説明

インジウムターゲット及びその製造方法

【課題】異常放電の発生を良好に抑制することの可能なインジウムターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】インジウムターゲットは、ターゲット表面の算術平均粗さ(Ra)が1.6μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリングターゲット及びその製造方法に関し、より詳細にはインジウムターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウムは、Cu−In−Ga−Se系(CIGS系)薄膜太陽電池の光吸収層形成用のスパッタリングターゲットとして使用されている。
【0003】
従来、インジウムターゲットは、特許文献1に開示されているように、バッキングプレート上にインジウム合金等を付着させた後、金型にインジウムを流し込み鋳造することで作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−44820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この様な溶解鋳造法でインジウムターゲットを製造する場合、金型にインジウムを流し込み鋳造することで得られたインジウムインゴットは、表面加工を施さなければその表面に酸化膜が形成されてしまう。この酸化膜を除去するためにインゴット表面を研磨すると、インジウムが非常に柔らかい金属であるため、かえって表面が荒れてしまう。このようなインジウムターゲットの表面の荒れは、スパッタ時の異常放電発生の原因となっている。
【0006】
そこで、本発明は、異常放電の発生を良好に抑制することの可能なインジウムターゲット及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討したところ、溶解鋳造法で作製したインジウムターゲットの表面を切削加工することによって、ターゲット表面の算術平均粗さ(Ra)を1.6μm以下とし、好ましくは更にターゲット表面の十点平均粗さ(Rz)を15μm以下とすることにより、異常放電の発生を良好に抑制することができることを見出した。
【0008】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、ターゲット表面の算術平均粗さ(Ra)が1.6μm以下であるインジウムターゲットである。
【0009】
本発明に係るインジウムターゲットは一実施形態において、算術平均粗さ(Ra)が1.2μm以下である。
【0010】
本発明に係るインジウムターゲットは別の一実施形態において、ターゲット表面の十点平均粗さ(Rz)が15μm以下である。
【0011】
本発明に係るインジウムターゲットは更に別の一実施形態において、十点平均粗さ(Rz)が10μm以下である。
【0012】
本発明は別の一側面において、インジウム原料を溶解鋳造後、スクレーパーによる切削加工を行うことにより本発明のインジウムターゲットを作製するインジウムターゲットの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、異常放電の発生を良好に抑制することの可能なインジウムターゲット及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るインジウムターゲットは、ターゲット表面の算術平均粗さ(Ra)が1.6μm以下であるという特徴を有する。ターゲット表面の算術平均粗さ(Ra)が1.6μmを超えると、ターゲットをスパッタした際に異常放電が発生するおそれがある。ターゲット表面の算術平均粗さ(Ra)は、好ましくは1.2μm以下であり、より好ましくは1.0μm以下である。本発明において、「算術平均粗さ(Ra)」は、JIS B0601−1994の定義による。
【0015】
本発明に係るインジウムターゲットは、ターゲット表面の十点平均粗さ(Rz)が15μm以下であるという特徴を有する。ターゲット表面の十点平均粗さ(Rz)を15μm以下であると、ターゲットをスパッタした際の異常放電の発生をより良好に抑制することができる。ターゲット表面の十点平均粗さ(Rz)は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは8μm以下である。本発明において、「十点平均粗さ(Rz)」は、JIS B0601−1994の定義による。
【0016】
次に、本発明に係るインジウムターゲットの製造方法の好適な例を順を追って説明する。まず、原料であるインジウムを溶解し、鋳型に流し込む。使用する原料インジウムは、不純物が含まれていると、その原料によって作製される太陽電池の変換効率が低下してしまうという理由により高い純度を有していることが望ましく、例えば、純度99.99質量%以上のインジウムを使用することができる。その後、室温まで冷却して、インジウムインゴットを形成する。冷却速度は空気による自然放冷でよい。
【0017】
続いて、得られたインジウムインゴットを必要であれば所望の厚さまで冷間圧延し、さらに必要であれば酸洗や脱脂を行う。次に、例えば5〜100mmの刃幅のスクレーパーを用いて表面の切削加工を行うことにより、インジウムターゲットを作製する。スクレーパーは、インジウムターゲット表面の切削に耐えうる硬さを有し、耐磨耗性に優れるものであれば特に限定されず、例えば、ステンレス鋼、高クロム鋼等の金属製スクレーパー、又は、可能であればセラミックス製のスクレーパーも用いることができる。このようなスクレーパーにより、ターゲット表面を研磨することにより、ターゲット表面の算術平均粗さ(Ra)を1.6μm以下、好ましくは1.2μm以下、より好ましくは1.0μm以下に加工する。また、ターゲット表面の十点平均粗さ(Rz)についても、15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下に加工する。
【0018】
このようにして得られたインジウムターゲットは、CIGS系薄膜太陽電池用光吸収層のスパッタリングターゲットとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0019】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0020】
(実施例1)
直径250mm、厚さ5mmの銅製のバッキングプレート上の周囲を直径205mm、高さ7mmの円柱状の鋳型で囲い、その内部に160℃で溶解させたインジウム原料(純度5N)を流し込んだ後、室温まで冷却して、円盤状のインジウムインゴット(直径204mm×厚み6mm)を形成した。続いて、このインジウムインゴットの表面を、刃幅20mmのステンレス製スクレーパーによって切削加工し、インジウムターゲットを得た。
【0021】
(実施例2)
ステンレス製スクレーパーの刃幅を40mmとした以外は、実施例1と同様の条件でインジウムターゲットを作製した。
【0022】
(実施例3)
ステンレス製スクレーパーの刃幅を10mmとした以外は、実施例1と同様の条件でインジウムターゲットを作製した。
(実施例4)
ステンレス製スクレーパーの刃幅を5mmとした以外は、実施例1と同様の条件でインジウムターゲットを作製した。
【0023】
(比較例1)
ターゲット表面の切削を行わなかった以外は、実施例1と同様の条件でインジウムターゲットを作製した。
【0024】
(比較例2)
ステンレス製スクレーパーによるターゲット表面の切削加工に代えて、フライス加工を行った以外は、実施例1と同様の条件でインジウムターゲットを作製した。
【0025】
(評価)
実施例及び比較例で得られたインジウムターゲットについて、JIS B0601−1994の規定による「算術平均粗さ(Ra)」及び「十点平均粗さ(Rz)」を測定した。
また、これら実施例及び比較例のインジウムターゲットを、ANELVA製SPF−313Hスパッタ装置で、スパッタ開始前のチャンバー内の到達真空度圧力を1×10-4Pa、スパッタ時の圧力を0.5Pa、アルゴンスパッタガス流量を5SCCM、スパッタパワーを650Wで30分間スパッタし、目視により観察されたスパッタ中の異常放電の回数を計測した。
各測定結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例1は、ターゲット表面を刃幅20mmのステンレス製スクレーパーによって切削加工しており、算術平均粗さ(Ra)が1.3μmで十点平均粗さ(Rz)が12μmであった。このため、異常放電が確認されなかった。
実施例2は、ターゲット表面を、実施例1に比べて刃幅が40mmと広いステンレス製スクレーパーによって切削加工しており、算術平均粗さ(Ra)が1.6μmで十点平均粗さ(Rz)が15μmと実施例1より表面がやや粗かったが、異常放電は確認されなかった。
実施例3は、ターゲット表面を、実施例1に比べて刃幅が10mmと狭いステンレス製スクレーパーによって切削加工しており、算術平均粗さ(Ra)が1.2μmで十点平均粗さ(Rz)が10μmと実施例1より表面が平坦で、異常放電は確認されなかった。
実施例4は、ターゲット表面を、実施例1及び3に比べて刃幅が5mmと狭いステンレス製スクレーパーによって切削加工しており、算術平均粗さ(Ra)が0.8μmで十点平均粗さ(Rz)が8μmと実施例1及び3より表面が滑らかで、異常放電は確認されなかった。
比較例1は、ターゲット表面の切削を行っておらず、算術平均粗さ(Ra)が2μmで十点平均粗さ(Rz)が20μmと粗く、異常放電も80回と多かった。
比較例2は、スクレーパーによるターゲット表面の切削加工に代えてフライス加工により表面処理を行っているため、算術平均粗さ(Ra)が50μmで十点平均粗さ(Rz)が150μmと粗く、異常放電も250回と多かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット表面の算術平均粗さ(Ra)が1.6μm以下であるインジウムターゲット。
【請求項2】
前記算術平均粗さ(Ra)が1.2μm以下である請求項1に記載のインジウムターゲット。
【請求項3】
ターゲット表面の十点平均粗さ(Rz)が15μm以下である請求項1又は2に記載のインジウムターゲット。
【請求項4】
前記十点平均粗さ(Rz)が10μm以下である請求項3に記載のインジウムターゲット。
【請求項5】
インジウム原料を溶解鋳造後、スクレーパーによる切削加工を行うことにより請求項1〜4のいずれかに記載のインジウムターゲットを作製するインジウムターゲットの製造方法。