説明

インジウム錫酸化物粉末およびその製造方法

【課題】 粒子径が小さく、粒度分布がシャープなITO粉末を提供する。このITO粉末は、分散性がよく、導電性および熱線遮蔽性能が著しく良好である。さらに、ITO粉末を成形し、膜にしたときの膜強度が、非常に高い。
【解決手段】 粒度分布のメジアン径が30〜45nmであり、D90が60nm以下であることを特徴とする、インジウム錫酸化物粉末である。好ましくは、比表面積が40m/g以上であって、Lab表色系においてL=30以下の濃青色の色調を有するインジウム錫酸化物粉末である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウム錫酸化物粉末(以下、「ITO粉末」という)およびその製造方法に関し、より詳しくは、微細なITO粉末とその製造方法、さらに、上記ITO粉末を含む分散液、導電性膜または熱線遮蔽用膜に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウム錫酸化物は、透明導電性材料として知られている。例えば、特許第3019551号公報(特許文献1)には、Sn/In比:0.005〜0.3、比表面積(BET値):10m/g以上、比抵抗:70Ω・cm以下、Clが0.1%以下、NaおよびKが10ppm以下、遊離のInおよびSnが10ppm以下のITO粉末が記載されている。また、特開2005−322626号公報(特許文献2)には、比表面積4〜20m/gであって、粉末の色調がLab表色系においてL=82〜91のITO粉末が記載されている。
【0003】
ITO粉末は、樹脂に分散させて塗料にし、基板に塗布して導電被膜を形成する、もしくは、樹脂に分散させてフィルムにし、基板上に貼り合わせて導電膜を形成する、または、合せガラスに挟み込んで導電層や熱線遮蔽層を形成する材料に用いられる。これらの導電性被膜などを形成する場合、被膜の透明性を高めるためには、できるだけ微細な粉末であることが好ましい。
【0004】
一方、ITO粉末は、一次粒子径が小さくなると結晶性が低下して、導電性が不良になる傾向があるので、透明性および導電性の高い被膜を形成するには、比表面積が大きく微細であって、かつ結晶性の高いITO粉末が求められる。しかし、特許文献1〜2に記載されたITO粉末の比表面積は、せいぜい20m/gとそれ程大きくない。比表面積が20m/gであるITO粉末は、BET径が42nmと算出されるが、塗布膜にて用いた場合、散乱が生じ、膜のヘーズが高くなる。
【0005】
ITOは、3価のインジウムに4価の錫をドープすることによって導電性が向上することが知られている。ITO結晶に存在する酸素空孔点は、ドナー効果を生じ、そのキャリア電子密度を高めて導電性を向上させる。ITO粉末を、不活性雰囲気中または減圧下で熱処理すると、ITO結晶から酸素が引き抜かれて、酸素空孔点が増大し、ITOの体積抵抗率が低下するので、表面改質をすることによって酸素欠陥が増加し、導電性を高めることができる。
【0006】
ここで、現在、市販されている従来品は、結晶性が良い場合は粒子径が大きく(BET比表面積:20m/g、一次粒子径:42nm)、粒子径が小さい場合は結晶性が悪い(BET比表面積:30〜60m/g、一次粒子径:0.023,0.012nm)。ITO粉末の粒度分布は、メジアン径:58−72nm、D90:80−94nmである。また、ITO粉末から分散液を作製するときの分散時間が長いため、生産効率も悪くかつ、分散長時間によりITOの結晶性も劣化させるため、導電性および熱線遮蔽性能を悪化させる。さらに、焼成後の乾式粉砕を大気雰囲気で実施しているため、ITO粉末の表面が酸化しており、これにより導電性が劣化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3019551号公報
【特許文献2】特開2005−322626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ITO粉末の製造方法を改良することにより、上記問題を解決したものであり、粒子径が小さく、粒度分布がシャープで、結晶性が向上したITO粉末を提供する。したがって、このITO粉末は、分散液を作製するときの分散性が良好である。さらに、ITO粉末を成形し、膜にしたときの膜強度が、非常に高く、導電性および熱線遮蔽性能が、著しく良好である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を有することによって上記問題を解決したITO粉末およびその製造方法等に関する。
〔1〕粒度分布のメジアン径が30〜45nmであり、D90が60nm以下であることを特徴とする、インジウム錫酸化物粉末。
〔2〕比表面積が40m/g以上であって、Lab表色系においてL=30以下の濃青色の色調を有する、上記〔1〕記載のインジウム錫酸化物粉末。
〔3〕上記〔1〕または〔2〕記載のインジウム錫酸化物粉末と、溶媒を含有する、分散液または塗料。
〔4〕インジウムと錫の共沈水酸化物を焼成してインジウム錫酸化物粉末を製造する方法において、(A)2価の錫化合物を用い、pH4.0〜9.3、液温5℃以上で、乾燥後の色が山吹色から柿色のインジウム錫水酸化物を共沈させる工程、(B)インジウム錫水酸化物を乾燥し、焼成する工程、(C)得られたインジウム錫酸化物を窒素雰囲気中で乾式粉砕をする工程、をこの順で含むことを特徴とする、インジウム錫酸化物粉末の製造方法。
〔5〕(A)工程で、三塩化インジウムと二塩化錫の混合水溶液と、アルカリ水溶液と、を同時に水に滴下し、インジウム錫水酸化物を共沈させる、または、アルカリ水溶液に、前記混合水溶液を滴下し、インジウム錫水酸化物を共沈させる、上記〔4〕記載のインジウム錫酸化物粉末の製造方法。
〔6〕(B)工程で、乾燥と同時、焼成と同時、または焼成後に、窒素雰囲気下、または水蒸気、アルコールもしくはアンモニアを含有した窒素雰囲気下、で加熱することによって、比表面積が40m/g以上で濃青色の色調を有するインジウム錫酸化物粉末に表面改質する、上記〔4〕または〔5〕記載のインジウム錫酸化物粉末の製造方法。
〔7〕窒素雰囲気下、または水蒸気、アルコールもしくはアンモニアを含有した窒素雰囲気下、の雰囲気ガスの流量を、線速度8×10−6m/s以上にして、インジウム錫酸化物粉末に表面改質する、上記〔6〕記載のインジウム錫酸化物粉末の製造方法。
〔8〕上記〔1〕または〔2〕記載のインジウム錫酸化物粉末を含有する、導電性膜または熱線遮蔽用膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明〔1〕によれば、粒子径が小さく、粒度分布がシャープで、分散性がよい、すなわち分散液を作製するときの時間が短いため、ITO粉末の結晶性を分散工程で損なわないITO粉末を提供することができ、さらに、このITO粉末を用いた膜の強度を高くすることができ、かつ膜の透明性、導電性に優れる。また、本発明〔2〕によれば、ITO粉末は還元されるとL値が低くなるため、より導電性に優れ、かつ熱線遮蔽性に優れる透明導電膜を容易に形成することができる。
【0011】
本発明〔4〕によれば、粒子径が小さく、かつ粒度分布がシャープであり、分散性、導電性および熱線遮蔽性の高いITO粉末を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1のITO粉末の透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1のITO粉末の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1のITO粉末の粒度分布の一例である。
【図4】比較例1のITO粉末の粒度分布の一例である。
【図5】実施例1のITO粉末のX線回折チャートである。
【図6】実施例1のITO粉末の20〜40°を拡大したX線回折チャートである。
【図7】比較例1のITO粉末のX線回折チャートである。
【図8】比較例1のITO粉末の20〜40°を拡大したX線回折チャートである。
【図9】せん断応力の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量%である。
【0014】
〔インジウム錫酸化物粉末〕
本発明のITO粉末は、粒度分布のメジアン径が30〜45nmであり、D90が60nm以下であることを特徴とする。粒度分布が上記の範囲内であると、分散性がよい、すなわち分散液を作製するときの時間が短い、さらに膜にしたとき、強度が高く、透明性、導電性に優れる。ここで、粒度分布は、ITO粉末:60gと、分散媒としての水:60cmを、浅田鉄工製のペイントシェーカーを用い、3時間分散した。得られた分散液50x10−3cmを50cmの水に希釈し、堀場製作所製動的光散乱式粒径分布測定装置(型番:LB−550)を用い、メジアン径、およびD90を測定する。なお、ITO粉末の形状は、球状、さいころ状が好ましい。図1に、実施例1のITO粉末の透過型電子顕微鏡写真を、図2に、比較例1の透過型電子顕微鏡写真を示す。図1からわかるように、実施例1のITO粉末は、粒径が小さく、かつ均一で、独立分散していることがわかる。これに対して、比較例1のITO粉末は、凝集していて、粒径が不均一である。また、図3に実施例1のITO粉末の粒度分布の一例を、図4に比較例1のITO粉末の粒度分布の一例を示す。図3、図4で、線グラフは、右軸の積算(%)を、棒グラフは左軸の頻度(%)を表す。図3では、メジアン径は39nm、D90は54nmであり、図4では、メジアン径は61nm、D90は84nmである。このように、本発明のITO粉末は、粒子径が小さく、粒度分布がシャープである。
【0015】
図5に、実施例1のITO粉末のX線回折チャートを、図6に、実施例1のITO粉末の20〜40°を拡大したX線回折チャートを示す。また、図7に、比較例1のITO粉末のX線回折チャートを、図8に、比較例1のITO粉末の20〜40°を拡大したX線回折チャートを示す。実施例1のITO粉末は、図5に示すように、X線回折チャートにおける(222)面のピーク(約31°)は相対強度が大きく(約3000cps)、図6に示すように、その半値幅は0.6°より小さい(具体的には0.47°)。一方、比較例1のITO粉末は、図7に示すように、このX線回折チャートにおける(222)面のピークは相対強度が2500cps以下であり、図8に示すように、その半値幅は0.6°より大きい(具体的には0.65°)。このように本発明のITO粉末は、比較例1のITO粉末よりも半値幅がかなり小さく、従って、結晶性の高い粉末である。
【0016】
ITO粉末は、比表面積が40m/g以上であって、Lab表色系においてL=30以下の濃青色の色調を有すると、用いた膜が、より導電性および熱線遮蔽性に優れるため、好ましい。ここで、比表面積は、BET法で測定し、L値は、例えば、スガ試験機社製装置(SM−7-IS−2B)を用いて測定する。
【0017】
また、Snの質量比〔Sn/(Sn+In)〕が1〜20%であると好ましい。Snが1%未満のときには、導電性、熱線遮蔽性が劣る傾向があり、また、In成分が多くなるため、高価になる。一方、Snの質量比が20%より多いと、上記同様に導電性、熱線遮蔽性に劣る傾向があるため、好ましくない。
【0018】
〔インジウム錫酸化物粉末の製造方法〕
本発明のインジウム錫酸化物粉末の製造方法は、インジウムと錫の共沈水酸化物を焼成してインジウム錫酸化物粉末を製造する方法において、(A)2価の錫化合物を用い、pH4.0〜9.3、液温5℃以上で、乾燥後の色が山吹色から柿色のインジウム錫水酸化物を共沈させる工程、(B)インジウム錫水酸化物を乾燥し、焼成する工程、(C)得られたインジウム錫酸化物を窒素雰囲気中で乾式粉砕をする工程、をこの順で含むことを特徴とする。
【0019】
《(A)工程》
インジウムと錫は、溶液中で、アルカリの存在下で沈殿し、インジウムと錫の共沈水酸化物が生成する。このとき、2価の錫化合物(SnCl・HO等)を用い、溶液のpHを4.0〜9.3、好ましくは、pH6.0〜8.0で、液温を5℃以上、好ましくは、10〜80℃に調製することによって、乾燥後の色が山吹色から柿色のインジウム錫水酸化物を共沈させることができる。この山吹色から柿色のインジウム錫水酸化物は、従来の白色のインジウム錫水酸化物よりも、粒子径が均一で、結晶性に優れており、独立分散している。2価の錫化合物としては、フッ化第一錫、塩化第一錫、ホウフッ化第一錫、硫酸第一錫、酸化第一錫、硝酸第一錫、ピロリン酸錫、スルファミン酸錫、亜錫酸塩等の無機系の塩、アルカノールスルホン酸第一錫、スルホコハク酸第一錫、脂肪族カルボン酸第一錫等の有機系の塩等が挙げられ、塩化第一錫が、共沈物の結晶性が優れ、工業化し易いので、好ましい。インジウム源には、三塩化インジウム(SnCl)、硝酸インジウムを用いることができる。硝酸インジウムと塩化インジウムを比較すると、塩化インジウムの方が、共沈酸化物の結晶性が優れている。
【0020】
ここで、4価の錫化合物(SnCl等)を用いると、白色の沈殿になり、山吹色から柿色の色調を有する沈殿にはならない。また、溶液のpHが4.0よりも低い(酸性側)、または9.3よりも高い(アルカリ側)と、薄い黄色を帯びた白色沈殿になり、山吹色から柿色の色調を有する沈殿にならない。4価の錫化合物による白色沈殿や薄黄色沈殿は、いずれも山吹色から柿色の色調を有する沈殿に比べて、粒子径が不均一で、結晶性が低く、独立分散しておらず、これらの沈殿物を焼成しても、粒子径が均一で、結晶性が高く、独立分散したITO粉末を得ることができない。なお、特許文献1の製造方法では、四塩化錫を用いているので、白色のインジウム錫水酸化物が生じ、山吹色から柿色の色調を有する沈殿にならない。
【0021】
反応時の溶液のpHを4.0〜9.3に調製するには、例えば、三塩化インジウム(SnCl)と二塩化錫(SnCl・2HO)の混合水溶液を用い、この混合水溶液とアルカリ水溶液とを同時に水に滴下して、pHを調製する方法が好ましい。または、アルカリ水溶液に、混合水溶液を滴下する方法も好ましい。アルカリ水溶液としては、アンモニア水(NH水)、炭酸水素アンモニウム水(NHHCO水)、KOH水溶液、NaOH水溶液等を用いることができる。
【0022】
具体的には、例えば、2価の錫化合物として二塩化錫を用い、溶液のpH7、液温:10〜60℃において、乾燥後の色が山吹色から柿色の色調を有する沈殿が生じる。一方、pH4未満(例えば、pH3)やpH9.3以上(例えば、pH9.5)では、薄い黄色を帯びた白色沈殿になる。したがって、pH4.0〜9.3の範囲が適当である。なお、pHが中性に近いほど、柿色が強くなる傾向がある。また、pHが4.0〜9.3の範囲(例えば、pH8)であっても、四塩化錫を用いると白色沈殿になる。
【0023】
また、上記のように、Snの質量比〔Sn/(Sn+In)〕が1〜20%であると好ましい。インジウム錫水酸化物の含有量は、溶液:100質量部に対して、0.01〜25質量部である。インジウム錫水酸化物の含有量が少ない、すなわち溶液量が多いほど、微細なITOを得られやすいが、生産性に劣る。また、25質量部を超えると、反応中にインジウム錫水酸化物の凝集が生じ、粗大な粒子となる他に、スラリーの粘度が高く、生産性に劣る等が起こり易くなる。
【0024】
共沈したインジウム錫水酸化物を、純水またはイオン交換水を用いて、上澄み液の電気抵抗率が5000Ω・cm以上、好ましくは50000Ω・cm以上になるまで洗浄した後、固液分離して共沈水酸化物を回収する。上澄み液の電気抵抗率が5000Ω・cmより低いと、塩素等の不純物が十分に除去されておらず、高純度のITO粉末を得ることができない。
【0025】
インジウム錫水酸化物は、乾燥後に山吹色から柿色の色調であり、Lab表色系において、L≦80、a=−10〜+10、b≧+26であり、例えば、L=60〜75、a=−2.5〜+1.5、b=+22〜+32である。なお、白色沈殿の場合には、例えば、L=91〜100である。
【0026】
《(B)工程》
得られたインジウム錫水酸化物を乾燥する工程は、例えば、大気中、100〜200℃で、2〜24時間行い、続いて焼成する工程は、例えば、250℃以上、好ましくは400〜800℃で、1〜6時間加熱する。250℃以下では、水酸化物のまま、または水酸化物が残留する。この焼成工程で、インジウム錫水酸化物が、山吹色から柿色の色調のインジウム酸化錫になる。
【0027】
大気焼成したインジウム酸化錫は、山吹色から柿色の色調であり、Lab表色系において、L≦80、a=−10〜+10、b≧+26であり、例えば、L=56〜67、a=−1.2〜+1.2、b=+29〜+31である。なお、白色沈殿の場合には、a≦−5で、鶯色の粉末になる。
【0028】
焼成したインジウム錫は、55m/g以上、好ましくは60m/g以上の比表面積を有する微細粉体であり、例えば、60〜85m/gである。なお、白色沈殿の場合には、例えば、45〜48m/gである。
【0029】
また、乾燥と同時、焼成と同時、または焼成後に、窒素雰囲気下、または水蒸気、アルコールもしくはアンモニアを含有した窒素雰囲気下、で加熱焼成することによって、比表面積が40m/g以上で濃青色の色調を有するインジウム錫酸化物粉末に表面改質することが、導電性、熱線遮蔽性の観点から、好ましい。
【0030】
表面改質は、例えば、以下のように行うことができる。乾燥と同時に行う場合には、例えば、インジウム錫水酸化物を、大気中での乾燥を行わずに、窒素雰囲気下、またはアルコールもしくはアンモニアを含有する窒素雰囲気下で、250〜800℃で、30分〜6時間加熱する。この場合には、表面改質は、乾燥と焼成を同時に行う。なお、低温で表面改質を行った後、焼成をする場合には、焼成を大気中ではなく、不活性雰囲気で行うことが好ましい。この工程での窒素流量は、線速度:8×10−6m/s以上であると、ITO粉末の微細化、粒度分布のシャープ化、高比表面積化、導電性の観点から好ましい。粉体を容器にのせて、窒素化処理する場合は、窒素流量が大きすぎると粉体が飛散してしまうため、1m/s以下が望ましい。さらに、流動層等にて改質処理する場合においては、0.01m/s〜10m/sが好ましい。
【0031】
焼成と同時に行う場合には、例えば、インジウム錫水酸化物を、大気中、100〜110℃で、10時間乾燥した後、大気中で焼成を行わずに、窒素雰囲気下、またはアルコールもしくはアンモニアを含有する窒素雰囲気下で、250〜800℃で、30分〜6時間加熱する。
【0032】
焼成後に行う場合には、例えば、大気中で、乾燥、焼成した後、窒素雰囲気下、またはアルコールもしくはアンモニアを含有する窒素雰囲気下で、250〜800℃で、30分〜6時間加熱する。
【0033】
表面改質されたインジウム錫酸化物は、BET法での比表面積が、40m/g、好ましくは、60m/gである。また、濃い青色であり、Lab表色系で、L≦30、a<0、b<0である。この範囲であると、塗膜したときの透明性、導電性、熱線遮蔽性が優れている。
【0034】
《(C)工程》
得られたインジウム錫酸化物を窒素雰囲気中で乾式粉砕する方法は、特に限定されず、ハンマーミル(例えば、ハンマー式微粉砕機)、ジェットミル、ボールミル、ピンミル、乳鉢等の当業者に公知の方法で行うことができる。この粉砕工程により、ITO粉末の粒度分布のメジアン径、およびD90を所望の値にすることができる。
【0035】
上記の製造方法により、粒子径が小さく、粒度分布がシャープなインジウム錫酸化物粉末を容易に製造することができる。
【0036】
〔分散液〕
分散液は、上記のITO粉末と、溶媒とを含有する。溶媒としては、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。ITO粉末の含有量は、質量基準で1〜70%、好ましくは10〜50%で、分散液のpHは2〜10、好ましくは3〜5である。
【0037】
分散液には、その目的を損なわない範囲内で、慣用の各種添加剤を配合してもよい。このような添加剤として、分散剤、分散助剤、重合禁止剤、硬化触媒、酸化防止剤、レベリング剤、膜形成樹脂等を挙げることができる。
【0038】
上記分散液に、樹脂を添加し、塗料、ペーストとして利用することができる。分散液を塗料化に供すると、塗料化時の分散エネルギーの軽減を図る上で、好ましい。ここで、樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、塩ビ−酢ビ樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリル−スチレン共重合体、繊維素樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、石油樹脂、セラック、ロジン誘導体、ゴム誘導体などの天然系樹脂などが挙げられる。
【0039】
ITO粉末の樹脂への配合量は、樹脂100質量部に対して0.1〜950質量部、好ましくは0.7〜800質量部である。要求される膜の電気抵抗率や膜厚によって、好ましい値が変わる。
【0040】
上記の分散液や塗料等を、基板等に塗布して、導電性膜や熱線遮蔽用膜を形成することができる。基板としては、電気・電子機器をはじめとして様々な分野において広く用いられている、各種の合成樹脂、ガラス、セラミックス等を挙げることができ、これらはシート状、フィルム状、板状等の任意の形状であり得る。合成樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂およびフェノール樹脂等を挙げることができるが、これらに制限されるものではない。
【0041】
分散液や塗料等の基板への塗布または印刷は、常法により、例えば、ロールコート、スピンコート、スクリーン印刷、アプリケーター等の手法で行うことができる。その後、バインダー成分を、必要により加熱して溶剤を蒸発させ、塗膜を乾燥させて硬化させる。このとき、加熱または紫外線等を照射してもよい。
【0042】
導電性膜または熱線遮蔽用膜の厚さは、透明性、導電性、赤外遮蔽性の観点から、塗布膜の場合は、0.1〜5μmであると好ましく、0.5〜2μmであるとより好ましい。ただし、樹脂に練り込む場合は、厚さは限定されない。
【0043】
本発明のITO粉末を用い、分散液、塗料、ペースト等の形態で供給が可能である。また、これらによって形成された導電性膜または熱線遮蔽用膜は、ディスプレイ、タッチパネル、自動車等の各種車両用窓ガラス、建材用窓ガラス、医療機器用等の各種装置用のガラス、または一般包装物もしくはショーケース等の透明部等に広く適用することができる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。粒度分布の測定は、堀場製作所動的光散乱式粒径分布測定装置(型番:LB−550)でデータ取り込み回数100回、反復回数50回、粒子径基準は体積、測定温度25±0.5度にて測定し、メジアン径(50%積算粒子径)と90%積算粒子径を得た。ITO分散液のITO濃度は、10質量%にして測定した。このとき分散は、上記のようにビーズミルで行った。
【0045】
〔実施例1〕
塩化インジウム(InCl)水溶液(In金属18g含有):50cmと、二塩化錫(SnCl・2HO):3.6gとを混合し、この混合水溶液とアンモニア(NH)水溶液を、水500cmに同時に滴下し、pH7に調整し、30℃の液温で30分間反応させた。生成した沈殿をイオン交換水によって繰り返し傾斜洗浄を行った。上澄み液の電気抵抗率が50000Ω・cm以上になったところで、沈殿物(In/Sn共沈水酸化物)を濾別し、乾燥粉末の色調が柿色を有する共沈インジウム錫水酸化物を得た。
【0046】
固液分離したインジウム錫水酸化物を110℃で一晩乾燥した後、大気中550℃で3時間焼成し、凝集体を粉砕してほぐし、山吹色を有するITO粉末:約25gを得た。
このITO粉末のLab値、比表面積を表1に示す。
【0047】
上記ITO粉:25gを、無水エタノールと蒸留水を混合した表面処理液(混合比率はエタノール:95重量部に対して蒸留水:5重量部)に入れて含浸させた後、ガラスシャーレに入れて窒素ガス雰囲気下、330℃で2時間加熱して表面改質処理した。表1に、このITO粉末の色調(L、a、b)とBET値を示す。さらに、粉末を、窒素雰囲気に中のブースにて、メノウ乳鉢を用いて、乾式粉砕処理を実施した。また、実施例1で得られたITO粉末を20ロット作製し、均一に混合後、表面改質処理を上記同様に実施し、窒素雰囲気化で、ハンマー式微粉砕機(装置名:ダルトン製ラボミルLM05)により乾式粉砕処理を実施し、500gのITO粉末を得た。
【0048】
得られた粉末:50gを、水:50gに分散させ、この分散液をエタノールで希釈し、ITO粉末濃度10%の分散液を得た。このITO分散液をスピンコーティングにより150回転で、ガラス板に塗布して成膜した(ITO濃度10%)。さらに、オーバーコートとして、シリカゾルゲル液(シリカ:1%)をスピンコーティングにより150回転で成膜し、160℃で30分焼成した(膜厚0.2μm)。
【0049】
〔分散滞留時間の測定〕
分散液の作製時の分散滞留時間を、〔分散時間/(分散液の体積/ミルの有効容積)〕で算出し、比較例1の滞留時間を100とした場合の相対値で表記した。ここで、「分散時間」の単位は、「時間」、「分散液の体積」および「ミルの有効容積」は、同じ単位(例えば、「cm」)を用いる。表1に、結果を示す。
【0050】
〔全光線透過率、表面抵抗値を測定〕
被膜を形成したガラス板の全光線透過率、表面抵抗値を測定した。この結果を表2に示す。表面抵抗値は、三菱化学製ロレスタAP(MCP−T400)で測定した。全光線透過率は、規格(JIS K7150)に従い、スガ試験機社装置(HGM−3D)を用い、400〜750nmの可視光線領域において測定した。全光線透過率の値は、ガラス板(ガラス板の透過率89.0%、厚さ1mm)を含み、被膜の厚さ0.2μmにおける値である。表1に、これらの結果を示す。
【0051】
表1に示すITO粉末の分散液について、可視光透過率(%Tv)、日射透過率(%Ts)、ヘーズを測定した。以下に、測定方法を示す。
【0052】
[可視光線透過率、日射透過率の評価]
ITO粉:20gを、蒸留水:0.020g、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート[3G]:23.8g、無水エタノール:2.1g、リン酸ポリエステル:1.0g、2−エチルヘキサン酸:2.0g、2,4−ペンタンジオン:0.5gの混合液に入れて分散させた。
【0053】
調製した分散液をトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートでITO粉末の含有量が0.7質量%になるまで希釈した。この希釈液を、光路長1mmのガラスセルに入れ、自記分光光度計(日立製作所社製U−4000)を用い、規格(JIS R 3216−1998)に従い、380〜780nmの可視光線透過率(%Tv)を測定し、300〜2100nmの日射透過率(%Ts)を測定した。表1に、これらの結果を示す。
【0054】
[ヘーズの測定]
分光特性測定試料と同様に希釈した分散液を試料とし、ヘーズコンピュータ(スガ試験機株式会社製Hz−2)を用い、規格(JIS K7136)に従ってヘーズを測定した。表1に、この結果を示す。
【0055】
〔参考例1〕
実施例1の表面改質まで、同一工程で実施し、ハンマー式微粉砕機(装置名:ダルトン製ラボミルLM05)を用いて大気中で乾式粉砕を実施し、上記実施例1と同様に、導電性評価並びに、熱線遮蔽評価等を実施した。表1に、これらの結果を示す。
【0056】
〔比較例1〕
錫化合物として四塩化錫(55%濃度SnCl水溶液)を用い、このSnCl水溶液:14.4gと塩化インジウム(InCl)水溶液(In金属35g含有):90cmを混合し、この混合水溶液に、炭酸水素アンモニウム(NHHCO):190gを含有するアルカリ水溶液:0.6dmを加えてpH8に調整し、30℃の液温で30分間反応させた。生成した沈殿を、イオン交換水によって繰り返し傾斜洗浄を行った。上澄み液の電気抵抗率が50000Ω・cm以上になったところで、共沈インジウム錫水酸化物を濾別した。この共沈インジウム錫水酸化物は、白色であった。
【0057】
この共沈インジウム錫水酸化物を、110℃で一晩乾燥した後、大気中550℃で3時間焼成し、凝集体を粉砕してほぐし、ITO粉末:約44gを得た。上記ITO粉末:25gを、無水エタノールと蒸留水を混合(混合比率は、エタノール:95重量部に対して蒸留水:5重量部)した表面処理液に入れて含浸させた後、ガラスシャーレに入れて窒素ガス雰囲気下、330℃で2時間加熱処理した。表1に、このITO粉末のLab値、比表面積を示す。この粉末を大気雰囲気中で乾式粉砕し、導電性評価、熱線カット評価、ヘーズ測定等を実施した。表1に、これらの結果を示す。
【0058】
〔比較例2〕
粉末を大気中ではなく、窒素雰囲気中で乾式粉砕したこと以外は、比較例1と同様にして、ITO粉末を作製し、導電性評価、熱線カット評価等を実施した。表1に、これらの結果を示す。
【0059】
〔実施例2〜5、比較例3〜6〕
表1に記載した条件にしたこと以外は、実施例1と同様にして、ITO粉末を作製し、導電性評価、熱線カット評価等を実施した。表1に、これらの結果を示す。
【0060】
[粉末成形試験]
実施例1と比較例1のITO粉末について、粉末成形試験を、以下のように行った。
1.20mmφの金型に、粉末を10g充填する。
2.金型に成形圧200MPaの圧力をかける。
3.金型から成形体を取り出す。
4.成形体の状態(ひび割れ、はく離等)を、目視確認する。
この試験では、せん断応力が高い粉末の方が、成形体に、ひび割れ、剥離等が生じにくい。
【0061】
[せん断応力の測定]
実施例1と比較例1のITO粉末の剪断応力を、ナノシーズ社製粉体層せん断力測定装置NS−S500を用いて測定した。試験条件は、高荷重せん断試験に用いたセルは、30mm、垂直荷重で50N、100N、150Nで実施した。なお、セルへの押し込み速度は0.2mm/秒、押し込み隙間は0.05mm、横摺り速度は10μm/秒の条件で測定した。表2と図9に、この結果を示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1に示すように、実施例1〜5の全てで、評価項目全てが良好であった。これに対して、比較例1〜6は、いずれもITO粉末のL値が高く、メジアン径、D90が大きく、比表面積が低く、分散滞留時間が長かった。4価の錫化合物を原料に用いた比較例1、2、および(A)工程で、溶液のpHが9.5の比較例3は、いずれも全光線透過率、表面抵抗値、分散液の%Tvと%Tsの全てで悪かった。比較例1は、ヘーズ値が高く、粉末成形試験の結果も悪かった。比較例4〜6は、N流量が少なかったためである、と考えられる。ITO粉末を大気中で乾式粉砕した参考例1は、表面抵抗値が高かった。
【0065】
また、表2からわかるように、実施例1は、比較例1と比べると、せん断力が大きかった。図9からわかるように、実施例1は、比較例1と比較すると、垂直応力が増加するにつれて、せん断力の増加が大きくなるため、内部摩擦角も大きくなり、粉体の密着性が増加することがわかった。したがって、本発明のITO粉末を膜にした際には、粉同士の密着性に優れるため、膜強度が高く、かつ、成形性にも優れることがわかった。

本発明のITO粉末は、粒子径が小さく、分散性がよい、すなわち分散液を作製するときの時間が短いITO粉末を提供することができ、さらに、このITO粉末を用いた膜は、強度が高く、透明性、導電性に優れることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒度分布のメジアン径が30〜45nmであり、D90が60nm以下であることを特徴とする、インジウム錫酸化物粉末。
【請求項2】
比表面積が40m/g以上であって、Lab表色系においてL=30以下の濃青色の色調を有する、請求項1記載のインジウム錫酸化物粉末。
【請求項3】
請求項1または2記載のインジウム錫酸化物粉末と、溶媒を含有する、分散液または塗料。
【請求項4】
インジウムと錫の共沈水酸化物を焼成してインジウム錫酸化物粉末を製造する方法において、(A)2価の錫化合物を用い、pH4.0〜9.3、液温5℃以上で、乾燥後の色が山吹色から柿色のインジウム錫水酸化物を共沈させる工程、(B)インジウム錫水酸化物を乾燥し、焼成する工程、(C)得られたインジウム錫酸化物を窒素雰囲気中で乾式粉砕をする工程、をこの順で含むことを特徴とする、インジウム錫酸化物粉末の製造方法。
【請求項5】
(A)工程で、三塩化インジウムと二塩化錫の混合水溶液と、アルカリ水溶液と、を同時に水に滴下し、インジウム錫水酸化物を共沈させる、または、アルカリ水溶液に、前記混合水溶液を滴下し、インジウム錫水酸化物を共沈させる、請求項4記載のインジウム錫酸化物粉末の製造方法。
【請求項6】
(B)工程で、乾燥と同時、焼成と同時、または焼成後に、窒素雰囲気下、または水蒸気、アルコールもしくはアンモニアを含有した窒素雰囲気下、で加熱することによって、比表面積が40m/g以上で濃青色の色調を有するインジウム錫酸化物粉末に表面改質する、請求項4または5記載のインジウム錫酸化物粉末の製造方法。
【請求項7】
窒素雰囲気下、または水蒸気、アルコールもしくはアンモニアを含有した窒素雰囲気下、の雰囲気ガスの流量を、線速度8×10−6m/s以上にして、インジウム錫酸化物粉末に表面改質する、請求項6記載のインジウム錫酸化物粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2記載のインジウム錫酸化物粉末を含有する、導電性膜または熱線遮蔽用膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−91953(P2012−91953A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239442(P2010−239442)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】