説明

インターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳、及び発酵乳製造用種菌

【課題】科学的根拠をもってI型アレルギーとの関係が解明された新たな機能を有する発酵乳、及びその製造に用いられる発酵乳製造用種菌を提供する。
【解決手段】ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスからなる複数種の乳酸菌の菌体又は菌体成分を含有してなる発酵乳。本発明の発酵乳を日常的に食することにより、インターフェロンガンマの発現を誘導することができ、Th1/Th2バランスをTh1優位に調節することができる。その結果、IgEの産生が抑えられ、I型アレルギーの発症を抑えることができる。これらの乳酸菌を含み、該発酵乳の製造に用いるための発酵乳製造用種菌も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵乳及び種菌に関し、さらに詳細には、特定の複数種の乳酸菌を含有してなるインターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳、及び該発酵乳の製造に用いられる発酵乳製造用種菌に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、花粉症、アトピー性皮膚炎、喘息といったアレルギー疾患が増加傾向にあり、世界的に問題となっている。これらのアレルギー疾患は、即時型アレルギーの1つであるI型アレルギーに起因するものである。I型アレルギーの発生メカニズムの概要は以下のとおりである。まず、アレルギーの原因となる抗原(アレルゲン)が体内に入ると、アレルゲンが肥満細胞表面の免疫グロブリンE(IgE)に結合する。アレルゲンが結合した肥満細胞は脱顆粒を起こし、ヒスタミンやロイコトリエンといった化学伝達物質を放出する。そして、これらの化学伝達物質がI型アレルギーを引き起こす。アレルギー疾患を有する人は、健常人と比較して血中のIgE濃度が高いことが分かっている。
【0003】
IgEの産生メカニズムの概要は以下のとおりである。まず、アレルゲン等の抗原が侵入すると、樹状細胞と呼ばれる免疫担当細胞がその抗原を取り込み、抗原の一部を細胞表面に提示する。次に、ナイーブT細胞が細胞表面に提示された抗原に結合し、Th1細胞又はTh2細胞に分化する。Th1細胞とTh2細胞はいずれも活性化されたヘルパーT細胞であり、それぞれ異なる役割を担っている。Th1細胞は細胞障害性T細胞を誘導し、細胞性免疫に関係している。一方、Th2細胞はB細胞を活性化し、抗体産生すなわち液性免疫に関係している。抗体は免疫グロブリン(Ig)であり、I型アレルギーの主役であるIgEもTh2細胞によって産生される。Th1細胞とTh2細胞のバランス(Th1/Th2バランス)が崩れることによって、種々の免疫異常が起こることがわかっている。例えば、Th1/Th2バランスがTh2優位になると、抗体産生が誘導され、IgEが多く産生される。つまり、I型アレルギーはTh1/Th2バランスがTh2優位となった状態といえる。したがって、I型アレルギーを抑制する観点から言えば、Th1/Th2バランスをTh1優位となるように調節することが好ましい。
【0004】
ナイーブT細胞がTh1細胞とTh2細胞のどちらに分化するかについては、複数のサイトカインが関係している。すなわち、インターロイキン−12(IL−12)が作用するとTh1細胞に、インターロイキン−4(IL−4)が作用するとTh2細胞に分化する。また、Th1細胞が細胞障害性T細胞を誘導するためには、インターロイキン−2(IL−2)とインターフェロンガンマ(IFNγ)の作用が必要である。一方、Th2細胞がB細胞を活性化するためには、インターロイキン−4(IL−4)とインターロイキン−10(IL−10)の作用が必要である。よって、IL−2又はIFNγの発現量を高めることで、Th1/Th2バランスをTh1優位に調節することができる。その結果、IgEの産生が抑えられ、I型アレルギーの発症も抑えられるようになると考えられる。
【0005】
また近年、ヨーグルトに代表される発酵乳が、花粉症やアトピー性皮膚炎に効果があると経験的に言われている。しかしながら、その効果が科学的根拠をもって明らかにされた例は少ない。特に、ヒトによる臨床試験を行なった例は極めて少ない。特許文献1には、乳酸菌の一種であるラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)のある菌株を用いて調製されたヨーグルトを経口摂取した花粉症患者において、Th1細胞の比率が高まっており、花粉症の症状も改善傾向にあったことが記載されている。
【0006】
ヨーグルト以外の発酵乳として、ケフィアが知られている。ケフィアは、長寿地域として有名なコーカサス地方で古くから食されている発酵乳である。伝統的なケフィアは、ケフィア粒と呼ばれる種菌を牛乳に加えて発酵させることにより製造されている。この種菌には、複数の乳酸菌に加えて酵母も含まれており、ケフィアは1〜2種類の乳酸菌による発酵で調製されるヨーグルトと一線を画している。現在では、ケフィア粒を元にしたより活性の高い種菌が開発され、すでに市販もされている。
【特許文献1】特開2005−137357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
あるアンケート調査によれば、ケフィアを食することで花粉症の症状が軽減するという結果が出ている。しかし、ケフィアと花粉症等のI型アレルギーとの関係については、まだ科学的に解明されていない。この関係を科学的に解明することにより、新たな機能を有する発酵乳を開発することができると考えられる。本発明の目的は、科学的根拠をもってI型アレルギーとの関係が解明された新たな機能を有する発酵乳、及びその製造に用いられる発酵乳製造用種菌を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスからなる複数種の乳酸菌の菌体又は菌体成分を含有してなるインターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳である。
【0009】
本発明は新たな機能が付与された発酵乳にかかるものである。すなわち、本発明の発酵乳は、4種の乳酸菌、すなわち、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)の菌体又は菌体成分を含有し、インターフェロンガンマ発現誘導作用を有する。本発明の発酵乳によれば、日常的に食することにより、簡便にインターフェロンガンマの発現を誘導することができ、Th1/Th2バランスをTh1優位に調節することができる。その結果、IgEの産生が抑えられ、I型アレルギーの発症を抑えることができる。なお、本発明の発酵乳は上記した4種の乳酸菌以外に、さらに他の微生物を含んでいてもよい。他の微生物としては、上記4種以外の乳酸菌や酵母が挙げられる。また、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスは、単にラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)と、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスは、単にラクトコッカス・クレモリス(Lactococcus cremoris)と呼ばれることもある。
【0010】
なお、本発明の発酵乳は、換言すれば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスからなる複数種の乳酸菌の菌体又は菌体成分を含有してなるインターフェロンガンマ発現誘導剤又はインターフェロンガンマ発現誘導用組成物であり、主に飲食品として用いられるものである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、1種の乳酸菌につき、1グラム当たり2×108個以上の菌体を含有する請求項1に記載のインターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳である。
【0012】
本発明の発酵乳は、4種の乳酸菌をそれぞれ一定数以上含有する。かかる構成により、より確実にインターフェロンガンマの発現を誘導することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスからなる複数種の乳酸菌を牛乳に添加し、該乳酸菌の作用によって牛乳を発酵させてなるインターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳である。
【0014】
本発明の発酵乳は、4種の乳酸菌、すなわち、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスを牛乳に添加し、発酵させることにより製造され、インターフェロンガンマ発現誘導作用を有するものである。本発明の発酵乳によっても、日常的に食することにより、簡便にインターフェロンガンマの発現を誘導することができ、Th1/Th2バランスをTh1優位に調節することができる。その結果、IgEの産生が抑えられ、I型アレルギーの発症を抑えることができる。
【0015】
なお、本発明の発酵乳は、換言すれば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスからなる複数種の乳酸菌を牛乳に添加し、該乳酸菌の作用によって牛乳を発酵させてなるインターフェロンガンマ発現誘導剤又はインターフェロンガンマ発現誘導用組成物であり、主に飲食品として用いられるものである。
【0016】
血清中IgE濃度を低下させる作用、又は血清中IgE濃度の上昇を抑制する作用を有する構成も推奨される(請求項4)。換言すれば、IgE産生抑制剤又はIgE産生抑制用組成物として使用される構成も推奨される。また、I型アレルギー抑制作用を有する構成(請求項5)も推奨される。換言すれば、I型アレルギー抑制剤又はI型アレルギー抑制用組成物として使用される構成も推奨される。
【0017】
請求項6に記載の発明は、複数種の乳酸菌を含有する発酵乳製造用種菌であって、前記乳酸菌は、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスからなり、請求項1〜5のいずれかに記載のインターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳の製造に用いるための発酵乳製造用種菌である。
【0018】
本発明は複数種の乳酸菌を含有する発酵乳製造用種菌にかかるものである。本発明の発酵乳製造用種菌は、本発明の発酵乳を製造するために用いられるものであり、4種の乳酸菌、すなわち、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスを含有する。本発明の発酵乳製造用種菌によれば、インターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳を簡便かつ効率的に製造することができる。なお、本発明の発酵乳製造用種菌は上記した4種の乳酸菌を含んでおればよく、さらに他の微生物を含んでいてもよい。他の微生物としては、上記4種以外の乳酸菌や酵母が挙げられる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、1種の乳酸菌につき、1グラム当たり2×108個以上の乳酸菌を含有する請求項6に記載の発酵乳製造用種菌である。
【0020】
本発明の種菌は、上記した4種の乳酸菌をそれぞれ一定数以上含む。かかる構成により、インターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳をより確実に製造することができる。
【0021】
請求項8に記載の発明は、顆粒状に製剤化されている請求項6又は7に記載の発酵乳製造用種菌である。
【0022】
本発明の発酵乳製造用種菌は、顆粒状に製剤化されている。かかる構成により、より簡便かつ確実に牛乳に添加することができる。さらに、本発明の発酵乳製造用種菌は、長期間の保存に適している。
【発明の効果】
【0023】
本発明の発酵乳によれば、日常的に食することにより、簡便にインターフェロンガンマの発現を誘導することができ、Th1/Th2バランスをTh1優位に調節することができる。その結果、IgEの産生が抑えられ、I型アレルギーの発症を抑えることができる。
【0024】
本発明の発酵乳製造用種菌によれば、インターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳を簡便かつ効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳しく説明する。
【0026】
本発明の発酵乳の1つの様相は、4種の乳酸菌、すなわち、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスの菌体又は菌体成分を含有する。本発明の発酵乳においては4種の乳酸菌の全てが含まれておればよく、各乳酸菌の割合には特に限定はない。また、上記4種の乳酸菌以外の微生物、例えば他の乳酸菌や酵母をさらに含有してもよい。「菌体」には生菌と死菌の両方が含まれる。さらに、「菌体成分」には、菌体に由来する細胞壁等の全ての成分が含まれる。
【0027】
なお、本様相の発酵乳は、換言すれば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスからなる複数種の乳酸菌の菌体又は菌体成分を含有してなるインターフェロンガンマ発現誘導剤又はインターフェロンガンマ発現誘導用組成物であり、主に飲食品として用いられるものである。
【0028】
菌体又は菌体成分の含有量としては特に限定はなく、発酵乳がインターフェロンガンマ発現誘導作用を有しさえすればよい。好ましい実施形態では、1種の乳酸菌につき、1グラム当たり2×108個以上の菌体を含有する。
【0029】
本発明の発酵乳の他の様相は、4種の乳酸菌、すなわち、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスを牛乳に添加し、該乳酸菌の作用によって牛乳を発酵させて製造された発酵乳である。本方法で製造された発酵乳は、結果的にこれら4種の乳酸菌を含有し、インターフェロンガンマ発現誘導作用を有する。なお、本様相の発酵乳は、換言すれば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスからなる複数種の乳酸菌を牛乳に添加し、該乳酸菌の作用によって牛乳を発酵させてなるインターフェロンガンマ発現誘導剤又はインターフェロンガンマ発現誘導用組成物であり、主に飲食品として用いられるものである。
【0030】
本発明の発酵乳製造用種菌は、4種の乳酸菌、すなわち、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスを含有する。本発明の発酵乳製造用種菌は、本発明の発酵乳を製造するために用いられる。本発明の発酵乳製造用種菌における4種の乳酸菌は、各種の微生物保存機関から入手することができるが、市販の種菌を使用することもできる。本発明の発酵乳製造用種菌においては4種の乳酸菌の全てが含まれておればよく、各乳酸菌の割合には特に限定はない。また、上記4種の乳酸菌以外の微生物、例えば他の乳酸菌や酵母をさらに含有してもよい。
【0031】
上記4種の乳酸菌の含有量としては特に限定はなく、インターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳が製造できる含有量であればよい。好ましい実施形態では、1種の乳酸菌につき、1グラム当たり2×108個以上の乳酸菌を含有する。
【0032】
本発明の発酵乳製造用種菌の形状としては、ペースト状、凍結乾燥品等が挙げられるが、凍結乾燥品が長期保存性の面で有利である。好ましい実施形態では、発酵乳製造用種菌が顆粒状に製剤化されている。製剤化の方法としては、一般に用いられている方法をそのまま適用することができ、例えば、適宜の賦形剤や安定化剤とともに乳酸菌を凍結乾燥することで製剤化できる。例えば、カナダ国ローゼル社の高活性ケフィア菌(登録商標)は、これら4種の乳酸菌に加えてラクトコッカス・ダイアセチラクティス(Lactococcus diacetilactis)やロイコノストック・クレモリス(Leuconostoc cremoris)等の乳酸菌、並びにサッカロマイセス・フロレンチヌス(Saccharomyces florentinus)等の酵母を含み、凍結乾燥によって顆粒状に製剤化された種菌である。この高活性ケフィア菌をそのまま本発明の発酵乳製造用種菌として用いることもできる。
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
本実施例における試験は、大阪大学大学院医学系研究科、及び大阪大学微生物病研究所に委託して行なった。
【0035】
1.発酵乳の調製
1Lの紙パック入り牛乳(明治乳業社)に、高活性ケフィア菌(登録商標。カナダ国ローゼル社製造、有限会社中垣技術士事務所輸入販売。)の顆粒1gを添加し混合した。そのまま25℃で24時間静置し、発酵乳(以下、「ホームメイドケフィア」と称する。)を調製した。調製したホームメイドケフィアを4℃にて保存した。なお、調製したホームメイドケフィアの酸度とpHを3回測定したところ、酸度が0.75%、0.71%、及び0.83%、pHが4.40、4.55、及び4.23であった。
【0036】
2.被験者への発酵乳の摂取
スギ花粉特異的IgE抗体測定試薬(三菱化学ヤトロン社)を用いて血清中のスギ花粉特異的IgEの濃度を測定し、被験者のスクリーニングを実施した。血清中のスギ花粉特異的IgEの濃度が0.7 IU/mL以上であった20歳以上の男女14名を被験者として選抜した。被験者の属性を第1表に示す。
【表1】

【0037】
被験者14名を7名ずつ、ホームメイドケフィア摂取群(以下、単に「ケフィア摂取群」と言うことがある。)と牛乳摂取群(対照)とに分けた。ホームメイドケフィア摂取群の被験者は、1日当たり300mLのホームメイドケフィアを3週間連続して摂取した。この期間は、他社のヨーグルト、乳酸菌飲料、及び納豆の摂取をしなかった。さらに、次の3週間はホームメイドケフィアを摂取しなかった。ホームメイドケフィアの摂取前(0日目)、摂取3週間目(試験開始21日目)、及び6週間目(非摂取3週間経過時、試験開始42日目)に、末梢血から採血した。採血した血液から血清を調製した。一方、牛乳摂取群(対照)の被験者7名は、ホームメイドケフィアに代えて牛乳を同様に摂取した。試験方法、採血、血清の調製等もホームメイドケフィア摂取群と全く同様に行なった。調製した各血清について、総IgE濃度とIFNγ濃度を測定した。いずれの測定も、専用のELISAキット(医学生物学研究所社)を用いて行なった。以下、「血清中総IgE濃度」を単に「血清中IgE濃度」と表記する。
【0038】
3.血清中IFNγ濃度の測定結果
血清中IFNγ濃度の測定結果を第2表に示す。なお、第2表中の「−」については異常値と判断し削除した。さらに、第2表の値をもとに作成したグラフを図1〜図3に示す。図1は、各群における血清中IFNγ濃度(平均値)と試験日数との関係を表す折れ線グラフである。図1中、縦軸は血清中IFNγ濃度(IU/mL)を表し、0日目の血清中IFNγ濃度を1とした場合の相対値である。横軸は経過日数である。図2は、各群をさらに軽症群と重症群とに分けて血清中IFNγ濃度(平均値)を比較した棒グラフである。なお、ケフィア摂取前の血清中IgE濃度が200〜400IU/mLの被験者を軽症群、400IU/mL以上の被験者を重症群とした(以下同じ)。図3は、図2の結果を21日目における増加率で表した棒グラフである。なお、増加率(%)は「(21日目の値−0日目の値)÷0日目の値×100」の式から算出される(以下同じ)。
【表2】

【0039】
図1に示すように、牛乳摂取群(対照)では試験開始21日目に血清中IFNγ濃度が0日目(摂取前)の0.83倍と減少しており、試験開始42日目においても摂取前の1.11倍とあまり上昇していなかった。一方、ケフィア摂取群では試験開始21日目の血清中IFNγ濃度が0日目(摂取前)の1.16倍に上昇しており、試験開始42日目においては摂取前の1.54倍にまで上昇していた。以上のように、ケフィア摂取群において、血清中IFNγ濃度が上昇していた。
【0040】
図2及び図3に示すように、牛乳摂取群(対照)では、軽症群において試験開始21日目の血清中IFNγ濃度は0日目(摂取前)の血清中IFNγ濃度はほとんど変化がないか、僅かに減少傾向にあった。重症群においては、試験開始21日目の血清中IFNγ濃度は0日目(摂取前)の血清中IFNγ濃度より僅かに上昇した。一方、ケフィア摂取群では、軽症群と重症群のいずれにおいても、血清中IFNγ濃度が14%以上も上昇していた(図3)。以上より、ホームメイドケフィアを摂取した花粉症患者において、血清中IFNγ濃度が上昇していた。
【0041】
4.血清中IgE濃度の測定結果
血清中IgE濃度の測定結果を第3表に示す。さらに、第3表の値をもとに作成したグラフを図4〜図6に示す。図4は、各群における血清中IgE濃度(平均値)と試験日数との関係を表す折れ線グラフである。図4中、縦軸は血清中IgE濃度(IU/mL)を表し、0日目の血清中IgE濃度を1とした場合の相対値である。横軸は経過日数である。図5は、各群をさらに軽症群と重症群とに分けて血清中IgE濃度(平均値)を比較した棒グラフである。図6は、図5の結果を21日目における増加率で表した棒グラフである。
【表3】

【0042】
図4に示すように、牛乳摂取群(対照)では試験開始21日目に血清中IgE濃度が0日目(摂取前)の1.12倍に上昇しており、試験開始42日目においても摂取前と差がなく、ほぼ同値であった。一方、ケフィア摂取群では試験開始21日目の血清中IgE濃度が0日目(摂取前)の0.97倍であり、試験開始42日目においても摂取前の0.92倍であった。すなわち、ケフィア摂取群においては、血清中IgE濃度の上昇が抑えられていた。
【0043】
図5及び図6に示すように、牛乳摂取群(対照)では、軽症群と重症群のいずれにおいても、試験開始21日目の血清中IgE濃度は0日目(摂取前)の血清中IgE濃度に比べて高かった。一方、ケフィア摂取群では、軽症群において、試験開始21日目の血清中IgE濃度は0日目(摂取前)の血清中IgE濃度に比べて低かった。また、重症群においては、試験開始21日目の血清中IgE濃度は0日目(摂取前)の血清中IgE濃度にとほぼ同じで、変化はなかった(図6)。以上より、ホームメイドケフィアを摂取した花粉症患者において、血清中IgE濃度が低下すること、又は血清中IgE濃度の上昇が抑制されることが示された。
【実施例2】
【0044】
高活性ケフィア菌(登録商標)から複数種の乳酸菌を単離した。そのうちの4種(以下、「乳酸菌#1」、「乳酸菌#2」、「乳酸菌#4」、及び「乳酸菌#62」と称する。)について以下の試験を行ない、これらの乳酸菌の同定を試みた。
【0045】
1.各種基質の資化性
乳酸菌#1と乳酸菌#2について、API50CHLキットを用いて各種基質の資化性を調べた。結果を第4表に示す。第4表中、「+」は陽性、「−」は陰性、「w」は弱陽性を表す。この結果は、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)とラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)が有する基質の資化性データと一致した。
【表4】

【0046】
乳酸菌#4と乳酸菌#62について、APIストレップ20を用いて各種基質の資化性を調べた。結果を第5表に示す。第5表中、「+」は陽性、「−」は陰性、「w」は弱陽性を表す。この結果は、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)とラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)が有する基質の資化性データと一致した。
【表5】

【0047】
2.16SrRNA遺伝子の塩基配列
各乳酸菌からゲノムDNAを単離した。これらのゲノムDNAを鋳型とし、配列番号1と2に示されるオリゴヌクレオチドをプライマー対としてPCRを行い、16SrRNA遺伝子を含むDNA断片を増幅した。各増幅DNA断片の塩基配列を決定した。乳酸菌#1由来の増幅DNA断片の塩基配列を配列番号3に示す。乳酸菌#2由来の増幅DNA断片の塩基配列を配列番号4に示す。乳酸菌#4由来の増幅DNA断片の塩基配列を配列番号5に示す。乳酸菌#62由来の増幅DNA断片の塩基配列を配列番号6に示す。得られた各塩基配列の情報をNCBIのデータベースで検索した。その結果、乳酸菌#1、乳酸菌#2、及び乳酸菌#4については、それぞれラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスと同定された。乳酸菌#62についてはデータベース中に見つからなかったが、乳酸菌#4と遺伝的に非常に似ている乳酸菌であることが明らかになった。以上に示した各種基質の資化性の結果、及び16SrRNA遺伝子の塩基配列決定の結果より、乳酸菌#1をラクトバチルス・カゼイ、乳酸菌#2をラクトバチルス・プランタルム、乳酸菌#4をラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、乳酸菌#62をラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスと同定した。
【0048】
同定された4種の乳酸菌(以下、学名で表記する。)のINFγ発現誘導作用を、マクロファージ系細胞(U937細胞)を用いたインビトロ試験により確認した。まず、各乳酸菌を加熱により不活化させた。次に、不活化した各乳酸菌(2×107個)の共存下でU937細胞(1×106個)を培養した。培養20時間目と40時間目における培地中のIFNγ濃度を測定した。対照として、乳酸菌の代わりに大腸菌(Escherichia coli)を用いて同様にして培養した。また、何も添加せずにU937細胞を同様に培養する対照も設定した。試験は2回行い、平均値を算出した。結果を表6に示す。
【表6】

【0049】
第6表の値をもとに作成したグラフを図7に示す。図7は、各乳酸菌を用いた場合の培地中のIFNγ濃度(平均値)を表す棒グラフであり、図7(a)は培養20時間目、(b)は培養40時間目の結果を表す。図7(a)に示されるように、培養20時間目においては、ラクトバチルス・プランタルム(L. plantarum)を添加した場合に、IFNγの濃度が上昇していた。さらに、図7(b)に示されるように、培養40時間目では、他の乳酸菌、すなわち、ラクトバチルス・カゼイ(L. casei)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(L. lactis subsp. lactis)、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(L. lactis subsp. cremoris)においてもIFNγ濃度が上昇していた。特に、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスを添加した場合にIFNγ濃度の上昇が著しかった。なお、対照の大腸菌では、IFNγ濃度の上昇は見られなかった。以上より、4種の乳酸菌、すなわちラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスが、U937細胞のIFNγ発現を誘導することが示された。
【実施例3】
【0050】
実施例1で使用した高活性ケフィア菌(種菌)、及び調製されたホームメイドケフィア(発酵乳)における菌組成を調べた。結果を第6表に示す。第6表の数値は、3検体の平均値であり1g当たりの生菌数(cfu)で表されている。また、「ラクトコッカス属」はラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスとラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスの両方を含む。その結果、高活性ケフィア菌においては、最も少ないラクトバチルス・カゼイが2.0×108個/g、全ての乳酸菌の合計で1.4×109個/gであった。一方、ホームメイドケフィアにおいては、最も少ないラクトバチルス・カゼイが3.6×108個/g、乳酸菌の合計が1.8×109個/gであった。
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ケフィア摂取群と牛乳摂取群における血清中IFNγ濃度(平均値)と試験日数との関係を表す折れ線グラフである。
【図2】ケフィア摂取群と牛乳摂取群において、さらに軽症群と重症群とに分けて血清中IFNγ濃度(平均値)を比較した棒グラフである。
【図3】図2の結果を21日目における増加率で表した棒グラフである。
【図4】ケフィア摂取群と牛乳摂取群における血清中IgE濃度(平均値)と試験日数との関係を表す折れ線グラフである。
【図5】ケフィア摂取群と牛乳摂取群において、さらに軽症群と重症群とに分けて血清中IgE濃度(平均値)を比較した棒グラフである。
【図6】図5の結果を21日目における増加率で表した棒グラフである。
【図7】実施例2のインビトロ試験の結果を表し、(a)は培養20時間目におけるIFNγの濃度を表す棒グラフであり、(b)は培養40時間目におけるIFNγの濃度を表す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスからなる複数種の乳酸菌の菌体又は菌体成分を含有してなるインターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳。
【請求項2】
1種の乳酸菌につき、1グラム当たり2×108個以上の菌体を含有する請求項1に記載のインターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳。
【請求項3】
ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスからなる複数種の乳酸菌を牛乳に添加し、該乳酸菌の作用によって牛乳を発酵させてなるインターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳。
【請求項4】
血清中IgE濃度を低下させる作用、又は血清中IgE濃度の上昇を抑制する作用を有する請求項1〜3のいずれかに記載のインターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳。
【請求項5】
I型アレルギー抑制作用を有する請求項1〜4のいずれかに記載のインターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳。
【請求項6】
複数種の乳酸菌を含有する発酵乳製造用種菌であって、前記乳酸菌は、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスからなり、請求項1〜5のいずれかに記載のインターフェロンガンマ発現誘導作用を有する発酵乳の製造に用いるための発酵乳製造用種菌。
【請求項7】
1種の乳酸菌につき、1グラム当たり2×108個以上の乳酸菌を含有する請求項6に記載の発酵乳製造用種菌。
【請求項8】
顆粒状に製剤化されている請求項6又は7に記載の発酵乳製造用種菌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−117031(P2007−117031A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315684(P2005−315684)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(594141451)有限会社中垣技術士事務所 (1)
【Fターム(参考)】