インパクト締め付け工具
【課題】誤った打撃検出の影響を受けずに締め付けトルク判定をより正確に行う。
【解決手段】モータで回転駆動されるハンマによる打撃を出力軸に加えるインパクト機構と、回転速度検出手段で検出した回転速度の変化量から前記インパクト機構による打撃動作を検出する打撃検出手段と、打撃検出手段が検出した打撃の間隔及びモータ回転角検出手段が検出した打撃間隔の間の回転角から締め付けトルクを算出するトルク推定手段とを備え、トルク推定手段で推定された推定トルク値が所定値に達した場合にモータ制御手段がモータを停止させるものである。打撃検出手段で検出された打撃のうち、所定条件を満たさない打撃に基づくトルク推定手段でのトルク推定演算を行わせない打撃正誤判定手段を備える。打撃動作に異常があれば推定トルク演算を行わないために、誤って設定トルクに達したと判定することがなく、ねじ締め付け途中で停止することがない。
【解決手段】モータで回転駆動されるハンマによる打撃を出力軸に加えるインパクト機構と、回転速度検出手段で検出した回転速度の変化量から前記インパクト機構による打撃動作を検出する打撃検出手段と、打撃検出手段が検出した打撃の間隔及びモータ回転角検出手段が検出した打撃間隔の間の回転角から締め付けトルクを算出するトルク推定手段とを備え、トルク推定手段で推定された推定トルク値が所定値に達した場合にモータ制御手段がモータを停止させるものである。打撃検出手段で検出された打撃のうち、所定条件を満たさない打撃に基づくトルク推定手段でのトルク推定演算を行わせない打撃正誤判定手段を備える。打撃動作に異常があれば推定トルク演算を行わないために、誤って設定トルクに達したと判定することがなく、ねじ締め付け途中で停止することがない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インパクトドライバやインパクトレンチ等の打撃衝撃を用いて締め付け動作を行うインパクト締め付け工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータの減速出力で回転駆動されるハンマーと、と出力軸に設けたアンビルとの係合を衝撃的に繰り返し行うインパクト機構を備えたインパクト締め付け工具は、高速回転・高トルクという作業性の良さから建築現場や組み立て工場などで幅広く使われているが、インパクト締め付け工具で締め付けトルクが予め設定された所定のトルクになった時にモータを停止させる制御を行う場合、締め付けトルクを求める必要があり、この締め付けトルクの算出をモータの回転速度と打撃間のモータ回転量とから推定する方法を本出願人は提案している。
【0003】
上記の締め付けトルク推定方法は、1打撃ごとの運動エネルギーの収支、すなわちハンマの打撃が出力軸のアンビルに与えるエネルギと、締め付けで消費されたエネルギとが略等しいという関係からから導き出したものであり、簡単に説明をすると、インパクト締め付け工具で締め付けられるねじの着座後の回転角度θと締め付けトルクTとは図13に示すように関数T=τ(θ)で表すことができる。図中のθ1…θNを、ハンマによる打撃がアンビル(出力軸回転角)になされた打撃時点でのアンビルの回転角とすると、関数τを区間〔θ1,θ2〕で積分した値E1は締め付け作業に消費されたエネルギであり、θ1地点で発生した打撃によってアンビルに与えられたエネルギに等しい。よって区間〔θn+1,θn〕における平均トルク<Tn>はエネルギEnと打撃間回転角Θn:(θn+1−θn)により、
<Tn>=En/Θn…(1)
と求めることができる。
【0004】
締め付けトルク制御を行うには求めた平均トルク<Tn>が設定トルクTs以上になったときにモータの駆動を停止させれぱよい。なおエネルギEnは回転速度(打撃間隔間のモータ回転角/打撃間隔)をωn、既知のアンビルの慣性モーメントをJaとする時、
En=1/2×Ja×ωn2…(2)
で求めることができ、θは回転角検出手段にて容易に求めることができる。
【0005】
ここにおいて、特開2001−246573号公報には上記の式(1)で表される方法で締め付けトルクを求めるとともに、打撃検出手段としてマイク等を使用することが示されているとともに、打撃検出漏れや誤った打撃検出に対して打撃間のモータ回転量等を補正して平均トルクを推定することで、トルク推定精度の向上することが述べられている。
【0006】
一方、打撃検出は回転速度の変化量に基づいて行うこともできる。この場合、打撃検出のための専用部材を必要とすることなく打撃検出を行うことができるのであるが、この回転速度の変化量に基づく打撃検出を行う場合は、ねじ立て時等の回転速度の変化も打撃によるものとして判断してしまうことが多々生じるものであり、この場合、打撃間のモータ回転量等を補正して平均トルクを推定する方法では、誤った平均トルクを演算して締め付けトルクが設定トルクに達していないにもかかわらず、設定トルクに達したと判断してモータを停止させてしまう頻度が増加してしまう。
【特許文献1】特開2001−246573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、その目的とするところは誤った打撃検出の影響を受けずに締め付けトルク判定をより正確に行うことができるインパクト締め付け工具を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係るインパクト締め付け工具は、モータで回転駆動されるハンマによる打撃を出力軸に加えるインパクト機構と、上記モータの回転及び停止の制御を行なうモータ制御手段と、前記モータの回転角を検出する回転角検出手段と、前記モータの回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記回転速度検出手段で検出した回転速度の変化量から前記インパクト機構による打撃動作を検出する打撃検出手段と、前記打撃検出手段が検出した打撃の間隔及び前記モータ回転角検出手段が検出した打撃間隔の間の回転角から締め付けトルクを算出するトルク推定手段とを備えて、前記トルク推定手段により推定された推定トルク値が所定値に達した場合に前記モータ制御手段がモータを停止させるインパクト締め付け工具において、打撃検出手段で検出された打撃のうち、所定条件を満たさない打撃に基づくトルク推定手段でのトルク推定演算を行わせない打撃正誤判定手段を備えることに特徴を有している。打撃動作に異常があれば推定トルク演算を行わない(演算結果を採用しない)ために、誤って設定トルクに達したと判定することがなく、ねじ締め付け途中で停止してしまうようなことがないものである。
【0009】
上記打撃正誤判定手段としてはは、打撃検出手段で検出された打撃のうち、打撃間隔が所定時間以上及びまたは所定時間以下の場合の打撃を打撃と判定しないもの、打撃検出手段で検出された打撃のうち、今回検出した打撃間隔と前回検出した打撃間隔の差が所定時間以上の場合の打撃を打撃と判定しないもの、打撃検出手段で検出された打撃のうち、今回検出した打撃間隔と前回検出した打撃間隔との差が所定時間以上かつ所定時間以下の場合の打撃を打撃と判定しないもの、打撃検出手段で検出された打撃のうち、打撃間隔の間のモータの回転角が所定角度以上及びまたは他の所定角度以下の場合の打撃を打撃と判定しないもの、更にはモータ制御手段がモータに印加するモータ印加電圧が所定印加電圧値以下の時に検出される打撃を打撃と判定しないものを好適に用いることができる。
【0010】
また、打撃検出手段はモータの回転速度の変化量の値が打撃検出閾値以上もしくは以下にて打撃を検出するものであるとともに、モータ制御手段がモータに印加するモータ印加電圧の値に応じて上記打撃検出閾値を変更するものであることが望ましく、また、打撃正誤判定手段で打撃として判定された打撃の連続回数が所定回数以上の時に上記打撃検出閾値を変更するものが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、誤って打撃として検出される動作が少なくなるために、より正確な推定トルクの算出が行えるものでであり、このためにねじ締め付け途中で設定トルクに達したとしてモータが停止してしまうような事態が生じるのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明すると、このインパクト締め付け工具は、図1に示すように、モータMで回転駆動されるハンマによる打撃を出力軸に加えるインパクト機構1と、上記モータMの回転及び停止の制御を行なうモータ制御手段2と、モータMの1回転当たりに所定数のパルスを発生する回転センサ3と、回転センサ3のパルスを元に回転速度を検出する回転速度検出手段4及び上記パルスを元に回転角を検出する回転角検出手段5と、回転速度検出手段4で検出した回転速度の変化量から前記インパクト機構による打撃動作を検出する打撃検出手段6と、この打撃検出手段6が検出した打撃の間隔及び前記回転角検出手段5が検出した打撃間隔の間の回転角から締め付けトルクを算出するトルク推定手段7とを備えるほか、打撃検出手段5で打撃として検出したものが実際の打撃によるものかどうかを判定する打撃正誤判定手段8とを備えている。なお、各検出手段4,5,6やモータ制御手段2、トルク推定手段7及び打撃正誤判定手段8はマイクロコンピュータで構成されている。
【0013】
上記モータ制御手段2は、トリガスイッチ9の操作によってモータMをオンオフするとともに、トリガスイッチ9の操作量に応じてPWM制御のオン幅を決定して出力することで、モータMの回転数を可変としているものであり、またトルク推定手段7で推定した締め付けトルクが予め設定されているトルク値に達したならば、モータMを停止させるものである。
【0014】
回転速度検出手段4は、回転センサ3から出力されるパルス幅を測定することで、モータMの回転速度を出力するものであり、また回転角検出手段5はパルス数をカウントすることで回転角を検出するものであり、モータMから出力軸に至るまでの減速比をB、モータの1回転で回転センサ3が出力するパルス数をAとすると、出力軸はA×Bパルスでは1回転することとなる。従って、打撃間のパルス数をカウントすることで打撃間の出力軸回転角を求めることができる。
【0015】
次に本例における打撃検出手段6での打撃検出について説明すると、ここでの打撃検出は、回転速度検出手段4が測定したパルス幅の変化量に基づいて行っている。すなわち、図2に示すように速度(パルス幅)変化の短期t1の移動平均から長期t2の移動平均を引くハイパスフィルタ法で測定したパルス幅を順次記憶し、所定回数jのパルス幅の短期の移動平均から所定回数kのパルス幅の長期移動平均を減算した結果を求めて、これを図2(b)に示すフィルタ処理パルス幅変化とする。そして、最新のフィルタ処理パルス幅変化Pnと所定パルス前(出力軸の所定回転角前)のフィルタ処理パルス幅変化Pn−mの差で図2(c)に示すパルス幅(回転速度)変化量の演算を行い、このパルス幅変化量が所定の閾L2値以上になればその時点を打撃Kがあった時点として打撃Kの検出を行う。ただし、パルス幅変化量が所定の閾値L1以上になってから所定の閾値2以下にならないと再度閾値L1の検出は行わないようにすることで、打撃以外の速度変化を打撃と誤検出してしまう頻度を減少させている。また、最高速度状態での打撃検出ができるように閾値L1を設定することで打撃検出漏れを防いでいる。
【0016】
次にトルク推定手段7は打撃間隔(打撃検出から打撃検出)毎に打撃間隔時間を測定し、回転角検出手段5からの打撃間回転角によりトルク推定演算を行う。ちなみに、回転速度=(打撃間隔時間/打撃間パルス数〉×速度定数であり、推定トルク=(回転速度2/(打撃間パルス数−C/2))×トルク定数である。
【0017】
そして、前記打撃正誤判定手段8であるが、これも打撃間隔時間を測定し、打撃間隔時間や打撃間パルス数により、打撃と判定できる場合はトルク推定手段で演算された推定トルクを採用し、所定回の推定トルク移動平均値がトルク設定値を超えた場合はモータ制御手段2にモータを停止させるが、打撃と判定できない場合は演算された推定トルクを採用しないか、演算自体を行わなわせない。ここで採用しない場合は所定回数の推定トルク移動平均のための記憶している推定トルクを全て0にクリアしてもよい。推定トルクの移動平均をとることで、誤った打撃検出による推定トルクの影響を緩和することができる。図3にフローチャートを示す。
【0018】
ここにおいて、打撃正誤判定手段8による打撃の正誤判定は、次のようにしている。すなわち、打撃間隔はモータMの回転速度とトルク特性とインパクト機構によって決定されるもので、あるインパクト締め付け工具が打撃可能な最低打撃間隔と最高打撃間隔は定まってしまっている。このために打撃間隔が上記の最低打撃間隔より長い場合や、上記の最高打撃間隔より短い場合は、打撃でないと判定するものであり、この時には上述のようにトルク推定手段で演算される推定トルクを採用しないことで、設定トルク以上と判断して停止することを防ぐ。確実に打撃の正誤を判定することができるために、誤って設定トルクに達したと判定する割合を減少させることができる。
【0019】
また、連続して発生する打撃間隔は通常、安定したものとなることから、前回打撃間隔と今回打撃間隔の差を打撃正誤判定手段8で常に監視し、その差が所定時間以上の場合は打撃でないと判定するものであってもよい。検出された打撃が不規則である時には推定トルク演算を行わないので推定トルクの精度を向上することができる。
【0020】
もっとも、ねじ立てから打撃が開始されるまでは、通常、図4に示すように、パルス幅変化量が変化するものであり、ねじ立て時のモータ駆動開始時は負荷があるために速度変動が生じて打撃状態ではないにも関わらず打撃Kとして検出してしまうことがある。この場合、ねじ立ての期間を含むものとなる打撃間隔G1は、実際に打撃が始まった後の打撃間隔G2よりもかなり長いものとなる。このために打撃間隔の長短による打撃正誤判定では、打撃間隔G1と打撃間隔G2の差が所定時間以上の場合は打撃と判定しないことで、打撃間隔G2の最初の打撃による推定トルク値を演算しないことになり、判定が1打撃分だけ遅れてしまう。この1打撃分の遅れは、負荷の大きな作業の場合は問題はないが、小さな石膏ボード作業等の負荷の小さな作業の場合はこの1打撃の判定遅れが作業の仕上がりに影響を及ぼしてしまう。このために、打撃正誤判定手段8による正誤判定は、ねじ立て時間を考慮して打撃間隔の差が所定時間tk以上、所定時間tm未満の場合のみ打撃と判定しないものとするのが好ましい。つまり、打撃間隔tkと打撃間隔tmの差が所定時間tm以上ある場合はねじ立て状態であったと判断して、打撃間隔tmにて推定トルクを演算するのである。これによって1打撃分の遅れを防ぐことができて作業仕上がりの精度を向上することができる。
【0021】
このほか、インパクトドライバのようなインパクト締め付け工具は、ハンマとアンビル間に所定値以上の力がかかった時にアンビルに対してハンマが自由回転し、ハンマが所定角α(機構によって決まる定数)以上に自由回転した後にハンマがアンビルに衝突する構造になっている。つまりハンマが所定角α回転しないと打撃は発生しない。従って回転角検出手段5によってカウントされる打撃間パルス数が上記所定角αに相当する所定パルス数Pα以下の場合の場合は打撃と判定しないことで、打撃の誤検出を防ぐことができる。また、打撃間パルス数が所定のパルス数以上の場合も打撃と判定しないことが好ましい。1打撃で回転する最大回転角も機構上の制限が存在しているからである。いずれにしても1打撃では想定できない打撃間回転角を規定することにより、確実に打撃の正誤を判定することができ、誤って設定トルクに達したと判定する割合を減少させることができる。
【0022】
図5に他例を示す。これは上記のものに電源電圧監視手段10を加えたものである。前述しているようにインパクト締め付け工具はハンマとアンビル間に所定値以上のカがかからないと打撃を開始しない機構となっている。従って、トリガスイッチの操作量に応じてモータ制御手段2がPWM制御によってモータの回転数すなわち出力軸の回転数を調整することができるようにしたものにおいては、モータMの停止時の電池電圧とモータを駆動させるPWMオンデューティの積(モータ印加電圧)が所定の値以下では打撃が発生しない状態であると判断し、打撃正誤判定手段8は打撃が検出されていても打撃と判定せず、推定トルクの演算を行わない。電源が二次電池の場合は電池容量が低下するに従ってモータ駆動時の電圧変動が大きくなるため、打撃が発生しないと判断するモータ印加電圧の閾値を電圧に対応して設定してもよい。図6はこの場合の閾値LKを示しており、図中イは打撃発生無し領域、ロが打撃発生領域である。あらかじめ電池電圧に対応したPWMオンデューティにて閾値を設定してもよい。低速でのねじ立て時に誤って設定トルクに達したと判定することがなくなるものであり、また電源電圧が二次電池のように変動が大きい場合でも確実に打撃の正誤を判定することができる。
【0023】
図7に示すように閾値LK1以下は前述した打撃が発生しない領域イと判断し、閾値LK1と閾値LK2との間は打撃は発生するが、印加電圧が低いために所定の打撃間隔T1以上でしか打撃が発生しないと判定するようにしてもよい。打撃の正誤判定をより正確に行うことができる。
【0024】
さらに、モータMの停止時にハンマがアンビルに乗り上がった状態になることは頻繁に発生するが、この状態からモータMを駆動させるとハンマがアンビルからはずれる際に打撃を発生してしまう。これを締め付けのための打撃として検出してしまうと、ねじ立ての作業中であれば、ねじ立て途中で停止してしまうことがある。しかし、この時の打撃間隔は、ねじ立ての間は打撃が発生しないために、前回打撃間隔<今回打撃間隔となる時点が生じるものであり、徐々に打撃間隔が短くなって安定する通常の打撃の場合と区別することができる。このために、前回打撃間隔<今回打撃間隔であり、今回打撃間隔−前回打撃間隔>所定時間の場合は打撃検出しても打撃と判定しないことで、図8に示すようにハンマがアンビルから外れる区間taとねじ立ての区間tbを除いた実際の打撃の区間tcの打撃のみを推定トルクの算出に用いることができて、ねじ立て開始時に誤って設定トルクに達したと判定してしまうことを防ぐことができる。
【0025】
ハンマがアンビルから外れる際に発生する打撃は数打撃であるために、連続して発生した打撃回数で前記判定を制限してもよい。
【0026】
また、モータ印加電圧が大きい(回転速度が速い)ほど打撃時のパルス幅変化量は図9の右側に示すように小さくなり、モータ印加電圧が小さいほど打撃時のパルス変化量は図9の左側に示すように大きくなる。そして、打撃していないにも関わらず打撃があったと検出しやすいのは負荷の変動の影響を受け易く、パルス幅変化量が大きくなる時、つまりモータ印加電圧が小さい時である。このために、モータ印加電圧値に応じて打撃検出閾値Lを図10に示すように切り替えることで、モータ印加電圧が小さい場合のねじ立て時等の小さな負荷変動による影響を無くすことができ、モータ印加電圧の大きい場合の打撃も検出することが可能となる。
【0027】
打撃が安定して発生している場合は、通常、徐々に負荷が大きくなるためにパルス幅変化量も徐々に大きく変化する。しかし、鉄板にねじを切りながら締結する作業においては打撃によるねじ切りが終了したときに負荷が小さく(パルス幅変化量が小さく)なる。このような作業に対応するために、図11に示すように、打撃正誤判定手段8が打撃と連続して判定した回数が所定回数tm以上の場合、打撃検出手段6はその打撃検出閾値Lを変更するものであってもよい。打撃検出漏れを無くすことができる。
【0028】
さらに、ねじ締め時の推定トルクは、通常、図14に示すように滑らかに推定トルクが上昇し、ねじ頭が相手部材にあたり始めると推定トルクの上昇が急になるといった形になる。しかし、ねじ立て時等に打撃があったと誤判定すると、演算される推定トルクの結果が滑らかなものとならず、今回推定トルクと前回推定トルクの差も大きくなってしまう場合が発生する。従って、今回推定された推定トルクと前回推定された推定トルクの差が所定値以上の場合はトルク推定異常と判定し、演算した推定トルクは採用しないのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態の一例のブロック図である。
【図2】同上の打撃検出手段による打撃検出についての説明図である。
【図3】(a)(b)は同上のフローチャートである。
【図4】同上の動作の一例のタイムチャートである。
【図5】同上の他例のブロック回路図である。
【図6】同上の説明図である。
【図7】同上の他例の説明図である。
【図8】別の例の動作の一例のタイムチャートである。
【図9】他例の説明図である。
【図10】更に他の例の説明図である。
【図11】別の例の動作を示すタイムチャートである。
【図12】トルク推定値変化の一例のタイムチャートである。
【図13】本発明の基本動作についての説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 インパクト機構
2 モータ制御手段
3 回転センサ
4 回転速度検出手段
5 回転角検出手段
6 打撃検出手段
7 トルク推定手段
8 打撃正誤判定手段
M モータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、インパクトドライバやインパクトレンチ等の打撃衝撃を用いて締め付け動作を行うインパクト締め付け工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータの減速出力で回転駆動されるハンマーと、と出力軸に設けたアンビルとの係合を衝撃的に繰り返し行うインパクト機構を備えたインパクト締め付け工具は、高速回転・高トルクという作業性の良さから建築現場や組み立て工場などで幅広く使われているが、インパクト締め付け工具で締め付けトルクが予め設定された所定のトルクになった時にモータを停止させる制御を行う場合、締め付けトルクを求める必要があり、この締め付けトルクの算出をモータの回転速度と打撃間のモータ回転量とから推定する方法を本出願人は提案している。
【0003】
上記の締め付けトルク推定方法は、1打撃ごとの運動エネルギーの収支、すなわちハンマの打撃が出力軸のアンビルに与えるエネルギと、締め付けで消費されたエネルギとが略等しいという関係からから導き出したものであり、簡単に説明をすると、インパクト締め付け工具で締め付けられるねじの着座後の回転角度θと締め付けトルクTとは図13に示すように関数T=τ(θ)で表すことができる。図中のθ1…θNを、ハンマによる打撃がアンビル(出力軸回転角)になされた打撃時点でのアンビルの回転角とすると、関数τを区間〔θ1,θ2〕で積分した値E1は締め付け作業に消費されたエネルギであり、θ1地点で発生した打撃によってアンビルに与えられたエネルギに等しい。よって区間〔θn+1,θn〕における平均トルク<Tn>はエネルギEnと打撃間回転角Θn:(θn+1−θn)により、
<Tn>=En/Θn…(1)
と求めることができる。
【0004】
締め付けトルク制御を行うには求めた平均トルク<Tn>が設定トルクTs以上になったときにモータの駆動を停止させれぱよい。なおエネルギEnは回転速度(打撃間隔間のモータ回転角/打撃間隔)をωn、既知のアンビルの慣性モーメントをJaとする時、
En=1/2×Ja×ωn2…(2)
で求めることができ、θは回転角検出手段にて容易に求めることができる。
【0005】
ここにおいて、特開2001−246573号公報には上記の式(1)で表される方法で締め付けトルクを求めるとともに、打撃検出手段としてマイク等を使用することが示されているとともに、打撃検出漏れや誤った打撃検出に対して打撃間のモータ回転量等を補正して平均トルクを推定することで、トルク推定精度の向上することが述べられている。
【0006】
一方、打撃検出は回転速度の変化量に基づいて行うこともできる。この場合、打撃検出のための専用部材を必要とすることなく打撃検出を行うことができるのであるが、この回転速度の変化量に基づく打撃検出を行う場合は、ねじ立て時等の回転速度の変化も打撃によるものとして判断してしまうことが多々生じるものであり、この場合、打撃間のモータ回転量等を補正して平均トルクを推定する方法では、誤った平均トルクを演算して締め付けトルクが設定トルクに達していないにもかかわらず、設定トルクに達したと判断してモータを停止させてしまう頻度が増加してしまう。
【特許文献1】特開2001−246573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、その目的とするところは誤った打撃検出の影響を受けずに締め付けトルク判定をより正確に行うことができるインパクト締め付け工具を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係るインパクト締め付け工具は、モータで回転駆動されるハンマによる打撃を出力軸に加えるインパクト機構と、上記モータの回転及び停止の制御を行なうモータ制御手段と、前記モータの回転角を検出する回転角検出手段と、前記モータの回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記回転速度検出手段で検出した回転速度の変化量から前記インパクト機構による打撃動作を検出する打撃検出手段と、前記打撃検出手段が検出した打撃の間隔及び前記モータ回転角検出手段が検出した打撃間隔の間の回転角から締め付けトルクを算出するトルク推定手段とを備えて、前記トルク推定手段により推定された推定トルク値が所定値に達した場合に前記モータ制御手段がモータを停止させるインパクト締め付け工具において、打撃検出手段で検出された打撃のうち、所定条件を満たさない打撃に基づくトルク推定手段でのトルク推定演算を行わせない打撃正誤判定手段を備えることに特徴を有している。打撃動作に異常があれば推定トルク演算を行わない(演算結果を採用しない)ために、誤って設定トルクに達したと判定することがなく、ねじ締め付け途中で停止してしまうようなことがないものである。
【0009】
上記打撃正誤判定手段としてはは、打撃検出手段で検出された打撃のうち、打撃間隔が所定時間以上及びまたは所定時間以下の場合の打撃を打撃と判定しないもの、打撃検出手段で検出された打撃のうち、今回検出した打撃間隔と前回検出した打撃間隔の差が所定時間以上の場合の打撃を打撃と判定しないもの、打撃検出手段で検出された打撃のうち、今回検出した打撃間隔と前回検出した打撃間隔との差が所定時間以上かつ所定時間以下の場合の打撃を打撃と判定しないもの、打撃検出手段で検出された打撃のうち、打撃間隔の間のモータの回転角が所定角度以上及びまたは他の所定角度以下の場合の打撃を打撃と判定しないもの、更にはモータ制御手段がモータに印加するモータ印加電圧が所定印加電圧値以下の時に検出される打撃を打撃と判定しないものを好適に用いることができる。
【0010】
また、打撃検出手段はモータの回転速度の変化量の値が打撃検出閾値以上もしくは以下にて打撃を検出するものであるとともに、モータ制御手段がモータに印加するモータ印加電圧の値に応じて上記打撃検出閾値を変更するものであることが望ましく、また、打撃正誤判定手段で打撃として判定された打撃の連続回数が所定回数以上の時に上記打撃検出閾値を変更するものが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、誤って打撃として検出される動作が少なくなるために、より正確な推定トルクの算出が行えるものでであり、このためにねじ締め付け途中で設定トルクに達したとしてモータが停止してしまうような事態が生じるのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明すると、このインパクト締め付け工具は、図1に示すように、モータMで回転駆動されるハンマによる打撃を出力軸に加えるインパクト機構1と、上記モータMの回転及び停止の制御を行なうモータ制御手段2と、モータMの1回転当たりに所定数のパルスを発生する回転センサ3と、回転センサ3のパルスを元に回転速度を検出する回転速度検出手段4及び上記パルスを元に回転角を検出する回転角検出手段5と、回転速度検出手段4で検出した回転速度の変化量から前記インパクト機構による打撃動作を検出する打撃検出手段6と、この打撃検出手段6が検出した打撃の間隔及び前記回転角検出手段5が検出した打撃間隔の間の回転角から締め付けトルクを算出するトルク推定手段7とを備えるほか、打撃検出手段5で打撃として検出したものが実際の打撃によるものかどうかを判定する打撃正誤判定手段8とを備えている。なお、各検出手段4,5,6やモータ制御手段2、トルク推定手段7及び打撃正誤判定手段8はマイクロコンピュータで構成されている。
【0013】
上記モータ制御手段2は、トリガスイッチ9の操作によってモータMをオンオフするとともに、トリガスイッチ9の操作量に応じてPWM制御のオン幅を決定して出力することで、モータMの回転数を可変としているものであり、またトルク推定手段7で推定した締め付けトルクが予め設定されているトルク値に達したならば、モータMを停止させるものである。
【0014】
回転速度検出手段4は、回転センサ3から出力されるパルス幅を測定することで、モータMの回転速度を出力するものであり、また回転角検出手段5はパルス数をカウントすることで回転角を検出するものであり、モータMから出力軸に至るまでの減速比をB、モータの1回転で回転センサ3が出力するパルス数をAとすると、出力軸はA×Bパルスでは1回転することとなる。従って、打撃間のパルス数をカウントすることで打撃間の出力軸回転角を求めることができる。
【0015】
次に本例における打撃検出手段6での打撃検出について説明すると、ここでの打撃検出は、回転速度検出手段4が測定したパルス幅の変化量に基づいて行っている。すなわち、図2に示すように速度(パルス幅)変化の短期t1の移動平均から長期t2の移動平均を引くハイパスフィルタ法で測定したパルス幅を順次記憶し、所定回数jのパルス幅の短期の移動平均から所定回数kのパルス幅の長期移動平均を減算した結果を求めて、これを図2(b)に示すフィルタ処理パルス幅変化とする。そして、最新のフィルタ処理パルス幅変化Pnと所定パルス前(出力軸の所定回転角前)のフィルタ処理パルス幅変化Pn−mの差で図2(c)に示すパルス幅(回転速度)変化量の演算を行い、このパルス幅変化量が所定の閾L2値以上になればその時点を打撃Kがあった時点として打撃Kの検出を行う。ただし、パルス幅変化量が所定の閾値L1以上になってから所定の閾値2以下にならないと再度閾値L1の検出は行わないようにすることで、打撃以外の速度変化を打撃と誤検出してしまう頻度を減少させている。また、最高速度状態での打撃検出ができるように閾値L1を設定することで打撃検出漏れを防いでいる。
【0016】
次にトルク推定手段7は打撃間隔(打撃検出から打撃検出)毎に打撃間隔時間を測定し、回転角検出手段5からの打撃間回転角によりトルク推定演算を行う。ちなみに、回転速度=(打撃間隔時間/打撃間パルス数〉×速度定数であり、推定トルク=(回転速度2/(打撃間パルス数−C/2))×トルク定数である。
【0017】
そして、前記打撃正誤判定手段8であるが、これも打撃間隔時間を測定し、打撃間隔時間や打撃間パルス数により、打撃と判定できる場合はトルク推定手段で演算された推定トルクを採用し、所定回の推定トルク移動平均値がトルク設定値を超えた場合はモータ制御手段2にモータを停止させるが、打撃と判定できない場合は演算された推定トルクを採用しないか、演算自体を行わなわせない。ここで採用しない場合は所定回数の推定トルク移動平均のための記憶している推定トルクを全て0にクリアしてもよい。推定トルクの移動平均をとることで、誤った打撃検出による推定トルクの影響を緩和することができる。図3にフローチャートを示す。
【0018】
ここにおいて、打撃正誤判定手段8による打撃の正誤判定は、次のようにしている。すなわち、打撃間隔はモータMの回転速度とトルク特性とインパクト機構によって決定されるもので、あるインパクト締め付け工具が打撃可能な最低打撃間隔と最高打撃間隔は定まってしまっている。このために打撃間隔が上記の最低打撃間隔より長い場合や、上記の最高打撃間隔より短い場合は、打撃でないと判定するものであり、この時には上述のようにトルク推定手段で演算される推定トルクを採用しないことで、設定トルク以上と判断して停止することを防ぐ。確実に打撃の正誤を判定することができるために、誤って設定トルクに達したと判定する割合を減少させることができる。
【0019】
また、連続して発生する打撃間隔は通常、安定したものとなることから、前回打撃間隔と今回打撃間隔の差を打撃正誤判定手段8で常に監視し、その差が所定時間以上の場合は打撃でないと判定するものであってもよい。検出された打撃が不規則である時には推定トルク演算を行わないので推定トルクの精度を向上することができる。
【0020】
もっとも、ねじ立てから打撃が開始されるまでは、通常、図4に示すように、パルス幅変化量が変化するものであり、ねじ立て時のモータ駆動開始時は負荷があるために速度変動が生じて打撃状態ではないにも関わらず打撃Kとして検出してしまうことがある。この場合、ねじ立ての期間を含むものとなる打撃間隔G1は、実際に打撃が始まった後の打撃間隔G2よりもかなり長いものとなる。このために打撃間隔の長短による打撃正誤判定では、打撃間隔G1と打撃間隔G2の差が所定時間以上の場合は打撃と判定しないことで、打撃間隔G2の最初の打撃による推定トルク値を演算しないことになり、判定が1打撃分だけ遅れてしまう。この1打撃分の遅れは、負荷の大きな作業の場合は問題はないが、小さな石膏ボード作業等の負荷の小さな作業の場合はこの1打撃の判定遅れが作業の仕上がりに影響を及ぼしてしまう。このために、打撃正誤判定手段8による正誤判定は、ねじ立て時間を考慮して打撃間隔の差が所定時間tk以上、所定時間tm未満の場合のみ打撃と判定しないものとするのが好ましい。つまり、打撃間隔tkと打撃間隔tmの差が所定時間tm以上ある場合はねじ立て状態であったと判断して、打撃間隔tmにて推定トルクを演算するのである。これによって1打撃分の遅れを防ぐことができて作業仕上がりの精度を向上することができる。
【0021】
このほか、インパクトドライバのようなインパクト締め付け工具は、ハンマとアンビル間に所定値以上の力がかかった時にアンビルに対してハンマが自由回転し、ハンマが所定角α(機構によって決まる定数)以上に自由回転した後にハンマがアンビルに衝突する構造になっている。つまりハンマが所定角α回転しないと打撃は発生しない。従って回転角検出手段5によってカウントされる打撃間パルス数が上記所定角αに相当する所定パルス数Pα以下の場合の場合は打撃と判定しないことで、打撃の誤検出を防ぐことができる。また、打撃間パルス数が所定のパルス数以上の場合も打撃と判定しないことが好ましい。1打撃で回転する最大回転角も機構上の制限が存在しているからである。いずれにしても1打撃では想定できない打撃間回転角を規定することにより、確実に打撃の正誤を判定することができ、誤って設定トルクに達したと判定する割合を減少させることができる。
【0022】
図5に他例を示す。これは上記のものに電源電圧監視手段10を加えたものである。前述しているようにインパクト締め付け工具はハンマとアンビル間に所定値以上のカがかからないと打撃を開始しない機構となっている。従って、トリガスイッチの操作量に応じてモータ制御手段2がPWM制御によってモータの回転数すなわち出力軸の回転数を調整することができるようにしたものにおいては、モータMの停止時の電池電圧とモータを駆動させるPWMオンデューティの積(モータ印加電圧)が所定の値以下では打撃が発生しない状態であると判断し、打撃正誤判定手段8は打撃が検出されていても打撃と判定せず、推定トルクの演算を行わない。電源が二次電池の場合は電池容量が低下するに従ってモータ駆動時の電圧変動が大きくなるため、打撃が発生しないと判断するモータ印加電圧の閾値を電圧に対応して設定してもよい。図6はこの場合の閾値LKを示しており、図中イは打撃発生無し領域、ロが打撃発生領域である。あらかじめ電池電圧に対応したPWMオンデューティにて閾値を設定してもよい。低速でのねじ立て時に誤って設定トルクに達したと判定することがなくなるものであり、また電源電圧が二次電池のように変動が大きい場合でも確実に打撃の正誤を判定することができる。
【0023】
図7に示すように閾値LK1以下は前述した打撃が発生しない領域イと判断し、閾値LK1と閾値LK2との間は打撃は発生するが、印加電圧が低いために所定の打撃間隔T1以上でしか打撃が発生しないと判定するようにしてもよい。打撃の正誤判定をより正確に行うことができる。
【0024】
さらに、モータMの停止時にハンマがアンビルに乗り上がった状態になることは頻繁に発生するが、この状態からモータMを駆動させるとハンマがアンビルからはずれる際に打撃を発生してしまう。これを締め付けのための打撃として検出してしまうと、ねじ立ての作業中であれば、ねじ立て途中で停止してしまうことがある。しかし、この時の打撃間隔は、ねじ立ての間は打撃が発生しないために、前回打撃間隔<今回打撃間隔となる時点が生じるものであり、徐々に打撃間隔が短くなって安定する通常の打撃の場合と区別することができる。このために、前回打撃間隔<今回打撃間隔であり、今回打撃間隔−前回打撃間隔>所定時間の場合は打撃検出しても打撃と判定しないことで、図8に示すようにハンマがアンビルから外れる区間taとねじ立ての区間tbを除いた実際の打撃の区間tcの打撃のみを推定トルクの算出に用いることができて、ねじ立て開始時に誤って設定トルクに達したと判定してしまうことを防ぐことができる。
【0025】
ハンマがアンビルから外れる際に発生する打撃は数打撃であるために、連続して発生した打撃回数で前記判定を制限してもよい。
【0026】
また、モータ印加電圧が大きい(回転速度が速い)ほど打撃時のパルス幅変化量は図9の右側に示すように小さくなり、モータ印加電圧が小さいほど打撃時のパルス変化量は図9の左側に示すように大きくなる。そして、打撃していないにも関わらず打撃があったと検出しやすいのは負荷の変動の影響を受け易く、パルス幅変化量が大きくなる時、つまりモータ印加電圧が小さい時である。このために、モータ印加電圧値に応じて打撃検出閾値Lを図10に示すように切り替えることで、モータ印加電圧が小さい場合のねじ立て時等の小さな負荷変動による影響を無くすことができ、モータ印加電圧の大きい場合の打撃も検出することが可能となる。
【0027】
打撃が安定して発生している場合は、通常、徐々に負荷が大きくなるためにパルス幅変化量も徐々に大きく変化する。しかし、鉄板にねじを切りながら締結する作業においては打撃によるねじ切りが終了したときに負荷が小さく(パルス幅変化量が小さく)なる。このような作業に対応するために、図11に示すように、打撃正誤判定手段8が打撃と連続して判定した回数が所定回数tm以上の場合、打撃検出手段6はその打撃検出閾値Lを変更するものであってもよい。打撃検出漏れを無くすことができる。
【0028】
さらに、ねじ締め時の推定トルクは、通常、図14に示すように滑らかに推定トルクが上昇し、ねじ頭が相手部材にあたり始めると推定トルクの上昇が急になるといった形になる。しかし、ねじ立て時等に打撃があったと誤判定すると、演算される推定トルクの結果が滑らかなものとならず、今回推定トルクと前回推定トルクの差も大きくなってしまう場合が発生する。従って、今回推定された推定トルクと前回推定された推定トルクの差が所定値以上の場合はトルク推定異常と判定し、演算した推定トルクは採用しないのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態の一例のブロック図である。
【図2】同上の打撃検出手段による打撃検出についての説明図である。
【図3】(a)(b)は同上のフローチャートである。
【図4】同上の動作の一例のタイムチャートである。
【図5】同上の他例のブロック回路図である。
【図6】同上の説明図である。
【図7】同上の他例の説明図である。
【図8】別の例の動作の一例のタイムチャートである。
【図9】他例の説明図である。
【図10】更に他の例の説明図である。
【図11】別の例の動作を示すタイムチャートである。
【図12】トルク推定値変化の一例のタイムチャートである。
【図13】本発明の基本動作についての説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 インパクト機構
2 モータ制御手段
3 回転センサ
4 回転速度検出手段
5 回転角検出手段
6 打撃検出手段
7 トルク推定手段
8 打撃正誤判定手段
M モータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータで回転駆動されるハンマによる打撃を出力軸に加えるインパクト機構と、上記モータの回転及び停止の制御を行なうモータ制御手段と、前記モータの回転角を検出する回転角検出手段と、前記モータの回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記回転速度検出手段で検出した回転速度の変化量から前記インパクト機構による打撃動作を検出する打撃検出手段と、前記打撃検出手段が検出した打撃の間隔及び前記モータ回転角検出手段が検出した打撃間隔の間の回転角から締め付けトルクを算出するトルク推定手段とを備えて、前記トルク推定手段により推定された推定トルク値が所定値に達した場合に前記モータ制御手段がモータを停止させるインパクト締め付け工具において、打撃検出手段で検出された打撃のうち、所定条件を満たさない打撃に基づくトルク推定手段でのトルク推定演算を行わせない打撃正誤判定手段を備えることを特徴とするインパクト締め付け工具。
【請求項2】
打撃正誤判定手段は、打撃検出手段で検出された打撃のうち、打撃間隔が所定時間以上及びまたは所定時間以下の場合の打撃を打撃と判定しないものであることを特徴とする請求項1記載のインパクト締め付け工具。
【請求項3】
打撃正誤判定手段は、打撃検出手段で検出された打撃のうち、今回検出した打撃間隔と前回検出した打撃間隔の差が所定時間以上の場合の打撃を打撃と判定しないものであることを特徴とする請求項1記載のインパクト締め付け工具。
【請求項4】
打撃正誤判定手段は、打撃検出手段で検出された打撃のうち、今回検出した打撃間隔と前回検出した打撃間隔との差が所定時間以上かつ所定時間以下の場合の打撃を打撃と判定しないものであることを特徴とする請求項1記載のインパクト締め付け工具。
【請求項5】
打撃正誤判定手段は、打撃検出手段で検出された打撃のうち、打撃間隔の間のモータの回転角が所定角度以上及びまたは他の所定角度以下の場合の打撃を打撃と判定しないものであることを特徴とする請求項1記載のインパクト締め付け工具。
【請求項6】
打撃正誤判定手段は、モータ制御手段がモータに印加するモータ印加電圧が所定印加電圧値以下の時に検出される打撃を打撃と判定しないものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインパクト締め付け工具。
【請求項7】
打撃検出手段はモータの回転速度の変化量の値が打撃検出閾値以上もしくは以下にて打撃を検出するものであるとともに、モータ制御手段がモータに印加するモータ印加電圧の値に応じて上記打撃検出閾値を変更するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインパクト締め付け工具。
【請求項8】
打撃検出手段はモータの回転速度の変化量の値が打撃検出閾値以上もしくは以下にて打撃を検出するものであるとともに、打撃正誤判定手段で打撃として判定された打撃の連続回数が所定回数以上の時に上記打撃検出閾値を変更するものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のインパクト締め付け工具。
【請求項1】
モータで回転駆動されるハンマによる打撃を出力軸に加えるインパクト機構と、上記モータの回転及び停止の制御を行なうモータ制御手段と、前記モータの回転角を検出する回転角検出手段と、前記モータの回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記回転速度検出手段で検出した回転速度の変化量から前記インパクト機構による打撃動作を検出する打撃検出手段と、前記打撃検出手段が検出した打撃の間隔及び前記モータ回転角検出手段が検出した打撃間隔の間の回転角から締め付けトルクを算出するトルク推定手段とを備えて、前記トルク推定手段により推定された推定トルク値が所定値に達した場合に前記モータ制御手段がモータを停止させるインパクト締め付け工具において、打撃検出手段で検出された打撃のうち、所定条件を満たさない打撃に基づくトルク推定手段でのトルク推定演算を行わせない打撃正誤判定手段を備えることを特徴とするインパクト締め付け工具。
【請求項2】
打撃正誤判定手段は、打撃検出手段で検出された打撃のうち、打撃間隔が所定時間以上及びまたは所定時間以下の場合の打撃を打撃と判定しないものであることを特徴とする請求項1記載のインパクト締め付け工具。
【請求項3】
打撃正誤判定手段は、打撃検出手段で検出された打撃のうち、今回検出した打撃間隔と前回検出した打撃間隔の差が所定時間以上の場合の打撃を打撃と判定しないものであることを特徴とする請求項1記載のインパクト締め付け工具。
【請求項4】
打撃正誤判定手段は、打撃検出手段で検出された打撃のうち、今回検出した打撃間隔と前回検出した打撃間隔との差が所定時間以上かつ所定時間以下の場合の打撃を打撃と判定しないものであることを特徴とする請求項1記載のインパクト締め付け工具。
【請求項5】
打撃正誤判定手段は、打撃検出手段で検出された打撃のうち、打撃間隔の間のモータの回転角が所定角度以上及びまたは他の所定角度以下の場合の打撃を打撃と判定しないものであることを特徴とする請求項1記載のインパクト締め付け工具。
【請求項6】
打撃正誤判定手段は、モータ制御手段がモータに印加するモータ印加電圧が所定印加電圧値以下の時に検出される打撃を打撃と判定しないものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインパクト締め付け工具。
【請求項7】
打撃検出手段はモータの回転速度の変化量の値が打撃検出閾値以上もしくは以下にて打撃を検出するものであるとともに、モータ制御手段がモータに印加するモータ印加電圧の値に応じて上記打撃検出閾値を変更するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインパクト締め付け工具。
【請求項8】
打撃検出手段はモータの回転速度の変化量の値が打撃検出閾値以上もしくは以下にて打撃を検出するものであるとともに、打撃正誤判定手段で打撃として判定された打撃の連続回数が所定回数以上の時に上記打撃検出閾値を変更するものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のインパクト締め付け工具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−15438(P2006−15438A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194492(P2004−194492)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
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