説明

インピーダンス素子

【課題】音声信号用フィルタとして、実装面積を大きくすることなく、高いインダクタンスを持ち直流重畳特性が良好なインピーダンス素子を提供すること。
【解決手段】本発明によるインピーダンス素子1は2本の金属導体5と上位フェライト素子2と下位フェライト素子3とからなる。上位フェライト素子2と下位フェライト素子3とには、少なくとも一方に前記金属導体5とほぼ同一形状の溝4を設けることによって、2つのフェライト素子で金属導体5を上下から挟み込むように埋設することが可能な形状となっている。さらに金属導体5は、フェライト素子内に埋設する部分を蛇行させることによって、その線路長を直線状にしたときに対して1.1倍から2.0倍の範囲に長くなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルオーディオの増幅回路で用いられるノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ用デジタルアンプは矩形波パルスの幅を変化させて音声信号を搬送するPWM方式が用いられている。テレビ受像器の音声回路など出力が10ワット以上のデジタルアンプにおいて、矩形波パルスによるスピーカーコイルの発熱防止とスピーカーケーブルからのノイズ輻射防止目的で巻き線インダクタ2個とコンデンサを組み合わせて矩形波リップルをフィルタリングしている。
【0003】
このような大電流を流す場合には、大電流を流したときに実効インダクタンスが低下しない良好な直流重畳特性を有する磁性素子が必要であり、例えば特許文献1に開示されているものがある。特許文献1に開示されている磁性素子は、U字型の金属導体を2つの素子に挟み込んだ構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2951324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記先行技術を使用したときの問題点は、使用する機器によってはインピーダンスが低いためノイズ除去効果が不足する場合が発生することである。この問題点は素子を小型化するほどインダクタンスが小さくなるため顕著になる。
【0006】
インピーダンスを高くする手段として内部電極をスパイラル構造にする方法があるが、この手法では直流重畳特性が悪くなり実効インピーダンス特性が音声信号域にまで影響し、信号を歪ませ音を悪くする原因となる。したがって音声回路の回路電流が高い場合には、使用できる素子の選択肢が少ないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、実装面積を大きくすることなく高いインダクタンスを持ち良好な直流重畳特性を備え、さらに回路電流が高い場合であっても使用可能な音声信号用のフィルタを提供するものである。
【0008】
本発明によるインピーダンス素子は、2本の金属導体と、この金属導体を上下から挟み込む2つのフェライト素子、すなわち上位フェライト素子と下位フェライト素子とからなる。
【0009】
金属導体として、2本の金属導体を用いることによって、一つの素子の中に2回路を形成している。このため従来はプラスとマイナスそれぞれに使用する巻き線インダクタを2個実装していたのに対し、1個の素子で同じ効果が得られるため、実装コストと実装面積の低減が可能となる。
【0010】
上位フェライト素子と下位フェライト素子とには、少なくとも一方に前記金属導体とほぼ同一形状の溝が設けられており、2つのフェライト素子で金属導体を上下から挟み込むように埋設することが可能な形状となっている。溝は金属導体の厚みと同じ深さであればよく、両方のフェライト素子に溝があっても、どちらか一方だけに溝があってもよい。例えば上位フェライト素子に、金属導体の厚みと同じ深さの溝を設けた場合には、下位フェライト素子には溝を設けなくてもよい。
【0011】
2本の金属導体は、フェライト素子内に埋設した部分を蛇行させて線路長を長くすることによって、インダクタンスを向上させることが可能となる。従来技術である積層フェライトチップビーズを用いた場合に直流重畳特性が悪くなる原因は、内部電極がスパイラル構造となっているためであるので、金属導体を非スパイラル構造としたことによって、直流重畳特性の劣化を回避することが可能となる。
【0012】
金属導体を埋設した部分の線路長が長いほどインダクタンスは大きくなるが、長くしすぎると隣接した蛇行パターンの電流方向が対抗するようになり、磁束を打ち消しあってしまうため、金属導体を埋設する部分の線路長は、直線状にしたときと比較して1.1倍から2.0倍の間にするのが望ましく、さらに望ましくは1.3倍から1.7倍の間に設定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、大電流化が容易であり音声信号の歪みを低減することが可能となる。また構造が単純であるため、製造工程が簡略化され、低コストでの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるインピーダンス素子の組立分解斜視図
【図2】上位及び下位フェライト素子に金属導体を埋設した斜視図
【図3】本発明によるインピーダンス素子の斜視図
【図4】金属導体長さの増加とインピーダンス値の関係を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は本発明のインピーダンス素子1を分解した斜視図であり、2本の金属導体5と上位フェライト素子2と下位フェライト素子3とからなる。
【0016】
図1に示すように、金属導体5のうちフェライト素子に埋設する部分は、蛇行させることによって、直線状にしたときと比較して線路長が長くなっている。
【0017】
金属導体を埋設する部分を直線状にしたときの長さに対する蛇行させたときの距離比率と、金属導体を直線状にしたときのインピーダンス値に対する蛇行させたときのインピーダンス値比率(Z値比率)との関係は図4に示した関係になっており、距離比率を1.1倍から2.0倍の間にするとZ値比率は1.3倍以上となる。より好ましくは、距離比率を1.3倍から1.7倍の範囲とするとZ値比率は1.8倍以上となり、さらに望ましい。このように線路長を前記範囲内において長くすると、素子のインピーダンス値は大きくなり、すなわちインダクタンスを大きくすることができる。
【0018】
また、図1に示すように上位フェライト素子2及び下位フェライト素子3には、金属導体5とほぼ同一形状の溝4が設けられており、その深さはそれぞれ金属導体の厚みの2分の1程度であり、上位フェライト素子2と下位フェライト素子3で金属導体5を挟み込んだときに、隙間ができないような形状となっている。なお、上位フェライト素子の溝の深さと下位フェライト素子の溝の深さとは、それらの合計が金属導体5の厚みと同程度であればよく、例えば一方のフェライト素子に金属導体5の厚みと同じ深さの溝を設け、他方のフェライト素子には溝を設けない構造としてもよい。
【0019】
図2に示すように、上位フェライト素子2と下位フェライト素子3の間に金属導体5を挟みこみ、上位フェライト素子2と下位フェライト素子3とはエポキシ系などの接着剤で接着して固定する。
【0020】
図3に示すように、接着したフェライト素子の外部に露出した金属導体5の始端部と終端部とは、上位フェライト素子側又は下位フェライト素子側に折り曲げることによって、プリント基板に実装可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
2本の金属端子をフェライト素子内で蛇行させることによって、実装面積を大きくすることなく高いインダクタンスを得ることができる。また、本発明によるインピーダンス素子は、構造が単純であるため製造工程が簡略化され低コストでの提供が可能となる。
【符号の説明】
【0022】
1 インピーダンス素子
2 上位フェライト素子
3 下位フェライト素子
4 溝
5 金属導体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上位フェライト素子と下位フェライト素子との間に非接触状態の2本の金属導体を挟み込んだインピーダンス素子において、前記フェライト素子の少なくとも一方は溝を有しており、該溝に前記金属導体を挿入して、前記上位フェライト素子と下位フェライト素子とに挟み込むように埋設させ、前記2本の金属導体は蛇行させて、前記フェライト素子に埋設する部分の線路長を、直線にしたときに対して1.1倍から2.0倍の範囲に長くしたことを特徴とするインピーダンス素子。
【請求項2】
前記フェライト素子の外部に露出した、前記2本の金属導体の始端部と終端部とを、上位フェライト素子側又は下位フェライト素子側に折り曲げた、請求項1のインピーダンス素子。
【請求項3】
前記フェライト素子の材質は、Ni−Zn系からなる請求項1又は2のインピーダンス素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−129378(P2012−129378A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280132(P2010−280132)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(591149089)株式会社MARUWA (35)
【Fターム(参考)】