説明

インターロイキン12産生抑制剤

【課題】IL−12過剰産生状態において、IL−12の産生を抑制させる作用を有し、且つ、長期に渡って摂取可能な安全性の高い医薬、飲食品を提供すること。
【解決手段】細菌由来のペプチドグリカン若しくはプロトプラスト、又は酵母由来のザイモサンを有効成分とするインターロイキン12産生抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン(以下、IL−ということもある)12の産生過剰による疾患の予防又は治療薬として有用なIL−12産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌、ウィルス等の感染、腫瘍、細胞傷害などに対して生体は免疫反応によって対応するが、その免疫反応は、免疫担当細胞間の直接的あるいは間接的な相互作用により調節されている。そして、免疫応答の調節にはリンパ球、マクロファージ等が産生するインターロイキン、TNF−α等のサイトカインが重要な役割を演じている。
【0003】
現在、インターロイキンに属するサイトカインとしては29種類が知られているが、その一つであるIL−12は、ヘルパーT細胞のTヘルパー1細胞サブセット(Th1)の分化誘導に働くため、Th1の活性化が関連する自己免疫疾患では、病態の進行に促進的に働くことが知られている。
【0004】
IL−12の産生を抑制する試みとしては、ケラタン硫酸オリゴ糖又はその誘導体によるIL−12産生の抑制(特許文献1)、アニリド誘導体によるIL−12産生の抑制(特許文献2)、ニコチン酸関連化合物によるIL−12産生の抑制(特許文献3)等が報告されているが、これらのいずれについても未だ十分な効果は得られていない。また、プロバイオティクスによりIL−12の産生を調節する試みとしては、乳酸菌菌体によるIL−12産生の誘導(特許文献4)、ラクトバチルス・プランタラム菌株によるIL−12産生の誘導(特許文献5)等が報告されているが、これらはいずれもIL−12の産生を促進するものであって、IL−12の産生を抑制する効果を有するものではない。
【特許文献1】特開2001−89493号公報
【特許文献2】特開2003−300875号公報
【特許文献3】WO02/011725号公報
【特許文献4】特開平10−139674号公報
【特許文献5】特開平10−167972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、IL−12の産生過剰による疾患の予防・治療に有用であり、かつ日常的に使用できる安全な医薬、飲食品に利用できるIL−12産生抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、全く意外なことに、IL−12を過剰産生させた状態のマクロファージに細菌由来のペプチドグリカン若しくはプロトプラスト、又は酵母由来のザイモサンを添加するとIL−12の産生が顕著に抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は細菌由来のペプチドグリカン若しくはプロトプラスト、又は酵母由来のザイモサンを有効成分とするIL−12産生抑制剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のIL−12産生抑制剤は、長期間経口摂取しても安全であり、接触性皮膚炎、自己免疫性ブドウ膜網膜炎、アレルギー性脳脊髄膜炎、インスリン依存性糖尿病、糖尿病、橋本氏病、多発性硬化症、リウマチ性関節炎、シェーグレン症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎、サルコイドーシス、乾癬、リポ多糖誘発肝壊死、半月体形成性腎炎、全身性エリテマトーデス等のIL−12産生過剰による多くの疾患の予防と治療の目的に有効かつ安全に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明IL−12産生抑制剤の有効成分は細菌由来のペプチドグリカン若しくはプロトプラスト、又は酵母由来のザイモサンである。細菌にはグラム陽性菌及びグラム陰性菌が含まれる。安全性に優れ、強い効果を発揮するとの理由から特にグラム陽性菌が好ましい。これらは各々1種でもよいし、2種以上用いてもよい。
【0010】
本発明に、用いられるグラム陽性菌としては、ラクトバチルス属、スタフィロコッカス属、ビフィドバクテリウム属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、バチルス属等に属する細菌が挙げられ、安全性に優れ、強い効果を発揮するとの理由から特にラクトバチルス属、スタフィロコッカス属、ビフィドバクテリウム属に属する細菌が好ましい。これらは各々1種でもよいし、2種以上用いてもよい。
【0011】
また、グラム陽性菌として、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・デルブルッキー、ラクトバチルス・ガッセリ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ファーメンタム、スタフィロコッカス・アウレウス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ラクトコッカス・ラクチス、バチルス・ズブチルス等が挙げられ、安全性に優れ、強い効果を発揮するとの理由から特にラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・デルブルッキー、スタフィロコッカス・アウレウス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガムが好ましい。これらは各々1種でもよいし、2種以上用いてもよい。
【0012】
さらに、ラクトバチルス・カゼイ(YIT 9029)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(YIT 4065)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(YIT 4007)等が挙げられ、安定性及び安全性に優れ、強い効果を発揮するとの理由から特にラクトバチルス・カゼイ(YIT 9029)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(YIT 4007)が好ましい。これらは各々1種でもよいし、2種以上用いてもよい。
【0013】
本発明において、用いられるグラム陰性菌としては、大腸菌等が挙げられる。
【0014】
本発明において、用いられる酵母としては、サッカロマイセス・セルビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ、カンジダ・アルビカンス等が挙げられ、安全性に優れ、強い効果を発揮するとの理由から特にサッカロマイセス・セルビシエが好ましい。これらは各々1種でもよいし、2種以上用いてもよい。
【0015】
細菌由来のペプチドグリカンとしては、菌種により構造が異なるが特に制限はない。例えば、ラクトバチルス・カゼイ由来のペプチドグリカンは構成糖としてN−アセチルグルコサミンとN−アセチルムラミン酸がβ1,4結合した繰り返しを単位とし、リジン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸からなるペプチドが結合した構造を有しており、本発明に好適に用いることができる。
【0016】
細菌由来のプロトプラストは、菌種により構造が異なるが特に制限はない。例えば、ラクトバチルス・カゼイ由来のプロトプラストは構成成分として細胞膜、リポテイコ酸、核酸等を含んでおり、本発明に好適に用いることができる。
【0017】
酵母由来のザイモサンの主成分であるβグルカンは菌種により構造が異なるが特に制限はない。例えば、β1,3グルカン、β1,6グルカン等が挙げられ、本発明に好適に用いることができる。
【0018】
本発明において、細菌由来のペプチドグリカンの調製方法としては、特に限定されないが、具体的には以下に示す方法を好適に用いることができる。グラム陽性菌加熱死菌体を0.3%ドデシル硫酸ナトリウムに懸濁し、100℃で15分間の熱処理後、メタノール、メタノール−クロロホルム−ミリQ水(1:1:1)及びメタノール−クロロホルム(1:1)で処理して脱脂し、プロナーゼ及びベンゾンヌクレアーゼで処理してタンパク質、ペプチド及び核酸を除去し、細胞壁画分を調製した。細胞壁画分を47%フッ化水素溶液に懸濁し、4℃で20時間処理して細胞壁多糖を除去してペプチドグリカンを調製した。
【0019】
細菌由来のプロトプラストの調製方法としては、特に限定されないが、具体的には以下に示す方法を好適に用いることができる。グラム陽性菌加熱死菌体を4mMの塩化マグネシウムを含む50mMトリスマレイト緩衝液(pH7.0)に懸濁し、M−1酵素を添加して37℃で16時間反応させて、細胞壁を消化させた。遠心分離により不溶性成分を回収してプロトプラストとした。
【0020】
酵母由来のザイモサンの調製方法としては、特に制限されないが、例えば、サッカロマイセス・セルビシエ菌体を0.5M硫酸ナトリウム溶液に懸濁して100℃で1時間熱処理した後、トリプシン処理し、さらに30分間熱処理して調製することができる。
【0021】
前記ペプチドグリカン、プロトプラスト又はザイモサンは、IL−12過剰産生状態にあるマクロファージのIL−12産生を顕著に抑制し、一方、IL−12が過剰産生されていない状態のマクロファージのIL−12産生を抑制しない。さらに前記ペプチドグリカンのIL−12産生抑制作用にはIL−10は関与していないことが判明した。従って、本発明のIL−12産生抑制剤は、IL−12過剰産生に起因する疾患におけるIL−12産生抑制剤として有用である。ここでIL−12過剰産生に起因する疾患としては、接触性皮膚炎、自己免疫性ブドウ膜網膜炎、アレルギー性脳脊髄膜炎、インスリン依存性糖尿病、糖尿病、橋本氏病、多発性硬化症、リウマチ性関節炎、シェーグレン症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎、サルコイドーシス、乾癬、リポ多糖誘発肝壊死、半月体形成性腎炎、全身性エリテマトーデス等が挙げられる。本発明のIL−12産生抑制剤は、これらの疾病の治療や改善、或いはその予防等の目的に利用できる。
【0022】
本発明の実験系において、IL−12過剰産生状態とは、後述するIL−12過剰産生誘導物質をマウス腹腔内マクロファージ培養系に添加して24時間培養後に上清を回収し、上清中のIL−12p70の濃度をELISAで定量したとき、15ng/mL以上であることを意味する。
【0023】
本発明の実験系において、マクロファージ培養系のIL−12過剰産生を誘導する成分としては、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ゼアエ等の細菌や、リポポリサッカライドとガンマインターフェロンによる刺激等が挙げられるが、これらにより何ら制約されるものではない。また、これらは生菌又は加熱菌体(死菌体)のいずれでもよい。
【0024】
本発明において前記ペプチドグリカン、プロトプラスト又はザイモサンの添加によって、IL−12産生が抑制されるメカニズムは明らかではないが、貪食によりマクロファージ内に取り込まれたこれらの成分が細胞内で消化され、それに伴って遊離する低分子成分によってマクロファージからのIL−12産生が強く抑制されるものと考えられる。
【0025】
特に、前記ペプチドグリカン、プロトプラスト又はザイモサンがヒトの腸内フローラを構成するものや酪農乳製品に古くから利用されてきた乳酸菌やビフィズス菌から調製されたものである場合は、長期間経口摂取しても安全であるだけでなく、整腸作用、抗腫瘍作用、抗変異作用、血圧低下作用、抗潰瘍作用、コレステロール低下作用等、乳酸菌やビフィズス菌に期待される周知の有用作用を複合的に作用させることができ、好適に利用することができる。
【0026】
本発明のIL−12産生抑制剤は経口投与又は非経口投与のいずれも使用できるが、経口投与が望ましい。投与に関しては、有効成分である前記ペプチドグリカン、プロトプラスト又はザイモサンを投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬品製剤の形態で投与することができる。
【0027】
本発明のIL−12産生抑制剤の有効成分である前記ペプチドグリカン、プロトプラスト又はザイモサンを使用する際の投与量に厳格な制限はない。対象者や適用疾患等の様々な使用態様によって得られる効果が異なるため、適宜投与量を設定することが望ましいが、その好適な投与量は1日当たり1μg〜10g、より好ましくは1mg〜1gである。
【0028】
前記医薬品製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固体剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥剤等が挙げられる。これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、澱粉、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0029】
また、本発明のIL−12産生抑制剤は、上記のような医薬品製剤として用いるだけでなく、飲食品等として用いることもできる。この場合には、本発明の前記有効成分をそのまま、又は種々の栄養成分を加えて、飲食品中に含有せしめればよい。この飲食品は、接触性皮膚炎、自己免疫性ブドウ膜網膜炎、アレルギー性脳脊髄膜炎、インスリン依存性糖尿病、糖尿病、橋本氏病、多発性硬化症、リウマチ性関節炎、シェーグレン症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎、サルコイドーシス、乾癬、リポ多糖誘発肝壊死、半月体形成性腎炎、全身性エリテマトーデス等の改善、予防等に有用な保健用食品又は食品素材として利用でき、これらの飲食品又はその容器には、前記の効果を有する旨の表示を付してもよい。具体的に本発明のIL−12産生抑制剤を飲食品に配合する場合は、飲食品として使用可能な添加剤を適宜使用し、慣用の手段を用いて食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペースト等に成形してもよく、また種々の食品、例えば、ハム、ソーセージ等の食肉加工品、かまぼこ、ちくわ等の水産加工品、パン、菓子、バター、粉乳、発酵飲食品に添加して使用したり、水、果汁、牛乳、清涼飲料、茶飲料等の飲料に添加して使用してもよい。なお、飲食品には動物の飼料も含まれる。
【0030】
さらに飲食品としては、前記有効成分を含有する発酵乳、乳酸菌飲料、発酵豆乳、発酵果汁、発酵植物液等の発酵乳製品が好適に用いられる。これら発酵乳飲食品の製造は定法に従って製造することができる。例えば発酵乳は、殺菌した乳培地に乳酸菌やビフィズス菌を接種培養し、これを均質化処理して発酵乳ベースを得る。次いで別途調製したシロップ溶液及び前記有効成分を添加混合し、ホモゲナイザー等で均質化し、さらにフレーバーを添加して最終製品とすることができる。このようにして得られる発酵乳は、プレーンタイプ、ソフトタイプ、フルーツフレーバータイプ、固形状、液状等のいずれの形態の製品とすることもできる。
【0031】
また、本発明のIL−12産生抑制剤は、ヒトを含むあらゆる哺乳動物に適用できる。
【実施例】
【0032】
以下、試験例及び実施例を挙げて本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制約されるものではない。
【0033】
試験例1
(1)ペプチドグリカン及びプロトプラスト
ラクトバチルス・カゼイ(YIT 9029)、ラクトバチルス・ジョンソニー(JCM 2012)、ラクトバチルス・プランタラム(ATCC 14917)は200mLのDifcoTM Lactobacilli MRS培地(BD社)を用いて37℃で20時間培養した。菌体は遠心分離(8000回転、10分)により集菌し、滅菌ミリQ水を用いて遠心洗浄を3回繰り返した後、20mLの滅菌ミリQ水に懸濁して、100℃で30分間の加熱処理をした後、凍結乾燥して加熱死菌体とした。
ラクトバチルス・カゼイ由来の細胞壁、ペプチドグリカン、細胞壁多糖、プロトプラストは以下に示すとおり調製した。500mgのラクトバチルス・カゼイ加熱死菌体を0.3%ドデシル硫酸ナトリウム溶液(50mL)に懸濁し、100℃で15分間熱処理した。菌体は遠心分離により集菌し、メタノール、メタノール−クロロホルム−ミリQ水(1:1:1)及びメタノール−クロロホルム(1:1)それぞれ50mLで順に処理して脱脂し、上清を除去した後、乾燥させた。続いて、菌体を50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に懸濁し、プロナーゼ(ロッシュ社)及びベンゾンヌクレアーゼ(メルク社)で処理してタンパク質、ペプチド及び核酸を分解した。遠心分離により不溶性画分を回収し、ミリQ水で3回遠心洗浄した後、凍結乾燥して細胞壁とした。細胞壁を47%フッ化水素溶液に懸濁し、4℃で20時間処理し、遠心分離により不溶性画分を回収し、ミリQ水で3回遠心洗浄した後、凍結乾燥してペプチドグリカンとした。また、遠心分離後の上清は、ミリQ水で透析した後、凍結乾燥して細胞壁多糖とした。また、500mgのラクトバチルス・カゼイ加熱死菌体を4mMの塩化マグネシウムを含む50mMトリスマレイト緩衝液(pH7.0、50mL)に懸濁し、M−1酵素(生化学工業)を添加して37℃で16時間反応させて、細胞壁を消化した。遠心分離により不溶性成分を回収し、リン酸緩衝化生理食塩水で3回洗浄した後、凍結乾燥し、プロトプラストとした。
ラクトバチルス・ジョンソニー及びラクトバチルス・プランタラムのペプチドグリカン及びプロトプラストは、ラクトバチルス・カゼイのものと同様に調製した。スタフィロコッカス・アウレウス由来のペプチドグリカンはインビボジェン社より、サッカロマイセス・セルビシエ由来のザイモサンはモレキュラープローブ社よりそれぞれ購入した。
【0034】
(2)マウス腹腔マクロファージの調製と培養
日本SLC社より購入した9週齢のメスのBALB/cマウスの腹腔内に4%チオグリコレート(ディフコ社)溶液2mLを投与した。4日後に腹腔内に誘導されてくる細胞をハンクス溶液(シグマ社)10mLを用いて回収し、腹腔マクロファージとした。腹腔マクロファージはハンクス溶液で3回洗浄後、10%牛胎児血清を含むRPMI 1640培地(シグマ社)に懸濁した。96ウエル培養プレート(ヌンク社)に腹腔マクロファージ(1×105個/ウエル/0.2mL)をまき、ラクトバチルス・カゼイ加熱死菌体(10μg/mL)存在下で、細菌又は菌体処理物(10μg/mL)を添加して37℃で培養した。24時間後の培養上清を回収し、IL−12p70の濃度をELISAで定量した。ELISAでのIL−12p70の濃度の定量方法について以下に説明する。96ウエルELISAプレートに抗マウスIL−12抗体(クローン9A5、200倍希釈、ファーミンジェン社)を4℃で一晩吸着させた。1%牛血清アルブミンでブロッキングした後、10倍に希釈した培養上清又は標準IL−12p70(ファーミンジェン社)を添加して室温で90分間反応させた。0.05%トライトンX100を含むリン酸緩衝化食塩水で洗浄後、ビオチン標識抗マウスIL−12抗体(クローンC17.8、1000倍希釈、ファーミンジェン社)を添加して室温で90分間反応させた。0.05%トライトンX100を含むリン酸緩衝化食塩水で洗浄後、ストレプトアビジン標識ペルオキシダーゼ(20000倍希釈、セロテック社)を添加して室温で30分間反応させた。0.05%トライトンX100を含むリン酸緩衝化食塩水で洗浄後、TMB試薬を添加して室温で10分間反応させ、1N硫酸を加えて反応を停止し、450nmの吸光値を測定した。標準IL−12p70から検量線を作成し、培養上清中の濃度を算出した。
【0035】
(3)試験結果
マウス腹腔マクロファージ培養系を用いて、ラクトバチルス・カゼイ加熱死菌体、同菌より調製した細胞壁、ペプチドグリカン、細胞壁多糖、プロトプラストのIL−12産生抑制効果を調べたところ、加熱死菌体、細胞壁、細胞壁多糖はIL−12産生を抑制しなかったが、ペプチドグリカン及びプロトプラストはIL−12産生を抑制した(図1)。また、マクロファージ培養系に、ペプチドグリカン及びプロトプラストを単独で添加した(IL−12過剰産生状態でない)場合は、IL−12産生はほとんど誘導されなかった(図2)。
【0036】
ラクトバチルス・ジョンソニー及びラクトバチルス・プランタラムより調製したペプチドグリカン及びプロトプラスト、スタフィロコッカス・アウレウス由来のペプチドグリカン、サッカロマイセス・セルビシエ由来のザイモサンのIL−12産生抑制効果を同様に調べたところ、いずれの菌体成分もIL−12産生を抑制した(図3)。
【0037】
ラクトバチルス・ジョンソニー及びラクトバチルス・プランタラムより調製したペプチドグリカンによるIL−12産生抑制効果は、抗IL−10中和抗体の添加の影響を受けなかったことから(図4)、ペプチドグリカンによるIL−12産生抑制にはIL−10は関与していないことがわかった。
【0038】
実施例1 錠剤の製造
下記の処方で各種成分を混合して造粒、乾燥、整粒した後に、打錠して錠剤を製造した。
(処方) (mg)
ペプチドグリカン 20
微結晶セルロース 100
乳糖 80
ステアリン酸マグネシウム 0.5
メチルセルロース 12
【0039】
実施例2 清涼飲料の製造
下記の処方で処方したものを加熱殺菌後、褐色瓶にホットパック充填を行い、清涼飲料水を得た。
(処方) (g)
ザイモサン 0.8
香料 0.8
クエン酸 0.2
果糖 4
スクラロース 0.001
水 94.199
【0040】
実施例3 発酵乳製品の製造
15%脱脂乳に3%グルコースを添加し、120℃で3秒間殺菌した後、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)YIT 9029株を1%接種し、37℃でpH3.6まで培養してヨーグルトベース210gを得た。一方、砂糖97g、クエン酸鉄0.2g、ペプチドグリカン1gを水に溶解し、水を加え全量を790gとし、この溶液を110℃で3秒間殺菌し、シロップを得た。上記のようにして得られたヨーグルトベースとシロップを混合し、香料を1g添加した後、15Mpaで均質化して容器に充填して発酵乳製品を得た。この発酵乳製品中のラクトバチルス・カゼイの初発菌数は108cfu/mLであった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ラクトバチルス・カゼイ菌体成分のIL−12産生抑制効果を示す図である。
【図2】ラクトバチルス・カゼイ菌体成分のIL−12産生誘導効果を示す図である。
【図3】ペプチドグリカン、プロトプラスト、ザイモサンのIL−12産生抑制効果を示す図である。
【図4】ペプチドグリカンによるIL−10非依存的IL−12産生抑制を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌由来のペプチドグリカン若しくはプロトプラスト、又は酵母由来のザイモサンを有効成分とするインターロイキン12産生抑制剤。
【請求項2】
インターロイキン12過剰産生に起因する疾患用である請求項1記載のインターロイキン12産生抑制剤。
【請求項3】
細菌が、ラクトバチルス属、スタフィロコッカス属、ビフィドバクテリウム属、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属及びバチルス属から選ばれる1種以上の細菌である請求項1又は2記載のインターロイキン12産生抑制剤。
【請求項4】
細菌が、ラクトバチルス属、スタフィロコッカス属及びビフィドバクテリウム属から選ばれる1種以上の細菌である請求項1又は2記載のインターロイキン12産生抑制剤。
【請求項5】
細菌が、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・デルブルッキー、ラクトバチルス・ガッセリ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ファーメンタム、スタフィロコッカス・アウレウス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ラクトコッカス・ラクチス及びバチルス・ズブチルスから選ばれる1種以上の細菌である請求項1乃至3のいずれか1項記載のインターロイキン12産生抑制剤。
【請求項6】
細菌が、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・デルブルッキー、スタフィロコッカス・アウレウス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム及びビフィドバクテリウム・ロンガムから選ばれる1種以上の細菌である請求項1乃至4のいずれか1項記載のインターロイキン12産生抑制剤。
【請求項7】
酵母が、サッカロマイセス・セルビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ及びカンジダ・アルビカンスから選ばれる1種以上の酵母である請求項1又は2記載のインターロイキン12産生抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−189572(P2008−189572A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24010(P2007−24010)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】