アルミニウム板の表面の全面に均一に生成する。このような砂目を得るためには電解反応が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応にあずかる電気量の総和が、1〜100C/dmであるのが好ましく、20〜70C/dmであるのがより好ましい。この際の電流密度は20〜50A/dmであるのが好ましい。
【0199】
このような塩酸を主体とする電解液での電気化学的粗面化処理では、アノード反応にあずかる電気量の総和を400〜1000C/dmと大きくすることでクレーター状の大きなうねりを同時に形成することも可能であるが、この場合は平均開口径10〜30μmのクレーター状のうねりに重畳して平均開口径0.01〜0.4μmの微細な凹凸が全面に生成する。
【0200】
上記の硝酸、塩酸等の電解液中で行われる第1及び第2の電解粗面化処理の間に、アルミニウム板は陰極電解処理を行うことが好ましい。この陰極電解処理により、アルミニウム板表面にスマットが生成するとともに、水素ガスが発生してより均一な電解粗面化処理が可能となる。この陰極電解処理は、酸性溶液中で陰極電気量が好ましくは3〜80C/dm、より好ましくは5〜30C/dmで行われる。陰極電気量が3C/dm未満であると、スマット付着量が不足する場合があり、また、80C/dmを超えると、スマット付着量が過剰となる場合があり、いずれも好ましくない。また、電解液は上記第1及び第2の電解粗面化処理で使用する溶液と同一であっても異なっていてもよい。
【0201】
(アルカリエッチング処理)
アルカリエッチング処理は、前記アルミニウム板をアルカリ溶液に接触させることにより、表層を溶解する処理である。
電解粗面化処理より前に行われるアルカリエッチング処理は、機械的粗面化処理を行っていない場合には、アルミニウム板(圧延アルミ)の表面の圧延油、汚れ、自然酸化皮膜等を除去することを目的として、また、既に機械的粗面化処理を行っている場合には、機械的粗面化処理によって生成した凹凸のエッジ部分を溶解させ、急峻な凹凸を滑らかなうねりを持つ表面に変えることを目的として行われる。
【0202】
アルカリエッチング処理の前に機械的粗面化処理を行わない場合、エッチング量は、0.1〜10g/mであるのが好ましく、1〜5g/mであるのがより好ましい。エッチング量が0.1g/m未満であると、表面の圧延油、汚れ、自然酸化皮膜等が残存する場合があるため、後段の電解粗面化処理において均一なピット生成ができずムラが発生してしまう場合がある。一方、エッチング量が1〜10g/mであると、表面の圧延油、汚れ、自然酸化皮膜等の除去が十分に行われる。上記範囲を超えるエッチング量とするのは、経済的に不利となる。
【0203】
アルカリエッチング処理の前に機械的粗面化処理を行う場合、エッチング量は、3〜20g/mであるのが好ましく、5〜15g/mであるのがより好ましい。エッチング量が3g/m未満であると、機械的粗面化処理等によって形成された凹凸を平滑化できない場合があり、後段の電解処理において均一なピット形成ができない場合がある。また、印刷時に汚れが劣化する場合がある。一方、エッチング量が20g/mを超えると、凹凸構造が消滅してしまう場合がある。
【0204】
電解粗面化処理の直後に行うアルカリエッチング処理は、酸性電解液中で生成したスマットを溶解させることと、電解粗面化処理により形成されたピットのエッジ部分を溶解させることを目的として行われる。電解粗面化処理で形成されるピットは電解液の種類によって異なるためにその最適なエッチング量も異なるが、電解粗面化処理後に行うアルカリエッチング処理のエッチング量は、0.1〜5g/mであるのが好ましい。硝酸電解液を用いた場合、塩酸電解液を用いた場合よりもエッチング量は多めに設定する必要がある。電解粗面化処理が複数回行われる場合には、それぞれの処理後に、必要に応じてアルカリエッチング処理を行うことができる。
【0205】
アルカリ溶液に用いられるアルカリとしては、例えば、カセイアルカリ、アルカリ金属塩が挙げられる。具体的には、カセイアルカリとしては、例えば、カセイソーダ、カセイカリが挙げられる。また、アルカリ金属塩としては、例えば、タケイ酸ソーダ、ケイ酸ソーダ、メタケイ酸カリ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩;炭酸ソーダ、炭酸カリ等のアルカリ金属炭酸塩;アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリ等のアルカリ金属アルミン酸塩;グルコン酸ソーダ、グルコン酸カリ等のアルカリ金属アルドン酸塩;第二リン酸ソーダ、第二リン酸カリ、第三リン酸ソーダ、第三リン酸カリ等のアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。中でも、エッチング速度が速い点及び安価である点から、カセイアルカリの溶液、及び、カセイアルカリとアルカリ金属アルミン酸塩との両者を含有する溶液が好ましい。特に、カセイソーダの水溶液が好ましい。
【0206】
アルカリ溶液の濃度は、エッチング量に応じて決定することができるが、1〜50質量%であるのが好ましく、10〜35質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液中にアルミニウムイオンが溶解している場合には、アルミニウムイオンの濃度は、0.01〜10質量%であるのが好ましく、3〜8質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液の温度は20〜90℃であるのが好ましい。処理時間は1〜120秒であるのが好ましい。
【0207】
アルミニウム板をアルカリ溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム板をアルカリ溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウム板をアルカリ溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、アルカリ溶液をアルミニウム板の表面に噴きかける方法が挙げられる。
【0208】
(デスマット処理)
電解粗面化処理又はアルカリエッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗い(デスマット処理)が行われる。用いられる酸としては、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸が挙げられる。上記デスマット処理は、例えば、上記アルミニウム板を塩酸、硝酸、硫酸等の濃度0.5〜30質量%の酸性溶液(アルミニウムイオン0.01〜5質量%を含有する。)に接触させることにより行う。アルミニウム板を酸性溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム板を酸性溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウム板を酸性溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、酸性溶液をアルミニウム板の表面に噴きかける方法が挙げられる。デスマット処理においては、酸性溶液として、上述した電解粗面化処理において排出される硝酸を主体とする水溶液若しくは塩酸を主体とする水溶液の廃液、又は、後述する陽極酸化処理において排出される硫酸を主体とする水溶液の廃液を用いることができる。デスマット処理の液温は、25〜90℃であるのが好ましい。また、処理時間は、1〜180秒であるのが好ましい。デスマット処理に用いられる酸性溶液には、アルミニウム及びアルミニウム合金成分が溶け込んでいてもよい。
【0209】
以上のように粗面化されたアルミニウム板は、必要に応じて、所望により表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成する種々の電解質の使用が可能で、一般的には硫酸、リン酸、蓚酸、クロム酸或いはそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。
【0210】
陽極酸化の処理条件は用いる電解質により種々変わるので一概に特定し得ないが一般的には電解質の濃度が1〜80質量%溶液、液温は5〜70℃、電流密度5〜60A/dm、電圧1〜100V、電解時間10秒〜5分の範囲であれば適当である。陽極酸化皮膜の量は2.0g/mより少ないと平版印刷版の非画像部に傷が付き易くなって、印刷時に傷の部分にインキが付着するいわゆる「傷汚れ」が生じ易くなる。
陽極酸化処理を施された後、アルミニウム表面は、更に、シリケートによる親水化処理が施されることが好ましい。
【0211】
(シリケート処理)
シリケート処理は、すなわち、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液による親水化処理は、米国特許第2,714,066号明細書及び米国特許第3,181,461号明細書に記載されている方法及び手順に従って行うことができる。アルカリ金属ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を適当量含有してもよい。また、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、アルカリ土類金属塩又は4族(第IVA族)金属塩を含有してもよい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸塩;塩酸塩;リン酸塩;酢酸塩;シュウ酸塩;ホウ酸塩が挙げられる。4族(第IVA族)金属塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムが挙げられる。これらのアルカリ土類金属塩及び4族(第IVA族)金属塩は、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0212】
シリケート付着量としては、インク滲み、汚れ性、耐刷性の点から、1.0〜30.0mg/mであり、より好ましくは、2.0〜20.0である。
【0213】
[ポリエステルフィルム支持体]
本発明において、平版印刷版用支持体として好適なポリエステルフィルムは、その表面に、下記のようなゾルゲル構造を含有する親水性層を有することが好ましい態様である。
なお、このゾルゲル構造を含有する親水性層は、ポリエステルフィルム以外の材質の支持体にも適用可能である。
【0214】
(ゾルゲル構造を含有する親水性層)
本発明におけるゾルゲル構造を含有する親水性層(以下、単に親水性層渡渉する場合がある。)は、親水性バインダーを含む。この親水性バインダーは、金属水酸化物と金属酸化物との系からなるゾルゲル変換性材料であることが好ましく、その中でもポリシロキサンのゲル組織を形成する性質を有するゾルゲル変換系が最も好ましい。
また、この親水性バインダーは親水性層の構成成分の分散媒として作用し、層の物理的強度の向上、層を構成する組成物相互の分散性の向上、塗布性の向上、印刷適性の向上、製版作業性の便宜上など、種々の目的に適う構成となっている。
親水性バインダーは、親水性層の全固形分に対して、30質量%以上であることが好ましく、更には35質量%以上であることが好ましい。30質量%以下では親水性層が十分な耐水性及び耐磨耗性を得ることができない。
【0215】
本発明における親水性層に好適に使用される親水性バインダーとしては、親水性層としての適度な強度と表面の親水性を付与する目的の、有機高分子化合物を用いることができる。具体的には、ポリビニルアルコール(PVA),カルボキシ変性PVA等の変性PVA,澱粉及びその誘導体、カルボキシメチルセルローズ、ヒドロキシエチルセルローズのようなセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸及びその塩、ポリアクリアミド、及びアクリル酸、アクリアミドなど水溶性のアクリル系モノマーを主な構成成分として含む水溶性アクリル系共重合体等の水溶性樹脂が挙げられる。
【0216】
また、上記有機高分子化合物を架橋し、硬化させる耐水化剤としては、グリオキザール、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等のアミノプラストの初期縮合物、メチロール化ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン・エピクロルヒドリン付加物、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂、変性ポリアミドポリイミド樹脂等が挙げられる。その他、更には、塩化アンモニウム、シランカップリング剤の架橋触媒等が併用できる。
【0217】
本発明に特に好ましく適用できるゾルゲル変換が可能な系は、作花済夫「ゾル−ゲル法の科学」(株)アグネ承風社(刊)(1988年)、平島碩「最新ゾル−ゲル法による機能性薄膜作製技術」総合技術センター(刊)(1992年)等の成書等に詳細に記述されている。
すなわち、多価元素から出ている結合基が酸素原子を介して網目状構造を形成し、同時に多価金属は未結合の水酸基やアルコキシ基も有していてこれらが混在した樹脂状構造となっている高分子体であって、塗布前のアルコキシ基や水酸基が多い段階ではゾル状態であり、塗布後、エステル結合化が進行するのに伴って網目状の樹脂状構造が強固となり、ゲル状態になる。また、樹脂組織の親水性度が変化する性質に加えて、水酸基の一部が固体微粒子に結合することによって固体微粒子の表面を修飾し、親水性度を変化させる働きをも併せ持っている。ゾルゲル変換を行う水酸基やアルコキシ基を有する化合物の多価結合元素は、アルミニウム、珪素、チタン及びジルコニウムなどであり、これらはいずれも本発明に用いることができるが、以下はもっとも好ましく用いることのできるシロキサン結合によるゾルゲル変換系について説明する。アルミニウム、チタン及びジルコニウムを用いるゾルゲル変換は、下記の説明の珪素をそれぞれの元素に置き換えて実施することができる。
【0218】
ゾルゲル変換によって形成される親水性マトリックスは、好ましくはシロキサン結合及びシラノール基を有する樹脂であり、本発明における親水性層は、少なくとも1個のシラノール基を有するシラン化合物を含んだゾルの系である塗布液を、塗布後の経時の間に、シラノール基の加水分解縮合が進んでシロキサン骨格の構造が形成され、ゲル化が進行することにより形成される。ゲル構造を形成するシロキサン樹脂は、下記一般式(A)で、また少なくとも1個のシラノール基を有するシラン化合物は、下記一般式(B)で示される。また、親水性層に含まれる親水性から疎水性に変化する物質系は、必ずしも一般式(B)のシラン化合物単独である必要はなく、一般には、シラン化合物が部分加水重合したオリゴマーからなっていてもよく、或いは、シラン化合物とそのオリゴマーの混合組成であってもよい。
【0219】
【化21】

【0220】
上記一般式(A)のシロキサン系樹脂は、下記一般式(B)で示されるシラン化合物の少なくとも1種を含有する分散液からゾル−ゲル変換によって形成され、一般式(A)中のR01〜R03の少なくとも一つは水酸基を表し、他は下記一般式(B)中の記号のR及びYから選ばれる有機残基を表わす。
【0221】
一般式(B) (RSi(Y4−n
【0222】
上記一般式(B)中、Rは、水酸基、炭化水素基又はヘテロ環基を表わす。Yは水素原子、ハロゲン原子、−OR11、−OCOR12、又は−N(R13)(R14)を表す(R11、R12は、各々炭化水素基を表し、R13、R14は同じでも異なってもよく、水素原子又は炭化水素基を表す)。nは、0、1、2又は3を表わす。
【0223】
一般式(B)中のRの炭化水素基又はヘテロ環基としては、炭素数1〜12の置換されていてもよい直鎖状若しくは分岐状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等;これらの基に置換される基としては、ハロゲン原子(塩素原子、フッ素原子、臭素原子)、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、エポキシ基、−OR基(Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘプチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、2−ヒドロキシエチル基、3−クロロプロピル基、2−シアノエチル基、N,N−ジメチルアミノエチル基、2−ブロモエチル基、2−(2−メトキシエチル)オキシエチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、3−カルボキシプロピル基、ベンジル基等を示す)、−OCOR基(Rは、前記Rと同一の内容を表わす)、−COOR基、−COR基、−N(R)(R)(Rは、水素原子又は前記Rと同一の内容を表わし、各々同じでも異なってもよい)、−NHCONHR基、−NHCOOR基、−Si(R基、−CONHR基、−NHCOR基、等が挙げられる。これらの置換基はアルキル基中に複数置換されていてもよい)、炭素数2〜12の置換されていてもよい直鎖状又は分岐状のアルケニル基(例えば、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基、ドデセニル基等、これらの基に置換される基としては、前記アルキル基に置換される基と同一の内容のものが挙げられる)、炭素数7〜14の置換されていてもよいアラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、2−ナフチルエチル基等;これらの基に置換される基としては、前記アルキル基に置換される基と同一の内容のものが挙げられ、又複数置換されていてもよい)、炭素数5〜10の置換されていてもよい脂環式基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−シクロヘキシルエチル基、2−シクロペンチルエチル基、ノルボニル基、アダマンチル基等、これらの基に置換される基としては、前記アルキル基の置換基と同一の内容のものが挙げられ、又複数置換されていてもよい)、炭素数6〜12の置換されていてもよいアリール基(例えばフェニル基、ナフチル基で、置換基としては前記アルキル基に置換される基と同一の内容のものが挙げられ、又、複数置換されていてもよい)、又は、窒素原子、酸素原子、イオウ原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含有する縮環してもよいヘテロ環基(例えば該ヘテロ環としては、ピラン環、フラン環、チオフェン環、モルホリン環、ピロール環、チアゾール環、オキサゾール環、ピリジン環、ピペリジン環、ピロリドン環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノリン環、テトラヒドロフラン環等で、置換基を含有してもよい。置換基としては、前記アルキル基中の置換基と同一の内容のものが挙げられ、又複数置換されていてもよい)を表わす。
【0224】
一般式(B)中のYの−OR11基、−OCOR12基、又はN(R13)(R14)基としては、例えば、以下の基を表す。
上記−OR11基において、R11は炭素数1〜10の置換されていてもよい脂肪族基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブトキシ基、ヘプチル基、ヘキシル基、ペンチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−メトキシエチル基、2−(メトキシエチルオキソ)エチル基、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル基、2−メトキシプロピル基、2−シアノエチル基、3−メチルオキサプロピル基、2−クロロエチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロオクチル基、クロロシクロヘキシル基、メトキシシクロヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基、ジメトキシベンジル基、メチルベンジル基、ブロモベンジル基等が挙げられる)を表わす。
【0225】
前記−OCOR12基において、R12は、R11と同一の内容の脂肪族基又は炭素数6〜12の置換されていてもよい芳香族基(芳香族基としては、前記R中のアリール基で例示したと同様のものが挙げられる)を表わす。
より好ましくは、R11とR12の炭素数の総和が16個以内である。
【0226】
また、前記−N(R13)(R14)基において、R13、R14は、互いに同じでも異なってもよく、各々、水素原子又は炭素数1〜10の置換されていてもよい脂肪族基(例えば、前記の−OR11基のR11と同様の内容のものが挙げられる)を表わす。
【0227】
一般式(B)で示されるシラン化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる。
すなわち、テトラクロルシラン、テトラブロムシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリクロルシラン、メチルトリブロムシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリt−ブトキシシラン、エチルトリクロルシラン、エチルトリブロムシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリt−ブトキシシラン、n−プロピルトリクロルシラン、n−プロピルトリブロムシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリイソプロポキシシラン、n−プロピルトリt−ブトキシシラン、n−ヘキシルトリクロルシラン、n−ヘキシルトリブロムシラン、n−へキシルトリメトキシシラン、n−へキシルトリエトキシシラン、n−へキシルトリイソプロポキシシラン、n−へキシルトリt−ブトキシシラン、n−デシルトリクロルシラン、n−デシルトリブロムシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、n−デシルトリイソプロポキシシラン、n−デシルトリt−ブトキシシラン、n−オクタデシルトリクロルシラン、n−オクタデシルトリブロムシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリイソプロポキシシラン、n−オクタデシルトリt−ブトキシシラン、フェニルトリクロルシラン、フェニルトリブロムシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリt−ブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、ジメチルジクロルシラン、ジメチルジブロムシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジクロルシラン、ジフェニルジブロムシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルメチルジクロルシラン、フェニルメチルジブロムシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、トリエトキシヒドロシラン、トリブロムヒドロシラン、トリメトキシヒドロシラン、イソプロポキシヒドロシラン、トリt−ブトキシヒドロシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリブロムシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリt−ブトキシシラン、トリフルオロプロピルトリクロルシラン、トリフルオロプロピルトリブロムシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリイソプロポキシシラン、トリフルオロプロピルトリt−ブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
【0228】
γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリt−ブトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリt−ブトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリt−ブトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリt−ブトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0229】
本発明に係る親水性層の形成に用いる一般式(B)で示されるシラン化合物と共に、Ti、Zn、Sn、Zr、Al等のゾルゲル変換の際に樹脂に結合して成膜可能な金属化合物を併用することができる。用いられる金属化合物として、例えば、Ti(OR(Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、TiCl、Zn(OR、Zn(CHCOCHCOCH、Sn(OR、Sn(CHCOCHCOCH、Sn(OCOR、SnCl、Zr(OR、Zr(CHCOCHCOCH、Al(OR等が挙げられる。
【0230】
また、このゲル構造のマトリックスの中には、膜強度、柔軟性などの物理的性能向上や、塗布性の向上、親水性の調節などの目的で、ポリマー主鎖末端にシランカップリング基を有する親水性ポリマーや、架橋剤を加えることが可能である。
【0231】
ポリマー主鎖末端にシランカップリング基を有する親水性ポリマーとしては、下記一般式(1)で表されるポリマーが挙げられる。
【0232】
【化22】

【0233】
上記一般式(1)において、R、R、R、及びRは、それぞれ、水素原子、又は炭素数8以下の炭化水素基を表し、mは0、1、又は2を表し、nは1〜8の整数を表し、pは30〜300の整数を表す。Yは、−NHCOCH、−CONH、−CON(CH、−COCH、−OCH、−OH、−COM、又はCONHC(CHSOMを表し、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びオニウムからなる群から選択されるいずれかを表す。
【0234】
Lは、単結合又は有機連結基を表わすが、ここで有機連結基とは、非金属原子からなる多価の連結基を示し、具体的には1〜60個の炭素原子、0〜10個の窒素原子、0〜50個の酸素原子、1〜100個の水素原子,0〜20個の硫黄原子から成り立つ基である。より具体的な連結基としては下記の構造単位又はこれらが組み合わされて構成された基を挙げることができる。
【0235】
【化23】

【0236】
一般式(1)のシランカップリング基を有する親水性ポリマーの具体例としては、以下のポリマーを挙げることができる。なお、下記具体例において、pは100〜250の間のいずれを採ることもできる。
【0237】
【化24】

【0238】
本発明に係る上記親水性ポリマーは、下記一般式(2)で表されるラジカル重合可能なモノマーと、下記一般式(3)で表されるラジカル重合において連鎖移動能を有するシランカップリング剤とを用いてラジカル重合させることによって合成することができる。シランカップリング剤、式(3)が連鎖移動能を有するため、ラジカル重合においてポリマー主鎖末端にシランカップリング基が導入されたポリマーを合成することができる。
【0239】
【化25】

【0240】
なお、前記式中、R、R、R、R、L、Y、m及びnは、前記一般式(1)におけるのと同義である。
本発明における親水性層の膜厚は、0.1〜10g/mであることが好ましく、0.5〜5g/mであることがより好ましい。
【0241】
以上のような親水性層は、ポリエステルフィルム上に直接設けられてもよいが、ポリエステルフィルムと密着層との間に、密着性を向上させるために、ポリアクリルアミド等を含む中間層(密着層)を設けてもよい。
【0242】
上記のような方法で、本発明のインク組成物による画像部が形成され、平版印刷版が得られる。
得られた平版印刷版には、高精細で、且つ、滲みのない画像部が形成されていることから、鮮明で高画質の画像が描画された印刷物を印刷することが可能となる。
【実施例】
【0243】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<(a)分散剤の合成例>
[合成例1:(a−1)ランダム共重合体(P−1)の合成]
トルエン(200g)を窒素気流下攪拌しながら80℃に加温した。そこへ、トルエン200gに溶解させたN,N−ジメチルアミノメタクリレート(0.30モル)、メタクリル酸ステアリル(0.70モル)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(略称A.I.B.N)(0.02モル)を、3時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間80℃で反応を行った後に、更に、A.I.B.N(0.02モル)を加えて、2時間反応した。冷却後、5リットルのメタノール中に、混合溶液を再沈し、粉末を濾集後、乾燥して、白色固体(P−1)を収率90%で得た。
得られたランダム共重合体〔前記例示化合物(P−1)〕の重量平均分子量(Mwと略称する)は、3.9×10であった。なお、構造はNMR、IRで同定した。
【0244】
上記合成例1と同様のスキームにより、出発物質を選択することで(a−1)ランダム共重合体〔例示化合物(P−2)〜(P−10)、(P−12)〜(P−17)〕を同様にして合成した。以下に、その例示化合物番号(P−○)番号とともに、該例示化合物の合成例における出発物質であるモノマーの構造とその仕込みモル比とを挙げる。
【0245】
【化26】

【0246】
【化27】

【0247】
【化28】

【0248】
[合成例2:(a−4)部分架橋型共重合体(P−18)]
メタクリル酸ステアリル(0.60モル)、ジビニルベンゼン(0.10モル)、N,N−ジメチルアミノメタクリレート(0.30モル)、及びトルエン300gの混合溶液を窒素気流下撹拌しながら温度85℃に加温した。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(略称A.I.B.N.)(0.02モル)を加え4時間反応した。更にA.I.B.N.(0.02モル)を加えて2時間反応した。冷却後、メタノール1.5リットル中にこの混合溶液を再沈し、粉末を濾集後、乾燥して、白色粉末を収率95%で得た。
得られた部分架橋型共重合体〔前記例示化合物(P−18)〕の重量平均分子量は4.1×10であった。なお、構造はNMR、IRで同定した。
【0249】
[合成例3:(a−3)スター型共重合体(P−19)]
メタクリル酸ヘキサデシル50g、N,N−ジメチルアミノメタクリレート50g、下記構造の重合開始剤[I−1]6.5g、及びテトラヒドロフラン200gの混合物を窒素気流下に温度60℃に加温した。この溶液に400Wの高圧水銀灯で10cmの距離からガラスフィルターを通して8時間光照射光重合した。この重合物をメタノール2リットル中に再沈し、沈殿物を捕集し、乾燥した。
【0250】
【化29】

【0251】
次に、上記重合物70g、メタクリル酸ステアリル15g、メタクリル酸フェニル15g、及びテトラヒドロフラン200gの混合溶液を、再び窒素気流下に温度50℃に加温した。次に、上記と同様にして、光照射を16時間行った後、得られた反応物をメタノール1.5リットル中に再沈し、沈殿物を捕集し、乾燥して、収率89%で、重量平均分子量4.3×10のスター型共重合体〔前記例示化合物(P−19)〕を得た。なお、構造はNMR、IRで同定した。
【0252】
[合成例4:(a−5)架橋性基含有共重合体(P−20)]
メタクリル酸ステアリル(0.60モル)、4−(2−メタクリロイルオキシエチルオキシカルボニル)酪酸(0.20モル)、N,N−ジメチルアミノメタクリレート(0.20モル)、及びトルエン250gの混合溶液を窒素気流下、温度80℃に加温した。開始剤として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(略称A.I.B.N.)(0.02モル)加え4時間反応し、その後、さらにA.I.B.N.(0.02モル)を加えて温度80℃に加温し、4時間反応した。
反応混合物を室温に冷却した後、攪拌下に、アリルアルコール(0.20モル)を加えて、続けてジシクロヘキシルカルボジイミド(略称D.C.C.)(0.20モル)、4−(N,N−ジエチルアミノ)ピリジン0.1g及び塩化メチレン30gの混合溶液を1時間で滴下した。更にこのまま3時間反応し、反応を完結させた。次に、この反応混合物に80%ギ酸を20g加え1時間攪拌した後、不溶物を濾別し、濾液をメタノール2.5リットル中に再沈した。沈澱物を濾集後、再びトルエン200gに溶解し、不溶分を濾別した後、濾液をメタノール1リットル中に再沈した。沈澱物を濾集し、乾燥した。
得られた下記構造の架橋性基含有共重合体〔前記例示化合物(P−20)〕の収率は95%で、重量平均分子量は5.2×10であった。なお、構造はNMR、IRで同定した。
【0253】
[合成例5:(a−5)架橋性基含有共重合体(P−22)]
メタクリル酸ヘキサデシル(0.60モル)、下記構造の単量体(Y−1)(0.20モル)、N,N−ジメチルアミノメタクリレート(0.20モル)、およびトルエン400gの混合溶液を窒素気流下、温度70℃に加温した。攪拌下、2,2’−アゾビス(イソバレロニトリル)(略称A.I.V.N.)(0.02モル)を加えて4時間反応させた。続けてA.I.V.N.(0.02モル)を加えて3時間、さらにA.I.V.N.(0.01モル)を加えて3時間反応した。冷却後、メタノール1.5リットル中にこの混合溶液を再沈し、粉末を濾集後、乾燥して、白色粉末を収率90%で得た。得られた架橋性基含有共重合体〔前記例示化合物(P−22)〕の重量平均分子量は4.4×10であった。
なお、構造はNMR、IRで同定した。
【0254】
【化30】

【0255】
[合成例6:(a−2)クシ型共重合体(P−21)の合成]
(マクロモノマー(MM)の製造例1:マクロモノマーMM−1)
オクタデシルメタクリレート(1.0モル)、メルカプトプロピオン酸(0.1モル)、及びトルエン300gの混合溶液を、窒素気流下撹拌しながら、温度75℃に加温した。2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(略称A.I.B.N.)を(0.02モル)、加え4時間反応し、更にA.I.B.N.(0.01モル)を加え3時間、更にA.I.B.N.(0.01モル)を加え3時間反応した。次に、この反応溶液にグリシジルメタクリレート(0.1モル)、及びt−ブチルハイドロキノン0.5gを加え、温度100℃にて、12時間撹拌した。冷却後この反応溶液をメタノール2リットル中に再沈し、白色粉末(下記構造のマクロモノマーMM−1)を収率89%で得た。マクロモノマー(MM−1)の重量平均分子量は1.8×10であった。なお、構造はNMR、IRで同定した。
【0256】
【化31】

【0257】
(MM−1を用いたP−21の合成)
N,N−ジメチルアミノメタクリレート(0.5モル)、上記の方法で得られたマクロモノマーMM−1を(0.5モル)及びトルエン250gの混合溶液を窒素気流下撹拌しながら温度80℃に加温した。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(略称A.I.B.N.)(0.05モル)、を加え4時間反応した。更にA.I.B.N.(0.02モル)、を加えて2時間反応し、更にA.I.B.N.(0.02モル)、を加えて2時間反応した。冷却後、メタノール3.5リットル中にこの混合溶液を再沈し、粉末を濾集後、乾燥して、白色粉末を収率87%で得た。
得られたクシ型共重合体〔前記例示化合物(P−21)〕の重量平均分子量(Mwと略称する)は6.0×10であった。なお、構造はNMR、IRで同定した。
【0258】
[重合粒子の合成(Y−1)]
(a)分散剤〔P−1〕20g、(c)メタクリル酸メチル(40g)、(c)アクリル酸メチル(60g)、および(b)アイソパーG(200g)の混合溶液を、窒素気流下攪拌しながら温度70℃に加温した。重合開始剤としてA.I.V.N.を1.5g加え、3時間反応した。さらに、開始剤A.I.B.N.を1.0g加えて、温度80℃に加温して4時間反応した。続けて温度を100℃に上げ1時間攪拌し未反応のモノマーを留去した。冷却後50μmメッシュのナイロン布を通し、得られた白色分散物は重合率98.6%で平均粒径1.20μm、Mwは8.6×10の粒子であった。粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製)で測定した。
上記と同様にして、下記表1に記載の(c)単量体,(a)分散剤を用い、(Y−1)の合成と同様にして重合造粒粒子(Y−2)〜(Y−22)を合成した。
前記と同様にして測定した各粒子の粒子径及び重量平均分子量を表1に併記する。
【0259】
【表1】

【0260】
比較用分散安定用樹脂(Q)の合成例1:樹脂〔Q−1〕
[ランダム共重合体(Q−1)の合成]
トルエン(200g)を窒素気流下攪拌しながら80℃に加温した。そこへ、トルエン200gに溶解させたメタクリル酸ステアリル(1.00モル)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(略称A.I.B.N)(0.02モル)を、3時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間80℃で反応を行った後に、更に、A.I.B.N(0.02モル)を加えて、2時間反応した。冷却後、5リットルのメタノール中に、混合溶液を再沈し、粉末を濾集後、乾燥して、白色固体(Q−1)を収率90%で得た。
得られたランダム共重合体(Q−1)の重量平均分子量(Mwと略称する)は、4.5×10であった。なお、構造はNMR、IRで同定した。
この比較用分散剤(Q−1)は、分子内に塩基性基を有しない他は、ランダム共重合体型の分散剤である前記例示化合物(P−1)と類似の構造を示す化合物である。
【0261】
[部分架橋型共重合体(Q−2)]
メタクリル酸ステアリル(0.80モル)、ジビニルベンゼン(0.20モル)、及びトルエン300gの混合溶液を窒素気流下撹拌しながら温度85℃に加温した。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(略称A.I.B.N.)(0.02モル)を加え4時間反応した。更にA.I.B.N.(0.02モル)を加えて2時間反応した。冷却後、メタノール1.5リットル中にこの混合溶液を再沈し、粉末を濾集後、乾燥して、白色粉末を収率95%で得た。
得られた部分架橋型共重合体(Q−2)の重量平均分子量は6.8×10であった。なお、構造はNMR、IRで同定した。
この比較用分散剤(Q−2)は、分子内に塩基性基を有しない他は、部分架橋型の分散剤である前記例示化合物(P−18)と類似の構造を示す化合物である。
【0262】
[スター型共重合体(Q−3)]
メタクリル酸ヘキサデシル100g、前記合成例3で用いたのと同じ重合開始剤〔I−1〕6.5g、及びテトラヒドロフラン200gの混合物を窒素気流下に温度60℃に加温した。この溶液に400Wの高圧水銀灯で10cmの距離からガラスフィルターを通して8時間光照射光重合した。この重合物をメタノール2リットル中に再沈し、沈殿物を捕集し、乾燥した。
次に、上記重合物70g、メタクリル酸ステアリル15g、メタクリル酸シクロヘキシル15g、及びテトラヒドロフラン200gの混合溶液を、再び窒素気流下に温度50℃に加温した。次に、上記と同様にして、光照射を16時間行った後、得られた反応物をメタノール1.5リットル中に再沈し、沈殿物を捕集し、乾燥して、収率86%で、重量平均分子量5.1×10のスター型共重合体(Q−3)を得た。なお、構造はNMR、IRで同定した。
この比較用分散剤(Q−3)は、分子内に塩基性基を有しない他は、スター型共重合体型の分散剤である前記例示化合物(P−19)と類似の構造を示す化合物である。
【0263】
[架橋性基含有共重合体(Q−4)]
メタクリル酸ステアリル(0.70モル)、4−(2−メタクリロイルオキシエチルオキシカルボニル)酪酸(0.30モル)、及びトルエン250gの混合溶液を窒素気流下、温度80℃に加温した。開始剤として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(略称A.I.B.N.)(0.02モル)加え4時間反応し、続けてA.I.B.N.(0.02モル)を加えて温度80℃に加温し、4時間反応した。
反応混合物を室温に冷却した後、攪拌下に、アリルアルコール(0.30モル)を加えて、続けてジシクロヘキシルカルボジイミド(略称D.C.C.)(0.3モル)、4−(N,N−ジエチルアミノ)ピリジン0.1g及び塩化メチレン30gの混合溶液を1時間で滴下した。更にこのまま3時間反応し、反応を完結させた。次に、この反応混合物に80%ギ酸を20g加え1時間攪拌した後、不溶物を濾別し、濾液をメタノール2.5リットル中に再沈した。沈澱物を濾集後、再びトルエン200gに溶解し、不溶分を濾別した後、濾液をメタノール1リットル中に再沈した。沈澱物を濾集し、乾燥した。
得られた下記構造の架橋性基含有共重合体(Q−4)の収率は94%で、重量平均分子量は6.2×10であった。なお、構造はNMR、IRで同定した。
この比較用分散剤(Q−4)は、分子内に塩基性基を有しない他は、架橋性基含有共重合体型の分散剤である前記例示化合物(P−20)と類似の構造を示す化合物である。
【0264】
[クシ型共重合体(Q−5)の合成]
メタクリル酸メチル(0.5モル)、P−19の合成と同様の方法で得られたマクロモノマーMM−1を(0.5モル)及びトルエン250gの混合溶液を窒素気流下撹拌しながら温度80℃に加温した。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(略称A.I.B.N.)(0.05モル)、を加え4時間反応した。更にA.I.B.N.(0.02モル)、を加えて2時間反応し、更にA.I.B.N.(0.02モル)、を加えて2時 間反応した。冷却後、メタノール3.5リットル中にこの混合溶液を再沈し、粉末を濾集後、乾燥して、白色粉末を収率93%で得た。
得られたクシ型共重合体(P−19)の重量平均分子量(Mwと略称する)は5.5×10であった。なお、構造はNMR、IRで同定した。
この比較用分散剤(Q−5)は、分子内に塩基性基を有しない他は、クシ型共重合体型の分散剤である前記例示化合物(P−21)と類似の構造を示す化合物である。
これら比較例用分散剤(Q−1)〜(Q−5)の構造を以下に示す。
【0265】
【化32】

【0266】
[比較用重合粒子の合成(D−1)]
分散剤〔前記例示化合物(P−1)〕20g、メタクリル酸メチル(40g)、アクリル酸メチル(60g)、およびアイソパーG(1200g)の混合溶液を、窒素気流下攪拌しながら温度70℃に加温した。重合開始剤としてA.I.V.N.を1.5g加え、3時間反応した。さらに、開始剤A.I.B.N.を1.0g加えて、温度80℃に加温して4時間反応した。続けて温度を100℃に上げ1時間攪拌し未反応のモノマーを留去した。冷却後50μmメッシュのナイロン布を通し、得られた白色分散物は重合率92.2%で平均粒径0.35μm、Mwは11.3×10の粒子であった。粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製)で測定した。
上記と同様にして、下記表2に記載の(c)単量体,(a)分散剤を用い、(D−1)の合成と同様にして比較用重合造粒粒子(D−2)〜(D−5)を合成した。
前記と同様にして測定した各粒子の粒子径及び重量平均分子量を表2に併記する。
【0267】
[重合粒子の合成(D−6)]
比較分散剤〔Q−1〕20g、メタクリル酸メチル(40g)、アクリル酸メチル(60g)、およびアイソパーG(1300g)の混合溶液を、窒素気流下攪拌しながら温度70℃に加温した。重合開始剤としてA.I.V.N.を1.5g加え、3時間反応した。さらに、開始剤A.I.B.N.を1.0g加えて、温度80℃に加温して4時間反応した。続けて温度を100℃に上げ1時間攪拌し未反応のモノマーを留去した。冷却後50μmメッシュのナイロン布を通し、得られた白色分散物は重合率90.7%で平均粒径0.33μm、Mwは10.4×10の粒子であった。粒径はCAPA−500(堀場製作所(株)製)で測定した。
上記と同様にして、下記表2に記載の(c)単量体,(a)比較用分散剤を用い、(D−6)の合成と同様にして比較用重合造粒粒子(D−7)〜(D−10)を合成した。
前記と同様にして測定した各粒子の粒子径及び重量平均分子量を表2に併記する。
【0268】
【表2】

【0269】
〔インク組成物(X−1)〜(X−22)および比較例インク(X−23)〜(X―33)の作製〕
上記のようにして得られた特定粒子(Y−1)〜(Y−22)及び比較用粒子(D−1)〜(D−10)の各々を含有する分散液を、アイソパーGを用いて、特定粒子又は比較用粒子の固形分量が50gとなり、且つ、特定粒子又は比較用粒子を20質量%含有する分散液となるように希釈し、そこに、ビクトリアピュアブルーを5g加えて、60℃で4時間反応させた。反応終了後、4μmのフィルター濾過を行うことにより、実施例のインク組成物(X−1)〜(X−22)及び比較例のインク組成物(X−23)〜(X−32)を得た。これらは、青色着色インク組成物である。
【0270】
<評価>
得られたインク組成物を用いて、1.再分散性、2.経時安定性、3.吐出性、4.画像滲み、5.平版印刷版の耐刷性の各評価を行った。
1.再分散性評価
得られたインク組成物をガラス瓶に充填して2日間室温で静置し、その後、手で上下に50回振った際の凝集粒子の状態をSEMにて観察し、再分散性を評価した。凝集が全く観察されないものを○、凝集が著しいものを×とした。結果を表に示す。
2.経時安定性評価
得られたインク組成物を、60℃で3日間静置し、その後の粒子の粒径、及びその形状をSEMにて観察し、インク組成物の経時安定性(保存安定性)を評価した。凝集が全く観察されないものを○、凝集が著しいものを×とした。結果を表4に示す。
【0271】
3.吐出性評価(ドット径)
得られたインク組成物について、静電方式の各インクジェット記録方法を用いて、以下のごとく吐出性の評価を行った。
得られたインク組成物を、下記のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を用いて、市販の上質紙に吐出電圧450Vでインクジェットし、得られたドットの直径をSEMにて測定し、実施例1で得られた直径を基準(100)としたドット径指数で表した。このドット径指数は数字が大きいほど粒子の電場下での移動速度が向上することを示しており、好ましい。
【0272】
−静電方式のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法−
図1〜3に示すインクジェット記録装置に、得られたインク組成物をインクタンクに充填した。ここでは吐出ヘッドとして図2に示すタイプの150dpi(チャンネル密度50dpiの3列千鳥配置)、833チャンネルヘッドを使用し、また定着手段として1kWのヒータを内蔵したシリコンゴム性ヒートローラを使用した。インク温度管理手段として投げ込みヒータと攪拌羽をインクタンク内に設け、インク温度は30℃に設定し、攪拌羽を30rpmで回転しながらサーモスタットで温度コントロールした。ここで攪拌羽は沈澱・凝集防止用の攪拌手段としても使用した。またインク流路を一部透明とし、それを挟んでLED発光素子と光検知素子を配置し、その出力シグナルによりインクの希釈液(アイソパーG)或いは濃縮インク(上記インク組成物の固形分濃度を2倍に調整したもの)投入による濃度管理を行った。被記録媒体としてオフセット印刷用微コート紙を使用した。エアーポンプ吸引により被記録媒体表面の埃除去を行った後、吐出ヘッドを画像形成位置まで被記録媒体に近づけ、記録すべき画像データを画像データ演算制御部に伝送し、搬送ベルトの回転により被記録媒体を搬送させながら吐出ヘッドを逐次移動しながらインク組成物を吐出して2400dpiの描画解像力で画像を形成した。搬送ベルトとして、金属ベルトとポリイミドフィルムを張り合わせたものを使用し、このベルトの片端付近に搬送方向に沿ってライン状のマーカーを配置し、これを搬送ベルト位置検知手段で光学的に読みとり、位置制御手段を駆動して画像形成を行った。この際、光学的ギャップ検出装置による出力により吐出ヘッドと被記録媒体の距離は0.5mmに保った。また吐出の際には被記録媒体の表面電位を−1.5kVとしておき、吐出を行う際には+500Vのパルス電圧を印加し(パルス巾50μsec)、15kHzの駆動周波数で被記録媒体に画像形成を行った。その後、120℃のオーブンで20秒間加熱し、画像を定着させた。
【0273】
4.画像滲み評価
得られたインク組成物を、セイコーエプソン(株)製PX−G920を用いて、後述のごとく作製した、PET支持体、又は、アルミニウム支持体上に、それぞれ、1.5plの液滴量でインクジェット記録した後、120℃のオーブンで20秒間加熱し、定着させた。得られた画像のドット径をSEMにて評価した。結果を表4に示す。
評価指標は、以下の通りである。
○・・直径40μm以下のドット径となったもの
×・・直径50μmより大きいドット径となったもの
5.平版印刷版の耐刷性評価
(細線耐刷性強制試験)
得られたインク組成物について、後述のごとく作製した、平版印刷版用支持体(アルミニウム支持体)を用いて、以下に示す(1)ピエゾ方式及び(2)静電方式の各インクジェット記録方法により画像を形成し、以下のごとく耐刷性の評価を行った。結果を表に示す。
(1)ピエゾ方式のインクジェット記録方法
得られたインク組成物を、セイコーエプソン(株)製PX−G920を用いて、アルミニウム支持体上にジェッティングした後、110℃オーブンで20秒間加熱し定着を行い平版印刷版を得た。得られた印刷版を、印刷機として小森コーポレーション(株)製リスロンを使用し、インキとして大日本インキ(株)社製グラフG(N)を使用して、印刷を行った。印刷開始から5,000枚目に富士写真フイルム(株)製PSプレートクリーナーCL−2を印刷用スポンジにしみこませ、細線部を拭き、版面のインキを洗浄した。
その後、画像部細線(10μm)の印刷物を観察し、画像がかすれ始めた枚数によって細線耐刷性を相対比較した。
評価結果は、実施例1を基準(100)とした耐刷指数で表した。この耐刷指数は数字が大きいほど高耐刷であり好ましい。
(2)静電方式のインクジェット記録方法
得られたインク組成物を、前記した静電方式のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法により、アルミニウム支持体上にジェッティングした後、120℃オーブンで20秒間加熱して定着を行い平版印刷版を得た。得られた印刷版を、印刷機として小森コーポレーション(株)製リスロンを使用し、インキとして大日本インキ(株)社製グラフG(N)を使用した。印刷開始から5,000枚目に富士写真フイルム(株)製PSプレートクリーナーCL−2を印刷用スポンジにしみこませ、細線部を拭き、版面のインキを洗浄した。
その後、画像部細線(10μm)の印刷物を観察し、画像がかすれ始めた枚数によって細線耐刷性を相対比較した。
評価結果は、実施例1を基準(100)とした耐刷指数で表した。この耐刷指数は数字が大きいほど高耐刷であり好ましい。
【0274】
<平版印刷版用支持体の作製>
前記平版印刷版に使用した支持体の作製方法は以下の通りである。
〔PET支持体〕
下記組成の塗布液を調製し、表面に易接着処理した188μmのポリエステルフィルム(東洋紡A4100)上に、1.0g/m厚の密着層を作製した。
【0275】
(密着層塗布液)
・ブチラール樹脂BM−S(積水化学(株)製) 59g
(10質量%MEK溶液)
・カーボンブラック分散物(固形分21%) 13.5g
・MEK(メチルエチルケトン) 62.7g
【0276】
上記のフィルム上に、下記組成の親水性層塗布液をバー塗布した後、80℃、10分でオーブン乾燥し、乾燥塗布量3.0g/mの親水性層を形成して、PET支持体を作製した。
【0277】
(親水性層塗布液)
・コロイダルシリカ分散物(20質量%水溶液) 100g
(スノーテックスC)
・下記ゾル・ゲル調製液 500g
・アニオン系界面活性剤の5質量%水溶液 30g
(日光ケミカルズ社製、ニッコールOTP−75)
・精製水 450g
【0278】
(ゾル・ゲル調製液)
エチルアルコール19.2g、アセチルアセトン0.86g、オルトチタン酸テトラエチル0.98g、精製水8.82g中に、テトラメトキシシラン(東京化成工業(株)製)1.04gと下記の末端にシランカップリング基を有する親水性ポリマー0.34gを混合し、室温で2時間熟成して、調製した。
【0279】
(末端にシランカップリング基を有する親水性ポリマーの合成)
三ロフラスコにアクリルアミド25g、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン3.5g、ジメチルホルムアミド51.3gを入れて窒素気流下、65℃まで加熱し、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.25g添加し、反応を開始した。6時間攪拌した後、室温まで戻して酢酸エチル1.5L中に投入したところ固体が析出した。その後、濾過を行い、充分酢酸エチルで洗浄し、乾燥を行った(収量21g)。GPC(ポリスチレン標準)により、5000の質量平均分子量を有するポリマーであることを確認した。
【0280】
〔アルミニウム支持体〕
Si:0.06質量%、Fe:0.30質量%、Cu:0.005質量%、Mn:0.001質量%、Mg:0.001質量%、Zn:0.001質量%、Ti:0.03質量%を含有し、残部はAlと不可避不純物のアルミニウム合金を用いて溶湯を調製し、溶湯処理及びろ過を行った上で、厚さ500mm、幅1200mmの鋳塊をDC鋳造法で作成した。表面を平均10mmの厚さで面削機により削り取った後、550℃で、約5時間均熱保持し、温度400℃に下がったところで、熱間圧延機を用いて厚さ2.7mmの圧延板とした。更に、連続焼鈍機を用いて熱処理を500℃で行った後、冷間圧延で、厚さ0.24mmに仕上げ、JIS 050材のアルミニウム板を得た。このアルミニウム板を幅1030mmにした後、以下に示す表面処理に供した。
【0281】
[表面処理]
表面処理は、以下の(a)〜(j)の各種処理を連続的に行った。なお、各処理及び水洗の後にはニップローラで液切りを行った。
【0282】
(a)機械的粗面化処理
図4に示したような装置を使って、比重1.12の研磨剤(パミス)と水との懸濁液を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転するローラ状ナイロンブラシにより機械的粗面化処理を行った。図4において、101はアルミニウム板、102及び104はローラ状ブラシ、103は研磨スラリー液、105、106、107及び108は支持ローラである。研磨剤の平均粒径は40μm、最大粒径は100μmであった。ナイロンブラシの材質は6・10ナイロン、毛長は50mm、毛の直径は0.3mmであった。ナイロンブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。回転ブラシは3本使用した。ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。ブラシローラはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、ブラシローラをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して7kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。ブラシの回転数は200rpmであった。
【0283】
(b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板をカセイソーダ濃度2.6質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%、温度70℃の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を行い、アルミニウム板を6g/m溶解した。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0284】
(c)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。デスマット処理に用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的粗面化処理を行う工程の廃液を用いた。
【0285】
(d)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸10.5g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L、アンモニウムイオンを0.007質量%含む。)、液温50℃であった。交流電源波形は図5に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。使用した電解槽は図6に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で30A/dm、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で220C/dmであった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0286】
(e)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.25g/m溶解し、前段の交流を用いて電気化学的粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0287】
(f)デスマット処理
温度30℃の硫酸濃度15質量%水溶液(アルミニウムイオンを4.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。デスマット処理に用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的粗面化処理を行う工程の廃液を用いた。
【0288】
(g)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、塩酸7.5g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L含む。)、温度35℃であった。交流電源波形は図5に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。使用した電解槽は図6に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で25A/dm、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で50C/dmであった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0289】
(h)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.10g/m溶解し、前段の交流を用いて電気化学的粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0290】
(i)デスマット処理
温度60℃の硫酸濃度25質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
【0291】
(j)陽極酸化処理
図7に示す構造の陽極酸化装置を用いて陽極酸化処理を行い、平版印刷版用支持体を得た。第一及び第二電解部に供給した電解液としては、硫酸を用いた。電解液は、いずれも、硫酸濃度170g/L(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)、温度38℃であった。その後、スプレーによる水洗を行った。最終的な酸化皮膜量は2.7g/mであった。
【0292】
以上により得られたアルミニウム支持体(平版印刷版用支持体)の中心線平均粗さは0.55μm、大波の平均波長は65μm、中波の平均開口径は1.4μm、小波の平均開口径は0.14μm、小波の平均開口径に対する深さの比が0.46であった。
【0293】
【表3】

【0294】
表3に明らかなように、本発明に係る(B)特定粒子を含有する実施例1〜22のインク組成物(本発明のインク組成物)は、再分散性、及び経時安定性(保存安定性)に優れ、これらのインク組成物を用いて画像を形成した場合には、画像滲みに優れ、更に、このインク組成物を用いて作製した平版印刷版は、耐刷性に優れることがわかる。なお、耐刷性の評価においては、ピエゾ方式、静電方式のいずれのインクジェット記録方法でも、同様の結果が得られ、インクジェット記録方式に関わらず、吐出安定性が良好であることが確認された。
一方、比較例1〜5のインク組成物は、再分散性、及び経時安定性(保存安定性)に優れるが、これらのインク組成物を用いて画像を形成した場合には、画像滲みや、平版印刷版を作製した場合の耐刷性に劣っていた。
また、塩基性基を有しない分散剤を用いた比較例6〜10のインク組成物は、再分散性、経時安定性(保存安定性)、また、これらのインク組成物を用いて画像を形成した場合の画像滲み、更には、平版印刷版を作製した場合の耐刷性のいずれも劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0295】
【図1】本発明のインク組成物に好適なインクジェット印刷装置の一例を模式的に示す全体構成図である。
【図2】本発明におけるインクジェット記録装置のインクジェットヘッドの構成を示す斜視図である(判りやすくするために、各吐出部でのガード電極のエッジは描いていない)。
【図3】図2に示す、インクジェットヘッドの吐出部の使用数が多いときの荷電粒子の分布状態を示す側面断面図である(図2の矢視X−Xに相当)。
【図4】本発明に係る平版印刷版用支持体の作製における機械粗面化処理に用いられるブラシグレイニングの工程の概念を示す側面図である。
【図5】本発明に係る平版印刷版用支持体の作製における電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
【図6】本発明に係る平版印刷版用支持体の作製における交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
【図7】本発明に係る平版印刷版用支持体の作製における陽極酸化処理に用いられる陽極酸化処理装置の概略図である。
【符号の説明】
【0296】
G 飛翔したインク滴
P 被記録媒体
Q インク流
R 荷電粒子
1 インクジェット記録装置
2、2Y、2M、2C、2K 吐出ヘッド
3 インク循環系
4 ヘッドドライバ
5 位置制御手段
6A、6B、6C 搬送ベルト張架ローラ
7 搬送ベルト
8 搬送ベルト位置検知手段
9 静電吸着手段
10 除電手段
11 力学的手段
12 フィードローラ
13 ガイド
14 画像定着手段
15 ガイド
16 記録媒体位置検知手段
17 排出ファン
18 溶媒蒸気吸着材
40 支持棒部
42 インクメニスカス
44 絶縁層
46 第1吐出電極
48 絶縁層
50 ガード電極
52 絶縁層
56 第2吐出電極
58 絶縁層
62 浮遊導電板
64 被覆膜
66 絶縁部材
70 インクジェットヘッド
72 インク流路
74 基板
75、75A、75B 開口
76、76A、76B 吐出部
78 インクガイド部
101 アルミニウム板
102、104 ローラ状ブラシ
103 研磨スラリー液
105、106、107、108 支持ローラ
111 アルミニウム板
112 ラジアルドラムローラ
113a、113b 主極
114 電解処理液
115 電解液供給口
116 スリット
117 電解液通路
118 補助陽極
119a、119b サイリスタ
120 交流電源
121 主電解槽
122 補助陽極槽
410 陽極酸化処理装置
412 給電槽
414 電解処理槽
416 アルミニウム板
418、426 電解液
420 給電電極
422、428 ローラ
424 ニップローラ
430 電解電極
432 槽壁
434 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)非水系分散媒、および、(B)塩基性基を有する分散剤により該(A)非水系分散媒中に分散された粒径0.8μm以上の樹脂粒子を含有するインクジェット用インク組成物。
【請求項2】
静電方式のインクジェット記録方法に適用することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用インク組成物。
【請求項3】
平版印刷版用被記録媒体上に、インクジェット記録方法により、請求項1又は請求項2に記載のインクジェット用インク組成物を用いて画像描画することを特徴とする平版印刷版の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−24892(P2008−24892A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201891(P2006−201891)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】