説明

インク組成物

【課題】分散安定性や吐出安定性に優れ、且つ洗濯堅牢性やドライクリーニング性に優れたインクジェット捺染用インク組成物を提供すること。
【解決手段】表面に電荷を有する顔料粒子がポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物と、水溶性有機溶剤と、水とを含有するインク組成物であって、上記カプセル化物として、ポリマーのガラス転移温度が異なる2種類以上のカプセル化物を用い、上記ポリマーは、下記(I)及び(II)を有するインク組成物。上記顔料粒子と上記ポリマーとの重量比の異なる2種類以上のカプセル化物を用い、上記ポリマーは、下記(I)及び(II)を有するインク組成物。(I)上記顔料粒子の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Aから誘導された繰り返し構造単位、及び/又は、上記顔料粒子の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料色材をカプセル化したカプセル化物を含有し、インクジェット記録方法等に好適なインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記用具やプリンタ等に使用されるインク組成物としては、通常、染料や顔料等の色材を適当な溶媒に溶解又は分散させたものが使用されている。従来、インク組成物の色材としては、染料が主に使用されてきたが、染料色材は記録画像の堅牢性(耐光性、耐ガス性、耐水性等)に問題があるため、近年、この問題を解決するために、染料色材に代えて顔料色材が使用されるようになってきている。
【0003】
また、従来は染料や顔料等の色材を使用したインク組成物は、インクジェットプリンタで普通紙や専用紙に代表される紙などの記録媒体に記録画像の形成がなされていたが、近年はこのようなインクジェット記録を捺染分野へ拡張する技術開発が提案されてきている。このようなインクジェット捺染記録に用いられるインクには種々の特性が要求される。例えば、被記録体である布帛への印捺において、滲みがないこと、多色系の印捺において隣り合った色が混じり合わないこと、定着後堅牢性に優れることなどである。
【0004】
捺染用の色材としては染料の他、顔料を用いたものが提案されている。顔料色材を用いたインク組成物としては、例えば、顔料微粒子をカプセル化したもの(特許文献1参照)、転相乳化法によって室温で皮膜形成性を有する樹脂を被服した顔料を用いたインク(特許文献2参照)、酸析法によってアニオン性基含有有機高分子化合物で被服した顔料を用いたインク(特許文献3参照)、転相乳化法によってポリマー微粒子に顔料を含浸させてなるポリマーエマルジョンを用いたインク(特許文献4参照)等が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記の従来技術は、顔料に吸着された樹脂の離脱が起きてインク中に溶解する樹脂量が増す等によって、種々の布帛に印捺した場合に着色成分である顔料が記録媒体表面の布帛繊維表面上に残りにくいため、印捺濃度が得られにくく発色もよくない。また滲みも発生しやすく、ノズルの周囲がインクで濡れて吐出が不安定になりやすい等の現象も起こりやすい傾向があり、特に布帛での画像品質が十分とは言えない。
【0006】
またこれらの技術の殆どは、普通紙、専用紙向けに研究されてきたものであり、布帛への印捺に優れるインクの開発はなされていなかった。またこれらのインクは布帛との結合性が考慮されていないため、特に捺染物に必須である高洗濯堅牢性やドライクリーニング特性を得ることができていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平8−59715号公報
【特許文献2】特開平11−349870号公報
【特許文献3】特開平11−209672号公報
【特許文献4】特開2000−53900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みて成されたものであって、その目的とするところは、分散安定性、吐出安定性に優れ、さらに洗濯堅牢性、ドライクリーニング性にも優れたインクジェット捺染用インク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、インク組成物の分散体(色材)として、顔料粒子(顔料色材)が特定組成のポリマーを主成分とする壁材で被覆されてなるカプセル化物を用い、且つ該カプセル化物を構成するポリマーのガラス転移温度が異なる2種類以上のカプセル化物を用いることによって、洗濯堅牢性やドライクリーニング性に優れ、且つ分散安定性や吐出安定性等のインクジェット信頼性も高まることを知見した。
本発明はこうした知見に基づきなされたもので、その技術的構成は以下の通りである。
【0010】
〔適用例1〕表面に電荷を有する顔料粒子がポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物と、水溶性有機溶剤と、水とを含有するインク組成物であって、前記カプセル化物を構成するポリマーのガラス転移温度が異なる2種類以上のカプセル化物を用い、前記ポリマーは、下記(I)及び(II)を有するインク組成物。
(I)前記顔料粒子の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Aから誘導された繰り返し構造単位、及び/又は、前記顔料粒子の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位。
(II)前記顔料粒子の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bから誘導された繰り返し構造単位。
【0011】
〔適用例2〕前記カプセル化物を構成するポリマーのガラス転移温度が、100℃〜200℃の範囲内および、0℃〜60℃の範囲内にある適用例1に記載のインク組成物。
〔適用例3〕前記ポリマーが、疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位、架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位、及び下記一般式(1)で表される化合物から誘導された繰り返し構造単位からなる群から選択される1種以上を更に有する適用例1又は適用例2に記載のインク組成物。
【0012】
【化1】

【0013】
本発明のインク組成物によれば、分散安定性、吐出安定性に優れたインク組成物の提供をすることができる。
また、本発明のインク組成物によれば、洗濯堅牢性、ドライクリーニング性に優れているため、捺染用インクとして好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のインク組成物について詳細に説明する。
【0015】
本発明のインク組成物は、表面に電荷を有する顔料粒子がポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物と、水溶性有機溶剤と、水とを含有するインク組成物であって、前記カプセル化物を構成するポリマーのガラス転移温度が異なる2種類以上のカプセル化物を用い、前記ポリマーは、下記(I)及び(II)を少なくとも有するものである。
(I)前記顔料粒子の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Aから誘導された繰り返し構造単位、及び/又は、前記顔料粒子の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位。
(II)前記顔料粒子の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bから誘導された繰り返し構造単位。
顔料粒子を被覆する壁材が、前記繰り返し構造単位(I)及び(II)を含有することにより、該顔料粒子(カプセル化物)の水性溶媒中での分散安定性及び吐出安定性を向上させることが可能となる。
【0016】
そして、本発明においては、前記カプセル化物を構成するポリマーのガラス転移温度が異なる2種類以上のカプセル化物を用いる。このような、ポリマーのガラス転移温度が異なる2種類以上のカプセル化物は、後述するカプセル化物の製造法において、該ポリマーの重合反応系内に添加する顔料粒子とポリマーの重合成分〔前記イオン性重合性界面活性剤A、前記イオン性モノマー、前記イオン性重合性界面活性剤B、後述するその他の重合性モノマー(疎水性モノマー等)〕との添加重量比を、カプセル化物毎に変更することによって得られる。
【0017】
本発明によれば、上記のように、芯物質である顔料粒子とこれを被覆する壁材の主成分であるポリマーのガラス転移温度を異にする、2種類以上の前記カプセル化物を使用することによって、優れた洗濯堅牢性やドライクリーニング性を得ることができる。この理由は定かではないが、ポリマーのガラス転移温度の異なる2種類以上のカプセル化物を使用することは、結果的に、成膜性の異なる2種類以上のカプセル化物を使用することになると考えられ、このことが良好な特性に大きく寄与していると推察される。即ち、成膜性の異なる2種類以上のカプセル化物が、印刷時において記録媒体の被記録面に対して、粒子を覆うようにカプセル化した状態で着弾することによって、該被記録面上に成膜されるものと推察される。但し、ポリマーのガラス転移温度の変更は、カプセル化物のガラス転移温度のみならず他の物性にも少なからず影響を与えるものであり、上述した本発明の作用効果は、ガラス転移温度を含めた諸物性の異なる2種類以上のカプセル化物の使用によって初めて奏されるものであると考えられる。
【0018】
本発明の好ましい一実施形態としては、前記カプセル化物として2種類を用いたものが挙げられる。斯かる実施形態においては、2種類の該カプセル化物の重量比は、好ましくは8:2〜2:8である。2種類の該カプセル化物の重量比が前記範囲外では、2種類のカプセル化物を用いることによる上述した効果が薄れてしまうおそれがある。2種類のカプセル化物の重量比を具体的にどのように設定するかは、使用する2種類のカプセル化物の構成、及びインク組成物の用途等に応じて前記範囲内で適宜決定すれば良く、2種類のカプセル化物の重量比を1:1としても良い。
【0019】
また、前記カプセル化物における、ポリマーのガラス転移温度は0℃〜200℃の範囲内および、0℃〜60℃の範囲内から選択されることが好ましい。前記ポリマーのガラス転移温度が前記範囲外では、顔料粒子をカプセル化することによる効果に乏しくなったり、あるいは、十分な洗濯堅牢性やドライクリーニング性を得ることができないおそれがある。
【0020】
本発明のインク組成物における前記カプセル化物の含有量(2種類以上のカプセル化物の合計含有量)は、インク組成物の総重量に対して、0.5重量%〜20重量%が好ましく、1重量%〜10重量%がさらに好ましい。カプセル化物の含有量が0.5重量%未満では、記録品質に問題が生じるおそれがあり、逆に20重量%超では、インクの粘度が高くなり、インクジェット記録においてプリンタノズルの目詰まり等の信頼性上の問題が起きるおそれがある。
【0021】
以下、前記カプセル化物をはじめとする、本発明のインク組成物に用いられる各種成分について更に詳述する。
【0022】
[カプセル化物]
本発明に用いられるカプセル化物は、上述したように、表面に電荷を有する顔料粒子(顔料色材)が、ポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたものである。該壁材中における該ポリマーの含有量は、好ましくは5重量%〜50重量%、更に好ましくは10重量%〜40重量%である。
【0023】
本発明に用いられるカプセル化物は、表面に電荷を有する顔料粒子の水性分散液に、前記イオン性重合性界面活性剤A及び/又は前記イオン性モノマーと、前記イオン性重合性界面活性剤Bとを、この順で順次添加・混合した後(乳化させた後)、重合開始剤を添加してこれらを重合させ、前記壁材を形成することによって好適に製造できる。尚、前記壁材には、後述するように、前記モノマー以外の他のモノマー(疎水性モノマー等)の1種以上を含有可能であり、他のモノマーの添加により、壁材の厚みや特性を調整することが可能である。
【0024】
上記の製造法(本発明に係る乳化重合法)によれば、先ず、顔料粒子の表面のイオン性基と、「該イオン性基と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Aのイオン性基」及び/又は「該イオン性基と反対の電荷を有するイオン性モノマーのイオン性基」とがイオン的に吸着し、次いで、「該イオン性重合性界面活性剤Aの疎水性基」及び/又は「該イオン性モノマーの疎水性基」と、「顔料粒子の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bの疎水性基」とが向き合い、該イオン性重合性界面活性剤Bのイオン性基が水相側に向かって配向した状態が形成される。即ち、重合開始剤を加えて重合させる前に、顔料粒子の周囲に存在する上記各種モノマーの配置形態が極めて高度に制御され、最外殻では水相に向かってイオン性基が配向した状態のミセルが形成される。そして、重合反応によって、この高度に制御された状態のまま、上記カチオン性重合性界面活性剤A及び/又は上記イオン性モノマー、上記イオン性重合性界面活性剤Bがポリマーに転化される。従って、このような製造法によって製造される本発明に係るカプセル化物は、極めて高精度に構造が制御されたものとなる。
【0025】
図1は、本発明に係るカプセル化物の製造過程で形成される上記ミセルの一例を示す模式図である。図1に示すように、親水性基等のアニオン性基14を表面に有する顔料粒子1が、水を主成分とする溶媒(水性溶媒)中に分散するとともに、カチオン性基11と疎水性基12と重合性基13とを有するカチオン性重合性界面活性剤(顔料粒子の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A)2と、アニオン性基14’と疎水性基12’と重合性基13’とを有するアニオン性重合性界面活性剤(顔料粒子の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B)3とに対して共存しており、ミセルが形成されている。カチオン性重合性界面活性剤2は、そのカチオン性基11が顔料粒子1のアニオン性基14に向くように配置され、イオン性の強い結合で吸着する。そして、このカチオン性重合性界面活性剤2の疎水性基12と重合性基13に対しては、疎水性相互作用によって、アニオン性重合性界面活性剤3の疎水性基12’と重合性基13’が向き、アニオン性重合性界面活性剤3のアニオン性基14’は水性溶媒の存在する方向、即ち顔料粒子1から離れる方向に向いている。
【0026】
そして、図1に示す如き状態の水性分散液に、重合開始剤を添加してこれを活性化させるなどして、カチオン性重合性界面活性剤2の重合性基13及びアニオン性重合性界面活性剤3の重合性基13’を重合させることによって、図2に示すように、顔料粒子1がポリマーを主成分とする壁材60で被覆された、本発明のカプセル化物100が製造される。ここで、壁材60の表面には、アニオン性基14’が水相側に向かって規則正しく密に存在しているので、カプセル化物100は水性溶媒中で良好に分散する。
【0027】
図1において、カチオン性重合性界面活性剤(イオン性重合性界面活性剤A)2の代わりに、あるいはカチオン性重合性界面活性剤2と共に、カチオン性基を有する親水性モノマー等の「顔料粒子の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性モノマー」を使用する場合も、上記と同様にしてカプセル化物を製造することができる。また、重合の際、必要に応じて、上記水性分散液中に、上記カチオン性重合性界面活性剤及び/又は上記親水性モノマーと、上記アニオン性重合性界面活性剤とに対して共重合可能なコモノマー(後述する疎水性モノマー等)を存在させても良く、その場合は、上記壁材が、上記カチオン性重合性界面活性剤及び/又は上記親水性モノマーと、上記イオン性重合性界面活性剤と、上記コモノマーとから共重合されるコポリマーを主成分とするものとなる。
【0028】
尚、上述した本発明に係る乳化重合法以外の他のカプセル化物の製造方法、例えば転相乳化法や酸析法等では、分散安定性、保存安定性、インクジェット信頼性(吐出安定性、目詰まり防止性等)に優れるインク組成物を提供し得るカプセル化物は得難い。その理由は定かではないが、転相乳化法や酸析法等では、芯物質(顔料粒子)を被覆する壁材として、予め作製されたポリマーを用いるため、芯物質に対する壁材の被覆状態が完全ではない(芯物質が壁材によって完全には被覆されていない)ためと推察される。
【0029】
本発明に係るカプセル化物においては、壁材を複層化することも可能である。壁材を複層化する場合には、2層構造の壁材を有するカプセル化物を例にとると、先ず、上記と同様の方法で、顔料粒子が壁材(この項において、以下、第1の壁材という)によって被覆されたカプセル化物を製造する。次いで、このカプセル化物の水性分散液に、「第1の壁材の表面(最外殻側の表面)の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C」及び/又は「第1の壁材の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性モノマー」を添加、混合後、「第1の壁材の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤D」を添加、混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合させ、第2の壁材を形成する。こうして、顔料粒子が第1の壁材及び第2の壁材からなる2層構造の壁材で被覆されたカプセル化物が得られる。尚、上記イオン性重合性界面活性剤Cとしては、上記イオン性重合性界面活性剤Aと同様のものを用いることができ、上記イオン性重合性界面活性剤Dとしては、上記イオン性重合性界面活性剤Bと同様のものを用いることができる。
3層以上の多層構造の壁材を有するカプセル化物は、上記方法に準じて、顔料粒子の外方に向けて壁材を順次形成していくことにより、好適に製造できる。
【0030】
以下に、本発明に係るカプセル化物を製造するために用いる各種原料等について説明する。
【0031】
(表面に電荷を有する顔料粒子)
本発明に係るカプセル化物の芯物質である「表面に電荷を有する顔料粒子」としては、下記の無機顔料及び有機顔料を挙げることができる。これらの無機顔料及び有機顔料は、当該顔料粒子自体が元来表面に電荷を有しているもののみならず、元来表面に電荷を有していないか、あるいは有していても非常に電荷が低い顔料粒子に、化学反応や吸着等の物理的作用を利用して電荷を有する官能基や化学物質を導入した顔料粒子(表面処理顔料)も用いることができる。この表面処理顔料の具体例としては、「親水性基を表面に有する顔料粒子」が挙げられる。「親水性基を表面に有する顔料粒子」は、顔料粒子の表面を親水性基付与剤によって処理することにより好適に製造できる。この親水性基付与剤による顔料粒子の表面処理については、本出願人の先の出願に係る特開2005−97476号公報の〔0042〕〜〔0056〕に記載の表面処理法が好ましく適用できる。
【0032】
無機顔料としては、ファーネスブラック,ランブブラック,アセチレンブラック,チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、あるいは、酸化鉄顔料等を挙げることができる。有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及びキレートアゾ顔料などを含む。)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、又はキノフラノン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート又は酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、又はアニリンブラックなどを使用することができる。
【0033】
更に詳しくは、ブラック用として使用される無機顔料として、以下のカーボンブラック、例えば、三菱化学製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、又はNo2200B等;コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、又はRaven700等;キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、又はMonarch 1400等;あるいは、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、又はSpecial Black 4等を使用することができる。
また、ブラック用の有機顔料としては、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の黒色有機顔料を用いることができる。
【0034】
また、イエローインク用の有機顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1(ハンザイエロー)、2,3(ハンザイエロー10G)、4,5(ハンザイエロー5G)、6,7,10,11,12,13,14,16,17,24(フラバントロンイエロー),34,35,37,53,55,65,73,74,75,81,83,93,94,95,97,98,99,108(アントラピリミジンイエロー)、109,110,113,117(銅錯塩顔料)、120,124,128,129,133(キノフタロン)、138,139(イソインドリノン)、147,151,153(ニッケル錯体顔料)、154,167,172,180などを挙げることができる。
【0035】
更に、マゼンタインク用の有機顔料としては、C.I.ピグメントレッド1(パラレッド)、2,3(トルイジンレッド)、4,5(lTR Red)、6,7,8,9,10,11,12,14,15,16,17,18,19,21,22,23,30,31,32,37,38(ピラゾロンレッド)、40,41,42,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,88(チオインジゴ)、112(ナフトールAS系)、114(ナフトールAS系)、122(ジメチルキナクリドン)、123,144,146,149,150,166,168(アントアントロンオレンジ)、170(ナフトールAS系)、171,175,176,177,178,179(ベリレンマルーン)、184,185,187,202,209(ジクロロキナクリドン)、219,224(ベリレン系)、245(ナフトールAS糸)、又は、C.I.ピグメントバイオレット19(キナクリドン)、23(ジオキサジンバイオレット)、32,33,36,38,43,50などを挙げることができる。
【0036】
更にまた、シアンインク用の有機顔料としては、C.I.ピグメントブルー1,2,3,15,15:1,15:2,15:3,15:34,15:4,16(無金属フタロシアニン)、18(アルカリブルートナー)、22,25,60(スレンブルー)、65(ビオラントロン)、66(インジゴ)、C.I.Vatブルー4,60等を挙げることができる。
【0037】
更にまた、マゼンタ,シアン又はイエローインク以外のカラーインクに用いる有機顔料として、C.I.ピグメントグリーン7(フタロシアニングリーン)、10(グリーンゴールド)、36,37;C.I.ピグメントブラウン3,5,25,26;あるいはC.I.ピグメントオレンジ1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63等を用いることができる。本発明にカプセル化物においては、「表面に電荷を有する顔料粒子」として、上記の顔料を1種で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
(イオン性重合性界面活性剤A)
イオン性重合性界面活性剤Aは、芯物質である顔料粒子を被覆する壁材の主成分であるポリマーの重合成分であり、芯物質の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性基と、疎水性基と、重合性基とを有する。
【0039】
上記イオン性基としては、カチオン性基及びアニオン性基が挙げられ、上記イオン性基としてカチオン性基を有するイオン性重合性界面活性剤は、「カチオン性重合性界面活性剤」と称され、上記イオン性基としてアニオン性基を有するイオン性重合性界面活性剤は、「アニオン性重合性界面活性剤」と称される。本発明では、イオン性重合性界面活性剤Aとして、カチオン性重合性界面活性剤、アニオン性重合性界面活性剤の何れを用いても良く、カプセル化物の用途に応じて何れかを適宜選択すれば良い。
【0040】
上記カチオン性基(イオン性基)としては、一級アンモニウムカチオン、二級アンモニウムカチオン、三級アンモニウムカチオン、及び第四級アンモニウムカチオンなる群から選択されたカチオン性基が好ましい。一級アンモニウムカチオンとしてはモノアルキルアンモニウムカチオン(RNH3+)等を、二級アンモニウムカチオンとしてはジアルキルアンモニウムカチオン(R2NH2+)等を、三級アンモニウムカチオンとしてはトリアルキルアンモニウムカチオン(R3NH+)等を、第四級アンモニウムカチオンとしては(R4+)等を挙げることができる。ここで、Rは、疎水性基であり、以下に示すものを挙げることができる。また、上記カチオン性基の対アニオンとしては、Cl-、Br-、I-、CH3OSO3-、C25OSO3-等を挙げることができる。
【0041】
上記アニオン性基(イオン性基)としては、スルホン酸基、スルフィン酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸エステル基、スルフィン酸エステル基、リン酸エステル基、及び、これらの塩の群から選択されたものを好適に例示できる。塩としては、Na塩、K塩、Ca塩、有機アミン塩等を挙げることができる。
【0042】
上記疎水性基としては、炭素数が8〜16のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基からなる群から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましく、分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有することもできる。
【0043】
上記重合性基としては、ラジカル重合が可能な不飽和炭化水素基が好ましく、具体的には、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロペニル基、ビニリデン基、及びビニレン基からなる群から選択された基であることが好ましい。これらの中でも特にアリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基が好ましい。
【0044】
上記カチオン性重合性界面活性剤としては、例えば、一般式R[4-(l+m+n)]1l2m3n+・X-で表される化合物を挙げることができる(上記一般式中、Rは重合性基であり、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数が8〜16のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基であり、X-はCl-、Br-、I-、CH3OSO3-、C25OSO3-であり、l、m及びnはそれぞれ1又は0である)。ここで、重合性基としては、上述したものを挙げることができる。
【0045】
上記カチオン性重合性界面活性剤の具体例としては、メタクリル酸ジメチルアミノエチルオクチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルセチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルデシルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルドデシルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルテトラデシルクロライド塩、ジアリルメチルドデシルアンモニウムブロマイド等を挙げることができる。
以上例示したカチオン性重合性界面活性剤は、単独で、又は2種以上の混合物として本発明に用いることができる。
【0046】
上記アニオン性重合性界面活性剤の具体例としては、特公昭49−46291号公報、特公平1−24142号公報、又は特開昭62−104802号公報に記載されているようなアニオン性のアリル誘導体、特開昭62−221431号公報に記載されているようなアニオン性のプロペニル誘導体、特開昭62−34947号公報又は特開昭55−11525号公報に記載されているようなアニオン性のアクリル酸誘導体、特公昭46−34898号公報又は特開昭51−30284号公報に記載されているようなアニオン性のイタコン酸誘導体等を挙げることができる。
【0047】
本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(31):
【0048】
【化2】

で表される化合物、又は、例えば、下記一般式(32):
【0049】
【化3】

で表される化合物が好ましい。
【0050】
上記一般式(31)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、特開平5−320276号公報、又は特開平10−316909号公報に記載されている化合物を挙げることができる。上記一般式(31)におけるmの値を適宜調整することによって、芯物質をカプセル化して得られるカプセル化物の表面の親水性を調整することが可能である。上記一般式(31)で表される好ましい重合性界面活性剤としては、下記一般式(310)で表される化合物を挙げることができ、さらに具体的には、下記式(31a)〜(31d)で表される化合物を挙げることができる。
【0051】
【化4】

【0052】
【化5】

【0053】
【化6】

【0054】
【化7】

【0055】
【化8】

【0056】
上記一般式(310)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。例えば、旭電化工業株式会社のアデカリアソープSE−10Nは、上記一般式(310)で表される化合物において、M1がNH4、R31がC919、m=10とされる化合物である。旭電化工業株式会社のアデカリアソープSE−20Nは、上記一般式(310)で表される化合物において、M1がNH4、R31がC919、m=20とされる化合物である。
【0057】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(33):
【0058】
【化9】

で表される化合物が好ましい。上記一般式(33)で表される好ましいアニオン性重合性界面活性剤としては、以下の化合物を式(33a)として挙げることができる。
【0059】
【化10】

【0060】
上記一般式(33)、上記式(33a)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のアクアロンKHシリーズ(アクアロンKH−5、及びアクアロンKH−10)(以上、商品名)などを挙げることができる。アクアロンKH−5は、上記式(33a)で表される化合物において、rが9及びsが5である化合物と、rが11及びsが5である化合物との混合物である。アクアロンKH−10は、上記式(33a)で表される化合物において、rが9及びsが10である化合物と、rが11及びsが10である化合物との混合物である。
【0061】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、下記一般式(34)で表される化合物が好ましい。
【0062】
【化11】

【0063】
上記一般式(34)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、旭電化工業株式会社製のアデカリアソープSRシリーズ(アデカリアソープSR−10、SR−20、SR−1025)(以上、商品名)などを挙げることができる。アデカリアソープSRシリーズは、上記一般式(34)において、BがNH4で表される化合物であって、SR−10はn=10、SR−20はn=20である化合物である。
【0064】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、下記一般式(A)で表される化合物も使用できる。
【0065】
【化12】

【0066】
上記一般式(A)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のアクアロンHSシリーズ(アクアロンHS−10、HS−20、及びHS−1025)(以上、商品名)が挙げられる。
【0067】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(35)で表されるアルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩を挙げることができる。
【0068】
【化13】

【0069】
上記一般式(35)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、三洋化成工業株式会社のエレミノール JS−2を挙げることができ、上記一般式(35)において、m=12又はm=16で表される化合物である。
【0070】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(36)で表されるメタクリロイルオキシポリオキシアルキレン硫酸エステルナトリウム塩を挙げることができる。下記一般式(36)中、nは1〜20である。
【0071】
【化14】

【0072】
上記一般式(36)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、三洋化成工業株式会社のエレミノール RS−30を挙げることができ、上記一般式(36)において、n=9で表される化合物である。
【0073】
また、本発明に用いられる上記アニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(37)で表される化合物を用いることができる。
【0074】
【化15】

【0075】
上記一般式(37)で表される化合物(アニオン性重合性界面活性剤)としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社のAntox MS−60を挙げることができ、上記一般式(37)において、R1がメチル基、R2、R3、R4、R5が水素原子又はアルキル基、m及びnが正の整数、Xがアンモニウムで表される化合物がこれに当たる。
【0076】
以上に例示したアニオン性重合性界面活性剤は、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0077】
(イオン性重合性界面活性剤B)
本発明に用いられるイオン性重合性界面活性剤Bは、芯物質である顔料粒子を被覆する壁材の主成分であるポリマーの重合成分であり、芯物質の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性基と、疎水性基と、重合性基とを有する。該イオン性基、該疎水性基、該重合性基としては、それぞれ、上記(イオン性重合性界面活性剤A)の項で記載したものと同じものを用いることができ、また、イオン性重合性界面活性剤Bとして、上記(イオン性重合性界面活性剤A)の項で記載したカチオン性重合性界面活性剤及びアニオン性重合性界面活性剤と同じものを用いることができる。
【0078】
(イオン性モノマー)
本発明に用いられる「顔料粒子の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性モノマー」は、イオン性基及び重合性基を有する化合物で、水溶性である。
イオン性基としては、アニオン性基、カチオン性基のいずれでもよく、カプセル化物の用途に応じて適宜選択される。イオン性基として、アニオン性基、カチオン性基のいずれを有するかによって、それぞれアニオン性水溶性モノマー、カチオン性水溶性モノマーと称される。該アニオン性基、該カチオン性基、該重合性基としては、それぞれ、上記(イオン性重合性界面活性剤A)の項に記載したものが挙げられる。
【0079】
本発明に用いられるカチオン性水溶性モノマーの好ましい具体例としては、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド塩、及び2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド塩、等が挙げられる。上記のカチオン性水溶性モノマーとしては市販品を用いることもでき、例えば、アクリエステルDMC(三菱レイヨン(株))、アクリエステルDML60(三菱レイヨン(株))、及びC−1615(第一工業製薬(株))などを挙げることができる。以上例示したカチオン性水溶性モノマーは、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0080】
本発明に用いられるアニオン性水溶性モノマーの好ましい具体例としては、カルボキシル基を有するモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。スルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、4−スチレンスルホン酸及びその塩、ビニルスルホン酸及びその塩、スルホエチルアクリレート及びその塩、スルホエチルメタクリレート及びその塩、スルホアルキルアクリレート及びその塩、スルホアルキルメタクリレート及びその塩、スルホプロピルアクリレート及びその塩、スルホプロピルメタクリレート及びその塩、スルホアリールアクリレート及びその塩、スルホアリールメタクリレート及びその塩、ブチルアクリルアミドスルホン酸及びその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。また、ホスホン基を有するモノマーとしては、ホスホエチルメタクリレート等のリン酸基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。以上例示したアニオン性水溶性モノマーは、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0081】
(その他の重合成分)
本発明に係る壁材を構成する上記ポリマーは、上記の繰り返し構造単位(I)及び(II)に加えて、必要に応じ、「疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」、「架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」等のその他の重合性モノマーから誘導された繰り返し構造単位を有することができる。以下に、これらの繰り返し構造単位を構成する重合性モノマー(重合成分)について説明する。
【0082】
(疎水性モノマー)
疎水性モノマーは、カプセル化物の成膜性、被覆層の強度、耐薬品性、耐水性、耐光性、耐侯性、光学特性、その他の物理特性及び化学特性の制御に有効であり、特に、カプセル化物をインクジェット記録用インクに添加した場合に、顔料粒子(カプセル化物)の定着性、記録部の耐擦性、耐水性及び耐溶剤性等の要求特性を満たす上で有効である。
【0083】
本発明に用いられる疎水性モノマーとしては、その構造中に少なくとも疎水性基及び重合性基を有する重合性モノマーで、疎水性基が脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基の群から選択されたものを例示できる。
上記脂肪族炭化水素基としてはメチル基、エチル基、及びプロピル基等を、脂環式炭化水素基としてはシクロヘキシル基、ジシクロペンテニル基、ジシクロペンタニル基、及びイソボルニル基等を、芳香族炭化水素基としてはベンジル基、フェニル基、及びナフチル基等を挙げることができる。上記疎水性モノマーの重合性基は、上記(イオン性重合性界面活性剤A)の項で記載したものと同じものを用いることができる。
【0084】
疎水性モノマーの具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、t−ブチルスチレン、ブロムスチレン、p−クロルメチルスチレン等のスチレン誘導体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、イソプロピルアクリレート、アクリル酸n−ブチル、ブトキシエチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニル、フェノキシエチルアクリレート、アクリル酸シクロヘキシル、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、及びイソボルニルアクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアクリレート等の単官能アクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、イソプロピルメタクリレート、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソデシル、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ブトキシメチルメタクリレート、及びイソボルニルメタクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート、等の単官能メタクリル酸エステル類;アリルベンゼン、アリル−3−シクロヘキサンプロピオネート、1−アリル−3,4−ジメトキシベンゼン、アリルフェノキシアセテート、アリルフェニルアセテート、アリルシクロヘキサン、及び多価カルボン酸アリル等のアリル化合物;フマル酸、マレイン酸、及びイタコン酸等の不飽和エステル類;N−置換マレイミド、環状オレフィンなどのラジカル重合性基を有するモノマーなどが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
本発明に係る上記ポリマーにおける上記疎水性モノマーの割合は、該ポリマーに構成単位として含まれる全モノマーに対して50重量%〜95重量%であることが好ましく、60重量%〜90重量%であることが更に好ましい。
【0086】
(架橋性モノマー)
壁材の主成分であるポリマーに、架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位を含有させることにより、該ポリマー中に架橋構造が形成され、耐溶剤性(インクジェット記録用インクに含有される溶媒が芯物質を被覆するポリマー内部に侵入しにくい特性)を向上させることができる。溶剤が芯物質を被覆するポリマーの内部に浸透すると、ポリマーが膨潤や変形等を起こし、水性媒体側に向くカプセル化物のアニオン性基の配向状態が乱されるなどしてカプセル化物の分散安定性等が低下することがある。このような場合においては、芯物質を被覆するポリマーに架橋構造を形成させることによって、カプセル化物の耐溶剤性が向上し、水溶性有機溶媒が共存するインク組成物において、カプセル化物の分散安定性、インク組成物の保存安定性、インクジェットヘッドからのインク組成物の吐出安定性を一層高めることができる。また、疎水性モノマーと架橋性モノマーとが共重合することにより、壁材の主成分であるポリマーの機械的強度や耐熱性が高まり、壁材の形態維持性が向上する。
【0087】
本発明に用いられる架橋性モノマーとしては、ビニル基,アリル基,アクリロイル基,メタクリロイル基,プロペニル基,ビニリデン基,及びビニレン基から選ばれる1種以上の不飽和炭化水素基を2個以上有する化合物を有するものが挙げられる。架橋性モノマーの具体例としては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、アリルアクリレート、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビス(アクリロキシネオペンチルグリコール)アジペート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジアクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ・ジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ・ポリエトキシ)フェニル〕プロパン、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラブロモビスフェノールAジアクリレート、トリグリセロールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシポリエトキシ)フェニル〕プロパン、テトラブロモビスフェノールAジメタクリレート、ジシクロペンタニルジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、トリグリセーロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート、アリルメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、及びジエチレングリコールビスアリルカーボネート等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0088】
本発明に係る上記ポリマーにおける上記架橋性モノマーの割合は、該ポリマーに構成単位として含まれる全モノマーに対して0重量%〜50重量%であることが好ましく、0重量%〜10重量%であることが更に好ましい。
【0089】
また、他の重合成分として、下記一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0090】
【化16】

【0091】
上記一般式(1)において、R2が示す脂環式炭化水素基としては、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、及びアダマンタン基等が挙げられ、ヘテロ環基としてはテトラヒドロフラン基等が挙げられる。
【0092】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0093】
【化17】

【0094】
【化18】

【0095】
本発明に係るカプセル化物の壁材の主成分であるポリマー中に、上記一般式(1)で表される化合物由来の「嵩高い」基である上記R2基を入れることによって、ポリマーの分子のたわみやすさが低下する、即ち、分子の運動性が低下するため、ポリマーの機械的強度や耐熱性が向上する。このため、該ポリマーを主成分とする壁材を有する本態様のカプセル化物を含むインク組成物は、優れた耐擦性と耐久性を有する印刷物を提供することができる。また、壁材を構成するポリマー中に、「嵩高い」基である上記R2基を存在させることによって、ポリマー内部へのインク組成物中の有機溶媒の浸透を抑制できることから、カプセル化物の耐溶剤性を優れたものにすることができる。これによって、水溶性有機溶媒が共存するインクジェット記録用インク等のインク組成物において、顔料粒子の分散性や、インク組成物の保存安定性、さらにインクジェットヘッドからのインク組成物の吐出性をも高めることができる。
【0096】
一方、上述した疎水性モノマーのうち、長鎖アルキル基を有するモノマーから誘導された繰り返し構造単位を有するポリマーは柔軟性を有する。したがって、「架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位」及び/又は「上記一般式(1)で表される化合物(モノマー)から誘導された繰り返し構造単位」と、「長鎖アルキル基を有するモノマーから誘導された繰り返し構造単位」との比率を適宜調整することによって、壁材として好ましい可塑性を損なわずに、優れた機械的強度及び耐溶剤性を有する壁材用ポリマーとすることができる。このようなポリマーを含む壁材を有するカプセル化物を含有するインク組成物は、該インク組成物が水溶性有機溶媒を含むものであっても、分散安定性や長期保存性に優れ、インクジェットヘッドからの吐出性安定性にも優れている。また、本態様のカプセル化物を含むインク組成物は、記録媒体への該カプセル化物の定着性が良好であり、洗濯堅牢性、ドライクリーニング性に優れた印刷画像を提供することができる。
【0097】
(重合開始剤)
本発明のカプセル化物に係る壁材を構成するポリマーは、上述したように、イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマー、イオン性重合性界面活性剤Bの他に、必要に応じ、疎水性モノマー、架橋性モノマー、上記一般式(1)で表される化合物等のその他の重合性モノマーを重合して得られる。この重合反応は公知の重合開始剤を用いて行うことができ、特にラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤としては水溶性の重合開始剤が好ましく、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、2,2−アゾビス−(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、及び4,4−アゾビス−(4−シアノ吉草酸)などが挙げられる。また、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等と、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等とを組み合わせたレドックス系開始剤を用いることもできる。
【0098】
(その他の壁材構成成分)
本発明のカプセル化物に係る壁材を構成するポリマーには、上述した各種成分以外のその他の成分として、本発明の効果を損ねない範囲で、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、ワックス等を含有させることができる。
【0099】
(カプセル化物の製造方法)
以下に、上述した本発明のカプセル化物の製造方法(本発明に係る乳化重合法)について詳述する。
【0100】
本発明のカプセル化物に係る上記壁材は、乳化重合反応によって合成されるもので、この乳化重合反応は、超音波発生器、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度調節器を備えた反応容器を使用して行うことが好ましい。
【0101】
本発明のカプセル化物は、好ましくは、下記(1)〜(4)の工程を少なくとも含む製造方法によって製造することができる。
(1)「表面に電荷を有する顔料粒子」の水性分散液に、「上記顔料粒子の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A」及び/又は「上記顔料粒子の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性モノマー」を添加・混合する工程。
(2)上記工程(1)を経た水性分散液に、「上記顔料粒子の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B」を添加・混合する工程。
(3)上記工程(2)を経た水性分散液に重合開始剤を添加・混合し、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又は上記イオン性モノマーと、上記イオン性重合性界面活性剤Bとを重合させて、壁材の主成分であるポリマーを形成する工程。
上記の顔料粒子、イオン性重合性界面活性剤A、イオン性モノマー、イオン性重合性界面活性剤B、重合開始剤については、それぞれ上述したものが好ましく用いられる。
【0102】
上記(1)の工程において、上記顔料粒子の水性分散液としては、脱イオン水等の水を主成分とする水性媒体が好ましく、必要に応じ、芯物質である顔料粒子の他に、芯物質の溶解、分散を助ける各種助剤や有機溶剤等を含有させることができる。
【0103】
上記(1)の工程において、上記水性分散液へのイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーの添加量は、顔料粒子表面のイオン性基の総モル数(即ち、用いた顔料粒子1gの顔料粒子表面に存在するイオン性基量[mol/g])に対して、0.5倍モル〜2倍モルの範囲であることが好ましく、0.8倍モル〜1.2倍モルの範囲であることがさらに好ましい。このように、上記添加量を0.5倍モル以上とすることによって、その後の重合反応によって良好な分散性を有するカプセル化物が得られる。これは、芯物質である顔料粒子を、イオン性重合性界面活性剤Aで充分に被覆することができるためと考えられる。一方、上記添加量を2倍モル以下にすることによって、芯物質を持たないポリマー粒子(ポリマーのみからなる粒子)の発生を抑制することができる。これは、芯物質に吸着されないイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーの量を少なくできるためと考えられる。
【0104】
上記(1)の工程において、イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーのイオン性基が、顔料粒子表面のイオン性基にイオン的に吸着しやすくなるようにするために、顔料粒子の水性分散液にイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを添加した後、該水性分散液に超音波を照射することが好ましい。
【0105】
次に、場合によっては、上記水性分散液に、発明の効果を損ねない範囲で、上述した疎水性モノマー等の重合性モノマー(その他の重合成分)を添加して混合する。即ち、上記(1)の工程後で上記(2)の工程前に、上記水性分散液に、前述した疎水性モノマー、架橋性モノマー、上記一般式(1)で表される化合物、及びその他の重合性モノマーからなる群から選択されるモノマーの1種以上を添加することができる。尚、これらの重合性モノマーを添加して混合する場合も、添加・混合後の水性分散液に超音波を照射することが好ましい。
【0106】
上記(2)の工程において、上記イオン性重合性界面活性剤Bの添加量は、上記イオン性重合性界面活性剤A及び/又は上記イオン性モノマーに対して、1倍〜10倍モルの範囲であることが好ましく、1.0倍モル〜5倍モルの範囲であることがさらに好ましい。上記添加量を1倍モル以上にすることにより、カプセル化物の凝集を抑制でき、分散安定性に優れたカプセル化物分散液が得られる。さらに、このカプセル化物分散液を用いたインク組成物は、インクジェット記録ヘッドからの吐出安定性に優れ、紙繊維への吸着性が向上するとともに、印刷濃度及び発色性に優れたものになる。また、上記添加量を10倍モル以下にすることによって、芯物質である顔料粒子のカプセル化反応に寄与しないイオン性重合性界面活性剤Bの量を減らし、芯物質を有しないポリマー粒子が発生することを抑制できる。
【0107】
上記(2)の工程において、カプセル化物の粒子径を制御する等の目的で、上記水性分散液に上述した各種成分を添加した後、該水性分散液に超音波を照射してもよい。このような超音波照射は、ミセルの安定した形成にも効果があると考えられる。
【0108】
上記(1)及び(2)の工程により、上述したように、表面に電荷(イオン性基)を有する顔料粒子表面に、該イオン性基に対して反対電荷を持つイオン性重合性界面活性剤A及び/又は該イオン性基に対して反対電荷を有するイオン性モノマーが静電的に付着し、その外側に疎水性モノマーをはじめとする重合性モノマーが局在し、更にその外側に顔料粒子表面のイオン性基の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bがそのイオン性基を水相側に向けて配向してミセルが形成されると推定される。
【0109】
上記(3)の工程では、上記のようにして調製された水性分散液に重合開始剤を添加して重合反応を行う。重合開始剤の添加は、重合開始剤が活性化される温度に加熱した上記混合液に重合開始剤を一度に若しくは分割して添加しても、又は連続的に添加してもよい。また、重合開始剤を添加した後に、重合開始剤が活性化される温度に上記混合液を加熱してもよい。本発明においては、重合開始剤として水溶性重合開始剤を用い、これを純水に溶解して得られる水溶液を反応容器内の水性分散液中に滴下して加えることが好ましい。添加した重合開始剤が開裂して開始剤ラジカルが発生し、これがイオン性重合性界面活性剤の重合性基や重合性モノマーの重合性基を攻撃することによって重合反応が起こる。重合温度及び重合反応時間は、用いる重合開始剤の種類及び重合性モノマーの種類によって変わるが、当業者であれば適宜好ましい重合条件を設定することは容易にできる。一般に重合温度は60℃〜90℃の範囲とするのが好ましく、重合時間は3時間〜10時間とするのが好ましい。
【0110】
上記(3)の工程で行われる(乳化)重合反応は、イオン性重合性界面活性剤を用いて行っているため、混合液の乳化状態は乳化剤を用いなくても良好な場合が多い。したがって、必ずしも乳化剤を用いる必要はないが、必要に応じて公知のアニオン系、ノニオン系、及びカチオン系乳化剤からなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることもできる。
【0111】
上記(3)の工程後(重合終了後)は、得られたカプセル化物の水性分散液のpHを調整する。pHは、イオン性重合性界面活性剤Bとしてアニオン性重合性界面活性剤を使用した場合は好ましくは7.0〜9.0の範囲に調整し、カチオン性重合性界面活性剤を使用した場合は好ましくは4.0〜6.0の範囲に調整する。
pH調製後に、粗大粒子をメンブレンフィルター等で除去し、カプセル化物の製造に使用したモノマー(イオン性重合性界面活性剤A及びB、イオン性モノマー、疎水性モノマー等)に由来する未反応モノマー(反応に使用されなかったモノマーや重合性化合物等の副生成物)や塩類等を限外濾過や遠心分離濾過等によって除去し、これらの含有率を低減することが好ましい。特に上記の未反応モノマーの量は、水性分散液中に50,000ppm以下であることが好ましく、10,000ppm以下であることがより好ましい。未反応モノマーの量は、既知濃度の未反応モノマーを含む試料を対象として、測定試料のガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーを用いて容易に測定することができる。
【0112】
以上の工程を経て得られるカプセル化物の水性分散液においては、カプセル化物は水性溶媒に対して高い分散安定性を有する。この理由は、顔料粒子がポリマーを主成分とする壁材で完全に被覆されている(被覆されていない部分がない)とともに、壁材のポリマーにおける親水性基が水性溶媒に向かって規則正しく配向しているためであると考えられる。
【0113】
(カプセル化物の粒子径等)
以下に、本発明に係るカプセル化物の粒子径等について説明する。
【0114】
カプセル化物の体積平均粒子径は、400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることが更に好ましく、20nm〜200nmであることが特に好ましい。カプセル化物の体積平均粒子径の制御は、各種重合成分の添加量、反応混合液の攪拌状態等を適宜調節することによって行うことができる。
【0115】
また、カプセル化物のアスペクト比(長短度)は1.0〜1.3であり、かつ、Zingg指数は、1.0〜1.3(より好ましくは1.0〜1.2)であることが好ましい。
ある粒子の短径をb、長径をl、厚みをt(l≧b≧t>0)とした場合、アスペクト比(長短度)はl/b(≧1)、扁平度はb/t(≧1)であり、Zingg指数=長短度/扁平度=(l・t)/b2である。即ち、真球は、アスペクト比が1であり、かつ、Zingg指数が1となる。
Zingg指数が1.3より大きくなると、カプセル化物がより扁平形状となって等方性が低くなる。アスペクト比及びZingg指数を上記範囲内とする方法としては特に限定されないが、表面に電荷を有する顔料粒子が、上述した本発明に係る乳化重合法によりポリマーで被覆されたカプセル化物は、この条件を容易に満たし得る。
【0116】
尚、酸析法や転相乳化法等の、上述した本発明に係るカプセル化物の製造方法(本発明に係る乳化重合法)以外の方法では、カプセル化物のアスペクト比及びZingg指数が上記範囲内になり難い。
これに対し、上述した本発明に係る乳化重合法によって得られるカプセル化物は、アスペクト比及びZingg指数が上記の範囲となり、真球状となるため、インク成分として使用した場合、インクの流動特性がニュートニアンとなりやすく、吐出安定性に優れたものとなる。また、真球状であることから、紙等の記録媒体に着弾した場合にカプセル化物が記録媒体上に高密度で配置され、印刷濃度や発色を高効率で発現することができる。また、真球状であることから、分散性や分散安定性にも優れる。
【0117】
また、本発明のカプセル化物の成膜性、壁材の強度、耐薬品性、耐水性、耐光性、耐侯性、光学特性、その他の物理特性及び化学特性は、壁材の主成分であるポリマーの組成、構造等を適切に制御することによって、カプセル化物の用途に適したものとすることが可能である。
特に、カプセル化物をインクジェット記録用インクに添加した場合におけるカプセル化物(顔料粒子)の洗濯堅牢性、ドライクリーニング性は、壁材の主成分であるポリマー(共重合体)のガラス転移温度(Tg)によって制御可能である。
【0118】
一般に、高分子固体、特に無定形高分子固体において、温度を低温から高温へ上げていくと、わずかな変形に非常に大きな力の要る状態(ガラス状態)から小さな力で大きな変形が起こる状態へと急変する現象が起こるが、この現象の起こる温度をガラス転移温度(又はガラス転移点)という。一般には、熱走査型熱量計(Differential scanning calorimeter)による昇温測定によって得られた示差熱曲線において、吸熱ピークの底部から吸熱の開始点に向かって接線を引いたときのベースラインとの交点の温度がガラス転移温度とされる(本明細書におけるTgは、この定義に従ったものである)。また、ガラス転移温度では弾性率、比熱、屈折率などの他の物性も急激に変化することが知られており、これらの物性を測定することによってもガラス転移温度が決定されることが知られている。さらに共重合体を合成する際に使用したモノマーの重量分率と当該モノマーを単独重合して得られるホモポリマーのガラス転移温度とから下記Foxの式によりガラス転移温度を計算することができる。
【0119】
【数1】

上記式中、Tg[p]は得られるポリマーのガラス転移温度、iは種類の異なるモノマーごとに付した番号、Tg[hp]iは重合に用いるモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度、xiは重合するモノマーの重量総計に対するモノマーiの重量分率を表す。
【0120】
即ち、カプセル化物の置かれた温度環境が、該カプセル化物の壁材を構成する共重合体のガラス転移温度よりも高い場合には、この共重合体は小さな力で大きな変形が起こる状態となり、さらに融点に達すると溶融する。このとき、近傍に他のカプセル化物が存在するとカプセル化物同士が融着して成膜する。また、融点まで環境温度が達しない場合であっても、カプセル化物同士が強い力によって接触するような場合は、各カプセル化物を被覆している共重合体分子同士が絡み合うことが可能となるような条件が整えば、カプセル化物を覆う共重合体(コポリマー)同士は融着することもある。
【0121】
顔料粒子を包含するカプセル化物を含有するインク組成物を用いて布帛等の記録媒体に印字した場合に、該カプセル化物が室温でより好ましく成膜し、顔料粒子(カプセル化物)の定着性について良好な結果を得るためには、壁材の主成分である上記ポリマーのガラス転移温度が、好ましくは100℃〜200℃および、0℃〜60℃の範囲内である。ガラス転移温度を100℃〜200℃にすることで、十分な機械的強度、耐熱性、耐溶剤性を得ることができ、0℃〜60℃にすることで、十分な耐溶剤性を得ることができる。
【0122】
[水溶性有機溶剤]
【0123】
本発明に用いられる水溶性有機溶剤としては、この種のインク組成物に用いられるものは特に制限無く使用できる。特に、インク組成物に保水性と湿潤性を付与する観点から、沸点が180℃以上、好ましくは200℃以上の高沸点水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。該高沸点水溶性有機溶剤の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、分子量2,000以下のポリエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。インク組成物に高沸点水溶性有機溶媒を添加することにより、開放状態(室温でインク組成物が空気に触れている状態)で放置しても、流動性と再分散性とを長時間維持できるインクジェット記録用インクを得ることができる。さらに、このようなインク組成物は、インクジェットプリンタを用いての印字中もしくは印字中断後の再起動時に、インクジェットノズルの目詰まりが生じ難くなるため、インクジェットノズルからの高い吐出安定性を有するインク組成物が得られる。
【0124】
これらの高沸点水溶性有機溶剤を含めた水溶性有機溶剤の合計の含有量は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは10重量%〜50重量%程度であり、より好ましくは10重量%〜30重量%である。
【0125】
[その他のインク成分]
本発明のインク組成物には、さらに2−ピロリドン,N−メチルピロリドン,ε−カプロラクタム,ジメチルスルホキシド,スルホラン,モルホリン,N−エチルモルホリン,及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等からなる群から選ばれる一種以上の極性溶媒を添加することができる。極性溶媒を添加することにより、インク組成物中におけるカプセル化物粒子の分散性が向上するという効果が得られ、インクの吐出安定性を良好にすることができる。
これらの極性溶媒の含有量は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは0.1重量%〜20重量%であり、より好ましくは1重量%〜10重量%である。
【0126】
本発明のインク組成物は、水性溶媒が記録媒体に浸透することを促進する目的で、浸透剤をさらに含有することが好ましい。水性溶媒が記録媒体に素早く浸透することによって、画像の滲みが少ない記録物を得ることができる。このような浸透剤としては、多価アルコールのアルキルエーテル(グリコールエーテル類ともいう)及び/又は1,2−アルキルジオールが好ましく用いられる。多価アルコールのアルキルエーテルとしては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等が挙げられる。1,2−アルキルジオールとしては、例えば1,2−ペンタンジオール、及び1,2−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらの他に、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、及び1,8−オクタンジオール等の直鎖炭化水素のジオール類を挙げることができ、これらから適宜選択して本発明のインク組成物に用いることができる。
【0127】
特に、本発明の実施形態においては、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ペンタンジオール、及び1,2−ヘキサンジオールから選ばれる少なくとも1種を浸透剤として用いることが好ましい。
【0128】
これらの浸透剤の含有量は、インク組成物の全重量に対して、総量で、好ましくは1重量%〜20重量%、さらに好ましくは1重量%〜10重量%である。浸透剤の含有量を1重量%以上にすることによって、インク組成物の記録媒体への浸透性を向上する効果が得られ、さらに20重量%以下にすることにより、このインク組成物を用いて印刷した画像に滲みが発生することを防止でき、またインク組成物の粘度があまり高くならないようにすることができる。また、特に、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール等の1,2−アルキルジオールをインク組成物に用いた場合、印刷後のインク組成物の乾燥性が良好になり、かつ、画像の滲みを少なくすることができる。
【0129】
また、本発明のインク組成物にグリセリンを含有させることにより、そのインク組成物をインクジェット記録に用いた場合のインクジェットノズルの目詰まりが発生しにくくなり、さらにインク組成物の保存安定性を高めることもできる。
また、本発明のインク組成物にグリコールエーテル類を用いる場合には、グリコールエーテル類とあわせて、後述するアセチレングリコール系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0130】
また、本発明のインク組成物は、界面活性剤、特にアニオン性界面活性剤及び/又はノニオン性界面活性剤を含むことが好ましい。アニオン性界面活性剤の具体例としては、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタリンスルホン酸、アシルメチルタウリン酸、ジアルキルスルホ琥珀酸、アルキル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、及びアルキルザルコシン塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、モノグリセライトリン酸エステル塩などが挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、グリセリンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、シュガーアルキルエステル、多価アルコールアルキルエーテル、アルカノールアミン脂肪酸アミドなどが挙げられる。
【0131】
より具体的には、アニオン性界面活性剤としてはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩などが挙げられ、ノニオン性界面活性剤の具体例としてはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系化合物、並びにポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、及びポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系化合物等を挙げることができる。
【0132】
特に、本発明の実施形態に係るインク組成物は、界面活性剤としてアセチレングリコール系界面活性剤及び/又はアセチレンアルコール系界面活性剤を含むことが望ましい。これにより、インク組成物に含まれる水性溶媒が記録媒体へ浸透しやすくなるため、種々の記録媒体に対して滲みの少ない画像を印刷できる。アセチレングリコール系界面活性剤として市販されている市販品を利用することも可能であり、具体例としては、サーフィノール104、82、465、485、104PG50及びTG(いずれも商品名、Air Products and Chemicals. Inc.より入手可能)、並びにオルフィンSTG及びオルフィンE1010(以上商品名、日信化学社製)が挙げられる。また、アセチレンアルコール系界面活性剤としては、サーフィノール61(商品名、Air Products and Chemicals. Inc.より入手可能)等が挙げられる。
これらのアセチレングリコール系界面活性剤及び/又はアセチレンアルコール系界面活性剤は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは0.01重量%〜10重量%の範囲、さらに好ましくは0.1重量%〜5重量%の範囲になるように用いることが好ましい。
【0133】
前述したように、本発明に係るカプセル化物において、顔料粒子が、架橋性モノマーから誘導された架橋構造を有するポリマー、上記一般式(1)で表されるモノマーから誘導された繰り返し構造単位を有するポリマー、あるいは両者をその構造に有するポリマーを主成分とするカプセル壁材で被覆されたものである場合は、高い機械的強度、耐熱性、及び耐溶剤性を有するものの、ポリマーの可塑性が不十分となって、顔料粒子の記録媒体への定着性や耐擦性が低下する傾向にある。しかし、上記の特性を有するポリマー微粒子と併用することにより、定着性や耐擦性を補うことができる。
【0134】
本発明のインク組成物に使用するポリマー微粒子は、表面に本発明に係るカプセル化物表面のイオン性基と同種のイオン性基を有し、ガラス転移温度が−10℃〜−50℃の範囲内で、体積平均粒子径が10nm〜100nmであることが好ましい。上記ポリマー微粒子は成膜性を有するものであって、当該ポリマー微粒子を含んだ本発明のインク組成物で、布帛等の記録媒体に印刷すると、インク組成物中の溶媒成分(水を含む)が記録媒体中に浸透し、ポリマー微粒子とカプセル化物粒子とが近接し、ポリマー微粒子がカプセル化物粒子を包み込んでポリマーの皮膜を形成する。このポリマーの皮膜によって、インク中のカプセル化物はより強固に記録媒体表面に固着することができることから、非常に優れた耐擦性や洗濯堅牢性を有する画像を形成することができる。
【0135】
上記ポリマー微粒子が良好な成膜性を有するには、そのポリマーのガラス転移温度は上述したように−10℃〜−50℃の範囲内であることが好ましい。ポリマーのガラス転移温度は、使用するモノマーの種類や組成比を適宜選択することによって調節することができる。本発明において、ポリマーのガラス転移温度としては、熱走査型熱量計(Differential scanning calorimeter:DSC)による昇温測定によって得られたガラス転移温度を用いた。
また、上記ポリマー微粒子は、本発明に係るカプセル化物粒子とインク組成物中に共存しても凝集することなく、安定な分散状態が得られる。
【0136】
本発明のインク組成物に用いる上記ポリマー微粒子は、公知の乳化重合法によって製造することができる。たとえば、不飽和ビニル単量体(不飽和ビニルモノマー)を重合開始剤、及び乳化剤を存在させた水中において乳化重合することによってポリマー微粒子を得ることができる。不飽和ビニル単量体は、前述の疎水性モノマーと同様のものを使用することができる。また、イオン性基を有する不飽和ビニル単量体は、前述のイオン性モノマーと同様のものが使用できる。また、ポリマー微粒子を製造する際に用いる重合開始剤、乳化剤、界面活性剤、分子量調整剤、及び中和剤等は公知の方法に準じて用いる。特に、乳化剤として前述したアニオン性重合性界面活性剤を用いると、アニオン性重合性界面活性剤がモノマーと共重合することから、液中の乳化剤量が微量となり、それに伴って液の泡立ちが抑えられて、インク組成物の吐出安定性がさらに高まる。また、本発明のカプセル化物に使用したアニオン性重合性界面活性剤と同じものを使用した場合には、分散安定性及び保存安定性が特に優れたものとなる。
【0137】
本発明のインク組成物に上記ポリマー微粒子を用いる場合、ポリマー微粒子は微粒子粉末として用いることもできるが、好ましくは、水媒体にポリマー微粒子が分散されたポリマーエマルジョンの形態で、インク組成物に含有される他の成分と混合することが好ましい。インク組成物中に含まれるポリマー微粒子の量は、インク組成物の総重量に対して0.1重量%〜10重量%程度が好ましく、0.5重量%〜5重量%程度であることがさらに好ましい。
【0138】
また、本発明のインク組成物は、pH調整剤を含有することができる。芯物質である顔料粒子や上記ポリマー微粒子表面がアニオン性基を有する場合には、インク組成物のpHを7〜11、より好ましくは8〜9に調整することが好ましく、pH調整剤としては塩基性化合物を用いることが好ましい。また、顔料粒子やポリマー微粒子表面がカチオン性基を有する場合には、インク組成物のpHを5〜7、より好ましくは6〜7に調整することが好ましく、pH調整剤としては酸性化合物を用いることが好ましい。pH調整剤として好ましい塩基性化合物は、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、フタル酸水素カリウム、及び酒石酸水素カリウムなどのアルカリ金属塩類;アンモニア;並びに、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロペノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モルホリン、及びプロパノールアミンなどのアミン類などが挙げられる。
これらの中でも、水酸化アルカリ化合物又はアミンアルコールをインク組成物に添加すると、アニオン性基を有する顔料粒子のインク中での分散安定性を向上させることができる。
【0139】
また、防カビ、防腐、又は防錆の目的で、安息香酸、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ベンチアゾリン−3−オン〔製品名:プロキセルXL(アビシア社製)〕、及び3,4−イソチアゾリン−3−オン、4,4−ジメチルオキサゾリジン等から選ばれる一種以上の化合物を本発明のインク組成物に添加することができる。
また、インクジェット記録ヘッドのノズルが乾燥することを防止する目的で、尿素、チオ尿素、及びエチレン尿素等なる群から選ばれる少なくとも一種を本発明のインク組成物に添加することもできる。
【0140】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0141】
〔実施例1〕
「アニオン性基を表面に有するカプセル化物MC1の製造」
顔料色材(顔料粒子)であるC.I.ピグメントブルー15:3 20gを、アニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬(株)製)5gと、イオン交換水200gと混合し、アイガーモーターミルM250型(アイガージャパン(株)製)でビーズ充填率70%及び回転数5000rpmの条件下で2時間分散した。
次いで、得られた分散液に、カチオン性親水性モノマーとしてメタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライドを1.5g添加して混合した後、超音波を30分間照射して処理した。次いで、ベンジルメタクリレート2gと、ジシクロペンタニルメタクリレート16gと、ラウリルメタクリレート2gとを混合して加え攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解させておいた、アニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬(株)製)5.5gを添加し、再び超音波を30分間照射して処理した。これを攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調整器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水20gに重合開始剤として過硫酸カリウム0.6gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら80℃で6時間重合した。重合終了後、2mol/lの水酸化カリウム水溶液でpH8に調整し、孔径1μlのメンブレンフィルターで濾過を行い粗大粒子を除去して、顔料粒子がポリマーを主成分とする壁材によって被覆された、カプセル化物MC1を得た。また、得られたカプセル化物を室温で乾燥させて固形物をえ、この固形物を示差走査熱量計EXSTAR6000DSC(エスアイアイナノテクノロジー社製)を用いて熱分析を行いカプセル化物の被服ポリマーのガラス転移温度を求めたところ、115.6℃であった。
【0142】
〔実施例2〕
「アニオン性基を表面に有するカプセル化物MC2の製造」
上記実施例1と同様の方法で、顔料粒子がポリマーを主成分とする壁材によって被覆された、カプセル化物MC2を得た。被服ポリマーの被服ポリマーのガラス転移温度を求めたところ、28.2℃であった。
【0143】
〔実施例3〕
「アニオン性基を表面に有するカプセル化物MC3の製造」
上記実施例1において、顔料色材(顔料粒子)をC.I.ピグメントレッド122に変更した以外は同様の方法で、顔料粒子がポリマーを主成分とする壁材によって被覆された、カプセル化物MC3を得た。被服ポリマーの被服ポリマーのガラス転移温度を求めたところ、137.1℃であった。
【0144】
〔実施例4〕
「アニオン性基を表面に有するカプセル化物MC4の製造」
上記実施例3と同様の方法で、顔料粒子がポリマーを主成分とする壁材によって被覆された、カプセル化物MC4を得た。被服ポリマーの被服ポリマーのガラス転移温度を求めたところ、52.8℃であった。
【0145】
〔比較例1〕
「アニオン性基を表面に有するカプセル化物MC5の製造」
上記実施例1と同様の方法で、顔料粒子がポリマーを主成分とする壁材によって被覆された、カプセル化物MC5を得た。被服ポリマーの被服ポリマーのガラス転移温度を求めたところ、84.1℃であった。
【0146】
〔比較例2〕
「アニオン性基を表面に有するカプセル化物MC6の製造」
上記実施例2と同様の方法で、顔料粒子がポリマーを主成分とする壁材によって被覆された、カプセル化物MC6を得た。被服ポリマーの被服ポリマーのガラス転移温度を求めたところ、77.4℃であった。
【0147】
〔比較例3〕
「アニオン性基を表面に有するカプセル化物MC7の製造」
上記実施例3と同様の方法で、顔料粒子がポリマーを主成分とする壁材によって被覆された、カプセル化物MC7を得た。被服ポリマーの被服ポリマーのガラス転移温度を求めたところ、10.1℃であった。
【0148】
〔比較例4〕
「アニオン性基を表面に有するカプセル化物MC8の製造」
上記実施例4と同様の方法で、顔料粒子がポリマーを主成分とする壁材によって被覆された、カプセル化物MC8を得た。被服ポリマーの被服ポリマーのガラス転移温度を求めたところ、−2.6℃であった。
【0149】
〔製造例及び比較例〕
「インク組成物の作製」
下記表1に示す組成に基づいて、実施例及び比較例のインク組成物を作製した。尚、下記表1において、カプセル化物の添加量は固形分濃度で示した。
【0150】
【表1】

【0151】
〔評価試験〕
上記各インク組成物について、吐出安定性、分散安定性、洗濯堅牢性、ドライクリーニング性をそれぞれ下記評価方法により評価した。これらの結果を下記表2に示す。
【0152】
(吐出安定性)
各インク組成物をインクジェットプリンタEM−930C(セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに充填し、普通紙(Xerox4024、Xerox社製)1000枚に吐出させて、吐出安定性を確認した。そのときの吐出性が問題ないものをA、吐出性に不具合があるものをBとした。
【0153】
(分散安定性)
各インク組成物をガラス瓶に入れ密栓後、60℃で2週間放置して、放置前後におけるインク組成物の物性値(粘度、表面張力)の変動程度を評価し、放置前後の物性値に変化がみられないものをA(分散安定性良好)、放置前後の物性値に変化がみられるものをBとした。
【0154】
(洗濯堅牢性)
この試験は、「洗濯に対する染色堅牢度試験法(JIS L 0844)」のA−2号に従って実施した。
【0155】
(ドライクリーニング性)
この試験は、「ドライクリーニングに対する染色堅牢度試験法(JIS L 0860)」のA法に従って実施した。
【0156】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】アニオン性基を表面に有する顔料粒子が、水性溶媒に分散するとともに、カチオン性重合性界面活性剤及び/又はカチオン性親水性モノマーと、アニオン性重合性界面活性剤とに対して共存している状態を示す模式図。
【図2】図1に示す分散状態において、カチオン性重合性界面活性剤及び/又はカチオン性親水性モノマーと、アニオン性重合性界面活性剤とが重合した状態を示す模式図。
【符号の説明】
【0158】
1…顔料粒子、2…カチオン性重合性界面活性剤(イオン性重合性界面活性剤A)及び/又はカチオン性親水性モノマー(イオン性モノマー)、3…アニオン性重合性界面活性剤(イオン性重合性界面活性剤B)、11…カチオン性基、12,12’…疎水性基、13,13’…重合性基、14,14’…アニオン性基、60…壁材、100…カプセル化物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に電荷を有する顔料粒子がポリマーを主成分とする壁材によって被覆されたカプセル化物と、水溶性有機溶剤と、水とを含有するインク組成物であって、
前記カプセル化物を構成するポリマーのガラス転移温度が異なる2種類以上のカプセル化物を用い、前記ポリマーは、下記(I)及び(II)を有することを特徴とするインク組成物。
(I)前記顔料粒子の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Aから誘導された繰り返し構造単位、及び/又は、前記顔料粒子の表面の電荷と反対の電荷を有するイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位。
(II)前記顔料粒子の表面の電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bから誘導された繰り返し構造単位。
【請求項2】
前記カプセル化物を構成するポリマーのガラス転移温度が、100℃〜200℃の範囲内および、0℃〜60℃の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記ポリマーが、疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位、架橋性モノマーから誘導された繰り返し構造単位、及び下記一般式(1)で表される化合物から誘導された繰り返し構造単位からなる群から選択される1種以上を更に有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインク組成物。
【化1】

【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の前記カプセル化物を含有することを特徴とするインク組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−203407(P2009−203407A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49301(P2008−49301)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】