インピーダンス測定装置
【課題】直流起電力を有する電池の内部インピーダンスを一層短い時間内に測定する。
【解決手段】電池61に交流電流Iを供給する交流電流供給部2と、コンデンサ5と抵抗6とで構成されると共に交流電流Iの供給時において電池61の両極間に発生する信号S1を入力して信号S2を出力する交流結合部(コンデンサ5および抵抗6)と、直流成分に対する増幅率よりも交流成分に対する増幅率が大きく設定されると共に入力した信号S2を増幅して信号S3として出力する交流成分増幅部7と、交流成分増幅部7の出力が飽和しない所定電圧範囲内となるように信号S2の振幅を制限する振幅制限部10と、信号S3と交流電流Iとに基づいて電池61の内部インピーダンスRを算出する演算部8とを備えた。
【解決手段】電池61に交流電流Iを供給する交流電流供給部2と、コンデンサ5と抵抗6とで構成されると共に交流電流Iの供給時において電池61の両極間に発生する信号S1を入力して信号S2を出力する交流結合部(コンデンサ5および抵抗6)と、直流成分に対する増幅率よりも交流成分に対する増幅率が大きく設定されると共に入力した信号S2を増幅して信号S3として出力する交流成分増幅部7と、交流成分増幅部7の出力が飽和しない所定電圧範囲内となるように信号S2の振幅を制限する振幅制限部10と、信号S3と交流電流Iとに基づいて電池61の内部インピーダンスRを算出する演算部8とを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流起電力を有する電池の内部インピーダンスを測定するインピーダンス測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のインピーダンス測定装置として、発明者は、特開平11−178197号公報に開示されている交流測定器(電池の内部抵抗を測定する装置)を既に提案している。ところで、この種のインピーダンス測定装置では、被測定対象物(電池)の直流起電力の測定回路への入力を阻止して内部抵抗を測定する必要がある。このため、上記公報に開示の交流測定器では、一対の入力部(一例として入力端子)に2つの直流阻止用コンデンサをそれぞれ直列に接続することにより、その直流起電力の測定回路への入力を阻止している。したがって、この交流測定器によれば、電池の内部抵抗に交流電流が流れることに起因して発生する交流成分のみをその測定回路に入力できるため、測定回路がこの交流成分に基づいて電池の内部抵抗を正確に測定することができる。
【0003】
他方、発明者は、直流阻止用のコンデンサを1つだけ用いる構成のインピーダンス測定装置として、図10に示す構成のインピーダンス測定装置71も開発している。このインピーダンス測定装置71は、交流電流供給部2、一対の入力部3,4、コンデンサ5、抵抗6、増幅部77、演算部8および表示部9を備えて構成されている。このインピーダンス測定装置71では、一方の入力部3と基準電位(一例として内部グランド)との間に直流阻止用のコンデンサ5と抵抗6とが直列に接続されて交流結合部(具体的にはハイパスフィルタ)を構成し、他方の入力部4はインピーダンス測定装置71の内部グランドに接続されている。したがって、このインピーダンス測定装置71によれば、ハイパスフィルタを構成するコンデンサ5および抵抗6が、一対の入力部3,4間に加わる電池61の直流起電力V1の増幅部77への入力を阻止するため、電池61の内部抵抗61aに交流電流Iが流れることに起因して発生する交流成分V2に対応する信号S2のみを増幅部77に入力することができ、増幅部77がこの信号S2を適切な増幅率(ゲイン)で非反転増幅して、信号S3として演算部8に出力することができる。この結果、演算部8が、この信号S3と交流電流I(通常は、交流電流供給部2から出力される交流電流Iに比例した信号Si)とを入力して、これらの各振幅、およびこれら相互間の位相差をそれぞれ測定し、測定した信号S3および交流電流Iの各振幅と位相差とに基づいて、電池61の内部インピーダンスを算出して表示部9に表示させることができる。
【特許文献1】特開平11−178197号公報(第2頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発明者は、上記した図10に示すインピーダンス測定装置71についてさらに検討した結果、このインピーダンス測定装置には、次のような解決すべき課題が存在していることを見出した。すなわち、このインピーダンス測定装置71では、一対の入力部3,4と電池61との接触抵抗の影響を排除するため、抵抗6の抵抗値を大きく設定する必要がある。また、抵抗6の値を大きく設定することによって抵抗6の熱雑音が信号S2に重畳されることから、この熱雑音の信号S2への重畳を回避するために、コンデンサ5の静電容量も大きく設定する必要がある。したがって、コンデンサ5と抵抗6とで構成されるハイパスフィルタの時定数も大きくなるため、図11において実線で示す信号S1(直流成分に交流成分V2が重畳している信号であって、その直流成分が電池61の直流起電力V1までステップ的に上昇する信号:図10も参照)がコンデンサ5に印加されたときに、コンデンサ5を介して出力される信号S2に含まれている直流成分S2dcが同図において破線で示すような過渡特性で減少する。この結果、この直流成分S2dcが増幅部77を構成するバッファ(同図では一例として演算増幅器)の同相入力電圧範囲W(下限電圧が−W/2で上限電圧が+W/2で規定される電圧範囲)内に収まるまでの時間が長くなる。したがって、このインピーダンス測定装置には、演算部8において電池61の内部インピーダンスを正確に測定できるまでの時間が長くなるという解決すべき課題が存在している。
【0005】
そこで、発明者は、図10において破線で示すように、インピーダンス測定装置71における増幅部77の入力ラインAに振幅制限部10を接続したインピーダンス測定装置81を開発している。この場合、振幅制限部10は、ハイパスフィルタ(交流結合部)のコンデンサ5から出力される信号S2(直流成分S2dcに交流成分V2が重畳している電圧信号)を増幅部77の同相入力電圧範囲W内に制限する機能を備えている。このため、このインピーダンス測定装置81によれば、振幅制限部10が作動して、図11において一点鎖線で示すように、短い期間T1において、コンデンサ5から出力される信号S2の直流成分S2dcを増幅部77の同相入力電圧範囲W内に低下させることができ、電池61の内部インピーダンスが演算部8によって正確に測定されるまでの時間を短縮することができる。
【0006】
しかしながら、電池61の内部インピーダンスの測定時間をさらに短縮することが望まれている。このため、これを実現し得るインピーダンス測定装置の開発をいかに行うかが課題となっている。
【0007】
本発明は、かかる要求に応えるべくなされたものであり、直流起電力を有する電池の内部インピーダンスを一層短い時間内に測定し得るインピーダンス測定装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく請求項1記載のインピーダンス測定装置は、電池に交流電流を供給する交流電流供給部と、コンデンサと抵抗とで構成されると共に前記交流電流の供給時において前記電池の両極間に発生する第1の信号を入力して第2の信号を出力する交流結合部と、直流成分に対する増幅率よりも交流成分に対する増幅率が大きく設定されると共に前記出力された第2の信号を増幅して第3の信号として出力する交流成分増幅部と、前記交流成分増幅部の出力が飽和しない所定電圧範囲内となるように前記第2の信号の振幅を制限する振幅制限部と、前記第3の信号と前記交流電流とに基づいて前記電池の内部インピーダンスを算出する演算部とを備えている。
【0009】
また、請求項2記載のインピーダンス測定装置は、請求項1記載のインピーダンス測定装置において、前記振幅制限部は、前記第2の信号の振幅が前記所定電圧範囲を超えたときに当該振幅に対する制限を当該所定電圧範囲よりも狭い電圧範囲に狭めるヒステリシス特性を備えている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載のインピーダンス測定装置では、交流成分増幅部が交流結合部から出力された第2の信号を(その交流成分をその直流成分よりも大きな増幅率で)増幅して第3の信号として出力することにより、第3の信号に含まれている交流成分に対して直流成分を短時間で、より低いレベルまで低減することができる。したがって、このインピーダンス測定装置によれば、演算部が、この第3の信号と交流電流とに基づいて、電池の正確な内部インピーダンスを、より短時間で測定することができる。
【0011】
請求項2記載のインピーダンス測定装置によれば、第2の信号の振幅が所定電圧範囲を超えたときにこの振幅に対する制限を所定電圧範囲よりも狭い電圧範囲に狭めるヒステリシス特性を振幅制限部が備えていることにより、振幅制限部による振幅制限開始直後の短い期間において、第2の信号に含まれている直流成分を上記した電圧範囲における上限電圧まで低下させ、または下限電圧まで上昇させた後に、第2の信号の振幅に対する制限電圧を上記した所定電圧範囲で規定される上限電圧および下限電圧に戻すことができる。このため、このインピーダンス測定装置によれば、直流成分が低減された直後において第2の信号に含まれている交流成分自体が振幅制限部によって制限される現象を回避することができるため、より早い時間から、演算部において電池の正確な内部インピーダンスの算出を開始させることができる結果、応答性を一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るインピーダンス測定装置の最良の形態について説明する。
【0013】
最初に、インピーダンス測定装置1の構成について説明する。
【0014】
インピーダンス測定装置1は、図1に示すように、交流電流供給部2、一対の入力端子3,4、コンデンサ5、抵抗6、交流成分増幅部7、演算部8、表示部9および振幅制限部10を備えて構成されている。交流電流供給部2は、交流電流源2aおよび一対の出力端子2b,2cを備えて構成されて、交流電流源2aによって生成された交流電流Iを一対の出力端子2b,2cを介して電池61に供給する。また、交流電流供給部2は、交流電流Iの電流値に比例して電圧値が変化する信号Siを生成して演算部8に出力するこの場合、交流電流供給部2は、交流電流Iとして交流定電流を供給することもできる。直流阻止用のコンデンサ5および抵抗6は、本発明における交流結合部を構成し、一方の入力端子3と内部グランド(基準電位の一例)との間に直列に接続されている。具体的には、交流結合部は、コンデンサ5が入力端子3に接続され、抵抗6が内部グランドに接続されることにより、ハイパスフィルタに形成されている。これにより、この交流結合部は、交流電流Iの供給時において電池61の両極間に発生する信号S1(本発明における第1の信号)を入力して、静的には、この信号S1に含まれている電池61の直流起電力V1の通過を阻止し、電池61の内部抵抗61aに交流電流Iが流れることに起因して発生する交流成分V2(信号S1の交流成分)のみの通過を許容して交流成分増幅部7に信号S2(本発明における第2の信号)として出力する。
【0015】
交流成分増幅部7は、演算増幅器7a、2本の抵抗7b,7cおよびコンデンサ7dを備え、コンデンサ5から出力される信号S2を非反転増幅して、信号S3(本発明における第3の信号)として出力する。具体的には、演算増幅器7aは、その反転入力端子と内部グランドとの間に抵抗7bとコンデンサ7dとが直列に接続され、その出力端子とその反転入力端子との間に抵抗7cが接続されて構成されている。この構成により、交流成分増幅部7における直流成分に対する増幅率はほぼ1になり、他方、交流成分に対する増幅率は抵抗7bの抵抗値で抵抗7cの抵抗値を除算した値にほぼ等しくなる。このため、交流成分の増幅率を高めることにより、直流成分に対する増幅率よりも交流成分に対する増幅率が大きく設定され、これにより、信号S2における交流成分に対する直流成分の比率を十分に低下させることができる結果、交流成分増幅部7は実質的にハイパスフィルタとしても機能する。演算部8は、A/D変換器、CPUおよびメモリなど(いずれも図示せず)を備えて構成されている。また、演算部8は、交流電流供給部2から出力される信号Siと交流成分増幅部7から出力される信号S3とに基づいて、電池61の内部インピーダンスRを算出するインピーダンス(内部抵抗)算出処理を実行する。表示部9は、例えば、液晶ディスプレイなどで構成されて、演算部8によって算出された内部インピーダンスRを表示する。
【0016】
振幅制限部10は、交流成分増幅部7の入力ラインAに接続されて、ハイパスフィルタから出力される信号S2の振幅を交流成分増幅部7の同相入力電圧範囲Wに収まるように制限する。この場合、同相入力電圧範囲Wは、本発明における所定電圧範囲であって、下限電圧が−W/2で、かつ上限電圧が+W/2で規定される電圧範囲である。これにより、交流成分増幅部7では、演算増幅器7aが、その出力が飽和しない領域で作動する。具体的には、振幅制限部10は、図2に示すように、2つの演算増幅器10a,10b、2つのダイオード10c,10d、および出力電圧がW/2にそれぞれ設定されている2つの基準電源10e,10fを備えている。この場合、演算増幅器10a、ダイオード10cおよび基準電源10eで1つの振幅制限回路が構成され、この振幅制限回路では、演算増幅器10aの非反転入力端子に基準電源10eの正極側が接続されている。これにより、この振幅制限回路は、信号S2の振幅の上限電圧を+W/2に規定する上限振幅制限回路として機能する。このため、以下の記載において、この演算増幅器10a等で構成された振幅制限回路を上限振幅制限回路ともいう。また、演算増幅器10b、ダイオード10dおよび基準電源10fで他の1つの振幅制限回路が構成され、この振幅制限回路では、演算増幅器10bの非反転入力端子に基準電源10fの負極側が接続されている。これにより、この振幅制限回路は、信号S2の振幅の下限電圧を−W/2に規定する下限振幅制限回路として機能する。このため、以下の記載において、この演算増幅器10b等で構成された振幅制限回路を下限振幅制限回路ともいう。
【0017】
次に、インピーダンス測定装置1による電池61の内部インピーダンスRの測定動作について説明する。
【0018】
まず、図1に示すように、電池61の正極に出力端子2bを接続すると共に、電池61の負極に出力端子2cを接続し、その状態において交流電流供給部2に対して交流電流Iの供給を開始させる。次いで、入力端子3を電池61の正極に、入力端子4を電池61の負極にそれぞれ接続する。この際に、入力端子3、およびこの入力端子3に接続されているコンデンサ5には、図5において実線で示すように、直流起電力V1に交流成分V2が重畳している信号S1が入力される。この場合、コンデンサ5および抵抗6からなるハイパスフィルタは、コンデンサ5の静電容量と抵抗6の抵抗値とで規定される時定数に従い、図11において破線で示すように、信号S2に含まれている直流成分S2dcを直流起電力V1から徐々にゼロボルトまで減衰させることにより、直流起電力V1の通過を阻止する。一方、振幅制限部10では、演算増幅器10a等で構成される上限振幅制限回路が作動して、信号S2の過渡的な上昇を抑制する。この結果、交流成分増幅部7の入力ラインAに実際に現れる信号S2の直流成分S2dcは、図5(図11)において一点鎖線で示すように、十分に短い期間T1内において同相入力電圧範囲W内に抑制される。
【0019】
次いで、交流成分増幅部7は、信号S2を所定の増幅率で増幅して信号S3として出力する。この際に、交流成分増幅部7は、上記したように、信号S2の交流成分V2を直流成分S2dcよりも大きな増幅率で増幅して信号S3として出力する。このため、交流成分増幅部7から出力される信号S3に含まれている直流成分S3dcの交流成分S3acに対する比が一層低減されて、演算増幅器7aの出力が飽和し難くなる。
【0020】
続いて、演算部8は、インピーダンス算出処理を実行して電池61の内部インピーダンスRを算出し、算出した内部インピーダンスRを表示部9に表示させる。具体的には、演算部8は、交流電流供給部2から出力される信号Siの振幅に基づいて交流電流Iの電流値を算出すると共に、交流成分増幅部7から出力される信号S3の振幅に基づいて交流成分V2の電圧値を算出する。また、演算部8は、信号Siおよび信号S3の位相差、すなわち交流電流Iおよび交流成分V2の位相差を算出する。演算部8は、このようにして算出した交流電流Iの電圧値、交流成分V2の電圧値、および位相差に基づいて、電池61の内部インピーダンスRを算出して表示部9に表示させる。
【0021】
このように、このインピーダンス測定装置1では、交流成分増幅部7が、交流結合部のコンデンサ5から出力される信号S2を増幅して(その交流成分V2を直流成分S2dcよりも大きな増幅率で増幅して)信号S3として出力することにより、信号S3に含まれている交流成分S3acに対して直流成分S3dcを短時間で、より低いレベルまで低減する。したがって、このインピーダンス測定装置1によれば、演算部8が、この信号S3と信号Siとに基づいて、電池61の正確な内部インピーダンスを、より短時間で測定することができる。
【0022】
また、インピーダンス測定装置1では、抵抗7bとコンデンサ7dとの直列回路を演算増幅器7aの反転入力端子と内部グランドとの間に接続して、信号S2の直流成分S2dcに対する交流成分V2の増幅率を上げることにより、演算増幅器7a自体をハイパスフィルタとして機能させている。したがって、このインピーダンス測定装置1によれば、信号S2の交流成分V2に対する直流成分S2dcの増幅率を下げることができるため、演算増幅器7aの出力を飽和させ難くすることができる。
【0023】
なお、本発明は、上記の構成に限定されない。例えば、インピーダンス測定装置1では、振幅制限部10が信号S2の直流成分S2dcを短時間で低減させているが、信号S2に含まれている交流成分V2の位相の状態によっては、図6に示すように、直流成分S2dcが低減された後の数周期に亘って交流成分V2自体が振幅制限部10によって制限される現象が発生するおそれがある。このため、信号S2の交流成分V2が振幅制限部10の上限電圧(W/2)以下になるまでの期間において、演算部8が電池61の内部インピーダンスRを正確に算出できない事態が発生するおそれもある。一方、このような事態は、インピーダンス測定装置1の振幅制限部10を、図3に示す構成の振幅制限部12に代えて構成したインピーダンス測定装置11によって回避することができる。このインピーダンス測定装置11は、上記のように振幅制限部10に代えて振幅制限部12を用いた以外は、インピーダンス測定装置1と同一に構成されている。このため、以下、後述する他の実施の形態においても、同一の構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0024】
振幅制限部12は、図3に示すように、振幅制限部10の構成要素に加えて、4本の抵抗10g,10h,10i,10jを備え、演算増幅器10a,10bの各非反転入力端子に入力される電圧にヒステリシス特性を持たせるように構成されている。具体的には、演算増幅器10a等を備えた振幅制限回路(上限振幅制限回路ともいう)では、基準電源10eと演算増幅器10aの非反転入力端子との間に抵抗10gが接続され、演算増幅器10aの非反転入力端子と出力端子との間に抵抗10hが接続されている。同様にして、演算増幅器10b等を備えた振幅制限回路(下限振幅制限回路ともいう)では、基準電源10fと演算増幅器10bの非反転入力端子との間に抵抗10iが接続され、演算増幅器10bの非反転入力端子と出力端子との間に抵抗10jが接続されている。この場合、上限振幅制限回路および下限振幅制限回路では、信号S2が同相入力電圧範囲Wの上限電圧(+W/2)を超えて上昇または下限電圧(−W/2)を超えて下降したときに振幅制限動作を開始し、その後に、上昇した信号S2が下降を開始して、または下降した信号S2が上昇を開始して同相入力電圧範囲Wよりも狭い電圧範囲(例えば、下限電圧が−W/4で、かつ上限電圧が+W/4で規定される電圧範囲)内に入ったときに振幅制限動作を終了するというヒステリシス特性を有するように、抵抗10g,10hの各抵抗値、および抵抗10i,10jの各抵抗値が設定されている。
【0025】
したがって、この振幅制限部12における演算増幅器10a等を備えた振幅制限回路(一例として上限振幅制限回路)によれば、図7に示すように、振幅制限開始直後の短い期間T1において、信号S2に含まれている直流成分を上記した電圧範囲における上限電圧(+W/4)まで低下させた後に、上限振幅制限電圧を+W/2に戻すことができる。このため、このインピーダンス測定装置11によれば、直流成分が低減された直後において信号S2に含まれている交流成分自体が振幅制限部12によって制限される現象を回避することができるため、より早い時間から、演算部8が電池61の正確な内部インピーダンスRの算出を開始することができる結果、応答性を一層高めることができる。なお、振幅制限部12における演算増幅器10b等を備えた下限振幅制限回路については、図示はしないが、振幅制限開始直後の短い期間T1において、信号S2に含まれている直流成分を上記した電圧範囲における下限電圧(−W/4)まで上昇させた後に、下限電圧を−W/2に戻すことができるため、上記した上限振幅制限回路と同様にして、直流成分が低減された直後において信号S2に含まれている交流成分自体が振幅制限部12によって制限される現象を回避することができる。
【0026】
また、インピーダンス測定装置1,11では、演算増幅器7aの帰還部分にコンデンサ7dを配設することによって交流成分V2に対する増幅率よりも直流成分S2dcに対する増幅率を下げることで、演算増幅器7a自体をハイパスフィルタとして機能させつつ、演算増幅器7aの出力が飽和し難くなるように構成したが、この構成に限らない。例えば、図4に示すインピーダンス測定装置31における交流成分増幅部17のように、帰還部分に抵抗7b,7cのみを配設して演算増幅器7aを通常の非反転増幅器として作動させると共に、この演算増幅器7aから出力される信号に含まれている直流成分の出力を演算増幅器7aの出力端子に直列に接続したコンデンサ7eで阻止する構成を採用することもできる。ただし、この交流成分増幅部17では、演算増幅器7aが、信号S2の直流成分および交流成分を同一の増幅率で増幅する。このため、この交流成分増幅部17では、交流成分増幅部7と比較して、交流成分についての増幅率を低く設定する必要がある。なお、インピーダンス測定装置31は、交流成分増幅部7に代えて交流成分増幅部17を用いた以外は、インピーダンス測定装置1と同一に構成されているため、同一の構成要素については重複する説明を省略する。また、インピーダンス測定装置31においても、振幅制限部10に代えて振幅制限部12を用いることもできる。これらの構成のインピーダンス測定装置31においても、インピーダンス測定装置1と同様の作用効果を奏することができる。
【0027】
また、上記の各インピーダンス測定装置1,11,31では、電池61の極性を逆にして各出力端子2b,2cおよび各入力端子3,4に接続したときであっても電池61の内部インピーダンスRを測定可能とするために、振幅制限部10,12が上限振幅制限回路および下限振幅制限回路の双方を有する構成を採用しているが、各出力端子2b,2cおよび各入力端子3,4に接続する電池61の極性が予め規定されているときには、振幅制限部10,12を上限振幅制限回路および下限振幅制限回路のいずれか一方で構成することもできる。
【0028】
また、上記の各インピーダンス測定装置1,11,31では、演算部8が電池61の内部インピーダンスRを測定しているが、電池61の実効抵抗成分、インダクタンス成分および静電容量成分を測定することもできる。また、信号Siで信号S3を同期検波して、この同期検波によって得られた電圧と交流電流Iの電流値とに基づいて、電池61の内部インピーダンスRを算出可能に演算部8を構成することもできる。
【0029】
また、上記の各インピーダンス測定装置1,11,31では、基準電位としての内部グランドに入力端子4を接続しているが、図8に示すように、交流成分増幅部を計装アンプ47で構成したインピーダンス測定装置41では、計装アンプ47の各入力端子(入力段アンプを構成する一対の演算増幅器47a,47aの各非反転入力端子)と各入力端子3,4との間に、交流結合部(コンデンサ5と抵抗6)および振幅制限部10(12)を各インピーダンス測定装置1,11,31と同様にしてそれぞれ接続すると共に、演算増幅器47a,47aの各反転入力端子間に、抵抗7bとコンデンサ7dとで構成される直列回路を接続することもできる。また、このインピーダンス測定装置41における入力端子4側の交流結合部(コンデンサ5と抵抗6)および振幅制限部10(12)の接続を省略すると共に、入力端子4を演算増幅器47aの非反転入力端子に直結することにより、図9に示すインピーダンス測定装置51を構成することもできる。なお、インピーダンス測定装置1と同一の構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。これらの各インピーダンス測定装置41,51においても、演算増幅器47a,47aの各反転入力端子間に接続した抵抗7bとコンデンサ7dとの直列回路により、交流成分増幅部47が、各入力端子3,4間に入力する信号の交流成分を直流成分よりも大きな増幅率で増幅することができるため、計装アンプ47から出力される信号S3に含まれている交流成分に対して直流成分を短時間で、より低いレベルまで低減させることができる。したがって、このインピーダンス測定装置41,51でも、演算部8が、この信号S3と交流電流供給部2から出力される信号Siとに基づいて、電池61の正確な内部インピーダンスを、より短時間で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】インピーダンス測定装置1,11の構成を示すブロック図である。
【図2】振幅制限部10の回路図である。
【図3】振幅制限部12の回路図である。
【図4】インピーダンス測定装置31の構成を示すブロック図である。
【図5】インピーダンス測定装置1の動作を説明するための波形図である。
【図6】振幅制限部10によって電圧制限された信号S2の波形図である。
【図7】振幅制限部12によって電圧制限された信号S2の波形図である。
【図8】インピーダンス測定装置41の構成を示すブロック図である。
【図9】インピーダンス測定装置51の構成を示すブロック図である。
【図10】インピーダンス測定装置71,81の構成を示すブロック図である。
【図11】インピーダンス測定装置71,81の動作を説明するための波形図である。
【符号の説明】
【0031】
1,11,31,41,51 インピーダンス測定装置
2 交流電流供給部
3,4 入力端子
5,7d コンデンサ
6,7c,7d 抵抗
7,17,47 交流成分増幅部
8 演算部
10,12 振幅制限部
61 電池
I 交流電流
S1,S2,S3 信号
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流起電力を有する電池の内部インピーダンスを測定するインピーダンス測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のインピーダンス測定装置として、発明者は、特開平11−178197号公報に開示されている交流測定器(電池の内部抵抗を測定する装置)を既に提案している。ところで、この種のインピーダンス測定装置では、被測定対象物(電池)の直流起電力の測定回路への入力を阻止して内部抵抗を測定する必要がある。このため、上記公報に開示の交流測定器では、一対の入力部(一例として入力端子)に2つの直流阻止用コンデンサをそれぞれ直列に接続することにより、その直流起電力の測定回路への入力を阻止している。したがって、この交流測定器によれば、電池の内部抵抗に交流電流が流れることに起因して発生する交流成分のみをその測定回路に入力できるため、測定回路がこの交流成分に基づいて電池の内部抵抗を正確に測定することができる。
【0003】
他方、発明者は、直流阻止用のコンデンサを1つだけ用いる構成のインピーダンス測定装置として、図10に示す構成のインピーダンス測定装置71も開発している。このインピーダンス測定装置71は、交流電流供給部2、一対の入力部3,4、コンデンサ5、抵抗6、増幅部77、演算部8および表示部9を備えて構成されている。このインピーダンス測定装置71では、一方の入力部3と基準電位(一例として内部グランド)との間に直流阻止用のコンデンサ5と抵抗6とが直列に接続されて交流結合部(具体的にはハイパスフィルタ)を構成し、他方の入力部4はインピーダンス測定装置71の内部グランドに接続されている。したがって、このインピーダンス測定装置71によれば、ハイパスフィルタを構成するコンデンサ5および抵抗6が、一対の入力部3,4間に加わる電池61の直流起電力V1の増幅部77への入力を阻止するため、電池61の内部抵抗61aに交流電流Iが流れることに起因して発生する交流成分V2に対応する信号S2のみを増幅部77に入力することができ、増幅部77がこの信号S2を適切な増幅率(ゲイン)で非反転増幅して、信号S3として演算部8に出力することができる。この結果、演算部8が、この信号S3と交流電流I(通常は、交流電流供給部2から出力される交流電流Iに比例した信号Si)とを入力して、これらの各振幅、およびこれら相互間の位相差をそれぞれ測定し、測定した信号S3および交流電流Iの各振幅と位相差とに基づいて、電池61の内部インピーダンスを算出して表示部9に表示させることができる。
【特許文献1】特開平11−178197号公報(第2頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発明者は、上記した図10に示すインピーダンス測定装置71についてさらに検討した結果、このインピーダンス測定装置には、次のような解決すべき課題が存在していることを見出した。すなわち、このインピーダンス測定装置71では、一対の入力部3,4と電池61との接触抵抗の影響を排除するため、抵抗6の抵抗値を大きく設定する必要がある。また、抵抗6の値を大きく設定することによって抵抗6の熱雑音が信号S2に重畳されることから、この熱雑音の信号S2への重畳を回避するために、コンデンサ5の静電容量も大きく設定する必要がある。したがって、コンデンサ5と抵抗6とで構成されるハイパスフィルタの時定数も大きくなるため、図11において実線で示す信号S1(直流成分に交流成分V2が重畳している信号であって、その直流成分が電池61の直流起電力V1までステップ的に上昇する信号:図10も参照)がコンデンサ5に印加されたときに、コンデンサ5を介して出力される信号S2に含まれている直流成分S2dcが同図において破線で示すような過渡特性で減少する。この結果、この直流成分S2dcが増幅部77を構成するバッファ(同図では一例として演算増幅器)の同相入力電圧範囲W(下限電圧が−W/2で上限電圧が+W/2で規定される電圧範囲)内に収まるまでの時間が長くなる。したがって、このインピーダンス測定装置には、演算部8において電池61の内部インピーダンスを正確に測定できるまでの時間が長くなるという解決すべき課題が存在している。
【0005】
そこで、発明者は、図10において破線で示すように、インピーダンス測定装置71における増幅部77の入力ラインAに振幅制限部10を接続したインピーダンス測定装置81を開発している。この場合、振幅制限部10は、ハイパスフィルタ(交流結合部)のコンデンサ5から出力される信号S2(直流成分S2dcに交流成分V2が重畳している電圧信号)を増幅部77の同相入力電圧範囲W内に制限する機能を備えている。このため、このインピーダンス測定装置81によれば、振幅制限部10が作動して、図11において一点鎖線で示すように、短い期間T1において、コンデンサ5から出力される信号S2の直流成分S2dcを増幅部77の同相入力電圧範囲W内に低下させることができ、電池61の内部インピーダンスが演算部8によって正確に測定されるまでの時間を短縮することができる。
【0006】
しかしながら、電池61の内部インピーダンスの測定時間をさらに短縮することが望まれている。このため、これを実現し得るインピーダンス測定装置の開発をいかに行うかが課題となっている。
【0007】
本発明は、かかる要求に応えるべくなされたものであり、直流起電力を有する電池の内部インピーダンスを一層短い時間内に測定し得るインピーダンス測定装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく請求項1記載のインピーダンス測定装置は、電池に交流電流を供給する交流電流供給部と、コンデンサと抵抗とで構成されると共に前記交流電流の供給時において前記電池の両極間に発生する第1の信号を入力して第2の信号を出力する交流結合部と、直流成分に対する増幅率よりも交流成分に対する増幅率が大きく設定されると共に前記出力された第2の信号を増幅して第3の信号として出力する交流成分増幅部と、前記交流成分増幅部の出力が飽和しない所定電圧範囲内となるように前記第2の信号の振幅を制限する振幅制限部と、前記第3の信号と前記交流電流とに基づいて前記電池の内部インピーダンスを算出する演算部とを備えている。
【0009】
また、請求項2記載のインピーダンス測定装置は、請求項1記載のインピーダンス測定装置において、前記振幅制限部は、前記第2の信号の振幅が前記所定電圧範囲を超えたときに当該振幅に対する制限を当該所定電圧範囲よりも狭い電圧範囲に狭めるヒステリシス特性を備えている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載のインピーダンス測定装置では、交流成分増幅部が交流結合部から出力された第2の信号を(その交流成分をその直流成分よりも大きな増幅率で)増幅して第3の信号として出力することにより、第3の信号に含まれている交流成分に対して直流成分を短時間で、より低いレベルまで低減することができる。したがって、このインピーダンス測定装置によれば、演算部が、この第3の信号と交流電流とに基づいて、電池の正確な内部インピーダンスを、より短時間で測定することができる。
【0011】
請求項2記載のインピーダンス測定装置によれば、第2の信号の振幅が所定電圧範囲を超えたときにこの振幅に対する制限を所定電圧範囲よりも狭い電圧範囲に狭めるヒステリシス特性を振幅制限部が備えていることにより、振幅制限部による振幅制限開始直後の短い期間において、第2の信号に含まれている直流成分を上記した電圧範囲における上限電圧まで低下させ、または下限電圧まで上昇させた後に、第2の信号の振幅に対する制限電圧を上記した所定電圧範囲で規定される上限電圧および下限電圧に戻すことができる。このため、このインピーダンス測定装置によれば、直流成分が低減された直後において第2の信号に含まれている交流成分自体が振幅制限部によって制限される現象を回避することができるため、より早い時間から、演算部において電池の正確な内部インピーダンスの算出を開始させることができる結果、応答性を一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るインピーダンス測定装置の最良の形態について説明する。
【0013】
最初に、インピーダンス測定装置1の構成について説明する。
【0014】
インピーダンス測定装置1は、図1に示すように、交流電流供給部2、一対の入力端子3,4、コンデンサ5、抵抗6、交流成分増幅部7、演算部8、表示部9および振幅制限部10を備えて構成されている。交流電流供給部2は、交流電流源2aおよび一対の出力端子2b,2cを備えて構成されて、交流電流源2aによって生成された交流電流Iを一対の出力端子2b,2cを介して電池61に供給する。また、交流電流供給部2は、交流電流Iの電流値に比例して電圧値が変化する信号Siを生成して演算部8に出力するこの場合、交流電流供給部2は、交流電流Iとして交流定電流を供給することもできる。直流阻止用のコンデンサ5および抵抗6は、本発明における交流結合部を構成し、一方の入力端子3と内部グランド(基準電位の一例)との間に直列に接続されている。具体的には、交流結合部は、コンデンサ5が入力端子3に接続され、抵抗6が内部グランドに接続されることにより、ハイパスフィルタに形成されている。これにより、この交流結合部は、交流電流Iの供給時において電池61の両極間に発生する信号S1(本発明における第1の信号)を入力して、静的には、この信号S1に含まれている電池61の直流起電力V1の通過を阻止し、電池61の内部抵抗61aに交流電流Iが流れることに起因して発生する交流成分V2(信号S1の交流成分)のみの通過を許容して交流成分増幅部7に信号S2(本発明における第2の信号)として出力する。
【0015】
交流成分増幅部7は、演算増幅器7a、2本の抵抗7b,7cおよびコンデンサ7dを備え、コンデンサ5から出力される信号S2を非反転増幅して、信号S3(本発明における第3の信号)として出力する。具体的には、演算増幅器7aは、その反転入力端子と内部グランドとの間に抵抗7bとコンデンサ7dとが直列に接続され、その出力端子とその反転入力端子との間に抵抗7cが接続されて構成されている。この構成により、交流成分増幅部7における直流成分に対する増幅率はほぼ1になり、他方、交流成分に対する増幅率は抵抗7bの抵抗値で抵抗7cの抵抗値を除算した値にほぼ等しくなる。このため、交流成分の増幅率を高めることにより、直流成分に対する増幅率よりも交流成分に対する増幅率が大きく設定され、これにより、信号S2における交流成分に対する直流成分の比率を十分に低下させることができる結果、交流成分増幅部7は実質的にハイパスフィルタとしても機能する。演算部8は、A/D変換器、CPUおよびメモリなど(いずれも図示せず)を備えて構成されている。また、演算部8は、交流電流供給部2から出力される信号Siと交流成分増幅部7から出力される信号S3とに基づいて、電池61の内部インピーダンスRを算出するインピーダンス(内部抵抗)算出処理を実行する。表示部9は、例えば、液晶ディスプレイなどで構成されて、演算部8によって算出された内部インピーダンスRを表示する。
【0016】
振幅制限部10は、交流成分増幅部7の入力ラインAに接続されて、ハイパスフィルタから出力される信号S2の振幅を交流成分増幅部7の同相入力電圧範囲Wに収まるように制限する。この場合、同相入力電圧範囲Wは、本発明における所定電圧範囲であって、下限電圧が−W/2で、かつ上限電圧が+W/2で規定される電圧範囲である。これにより、交流成分増幅部7では、演算増幅器7aが、その出力が飽和しない領域で作動する。具体的には、振幅制限部10は、図2に示すように、2つの演算増幅器10a,10b、2つのダイオード10c,10d、および出力電圧がW/2にそれぞれ設定されている2つの基準電源10e,10fを備えている。この場合、演算増幅器10a、ダイオード10cおよび基準電源10eで1つの振幅制限回路が構成され、この振幅制限回路では、演算増幅器10aの非反転入力端子に基準電源10eの正極側が接続されている。これにより、この振幅制限回路は、信号S2の振幅の上限電圧を+W/2に規定する上限振幅制限回路として機能する。このため、以下の記載において、この演算増幅器10a等で構成された振幅制限回路を上限振幅制限回路ともいう。また、演算増幅器10b、ダイオード10dおよび基準電源10fで他の1つの振幅制限回路が構成され、この振幅制限回路では、演算増幅器10bの非反転入力端子に基準電源10fの負極側が接続されている。これにより、この振幅制限回路は、信号S2の振幅の下限電圧を−W/2に規定する下限振幅制限回路として機能する。このため、以下の記載において、この演算増幅器10b等で構成された振幅制限回路を下限振幅制限回路ともいう。
【0017】
次に、インピーダンス測定装置1による電池61の内部インピーダンスRの測定動作について説明する。
【0018】
まず、図1に示すように、電池61の正極に出力端子2bを接続すると共に、電池61の負極に出力端子2cを接続し、その状態において交流電流供給部2に対して交流電流Iの供給を開始させる。次いで、入力端子3を電池61の正極に、入力端子4を電池61の負極にそれぞれ接続する。この際に、入力端子3、およびこの入力端子3に接続されているコンデンサ5には、図5において実線で示すように、直流起電力V1に交流成分V2が重畳している信号S1が入力される。この場合、コンデンサ5および抵抗6からなるハイパスフィルタは、コンデンサ5の静電容量と抵抗6の抵抗値とで規定される時定数に従い、図11において破線で示すように、信号S2に含まれている直流成分S2dcを直流起電力V1から徐々にゼロボルトまで減衰させることにより、直流起電力V1の通過を阻止する。一方、振幅制限部10では、演算増幅器10a等で構成される上限振幅制限回路が作動して、信号S2の過渡的な上昇を抑制する。この結果、交流成分増幅部7の入力ラインAに実際に現れる信号S2の直流成分S2dcは、図5(図11)において一点鎖線で示すように、十分に短い期間T1内において同相入力電圧範囲W内に抑制される。
【0019】
次いで、交流成分増幅部7は、信号S2を所定の増幅率で増幅して信号S3として出力する。この際に、交流成分増幅部7は、上記したように、信号S2の交流成分V2を直流成分S2dcよりも大きな増幅率で増幅して信号S3として出力する。このため、交流成分増幅部7から出力される信号S3に含まれている直流成分S3dcの交流成分S3acに対する比が一層低減されて、演算増幅器7aの出力が飽和し難くなる。
【0020】
続いて、演算部8は、インピーダンス算出処理を実行して電池61の内部インピーダンスRを算出し、算出した内部インピーダンスRを表示部9に表示させる。具体的には、演算部8は、交流電流供給部2から出力される信号Siの振幅に基づいて交流電流Iの電流値を算出すると共に、交流成分増幅部7から出力される信号S3の振幅に基づいて交流成分V2の電圧値を算出する。また、演算部8は、信号Siおよび信号S3の位相差、すなわち交流電流Iおよび交流成分V2の位相差を算出する。演算部8は、このようにして算出した交流電流Iの電圧値、交流成分V2の電圧値、および位相差に基づいて、電池61の内部インピーダンスRを算出して表示部9に表示させる。
【0021】
このように、このインピーダンス測定装置1では、交流成分増幅部7が、交流結合部のコンデンサ5から出力される信号S2を増幅して(その交流成分V2を直流成分S2dcよりも大きな増幅率で増幅して)信号S3として出力することにより、信号S3に含まれている交流成分S3acに対して直流成分S3dcを短時間で、より低いレベルまで低減する。したがって、このインピーダンス測定装置1によれば、演算部8が、この信号S3と信号Siとに基づいて、電池61の正確な内部インピーダンスを、より短時間で測定することができる。
【0022】
また、インピーダンス測定装置1では、抵抗7bとコンデンサ7dとの直列回路を演算増幅器7aの反転入力端子と内部グランドとの間に接続して、信号S2の直流成分S2dcに対する交流成分V2の増幅率を上げることにより、演算増幅器7a自体をハイパスフィルタとして機能させている。したがって、このインピーダンス測定装置1によれば、信号S2の交流成分V2に対する直流成分S2dcの増幅率を下げることができるため、演算増幅器7aの出力を飽和させ難くすることができる。
【0023】
なお、本発明は、上記の構成に限定されない。例えば、インピーダンス測定装置1では、振幅制限部10が信号S2の直流成分S2dcを短時間で低減させているが、信号S2に含まれている交流成分V2の位相の状態によっては、図6に示すように、直流成分S2dcが低減された後の数周期に亘って交流成分V2自体が振幅制限部10によって制限される現象が発生するおそれがある。このため、信号S2の交流成分V2が振幅制限部10の上限電圧(W/2)以下になるまでの期間において、演算部8が電池61の内部インピーダンスRを正確に算出できない事態が発生するおそれもある。一方、このような事態は、インピーダンス測定装置1の振幅制限部10を、図3に示す構成の振幅制限部12に代えて構成したインピーダンス測定装置11によって回避することができる。このインピーダンス測定装置11は、上記のように振幅制限部10に代えて振幅制限部12を用いた以外は、インピーダンス測定装置1と同一に構成されている。このため、以下、後述する他の実施の形態においても、同一の構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0024】
振幅制限部12は、図3に示すように、振幅制限部10の構成要素に加えて、4本の抵抗10g,10h,10i,10jを備え、演算増幅器10a,10bの各非反転入力端子に入力される電圧にヒステリシス特性を持たせるように構成されている。具体的には、演算増幅器10a等を備えた振幅制限回路(上限振幅制限回路ともいう)では、基準電源10eと演算増幅器10aの非反転入力端子との間に抵抗10gが接続され、演算増幅器10aの非反転入力端子と出力端子との間に抵抗10hが接続されている。同様にして、演算増幅器10b等を備えた振幅制限回路(下限振幅制限回路ともいう)では、基準電源10fと演算増幅器10bの非反転入力端子との間に抵抗10iが接続され、演算増幅器10bの非反転入力端子と出力端子との間に抵抗10jが接続されている。この場合、上限振幅制限回路および下限振幅制限回路では、信号S2が同相入力電圧範囲Wの上限電圧(+W/2)を超えて上昇または下限電圧(−W/2)を超えて下降したときに振幅制限動作を開始し、その後に、上昇した信号S2が下降を開始して、または下降した信号S2が上昇を開始して同相入力電圧範囲Wよりも狭い電圧範囲(例えば、下限電圧が−W/4で、かつ上限電圧が+W/4で規定される電圧範囲)内に入ったときに振幅制限動作を終了するというヒステリシス特性を有するように、抵抗10g,10hの各抵抗値、および抵抗10i,10jの各抵抗値が設定されている。
【0025】
したがって、この振幅制限部12における演算増幅器10a等を備えた振幅制限回路(一例として上限振幅制限回路)によれば、図7に示すように、振幅制限開始直後の短い期間T1において、信号S2に含まれている直流成分を上記した電圧範囲における上限電圧(+W/4)まで低下させた後に、上限振幅制限電圧を+W/2に戻すことができる。このため、このインピーダンス測定装置11によれば、直流成分が低減された直後において信号S2に含まれている交流成分自体が振幅制限部12によって制限される現象を回避することができるため、より早い時間から、演算部8が電池61の正確な内部インピーダンスRの算出を開始することができる結果、応答性を一層高めることができる。なお、振幅制限部12における演算増幅器10b等を備えた下限振幅制限回路については、図示はしないが、振幅制限開始直後の短い期間T1において、信号S2に含まれている直流成分を上記した電圧範囲における下限電圧(−W/4)まで上昇させた後に、下限電圧を−W/2に戻すことができるため、上記した上限振幅制限回路と同様にして、直流成分が低減された直後において信号S2に含まれている交流成分自体が振幅制限部12によって制限される現象を回避することができる。
【0026】
また、インピーダンス測定装置1,11では、演算増幅器7aの帰還部分にコンデンサ7dを配設することによって交流成分V2に対する増幅率よりも直流成分S2dcに対する増幅率を下げることで、演算増幅器7a自体をハイパスフィルタとして機能させつつ、演算増幅器7aの出力が飽和し難くなるように構成したが、この構成に限らない。例えば、図4に示すインピーダンス測定装置31における交流成分増幅部17のように、帰還部分に抵抗7b,7cのみを配設して演算増幅器7aを通常の非反転増幅器として作動させると共に、この演算増幅器7aから出力される信号に含まれている直流成分の出力を演算増幅器7aの出力端子に直列に接続したコンデンサ7eで阻止する構成を採用することもできる。ただし、この交流成分増幅部17では、演算増幅器7aが、信号S2の直流成分および交流成分を同一の増幅率で増幅する。このため、この交流成分増幅部17では、交流成分増幅部7と比較して、交流成分についての増幅率を低く設定する必要がある。なお、インピーダンス測定装置31は、交流成分増幅部7に代えて交流成分増幅部17を用いた以外は、インピーダンス測定装置1と同一に構成されているため、同一の構成要素については重複する説明を省略する。また、インピーダンス測定装置31においても、振幅制限部10に代えて振幅制限部12を用いることもできる。これらの構成のインピーダンス測定装置31においても、インピーダンス測定装置1と同様の作用効果を奏することができる。
【0027】
また、上記の各インピーダンス測定装置1,11,31では、電池61の極性を逆にして各出力端子2b,2cおよび各入力端子3,4に接続したときであっても電池61の内部インピーダンスRを測定可能とするために、振幅制限部10,12が上限振幅制限回路および下限振幅制限回路の双方を有する構成を採用しているが、各出力端子2b,2cおよび各入力端子3,4に接続する電池61の極性が予め規定されているときには、振幅制限部10,12を上限振幅制限回路および下限振幅制限回路のいずれか一方で構成することもできる。
【0028】
また、上記の各インピーダンス測定装置1,11,31では、演算部8が電池61の内部インピーダンスRを測定しているが、電池61の実効抵抗成分、インダクタンス成分および静電容量成分を測定することもできる。また、信号Siで信号S3を同期検波して、この同期検波によって得られた電圧と交流電流Iの電流値とに基づいて、電池61の内部インピーダンスRを算出可能に演算部8を構成することもできる。
【0029】
また、上記の各インピーダンス測定装置1,11,31では、基準電位としての内部グランドに入力端子4を接続しているが、図8に示すように、交流成分増幅部を計装アンプ47で構成したインピーダンス測定装置41では、計装アンプ47の各入力端子(入力段アンプを構成する一対の演算増幅器47a,47aの各非反転入力端子)と各入力端子3,4との間に、交流結合部(コンデンサ5と抵抗6)および振幅制限部10(12)を各インピーダンス測定装置1,11,31と同様にしてそれぞれ接続すると共に、演算増幅器47a,47aの各反転入力端子間に、抵抗7bとコンデンサ7dとで構成される直列回路を接続することもできる。また、このインピーダンス測定装置41における入力端子4側の交流結合部(コンデンサ5と抵抗6)および振幅制限部10(12)の接続を省略すると共に、入力端子4を演算増幅器47aの非反転入力端子に直結することにより、図9に示すインピーダンス測定装置51を構成することもできる。なお、インピーダンス測定装置1と同一の構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。これらの各インピーダンス測定装置41,51においても、演算増幅器47a,47aの各反転入力端子間に接続した抵抗7bとコンデンサ7dとの直列回路により、交流成分増幅部47が、各入力端子3,4間に入力する信号の交流成分を直流成分よりも大きな増幅率で増幅することができるため、計装アンプ47から出力される信号S3に含まれている交流成分に対して直流成分を短時間で、より低いレベルまで低減させることができる。したがって、このインピーダンス測定装置41,51でも、演算部8が、この信号S3と交流電流供給部2から出力される信号Siとに基づいて、電池61の正確な内部インピーダンスを、より短時間で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】インピーダンス測定装置1,11の構成を示すブロック図である。
【図2】振幅制限部10の回路図である。
【図3】振幅制限部12の回路図である。
【図4】インピーダンス測定装置31の構成を示すブロック図である。
【図5】インピーダンス測定装置1の動作を説明するための波形図である。
【図6】振幅制限部10によって電圧制限された信号S2の波形図である。
【図7】振幅制限部12によって電圧制限された信号S2の波形図である。
【図8】インピーダンス測定装置41の構成を示すブロック図である。
【図9】インピーダンス測定装置51の構成を示すブロック図である。
【図10】インピーダンス測定装置71,81の構成を示すブロック図である。
【図11】インピーダンス測定装置71,81の動作を説明するための波形図である。
【符号の説明】
【0031】
1,11,31,41,51 インピーダンス測定装置
2 交流電流供給部
3,4 入力端子
5,7d コンデンサ
6,7c,7d 抵抗
7,17,47 交流成分増幅部
8 演算部
10,12 振幅制限部
61 電池
I 交流電流
S1,S2,S3 信号
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池に交流電流を供給する交流電流供給部と、
コンデンサと抵抗とで構成されると共に前記交流電流の供給時において前記電池の両極間に発生する第1の信号を入力して第2の信号を出力する交流結合部と、
直流成分に対する増幅率よりも交流成分に対する増幅率が大きく設定されると共に前記出力された第2の信号を増幅して第3の信号として出力する交流成分増幅部と、
前記交流成分増幅部の出力が飽和しない所定電圧範囲内となるように前記第2の信号の振幅を制限する振幅制限部と、
前記第3の信号と前記交流電流とに基づいて前記電池の内部インピーダンスを算出する演算部とを備えているインピーダンス測定装置。
【請求項2】
前記振幅制限部は、前記第2の信号の振幅が前記所定電圧範囲を超えたときに当該振幅に対する制限を当該所定電圧範囲よりも狭い電圧範囲に狭めるヒステリシス特性を備えている請求項1記載のインピーダンス測定装置。
【請求項1】
電池に交流電流を供給する交流電流供給部と、
コンデンサと抵抗とで構成されると共に前記交流電流の供給時において前記電池の両極間に発生する第1の信号を入力して第2の信号を出力する交流結合部と、
直流成分に対する増幅率よりも交流成分に対する増幅率が大きく設定されると共に前記出力された第2の信号を増幅して第3の信号として出力する交流成分増幅部と、
前記交流成分増幅部の出力が飽和しない所定電圧範囲内となるように前記第2の信号の振幅を制限する振幅制限部と、
前記第3の信号と前記交流電流とに基づいて前記電池の内部インピーダンスを算出する演算部とを備えているインピーダンス測定装置。
【請求項2】
前記振幅制限部は、前記第2の信号の振幅が前記所定電圧範囲を超えたときに当該振幅に対する制限を当該所定電圧範囲よりも狭い電圧範囲に狭めるヒステリシス特性を備えている請求項1記載のインピーダンス測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−343108(P2006−343108A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166372(P2005−166372)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】
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