説明

インタークーラ

【課題】吸入空気が冷却コアを通過するとともに給気マニホールドを介して各気筒へ供給される構成の、多気筒エンジンに備えられるインタークーラにおいて、部材間の熱膨張差を吸収する機能を維持しつつ、各気筒間における吸気温度のバラツキを低減するとともに冷却効果を向上する。
【解決手段】吸入空気を冷却する冷却コア2と、この冷却コア2を支持するとともに収容するケース体3とを備え、冷却コア2とケース体3との熱膨張差を吸収する熱膨張差吸収部21を有し、吸入空気が冷却コア2を通過するとともに給気マニホールドを介して各気筒へ供給される構成の、多気筒エンジンに備えられるインタークーラ1において、熱膨張差吸収部21に形成される冷却コア2とケース体3との隙間20に、伸縮性を有する充填剤30を充填した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸入空気を加圧して供給する過給機を備えるエンジンにおいて過給機からの吸入空気を冷却するインタークーラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジン(内燃機関)においては、軽量性やコンパクト性を保ちつつ高出力化を図るため、吸入空気を圧縮して燃焼室に送り込む過給機を備えるものがある。そして、このような過給機を備えるエンジンにおいては、過給機で圧縮された吸入空気を冷却し、充填効率を高めるためのインタークーラ(給気冷却器)が備えられる。このインタークーラにおいては、過給機における圧縮によって高温となった吸入空気が流入することによって構成部材が熱膨張する。この際、熱膨張比の異なる部材間に熱膨張差が生じる。この部材間の熱膨張差は、インタークーラを構成する冷却コアなどに亀裂や破損を生じさせる原因となる。そこで、インタークーラにおいては、各部材間の熱膨張差を吸収するためにそれぞれの構造に応じた工夫を施す技術が種々提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、インタークーラには、特許文献2に開示されているような構造のものがある。すなわち、エンジンの給気部において、給気マニホールドと給気ダクトとの間にインタークーラ(インタークーラコア)を挟んで収納し、このインタークーラに冷却水通路を一体的に構成したものである。これにより、インタークーラを給気マニホールドに内蔵することでコンパクトな構成としている。
【特許文献1】実開平5−89840号公報
【特許文献2】特開2002−115608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献2に開示されているインタークーラは、具体的には図9に示すような構成となる。図9は従来のインタークーラを示す平面図である。
図9に示すように、インタークーラ101は、吸入空気を冷却する放熱部としての冷却コア102と、この冷却コア102を収容するとともに支持するケース体103とを有している。インタークーラ101は、いわゆる水冷式のインタークーラであり、冷却コア102内には、冷却水が通過する冷却水通路(図示略)が配設されており、導入管104から流入する冷却水が冷却コア102内の冷却水通路を通過して排出管105から排出される。そして、過給機によって圧縮された吸入空気は、図9において紙面に対して垂直に貫通する方向に冷却コア102を通過することで熱交換して冷却される構成となっている。
【0005】
このような構成のインタークーラ101が、前記ケース体103を介して多気筒エンジンにおける給気マニホールドに内蔵された状態で設けられる。すなわち、給気マニホールドに内蔵されるインタークーラ101は、多気筒エンジンにおいて各気筒が連設される方向を長手方向として配置され、インタークーラ101内に流入する吸入空気は、冷却コア102を通過して冷却されるとともに給気マニホールドを介してそのまま各気筒へと供給される。
【0006】
このようにして過給機からの吸入空気を冷却するインタークーラ101においても、前述したような部材間の熱膨張差を吸収するための構造が施される。すなわち、インタークーラ101は、詳細は後述するが、給気マニホールドと給気ダクトとの間に固定されるケース体103に対する冷却コア102の熱膨張差を吸収するための構造(熱膨張差吸収部)を有しており、この構造により冷却コア102とケース体103との間において冷却コア2の四隅の外側に隙間20が存在する。このように冷却コア102とケース体103との間に隙間20が存在することにより、次のような不具合が生じる。
【0007】
すなわち、過給機からの吸入空気は、インタークーラ101の冷却コア102を通過することによって冷却されるのであるが、この冷却コア102を通過する際、吸入空気の一部が冷却コア102とケース体103との間の隙間20を通過してしまう。つまり、隙間20は、インタークーラ101において冷却コア102が存在しない吸入空気の通路を形成することとなり、この隙間20を通過した吸入空気は冷却コア102内を通過しないため十分に冷却されない。こうした現象は、各気筒間の吸入空気の温度(以下、「吸気温度」とする)のバラツキ(偏温)を生じさせるとともにインタークーラ101の冷却効果の低下を招く。つまり、過給機からの吸入空気が冷却コア102を通過するとともに給気マニホールドを介して各気筒へ供給される構成のインタークーラ101においては、隙間20近傍の気筒における吸気温度が、他の気筒における吸気温度と比較して高くなってしまい、この吸入空気の温度差から各気筒間における吸気温度にバラツキが生じる。また、冷却コア102を通過しない吸入空気が存在することにより、インタークーラ101の有する冷却性能を最大限に引き出すことができず、吸入空気の十分な冷却効果が得られないこととなる。
【0008】
このように、インタークーラ1において吸入空気の十分な冷却効果が得られないことは、吸入空気の充填効率を低下させてエンジン出力の低下を招いたり、ノッキング(火花点火エンジンにおいて燃焼室内で火炎の伝播を待たずに混合気が自然着火することによる異常燃焼)を生じさせたりする。また、こうしたノッキングは、一般的に点火時期を遅角補正することにより抑制するが、この点火時期の遅角補正は、全気筒の点火時期を同一とするエンジンにおいては吸気温度の最も高い気筒を基準にして行う。このため、前述したような各気筒間における吸気温度のバラツキがある場合、これが最終的にはノッキング限界(ノッキングをはじめる点火時期)のバラツキとなり、結果的には全気筒の点火時期が遅角することとなるので、エンジン性能の低下につながる。
【0009】
そこで、本発明においては、吸入空気が冷却コアを通過するとともに給気マニホールドを介して各気筒へ供給される構成の、多気筒エンジンに備えられるインタークーラにおいて、部材間の熱膨張差を吸収する機能を維持しつつ、各気筒間における吸気温度のバラツキを低減するとともに、冷却効果を向上することができるインタークーラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、吸入空気を冷却する冷却コアと、この冷却コアを支持するとともに収容するケース体とを備え、前記冷却コアと前記ケース体との熱膨張差を吸収する熱膨張差吸収部を有し、吸入空気が前記冷却コアを通過するとともに給気マニホールドを介して各気筒へ供給される構成の、多気筒エンジンに備えられるインタークーラにおいて、前記熱膨張差吸収部に形成される前記冷却コアと前記ケース体との隙間に、伸縮性を有する充填剤を充填したものである。
【0012】
請求項2においては、前記充填剤は、耐熱性を有するシリコン系ボンドであるものである。
【0013】
請求項3においては、前記充填剤を、耐熱性を有するシリコン系ボンドで固定したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
請求項1においては、熱膨張差吸収部の有する熱膨張差を吸収する機能を維持しつつ、各気筒間の吸気温度のバラツキを低減することができるとともに、インタークーラの冷却効果を向上することができる。
また、このような効果が得られることから、本発明をガスエンジン等の火花点火エンジンに用いた場合、気筒間のノッキング限界のバラツキを低減することができるとともに、点火時期の遅角量を少なくすることができる。これにより、エンジン性能を向上することができる。
【0016】
請求項2においては、過給機における圧縮により温度の上昇した吸入空気による充填剤の熱硬化を抑制することができ、隙間に充填剤を充填することによる効果がより確実なものとなる。
【0017】
請求項3においては、熱膨張差吸収部における隙間が大きい場合であっても、充填剤の固定を確実なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明に係るエンジンにおける給排気系を示す概略図、図2は本発明に係るインタークーラを示す平面図、図3は同じく側面図、図4は図3におけるA矢視図、図5本発明に係るインタークーラの要部拡大図、図6はインタークーラの取付状態を示す図、図7は従来における各気筒の吸気温度の測定結果の一例を示すグラフ、図8は本発明における各気筒の吸気温度の測定結果の一例を示すグラフである。なお、以下の説明においては、本発明に係るインタークーラ1が具備される多気筒エンジンとして、6気筒エンジン(以下、単に「エンジン」とする)を例に用いる。
【0019】
まず、本発明に係るエンジンにおける給排気系について図1を用いて説明する。
本発明に係るエンジンは、吸入空気を圧縮して供給する過給機11及びこの過給機11で圧縮された吸入空気を冷却するインタークーラ1を有しており、過給機11からの吸入空気がインタークーラ1にて冷却され、給気マニホールド13を介して多気筒エンジンにおけるシリンダ12(各気筒)へと供給される。そして、燃焼後の排気は、シリンダ12に取り付けられる排気マニホールド14を介して排出される。ここで、本発明に係るインタークーラ1は、シリンダ12に取り付けられる給気マニホールド13に内蔵されるタイプのものであり、インタークーラ1によって冷却される吸入空気は、給気マニホールド13を介してそのまま各気筒へと供給される。
【0020】
具体的には、過給機11は、タービンTとコンプレッサCとを備えており、これらは同一の回転軸によって連結されている。タービンTは、排気マニホールド14から排出される排気が導入されることにより回転駆動し、前記回転軸を駆動する。ここで、タービンTを回転駆動した排気は、排気管などを介して排気ベントから排出される。コンプレッサCは、図示せぬ給気サイレンサ等を介して外部の空気を導入するのに加えて、前記タービンTの回転駆動による回転によって導入する空気を圧縮する。そして、この加圧された空気は、インタークーラ1を介してシリンダ12へと供給される。この際、過給機11からの吸入空気の量は、スロットルバルブ15によって調整される。
【0021】
また、本発明に係るインタークーラ1は、いわゆる水冷式のインタークーラであり、冷却水ポンプ等により冷却水が供給され、これにより、過給機11での圧縮によって温度が上昇した吸入空気との熱交換を行っている。インタークーラ1内を通過した冷却水は、エンジン内を循環するかあるいは外部に排出される。また、シリンダ12にも冷却水が供給されており、シリンダ12内に形成されるウォータジャケット(冷却水通路)を通って燃焼室などの冷却が行われる。
【0022】
次に、本発明に係るインタークーラ1の構成ついて図2〜図4を用いて説明する。
インタークーラ1は、前述のように水冷式のインタークーラであり、冷却水により冷却されて吸入空気との熱交換を行うことで吸入空気を冷却する冷却コア2と、この冷却コア2を収容するとともに支持するケース体3とを有している。また、インタークーラ1は、給気マニホールド13に内蔵されるタイプのものであるため、多気筒エンジンにおいて各気筒に分岐される給気マニホールド13に対応して各気筒が連設される方向を長手方向とする細長い形状に構成される。つまり、冷却コア2及びケース体3それぞれが細長い形状に構成される。
【0023】
冷却コア2は、多数の冷却水通路2a・2a・・・と、波状に屈曲加工された薄板である多数のフィン2b・2b・・・とを有している。冷却水通路2a・2a・・・は冷却コア2の短手方向に略等間隔を隔てて配設され、これら冷却水通路2a・2a・・・の間において、フィン2b・2b・・・がそれぞれの冷却水通路2a・2a・・・に付設される。また、冷却コア2における冷却水の流れる方向の両端側、即ち冷却水の入口側と出口側には、前記冷却水通路2a・2a・・・と連通するタンク6・7がそれぞれ設けられる。つまり、これら両タンク6・7間に冷却水通路2a・2a・・・が連通した状態で架設される。そして、冷却水の入口側のタンク6には冷却コア2内へ冷却水を導く導入管4が連通接続されており、冷却水の出口側のタンク7には冷却コア2内を通過した冷却水を排出する排出管5が連通接続されている。このような構成において、インタークーラ1における冷却水は、導入管4から流入し、タンク6を介して冷却水通路2a・2a・・・を通過して、タンク7を介して排出管5から排出される。
【0024】
ケース体3は、長方形の板状部材であり、その略中央部には冷却コア2を収容するための開口部3aが形成されており、この開口部3aの周囲にはインタークーラ1を支持するためのフランジ部3bが形成されている。このフランジ部3bには、インタークーラ1を支持する際にボルト等の締結具が挿通されるボルト孔3d・3d・・・が穿設されている。また、前記開口部3aには、冷却コア2を支持するためのブラケット3c・3cが、冷却コア2の側面2c・2cに沿うようにして上方または下方の少なくとも一方(本実施形態においては上方)に向けて延出形成されている。つまり、冷却コア2は、ケース体3の開口部3aに収容された状態で、ブラケット3c・3cを介して支持される。ここで、ブラケット3c・3cは、冷却コア2の側面2c・2cに溶接などにより固定される。
【0025】
また、冷却コア2は、補強プレート8によって補強されている。補強プレート8は、冷却コア2の上面及び下面において付設され、冷却コア2をその両側面側から挟み込むようにして補強する。つまり、補強プレート8は、その両端部に把持部8a・8aが冷却コア2の側面2c・2cに沿うようにして折り曲げ形成されており、これら把持部8a・8aによって冷却コア2を挟み込んだ状態で溶接などにより固定されて冷却コア2を補強する。そして、本実施形態においては、こうした補強プレート8が冷却コア2の上面及び下面それぞれにおいて長手方向に略等間隔を隔てて3箇所(計6箇所)設けられており、各補強位置において上下の補強プレート8・8が平面視でX字状となるように配設される。
【0026】
このような構成のインタークーラ1が、図6に示すように、ケース体3のフランジ部3bが支持固定されることにより給気マニホールド13に内蔵された状態で設けられる。すなわち、インタークーラ1は、シリンダ12に取り付けられる給気マニホールド13と、この給気マニホールド13を上方から覆う給気ダクト16との間に挟まれて収納される。給気ダクト16は、給気マニホールド13の上部において、過給機11からの吸入空気が給気配管17を介して流入し給気マニホールド13へと通じる空間を形成しており、給気マニホールド13及び給気ダクト16とによって形成される空間内にインタークーラ1が内蔵される。つまり、給気ダクト16は、給気配管17を介して流入する吸入空気を、インタークーラ1に導くとともに給気マニホールド13へと導く構成としている。ここで、インタークーラ1は、ケース体3に形成されるフランジ部3bが、給気マニホールド13と給気ダクト16との間においてボルト等の締結具により固定されることによって支持される。
【0027】
このように給気マニホールド13に内蔵されるインタークーラ1においては、図示せぬ冷却水ポンプによって供給される冷却水が、配管などを介して冷却水入口としての冷却水配管18から流入し、前記導入管4からインタークーラ1の冷却コア2内に流入する。そして、冷却コア2内を通過した冷却水は、排出管5から排出され冷却水出口としての冷却水配管19から排出されて配管などを介して循環あるいは外部に排出される。
【0028】
また、給気配管17を介してインタークーラ1が内蔵される空間内に流入する吸入空気は、インタークーラ1の冷却コア2上面の略全面から流入して下方に向けて通過し、各気筒へと連通する給気マニホールド13を介して各気筒へ供給される。つまり、細長い形状を有する冷却コア2を通過した吸入空気は、そのまま各気筒へと供給される構造となっている。
【0029】
以上説明したような構成のインタークーラ1においては、各部材間の熱膨張比の違いにより、給気マニホールド13と給気ダクト16との間にフランジ部3bを介して固定されるケース体3に対する各部材の熱膨張差が生じる。こうした部材間の熱膨張差は、前述したように細長い形状を有する本実施形態のインタークーラ1においては、その長手方向に顕著に現れる。このため、インタークーラ1における冷却水の出入口部である導入管4及び排出管5においては、各管のフランジ部4a・5aに外嵌される冷却水配管(図示略)との間にOリング等を介在させることにより、導入管4及び排出管5のインタークーラ1の長手方向に対する熱膨張による伸縮を吸収する。
【0030】
また、冷却コア2とケース体3との熱膨張差は、冷却コア2の四隅に設けられる熱膨張差吸収部21において吸収される。
【0031】
熱膨張差吸収部21においては、冷却コア2の両端に設けられる各タンク6・7の側面と冷却コア2の側面2c・2cとに懸架した状態で固定されるベントプレート22が設けられる。ベントプレート22は、具体的には図5に示すように、冷却コア2に対して外側に湾曲した形状により弾性を有する板状部材であり、その一端側が冷却コア2の側面2cに、他端側がタンク6の側面6cにそれぞれ溶接などにより固定される。また、ケース体3の開口部3aには、このベントプレート22の外側に凸となる湾曲に合わせた凹部3eが形成されており、ベントプレート22の湾曲を許容している。同様にして、他側のタンク7と冷却コア2との間においてもベントプレート22が設けられる。このようにしてインタークーラ1において4箇所設けられるベントプレート22により、冷却コア2の長手方向の熱膨張を吸収している。つまり、冷却コア2の長手方向の熱膨張をベントプレート22が撓むことで弾性的に吸収する構造となっている。
【0032】
このようにして冷却コア2の四隅に構成される熱膨張差吸収部21においては、外側に湾曲したベントプレート22と冷却コア2との間に隙間20が生じる。この隙間20は、冷却コア2が存在しない給気通路を形成することとなる。つまり、給気配管17から給気マニホールド13内に流入する吸入空気の一部は、インタークーラ1を通過する際に、冷却コア2内を通過することなく隙間20を通過して各気筒へと供給されることとなる。このように、冷却コア2内を通過しない吸入空気が存在することは、前述したように、各気筒間の吸気温度のバラツキを生じさせるとともにインタークーラ1の冷却効果の低下を招く。
【0033】
そこで、本発明においては、図5に示すように、冷却コア2とケース体3との間に存在する隙間20に充填剤30を充填する。つまり、隙間20に充填剤30を充填することによって隙間20を孔埋めし、冷却コア2が存在しない給気通路となる隙間20の連通を断つのである。
【0034】
充填剤30としては、伸縮性・弾性を有する素材とする。例えば、シリコン系ゴムやフッ素ゴムやアクリルゴム等が考えられる。つまり、隙間20に充填する充填剤30を伸縮性・弾性を有する素材とすることにより、冷却コア2の熱膨張によるベントプレート22の撓みを吸収し、熱膨張差吸収部21の機能を維持する。ここで、充填剤30は、隙間20における吸入空気の入口付近(上部)または出口付近(下部)に、あるいは隙間20の略全体にわたって、隙間20の給気通路としての連通が断たれるように充填される。
【0035】
このように、隙間20に伸縮性・弾性を有する充填剤30を充填することにより、熱膨張差吸収部21の有する熱膨張差を吸収する機能を維持しつつ、各気筒間の吸気温度のバラツキを低減することができるとともに、インタークーラ1の冷却効果を向上することができる。
【0036】
また、充填剤30としては、耐熱性に優れたシリコン系ボンドを使用することもできる。
これにより、過給機11における圧縮により温度の上昇した吸入空気による充填剤30の熱硬化を抑制することができ、隙間20に充填剤30を充填することによる効果がより確実なものとなる。
【0037】
さらに、インタークーラ1の大きさ・形状・構造などよっては、熱膨張差吸収部21における隙間20が大きくなる場合がある。この場合、隙間20に充填される充填剤30を、耐熱性を有するシリコン系ボンドで固定することが好ましい。つまり、隙間20に充填される充填剤30を、隙間20の入口側及び出口側の少なくとも一側からシリコン系ボンドを用いて固定するのである。
これにより、熱膨張差吸収部21における隙間20が大きい場合であっても、充填剤30の固定を確実なものとすることができる。
【0038】
このように、本発明のインタークーラ1を適用することにより、各気筒間の吸気温度のバラツキを低減できるとともに冷却効果を向上することができるのであるが、本発明をガスエンジン等の火花点火エンジンに適用することにより、ノッキング抑制の観点からより顕著な効果を得ることができる。
以下においては、隙間20に充填剤30を充填することによる効果を、実際の測定結果に基づいて説明する。なお、便宜上、6気筒エンジンにおける各気筒を、インタークーラ1の吸入空気の入口側から順に第1シリンダc1、第2シリンダc2、・・・第6シリンダc6とする。また、各気筒における吸気温度の測定位置は図6に示す如くである。
【0039】
インタークーラ1内には、過給機11によって圧縮された150℃程度の吸入空気が流入する。そして、この吸入空気がインタークーラ1の冷却コア2内を通過することで熱交換されて冷却されるのであるが、従来のように隙間20に充填剤30を充填しない場合、各気筒における吸気温度について、図7に示すような測定結果が得られた。これによると、インタークーラ1における隙間20近傍の気筒(本実施形態においては、各気筒連設方向の両端側に位置する気筒)の吸気温度が、他の気筒の吸気温度に比べて高くなっている。具体的には、最も高い吸気温度を示したのが第6シリンダc6で46.4℃であり、最も低い吸気温度を示したのが第5シリンダc5で42.6℃であった。つまり、本測定結果においては、吸気温度の最も高い気筒と最も低い気筒との間には約4℃の温度差があり、この範囲内で各気筒における吸気温度がバラツキを持った値となっている。また、この場合の各気筒の吸気温度の平均値は44.5℃であった。
【0040】
一方、本発明のように熱膨張差吸収部21の隙間20に充填剤30を充填した場合、図8に示すような測定結果が得られた。これによると、インタークーラ1における隙間20近傍の気筒の吸気温度が、他の気筒の吸気温度に比べて若干高くなってはいるものの、その温度差は低減している。具体的には、最も高い吸気温度を示した第1シリンダc1の41.9℃に対して、最も低い吸気温度を示したのが第3シリンダc3の39.7℃であり、その温度差は約2℃となっている。つまり、従来の場合と比較して各気筒間の吸気温度のバラツキの範囲が約2℃低減している。また、この場合の各気筒の吸気温度の平均値は40.7℃となっており、従来の場合と比較して約4℃低くなっている。つまり、隙間20に充填剤30を充填することにより、各気筒間の吸気温度のバラツキが低減されるとともに、各気筒に供給される吸気温度全体としても低くなりインタークーラ1の冷却効果が向上していることがわかる。
【0041】
このように、実際の測定結果からも本発明の効果が実証されている。
すなわち、上記測定結果を例にとると、従来の場合においては、ノッキングを抑制するために点火時期を遅角補正する際は、全気筒の点火時期を同一とするエンジンの場合は最も吸気温度の高い第6シリンダc6を基準に行うこととなる。この場合、各気筒間の吸気温度のバラツキの範囲が大きいため、吸気温度の低い他の気筒についても点火時期が遅くなり、エンジン性能の向上が図れないこととなる。つまり、従来においては、熱膨張差吸収部21の隙間20近傍の気筒の吸気温度が高くなることが原因で、十分なエンジン性能を発揮することができなかった。
【0042】
一方、本発明のインタークーラ1を用いた場合、ノッキング抑制のための点火時期の遅角補正は、最も吸気温度の高い第1シリンダc1を基準に行うこととなる。しかしこの場合は、従来の場合と比較して各気筒間の吸気温度のバラツキが低減し、吸気温度の平均値も低くなっているため、点火時期の遅角量を少なくすることができる。つまり、本発明においては、インタークーラ1の有する冷却性能を最大限に引き出せるため、吸気温度の冷却効果を向上することが可能となり、エンジン性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るエンジンにおける給排気系を示す概略図。
【図2】本発明に係るインタークーラを示す平面図。
【図3】同じく側面図。
【図4】図3におけるA矢視図。
【図5】図5本発明に係るインタークーラの要部拡大図。
【図6】インタークーラの取付状態を示す図。
【図7】従来における各気筒の吸気温度の測定結果の一例を示すグラフ。
【図8】本発明における各気筒の吸気温度の測定結果の一例を示すグラフ。
【図9】従来のインタークーラを示す平面図。
【符号の説明】
【0044】
1 インタークーラ
2 冷却コア
3 ケース体
11 過給機
12 シリンダ
13 給気マニホールド
20 隙間
21 熱膨張差吸収部
30 充填剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入空気を冷却する冷却コアと、この冷却コアを支持するとともに収容するケース体とを備え、前記冷却コアと前記ケース体との熱膨張差を吸収する熱膨張差吸収部を有し、吸入空気が前記冷却コアを通過するとともに給気マニホールドを介して各気筒へ供給される構成の、多気筒エンジンに備えられるインタークーラにおいて、
前記熱膨張差吸収部に形成される前記冷却コアと前記ケース体との隙間に、伸縮性を有する充填剤を充填したことを特徴とするインタークーラ。
【請求項2】
前記充填剤は、耐熱性を有するシリコン系ボンドであることを特徴とする請求項1記載のインタークーラ。
【請求項3】
前記充填剤を、耐熱性を有するシリコン系ボンドで固定したことを特徴とする請求項1記載のインタークーラ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−37781(P2006−37781A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216140(P2004−216140)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】