説明

インジウム−錫ナノワイヤおよびインジウム−錫酸化物ナノワイヤの製造方法と得られるインジウム−錫ナノワイヤおよびインジウム−錫酸化物ナノワイヤ

【課題】従来からの問題を是正した、インジウムナノワイヤに錫を所定量、均一に固溶させたインジウム−錫ナノワイヤ、およびこのインジウム−錫ナノワイヤを酸化して形成するインジウム−錫酸化物(ITO)ナノワイヤの提供と、このインジウム−錫ナノワイヤとインジウム−錫酸化物(ITO)ナノワイヤを簡便にかつ安価に製造する製造方法を提供する。
【解決手段】インジウムのサブハライドを主成分とする粒子を含み、錫化合物が溶解され、かつ酸が添加された非水系溶媒中に、開始剤を加えて不均化反応させることによりインジウム−錫ナノワイヤを得ることを特徴とするインジウム−錫ナノワイヤの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウム−錫ナノワイヤおよびインジウム−錫酸化物ナノワイヤの製造方法、並びにその製造方法により得られるインジウム−錫ナノワイヤおよびインジウム−錫酸化物ナノワイヤに関するものである。より詳しくは、ナノサイズの平均太さを有し、かつ、平均太さに対する平均長さの比(以下、アスペクト比と称す)が20以上のワイヤ形状を有し、例えば各種透明導電膜の導電フィラーやナノ配線等に適用可能となるインジウム−錫ナノワイヤおよびインジウム−錫酸化物ナノワイヤ(以下、インジウム−錫ナノ繊維やインジウム−錫酸化物ナノ繊維とも記すことがある)を簡便かつ安価に製造できる製造方法と得られるインジウム−錫ナノワイヤおよびインジウム−錫酸化物ナノワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、透明電極等に適用される透明導電膜は、バインダーを含む溶剤中に導電フィラーが分散された透明導電塗料を塗布することにより形成される。そして、透明導電塗料の導電フィラーとして、従来、インジウム−錫酸化物、錫−アンチモン酸化物等の酸化物系フィラーが用いられており、最近では、例えば、特許文献1にあるように、金や銀のナノロッドやナノワイヤを用いる方法も提案されている。
【0003】
ところで、金属インジウムはそのままでも導電体であるが、酸化すれば酸化インジウムになり、更に錫がドープされれば透明導電材料として有名なインジウム−錫酸化物(以下、ITOと記す場合がある)となるため、アスペクト比の大きいインジウムのナノワイヤが得られれば、各種透明導電塗料のフィラーとしての活用が期待できる。
しかし、従来の上記金属ナノワイヤでは、水溶液中で還元されやすい貴金属等に限られており、これまで酸素との結合力が比較的強いインジウムに関しては、ナノワイヤは得られていなかった。
【0004】
また、上記金ナノロッド等のように、ワイヤと呼べないようなアスペクト比の小さい金属ナノワイヤや、単に鎖状に連なっただけの金属微粒子では、アスペクト比の大きいナノワイヤに見られるような優れた導電特性が得られないため、上記インジウムに関しても、アスペクト比が大きく、好ましくは粒界のない単結晶のナノワイヤが望まれていた。
【0005】
一方、特許文献2においては、金属ワイヤを、熱処理中、所定の捩り速度で螺旋状に捩り、螺旋ターンを螺旋長手方向に対して20°〜58°の傾斜角にすることにより、ワイヤに98%を超える程度まで一様な塑性変形を施す工程と、得られたワイヤをクリーニングして、多結晶金属残留物を除去する工程とを有する、細い単結晶金属ワイヤの製造方法が提案されている。
【0006】
この方法では、1本のワイヤを降伏状態でその長手方向軸線回りに捩じることにより、98%よりも高い変形率のワイヤの剪断塑性変形を行い、フィラメント状単結晶が形成されることを利用している。単結晶フィラメントをニッケル、鉄、銅、アルミニウム、インジウム等の金属から製造するためには、捩り工程を冷却と共に実施すべきであり、インジウムワイヤについては−170℃〜−200℃の冷却が必要であることが記載されている。
【0007】
しかしながら、この特許文献2の実施例においては、タングステン、銅、鋼、モリブデン、鉄の単結晶ワイヤについて、直径1.3〜4μmのものの製造例が記載されているだけで、明細書中の[技術分野]の項目に「直径0.01〜5μmの細い単結晶金属ワイヤ」、[発明が解決しようとする課題]の項目に「直径0.1〜5μmの細いフィラメント」という記載はあるものの、直径1μm以下、特に0.1μm以下のナノワイヤを製造できるという根拠は全く記載されていない。
【0008】
また、インジウムワイヤにおいて、その直径に関しては、実施例を含めて全く記載がない。従って、特許文献2では、例えば直径0.1μm程度のインジウムワイヤの製造を開示するものとはいうことができない。
しかも、特許文献2の製造方法で得られる単結晶金属ワイヤは、一本の繋がったワイヤであり、ワイヤ状の微粒子ではないため分散性の良い状態で得られるとはいえず、量産性も乏しく、透明導電塗料のフィラーとして好ましいとはいえなかった。
【0009】
上記課題を解決する方法として、インジウム系ナノワイヤ、酸化物ナノワイヤおよび導電性酸化物ナノワイヤが提案されている(特許文献3参照)。ここで、ドーパントを添加する方法としては、インジウムのサブハライド微粒子に、錫、亜鉛、ジルコニウム、チタン、ゲルマニウム、タングステン、アルミニウムのいずれか一つ以上のドーパント金属の化合物、例えばドーパント金属のハライドを含有させて、上記不均化反応による金属インジウムを主成分とするナノワイヤの形成の際に、ドーパント金属成分をインジウム系ナノワイヤに取り込む方法が開示されている。
しかし、この方法では原料となるドーパント金属の配合量に対して、得られるインジウム系ナノワイヤに添加されたドーパント金属の量が少なくなる傾向にあり、その量を一定とすることが容易でないため、添加量の制御が困難であった。
【0010】
また、特許文献3には、インジウムナノワイヤに各種ドーパント塩の溶液を添加し、還元処理などを行うことによりインジウムナノワイヤにドーパントの金属、あるいはその化合物をコーティングし、焼成する方法が開示されている。しかし、この方法では焼成時にナノワイヤ表面からドーパント金属が内部に拡散していくため、均一な固溶体を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−238503号公報
【特許文献2】特表2005−506270号公報
【特許文献3】国際公開WO2007−055422
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来の問題点を是正するためになされるもので、インジウムナノワイヤに錫を所定量、均一に固溶させたインジウム−錫ナノワイヤおよびそのインジウム−錫ナノワイヤを酸化することにより形成されるインジウム−錫酸化物ナノワイヤを簡便かつ安価に製造する方法、並びにその製造方法により得られるインジウム−錫ナノワイヤ、およびインジウム−錫酸化物(ITO)ナノワイヤを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、インジウムのサブハライドを主成分とする粒子と錫化合物を反応させる際、酸を添加した非水系溶媒中に開始剤を加えることで不均化反応させることにより、インジウムのサブハライドにより該錫化合物が還元され、その結果インジウムと錫が複合化したワイヤが得られ、このインジウムと錫が複合化したワイヤは、金属インジウムを主成分として錫が所定量、均一に添加されることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明は、インジウムのサブハライドを主成分とする粒子を含み、錫化合物が溶解され、かつ酸が添加された非水系溶媒中に、開始剤を加えて不均化反応させることによりインジウム−錫ナノワイヤを得ることを特徴とするインジウム−錫ナノワイヤの製造方法である。
【0015】
本発明の第2の発明は、前記インジウムのサブハライドを主成分とする粒子が、前記非水系溶媒中で不均化反応させる前に、予め微粉砕されていることを特徴とする第1の発明に記載のインジウム−錫ナノワイヤの製造方法である。
【0016】
本発明の第3の発明は、第1または第2の発明おいて、前記インジウムのサブハライドがサブクロライドであることを特徴とするインジウム−錫ナノワイヤの製造方法である。
【0017】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明において、前記錫化合物が2価の錫塩であることを特徴とするインジウム−錫ナノワイヤの製造方法である。
【0018】
本発明の第5の発明は、第1から第4の発明において、前記酸が有機酸であることを特徴とするインジウム−錫ナノワイヤの製造方法である。
【0019】
本発明の第6の発明は、第1から第5の発明において、前記酸の添加量が錫化合物に対するモル比で錫化合物:酸=1:3以上であることを特徴とするインジウム−錫ナノワイヤの製造方法である。
【0020】
本発明の第7の発明は、第1から第6の発明において、前記非水系溶媒中に高分子分散剤が含まれていることを特徴とするインジウム−錫ナノワイヤの製造方法である。
【0021】
本発明の第8の発明は、前記第1から第7の発明のインジウム−錫ナノワイヤの製造方法で製造されることを特徴とするインジウム−錫ナノワイヤである。
【0022】
本発明の第9の発明は、第1から第8の発明に記載の製造方法で得られたインジウム−錫ナノワイヤを、酸素あるいはオゾン雰囲気中、もしくは酸素およびオゾン雰囲気中で、加熱酸化処理して錫の酸化物を含有したインジウム−錫酸化物ナノワイヤを得ることを特徴とするインジウム−錫酸化物ナノワイヤの製造方法である。
【0023】
本発明の第10の発明は、前記第9の発明の製造方法で得られることを特徴とするインジウム−錫酸化物ナノワイヤである。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るインジウム−錫ナノワイヤの製造方法は、インジウムのサブハライドを主成分とする粒子と錫化合物を混合し、酸を添加した非水系溶媒中に開始剤を加えることで不均化反応させて、錫を均一に含有するインジウム−錫ナノワイヤを得ることを特徴としており、例えば各種透明導電膜の導電フィラーやナノ配線等に適用可能となる。
【0025】
また、本発明の製造方法を用いれば、インジウム−錫ナノワイヤを簡便かつ安価に製造することが可能となる。さらに、上記の方法で得られたインジウム−錫ナノワイヤを、酸素あるいはオゾンを含む雰囲気中、または酸素およびオゾンを含む雰囲気中で加熱酸化処理すれば、インジウム−錫酸化物ナノワイヤを、簡便かつ安価に製造することができる。
これは各種透明導電塗料の導電フィラーとして活用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をより具体的に説明する。
本発明のインジウム−錫ナノワイヤの製造方法は、インジウムのサブハライド(サブハライドとは、低次のハロゲン化合物を意味する)を主成分とする粒子を含み、錫化合物が溶解され、かつ酸が添加された非水系溶媒中に開始剤を加えることで不均化反応させるものであり、酸が添加された状態で不均化反応を行うとインジウムのサブハライドにより該錫化合物が還元され、その結果インジウムと錫が複合化したワイヤが得られることを特徴としている。
【0027】
1.インジウム-錫ナノワイヤの製造方法
先ず、インジウム−錫ナノワイヤを得るためのインジウム−錫ナノワイヤの製造方法について以下に説明する。
本発明で用いるインジウムのサブハライドの不均化反応は下記式1で示される。式1で、XはCl、Br、I、mは1または2を示している。
【0028】
[式1]
3InX → (3−m)In+mInX
【0029】
ここで、錫の還元は下記式2で示され、式2において、XはCl、Br、Iを表わし、mは1または2を示している。
【0030】
[式2]
2InX+(3−m)SnX → (3−m)Sn+2InX
【0031】
1−(1).インジウムのサブハライド
インジウムのサブハライドは、インジウムの低次のハロゲン化合物を意味するもので、本発明に用いるインジウムのサブハライドとしては、作業性や反応生成物の取り扱いを考慮すると、サブクロライド(低次の塩化物)が好ましく、式1のmの値としては、不均化反応で還元されるインジウムの量が多くなるm=1が良い。従って、最も好ましいサブハライドは一塩化インジウム(InCl)である。
【0032】
本発明においては、上記不均化反応に先立ち、サブハライド粒子を、例えば、非水系溶媒中等で微粉砕処理することが好ましい。この微粉砕処理を行わないと、塊状のインジウム微粒子が混入しやすくなると同時に、得られるインジウム−錫ナノワイヤにおいてナノサイズのものの割合が低下する可能性が高くなるからである。
【0033】
この微粉砕処理に用いる粉砕装置は、特に限定されず、ペイントシェーカー、ビーズミル、ホモジナイザー等の市販の粉砕装置を用いれば良い。微粉砕処理によって、サブハライド粒子は、好ましくは、平均粒径が20〜80nm程度の粒径分布を有する微粒子となっていると良い。
【0034】
1−(2).錫化合物
錫化合物については、4価の錫化合物の場合は不均化反応を利用した還元反応が起こらず錫の添加が出来ないため、2価の錫化合物を用いる必要がある。
2価の錫化合物としては、2価の錫塩が好ましく、具体的には、塩化インジウムに合わせて塩化錫(SnCl)を用いるのが好ましい。
【0035】
1−(3).開始剤
本発明におけるインジウムのサブハライドの不均化反応は、インジウムのサブハライド微粒子を含む非水系溶媒に水分、または、水分以外にも、アルコールなどの一部の有機溶媒を加えることで不均化反応を起こすことができ、このような不均化反応を開始させる溶剤を、開始剤と呼ぶ。
この開始剤の種類や添加量により、その不均化反応の反応性は大きく異なり、ナノワイヤの生成に大きく影響する。開始剤の添加は、開始剤を滴下等により直接加えてもよいし、水分であれば、大気中で攪拌しながら溶媒表面から空気中の水分を吸収させて、徐々に反応を起こさせても良い。
【0036】
上記開始剤として用いることができる有機溶媒としては、不均化反応によりインジウム−錫ナノワイヤが得られれば良く、例えば以下に挙げる中から適宜選定することができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
[開始剤]
メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール(DAA)等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、エチレングリコールモノブチルエーテル(BCS)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール誘導体、ホルムアミド(FA)、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。
【0037】
1−(4).酸
インジウムのサブハライドを主成分とする粒子を含み、錫化合物が溶解された非水系溶媒中に、不均化反応を行う前に酸を添加し、酸が添加された状態で不均化反応を行うとインジウムのサブハライドにより該錫化合物が還元され、その結果、インジウムと錫が複合化したナノワイヤが得られるものである。
その時に、添加する酸の添加量は、錫化合物に対するモル比で錫化合物:酸=1:3以上、さらに好ましくは1:5以上であることが望ましい。これは酸の添加量が上記割合よりも少ないと、錫がナノワイヤ中に取り込まれにくくなり、ナノワイヤ中に含まれる錫の割合が減ってしまうためである。
【0038】
用いる酸としては、有機溶媒中で用いやすい有機酸を用いることが望ましい。有機酸としては、不均化反応で上記効果が得られれば良く、例えば以下に挙げる中から適宜選定することができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
[酸]
(a)脂式カルボン酸:ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸など;
(b)環式カルボン酸:安息香酸、フタル酸、サリチル酸など;
(c)スルホン酸類:メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸など;
(d)フェノール類:フェノール、ピクリン酸、タンニン酸など。
【0039】
1−(5).非水系溶媒
上記インジウムのサブハライド粒子を含む非水系溶媒は、不均化反応を起こさないことが求められる。したがって、非水系溶媒としては、例えば以下に挙げる有機溶媒中から適宜選定することができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
[非水系溶媒]
プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM−Ac)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−Ac)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のアセテート類、トルエン、キシレン、メシチレン、ドデシルベンゼン等のベンゼン誘導体等の有機溶媒が挙げられる。
【0040】
1−(6).高分子分散剤
不均化反応を行うに先立って、インジウムのサブハライドを主成分とする粒子を、上記非水系溶媒中で、予め微粉砕処理する場合には、そのインジウムのサブハライド微粒子を含む非水系溶媒中に、更に高分子分散剤を添加しても良い。高分子分散剤が含まれていると、上述の微粉砕処理が良好に行え、かつ、不均化反応時の金属インジウムのナノワイヤへの成長を助ける作用がある場合がある。
【0041】
添加する高分子分散剤の種類および添加量は、用いる非水系溶媒の種類や目的とするインジウム系ナノワイヤのサイズ(太さ、アスペクト比)に応じ適宜選択すればよく、高分子分散剤の添加量が多い程、得られるインジウム−錫ナノワイヤの太さは小さくなる傾向がある。
【0042】
1−(7).ろ過、洗浄
インジウムのサブハライドを主成分とする粒子を含み、錫化合物が溶解され、かつ酸が添加された非水系溶媒中に開始剤を加えることで不均化反応させて、インジウムのサブハライドにより該錫化合物が還元され、その結果インジウムと錫が複合化したインジウム−錫ナノワイヤが得られる。上記非水系溶媒中で生成したインジウム−錫ナノワイヤは徐々に沈降するため、ろ過してアルコール等で洗浄するか、またはデカンテーションして上澄みを捨ててアルコール等を再度加える操作で洗浄してから濾別して、さらに乾燥させて、本発明のインジウム−錫ナノワイヤを得ることができる。
【0043】
2.インジウム−錫酸化物ナノワイヤの製造方法
次に、上記方法で得られたインジウム−錫ナノワイヤを用いてインジウム−錫酸化物ナノワイヤを得る、インジウム−錫酸化物ナノワイヤの製造方法について以下に説明する。
本発明のインジウム−錫酸化物ナノワイヤの製造方法は、上記方法で得られたインジウム−錫ナノワイヤを、酸素あるいはオゾン雰囲気中、もしくは酸素およびオゾンを含む雰囲気中で加熱酸化処理してインジウム−錫酸化物ナノワイヤを得ることを特徴としている。
【0044】
酸素あるいはオゾン雰囲気中、もしくは酸素およびオゾン雰囲気中としては、大気中で加熱処理することも挙げられる。
加熱条件は、特に限定されないが、温度180〜220℃で60〜120分間加熱し、次いで、350〜600℃で60〜120分行うことが良い。また、昇温中に酸化による急激な発熱を抑えるため、酸素分圧を下げて昇温し、その後大気に切り変えて酸化させても良い。例えば、酸素分圧2%のガスを流しながら500〜750℃まで昇温し、その後、大気に切り替えて30〜120分焼成しても良い。
【0045】
得られたインジウム−錫酸化物ナノワイヤは、外観観察では薄い黄色の粉末であるが、インジウム−錫酸化物ナノワイヤとなっていることは、X線回折分析により容易に確認することができる。また、得られた酸化物ナノワイヤは、酸化する前のインジウム−錫ナノワイヤの形状をそのまま維持していることが確認されている。
【0046】
本発明で得られるインジウム−錫酸化物ナノワイヤは、更に、水素ガスやアルコールガス等と250〜400℃で接触させる還元処理(酸素空孔導入処理とも言う)を施して、その導電性を一層高めておくことが望ましい。
【0047】
3.インジウム−錫ナノワイヤおよびインジウム−錫酸化物ナノワイヤ
以上のように、本発明では、アスペクト比が大きいインジウム−錫ナノワイヤ及びインジウム−錫酸化物ナノワイヤが得られるが、その平均太さに対する平均長さの比(アスペクト比)が20以上、好ましくは50以上であることが望ましい。
【0048】
このナノワイヤの平均太さは、500nm以下、好ましくは200nm以下であることが好ましい。500nmを超えると、ナノワイヤとして期待される高い機能を発揮しづらくなるからである。
【0049】
また、ナノワイヤの平均長さは、本発明で規定したアスペクト比を満足する範囲において、1000μm以下、好ましくは500μm以下、更に好ましくは200μm以下であることが望ましい。1000μmを超えるとナノワイヤのサイズが大きすぎて、各種透明導電塗料の導電フィラーに適用した場合に、塗料中でナノワイヤが沈降しやすく分散安定性が悪化したり、塗料のろ過が一層困難になる等の取り扱い上の問題や、塗膜中でナノワイヤが不均一になり膜抵抗や膜表面の平滑性が悪化して膜機能が低下する問題等を生じるからである。
【0050】
ここで、インジウム−錫ナノワイヤは、単結晶構造を有していることが好ましい。インジウム−錫ナノワイヤが単結晶であると、ナノワイヤ中に結晶粒界がないため、電気特性や強度等を含め、他結晶よりも優れた機能を有することが可能となるからである。
【0051】
さらに、本発明のインジウム−錫ナノワイヤおよびインジウム−錫酸化物ナノワイヤは、上記インジウム−錫ナノワイヤおよびインジウム−錫酸化物ナノワイヤの製造方法を用いて得られるものであり、ナノサイズの平均太さを有し、かつ、平均太さに対する平均長さの比(アスペクト比)が20以上のワイヤ形状を有し、簡便かつ安価に製造できる製造方法から得られるため、各種透明導電塗料の導電フィラー等として用いるのに好適である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は必ずしもこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
42メッシュ(目開き:355μm)で篩った一塩化インジウム(InCl)粉末8gを非水系溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM−Ac)31gおよび高分子分散剤(EFKA製EFKA4300)1gと混合した後、直径0.3mmのジルコニアビーズを用い、ペイントシェーカーで微粉砕処理を行い平均粒径20〜80nm程度の粒径分布を示すInCl微粒子の分散液を得た。
【0054】
次に、二塩化錫(SnCl)2gをPGM−Ac98gに溶解した2%塩化錫溶液とした。また、サリチル酸2gをPGM−Ac98gに溶解した2%サリチル酸溶液を作製し、2%塩化錫溶液10gと2%サリチル酸溶液50gを混合し、サリチル酸含有塩化錫溶液とした(モル比;塩化錫:サリチル酸=1:6.9)。
【0055】
上記InCl微粒子の分散液25gと上記サリチル酸含有塩化錫溶液27g、PGM−Ac188gを混合し、攪拌しながら、開始剤としてイソプロピルアルコール(IPA)10gを加え、不均化反応を行い、実施例1に係るインジウム−錫ナノワイヤを含む反応液を得た。錫がすべてナノワイヤに入ると仮定した時のIn/Snの重量比は97.7/2.3である。
【0056】
この反応液中のインジウム−錫ナノワイヤは徐々に沈降するため、デカンテーション後、上澄み液を除去し、エタノールを加え攪拌する操作を繰り返し行い、反応液からインジウム−錫ナノワイヤ以外の反応生成物の除去を進めて、最終的にインジウム−錫ナノワイヤとエタノールからなるインジウム−錫ナノワイヤ含有エタノール液を得た。
このインジウム−錫ナノワイヤ含有エタノール液を濾別、乾燥して実施例1に係るインジウム−錫ナノワイヤを得た。
【0057】
得られたインジウム−錫ナノワイヤは、走査電子顕微鏡(SEM)観察の結果から、インジウム−錫ナノワイヤの平均太さは200nm(太さ:60〜500nmの分布あり)であり、長さは10〜50μm程度の分布があり、その平均太さに対する平均長さの比(アスペクト比)は20〜100程度の分布であった。
【0058】
また、X線マイクロアナライザ(EPMA)による面分析から、観察視野内でインジウムと錫のパターンや強度比が一致し、インジウムと錫が均一に複合化されていることを確認した。定性分析から、錫の添加量は1.8wt%であった。
【0059】
また、エネルギー分散型X線分光法(TEM−EDX)分析より、粒子内のSnの分布はほぼ一定であった。
【実施例2】
【0060】
実施例1で得られたインジウム−錫ナノワイヤを、大気中で200℃、30分加熱処理、その後、600℃、60分で加熱処理を行い、インジウム−錫ナノワイヤを酸化させて、実施例2に係るインジウム−錫酸化物ナノワイヤを得た。
【0061】
得られたインジウム−錫酸化物ナノワイヤは、薄い黄色の粉末で、走査電子顕微鏡(SEM)観察の結果から、酸化する前のインジウムナノワイヤの形状をそのまま維持していることを確認した。
【実施例3】
【0062】
0.1%塩酸溶液(IPAを10%含む水溶液)200gを作製し、実施例1で作製した2%塩化錫溶液6.1gと0.1%塩酸溶液161gを混合し、塩酸含有塩化錫溶液とした(モル比;塩化錫:塩酸=1:6.9)。
【0063】
実施例1で用いたInCl微粒子の分散液15g、塩酸含有塩化錫溶液167.1gとPGM−Ac553.9gを混合し、攪拌しながら、開始剤としてイソプロピルアルコール(IPA)14gを加え、実施例1と同様に不均化反応させ、その後洗浄、回収することにより、実施例3に係るインジウム−錫ナノワイヤを得た。錫がすべてナノワイヤに入ると仮定した時のIn/Snの重量比は95.0/5.0である。
【0064】
得られたインジウム−錫ナノワイヤは、走査電子顕微鏡(SEM)観察の結果から、インジウム−錫ナノワイヤの平均太さは200nm(太さ分布:60〜500nm)であり、長さは10〜50μm程度の分布があり、その平均太さに対する平均長さの比(アスペクト比)は20〜100程度の分布であった。
【0065】
実施例1と同様にEPMAによる面分析から、インジウムと錫が均一に複合化されていることを確認した。また定性分析から錫の添加量は4.7wt%であった。
【実施例4】
【0066】
実施例3で得られたインジウム−錫ナノワイヤを、2%酸素を含む窒素ガス中で600℃まで昇温し、その後600℃、60分加熱処理を行うことで錫およびインジウムを酸化させ、更に300℃でメタノール含有窒素ガスによる還元処理(酸素空孔導入処理)を施し、インジウム錫酸化物からなる実施例4に係るインジウム−錫酸化物ナノワイヤを得た。
【0067】
得られたインジウム−錫酸化物ナノワイヤは、薄い青色の粉末であり、X線回折分析の結果から酸化錫が酸化インジウムに固溶していることが確認された。また、走査電子顕微鏡(SEM)観察の結果から、酸化する前のインジウム−錫ナノワイヤの形状をそのまま維持していることを確認した。
【0068】
得られたインジウム−錫酸化物ナノワイヤの圧粉抵抗の測定は、上記インジウム−錫酸化物ナノワイヤをテフロンライニングされたダイスに入れて、9.8MPa/cmの荷重で加圧しながら圧粉体の抵抗値を測定することにより行った。
このインジウム−錫酸化物ナノワイヤの抵抗値は、圧粉抵抗(9.8MPa/cm=100kgf/cmで測定)で、0.1Ω・cmであった。
【0069】
(比較例1)
実施例1で作製したInCl微粒子の分散液15gと2%塩化錫溶液6.1gとPGM−Ac698.9gを混合し、攪拌しながら開始剤としてイソプロピルアルコール(IPA)30gを加え、不均化反応させ、その後実施例1と同様に洗浄、回収することにより、比較例1に係るインジウム−錫ナノワイヤを得た。錫がすべてナノワイヤに入ると仮定した時のIn/Snの重量比は95.0/5.0である。
【0070】
得られたインジウム−錫ナノワイヤは、走査電子顕微鏡(SEM)観察の結果から、インジウム−錫ナノワイヤの平均太さは200nm(太さ分布:60〜500nm)であり、長さは30〜200μm程度の分布があり、その平均太さに対する平均長さの比(アスペクト比)は60〜600程度の分布であった。
【0071】
また、EPMAによる面分析から錫の添加量は少なく、定性分析から錫の添加量は0.9wt%であった。これは、酸を添加せずに不均化反応を行ったため、錫の添加量が少なくなったことを示している。
【0072】
(比較例2)
実施例1で作製したInCl微粒子の分散液25gとPGM−Ac195gを混合し、攪拌しながら開始剤としてイソプロピルアルコール(IPA)30gを加え、不均化反応させ、その後実施例1と同様に洗浄し、エタノールを加えて100gにし、比較例2に係るインジウムナノワイヤを含むエタノール液を得た。
次に、二塩化錫(SnCl)0.2gを純水に溶解して50gにし、また水素化ホウ素ナトリウム0.04gを純水に溶かして50gにした液を用意し、先程のインジウムナノワイヤを含むエタノール液に添加、攪拌することによりインジウムナノワイヤ表面に錫のコーティングを行った。これを実施例1と同様に洗浄、回収することにより、錫コートインジウムナノワイヤを得た。
【0073】
得られた錫コートインジウムナノワイヤを大気中で、200℃、30分加熱処理、その後、600℃、120分加熱処理で焼成することにより錫を固溶させ、比較例2にかかるインジウム−錫酸化物ナノワイヤを得た。
得られたインジウム−錫酸化物ナノワイヤは、定性分析では錫の含有量は4.5wt%であったが、TEM−EDXで分析したところ、ナノワイヤ表面では錫の含有量が55wt%と高く、表面に錫が多く残留していた。
【0074】
(評価)
本発明のインジウム−錫ナノワイヤの製造方法で得られた実施例1のインジウム−錫ナノワイヤは、平均太さに対する平均長さの比(アスペクト比)は、20〜100程度のアスペクト比分布を持つワイヤ形状を有し、インジウムと錫が均一に複合化しているナノワイヤが得られていることがわかった。また、実施例3で得られたインジウム−錫ナノワイヤも、ワイヤ形状を有し、インジウムと錫が均一に複合化しているナノワイヤが得られていることがわかった。
【0075】
実施例1、3で得られたインジウム−錫ナノワイヤを、加熱処理を行い、インジウム−錫ナノワイヤを酸化させて得られた実施例2、4で得られたインジウム−錫酸化物ナノワイヤは、酸化する前のインジウム−錫ナノワイヤの形状をそのまま維持していることが確認された。
【0076】
一方、実施例に比較し、酸を加えずに不均化反応させた比較例1のインジウム−錫ナノワイヤは、酸が添加されていないため、錫の添加量も比較して少なくなっていた。このように錫の添加量が少ないため、高いアスペクト比が得られやすいInナノワイヤ寄りのアスペクト比が得られていると考えられる。
【0077】
また、比較例2の、錫コートインジウムナノワイヤを焼成することにより錫を、固溶させてインジウム−錫酸化物ナノワイヤを得たが、表面に錫が多く残留しており、錫の分布が本発明の実施例のインジウム−錫酸化物ナノワイヤに比較し不均一なものであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る金属インジウムを主成分とするインジウム−錫ナノワイヤは、平均太さが500nm以下で、その平均太さに対する平均長さの比が30以上と非常に大きく、例えば各種透明導電膜の導電フィラーやナノ配線等に適用できる。また、このインジウム−錫ナノワイヤまたはインジウム−錫酸化物ナノワイヤは導電性に優れるため、工業的に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムのサブハライドを主成分とする粒子を含み、錫化合物が溶解され、かつ酸が添加された非水系溶媒中に、開始剤を加えて不均化反応させることによりインジウム−錫ナノワイヤを得ることを特徴とするインジウム−錫ナノワイヤの製造方法。
【請求項2】
前記インジウムのサブハライドを主成分とする粒子が、前記非水系溶媒中で不均化反応させる前に、予め微粉砕されていることを特徴とする請求項1に記載のインジウム−錫ナノワイヤの製造方法。
【請求項3】
前記インジウムのサブハライドが、インジウムのサブクロライドであることを特徴とする請求項1または2に記載のインジウム−錫ナノワイヤの製造方法。
【請求項4】
前記錫化合物が、2価の錫塩であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインジウム−錫ナノワイヤの製造方法。
【請求項5】
前記酸が、有機酸であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインジウム−錫ナノワイヤの製造方法。
【請求項6】
前記酸の添加量が、前記錫化合物に対するモル比で錫化合物:酸=1:3以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のインジウム−錫ナノワイヤの製造方法。
【請求項7】
前記非水系溶媒中に高分子分散剤が含まれていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のインジウム−錫ナノワイヤの製造方法。
【請求項8】
前記請求項1から7のインジウム−錫ナノワイヤの製造方法で製造されることを特徴とするインジウム−錫ナノワイヤ。
【請求項9】
請求項1から8に記載の製造方法で得られたインジウム−錫ナノワイヤを、酸素あるいはオゾン雰囲気中、もしくは酸素およびオゾン雰囲気中で、加熱酸化処理して錫の酸化物を含有したインジウム−錫酸化物ナノワイヤを得ることを特徴とするインジウム−錫酸化物ナノワイヤの製造方法。
【請求項10】
前記請求項9の製造方法で得られることを特徴とするインジウム−錫酸化物ナノワイヤ。

【公開番号】特開2011−117051(P2011−117051A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277018(P2009−277018)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】